説明

光機能素子およびその製造方法

【課題】 従来、カーボンナノチューブを含む光機能素子は、カーボンナノチューブを含む薄膜により形成していた。しかし、十分な膜厚を確保できないため、カーボンナノチューブと入射光とが十分に相互作用することができない。効率的に非線形効果を発揮できる光機能素子は存在しなかった。
【解決手段】 フォトニック結晶、もしくは、フォトニックバンドギャップ構造を持つファイバ内の中空構造の光導波路の内部、または、中空の周期的配列要素の内部に、チューブ軸の揃ったカーボンナノチューブを形成する。突起構造対を設けたり、外部から電場・磁場を印加したりすることによって、光軸方向に沿って、すなわち入射光の進行方向に渡って、チューブ軸を一定方向に揃えることが出来る。光機能素子や光偏光子偏波保持の性能を飛躍的に向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの光学特性を利用した光機能素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは光エレクトロニクスへの応用を中心に多彩な機能が開拓され、光学応用について非常に大きな非線形光学特性を持つことが予想されている。カーボンナノチューブにおいては、炭素原子の配列によってエネルギーバンドギャップが生じ、配列方向やチューブ径によって電子構造が変化するという特徴がある。π電子共役系有機材料の非線形効果は炭素原子の数が大きいほど大きくなり、カーボンナノチューブは軸方向に多数の炭素原子を含むことから大きな非線形光学効果が期待されている。さらに、カーボンナノチューブの光励起によって作られたキャリアの緩和過程が高速(≦ps、1ps=10-12秒)であることから、様々な光学応用が考えられている。
【0003】
カーボンナノチューブは、そのまま単体では光学素子として使用することは出来ない。そこで、カーボンナノチューブを有機溶媒に分散させて、基板に吹きつけ、溶媒を蒸発させることによって、薄膜を作る方法が検討されている(非特許文献1参照)。
【0004】
図9は、ガラス基板上にカーボンナノチューブを堆積させて形成した薄膜の断面図である。ガラス基板92の上に、カーボンナノチューブおよびポリマーからなる薄膜91が形成されている。カーボンナノチューブは分子間力によってお互いにひきつけあい、「ハンドル束」と呼ばれる凝集体を形成してしまう。この束状構造を持つようになると、カーボンナノチューブの光学特性は著しく劣化してしまう。そこで、界面活性剤によってカーボンナノチューブをミセル化し、遠心分離をすることにより、一本のカーボンナノチューブの光学特性を得る方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【0005】
カーボンナノチューブは、入射光の光電場の方向によって光に対する応答が異なる。光電場とチューブ軸が平行な場合には、光学遷移が起こる。これに対し、光電場とチューブ軸が垂直な場合には、チューブの直径が極めて小さいために、外部光電場によりチューブ上に誘起された分極によって外部電場が打ち消される「反電場効果」が発生する。この反電場効果の発生によって、光学遷移は抑えられ、光吸収が抑えられる。このため、入射光の光電場の向きに依存して大きく光吸収が異なり、非線形光学効果の効率は下がってしまう。この問題に対応する方法として、カーボンナノチューブのチューブ軸を揃えるためにポリマー中にカーボンナノチューブを分散させ、それを引き伸ばすことによってカーボンナノチューブ薄膜を作製する方法も提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術には、依然として以下に述べるような問題点があった。カーボンナノチューブを光機能デバイスとして利用する場合、大きな非線形光学効果を得るためには、十分な薄膜の厚さが必要となる。しかし、図9に示したような薄膜構造においては、一般に高々数μm〜数百μm程度の膜厚しか得られないため、実用的な非線形光効果を持つ光機能素子を形成させるには十分ではない。また、実用的な膜厚を持ち、さらに各々のチューブ軸の方向の揃ったカーボンナノチューブを備えた光機能素子は、これまで存在しなかった。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑み、光軸方向、すなわち入射光の進行方向上に長い距離に亘って、カーボンナノチューブが多数存在させ、さらに各々のチューブ軸の方向が揃っている構造にすることによって、入射光に対しカーボンナノチューブを高効率に相互作用させることを目的としている。さらに、入射偏波軸によって光の吸収が異なることを利用することによって、フォトニックバンドギャップファイバに偏波保持や偏光子としての機能を持たせ、カーボンナノチューブ独特の光学特性を活かした光機能素子を提供することを目的とする。
【0008】
【特許文献1】特開11−11917号公報
【特許文献2】特開2000−86216号公報
【非特許文献1】H.Kataura et al, “Optical properties of single-wall carbon nanotubes," Synth,Met.,103, pp.2555-2558(1999)
【非特許文献2】M.O'Connell et al.,“Band Gap Fiuorescence from Individual Single-Walled Carbon Nanotubes" Science 297, pp.593-596(2002) .
