光学素子およびそれを用いた表示体
【課題】偽造困難な構造を有し、かつその場で真偽判定が容易な構成を有する光学素子を提供すること。
【解決手段】本発明の光学素子19は、一方の面に、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターン11a,11bが形成された平面状の構造体11と、構造体11の凹凸構造パターン11a,11bが形成された面側に配置され、予め層厚が定められ、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層12とを備えている。
【解決手段】本発明の光学素子19は、一方の面に、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターン11a,11bが形成された平面状の構造体11と、構造体11の凹凸構造パターン11a,11bが形成された面側に配置され、予め層厚が定められ、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層12とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレリーフ面のような凹凸面上に形成された光学機能を有する微細構造に、誘電体層を配置することによって形成され、主にセキュリティ用に好適な光学素子と、それを用いた表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1乃至9のように、偽造防止のために、簡単に真似する事のできない微細構造や色調変化を施したり、または他の光学機能フィルムを判定子として、それとの組み合わせでのみある光学的現象が観察されるような構成としたり、さらには専用の読取装置でのみ一定のパターン等が読み取れるような構成とするなど、様々な態様が技術の進歩とともに実用化されてきた。
【0003】
その中でも、実際の運用上の簡便さから、最も利用されているものの一つとして、ホログラムや回折格子像が挙げられる。ホログラムは、二光束干渉などの光学的撮影方法により、微細な凹凸パターンや、屈折率分布を設けることで作製される。一方、回折格子像は、微小なエリアに回折格子を配置したものを画素として作製される。
【0004】
上記ホログラムや回折格子像は、双方ともに偽造困難で、カラーコピー機等による複写も困難で、また意匠的にも優れる。したがって、ホログラムや回折格子を設けた光学素子が、クレジットカードやIDカード、各種有価証券、証明書等に広く用いられている。しかしながら、実際の運用上ではホログラムや回折格子像の真偽判定は人の目に委ねられるため、微視的には粗悪な偽造品であっても全ての人が肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことは容易でない。
【0005】
一方、見た目に簡単に真偽を判定でき、カラーコピー機による複写も困難との理由から、主に複数の屈折率の異なる層を積層したことによる積層体が提案されている。
【0006】
この場合、特定の波長の光が強く反射され、また反射角度によりその波長が変化することから、視角(観察角度)によって色が変化する現象が観察できる。このように、視覚によって色の変化を示す積層体を設けた光学素子は、ゴニオクロマティック素子とも称される。この色変化の有無を観察することで比較的容易に真偽判定ができ、当然カラーコピー機による複写も不可能となる。
【特許文献1】特許第2797944号公報
【特許文献2】特許第3139255号公報
【特許文献3】特許第3329234号公報
【特許文献4】特許第3395322号公報
【特許文献5】特許第3409412号公報
【特許文献6】特許第3435840号公報
【特許文献7】特許第3470411号公報
【特許文献8】特許第3480336号公報
【特許文献9】特許第3536413号公報
【特許文献10】特開2002−333854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような積層体を設けた光学素子、すなわちゴニオクロマティック素子であっても、何らかの方法で同様の色変化を示す積層体によって偽造がなされた場合、全ての人が一様に正確な真偽判定を行うことは困難になるという問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、偽造困難な構造を有し、かつその場で真偽判定が容易な構成を有する光学素子、およびそれを用いた表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0010】
すなわち、請求項1の発明の光学素子は、一方の面に、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターンが形成された平面状の構造体と、構造体の凹凸構造パターンが形成された面側に配置され、予め層厚が定められ、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層とを備えている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明の光学素子において、凹凸構造パターンは、光学機能として光回折機能が得られる第1の構造パターンと、光学機能として光散乱機能が得られる第2の構造パターンとのうちの少なくとも何れかを含んでいる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明の光学素子において、第1の構造パターンは回折格子からなり、白色光が照射されると、回折格子によって規定される方位の角度を中心とした範囲において、回折格子によって規定される強度分布に従って白色回折光を発する。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3の発明の光学素子において、第2の構造パターンは、光散乱要素からなる光散乱体を配置してなる光散乱パターンでなり、光散乱要素の形状や光散乱体内の光散乱要素の密度を変えることで、予め決められた光散乱機能を得るようにしている。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層は複数層からなり、各層は、それぞれ屈折率の異なるセラミック材料からなる。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層は、予め定めた値よりも高い屈折率を持つ層と、予め定めた値よりも低い屈折率を持つ層とを含む複数層からなる。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層は、隣接する層よりも高い屈折率を持つ層と、隣接する層よりも低い屈折率を持つ層とが交互に積層された複数層からなる。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1の発明の光学素子において、誘電体層の構造体側ではない面側に、光吸収機能を有する光吸収層、光散乱機能を有する光散乱層、及び光反射機能を有する光反射層のうちの少なくとも何れかを含む光学機能層を配置している。
【0018】
請求項9の発明は、請求項8の発明の光学素子において、光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、予め定めたパターンに従って部分的に設けている。
【0019】
請求項10の発明は、請求項8又は請求項9の発明の光学素子において、光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、構造体側に隣接している層の断面形状に沿った断面形状としている。
【0020】
請求項11の発明は、請求項1乃至10のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層の構造体側ではない面側に、光透過性の金属層を配置している。
【0021】
請求項12の発明は、請求項1乃至11のうち何れか1項の発明の光学素子において、構造体の凹凸構造パターンが形成されていない面側に、耐擦傷性および防汚性のうちの少なくとも何れかを有する保護層を配置している。
【0022】
請求項13の発明は、請求項1乃至12のうち何れか1項の発明の光学素子を、カード又は紙からなる基材上に配置してなることを特徴とする表示体である。
【0023】
請求項14の発明は、請求項13の発明の表示体において、基材と、光学素子との間に印刷層を配置している。
【0024】
請求項15の発明は、請求項13又は請求項14の発明の表示体において、基材は、光透過性を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、偽造困難な構造を有し、かつその場で真偽判定が容易な構成を有する光学素子、およびそれを用いた表示体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光学素子(ゴニオクロマティック素子)の断面構成例を示す概念図である。
【0028】
すなわち、図1に示す光学素子は、光回折機能を有する回折構造や、光散乱機能を有する散乱構造など、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターン11a,11bが形成された光学構造体11の凹凸面側(非観察者2側)に、予め層厚が制御され、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層12が設けられているゴニオクロマティック素子10である。
【0029】
本実施の形態において、観察者2は、特に断りの無い限り、図1に示すような配置状態でゴニオクロマティック素子10を観察することとする。
【0030】
ここで、回折構造とは、光の波長オーダーの微細な物理的凹凸の繰り返し、若しくは屈折率の異なる部位の繰り返しにより光を回折、干渉することができる構造のことであり、一般的には上述したホログラムや回折格子がよく知られている。特に回折格子は、所望の像または光学特性から理論に基づいて必要な構造が逆算できることから、設計の自由度が高く、様々な光学機能を得ることができる。
【0031】
