説明

光学装置、光源装置、レーザ加工装置、回折光学素子、光ピックアップ、光ディスク装置及びレーザ装置

【課題】サイドローブが、さらに低減された多重ビームを生成する。
【解決手段】多重ビーム生成手段9は、入射するレーザ平行光束に基づくレーザ光束を所定の収束角で光軸上に収束させることにより生成されるベッセルビームを、異なる収束角でそれぞれ生成するとともに、生成された収束角毎のベッセルビームを、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせることにより、多重ビームを生成する。ビーム制限手段8は、サイドローブの発生に寄与するレーザ平行光束又は多重ビームの通過を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームの光学系として用いられる光学装置、レーザビームを発生させる光源装置、レーザビームにより加工を行うレーザ加工装置、レーザビームの光学素子として用いられる回折光学素子、データの記録、再生、及び消去のうちの少なくともいずれかを行うのに用いられる光ピックアップ、その光ピックアップを備える光ディスク装置及びレーザビームを用いて所定の処理を行うレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第1種0次ベッセル関数の2乗にほぼ比例する強度分布を有するベッセルビームは、スポット径を小さくして、なおかつ、焦点深度を大きくすることができる非回折性のレーザビームとして知られている。このため、金属等に高アスペクトな穴を加工するためのレーザビームとして、ベッセルビームの有効性が指摘されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、ベッセルビームには、その最大強度に対し最大16%もの強度を有するサイドローブが伴うので、これをこのまま加工に利用することは難しい。
【0003】
そこで、ベッセルビームのサイドローブを低減するため、異なる主ビーム半径を有する2つのベッセルビームをそれぞれのサイドローブが打ち消しあうように重ね合わせる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3553986号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】レーザ研究32(2004)pp.348−358「ナノ秒パルスベッセルビームを用いたレーザマイクロドリル」、松岡、河野ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法を用いても、サイドローブを最大でも6%程度までしか低減することができないうえに、無視できない大きさのサイドローブが複数存在する。このような状態では、高アスペクト比の穴をあけようとして大パワーのレーザビームを照射すると、サイドローブにより加工対象に損傷を与えてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、サイドローブがさらに低減された多重ビームを生成することができる光学装置、光源装置、レーザ加工装置、回折光学素子、光ピックアップ、光ディスク装置及びレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る光学装置は、
入射するレーザ平行光束に基づくレーザ光束を所定の収束角で光軸上に収束させることにより生成されるベッセルビームを、異なる前記収束角でそれぞれ生成するとともに、生成された前記収束角毎の前記ベッセルビームを、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせることにより、多重ビームを生成する多重ビーム生成手段と、
前記サイドローブの発生に寄与する前記レーザ平行光束又は前記多重ビームの通過を制限するビーム制限手段と、
を備える。
【0009】
この場合、前記収束角毎に生成される前記ベッセルビームの強度を調整する強度調整手段をさらに備える、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記収束角毎に生成される前記ベッセルビームの位相を調整する位相調整手段をさらに備える、
こととしてもよい。
【0011】
この場合、前記多重ビーム生成手段と、前記位相調整手段とは、同一の光学素子の出射面側と入射面側とにそれぞれ設けられている、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記多重ビーム生成手段は、
中心軸が前記光軸に一致し、かつ、頂角がそれぞれ異なる複数の円錐面を有し、
前記複数の円錐面により、前記レーザ平行光束を前記各頂角に対応する前記収束角で前記光軸に向かって屈折させて、前記レーザ光束を収束させる、
こととしてもよい。
【0013】
この場合、前記多重ビーム生成手段では、
前記複数の円錐面のいずれかが形成された複数の光学素子が前記光軸の方向に配置されている、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記多重ビーム生成手段は、
前記光軸に直交する方向に周期構造を有し、互いにブレーズ角が異なる環状の複数のブレーズ回折格子を有し、
前記複数のブレーズ回折格子により、前記レーザ平行光束を前記各ブレーズ角に対応する前記収束角で前記光軸に向かって屈折させて、前記レーザ光束を収束させる、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記ビーム制限手段は、
前記多重ビームの有効ビーム半径の5倍以上の外周領域を通る前記レーザ平行光束の成分の通過を制限する、
こととしてもよい。
【0016】
また、前記ビーム制限手段は、
前記多重ビーム生成手段から出射された前記多重ビームが入射する開口部と、
前記多重ビームにより前記開口部の開口像を結像させるアフォーカル光学系と、
を備える、
こととしてもよい。
【0017】
また、径が異なる複数の輪帯開口部を有するアパーチャ部と、
前記アパーチャ部を通過したレーザ光束を集光するレンズと、
を備え、
前記アパーチャ部及び前記レンズにより、前記多重ビーム生成手段が構成され、
前記アパーチャ部により、前記ビーム制限手段が構成されている、
こととしてもよい。
【0018】
本発明の第2の観点に係る光源装置は、
レーザ平行光束を発振するレーザ発振器と、
本発明の光学装置と、
を備える。
【0019】
この場合、前記レーザ発振器から出射された前記レーザ平行光束の径を拡大して前記光学装置に入射する拡大光学系をさらに備える、
こととしてもよい。
【0020】
本発明の第3の観点に係るレーザ加工装置は、
本発明の光学装置を備え、
前記光学装置から出射される多重ビームを用いて、加工対象物を加工する。
【0021】
本発明の第4の観点に係る回折光学素子は、
光軸に直交する方向に周期構造を有し、互いにブレーズ角が異なり、レーザ平行光束を前記各ブレーズ角に対応する収束角で前記光軸に向かって屈折させて、前記レーザ平行光束に基づくレーザ光束を収束させることにより生成されるベッセルビームを、異なる前記収束角でそれぞれ生成するとともに、生成された前記収束角毎の前記ベッセルビームを、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせることにより、多重ビームを生成する複数の環状のブレーズ回折格子が、前記レーザ光束の出射面に設けられている。
【0022】
