説明

光導波路モジュール

【課題】 動作時の温度変化または環境温度の変化による光導波路モジュール40のパッド付近におけるクラッド層5の割れ・カケを防止する光導波路モジュール40を提供する。
【解決手段】 コア1が埋設された樹脂材料で構成されるクラッド層5が基板10表面に形成されてなる光導波路板15と、コア1と対応するクラッド層5の表面上の位置に配されたヒータ部20に外部の電気回路が接合されたパッド部25を回路部30により電気接続してなるヒータ回路35と、を備えた光導波路モジュール40において、クラッド層5とパッド部25との間にクラッド層5を構成する樹脂材料よりも小さい熱膨張率を備えた低熱膨張材45を介設させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主に光通信用機器に用いられる光導波路モジュールに関し、特に光導波路板の表面に備えた電気回路に流す電流を制御することにより、コア内を導波する光を変調させたり、光を切換えたりする光導波路モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許第2619199号公報に示される如く、光導波路板を備えた光導波路モジュールは主に光通信用機器に用いられ、その構造としてはパターン形成されたコアを埋設したクラッド層を基板の表面に配して光導波路板を形成し、この光導波路板の表面に外部の電気回路と導通した電気回路を設けて、この電気回路に流す電流を制御することによりコア内を導波する光のスイッチングを行う光導波路モジュールが知られている。この種の光導波路モジュールでは、一般に光導波路板の表面に外部の電気回路とワイヤーボンディング接続するためのパッド部が形成されている。そして、このパッド部と外部の電気回路が接続ワイヤーにより電気接続されている。
【0003】
しかしながら、光導波路板のクラッド層として使用する樹脂材料は、光透過性が高く、かつどの部位でも一様な屈折率を示す材質のものを用いることが必要であるため、フィラー等の熱膨張率を小さく、かつ機械的強度を向上させるための添加物を混入させることが困難である。そのため、クラッド層として用いる材料は熱膨張率が大きく、かつ機械的強度(特にせん断強度)が低いものを用いることとなる。特許第2619199号公報に示すようなパッド部が光導波路板の表面に形成された構造では、基板とパッド部および接続ワイヤーとの熱膨張に差があると、ワイヤーボンディング接合時に発生したクラッド層内の残留応力と、動作時の温度変化または環境温度の変化の際に基板とクラッド層との熱膨張の差により生じた熱応力と、が重ね合わされて、パッド部付近のクラッド層内で大きなせん断応力となり、クラッド層の割れ・カケが発生し易いという問題があった。また、光導波路板の表面のパッド部と外部の電気回路とを電気接続するための方法として、銀ペーストや半田等をパッド部及び外部の電気回路に塗布・硬化させることにより電気接続を行う方法もあるが、銀ペーストや半田が固化する時の収縮による残留応力と、基板とクラッド層との熱膨張の差により生じた熱応力により、ワイヤーボンディング接合時と同様に、クラッド層の割れ・カケが発生し易いという問題があった。
【特許文献1】特許第2619199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、上記背景技術に鑑みて発明されたものであり、その課題は、クラッド層に発生する熱応力(特にせん断応力)を小さくすることにより、動作時の温度変化または環境温度の変化によるパッド部付近のクラッド層の割れ・カケを防止できる光導波路モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願発明は、コアが埋設された樹脂材料で構成されるクラッド層が基板の表面に形成されてなる光導波路板と、クラッド層の表面上のコアと対応する位置に配されたヒータ部に外部の電気回路が接合されたパッド部を回路部により電気接続してなるヒータ回路と、を備えた光導波路モジュールにおいて、クラッド層とパッド部との間にクラッド層を構成する樹脂材料よりも小さい熱膨張率を備えた低熱膨張材を介設させることである。
【発明の効果】
【0006】
