説明

光照射による屈折率変化の小さい光学ガラス

【課題】 高出力の紫外光線や300〜400nm領域のレーザ光線の照射により生じる屈折率変化を抑制した、耐光線性の優れた光学ガラスを提供する。
【解決手段】 ガラスに、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近紫外光線領域で用いられる光学ガラスにおいて、光線照射による劣化の小さい光学ガラスに関し、特に光線波長が300〜400nmの強い光線(たとえば、超高圧水銀灯、紫外線レーザー)の照射による屈折率変化の小さい光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近紫外領域光線を用いる光学系の一つとして、シリコン等のウエファ上に集積回路の微細パターンを露光・転写する光リソグラフィー技術、すなわち、超高圧水銀灯のi線(365nm)を用いる露光装置(i線ステッパー)が知られている。この露光装置は、近年LSIの高集積化と共に露光面積の拡大が進められており、一般にi線ステッパーの光学系には、直径200mm以上の大きさのレンズが用いられ、しかも、そのレンズに用いられるi線用光学ガラスは、屈折率の均質性が非常に高く、ガラスの厚さ=10mmにおけるi線の内部透過率が99%以上であると共に紫外線照射による透過率の劣化(ソーラリゼーション)がないことが必要である。
そのためi線用光学ガラスは、不純物の少ない高純度原料の採用、原料調合および熔解工程のクリーン化、高均質熔解および精密アニールによる除歪等の技術の確立の中で製造されている。
しかしながら、i線ステッパーには、さらなる高集積化と共に露光・転写の処理能力および長期耐久性が望まれており、これに使用される光学ガラスレンズには、高均質性、高透過率、耐ソーラリゼーションと共に高出力のi線光線照射への耐性、すなわち、i線照射による屈折率変化の小さいことが要望されるようになってきた。
【0003】
光照射による屈折率の変化は、合成石英ガラスで高出力の紫外域のエキシマレーザー光線の長時間照射により、透過率変化と共に密度変化を生じ、屈折率やガラス面形状の変化を生ずる、いわゆるコンパクション現象が知られている。
合成石英ガラスは、四塩化珪素を酸水素炎で燃焼して酸化珪素微粉を合成し、この酸化珪素微粉を高温で加熱し固めることにより作られる。
すなわち、
SiCl4+2O2+4H2 → SiO2+4HCl+2H2
の反応により合成される。
合成石英ガラスにおけるコンパクション現象は、合成の際、合成石英ガラス中に残る水分起因のイオン(OH-やH+などのイオン)や反応の不完全さによるSi−O結合の切断等が原因とされている。
【0004】
また、i線照射に供されるi線用光学ガラスにおいては、上記コンパクション現象が生じることは具体的には知られていなかった。
しかし、意外にも、従来合成石英ガラスで知られていたのと同様にi線用光学ガラスにおいても、波長300〜400nm領域の高出力の紫外光線やレーザー光線を照射した部分で、屈折率の変化による均質性の劣化を生じたり、歪みが増大したり、またガラス表面形状の変形を生じたりすることが見いだされ、i線用光学ガラスが十分な耐光線性を有していないことが分かった。従って、このようなガラスを使用した光学系は、結像性能を悪化させる原因になり、LSIの従来に増しての高集積化および露光・転写の処理能力向上に問題を生ずることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、波長300〜400nm領域の高出力の紫外光線やレーザー光線の照射により生じる屈折率変化を抑制した、耐光線性の優れた光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意試験研究を行った結果、ガラス成分として、フッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有させることにより、意外にも光線照射による屈折率変化を小さくさせることを見いだし、具体的には、(1)SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスにおいては、比較的少量のフッ素成分の含有および/または、ガラスの清澄剤としてSb23成分に換えてAs23成分の含有および/または、透過率への影響を無視できる程度の極少量のTiO2成分の含有、(2)SiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスにおいては、フッ素成分および/または、ガラスの清澄剤としてSb23成分に換えてAs23成分の含有および/または、透過率への影響を無視できる程度の極少量のTiO2成分の含有、(3)P25−Al23−アルカリ土類弗化物系ガラスにおいては、清澄剤およびTiO2成分の無含有、またはこれらの成分の少なくとも一方の極少量添加、により紫外光線照射による屈折率変化の小さいガラスが得られることを見いだし本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、前記目的を達成するための請求項1に記載の本発明の光学ガラスの特徴は、ガラスに、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下であり、