通常の回折格子像では、複数種類の回折格子を配置することにより一定の角度で回折光によってカラーイメージが得られるように作製されるが、配置する回折格子の条件によっては、ある方位のある角度を中心とした一定の範囲において一定の予め決められた強度分布をもつ白色の回折光を得ることも可能である。
【0032】
この原理を、図2乃至図4を用いて説明する。図2は、前述の白色の回折光を得るためのゴニオクロマティック素子10の構成例を示す部分平面図である。このゴニオクロマティック素子10は、回折格子Kからなる画素Gが配置されて成り、それぞれの画素Gは、異なる回折格子Kから成っている。以下、図3、図4を用いて、図2の構造がもたらす効果を詳説する。
【0033】
図3(a)及び図3(b)に示すように、一般に回折格子Kは、光源1からある角度で入射した入射光Iを回折し、一定の角度にわたって波長分光する。その際、波長分光された回折光Dの角度域φは、回折格子Kの空間周波数によって変わるため、図2に示すように、異なる空間周波数の回折格子Kを混在させることで、一定の角度域φで異なる波長の回折光Dが重ね合わされ、白色の回折光が得られる。
【0034】
また、回折光Dの方位は、図4(a)、図4(b)、及び図4(c)の平面図に示すように、回折格子Kの稜線方向に依存し、図4(c)に示したような円弧状の稜線Rを有する構造では、それに対応した一定の広がり角θをもつ回折光Dが得られる。
【0035】
以上より、図2の例に示すように、それぞれ異なる空間周波数を有し、円弧状の稜線Rからなる複数の画素Gが配置された構造においては、一定の角度域φで、一定の広がり角θを有する白色の回折光Dが得られる。さらに、通常の観察者2の環境では入射光Iの角度は一定ではないことを考慮すると、前記の回折光Dの角度域φの重ね合わせが、図2の単一の画素G内でもなされるため、白色の回折光Dがより広い範囲で得られるようになる。
【0036】
本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子10は、上述したカラーイメージに加えて、上述したように、一定の範囲において一定の予め決められた強度分布をもつ白色の回折光を得ることができる構造を設けることで、より多彩な光学機能を実現することができる。特に凹凸パターンの無い部分11cや散乱構造を有する部分11a,11bとの変角コントラストも得ることができる。変角コントラストとは、観察対象に対して、観察者2の視角が変化した際に観察される像のコントラスト(輝度やS/N、色の差を含む広義のコントラスト)を指すものとする。また、本発明では、これらに限らず如何なる光回折機能をもつ凹凸構造をも適用することができる。
【0037】
また、散乱構造とは、ここでは光が凹凸構造によって散乱するような表面もしくは界面の構造のことを指す。この凹凸構造は、サンドブラストやウェットブラストのように粒子を物理的に表面に衝突させることで形成したり、粒子を添加した塗工液を塗布したり、リソグラフィーにより凹凸形状を描画したり、または予め凹凸構造を有する表面を複製することで得ることができる。特に一定の凹凸構造を安定的に得ようとする場合には、あらかじめ設定した凹凸を与えることができるリソグラフィーが高い設計自由度を持ち、より優れているといえる。たとえば特開2002−333854号公報(特許文献10)に開示されているように、光散乱要素からなる光散乱体を配置してなる光散乱パターンにおいて、その光散乱要素の形状や、光散乱体内の光散乱要素の密度を変えることで、光散乱性を適宜設定することができる。
【0038】
また、該凹凸形状をある一方向にのみ凹部や凸部が伸びたような、所謂ヘアラインと呼ばれる形状とすることで、光の散乱を異方的に起こすこともできる。なお、本実施の形態は、上記に限定される訳ではなく、光散乱機能をもつ如何なる構造をも適用することが可能である。
【0039】
光学構造体11は、たとえば凹凸構造パターン11a,11bとは逆の凹凸パターンが予め形成されたマスタースタンパを用いて凹凸構造を基材上に転写形成することで得ることができる。具体的には、前記スタンパを基材に押し付けてエンボス形成する方法や、電離線硬化樹脂を介して基材上に前記スタンパのパターンを複製する方法などを用いることができる。もちろん各々の構造が形成できる方法であれば、上記の方法に限らない。
【0040】
なお、上述の基材については、光透過性の基材であれば特に限定はなく、例として、ポリエチレンテレフタレートやポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、トリアセチルセルロースのフィルム等を用いることができる。
【0041】
誘電体層12は、観察者2の視角によって色が変化するゴニオクロマティック機能を有している。これを実現するために、屈折率が互いに異なる複数のセラミック材料を積層することなどで得られる。ここでは可視光に対して屈折率1.5より大きい材料を高屈折材料、屈折率1.5以下の材料を低屈折材料と定義する。図5に示すゴニオクロマティック素子20のように、高屈率材料からなる層21、23と低屈折材料からなる層22をそれぞれ所定の層厚で交互に積層した誘電体層12が好ましい例として挙げられる。
【0042】
高屈折材料としては、たとえばZnS、TiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、CeO2、HfO2、Y2O3、PbF2等を使用することができる。もちろんここに示した材料以外にも光透過性を有し、可視光に対して高い屈折率を有する材料であれば如何なる材料も適用することができる。
【0043】
また、低屈折材料としては、たとえばNa3AlF6、Na5Al3F14、AlF3、MgF2、SiO2、BaF2等を使用することができる。もちろんここに示した材料以外にも光透過性を有し、可視光に対して低い屈折率を有する材料であれば如何なる材料も適用することができる。
【0044】
これら高屈折材料、低屈折材料より、それぞれ少なくとも一種類を選択し、光学構造体11上に、それぞれ所定の厚さで、好ましくは高屈折材料からなる層と低屈折材料とを交互に積層することで、特定の波長の可視光に対する透過率または反射率の高いものを得ることができる。
【0045】
誘電体層12は、層厚の制御が可能であれば、いかなる成膜方法も用いることができる。乾式法であれば真空蒸着法、スパッタリング法等の物理的気相析出法やCVD法のような化学的気相析出法が用いられる。また湿式法であればダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、ロールコート、ディップコートなどが用いられる。ただし湿式法の場合は、低屈折材料の塗工液としてフッ素原子を含有するポリマーやオリゴマー、モノマー類、または上述の低屈折材料の微粒子をポリマーやオリゴマー、モノマー類に配合したものなどや、無機物のアルコキシドなどのゾルを用いることができる。高屈折材料の塗工液としては、上述の高屈折材料の微粒子をポリマーやオリゴマー、モノマー類に配合したものや、亜鉛、チタン、ニオブ、ジルコニウムなどの金属アルコキシドのゾルを用いることができる。
【0046】
あるいは、前記スタンパを、予め異なる屈折率の層が積層されたフィルム等に、押し付けてエンボス形成する方法でもよい。
【0047】
これらの誘電体層12の構成により、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子では、入射光に対して反射光、透過光の特定波長成分を選択的に強くすることができ、任意の色を呈することが可能となる。もちろん、この効果は入射角度や視角にも依存するため、視角を変えると固有の色変化を得ることができる。
【0048】
さらに本実施の形態では、回折構造や光散乱構造によって上記の特定波長成分が強く、回折もしくは散乱するため、全く独特の見え方を実現することができ、真偽判定の際には容易にかつ確実に目視による判定を行うことが可能となる。また、回折構造、光散乱構造という偽造・模造が困難である構造に、誘電体層12を形成しているため、一層類似品を作ることを困難としている。
【0049】
また、図6に示すように、誘電体層12の表面に光透過性の金属層31を設けたゴニオクロマティック素子30とすることで、誘電体層12のみによる視角に依存した色変化とは異なる色変化を与えることができる。あるいは、図7に示すように、金属層31を光学構造体11と誘電体層12の界面に配置したゴニオクロマティック素子40とすることでも上述の効果が得られる。金属層31は光透過性を示す金属であれば特に限定されるものでないが、一般的にはアルミニウムやクロムなど、あるいはそれらの酸化物などが用いられる。この際、適切な光透過率が得られるよう、それぞれの材料について適宜層厚を設定する必要がある。
【0050】
図8は、光学構造体11の前面、すなわち凹凸構造パターン11a,11bが形成されていない面に保護層51を設けてなるゴニオクロマティック素子50の断面構成例を示す概念図である。保護層51はそれだけでも光学構造体11の凹凸構造パターン11a,11bの偽造および模造を防止する効果を発揮するが、さらに耐擦傷機能、および/または防汚機能をもたせることにより、ゴニオクロマティック素子50を実用する上での傷、および/または汚れ防止の効果が得られる。
【0051】
図9は、カードや紙などの基材63上にゴニオクロマティック素子50を配置してなる表示体60の断面構成例を示す概念図である。基材63は特に制限が無く、たとえば粘着剤や接着剤等からなる接合層62によってゴニオクロマティック素子50を接着により配置することができる。
【0052】
更に、図10に示すように、基材63上に印刷層71を配置することで、より高い偽造防止効果を備えた表示体70が得られる。印刷の無い部分71aでは、ゴニオクロマティック素子50の光透過成分が基材63にて反射、散乱されるのに対して、印刷の有る部分71bでは、上述の光透過成分が印刷層71にて一定量吸収され、吸収されなかった成分のみが反射、散乱されることになる。この効果と上述の誘電体層12の光波長選択効果の組合せにより、印刷の有る部分71bと無い部分71aとで異なる色を呈する表示体70を実現することが可能である。勿論この効果は入射光の角度や視角にも依存するため、視角を変えることで部分的に異なる色変化を得ることができる。更に、回折構造や光散乱構造によって上記の特定波長成分が強く回折もしくは散乱するため、全く独特の見え方を実現することができ、真偽判定の際には容易にかつ確実に目視による判定を行うことが可能となる。また、この表示体70は、回折構造、光散乱構造という偽造/模造が困難である光学構造体11に、更に誘電体層12を配置してなるゴニオクロマティック素子50を用いているので、類似品を作ることがより一層困難となる。
