説明

光学素子の製造方法

【課題】 基板の表面に成膜される多層膜の膜厚を一様な厚さにし、不良品となる光学素子を少なくすることができる光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板1には、所定間隔で互いに直交する溝2の列が形成されている。この基板1の溝2が形成されている面に、スパッタリングにより多層膜3を形成する。この多層膜3は、溝2の底部にも僅かに形成されるが、溝2の深さを多層膜3の総膜厚に対して十分大きくしておけば、(c)に示すように、多層膜3は、溝2で分断されたような状態となり、基板1全体を覆うような大きさにはならない。よって、多層膜3の膜応力も小さくなり、基板1を変形させるようなものとはならない。従って、従来技術と異なり、基板1とターゲットとの間隔が、基板1の成膜面内で異なることが無く、基板1に均一な厚さの膜が成膜される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野で使用されるフィルタ素子等、基板の上に多層膜が形成された光学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信分野で使用されるフィルタ素子等の光学素子には、反射防止を行ったり、波長ごとの透過率や反射率を所定の特性にしたり、波長ごとの位相特性を所定の特性にしたりするために、基板の表面に多層膜を成膜し、膜間の干渉により所定の光学特性を持たせたものがある。
【0003】
図2に、このような多層膜を成膜する方法の例を示す。図2において、(a)は回転テーブルを下から見た図、(b)はA−A位置での装置の端面図を示す。真空チャンバ21の中には基板ホルダ22が設けられ、回転軸23を中心として回転している。基板ホルダ22の下面には、表面に成膜を施す基板24が同心円状に取り付けられているが、基板24を取り付ける場所の1ヶ所にはモニタ基板25が取り付けられている。
【0004】
真空チャンバ21の下部にはターゲット26が設けられ、そこから膜を構成するスパッタリング原子が飛び出して、基板24とモニタ基板25の表面に当たって膜を形成する。また、真空チャンバ21の一部には、上下面に窓27が設けられており、投光器28より照射された光が、光学素子24又はモニタ基板25を透過して受光器29で受光され、分光透過率が測定できるようになっている。この分光透過率の測定は、膜厚測定のために行なわれるものである。
【0005】
図2に示すような装置を用いた多層膜の成膜は、以下のようにして行なわれる。まず、所定の光学特性(反射率、透過率、位相特性等)が得られるように、計算により膜の材質、層数、各層の厚さが決定される。このようにして設計が終了すると、まず、第1層の成膜が行なわれる。モニタ基板25が投光器28と受光器29の位置を通り過ぎる毎に分光透過率の測定を行い、膜厚を測定する。
【0006】
このようにして、膜厚を測定しながら成膜を続け、測定光学特性が参照光学特性に等しくなったところで第1層目の成膜を終了する。そして、ターゲット材料を変更して、第2層目の成膜を行う。以下、同様にして最終膜までの成膜を行う。なお、一般には、その後、成膜が完了した基板24を切断し、複数の光学素子を得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようにスパッタリングにより基板24の表面に多層膜を形成する場合、成膜途中で、それまでに成膜された多層膜の膜応力により、基板24が反るという問題点がある。通常の場合、この反りは、多層膜が形成された側に凸となるような反り方となる。
【0008】
このような反りが発生すると、基板24の表面とターゲットとの距離が、基板24の成膜面内で異なるようになり、その結果、それ以後成膜される膜厚が基板24の各部で異なるようになる。そのため、基板24のある部分から切り出される光学素子の特性が、所定のものとならず、不良品になるという問題が発生する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、基板の表面に成膜される多層膜の膜厚を一様にし、不良品となる光学素子を少なくすることができる光学素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、基板上に多層膜を成膜し、その後、前記多層膜が成膜された前記基板を切断することにより、複数の光学素子を得る光学素子の製造方法であって、前記基板に切り込みを設け、その後、前記切り込みが設けられた面に前記多層膜の成膜を行う工程を有することを特徴とする光学素子の製造方法(請求項1)により解決される。
【0011】