この場合、前記レーザ平行光束の入射面に、前記収束角毎に生成される前記ベッセルビームの位相を調整する位相調整手段が設けられている、
こととしてもよい。
【0023】
本発明の第5の観点に係る光ピックアップは、
本発明の光学装置から出射される多重ビームを、情報記録媒体の記録面に照射する。
【0024】
本発明の第6の観点に係る光ディスク装置は、
本発明の光ピックアップと、
前記光ピックアップから出射される多重ビームを用いて、情報記録媒体に対する情報の記録、再生及び消去のうちの少なくとも1つを行なう処理装置と、
を備える。
【0025】
本発明の第7の観点に係るレーザ装置は、
本発明の光学装置から出射される多重ビームを用いて所定の処理を行う。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、入射するレーザ平行光束から生成される複数のベッセルビームの多重ビームのサイドローブの発生に寄与するレーザ光束の通過が、ビーム制限手段により制限されるので、多重ビームのサイドローブをさらに抑圧することができる。このため、サイドローブがさらに低減された多重ビームを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ加工装置の光学的な構成を示す模式図である。
【図2】−Z側から見た位相調整手段の外観図である。
【図3】−Z側から見た強度調整手段の外観図である。
【図4】−Z側から見たビーム制限手段の外観図である。
【図5】+Z側から見た多重ビーム生成手段の外観図である。
【図6】多重ビーム生成手段から出射されたレーザビームの詳細を示す模式図である。
【図7】第1のベッセルビームが生成される様子を説明するための図である。
【図8】第2のベッセルビームが生成される様子を説明するための図である。
【図9】アキシコンプリズムの拡大図である。
【図10】他の多重ビーム生成手段を示す図である。
【図11】ビーム制限手段がない場合に生成される第1のベッセルビームを示す図である。
【図12】ビーム制限手段がない場合に生成される第2のベッセルビームを示す図である。
【図13】第1のベッセルビームの強度分布を示すグラフである。
【図14】第2のベッセルビームの強度分布を示すグラフである。
【図15】ビーム制限手段がない場合に生成される第1のベッセルビームの強度分布を示すグラフである。
【図16】ビーム制限手段がない場合に生成される第2のベッセルビームの強度分布を示すグラフである。
【図17】多重ビームの強度分布(その1)を示すグラフである。
【図18】ビーム制限手段がないときの多重ビームの強度分布を示すグラフである。
【図19】多重ビームのビーム半径の伝播距離依存性(その1)を示すグラフである。
【図20】多重ビームの最大強度の伝播距離依存性(その1)を示すグラフである。
【図21】ガウシャンビームのビーム半径の変化(その1)を示すグラフである。
【図22】本発明の第2の実施形態に係るレーザ加工装置の光学的な構成を示す模式図である。
【図23】回折光学素子の拡大図である。
【図24】本発明の第3の実施形態に係るレーザ加工装置の光学的な構成を示す模式図である。
【図25】本発明の第4の実施形態に係るレーザ加工装置の光学的な構成を示す模式図である。
【図26】多重ビームの強度分布(その2)を示すグラフである。
【図27】多重ビームのビーム半径の伝播距離依存性(その2)を示すグラフである。
【図28】多重ビームの最大強度の伝播距離依存性(その2)を示すグラフである。
【図29】ガウシャンビームのビーム半径の変化(その2)を示すグラフである。
【図30】本発明の第5の実施形態に係るレーザ加工装置の光学的な構成を示す模式図である。
【図31】本発明の第6の実施形態に係る光ディスク装置を構成する光ピックアップの光学的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係るレーザ加工装置100は、レーザ発振器1、ビーム拡大光学系2及びビーム変換手段3を備える。
【0031】
レーザ発振器1は、波長λのレーザビームをパルス発振する。本実施形態では、レーザ発振器1から出射されるレーザビームの中心軸をZ軸にとり、レーザビームの進行方向をZ軸の正方向(+Z方向)として定義する。Z軸方向に出射されるレーザビームは、平行光束であり、いわゆるガウシァンビームである。
【0032】
ビーム拡大光学系2は、レーザ発振器1から出射されたレーザビーム(平行光)を入射し、そのレーザビームの径を大きくして出射する。ビーム拡大光学系2は、レンズ4、5を備える。レンズ4の焦点距離をf4とし、レンズ5の焦点距離をf5とする。この場合、レンズ4とレンズ5との間隔をf4+f5に設定する。f4<f5となっているので、レーザビームはその断面が拡大された平行光束としてビーム拡大光学系2から出射される。
【0033】
ビーム変換手段3は、ビーム拡大光学系2から出射されたレーザビーム(平行光束)を入射して、ベッセルビームの多重ビームに変換して出力する。ビーム変換手段3は、位相調整手段6、強度調整手段7、ビーム制限手段8及び多重ビーム生成手段9を備える。位相調整手段6、強度調整手段7、ビーム制限手段8及び多重ビーム生成手段9の光軸はZ軸に一致するように位置決めされている。
【0034】
位相調整手段6は、ビーム拡大光学系2から出射されたレーザビームの位相を調整する光学部材である。図2には、レーザ発振器1側から見た位相調整手段6が示されている。図1及び図2を総合して示すように、位相調整手段6は、略円板形状の透明部材である。
【0035】
位相調整手段6は、円形部6aとリング状部6bとを備えている。円形部6aは、円板状である。円形部6aの中心は、Z軸と一致している。図1に示すように、リング状部6bは、円形部6aの周囲に設置された円形部6aと同心の環状体である。円形部6a及びリング状部6bは、それぞれレーザビームを透過させるが、円形部6aとリング状部6bとは、厚さが異なっている。この厚さの違いにより、円形部6aを通過するレーザビームと、リング状部6bを通過するレーザビームとの間に位相差が生じる。
【0036】
強度調整手段7は、位相調整手段6から出射されたレーザビームの強度を調整する光学部材である。図3には、レーザ発振器1側から見た強度調整手段7が示されている。図1及び図3に示すように、強度調整手段7は、円板状の部材である。強度調整手段7は、円形部7aとリング状部7bとを備えている。
【0037】
円形部7aは、円板状である。円形部7aの中心は、Z軸と一致している。円形部7aは、Z軸方向に関して位相調整手段6の円形部6aと重なっている。したがって、位相調整手段6の円形部6aから出射されたレーザビームは、円形部7aに入射される。
【0038】
リング状部7bは、円形部7aの周囲に設置された円形部7aと同心円状の環状部である。リング状部7bは、Z軸方向に関して位相調整手段6のリング状部6bと重なっている。したがって、位相調整手段6のリング状部7aから出射されたレーザビームは、リング状部7aに入射される。
【0039】
円形部7aとリング状部7bとでは透過率が異なる。この透過率の違いにより、円形部7aから出射されるレーザビームと、リング状部7bから出射されるレーザビームとで、強度が異なるようになる。
【0040】
ビーム制限手段8は、強度調整手段7から出射されたレーザビームの一部を制限する光学部材である。図4には、−Z側から見たビーム制限手段8が示されている。図1及び図4に示すように、ビーム制限手段8は、略円板状である。
【0041】