【0053】
上述したように、本実施の形態によれば、偽造困難な微細構造である凹凸構造パターン11a,11bを有する光学構造体11と、層構造からなる誘電体層12とを有し、目視での観察などの簡便な方法で確実な真偽判定が容易に行えるゴニオクロマティック素子を提供することができる。特に従来のホログラムや回折格子および/または光散乱パターンの視覚効果に加えて、視角に依存した色変化を顕著に、かつ特有のものとすることができ、新たな偽造の防止効果と意匠性とを実現することが可能となる。
【0054】
また、このゴニオクロマティック素子に更に、耐擦傷性や防汚性を有する保護層51を設けることで、凹凸構造パターン11a,11bの偽造や模造を防止するばかりでなく、キズや汚れに耐性を持たせることができ、より実用的な機能を得ることが可能となる。
【0055】
また、このゴニオクロマティック素子を基材を配することで、上述のような高い偽造防止の効果と意匠性とを有する表示体を実現することが可能となり、更にゴニオクロマティック素子と基材の間に印刷層を設けることで、表示体の偽造の防止効果と意匠性とをより一層高めることが可能となる。
【0056】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例である。従って、ここでは、同一箇所については同一符番を付して重複説明を避け、異なる点について説明する。
【0057】
図11は、本発明の第2の実施の形態に係る光学素子(ゴニオクロマティック素子)の断面構成例を示す概念図である。
【0058】
すなわち、図11に示す光学素子は、光回折機能を有する回折構造や、光散乱機能を有する散乱構造など、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターン11a,11bが形成された光学構造体11の凹凸面側(非観察者2側)に、予め層厚が制御され、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層12を設け、更にその背面に補助層13を設けてなるゴニオクロマティック素子80である。なお、本実施の形態では、ゴニオクロマティック素子80の観察者2側を前面、その反対側を背面と呼ぶこととする。
【0059】
補助層13としては、光吸収機能を有する光吸収層、光散乱機能を有する光散乱層、及び光反射機能を有する光反射層のうちの何れか1層、もしくは異なる2層以上とすることができる。まず、光吸収層、光散乱層、光反射層が誘電体層12と組み合わされた場合のそれぞれの効果について解説する。
【0060】
補助層13として光吸収層を用いた場合、誘電体層12での光透過成分は、該光吸収層にて吸収されるため、誘電体層12での反射光成分のみが前面から観察されるようになり、かつ光吸収層が無い場合の誘電体層12と空気層との界面での反射光成分も吸収されることから、より波長選択性の高い反射光が得られる。これにより、上述の視角を変えたときの固有の色変化がよりはっきりと観察されるようになる。
【0061】
次に、補助層13として光散乱層を用いた場合、誘電体層12での光透過成分は、該光散乱層にて散乱されるため、誘電体層12での反射光成分に加え、反射散乱光が観察されるようになる。よって、特に観察角度を選ばなければ、前記反射散乱光の色が観察されるが、光源1の正反射光を観察すると誘電体層12での反射光成分が観察されるので、ある視角において全く異なる色が観察されるゴニオクロマティック素子80とすることができる。さらに、この光散乱層が光透過性の光散乱層である場合は、背面側からも前記反射散乱光と同様の色が観察できるような、両面で異なる効果を有するゴニオクロマティック素子80とすることもできる。
【0062】
また、補助層13として光反射層を用いた場合、誘電体層12での光透過成分は該光反射層にて反射されるため、誘電体層12での反射光成分に加えて、反射光が観察されるようになる。前記反射光が散乱されない場合は、前面からは、上述の誘電体層12による呈色およびその視角による色変化は観察されないことになる。しかし、上述のように、光学構造体11に凹凸構造パターン11a,11bを備えている場合、その部分では該光反射層にて散乱されるため、前面からは上述の光散乱層を備えた場合と同様の効果が得られる。したがって、凹凸構造パターン11a,11bの有る部分と無い部分11cとで、異なる呈色およびその視角変化を得ることができる。
【0063】
図12は、補助層13が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられているゴニオクロマティック素子90の例を示している。補助層13の無い部分Nは、誘電体層12での反射光成分が前面から、透過光成分が背面から観察される。一方、補助層13が形成されている部分は、それぞれの場合において、上述のように誘電体層12との組合せにより、それぞれ異なる固有の光学的効果が得られる。
【0064】
また、図13には、補助層13が光吸収層41と光反射層42の2層から構成され、誘電体層12に隣接した光吸収層41のみが、図12と同様にパターン状に形成されたゴニオクロマティック素子100の例を示す。この場合、光吸収層41の無い部分Nでは、上述のような誘電体層12と光反射層42の組合せによる光学的効果が、光吸収層41の形成された部分では、上述のような誘電体層12と光吸収層41の組合せによる光学的効果がそれぞれ得られる。
【0065】
以上のように、補助層13を構成する何れかの層がパターン状に形成されることで、異なる光学的効果が同時に得られるゴニオクロマティック素子を実現することができる。もちろん、補助層13の構成は図12、図13の例に限らず、光吸収層、光散乱層、及び光反射層のいかなる組合せからなることも可能であり、それぞれの組合せに応じて、それぞれ異なる光学的効果を得ることができる。
【0066】
図14には、補助層13を、光学構造体11の凹凸面に沿って誘電体層12の背面に形成した例を示す。この場合、補助層13の背面側にも光学構造体11の凹凸面を得ることができる。
【0067】
また、図15は、補助層13が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられており、かつ、光学構造体11の凹凸面に沿って誘電体層12の背面に形成されたゴニオクロマティック素子120の例を示している。図15に示すように、補助層13をパターン状に、かつ光学構造体11の凹凸面に沿って形成された構成とすることで、補助層13の無い部分Nは、誘電体層12での反射光成分が前面から、透過光成分が背面から観察されるように、光学的効果としてバリエーションに富んだゴニオクロマティック素子120とすることもできる。
【0068】
この説明のために、より具体的な例を図16に示す。図16では、光学構造体11の凹凸構造に沿った形状をなす誘電体層12背面の凹凸面を平滑化するように、かつパターン状に形成された光吸収層41に対して、その形状に沿った形状の光反射層42を設けたゴニオクロマティック素子130の例を示す。この場合、光吸収層41の無い部分Nでは、前面からは<光学構造体11の凹凸構造+誘電体層12+光反射層42>の組合せ効果が得られるが、光吸収層41の有る部分では、背面は単なる平坦な反射面となる。
【0069】
一方、光吸収層41の形成されている部分では、<光学構造体11の凹凸構造+誘電体層12+光吸収層41>の効果が得られ、背面からは、光学構造体11の凹凸構造に光反射層42が加わった構成となり、該凹凸構造由来の視覚効果が得られる。
【0070】
つまり、前面においては2種類の異なる光学的効果を得ることができ、また背面においても2種類の異なる光学的効果を得ることができる。もちろん、補助層13の構成は本例に限らず、光吸収層、光散乱層、光反射層のいかなる組合せからなることも可能で、また、それぞれの組合せにおいて、それぞれ異なる光学的効果を得ることができる。
【0071】
本実施の形態において、光吸収層41は、染料や顔料による着色層や可視光域に吸収をもつ無機酸化物もしくは金属酸化物の層、または光透過性の金属層などから形成することができる。この着色層は、特に限定されるものではないが、たとえば通常の印刷等に用いられる、染料や顔料を含んだ透明のインキにより設けることができる。前記金属酸化物の層は特にCr2O3やSiOのような全可視光領域にわたってほとんど光を透過せず、しかしながら若干の光沢を残す金属酸化物を指し、金属光沢を有することから前記着色層とは異なる視角効果を付与することができる。また、光透過性の金属層31としては、光透過性を示す金属であれば特に限定されるものでないが、一般的にはアルミニウムやクロムなど、あるいはそれらの酸化物などが用いられる。この際、適切な光透過率が得られるよう、それぞれの材料について適宜膜厚を設定する必要がある。
【0072】
また、本実施の形態において、光散乱層は、特に限定されるものでなく、可視光領域において光を散乱する性質をもつ如何なる材料も適用可能である。もちろん、ここでは、たとえば一定の表面粗さを有する表面での散乱も含まれる。
【0073】
また、本実施の形態において、光反射層42は、可視光領域において一定の光反射率を有するものであれば特に限定されるものではないが、反射率の観点から、クロム、アルミニウム、金、アルミ青銅または真鍮、あるいはこれらと同等の反射率が得られる金属から形成されることが望ましい。
【0074】
以上のように、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子では、回折構造、光散乱構造という偽造・模造が困難である構造に、誘電体層12を形成し、さらに様々な形態で補助層13を設けることで、全体構造の一層の複雑化、および光学的に特有な外観を与えることが可能となる。つまり、一層類似品を作ることが困難で、意匠性に優れ、真偽判定の容易なゴニオクロマティック素子を提供することができる。
