説明

光学補償部材及び液晶表示装置、並びに、配向膜用組成物及び配向膜

【課題】 例えば、バックライト装置から出射される近赤外光によって引き起こされる、リモートコントローラの感度低下や誤動作の防止に適用可能な、光学フィルタとしての機能を有する光学補償部材、及びこれを備えた液晶表示装置、並びに、その材料及び構成部材としての配向膜用組成物及び配向膜を提供すること。
【解決手段】 液晶表示パネル20において、液晶層1と、液晶層1を挟んで対向する透明基板2a、2bによって液晶セルを形成し、透明基板の外面側に、光学補償フィルム10a、10b、偏光板3a、3bを配置する。本発明に基づく特徴として、光学補償フィルム10a、10bを、それぞれ、面方向に異方性をもつ位相差フィルム11a、11b、近赤外線吸収材料含有配光膜12a、12b、液晶性分子からなり、厚さ方向に異方性をもつ光学異方性層13a、13bで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタとしての機能を有する光学補償部材、及びこれを備えた液晶表示装置、並びに、その材料及び構成部材としての配向膜用組成物及び配向膜に関するものであり、例えば、バックライト装置から出射される近赤外線によって引き起こされる、リモートコントローラの感度低下や誤動作の防止に適用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
今日、画像表示装置として、ブラウン管表示装置、プラズマ表示装置、および液晶表示装置など、様々な表示方法を用いる画像表示装置が普及している。これらの画像表示装置のほぼ全ての機種に、画像表示装置本体の動作を近赤外線通信を利用して制御する遠隔操作装置、すなわちリモートコントローラが備えられている。
【0003】
図8は、一般的なリモートコントローラにおいて用いられている信号光(以下、リモコン信号光と略称する。)の強度の波長分布と、受光部の感度の波長依存性(感度曲線)とを示すグラフである。図8に示すように、リモコン信号光としては、中心波長が940nm、半値幅が50nm程度のピーク状の強度分布をもつ赤外線が用いられている。一方、受光部は850〜1150nmの広い波長領域の光に感度を有する。
【0004】
このため、850〜1150nmの波長領域に強い近赤外線による雑音が混在する環境下では、リモコン信号光のS/N比(Signal to Noise Ratio)が低下することになり、通信感度が低下して、リモートコントローラによって本体の動作を制御できる、コントローラと本体との距離が減少する。
【0005】
例えば、プラズマ表示装置ではプラズマ表示素子から膨大な近赤外線が放射される。この近赤外線は、リモコン信号に対するプラズマ表示装置本体の感度を低下させる。また、そればかりではなく、近赤外線は室内の壁や家具、あるいは使用者の衣服などによって反射されやすいので、上記近赤外線は、直接または間接的に、表示装置の周囲にある別の赤外線通信機器(例えば、電話機の子機、および、エアコンディショナや、DVD(Digital Versatile Disk)プレイヤ等の光ディスク装置などのリモートコントローラ)に入射して、その誤動作を招く原因となる。
【0006】
この対策として、例えば後述の特許文献1に示されているように、近赤外線領域の光を吸収する材料を含有させた近赤外線吸収フィルタを、プラズマ表示装置の前面に設ける構成が有効である。このため、現在製造されているプラズマ表示装置のほとんどには、この種の近赤外線吸収フィルタが設けられている。
【0007】
また、例えば後述の特許文献2に示されているように、近赤外線吸収フィルタの代わりに、光学多層膜による光選択反射を利用して近赤外線を除去する構成が考えられる。光学多層膜フィルタは、膜を適切に設計することによって可視光の透過率を高くすることも可能であり、輝度の低下を抑える上では近赤外線吸収フィルタよりも有利である。
【0008】
一方、液晶テレビなどのフルカラー表示装置として用いられる透過型液晶表示装置は、液晶表示パネルと、このパネルの背面側に照明光を照射するバックライト装置などで構成されている。液晶表示パネルは、通常、液晶セル、その両側に配置された2枚の偏光板、および、液晶セルと片側または両側の偏光板との間に配置された、1枚または2枚の光学補償フィルム(位相差フィルム)、および前面側の偏光板に貼り付けられるアンチグレア処理(AG)フィルムまたはアンチリフレクション処理(AR)フィルムなどからなる。バックライト装置は、通常、バックライト光源と、その光出射側に配置された拡散板、拡散シート、および輝度向上フィルムなどからなる。
【0009】
図9は、バックライト光源として一般に用いられている冷陰極管から放射される、近赤外線領域の発光スペクトルである。液晶表示装置の冷陰極管から放射される近赤外線量は、プラズマ表示装置のプラズマ表示素子から放射される量より少ない。このため、従来、冷陰極管から放射される近赤外線による障害発生は現実的な問題として認識されておらず、現在、市場に出荷されている液晶表示装置には、近赤外線吸収フィルタは設けられていない。以下、液晶表示パネルの構成について説明する。
【0010】
液晶セルは、棒状液晶性分子からなる液晶材料、それを封入するための2枚の基板、および液晶性分子に電場を作用させるための電極層からなる。液晶セルについては、液晶性分子の配向状態とその制御方法の違いによって、VA(Vertically Aligned)、IPS(In-Plane Switching)、OCB(Optically Compensatory Bend)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、TN(Twisted Nematic)、STN(Supper Twisted Nematic)など、様々な表示モードが提案されている。
【0011】
偏光板は、一般に偏光膜と2枚の透明保護膜とからなる。偏光膜は、通常、一軸延伸されたポリビニルアルコールなどのフィルムと、そのフィルムに保持されたヨウ素または二色性染料などからなる。そして、その両側に透明保護膜としてTAC(トリアセチルセルロース)膜などが貼り合わせて用いられる。
【0012】
