説明

光熱変換測定装置

【課題】共通の光源を用いて複数の測定域についての光熱変換の測定を同時に行うことを可能にする。
【解決手段】励起光入射光学系18と、測定用光源10と、測定用光学系12と、複数の受光素子24とを備える。励起光入射光学系18は、試料収容器16における複数の測定域に励起光を入射する。測定用光学系12は、測定用光源10から発せられる光を分割する素子26や拡大する素子38を含み、その分割または拡大した光を測定光として各測定域に同時に透過させ、各受光素子24に受光させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種試料の含有物質の分析等に用いられる光熱変換測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種試料の含有物質の分析等を行う手段として、光熱効果、すなわち、試料に励起光を照射したときにその照射部位が前記励起光を吸収して発熱する効果を利用した光熱変換測定が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、液体の試料に励起光を照射して前記光熱効果を生じさせるとともに、その発熱量を光学的な測定装置により測定するものが開示されている。この測定装置は、前記の液体試料に前記励起光とは別の測定光を透過させ、この測定光の屈折率の変化から前記光熱効果による発熱量を測定するものである。ここで、前記屈折率は前記測定光の位相変化から求められ、その位相変化は光干渉法により測定される。
【特許文献1】特開2004−301520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の光熱変換測定装置では、一つの装置で同時に一つの測定しか行うことができない。換言すれば、複数の測定を同時に行うためには、それぞれが光源をもつ複数の装置を併用しなければならず、設備の著しいコストアップは免れ得ない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、共通の光源を用いて複数の測定域についての測定を同時に行うことが可能な装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、試料が存在しかつ当該試料に光熱効果を生じさせるための励起光が当該試料に照射される複数の測定域に前記励起光とは別の測定光をそれぞれ透過させることにより、前記各測定域での前記光熱効果による前記試料の発熱量を測定するための光熱変換測定装置であって、前記各測定域に前記励起光を入射するための励起光入射光学系と、前記励起光とは別の光を発する測定用光源と、前記測定用光源から発せられた光を前記各測定域に前記測定光として導き、当該測定域を透過させるための測定用光学系と、前記各測定域を透過した後の前記測定光を受光してその位相変化をそれぞれ測定するための複数の受光素子と、を備える。さらに、前記測定用光学系は、前記測定用光源から発せられた光を、前記各測定域を同時に透過することが可能な光に変換するための光変換素子を含み、この光変換素子により変換された光を前記各測定域に前記測定光として導く。
【0007】
この装置では、前記光変換素子により変換された光が測定光として複数の測定域を同時に透過する。このことは、共通の測定用光源を用いながら各測定域での測定を同時に行うことを可能にする。このような共通光源による複数域での同時測定は、装置のコストアップを抑えながら測定効率を高めることを可能にする。
【0008】
前記測定用光学系は、前記光変換素子として、前記測定用光源から発せられた光を、前記各測定域をそれぞれ透過することが可能な複数の光に分割するための分割素子を含むものが、好適である。この分割素子は、前記測定用光源からの光を分割するだけの簡単な構成でありながら、前記各測定域での同時測定を実現可能にする。
【0009】
前記分割素子としては、例えば、ビームスプリッタや、前記測定用光源から発せられた光を回折させるための音響光学変調器及びこの音響光学変調器から出る特定の複数の光をそれぞれ特定方向に向けて反射する反射素子を含むものが、好適である。
【0010】
前記測定光の位相変化は、例えば光干渉法により測定することが可能である。そのための構成として、前記測定用光学系は、前記測定用光源から発せられた光を前記測定光と参照光とに分光する分光素子と、前記参照光を前記測定域を透過する測定光と干渉させる干渉用光学系を含み、前記各受光素子は、前記干渉後の前記各測定光の強度をそれぞれ検出するものが、好適である。
【0011】
