説明

光硬化型プリプレグ及び該光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法

【課題】簡便に且つ正確に硬化状態を判別することができる光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化確認方法を提供する。
【解決手段】光重合開始剤を含む樹脂1を繊維質基材2に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグAにおいて、照射した光によって色調が変化するフォトクロミック材料を備えてなるマーカー部3が、表面A2の一部に設けられている。また、このマーカー部3が光硬化型プリプレグAの端部4側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって硬化する樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成した光硬化型プリプレグ及び該光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル、橋梁などの補修、補強、コンクリート片剥落防止対策や、下水道施設などの補修、補強、コンクリート防食対策、さらには、管渠・水路などの流量増大のために施されるコンクリート表面の粗度係数の低減対策として、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの繊維シートを、樹脂を含浸させながら貼り付ける繊維シート貼付工法が用いられている。この繊維シート貼付工法では、例えば、コンクリート表面の不陸修正を行った後にプライマーや下塗り材を塗布し、樹脂(含浸樹脂)を含浸させつつ繊維シートを貼り付けてゆき、必要に応じて複数の繊維シートを樹脂の含浸を繰り返し行ないながら積層してゆく。このとき、繊維シートと下層の樹脂(下塗り材や下層の含浸樹脂)の間に気泡が介在して密着性が低下することがないように入念な脱泡作業を行いながら繊維シートを貼り付けることが重要であり、特に下水道施設のコンクリート防食対策に適用する場合には、樹脂層の厚さやピンホールの発生が防食性能に大きく影響するため、熟練工による作業を必要とする。
【0003】
これに対し、予め、工場で光重合開始剤を含む樹脂をガラス繊維などの繊維質基材に含浸させてシート状に形成した、いわゆる光硬化型プリプレグが実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。この光硬化型プリプレグは、例えば、2種の光重合開始剤を混入した樹脂を繊維質基材に含浸させ、未硬化状態(Aステージ状態)の樹脂と繊維質基材をPET(polyethylene terephthalate)フィルムなどの透明フィルムで挟んで形成される。また、工場で、特定波長の紫外線もしくは可視光を照射し、1種の光重合開始剤のみを反応させて一部の樹脂の硬化を進め、増粘化を図った状態(不完全硬化状態、Bステージ状態)にして形成される。そして、Bステージ状態の光硬化型プリプレグを現場に搬入し、透明フィルムを取り除いてコンクリート表面に貼り付け、残りの1種の光重合開始剤が反応する特定波長の光を現場で照射することによって樹脂を完全に硬化させ、コンクリート表面に光硬化型プリプレグが好適に設置される。
【0004】
このような光硬化型プリプレグにおいては、予め工場で繊維質基材に樹脂を含浸させ、Bステージ化して形成されるため、現場で比較的短時間で硬化させることができ、また、均一な厚さでピンホールがなく、熟練工を要することなしに容易に且つ短期間で貼り付けることができる。
【0005】
一方で、光硬化型プリプレグの硬化確認は、照射する光の照度の測定や照射時間を管理することで行なわれ、また、硬化後にハンマーなどを用いた打音検査によって行われている。このため、特にトンネルの覆工など高所に貼り付けた光硬化型プリプレグの硬化状態を確認する際には、検査員が高所作業車などを用いて近接する必要が生じ、検査に時間が掛かるという問題があった。また、特に複数の光硬化型プリプレグを広範囲にわたって設置した場合には、全ての光硬化型プリプレグに対して正確に硬化状態を判別できない場合があった。
【0006】
これに対し、例えば特許文献3に開示された光硬化型プリプレグにおいては、紫外線によって色調が変化する色素を光硬化型プリプレグの樹脂及び/又はコンクリート表面に塗布するプライマーに混入しておき、光照射とともに変化する色素の色調を指標として光硬化型プリプレグの硬化状態を判別できるようにしている。また、この光硬化型プリプレグにおいては、色素が光照射によって有色から無色透明に変化するものとされ、これにより、照射した光が色素で遮られて樹脂の硬化が阻害されることを防止している。
【特許文献1】特許第3479202号公報
【特許文献2】特開昭63−186744号公報
【特許文献3】特開昭60−123538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の色素を混入した光硬化型プリプレグにおいては、樹脂の硬化の進行とともに、光硬化型プリプレグの全体が徐々に無色透明に変化するため、例えばトンネルや下水道施設の管渠など薄暗い作業環境下で貼り付けを行なう場合には、その色調変化が目視で確認しにくく、光硬化型プリプレグの硬化状態を正確に捉えることができないという問題があった。
