説明

光情報記録媒体、光情報記録媒体への情報記録方法

【課題】大容量の光情報記録媒体に高速で記録する場合のシェルフ特性を考慮した情報記録方法及び係る情報記録方法に好適な光情報記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】レーザ光のパワーが加熱パルス、冷却パルス及び消去パルスの各パルスに対応する少なくとも3値に制御され、光情報記録媒体に前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される長さの異なる複数種類の記録マークと、前記消去パルスが照射されることにより前記記録マーク間に形成されるスペースとによって、所定の情報が記録される情報記録方法であって、前記記録マークを形成する際に、一番目の加熱パルスの前に、前記消去パルスのパワー以上で、前記加熱パルスのパワー以下のパワーである予熱パルスを設けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録可能な光情報記録媒体、特にBD−RE、HD DVD−RW等の大容量の光情報記録媒体及び係る光情報記録媒体に好適な情報記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報のデジタル化・マルチメディア化が急速に進んでおり、より大容量の情報を高速に記録・再生可能な記録媒体の需要が高まっている。特に再生専用メモリであるDVD−ROM、CD−ROMとの再生互換を確保しつつ、記録が可能であるDVD−R、DVD−RW,DVD+R,DVD+RW,CD−R,CD−RWに代表される記録型光ディスクは汎用性が高く、利便性に優れているため需要が拡大している。最近では、更に大容量の記録を達成するために、波長405nmの青色LDを用いたシステムであるブルーレイディスク(BD)やHD DVDも其々、ROM、追記型、書き換え型の媒体に関して実用化されている。これらは大容量であるため、記録に時間がかかり、より高速で記録することが求められている。
【0003】
ブルーレイディスク(BD)やHD DVDなどの大容量の光情報記録媒体に高速で記録する場合には、従来のCDやDVDなどの比較的容量の小さい光情報記録媒体に記録する場合以上に、記録ストラテジが記録後の再生特性に大きな影響を与えると考えられる。ここで、記録ストラテジとは、光情報記録媒体に所定の長さの記録マークを正確な形状で書き込むためのレーザの発光パターンをいい、パルス数、パルス幅、パルス間隔、パルス開始位置、パルスのパワーなどのパラメータにより設定される。
【0004】
従来から良く用いられている記録ストラテジとしては、図19に示すように、レーザのパワーがPwである加熱パルスとレーザのパワーがPb(ボトムパワー)である冷却パルスを記録マーク長に応じて1個から複数個のパルスとして交互に照射することにより記録マーク(非晶質相)を形成し、記録マーク間すなわちスペース(結晶相)部はレーザのパワーがPeである消去パワーを連続光として照射することにより形成する方法がある。この方法は、加熱パルスの個数が、記録マーク長nTに対して、(n−1)個ないし(n−2)個であり、最短マーク長が2Tを含む場合は(n−1)個である。また、最後の冷却パルスのパワーは、他の冷却パルスのパワーPbと異なる大きさとする場合もある。この方法は、書き換え型光情報記録媒体であるCD−RW、DVD−RW、DVD+RW、BD−REなどで使用されている。
【0005】
また、図20に示すように、スペース部に連続光ではなく、消去パルスのパワーPeよりも大きく、加熱パルスのパワーPwよりも小さいパワーの1個から複数個のパルスを照射することで、何千回と繰り返しオーバーライトする間に、スペース部に連続光を照射することによる、記録膜の劣化を抑え、オーバーライトしても特性が劣化しないようにする記録ストラテジが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、ブルーレイディスク(BD)やHD DVDなどの大容量の書き換え型光情報記録媒体に高速記録を行う場合には、シェルフ特性を十分に考慮した記録ストラテジが必要である。ここで、シェルフ特性とは、光情報記録媒体を高温高湿環境下に保存し、その環境下で記録した場合、或いは、光情報記録媒体を高温高湿環境下に保存し室温に戻してから記録した場合の、記録後のジッタ値などの特性をいう。
【0007】
従来のCDやDVDなどの比較的容量の小さい光情報記録媒体においては、記録時のパワーマージン(記録時のレーザパワーと記録後のジッタ値などとの関係)が十分に確保されていたため、多少シェルフ特性が劣化しても、ジッタ値などに設けられている所定の基準値を十分に満足でき、問題とはならなかった。しかし、ブルーレイディスク(BD)やHD DVDなどの大容量の光情報記録媒体に高速で記録する場合には、記録時のパワーマージンを十分に確保することが難しいため、シェルフ特性の劣化が問題になる。
【特許文献1】特開2006−286194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、従来から種々の記録ストラテジが提案されていたが、ブルーレイディスク(BD)やHD DVDなどの大容量の光情報記録媒体に高速で記録する場合のシェルフ特性を考慮した記録ストラテジによる情報記録方法は確立されてないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、大容量の光情報記録媒体に高速で記録する場合のシェルフ特性を考慮した情報記録方法及び係る情報記録方法に好適な光情報記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明は、レーザ光のパワーが加熱パルス、冷却パルス及び消去パルスの各パルスに対応する少なくとも3値に制御され、光情報記録媒体に前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される長さの異なる複数種類の記録マークと、前記消去パルスが照射されることにより前記記録マーク間に形成されるスペースとによって、所定の情報が記録される情報記録方法であって、前記記録マークを形成する際に、一番目の加熱パルスの前に、前記消去パルスのパワー以上で、前記加熱パルスのパワー以下のパワーである予熱パルスを設けることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に係る情報記録方法において、更に、前記予熱パルスと前記一番目の加熱パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記予熱パルスのパワー以下のパワーであるプリ消去パルスを設けることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第2の発明に係る情報記録方法において、更に、前記予熱パルスと前記プリ消去パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記プリ消去パルスのパワー以下のパワーであるプリ冷却パルスを設けることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか一に記載の発明に係る情報記録方法において、前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tの自然数倍の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、2Tの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が1個であり、その後記録マークの長さが2T増える毎に前記加熱パルスの数が一つずつ増える記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第1乃至第3の何れか一に記載の発明に係る情報記録方法において、前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tのn倍(nは自然数)の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、nTの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が(n−1)個である記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか一に記載の発明に係る情報記録方法において、前記消去パルスのパワーと前記加熱パルスのパワーの比(前記消去パルスのパワー/前記加熱パルスのパワー)が0.2以上0.5以下であることを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか一に記載の発明に係る情報記録方法において、前記所定の情報は、15m/s以上の線速度で記録されることを特徴とする。
【0017】
第8の発明は、第1乃至第7の何れか一に記載の発明に係る情報記録方法において、前記レーザ光の波長が400nm帯であることを特徴とする。
【0018】
第9の発明は、レーザ光のパワーが加熱パルス、冷却パルス及び消去パルスの各パルスに対応する少なくとも3値に制御され、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される長さの異なる複数種類の記録マークと、前記消去パルスが照射されることにより前記記録マーク間に形成されるスペースとによって、所定の情報が記録される光情報記録媒体であって、前記記録マークを形成する際に、一番目の加熱パルスの前に、前記消去パルスのパワー以上で、前記加熱パルスのパワー以下のパワーである予熱パルスを設けるための情報があらかじめ書き込まれていることを特徴とする。
【0019】
第10の発明は、第9の発明に係る光情報記録媒体において、更に、前記予熱パルスと前記一番目の加熱パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記予熱パルスのパワー以下のパワーであるプリ消去パルスを設けるための情報があらかじめ書き込まれていることを特徴とする。
【0020】
第11の発明は、第10の発明に係る光情報記録媒体において、更に、前記予熱パルスと前記プリ消去パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記プリ消去パルスのパワー以下のパワーであるプリ冷却パルスを設けるための情報があらかじめ書き込まれていることを特徴とする。
【0021】
第12の発明は、第9乃至第11の何れか一に記載の発明に係る光情報記録媒体において、前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tの自然数倍の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、2Tの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が1個であり、その後記録マークの長さが2T増える毎に前記加熱パルスの数が一つずつ増える記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする。
【0022】
第13の発明は、第9乃至第11の何れか一に記載の発明に係る光情報記録媒体において、前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tのn倍(nは自然数)の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、nTの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が(n−1)個である記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする。
【0023】
第14の発明は、第9乃至第13の何れか一に記載の発明に係る光情報記録媒体において、前記消去パルスのパワーと前記加熱パルスのパワーの比(前記消去パルスのパワー/前記加熱パルスのパワー)が0.2以上0.5以下であることを特徴とする。
【0024】
第15の発明は、第9乃至第14の何れか一に記載の発明に係る光情報記録媒体において、前記所定の情報は、15m/s以上の線速度で記録されることを特徴とする。
【0025】
第16の発明は、第9乃至第15の何れか一に記載の発明に係る光情報記録媒体において、前記レーザ光の波長が400nm帯であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、大容量の光情報記録媒体に高速で記録する場合のシェルフ特性を考慮した情報記録方法及び係る情報記録方法に好適な光情報記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0028】
[光情報記録媒体]
本発明に係る光情報記録媒体は、基板上に少なくとも反射層、保護層、記録層、保護層、光透過層(紫外線硬化型樹脂層)の順に積層された構造、或いは、基板上に少なくとも保護層、記録層、保護層、反射層、紫外線硬化型樹脂層、基板の順に積層された構造を有する。前者の構造は対物レンズのNAが0.85、基板の厚さが1.1mm、光透過層の厚さが0.1mmであるBlu−rayディスクのものである。また、後者の構造は対物レンズのNAが0.65、基板の厚さが0.6mmであるHD DVDディスクのものである。
【0029】
基板には、通常、ガラス、セラミックス、或いは樹脂などの材料が用いられる。また、基板は、準拠する規格に適した大きさ、厚さ、溝形状を有するように成形したものを用いる。例えば、Blu−rayディスク規格では、直径12cm、厚さ1.1mm、トラックピッチが0.32μmであり、通常、幅0.14〜0.18μm、深さ20〜35nmの案内溝を設け、光の入射方向からみて、凸部の溝に記録される、所謂on groove記録が採用されている。この案内溝は、通常は、情報記録装置が記録の際に周波数をサンプリングするために蛇行溝(ウォブル)となっており、ウォブルの位相を反転したり、周波数をある決められた領域で変更したりして、アドレスや、記録に必要な情報などを入力できるようにしてある。
【0030】
