説明

光波距離計

【課題】電気部品等の温度位相ドリフトや受光部(電気回路)を異にすることで生じる原因不明な位相ドリフトによる測距値誤差を大幅に低減した光波距離計を提供する。
【解決手段】2つの発光素子6,8と、2つの受光素子40,60と受光素子40に接続された第1の受光部300と受光素子60に接続された第2の受光部400と発光素子6,8の発光を切り換える発光切換手段4と第2の受光部400を経た信号を帰還して安定状態で再出力するPLL制御回路100と、を備える。発光素子6,8を択一発光させ、発光素子6,8,受光素子40,60等の温度位相ドリフト及び受光部300,400(電気回路)が異なることによる位相ドリフトを含む信号を故意にPLL制御回路100の整調用信号として用い周波数変換器48,68に入力することで、測距信号と参照信号の位相差をとると、既知の固定位相ドリフトのみが残り、原因不明な位相ドリフトは除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、目標反射物までの直線距離を光電的に測定する位相差方式の光波距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光波距離計では、測距光(または参照光)のみで距離を測定した場合には、発光素子の駆動回路や受光素子の検出回路の温度位相ドリフト、増幅器やコンデンサ等からなる電気回路における位相ドリフト等が測定誤差となって顕れるため、測距光と参照光との位相差から測距値を算出することが一般的である。このために、発光素子から出射した光は、測距光路と参照光路に、シャッターを移動させることによって交互に切り換えられる。しかしながら近年、測距時間の高速化が求められており、光路の切換に時間を要するシャッターを用いない光波距離計が望まれていた。
【0003】
シャッターを省いた光波距離計としては、以下のものが開示されている。特許文献1では、発光素子、受光素子をそれぞれ2つずつ備え、第1の発光素子から出射された光の一方は測距光路を経て第1の受光素子に入射し、他方は参照光路を経て第2の受光素子に入射され、第2の発光素子から出射された光は、参照光として、一方は第1の受光素子に入射し、他方は第2の受光素子に入射するように構成されている。そして、分解能に応じて測距値の各桁を決定するために大きさの異なる周波数(f,f)の変調光を両発光素子から交互に出射することにより、測距光に係る中間周波信号、第1〜第3の参照光に係る各中間周波信号の合わせて4つの中間周波信号を得て、これらの初期位相を求めることにより、測定誤差を補正する工夫がなされている。
【0004】
特許文献2では、周波数の異なる2種類の送光信号(f,f),(f-△f,f-△f)を、2つの発光素子から測距光路及び参照光路へ同時に送出し、2つの受光素子で同時に受光して、測距光路と参照光路を同時に測距することで、両光路における温度位相ドリフトを演算処理部にて計算で打ち消し、測定誤差を補正する工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−255369号公報(段落0004〜0010,図1)
【特許文献2】特開2011-2302号公報(段落0014,0016,図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、シャッターを省くことで測距時間が短縮されたものの、各発光素子や各受光素子等の電気部品による温度位相ドリフトによる誤差が完全には除去されない。
【0007】
特許文献2では、計算により、上記電気部品による温度位相ドリフトに起因する誤差は低減される。しかし、測距光路と参照光路を同時に測距するため同一周波数の中間周波信号が2つ得られ、これらが同一の受光部(増幅器やコンデンサ等の電気部品からなる電気回路)を使用しないために生じる原因不明な位相ドリフト差が残り、これらは計算で除去されない。
【0008】