その場合、前記分光素子及び前記干渉用光学系は、前記分割素子により分割された後の複数の光についてそれぞれ設けられるものでもよいし、前記干渉用光学系は、前記分割素子として、分光された測定光をさらに複数の測定光に分割するための測定光用分割素子と、分光された干渉光をさらに複数の干渉光に分割するための干渉光用分割素子とを含み、その分割された複数の干渉光を、分割された複数の前記測定光のうち対応する測定光にそれぞれ干渉させるものであってもよい。
【0012】
また、前記測定用光学系は、前記光変換素子として、前記測定用光源から発せられた光を拡大する光拡大素子を含み、この光拡大素子により拡大された後の光を複数の測定域に同時に透過させるものであってもよい。この光拡大素子は、前記測定用光源から発せられる光を拡大するだけの簡単な構成で、当該光が測定光として複数の測定域を同時に透過することを可能にする。
【0013】
この装置においても、光干渉法による測定が可能である。具体的には、前記測定用光源から発せられた光を前記測定光と参照光とに分光する分光素子と、その分光された測定光と参照光とを合成するための合成素子と、合成された測定光及び参照光のうちの測定光を前記測定域に透過させてその透過した測定光と参照光とを干渉させる干渉用光学系を含み、前記光拡大素子は、前記合成素子により合成された前記測定光及び前記干渉光を同時に拡大して前記干渉用光学系に導くものが、好適である。
【0014】
この装置において、前記合成素子は、前記測定光及び参照光を合成してから前記光拡大素子に導くことにより、この光拡大素子が前記測定光及び参照光をまとめて拡大することを可能にし、その結果、拡大後の測定光が前記参照光と干渉することを可能にする。
【0015】
本発明では、前記測定域ごとに互いに異なる複数の試料を収容するための試料収容器を備えてもよいし、複数の測定域に跨る領域で連続する試料を収容するための試料収容器を備えてもよい。前者の試料収容器は、互いに異なる試料の光熱効果の同時測定を可能にする。これに対し、後者の試料収容器は、共通の試料内の各部位における光熱効果の同時測定を可能にする。例えば、前記励起光入射光学系が、前記試料に含まれる全ての測定域に対し均一な周波数をもつ励起光を入射するものであれば、当該試料における光熱効果の分布特性を測定することが可能であり、前記励起光入射光学系が、前記試料に含まれる測定域毎に互いに異なる励起光を照射するものであれば、当該試料の吸収スペクトルを速やかに測定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光熱変換測定装置の例を示す。この装置は、単一の測定用光源10と、複数の測定部14と、前記測定用光源10から発せられる光を測定光として各測定部14に導くための測定用光学系12とを備える。
【0018】
なお、この実施の形態に係る装置は4つの測定部14を具備するが、図1では便宜上、2つの測定部14のみが図示される。
【0019】
前記各測定部14は、試料収容器16と、励起光入射光学系18と、受光素子アレイ20と、信号処理装置22とを備える。
【0020】
前記試料収容器16は、同一平面上に並ぶ複数の(図例では6つの)測定域を含む領域に試料(例えば色素水溶液やエタノール)を収容するためのものであり、例えば石英やPDMS(ポリジメチルシロサキン)のような透光材(特に紫外光透過性の高い材料)からなる。
【0021】
前記励起光入射光学系18は、前記各測定域に励起光を下から入射するためのものであり、図略の励起光源と、適当な分光機構及び変調機構を含む。前記励起光源には、例えば白色光を出力するキセノンランプが用いられる。前記分光機構は、前記励起光源から発せられる光を分光し、前記変調機構は、その分光された光を周期的に変調して光熱効果の測定に好適な励起光を生成する。この励起光は、前記試料収容器16内の試料に照射されることにより、当該試料に周期的な光熱効果を生じさせる。すなわち、前記励起光が照射された試料は当該励起光を吸収することにより周期的に発熱する。この発熱による温度変化が当該試料の屈折率を周期的に変化させる。
【0022】
前記受光素子アレイ20は、前記各測定域に対応する複数の(図例では6個の)受光素子24を有する。これらの受光素子24は、前記各測定域を透過した測定光をそれぞれ個別に受光することが可能な位置に配列され、その測定光の強度に対応する電気信号を出力する。
【0023】
信号処理装置22は、励起光入射光学系18における励起光の変調周期と、前記各受光素子24が受光する測定光の強度変化とに基づき、前記試料の屈折率の変化を演算し(ロックイン検出)、その演算結果を図略の表示装置に表示させる。
