説明

光硬化性樹脂組成物、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤、及び、有機エレクトロルミネッセンス表示素子

【課題】透明性及び耐湿性に優れ、かつ、低粘度である有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を得ることができる光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光硬化性樹脂組成物であって、前記カチオン重合性化合物は、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂と、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂とを含有する光硬化性樹脂組成物。[化1]


式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。R〜Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10の1価の直鎖状、分岐状、若しくは、環状のアルキル基、又は、炭素数1〜10のアルコキシ基を表す。R〜Rは同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。nは0〜20の整数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び耐湿性に優れ、かつ、低粘度である有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を得ることができる光硬化性樹脂組成物に関する。また、本発明は、該光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤及び有機エレクトロルミネッセンス表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELともいう)表示素子は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された積層体構造を有し、この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して発光する。このように有機EL表示素子は自己発光を行うことから、バックライトを必要とする液晶表示素子等と比較して視認性がよく、薄型化が可能であり、しかも直流低電圧駆動が可能であるという利点を有している。
【0003】
近年、従来のボトムエミッション方式の有機EL表示素子に代わって、有機発光材料層から発せられた光を上面側から取り出すトップエミッション方式の有機EL表示素子が注目されている。この方式は、開口率が高く、低電圧駆動となることから、長寿命化に有利であるという利点がある。このようなトップエミッション方式の有機EL表示素子では、通常、積層体を2枚のガラス等の透明材料からなる防湿性基材により挟み込み、該防湿性基材間を充填剤で充填することにより封止している(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このようなトップエミッション方式の有機EL表示素子では、光の取り出し方向を遮蔽してしまわないようにするために乾燥剤を配置するスペースがなく、充填剤で充填したとしても充分な防湿効果が得られにくく寿命が短くなるという問題があった。
そこで従来は、透湿度を指標として防湿性の高い接着剤が選択され用いられてきたが、このようにして選択された接着剤を用いて有機EL表示素子を封止しても期待されたほど高い防湿性は得られなかった。
【0004】
また、トップエミッション方式の有機EL表示素子では、光の取り出し方向に封止剤を配置するため、着色がない封止剤が必要とされる。しかしながら、従来の封止剤は熱や紫外線に曝されることにより封止剤が着色し、色の再現性や輝度が低下するという問題があった。
【0005】
また、大画面の有機ELディスプレイの開発が進むにつれ、大面積の有機EL表示素子を均一かつ正確に封止できる有機EL表示素子用封止剤として、透明性及び耐湿性に優れることに加えて、低粘度である有機EL表示素子用封止剤が求められていた。
【0006】
これに対して本発明者らは、光重合性化合物として、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂及び芳香族環を有するエポキシ樹脂を特定の比率で含有させた有機EL表示素子用封止剤は、透明性及び耐湿性に優れた封止が可能であり、かつ、比較的低粘度であることを見出した(特許文献2)。しかしながら、近年においては、より大画面の有機ELディスプレイが求められており、これに対応して更に低粘度の有機EL表示素子用封止剤に対する要求が高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−357973号公報
【特許文献2】特開2005−378504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明性及び耐湿性に優れ、かつ、低粘度である有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を得ることができる光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、該光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤及び有機エレクトロルミネッセンス表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光硬化性樹脂組成物であって、上記カチオン重合性化合物は、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂と、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂とを含有し、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂100重量部に対して、上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂を20〜400重量部含有する光硬化性樹脂組成物である。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。R〜Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10の1価の直鎖状、分岐状、若しくは、環状のアルキル基、又は、炭素数1〜10のアルコキシ基を表す。R〜Rは同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。nは0〜20の整数を示す。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明者は、芳香族環を有するエポキシ樹脂のなかでも、特定の構造を有するエポキシ樹脂を、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂とともに光硬化性樹脂組成物に特定の比率で配合することにより、透明性及び耐湿性に優れ、かつ、低粘度である有機EL表示素子用封止剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、カチオン重合性化合物を含有する。
上記カチオン重合性化合物は上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂と、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂とを含有する。
芳香族環を有するエポキシ樹脂のなかでも、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を選択して用いることにより、本発明の光硬化性樹脂組成物は、高い透明性及び耐湿性を維持したまま、より低粘度のものとすることができる。本発明の光硬化性樹脂組成物は低粘度であるため、有機EL表示素子用封止剤等として用いた場合、基材との親和性がよく、塗布性に優れる。また、耐湿性が高いため、得られる有機EL表示素子の劣化を抑制することができる。
【0014】
上記一般式(1)において、nは0〜5であることが好ましく、R〜Rは水素原子であることが好ましい。
上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂としては、具体的には例えば、カテコールジグリシジルエーテル(n=0、R〜R=H、オルト配向)、レゾルシノールジグリシジルエーテル(n=0、R〜R=H、メタ配向)、4−エチルレゾルシノールジグリシジルエーテル(n=0、R=C、R〜R=H)、ヒドロキノンジグリシジルエーテル(n=0、R〜R=H、パラ配向)等が挙げられる。
上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂のうち、市販されているものとしては、例えば、デナコール EX−201(レゾルシノールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製)、EX−203(ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0015】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂を含有することにより、透明性及び耐湿性を高くすることができ、かつ、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂が結晶化するのを防ぐことができる。
上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂としては、その構造中に脂肪族環状骨格とエポキシ基とを有するものであれば特に限定されず、構造中、又は、繰り返し単位内に上記脂肪族環状骨格を1つだけ有する樹脂であってもよく、繰り返し単位内に2個以上の脂肪族環状骨格を有する樹脂であってもよいが、繰り返し単位内に2個以上の脂肪族環状骨格を有する樹脂がより好適に用いられる。上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂が繰り返し単位内に2個以上の脂肪族環状骨格を有する樹脂である場合、得られる光硬化性樹脂組成物は、より透明性、耐湿性等に優れたものとなる。
【0016】
上記繰り返し単位内に2個以上の脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂は特に限定されないが、下記一般式(2)、(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。下記一般式(2)、(3)又は(4)で表される化合物は極性が低いため含水率が低く、脂肪族環状骨格を有するため耐熱性や透明性が高い等の特徴を有する。
なかでも、下記一般式(2)で表される樹脂であることがより好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
式(2)中、nは0〜20の整数を表す。R及びRは、水素、又は、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、R及びRは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
【化3】