位相差フィルムなどの光学補償フィルムは、異なる波長の光が液晶層を通過することによって生じる光波間の位相差を相殺して、液晶層の着色を防止する、すなわち、液晶層の波長分散特性を補償して、無彩色の背景表示を実現するために、様々な液晶表示装置に用いられている。位相差フィルムとしては、従来、延伸複屈折フィルムが用いられてきた。近年、より高機能を目指して、透明支持体上に液晶性分子からなる光学異方性層が形成された光学補償フィルムが用いられるようになっている(例えば、山崎照彦、川上英昭、堀浩雄 監修、カラーTFT液晶ディスプレイ(改訂版)、共立出版(2005)参照。)。
【0013】
上記の光学異方性層は、透明支持体上に液晶性分子の配向を制御する配向膜を設け、その上に所定の配向状態で液晶性分子が配向した液晶層を形成した後、その配向状態のまま、液晶性分子を固定することによって形成する。この際、一般には、液晶性分子として重合性の官能基を有する液晶性分子を用い、重合反応によって液晶性分子の配向状態を固定する。
【0014】
光学補償フィルムの光学的性質は、液晶セルの光学的性質や、セルに使用される液晶性分子の光学特性や、液晶セルの表示モードに応じて適宜定められる。液晶性分子は大きな複屈折性をもち、多様な配向形態を有する。このような液晶性分子を光学補償フィルムの材料として用いることによって、従来の延伸複屈折フィルムでは得られない様々な光学的性質を実現することが可能になる。例えば、液晶セルの種々の表示モードにそれぞれ対応して、最適な光学的性質を有する光学補償フィルムを作製することができる。
【0015】
上記透明支持体としては、ポリカーボネート系フィルムやセルロース系フィルムやノルボルネン系フィルムが好ましく用いられる。このような支持体を用いて光学補償フィルムを製造する場合、配向膜上での液晶性分子の配向の制御が重要となってくる。配向膜によっては、液晶性分子が配向していても、ドメインが単一ではなくなり、所望のレタデーションを得ることができないこともある。また、一般に、ポリカーボネート系フィルムやセルロースエステルフィルムやノルボルネン系フィルムは有機溶剤によって膨潤したり、有機溶剤に溶解したりしやすいため、配向材料を塗布によって配置する場合に溶媒が制限される。
【0016】
【特許文献1】特開2007−108582号公報(第16−26頁)
【特許文献2】特開昭55−21091号公報(第2及び3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
昨今、大型テレビの主流となりつつある薄型テレビの1つとして、大型の表示画面をもつ液晶表示装置が製造されるようになってきている。このような大型液晶表示装置の冷陰極管から放射される近赤外線量は、表示画面の大型化にともない、徐々に増加する傾向にある。
【0018】
冷陰極管から放射される近赤外線を除去する構成として、プラズマ表示装置と同様、近赤外線を吸収する材料を含む光学フィルタを、液晶表示装置の前面に設ける構成が考えられる。しかし、近赤外線を吸収する材料は、通常、可視領域の光を吸収する性質も有しているため、この構成では表示装置の輝度の低下をともなう。例えば、プラズマ表示装置に用いられている近赤外線吸収フィルタによる輝度低下率は、一般に20%以上である。
【0019】
既述したように、現在市場に出荷されている液晶表示装置には、近赤外線吸収フィルタは設けられておらず、一般ユーザーは、既に、現状の液晶テレビの輝度を標準的な輝度として受けとめている。このため、近赤外線吸収フィルタを設ける場合には、それによる輝度の低下分を何らかの方法で補い、現状とほぼ同等の輝度を維持しなければ、一般ユーザーに受け入れられない。
【0020】
バックライト装置の輝度の低下を補う方法として、冷陰極管の管電流を増加させ、冷陰極管の照度を上げる方法がある。しかし、管電流を増加させていくと管内温度が上昇し、発光効率が低下するため、管電流の増加による照度の向上には限界がある。一般に、現在バックライト装置に用いられている冷陰極管では、管電流の増加による照度の向上は10%程度が限界である。
【0021】
光学多層膜フィルタは、可視光の透過率を高くできるので、輝度の低下を抑える上で近赤外線吸収フィルタよりも有利である。しかし、製造工程が多いことや、高い膜厚精度が各層ごとに必要であることなどから、ほとんどの場合、近赤外線吸収フィルタに比べ製造コストがはるかに高くなる。さらに、液晶表示装置の表面に光学多層膜フィルタを追加して設ける場合、光学多層膜フィルタの表面反射の影響により液晶表示装置の輝度が低下したり、それを防止するために光学多層膜フィルタの表面に反射防止層を設けると、近赤外線吸収性能が低下したり、コストが増加したりするなどの弊害も発生する。
【0022】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、例えば、バックライト装置から出射される近赤外線によって引き起こされる、リモートコントローラの感度低下や誤動作の防止に適用可能な、光学フィルタとしての機能を有する光学補償部材、及びこれを備えた液晶表示装置、並びに、その材料及び構成部材としての配向膜用組成物及び配向膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
即ち、本発明は、配向膜上に液晶性分子からなる光学異方性層が形成されている光学補償部材において、
前記配向膜に、特定の波長領域の光の透過を抑える添加材が含有されている
ことを特徴とする、光学補償部材に係わり、また、液晶セルにおける液晶性分子の配向変化によって光透過率を制御して画像を表示する液晶パネルを備えた液晶表示装置において、
前記液晶セルの片側又は両側に、前記光学補償部材が配置されている
ことを特徴とする、液晶表示装置に係わるものである。
【0024】
また、本発明は、液晶性分子を配向させる配向膜を得るための配向膜用組成物において、
配向膜材料と、特定の波長領域の光の透過を抑える添加材とが含まれている
ことを特徴とする、配向膜用組成物に係わり、また、この配向膜用組成物から得られた配向膜に係わるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液晶表示装置は、液晶セルにおける液晶性分子の配向変化によって光の透過率を制御して画像を表示する液晶パネルを備えた液晶表示装置であって、