本願発明は、従来の光波距離計にみられる問題点を解決するためになされたものであり、光波距離計に固有な誤差(電気部品等の温度位相ドリフト、受光部を異にすることで生じる原因不明な位相ドリフト)の大幅な低減を可能にした光波距離計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1に係る光波距離計においては、周波数発振器より生成された周波数信号を大きさの異なる複数の変調周波数に変調された光として出射する第1の発光素子及び第2の発光素子と、前記両発光素子から出射された光を受光する第1の受光素子及び第2の受光素子と、前記第1の受光素子に接続され、周波数変換器を含む第1の受光部と、前記第2の受光素子に接続され、周波数変換器を含む第2の受光部と、を備え、 前記第1の発光素子及び第2の発光素子は、発光切換手段によって交互に切り換えられて択一的に発光し、 第1の発光素子から出射された光は2つに分けられ、一方は測距光として目標反射物までを往復する測距光路を経て第1の受光素子に入射し、他方は参照光として第1の参照光路を経て第2の受光素子に入射し、第2の発光素子から出射された光は2つに分けられ、一方は参照光として第2の参照光路を経て第2の受光素子に入射し、他方は参照光として第3の参照光路を経て第1の受光素子に入射し、 前記第2の受光部を経た中間周波信号が帰還され、整調用信号としてPLL制御回路に入力され、該PLL制御回路において、前記周波数発振器から比較用に分周された固定周波数信号と前記整調用信号とが位相比較され安定された状態で再出力され、前記PLL回路出力信号が、前記第1の受光部及び第2の受光部の周波数変換器に入力され、それぞれA/D変換器で測定されてデジタルデータに変換されて、演算処理部において、前記択一的発光により得られた測距信号と参照信号の位相差から目標反射物までの測距値を算出するように構成した。
【0010】
(作用)第1の発光素子を発光させて測距すると、PLL回路出力信号は、各発光素子,各受光素子,各受光部の電気部品等の温度位相ドリフト及び受光部を異にする(電気回路を異にする)ことによって生じる原因不明な位相ドリフト等の全ての位相ドリフトに追随した位相を持つため、第1及び第2の受光部の周波数変換器を介して測距信号の位相ドリフトは略除去され、その後A/D変換器で測定される測距信号の位相ドリフトには極小のドリフト量しか含まれなくなる。一方、第2の発光素子を発光させて測距して、同様に参照信号を測定し、測距信号と参照信号の位相差をとれば、計算により上記の様々な位相ドリフトが低減・除去される。
【0011】
請求項2においては、請求項1に記載の光波距離計において、前記PLL制御回路に、前記PLL回路出力信号及び前記周波数発振器からの固定周波数信号が入力されて低周波信号を出力する設定用ミキサーと、前記演算処理部の指令により、前記設定用ミキサーからの低周波信号又は前記整調用信号のいずれか一方を選択的に該PLL制御回路に出力する信号切換手段を設けた。
【0012】
(作用)本願発明に係る光波距離計の製造時、初期のPLL制御回路は、各受光部の増幅度が決定されていないため、PLL回路出力信号が安定せず、光波距離計内部の種々の設定ができない。そこで、演算処理部において、各受光部の増幅度を決める場合は、信号切換回路からは設定用ミキサーによる低周波信号が出力されるようにし、PLL制御回路を早期に安定状態に入るようにする。PLL制御回路が安定すれば、各増幅度を決定することができる。増幅度が決められた後は、信号切換回路からは整調用信号が出力されるようにし、係る増幅度のもとで受光部への受光光量を調整する濃度フィルタの位置決めを行い、整調用信号振幅を調整し、PLL制御回路を安定状態にする。PLL制御回路が安定すれば、測距を行うことができ、請求項1の効果が発揮される。
【0013】
請求項3においては、請求項1または請求項2に記載の光波距離計において、前記大きさの異なる複数変調周波数のうち、最も周波数の大きい第1周波数には、前記整調用信号が入力される前記PLL制御回路を用い、前記第1周波数より周波数の低い第2周波数には、前記周波数発振器からの固定周波数信号が入力される第2回路用ミキサーを備えた第2のPLL制御回路を設けた。
【0014】