【0020】
式(3)中、nは0〜20の整数を表す。R〜R15は、水素、又は、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、R〜R15は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
【化4】

【0022】
式(4)中、nは、0〜20の整数を表す。
【0023】
上記一般式(2)、(3)及び(4)において、nは1以上であることが好ましい。上記nを1以上とすることにより、上記nが0の場合に比べて本発明の光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤の透明性をより優れたものとすることができる。なお、上記nが0の場合には、後述する水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物を上記nが1の場合よりも多量に配合することにより、本発明の光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤の透明性をより高くすることができる。上記nが20を超えると、得られる光硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎたり、他の配合物との相溶性が悪くなったりすることがある。
【0024】
また、上記一般式(2)で表される化合物の中でも、R及びRは、水素、メチル基、又は、エチル基であることが好ましい。上記R及びRが、水素、メチル基、又は、エチル基であることにより、本発明の光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤は、優れた透明性と耐湿性とを兼ね備えたものとなる。なかでも、上記R及びRは水素であることがより好ましい。
【0025】
上記化学式(2)で表される化合物のうち、市販されているものとしては、例えば、エピコートYX8000(三菱化学社製、R=R=CH)、エピコートYL6753(三菱化学社製、R=R=H)等が挙げられる。
【0026】
上記化学式(3)で表される化合物のうち、市販されているものとしては、例えば、エピコートYL7040(三菱化学社製、R=R10=R13=R15=CH、R=R11=R12=R14=H)等が挙げられる。
【0027】
上記化学式(4)で表される化合物のうち、市販されているものとしては、例えば、EP−4088(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0028】
上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂100重量部に対する、上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂の含有量の下限は20重量部、上限は400重量部である。上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂の含有量が20重量部未満であると、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤が透明性及び耐湿性に劣るものとなったり、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂が結晶化するのを防ぐことができなくなったりする。上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂の含有量が400重量部を超えると、得られる光硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる。上記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂の含有量の好ましい下限は50重量部、好ましい上限は200重量部、より好ましい下限は70重量部、より好ましい上限は150重量部である。
【0029】
上記カチオン重合性化合物は、本発明の目的を阻害しない範囲において、更に、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂以外のその他の芳香族環を有するエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0030】
上記その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂は、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を除き、構造中に芳香族環とエポキシ基とを有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記ノボラック型エポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2、2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ポリオキシプロピレンビスフェノールA型エポキシ等が挙げられる。
なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好適に用いられる。
上記その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
上記その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂の含有量は特に限定されないが、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂100重量部に対して、好ましい下限は50重量部、好ましい上限は200重量部である。上記その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂の含有量が50重量部未満であると、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤が硬化性に劣るものとなることがある。上記その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂の含有量が200重量部を超えると、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤が透明性及び耐湿性に劣るものとなることがある。上記その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂の含有量のより好ましい下限は70重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0032】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光カチオン重合開始剤を含有する。
上記光カチオン重合開始剤は、光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生するものであれば特に限定されず、イオン性光酸発生型であってもよいし、非イオン性光酸発生型であってもよい。なかでも、下記一般式(5)で表されるオニウム塩が好適である。上記光カチオン重合開始剤として下記一般式(5)で表されるオニウム塩を用い、かつ、増感剤として後述する一般式(9)で表されるベンゾフェノン誘導体を用いることにより、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤の光や熱による着色を抑制することができる。
【0033】
【化5】