前記液晶セルの片側又は両側に、本発明の光学補償部材が配置されている
ことを特徴とする。本発明の光学補償部材は、その特徴として、前記配向膜に、特定の波長領域の光の透過を抑える添加材が含有されているため、光学フィルタとしての機能を兼ね備えている。
【0026】
このため、本発明の液晶表示装置によれば、別途光学フィルタを設けることなく、光学フィルタの効果を得ることができる。この結果、従来の液晶表示装置に光学フィルタを別途追加する構成に比べて、前記液晶パネルの層構成が簡易になり、コスト的に有利であるばかりでなく、層間での反射や吸収による光の損失が減少するので、輝度などの画質が向上する。また、前記添加材を含有させることによる不都合がある場合でも、画像の形成に中心的な役割をする前記液晶セル及びその片側又は両側に設けられる偏光膜ではなく、補正部材である前記光学補償部材に含有させるので、その影響を最小限に抑えることができる。
【0027】
前記配向膜は、前記添加剤を含む配向膜用組成物を、透明支持体上などに塗布法などによって配置することにより、簡易に作製することができる。光学多層膜を形成する場合に比べて作製が容易であり、コスト的にも有利である。また、前記光学補償部材は、通常の光学補償部材と同様、液晶層の波長分散特性を補償して、無彩色の背景表示を実現し、また、液晶表示装置の輝度、色度、およびコントラストの視野角特性を向上させる働きをする。
【0028】
本発明の配向膜用組成物及び配向膜は、本発明の光学補償部材を得るために必要な材料及び構成部材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の光学補償部材において、前記添加材として、前記特定の波長領域の光を吸収する光吸収材料が、前記配向膜に含有されているのがよい。前記添加材としては、入手の容易さや扱いやすさから、前記特定の波長領域の光を吸収する前記光吸収材料がよい。但し、これに限られるものではなく、前記添加材として微粒子を加え、この微粒子による光の反射や散乱を利用するのでもよい。
【0030】
また、前記配向膜を透過する光の透過率が、前記配向膜における前記添加材の濃度、及び/又は、前記配向膜の厚さによって制御されるのがよい。
【0031】
また、前記配向膜が、透過型液晶表示装置のバックライト光源から出射される光のうち、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光の透過を抑えるように構成されているのがよい。このような構成によって、液晶表示装置の輝度の低下を最小限に抑えつつ、バックライト装置、例えば冷陰極管から放射される近赤外線の透過を抑える事ができる。この結果、バックライト光源から出射される近赤外線によって引き起こされる、液晶表示装置のリモートコントローラの感度低下や、液晶表示装置の周囲にある別の赤外線通信機器の誤動作を防止することができる。
【0032】
本発明の光学補償部材を上記の透過型液晶表示装置に適用する場合、好適な例として、前記配向膜が、配向膜材料と、前記添加材である近赤外線吸収材料からなるのがよい。この際、前記近赤外線吸収材料は、ジインモニウム系化合物、アミニウム塩、イミニウム塩、ジイミニウム塩、キノン系化合物、シアニン色素、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、及び金属錯体系化合物からなる群から選ばれた1種以上の近赤外線吸収剤からなるのがよい。また、前記配向膜材料が、セルロース系樹脂又はポリアミドイミド系樹脂であるのがよい。これらは前記近赤外線吸収材料とともに溶媒に分散させることができ、塗布法によって前記近赤外線吸収材料を含有する配光膜を形成するのが容易である。しかも、液晶性分子を配向させる作用が強い材料である。
【0033】
そして、波長400〜700nmの光に対する平均透過率が85%以上であるのがよく、また、波長850〜1150nmの光に対する平均透過率が80%以下であるのがよい。これは、波長400〜700nmの光に対する平均透過率が85%より低くなると、液晶表示装置の輝度低下率が、冷陰極管の管電流の増加で補正可能な10%よりも高くなるからである。また、波長850〜1150nmの光に対する平均透過率が80%よりも高くなると、バックライト光源から出射される近赤外線によるリモートコントローラへの動作障害をほとんど抑制することができなくなるからである。前記光学補償部材によれば、光学補償フィルムと光学フィルタとを一体化することにより、可視領域の透過率の低下を抑制し、輝度低下率10%以下を実現可能とする。
【0034】
本発明の液晶表示装置は、バックライト装置を備え、透過型液晶表示装置として構成されているのがよい。
【0035】
本発明の配向膜用組成物において、前記添加材が、前記特定の波長領域の光を吸収する光吸収材料であるのがよい(説明は上記と同様であるので省略する。以下、同様。)。
【0036】
透過型液晶表示装置に適用する場合、前記光吸収材料が、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光を吸収しやすい近赤外線吸収材料であるのがよい。この際、前記近赤外線吸収材料は、ジインモニウム系化合物、アミニウム塩、イミニウム塩、ジイミニウム塩、キノン系化合物、シアニン色素、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、及び金属錯体系化合物からなる群から選ばれた1種以上の近赤外線吸収剤からなるのがよい。また、前記配向膜材料が、セルロース系樹脂又はポリアミドイミド系樹脂であるのがよい。
【0037】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に、より具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施の形態に限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態に基づく透過型液晶表示装置40の構成を示す概略断面図である。透過型液晶表示装置40は、例えば大型液晶テレビ用に構成され、図2に示すように、液晶表示パネル20と、その背面側(図1において下方側)に照明光を照射するバックライト装置30からなる。