【0008】
また、一般に、光を照射する光源をシート状の光硬化型プリプレグの略中央に対向配置し、この光源から出射した光が光硬化型プリプレグの全面に照射されるようにして、光硬化型プリプレグの硬化作業を行なう。このため、光源からの離間距離が小さい光硬化型プリプレグの中央側に比べ、離間距離が大きくなる端部側への光の照度が相対的に小さくなり、中央側の色調変化を捉えて光硬化型プリプレグが完全硬化したと誤認してしまうおそれがある。すなわち、端部側が中央側に対し遅れて無色透明に変化してゆくことになるため、完全に無色透明に変化していない状態の端部側を、完全に無色透明に変化したものとして誤認しやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑み、簡便に且つ正確に硬化状態を判別することができる光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の光硬化型プリプレグは、光重合開始剤を含む樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグにおいて、照射した前記光によって色調が変化するフォトクロミック材料を備えてなるマーカー部が、表面の一部に設けられていることを特徴とする。
【0012】
この発明においては、フォトクロミック材料によって、マーカー部を有色から他の有色に変化させることができ、また、変化する色調をフォトクロミック材料の種類や照射する光の波長に応じて選択することができる。これにより、表面の一部に設けたマーカー部の色調変化を例えば薄暗い作業環境下でも正確に捉えることができ、このようなマーカー部の色調変化を指標にすることで硬化状態の誤認を防止できる。
【0013】
また、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記マーカー部が端部側に設けられていることが望ましい。
【0014】
この発明においては、マーカー部の色調変化を捉えることで、照射した光によって中央側に対し遅れて硬化する端部側の硬化状態を捉えることができ、これにより、光硬化型プリプレグ全体が完全硬化したことを正確に捉えることができる。
【0015】
さらに、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記光硬化型プリプレグが平面視方形状に形成され、隅角部の近傍に、もしくは平行する2辺のそれぞれの近傍に各辺に沿って、前記マーカー部が設けられていることがより望ましい。
【0016】
この発明においては、特に硬化が遅れる隅角部の近傍や、平行する2辺の近傍に各辺に沿ってマーカー部を設けることで、確実に上記効果を得ることができる。
【0017】
また、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記マーカー部が、線状もしくはスポット状の複数の前記フォトクロミック材料を隙間をあけて配置して形成されていることが望ましい。
【0018】
この発明においては、光硬化型プリプレグの光を照射する側の表面にマーカー部を設けた場合でも、照射した光を、複数のフォトクロミック材料の隙間を通じてマーカー部を設けた部分の樹脂に照射させることができる。これにより、有色に変化するマーカー部で光が遮られ樹脂の硬化不良が生じることを確実に防止できる。
【0019】
さらに、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記マーカー部が、透明フィルム基材に前記フォトクロミック材料を積層して形成され、前記表面に貼り付けて設けられてもよい。
【0020】
この発明においては、予め別途形成したマーカー部を工場や現場で光硬化型プリプレグに貼り付けることができる。これにより、光硬化型プリプレグの形状や大きさ、現場環境などに応じて、光硬化型プリプレグの硬化状態を正確に判別できる任意の位置に自由にマーカー部を設けることができる。
【0021】
また、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記フォトクロミック材料が、可視光領域の異なる2以上の波長のそれぞれの前記光に反応して色調を変化させるものであってもよい。
【0022】
この発明においては、Bステージ化する際に照射する特定波長の光によってマーカー部を任意の選択色にすることができ、そして、現場で照射する特定波長の光によってマーカー部をさらに別の任意の選択色に変化させることができる。これにより、光硬化型プリプレグを貼り付ける作業環境に応じて、作業者がマーカー部の色調変化を判別しやすい色にすることができる。
【0023】
本発明の光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法は、光重合開始剤を含む樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグの硬化状態を判別する方法であって、前記光の照射領域内に、該光の照射によって色調が変化するフォトクロミック材料を備えるマーカー部を設け、該マーカー部の変化した色調を指標にして硬化状態を判別することを特徴とする。