【0034】
式(5)中、R16及びR17は、水素、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、又は、炭素数1〜20のカルボン酸アルキルエステル基を表す。上記R16及びR17は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
式(5)中、Xは、PF、AsF、BF、又は、下記一般式(6)で表されるボロン酸を表す。
【0035】
【化6】

【0036】
なかでも、上記光カチオン重合開始剤は、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤が透明性に優れ、電極との界面で電極の酸化が発生しにくく、耐久性に優れるものとなるため、上記一般式(6)で表される嵩高いボロン酸を対アニオンとする塩からなるものが好適である。
【0037】
上記光カチオン重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記光カチオン重合開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、カチオン重合が充分に進行しなかったり、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化反応が遅くなりすぎたりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の含有量が10重量部を超えると、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化反応が速くなりすぎて、作業性が低下したり、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化物が不均一となったりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0038】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、硬化遅延剤を含有することが好ましい。上記硬化遅延剤を含有することにより、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤はポッドライフが長くなり、塗布性が向上する。また、いったん光を照射してから接着や封止を行うことができることから、光により劣化する可能性のある部材の接着や封止を行うことや、部材等により封止剤に光が遮蔽される部分が存在する場合であっても、封止剤全体を充分に硬化させることが可能となる。
【0039】
上記硬化遅延剤は特に限定されず、例えば、ポリエーテル化合物等が挙げられる。
上記ポリエーテル化合物は特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、クラウンエーテル化合物等が挙げられる。なかでも、クラウンエーテル化合物が好適である。
【0040】
上記クラウンエーテル化合物は特に限定されず、例えば、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、24−クラウン−8、及び、下記一般式(7)で表される構造を有する化合物等が挙げられる。
【0041】
【化7】

【0042】
式(7)中、R18〜R29は、少なくとも1つが炭素数1〜20のアルキル基を表す。また、上記アルキル基は、炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、及び、炭素数1〜20のカルボン酸アルキルエステル基からなる群より選択される1以上の官能基で置換されていてもよく、更に、隣接するR及びRn+1(但し、nは、18〜28の偶数を表す)は、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
【0043】
上記一般式(7)で表される構造を有する硬化遅延剤のなかでも、少なくとも1つのシクロヘキシル基を有するものが好適である。上記シクロヘキシル基を有することにより、クラウンエーテルの骨格が安定し、遅延効果が高まる。
上記シクロヘキシル基を有する上記一般式(7)で表される構造を有する硬化遅延剤としては、具体的には例えば、下記化学式(8)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0044】
【化8】

【0045】
上記化学式(8)で表される構造を有する化合物は、18−クラウン−6−エーテル分子の中央を通る線に対して線対称となる位置に2個のシクロヘキシル基を有するため、18−クラウン−6−エーテル分子の骨格に歪み等を生じさせることなく遅延効果が高くなると考えられる。
【0046】
上記硬化遅延剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5.0重量部である。上記硬化遅延剤の含有量が0.05重量部未満であると、本発明の光硬化性樹脂組成物に遅延効果を充分に付与できないことがある。上記硬化遅延剤の含有量が5.0重量部を超えると、本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化させる際に発生するアウトガス等が多くなり、上記アウトガス等が大きな影響を与える用途に本発明の光硬化性樹脂組成物を使用しにくくなることがある。上記硬化遅延剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は3.0重量部である。
【0047】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、下記一般式(9)で表されるベンゾフェノン誘導体からなる増感剤を含有することが好ましい。上記増感剤は、上記光カチオン重合開始剤の重合開始効率をより向上させて、本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化反応をより促進させる役割を有する。
【0048】
【化9】

【0049】
式(9)中、R30及びR31は、水素、下記一般式(10−1)で表される置換基、又は、下記一般式(10−2)で表される置換基を表す。上記R30及びR31は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0050】
【化10】