記録層には、AgInSbTe、GeAgInSbTe、GeSb、GeSbSn、InSb、InSbGe、GaSb、GaGeSbなどの材料が用いられる。これらは、SbあるいはSb、Teが50%以上を占めるため、Sb系、SbTe系と言っても良い。
【0031】
保護層には、ZnS・SiO2や、TiOx、TaOx、ZrOx、InOx、SnOx、ZnOxなどの酸化物やこれら混合物などの材料が用いられる。
【0032】
反射層には、Ag、Ag−Nd−Cu, Ag−Cu, Ag−Bi、Al−Tiなどの材料が用いられる。
【0033】
シェルフ特性を左右する特に重要な要素は記録層の材料及び記録層の上下にある保護層の材料であるが、耐湿度特性を考慮すると、紫外線硬化型樹脂層の材料も重要である。
【0034】
また、本発明に係る光情報記録媒体の例えば最内周部(リードイン領域)には、本発明に係る情報記録方法に関する最適な記録ストラテジ情報や最適な記録パワー情報などの記録最適化情報が、例えばウォブルやピットなどを用いて書き込まれている。記録最適化情報には、情報記録装置側にあらかじめ格納されている記録ストラテジなどの中から最適なものを選択するために必要な情報なども含まれる。後述する情報記録装置は、本発明に係る光情報記録媒体に書き込まれている記録最適化情報を読み取り、最適な記録ストラテジや最適な記録パワー条件などの最適な記録条件で記録を行うことにより、大容量の光情報記録媒体に高速記録する際にも、シェルフ特性の劣化の小さい好適な記録が可能となる。
【0035】
また、本発明に係る光情報記録媒体は、媒体作製後の記録層が非晶質相になるため、初期化装置により室温条件で1〜2mW程度のレーザ光を走査しながら照射し結晶状態にすること(初期化)が必要であり、初期化を経た後に記録可能になる。
【0036】
[情報記録方法]
本発明は、大容量の光情報記録媒体に高線速度で記録する場合のシェルフ特性を考慮した情報記録方法及び係る情報記録方法に好適な光情報記録媒体を提供することを目的とするが、前述のように、シェルフ特性とは、光情報記録媒体を高温高湿環境下に保存し、その環境下で記録した場合、或いは、光情報記録媒体を高温高湿環境下に保存し室温に戻してから記録した場合のジッタなどの特性をいう。また、シェルフ特性には、高温高湿環境下に放置して、初めて記録した場合の特性と、室温条件で1回以上記録後、高温高湿環境下に放置し、その上に上書き(オーバーライト)する場合の特性とを含む。
【0037】
また、「高線速度で記録する」とは、光情報記録媒体に記録線速度15m/s以上で、最短マーク長、幅が0.1μm以上の情報を記録することをいう。Blu−rayディスク(19.8m/s)では基準線速度の4倍速以上、HD DVDディスクの場合は基準線速の3倍速以上で記録することが「高線速度で記録する」に該当する。また、これ以外の条件で光情報記録媒体に記録する場合を、「低線速度で記録する」という。
【0038】
光情報記録媒体に低線速度で記録する場合には、図19における消去パルスのパワーPeと加熱パルスのパワーPwとの比(消去パルスのパワーPe/加熱パルスのパワーPw)が、0.5よりも大きい場合に記録可能である。初期化により結晶化した光情報記録媒体を、70℃以上、相対湿度85%前後の高温高湿条件下で数100時間以上放置し、室温条件に戻して低線速度(10m/s)でPe/Pw>0.5の条件で1回記録(未記録部に初めて記録)すると、高温高湿条件下に放置前するに室温条件で記録した場合と同等の特性が得られる。すなわち、シェルフ特性は問題にはならない。さらに室温条件で、1回〜10回オーバーライトした後、再び高温高湿環境下に放置した後、室温条件で、予め記録された情報に1回記録(オーバーライト)しても、多少の劣化は見られるが、ジッタ値などは所定の基準値内の特性が得られる。すなわち、シェルフ特性は問題にはならない。
【0039】
高線速度記録の場合、Pe/Pw>0.5の条件で記録すると、記録マーク後端部の再結晶化が低線速度記録の場合に比べて速く進み、記録マークが短くなるため、記録特性が劣化してしまうが、Pe/Pw≦0.5、好ましくはPe/Pw=0.3前後の条件で記録すれば十分な繰り返しオーバーライト特性が得られる。また、0.2>Pe/Pwでは、オーバーライト時に既に記録されている記録マークを消去することができないため、0.2≦Pe/Pwとすることが必要である。すなわち、大容量の光情報記録媒体に高線速度で記録する場合、0.2≦Pe/Pw≦0.5であることが好ましく、Pe/Pw=0.3前後であることがより好ましい。
【0040】
しかし、この条件のみではシェルフ特性が劣化し、ジッタ値が基準値を超えてしまうほど劣化が大きくなる。この問題を媒体条件で解決するため、記録層の材料や保護層の材料が主に検討されてきたが、十分な策が見つかっていないのが現状である。
【0041】
低線速度で記録する場合にシェルフ特性が問題にならなかった理由の一つは、記録層の材料として、結晶化速度が遅い材料が用いられていることである。しかし高温高湿環境下における結晶状態が、室温条件における結晶状態とは異なる状態に変化しており、変化した結晶状態が、高いPe/Pw比(Pe/Pw>0.5)すなわち高い消去パワーで記録することで溶融後再結晶化し、放置前の室温条件における結晶状態と同等の状態に戻ることが大きな要因であると考えられる。しかしながら、高いPe/Pwで高線速度記録できる信頼性の高い光情報記録媒体の構成条件については、現状では見出せていない。
【0042】
以上の状況から、シェルフ特性を劣化させず、大容量の光情報記録媒体に高線速度で記録する方法としては、低Pe/Pw比(0.2≦Pe/Pw≦0.5)の条件でありながら、高線速度で記録する場合にも、高温高湿環境下で変化した結晶状態を、記録前に溶融後再結晶化させ、放置前の室温条件における結晶状態と同等の状態に戻すようなレーザ発光波形(記録ストラテジ)を提案することが必要であると考えられる。
【0043】
高温高湿環境下での試験において、結晶状態が変化すると、変化後は非晶質相が形成しにくい状態になる。また、記録感度が悪くなる傾向になる。変化後に記録層の熱伝導率が高くなると仮定した場合、記録感度が悪くなると予想できるが、感度が単に悪くなるだけならば、記録パワーを高くして記録すれば、記録特性である記録マークのジッタ値は感度が悪くなる前と同等の値になるはずである。しかし、実際には記録パワーを高くして記録しても、ジッタ値は高温高湿保存前に(室温条件下で)記録した場合と同等にはならず劣化する。従って、単に感度が悪くなるだけではない。
【0044】
記録マークのジッタ値をさらに先頭部(Leading edge jitter、略してLEJと呼ぶ)と後端部(Trailing edge jitter、略してTEJと呼ぶ)に分けて測定すると、LEJの方の劣化が大きいことがわかっている。さらに、記録信号振幅(記録した記録マークの最長マークの結晶、非晶質相の反射率差)が小さくなっていることもわかっており、これらより、少なくとも未記録及び記録後の結晶状態が、高温高湿環境下に放置されると変化し、特に記録マーク先頭部の非晶質相の面積が小さくなり、本来記録される記録マーク長が短く、あるいは記録マーク面積が小さくなっていると予想される。
【0045】