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、入射光を入射させる入射部と、前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、前記入射部と前記出射部を結合し、前記入射光が伝播する中空の光導波路と、前記光導波路の内部の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブとを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記カーボンナノチューブの光吸収波長において高反射率を有し、前記中空の光導波路の内壁面上に形成された金属薄膜を、さらに備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記光導波路は、周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶の一部が、中空となるように形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記光導波路は、中空部と、前記中空部の周囲を囲んで配置されたクラッドであって、前記クラッドは周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップ構造部を含み、前記フォトニックバンドギャップ構造部は前記中空部に接していることとを備えるフォトニックバンドギャップファイバにおける、前記中空部によって形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記中空部の断面形状は、2回回転対称形状であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明において、前記複数のカーボンナノチューブは、前記入射光に垂直な第1の方向、並びに、前記入射光に垂直であって前記第1の方向に概ね直交する第2の方向に沿って、前記中空の光導波路内の対向する内壁面間を架橋するように、それぞれ形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、入射光を入射させる入射部と、前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、中空の周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶と、前記入射部と前記出射部を結合して前記入射光を伝播させる光導波路であって、前記光導波路は前記フォトニック結晶中の線欠陥により形成されることと、前記光導波路に沿って隣接して配置された中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素内の対向する内壁面間を架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブとを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、入射光が伝播するコアと、前記コアの周囲に配置されたクラッドであって、前記クラッドは周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップ構造部を含み、前記フォトニックバンドギャップ構造部は前記コアに接していることと、前記コアに隣接する中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素内の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成された複数のカーボンナノチューブとを含むフォトニックバンドギャップファイバから構成されることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の発明において、中空の前記光導波路、前記中空部、または、中空の前記周期的配列要素の内部に、金属触媒を有することを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の発明において、中空の前記光導波路、前記中空部、または、中空の前記周期的配列要素の内部の中空空間において、対向する内壁面上に突起構造対を有し、前記突起構造対間を前記カーボンナノチューブが架橋されるように形成されることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の発明において、前記複数のカーボンナノチューブは、各々が孤立して互いに接触せず束状構造を構成していないことを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の発明は、請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の発明において、前記複数のカーボンナノチューブの各々のチューブ軸は、同一の方向、または、前記第1の方向および前記第2の方向に揃っていることを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載の発明は、請求項4、5、8、並びに、請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の発明において、前記フォトニックバンドギャップファイバは、偏波保持ファイバであることを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載の発明は、入射光を入射させる入射部と、前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、前記入射部と前記出射部を結合し、前記入射光が伝播する中空の光導波路と、前記光導波路の内部の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブとを備えることを特徴とする光機能素子、または、入射光を入射させる入射部と、前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、中空の周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶と、前記入射部と前記出射部を結合して前記入射光を伝播させる光導波路であって、前記光導波路は前記フォトニック結晶中の線欠陥により形成されることと、前記光導波路に沿って隣接して配置された中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素の対向する内壁面間架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブとを備えたことを特徴とする光機能素子、または、入射光が伝播するコアと、前記コアの周囲に配置されたクラッドであって、前記クラッドは周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップ構造部を含み、前記フォトニックバンドギャップ構造部は前記コアに接していることと、前記コアに隣接する中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成された複数のカーボンナノチューブとを含むフォトニックバンドギャップファイバから構成されることを特徴とする光機能素子の製造方法であって、前記中空の光導波路内、前記フォトニック結晶中の前記周期的配列要素内、または、前記フォトニックバンドギャップ構造部の前記周期的配列要素内に、前記カーボンナノチューブのチューブ軸を一定方向に均一に揃えて形成するステップを備えることを特徴とする。