ビーム制限手段8は、透過部8a、8bを有する。透過部8a、8bは、同心の環状体であり、透過部8a、8bを除くビーム制限手段8の他の部分は、遮光帯である。透過部8aは、Z軸方向に関して強度調整手段7の円形部7aの一部と重なっている。したがって、強度調整手段7の円形部7aから出射されたレーザビームは、透過部8aに入射し、その一部(環状の断面の内周縁部及び外周縁部)の通過が制限された状態で出射される。透過部8bは、Z軸方向に関して強度調整手段7のリング状部7bの一部と重なっている。したがって、強度調整手段7の円形部7bから出射されたレーザビームは、透過部8bに入射し、その一部(環状の断面の内周縁部及び外周縁部)の通過が制限された状態で、出射される。
【0042】
多重ビーム生成手段9は、ビーム制限手段8の透過部8a、8bから出射されたレーザビームを入射する。多重ビーム生成手段9では、レーザビームを入射する入射面が平面状となっている。図5には、+Z側から見た多重ビーム生成手段9が示されている。図1及び図5に総合して示すように、多重ビーム生成手段9のレーザビームの出射面には、円錐面9a、9bが設けられている。円錐面9a、9bは、それぞれZ軸(光軸)を中心対称軸とする円錐体の側面の一部である。円錐面9a、9bは、互いに頂角が異なる。S面は、円錐面9aの頂点を通過し、Z軸に直交する平面である。
【0043】
ビーム制限手段8の透過部8aから出射されたレーザビームは、−Z側から多重ビーム生成手段9の入射面に入射し、円錐面9aの傾きに対応した角度で、光軸(レーザビームの中心)方向(Z軸方向)に交差する方向に屈折して出射される。このレーザビームは、Z軸に関して軸対称なビームとなる。また、ビーム制限手段8の透過部8bから出射されたレーザビームは、−Z側から多重ビーム生成手段9の入射面に入射し、円錐面9bの傾きに対応した角度で、光軸(レーザビームの中心)方向(Z軸方向)に交差する方向に屈折して出射される。このレーザビームも、Z軸に関して軸対称なビームとなる。
【0044】
ここで、図6に示すように、円錐面9aから出射されたレーザビームを屈折波aとし、円錐面9bから出射されたレーザビームを屈折波bとする。Z軸とR面との交点を点Pとする。屈折波a、bは、点P付近で、Z軸と交差する。
【0045】
屈折波aの強度分布は、Z軸に直交するR面、点P付近で、第1種0次ベッセル関数の2乗にほぼ比例する強度分布となる。屈折波bの強度分布は、Z軸に直交するR面付近で、第1種0次ベッセル関数の2乗にほぼ比例する強度分布となる。すなわち、多重ビーム生成手段9は、図7に示すように、屈折波aに基づくベッセルビームa1(第1のベッセルビーム)と、図8に示すように、屈折波bに基づくベッセルビームb1(第2のベッセルビーム)との両方を生成する。θa、θbは、円錐面9a、9bから出射されたレーザビームの収束角である。
【0046】
レーザ加工装置100の光学系な構成についてまとめる。多重ビーム生成手段9は、円錐面9a、9bにより、そのレーザビームを所定の収束角θa、θbでZ軸上に収束させることにより、ベッセルビームa1、b1を生成する。すなわち、多重ビーム生成手段9は、ベッセルビームを異なる収束角θa、θbでそれぞれ生成する。さらに、多重ビーム生成手段9は、複数のベッセルビームa1、b1を、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせることにより、多重ビームを生成する。
【0047】
位相調整手段6は、ベッセルビームa1、b1の位相が、図6の点Pで一致するように、レーザ平行光束の各部の位相を調整する。これにより、屈折波a、bに位相差が生じる。すなわち、位相調整手段6は、収束角θa、θb毎に生成されるベッセルビームa1、b1の位相を調整する。
【0048】
強度調整手段7は、ベッセルビームa1、b1が、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように、レーザ平行光束の各部の強度を調整する。これにより、屈折波a、bに強度差が生じる。すなわち、強度調整手段7は、収束角θa、θb毎に生成されるベッセルビームa1、b1の強度を調整する。
【0049】
ビーム制限手段8は、多重ビーム生成手段9によって合成された多重ビームのサイドローブの発生に寄与するレーザ平行光束の通過を制限する。多重ビームのサイドローブの発生に寄与するのは、各ベッセルビームの断面における外周側のビーム成分である。このビーム成分を生成するのは、強度調整手段7の円形部7aから出射された断面環状のレーザビームのその断面の内周部及び外周部と、強度調整手段7の円形部7bから出射された断面環状のレーザビームのその断面の内周部及び外周部である。そこで、ビーム制限手段8は、これらの部分の通過を制限する。
【0050】
以上の構成要素を有するレーザ加工装置100は、R面に設置された加工対象物10の穴あけ加工を行う。加工対象物10にあけられる穴の径は、最終的に生成された多重ビームの径によって決まる。
【0051】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置100の動作について説明する。
【0052】
レーザ発振器1から出射されたレーザビームのビーム径は、ビーム拡大光学系2で、f5/f4倍に拡大された後、レーザ平行光束として、ビーム変換手段3に入射する。ビーム変換手段3に入射したレーザビームは、位相調整手段6で位相が調整され、強度調整手段7で強度が調整されて、ビーム制限手段8に入射される。
【0053】
ビーム制限手段8は、入射したレーザビームの一部を制限し、透過部8aを通過した断面が環状のレーザビームと、透過部8bを通過した断面が環状のレーザビームとに分割する。透過部8aを通過したレーザビームは、多重ビーム生成手段9に入射し、円錐面9aでZ軸側に屈折され、点P近傍で、ベッセルビームa1を形成する。透過部8bを通過したレーザビームは、多重ビーム生成手段9に入射し、円錐面9bでZ軸側に屈折され、点P近傍で、ベッセルビームb1を形成する。これらベッセルビームa1、b1が干渉することにより、多重ビームが形成され、この多重ビームにより、R面に設置された加工対象物10の穴あけ加工が行われる。ベッセルビームa1、b1の重ね合わせや、ビーム制限手段8による多重ビームのサイドローブの低減により、アスペクト比の高い穴をあけることができる。
【0054】
ここで、多重ビーム生成手段9によるベッセルビームの生成原理をより明らかにすべく、まず、アキシコンプリズムによるベッセルビームの生成方法について説明する。
【0055】
図9には、アキシコンプリズム11が示されている。図9に示すように、アキシコンプリズム11は、入射面が平面となっており、出射面が円錐面となっている。アキシコンプリズム11の入射面には、平行光束(平面波)が入射する。この平面波は、円錐面で屈折され、屈折波となってZ軸と交差する。
【0056】
一般に、この屈折波が十分な幅を有するとき、その屈折波がZ軸と交差する付近(図9でハッチングされた部分)では、屈折波の干渉により、ベッセルビームが生成される。なお、このベッセルビームの生成についての参考文献としては、例えば以下のものがある。
BesselBeams:diffraction in a new Light, D.Mcglpon and K.Dholakia, Comtemporary Physics, Vol.46, No.12005pp.15-28
【0057】
光軸(Z軸)からの距離をrとしたときのベッセルビームの振幅u(r)は次式で与えられる。
【数1】