【0024】
前記測定用光源10は、前記試料の屈折率の変化を測定するための測定光の源となる光を発するものである。この測定用光源10には、例えば出力1mWのHe−Neレーザ発生器が用いられる。
【0025】
前記測定用光学系12は、前記測定用光源10から発せられた光を分割するための分割素子であるビームスプリッタ26と、このビームスプリッタ26により分割された光をそれぞれ各測定部14に導くための2つの分岐光学系30とを備える。
【0026】
前記ビームスプリッタ26は、前記測定用光源10から発せられる光を、90°反射される反射光と、そのまま透過する透過光とに分割する。前記反射光は、一方の分岐光学系30によってさらに2つに分割され、前記4つの測定部14のうち図示されている2つの測定部14に導かれる。前記透過光は別のビームスプリッタ28によって反射されてから他方の分岐光学系30によって同様に図略の2つの測定部14に導かれる。
【0027】
前記各分岐光学系30は、分光素子であるビームスプリッタ32と、測定光用光学系34M及び参照光用光学系34Rと、各測定部14に対応した偏向ビームスプリッタ36と、ビームエキスパンダ38と、干渉用光学系40とを備える。
【0028】
前記ビームスプリッタ32は、前記ビームスプリッタ26から導かれる光を測定光と参照光とに分光する。
【0029】
前記測定光用光学系34Mは、前記測定光をさらに2つの測定光に分割するための測定光用分割素子42Mと、その分割された測定光をそれぞれ前記各偏向ビームスプリッタ36に反射するためのミラー44Mと、これらのミラー44Mがそれぞれ反射した光の偏向面を回転させるためのλ/2波長板46Mとを備える。同様に、前記参照光用光学系36は、前記参照光をさらに2つの参照光に分割するための参照光用分割素子42Rと、その分割された測定光をそれぞれ前記各偏向ビームスプリッタ36に反射するためのミラー44Rと、これらのミラー44Rがそれぞれ反射した光の偏向面を回転させるためのλ/2波長板46Rとを備える。
【0030】
前記測定光用分割素子42M及び参照光用分割素子42Rは、いずれも、AOM(音響光学変調器)48と、プリズム50と、一対のミラー52とを含む。
【0031】
前記AOM48は、前記ビームスプリッタ32で分光された光を回折させ、適当な周波数に変換する。その回折光のうち、+1次光と−1次光とが測定光(または参照光)として採用される。
【0032】
前記プリズム50は、前記+1次光及び前記−1次光をそれぞれ両外側に反射する2枚の反射面を有する。各反射面は前記プリズム50に適当なコーティングを施すことにより形成される。前記各ミラー52は、前記プリズム50により反射された+1次光及び−1次光をそれぞれ前記AOM48への入光方向と平行な方向に反射する。これにより、周波数f1をもつ2本の測定光、及び周波数f2をもつ2本の参照光が生成される。
【0033】
前記AOM48による回折光のうち、測定光あるいは参照光として採用される回折光はラマンナース効果による±n次光に限られない。例えば1次光と2次光がそれぞれ採用されてもよい。
【0034】
前記プリズム50に対する前記各ミラー52の配置は適宜設定可能である。例えば図2に示されるように前記プリズム50及び前記各ミラー52が前記AOM48からの光を多重反射するものであってもよい。
【0035】
前記各偏向ビームスプリッタ36は、合成素子に相当するもので、前記測定光用光学系34Mにより導かれる測定光と前記参照光用光学系34Rにより導かれる参照光とを合成し、前記各ビームエキスパンダ38に導く。詳しくは、一方の偏向ビームスプリッタ36により合成された光はそのまま一方のビームエキスパンダ38に導かれ、他方の偏向ビームスプリッタ36により合成された光はミラー53,54で反射されることにより他方のビームエキスパンダ38に導かれる。
【0036】
前記各ビームエキスパンダ38は、光拡大素子に相当するもので、前記偏向ビームスプリッタ36から入射される測定光及び参照光を構成するビームの口径を拡大する。その拡大率は、拡大後の測定光が前記試料収容器16における全ての測定域を通過することが可能となる程度に設定される。
【0037】
前記各干渉用光学系40は、前記ビームエキスパンダ38により拡大された測定光及び参照光のうちの測定光のみを前記測定域に透過させ、かつ、その透過後の測定光を前記参照光と干渉させてから前記受光素子アレイ20に導くためのものであり、偏向ビームスプリッタ56と、測定光用λ/4波長板58Mと、測定光用ミラー60Mと、参照光用λ/4波長板58Rと、参照光用ミラー60Rとを備える。
【0038】