変化後の結晶状態において、最適記録パワーの50%以上の消去パワーをトラック一周分連続照射し、その後記録すると、記録後のジッタ特性は高温高湿保存前に記録した場合とほぼ同じ値に回復することがわかった。そこで、この結果に鑑みて、記録マーク先頭部の本来のパワーを照射するよりも前(記録マークを形成する際の一番目の加熱パルスの前)に、記録層が溶融状態になる程度のパワーのパルス(予熱パルス、プリ消去パルス、プリ冷却パルス)を照射し、変化前と同じ結晶状態にしてから記録すれば、シェルフ特性が改善されると考えられる。このような考えに基づいた記録ストラテジを図1及び図2に示す。
【0046】
図1は本発明に係る情報記録方法におけるレーザ光の発光波形の例を示す図である。図1において、横軸は時間、縦軸はレーザパワーである。また、上側はデータ信号であり、下側はレーザ光の発光波形である。レーザ光の発光波形において、レーザパワーがPwであるパルスが加熱パルス、レーザパワーがPbであるパルスが冷却パルス、レーザパワーがPeであるパルスが消去パルス、レーザパワーがPmであるパルスが予熱パルスである。一番目の加熱パルスの前に、消去パルスのパワーPe以上で、加熱パルスのパワーPw以下のパワーPmの予熱パルスを設けていることが特徴である。また、隣接する点線間の間隔が基本クロック周期Tである。
【0047】
図2は本発明に係る情報記録方法におけるレーザ光の発光波形の他の例を示す図である。図2において、横軸は時間、縦軸はレーザパワーである。また、上側はデータ信号であり、下側はレーザ光の発光波形である。レーザ光の発光波形において、レーザパワーがPwであるパルスが加熱パルス、レーザパワーがPbであるパルスが冷却パルス、レーザパワーがPeであるパルスが消去パルス、レーザパワーがPmであるパルスが予熱パルス、予熱パルスの後に設けられているレーザパワーがPe2であるパルスがプリ消去パルスである。 一番目の加熱パルスの前に、消去パルスのパワーPe以上で、加熱パルスのパワーPw以下のパワーPmの予熱パルスを設け、かつ、予熱パルスと一番目の加熱パルスとの間に、冷却パルスのパワーPb以上で、前記予熱パルスのパワーPm以下のパワーPe2のプリ消去パルスを設けていることが特徴である。また、隣接する点線間の間隔が基本クロック周期Tである。尚、図2においては、プリ消去パルスのパワーPe2は、消去パルスのパワーPeと同じ値に設定しても構わない。
【0048】
記録パワーが照射される領域(従来から加熱パルスが照射されている領域)は、予熱パルスよりも高いパワーが照射され、記録層は十分に溶融状態になるので、従来の方法のままで構わない。一番目の加熱パルスの記録パワーのみを、後続の加熱パルスの記録パワーよりも高くするという方法も考えられるが、ピークパワーが高くなってしまい、レーザの発熱などの点で好ましくない。
【0049】
図1の場合、予熱パルスのパワーPmが一番目の加熱パルスのパワーPwと同じになると、単に一番目の加熱パルスのパルス幅が広がったことと同等になる。しかし、単に、一番目の加熱パルスを広げただけでは、シェルフ特性は改善されるかもしれないが、試験前特性(通常の室温条件での記録特性)が劣化し、特に1000回以上の繰り返しオーバーライト特性が劣化してしまい好ましくない。
【0050】
予熱パルスのパワーPmは、消去パルスのパワーPeよりも高い、溶融に足るパワーであって、加熱パルスのパワーPwよりも低いことが好ましい。Pe<Pm<Pwであり、かつPmは、0.8×Pw>Pm≧0.5×Pwであって、Pmの照射時間はクロック周期Tに対して、0.2×T〜Tの範囲が好ましい。
【0051】
波長が405nmであるレーザの立ち上がり、立下り時間は約1.5nsec以下が好ましく、最悪でも3nsec以下でなくてはならない。これ以上長いと、前記録マークへの熱干渉の影響が大きくなり、試験前の特性(通常の室温条件での記録特性)が悪くなる。記録線速度が、より速くなってくると、図1よりも図2の情報記録方法を用いて記録することが好ましい。なぜなら、記録線速度がより速くなってくると、図1のように予熱パルスが一番目の加熱パルスの直前にあっては、必要な温度に達すことができず、十分に溶融再結晶化しないおそれがあるからである。そこで、予熱パルスの開始時間を早くし、十分に温度上昇させることで、溶融再結晶化が可能になる。ただし、開始時間を早くしすぎると前記録マークとの熱干渉により特性が劣化する。また、予熱時間が長すぎるとオーバーライト特性が劣化する。従って、データ信号の開始時間(図2におけるデータ信号の立上がり部)より、2T手前あたりから開始するのが好ましい。照射時間は、2nsec以上が好ましい。
【0052】
BD−RE(Blu−ray Rewritable)規格において4倍速(記録線速19.68m/s)では、Tは約3.8nsecであり、Tを基準にすると、0.5Tが約2nsecになる。予熱時間の上限は8nsec以下であることが好ましい。予熱パルス照射後に、徐冷時間が必要なため、予熱パルスと一番目の加熱パルスとの間に、冷却パルスのパワーPb以上で、予熱パルスのパワーPm以下のパワーPe2であるプリ消去パルスを設けているが、プリ消去パルスの照射時間は2nsec以上確保することが好ましい。
【0053】
図3は本発明に係る情報記録方法におけるレーザ光の発光波形の他の例を示す図である。図3において、横軸は時間、縦軸はレーザパワーである。また、上側はデータ信号であり、下側はレーザ光の発光波形である。レーザ光の発光波形において、レーザパワーがPwであるパルスが加熱パルス、レーザパワーがPbであるパルスが冷却パルス、レーザパワーがPeであるパルスが消去パルス、レーザパワーがPmであるパルスが予熱パルス、予熱パルスの後に設けられているレーザパワーがPb2であるパルスがプリ冷却パルス、プリ冷却パルスの後に設けられているレーザパワーがPe2であるパルスがプリ消去パルスである。
【0054】
一番目の加熱パルスの前に、消去パルスのパワーPe以上で、加熱パルスのパワーPw以下のパワーPmの予熱パルスを設け、かつ、予熱パルスの後に、冷却パルスのパワーPb以上で、プリ消去パルスのパワーPe2以下のパワーPb2であるプリ冷却パルスを設け、プリ冷却パルスの後に、冷却パルスのパワーPb以上で、予熱パルスのパワーPm以下のパワーPe2のプリ消去パルスを設けていることが特徴である。また、隣接する点線間の間隔が基本クロック周期Tである。尚、図3においては、プリ消去パルスのパワーPe2は、消去パルスのパワーPeと同じ値に設定しても構わない。また、プリ冷却パルスのパワーPb2は、冷却パルスのパワーPbと同じ値に設定しても構わない。
【0055】
図3は、図2よりも冷却を促進するために、予熱パルスとプリ消去パルスとの間に、冷却パルスのパワーPb以上で、プリ消去パルスのパワーPe2以下のパワーPb2であるプリ冷却パルスを設けていることが特徴である。プリ冷却パルスを設けることにより、記録マーク形成直前で、溶融再結晶状態が形成され、記録マーク先頭部のマークを確実に形成でき、試験前後の記録特性の劣化を小さくすることができる。すなわち、シェルフ特性を改善できる。
【0056】