ここで、Aは、レーザビームの振幅である。また、kr、kzは、レーザビームのr方向、z方向の波数である。屈折波がz軸となす角(以下では、「収束角」と呼ぶ)をθとし、レーザビームの波数をk=2π/λとすると、kr、kzは、次式のようになる。
【数2】



このベッセルビームの強度分布I(r)は、次式のように、u(r)の絶対値の2乗で与えられる。
【数3】



上記(3)式からも明らかなように、このベッセルビームは、その伝播に伴ってそのビーム形状を変化させることはない。
【0058】
図10には、ビーム変換手段3の構成要素のうち、位相調整手段6及び多重ビーム生成手段9だけを抜き出して構成したビーム変換手段13が示されている。
【0059】
図10に示すように、ビーム変換手段13には、ビーム制限手段8が設けられておらず、平行平面波であるレーザビームは、制限されることなくそのまま多重ビーム生成手段9に入射するので、多重ビーム生成手段9から出射される屈折波a、bの幅は、ベッセルビームを発生させるのに十分に大きいものとみなすことができる。
【0060】
多重ビーム生成手段9は、アキシコンプリズム11と同様に、円錐面(具体的には円錐面9a、9b)を有している。平面波を入射すると、円錐面9aから出射した屈折波aによって、図11に示すように、ベッセルビームa2が生成され、円錐面9bから出射した屈折波bによって、図12に示すように、ベッセルビームb2が生成される。なお、ここでは、ビーム制限手段8により、レーザビームの制限が考慮されていないので、これらのベッセルビームをそれぞれベッセルビームa2、b2と呼ぶ。
【0061】
加工対象物10の表面付近のレーザビームの振幅u(r)は、収束角の異なる2つの屈折波a、bによりそれぞれ発生する2つのベッセルビームa2、b2の重ね合わせであり、次式で与えられる。
【数4】



ここで、zは、多重ビーム生成手段9の頂点から加工対象物10の表面付近の点Pまでの距離である。また、kra、krb、kza、kzbは、屈折波a、bのr方向、z方向の波数である。屈折波a、bの収束角を、θa、θbとすると、波数kra、krb、kza、kzbは、以下の(5)式、(6)式で与えられる。
【数5】



また、A、Bは、複素係数である。
【0062】
ここで、上記(4)式のExp(ikzaz)、Exp(ikzbz)で表されるレーザビームの位相が、S面からの距離がzである点Pで一致するように、位相調整手段6によって生ずる位相差を設定する。このとき、第1項と第2項に共通の位相因子を無視すると、上記(4)式は、次式で表される。
【数6】



ここで、係数A’、B’は実数である。このとき、点PでA’、B’は実数となるが、A’、B’には、それぞれExp(ikzaz)、Exp(ikzbz)で示されるz依存性が存在するので、そこからz方向にずれた位置では2つの擬似的なベッセルビームa2、b2の相対位相がずれてビーム形状が変化する。この変化は周期的であり、その周期は、
【数7】



となる。波数kzaと波数kzbとの差が小さい場合には、周期が大きくなり、ビーム形状が広い範囲にわたり保たれる。
【0063】
なお、上記(4)式のExp(ikzaz)、Exp(ikzbz)で表される位相が点Pで一致するように、S面から点Pまでの距離zを予め選んでおけば、位相調整手段6を設けなくてもよいが、位相調整手段6を設けておけば、S面から点Pまでの距離を自由に設定することができるという利点がある。
【0064】
このように、2つのベッセルビームの相対位相がずれても、Z軸方向に2π/(kza−kzb)だけずれた位置では、相対位相のずれが2πの整数倍となり、ビーム形状が回復する。本実施形態では、ビーム制限手段8が設けられているため、点P以外の相対位相の一致点で収束波が存在しない可能性が高くなるので、位相調整手段6の必要性が増す。
【0065】
しかしながら、前述のように、ビーム変換手段3には、ビーム制限手段8が設けられている。ビーム制限手段8が設けられている場合、多重ビーム生成手段9の頂点からzの距離にあるZ軸に垂直な面(R面)での振幅分布u(r)は、次式のように、それぞれ屈折波a、bに起因する項ua(r)、ub(r)の重ね合わせとなる。
【数8】



a(r)、ub(r)を解析的に求めることは困難であるが、フレネル近似による数値計算で求めることができる。アキシコンプリズムの頂角が十分小さいとすると、ua(r)、ub(r)は、定数因子を除いて次式で与えられる。
【数9】



ここで,r’は、S面上での動径(原点からの距離)であり、rは、R面上での動径である。ra、rbは、それぞれ、ビーム中心(円錐の頂点)から、ビーム制限手段8の透過部8a、8bのS面における幾何光学的投影像の中央までの距離である。また、da、dbは、S面における透過部8a、8bの幾何光学的像の幅の1/2である。
【0066】
a(r’)、hb(r’)は、円錐面9a、9bでのレーザビームの位相ずれを表している。レーザビームの強度は振幅の絶対値の2乗で表されるので、ua(r)+ub(r)、ua(r)、ub(r)に対応する強度分布I(r)、I(r)、Ib(r)は、(13)式、(14)式、(15)式で表される。
【数10】