(作用)第1周波数より周波数が低い第2周波数では、生じる位相ドリフトが第1周波数よりも当然に少ないという周知の事実から、第2周波数において、第1の周波数と同一のPLL制御回路(同一の発振器)を用いると、第1周波数における位相ドリフトと同程度の大きさの位相ドリフトが含まれてしまう。そこで、上記事実に着眼し、第2の周波数には、別個のPLL制御回路(周波数発振器からの固定周波数信号を用いてPLL回路出力信号を生成するPLL制御回路)を用いたほうが、第2周波数において顕れる位相ドリフトは小さくなる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、請求項1に係る発明によれば、2つの発光素子を択一的に発光させることで、測距信号,参照信号の位相をそれぞれ測定できる構成とし、かつ、発光素子,受光素子等の温度位相ドリフト、更には受光部を異にすることによる(使用電気回路の相違による)原因不明な位相ドリフトを全て含む信号を、故意にPLL制御回路の整調用信号として用い、該PLL回路出力信号を第1及び第2の受光部の周波数変換器に入力することで、測距信号と参照信号の位相差をとったときには、既知の固定位相ドリフトのみが残り、原因不明な位相ドリフトは全て除去されるため、様々な位相ドリフトにより生じる測距値誤差が大幅に低減される。
【0016】
また、特許文献2では、2つの発光素子に異なる2種類の送光信号が用意されており、電波干渉によって送光信号が相互に漏れこみ、測距値誤差の一因になるという問題があったが、本願発明では、送光信号は1種類しか用意しないため、電波干渉による上記誤差は生じない。
【0017】
また、特許文献2では、A/D変換器に入力される信号には周波数が異なる複数の中間周波信号があるため、これらをデジタルフィルタで分離している。しかし、プリズム測距の場合、測距光が大気の揺らぎの影響でプリズム視準位置が時折ずれ、振幅変調と同じ影響を受ける。その変調周波数は数Hz〜数kHzにまで及ぶため、A/D変換器に入力した測距光の周波数と参照光の周波数が近接(数kHz程度の差)していると、大気の揺らぎの影響で参照信号に測距信号が合成され、参照信号に測定誤差がおこるという問題があるが、本願発明では、A/D変換器に入力する中間周波信号は1種類しかないため、これを原因とする誤差は生じない。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、請求項1の効果を発揮させるための光波距離計内部の様々な初期調整を、正確適切に行うことができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、第1周波数と第2周波数に用いるPLL制御回路(発振器)を別にしたことで、第2周波数には第1周波数の位相ドリフトは含まれず、顕れる位相ドリフトが小さいため、周波数の低い第2周波数にとってより優位な構成となり、さらに測距値誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の第1の実施例に係る光波距離計のブロック図である。
【図2】同光波距離計において、様々な位相ドリフトが除去される理由を説明するための図である。
【図3】同光波距離計で得た測距値を示すグラフである。
【図4】従来の光波距離計で得た測距値を示すグラフである。
【図5】本願発明の第2の実施例に係る光波距離計のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図1に基づいて、本願発明の光波距離計の第1の実施例の構成を説明する。実施例の光波距離計は、測距光と参照光との位相差から目標反射物22までの距離を算出する位相差方式の光波距離計であって、測距光路と参照光路の光路切換えのためのシャッターを省くため、2つの発光素子と2つの受光素子、即ち、発光素子6,発光素子8と、受光素子40,受光素子60と、を使用したものである。そして、以下に示すように、受光素子40に接続され、主として周波数変換器42,45,48と増幅器41,43,46,49を備える第1の受光部300と、受光素子60に接続され、主として周波数変換器62,65,68と増幅器61,63,66,69を備える第2の受光部400と、発光素子6と発光素子8の発光切換手段である発光切換回路4と、第2の受光部400を経た中間周波信号が帰還されて整調用信号として入力される第1のPLL制御回路100と、さらに、同光波距離計の製造時に各種設定を実現するための、設定用ミキサー13と、信号切換回路14と、演算処理部80と、を構成要素に含む。