【0024】
この発明においては、フォトクロミック材料によって、マーカー部を有色から他の有色に変化させることができ、また、変化する色調をフォトクロミック材料の種類や照射する光の波長に応じて選択することができる。これにより、光の照射領域内に設けたマーカー部の色調変化を例えば薄暗い作業環境下でも正確に捉えることができ、このようなマーカー部の色調変化を指標にすることで光硬化型プリプレグの硬化状態を正確に判別することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法によれば、有色から他の有色に変化することでマーカー部の色調変化を確実に目視で確認することができ、これにより、薄暗い作業環境下や高所に貼り付けた光硬化型プリプレグに対しても、簡便に且つ正確にその硬化状態を判別することができる。また、広範囲に複数の光硬化型プリプレグを貼り付けた場合においても、各光硬化型プリプレグに設けたマーカー部の色調変化を捉えることで、簡便に且つ正確に全ての光硬化型プリプレグの硬化状態を判別することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法について説明する。本実施形態は、トンネル、橋梁、下水道施設などのコンクリート構造物の補修、補強、コンクリート片剥落防止対策やコンクリート防食対策、さらに、管渠・水路などの流量増大のために施されるコンクリート表面の粗度係数の低減対策などに用いられる光硬化型プリプレグ及びこの光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法に関するものである。
【0027】
本実施形態の光硬化型プリプレグAは、図1及び図2に示すように、樹脂(光硬化性樹脂)1を例えばガラスマット、ガラスクロスなどの繊維質基材2に含浸させて、シート状且つ平面視矩形状に形成されている。また、本実施形態において、繊維質基材2に含浸させる樹脂1は、モノマー、オリゴマー、安定剤などの添加剤等とともに、2種の光重合開始剤を含んで構成されている。そして、この樹脂1は、可視光領域の2つの特定波長の光をそれぞれ照射することで硬化するものであり、すなわち、可視光領域のある1つの特定波長の光を照射した際には、1種の光重合開始剤が感光して反応し一部の樹脂1を重合連鎖させて硬化させる。そして、さらに可視光領域の他の特定波長の光を照射することによって、残りの1種の光重合開始剤が感光して反応し、未硬化の樹脂1を重合連鎖させて硬化させる。これにより、本実施形態の光硬化型プリプレグAは、異なる2つの特定波長の光を2段階で照射することによって完全に硬化する。
【0028】
一方、本実施形態の光硬化型プリプレグAには、図1に示すように、コンクリート構造物の表面(コンクリートの表面)に貼り付ける一面A1と反対の他面(表面A2)の一部に、フォトクロミック材料3aを備えてなるマーカー部3が設けられている。このマーカー部3は、平面視矩形状の光硬化型プリプレグAの4つの隅角部4a近傍(端部4側)にそれぞれ設けられ、平面視円形状に形成されている。また、各マーカー部3は、図3に示すように、表面A2にスポット状に塗布した複数のフォトクロミック材料3aが隙間をあけた状態で集合配置されて形成されている。すなわち、各マーカー部3のスポット状の複数のフォトクロミック材料3aは、互いに不連続に設けられている。
【0029】
ここで、各マーカー部3を形成するフォトクロミック材料3aは、例えばアゾベンゼン類、スピロプラン類、スピロオキサジン類、ジアリールエテン類、フルギド類、クロメン類などのフォロクロミック分子、すなわち、光の作用により、分子量を変えることなく可視光吸収スペクトルの異なる異性体に可変する分子からなり、前記可視光領域のある1つの特定波長の光を照射すると、結合形式あるいは電子状態に変化が生じて、可視光吸収スペクトルが変化し色調が変化する。また、さらに前記可視光領域の他の特定波長の光を照射すると、さらに可視光吸収スペクトルが変化して他の色調に変化する。また、本実施形態におけるフォトクロミック材料3aは、光硬化型プリプレグAの樹脂1に混入した2種の光重合開始剤に対応しており、可視光領域のある1つの特定波長の光照射によって、1種の光重合開始剤が感光し樹脂1の一部が硬化するとともに、ある有色の色調に変化し、残りの1種の光重合開始剤を感光させる異なる特定波長の光を照射した際には、他の有色の色調に変化する。
【0030】