本願発明の光導波路モジュールにおいては、クラッド層とパッド部との間にクラッド層を構成する樹脂材料よりも小さい熱膨張率を備えた低熱膨張材を介設させることにより、光導波路モジュールの温度上昇(下降)に際して、クラッド層の表裏面に配された熱膨張率の小さい基板と低熱膨張材とがクラッド層の両側よりクラッド層の熱膨張(熱収縮)を抑える方向で働くので、クラッド層内には圧縮応力(引張応力)がより均一に内在することとなる。そのため、この圧縮応力(引張応力)の部位によるバラツキから生じるせん断応力を小さくでき、動作時の温度変化または環境温度の変化による光導波路板におけるパッド部付近のクラッド層の割れ・カケを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1および2は、本願発明の請求項1から5の全てに対応した実施形態の光導波路モジュール40が組み込まれた光デバイス95を示している。また、図3及び4は、上記実施形態における光導波路モジュール40を示している。この実施形態で用いる光導波路モジュール40は、コア1が埋設された樹脂材料で構成されるクラッド層5が基板10表面に形成されてなる光導波路板15と、クラッド層5の表面上のコア1と対応する位置に配されたヒータ部20に外部の電気回路が接合されたパッド部25を回路部30により電気接続してなるヒータ回路35と、を備えて、クラッド層5とパッド部25との間に介設されてクラッド層5を構成する樹脂材料よりも小さい熱膨張率を備えた低熱膨張材45と、を備えている。
【0008】
又、この実施形態の光導波路モジュール40は、低熱膨張材45が回路部30を表面に配するための傾斜面50を備えている。
【0009】
又、この実施形態の光導波路モジュール40は、コア1が形成されている部位の両側に配されている低熱膨張材45を備えている。
【0010】
又、この実施形態の光導波路モジュール40は、クラッド層5の端部表面に配されている低熱膨張材45を備えている。
【0011】
又、この実施形態の光導波路モジュール40は、無機材質の材料で構成された低熱膨張材45を備えている。
【0012】
以下、この実施形態の光導波路モジュール40を、より具体的に説明する。この光導波路モジュール40は、光通信用機器に用いられるものであり、図1・2に示す如く、ヒータ回路35に流す電流を切換えることにより、入射側光ファイバ80内を導波した光を出射側光ファイバ85または出射側光ファイバ90内に導波するように切換える熱光学式の光スイッチである。この光導波路モジュール40は樹脂等の絶縁材料よりなる下板60に接着剤にて接合されている。また、下板60には貫通穴が設けられており、その貫通穴には外部の電気回路と電気接続するための導通ピン55が、その両端部が下板60の両側に突出するように接着剤にて固定されている。更に、下板60には光ファイバを内部に備えた2個の光ファイバアレイ70も、光導波路モジュール40の両側に隙間なく、かつ光導波路モジュール40と良好に光結合するように位置合わせされて接合されている。そして、光導波路モジュール40のヒータ回路35は、下板60に固定された導通ピン55の一端と接続ワイヤー75によって電気接続されており、これにより導通ピン55の他端から電気供給が可能な構造となっている。また、上蓋65は下板60を接合した際に光導波路モジュール40及び導通ピン55に底面が接触しないように、下板60と対向する側に凹部を備えている。また、外部からの湿度・ほこり等の侵入を防止するために、上蓋65・下板60・光ファイバアレイ70によって内部が密閉空間となるように構成されている。(図2参照)
上記光デバイス95に組み込まれる光導波路モジュール40は、図3に示す如く、光導波路板15と、光導波路板15の端部表面に配された低熱膨張材45と、光導波路板15及び低熱膨張材45の表面に形成されたヒータ回路35と、で構成されている。また、光導波路板15は、基板10と、基板10の表面に形成されたクラッド層5と、クラッド層5に埋設されたコア1と、で構成されている。
【0013】
基板10は、クラッド層5が一定の厚みで形成しやすいように平板形状を成しており、基板10の寸法は約20mm(縦)×10mm(横)×0.5mm(厚み)である。また、構成する材質としては熱膨張率が約8.0×10−6/℃である無機材質のシリコンを使用している。
【0014】