【0022】
周波数発振器1から生成された周波数F1は、分周部2,9に入力される。分周部2ではF1を分周し、周波数F2,F3及びF3+△f3を出力する。周波数F1,F2,F3は、F1から順に周波数が低いものとなっており、それぞれの分解能に応じて測距値の各桁が決定される。F3+△f3信号は、周波数変換器42,62へと入力される。周波数重畳回路3ではF1,F2,F3信号を重畳する。発光切換回路4は重畳信号F1,F2,F3を駆動回路5,7のどちらか一方に出力し同時には出力しない。駆動回路5からの重畳信号F1,F2,F3は発光素子6に入力され、駆動回路7からの重畳信号F1,F2,F3は発光素子8に入力される。即ち、発光素子6,8は、発光切換回路4によって交互に切り換えられて択一的に発光し、同時には発光しない。
【0023】
分周部9では、F1を分周して周波数△f1yを生成し、第1のPLL(フェーズロックループ)制御回路100へ、比較用の固定周波数信号として入力する。第1のPLL制御回路100は、位相比較器10,ループフィルタ11,回路内発振器12を備え、回路内発振器12からの出力周波数(PLL回路出力信号)を安定させることができる。位相比較器10には後述する増幅器71からの整調用信号△f1xと分周部9からの固定周波数信号△f1yが入力される。初期状態では、△f1x,△f1yは周波数が異なっている。位相比較器10では初期位相の差を出力する。ループフィルタ11は第1のPLL制御回路100の性能を決めるフィルタであり平滑後に電圧を出力する。回路内発振器12はループフィルタ11からの出力電圧により周波数が決定され、第1のPLL制御回路100により安定したPLL回路出力信号F1+△f1を周波数変換器48,68へ出力する。このとき、△f1xと△f1yは周波数が同じで位相が異なっている。一方、周波数生成回路19ではF2+△f2を生成し、周波数変換器45,65へと出力する。
【0024】
また、第1のPLL制御回路100には、PLL回路出力信号F1+△f1及び周波数発振器1からの固定周波数信号F1が入力されて低周波信号△f1を出力する設定用ミキサー13と、設定用ミキサー13からの低周波信号△f1又は整調用信号△f1xのいずれか一方を選択的に位相比較器10に出力する信号切換回路14が設けられている。信号切換回路14は、後述する演算処理部80の指令により、信号△f1と信号△f1xのいずれか一方を位相比較器10へ出力する。これにより、光波距離計内部の種々の初期設定が正確適切に行われる。
【0025】
発光素子6から出射された光はビームスプリッタ20で2つに分割され、一方の光は、測距光路21を経て目標反射物22で反射され測距光路23を経て光量調整用濃度フィルタ24を通過し受光光学25で集光され受光素子40に到達する。他方の光は、第1の参照光路26を経て光量調整用濃度フィルタ27を通過し受光素子60に到達する。
【0026】
発光素子8から出射された光はビームスプリッタ28で2つに分割され、一方の光は、第3の参照光路29を経て光量調整用濃度フィルタ30を通過し受光素子40に到達する。他方の光は、第2の参照光路31を経て光量調整用濃度フィルタ32を通過し受光素子60に到達する。
【0027】
受光素子40で受光された光は、3つの周波数F1,F2,F3をもつ信号に変換される。これらは増幅器41で信号振幅を増幅された後、周波数変換器42,45,48に入力される。周波数変換器42では周波数F3+△f3が入力されることで周波数乗算が行われる。乗算後△f3が得られ、増幅器43により最適な信号レベルに増幅された後にA/D変換器44に入力される。周波数変換器45では周波数F2+△f2が入力されることで周波数乗算が行われる。乗算後△f2が得られ、増幅器46により最適な信号レベルに増幅された後にA/D変換器47に入力される。周波数変換器48では周波数F1+△f1が入力されることで周波数乗算が行われる。乗算後△f1が得られ、増幅器49により最適な信号レベルに増幅された後にA/D変換器50に入力される。