質量%で、
SiO2 30〜70%、B23 3〜20%、
Al23 0〜6%、Li2O 0〜5%、
Na2O 0〜13%、K2O 0〜12%、
BaO 0〜42%、ZnO 0〜7%、
ただし、Na2O、K2O、BaOおよびZnOの一種または二種以上の合計量10〜45%、
PbO 0〜2%、TiO2 0〜0.5%、
As23 0〜1%、Sb23 0〜1%、
および、一種または二種以上の上記酸化物の一部または全部を置換したフッ化物のFの合計量0〜11%を含有るところにある。
【0008】
請求項2に記載の本発明の光学ガラスの特徴は、請求項1に記載の光学ガラスおいて、フッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有するところにある。
【0009】
請求項3に記載の本発明の光学ガラスの特徴は、請求項2に記載の光学ガラスおいて、質量%で、フッ素成分として一種または二種以上のフッ化物のFの合計量0.1〜45%および/または酸化チタン成分としてTiO2 0.001〜0.5%および/または酸化砒素成分としてAs23 0.001〜1%を含有するところにある。
【0010】
請求項4に記載の本発明の光学ガラスの特徴は、請求項1に記載の光学ガラスおいて、質量%で、
CaO 0〜2%、SrO 0〜2%、
ZrO2 0〜2%、
ただし、上記各成分の一種または二種以上の合計量2%以下を含有するところにある。
【0011】
請求項5に記載の本発明の光学ガラスの特徴は、ガラスに、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下であり、
質量%で、
25 4〜39%、Al23 0〜9%、
MgO 0〜5%、CaO 0〜6%、
SrO 0〜9%、BaO 0〜10%、
23 0〜 10%、La23 0〜10%
Gd23 0〜 20%、Yb23 0〜10%、
ただし、Y23、La23、Gd23およびYb23の一種または二種以上の合計量0〜20%、
TiO2 0〜0.1%、SnO2 0〜1%、
As23 0〜0.5%、Sb23 0〜0.5%、
AlF3 0〜29%、MgF2 0〜8%、
CaF2 0〜27%、SrF2 0〜27%、
BaF2 10〜47%、YF3 0〜10%、
LaF3 0〜10%、GdF3 0〜10%、
LiF 0〜3%、NaF 0〜1%、
KF 0〜1%、
ただし、フッ素成分として、一種または二種以上の上記フッ化物のFの合計量が10〜45%であり、かつ、MgF2、CaF2、SrF2およびBaF2の一種または二種以上の合計量が30〜70%を含有するところにある。
【発明の効果】
【0012】
上述のとおり、本発明にかかる光学ガラスは、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下である光学ガラスであり、また、フッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有する光学ガラスであり、また、特定の組成範囲のフッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有するSiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラス、または特定の組成範囲のフッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有するSiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラス、または特定の組成範囲のフッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有するP25−Al23−アルカリ土類フッ化物系ガラスであるから、波長300〜400nm領域の高出力の紫外光線やレーザー光線をガラスに照射した部分の屈折率の変化量(Δn)が小さい。したがって、波長300〜400nm領域の高出力の紫外光線やレーザー光線等のエネルギー密度の高い光線を使用する高精度の光学系に、本発明の光学ガラスを使用したところ、ガラスの均質性の劣化、ガラスの歪みの増大やガラス表面形状の変形をほとんど生じないため、画像の歪みやにじみを生じることがなかった。このように本発明のガラスは非常に有用であり、例えば、本発明の光学ガラスをi線ステッパーの光学系や照明系のレンズとして使用すると、高集積度LSIのパターンの露光・転写を高解像度で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の光学ガラスにおいて、ガラスに、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下とする理由についてであるが、本発明者らが各種試験研究を行ったところ、この条件を満足するガラスについて、波長300〜400nm領域の高出力の紫外光線や連続レーザー光を照射した場合においても、屈折率の変化による均質性の劣化、歪み、ガラス表面形状の変形を生じることなく、i線用光学ガラスとして十分な耐光線性を有しており、このようなガラスを使用した光学系は、結像性能を悪化させることなく、前述のような高集積化および露光・転写において、処理能力向上に対応し得ることが判明した。
