説明

光熱変換測定装置

【課題】試料中における光熱効果による特性変化を、簡易な構成により高感度かつ高精度(低ノイズ)で測定できる光熱変換測定装置を提供する
【解決手段】モータ3によって回転フィルタ2を回転駆動することにより、励起光源1から出力される励起光B3の経路に、2つの光フィルタ部2a、2bのいずれを位置させるかを所定周期で切り替える切替型光フィルタ部Zと、試料5を透過した前記測定光B1に参照光B2を干渉させその干渉光の強度を検出する光検出器20と、光検出器20から取得した干渉光強度の信号(測定光B1の検出信号)から、切替型光フィルタ部Zによる光フィルタ部2a、2bの切り替え周期と同周期成分を抽出する前記信号処理装置21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の含有物質等を分析する際に用いられ、励起光を試料に照射したときの光熱効果により試料に生じる屈折率変化に基づく特性変化を測定する光熱変換測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種試料の含有物質等の分析において、分析感度の向上は、試薬の量の低減や試料の濃縮処理の簡素化、分析の効率化及び低コスト化を図る上で重要である。一方、試料に励起光を照射すると、その照射部は励起光を吸収することにより発熱し、これを光熱効果という。この発熱を測定することを光熱変換測定という。
従来、この光熱変換測定による試料の高感度分析法として、光熱効果により試料に形成される熱レンズ効果を用いた手法(以下、熱レンズ法という)が知られている。
熱レンズ法による分析装置(光熱変換分光分析装置)は、例えば、特許文献1に示されている。この熱レンズ法による分析装置では、試料に照射した検出光(測定光)を集光するとともにピンホールに通過させ、そのピンホールを通過後の検出光の光強度を検出することにより、励起光が照射された試料の発熱による屈折率変化を検出光の集光状態の変化として検出するものである。
【0003】
一方、特許文献2には、試料の光熱効果による屈折率変化を、試料を通過(透過)させた測定光における位相変化として捉え、これを光干渉法を用いて測定する技術が示されている。
これにより、例えば装置ごとに光検出器(光電変換手段)の位置や測定光の強度及びその強度分布等が異なっても、測定中に変化さえしなければ、これらに依存することなく安定的に、しかも光学的に高精度かつ高感度で試料の屈折率変化を測定することが可能となる。
さらに、特許文献1及び特許文献2には、周期的に強度変調した励起光を用い、測定光(検出光)を励起光の強度変調周期と同周期成分について測定することにより、S/N比向上を図ることが示されている。
【特許文献1】特開平10−232210号公報
【特許文献2】特開2004−301520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、試料の吸収分光特性を評価する場合、励起光の光源として白色光源が用いられるが、一般的に、白色光源は発光部分が広いため、その光を高精度で集光して試料に照射させることが難しい。
しかしながら、特許文献1に示される前記熱レンズ法による測定では、熱レンズ効果を発生させるために励起光を高精度で集光して試料に照射させる必要があり、白色光源を用いることができない。このため、波長帯が特定されるレーザ発振器を光源として用いざるを得ず、試料の吸収分光特性を評価できないという問題点があった。
さらに、特許文献1に示される前記熱レンズ法による測定では、測定感度を高めるためには、励起光の強度を増大させる、或いは試料通過後の測定光を通過させるピンホールの径を小さくする必要があるが、励起光強度の増大化は消費電力の増加、高コスト化を招き、ピンホールの小口径化は検出器での受光光量が減少によるS/N比の低下や測定時間の長時間化を招くという問題点があった。