【0039】
液晶表示パネル20では、液晶層1と、液晶層1を挟んで対向する一対の透明基板2aおよび2bとによって液晶セルが形成され、透明基板2aおよび2bの外面側に一対の偏光板3aおよび3bがそれぞれ配置され、さらに、透明基板2aおよび2bと偏光板3aおよび3bと間に光学補償フィルム10aおよび10bがそれぞれ配置されている。
【0040】
液晶層1の構成は特に限定されず、誘電異方性が正で電場印加時に分子長軸が電場方向と略平行に配向する液晶材料や、誘電異方性が負で電場印加時に分子長軸が電場方向と略垂直に配向する垂直配向型液晶材料などが用いられる。
【0041】
透明基板2aおよび2bはガラス基板からなり、図示は省略するが、透明基板2aの内面には、ストライプ状の透明電極と、絶縁膜と、配向膜とが形成されており、透明基板2bの内面には、赤(R)、緑(G)、および青(B)の三原色のカラーフィルタと、オーバーコート層と、ストライプ状の透明電極と、配向膜とが形成されている。配向膜は、例えばポリイミドからなり、液晶材料に接するように設けられる。
【0042】
光学補償フィルム10aおよび10bは、前記光学補償部材に相当し、異なる波長の光が液晶層1を通過することによって生じる光波間の位相差を相殺して、液晶層の着色を防止する。すなわち、液晶層1の波長分散特性を相殺し、無彩色の背景表示を実現する働きをする。また、視野角の違いによる液晶表示装置の輝度、色度、およびコントラストの低下を抑制し、液晶表示装置40の視野角特性を向上させる働きをする。さらに、本実施の形態に基づく特徴として、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光を吸収しやすい近赤外線吸収材料を含有する層を有し、近赤外線吸収フィルタとして機能する。この点については、後に詳述する。
【0043】
バックライト装置30は、通常、バックライト光源31と、その光出射側に配置された拡散板32、拡散シート33、プリズムシート34、偏光分離素子35などが適宜組み合わされて構成されている。
【0044】
バックライト光源31は、液晶表示パネル20の背面側から照明光を照射する直下型のバックライト光源である。バックライト光源31は、例えば、複数本の冷陰極管(CCFL;Cold Cathode Fluorescent Lamp)からなる線状光源31a、および光源31aの背面側および側面側を覆う反射板31bなどで構成されている。バックライト光源31から出射された光(バックライト光)は、各種光学フィルム32〜35を介して液晶表示パネル20へ入射される。
【0045】
拡散板32は、バックライト光源31から出射された光(バックライト光)を散乱させて、光の進路のばらつきを平均化して輝度を均一化し、液晶表示パネル20の側からバックライト光源31の輝線が見えないようにする。拡散シート33はバックライト光を所定の角度範囲に拡散させる。プリズムシート34は、拡散シート33によって拡散されたバックライト光を集光して、偏光分離素子35へ入射させる働きをする。偏光分離素子35は、入射光に含まれる一定方向の直線偏光成分を透過させ、他の直線偏光成分を反射する。これによって、一定方向の偏光のみが液晶表示パネル20へ入射する。
【0046】
偏光分離素子35を通過した偏光は、その偏光方向と平行な透過軸を有する偏光板3aを通り、光学補償フィルム10aおよび透明基板2aを経て液晶層1へ入射する。液晶層1を構成する液晶性分子は、透明電極間に挟まれた画素領域ごとに、電極間に印加される電圧によって駆動され、配向方向が制御されており、入射光の偏光方向は、液晶層1を通過する間に、上記の配向した液晶性分子によって変更される。この結果、液晶表示パネル20の前面側の偏光板3aを透過する光量が画素ごとに制御され、液晶表示パネル20の前面に画像が形成される。
【0047】
バックライト光源31を構成する冷陰極管31aには、一般にアルゴン(Ar)ガスおよび水銀(Hg)蒸気が封入されている。このため、冷陰極管31aからは、図2に示したように、Arに起因するピーク波長912nm、922nmおよび965nmの3本の輝線と、Hgに起因するピーク波長1013nmの1本の輝線とを含む近赤外線が放射される。Ar起因の3本の輝線は、電源投入直後に発生量が多く、時間経過とともに減少する。逆に、Hg起因の輝線ピークは、冷陰極管の管内温度が上がり、水銀蒸気圧が増加するにともなって増加する。
【0048】
これらの輝線は、リモートコントローラ受光部が感度を有する波長領域(図9参照。)内にあるため、リモコン信号に対する液晶表示装置本体の感度を低下させるばかりではなく、液晶表示装置の周囲にある別の赤外線通信機器の誤動作を招く原因となる。そこで、本実施形態では、光学補償フィルム10aおよび10bに、バックライト光源31から出射される光のうち、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光を吸収しやすい近赤外線吸収フィルタとしての機能をもたせる。
【0049】
図1は、本実施の形態に基づく光学補償フィルム10の構成の一例を示す液晶表示パネル20の要部断面図(a)、および本実施の形態の特徴を強調して示した説明図(b)である(以下、10aと10bを一括して10と示す。他の部材についても同様。)。図1に示すように、光学補償フィルム10は、面内方向に光学異方性をもつ位相差層11と、厚さ方向に光学異方性をもつ位相差層13とを有する。
【0050】
厚さ方向に光学異方性をもつ位相差層としては、配向した液晶性分子からなる光学異方性層を設けることが効果的であることが知られている。そこで、光学補償フィルム10では、面内方向に光学異方性をもつ位相差フィルム11を透明支持体として用い、その上に近赤外線吸収材料含有配向膜12を設け、さらにその上に、配向した液晶性分子からなり、厚さ方向に所定の光学異方性をもつ光学異方性層13を形成する。
【0051】