【0014】
次に、各成分を前記組成範囲に限定した理由は以下のとおりである。すなわち、SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスにおいては、SiO2成分は、ガラス形成上不可欠の成分であり、PbO成分との組み合わせでSiO2−PbO系ガラスの独特な特性を導き出すことができる。しかし、その量が40%未満では、屈折率が高くなりすぎると共に短波長域において光線透過率が十分でなく、i線露光装置のようなi線を用いる光学系には不向きになる。また、70%を超えると、ガラスの粘度が高くなりすぎ、均質なガラスを得にくくなる。
【0015】
PbO成分は、ガラスを高屈折、高分散にし、ガラスの粘度を適度に降下させるのに有効な成分である。しかし、その量が14%未満では、ガラスが固く、均質なガラスを得にくくなり、また50%を超えると屈折率が高くなりすぎると共に、短波長域における十分に高い光線透過率が得にくくなる。
【0016】
Na2O成分およびK2O成分は、ガラス原料中のSiO2成分やPbO成分の溶融を促進し、ガラスの粘度を調整するのに有効である。しかし、それらの量がNa2O成分は14%を超え、K2O成分は15%を超えるとガラスの耐候性や耐酸性等の化学的性質が劣化しやすくなるため好ましくない。また、両成分の合計量が8%未満であると、上記効果が不十分であるため、ガラスの粘度が高くなりすぎて均質なガラスが得にくくなり、両成分の合計量が17%を超えると、ガラスの耐候性や耐酸性等の化学的性質が劣化しやすくなる。
【0017】
23成分は、任意成分としてガラスに添加することができ、SiO2成分と同様にガラス形成成分として働くが、SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスに多く含有させると化学的性質の劣化を起こしやすいため、その量は5%以下が良い。
【0018】
As23成分およびSb23成分は、ガラスの清澄助剤としての効果があり、さらにAs23成分は、ガラスのコンパクション現象を抑制する効果があるため、それぞれ任意に添加しうるが、上記効果を得るためには、それぞれ1%以下までで十分である。また、SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスに、フッ素成分およびTiO2成分が存在しない場合は、コンパクション現象による屈折率変化を小さくするためにAs23成分を0.001〜1%添加すべきである。
【0019】
TiO2成分は、ガラスの屈折率やアッベ数の調整および高出力の紫外域光線やレーザー光線の照射によるガラスのコンパクション現象やソーラリゼーションの抑制に効果を有するが、多く添加すると、短波長域における光線透過率を劣化させるので、その量は0.2%以下が良い。また、SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスに、フッ素成分およびAs23成分が存在しない場合は、コンパクション現象による屈折率変化を小さくするためにTiO2成分を0.001〜0.2%添加すべきである。
【0020】
フッ素成分は、一種または二種以上の上記酸化物の一部または全部と置換した弗化物として任意に添加することができ、高出力の紫外域光線やレーザー光線の照射によるガラスのコンパクション現象の抑制、屈折率および粘度の調整に効果がある。しかし、上記フッ化物の合計量が2%を超えると、フッ素成分の揮発が大きくなりすぎ、均質なガラスを得にくくなる。また、SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスに、As23成分およびTiO2成分が存在しない場合は、コンパクション現象による屈折率変化を小さくするために上記フッ化物の合計量を0.1〜2%とすべきである。
【0021】
さらに、本発明のSiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスには、ガラスの粘度、屈折率、化学的性質、安定性等の調整のために、任意成分としてLi2O成分、CaO成分、SrO成分およびAl23成分をそれぞれ2%まで、BaO成分を5%まで含有させることができる。ただし、Li2O成分、CaO成分、SrO成分、Al23成分およびBaO成分の一種または二種以上の合計量は5%以下とすべきである。
【0022】
次に、SiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスにおいては、SiO2成分は、SiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスと同様にガラス形成上不可欠の成分である。しかし、その量が30%未満では、比較的多くB23やBaO等の成分を必要とし、屈折率が高くなりすぎたり、化学的性質の劣化を招いたりするので好ましくない。また、70%を超えると、ガラスの粘度が高くなりすぎ、均質なガラスを得にくくなる。