また、屈折波a、bの収束角θa(r)、θb(r)は、次式のようになる。
【数11】



これらの式を用いて、レーザ発振器1に、炭酸ガスレーザを用いた場合について数値計算する。λ=9.6μm、ra=828.5m、rb=1471.8μm、da=db=200μm、z=20mmとすると、屈折波a、bの収束角θa、θbは、それぞれθa=0.04140rad、θb=0.07346radとなる。
【0067】
これらの値を、上記(14)式、上記(15)式に入力すると、加工対象物10の表面での屈折波a、bに対応する2つのベッセルビームa1、b1の強度分布が求められる。
【0068】
図13に、このようにして求められたベッセルビームa1の強度分布|ua(r)|2/|ua(0)|2が示されている。また、図14に、同様にして求められたベッセルビームb1の強度分布|ub(r)|2/|ub(0)|2が示されている。このように、ベッセルビームa1、b1の強度分布は、ビーム中央最大値で規格化されている。
【0069】
一方、図15、図16には、ベッセルビームa1、b1と同一の収束角を有し、ビーム変換手段3をビーム変換手段13に置き換えた場合に生成されるベッセルビームa2、b2の強度分布が示されている。ベッセルビームa2、b2の強度分布は、上記(3)式から求められる。ベッセルビームa2、b2の強度分布についても、図13、図14と同様に、ビーム中央最大値で規格化されている。
【0070】
図13及び図14と、図15及び図16とを比較するとわかるように、ベッセルビームa1、b1は、中央ではベッセルビームa2、b2とよく一致するが、周辺ではベッセルビームに比べてビーム強度が低下している。これは、ビーム変換手段3では、ビーム制限手段8により、屈折波a、bの一部が遮断されているためである。
【0071】
2つのベッセルビームa1、b1を重ね合わせた多重ビームの振幅分布u(r)は、定数因子を除くと、次式で表される。
【数12】



ここで、Caは、定数である。この定数を2つのベッセルビームa1、b1のサイドローブが互いに打ち消しあうように定める。図17には、Ca=0.434としたときの多重ビームの強度分布が示されている。図17に示すように、合成されたベッセルビームa1、b1のサイドローブの強度は、主ビームの4%以下となる。
【0072】
強度調整手段7は、この定数Caを設定するためのものである。すなわち、強度調整手段7によるレーザビームの強度調整により、Caが決まる。位相調整手段6は、上述したように、z=20mmの点Pでベッセルビームの位相を一致させるように、屈折波a、bの位相を調整する。
【0073】
これに対して、図18には、ビーム変換手段13を除いた場合に生成されるベッセルビームa2、b2の多重ビームの強度分布が示されている。
【0074】
図18に示すように、この多重ビームには、6%程度のサイドローブが発生する。このサイドローブは、ビーム変換手段3を用いた場合に、ビーム制限手段8によってレーザビームの中心から離れた領域の成分が遮断されることにより、抑制されていたものである。図17及び図18を比較するとわかるように、ビーム制限手段8が、中央から離れた位置に出現するサイドローブを抑制する効果を呈することが明らかである。
【0075】
ビーム制限手段8が設けられていなくても、2つのベッセルビームa2、b2それぞれのサイドローブを、広い範囲に渡って互いに打ち消しあうようにベッセルビームa2、b2の強度割合を設定することは可能である。しかしながら、広い領域のすべてでベッセルビームa2、b2のサイドローブが完全に打ち消しあうような条件を見つけるのは、極めて困難であり、ビーム制限手段8によってビーム幅を制限し、狭い領域でのみサイドローブが打ち消しあうようにすれば、サイドローブの低減が、著しく容易になる。
【0076】
ビーム制限手段8によって許容されたビーム存在領域の広さと、サイドローブの抑制効果とはトレードオフの関係にある。本実施形態では、多重ビームの有効ビーム半径(約40μm程度、加工対象物10の加工穴の半径にほぼ一致する)に対して、その約5倍(200μm)以上の領域をビーム制限手段8の制限領域とした。これよりも広い範囲にすると図18に示される6%のサイドローブの影響がでてくるためである。
【0077】
次に、生成されたベッセルビームa1、b1の多重ビームの特性について、さらに、図19、図20を参照して説明する。図19には、多重ビームのビーム半径の伝播距離依存性が示され、図20には、多重ビームの最大強度の伝播距離依存性が示されている。
【0078】
ここで、ビーム半径とは、後述するガウシャンビームと比較するため強度が最大値の1/e2になる半径(1/e2半径)のことである。図19に示すグラフは、伝播距離z=20mm(20000μm)におけるビーム半径を基準とし、それを1としたときの伝播距離に対するビーム半径の変化を示したものである。なお、基準となるz=20mm(点P)における1/e2半径は44μmである。
【0079】
図20に示すグラフは、伝播距離z=20mm(点P)における強度を基準とし、それを1としたときの伝播距離に対するビーム強度の変化を示したものである。
【0080】
図19、図20に示すように、z=19400〜20350μmの範囲で、強度変化が10%以内となっており、ビーム半径の変化が2%以内となっている。
【0081】
この特性を最も一般的なガウシャンビームと比較する。ガウシャンビームは位相因子を無視した振幅分布u(r)、強度分布I(r)が、それぞれ(18)式、(19)式で与えられるビームである。
【数13】