位相差フィルム11としては、特に限定されるものではないが、透明で、面内位相差をもつ延伸フィルム、例えばAプレートと呼ばれるフィルムが好ましい。具体的には、ノルボルネン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびフェノール系樹脂、またはこれらの共重合体などを構成材料とする透明フィルムが挙げられる。
【0052】
位相差フィルム11には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、UV(紫外線)吸収剤、安定化剤などが挙げられる。また、位相差をコントロールするために、複屈折性金属酸化物微粒子を添加してもよい。ただし、通常、ポリエステル樹脂にフィルムのハンドリング性(易滑性、巻き性、耐ブロッキング性など)の向上を目的として添加される不活性粒子は、透明性を保つために実質上含有させないことが好ましい。
【0053】
本実施の形態の特徴として、近赤外線吸収材料含有配向膜12は、配向膜材料中に近赤外線吸収色素を分散させたものである。このため、バックライト光源31から出射される光のうち、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光を吸収しやすい波長特性を有し、近赤外領域の光を減衰させる光学フィルタの機能を有している。近赤外線吸収材料含有配向膜12には複数種の色素を混合して分散させてもよい。近赤外線吸収材料含有配向膜12は、位相差フィルム11の両側に設けてもよいし、片側のどちらかに設けてもよい。
【0054】
配向膜材料は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、およびポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。ただし、配向膜材料のガラス転移温度は、光学補償フィルム10が用いられる液晶表示装置40の使用保証温度以上であることが、近赤外線吸収材料の分散状態を安定に保つ上で好ましい。
【0055】
また、近赤外線吸収色素を構成する材料も、特に限定されるものではなく、例えば、ジインモニウム系化合物、アミニウム塩、イミニウム塩、ジイミニウム塩、キノン系化合物、シアニン色素、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、および金属錯体系化合物、またはこれらの混合物などが好ましい。
【0056】
近赤外線吸収材料含有配向膜12を透過する光の透過率は、配向膜12における色素濃度、及び/又は、色素を含む配向膜12の厚さによって調節することができる。具体的には、近赤外線吸収材料含有配向膜12は、波長400〜700nmの可視光に対する平均透過率が85%以上であるように構成される。また、一般的なリモートコントローラ受光部が感度を有する波長850〜1150nmの近赤外光に対する平均透過率が80%以下となるように構成される。この際、上記近赤外領域において透過率が最小になるように構成されるのが、より好ましい。
【0057】
さらに好ましくは、近赤外線吸収材料含有配向膜12は、これらを設けることによる液晶表示装置の輝度低下率が10%以下となるように構成されるのがよい。このようにすれば、近赤外線吸収材料含有配向膜12を設けることによる輝度低下分を、冷陰極管31aの管電流を増加させ、冷陰極管31aの照度を向上させることによって完全に補うことも可能である。
【0058】
光学補償フィルム10を作製する際、位相差フィルム11として有機物基材を用い、この上に液晶性分子からなる光学異方性層13を形成する場合には、通常、近赤外線吸収材料含有配向膜12を塗布法などによって形成する。この後、ラビング処理を行い、その上に液晶材料を塗布し、液晶性分子が所定の配向状態に配向した液晶性分子層を形成する。このようにして、所望の視野角補償機能を満足するレタデーションを有する液晶性分子層が得られる。この配向状態をたもったまま、液晶性分子層の液晶性分子を固定すると、光学異方性層13が形成され、光学補償フィルム10が得られる。この際、液晶性分子として重合性の官能基を有する液晶性分子を用い、重合反応によって液晶性分子の配向状態を固定するのがよい。
【0059】
図4および図5は、後述する本発明の実施例で得られた、近赤外線吸収材料含有配向膜12を備えた光学補償フィルム10の分光透過率曲線を示すグラフである。図4および図5に示すように、この光学補償フィルム10は、リモートコントローラ受光部が感度を有する波長850〜1150nmの光に対する近赤外線吸収材料含有配向膜12の吸収性能を高め、その透過率を低くしているため、バックライト光源31から出射される近赤外線を効果的に吸収し、液晶表示装置40の外部へ放射される近赤外線量を効率よく減少させることができる。
【0060】
特に、冷陰極管をバックライトとする液晶表示装置の場合、波長850〜1150nmに発生する近赤外線は、912nm、922nmおよび965nmにある3本のAr起因の輝線ピークと、1013nmにあるHg起因の輝線ピークであり、近赤外線吸収材料含有配向膜12を設けることにより、これらの近赤外線放射量を減少させることができる。これにより、液晶表示装置40から放射される赤外線を原因として起こる表示装置自身のリモコン感度の低下、および周囲にある赤外線通信機器の誤動作を抑制することができる。
【0061】
その一方で、図4および図5の光学特性を有する光学補償フィルム10は、可視領域の光の透過率が高いため、液晶表示装置の映像の品質、特に輝度に与える影響を少なくすることができる。
【0062】
光学近赤外線吸収材料含有配向膜12の近赤外領域の透過率は、用いられる液晶表示装置40の画面サイズに応じて変更されることが望ましい。すなわち、画面サイズが大きいほど、バックライト装置31から出射される近赤外線の量も多くなるため、近赤外線吸収材料含有配向膜12の透過率もそれに合わせて低くする必要がある。
【0063】
また、近赤外線吸収材料含有配向膜12の可視領域の透過率は、表示装置が表示する映像の輝度と関連し、透過率が低いほど輝度が低下する。この近赤外線吸収材料含有配向膜12を表示装置内部に設けることによる映像の輝度の低下率を10%以下にする必要がある場合、近赤外線吸収材料含有配向膜12の可視領域波長400〜700nmにおける透過率平均値が少なくとも85%以上である必要がある。