23成分は、SiO2成分と同様にガラス形成酸化物であり、ガラスを低分散にしたり、ガラスの粘性を調節するのに有効である。しかし、その量が3%未満では、その効果は不十分であり、20%を超えると、化学的性質が劣化するので好ましくない。Al23成分は、ガラスの化学的耐久性の向上、粘度や屈折率の調整に有効である。しかし、その量が6%を超えると、ガラスの粘性が高くなりすぎる。
【0023】
Li2O成分は、ガラス原料の溶融を促進する効果があり、しかも他のアルカリ金属酸化物と比べて屈折率の低下や、化学的性質の劣化を招きにくいので有効である。しかしその量が5%を超えるとガラスの失透性が増大するので好ましくない。
【0024】
Na2O成分およびK2O成分は、ガラス原料の溶融促進に有効であり、多量にガラス中に含有させても安定なガラスをつくる。しかし、Na2O成分およびK2O成分の量が、それぞれ13%および12%を超えると化学的性質を悪化させるので好ましくない。
【0025】
BaO成分は、ガラスの分散をあまり大きくすることなく(アッベ数をあまり小さくすることなく)、屈折率を向上させ、広い組成範囲において耐失透性の大きい安定なガラスを得ることができる。しかし、その量が42%を超えるとガラスの化学的耐久性が極度に劣化する。
【0026】
ZnO成分は、屈折率の向上、粘性の調整、耐失透性の向上等に有効な成分である、しかしその量が7%を超えると、短波長域における光線透過率の低下を招くことがあるので、好ましくない。
【0027】
また、安定で化学的性質が優れ、かつ、短波長域まで光線透過率の良いガラスを得るためには、Na2O成分、K2O成分、BaO成分およびZnO成分の1種または2種以上の合計量の範囲は10%から45%までが好ましい。
【0028】
PbO成分およびTiO2成分は、SiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスにおいて、ガラスのソーラリゼーションを防止するのに有効である。さらに、TiO2成分は、いわゆるコンパクション現象を抑制するのにも有効である。しかしこれらの成分は必要以上に多く含有させると短波長域の光線透過率を劣化させる原因になるので、これらの成分の量は、それぞれ2%および0.5%までとすることが好ましい。また、SiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスに、フッ素成分およびAs23成分が存在しない場合は、コンパクション現象による屈折率変化を小さくするためにTiO2成分を0.001〜0.5%添加すべきである。
【0029】
As23成分およびSb23成分は、ガラスの清澄助剤としての効果があり、さらにAs23成分は、ガラスのコンパクション現象を抑制する効果があるため、それぞれ任意に添加しうるが、上記効果を得るためには、それぞれ1%以下までで十分である。また、SiO2−PbO−アルカリ酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスに、フッ素成分およびTiO2成分が存在しない場合は、コンパクション現象による屈折率変化を小さくするためにAs23成分を0.001〜1%添加すべきである。
【0030】
フッ素成分は、一種または二種以上の上記酸化物の一部または全部と置換した弗化物として任意に添加することができ、高出力の紫外域光線やレーザー光線の照射によるガラスのコンパクション現象の抑制、屈折率および粘度の調整に効果がある。しかし、上記フッ化物の合計量が11%を超えると、ガラスが乳白化したり、屈折率が小さくなりすぎたり、溶融の際にフッ素成分の揮発が大きくなりすぎて、均質なガラスを得がたくなったりするので好ましくない。また、SiO2−PbO−アルカリ酸化物系ガラスに、As23成分およびTiO2成分が存在しない場合は、コンパクション現象による屈折率変化を小さくするために上記フッ化物の合計量を0.1〜11%とすべきである。
【0031】
また、上記各成分の他に、屈折率の調整や、ガラスの化学的性質の向上等の目的のために、任意成分として、CaO成分、SrO成分およびZrO2成分から選ばれる1種または2種以上を合計で2%まで添加しても差し支えない。
【0032】
次に、P25−Al23−アルカリ土類フッ化物系ガラスにおいては、P25成分は、ガラス形成成分であり、その量が4%未満では、耐失透性に優れた安定なガラスを得にくい、また39%を超えるとガラスのアッベ数が小さくなりすぎ、本組成系のメリット(低分散性)が得難くなる。
【0033】
Al23成分は、P25成分と共に存在することにより、ガラスの構造を形成する成分であり、またガラスの化学的性質の向上に有効である。しかしその量が9%を越えると失透性の増大につながる。
【0034】
MgO、CaO、SrOおよびBaOの各成分は、通常燐酸塩としてガラスに含有させられ、ガラスの安定性や化学的耐久性の向上、屈折率およびアッベ数の調整等に役立つ。しかし、これら各成分の量が、それぞれ5%、6%、9%およびび10%を超えると、かえってガラスが失透しやすくなるため好ましくない。また、失透が生じにくいガラスにするためには、これらの成分の1種または2種以上の合計量を20%以下とすることがより好ましい。