ここで、上記(20)式で与えられるw(z)は、1/e2半径であり、w0はビームが最も細くなるところでの1/e2半径である。また、zは、レーザビームが最も小さくなる点からの伝播距離である。
【0082】
図21には、(20)式を用いてガウシャンビームのビーム半径の変化の様子が示されている。図19と比較するため、w0=44μmとし、z=20mmの地点でビーム半径が最も細くなるようにした。図19と図21とを比較すると、ガウシァンビームよりも、本実施形態に係る多重ビームの方が、広い範囲にわたってビーム強度とビーム半径とが保たれているのがわかる。この特性により、本実施形態の多重ビームは、高アスペクト比の穴の加工に好適となる。
【0083】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0084】
図22には、本実施形態に係るレーザ加工装置100の構成が示されている。図22に示すように、本実施形態に係るレーザ加工装置100は、位置調整手段6及び多重ビーム生成手段9の代わりに、回折光学素子18を備える点が、上記第1の実施形態と異なっている。回折光学素子18は、ブレーズ回折格子を有する回折光学素子である。
【0085】
より具体的には、図23に示すように、回折光学素子18は、ブレーズ回折格子が設けられた輪帯部18a、18bを有している。輪帯部18a、18bは、Z軸に直交する方向に周期構造を有し、互いにブレーズ角が異なる複数の環状のブレーズ回折格子である。輪帯部18a、18bは、それぞれブレーズ角が異なる。輪帯部18a、18bは、それぞれ多重ビーム生成手段9の円錐面9a、9bと同様の機能を発揮する。輪帯部18a、18bにより、レーザ平行光束を、各ブレーズ角に対応する収束角θa、θbでZ軸に向かって屈折させて、レーザビームを収束させる。これにより、上記第1の実施形態と同様に、ベッセルビームa1、b1が、異なる前記収束角でそれぞれ生成され、生成された収束角θa、θb毎のベッセルビームが、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせられ、多重ビームが生成される。
【0086】
また、レーザビームの入射面には、表面の回折光学素子の中心と同心の平面状の輪帯部18cと、円形の凹部18dとが形成されている。輪帯部18cに対する凹部18dの深さを調整することにより、屈折波a、bの位相差を調整することができる。すなわち、本実施形態では、多重ビーム生成手段は、回折光学素子18の出射面側に形成され、位相調整手段は、回折光学素子18の入射面側に形成されている。
【0087】
このように、位相調整手段6及び多重ビーム生成手段9を、1枚の回折光学素子18に代えれば、各光学素子のアラインメントが容易となる。この結果、光路の揺らぎなどの影響を抑え、光学的な安定性を高めることができる。また、ブレーズ型の回折光学素子18は、多重ビーム生成手段9よりも薄くすることができるので、装置全体を小型化することができる。
【0088】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0089】
図24には、本実施形態に係るレーザ加工装置100の構成の一部が示されている。図24に示すように、本実施形態に係るレーザ加工装置100は、ビーム制限手段8の代わりに、ビーム制限手段19を備える点が、上記第1の実施形態と異なっている。ビーム制限手段19は、多重ビーム生成手段9の後段に設けられている。
【0090】
図24に示すように、ビーム制限手段19は、アパーチャ20、レンズ21、22を備える。アパーチャ20は、多重ビーム生成手段9から出射された多重ビームが通過する開口部を有する。レンズ21、22の焦点距離は、互いにfであり、同一である。また、レンズ21、22は、それらの間隔が2fとなるように設置される。さらに、アパーチャ20とレンズ21との距離は、fとなるように設置される。また、レンズ22と加工対象物10との距離はfとなるように設置される。
【0091】
ビーム制限手段19は、アパーチャ20の開口像を結像させるアフォーカル光学系である。このようにすると、アパーチャ20の像がビーム制限手段19により、加工対象物10の表面に倍率1で結像するようになる。このアパーチャ20により、加工中心から離れた位置のビーム成分が遮断され、その通過が制限されるので、加工対象物10の表面に、到達する多重ビームは、加工位置近傍のみ強度を有するスポット光となる。
【0092】
なお、ここではレンズ21、22の焦点距離を同一のfとしたが、それぞれ異なる焦点距離を有するものを採用することもできる。ここで、レンズ21、22各々の焦点距離をf21、f22とする。この場合には、レンズ21、22の距離をf21とf22との和となるように両レンズ21、22を設置すれば、レンズ21、22による倍率は、f22/f21となる。
【0093】
したがって、アパーチャ20の像が加工対象物10の表面で結像するようにアパーチャ20、加工対象物10、レンズ21、22の位置関係を調整した上でアパーチャ20の開口径を加工対象物10の表面で制限したいビームの径のf21/f22倍にすれば、所望の径の穴を加工対象物10に開けることができる。
【0094】
また、f21>f22とするとアパーチャ20の開口径を大きくとることができるので、ビーム強度が大きい場合にも、アパーチャ20の損傷を防止することができる。
【0095】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0096】
図25には、本実施形態に係るレーザ加工装置100の構成が示されている。本実施形態に係るレーザ加工装置100は、ビーム変換手段3の代わりに、ビーム変換手段31を備えている点が、上記第1の実施形態と異なる。
【0097】
ビーム変換手段31は、位相調整手段32、強度調整手段33、ビーム制限手段34及び多重ビーム生成手段35を備える。
【0098】
位相調整手段32は、上記第1の実施形態に係る位相調整手段6と同様に、入射したレーザビームの位相を調整する。ただし、位相調整手段6が、レーザビームの位相を、2段階に調整しているのに対し、位相調整手段32は、レーザビームの位相を3段階に調整する。
【0099】
強度調整手段33は、上記第1の実施形態に係る強度調整手段7と同様に、レーザビームの強度を調整する。ただし、強度調整手段7が、レーザビームの位相を、2段階に調整しているのに対し、強度調整手段33は、位相調整手段32によって位相が3段階に調整された各レーザビームの強度を3段階に調整する。
【0100】
ビーム制限手段34は、上記第1の実施形態に係るビーム制限手段8と同様に、レーザビームの一部を制限する。ただし、ビーム制限手段8が、レーザビームを2つに分割し、2つのレーザビームの一部を制限しているのに対し、ビーム制限手段34は、3重の環状の透過部34a、34b、34cを有し、レーザビームを断面が環状の3つのレーザビームに分割し、それらの3つのレーザビームの一部を制限する。
【0101】
多重ビーム生成手段35は、上記第1の実施形態に係る多重ビーム生成手段9と同様に、入射したレーザビームに基づいて複数のベッセルビームを生成する。生成された複数のベッセルビームが干渉することにより、多重ビームが生成される。多重ビーム生成手段35は、3つの異なる頂角を有し、中心対称軸が同軸の円錐面35a、35b、35cを有する。円錐面35aは、円錐面35bに接しており、円錐面35bは、円錐面35cに接している。
【0102】
多重ビーム生成手段35は、実際には、光学素子36、37、38がZ軸上に配置されることにより構成されている。光学素子36に円錐面35aが設けられ、光学素子37に円錐面35bが設けられ、光学素子38に円錐面35cが設けられている。
【0103】
ビーム制限手段34から出射されたレーザビームは、−Z側から多重ビーム生成手段35の入射面に入射し、円錐面35a、35b、35c各々の傾きに対応した収束角θa、θb、θcで、光軸(レーザビームの中心)方向(Z軸方向)に交差する方向に屈折して出射される。円錐面35a、35b、35cから出射されるレーザビームを、それぞれ屈折波a、b、cと呼ぶ。屈折波a、b、cの振幅は、上記第1の実施形態と同様に、以下の(21)〜(26)式で与えられる。
【数14】


【0104】
ここで、r’は、S面上での動径であり、rは、R面上での動径である。ra、rb、rcは、それぞれ、ビーム中心(円錐の頂点)から、S面におけるビーム制限手段34の透過部34a、34b、34cの幾何光学的投影像の中央までの距離である。また、da、db、dcは、それぞれ、S面における透過部34a、34b、34cの幾何光学的像の幅の1/2である。ha(r’)、hb(r’)、hc(r’)は、屈折波a、b、cの位相ずれを表している。
【0105】
レーザビームの強度は振幅の絶対値の2乗で表されるので、多重ビームua(r)、ub(r)、uc(r)の和のビーム強度は次式で表される。
【数15】



3つのベッセルビームを重ね合わせたビームの振幅分布は、定数因子を除いて次式で表される。
【数16】



ここで、ca、cbは、定数である。この定数ca、cbを、3つのビームのサイドローブが互いに打ち消しあうように定める。例えば、λ=9.6μm、ra=645μm、rb=1343μm、rc=2060μm、da=db=dc=200μm、z=20mmとすると、屈折波a、b、cの収束角θa(r)、θb(r)、θc(r)を、次式より求めることができる。
【数17】