【0028】
同様に、受光素子60で受光された光は、3つの周波数F1,F2,F3をもつ信号に変換される。これらは増幅器61で信号振幅を増幅された後、周波数変換器62,65,68に入力される。周波数変換器62では周波数F3+△f3が入力されることで周波数乗算が行われる。乗算後△f3が得られ、増幅器63により最適な信号レベルに増幅された後にA/D変換器64に入力される。周波数変換器65では周波数F2+△f2が入力されることで周波数乗算が行われる。乗算後△f2が得られ、増幅器66により最適な信号レベルに増幅された後にA/D変換器67に入力される。周波数変換器68では周波数F1+△f1が入力されることで周波数乗算が行われる。乗算後△f1が得られ、増幅器69により最適な信号レベルに増幅された後にA/D変換器70に入力される。
【0029】
ここで、増幅器69からの出力信号△f1は、デジタル処理が可能な信号レベルにまで増幅器71にて増幅され、整調用信号△f1xとして、第1のPLL制御回路100の位相比較器10へ(信号切換回路14によって選択的に)帰還されて、第1のPLL制御回路100の一部として使用される。
【0030】
A/D変換器44,47,50,64,67,70では、アナログ信号を多値デジタル信号に変換し、演算処理部80にて信号の振幅情報、位相情報を取得できるようにする。振幅情報は、後述のように、濃度フィルタ24,27,30,32の調整に活用される。
【0031】
本実施例の光波距離計の製造時において、まず、第1の受光部300における増幅器41,43,46,49の増幅度と、第2の受光部400における増幅器61,63,66,69の増幅度を決める必要がある。増幅度を決める条件は、目標反射物22から返ってくる光強度と目標反射物22までの距離によって決められる。
【0032】
増幅度調整のためには、A/D変換器44,47,50,64,67,70に安定した信号を入力させ、信号振幅測定のために最適な振幅となるようにする必要がある。このとき、第1のPLL制御回路100は安定状態になければならないが、濃度フィルタ27,32の位置も増幅器61,69,71の増幅度も決まっていない初期状態で、Δf1の信号振幅がデジタル処理が可能な信号レベルに達していない場合、第1のPLL制御回路100のPLL回路出力信号は安定状態にない。
【0033】
そこで、初期状態でも第1のPLL制御回路100を確実に安定状態にさせるために、信号切換回路14は、演算処理部80の制御により、信号△f1か△f1xのどちらかを選択的に出力するようになっている。
【0034】
即ち、初期設定時、信号切換回路14からは△f1信号が出力されるように制御され、第1のPLL制御回路100が早期に安定状態に入るようにする。PLL回路出力信号が安定すれば、各増幅度を決定することができる。なお、第2の受光部400の増幅器61,63,66,69の増幅度はそれぞれ第1の受光部300の増幅器41,43,46,49と同等でよい。
【0035】
増幅度が決められた後は、信号切換回路14からは整調用信号△f1xが出力されるように制御し、係る増幅度のもとで、第1の受光部300及び第2の受光部400への受光光量を調整する各濃度フィルタ27,30,32の位置決めを行う。
【0036】
第1の参照光路26上にある濃度フィルタ27については、発光素子6を発光させ、A/D変換器64で測定される△f3信号レベル、あるいはA/D変換器67で測定される△f2信号レベル、あるいはA/D変換器70で測定される△f1信号レベルが最適になるように位置決めを行う。第3の参照光路29上にある濃度フィルタ30については、発光素子8を発光させ、A/D変換器44で測定される△f3信号レベル、あるいはA/D変換器47で測定される△f2信号レベル、あるいはA/D変換器50で測定される△f1信号レベルが最適になるように位置決めを行う。第2の参照光路31上にある濃度フィルタ32については、発光素子8を発光させ、A/D変換器64で測定される△f3信号レベル、あるいはA/D変換器67で測定される△f2信号レベル、あるいはA/D変換器70で測定される△f1信号レベルが最適になるように位置決めを行う。なお、測距光路23にある濃度フィルタ24については、目標反射物22の反射率により受光レベルが変化するため、演算処理部80による絞り制御信号81により位置調整を測距毎に行うため位置決めはしない。