具体的に、本実施形態におけるフォトクロミック材料3aにフルギド化合物を用いた場合、例えば、表1に示すように、380nm以下の波長の光(紫外線)を照射すると黒色に変化し、さらに420nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると、黒色から青色に変化する。また、黒色のフォトクロミック材料3aに540nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると緑色に変化し、さらに420nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると、緑色からシアン色に変化する。黒色のフォトクロミック材料3aに676nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると赤色に変化し、さらに420nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると、赤色からマゼンタ色に変化する。また、黒色のフォトクロミック材料3aに540nm前後の波長の光(可視光線)と676nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると黄色に変化し、さらに420nm前後の波長の光(可視光線)を照射すると、黄色から白色に変化する。すなわち、このようなフォロクロミック材料3aを用い、特定波長の光を照射することによって、マーカー部3の色調を有色から他の有色に変化させることができ、また、照射する光の波長を選択することで、変化する色調を選択することができる。
【0031】
【表1】

【0032】
そして、上記のようなマーカー部3を備えた光硬化型プリプレグAの製造は、図4に示すように、工場にて、繊維質基材2を巻き回したロール5から繊維質基材2を引き出すとともに、樹脂槽6に貯留した2種の光重合開始剤を含む樹脂1に浸漬通過させて、樹脂1を繊維質基材2に含浸させる。また、このとき、繊維質基材2の両面側にそれぞれ配置され、PETフィルムなどの透明フィルム7を巻き回した一対のロール8からそれぞれ透明フィルム7が引き出される。そして、上下一対の転圧ローラー9の間に、繊維質基材2及び両透明フィルム7を通過させ、樹脂1を含浸させた繊維質基材2を挟むように両透明フィルム7をそれぞれ密着させる。
【0033】
ここで、本実施形態においては、樹脂1を含浸させた繊維質基材2(光硬化型プリプレグA)の表面A2に密着する透明フィルム7(7a)の一面7bに、予め、例えば黒色のフォトクロミック材料3aが塗布または印刷されてマーカー部3が設けられている。このため、光硬化型プリプレグAの表面A2に透明フィルム7aを密着させた段階で、マーカー部3が密着する。なお、このマーカー部3(フォトクロミック材料3a)は、透明フィルム7aよりも光硬化型プリプレグAの樹脂1に対する接着力が大きく、透明フィルム7aを剥がすことにより光硬化型プリプレグAの表面A2に転移(または複写)される。
【0034】
そして、このような未硬化状態(Aステージ状態)の樹脂1と繊維質基材2を透明フィルム7で挟んだ状態の光硬化型プリプレグAを、1種の光重合開始剤を感光させる可視光ランプ10aを備えたライトユニット10に通過させる。このとき、可視光ランプ10aから例えば676nm前後の特定波長の光が照射され、これにより、一部の樹脂1が重合連鎖して硬化し、光硬化型プリプレグAが不完全硬化状態のBステージ化されるとともに、マーカー部3の例えば黒色のフォトクロミック材料3aが赤色に変化する。そして、ライトユニット10を通過してBステージ化した光硬化型プリプレグAは、カッター11aなどで裁断され所定の長さ及び幅寸法で形成される。なお、このように裁断するとともに、図1に示すように、光硬化型プリプレグAの4つの隅角部4aのそれぞれの近傍にマーカー部3が配置される。
【0035】
ついで、上記のように製造された光硬化型プリプレグAをコンクリート表面に貼り付けて設置する方法を説明するとともに、本実施形態の光硬化型プリプレグA及び該光硬化型プリプレグAの硬化状態判別方法の作用及び効果について説明する。
【0036】
上記のように予めBステージ化した光硬化型プリプレグAを現場に搬入し、透明フィルム7を剥がして取り除く。このとき、透明フィルム7aにフォトクロミック材料3aを塗布して形成され、Bステージ化により赤色になったマーカー部3は、光硬化型プリプレグAの露出した表面A2に転移する。
【0037】
そして、不陸修正を行いプライマー及び下塗り材を塗布したコンクリート表面に光硬化型プリプレグAを貼り付け、脱泡作業を行なって設置する。ここで、貼付け作業時の光硬化型プリプレグAは、Bステージ状態(不完全硬化状態)で柔軟性を備えているため、貼付け作業が容易に行なえる。
【0038】
ついで、光硬化型プリプレグAを硬化させるための可視光ランプをシート状の光硬化型プリプレグAの略中央に対向配置し、この可視光ランプから出射した光が光硬化型プリプレグAの全表面A2に照射されるようにする。すなわち、光の照射領域内に光硬化型プリプレグAが配されるように可視光ランプを配置する。
【0039】
そして、可視光ランプから例えば420nm前後の特定波長の光を照射するとともに、光硬化型プリプレグAの残りの1種の光重合開始剤が感光し、未硬化の樹脂1が重合連鎖して硬化し始める。このとき、可視光ランプからの離間距離が小さい中央側、すなわち光の照度が大きくなる部分が先行して硬化してゆき、可視光ランプからの離間距離が大きい端部4側が、遅れて硬化してゆく。また、本実施形態においては、最も遅れて硬化する光硬化型プリプレグAの4つの隅角部4aのそれぞれの近傍に設けられたマーカー部3が、特定波長の光の照度および照射時間に応じて、光照射前の赤色から徐々にその色調をマゼンタ色に変化させてゆく。