図4は高温高湿環境下に保存された光情報記録媒体に記録された記録マークの例を示す模式図である。矢印はトラック方向を示しており、図の左側が先頭部、右側が後端部である。図4の点線部を含む記録マークが本発明に係る情報記録方法により記録した場合の記録マークであり、点線部を除いた記録マークが従来の情報記録方法で記録した場合の記録マークである。図4に示すように、本発明に係る情報記録方法によれば、高温高湿環境下に保存された光情報記録媒体に対しても、記録マーク形成直前で溶融再結晶状態が形成されることにより、記録マーク先頭部のマークを確実に形成することができる。
【0057】
[情報記録装置]
次に、本発明に係る情報記録方法(記録ストラテジ)を実現するための情報記録装置の構成例について説明する。図5は本発明に係る情報記録方法を実現する情報記録装置100の主要部を概略的に例示する図である。
【0058】
10は、本発明に係る光情報記録媒体である。上述のように、本発明に係る光情報記録媒体の、例えばリードイン領域などの所定の領域には、本発明に係る情報記録方法を実現するために必要な記録ストラテジ情報や記録パワー情報などの記録最適化情報が書き込まれている。
【0059】
光情報記録媒体10に対してデータの記録を行う情報記録装置100は、主にスピンドルモータ20、レーザ光照射手段30、プリアンプ40、サーボ駆動回路50、コントロール手段60などから構成されている。また、レーザ光照射手段30は、光ピックアップ31、レーザ駆動手段32から構成されている。また、コントロール手段60は、主にフォーカスサーボ手段61、トラッキングサーボ手段62、レーザパワー制御手段63などから構成されている。
【0060】
図5において、スピンドルモータ20は、光情報記録媒体10を所定の回転数で回転させるためのモータである。レーザ光照射手段30は、光情報記録媒体10にレーザ光を照射する手段であり、レーザ光照射手段30中の光ピックアップ31は、可動するレンズ(図示せず)により光情報記録媒体10の所望のトラックにレーザ光を追従させ、光情報記録媒体10からの反射光を受光し、電気信号に変換するデバイスである。また、レーザ光照射手段30中のレーザ駆動手段32は、レーザパワー制御手段63が生成するレーザ駆動信号を受け、光ピックアップ31に搭載されたレーザ(図示せず)を所望のパワーや所望のタイミングなどで発光させる手段である。
【0061】
プリアンプ40は、光ピックアップ31から入力された電気信号からフォーカスエラー信号の生成等を行う回路である。サーボ駆動回路50は、スピンドルモータ20や光ピックアップ31のレンズ(図示せず)を駆動する回路である。コントロール手段60は、フォーカスサーボ手段61が実行するフォーカスサーボやトラッキングサーボ手段62が実行するトラッキングサーボなどのサーボ制御や、レーザパワー制御手段63が実行するレーザを所望のパワーや所望のタイミングなどで発光させるためのレーザ駆動信号を生成するレーザパワー制御を含めた情報記録装置100の全体の制御を行う手段である。
【0062】
光ピックアップ31とレーザ駆動手段32から構成されるレーザ光照射手段30とレーザパワー制御手段63により、光ピックアップ31に搭載されたレーザ(図示せず)を本発明に係る記録方法を実現する記録ストラテジで発光させることができる。
【0063】
コントロール手段60の指令により、レーザパワー制御やサーボ制御が行われると、スピンドルモータ20により回転する光情報記録媒体10の記録面の所望のトラックにフォーカスサーボ、トラッキングサーボがかかった状態になり、所望のトラックに対して、レーザ光のスポットが自動的に追従する。
【0064】
情報記録装置100を用いて本発明に係る光情報記録媒体10にデータの記録を行う場合には、光情報記録媒体10の所定の領域に書き込まれている記録最適化情報が読み出され、これに基づいて最適な記録ストラテジや最適な記録パワーなどが決定される。決定された最適な記録ストラテジや最適な記録パワーなどを実現するためにコントロール手段60中のレーザパワー制御手段63は、レーザ光照射手段30中のレーザ駆動手段32に出力するレーザ駆動信号を生成する。レーザパワー制御手段63は、例えば、記録マーク長をカウントし、カウント値が2T増加する毎に1組の加熱パルスと冷却パルスとが生成されるようなレーザ駆動信号を生成する。
【0065】
レーザ光照射手段30中のレーザ駆動手段32は、入力されたレーザ駆動信号に基づいて、レーザ光照射手段30中の光ピックアップ31に搭載されたレーザ(図示せず)を決定された最適な記録ストラテジ(本発明に係る記録ストラテジ)などで発光させ、光情報記録媒体10に情報の記録が行われる。
【0066】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【0067】
〈実施例1、比較例1〉
螺旋状の連続グルーブを転写したBD−RE用ポリカーボネート基板に、反射層、第二保護層、相変化記録層、第一保護層、カバー層を順次積層し、記録層を初期結晶化したものを試料として用いた。反射層としてAg−0.5wt%Bi合金、膜厚140nm、第二保護層としてZnO−2wt%Al2O3、膜厚8nm、相変化記録層としてIn18Sb77Ge3Zn2(原子%)、膜厚11nm、第一保護層としてZnS−20mol%SiO2、膜厚33nmを、Unaxis社製スパッタ装置、DVD Sprinterにて成膜した。これに、紫外線硬化樹脂からなる接着材をスピンコート法により塗布し、厚さ0.75μmの帝人製ポリカーボネートフィルムを貼り合せてカバー層を形成した。次いで、大口径LDにより記録層を初期結晶化した。
【0068】
このようにして得られた試料に、パルステック工業社製の記録・再生信号評価装置ODU−1000を用いて情報の記録を行った。記録に使用したレーザ光の波長は405nmである。25GBのBDの4倍速に相当する19.68m/s、チャンネルクロック(基本クロック周期)も同様に4倍速相当の264MHz(T=3.79sec)に設定した。このときの最短記録マーク長2Tは、0.149μmに相当する。また、記録する情報はBDの変調方式である1-7PPに準拠したランダムパターンとした。
【0069】
記録ストラテジとしては、複数種類の記録マークのうちの、2Tの長さに対応する記録マークを形成する際の加熱パルスの数が1個であり、その後記録マークの長さが2T増える毎に加熱パルスの数が一つずつ増えるN/2記録ストラテジを用いた。図6は従来のN/2記録ストラテジの例を示す図である。また、図7は実施例1で用いた本発明に係る記録ストラテジを示す図である。実施例1では、図6に示した従来の記録ストラテジ(N/2記録ストラテジ)に図1に示すような予熱パルスを盛り込んだ図7に示した記録ストラテジ(N/2記録ストラテジの改良)にて記録を行った。
【0070】
図6及び図7において、隣接する点線間が基本クロック周期Tであり、一番上は、データ信号の立上がり位置を示している。また、その下は順番に、基本クロック周期Tの2倍である2Tの長さに対応する記録マークを形成するための記録ストラテジ、基本クロック周期Tの3倍である3Tの長さに対応する記録マークを形成するための記録ストラテジ、以下同様に4T〜9Tの長さに対応する記録マークを形成するための記録ストラテジを示している。ここで、記録ストラテジとは、光情報記録媒体に所定の長さの記録マークを正確な形状で書き込むためのレーザの発光パターンをいい、パルス数、パルス幅、パルス間隔、パルス開始位置、パルスのパワーなどのパラメータにより設定される。図8は図7に示した本発明に係る記録ストラテジの発光波形条件(パラメータ設定)を示す図である。
