説明

光触媒を使ったバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法

【課題】再使用可能で、経済的で、環境への負荷が小さいバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む水に、光を照射する工程を有する、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法に関する。より詳しくは、バイオマス資源を使った糖類および/または水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境調和型の再生可能なエネルギー資源として、太陽エネルギーを利用し大気中の二酸化炭素が固定化された生物資源であるバイオマスや、燃焼しても二酸化炭素を排出しない水素エネルギーが、近年注目されている。バイオマスをエネルギー資源として利用する際に発生する二酸化炭素は、再びバイオマスに固定化されることからカーボンニュートラルとして扱われる、バイオマス(バイオマス資源、バイオマス原料とも称される)からエネルギーやエタノール、乳酸などを製造して化石燃料に代替することは、二酸化炭素削減に寄与する地球温暖化対策であり、持続可能な循環型社会を形成することが可能となりうる。
【0003】
世界的に見ても、ブラジル、アメリカではバイオエタノール混合ガソリンが国内全土で普及し、ヨーロッパやアジアでも一部または試験的な導入が進められている。実際に日本国内で消費されているガソリンが、全量E10に切り替わった場合の二酸化炭素削減量は、約830万tとなる。830万tの二酸化炭素削減量は、運輸部門二酸化炭素排出量の約3%に相当する非常に大きな削減効果である。バイオ燃料は今後、地球温暖化対策からも重要で、今後さらに需要が高まっていくことが予測されている。
【0004】
上記の状況に鑑み、化石燃料に頼ることなく再生可能なバイオマス資源を使った単糖類の化学合成プロセスの構築が求められている。
【0005】
特に、木質系バイオマスは、デンプン質系バイオマス、糖質系バイオマスよりもはるかに豊富に存在するため、代替エネルギー資源として有望視されている。また、デンプン質系バイオマス、糖質系バイオマスは、農作物、食品としての価値との競合があるため、そのような観点からしても、木質系バイオマス(非可食材料)をもエネルギー資源として利用することができることが切に望まれている。
【0006】
エタノールを代表とする燃料を合成する過程において、バイオマスを分解し、糖化する必要があるが、かようなプロセス、すなわちセルロースなどの多糖類を分解して少糖や単糖類を製造する方法として、酸処理法(例えば、特許文献1)、超臨界処理法(例えば、特許文献2)、酵素処理法(例えば、特許文献3)などが従来知られている。
【0007】
また、二酸化炭素削減に寄与する地球温暖化対策として、水素エネルギーがバイオマスと同等に注目されている。水素は化石燃料やバイオマス、水など種々の原料から製造することができ、水素を燃やしても有害ガスが殆ど出ないクリーンなエネルギーとして、特に、近年燃料電池自動車や家庭用、業務用のエネルギーとして利用が期待されている。
【特許文献1】特開平11−313700号公報
【特許文献2】特開平10−327900号公報
【特許文献3】特開2003−135052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1を一例とする、酸処理法では、高温条件の下、高濃度の硫酸を用いて処理する必要があり、このような強酸を用いるには、プラント全体についても特別な材料が必要であり、例えば、製造プラントの設計上、耐酸性を要求する。さらには、このような強酸やそれらの塩を、分解生成物から分離することが容易ではなく、分解生成物から酸や塩を除去する工程が必要となり、ひいては、多大のコストを必要とする。
【0009】
また、特許文献2を一例とする、超臨界処理法では、その製造方法において、高温、高圧を必要とするとの問題点がある。
【0010】
さらに、特許文献3を一例とする、酵素処理法では、セルロースの分解に用いられるセルラーゼなどの酵素は有効であるが、酵素は使い捨てでもあり、これも合成したバイオ燃料の高コスト化をもたらしている。また、木質系バイオマス(セルロース資源(セルロース、ヘミセルロース))は、結晶構造をとっているため酵素による分解には複数種の酵素による作用が必要である。よって、酵素処理法のみを用いて糖化させると、高コスト化に拍車がかかる。
【0011】