【0051】
式(10−1)、(10−2)中、R32は、水素、炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、又は、炭素数1〜20のカルボン酸アルキルエステル基を表す。
【0052】
上記一般式(9)表されるベンゾフェノン誘導体としては、具体的には例えば、ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’メチルジフェニルサルファイド等が挙げられる。
【0053】
上記増感剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物の含有量100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は3重量部である。上記増感剤の含有量が0.05重量部未満であると、増感効果が充分に得られないことがある。上記増感剤の含有量が3重量部を超えると、吸収が大きくなりすぎて深部まで光が伝わらないことがある。上記増感剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は1重量部である。
【0054】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲において、更に、水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物を含有してもよい。
上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物を含有することにより、本発明の光硬化性樹脂組成物は、非常に高い透明性を示し、かつ、硬化物が紫外線や熱に曝された場合にも非常に高い透明性を維持することができる。
【0055】
本明細書において、上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物とは、不飽和二重結合を有さない脂肪族炭化水素骨格と水酸基とからなる化合物を意味する。
上記脂肪族炭化水素骨格は特に限定されないが、炭素数が2〜50の脂肪族炭化水素骨格であることが好ましい。上記炭素数が2未満であると、親水性が強くなりすぎて、相溶性が悪くなったり、得られる光硬化性樹脂組成物の吸湿性が高くなったりすることがある。上記炭素数が50を超えると、溶解性が悪くなったり、得られる光硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎたりすることがある。
【0056】
上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物は特に限定されず、例えば、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシドール等が挙げられる。なかでも、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコールが好適である。
【0057】
また、上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物は、pKa値の好ましい下限が15、好ましい上限が19である。上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物のpKa値が15未満であると、酸性が強すぎて貯蔵安定性が悪くなることがある。上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物のpKa値が19を超えると、塩基性が強くなりすぎて発生する酸を弱めるため硬化阻害が起きることがある。
【0058】
上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は5重量部、好ましい上限は50重量部である。上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物の含有量が5重量部未満であると、得られる光硬化性樹脂組成物が紫外線や熱に曝された場合に充分な透明性を維持することができないことがある。上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物の含有量が50重量部を超えると、硬化反応が阻害されたり、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化物の吸水率が高くなったりすることがある。上記水酸基を有する脂肪族炭化水素化合物の含有量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は40重量部である。
【0059】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、熱硬化剤を含有することが好ましい。
上記熱硬化剤を含有することで、本発明の光硬化性樹脂組成物に熱硬化性を付与することができる。
【0060】
上記熱硬化剤は特に限定されず、例えば、ヒドラジド化合物、イミダゾール誘導体、酸無水物、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、変性脂肪族ポリアミン、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。
上記ヒドラジド化合物は特に限定されず、例えば、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]等が挙げられる。
上記イミダゾール誘導体は特に限定されず、例えば、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
上記酸無水物は特に限定されず、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、エチレングリコールービス(アンヒドロトリメリテート)等が挙げられる。
これらの熱硬化剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0061】
上記熱硬化剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は30重量部である。上記熱硬化剤の含有量が0.5重量部未満であると、得られる光硬化性樹脂組成物に充分な熱硬化性を付与できないことがある。上記熱硬化剤の含有量が30重量部を超えると、得られる光硬化性樹脂組成物の保存安定性が不充分となったり、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化物の耐湿性が悪くなったりすることがある。上記熱硬化剤の含有量のより好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0062】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、シランカップリング剤を含有することが好ましい。上記シランカップリング剤は、本発明の光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤と基板等との接着性を向上させる役割を有する。
【0063】
