説明

光学素子用樹脂及びその製造法、それを用いた光学素子

【課題】 透明性、耐熱性が良く、かつ耐候性の良好な光学素子用樹脂及びこれを用いた光学素子を提供する。
【解決手段】 エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を重合した樹脂であって、紫外線カーボンアークランプを用いて波長350〜410nmの紫外線を、放射強度35W/m/nm(365nm)、距離250mmで、300時間照射後の透過率変化が1%以下である光学素子用樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種光学素子に好適に用いられる透明性が高く、かつ耐熱性、耐候性に優れた光学素子用樹脂及びその製造法、これを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、プリズム、光ディスク、LCD用基板などの光学素子にはガラスが使用されていた。しかし、近年、軽量・小型化のためプラスチックが使用されるようになってきている。光学素子に使用されるプラスチックには、一般にポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリメタクリル酸メチル、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体などが知られている。しかし、ポリスチレン、ポリカーボネートなどについては、分子内に芳香環を持つため、配向歪みによる複屈折が生じ易く、成形金型を工夫する必要があり、これまではポリメタクリル酸メチルを主に、高透明性を有する樹脂が光学素子材料として使用されてきた。
【0003】
ポリメタクリル酸メチルは、光弾性係数が小さく、比較的配向歪みによる複屈折が生じにくいので、ファインダー用レンズ、CD用ピックアップレンズなど、比較的高精度を必要としない光学素子に使用されてきた。
【0004】
また、ポリオレフィンは吸水率が低く、高い透明性、高い耐熱性を示すので、DVD用ピックアップレンズなどの、より精度が要求される光学素子に使用されてきた。
【0005】
しかし近年、さらに高精度が要求される光学素子が求められてきている。特にレーザー光を使用するミニディスク用レーザーピックアップレンズ、DVD用レーザーピックアップレンズなどは、使用されるレーザー波長が790nmから650nm、さらに記録容量20GBを超える次世代DVDでは405nmと高エネルギーである短波長側に推移し、光学系に用いられるレンズにおいて発生する熱量はより増加する。このためレンズに用いられる光学プラスチック材料には高い透明性、高い耐熱性、及び耐候性が要求される。
【0006】
高耐熱性と高透明性の両立のためにポリオレフィンの樹脂骨格の改良(特許文献1参照)、成形方法の改良(特許文献2参照)などが知られている。またポリメタクリル酸メチルに代表されるアクリル樹脂の耐熱性の向上のためにマレイミド骨格を持つ化合物の共重合(特許文献3参照)などが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開2003-183360号公報
【特許文献2】特開2000−318006号公報
【特許文献3】特開平8−217944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの従来の方法は、それぞれ一応の効果を上げているが、耐光性に関しては未だ不十分な面も少なくない。ポリオレフィン樹脂ではその樹脂骨格から紫外線による劣化が大きく、着色が著しい。一方、マレイミド構造をもつアクリル樹脂では長時間紫外光を照射した際にマレイミド基固有の光反応性に起因する透過率の変動が1%以上と大きくなるため、耐候性は十分なものではない。
【0009】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、各種光学素子に好適に用いられる、透明性、耐熱性が良く、かつ耐候性の良好な光学素子用樹脂及びこれを用いた光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、次の各項に関する。
[1] エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を重合した樹脂であって、紫外線カーボンアークランプを用いて波長350〜410nmの紫外線を、放射強度35W/m/nm(365nm)、距離250mmで、300時間照射後の透過率変化が1%以下である光学素子用樹脂。
[2] ガラス転移温度が120℃以上であり、樹脂を3mm厚の成形板にしたときの波長405nmの透過率が88%以上である[1]に記載の光学素子用樹脂。
[3] エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルが、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル及びメタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−4−メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[1]又は[2]に記載の光学素子用樹脂。
[4] エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を重合した樹脂であって、下記に示す構造式(α)
【0011】
【化1】

(但しRは水素原子又は有機基を示す)で示されるヒンダートフェノール骨格を持つ化合物(A)を含有することを特徴とする光学素子用樹脂。
[5] 化合物(A)の分子量が600以上である[4]に記載の光学素子用樹脂。
[6] 化合物(A)がヒンダードフェノール骨格を1分子内に2つ以上持つものである[4]または[5]に記載の光学素子用樹脂。
[7] 化合物(A)がペンタエリスリトールの骨格を持つ[4]、[5]または[6]に記載の光学素子用樹脂。
[8] 化合物(A)が下記構造式(β)
【0012】
【化2】