前記偏向ビームスプリッタ56は、前記ビームエキスパンダ38と前記試料収容器16との間でかつ前記受光素子アレイ20の各受光素子24に対向する位置に設けられ、前記測定光をそのまま透過させて前記試料収容器16に導く一方、前記参照光を前記受光素子アレイ20と反対の側(図1では左側)に90°反射させる。
【0039】
前記測定光用λ/4波長板58Mは、前記偏向ビームスプリッタ56と前記試料収容器16との間に介在し、この測定光用λ/4波長板58Mを前記測定光が通過する度に当該測定光の偏向面を45°回転させる。前記測定光用ミラー60Mは、前記試料収容器16を挟んで前記測定光用λ/4波長板58Mと反対の側に配置され、前記励起光の透過は許容する一方、前記試料収容器16における各測定域を透過した測定光を180°反射することにより当該試料収容器16及び前記測定光用λ/4波長板58Mを往復させる。
【0040】
前記参照光用λ/4波長板58Rは、前記偏向ビームスプリッタ56で前記参照光が反射される側に配置され、この参照光が通過する度に当該参照光の偏向面を45°回転させる。前記参照光用ミラー60Rは、前記試料収容器16を挟んで前記参照光用λ/4波長板58Rと反対の側に配置され、前記参照光用λ/4波長板58Rを通過した参照光を180°反射することにより当該参照光用λ/4波長板58Rを往復させる。
【0041】
前記偏向ビームスプリッタ56は、後述のように、前記測定光用ミラー60Mにより反射されて前記試料収容器16を往復した測定光と前記参照光用ミラー60Rにより反射された参照光とを干渉させ、その干渉光を前記受光素子アレイ20の各受光素子24に受光させる。
【0042】
この光熱変換測定装置の具体的作用は次のとおりである。
【0043】
4つの測定部14においては、それぞれ、試料収容器16に収容された試料に含まれる全ての測定域(図では1つの測定部14あたりに6つの測定域)に対し、励起光入射光学系18が周期的に変調した励起光を試料に入射する。試料は、この励起光を吸収することにより発熱する(光熱効果)。この発熱による試料の温度変化は前記変調の周期に対応するので、当該周期で当該試料の屈折率が変化する。この試料の屈折率の変化が、前記測定光と前記参照光との干渉を利用して計測される。
【0044】
具体的に、前記測定用光源10は、4つの測定部14に導かれる測定光及び参照光の源となる光(ビーム)を発する。この光は、まず、分割素子であるビームスプリッタ26により2つの光に分割される。具体的には、当該ビームスプリッタ26により90°反射される反射光と、当該ビームスプリッタ26を透過する透過光とに分割される。前記反射光はそのまま一方の分岐光学系30に導かれ、前記透過光はビームスプリッタ28により90°反射されてから他方の分岐光学系30に導かれる。
【0045】
各分岐光学系30では、まず、前記ビームスプリッタ26から導かれる光が分光素子であるビームスプリッタ32により測定光と参照光とに分光される。このうち測定光は、測定光用分割素子42MのAOM48により周波数変換(周波数f1に変換)されながらさらに2つの測定光に分割される。これらの測定光はそれぞれミラー44Mで反射され、さらにλ/2波長板46Mにより偏向面の調節を受けてから、対応する偏向ビームスプリッタ36にそれぞれ導かれる。
【0046】
同様に、参照光は参照光用分割素子42RのAOM48により周波数変換(周波数f2に変換)されながら前記各測定光に対応する2つの参照光に分割される。これらの参照光はそれぞれミラー44Rで反射され、さらにλ/2波長板46Rにより偏向面の調節を受けてから、対応する偏向ビームスプリッタ36にそれぞれ導かれる。
【0047】
前記各偏向ビームスプリッタ36は、この偏向ビームスプリッタ36に入射される前記測定光及び前記参照光を合成し、光拡大素子であるビームエキスパンダ38に導く。ビームエキスパンダ38は、前記測定光及び前記参照光の口径を同時に拡大する。その拡大後の測定光及び参照光は干渉用光学系40の偏向ビームスプリッタ56に入射される。
【0048】
偏向ビームスプリッタ56は、前記合成光のうちの参照光を受光素子アレイ20と反対の側に90°反射する。この参照光は、参照光用ミラー60Rによって180°反射されることにより、参照光用λ/4波長板58Rを往復してから前記偏向ビームスプリッタ56に戻る。この参照光が前記参照光用λ/4波長板58Rを往復する際、当該参照光の偏向面が計90°回転するために、前記偏向ビームスプリッタ56に戻った参照光はそのまま当該偏向ビームスプリッタ56を透過する。
【0049】