また、特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても、測定光及び励起光の光路中に、試料を収容するセルやそのセルに試料とともに収容される溶媒等、励起光によって加熱されて屈折率変化が生じる物質(以下、外乱物質という)が存在する場合、これが外乱となってS/N比を悪化させるという問題点があった。
従って、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、試料中における光熱効果による特性変化を、簡易な構成により高感度かつ高精度(低ノイズ)で測定できる光熱変換測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は、所定の試料に励起光を照射し、その試料の光熱効果により生じる特性変化を、その試料に照射されこれを透過した測定光に基づいて測定するために用いる光熱変換測定装置に適用されるものであり、以下の(1)〜(3)の構成要素を具備するものである。
(1)前記励起光を出力する光源から前記試料に到達するまでの前記励起光の経路に、フィルタ特性が異なる複数種類の光フィルタを所定周期で順次切り替えて位置させる切替型光フィルタ手段。
(2)前記励起光により励起された前記試料を透過した前記測定光を検出する測定光検出手段。
(3)前記測定光検出手段の検出信号から前記切替型光フィルタ手段による光フィルタの切替周期と同周期成分を抽出する同周期成分抽出手段。
ここで、前記切替型光フィルタにより、前記励起光の経路に位置する光フィルタの切り替えが行われると、前記試料に照射される前記励起光の分光強度分布が周期的に切り替わることになる。
また、同周期成分抽出手段により得られる抽出信号は、前記試料の光熱効果により生じる特性変化を表す信号となる。
【0006】
以上に示した構成を備える光熱変換測定装置において、光フィルタの切り替えによって分光強度分布の異なる複数種類の前記励起光が照射されたときに、その各々の照射状態において、概ね、測定対象とする物質(以下、測定対象物質という)以外の前記外乱物質の光の吸収量に差が生じないように、複数種類の光フィルタのフィルタ特性を予め設定しておく。
例えば、前記試料が、所定の測定対象物質が溶媒に溶かされた液体試料である場合、当該光熱変換測定装置によりその溶媒のみを前記試料として測定したときに、前記同周期成分抽出手段により抽出される前記複数種類の光フィルタ各々に対応する信号相互の状態(信号の位相、或いは強度等)がほぼ同一となるように、前記切替型光フィルタ手段における前記複数種類の光フィルタのフィルタ特性が予め設定されているものとする。
そうすると、試料に照射される前記励起光の分光強度分布の変化に応じて、同周期成分抽出手段により得られる信号が変化するが、この信号の変化は、概ね、前記励起光の波長分布の違いによって生じる前記測定対象物質の光熱効果の変化のみに起因するものとなる。このため、前記外乱物質の温度変化に起因する励起光測定信号のダイナミックレンジ(測定範囲)の飽和をほとんど考慮せずに、信号処理系の測定感度(検出感度)を上げること(増幅ゲインを上げる等)ができる。その結果、前記測定光の検出の際に、前記外乱物質の温度変化(屈折率変化)によるS/N比の悪化を招くことを防止できる。
しかも、フィルタ特性が異なる複数種類の光フィルタを設けるだけで、比較的消費電力が大きい励起光の光源を複数設ける必要がなく、装置の消費電力低減につながる。
【0007】
ここで、前記切替型光フィルタ手段の具体的な構成の例としては、各々異なる領域に各々異なるフィルタ特性を有する複数種類の光フィルタが形成されたフィルタ部材と、そのフィルタ部材を回転駆動することにより前記励起光の経路に位置する前記光フィルタを所定周期で切り替えるフィルタ部材駆動手段とを備えたものが考えられる。これにより、前記切替型光フィルタ手段をごく簡易な構成で実現できる。
また、前記切替型光フィルタ手段の他の具体的構成例としては、前記励起光の経路に配置され、複数種類のフィルタ特性を所定周期で切り替える液晶フィルタにより構成されるものも考えられる。
また、前記測定光検出手段としては、特許文献2に示されるように、前記試料を透過した前記測定光に所定の参照光を干渉させその干渉光の強度を検出する光干渉手段を具備するものであればなお好適である。