【0035】
23、La23、Gd23およびYb23の各成分は、アッベ数を低下させずに屈折率を高め、ガラスの失透を防止し、さらにガラスの化学的耐久性を向上させる効果がある。しかし、これら各成分の量が、それぞれ10%,10%、20%および10%を超えると逆に耐失透性が劣化するので好ましくない。また、これらの成分の1種または2種以上の合計量が20%を超えるとガラスの耐失透性が劣化するので好ましくない。
【0036】
TiO2成分は、ガラスの屈折率を向上させ、ソーラリゼーションを防止し、かつ、コンパクション現象による屈折率変化を小さくする効果があるため、必要に応じて任意に添加することができるが、その量は0.1%以下で十分であり、0.1%を超えて含有させるとガラスの短波長域の光線透過率が劣化させるので好ましくない。
【0037】
SnO2成分は、ガラスの屈折率を向上させたり、失透防止に効果がある。しかしその量は1%以下で十分である。
【0038】
As23およびSb23成分は、ガラスの清澄助剤としての効果があり、さらにAs23成分は、ガラスのコンパクション現象を抑制する効果があるため、それぞれ任意に添加しうるが、その量はそれぞれ0.5%以下で十分である。
【0039】
AlF3成分は、ガラスの分散を小さくし、失透防止に効果がある。しかしその量が29%を超えるとかえってガラスが不安定になり、ガラス中に結晶が生じやすくなる。
【0040】
MgF2、CaF2、SrF2およびBaF2の各成分は、ガラスの失透を抑制するのに有効であり、BaF2の量が10%未満では、化学的に安定なガラスが得難くなる。また、MgF2は8%、CaF2は27%、SrF2は27%およびBaF2は47%をそれぞれ超えると、かえって失透が発生しやすくなる。また、MgF2、CaF2、SrF2およびBaF2成分の1種または2種以上の合計量は30〜70%が適当である。
【0041】
YF3,LaF3およびGdF3の各成分は、ガラスの屈折率を高め、耐失透性の向上に効果があるが、これらの量はそれぞれ10%以下が適当である。
【0042】
LiF、NaFおよびKFの各成分は、ガラスの耐失透性を向上させる効果があるが、しかしこれらの量が、それぞれ3%、1%および1%を超えるとかえって失透しやすくなり適当でない。
【0043】
さらに、P25−Al23−アルカリ土類フッ化物系ガラスにおいては、コンパクション現象によるガラスの屈折率変化を小さくするため、一種または二種以上の上記フッ化物に含まれるFの合計量を10〜45%の範囲とすることが適当である。また、上記酸化物およびフッ化物は、それぞれの金属イオン、酸素イオンおよびフッ素イオンの比率を保つ範囲において、適宜酸化物とフッ化物とを置換しても差し支えない。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の光学ガラスにかかる実施例について説明する。表1〜表4に示す実施組成例No.1〜No.24は、本発明にかかるSiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスの実施組成例である。また、表5〜表6に示す実施組成例No.25〜No.38は、本発明にかかるSiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスの実施組成例である。また、表7〜表9に示す実施組成例No.39〜No.59は、本発明にかかるP25−Al23−アルカリ土類フッ化物系ガラスの実施組成例である。
さらに、表10は、本発明にかかるSiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスの実施組成例No.60〜No.64と従来のガラスの比較組成例No.AおよびNo.Bとの比較(比較Iおよび比較II)
を示し、表11は、本発明にかかるSiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスの実施組成例No.65およびNo.66と従来のガラスの比較組成例No.CおよびNo.Dとの比較(比較IIIおよび比較IV)を示した。
【0045】
なお、表1〜表11に示したΔn(ppm)は、ビーム直径=2.0mm,波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を、照射時間=1時間という照射条件で、ガラスに照射した部分の照射前後の屈折率の変化量を示したものである。
また、表12は、本発明にかかるSiO2−PbO−アルカリ金属酸化物系ガラスの実施組成例No.67〜No.70および本発明にかかるSiO2−B23−アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物系ガラスの実施組成例No.71〜No.73を示し、表13は表12に示したガラスに、前記レーザ(波長351nm,ビーム直径=2.0mm)の出力および照射時間を表1〜表11とは照射条件を変えて、照射した部分の照射前後の屈折率の変化量:Δn(ppm)を示したものである。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【0053】