クラッド層5は、基板10の表面全域に亘って厚み約30μmで形成されており、材質としてはガラス繊維等のフィラーが混入されていない光透過性の高いアクリル系の樹脂材料が用いられている。また、コア1は、クラッド層5に埋設するように、Y分岐パターンを備えて形成されており、光導波方向と垂直な切断面が約□8μmの形状となるように形成されている。更に、このときのコア1を構成する材質は、クラッド層5を構成する材質よりも約0.005だけ屈折率の高い材質のものが用いられ、ここではクラッド層5と同様に光透過性が高いアクリル系の樹脂材料が用いられている。このときのクラッド層5に用いられている樹脂材料の熱膨張率は約100×10−6/℃であり、上記基板10に用いられているシリコンと比較すると非常に大きな熱膨張率となっている。
【0015】
ここで、クラッド層5およびコア1は、形成するべきコア1のY分岐パターンと同形状の凸部を備えた転写型を用いて、基板10の表面に塗布されたクラッド層5の一部となる樹脂液を圧縮成形した後、転写型の凸部に対応して形成された成形品の凹部にコア1となる樹脂液を塗布・硬化させてコア1を形成している。そして、コア1を備えた成形品の表面に上記クラッド層5の一部となる樹脂液と同材質の樹脂液を塗布・硬化することにより、クラッド層5およびコア1を形成している。
【0016】
次に、低熱膨張材45は、長さが基板10の縦寸法と同じ20mmでかつ厚みが0.5mmの断面台形状を備えた四角柱状体であり、材質としては基板10と同じ無機材質であるシリコンを用いて形成されている。そして、この低熱膨張材45はコア1との重なり部分をなくするために、コア1が形成されている部位の両側にコア1と略平行で、かつ低熱膨張材45の両端面が光導波路板15の端面と面一となるようにクラッド層5の表面に位置合せして接着されている。このとき、ヒータ回路35が容易に一括形成できるようにするために、コア1が位置する部位に向って傾斜面50を備えて、低熱膨張材45は姿勢を制御されて接合しているものである。
【0017】
さらに、ヒータ回路35はコア1と対応するクラッド層5の表面上の位置に配されたヒータ部20と、外部の電気回路が接合されたパッド部25と、ヒータ部20とパッド部25を電気接続するための回路部30とを備えており、厚み約2.0μmの金の導電性薄膜で構成されている。また、ヒータ部20は回路幅約10μmでコア1と対応するクラッド層5の表面に形成されており、パッド部25はφ200μm程度の略円形状にて低熱膨張材45の表面に形成されている。回路部30は、回路幅約50μmでクラッド層5の表面から低熱膨張材45の傾斜面50及び表面に亘って形成されており、ヒータ部20とパッド部25とを繋いでいる。
【0018】
ここで、ヒータ回路35は、基板10・コア1・クラッド層5で構成される光導波路板15を作製した後、光導波路板15の表面にスパッタリングを行って全面に導電性薄膜を形成し、その後レーザを用いて非回路部位を除去することにより形成されている。
【0019】
以上の構成を備えることにより、クラッド層5とパッド部25との間にクラッド層5を構成する樹脂材料よりも小さい熱膨張率を備えた低熱膨張材45が介設されているので、光導波路モジュールの温度上昇(下降)に際して、クラッド層5の表裏面に配された熱膨張率の小さい基板10と低熱膨張材45とがクラッド層5の両側よりクラッド層5の熱膨張(熱収縮)を抑える方向で働くこととなり、クラッド層5内には圧縮応力(引張応力)がより均一に内在することとなる。そのため、この圧縮応力(引張応力)の部位によるバラツキから生じるせん断応力を小さくでき、動作時の温度変化または環境温度の変化による光導波路板15におけるパッド部25付近のクラッド層5の割れ・カケを防止できる。
【0020】
また、前記低熱膨張材45が回路部30を表面に配するための傾斜面50を備えているので、上記実施形態にも記載したレーザパターニング法や、導電性薄膜上に塗布された感光性樹脂液をマスク露光して感光性樹脂液を選択的に硬化させた後、表面に感光性樹脂を備えていない一部の導電性薄膜をエッチング処理にて除去することにより、所望のパターンの導電性薄膜を形成するマスク露光法等の既存の回路形成法を用いて、一括でヒータ回路35を形成することができ、安価にクラッド層5の割れ・カケを防止できる光導波路モジュール40を得ることができる。
【0021】