このように、試料の光熱効果による屈折率変化を、前記測定光の位相変化として捉えて光干渉法(相対的な光学手法)により検出することにより、例えば装置ごとに光検出器(光電変換手段)の位置や測定光の強度及びその強度分布等が異なっても、測定中に変化さえしなければ、これらに依存することなく再現性高く(安定的に)、しかも光学的に高精度かつ高感度で試料を分析することが可能となる。
また、前記測定光検出手段が、前記試料の前記測定光の照射面の反対面側に設けられた裏面側光反射手段と、前記試料の前記励起光の照射面側に設けられた表面側光反射手段とを備え、前記測定光が前記裏面側光反射手段と前記表面側光反射手段との間で多重反射して前記試料を透過した後の前記測定光を検出するものであれば好適である。
これにより、前記試料のわずかな屈折率変化でも、測定信号の状態が大きく変化することになり、前記試料の光熱効果により生じる特性変化(屈折率変化)を、高精度かつ高感度で測定することが可能となる。しかも、そのような高感度の測定をごく簡易な構成により実現できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、励起光の光路上における光フィルタを周期的に切り替えることにより、それぞれ分光強度分布が異なる複数種類の励起光が周期的に切り替えられて試料に照射され、その切替周期と同期した測定光の検出信号が抽出される。このため、複数種類の光フィルタ各々のフィルタ特性を予め適切に設定しておくことにより、励起光による前記外乱物質の温度変化に起因する検出信号の変化が除去される。その結果、前記外乱物質の温度変化(屈折率変化)によるS/N比の悪化を招くことを防止でき、測定対象物質の光熱効果による特性変化を、簡易な構成により高感度かつ高精度(低ノイズ)で測定できる。
また、前記測定光の検出を、前記試料を透過した前記測定光に所定の参照光を干渉させその干渉光の強度を検出する光干渉法に基づき行えば、相対的な光学手法により測定光が検出されるので、安定的に、高精度かつ高感度で試料を分析することが可能となる。
また、前記測定光を試料の両側で多重反射させ、前記試料を複数回透過した後の前記測定光を検出することにより、試料のわずかな屈折率変化でも前記測定光の状態が大きく変化することになる。その結果、前記試料の光熱効果により生じる特性変化(屈折率変化)を、高精度かつ高感度で測定することが可能となる。しかも、そのような高感度の測定をごく簡易な構成により実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに、図1は本発明の第1実施形態に係る光熱変換測定装置X1の概略構成図、図2は光熱変換測定装置X1が備える2つの光フィルタ部の特性グラフを模式的に表した図、図3は本発明の第2実施形態に係る光熱変換測定装置X2の構成の一部を表す概略図、図4は光熱変換装置X1が備える回転フィルタの構成の例を表す図である。
【0010】
本発明の実施形態に係る光熱変換測定装置X1、X2は、所定の試料に励起光を照射し、その試料の光熱効果により生じる特性変化を、同じくその試料の励起部に照射されこれを透過した測定光に基づいて測定するために用いる測定装置である。
<第1実施形態>
まず、図1に示す概略構成図を用いて、本発明の第1実施形態に係る光熱変換測定装置X1について説明する。
光熱変換測定装置X1は、励起光源1と、回転フィルタ2及びモータ3を備えた切替型光フィルタ部Zとを備え、この切替型光フィルタ部Zから順次切り替えて出力される2種類の励起光B3a、B3bが試料5に照射される。以下、便宜上、回転フィルタ2を通過する前の励起光B3を元励起光、回転フィルタ2を通過後の2種類の励起光B3a、B3bをパス後励起光と称する。
ここで、励起光源1は、ほぼ白色光に相当する分光強度分布を有するビーム状の元励起光B3を出力する光源であり、例えば、ハロゲンランプ等の白色光源により構成されている。
【0011】