一方、前記偏向ビームスプリッタ56は、前記測定光をそのまま透過させて測定光用λ/4波長板58M及び試料収容器16に導く。この測定光は、前記試料収容器16に収容される試料に含まれる全ての測定域を通過した後、測定光用ミラー60Mによって180°反射される。この反射により、前記測定光は前記測定光用λ/4波長板58M及び前記試料収容器16を往復してから前記偏向ビームスプリッタ56に戻る。
【0050】
このとき、前記測定光の位相は、前記各測定域における試料の屈折率の変化分だけ、変化する。さらに、この測定光の偏向面は、当該測定光が前記測定光用λ/4波長板58Mを往復することによって計90°回転する。このため、当該測定光は前記偏向ビームスプリッタ56にて90°反射され、前記参照光と干渉しながら前記受光素子アレイ20の各受光素子24に受光される。
【0051】
前記各受光素子24は、前記干渉光を受光し、その強度に対応する電気信号を信号処理装置22に出力する。この電気信号は、前記測定光と前記参照光の周波数差(=|f1−f2|)に相当するうねり周波数をもつ信号となる。信号処理装置22は、前記電気信号と、前記励起光入射光学系18における励起光の変調周期とに基づき、前記測定光の位相変化を演算する。すなわち、光干渉法による位相変化の測定を実行する。
【0052】
具体的に、前記干渉光の強度S1は、次の(1)式で表される。
【0053】
S1=C1+C2・cos(2π・fb・t+φ) …(1)
同式において、C1、C2は前記偏光ビームスプリッタ等の光学素子の特性や試料の透過率により定まる定数、φは前記測定光と前記参照光の光路長差による位相差、fbは前記測定光と前記参照光の周波数差(=f1−f2)である。この(1)式は、干渉後の測定光の強度S1の変化(前記励起光を照射しないとき或いはその光強度が小さいときとその光強度が大きいときとの差)から、前記位相差φの変化を求めることが可能であることを示している。信号処理装置22は、この(1)式を利用して前記位相差φの変化を算出する。
【0054】
例えば、前記励起光Leの強度がチョッパの回転により周波数fで周期的に強度変調された場合、試料の屈折率も前記周波数fで変化する。測定光の光路長も前記周波数fで変化し(参照光の光路長は一定)、前記位相差φも周波数fで変化する。従って、前記位相差φの変化を前記周波数fの成分(前記励起信号の強度変調周期と同周期成分)について測定(算出)することが、周波数fの成分を有しないノイズの影響を除去しつつ試料の屈折率変化のみを精度良く測定することを可能にする。すなわち、この測定は、前記位相差φの測定のS/N比を向上させる。
【0055】
以上示した光熱変換測定装置では、測定用光学系12に含まれる分割素子(ビームスプリッタ26並びに測定光用分割素子42M及び参照光用分割素子42R)が、測定用光源10から発する光を分割することにより、単一の測定用光源10を用いて計4つの試料収容器16に収容される試料の測定を同時に行うことを可能にする。このことは、装置のコストアップを抑えながら効率の高い測定を行うことを可能にする。
【0056】
さらに、前記測定用光学系12に含まれる光拡大素子であるビームエキスパンダ38は、分割された後の各測定光及び各参照光を拡大することにより、当該測定光が各試料に含まれる複数の測定域を同時に透過することを可能にする。そして、それぞれの測定域を透過した測定光の干渉後の強度が各受光素子24により個別に検出される。従って、前記試料収容器16が全ての測定域に跨って連続するように試料を収容するものである場合、前記励起光入射光学系18が前記試料に含まれる全ての測定域に対し均一な周波数をもつ励起光を入射することにより、前記試料における光熱効果の分布特性を測定することを可能にする。この場合、各受光素子24が当該受光素子24に対応する測定域についての位置情報を含んでおればよい。
【0057】
励起光入射光学系18は、例えば第2の実施の形態として図3に示すように、光源からの光を互いに波長の異なる複数の励起光に分光する機能を有しており、それぞれの励起光を試料収容器16内の各測定域に照射するものであってもよい。このような複数種の励起光の照射は、前記試料の吸収スペクトルを速やかに測定することを可能にする。
【0058】
前記試料収容器16は、例えば図4に示されるように測定域ごとに区画された複数の試料収容部16aを有するものであってもよい。これらの試料収容部16aにそれぞれ異なる試料が個別に収容された状態で全試料収容部16aを拡大後の測定光が透過すると、当該測定光すなわち共通の測定光を用いて複数の試料の測定を同時に行うことが可能である。
【0059】