【0023】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、前記カーボンナノチューブのチューブ軸を一定方向に均一に揃えて形成するステップは、前記光機能素子の外部より前記光機能素子に電場または磁場を印加して形成することを特徴とする。
【0024】
請求項16に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、前記カーボンナノチューブのチューブ軸を一定方向に均一に揃えて形成するステップは、前記中空の導波路内、前記フォトニック結晶中の前記周期的配列要素内、または、前記フォトニックバンドギャップ構造部の前記周期的配列要素内の内壁面に、入射光の進行方向に垂直な向きに、対向して配置された突起構造対を形成するステップをさらに備え、前記対向して配置された突起構造対の間に、前記カーボンナノチューブを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば光軸方向、すなわち、入射光の進行方向上に長い距離に亘ってカーボンナノチューブを多数存在させ、さらに各々のチューブ軸の方向を揃えることによって、入射光に対しカーボンナノチューブを高効率に相互作用させることが可能となる。また、フォトニック結晶中にカーボンナノチューブを成長させることによって、光機能素子のサイズを小型化することができる。カーボンナノチューブ特有の光学特性を活かした光機能性素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明にかかる光機能素子は、中空の光導波路内にカーボンナノチューブを形成しているところに特徴がある。以下、この光機能素子およびその製造方法について、詳細に説明する。
【0027】
<第1の実施形態>
・ フォトニック結晶中においてチューブ軸の方向を揃えた光機能素子
図1は、フォトニックバンドギャップ構造を持つフォトニック結晶中にカーボンナノチューブを成長させた光機能素子の構造を示す図である。フォトニックバンドギャップ構造を持つフォトニック結晶中において、中空の光導波路内面の対向する内壁面の間に、架橋するようにカーボンナノチューブを成長させ、チューブの軸の方向を揃えた構造としているところに、本光機能素子構造の特徴がある。
【0028】
図1(a)は、空孔の周期構造を持つフォトニック結晶内に光導波路を持つ光機能素子の上面図を示す。基板10上に、空孔の周期構造12が配置されている。周期構造12を構成する周期的配列要素の空孔は、例えば、円柱形状をしている。周期構造12の中央には、周期構造12の一部を除去して、中空の光導波路18が形成されている。この光導波路18内面の対向する内壁面間を橋渡しするように、複数のカーボンナノチューブ11が形成されている。矢印15は、本光機能素子への光の入射方向を示している。図1(b)は、図1(a)の光機能素子を光の入射方向15から見た場合の光入射部側の側面図である。基板10は、光機能素子全体を物理的に保持し、その上に周期構造12および光導波路18を形成できるものであれば良い。また、光導波路18の断面形状は、矩形となっているが、必ずしもこれに限定されるわけではない。光導波路18の一端は光入射部となり、光導波路18のもう一方の端は光出射部となる。尚、空孔の形状は円柱形状に限定されず、直方体であっても、三角柱であっても良い。また、中空の光導波路18は、周期構造12を形成後にその一部を除去するのではなく、あらかじめ光導波路18とする中空部分が形成されるように周期構造12を形成しても良い。
【0029】
図1(c)は、円柱の周期構造を持つフォトニック結晶内に光導波路を持つ光機能素子の上面図を示す。基板10上に、円柱の周期構造13が配置されており、中央には、周期構造13の一部のない中空の光導波路18が形成されている。この光導波路18の両側にある各々の円柱間を橋渡しするように、複数のカーボンナノチューブ11が形成されている。矢印15は、本光機能素子への光の入射方向を示している。図1(d)は、図1(c)の光機能素子を光の入射方向15から見た場合の側面図である。この周期構造13における周期的配列要素も、円柱形状には限られない。
【0030】
図1(e)は、屈折率の異なる媒質(誘電体など)の多層構造14を持つフォトニック結晶内に光導波路を持つ光機能素子の上面図を示す。基板10上に、一定の屈折率を持つ媒質層19が形成されている。媒質層19の中央にはこの媒質のない空間がある。この空間の内壁面上に、屈折率の異なる媒質(例えば、誘電体など)を組み合わせた多層構造14が配置されている。この多層構造14は、作製条件を交互に変えて、蒸着により形成することが出来る。多層構造14を形成後、中央部には中空の光導波路18が形成されている。この光導波路18の両側にある対向する内壁面間を橋渡しするように、複数のカーボンナノチューブ11が形成されている。矢印15は、本光機能素子への光の入射方向を示している。図1(f)は、図1(e)の光機能素子を光の入射方向15から見た場合の側面図である。
【0031】
上記の図1(b)、図1(d)、図1(f)においては、それぞれ、各周期構造物の厚み方向に、3本のカーボンナノチューブが形成されているように記載されている。これは、3本に限られるわけではない。
【0032】
上述のような空孔の周期構造12、円柱の周期構造13、または、屈折率の異なる媒質(誘電体など)を組み合わせた多層構造14などは、フォトニックバンドギャップ構造をもつフォトニック結晶としてよく知られている。周期構造を持ったフォトニック結晶上に、上述したような光の波長程度の大きさの微細な中空の光導波路18を作成ことができる。この中空の光導波路18内を、光は閉じ込められて伝播していく。
【0033】