【0040】
このとき、光硬化型プリプレグAの硬化作業を行なう作業員は、マーカー部3の変化する色調を目視で確認し、例えば図5に示すような、予め特定波長の光の照度及び照射時間に対応し、且つ未硬化の樹脂1の硬化状態に対応して作成した色見本12と対比する。そして、色見本12に示された樹脂1が完全硬化した状態におけるマーカー部3の色調(マゼンタ色)と、光硬化型プリプレグAに設けられているマーカー部3の色調が一致したことを確認することによって、光硬化型プリプレグAの遅れて硬化する端部4側(隅角部4a側)の樹脂1が完全に硬化したことを確認できる。そして、このように端部4側の樹脂1硬化を確認することで、マーカー部3を指標に光硬化型プリプレグA全体が完全硬化したことを正確に判別できる。
【0041】
また、マーカー部3が有色(例えば赤色)から他の有色(例えばマゼンタ色)に変化するため、且つ表1に示したように、光硬化型プリプレグAを設置する作業環境に応じて有色の色調を選択できるため、従来の混入した色素が樹脂硬化とともに無色透明に変化する光硬化型プリプレグと比較して、その色調変化を容易に且つ正確に捉えることができる。これにより、例えばトンネルや下水道施設の管渠など薄暗い作業環境下で貼り付けを行なう場合においても、その色調変化が目視で確認しやすく、このマーカー部3の色調変化を指標として光硬化型プリプレグAの硬化状態を正確に捉えることができる。
【0042】
さらに、本実施形態において、光硬化型プリプレグAに設けたマーカー部3が、光硬化型プリプレグAの表面A2にスポット状に塗布した複数のフォトクロミック材料3aの集合によって形成されているため、すなわち、各マーカー部3のスポット状の複数のフォトクロミック材料3aが互いに隙間をあけて不連続に設けられているため、照射した光をフォトクロミック材料3aの隙間を通じて、マーカー部3を設けた部分の深部側の樹脂1に確実に照射させることができ、有色に変化するマーカー部3で光が遮られて深部側の樹脂1が未硬化の状態で残ってしまうことを防止できる。これにより、光硬化型プリプレグAに硬化不良が生じることを確実に防止できる。
【0043】
さらに、フォトクロミック材料3aが、可視光領域の異なる2以上の特定波長のそれぞれの光に反応して色調を変化させるものであるため、Bステージ化する際に照射する特定波長の光によってマーカー部3を任意の選択色にすることができ、そして、現場で照射する特定波長の光によってマーカー部3をさらに別の任意の選択色に変化させることができる。これにより、光硬化型プリプレグAを貼り付ける作業環境に応じて、作業者がマーカー部3の色調変化を判別しやすい色にすることができる。
【0044】
したがって、本実施形態の光硬化型プリプレグA及び光硬化型プリプレグAの硬化状態判別方法によれば、有色から他の有色に変化することでマーカー部3の色調変化を確実に目視で確認することができ、これにより、薄暗い作業環境下や高所に貼り付けた光硬化型プリプレグAに対しても、簡便に且つ正確にその硬化状態を判別することができる。また、広範囲に複数の光硬化型プリプレグAを貼り付けるような場合においても、各光硬化型プリプレグAに設けたマーカー部3の色調変化を捉えることで、簡便に且つ正確に全ての光硬化型プリプレグAの硬化状態を判別することが可能である。
【0045】
以上、本発明に係る光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、平面視矩形状に形成した光硬化型プリプレグAの4つの隅角部4aのそれぞれの近傍にマーカー部3が設けられているものとしたが、マーカー部3は、遅れて硬化する光硬化型プリプレグAの端部4側に設けられていればよく、例えば、図6に示すように、光硬化型プリプレグAの平行する2辺4b側の端部4に、この2辺4bに沿って連続的に設けられていてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、マーカー部3が、スポット状の複数のフォトクロミック材料3aを隙間をあけて集合配置することによって形成されているものとしたが、図6に示すように、線状の複数のフォトクロミック材料3aを隙間をあけて集合配置して形成されていてもよい。
【0047】
さらに、マーカー部3は、必ずしも複数のフォトクロミック材料3aを隙間をあけて集合配置して形成しなくてもよく、例えばマーカー部3を小さく形成しても色調変化を正確に捉えることができる場合や、照射した光の回折や照射した光による樹脂1の重合連鎖によってマーカー部3を設けた部分の樹脂1が確実に硬化する場合には、連続したフォトクロミック材料3aでマーカー部3が構成されてもよい。
【0048】
これに関連して、本実施形態では、光硬化型プリプレグAの光が照射される側の表面(他面)A2にマーカー部3を設けるものとしたが、コンクリート表面に貼り付けられる側の光硬化型プリプレグAの一面(表面)A1にマーカー部3を設けてもよい。この場合には、光硬化型プリプレグAを透過した光によってマーカー部3の色調変化が生じるため、マーカー部3を設けることによる光の遮断が生じることがなく、連続したフォトクロミック材料3aでマーカー部3を形成しても確実に光硬化型プリプレグAに硬化不良が生じることを防止できる。