で表されるものである[7]に記載の光学素子用樹脂。
[9] 化合物(A)が下記の構造(γ)
【0013】
【化3】

(R:炭化水素またはヘテロ原子)をもつ[4]に記載の光学素子用樹脂。
[10] エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を、下記に示す構造式(α)
【0014】
【化4】

(但しRは水素原子又は有機基を示す)で示されるヒンダートフェノール骨格を持つ化合物(A)の存在下に重合することを特徴とする光学素子用樹脂の製造法。
[11] 単量体混合物が、エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル5〜40重量部、メタクリル酸メチル50〜80重量部、マレイミド構造を持つ単量体1〜20重量部、及びこれらと共重合可能な単量体0〜10重量部を、総重量部を100重量部としたものである[10]に記載の光学素子用樹脂の製造法。
[12] ヒンダートフェノール骨格を持つ化合物(A)を、単量体混合物に対して0.01〜0.3重量%使用するものである[10]又は[11]記載の光学素子用樹脂の製造法。
[13] [1]〜[9]のいずれかに記載の、または[10]〜[12]のいずれかに記載の製造方法により得られる光学素子用樹脂を成形して得られる光学素子。
[14] 波長380〜420nmの青色レーザーを使用する光学系に用いられる[13]記載の光学素子。
[15] ピックアップレンズである[13]又は[14]に記載の光学素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば各種光学素子に好適に用いられる、透明性、耐熱性、耐候性の良好な光学素子用樹脂及びその製造法、これを用いた光学素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いるエステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ジメチルアダマンチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等が挙げられる。このうち、低吸湿性の点で、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等が好ましい。さらに、耐熱性、低吸湿性の点でより好ましいものとしては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル及びメタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−4−メチルが挙げられる。
【0017】
また、前記した共重合可能な単量体は、基本的に得られる樹脂の透明性、耐熱性及び低吸湿性を損なわないものであれば、特に制限はなく、具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデジル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル類、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ジメチルアクリルアミド、N−ジエチルアクリルアミド、N−ジメチルメタクリルアミド、N−ジエチルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、アクリル酸カルシウム、アクリル酸バリウム、アクリル酸鉛、アクリル酸錫、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸バリウム、メタクリル酸鉛、メタクリル酸錫、メタクリル酸亜鉛等の(メタ)アクリル酸金属塩、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物が挙げられる。また、これらは1種又は2種以上が使用される。ここで(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタアクリルを意味する。
【0018】
本発明においては、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル5〜40重量部、メタクリル酸メチル50〜80重量部及びこれらと共重合可能な単量体0〜10重量部からなり、総重量部が100重量部となる単量体混合物として共重合されることが好ましい。
【0019】
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの配合量は、5〜40重量部とされることが好ましく、10〜40重量部であることが吸湿性の点でより好ましい。この配合量が5重量部未満であると、複屈折が大きく、吸湿性が高くなる傾向にあり、40重量部を超えると、機械的強度が低下するといった問題が生じる。
【0020】
メタクリル酸メチルの配合量は、50〜80重量部とされることが好ましく、60〜75重量部であることがより好ましい。メタクリル酸メチルの配合量が50重量部未満では、機械的強度が低下する傾向にあり、80重量部を超えると、非複屈折性、耐熱性及び低吸湿性に問題が生じる傾向にある。
【0021】
本発明の光学素子用樹脂としては耐熱性の点でガラス転移温度120℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましい。
【0022】
本発明の光学素子用樹脂としては、透明性の点で樹脂を3mm厚の成形板にしたときの波長405nmの透過率が88%以上であることが好ましく、89%以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明の光学素子用樹脂としては、耐候性の点で樹脂を3mm厚の成形板にし、紫外線カーボンアークランプを用いて波長350〜410nmの紫外線を、放射強度35W/m/nm(365nm)、距離250mmで、300時間照射後の透過率変化が1%以下であることが好ましく、0.9%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.7%以下であることが特に好ましく、0.5%以下であることが極めて好ましい。
【0024】