図1の各図に示された本発明の光機能素子において、光を閉じ込める光導波路18内にカーボンナノチューブ11を成長させる。カーボンナノチューブ11は、チューブ径によって電子構造が異なり、吸収波長が変化する。そのため、カーボンナノチューブの吸収波長に対してフォトニックバンドギャップを持つように、上記の周期構造12、13、14の形状・寸法等の構造を設計する。光導波路18の内部に径の揃った多数のカーボンナノチューブを成長させることによって、光入射方向15に長い距離に亘ってカーボンナノチューブが多数存在する状況を作りだすことができる。カーボンナノチューブ11のチューブ径は、光導波路空間内において橋渡しさせる距離・触媒の種類・サイズなどにより制御することができる。
【0034】
フォトニック結晶中の光導波路内にカーボンナノチューブを成長させた場合、入射光とのカーボンナノチューブとの相互作用長を長くできるので、従来と比べて小型で高機能な光機能素子の実現が可能となる。また、フォトニック結晶上に点欠陥を導入することによって、共振器を実現することもできる。カーボンナノチューブの吸収波長に合った光を閉じ込めることで、カーボンナノチューブの吸収を増大させることもできる。
【0035】
次に、図1の各図に示す各構成の光機能素子の製造方法について説明する。光が伝播する光導波路18の内部に、金属触媒を分布させることによって、その金属触媒からカーボンナノチューブを成長させることができる。前述のように、カーボンナノチューブは、各々が孤立して互いに接触せず束状構造を構成しないようにする必要がある。このためのカーボンナノチューブの合成法には、シーディング触媒を用いた熱分解法がある。
【0036】
金属触媒を光導波路18の内部の内壁面上に配置するためには、光導波路18内部に金属触媒を直接散布すればよい。また、金属触媒を含む分子から金属触媒を取り出しても良い。また、カーボンナノチューブのチューブ径を制御するため、金属触媒は金属微粒子であることが望ましい。図1(a)、図1(c)、図1(e)の各構造の場合には、中空の光導波路18の内壁面上に薄膜を成膜させ、加熱凝集させることによって金属微粒子を生成し、その後、この金属微粒子からカーボンナノチューブを形成してもよい。上述の方法により、フォトニック結晶中の光導波路18の内側の対向する面の間に架橋させることによって、任意の方向にチューブ軸の揃ったカーボンナノチューブを生成することができる(図1(d)においてはx偏波方向、以下x軸と呼ぶ)。一般に、カーボンナノチューブは、距離の短い空間に優先的に成長することが実験的に知られている。したがって、図1の各図に示すように、光導波路18の対向する内壁面間を最短距離で架橋するようにカーボンナノチューブが形成される。
【0037】
実際には、x軸に平行な方向だけでなく、x軸からわずかに斜め方向に成長するカーボンナノチューブもある。そこで、各々のチューブ軸の方向を一定方向により揃えるために、光機能素子の外部から電場または磁場を印加することによって、ばらつきなくチューブ軸の方向の揃ったカーボンナノチューブを成長させることができる(特許文献1、特許文献2を参照)。
【0038】
・ フォトニック結晶中において2つの軸に均一にチューブ軸を揃えた光機能素子
フォトニック結晶中において、カーボンナノチューブによる光学的な相互作用効果を、入射偏波光の入射角度に関係なく均一に得るためには、チューブ軸の方向を、x軸、y軸両軸の2つの方向に、均一に成長させれば良い。すなわち、完全に閉じた中空の光導波路構造を形成した後に、カーボンナノチューブを2つの軸方向に成長させる。
【0039】
図2(a)は、2つの軸にチューブ軸を揃えた光機能素子の構造を示しており、光入射方向から見た側面図である。この光機能素子においては、基板17a上に、空孔を有する周期構造12が配置されており、周期構造12の中央は除去されて、光導波路18が形成されている。光導波路18の部分に中空が形成されるように、あらかじめ周期構造12を作成しても良い。さらに、周期構造12の上面は、光を閉じ込めるための屈折率の小さい誘電体17bで覆われている。光を閉じ込める手段としては、誘電体17bに限られない。すなわち、基板17aおよび17bが、y軸方向に、フォトニックバンドギャップ構造を形成している場合であっても良い。この場合、この光機能素子は、全体で3次元のフォトニックバンドギャップ構造を持つことになる。尚、フォトニックバンドギャップ構造を構成するためには、前述した柱の周期構造13、あるいは、屈折率の異なる媒質(誘電体など)を組み合わせた多層構造14であっても良い。さらに、図8とともに後述する金属膜を含む構造であっても良い。
【0040】
上述のように、x軸とy軸の両方向が閉じた光導波路18を形成した後に、中空の光導波路18の内側に金属触媒を分布させ、その金属触媒からカーボンナノチューブ11を成長させる。これによって、x軸、y軸の両軸に均一にカーボンナノチューブを成長させることができる。金属触媒は、図1において説明した金属微粒子を使用することができる。また、2つの軸にそれぞれカーボンナノチューブを成長させるためには、まず、x軸方向に電場・磁場を印加してカーボンナノチューブを形成する。その後、引き続きy軸方向に電場・磁場を印加してさらに形成することにより、2軸方向にそれぞれ均一にカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0041】
尚、上述したx軸およびy軸は、入射光の偏波軸方向を表現する一般的な座標系であり、直交している。直交していることにより、入射偏波光の角度に関わらず、カーボンナノチューブとの均一な相互作用を最大に得られる。しかし、必ずしも直交していることに限られず、わずかに傾いていても、均一化の効果は得られる。また、図2(a)の構造の光機能素子は、図1の各図に示した光機能素子と比較して、どの段階においてカーボンナノチューブを形成するかにおいて異なっている。すなわち、図1の各図の構造においては、カーボンナノチューブを形成後に、最終的には図2の構造同様に、光を閉じ込めるために誘電体基板などで閉じた中空の光導波路を形成する。これに対し、図2(a)の構造では、まず閉じた中空の光導波路を形成してから、その後、カーボンナノチューブを成長させる点において、異なっている。
【0042】
図2(b)は、中空の光導波路内に突起構造を持つ光機能素子の断面図である。図1(a)の構造と同様に、基板10上に空孔の周期構造12が配置されており、中央部に周期構造12を除去して、中空の光導波路18が形成されている。そして、光導波路18の内側の内壁面上に、対向して突起構造対16を配置している点に特徴がある。対向する突起構造対16の間を、架橋するようにしてカーボンナノチューブ11が形成される。突起構造対16により、突起構造対16の先端付近に電界が強まるため、カーボンナノチューブの成長を効果的に促進させる効果がある。図2(b)では、3対の突起構造対16が記載されているが、これに限られない。
【0043】
・ 中空光導波路を持たないフォトニック結晶の空孔にチューブを備えた光機能素子