また、切替型光フィルタ部Zを構成する回転フィルタ2は、励起光源1から試料5に到達するまでの励起光の経路(即ち、元励起光B3の経路)に配置され、各々異なる領域に各々異なるフィルタ特性を有する2つの光フィルタ部2a、2bが形成された部材(フィルタ部材の一例)である。
この光フィルタ部2a、2bは、例えば、ラス材に着色イオンや金属元素、化合物等が添加されることによって着色された色ガラスフィルタにより構成されたものが考えられる。この場合、添加物質の量や混合比によって分光特性(光フィルタ特性)を調整できる。
その他、光フィルタ部2a、2bが、屈折率の異なる誘電体が積層された干渉フィルタにより構成されたものも考えられる。この場合、誘電体の屈折率や層厚(膜厚)を調整することによって分光特性を調整できる。
図2は、2つの光フィルタ部2a、2bのフィルタ特性(分光透過特性)を表すグラフを模式的に示したものである。グラフの横軸は透過する光の波長を表し、縦軸は各波長の光の透過率を表す。このように、2つの光フィルタ部2a、2bのフィルタ特性が異なることにより、一方の光フィルタ部2aを通過後のパス後励起光B3aと、他方の光フィルタ部2bを通過後のパス後励起光B3bとは、各々分光強度分布が異なる。
図1に示す回転フィルタ2は、円盤状(円形の板状)に形成され、その中心が回転中心2oとなっており、その回転中心2oを通る線を中心線として左右両側に、一方の光フィルタ部2と他方の光フィルタ部2aとが各々形成されている。ここで、回転フィルタ2は、その回転中心2oが、励起光源1から出力される励起光B3の光路から所定間隔を隔てた位置となるように配置されている。そして、回転フィルタ2が回転中心2oを軸として回転することにより、光フィルタ部2a、2bのいずれが元励起光B3の経路(光路)に位置するかが切り替わる。
モータ3は、回転フィルタ2の回転中心2oに設けられた回転軸に連結されており、回転フィルタ2を回転中心2oの回りに一定速度で回転駆動する(フィルタ部材駆動手段の一例)。
このように、切替型光フィルタ部Zは、モータ3によって回転フィルタ2を回転駆動することにより、励起光源1から出力される励起光B3の経路に、2つの光フィルタ部2a、2bのいずれを位置させるかを所定周期で切り替えるものである。
回転フィルタ2を通過したパス後励起光B3a、B3bは、ミラー18によって反射され、さらにレンズ4を通過して試料5に照射される。これにより、試料5が励起光を吸収して発熱し(光熱効果)、その温度変化(上昇)によって試料5の屈折率が変化する。
また、切替型光フィルタ部Zの作用により、試料5に照射される励起光は、その分光強度分布が周期的に切り替わることになる。
【0012】
さらに、光熱変換測定装置X1は、レーザ光源7、各種光学機器、光検出器20及び信号処理装置21等も備えている。ここで、信号処理装置21は、例えば光強度信号の入力インターフェースを備えた計算機により構成され、そのプロセッサが、その記憶部に予め記憶された所定のプログラムを実行することにより後述する各種の処理を行う。
レーザ光源7は、試料5の屈折率変化を測定するための測定光と、これに干渉させる参照光との両方の光源として兼用されるものである。
このレーザ光源7(例えば、出力1mWのHe−Neレーザ))から出力されたレーザ光は、1/2波長板8で偏波面が調節され、さらに偏光ビームスプリッタ9(以下、PBSという)によって互いに直交する2偏波(B1、B2)に分光される。以降、その一方B1が測定光として、他方B2が参照光として機能する。
各偏波B1、B2は、音響光学変調機(AOM)10、11によって光周波数がシフト(周波数変換)され、ミラー12、13で反射されてPBS14に導かれる。これら直交する2偏波B1、B2の周波数差fbは、例えば、30MHz等とする。
【0013】
参照光となる前記偏波B1は、PBS14を通過(透過)して偏光板19に向かう。
これに対し、測定光となる他方の前記偏波B1は、PBS14を透過し、1/4波長板17、ミラー18及び前記レンズ4を通過して、試料5における前記励起光B3a、B3bの照射部(即ち、励起部)に、その励起光B3a、B3bとほぼ同方向から照射されるよう構成されている。