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
【表10】

【0056】
【表11】

【0057】
【表12】

【0058】
【表13】

【0059】
表1〜表12に見られるとおり、本発明の実施組成例No.1〜No.73のガラスは、いずれも、レーザー照射前後の屈折率の変化量(Δn)が5ppm以下であり、表10および表11に示した本発明の実施組成例No.60〜No.66のガラスは、SiO2、PbO、B23、アルカリ金属酸化物およびBaO等の含有量ならびにndおよびνdがこれらの実施組成例のガラスと近似している比較組成例No.A〜No.Dの従来のガラスと比べて、いずれもレーザー照射前後の屈折率の変化量(Δn)が小さく、フッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分含有の効果を示している。
【0060】
また、本発明の上記実施組成例のガラスは、いずれも、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、燐酸塩、弗化物等の光学ガラス用原料を秤量混合した後、白金容器および/または石英容器等を用い、900〜1500℃で約3〜10時間、溶融、清澄、攪拌、均質化し、所定の温度まで冷却した後、余熱した金型に鋳込み、徐冷することにより容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスに、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下であり、
質量%で、
SiO2 30〜70%、B23 3〜20%、
Al23 0〜6%、Li2O 0〜5%、
Na2O 0〜13%、K2O 0〜12%、
BaO 0〜42%、ZnO 0〜7%、
ただし、Na2O、K2O、BaOおよびZnOの一種または二種以上の合計量10〜45%、
PbO 0〜2%、TiO2 0〜0.5%、
As23 0〜1%、Sb23 0〜1%、
および、一種または二種以上の上記酸化物の一部または全部を置換したフッ化物のFの合計量0〜11%を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
フッ素成分および/または酸化チタン成分および/または酸化砒素成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、フッ素成分として一種または二種以上のフッ化物のFの合計量 0.1〜45%および/または酸化チタン成分としてTiO2 0.001〜0.5%および/または酸化砒素成分としてAs23 0.001〜1%を含有することを特徴とする請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、
CaO 0〜2%、SrO 0〜2%、
ZrO2 0〜2%、
ただし、上記各成分の一種または二種以上の合計量2%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラスに、波長=351nmのパルスレーザー光(平均出力(Average Output Power)=0.43W,パルス繰り返し数(Pulse Repetition Rate)=5kHz,パルス幅(Pulse Width)=400ns)を1時間照射した後の屈折率の変化量(Δn:照射前後の屈折率の差)が5ppm以下であり、
質量%で、
25 4〜39%、Al23 0〜9%、
MgO 0〜5%、CaO 0〜6%、
SrO 0〜9%、BaO 0〜10%、
23 0〜10%、La23 0〜10%
Gd23 0〜20%、Yb23 0〜10%、
ただし、Y23、La23、Gd23およびYb23の一種または二種以上の合計量0〜20%、
TiO2 0〜0.1%、SnO2 0〜1%、
As23 0〜0.5%、Sb23 0〜0.5%、
AlF3 0〜29%、MgF2 0〜8%、
CaF2 0〜27%、SrF2 0〜27%、
BaF2 10〜47%、YF3 0〜10%、
LaF3 0〜10%、GdF3 0〜10%、
LiF 0〜3%、NaF 0〜1%、
KF 0〜1%、
ただし、一種または二種以上の上記フッ化物のFの合計量が10〜45%であり、かつ、MgF2、CaF2、SrF2およびBaF2の一種または二種以上の合計量30〜70%を含有することを特徴とする光学ガラス。

【公開番号】特開2011−251903(P2011−251903A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171685(P2011−171685)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【分割の表示】特願2001−164358(P2001−164358)の分割
【原出願日】平成13年5月31日(2001.5.31)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】