上記シランカップリング剤としては、具体的には例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記シランカップリング剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記シランカップリング剤の含有量が0.1重量部未満であると、得られる光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤の接着性を向上させる効果がほとんど得られないことがある。上記シランカップリング剤の含有量が10重量部を超えると、余剰のシランカップリング剤がブリードアウトすることがある。上記シランカップリング剤の含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0065】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で充填剤を含有してもよい。
上記充填剤は特に限定されず、例えば、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
上記無機フィラーは特に限定されず、例えば、タルク、石綿、シリカ、スメクタイト、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、モンモリロナイト、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、石膏、珪酸カルシウム、セリサイト活性白土等が挙げられる。
上記有機フィラーは特に限定されず、例えば、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ビニル重合体微粒子、アクリル重合体微粒子等が挙げられる。
【0066】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、硬化物の透明性を阻害しない範囲で、素子電極の耐久性を向上させるために、組成物に発生した酸と反応する化合物又はイオン交換樹脂を含有してもよい。
【0067】
上記発生した酸と反応する化合物としては、酸と中和する物質、例えば、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩等が挙げられる。具体的には例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が用いられる。
【0068】
上記イオン交換樹脂としては、陽イオン交換型、陰イオン交換型、両イオン交換型のいずれも使用することができるが、特に塩化物イオンを吸着することのできる陽イオン交換型又は両イオン交換型が好適である。
【0069】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知の各種添加剤を含有してもよい。
【0070】
本発明の光硬化性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、カチオン重合性化合物と、光カチオン重合開始剤と、必要に応じて添加する硬化遅延剤、熱硬化剤、シランカップリング剤等の添加剤とを混合する方法が挙げられる。
【0071】
本発明の光硬化性樹脂組成物は有機EL表示素子用封止剤として好適に用いることができる。本発明の光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機EL表示素子用封止剤もまた、本発明の1つである。
【0072】
本発明の有機EL表示素子用封止剤の粘度は、有機EL表示素子の封止を行う際に用いる塗布方法により適宜決定され、特に限定されないが、コーンローター式粘度計を用いて、25℃、1rpmの条件で測定した粘度の好ましい下限は10mPa・s、好ましい上限は450mPa・sである。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度が10mPa・s未満であると、有機EL表示素子を封止できないことがある。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度が450mPa・sを超えると、均一かつ正確に有機EL表示素子の封止ができないことがある。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度のより好ましい下限は50mPa・s、より好ましい上限は300mPa・sである。上記有機EL表示素子用封止剤の粘度の更に好ましい上限は230mPa・sである。
【0073】
本発明の有機EL表示素子用封止剤を基板に塗布する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布、フレキソ印刷、グラビア印刷等の方法を用いることができる。また、本発明の有機EL表示素子用封止剤を上記基板の全面に塗布してもよく、上記基板の一部に塗布してもよい。
【0074】
塗布により形成される本発明の有機EL表示素子用封止剤の封止部の形状としては、有機発光材料層を有する積層体を外気から保護しうる形状であれば特に限定されず、上記積層体を完全に被覆する形状であってもよいし、上記積層体の周辺部に閉じたパターンを形成してもよい。更に、上記積層体の周辺部に一部開口部を設けた形状のパターンを形成してもよい。
なお、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、上述のように常温において低粘度とすることができることから、上記積層体を完全に被覆する形状に塗布する方法を好適に行うことができる。
【0075】
本発明の有機EL表示素子用封止剤を塗布する基板(以下、一方の基板ともいう)は特に限定されず、例えば、上記積層体の形成されている基板であってもよく、上記積層体の形成されていない基板であってもよい。上記一方の基板に上記積層体が形成されていない場合、他方の基板を貼り合わせた際に、上記積層体を外気から保護できるように上記一方の基板に本発明の有機EL表示素子用封止剤を塗布すればよい。すなわち、他方の基板を貼り合わせた際に上記積層体の位置となる場所に全面的に塗布するか、又は、他方の基板を貼り合わせた際に上記積層体の位置となる場所が完全に収まる形状に、閉じたパターンの封止剤部を形成してもよい。
【0076】
また、上記基板は特に限定されないが、防湿性基材であることが好ましく、例えば、ガラス基材、金属基材、樹脂基材等が挙げられる。
上記ガラス基材は特に限定されないが、例えば、ソーダガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。
上記金属基材は特に限定されないが、例えば、ステンレス、アルミニウム等が挙げられる。
上記樹脂基材は特に限定されないが、例えば、三フッ化ポリエチレン、ポリ三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、PVDFとPCTFEとの共重合体、PVDFとポリフッ化塩化エチレンとの共重合体等のポリフッ化エチレン系ポリマー、ジシクロペンタジエン等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン等が挙げられる。
【0077】
また、上記積層体は、無機防湿膜で被覆されていてもよい。本発明の有機EL表示素子用封止剤は、後述するように硬化物の引張貯蔵弾性率が20℃から80℃の間において一定の低弾性率領域内であると、上記積層体が無機防湿膜で被覆されている場合にも、該防湿膜を傷つけることなく、好適に用いることができる。上記無機防湿膜は特に限定されず、例えば、従来公知のものと同様のものが挙げられる。
【0078】
上記他方の基板を貼り合わせる方法は特に限定はされないが、減圧雰囲気下で貼り合わせることが好ましい。上記減圧雰囲気下の真空度の好ましい下限は0.01kPa、好ましい上限は10kPaである。上記減圧雰囲気下の真空度が0.01kPa未満であると、真空装置の気密性や真空ポンプの能力から真空状態を達成するのに時間がかかるため現実的でない。上記減圧雰囲気下の真空度が10kPaを超えると、上記他方の基板を貼り合わせる際の本発明の有機EL表示素子用封止剤中の気泡の除去が不充分となることがある。