なお、図1に示す例に限らず、励起光B3a、B3b及び測定光B1を各々異なる方向から試料5に照射し、試料5中において、励起光B3a、B3bと測定光B1とが比較的大きな角度で交差するよう構成してもよい。
さらに、試料5に入射した測定光B1は、試料5を通過し、試料5の裏面側(測定光B1の照射面の反対面側)に設けられた反射ミラー6で反射し、再び試料5を通過(即ち、往復通過)して、前記レンズ4、前記ミラー18、前記1/4波長板17を通過して前記PBS14へ戻る。
ここで、測定光B1は、前記1/4波長板17を往復通過することによってその偏波面が90°回転しているため、今度はPBS14に反射して前記偏波B2(参照光)とともに前記偏光板19に向かう。
前記偏光板19では、測定光B1と、これと光周波数が異なる参照光B2とが干渉し、その干渉光B1+B2の光強度が光検出器20(光電変換手段)によって電気信号(以下、この電気信号の信号値を干渉光強度という)に変換される。この電気信号(即ち、干渉光強度)は、信号処理装置21に入力及び記憶され、この信号処理装置21において測定光B1の位相変化の演算処理(光干渉法による位相変化の測定)がなされる。
このように、光熱変換測定装置X1は、試料5に照射されこれを透過した測定光B1と、参照光B2とを前記偏光板19の方向へ光学系機器により導き、前記偏光板19により測定光B1と参照光B2の干渉光を形成させ、その干渉光強度を前記光検出器20で検出することによって光干渉法により測定光B1を検出する各機器を備える(測定光検出手段及び光干渉手段の一例)。
ここで、試料5は、石英ガラス等の透明容器であるセル15に収容されており、場合によっては、セル15内に所定の溶媒に測定対象物質が溶解された液体試料として収容されている。従って、測定光B1及び励起光B3a、B3bは、測定対象物質に照射されるとともに、それ以外の測定の外乱要因となる物質(セル15や場合によっては溶媒)も通過(透過)することになる。
【0014】
前述したように、本光熱変換測定装置X1を用いた測定では、切替型光フィルタ部Zにより、試料5には相互に分光強度分布が異なる2種類のパス後励起光B3a、B3bが周期的に切り替えられて照射される。
そして、前記信号処理装置21は、光検出器20から取得した干渉光強度の信号(測定光B1の検出信号の一例)から、切替型光フィルタ部Zによる光フィルタ部2a、2bの切り替え周期と同周期成分を抽出し(同周期成分抽出手段の一例)、その抽出信号に基づいて、試料5の光熱効果により生じる特性変化(屈折率変化)を測定する。この信号処理装置21における信号の抽出処理を、以下、同周期成分抽出処理という。この同周期成分抽出処理は、例えば、FM復調処理等である。
ここで、信号処理装置21で取得される干渉光強度S1は、次の(1)式で表される。
S1=C1+C2・cos(2π・fb・t+φ) …(1)
C1、C2はPBS等の光学系や試料5の透過率により定まる定数、φは測定光B1と参照光B2との光路長差による位相差、fbは測定光B1と参照光B2との間の周波数差である。(1)式より、前記干渉光強度S1の変化(前記励起光を照射しない或いはその光強度が小さいときとその光強度が大きいときとの差)から、前記位相差φの変化が求まることがわかる。信号処理装置21は、(1)式に基づいて前記位相差φの変化を算出する。
ところで、パス後励起光B3a及びB3b各々を照射時の干渉光の振幅(強度変化)を各々Ka、Kbとすると、測定光B1と参照光B2との光路長差による位相差φは、励起光B3aによる状態変化と、励起光B3bによる状態変化との重ね合わせを表す次の(2)式で表される。
φ=Ka・sin(ωt)−Kb・sin(ωt) …(2)
【0015】
ここで、試料5が、所定の測定対象物質が溶媒に溶かされた液体試料である場合を考える。