【0075】
図17は、光学構造体11の前面に保護層81を設けたゴニオクロマティック素子140の断面構成例を示す概念図である。保護層81はそれだけでも光学構造体11の凹凸構造の偽造および模造を防止する効果を発揮するが、さらに耐擦傷機能、および/または防汚機能を備えているので、ゴニオクロマティック素子140を実用する上でのキズ、および/または汚れ防止の効果が得られる。
【0076】
図17に示すようなゴニオクロマティック素子140を、カードや紙などの基材91上に配置してなる表示体150の一例を図18に示す。基材91は特に制限が無く、配置することが可能であれば、如何なる固体でも適用できる。
【0077】
また、上述したように、前面と背面とで異なる光学効果を奏するゴニオクロマティック素子に対して、基材91として光透過性のものを配置した表示体とすれば、前面と背面との両面で異なる光学効果を有する表示体を実現することが可能となる。
【0078】
なお、図18に示す表示体150は、あくまでも構成に係るものであって、たとえば、上述した補助層と同等の構成を有する層が予め設けられた基材の上に、光学構造体11と誘電体層12を光学薄膜として備えた素子を配置した場合も含まれる。
【0079】
上述したように、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子によれば、偽造困難な微細構造と層構成を有し、かつその背面に補助層を設けることで、目視での観察などの簡便な方法で確実な真偽判定を容易に行うことが可能となる。
【0080】
特に補助層を設けることで、従来のホログラムや回折格子および/または光散乱パターンの視覚効果に加えて、誘電体層との組み合わせによる視角に依存した顕著かつ特有な色変化が得られ、あるいは同一面内において異なる態様の呈色・色変化が得られ、あるいは両面で異なる態様の光学的効果を得ることが可能となる。
【0081】
また、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子では、その前面に耐擦傷性、防汚性を有する保護層を設けることで、微細構造の偽造や模造を防止するばかりでなく、キズや汚れに耐性を持たせることができ、より実用的な機能を得ることができる。
【0082】
更に、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子に基材を配することで、高い偽造防止の効果と意匠性を有する偽造・模造の困難な表示体を実現することが可能となる。
【0083】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第1の実施の形態に係るゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図2】白色の回折光を得るためのゴニオクロマティック素子の構成例を示す部分平面図。
【図3】ゴニオクロマティック素子により白色の回折光を得る原理を説明するための図。
【図4】円弧状の稜線を有する回折格子構造により、一定の広がり角θを持つ回折光が得られる原理を説明するための図。
【図5】高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層してなる誘電体層を備えたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図6】誘電体層の表面に光透過性の金属層を設けたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図7】金属層を光学構造体と誘電体層との界面に配置したゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図8】光学構造体の前面に保護層を設けてなるゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図9】基材上にゴニオクロマティック素子を配置してなる表示体の断面構成例を示す概念図。
【図10】基材上に印刷層を配置することで、より高い偽造防止効果を備えた表示体の断面構成例を示す概念図。
【図11】第2の実施の形態に係るゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図12】予め定めたパターンに従って補助層が部分的に設けられているゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図13】補助層が光吸収層と光反射層とから構成され、誘電体層に隣接した光吸収層のみがパターン状に形成されたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図14】補助層を光学構造体の凹凸面に沿って誘電体層の背面に形成してなるゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図15】補助層が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられ、かつ光学構造体の凹凸面に沿って誘電体層の背面に形成されたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図16】補助層が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられ、かつ光学構造体の凹凸面に沿って誘電体層の背面に形成されたゴニオクロマティック素子の別の断面構成例を示す概念図。
【図17】光学構造体の前面に保護層を設けたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図18】図17に示すゴニオクロマティック素子を基材上に配置してなる表示体の断面構成例を示す概念図。
【符号の説明】
【0085】
D…回折光、G…画素、I…入射光、K…回折格子、N…補助層の無い部分、R…稜線、φ…一定の角度域、θ…一定の広がり角、10,20,30,40,50,80,90,100,110,120,130,140…ゴニオクロマティック素子、1…光源、2…観察者、11…光学構造体、11a.11b…凹凸構造パターン、11c…パターンの無い部分、12…誘電体層、13…補助層、21…高屈折率材料層、22…低屈折率材料層、23…高屈折率材料層、31…金属層、41…光吸収層、42…光反射層、51…保護層、60,70,150…表示体、62…接合層、63…基材、71…印刷層、71a…印刷の無い部分、71b…印刷の有る部分、81…保護層、91…基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレリーフ面のような凹凸面上に形成された光学機能を有する微細構造に、誘電体層を配置することによって形成され、主にセキュリティ用に好適な光学素子と、それを用いた表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1乃至9のように、偽造防止のために、簡単に真似する事のできない微細構造や色調変化を施したり、または他の光学機能フィルムを判定子として、それとの組み合わせでのみある光学的現象が観察されるような構成としたり、さらには専用の読取装置でのみ一定のパターン等が読み取れるような構成とするなど、様々な態様が技術の進歩とともに実用化されてきた。
【0003】
その中でも、実際の運用上の簡便さから、最も利用されているものの一つとして、ホログラムや回折格子像が挙げられる。ホログラムは、二光束干渉などの光学的撮影方法により、微細な凹凸パターンや、屈折率分布を設けることで作製される。一方、回折格子像は、微小なエリアに回折格子を配置したものを画素として作製される。
【0004】
上記ホログラムや回折格子像は、双方ともに偽造困難で、カラーコピー機等による複写も困難で、また意匠的にも優れる。したがって、ホログラムや回折格子を設けた光学素子が、クレジットカードやIDカード、各種有価証券、証明書等に広く用いられている。しかしながら、実際の運用上ではホログラムや回折格子像の真偽判定は人の目に委ねられるため、微視的には粗悪な偽造品であっても全ての人が肉眼で一様に正確な真偽判定を行うことは容易でない。
【0005】
一方、見た目に簡単に真偽を判定でき、カラーコピー機による複写も困難との理由から、主に複数の屈折率の異なる層を積層したことによる積層体が提案されている。
【0006】
この場合、特定の波長の光が強く反射され、また反射角度によりその波長が変化することから、視角(観察角度)によって色が変化する現象が観察できる。このように、視覚によって色の変化を示す積層体を設けた光学素子は、ゴニオクロマティック素子とも称される。この色変化の有無を観察することで比較的容易に真偽判定ができ、当然カラーコピー機による複写も不可能となる。
【特許文献1】特許第2797944号公報
【特許文献2】特許第3139255号公報
【特許文献3】特許第3329234号公報
【特許文献4】特許第3395322号公報
【特許文献5】特許第3409412号公報
【特許文献6】特許第3435840号公報
【特許文献7】特許第3470411号公報
【特許文献8】特許第3480336号公報
【特許文献9】特許第3536413号公報
【特許文献10】特開2002−333854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような積層体を設けた光学素子、すなわちゴニオクロマティック素子であっても、何らかの方法で同様の色変化を示す積層体によって偽造がなされた場合、全ての人が一様に正確な真偽判定を行うことは困難になるという問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、偽造困難な構造を有し、かつその場で真偽判定が容易な構成を有する光学素子、およびそれを用いた表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0010】