以上、説明してきた光機能素子の構造においては、入射光が伝播する光導波路部分が中空の構造であって、この光導波路内の中空空間内にカーボンナノチューブを形成している。しかし、光導波路部分が中空でない場合でも、フォトニック結晶中の周期構造内にある周期的配列要素に中空部分があり、この中空部分内にカーボンナノチューブを成長させることによって、入射光のエバネッセント光とカーボンナノチューブとを結合させることができる。入射光のエバネッセント光とカーボンナノチューブとの相互作用による光機能素子を実現できる。
【0044】
図3は、フォトニック結晶の周期構造内の中空部にカーボンナノチューブを成長させた光機能素子の構造図を示す。基板10の上には、空孔を持った周期構造12が形成されている。図1(a)の場合とは異なり、光導波路18を形成する部分の周期構造12は中空ではなく、媒質で充たされている。すなわち、光導波路18は、周期的に配置された空孔は存在しないが媒質で充たされており、光導波路内にはカーボンナノチューブを形成できるような中空部分が存在しない構造となっている。一般に知られているように、フォトニック結晶中においては、周期的配列要素の配列の周期性を乱すことにより光導波路が形成される。この周期的配列要素の配列の乱れは、線欠陥とも呼ばれる。すなわち、図3に示すように、周期的配列要素の配置に線欠陥を導入すると、媒質材料の有無に関わりなく光導波路18が形成される。一方、この光導波路18に沿って、その両側に隣接して配置された周期的配列要素である空孔の内部には、カーボンナノチューブ11が形成されている。先にも述べたように、空孔の形状は図3に示した円柱には限られない。
【0045】
この図3に示した構造の光機能素子においては、光導波路内が中空である図1(a)の構造の場合に比べ、エバネッセント光がカーボンナノチューブ11と結合する割合は小さくなる。しかし、光導波路18が中空でなくてもよいため、フォトニック結晶内に光導波路を形成するための加工処理が不要となり、光機能素子の製造が比較的容易となる。先に述べたように、カーボンナノチューブの形成時に、電場または磁場を印加することによって、空孔内のチューブ軸の向きを揃えることも可能である。
【0046】
・ 円形コア内においてチューブ軸方向を揃えたフォトニック結晶ファイバ
図4は、本発明の別の実施形態であるフォトニック結晶ファイバの断面図を示す。本フォトニック結晶ファイバを短尺で用いて、光機能素子を構成することができる。本フォトニック結晶ファイバは、中空のコア内にチューブの軸をそろえたカーボンナノチューブを有しているところに特徴を持っている。この光ファイバは、中心部にある中空コア41およびコア41を囲むクラッド42から成る。クラッド42は、径方向のコア41寄り側に、フォトニックバンドギャップ構造部43を持っている。フォトニックバンドギャップ構造43は、一般に良く知られている細孔の配列や屈折率の異なる物質を多層にした構造などの周期構造も含んでいる。上記の周期構造によっても、フォトニックバンドギャップ構造部43を作りだすことができる。すなわち、カーボンナノチューブの吸収波長に対応するフォトニックバンドギャップを持つように、フォトニックバンドギャップ構造部43の形状・寸法等を設計することができる。中空コア41の内部にカーボンナノチューブ44を成長させることで、入射光とカーボンナノチューブとの相互作用長を長くすることができる。カーボンナノチューブ44のチューブ径は、中空コア41の直径や触媒の種類・サイズによって制御する。
【0047】
次に、カーボンナノチューブの成長方法を説明する。中空コア41の内壁に金属触媒を分布させ、その金属触媒からカーボンナノチューブ44を成長させることができる。図1の各構造において説明したように、カーボンナノチューブを金属微粒子から成長させてもよい。金属触媒を分散させる方法には、中空コア41内部に金属微粒子を直接散布する方法がある。他の方法としては、例えば、金属のガスを中空コア41内に噴霧し、ファイバの外側から電場や磁場を使って金属ガスを誘導して中空コア41内壁に薄膜を成膜させる。その後、加熱凝集させることによって、金属微粒子を得ることもできる。
【0048】
カーボンナノチューブ44の軸を揃える方法としては、電場または磁場を印加する方法、または、図4に示したように中空コア41のx軸(またはy軸)の内側に突起構造対45を形成し、対向する突起構造対45の間を架橋する方法などが考えられる(特許文献1参照)。一般に、ファイバは誘電体であるため、ファイバ外部から電場を印加することによってファイバ内部に分極が生じ、中空コア41の内部に電場を発生させることができる。
【0049】
図5は、ファイバ内部に生じる電気力線の様子を説明する図である。図5に示すように、対向する電極51a、51bの中間にファイバ52を配置して、電極15a、51b間に電場を生じさせた場合、ファイバ52内部に生じる電気力線は並行となる。そこで、図4に示したような突起構造対45を中空コア41の内壁面上に形成しておくことにより、対向する突起構造対45の間に外部印加電場の下で、カーボンナノチューブ44を形成することができる。突起構造対45は、1対以上設けることが可能であり、図4においては、3対の突起構造対45が配置されている。これは、3対に限定されるわけではない。また、突起構造対45の断面形状は矩形でも三角形でも良い。例えば、ファイバの作成工程において、ファイバを線引きする前に、プリフォームに突起構造対45の加工を施しておけば良い。あるいは、突起構造対45を残す部分にイオンを添加し、線引きした後にコア部の内壁をフッ酸溶液で選択的に溶かして中空コア41を形成し、突起構造対45のみを残す方法などがある。
【0050】
特定の軸方向のみに突起構造対45を対向させて形成することにより、任意の特定の方向にカーボンナノチューブ44の分布を制御することができる。例えば、x軸とy軸のカーボンナノチューブの分布に、差を設けることができる。一般に、カーボンナノチューブは、距離の短い空間に優先的に成長することが実験的に知られている。フォトニックバンドギャップファイバの最低次モードが励振された場合には、コアの中心部において電界分布が最も高くなる。このため、カーボンナノチューブおよび入射光に効果的に相互作用を生じさせるためには、コアの中心部を通るカーボンナノチューブが存在すればよい。この突起構造対45により、中空コア41の中心付近にカーボンナノチューブを成長させることができる。さらに、突起構造対45の先端付近に電界が強まるため、カーボンナノチューブの成長を効果的に促進させる効果がある。上述した方法により、フォトニックバンドギャップファイバの中空コア部内に、チューブ軸が揃ったカーボンナノチューブを生成することができる。
【0051】
・ 2回回転対称なコア形状のフォトニック結晶ファイバ