【0037】
各濃度フィルタ27,30,32の位置決め後、整調用信号△f1xの振幅を増幅器71の増幅度により調整し、第1のPLL制御回路100を再び安定状態にする。PLL回路出力信号F1+△f1が安定すれば、種々の初期設定が完了となり、以下の通り測距を行うことができる。
【0038】
まず、発光素子8を発光させ、第2の参照光路31および位置決めした濃度フィルタ32を通過した光は受光素子60により電気信号に変換され、増幅器61,周波数変換器68,増幅器69,増幅器71を経て位相比較器10へ入力され、回路内発振器12からのPLL回路出力信号F1+△f1はPLL安定状態に入る。同様に、周波数生成回路19から出力される信号F2+△f2もPLL安定状態に入る。ここで、第2の参照光路31,第3の参照光路29について測距を行い、F1,F2,F3それぞれ2つずつの測距値を得る。
【0039】
次に、発光切換回路4により、今度は発光素子6を発光させる。第1の参照光路26および位置決めした濃度フィルタ27を通過した光は受光素子60により電気信号に変換され、増幅器61,周波数変換器68,増幅器69,増幅器71を経て位相比較器10へ入力され、PLL回路出力信号F1+△f1はPLL安定状態に入る。F2+△f2も同様にPLL安定状態に入る。ここで、第1の参照光路26および測距光路21について測距を行い、F1,F2,F3それぞれ2つずつの測距値を得る。なお、発光切換回路4で切り換える前後で、位相比較器10に入力される信号振幅は、各濃度フィルタ27,32の位置決めを既にしてあるので、同じ振幅になる。したがって第1のPLL制御回路100を正常に動作させることが可能である。
【0040】
そして、発光切換回路4の切換前後で得られた測距値、即ち、発光素子6,8の択一的発光により得られた測距信号と参照信号の位相差から、目標反射物22までの測距値が算出される。この際、各発光素子、各受光素子、各増幅器及び周波数変換器等の電気部品の温度位相ドリフト、受光部を異にすること(電気回路を異にすること)によって生じる原因不明な位相ドリフトが、全て除去される。
ここで、上記に述べる様々な位相ドリフトが除去される理由について、図2に基づいて説明する。温度位相ドリフトは信号F1,F2,F3全てに起きる現象であるが、ドリフト量はF1,F2,F3の順に小さくなるので、最も周波数の大きい信号F1を用いて説明する。なお、信号F3のドリフトは微少であるので説明しない。
【0041】
図2は、信号F1についての位相ドリフトおよび固定位相を示している。図2における各記号は、次のように定義される。
φLD1:発光素子6の温度位相ドリフト
φLD2:発光素子8の温度位相ドリフト
φ:測距光路21,23(光波距離計と目標反射物22までの往復距離分)の固定位相
φC1:第1の参照光路26の固定位相
φC2:第2の参照光路31の固定位相
φC3:第3の参照光路29の固定位相
φAPD1:受光素子40の温度位相ドリフト
φAPD2:受光素子60の温度位相ドリフト
φRFAMP1:増幅器41(周波数変換器48を含む)の温度位相ドリフト
φRFAMP2:増幅器61(周波数変換器68を含む)の温度位相ドリフト
φLO: Local信号の初期位相
φIFAMP1 :増幅器49の温度位相ドリフト
φIFAMP2:増幅器69の温度位相ドリフト
φIFAMP3 :増幅器71の温度位相ドリフト
φX1:第1の受光部300の信号F1に係る部分301の不明位相ドリフト
φX2:第2の受光部400の信号F1に係る部分401の不明位相ドリフト。
【0042】
まず、発光素子8を発光させる。受光部401から得られる安定した信号レベルの整調用信号△f1xが第1のPLL制御回路100に入力され、PLL制御回路100が安定状態に入る。Local信号F1+△f1も安定した周波数になる。このときのLocal信号の位相φは、