【0064】
本実施の形態では、液晶層1の両側に光学補償フィルム10を設ける例を説明したが、光学補償フィルム10は液晶層1の片側のどちらかだけに設けてもよい。また、位相差フィルム11を省略し、液晶層1の透明基板2に近赤外線吸収材料含有配向膜12および光学異方性層13を形成することもできる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、下記の実施例は例示であり、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
実施例1
実施例1では、初めに、上記実施の形態で図1を用いて説明した近赤外線吸収材料含有配向膜12および光学補償フィルム10を作製し、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。続いて、この光学補償フィルム10を用いて、図2に示した液晶表示装置40を作製し、この液晶表示装置40に関して、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。
【0067】
<近赤外線吸収材料含有配向膜および光学補償フィルムの形成>
まず、近赤外線吸収材料含有配向膜12を塗布法で形成するための配向膜用混合材料を、下記の材料を均一に混合して調製した。
近赤外線吸収剤(ジインモニウム塩を含む色素) 1wt%
配向膜材料(ポリアミドイミド樹脂、東洋紡績社製;型番 HR15ET) 5wt%
溶媒(質量比がトルエン:エタノール:ブタノール=1:1:1の混合溶媒)
94wt%
【0068】
次に、位相差フィルム11としてポリカーボネートフィルム(帝人化成社製;商品名 Pure Ace)を用意した。これに先に調製した配向膜用混合材料を塗布した。塗布にはスピンコーターを用い、回転速度3000rpm、塗布時間30秒の条件下で厚さ5000nmの塗膜を形成した。塗布後、乾燥処理を温度85℃の下で2分間行い、続いて、ラビング処理を回転速度245rpm、ラビング速度1m/分の条件で行い、近赤外線吸収材料含有配向膜12を得た。
【0069】
次に、上記近赤外線吸収材料含有配向膜12の上に、紫外線(UV)硬化性コレステリック液晶を塗布した。塗布にはスピンコーターを用い、回転速度3500rpm、塗布時間30秒の条件下で厚さ1.8μmの塗膜を形成した。塗布後、乾燥処理を温度80℃の下で2分間行い、続いて、UV硬化処理を1400mJ/cm2の光照射下で行い、光学補償フィルム10を得た。
【0070】
図4(a)は、実施例1による光学補償フィルム10の分光透過率曲線を示すグラフである。また、表1に、波長400〜700nmおよび850〜1150nmにおける光の平均透過率を示す。分光透過率は島津社製の測定装置(製品名 SOLID SPEC 3700 DUV)を用いて測定した。
【0071】
一方、実施例1による光学補償フィルム10のレタデーション値を大塚電子社製の測定装置(製品名 RETS-100)を用いて測定した。この結果を表1に示す。このレタデーション値が使用したコレステリック液晶の光学特性と膜厚から得られる値に匹敵すれば、コレステリック液晶が所望のとおりに配向しており、このレタデーションを最適にすることによって、液晶表示装置の視野角特性を向上させることが可能となる。
【0072】
コレステリック液晶は棒状の液晶分子が面内(x軸方向とy軸方向)に横たわった状態で螺旋状に積層した形で配向することから、x軸、y軸、z軸それぞれの屈折率をnx、ny、nzとすると、nx=ny>nzという関係になる。つまり、面内方向にレタデーションは発生せず、厚み方向(z軸方向)にレタデーションを有するようになる。そこで、40度にサンプルを傾けた状態でのレタデーション値をもって、液晶の配向状態を評価した。
【0073】
<液晶表示装置の作製>
まず、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を保持させて偏光板3を作製した。続いて、偏光版3の吸収軸と光学補償フィルム10の遅相軸とが平行になるように、偏光膜3の片側に光学補償フィルム10を貼り付け、偏光版3と一体化された光学補償フィルム10を得た。
【0074】
次に、既製品の液晶表示装置を改造して、液晶表示装置40を作製した。すなわち、VA型液晶セルが用いられている液晶表示装置(ソニー社製42インチ液晶テレビ)からVA型液晶セルを取り出し、この両面に設けられている一対の偏光板を剥がした。続いて、これらの偏光板の代わりに、上記のように偏光版3と一体化された光学補償フィルム10を、光学補償フィルム10の側で粘着剤を介して液晶セルに接着した。この改造された液晶セルを元の液晶表示装置に戻し、液晶表示装置40を作製した。
【0075】
図3は、液晶表示装置40に関して、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離を測定したときの配置を示す平面図である。液晶表示装置40の側部前方に光ディスク装置(ソニー社製DVDプレイヤ)50を配置し、液晶表示装置40の表示画面と光ディスク装置50のリモートコントローラ受光部51とが1メートル離れて対向するようにした。
【0076】
この状態で、液晶表示装置40を作動させた直後に、光ディスク装置50のリモートコントローラ受光部51の正面位置で、リモートコントローラ52を持つ試験者が前後に移動しながら光ディスク装置50のリモコン操作が可能である最長距離を確認し、その距離を「リモートコントローラによる操作が可能な最長距離」とし、この距離が長いほどリモコン動作保障効果が大きいものと判断した。測定結果を表3に示す。なお、リモートコントローラ51の信号波長領域は930〜960nmであり、リモートコントローラ受光部51の受光感度領域は850〜1150nmである。
【0077】
また、液晶表示装置10の画面中央部における輝度について、分光輝度計(コニカミノルタ社製;型番 CS1000A)を用いて測定し、改造前の液晶表示装置の輝度に対する輝度減少率を求めた。この測定結果を表3に示す。
【0078】
実施例2