すなわち、請求項1の発明の光学素子は、一方の面に、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターンが形成された平面状の構造体と、構造体の凹凸構造パターンが形成された面側に配置され、予め層厚が定められ、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層とを備えている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明の光学素子において、凹凸構造パターンは、光学機能として光回折機能が得られる第1の構造パターンと、光学機能として光散乱機能が得られる第2の構造パターンとのうちの少なくとも何れかを含んでいる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明の光学素子において、第1の構造パターンは回折格子からなり、白色光が照射されると、回折格子によって規定される方位の角度を中心とした範囲において、回折格子によって規定される強度分布に従って白色回折光を発する。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3の発明の光学素子において、第2の構造パターンは、光散乱要素からなる光散乱体を配置してなる光散乱パターンでなり、光散乱要素の形状や光散乱体内の光散乱要素の密度を変えることで、予め決められた光散乱機能を得るようにしている。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層は複数層からなり、各層は、それぞれ屈折率の異なるセラミック材料からなる。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層は、予め定めた値よりも高い屈折率を持つ層と、予め定めた値よりも低い屈折率を持つ層とを含む複数層からなる。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層は、隣接する層よりも高い屈折率を持つ層と、隣接する層よりも低い屈折率を持つ層とが交互に積層された複数層からなる。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1の発明の光学素子において、誘電体層の構造体側ではない面側に、光吸収機能を有する光吸収層、光散乱機能を有する光散乱層、及び光反射機能を有する光反射層のうちの少なくとも何れかを含む光学機能層を配置している。
【0018】
請求項9の発明は、請求項8の発明の光学素子において、光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、予め定めたパターンに従って部分的に設けている。
【0019】
請求項10の発明は、請求項8又は請求項9の発明の光学素子において、光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、構造体側に隣接している層の断面形状に沿った断面形状としている。
【0020】
請求項11の発明は、請求項1乃至10のうち何れか1項の発明の光学素子において、誘電体層の構造体側ではない面側に、光透過性の金属層を配置している。
【0021】
請求項12の発明は、請求項1乃至11のうち何れか1項の発明の光学素子において、構造体の凹凸構造パターンが形成されていない面側に、耐擦傷性および防汚性のうちの少なくとも何れかを有する保護層を配置している。
【0022】
請求項13の発明は、請求項1乃至12のうち何れか1項の発明の光学素子を、カード又は紙からなる基材上に配置してなることを特徴とする表示体である。
【0023】
請求項14の発明は、請求項13の発明の表示体において、基材と、光学素子との間に印刷層を配置している。
【0024】
請求項15の発明は、請求項13又は請求項14の発明の表示体において、基材は、光透過性を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、偽造困難な構造を有し、かつその場で真偽判定が容易な構成を有する光学素子、およびそれを用いた表示体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光学素子(ゴニオクロマティック素子)の断面構成例を示す概念図である。
【0028】
すなわち、図1に示す光学素子は、光回折機能を有する回折構造や、光散乱機能を有する散乱構造など、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターン11a,11bが形成された光学構造体11の凹凸面側(非観察者2側)に、予め層厚が制御され、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層12が設けられているゴニオクロマティック素子10である。
【0029】
本実施の形態において、観察者2は、特に断りの無い限り、図1に示すような配置状態でゴニオクロマティック素子10を観察することとする。
【0030】
ここで、回折構造とは、光の波長オーダーの微細な物理的凹凸の繰り返し、若しくは屈折率の異なる部位の繰り返しにより光を回折、干渉することができる構造のことであり、一般的には上述したホログラムや回折格子がよく知られている。特に回折格子は、所望の像または光学特性から理論に基づいて必要な構造が逆算できることから、設計の自由度が高く、様々な光学機能を得ることができる。
【0031】
通常の回折格子像では、複数種類の回折格子を配置することにより一定の角度で回折光によってカラーイメージが得られるように作製されるが、配置する回折格子の条件によっては、ある方位のある角度を中心とした一定の範囲において一定の予め決められた強度分布をもつ白色の回折光を得ることも可能である。
【0032】
この原理を、図2乃至図4を用いて説明する。図2は、前述の白色の回折光を得るためのゴニオクロマティック素子10の構成例を示す部分平面図である。このゴニオクロマティック素子10は、回折格子Kからなる画素Gが配置されて成り、それぞれの画素Gは、異なる回折格子Kから成っている。以下、図3、図4を用いて、図2の構造がもたらす効果を詳説する。
【0033】
図3(a)及び図3(b)に示すように、一般に回折格子Kは、光源1からある角度で入射した入射光Iを回折し、一定の角度にわたって波長分光する。その際、波長分光された回折光Dの角度域φは、回折格子Kの空間周波数によって変わるため、図2に示すように、異なる空間周波数の回折格子Kを混在させることで、一定の角度域φで異なる波長の回折光Dが重ね合わされ、白色の回折光が得られる。
【0034】
また、回折光Dの方位は、図4(a)、図4(b)、及び図4(c)の平面図に示すように、回折格子Kの稜線方向に依存し、図4(c)に示したような円弧状の稜線Rを有する構造では、それに対応した一定の広がり角θをもつ回折光Dが得られる。
【0035】
以上より、図2の例に示すように、それぞれ異なる空間周波数を有し、円弧状の稜線Rからなる複数の画素Gが配置された構造においては、一定の角度域φで、一定の広がり角θを有する白色の回折光Dが得られる。さらに、通常の観察者2の環境では入射光Iの角度は一定ではないことを考慮すると、前記の回折光Dの角度域φの重ね合わせが、図2の単一の画素G内でもなされるため、白色の回折光Dがより広い範囲で得られるようになる。
【0036】
本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子10は、上述したカラーイメージに加えて、上述したように、一定の範囲において一定の予め決められた強度分布をもつ白色の回折光を得ることができる構造を設けることで、より多彩な光学機能を実現することができる。特に凹凸パターンの無い部分11cや散乱構造を有する部分11a,11bとの変角コントラストも得ることができる。変角コントラストとは、観察対象に対して、観察者2の視角が変化した際に観察される像のコントラスト(輝度やS/N、色の差を含む広義のコントラスト)を指すものとする。また、本発明では、これらに限らず如何なる光回折機能をもつ凹凸構造をも適用することができる。
【0037】
また、散乱構造とは、ここでは光が凹凸構造によって散乱するような表面もしくは界面の構造のことを指す。この凹凸構造は、サンドブラストやウェットブラストのように粒子を物理的に表面に衝突させることで形成したり、粒子を添加した塗工液を塗布したり、リソグラフィーにより凹凸形状を描画したり、または予め凹凸構造を有する表面を複製することで得ることができる。特に一定の凹凸構造を安定的に得ようとする場合には、あらかじめ設定した凹凸を与えることができるリソグラフィーが高い設計自由度を持ち、より優れているといえる。たとえば特開2002−333854号公報(特許文献10)に開示されているように、光散乱要素からなる光散乱体を配置してなる光散乱パターンにおいて、その光散乱要素の形状や、光散乱体内の光散乱要素の密度を変えることで、光散乱性を適宜設定することができる。
【0038】
また、該凹凸形状をある一方向にのみ凹部や凸部が伸びたような、所謂ヘアラインと呼ばれる形状とすることで、光の散乱を異方的に起こすこともできる。なお、本実施の形態は、上記に限定される訳ではなく、光散乱機能をもつ如何なる構造をも適用することが可能である。
【0039】
光学構造体11は、たとえば凹凸構造パターン11a,11bとは逆の凹凸パターンが予め形成されたマスタースタンパを用いて凹凸構造を基材上に転写形成することで得ることができる。具体的には、前記スタンパを基材に押し付けてエンボス形成する方法や、電離線硬化樹脂を介して基材上に前記スタンパのパターンを複製する方法などを用いることができる。もちろん各々の構造が形成できる方法であれば、上記の方法に限らない。
【0040】
なお、上述の基材については、光透過性の基材であれば特に限定はなく、例として、ポリエチレンテレフタレートやポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、トリアセチルセルロースのフィルム等を用いることができる。
【0041】
誘電体層12は、観察者2の視角によって色が変化するゴニオクロマティック機能を有している。これを実現するために、屈折率が互いに異なる複数のセラミック材料を積層することなどで得られる。ここでは可視光に対して屈折率1.5より大きい材料を高屈折材料、屈折率1.5以下の材料を低屈折材料と定義する。図5に示すゴニオクロマティック素子20のように、高屈率材料からなる層21、23と低屈折材料からなる層22をそれぞれ所定の層厚で交互に積層した誘電体層12が好ましい例として挙げられる。