【0049】
また、本実施形態では、光硬化型プリプレグAが平面視矩形状に形成されているものとしたが、照射した光による樹脂1硬化に遅れが生じる端部4側にマーカー部3が設けられていれば、特に光硬化型プリプレグAの平面視形状を限定する必要はない。
【0050】
ついで、図7から図9を参照し、本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法について説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様、トンネル、橋梁、下水道施設などの補修、補強、コンクリート防食対策などに用いられる光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法に関するものである。よって、ここでは、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0051】
本実施形態においては、第1実施形態と異なり、図7及び図8に示すように、マーカー部3が、例えばPETフィルムなどの透明フィルム基材3bにフォトクロミック材料3aを積層して形成されている。そして、このマーカー部3は、Bステージ状態の光硬化型プリプレグBをコンクリート表面に貼り付ける際に、フォトクロミック材料3a側をコンクリート表面に接着する一面(表面:図2参照)B1に貼り付けて、図9に示すように、光硬化型プリプレグBの端部4側(隅角部4a近傍)に(未硬化の樹脂1を硬化させる特定波長の光を照射する照射領域内に)設置される。このため、本実施形態の光硬化型プリプレグBをコンクリート表面に貼り付けた際には、コンクリート表面に塗布したプライマー及び下塗り材と光硬化型プリプレグBの間にマーカー部3が介装されることになる。
【0052】
ここで、本実施形態のマーカー部3は、光硬化型プリプレグBをBステージ化して形成する工場で貼り付けられてもよい。また、図9のように必ずしも隅角部4a近傍の端部4側に貼り付けて設ける必要はなく、光硬化型プリプレグBの形状や大きさ、現場環境などに応じて、光硬化型プリプレグBの硬化状態を正確に判別できる任意の位置に自由にマーカー部3を貼り付けて設ければよい。
【0053】
そして、上記のように設置した光硬化型プリプレグBに、未硬化の樹脂1を硬化させる特定波長の光を照射することによって、残りの1種の光重合開始剤が感光して樹脂1を硬化させるとともに、光硬化型プリプレグBを透過した光がマーカー部3に照射され、このマーカー部3の色調が変化してゆく。
【0054】
第1実施形態と同様、光硬化型プリプレグBの硬化作業を行なう作業員は、マーカー部3の変化する色調を目視で確認し、予め作成した図5に示すような色見本12と対比する。そして、色見本12に示された光硬化型プリプレグBの樹脂1が完全に硬化した状態における色調と、マーカー部3の色調が一致したことを作業員が確認することによって、光硬化型プリプレグBの遅れて硬化する端部4側が完全に硬化したと判別できる。
【0055】
したがって、本実施形態の光硬化型プリプレグB及び該光硬化型プリプレグBの硬化状態判別方法においては、予め別途形成したマーカー部3を光硬化型プリプレグBに貼り付けて設けることができるため、光硬化型プリプレグBの硬化状態を正確に判別できる任意の位置に自由にマーカー部3を設けることができ、このように設けたマーカー部3の色調変化を捉えることで、簡便に且つ正確に光硬化型プリプレグBの硬化状態を判別することができる。
【0056】
以上、本発明に係る光硬化型プリプレグ及び光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法の第2実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、Bステージ状態の光硬化型プリプレグBをコンクリート表面に貼り付ける際に、マーカー部3を表面B1に貼り付けて設置するものとしたが、マーカー部3の透明フィルム基材3bを、例えば、未硬化の樹脂1を硬化させる特定波長の光を照射する照射領域内に位置するコンクリート表面に塗布したプライマー及び下塗り材に接着して、その上から光硬化型プリプレグBを貼り付けてもよく、このように設置した場合においても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、マーカー部3は、第1実施形態と同様に、光硬化型プリプレグBの光を照射する側の表面B2に貼り付けて設置されてもよい。この場合には、第1実施形態と同様に、透明フィルム基材3bに、スポット状あるいは線状の複数のフォトクロミック材料3aを隙間をあけて形成することが望ましい。さらに、マーカー部3を光が照射される側に設ける場合には、Bステージ化した光硬化型プリプレグBに取り付けられている透明フィルム7(図2参照)の表面に貼り付けてもよく、この場合には、光を照射する側の透明フィルム7を残した状態で光硬化型プリプレグBをコンクリート表面に貼り付け、透明フィルム7を透過させながら光を照射して未硬化の樹脂1を硬化させるとともに、マーカー部3の色調変化を指標にして樹脂1の硬化状態を判別することができる。そして、光硬化型プリプレグBが完全に硬化した後に、透明フィルム7を剥がして取り除くとともに有色のマーカー部3も除去できる。