実施例2では、配向膜用混合材料の塗膜の厚さを3000nmとし、近赤外線吸収材料含有配向膜12の厚さを減少させた以外は実施例1と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図4(b)と、表1および表3に示す。
【0079】
実施例3
実施例3では、配向膜用混合材料の塗膜の厚さを1000nmとし、近赤外線吸収材料含有配向膜12の厚さをさらに減少させた以外は実施例1と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図4(c)と、表1および表3に示す。
【0080】
実施例4
実施例4では、近赤外線吸収材料含有配向膜12を塗布法で形成するための配向膜用混合材料を、下記のように変更した。
近赤外線吸収剤(ジインモニウム塩を含む色素) 1wt%
配向膜材料(セルロース系樹脂、信越化学社製;商品名 60SH) 5wt%
溶媒(質量比がエタノール:水:メチルエチルケトン=1:1:0.5の混合溶媒)
94wt%
【0081】
それ以外は実施例1と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図5(a)と、表1および表3に示す。
【0082】
実施例5
実施例5では、配向膜用混合材料の塗膜の厚さを3000nmとし、近赤外線吸収材料含有配向膜12の厚さを減少させた以外は実施例4と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図5(b)と、表1および表3に示す。
【0083】
実施例6
実施例6では、配向膜用混合材料の塗膜の厚さを800nmとし、近赤外線吸収材料含有配向膜12の厚さをさらに減少させた以外は実施例4と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図5(c)と、表1および表3に示す。
【0084】
実施例7
実施例7では、配向膜用混合材料の塗膜の厚さを8000nmとし、近赤外線吸収材料含有配向膜12の厚さを増加させた以外は実施例1と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図6(a)と、表2および表4に示す。
【0085】
実施例8
実施例8では、配向膜用混合材料の塗膜の厚さを500nmとし、近赤外線吸収材料含有配向膜12の厚さを著しく減少させた以外は実施例1と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図6(b)と、表2および表4に示す。
【0086】
比較例1
比較例1では、液晶表示装置40の電源を切った状態で、実施例1と同様にして、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離を測定した。測定結果を表4に示す。
【0087】
比較例2
比較例2では、近赤外吸収色素を添加してない配向膜材料(ポリアミドイミド樹脂、東洋紡績社製;型番 HR15ET)によって配向膜を形成した以外は実施例1と同様にして、光学補償フィルム10および液晶表示装置40を作製した。そして、光学補償フィルム10の分光透過率およびレタデーションを測定した。また、液晶表示装置40に関しては、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離、および画面中央部における輝度減少率を測定した。測定結果を図7と、表2および表4に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【0092】
既述したが、図4および図5に示すように、実施例1〜6で得られた光学補償フィルム10は、リモートコントローラ受光部が感度を有する波長850〜1150nmの光に対する近赤外線吸収材料含有配向膜12の吸収性能を高め、その透過率を低くしているため、バックライト光源31から出射される近赤外線を効果的に吸収し、液晶表示装置40の外部へ放射される近赤外線量を効率よく減少させることができる。特に、912nm、922nmおよび965nmにある3本のAr起因の輝線ピークと、1013nmにあるHg起因の輝線ピークの放射量を減少させることができる。これにより、液晶表示装置40から放射される赤外線を原因として起こる表示装置自身のリモコン感度の低下、および周囲にある赤外線通信機器の誤動作を抑制することができる。その一方で可視領域の光の透過率が高いため、液晶表示装置の映像の品質、特に輝度に与える影響を少なくすることができる。
【0093】
表4に示すように、比較例2ではバックライトから発せられる赤外線により感度が著しく低下し、リモートコントローラによって操作できる最長距離が1.4mしかない状況であった。一方、表3に示すように、本発明の実施例1および4では、液晶表示装置40の輝度低下率を5%程度に抑えながら、リモートコントローラによって操作できる最長距離を3.4mまで伸ばすことが可能となった。5%以下の輝度低下率は、現在バックライト装置に用いられている冷陰極管の管電流を増加させ、照度を向上させることによって、十分に補うことができる範囲である。
【0094】
従来は、表面反射抑制等のプロセス工程を踏まなければ5%以上の輝度低下が発生してしまい、リモートコントローラによって操作できる最長距離と輝度の維持とは相反するものであった。本発明によれば、両者は両立することが可能となった。しかも、本実施例による光学補償フィルム10は、表1に示すように40°斜めからの光に対してレタデーションを有し、液晶表示装置に従来から設置されている視野角補償フィルムの機能を合わせもつ。表1および2に示したさまざまな実施例からわかるように、近赤外線の除去率は、配向膜の膜厚によって制御でき、レタデーションには影響を及ぼさないために、それぞれを適宜設計できる。
【0095】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0096】