この場合、光熱変換測定装置X1により測定対象物質を含まない前記溶媒のみを試料として測定したときに、信号処理装置21の前記同周期成分抽出処理により抽出される両信号(2つの光フィルタ部2a、2b各々に対応する信号)の振幅Ka、Kbがほぼ同一(Ka≒Kb)となるように、切替型光フィルタ部Zにおける2つの光フィルタ部2a、2bのフィルタ特性を予め設定しておく。即ち、一方の光フィルタ部2aによりフィルタリングした後の励起光B3aを照射したときの溶媒の吸熱量と、他方の光フィルタ部2bによりフィルタリングした後の励起光B3bを照射したときの溶媒の吸熱量とが、ほぼ等しくなるように2つの光フィルタ部2a、2bのフィルタ特性を予め設定しておく。
これにより、φ≒0とすることができる。そうすると、測定対象物質が溶かされた液体試料5が存在する状態においては、Ka>Kb若しくはKa<Kbとなるため、液体試料5の励起状態の変化に起因する位相差信号が検出されることになる。
同様に、試料5が固体試料である場合、光熱変換測定装置X1により、その固体試料が存在しない状態で測定したときに、信号処理装置21の前記同周期成分抽出処理により抽出される両信号(2つの光フィルタ部2a、2b各々に対応する信号)の振幅Ka、Kbがほぼ同一(Ka≒Kb)となるように、切替型光フィルタ部Zにおける2つの光フィルタ部2a、2bのフィルタ特性を予め設定しておけばよい。
このように、分光強度分布が異なる2種類のパス後励起光B3a、B3bを周期的に切り替えて試料5に照射し、測定信号について、励起光の切り替え周囲と同周期成分を抽出することにより、測定対象物質以外の外乱物質(セル15や溶媒等)の発熱の影響を除去でき、S/N比が向上する。さらに、励起光の切り替え周波数の成分を有しないノイズの影響が除去されるため、さらにS/N比が向上する。
【0016】
また、当該光熱変換測定装置X1を用いて、予め所定の含有物質の量(濃度)が既知である複数種類のサンプル試料について前記位相差φの変化を測定し、その結果とその含有物質の量との対応づけを前記信号処理装置21にデータテーブルとして記憶しておくことが考えられる。この場合、測定対象とする試料についての前記位相差φの測定結果を前記データテーブルに基づいて補間処理等を行う等により、その含有物質の量を特定することができる。例えば、そのような含有物の量の特定処理を前記信号処理装置21により実行すればよい。
このように、試料5の光熱効果による屈折率変化を、試料5を通過(透過)させた測定光B1における励起光の照射による位相変化を光干渉法を用いて測定することによって、即ち、測定光B1と参照光B2との位相の相対評価(位相差)によって測定できる。その結果、例えば装置ごとに光検出器20の位置や測定光の強度及びその強度分布等が異なっても、測定中に変化さえしなければ、これらに依存することなく安定的に、しかも光学的に高精度で試料の屈折率変化を測定することが可能となる。
また、光熱変換測定装置X1では、裏面側の前記反射ミラー6(前記裏面側光反射手段の一例)に測定光B1を反射させることにより、試料5に往復通過させた後の測定光B1に参照光B2を干渉させて光干渉測定を行うため、片道通過の場合の2倍の感度で前記位相差φの変化を測定できる。しかも、励起光の出力増大やS/N比の低下を伴わない。
【0017】
以上示した実施形態では、光フィルタを切り替える構成として、複数種類の光フィルタが形成された部材である回転フィルタ2を回転駆動させる構成を示したが、これに限るものではない。
例えば、液晶パネルにおける複数の異なる領域(以下、フィルタ領域という)各々に、光フィルタ特性(分光透過特性)が異なるフィルタが配置された液晶フィルタを用いることも考えられる。
この場合、複数に分岐された前記元励起光B3の各経路に、液晶パネルの前記フィルタ領域を配置し、液晶パネルが各フィルタの配置領域を順次1つずつ光を遮断する状態から光を透過させる状態へ周期的に切り替わるように、この液晶パネルを所定の制御手段で制御することにより、複数種類のフィルタ特性を所定周期で切り替えるよう構成すればよい(切替型光フィルタ手段の一例)。
このような構成によっても、光フィルタの切り替えを実現できる。