本発明では、前記分割素子、前記光拡大素子の一方が省略されてもよい。また、分割素子を具備する場合、第3の実施の形態として図5に示されるように、試料収容器16の直前で測定光及び参照光がそれぞれ分割されてもよい。
【0060】
この第3の実施の形態に係る装置は、共通の光源から発せられる光を測定光と参照光とに分割する分光素子であるビームスプリッタ32と、測定光周波数変換用のAOM49M及び参照光周波数変換用のAOM49Rのほか、前記分割のためのビームスプリッタユニット70を備える。
【0061】
前記ビームスプリッタユニット70は、前記AOM49Mにより周波数変換された測定光を分割するための測定光分割部72Mと、前記AOM49Mにより周波数変換された参照光を分割するための参照光分割部72Rとを併有する。各分割部72M,72Rには測定域の個数(図では4個)と同数のビームスプリッタ74が直列に配される。
【0062】
測定光分割部72Mにより分割された各測定光は、互いに平行な状態を維持しながら試料収容器16における各測定域を透過した後、干渉用光学系40を構成する偏向ビームスプリッタ76によってそれぞれ90°反射され、レンズ78によって受光素子アレイ20に集光される。参照光分割部72Rにより分割された各参照光は、互いに平行なままミラー80で90°反射され、前記各偏向ビームスプリッタ76を透過した後にレンズ78によって受光素子アレイ20に集光される。
【0063】
従って、この装置においても、各測定域に対応して測定光及び参照光が分割され、各測定光は対応する測定域を透過した後に対応する参照光と干渉させられる。この干渉が、前記測定光の位相変化の検出を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光熱変換測定装置の全体構成図である。
【図2】前記光熱変換測定装置に含まれる分割素子の変形例を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る光熱変換測定装置の要部の構成を示す図である。
【図4】本発明に係る試料収容器の例を示す平面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る光熱変換測定装置の要部の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
10 測定用光源
12 測定用光学系
14 測定部
16 試料収容器
16a 試料収容部
18 励起光入射光学系
20 受光素子アレイ
22 信号処理装置
24 受光素子
26 ビームスプリッタ(分割素子)
30 分岐光学系
32 ビームスプリッタ(分光素子)
34M 測定光用光学系
34R 参照光用光学系
36 偏向ビームスプリッタ(合成素子)
38 ビームエキスパンダ(光拡大素子)
40 干渉用光学系
42M 測定光用分割素子
42R 参照光用分割素子
48 AOM(音響光学変調器)
50 プリズム(反射素子)
52 ミラー(反射素子)
56 偏向ビームスプリッタ
70 ビームスプリッタユニット
72M 測定光分割部
72R 参照光分割部
74 ビームスプリッタ
76 偏向ビームスプリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が存在しかつ当該試料に光熱効果を生じさせるための励起光が当該試料に照射される複数の測定域に前記励起光とは別の測定光をそれぞれ透過させることにより、前記各測定域での前記光熱効果による前記試料の発熱量を測定するための光熱変換測定装置であって、
前記各測定域に前記励起光を入射するための励起光入射光学系と、
前記励起光とは別の光を発する測定用光源と、
前記測定用光源から発せられた光を前記各測定域に前記測定光として導き、当該測定域を透過させるための測定用光学系と、
前記各測定域を透過した後の前記測定光を受光してその位相変化をそれぞれ測定するための複数の受光素子と、を備え、
前記測定用光学系は、前記測定用光源から発せられた光を、前記各測定域を同時に透過することが可能な光に変換するための光変換素子を含み、この光変換素子により変換された光を前記各測定域に前記測定光として導くものであることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光学系は、前記光変換素子として、前記測定用光源から発せられた光を、前記各測定域をそれぞれ透過することが可能な複数の光に分割するための分割素子を含むことを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光学系は、前記測定用光源から発せられた光を前記測定光と参照光とに分光する分光素子と、前記参照光を前記測定域を透過する測定光と干渉させる干渉用光学系を含み、