【0071】
熱干渉による、記録マーク先頭部あるいは後端部の記録マーク形成への影響、すなわち符号間干渉による影響を少なくするように、対象記録マーク前にくるスペース長の種類に応じて、パルスの開始時間を調整する。加熱パルスのパワーPw=8.5mW、消去パルスのパワーPe=2.72mW(Pe/Pw=0.32)、予熱パルスのパワーPm=6mW、冷却パルスのパワーPb=0.1mWとした。
【0072】
図9は高温高湿試験前の一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。また、図10は未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。 また、この光情報記録媒体のオーバーライト10回後のジッタ値が最小となる記録パワーを最適記録パワーとすると、そのパワーは8.5mWであった。ジッタの基準値を7%に設定した場合、図9及び図10において、最適記録パワー8.5mWのジッタは基準値である7%以下になっており、図7に示した本発明に係る記録ストラテジで記録した場合には、良好なシェルフ特性が得られることがわかった。
【0073】
比較例1として、実施例1と同じ光情報記録媒体に、予熱パルスPmを照射しない図6の従来のN/2記録ストラテジを用いて記録した場合の結果を示す。その他の記録条件は実施例1と同じである。図11は高温高湿試験前の一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。また、図12は未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。図11において、最適記録パワー8.5mWのジッタは基準値である7%以下になっているが、図12において、最適記録パワー8.5mWのジッタ(LEJ)は基準値である7%を超えている。つまり、高温高湿保存後に記録した場合のジッタ値が悪化しており、シェルフ特性が劣化している。
【0074】
〈実施例2〉
実施例2では、実施例1と同じ光情報記録媒体に、実施例1とは異なる記録ストラテジで記録した。実施例2では、図6に示した従来の記録ストラテジに図2に示すような予熱パルスとプリ消去パルスを盛り込み記録を行った。尚、実施例2では、プリ消去パルスのパワーは、消去パルスのパワーPeと同じ値に設定した。加熱パルスのパワーPw=8.5mW、消去パルスのパワー(プリ消去パルスのパワー)Pe=2.72mW(Pe/Pw=0.32)、予熱パルスのパワーPm=6mW、冷却パルスのパワーPb=0.1mWとした。
【0075】
図13は実施例2で用いた本発明に係る記録ストラテジを2Tマークの場合を代表させて示す図である。図13においては2Tマークのみを図示しているが、3Tマークより長いマークにも同様のストラテジが適用される。図14は図13に示した本発明に係る記録ストラテジの発光波形条件(パラメータ設定)を示す図である。予熱パルスのパラメータはデータ信号の開始位置(立上がり位置)を基準にそれより手前の時間を指している。
【0076】
実施例1と同じ光情報記録媒体に、図13に示す記録ストラテジで記録した後、実施例1と同じ条件で、試験前後のジッタ値を測定した。
【0077】
図15は高温高湿試験前の一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。また、図16は未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。図15及び図16において、最適記録パワー8.5mWのジッタは基準値である7%以下になっており、図13に示した本発明に係る記録ストラテジで記録した場合には、良好なシェルフ特性が得られることがわかった。尚、実施例2においては、高温高湿保存前後の記録後再生時の最適記録パワー8.5mWにおけるジッタ値が実施例1よりもさらに改善されており、図13に示す記録ストラテジはシェルフ特性の改善に大変有効であることがわかった。
【0078】
〈実施例3〉
実施例3では、実施例1及び実施例2と同じ光情報記録媒体に、実施例1及び実施例2とは異なる記録ストラテジで記録した。実施例3では、図6に示した従来の記録ストラテジに図3に示すような予熱パルス、プリ消去パルス、プリ冷却パルスを盛り込み記録を行った。徐冷効果と予熱の影響を小さくするために予熱パルス照射後にプリ冷却パルスを設けたことが特徴である。プリ冷却パルスのパワーは、冷却パルスと同じパワーPbに設定した。加熱パルスのパワーPw=8.5mW、消去パルスのパワー(プリ消去パルスのパワー)Pe=2.72mW(Pe/Pw=0.32)、予熱パルスのパワーPm=6mW、冷却パルスのパワー(プリ冷却パルスのパワー)Pb=0.1mWとした。
【0079】
図17は実施例3で用いた本発明に係る記録ストラテジを2Tマークの場合を代表させて示す図である。図17においては2Tマークのみを図示しているが、3Tマークより長いマークにも同様のストラテジが適用される。図18は図17に示した本発明に係る記録ストラテジの発光波形条件(パラメータ設定)を示している。予熱パルスのパラメータはデータ信号の開始位置(立上がり位置)を基準にそれより手前の時間を指している。
【0080】
実施例3では、高温高湿試験前の一回目の記録を最適記録パワーである8.5mWで記録した場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタと、未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録を最適記録パワーである8.5mWで記録した場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタとを測定した。その結果、高温高湿試験前のジッタ値は、LEJ 6.1%、TEJ 5.9%であり、高温高湿試験後のジッタ値は、LEJ 6.5%、TEJ 6.1%であった。いずれも、最適記録パワー8.5mWのジッタは基準値である7%以下になっており、実施例1及び実施例2と同様に、図17に示す記録ストラテジはシェルフ特性の改善に大変有効であることがわかった。
【0081】
〈実施例4、比較例2〉
実施例4では、実施例1〜3と同じ光情報記録媒体に、実施例3と同じ図17に示す記録方法(記録ストラテジ)を用い、室温条件でオーバーライトを10回行い、記録後の記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタを測定した。その結果、LEJ 6.7%、TEJ 6.5%であった。更に、この光情報記録媒体を80℃、85%RHの高温高湿環境下で100時間放置した後に、同じ記録条件でオーバーライトを1回行い、記録後の記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタを測定した。その結果、LEJ 7.5%、TEJ 6.9%であった。
【0082】