例えば、本発明の光学補償部材は、近赤外領域のフィルタとしてばかりではなく、色補正のために可視光領域の特定波長のみを吸収する機能をもたせ、色再現性を変化させたり、色再現域を増加させたりすることもできる。例えば、屋外で使われる液晶装置に対して、紫外光や青色光を吸収する光学補償部材を設けることができる。また、本発明の光学補償部材は、反射型液晶表示装置に適用してもよい。反射型液晶表示装置は、通常、反射板、液晶セル、1枚の光学補償フィルム、そして1枚の偏光板からなる。この光学補償フィルムとして本発明の光学補償部材を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の光学補償部材、及びこれを備えた液晶表示装置によれば、大型液晶テレビなどとして用いられる液晶表示装置による、本体付属のリモートコントローラ、またはその周囲にある赤外線通信機器への悪影響を減らし、液晶表示装置の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態に基づく同、光学補償フィルムの構成の一例を示す液晶表示パネルの要部断面図である。
【図2】同、透過型液晶表示装置の構成を示す要部断面図である。
【図3】本発明の実施例による、リモートコントローラによる操作が可能な最長距離を測定する際の機器の配置を示す平面図である。
【図4】同、光学補償フィルムの分光透過率曲線を示すグラフである。
【図5】同、光学補償フィルムの分光透過率曲線を示すグラフである。
【図6】同、光学補償フィルムの分光透過率曲線を示すグラフである。
【図7】本発明の比較例による光学補償フィルムの分光透過率曲線を示すグラフである。
【図8】一般的なリモートコントローラにおいて用いられている信号光の強度の波長分布と、受光部の感度の波長依存性(感度曲線)とを示すグラフである。
【図9】バックライト光源として一般に用いられている冷陰極管から放射される近赤外線波長領域の発光スペクトルである。
【符号の説明】
【0099】
1…液晶層、2a、2b…透明基板、3a、3b…偏光板、
10a、10b…光学補償フィルム、11a、11b…面内方向光学異方性層、
12a、12b…近赤外線吸収材料含有膜、13a、13b…厚さ方向光学異方性層、
20…液晶表示パネル、30…バックライト装置、31…バックライト光源、
31a…線状光源、31b…反射板、32…拡散板、33…拡散シート、
34…プリズムシート、35…偏光分離素子、40…透過型液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向膜上に液晶性分子からなる光学異方性層が形成されている光学補償部材において、
前記配向膜に、特定の波長領域の光の透過を抑える添加材が含有されている
ことを特徴とする、光学補償部材。
【請求項2】
前記添加材として、前記特定の波長領域の光を吸収する光吸収材料が、前記配向膜に含有されている、請求項1に記載した光学補償部材。
【請求項3】
前記配向膜を透過する光の透過率が、前記配向膜における前記添加材の濃度、及び/又は、前記配向膜の厚さによって制御される、請求項1に記載した光学補償部材。
【請求項4】
前記配向膜が、液晶表示装置のバックライト光源から出射される光のうち、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光の透過を抑えるように構成されている、請求項1に記載した光学補償部材。
【請求項5】
前記配向膜が、配向膜材料と、前記添加材である近赤外線吸収材料からなる、請求項4に記載した光学補償部材。
【請求項6】
前記近赤外線吸収材料は、ジインモニウム系化合物、アミニウム塩、イミニウム塩、ジイミニウム塩、キノン系化合物、シアニン色素、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、及び金属錯体系化合物からなる群から選ばれた1種以上の近赤外線吸収剤からなる、請求項5に記載した光学補償部材。
【請求項7】
前記配向膜材料が、セルロース系樹脂又はポリアミドイミド系樹脂である、請求項5に記載した光学補償部材。
【請求項8】
波長400〜700nmの光に対する平均透過率が85%以上である、請求項4に記載した光学補償部材。
【請求項9】
波長850〜1150nmの光に対する平均透過率が80%以下である、請求項4に記載した光学補償部材。
【請求項10】
液晶セルにおける液晶性分子の配向変化によって光の透過率を制御して画像を表示する液晶パネルを備えた液晶表示装置において、
前記液晶セルの片側又は両側に、請求項1〜9のいずれか1項に記載した光学補償部 材が配置されている
ことを特徴とする、液晶表示装置。
【請求項11】
バックライト装置を備え、透過型液晶表示装置として構成されている、請求項10に記載した液晶表示装置。
【請求項12】
液晶性分子を配向させる配向膜を得るための配向膜用組成物において、
配向膜材料と、特定の波長領域の光の透過を抑える添加材とが含まれている
ことを特徴とする、配向膜用組成物。
【請求項13】
前記添加材が、前記特定の波長領域の光を吸収する光吸収材料である、請求項12に記載した配向膜用組成物。
【請求項14】
前記光吸収材料が、可視領域の光を透過させやすく、近赤外領域の光を吸収しやすい近赤外線吸収材料である、請求項13に記載した配向膜用組成物。
【請求項15】
前記近赤外線吸収材料は、ジインモニウム系化合物、アミニウム塩、イミニウム塩、ジイミニウム塩、キノン系化合物、シアニン色素、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、及び金属錯体系化合物からなる群から選ばれた1種以上の近赤外線吸収剤からなる、請求項14に記載した配向膜用組成物。
【請求項16】
前記配向膜材料が、セルロース系樹脂又はポリアミドイミド系樹脂である、請求項14に記載した配向膜用組成物。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれか1項に記載した配向膜用組成物から得られた、配向膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−304499(P2008−304499A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148772(P2007−148772)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】