本発明において構造(α)で示される化合物(A)の含有量は0.01〜0.3重量部とされることが好ましく、0.05〜0.2重量部が透明性の点でより好ましい。0.01重量部未満では高温条件下での着色等の熱安定性、耐候性に問題が生じる傾向にあり、0.3重量部を超えると透明性、耐熱性に問題が生じる傾向にある。構造式(α)中のRは、水素原子又は有機基を示し、これらは、具体的には、2,6−ジ−t−ブチル-p-クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、4−ヒドロキシ−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)イソシアヌレート、トリス[β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル]イソシアヌレート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ヘキサメチレングリコールビス[β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t-ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,2−チオ[ジエチル−ビス−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート]、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェノール)プロピオネート、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5−]ウンデカン、N,N’−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ハイドロシンナマイド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホリックアシッドのジエチルエステル、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルホスホリックアシッド)モノエチルエステルのNi塩、などが挙げられる。
【0025】
本発明において化合物(A)の分子量が600以上とされることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。分子量が600未満では化合物(A)がポリマ内部で拡散しやすくなるために、化合物(A)とポリマ中のマレイミド骨格との間に発生している配位状態に影響を与え、紫外光に対するマレイミド骨格の光反応性が変化し、耐候性が劣る傾向にある。
【0026】
本発明において化合物(A)は、構造(α)で示されるフェノールのo位がt-ブチル基で置換されたヒンダードフェノールを二つ以上含む。フェノールのo位がメチル基などの立体障害の小さい置換基である、または構造(α)を1つしか含まない場合では、化合物(A)がポリマ内部で拡散しやすくなるために、化合物(A)とポリマ中のマレイミド骨格との間に発生している配位状態に影響を与え、紫外光に対するマレイミド骨格の光反応性が変化し、耐候性が劣る傾向にある。
構造(α)で示されるフェノールのo位がt-ブチル基で置換されたヒンダードフェノールを二つ以上含む化合物として、具体的には、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)イソシアヌレート、トリス[β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル]イソシアヌレート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ヘキサメチレングリコールビス[β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5−]ウンデカン、2,2−チオ[ジエチル−ビス−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ハイドロシンナマイド)が挙げられる。
【0027】
本発明において構造(α)で示されるヒンダードフェノール骨格が2つ以上からなる化合物(A)は透明性、耐候性の点からペンタエリスリトール骨格を含むことが好ましく、構造(β)で示される化合物であることがより好ましい。
【0028】
本発明において構造(α)で示される化合物(A)はヒンダードフェノール骨格とP=O基を併せ持つ構造(γ)で示される化合物でもよい。
構造(γ)中、Rは炭化水素またはヘテロ原子を示し、これらは、具体的には、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホリックアシッドのジエチルエステル、などが挙げられる。
【0029】
本発明において樹脂を製造するための共重合法としては塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の既存の方法を適用できる。光学素子のためには、樹脂中への不純物の混入などの点、製品としてのハンドリングなどの点から懸濁重合法が好ましい。
【0030】
重合を行う際には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン−1−カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性触媒及び過酸化物あるいは過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス触媒等、通常のラジカル重合に使用できるものはいずれも使用することができる。重合開始剤は、単量体の総量に対して0.01〜10重量%の範囲で使用されることが好ましい。
【0031】
さらに、分子量調整剤として、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α−メチルスチレンダイマー等を必要に応じて添加することができる。
【0032】
熱重合による場合、重合温度は、0〜200℃の間で適宜選択することができ、50〜130℃が好ましい。また、揮発分を上記の範囲とするために120〜130℃の高温工程を含む重合温度とすることが特に好ましい。
【0033】
懸濁重合は、水性媒体中で行われ、懸濁剤及び必要に応じて懸濁助剤を添加して行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質等があり、水溶性高分子は、単量体の総重量部に対して0.03〜1重量%使用するのが好ましく、難溶性無機物質は、単量体の総重量部に対して0.05〜0.5重量%使用するのが好ましい。
【0034】
懸濁助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤があり、懸濁剤として難溶性無機物質を使用する場合には、懸濁助剤を使用するのが好ましい。懸濁助剤は、単量体の総重量部に対して0.001〜0.02重量%使用するのが好ましい。
【0035】