本手段においては、基板に切り込み(通常は縦横2方向に設ける)が設けられているので、基板上に成膜される多層膜が、この切り込みの部分でつながらないようになり、その結果、基板を変形させるような大きな膜応力が発生しなくなる。よって、基板の反りが抑えられるので、成膜される多層膜の厚さが基板の成膜面内で一様となり、その結果、目的とする特性の光学素子を歩留まり良く多数採取することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板の表面に成膜される多層膜の膜厚を一様にし、不良品となる光学素子を少なくすることができる光学素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態である光学素子の製造方法を説明するための図である。(a)は基板の平面図、(b)は(a)におけるB−B断面図である。
【0014】
基板1には、所定間隔で互いに直交する溝2の列が形成されている。この基板1の溝2が形成されている面に、従来技術で説明したようなスパッタリングにより、多層膜3を形成する。この多層膜3は、溝2の底部にも僅かに形成されるが、溝2の深さを多層膜3の総膜厚に対して十分大きくしておけば、(c)に示すように、多層膜3は、溝2で分断されたような状態となり、基板1全体を覆うような膜にはならない。
【0015】
よって、多層膜3の膜応力も小さくなり、基板1を変形させるようなものとはならない。従って、従来技術と異なり、基板1とスパッタリングのターゲットとの間隔が、基板1の成膜位置によって異なることが無く、基板1に均一な厚さの膜が成膜される。
【0016】
成膜の完了後、溝2に沿ってダイシングソー等により基板1を切断し(d)に示すように、基板1の上に多層膜3が成膜された光学素子4を得る。前述のように、基板1に形成される薄膜の膜厚は均一なものとなるので、基板1のどの部分からとれる光学素子4も、目的とする光学特性を有するものとなる。
【0017】
なお、図1に示す例においては、最終的に採取する光学素子4の境界面に沿って溝2を形成したが、最終的に採取する光学素子4の大きさの整数倍の間隔で溝2を形成するようにしてもよい。又、少量の光学素子4を製造する際には、必ずしも、最終的に採取する光学素子4の境界面に沿って溝2を形成したり、最終的に採取する光学素子4の大きさの整数倍の間隔で溝2を形成したりする必要はない。
【0018】
なお、本実施の形態においては、スパッタリングにより多層膜の成膜を行っているが、真空蒸着等、他の成膜方法を用いる場合でも、本発明は有効に作用効果を奏する。
【実施例】
【0019】
基板1として0.3mm厚のBK−7ガラス基板を使用し、ダイシングソーを使用して、図1に示すように、幅0.2mm、深さ0.1mmの溝2を、縦横それぞれ1.4mmのピッチで形成した。溝2の形成後、基板1を洗浄し、切り屑を除去した。
【0020】
この基板1を、溝2が形成された面がターゲットと対向するように、図2に示すようなスパッタリング装置を使用した成膜装置にセットし、その表面に、NbとSiOの薄膜を交互に成膜して、総数117層で総膜厚が27μmの多層膜3を成膜した。成膜時において、従来技術に見られたような基板1の反りは観察されなかった。
【0021】
成膜完了後、溝2に沿ってダイシングソーにより基板1を切断し、複数の光学素子(フィルタ)を得た。このフィルタは、入射角10°の光に対して、1520〜1563nmの波長の光を透過し、1569nm〜1610nmの光を反射する、いわゆるCバンドとLバンドを分離するフィルタであり、光通信用に用いられる。
【0022】
このような製造方法により、良品である製品として得られる製品の歩留まりは、従来技術の方法で製造されたものに比して、大幅に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態である光学素子の製造方法を説明するための図である。
【図2】基板に多層膜を成膜する方法の例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1…基板、2…溝、3…多層膜、4…光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に多層膜を成膜し、その後、前記多層膜が成膜された前記基板を切断することにより、複数の光学素子を得る光学素子の製造方法であって、前記基板に切り込みを設け、その後、前記切り込みが設けられた面に前記多層膜の成膜を行う工程を有することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−154635(P2006−154635A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348596(P2004−348596)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】