一方、水素エネルギーの原料となる水素は、メタンガスなどの天然ガスから水蒸気改質法から製造したり、石油精製所、鉄鋼プラントなどから副生や、また、光触媒により水素を取り出す方法などがある。中でも、光触媒を用いて水素を取り出すことは、地球温暖化対策の観点では最も優れている。しかし、本多−藤嶋効果に代表される光触媒は、TiO極とPt極とを用いており、この際にPt電極に−0.5V程度の外部バイアスをかけて紫外光照射する必要があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、エタノールを代表とする燃料を合成する過程において必要なバイオマス分解を、後処理が困難でかつ高コストの酸処理法や、使い捨てで高コストなセルラーゼなどの酵素法、あるいは高温、高圧を必要とする超臨界処理法に代わる、再使用可能で、経済的で、環境への負荷が小さく、少糖や単糖類に効率的に分解する優れた糖類の製造方法だけではなく、光触媒を使用した水素エネルギーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った。その結果、バイオマス資源を、光触媒を用いて分解して、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体を製造することにより、前記目的が達成できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む水に、光を照射する工程を有する、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、バイオマス由来の燃料(例えば、水素)および/またはバイオマス由来の燃料前駆体(例えば、糖類)を個別または同一工程で取り出すことができる。バイオマス由来の燃料、例えば、水素を製造する場合は、水素を効率よく製造することができる。
【0016】
また、バイオマス由来の燃料前駆体、例えば、糖類を製造する場合は、濃硫酸のような強酸を用いることなく、高温、高圧のような反応条件を用いなくてもよい。さらには、セルラーゼを単独で用いて分解させる方法のように、高コストな酵素を大量に使い捨てにしなくてもよい。つまり、本発明の製造方法によれば、バイオマス(特に、木質系バイオマス)を、再使用可能で、経済的で、環境への負荷が小さい方法により、少糖類や単糖類に効率的に分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記の通り、20世紀の科学技術は我々人類には大きな富を残してきた。しかし、生物生誕以来長い年月をかけて造られてきた生態系を数100年で破壊してしまう程にエネルギーと物質の大量消費行い、工業化社会を作り上げてきた。21世紀では、かけがえのない地球上の生態系を保全しつつ、そこで生産される植物資源から何百億人もの人類に、エネルギーをはじめ、化学製品、建築資材や紙などを提供していかなければならない。言うまでもなくこれらの工業製品は、原料採取から生産・加工・流通・廃棄・リサイクルに至るまでの全ライフスタイルにわたって、環境への負荷が極力少なくしていかなければならない。利便性やデザインよりも環境への負荷を第一に考えることで、「持続可能な社会」を構築することが我々人類に求められている。
【0018】
この時代にとって、二酸化炭素を排出しにくいとされる水素エネルギーや、再生産可能かつ植物体の大半を占めるセルロースは、最も時代に適した素材であると言える。近年、特にセルロースは「木質系バイオマスから新エネルギー」として注目され、植物由来のバイオエタノールの研究がブラジルやヨーロッパ先進国を中心に今までになく盛んに行われている。後述もするが、一般的な木質系バイオマスにはセルロースが45%含まれ、次いでヘミセルロースは30%含まれている。セルロースにはC6糖分であるグルコースが存在し、ヘミセルロースにはC5糖分であるキシロースが多く存在している。セルロースの分子構造は、β−グルコースを基本単位としβ−1−4グリコシド結合で直鎖状に重合している。水酸基を多く有しているが、疎水性であるのは直鎖セルロース間で水素結合し3次元ネットワークを形成し水の進入を妨害しているためである。天然のセルロース(C10)nの重合度は2000−15000と幅広く、重合度が6以下では水溶性になり、その用途は大きく広がる。既存の技術としては、上記の通り酸処理がよく知られているが、廃液処理や耐酸プラントのメンテナンスなどのコストが問題となっている。この酸処理プロセスの代替処理として光触媒を用いた。半導体としての特徴をもつ光触媒は太陽エネルギーを吸収し、有害物質の除去に実用化されている。また、水から水素製造用途の研究が行われている。
【0019】
本発明は、上記実情を鑑みなされたものである。
【0020】
また、本明細書における「バイオマス由来の燃料」とは、エネルギー作物や木質系廃棄物などの生物資源からつくられる燃料の総称をいい、生物体(バイオマス)の持つエネルギーを利用したメタノールやエタノール、アルコール燃料、水素、その他合成ガスを含む概念である。例えば、本発明のバイオマス由来の燃料として水素を製造する場合、本発明の「バイオマス由来の燃料前駆体」として糖類を製造した後、当該糖類からエタノールを製造し、更に当該エタノールから水素を製造してもよく、後述する「バイオマス由来の燃料前駆体」と「バイオマス由来の燃料前駆体」とは一部重複する概念でもある。
【0021】
一方、また、本明細書における「バイオマス由来の燃料前駆体」とは、バイオマス由来の燃料を得るための前段階の物質をいい、これ自体燃料として使用しなくてもよく、例えば、アルコールを燃料として使用する場合、このアルコールを合成または生成する前段階の物質をすべていい、例えば果実や穀物、糖類、一酸化炭素、天然ガス、石油あるいは石炭の副産物、アルコール(メタノール、エタノールなど)などをいう。