図6は、本発明のもう1つの実施形態のフォトニックバンドギャップファイバの断面図を示す。本実施形態のフォトニックバンドギャップファイバの特徴は、中空コアが2回回転対称の形状をしているところにある。フォトニックバンドギャップファイバは、2回回転対称(楕円や矩形でもよい)の形状の中空コア61およびクラッド62により形成されている。クラッド62においては、径方向に中空コア61側寄りには、フォトニックバンドギャップ構造部64がある。2回回転対称の形状の中空コア61の内部においては、カーボンナノチューブ64はコアの直径の短い軸方向に優先的に成長する。したがって、チューブ軸の方向が揃ったカーボンナノチューブ64を生成することができる。図6においては、x軸方向のコア直径が最も短くなっているので、x軸方向に、カーボンナノチューブ64が成長する。図1の各構造において説明したように、電場、磁場を印加する方法や、突起構造対を形成する方法と組み合わせてもよい。
【0052】
・ 中空のコアを持たないフォトニック結晶ファイバ
図3の光機能素子において説明したのと同様に、コアが中空ではなく、フォトニックバンドギャップ構造部内の周期構造内に中空部分が存在し、この中空の周期構造部にカーボンナノチューブを成長させた場合でも、入射光のエバネッセント光とチューブが結合する。したがって、カーボンナノチューブと入射光が相互作用するフォトニックバンドギャップファイバを実現できる
図7は、中空部を持たないフォトニックバンドギャップファイバの断面図である。このファイバは、コア71とクラッド72からなっている。コア71は、中空構造ではなく、誘電体で充たされている。クラッド72において、径方向にコア71寄りには、フォトニックバンドギャップ構造部73が配置されている。
【0053】
フォトニックバンドギャップ構造部73の周期構造部に中空の周期的配列要素があり、この中空の周期的配列要素内にカーボンナノチューブを成長させた場合でも、エバネッセント光がカーボンナノチューブと結合する。これにより、コア71を伝播する入射光とコア71の周囲の中空の周期的配列要素内にあるカーボンナノチューブとが相互作用を生じる作用長を長くすることができる。コアが中空の場合に比べエバネッセント光がカーボンナノチューブと結合する割合は小さくなるが、コア71が中空でなくてもよいため、フォトニックバンドギャップファイバの製造が容易となる。前述したように、電場または磁場を印加することにより、チューブ軸を揃えることも可能である。
【0054】
以上述べてきたように、本発明は、入射光が伝播する光導波路の内部に、カーボンナノチューブを形成している点に特徴がある。したがって、フォトニックバンドギャップ構造を利用しない場合にも、本発明を適用することができる。
【0055】
図8(a)は、光導波路内に金属膜をもつ光機能素子の構造を示す図である。基板80上にクラッド層84が形成されている。クラッド層80の中央は中空となっており、コア82が形成されている。図8(b)は、図8(a)の光機能素子を光の入射方向から見た側面図である。コア82は入射光を閉じ込める光導波路として機能する。クラッド層80のコア側の両側面上には、金属膜83が形成されている。この金属膜83は、カーボンナノチューブの光吸収波長に対し反射率の高い金属によって構成されている。ここで、対向する金属膜83間に架橋するようにカーボンナノチューブ81を形成することにより、上述したフォトニック結晶を用いた光機能素子の場合と同様に、カーボンナノチューブおよび入射光の相互作用長を長くすることができる。カーボンナノチューブ81は、図1において説明した各方法により形成することが出来る。
【0056】
図8(c)は、光導波路内に金属膜を持つ別の光機能素子を光の入射方向から見た側面図である。この光機能素子は、基板80上にクラッド層84が形成され、クラッド層84の中央部には中空のコア82が形成されている一般的な光導波路の構造を持つ。コア82の内壁面上には、全面に金属膜83が形成されている。金属膜83は、カーボンナノチューブの光吸収波長に対し反射率の高い金属によって構成されている。金属膜83は、コア82内を伝播する入射光を閉じ込める。光が伝播する中空コア82内において、直交する2つの軸方向各々に、対向する内壁面間を架橋するようにカーボンナノチューブ81を成長させることができる。これにより、図1の各図において述べたフォトニック結晶を用いた光機能素子の場合と同様に、カーボンナノチューブおよび入射光の相互作用長を長くすることができる。
【0057】
図8の各図の光機能素子とも、電場・磁場を印加して形成すれば、図1、図4および図6の各構造の場合と同様に、各々のチューブ軸の方向をさらに揃えることが可能である。
【0058】
<第2の実施形態>
図1、図4、図6に記載の各フォトニック結晶を用いた光機能素子においては、光の進行方向に沿って、すなわち長手方向に渡って、各々のチューブ軸の方向が揃っている。したがって、光の入射軸の方向と形成したチューブの軸の方向とを合わせることにより、入射光とチューブとの相互作用長を長くすることができる。そのため可飽和吸収素子や光スイッチ、波長変換素子などの非線形光学素子、または光電変換素子など多様なカーボンナノチューブを使った応用が考えられる。更に孤立したカーボンナノチューブを有するコトカラ凝集体では得られなかった発光も期待でき、発光材料、ディスプレイ、光増幅器、レーザなどへの応用も考えられる。
【0059】
<第3の実施形態>
従来技術で述べたとおり、カーボンナノチューブは入射電場の向きによって光の吸収が異なる。この吸収差を利用することによって入射偏光を保持することができる。この機能について、図4に示した円形コアでチューブ軸を揃えたフォトニックバンドギャップファイバにおいて考える。
【0060】
二つの偏波のモード間の結合は、下記の結合方程式で表記することができる。
【0061】
【数1】

【0062】
HP11x、PHP11yはそれぞれHP11xモード、HP11yモードの出力、κはそれぞれHP11xモードとHP11yモードとの両モード間の結合、αHP11x、αHP11yはそれぞれのモードでの伝播損失を示している。両モード間の結合は曲がりや不整などによる複屈折を含んでいるため長手方向に依存性をもっている。しかし、光機能素子として本発明を利用する場合はファイバ長が短くてよいので両モードの結合κは長さに対してほぼ一定であるとみなすことができる。また、本発明のフォトニック結晶ファイバは、コア内部が空気であることから複屈折は小さいと考えることができる。直線偏波で入射するとPHP11y=0となることからPHP11x、PHP11yは以下の関係式を満たす。
【0063】
【数2】

【0064】
Δα=αHP11y−αHP11xである。この式からΔαが小さいときはHP11xモードからHP11yモードにパワーが流れるが、Δαが大きいときはHP11xモードからHP11yモードにパワーが移ることを抑圧することができる。これは偏波保持していると考えることができる。