【0079】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、塗布後、300nm〜400nmの波長及び300〜3000mJ/cmの積算光量の光を照射することによって硬化させることができる。
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、光を照射した後硬化反応が進行し、接着ができなくなるまでの可使時間が1分以上であることが好ましい。上記可使時間が1分未満であると、基板等を貼り合わせる前に硬化が進行してしまい、充分な接着強度が得られなくなることがある。上記可使時間は、上述した水酸基を有する脂肪族炭化水素や硬化遅延剤の配合量を調整することで、適宜調整することができる。
【0080】
本発明の有機EL表示素子用封止剤に光を照射するための光源は特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、エキシマレーザ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等が挙げられる。これらの光源は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの光源は、上記カチオン重合開始剤の吸収波長に合わせて適宜選択される。
【0081】
本発明の有機EL表示素子用封止剤への光の照射手段としては、例えば、各種光源の同時照射、時間差をおいての逐次照射、同時照射と逐次照射との組み合わせ照射等が挙げられ、いずれの照射手段を用いてもよい。
本発明の有機EL表示素子用封止剤の硬化に際しては、光カチオン重合をより促進して、硬化時間をより短縮するために、光照射と同時に加熱を行ってもよい。上記加熱を行う場合の加熱温度は特に限定されないが、50〜100℃程度であることが好ましい。
【0082】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、硬化物の20℃から80℃までにおける引張貯蔵弾性率の好ましい下限が5×10Pa、好ましい上限が5×10Paである。引張貯蔵弾性率が上記範囲にある本発明の有機EL表示素子用封止剤は、加熱硬化時から常温までの弾性率が低弾性域でほぼ一定となっているため、有機EL表示素子の製造に用いた際に、加熱硬化時から常温まで冷却したときに硬化収縮が起こっても応力が緩和され、有機EL表示素子に対するダメージが低減される。
【0083】
本発明の有機EL表示素子用封止剤の硬化物の波長380〜800nmにおける光の全光線透過率の好ましい下限は80%である。上記全光線透過率が80%未満であると、本発明の有機EL表示素子用封止剤を用いて有機EL表示素子を製造した場合に、充分な光学特性を得られないことがある。上記全光線透過率のより好ましい下限は85%である。
上記全光線透過率を測定する方法としては特に限定はされず、例えば、東京電色社製「AUTOMATIC HAZE MATER MODEL TC=III DPK」等の分光計を用いて測定することができる。
【0084】
本発明の有機EL表示素子封止剤は、硬化物に紫外線を100時間照射した後の400nmにおける透過率の下限が20μmの光路長にて85%であることが好ましい。上記紫外線を100時間照射した後の透過率が85%未満であると、透明性が低く、発光の損失が大きくなり、かつ、色再現性が悪くなることがある。上記紫外線を100時間照射した後の透過率のより好ましい下限は90%、更に好ましい下限は95%である。
上記紫外線を照射する方法としては特に限定はされず、キセノンランプ、カーボンアークランプ等、従来公知の光源を用いることができる。
【0085】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、硬化物をJIS Z 0208に従い、85℃、85%RHに24時間暴露して測定した100μm厚での透湿度の値が100g/m以下であることが好ましい。上記透湿度が100g/mを超えると、素子に水分が到達し発光部でのダークスポット発生の原因となる。
【0086】
更に、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、硬化物を85℃、85%RHの条件下、24時間暴露したときに、上記硬化物の含水率が0.5%未満であることが好ましい。上記硬化物の含水率が0.5%以上であると、硬化物中の水分による有機EL表示素子の劣化が起こる。上記硬化物の含水率のより好ましい上限は0.3%である。
【0087】
上記含水率の測定方法としては特に限定されず、例えば、JIS K 7251に準拠してカールフィッシャー法により求める方法や、JIS K 7209−2に準拠して吸水後の重量増分を求める等の方法が挙げられる。
【0088】
上記のような低い透湿度と低い含水率を両方有することにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は優れた耐湿性を有するものとなる。
【0089】
本発明の有機EL表示素子用封止剤は、硬化させた後の硬化物のガラス転移点が85℃以上であることが好ましい。上記硬化物のガラス転移点が85℃未満であると、有機EL表示素子が高温多湿の状態に曝されたときに、硬化物が軟化するため、水蒸気が硬化物を透過しやすくなり、有機EL表示素子の劣化の原因となる。上記硬化物のガラス転移点のより好ましい下限は100℃である。
【0090】
本発明の光硬化性樹脂組成物又は本発明の有機EL表示素子用封止剤を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス表示素子もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0091】
本発明によれば、透明性及び耐湿性に優れ、かつ、低粘度である有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を得ることができる光硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤及び有機エレクトロルミネッセンス表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0092】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0093】
(実施例1)
一般式(1)で表されるエポキシ樹脂としてレゾルシノールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、「デナコール EX−201」)50重量部と、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂として水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート YL6753」)50重量部と、光カチオン重合開始剤としてヨードニウムボレート系のカチオン重合開始剤(ローディア社製、「RP−2074」)1重量部と、硬化遅延剤として18−クラウン6(和光純薬工業社製)1重量部とを混合し80℃に加熱後、ホモディスパー型攪拌混合機(プライミクス社製、「ホモディスパーL型」)を用い、攪拌速度3000rpmで均一に攪拌混合して、光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0094】
(実施例2)