また、低熱膨張材45が、コア1が形成されている部位の両側に配されているので、熱光学式の光スイッチのようにコア1の両側にヒータ部20を備えた光導波路モジュール40に対して、パッド部25をコア1の両側に備えるようにできるので、回路部30の一部がコア1の直上を横切ることを防止でき、導波している光が回路部30により吸収されることにより生じる光損失を防止できる。
【0022】
また、低熱膨張材45が、クラッド層5の端部表面に配されているので、コア1の直上に低熱膨張材45が配されることがなく、導波している光が低熱膨張材45により吸収されることにより生じる光損失を防止できる。
【0023】
また、前記低熱膨張材45が、基板10と同じ無機材質の材料で構成されているので、クラッド層5の表裏面に配された熱膨張率の小さい基板10と低熱膨張材45とがクラッド層5の両側よりほぼ同等量だけクラッド層5の熱膨張を抑える方向で働くこととなり、クラッド層5内には圧縮応力(引張応力)が均一に内在することとなる。そのため、基板10と低熱膨張材45の熱膨張率に大きな差がある場合と比較すると、動作時の温度変化または環境温度の変化による光導波路板15におけるパッド部25付近のクラッド層5の割れ・カケを更に防止できる。また、基板10と低熱膨張材45の熱膨張率の差から生じる光導波路モジュール40の反りも防止できる。
【0024】
なお、本実施形態では光導波路モジュール40として熱光学式の光スイッチを用いたが、本願発明の光導波路モジュール40は、光可変減衰器等の光導波路板表面に電気回路を備えた光導波路モジュール全般に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本願発明の実施形態に係る光導波路モジュールを組込んだ光デバイスの 上蓋と下板を分離したときの分解斜視図。
【図2】本願発明の実施形態に係る光導波路モジュールを組込んだ光デバイスの 全体斜視図。
【図3】本願発明の実施形態に係る光導波路モジュールの斜視図。
【図4】図3の光導波路モジュールのA―A断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 コア
5 クラッド層
10 基板
15 光導波路板
20 ヒータ部
25 パッド部
30 回路部
35 ヒータ回路
40 光導波路モジュール
45 低熱膨張材
50 傾斜面
55 導通ピン
60 下板
65 上蓋
70 光ファイバアレイ
75 接続ワイヤー
80 入射側光ファイバ
85 出射側光ファイバ
90 出射側光ファイバ
95 光デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアが埋設された樹脂材料で構成されるクラッド層が基板の表面に形成されてなる光導波路板と、クラッド層の表面上のコアと対応する位置に配されたヒータ部に外部の電気回路が接合されたパッド部を回路部により電気接続してなるヒータ回路と、を備えた光導波路モジュールにおいて、クラッド層とパッド部との間にクラッド層を構成する樹脂材料よりも小さい熱膨張率を備えた低熱膨張材を介設したことを特徴とする光導波路モジュール。
【請求項2】
前記低熱膨張材が、回路部を表面に配するための傾斜面を備えていることを特徴とする請求項1に記載の光導波路モジュール。
【請求項3】
前記低熱膨張材が、コアが形成されている部位の両側に配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路モジュール。
【請求項4】
前記低熱膨張材が、クラッド層の端部表面に配されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光導波路モジュール。
【請求項5】
前記低熱膨張材が、無機材質の材料で構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光導波路モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−39150(P2006−39150A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217906(P2004−217906)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】