また、図1に示した回転フィルタ2は、円盤状(板状)の部材のほぼ全面に渡って複数種類の光フィルタ部2a、2bが1つずつ形成されたものであった。しかしながら、これに限るものでなく、例えば、図4(a)に示すように、円盤状の部材の面の一部の領域に複数種類の光フィルタ部2a、2bが形成された回転フィルタ2’や、図4(b)に示すように、円盤状の部材の面に複数種類の光フィルタ部2a、2bが各々複数形成された回転フィルタ2”等も考えられる。なお、回転フィルタ2’及び2”において、光フィルタ部2a、2b以外の領域は、前記元励起光B3を遮断する領域である。
【0018】
また、図1及び図4に示した回転フィルタ2、2’、2”は、2種類のフィルタ部が設けられたものであるが、3種類以上のフィルタ部が設けられたものも考えられる。
例えば、3種類の光フィルタ部2a、2b、2cが設けられた回転フィルタを使用する場合を考える。この場合、3種類の光フィルタ部各々によりフィルタリングした後の励起光B3aを照射したときの溶媒の吸熱量各々がほぼ等しくなるように、3種類の光フィルタ部2a、2b、2cのフィルタ特性を予め設定しておく。
ここで、光フィルタ部2aを通過後の励起光B3aのみを吸収して発熱する測定対象物質Aaと、光フィルタ部2bを通過後の励起光B3aのみを吸収して発熱する測定対象物質Abと、光フィルタ部2cを通過後の励起光B3aのみを吸収して発熱する測定対象物質Acとが溶媒に溶解された試料5を測定したとする。
そうすると、光熱変換測定装置X1により、3種類の光フィルタ部2a、2b、2cの切替周期と同期した測定光の検出信号(干渉光強度の信号)が抽出され、その抽出信号から、3種類の測定対象物質Aa、Ab、Acの含有量などを評価(同定)することができる。
【0019】
次に、図3に示す概略図を用いて、本発明の第2実施形態に係る光熱変換測定装置X2について説明する。この光熱変換測定装置X2は、前述の光熱変換測定装置X1よりも、さらに測定感度が向上する構成を備える。なお、図3には、光熱変換測定装置X2において、試料5の両側に配置されるミラーにより測定光B1を多重反射させる部分の構成のみを示すが、図3に示す以外の部分は、前述した光熱変換測定装置X1と同じ構成を備えている。
図3に示すように、光熱変換測定装置X2は、試料5の表面側(前記測定光の照射面側)とその裏面側とのそれぞれに配置された高反射ミラー6a、6b(前記表面側光反射手段と前記裏面側光反射手段の一例)を備えている。これにより、測定光B1は、試料5を複数回にわたって往復通過しながら、それら高反射ミラー6a、6bの間で多重反射する。なお、励起光B3a、B3bは、一方の高反射ミラー6aの一部に設けられた開口6ahを通じて試料5に照射される。
さらに、光熱変換測定装置X2は、一方の高反射ミラー(図3では、測定光B1入射側の高反射ミラー6a)の位置(変位量)の調節を行うミラー変位機構50と、そのミラー変位機構5の動作を制御する変位制御装置51とを備えている。図3に示すように、ミラー変位機構50は、高反射ミラー6aの支持位置を測定光B1の光軸方向に変位させる。
そして、変位制御装置51により、多重反射した測定光の位相を同期させるように2つの高反射ミラー6a、6bの間隔を微調整する。
これにより、測定光B1は、高反射ミラー6a、6b相互間で多重反射しながら、その一部が試料5の表面側の高反射ミラー6aを透過して前記光検出器20の方向へ向かう。従って、前記光検出器20には、参照光B2と試料5を多重通過した光が重畳された測定光B1との干渉光が入力されるため、より高感度での位相差の測定(即ち、屈折率変化の測定)が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、光熱変換測定に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光熱変換測定装置X1の概略構成図。
【図2】光熱変換測定装置X1が備える2つの光フィルタ部の特性グラフを模式的に表した図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る光熱変換測定装置X2の構成の一部を表す概略図。