レゾルシノールジグリシジルエーテルの配合量を20重量部に変更し、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の配合量を80重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0095】
(実施例3)
レゾルシノールジグリシジルエーテルの配合量を80重量部に変更し、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の配合量を20重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0096】
(実施例4)
レゾルシノールジグリシジルエーテルの配合量を40重量部に変更し、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の配合量を30重量部に変更し、その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート 828」)30重量部及びビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート 806」)30重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0097】
(実施例5)
脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂として、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂50重量部の代わりに水素化ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート YL7040」)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0098】
(実施例6)
脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂として、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂50重量部の代わりにジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(ADEKA社製、「EP−4088」)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0099】
(実施例7)
一般式(1)で表されるエポキシ樹脂として、レゾルシノールジグリシジルエーテル50重量部の代わりにヒドロキノンジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、「デナコール EX−203」)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0100】
(実施例8)
水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の配合量を180重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0101】
(実施例9)
4−エチルレゾルシノール40gを100Lのエピクロロヒドリンに溶解させ、70℃に加熱した。次いで、48%水酸化ナトリウム水溶液40gを減圧下で4時間滴下した。得られた溶液を水で3回洗浄したのち、有機層を減圧することで4−エチルレゾルシノールジグリシジルエーテル(n=0、R=C、R〜R=H)30gを得た。
一般式(1)で表されるエポキシ樹脂として、レゾルシノールジグリシジルエーテル50重量部の代わりに、得られた4−エチルレゾルシノールジグリシジルエーテル50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0102】
(実施例10)
レゾルノール60gを100Lのエピクロロヒドリンに溶解させ、70℃に加熱した。次いで、48%水酸化ナトリウム水溶液40gを減圧下で4時間滴下した。得られた溶液を水で3回洗浄したのち、有機層を減圧することで化学式(1)のn=1、R〜R=Hの化合物を主成分とするn=1、R〜R=Hの化合物とn=2、R〜R=Hの化合物との混合物50gを得た。
一般式(1)で表されるエポキシ樹脂として、レゾルシノールジグリシジルエーテル50重量部の代わりに、得られた混合物50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0103】
(比較例1)
レゾルシノールジグリシジルエーテルを用いず、芳香族環を有するエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート 828」)50重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0104】
(比較例2)
レゾルシノールジグリシジルエーテルを用いず、芳香族環を有するエポキシ樹脂としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート 806」)50重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0105】
(比較例3)
レゾルシノールジグリシジルエーテルの配合量を90重量部に変更し、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の配合量を10重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0106】
(比較例4)
レゾルシノールジグリシジルエーテルの配合量を15重量部に変更し、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の配合量を85重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0107】
(比較例5)
レゾルシノールジグリシジルエーテルの配合量を80重量部に変更し、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いず、その他の芳香族環を有するエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート 828」)20重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0108】
<評価>
実施例及び比較例で得られた光硬化性樹脂組成物について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0109】
(1)粘度の測定
コーンローター式粘度計(東機産業社製、「TV−22型」)を用いて、25℃、1rpmの条件で実施例及び比較例で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を測定した。
なお、比較例5で得られた光硬化性樹脂組成物は結晶化したため、粘度の測定及び以下の評価は行わなかった。
【0110】
(2)透湿度の測定
実施例及び比較例で製造した光硬化性樹脂組成物を100μmの厚さとなるように、ベーカー式アプリケーター(テスター産業社製)にて恒温プレート上に塗布した。その後高圧水銀灯にて100mW/cm(365nm)の光を20秒間照射したのち、80℃にて30分加熱しフィルムを得た。
得られたフィルムの透湿度を、JIS Z 0208に従い、85℃、85%RHの条件に24時間暴露して測定した。
【0111】
(3)光線透過率の測定
実施例及び比較例で製造した光硬化性樹脂組成物を75mm×25mm×1mmのガラス板2枚の間に20μmの厚みに形成し、スーパーキセノンウエザーメーターSX75(スガ試験機社製)で紫外線を100時間照射した後の400nmにおける透過率を測定した。