ここで、θa=0.03223rad、θb=0.06707rad、θc=0.1026radとなる。θa=0.2236、θb=0.3662とすると、図26に示すように、多重ビームのサイドローブの強度は、主ビームの1.2%以下となる。強度調整手段33はこの係数ca、cbを設定するためのものである。
【0106】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置100により達成されたレーザビームの特性について、図27、図28を参照して説明する。図27には、ビーム半径の伝播距離依存性が示され、図28には最大強度の伝播距離依存性が示されている。図27に示すグラフは、ビーム半径とは、ガウシャンビームと比較するため強度が最大値の1/e2になる半径(1/e2半径)をz=20mmにおける半径を基準として計算したものである。基準となるz=20mmにおける1/e2半径は35.4μmであった。図28では、レーザビームの強度は、z=20mmの強度を基準として示している。図27、図28に示すように、z=19730μm〜20200μmの範囲で、多重ビームの強度の変化が10%以内、多重ビームのビーム半径の変化が2%以内となっている。
【0107】
この多重ビームの特性を、一般的なガウシャンビームと比較する。図29には、(19)式を用いてガウシャンビームのビーム半径の変化のシミュレーション結果が示されている。図29では、図27と比較するため、w0=35.4μmとし、z=20mmの点でビーム半径が最も細くなるようにした。
【0108】
図27及び図29を比較すると明らかなように、本実施形態に係る多重ビームの方が、広い範囲にわたって強度と半径を保っているのがわかる。また、多重ビームでは、サイドローブの強度が、主ビームの1.2%以下となっている。これにより、本実施形態に係るレーザ加工装置100により生成される多重ビームは、高アスペクト比の穴加工により好適となる。
【0109】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
【0110】
本実施形態に係るレーザ加工装置100は、ビーム変換手段3の代わりに、図30に示すビーム変換手段61を備える点が、上記第1の実施形態に係るレーザ加工装置100と異なっている。
【0111】
図30に示すように、ビーム変換手段61は、強度調整手段62及び多重ビーム生成手段63を備える。強度調整手段62は、上記第1の実施形態に係る強度調整手段7と同じ機能を有する。多重ビーム生成手段63は、マスク64及びレンズ65を備える。マスク64は、径の異なる2つの細い輪帯アパーチャ64a、64bを有する。
【0112】
輪帯アパーチャ64a、64bをそれぞれ通過したレーザビームは、レンズ65の集光点付近にベッセルビームa3、ベッセルビームb3を発生させる(例えば、久保田広著、「波動光学」p.279参照;岩波書店、他)。
【0113】
輪帯アパーチャ64a、64bの開口幅を、極端に細くする必要はない。むしろ、輪帯アパーチャ64a、64bの開口部の幅を適当に選ぶことによって、回折の原理により、加工対象物10に当接する多重ビームのビーム幅を制御することができる(幅を大きくとると加工部のビーム幅は小さくなる)。すなわち、マスク64は、ビーム制限手段としても機能する。また、ビーム幅を大きくとるということは入射ビームの利用効率が良くなるという点において好ましい。
【0114】
なお、レンズ65は、平行光束のレーザビームを入射して、後側焦点位置に集光させるので、レンズ65に入射するレーザビームを絞るマスク64と、レンズ65との相対位置関係を厳密に規定する必要はない。すなわち、マスク64は、例えばレンズ65の前側焦点位置に配置するなどの正確な位置決めをする必要はない。
【0115】
本実施形態によれば、レンズ65の集光位置においては輪帯アパーチャ64a、64b各々の透過光の位相が一致するため、位相調整手段6が不要になる。ただし、強度調整手段62で位相差が発生しない場合に限る。また、複数のアキシコンプリズム等の位置合わせが不要となるので、ベッセルビームの多重化がより容易になる。
【0116】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
【0117】
上記各実施形態では、レーザ加工装置100について説明したが、本実施形態では、光ディスク装置に本発明を適用する場合について説明する。
【0118】
図31には、本実施形態に係る光ディスク装置102の光学的な構成が示されている。図31に示すように、光ディスク装置102は、光ピックアップ101と、再生部90とを備える。
【0119】
光ピックアップ101は、半導体レーザ71、コリメータレンズ72、整形プリズム73、回折格子74、アパーチャ75、偏光ビームスプリッタ76、1/4波長板77、対物レンズ78、アクチュエータ79及び信号検出部80を備える。
【0120】
半導体レーザ71から出射されたレーザビームは、コリメータレンズ72で平行光束に変換され、整形プリズム73で断面が円形に整形される。整形プリズム73から出射されたレーザビームは、回折格子74を通過した後、アパーチャ75により、断面が2重輪帯状のレーザビームに変換される。本実施形態では、このアパーチャ75が、上記第5の実施形態に係るマスク64に対応する。
【0121】
アパーチャ75から出射された断面2重輪帯状のレーザビームは、偏光ビームスプリッタ76、1/4波長板77を経て、対物レンズ78により、ディスク81の表面に集光する。本実施形態では、この対物レンズ78が、上記第5の実施形態に係るレンズ65に対応する。
【0122】
この集光によりディスク81の表面に生成されるビームスポットは、2重輪帯状のレーザビーム各々によって生成されるベッセルビームの多重ビームに基づくものである。すなわち、ディスク81の表面に、スポット径が小さく、かつ、焦点深度の大きいビームスポットが形成される。
【0123】
アクチュエータ79は、レーザビームがディスク81の表面に集光するように対物レンズ78の光軸方向の位置を制御している。
【0124】
ディスク81の表面で反射され、ディスク81に記録された情報を含んだ反射ビームは、対物レンズ78、1/4波長板77を逆行し、偏光方向が変化しているため偏光ビームスプリッタ76で反射され、信号検出部80に導かれる。信号検出部80は、この反射ビームの検出結果に対応する信号、すなわちディスク81に記録された情報を含んだ信号を検出する。
【0125】
再生部90は、信号検出部80で検出された信号に基づいて、ディスク81に記録された情報を再生する。
【0126】
本実施形態では、アパーチャ75と対物レンズ78の組み合わせにより生成される2重のベッセルビームの多重ビームにより、焦点深度の大きいビームスポットを形成しているので、アクチュエータ79による対物レンズ78のフォーカス合わせが容易になるという利点がある。
【0127】
本実施形態では、多重ビームのサイドローブが抑制されているため、信号検出部80により検出される信号に含まれるノイズ成分を低減することができる。この結果、情報の再生品質が向上する。
【0128】
なお、本実施形態では、光ピックアップ101に、強度調整手段が組み込まれていない。強度調整手段を組み込まなくても、アパーチャ75の輪帯の幅を調節することにより、ベッセルビームの強度比を調節できるからである。このことは、上記第5の実施形態に係るレーザ加工装置100についても同様である。強度調整手段を設けると、強度比の調整を広い範囲で行うことができるが、多少の調整であればアパーチャ75の輪帯の幅を変えることにより、対応可能である。
【0129】
なお、本実施形態は、光ディスク装置102は、情報を再生を行う装置であったが、本発明は、情報の記録又は消去を行う光ディスク装置にも適用可能である。すなわち、本発明は、情報の再生、記憶及び消去の少なくとも1つを行う光ディスク装置に適用可能である。