【0042】
高屈折材料としては、たとえばZnS、TiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、CeO2、HfO2、Y2O3、PbF2等を使用することができる。もちろんここに示した材料以外にも光透過性を有し、可視光に対して高い屈折率を有する材料であれば如何なる材料も適用することができる。
【0043】
また、低屈折材料としては、たとえばNa3AlF6、Na5Al3F14、AlF3、MgF2、SiO2、BaF2等を使用することができる。もちろんここに示した材料以外にも光透過性を有し、可視光に対して低い屈折率を有する材料であれば如何なる材料も適用することができる。
【0044】
これら高屈折材料、低屈折材料より、それぞれ少なくとも一種類を選択し、光学構造体11上に、それぞれ所定の厚さで、好ましくは高屈折材料からなる層と低屈折材料とを交互に積層することで、特定の波長の可視光に対する透過率または反射率の高いものを得ることができる。
【0045】
誘電体層12は、層厚の制御が可能であれば、いかなる成膜方法も用いることができる。乾式法であれば真空蒸着法、スパッタリング法等の物理的気相析出法やCVD法のような化学的気相析出法が用いられる。また湿式法であればダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、ロールコート、ディップコートなどが用いられる。ただし湿式法の場合は、低屈折材料の塗工液としてフッ素原子を含有するポリマーやオリゴマー、モノマー類、または上述の低屈折材料の微粒子をポリマーやオリゴマー、モノマー類に配合したものなどや、無機物のアルコキシドなどのゾルを用いることができる。高屈折材料の塗工液としては、上述の高屈折材料の微粒子をポリマーやオリゴマー、モノマー類に配合したものや、亜鉛、チタン、ニオブ、ジルコニウムなどの金属アルコキシドのゾルを用いることができる。
【0046】
あるいは、前記スタンパを、予め異なる屈折率の層が積層されたフィルム等に、押し付けてエンボス形成する方法でもよい。
【0047】
これらの誘電体層12の構成により、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子では、入射光に対して反射光、透過光の特定波長成分を選択的に強くすることができ、任意の色を呈することが可能となる。もちろん、この効果は入射角度や視角にも依存するため、視角を変えると固有の色変化を得ることができる。
【0048】
さらに本実施の形態では、回折構造や光散乱構造によって上記の特定波長成分が強く、回折もしくは散乱するため、全く独特の見え方を実現することができ、真偽判定の際には容易にかつ確実に目視による判定を行うことが可能となる。また、回折構造、光散乱構造という偽造・模造が困難である構造に、誘電体層12を形成しているため、一層類似品を作ることを困難としている。
【0049】
また、図6に示すように、誘電体層12の表面に光透過性の金属層31を設けたゴニオクロマティック素子30とすることで、誘電体層12のみによる視角に依存した色変化とは異なる色変化を与えることができる。あるいは、図7に示すように、金属層31を光学構造体11と誘電体層12の界面に配置したゴニオクロマティック素子40とすることでも上述の効果が得られる。金属層31は光透過性を示す金属であれば特に限定されるものでないが、一般的にはアルミニウムやクロムなど、あるいはそれらの酸化物などが用いられる。この際、適切な光透過率が得られるよう、それぞれの材料について適宜層厚を設定する必要がある。
【0050】
図8は、光学構造体11の前面、すなわち凹凸構造パターン11a,11bが形成されていない面に保護層51を設けてなるゴニオクロマティック素子50の断面構成例を示す概念図である。保護層51はそれだけでも光学構造体11の凹凸構造パターン11a,11bの偽造および模造を防止する効果を発揮するが、さらに耐擦傷機能、および/または防汚機能をもたせることにより、ゴニオクロマティック素子50を実用する上での傷、および/または汚れ防止の効果が得られる。
【0051】
図9は、カードや紙などの基材63上にゴニオクロマティック素子50を配置してなる表示体60の断面構成例を示す概念図である。基材63は特に制限が無く、たとえば粘着剤や接着剤等からなる接合層62によってゴニオクロマティック素子50を接着により配置することができる。
【0052】
更に、図10に示すように、基材63上に印刷層71を配置することで、より高い偽造防止効果を備えた表示体70が得られる。印刷の無い部分71aでは、ゴニオクロマティック素子50の光透過成分が基材63にて反射、散乱されるのに対して、印刷の有る部分71bでは、上述の光透過成分が印刷層71にて一定量吸収され、吸収されなかった成分のみが反射、散乱されることになる。この効果と上述の誘電体層12の光波長選択効果の組合せにより、印刷の有る部分71bと無い部分71aとで異なる色を呈する表示体70を実現することが可能である。勿論この効果は入射光の角度や視角にも依存するため、視角を変えることで部分的に異なる色変化を得ることができる。更に、回折構造や光散乱構造によって上記の特定波長成分が強く回折もしくは散乱するため、全く独特の見え方を実現することができ、真偽判定の際には容易にかつ確実に目視による判定を行うことが可能となる。また、この表示体70は、回折構造、光散乱構造という偽造/模造が困難である光学構造体11に、更に誘電体層12を配置してなるゴニオクロマティック素子50を用いているので、類似品を作ることがより一層困難となる。
【0053】
上述したように、本実施の形態によれば、偽造困難な微細構造である凹凸構造パターン11a,11bを有する光学構造体11と、層構造からなる誘電体層12とを有し、目視での観察などの簡便な方法で確実な真偽判定が容易に行えるゴニオクロマティック素子を提供することができる。特に従来のホログラムや回折格子および/または光散乱パターンの視覚効果に加えて、視角に依存した色変化を顕著に、かつ特有のものとすることができ、新たな偽造の防止効果と意匠性とを実現することが可能となる。
【0054】
また、このゴニオクロマティック素子に更に、耐擦傷性や防汚性を有する保護層51を設けることで、凹凸構造パターン11a,11bの偽造や模造を防止するばかりでなく、キズや汚れに耐性を持たせることができ、より実用的な機能を得ることが可能となる。
【0055】
また、このゴニオクロマティック素子を基材を配することで、上述のような高い偽造防止の効果と意匠性とを有する表示体を実現することが可能となり、更にゴニオクロマティック素子と基材の間に印刷層を設けることで、表示体の偽造の防止効果と意匠性とをより一層高めることが可能となる。
【0056】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例である。従って、ここでは、同一箇所については同一符番を付して重複説明を避け、異なる点について説明する。
【0057】
図11は、本発明の第2の実施の形態に係る光学素子(ゴニオクロマティック素子)の断面構成例を示す概念図である。
【0058】
すなわち、図11に示す光学素子は、光回折機能を有する回折構造や、光散乱機能を有する散乱構造など、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターン11a,11bが形成された光学構造体11の凹凸面側(非観察者2側)に、予め層厚が制御され、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層12を設け、更にその背面に補助層13を設けてなるゴニオクロマティック素子80である。なお、本実施の形態では、ゴニオクロマティック素子80の観察者2側を前面、その反対側を背面と呼ぶこととする。
【0059】
補助層13としては、光吸収機能を有する光吸収層、光散乱機能を有する光散乱層、及び光反射機能を有する光反射層のうちの何れか1層、もしくは異なる2層以上とすることができる。まず、光吸収層、光散乱層、光反射層が誘電体層12と組み合わされた場合のそれぞれの効果について解説する。
【0060】
補助層13として光吸収層を用いた場合、誘電体層12での光透過成分は、該光吸収層にて吸収されるため、誘電体層12での反射光成分のみが前面から観察されるようになり、かつ光吸収層が無い場合の誘電体層12と空気層との界面での反射光成分も吸収されることから、より波長選択性の高い反射光が得られる。これにより、上述の視角を変えたときの固有の色変化がよりはっきりと観察されるようになる。
【0061】
次に、補助層13として光散乱層を用いた場合、誘電体層12での光透過成分は、該光散乱層にて散乱されるため、誘電体層12での反射光成分に加え、反射散乱光が観察されるようになる。よって、特に観察角度を選ばなければ、前記反射散乱光の色が観察されるが、光源1の正反射光を観察すると誘電体層12での反射光成分が観察されるので、ある視角において全く異なる色が観察されるゴニオクロマティック素子80とすることができる。さらに、この光散乱層が光透過性の光散乱層である場合は、背面側からも前記反射散乱光と同様の色が観察できるような、両面で異なる効果を有するゴニオクロマティック素子80とすることもできる。
【0062】
また、補助層13として光反射層を用いた場合、誘電体層12での光透過成分は該光反射層にて反射されるため、誘電体層12での反射光成分に加えて、反射光が観察されるようになる。前記反射光が散乱されない場合は、前面からは、上述の誘電体層12による呈色およびその視角による色変化は観察されないことになる。しかし、上述のように、光学構造体11に凹凸構造パターン11a,11bを備えている場合、その部分では該光反射層にて散乱されるため、前面からは上述の光散乱層を備えた場合と同様の効果が得られる。したがって、凹凸構造パターン11a,11bの有る部分と無い部分11cとで、異なる呈色およびその視角変化を得ることができる。
【0063】