・・・(1)
である。この状態で測距を行うと、A/D変換器50で測定される信号位相φは、

・・・(2)
であり、A/D変換器70で測定される信号位相φ は、

・・・(3)
となる。φをφに代入すると、

・・・(4)

・・・(5)
となり、式(4)と式(5)の差を取ると、

・・・(6)
となる。
【0043】
次に発光素子6を発光させる。受光部401から得られる安定した信号レベルの整調用信号△f1xが第1のPLL制御回路100に入力され、第1のPLL制御回路100が安定状態に入る。Local信号F1+△f1も安定した周波数になる。このときのLocal信号の位相φ は、

・・・(7)
である。この状態で測距を行うと、A/D変換器50で測定される信号位相φは、

・・・(8)
であり、A/D変換器70で測定される信号位相φは、

・・・(9)
となる。φをφに代入すると、

・・・(10)

・・・(11)
となり、式(10)と式(11)の差を取ると、

・・・(12)
となる。
【0044】
ここで、式(6)と式(12)の差、即ちφ−φとφ−φの差を取ると、

・・・(13)
を得る。式(13)は、発光素子6,8の温度位相ドリフトφLD1LD2、受光素子40,60の温度位相ドリフトφAPD1APD2、受光部301における電気部品による位相ドリフトφRFAMP1,φIFAMP1、受光部401における電気部品による位相ドリフトφRFAMP2,φIFAMP2,φIFAMP3は除去され、測距光路,参照光路の固定位相φC1C3C2のみとなっている。このことから、各発光素子,各受光素子,各周波数変換器等の電気部品の温度位相ドリフトが大幅に低減されている。さらに、受光部301と受光部401において電気回路が異なることによって生じる原因不明な位相ドリフトφX1,φX2は完全に除去されていることが判る。なお、信号F1の場合、φ, φは同じ値であるため、φ, φ を測定しなくとも、式(6)から同様の式を得られる。
【0045】
また、信号F2の場合は、信号F1と共通の回路内発振器12を使用するため、位相φ , φ は信号F1についての位相となる。よって、φ−φの式(式(6))のみでは、信号F2本来の位相ドリフトよりも大きなドリフトが残ることになる。そのため、φ, φ も測定し、式(13)から位相φ , φを除去すればよい。
【0046】
本実施例によれば、2つの発光素子6,8を択一的に発光させることで、測距信号,参照信号の位相をそれぞれ測定できる構成とし、かつ、上記の様々な位相ドリフトに追随した位相を持つ△f1xを、故意に、第1のPLL制御回路100の整調用信号として用い、PLL回路出力信号f1+△f1を周波数変換器48及び周波数変換器68に入力することで、発光素子6を発光させて測距すると、受光部301の周波数変換器48及び受光部401の周波数変換器68を介して測距信号の位相ドリフトは略除去され、その後A/D変換器50,70で測定される測距信号の位相ドリフトには極小のドリフト量しか含まれなくなる。次に、発光素子8に発光を切り換え、同様に参照信号を測定し、測距信号と参照信号の位相差をとれば、上述の計算により、既知の固定位相ドリフトのみが残り、原因不明な位相ドリフトφX1,φX2は全て除去されるので、本実施例の光波距離計に生じる測距値誤差は大幅に低減される。
【0047】
実際に、図3に本実施例における光波距離計で得た測距値を、図4に従来の光波距離計で得た測距値を示す。図3,図4ともに、横軸に温度[℃]、縦軸に測距値[m]を表しており、0mを基準として温度0℃〜45℃の範囲の測距値を示している。図3,図4において、測距値ドリフト(測距値の最大値と最小値との差)を比較すると、従来の光波距離計の測距値ドリフトは0.002m(2mm)であるのに対し、本実施例における光波距離計の測距値ドリフトは0.001m(1mm)であることが判る。よって、本実施例における光波距離計は、様々な位相ドリフトが大幅に低減されたことにより、従来の光波距離計よりも測距値誤差が減り、より正確な測距値が得られることが証明された。
【0048】
また、特許文献2では、2つの発光素子に、異なる2種類の送光信号(f,f)及び(f-△f,f-△f)が用意されており、測距時に電波干渉して送光信号同士が相互に漏れこみ、測距値誤差の一因になるという問題があったが、本実施例における光波距離計では、送光信号は1種類(f,f)しか用意しないため、電波干渉による上記誤差は生じない。
【0049】
さらに、特許文献2では、A/D変換器に入力される信号には周波数が異なる複数の中間周波信号があるため、これらをデジタルフィルタで分離している。しかし、プリズム測距の場合、測距光が大気の揺らぎの影響でプリズム視準位置が時折ずれ、振幅変調と同じ影響を受ける。その変調周波数は数Hz〜数kHzにまで及ぶため、A/D変換器に入力した測距光の周波数と参照光の周波数が近接(数kHz程度の差)していると、大気の揺らぎの影響で参照信号に測距信号が合成され、参照信号に測定誤差がおこる問題があるが、本願発明では、A/D変換器に入力する中間周波信号は1種類しかないため、これを原因とする誤差も生じない。
【0050】
図5は、本願発明の第2の実施例に係る光波距離計のブロック図である。第2の実施例では、最も大きい周波数のF1よりも低い周波数のF2に係る信号F2+△f2を、周波数生成回路19ではなく第2のPLL制御回路200により生成し、信号F2のLocal信号を、信号F1と共通の発振器(回路内発振器12)を用いずに生成する構成となっている。その他の構成は、第1の実施例と同様である。