【0058】
さらに、光硬化型プリプレグBを硬化させる光の照射領域にマーカー部3が設けられていれば本実施形態と同様の効果を得ることができるため、例えば、図10に示すように、光硬化型プリプレグBを設置した際に、この光硬化型プリプレグBの端部4の外側近傍に位置するコンクリート表面C1にマーカー部3を貼り付けてもよい。このように設置した場合においても、光硬化型プリプレグBに照射する光の照射領域T内にマーカー部3が配置されているため、マーカー部3の色調変化を捉えて光硬化型プリプレグBの硬化状態を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグを示す平面図である。
【図2】図1のX−X線矢視図である。
【図3】図1の光硬化型プリプレグのマーカー部を拡大した図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグを製造する方法の説明に用いた図である。
【図5】光硬化型プリプレグの硬化状態に対するマーカー部の色調を表す色見本を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグの変形例の平面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグに設けるマーカー部を示す平面図である。
【図8】図7のX−X線矢視図である。
【図9】図7及び図8のマーカー部を貼り付けた本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグを示す平面図である。
【図10】図7及び図8のマーカー部を、光硬化型プリプレグの外側の光の照射領域内に貼り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 樹脂
2 繊維質基材
3 マーカー部
3a フォトクロミック材料
3b 透明フィルム基材
4 端部
4a 隅角部
4b 辺(平行する2辺)
7 透明フィルム
12 色見本
A 光硬化型プリプレグ
A1 一面(表面)
A2 他面(表面)
B 光硬化型プリプレグ
B1 一面(表面)
B2 他面(表面)
C1 コンクリート表面
T 光の照射領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合開始剤を含む樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグにおいて、
照射した前記光によって色調が変化するフォトクロミック材料を備えてなるマーカー部が、表面の一部に設けられていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項2】
請求項1記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記マーカー部が端部側に設けられていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項3】
請求項2記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記光硬化型プリプレグが平面視方形状に形成され、隅角部の近傍に、もしくは平行する2辺のそれぞれの近傍に各辺に沿って、前記マーカー部が設けられていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記マーカー部が、線状もしくはスポット状の複数の前記フォトクロミック材料を隙間をあけて配置して形成されていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記マーカー部が、透明フィルム基材に前記フォトクロミック材料を積層して形成され、前記表面に貼り付けて設けられていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記フォトクロミック材料が、可視光領域の異なる2以上の波長のそれぞれの前記光に反応して色調を変化させることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項7】
光重合開始剤を含む樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグの硬化状態を判別する方法であって、
前記光の照射領域内に、該光の照射によって色調が変化するフォトクロミック材料を備えるマーカー部を設け、該マーカー部の変化した色調を指標にして硬化状態を判別することを特徴とする光硬化型プリプレグの硬化状態判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−195744(P2008−195744A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29116(P2007−29116)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】