【0022】
以下、本発明のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法を好適ないくつかの実施形態について詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0023】
本発明は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む水に、光を照射する工程を有する、および/または燃料前駆体の製造方法である。
【0024】
上記の通り、地球資源枯渇時代に新たな資源循環型エネルギーとして注目され始めているのは、植物に含まれるバイオマス資源である。一般に植物は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンで構成されており、その有効利用拡大の研究が様々な分野で激化している。上記の通り、バイオマス由来の燃料前駆体として糖を製造する過程では、主流としては酸処理が実用化されているが、廃液処理や耐酸プラントの必要性などのコストが課題となっている。
【0025】
本発明者は、上記の通り、エタノールを代表とする燃料をバイオマス由来の燃料前駆体として糖から合成する過程において必要なバイオマス分解を、後処理が困難でかつ高コストの酸処理法や、使い捨てで高コストなセルラーゼなどの酵素法、あるいは高温、高圧を必要とする超臨界処理法に代わる、再使用可能で、経済的で、環境への負荷が小さく、少糖類や単糖類に効率的に分解する優れた糖類の製造方法の開発を鋭意検討した。その過程の中で、上記の酸処理プロセス等の代替措置として、「光触媒」を用いることで前記課題が解決できないかを詳細に検討した。つまり、図1の模式図のように、光触媒は、バンドギャップに相当するエネルギーを持った光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起される。伝導帯に励起された電子は価電子帯にあるときよりも還元力が強くなるため、暗時では起こらない還元反応を起こすことができる。すなわち、本発明に係る光触媒に光を照射すると、水中のプロトンと伝導帯に励起された電子(e−)とが結合しプロトンが還元されて、下記の化学式1により、水素が発生すると考えられる。また、一部は、バイオマスなどの基質由来の水素が発生するとも考えられる。
【0026】
【化1】

【0027】
一方、光照射によって電子が伝導帯に励起されたことにより生成する正孔(h)により水中の水酸基が酸化され、下記の化学式2のようなヒドロキシラジカルなどの酸化剤が生成されていると考えられる。
【0028】
【化2】

【0029】
そのため、本発明に係る光触媒と、セルロースなどのバイオマスとが共存すると、セルロース酸化されると考えられる。そうであるので、かような機能を利用し、セルロースなどを酸化されることで、糖類および/または水素を製造することができることを見出したのである(つまり、セルロースなどのバイオマスおよび水から水素が発生し、また、糖化することができることを見出したのである)。
【0030】
上述の通り、本発明に係るバイオマス由来の燃料前駆体として糖を製造する方法によれば、濃硫酸のような強酸を用いなくてもよく、高温、高圧のような反応条件を用いなくても所定の糖類を製造することができ、さらには、セルラーゼを単独で用いて分解させる方法のように、高コストな酵素を大量に使い捨てにしなくてもよい。つまり、本発明の製造方法によれば、再使用可能で、経済的で、環境への負荷が小さく、少糖類や単糖類に効率的に分解することができるのである。
【0031】
さらには、特に、木質系バイオマスを原料とする際に問題となるが、木質系バイオマスに含まれるセルロースの糖化からグルコース(ブドウ糖)を効率良く入手するには、木質系バイオマス自身がセルロース糖化を阻害するリグニンを相当量含むため、一般的に、糖化操作以前にリグニンの除去が前処理として要求されることがある。かような特別な前段階措置である脱リグニン前処理を省略して酸処理法によってグルコースを得、従来の酵母利用によるエタノール発酵でバイオマスエタノールを得ることも行われてきた。しかしながら、上述の通り、硫酸などを用いる酸処理法は、セロースの分解糖化後にエタノール発酵を行うための硫酸除去処理、すなわち硫酸の中和を必要とし、水酸化カルシウムを用いた中和により硫酸カルシウムを残査として排出しており、硫酸カルシウム処理にコストをかける必要が生じる。そして、ひいては、その中和過程で硫酸すなわち硫黄成分を完全に除去できずにエタノール発酵を行うことになる問題点をも引き起こすことになる。
【0032】