【0112】
(4)発光状態の評価
実施例及び比較例で製造した光硬化性樹脂組成物について、以下に示す有機EL表示素子を用いて評価を行い、結果を表1、2に示した。
【0113】
(有機EL素子基板の製造)
ガラス基板(25mm×25mm×0.7mm)にITO電極を100nmの厚さで成膜したものを透明支持基板とした。透明支持基板をアセトン、アルカリ水溶液、イオン交換水、イソプロピルアルコールにてそれぞれ15分間超音波洗浄した後、煮沸させたイソプロピルアルコールにて10分間洗浄し、更に、UV−オゾンクリーナ(日本レーザー電子社製、「NL−UV253」)にて直前処理を行った。
次に、この透明支持基板を真空蒸着装置の基板フォルダに固定し、素焼きの坩堝にN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)を200mg、他の異なる素焼き坩堝にトリス(8−ヒドロキシキノリラ)アルミニウム(Alq)を200mg入れ、真空チャンバー内を、1×10−4Paまで減圧した。その後、α−NPD入りの坩堝を加熱し、α−NPDを蒸着速度15Å/sで基板に堆積させ、膜厚600Åの正孔輸送層を成膜した。
次いでAlqの入った坩堝を加熱し、15Å/sの蒸着速度で(Alq)膜を形成した。その後、透明支持基板を別の真空蒸着装置に移し、この真空蒸着装置内のタングステン製抵抗加熱ボートにフッ化リチウム200mg、別のタングステン製ボートにアルミニウム線1.0gを入れた。その後、真空槽を2×10−4Paまで減圧してフッ化リチウムを0.2Å/sの蒸着速度で5Å成膜した後、アルミニウムを20Å/sの速度で200Å成膜した。窒素により蒸着器内を常圧に戻し、有機発光材料層を有する積層体を形成した透明支持基板(有機EL素子基板)を得た。
【0114】
(有機EL表示素子の製造)
実施例及び比較例で得られた光硬化性樹脂組成物をガラス製背面板に塗工装置にて50μmの厚さに全面塗布し、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を照射量が2000mJ/cmとなるように照射した。この基板を窒素中で、有機EL素子基板と貼り合わせた後、10分間放置し光硬化性樹脂組成物を硬化させて有機発光材料層を有する積層体を封止した。
次いで、80℃で30分間加熱して光硬化性樹脂組成物の硬化を行い、有機EL表示素子を製造した。
【0115】
(発光状態の評価)
得られた有機EL表示素子を60℃、90%RHの条件下に100時間暴露した後、6Vの電圧を印加し有機EL表示素子の発光状態(発光及びダークスポット、画素周辺消光の有無)を目視で観察し、下記の基準で評価を行った。
◎:ダークスポット・周辺消光無く均一に発光
○:輝度に僅かな低下が見られるが、ダークスポット、周辺消光は無く均一に発光
△:わずかな周辺消光、または、一部にダークスポット有り
×:顕著な周辺消光、または、全面にダークスポット有り
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、透明性及び耐湿性に優れ、かつ、低粘度である有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を得ることができる光硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該光硬化性樹脂組成物を用いてなる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤及び有機エレクトロルミネッセンス表示素子を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光硬化性樹脂組成物であって、
前記カチオン重合性化合物は、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂と、脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂とを含有し、
前記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂100重量部に対して、前記脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂を20〜400重量部含有する
ことを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【化1】

式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。R〜Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10の1価の直鎖状、分岐状、若しくは、環状のアルキル基、又は、炭素数1〜10のアルコキシ基を表す。R〜Rは同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。nは0〜20の整数を示す。
【請求項2】
脂肪族環状骨格を有するエポキシ樹脂は、下記一般式(2)、(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【化2】

式(2)中、nは0〜20の整数を表す。R及びRは、水素、又は、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、R及びRは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化3】

式(3)中、nは0〜20の整数を表す。R〜R15は、水素、又は、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、R〜R15は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化4】

式(4)中、nは、0〜20の整数を表す。
【請求項3】
カチオン重合性化合物は、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂100重量部に対して、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂以外の芳香族環を有するエポキシ樹脂を50〜200重量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
硬化遅延剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の光硬化性樹脂組成物を用いて製造される有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、
コーンローター式粘度計を用いて25℃、1rpmの条件で測定したときの粘度が10〜450mPa・sであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の光硬化性樹脂組成物、及び/又は、請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を用いてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子。

【公開番号】特開2011−21183(P2011−21183A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136187(P2010−136187)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】