図12は、補助層13が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられているゴニオクロマティック素子90の例を示している。補助層13の無い部分Nは、誘電体層12での反射光成分が前面から、透過光成分が背面から観察される。一方、補助層13が形成されている部分は、それぞれの場合において、上述のように誘電体層12との組合せにより、それぞれ異なる固有の光学的効果が得られる。
【0064】
また、図13には、補助層13が光吸収層41と光反射層42の2層から構成され、誘電体層12に隣接した光吸収層41のみが、図12と同様にパターン状に形成されたゴニオクロマティック素子100の例を示す。この場合、光吸収層41の無い部分Nでは、上述のような誘電体層12と光反射層42の組合せによる光学的効果が、光吸収層41の形成された部分では、上述のような誘電体層12と光吸収層41の組合せによる光学的効果がそれぞれ得られる。
【0065】
以上のように、補助層13を構成する何れかの層がパターン状に形成されることで、異なる光学的効果が同時に得られるゴニオクロマティック素子を実現することができる。もちろん、補助層13の構成は図12、図13の例に限らず、光吸収層、光散乱層、及び光反射層のいかなる組合せからなることも可能であり、それぞれの組合せに応じて、それぞれ異なる光学的効果を得ることができる。
【0066】
図14には、補助層13を、光学構造体11の凹凸面に沿って誘電体層12の背面に形成した例を示す。この場合、補助層13の背面側にも光学構造体11の凹凸面を得ることができる。
【0067】
また、図15は、補助層13が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられており、かつ、光学構造体11の凹凸面に沿って誘電体層12の背面に形成されたゴニオクロマティック素子120の例を示している。図15に示すように、補助層13をパターン状に、かつ光学構造体11の凹凸面に沿って形成された構成とすることで、補助層13の無い部分Nは、誘電体層12での反射光成分が前面から、透過光成分が背面から観察されるように、光学的効果としてバリエーションに富んだゴニオクロマティック素子120とすることもできる。
【0068】
この説明のために、より具体的な例を図16に示す。図16では、光学構造体11の凹凸構造に沿った形状をなす誘電体層12背面の凹凸面を平滑化するように、かつパターン状に形成された光吸収層41に対して、その形状に沿った形状の光反射層42を設けたゴニオクロマティック素子130の例を示す。この場合、光吸収層41の無い部分Nでは、前面からは<光学構造体11の凹凸構造+誘電体層12+光反射層42>の組合せ効果が得られるが、光吸収層41の有る部分では、背面は単なる平坦な反射面となる。
【0069】
一方、光吸収層41の形成されている部分では、<光学構造体11の凹凸構造+誘電体層12+光吸収層41>の効果が得られ、背面からは、光学構造体11の凹凸構造に光反射層42が加わった構成となり、該凹凸構造由来の視覚効果が得られる。
【0070】
つまり、前面においては2種類の異なる光学的効果を得ることができ、また背面においても2種類の異なる光学的効果を得ることができる。もちろん、補助層13の構成は本例に限らず、光吸収層、光散乱層、光反射層のいかなる組合せからなることも可能で、また、それぞれの組合せにおいて、それぞれ異なる光学的効果を得ることができる。
【0071】
本実施の形態において、光吸収層41は、染料や顔料による着色層や可視光域に吸収をもつ無機酸化物もしくは金属酸化物の層、または光透過性の金属層などから形成することができる。この着色層は、特に限定されるものではないが、たとえば通常の印刷等に用いられる、染料や顔料を含んだ透明のインキにより設けることができる。前記金属酸化物の層は特にCr2O3やSiOのような全可視光領域にわたってほとんど光を透過せず、しかしながら若干の光沢を残す金属酸化物を指し、金属光沢を有することから前記着色層とは異なる視角効果を付与することができる。また、光透過性の金属層31としては、光透過性を示す金属であれば特に限定されるものでないが、一般的にはアルミニウムやクロムなど、あるいはそれらの酸化物などが用いられる。この際、適切な光透過率が得られるよう、それぞれの材料について適宜膜厚を設定する必要がある。
【0072】
また、本実施の形態において、光散乱層は、特に限定されるものでなく、可視光領域において光を散乱する性質をもつ如何なる材料も適用可能である。もちろん、ここでは、たとえば一定の表面粗さを有する表面での散乱も含まれる。
【0073】
また、本実施の形態において、光反射層42は、可視光領域において一定の光反射率を有するものであれば特に限定されるものではないが、反射率の観点から、クロム、アルミニウム、金、アルミ青銅または真鍮、あるいはこれらと同等の反射率が得られる金属から形成されることが望ましい。
【0074】
以上のように、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子では、回折構造、光散乱構造という偽造・模造が困難である構造に、誘電体層12を形成し、さらに様々な形態で補助層13を設けることで、全体構造の一層の複雑化、および光学的に特有な外観を与えることが可能となる。つまり、一層類似品を作ることが困難で、意匠性に優れ、真偽判定の容易なゴニオクロマティック素子を提供することができる。
【0075】
図17は、光学構造体11の前面に保護層81を設けたゴニオクロマティック素子140の断面構成例を示す概念図である。保護層81はそれだけでも光学構造体11の凹凸構造の偽造および模造を防止する効果を発揮するが、さらに耐擦傷機能、および/または防汚機能を備えているので、ゴニオクロマティック素子140を実用する上でのキズ、および/または汚れ防止の効果が得られる。
【0076】
図17に示すようなゴニオクロマティック素子140を、カードや紙などの基材91上に配置してなる表示体150の一例を図18に示す。基材91は特に制限が無く、配置することが可能であれば、如何なる固体でも適用できる。
【0077】
また、上述したように、前面と背面とで異なる光学効果を奏するゴニオクロマティック素子に対して、基材91として光透過性のものを配置した表示体とすれば、前面と背面との両面で異なる光学効果を有する表示体を実現することが可能となる。
【0078】
なお、図18に示す表示体150は、あくまでも構成に係るものであって、たとえば、上述した補助層と同等の構成を有する層が予め設けられた基材の上に、光学構造体11と誘電体層12を光学薄膜として備えた素子を配置した場合も含まれる。
【0079】
上述したように、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子によれば、偽造困難な微細構造と層構成を有し、かつその背面に補助層を設けることで、目視での観察などの簡便な方法で確実な真偽判定を容易に行うことが可能となる。
【0080】
特に補助層を設けることで、従来のホログラムや回折格子および/または光散乱パターンの視覚効果に加えて、誘電体層との組み合わせによる視角に依存した顕著かつ特有な色変化が得られ、あるいは同一面内において異なる態様の呈色・色変化が得られ、あるいは両面で異なる態様の光学的効果を得ることが可能となる。
【0081】
また、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子では、その前面に耐擦傷性、防汚性を有する保護層を設けることで、微細構造の偽造や模造を防止するばかりでなく、キズや汚れに耐性を持たせることができ、より実用的な機能を得ることができる。
【0082】
更に、本実施の形態に係るゴニオクロマティック素子に基材を配することで、高い偽造防止の効果と意匠性を有する偽造・模造の困難な表示体を実現することが可能となる。
【0083】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第1の実施の形態に係るゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図2】白色の回折光を得るためのゴニオクロマティック素子の構成例を示す部分平面図。
【図3】ゴニオクロマティック素子により白色の回折光を得る原理を説明するための図。
【図4】円弧状の稜線を有する回折格子構造により、一定の広がり角θを持つ回折光が得られる原理を説明するための図。
【図5】高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層してなる誘電体層を備えたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図6】誘電体層の表面に光透過性の金属層を設けたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図7】金属層を光学構造体と誘電体層との界面に配置したゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図8】光学構造体の前面に保護層を設けてなるゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図9】基材上にゴニオクロマティック素子を配置してなる表示体の断面構成例を示す概念図。
【図10】基材上に印刷層を配置することで、より高い偽造防止効果を備えた表示体の断面構成例を示す概念図。
【図11】第2の実施の形態に係るゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図12】予め定めたパターンに従って補助層が部分的に設けられているゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図13】補助層が光吸収層と光反射層とから構成され、誘電体層に隣接した光吸収層のみがパターン状に形成されたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図14】補助層を光学構造体の凹凸面に沿って誘電体層の背面に形成してなるゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図15】補助層が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられ、かつ光学構造体の凹凸面に沿って誘電体層の背面に形成されたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図16】補助層が、予め定めたパターンに従って部分的に設けられ、かつ光学構造体の凹凸面に沿って誘電体層の背面に形成されたゴニオクロマティック素子の別の断面構成例を示す概念図。