本発明の光学素子用樹脂は、その使用にあたって、劣化防止、熱的安定性、成形性、加工性などの観点から、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系などの抗酸化剤、脂肪族アルコール、前記記載の化合物以外の脂肪酸エステル、フタル酸エステル、トリグリセライド類、フッ素系界面活性剤、高級脂肪酸金属塩などの離型剤、その他滑剤、可塑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、重金属不活性化剤などを添加して使用した組成物として使用してもよい。
【0036】
本発明の光学素子用樹脂としては、光学素子として使用するためにガラス転移温度が120℃以上であり、樹脂を厚さ3mmの成形品にした際の405nmでの光透過率が88%以上であり、紫外線カーボンアークランプを用いて波長350〜410nmの紫外線を、放射強度35W/m/nm(365nm)、距離250mmで、300時間照射後の透過率変化が1%未満であることが好ましい。このような樹脂は、前述するように、樹脂の原料となる単量体の種類と配合量を調整すること等により達成することができる。
【0037】
本発明において、光学素子用樹脂の光学素子への適用は、射出成形法、圧縮成形法、マイクロモールド法、フローティングモールド法、ローリンクス法、注型法等の公知の成形法を利用することができる。注型法においては、部分的に重合を進めた後、型に注入し、最終的な重合を行って、光学素子を製造してもよい。
【0038】
また、以上のような成形法により得られた成形品表面に、MgF2、SiO2などの無機化合物を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などによってコーティングすること、成形品表面にシランカップリング剤などの有機シリコン化合物、ビニルモノマー、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコン樹脂などをハードコートすることなどによって、耐湿性、光学特性、耐薬品性、耐磨耗性、防曇性を向上させることができる。
【0039】
本発明における光学素子としては、例えば、一般カメラ用レンズ及びファインダー、ビデオカメラ用レンズ、レーザーピックアップレンズ、レーザープリンター用のfθレンズ、シリンドリカルレンズ及びオリゴンミラー、プロジェクションTV用レンズ、液晶プロジェクター用のマルチレンズ、リレー系レンズ、コンデンサーレンズ、投射レンズ及びフレネルレンズ、眼鏡用レンズ等のレンズ、コンパクトディスク(CD、CD−ROM等)、ミニディスク、DVD用のディスク基板、LCD用基板、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、液晶素子結合用接着剤等の液晶素子用部材、プロジェクター用スクリーン、光学フィルター、光ファイバー、光導波路、プリズム、光電変換素子用レンズなどが挙げられる。本発明の光学素子用樹脂は、特に、ミニディスク用ピックアップレンズ(対物レンズ、回折格子、コリメータレンズ等)及びDVD用ピックアップレンズ(対物レンズ、回折格子、コリメータレンズ等)の光学素子、その中でも特に波長380〜420nmの青色レーザーを使用する光学系に用いられる光学素子、さらにピックアップレンズに最適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
また、以下の実施例で懸濁剤として用いる水溶性高分子(A)(ポリメタクリル酸塩)は、下記の方法で合成した。
【0042】
水溶性高分子(A)の合成
メタクリル酸メチル5g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル12g、メタクリル酸カリウム23g及び脱イオン水360gを内容積500mlのセパラブルフラスコに入れ、30分間窒素ガスを吹き込んで系内の空気を除去した後、水浴で加熱して撹拌しながら系内温度を65℃に昇温し、過硫酸カリウム0.06gを添加した。同温度で5時間重合を行い、続けて90℃に昇温して2時間撹拌を続けてゼリー状の水溶性高分子(A)を得た。
【0043】
(実施例1)
メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル800g、メタクリル酸メチル1040g、シクロヘキシルマレイミド160g、過酸化ラウロイル8g、α―メチルスチレンダイマー8g、添加剤としてAO−60(旭電化工業株式会社製)2gを溶解して単量体混合液とした。
【0044】
撹拌機を備えた5Lのオートクレーブ容器に懸濁剤として前記のゼリー状の水溶性高分子(A)を0.1g、脱イオン水を2500g加え、次いで、リン酸水素二ナトリウム−リン酸二水素ナトリウム組合せ緩衝液を加えて撹拌し、pHを7.2に調整して懸濁媒体とした。ここに撹拌しながら上記の単量体混合液を加え、撹拌回転数270rpm、窒素雰囲気下70℃で3時間、さらに高温工程として120℃で1時間重合させ、樹脂粒子を得た。
【0045】
前記の樹脂粒子を東芝機械株式会社製射出成形機IS−50EPを用い、シリンダー温度260℃、射出速度60cm/秒、金型温度90℃で成形し、特性評価用の複数の試験片(50mm×40mm×厚さ3mm)を得た。
【0046】
(実施例2〜4、比較例1、2)
表1に示す添加剤を用い、実施例1と同様にして特性評価用の試験片とした。
【0047】
実施例1〜4、比較例1、2で得られた樹脂粒子及び試験片について、ガラス転移温度(以下Tgと略す)、成形品の405nm透過率、紫外光300時間照射後405nm透過率変動を調べ、表2に示した。なお、評価は下記に示す方法により行った。
【0048】
(1)ガラス転移温度(Tg)
上記で得られた光学素子用樹脂について、示差走査熱量計(株式会社リガク製ThermoPlus DSC8230)で、ガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0049】
(2)405nm透過率
上記で得られた試験片について分光光度計(日本分光株式会社製V−570)で、405nmにおける透過率を測定した。
【0050】
(3)紫外光300時間照射後405nm透過率変動
上記で得られた試験片について紫外線カーボンアークランプを用い波長350〜410nmの紫外線を300時間照射後(放射強度35W/m/nm(365nm))、分光光度計(日本分光株式会社製V−570)で、405nmにおける透過率を測定し、照射前の透過率との差をとり、紫外光300時間照射後405nm透過率変動とした。
【0051】
【表1】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【表2】