一方、比較例2として、実施例1〜3と同じ光情報記録媒体に、比較例1と同じ図6に示す記録方法(記録ストラテジ)で室温条件でオーバーライトを10回行い、記録後の記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタとを測定した(但し、Pwは8.45mWとした)。その結果、LEJ 6.5%、TEJ 6.3%であった。更に、この光情報記録媒体を80℃、85%RHの高温高湿環境下で100時間放置した後に、同じ記録条件でオーバーライトを1回行い、記録後の記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタとを測定した。その結果、LEJ 10.4%、TEJ 7.6%と大きく劣化していた。
【0083】
実施例4の試験は、実施例1〜3よりも条件が厳しいため、実施例4におけるジッタ値の基準値は8.5%とした。従って、本発明に係る記録方法を用いることで、室温条件で複数回記録後、記録したマークを高温環境下に放置して、再度記録しても劣化が抑えられることがわかった。
【0084】
〈実施例5、比較例3〉
実施例5では、実施例1〜4と同じ光情報記録媒体に、実施例1〜4とは異なる記録ストラテジで記録した。実施例5では、図19に示したnTマークに対してパルスの数が(n−1)個であるタイプの発光パルス(n−1方式記録ストラテジ)を用い、更に、一番目の加熱パルスの前に図17と同様に予熱パルス、プリ消去パルス、プリ冷却パルスを設定する記録ストラテジを用いた。
【0085】
加熱パルスのパワーPw=10.5mW、消去パルスのパワー(プリ消去パルスのパワー)Pe=2.95mW(Pe/Pw=0.28)、予熱パルスのパワーPm=6mW、冷却パルスのパワー(プリ冷却パルスのパワー)Pb=0.1mWとした。また、レーザは、立ち上がり時間0.8nsecという立ち上がり時間の速いものを使用している。他の記録条件は実施例1〜4と同じである。未記録のまま80℃、85%RHの環境下に放置後、1回記録し、記録後の記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタとを測定した。
【0086】
測定の結果、高温試験前のジッタ値は、LEJ 6.2%、TEJ 6.0%であり、高温高湿試験後のジッタ値は、LEJ 6.7%、TEJ 6.2%であった。いずれも、最適記録パワー8.5mWのジッタは基準値である7%以下になっており、実施例5のようなn−1方式記録ストラテジの場合も、予熱パルス等を追加することは、シェルフ特性の改善に大変有効であることがわかった。
【0087】
一方、比較例3では、実施例5と同じ光情報記録媒体に、実施例5とは異なる記録ストラテジで記録した。比較例3では、図19に示したnTマークに対してパルスの数が(n−1)個であるタイプの発光パルスを設定する記録ストラテジを用いた(先頭パルスの前に予熱パルス、プリ冷却パルス、プリ消去パルスは設定していない)。未記録のまま80℃、85%RHの環境下に放置後、1回記録し、記録後の記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタとを測定した。他の記録条件は実施例5と同じである。
【0088】
測定の結果、高温試験前のジッタ値は、LEJ 6.2%、TEJ 6.0%であり、高温高湿試験後のジッタ値は、LEJ 9.4%、TEJ 7.5%と大きく劣化していた。尚、この試験の場合のジッタ基準値は7.0%とした。
【0089】
以上、実施例1〜5及び比較例1〜3に示したように、本発明に係る情報記録方法を用いれば、例えば、ブルーレイディスク(BD−RE)のような大容量の記録媒体に、高線速度で記録する場合でも、シェルフ特性を劣化させずに好適な記録を行うことができる。
【0090】
また、本発明に係る光情報記録媒体にあらかじめ書き込まれている記録ストラテジなどの情報を、情報記録装置において読み出して記録することにより、シェルフ特性を劣化させない好適な記録を行うことができる。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0092】
例えば、本発明の実施形態及び実施例においては、一層の光情報記録媒体に記録する例を示したが、二層以上の光情報記録媒体に対しても、本発明を同様に適用することができる。
【0093】
また、本発明の実施形態及び実施例においては、ブルーレイディスク(BD−RE)に記録する例を示したが、HD DVDなどの他の光情報記録媒体に対しても、本発明を同様に適用することができる。
【0094】
また、本発明の実施形態及び実施例においては、1-7PPなる変調方式を用いて記録する例を示したが、他の変調方式を用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る情報記録方法におけるレーザ光の発光波形の例を示す図である。
【図2】本発明に係る情報記録方法におけるレーザ光の発光波形の他の例を示す図である。
【図3】本発明に係る情報記録方法におけるレーザ光の発光波形の他の例を示す図である。
【図4】高温高湿環境下に保存された光情報記録媒体に記録された記録マークの例を示す模式図である。
【図5】本発明に係る情報記録方法を実現する情報記録装置100の主要部を概略的に例示する図である。
【図6】従来のN/2記録ストラテジの例を示す図である。
【図7】実施例1で用いた本発明に係る記録ストラテジを示す図である。
【図8】図7に示した本発明に係る記録ストラテジの発光波形条件(パラメータ設定)を示す図である。
【図9】高温高湿試験前の一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。
【図10】未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。
【図11】高温高湿試験前の一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。
【図12】未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。
【図13】実施例2で用いた本発明に係る記録ストラテジを2Tマークの場合を代表させて示す図である。
【図14】図13に示した本発明に係る記録ストラテジの発光波形条件(パラメータ設定)を示す図である。
【図15】高温高湿試験前の一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。
【図16】未記録状態で80℃、85%RHに100時間放置後、一回目の記録をした場合における記録マークの先頭部(LEJ)と後端部(TEJ)のジッタの記録パワー依存性を示す図である。
【図17】実施例3で用いた本発明に係る記録ストラテジを2Tマークの場合を代表させて示す図である。
【図18】図17に示した本発明に係る記録ストラテジの発光波形条件(パラメータ設定)を示す図である。
【図19】従来の記録ストラテジの例を示す図である。
【図20】従来の記録ストラテジの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
10 光情報記録媒体
20 スピンドルモータ
30 レーザ光照射手段
31 光ピックアップ
32 レーザ駆動手段
40 プリアンプ
50 サーボ駆動回路
60 コントロール手段
61 フォーカスサーボ手段
62 トラッキングサーボ手段
63 レーザパワー制御手段
100 情報記録装置