【図4】光熱変換装置X1が備える回転フィルタの構成の例を表す図。
【符号の説明】
【0022】
X1、X2…光熱変換測定装置
Z…切替型光フィルタ部
1…励起光源
2…回転フィルタ
3…モータ
4…レンズ
5…試料
6…反射ミラー
6a、6b…高反射ミラー
7…レーザ光源
8…1/2波長板
9、14…偏光ビームスプリッタ
10、11…音響光学変調機
15…セル
17…1/4波長板
19…偏光板
20…光検出器
21…信号処理装置
50…ミラー変位機構
51…変位制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の試料に励起光を照射し、該試料の光熱効果により生じる特性変化を、該試料に照射されこれを透過した測定光に基づいて測定するために用いる光熱変換測定装置であって、
前記励起光を出力する光源から前記試料に到達するまでの前記励起光の経路に光フィルタ特性が異なる複数種類の光フィルタを所定周期で順次切り替えて位置させる切替型光フィルタ手段と、
前記励起光により励起された前記試料を透過した前記測定光を検出する測定光検出手段と、
前記測定光検出手段の検出信号から前記切替型光フィルタ手段による光フィルタの切替周期と同周期成分を抽出する同周期成分抽出手段と、
を具備してなることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項2】
前記試料が、所定の測定対象物質が溶媒に溶かされた液体試料である場合に、
当該光熱変換測定装置により前記溶媒のみを前記試料として測定したときに、前記同周期成分抽出手段により抽出される前記複数種類の光フィルタ各々に対応する信号相互の状態が略同一となるように、前記切替型光フィルタ手段における前記複数種類の光フィルタのフィルタ特性が予め設定されているものである請求項1に記載の光熱変換測定装置。
【請求項3】
前記切替型光フィルタ手段が、
各々異なる領域に各々異なるフィルタ特性を有する複数種類の光フィルタが形成されたフィルタ部材と、
前記フィルタ部材を回転駆動することにより前記励起光の経路に位置する前記光フィルタを所定周期で切り替えるフィルタ部材駆動手段と、
を具備してなる請求項1又は2のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項4】
前記切替型光フィルタ手段が、
前記励起光の経路に配置され複数種類のフィルタ特性を所定周期で切り替える液晶フィルタを具備してなる請求項1又は2のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項5】
前記測定光検出手段が、
前記試料を透過した前記測定光に所定の参照光を干渉させその干渉光の強度を検出する光干渉手段を具備してなる請求項1〜4のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項6】
前記測定光検出手段が、
前記試料の前記測定光の照射面の反対面側に設けられた裏面側光反射手段と、前記試料の前記励起光の照射面側に設けられた表面側光反射手段と、を備え、前記測定光が前記裏面側光反射手段と前記表面側光反射手段との間で多重反射して前記試料を透過した後の前記測定光を検出するものである請求項1〜5のいずれかに記載の光熱変換測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−225559(P2007−225559A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49974(P2006−49974)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15,16年度,経済産業省,新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクト」委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】