【0065】
従来技術で記したように、カーボンナノチューブの吸収が入射光の偏波によって大きく異なることから、カーボンナノチューブのチューブ軸の方向を揃えることによってΔαを大きくすることが可能となり、偏波保持化することができると考えられる。フォトニックバンドギャップファイバは、ハイパワー伝送や石英ファイバが低損失である1.5μm帯に限られない広い波長域において、低損失伝送ができるなどの応用がある。その偏光制御は、現在研究が進められているところである。フォトニックバンドギャップファイバを偏波保持化することによって、偏波依存性を持つ各種光学機器との接続が可能となる。また光の干渉を利用した回転センサ応用や光計測などにも優れた特性が期待できる。
【0066】
<第4の実施形態>
前述の式において、Δαがより大きくなり、一方のモードのみが伝播するようになると偏光子となる。これはチューブ軸が揃っているカーボンナノチューブが光導波路内に多数存在することにより、Δαを大きくすることができるためである。
【0067】
また後述する他の方法によって作られた偏波保持フォトニックバンドギャップファイバの偏波保存する軸に対し、平行にカーボンナノチューブを成長させることによって、偏波保持ファイバおよびカーボンナノチューブの両方の偏波特性を強め合い、偏光子を実現することもできる。
【0068】
他の偏波保持する方法としては
(1)屈折率分布の形状を2回回転対称とする。コアに応力を加えて異方性とする。
【0069】
(2)コアの形状を2回回転対称とする。
などが考えられる。
【0070】
(1)の場合は円形のコアとなるため、図4に示した構造によってチューブ軸の方向の揃ったカーボンナノチューブを生成することができる。また(2)の場合は、図6に示した構造によって、チューブ軸の方向を揃えることができる。以上述べたように、チューブ軸の方向の揃ったカーボンナノチューブをフォトニックバンドギャップファイバ中に成長させることによって、偏光子として利用することができる。フォトニックバンドギャップファイバはハイパワー伝送、または、石英ファイバが低損失である1.5μm帯に限られない広い波長域における低損失伝送などへ応用がある。その偏光制御方法は、現在研究が進められているところである。本発明にかかるフォトニックバンドギャップファイバを使用することにより、フォトニックバンドギャップファイバ型の偏光子を実現することができる。フォトニックバンドギャップファイバ型の偏光子により、例えば、パルス光を伝播する際に偏波分散を考慮する必要がなくなる。また、光の干渉を利用した回転センサ応用や光計測にも優れた特性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)は空孔の周期構造によるフォトニック結晶光機能素子の上面図であり、(b)は空孔の周期構造によるフォトニック結晶光機能素子の側面図であり、(c)は円柱の周期構造によるフォトニック結晶光機能素子の上面図であり、(d)は円柱の周期構造によるフォトニック結晶光機能素子の側面図であり、(e)は空孔の周期構造によるフォトニック結晶光機能素子の上面図であり、(f)は空孔の周期構造によるフォトニック結晶光機能素子の側面図である。
【図2】(a)は2つの軸にチューブ軸を揃えた光機能素子の構造を示す側面図であり、(b)は突起構造を持つ光機能素子の構造の側面図である。
【図3】フォトニック結晶の周期配列要素内の中空部にカーボンナノチューブを成長させた光機能素子の上面図である。
【図4】本発明にかかるフォトニックバンドギャップファイバの断面図である。
【図5】フォトニックバンドギャップファイバに電界を印加したときの電気力線を示す図である。
【図6】2回回転対象のコアを有するフォトニックバンドギャップファイバの断面図である。
【図7】中空コア部を持たないフォトニックバンドギャップファイバの断面図である。
【図8】(a)は光導波路内部に金属膜を形成した光機能素子の上面図であり、(b)は光導波路内部に金属膜を形成した光機能素子の側面図であり、(c)は光導波路内部に金属膜を形成した別の光機能素子の側面図である。
【図9】従来技術による薄膜型の光機能素子の断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10、80 基板
11、44、74、81 カーボンナノチューブ
12 空孔の周期構造
13 円柱の周期構造
14 屈折率の異なる媒質の多層構造
15 光の入射方向
16、45 突起構造対
17a、17b 誘電体
18 光導波路
19 媒質層
41、61、71、82 コア
42、62、72、84 クラッド
43、63、73 フォトニックバンドギャップ構造
51a、51b 電極
52 フォトニックバンドギャップファイバ
83 金属膜
91 カーボンナノチューブとポリマーの薄膜
92 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を入射させる入射部と、
前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、
前記入射部と前記出射部を結合し、前記入射光が伝播する中空の光導波路と、
前記光導波路の内部の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブと、
を備えたことを特徴とする光機能素子。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの光吸収波長において高反射率を有し、前記中空の光導波路の内壁面上に形成された金属薄膜を、さらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の光機能素子。
【請求項3】
前記光導波路は、
周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶の一部が、中空となるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光機能素子。
【請求項4】
前記光導波路は、
中空部と、
前記中空部の周囲を囲んで配置されたクラッドであって、前記クラッドは周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップ構造部を含み、前記フォトニックバンドギャップ構造部は前記中空部に接していることと、
を備えるフォトニックバンドギャップファイバにおける、前記中空部によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の光機能素子。
【請求項5】
前記中空部の断面形状は、2回回転対称形状であることを特徴とする請求項4に記載の光機能素子。
【請求項6】