【0051】
図5において、分周部15では、F1を分周して周波数△f2を生成し、第2のPLL制御回路200へ比較用の固定周波数信号として入力する。第2のPLL制御回路200は、位相比較器16,ループフィルタ17,回路内発振器18と、回路内発振器18からのPLL回路出力信号F2+△f2及び周波数発振器1からの固定周波数信号F1が入力されて低周波信号△f2を位相比較器16に出力する第2回路用ミキサー91を備えており、回路内発振器18のPLL回路出力信号を安定させることができる。
【0052】
第1の実施例では、信号F2と信号F1で共通の回路内発振器12を使用するため、信号F2においても、位相φ , φ は信号F1についての位相となり、信号F2本来の位相ドリフトよりも大きなドリフトが残ることから、φ, φ も測定し、式(13)から位相φ , φを除去する必要があった。しかし、信号F1よりも周波数が低い信号F2では、発光素子6,8、受光素子40,60の位相ドリフトが信号F1よりも当然に少ないという周知の事実から、信号F2には、別個の発振器を用いたほうが、顕れる位相ドリフトが小さくなる。
【0053】
本実施例によれば、別個に第2のPLL制御回路200を設けたことで、信号F2には信号F1の位相ドリフトは含まれず、かつ顕れる位相ドリフトが小さいため、さらに測距値誤差を低減することができる。
【0054】
また、φ, φ,を測定しなくとも、 式(6)からφ, φと同様にφ, φを得ることができることから、信号F2,F1ともにφ, φを測定しなくとも良いことから、測定時間が短縮される。
【0055】
なお、本願発明は、前記第1及び第2の実施例に限るものではなく、例えば、光波距離計を内蔵した測量機、例えばトータルステーションや、その他の距離測定装置等にも広く利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 周波数発振器
4 発光切換回路(発光切換手段)
6 第1の発光素子
8 第2の発光素子
13 設定用ミキサー
14 信号切換回路
22 目標反射物
21、23 測距光路
26、29、31 参照光路
40 第1の受光素子
60 第2の受光素子
42、45、48、62、65、68 周波数変換器
44、47、50、64、67、70 A/D変換器
80 演算処理部
100 第1のPLL制御回路
200 第2のPLL制御回路
300 第1の受光部
400 第2の受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数発振器より生成された周波数信号を大きさの異なる複数の変調周波数に変調された光として出射する第1の発光素子及び第2の発光素子と、前記両発光素子から出射された光を受光する第1の受光素子及び第2の受光素子と、前記第1の受光素子に接続され、周波数変換器を含む第1の受光部と、前記第2の受光素子に接続され、周波数変換器を含む第2の受光部と、を備え、
前記第1の発光素子及び第2の発光素子は、発光切換手段によって交互に切り換えられて択一的に発光し、
第1の発光素子から出射された光は2つに分けられ、一方は測距光として目標反射物までを往復する測距光路を経て第1の受光素子に入射し、他方は参照光として第1の参照光路を経て第2の受光素子に入射し、
第2の発光素子から出射された光は2つに分けられ、一方は参照光として第2の参照光路を経て第2の受光素子に入射し、他方は参照光として第3の参照光路を経て第1の受光素子に入射し、
前記第2の受光部を経た中間周波信号が帰還され、整調用信号としてPLL制御回路に入力され、該PLL制御回路において、前記周波数発振器から比較用に分周された固定周波数信号と前記整調用信号とが位相比較され安定された状態で再出力され、
前記PLL回路出力信号が、前記第1の受光部及び第2の受光部の周波数変換器に入力され、それぞれA/D変換器で測定されてデジタルデータに変換され、演算処理部において、前記択一的発光により得られた測距信号と参照信号の位相差から目標反射物までの測距値を算出する光波距離計。
【請求項2】
前記PLL制御回路に、前記PLL回路出力信号及び前記周波数発振器からの固定周波数信号が入力されて低周波信号を出力する設定用ミキサーと、前記演算処理部の指令により、前記設定用ミキサーからの低周波信号又は前記整調用信号のいずれか一方を選択的に該PLL制御回路に出力する信号切換手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光波距離計。
【請求項3】
前記大きさの異なる複数変調周波数のうち、
最も周波数の大きい第1周波数には、前記整調用信号が入力される前記PLL制御回路が用られ、
前記第1周波数より周波数の低い第2周波数には、前記周波数発振器からの固定周波数信号が入力される第2回路用ミキサーを備えた第2のPLL制御回路が設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の光波距離計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202944(P2012−202944A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70404(P2011−70404)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】