Pw 加熱パルスのパワー
Pb 冷却パルスのパワー
Pe 消去パルスのパワー
Pm 予熱パルスのパワー
Pb2 プリ冷却パルスのパワー
Pe2 プリ消去パルスのパワー
T 基本クロック周期
2T〜9T 記録マーク
Tmp、Tspt、Tesp、Tlp、ΔTlc、Tm、Te 記録ストラテジのパラメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光のパワーが加熱パルス、冷却パルス及び消去パルスの各パルスに対応する少なくとも3値に制御され、光情報記録媒体に前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される長さの異なる複数種類の記録マークと、前記消去パルスが照射されることにより前記記録マーク間に形成されるスペースとによって、所定の情報が記録される情報記録方法であって、
前記記録マークを形成する際に、一番目の加熱パルスの前に、前記消去パルスのパワー以上で、前記加熱パルスのパワー以下のパワーである予熱パルスを設けることを特徴とする情報記録方法。
【請求項2】
更に、前記予熱パルスと前記一番目の加熱パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記予熱パルスのパワー以下のパワーであるプリ消去パルスを設けることを特徴とする請求項1記載の情報記録方法。
【請求項3】
更に、前記予熱パルスと前記プリ消去パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記プリ消去パルスのパワー以下のパワーであるプリ冷却パルスを設けることを特徴とする請求項2記載の情報記録方法。
【請求項4】
前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tの自然数倍の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、2Tの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が1個であり、その後記録マークの長さが2T増える毎に前記加熱パルスの数が一つずつ増える記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の情報記録方法。
【請求項5】
前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tのn倍(nは自然数)の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、nTの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が(n−1)個である記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の情報記録方法。
【請求項6】
前記消去パルスのパワーと前記加熱パルスのパワーの比(前記消去パルスのパワー/前記加熱パルスのパワー)が0.2以上0.5以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の情報記録方法。
【請求項7】
前記所定の情報は、15m/s以上の線速度で記録されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の情報記録方法。
【請求項8】
前記レーザ光の波長が400nm帯であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項記載の情報記録方法。
【請求項9】
レーザ光のパワーが加熱パルス、冷却パルス及び消去パルスの各パルスに対応する少なくとも3値に制御され、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される長さの異なる複数種類の記録マークと、前記消去パルスが照射されることにより前記記録マーク間に形成されるスペースとによって、所定の情報が記録される光情報記録媒体であって、
前記記録マークを形成する際に、一番目の加熱パルスの前に、前記消去パルスのパワー以上で、前記加熱パルスのパワー以下のパワーである予熱パルスを設けるための情報があらかじめ書き込まれていることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項10】
更に、前記予熱パルスと前記一番目の加熱パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記予熱パルスのパワー以下のパワーであるプリ消去パルスを設けるための情報があらかじめ書き込まれていることを特徴とする請求項9記載の光情報記録媒体。
【請求項11】
更に、前記予熱パルスと前記プリ消去パルスとの間に、前記冷却パルスのパワー以上で、前記プリ消去パルスのパワー以下のパワーであるプリ冷却パルスを設けるための情報があらかじめ書き込まれていることを特徴とする請求項10記載の光情報記録媒体。
【請求項12】
前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tの自然数倍の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、2Tの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が1個であり、その後記録マークの長さが2T増える毎に前記加熱パルスの数が一つずつ増える記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする請求項9乃至11の何れか一項記載の光情報記録媒体。
【請求項13】
前記複数種類の記録マークは、基本クロック周期Tのn倍(nは自然数)の長さに対応する複数種類の記録マークであって、前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される前記複数種類の記録マークは、nTの長さに対応する前記記録マークを形成する際の前記加熱パルスの数が(n−1)個である記録ストラテジを用いて形成されることを特徴とする請求項9乃至11の何れか一項記載の光情報記録媒体。
【請求項14】
前記消去パルスのパワーと前記加熱パルスのパワーの比(前記消去パルスのパワー/前記加熱パルスのパワー)が0.2以上0.5以下であることを特徴とする請求項9乃至13の何れか一項記載の光情報記録媒体。
【請求項15】
前記所定の情報は、15m/s以上の線速度で記録されることを特徴とする請求項9乃至14の何れか一項記載の光情報記録媒体。
【請求項16】
前記レーザ光の波長が400nm帯であることを特徴とする請求項9乃至15の何れか一項記載の光情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−70491(P2009−70491A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238271(P2007−238271)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】