【図17】光学構造体の前面に保護層を設けたゴニオクロマティック素子の断面構成例を示す概念図。
【図18】図17に示すゴニオクロマティック素子を基材上に配置してなる表示体の断面構成例を示す概念図。
【符号の説明】
【0085】
D…回折光、G…画素、I…入射光、K…回折格子、N…補助層の無い部分、R…稜線、φ…一定の角度域、θ…一定の広がり角、10,20,30,40,50,80,90,100,110,120,130,140…ゴニオクロマティック素子、1…光源、2…観察者、11…光学構造体、11a.11b…凹凸構造パターン、11c…パターンの無い部分、12…誘電体層、13…補助層、21…高屈折率材料層、22…低屈折率材料層、23…高屈折率材料層、31…金属層、41…光吸収層、42…光反射層、51…保護層、60,70,150…表示体、62…接合層、63…基材、71…印刷層、71a…印刷の無い部分、71b…印刷の有る部分、81…保護層、91…基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターンが形成された平面状の構造体と、
前記構造体の前記凹凸構造パターンが形成された面側に配置され、予め層厚が定められ、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層と
を備えたことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記凹凸構造パターンは、光学機能として光回折機能が得られる第1の構造パターンと、光学機能として光散乱機能が得られる第2の構造パターンとのうちの少なくとも何れかを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1の構造パターンは回折格子からなり、白色光が照射されると、前記回折格子によって規定される方位の角度を中心とした範囲において、前記回折格子によって規定される強度分布に従って白色回折光を発することを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の構造パターンは、光散乱要素からなる光散乱体を配置してなる光散乱パターンでなり、前記光散乱要素の形状や前記光散乱体内の光散乱要素の密度を変えることで、予め決められた光散乱機能を得るようにしたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記誘電体層は複数層からなり、各層は、それぞれ屈折率の異なるセラミック材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記誘電体層は、予め定めた値よりも高い屈折率を持つ層と、前記予め定めた値よりも低い屈折率を持つ層とを含む複数層からなることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記誘電体層は、隣接する層よりも高い屈折率を持つ層と、隣接する層よりも低い屈折率を持つ層とが交互に積層された複数層からなることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1に記載の光学素子において、
前記誘電体層の前記構造体側ではない面側に、光吸収機能を有する光吸収層、光散乱機能を有する光散乱層、及び光反射機能を有する光反射層のうちの少なくとも何れかを含む光学機能層を配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項9】
前記光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、予め定めたパターンに従って部分的に設けたことを特徴とする請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、前記構造体側に隣接している層の断面形状に沿った断面形状としたことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項1乃至10のうち何れか1項に記載の光学素子において、
前記誘電体層の構造体側ではない面側に、光透過性の金属層を配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項12】
請求項1乃至11のうち何れか1項に記載の光学素子において、
前記構造体の前記凹凸構造パターンが形成されていない面側に、耐擦傷性および防汚性のうちの少なくとも何れかを有する保護層を配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のうち何れか1項に記載の光学素子を、カード又は紙からなる基材上に配置してなることを特徴とする表示体。
【請求項14】
前記基材と、前記光学素子との間に印刷層を配置したことを特徴とする請求項13に記載の表示体。
【請求項15】
前記基材は、光透過性を有することを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の表示体。
【請求項1】
一方の面に、2種類以上の異なる光学機能が得られる凹凸構造パターンが形成された平面状の構造体と、
前記構造体の前記凹凸構造パターンが形成された面側に配置され、予め層厚が定められ、光学機能を有する1層又は複数層からなる誘電体層と
を備えたことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記凹凸構造パターンは、光学機能として光回折機能が得られる第1の構造パターンと、光学機能として光散乱機能が得られる第2の構造パターンとのうちの少なくとも何れかを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1の構造パターンは回折格子からなり、白色光が照射されると、前記回折格子によって規定される方位の角度を中心とした範囲において、前記回折格子によって規定される強度分布に従って白色回折光を発することを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の構造パターンは、光散乱要素からなる光散乱体を配置してなる光散乱パターンでなり、前記光散乱要素の形状や前記光散乱体内の光散乱要素の密度を変えることで、予め決められた光散乱機能を得るようにしたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記誘電体層は複数層からなり、各層は、それぞれ屈折率の異なるセラミック材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記誘電体層は、予め定めた値よりも高い屈折率を持つ層と、前記予め定めた値よりも低い屈折率を持つ層とを含む複数層からなることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記誘電体層は、隣接する層よりも高い屈折率を持つ層と、隣接する層よりも低い屈折率を持つ層とが交互に積層された複数層からなることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1に記載の光学素子において、
前記誘電体層の前記構造体側ではない面側に、光吸収機能を有する光吸収層、光散乱機能を有する光散乱層、及び光反射機能を有する光反射層のうちの少なくとも何れかを含む光学機能層を配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項9】
前記光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、予め定めたパターンに従って部分的に設けたことを特徴とする請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記光学機能層に含まれる層のうちの何れかを、前記構造体側に隣接している層の断面形状に沿った断面形状としたことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項1乃至10のうち何れか1項に記載の光学素子において、
前記誘電体層の構造体側ではない面側に、光透過性の金属層を配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項12】
請求項1乃至11のうち何れか1項に記載の光学素子において、
前記構造体の前記凹凸構造パターンが形成されていない面側に、耐擦傷性および防汚性のうちの少なくとも何れかを有する保護層を配置したことを特徴とする光学素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のうち何れか1項に記載の光学素子を、カード又は紙からなる基材上に配置してなることを特徴とする表示体。
【請求項14】
前記基材と、前記光学素子との間に印刷層を配置したことを特徴とする請求項13に記載の表示体。
【請求項15】
前記基材は、光透過性を有することを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の表示体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−83599(P2008−83599A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266060(P2006−266060)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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