前記複数のカーボンナノチューブは、前記入射光に垂直な第1の方向、並びに、前記入射光に垂直であって前記第1の方向に概ね直交する第2の方向に沿って、前記中空の光導波路内の対向する内壁面間を架橋するように、形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれかに記載の光機能素子。
【請求項7】
入射光を入射させる入射部と、
前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、
中空の周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶と、
前記入射部と前記出射部を結合して前記入射光を伝播させる光導波路であって、前記光導波路は前記フォトニック結晶中の線欠陥により形成されることと、
前記光導波路に沿って隣接して配置された中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素内の対向する内壁面間を架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブと、
を備えたことを特徴とする光機能素子。
【請求項8】
入射光が伝播するコアと、
前記コアの周囲に配置されたクラッドであって、前記クラッドは周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップ構造部を含み、前記フォトニックバンドギャップ構造部は前記コアに接していることと、
前記コアに隣接する中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素内の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成された複数のカーボンナノチューブと、
を含むフォトニックバンドギャップファイバから構成されることを特徴とする光機能素子。
【請求項9】
中空の前記光導波路、前記中空部、または、中空の前記周期的配列要素の内部に、金属触媒を有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項10】
中空の前記光導波路、前記中空部、または、中空の前記周期的配列要素の内部の中空空間において、対向する内壁面上に突起構造対を有し、前記突起構造対間を前記カーボンナノチューブが架橋されるように形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項11】
前記複数のカーボンナノチューブは、各々が孤立して互いに接触せず束状構造を構成していないことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項12】
前記複数のカーボンナノチューブの各々のチューブ軸は、同一の方向、または、前記第1の方向および前記第2の方向に揃っていることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項13】
前記フォトニックバンドギャップファイバは、偏波保持ファイバであることを特徴とする請求項4、5、8、並びに、請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項14】
入射光を入射させる入射部と、前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、前記入射部と前記出射部を結合し、前記入射光が伝播する中空の光導波路と、前記光導波路の内部の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向と垂直方向に架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブとを備えることを特徴とする光機能素子、または、
入射光を入射させる入射部と、前記入射光に所定の相互作用を生じさせることにより生成された出射光を出射する出射部と、中空の周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶と、前記入射部と前記出射部を結合して前記入射光を伝播させる光導波路であって、前記光導波路は前記フォトニック結晶中の線欠陥により形成されることと、前記光導波路に沿って隣接して配置された中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素の対向する内壁面間を架橋するように形成され、前記入射光に前記相互作用を生じさせる複数のカーボンナノチューブとを備えたことを特徴とする光機能素子、または、
入射光が伝播するコアと、前記コアの周囲に配置されたクラッドであって、前記クラッドは周期的配列要素の周期的配列によるフォトニックバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップ構造部を含み、前記フォトニックバンドギャップ構造部は前記コアに接していることと、前記コアに隣接する中空の前記周期的配列要素内において、前記周期的配列要素の対向する内壁面間を、前記入射光の進行方向に対して垂直方向に架橋するように形成された複数のカーボンナノチューブとを含むフォトニックバンドギャップファイバから構成されることを特徴とする光機能素子の製造方法であって、
前記中空の光導波路内、前記フォトニック結晶中の前記周期的配列要素内、または、前記フォトニックバンドギャップ構造部の前記周期的配列要素内に、前記カーボンナノチューブのチューブ軸を一定方向に均一に揃えて形成するステップを、
備えたことを特徴とする光機能素子の製造方法。
【請求項15】
前記カーボンナノチューブのチューブ軸を一定方向に均一に揃えて形成するステップは、
前記光機能素子の外部より前記光機能素子に電場または磁場を印加して形成することを特徴とする請求項14に記載の光機能素子の製造方法。
【請求項16】
前記カーボンナノチューブのチューブ軸を一定方向に均一に揃えて形成するステップは、
前記中空の導波路内、前記フォトニック結晶中の前記周期的配列要素内、または、前記フォトニックバンドギャップ構造部の前記周期的配列要素内の内壁面に、入射光の進行方向に垂直な向きに、対向して配置された突起構造対を形成するステップをさらに備え、
前記対向して配置された突起構造対の間に、前記カーボンナノチューブを形成することを特徴とする請求項14に記載の光機能素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−41470(P2007−41470A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228074(P2005−228074)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】