前記各受光素子は、前記干渉後の前記各測定光の強度をそれぞれ検出することを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の光熱変換測定装置において、
前記分光素子及び前記干渉用光学系は、前記分割素子により分割された後の複数の光についてそれぞれ設けられることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の光熱変換測定装置において、
前記干渉用光学系は、前記分割素子として、分光された測定光をさらに複数の測定光に分割するための測定光用分割素子と、分光された干渉光をさらに複数の干渉光に分割するための干渉光用分割素子とを含み、その分割された複数の干渉光を、分割された複数の前記測定光のうち対応する測定光にそれぞれ干渉させることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光学系は、前記分割素子としてビームスプリッタを含むことを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光学系は、前記分割素子として、前記測定用光源から発せられた光を回折させるための音響光学変調器と、この音響光学変調器から出る特定の複数の光をそれぞれ特定方向に向けて反射する反射素子とを含むことを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光学系は、前記分割素子により分割された光のうちの少なくとも一部の光を拡大する光拡大素子を含み、この光拡大素子により拡大された後の光を複数の測定域に同時に透過させるものであることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項9】
請求項1記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光学系は、前記光変換素子として、前記測定用光源から発せられた光を拡大する光拡大素子を含み、この光拡大素子により拡大された後の光を複数の測定域に同時に透過させるものであることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の光熱変換測定装置において、
前記測定用光源から発せられた光を前記測定光と参照光とに分光する分光素子と、その分光された測定光と参照光とを合成するための合成素子と、合成された測定光及び参照光のうちの測定光を前記測定域に透過させてその透過した測定光と参照光とを干渉させる干渉用光学系を含み、
前記光拡大素子は、前記合成素子により合成された前記測定光及び前記干渉光を同時に拡大して前記干渉用光学系に導くことを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光熱変換測定装置において、
前記測定域ごとに互いに異なる複数の試料を収容するための試料収容器を備えることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の光熱変換測定装置において、
複数の測定域に跨る領域で連続する試料を収容するための試料収容器を備えることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項13】
請求項12記載の光熱変換測定装置において、
前記励起光入射光学系は、前記試料に含まれる全ての測定域に対し均一な周波数をもつ励起光を入射することを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項14】
請求項12記載の光熱変換測定装置において、
前記励起光入射光学系は、前記試料に含まれる測定域毎に互いに異なる励起光を照射することを特徴とする光熱変換測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−241425(P2008−241425A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81545(P2007−81545)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度,経済産業省,新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクト」委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】