【0130】
なお、上記各実施形態では、加工対象物10への穴あけを行うレーザ加工装置や、光ピックアップに本発明を適用する場合について説明したが、本発明はこれには限られない。本発明は、スポット径を小さくして、なおかつ、焦点深度を大きくするのが望ましいあらゆるレーザ装置に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、レーザ加工装置など、レーザを用いて所定の処理を行うレーザ装置に好適である。
【符号の説明】
【0132】
1 レーザ発振器
2 ビーム拡大光学系
3 ビーム変換手段
4、5 レンズ
6 位相調整手段
6a 円形部
6b リング状部
7 強度調整手段
7a 円形部
7b リング状部
8 ビーム制限手段
8a、8b 透過部
9 多重ビーム生成手段
9a、9b 円錐面
10 加工対象物
11 アキシコンプリズム
13 ビーム変換手段
18 回折光学素子
18a、18b、18c 輪帯部
18d 凹部
19 ビーム制限手段
20 アパーチャ
21、22 レンズ
31 ビーム変換手段
32 位相調整手段
33 強度調整手段
34 ビーム制限手段
34a、34b、34c 透過部
35 多重ビーム生成手段
35a、35b、35c 円錐面
36、37、38 光学素子
61 ビーム変換手段
62 強度調整手段
63 多重ビーム生成手段
64 マスク
64a、64b 輪帯アパーチャ
65 レンズ
71 半導体レーザ
72 コリメータレンズ
73 整形プリズム
74 回折格子
75 アパーチャ
76 偏光ビームスプリッタ
77 1/4波長板
78 対物レンズ
79 アクチュエータ
80 信号検出部
81 ディスク
90 再生部
100 レーザ加工装置
101 光ピックアップ
102 光ディスク装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射するレーザ平行光束に基づくレーザ光束を所定の収束角で光軸上に収束させることにより生成されるベッセルビームを、異なる前記収束角でそれぞれ生成するとともに、生成された前記収束角毎の前記ベッセルビームを、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせることにより、多重ビームを生成する多重ビーム生成手段と、
前記サイドローブの発生に寄与する前記レーザ平行光束又は前記多重ビームの通過を制限するビーム制限手段と、
を備える光学装置。
【請求項2】
前記収束角毎に生成される前記ベッセルビームの強度を調整する強度調整手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記収束角毎に生成される前記ベッセルビームの位相を調整する位相調整手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記多重ビーム生成手段と、前記位相調整手段とは、同一の光学素子の出射面側と入射面側とにそれぞれ設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載の光学装置。
【請求項5】
前記多重ビーム生成手段は、
中心軸が前記光軸に一致し、かつ、頂角がそれぞれ異なる複数の円錐面を有し、
前記複数の円錐面により、前記レーザ平行光束を前記各頂角に対応する前記収束角で前記光軸に向かって屈折させて、前記レーザ光束を収束させる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項6】
前記多重ビーム生成手段では、
前記複数の円錐面のいずれかが形成された複数の光学素子が前記光軸の方向に配置されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記多重ビーム生成手段は、
前記光軸に直交する方向に周期構造を有し、互いにブレーズ角が異なる環状の複数のブレーズ回折格子を有し、
前記複数のブレーズ回折格子により、前記レーザ平行光束を前記各ブレーズ角に対応する前記収束角で前記光軸に向かって屈折させて、前記レーザ光束を収束させる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項8】
前記ビーム制限手段は、
前記多重ビームの有効ビーム半径の5倍以上の外周領域を通る前記レーザ平行光束の成分の通過を制限する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記ビーム制限手段は、
前記多重ビーム生成手段から出射された前記多重ビームが入射する開口部と、
前記多重ビームにより前記開口部の開口像を結像させるアフォーカル光学系と、
を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項10】
径が異なる複数の輪帯開口部を有するアパーチャ部と、
前記アパーチャ部を通過したレーザ光束を集光するレンズと、
を備え、
前記アパーチャ部及び前記レンズにより、前記多重ビーム生成手段が構成され、
前記アパーチャ部により、前記ビーム制限手段が構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学装置。
【請求項11】
レーザ平行光束を発振するレーザ発振器と、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光学装置と、
を備える光源装置。
【請求項12】
前記レーザ発振器から出射された前記レーザ平行光束の径を拡大して前記光学装置に入射する拡大光学系をさらに備える、
ことを特徴とする請求項11に記載の光源装置。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光学装置を備え、
前記光学装置から出射される多重ビームを用いて、加工対象物を加工するレーザ加工装置。
【請求項14】
光軸に直交する方向に周期構造を有し、互いにブレーズ角が異なり、レーザ平行光束を前記各ブレーズ角に対応する収束角で前記光軸に向かって屈折させて、前記レーザ平行光束に基づくレーザ光束を収束させることにより生成されるベッセルビームを、異なる前記収束角でそれぞれ生成するとともに、生成された前記収束角毎の前記ベッセルビームを、それぞれのサイドローブが互いに打ち消し合うように重ね合わせることにより、多重ビームを生成する複数の環状のブレーズ回折格子が、前記レーザ光束の出射面に設けられている回折光学素子。
【請求項15】
前記レーザ平行光束の入射面に、前記収束角毎に生成される前記ベッセルビームの位相を調整する位相調整手段が設けられている、
ことを特徴とする請求項14に記載の回折光学素子。
【請求項16】
請求項10に記載の光学装置から出射される多重ビームを、情報記録媒体の記録面に照射する光ピックアップ。
【請求項17】
請求項16に記載の光ピックアップと、
前記光ピックアップから出射される多重ビームを用いて、情報記録媒体に対する情報の記録、再生及び消去のうちの少なくとも1つを行なう処理装置と、
を備える光ディスク装置。
【請求項18】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光学装置から出射される多重ビームを用いて所定の処理を行うレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2011−170052(P2011−170052A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33013(P2010−33013)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】