【0057】
以上のように、実施例1〜4は良好な透明性、耐熱性(高ガラス転移温度)、耐候性(紫外光300時間照射後の405nm透過率変動<1.0%)を示している。一方、フェノール系添加剤を含まない比較例1、化合物(A)が構造(α)を持たない比較例2では耐候性が悪かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を重合した樹脂であって、紫外線カーボンアークランプを用いて波長350〜410nmの紫外線を、放射強度35W/m/nm(365nm)、距離250mmで、300時間照射後の透過率変化が1%以下である光学素子用樹脂。
【請求項2】
ガラス転移温度が120℃以上であり、樹脂を3mm厚の成形板にしたときの波長405nmの透過率が88%以上である請求項1に記載の光学素子用樹脂。
【請求項3】
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルが、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル及びメタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−4−メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載の光学素子用樹脂。
【請求項4】
エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を重合した樹脂であって、下記に示す構造式(α)
【化1】

(但しRは水素原子又は有機基を示す)で示されるヒンダートフェノール骨格を持つ化合物(A)を含有することを特徴とする光学素子用樹脂。
【請求項5】
化合物(A)の分子量が600以上である請求項4に記載の光学素子用樹脂。
【請求項6】
化合物(A)がヒンダードフェノール骨格を1分子内に2つ以上持つものである請求項4または5に記載の光学素子用樹脂。
【請求項7】
化合物(A)がペンタエリスリトールの骨格を持つ請求項4、5または6に記載の光学素子用樹脂。
【請求項8】
化合物(A)が下記構造式(β)
【化2】

で表されるものである請求項7に記載の光学素子用樹脂。
【請求項9】
化合物(A)が下記の構造(γ)
【化3】

(R:炭化水素またはヘテロ原子)をもつ請求項4に記載の光学素子用樹脂。
【請求項10】
エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、マレイミド構造を持つ単量体を成分として含む単量体混合物を、下記に示す構造式(α)
【化4】

(但しRは水素原子又は有機基を示す)で示されるヒンダートフェノール骨格を持つ化合物(A)の存在下に重合することを特徴とする光学素子用樹脂の製造法。
【請求項11】
単量体混合物が、エステル部分が炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル5〜40重量部、メタクリル酸メチル50〜80重量部、マレイミド構造を持つ単量体1〜20重量部、及びこれらと共重合可能な単量体0〜10重量部を、総重量部を100重量部としたものである請求項10に記載の光学素子用樹脂の製造法。
【請求項12】
ヒンダートフェノール骨格を持つ化合物(A)を、単量体混合物に対して0.01〜0.3重量%使用するものである請求項10又は11記載の光学素子用樹脂の製造法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の、または請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法により得られる光学素子用樹脂を成形して得られる光学素子。
【請求項14】
波長380〜420nmの青色レーザーを使用する光学系に用いられる請求項13記載の光学素子。
【請求項15】
ピックアップレンズである請求項13又は14に記載の光学素子。


【公開番号】特開2006−188623(P2006−188623A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2383(P2005−2383)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】