本発明の製造方法のように、光触媒を利用した分解処理方法を用いれば、光触媒の作用により、穏やかな条件で、リグニンをも分解せしめる、あるいは、木質の中に含まれているセルロースに複雑に絡み合うリグニンの構造をほぐすことが可能となるため、従来のように行うことが好ましかったリグニンの除去を、特に前処理として行う必要もなくなる。つまり、このように少なくともリグニンの構造をほぐすことができ、セルロースを取り出すことができる。よって、木質材料から取れるグルコースあるいはキシロースなどの総量が増え、最終的にはエタノール変換効率が上がる。さらには、前処理を行わない分、その工程数が減り、製造時間の短縮、製造コストの削減にも繋がり、ひいては、環境への負荷を小さくすることもできる。本発明の製造方法は、かような点においても非常に優れた発明といえる。
【0033】
本発明に係るバイオマス由来の燃料として水素を製造する方法によれば、効率よく水素を製造することができる。特に、従来のTiO単独、金属付きTiO粉末などでは、紫外光(10〜370nm)を照射し、かつ外部バイアスをかける必要があったが、本発明に係るバイオマス由来の燃料として水素を製造する条件のように、光触媒の種類などを選択することで、可視光でかつ外部バイアスをかけることなく水素を製造することができる。
【0034】
また、本発明に係る光触媒と水との共存状態において光を照射すると、上記の説明のように光触媒表面の正孔が生成してヒドロキシラジカルなどが当該光触媒表面(近傍)に吸着していると考えられている。また、この吸着したヒドロキシラジカルなどは、当該光触媒表面から離れにくいと考えられている。さらに、当該光触媒表面に吸着したヒドロキシラジカルなどが存在すると、水素が発生しにくい(化学式1における反応が右に進みにくい)ことがわかっている。そのため、水素を大量に製造するためには、化学式1の反応を右に進める必要があり、そのためには生成したヒドロキシラジカルなどを消費する“スカベンジャー”の役割を持つものが必要であると考えられる。そこで、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプン、および必要によりリグニンを含むバイオマスを“スカベンジャー”として、本発明に係る光触媒と水とともに当該バイオマスを共存させることで、上記説明したように、触媒表面の酸点がセルロースなどのバイオマスと接触した場合に酸化されてヒドロキシラジカルを消費することができ、水素の生成を促進させることができると考えられる。
【0035】
以上のことから、本発明に係るバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法は、バイオマス由来の燃料またはバイオマス由来の燃料前駆体単独を製造しても、バイオマス由来の燃料およびバイオマス由来の燃料前駆体の両方を製造してもよく、特に制限されることはないが、特に好ましくは、バイオマス由来の燃料およびバイオマス由来の燃料前駆体の両方を同一の工程で製造することができる。
【0036】
以下、本発明に係るバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体を、バイオマス由来の燃料前駆体の製造方法と、バイオマス由来の燃料の製造方法に分けて説明する。
【0037】
A.バイオマス由来の燃料前駆体(例えば、糖類)の製造方法および当該バイオマス由来の燃料前駆体からバイオマス由来の燃料(例えば、エタノールなどのアルコール)を製造する方法
1.糖類の製造方法
本発明は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む水に、光を照射する工程(以下、第1工程とも称する)を有する、糖類の製造方法であることが好ましい。
【0038】
本工程を経て製造された糖類は、少糖類(オリゴ糖類)または単糖類であると好ましく、具体的には、グルコース、マルトース、ショ糖、フルクトース、キシロース、グルカンおよびキシロオリゴ糖からなる群から選択される少なくとも1種であるとより好ましく、グルコース、キシロース、グルカンおよびキシロオリゴ糖からなる群から選択される少なくとも1種であるとさらに好ましい。
【0039】
なお、少糖類は、好ましくは2量体〜20量体であり、より好ましくは2量体〜15量体であり、さらに好ましくは2量体〜7量体であり、さらに好ましくは2量体〜5量体、特に好ましくは2量体〜3量体である。また、本工程を経て製造された糖類は、実質的に、単糖類のみからなるとより好ましく、具体的には、グルコースおよびキシロースの少なくとも1種からなるとさらに好ましく、特に好ましくはグルコースのみからなる。
【0040】
なお、キシロオリゴ糖とは、キシロースが、2〜7個程度、β−1,4結合した構造を持つヘミセルロース由来の糖である。
【0041】
ここで、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む溶液に光を照射すると、如何にして所望の糖類が製造されるか(糖化されるか)、そのメカニズムにつき、セルロースを例に挙げて説明を行う。しかしながら、下記メカニズムは本発明者の推測に過ぎず、本発明の技術的範囲が下記メカニズムによって制限されることはない。
【0042】
図2は、セルロースが、水と光触媒により加水分解されるメカニズムを模式的に表したものである。セルロースは、多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。図2が示す通り、このセルロースが、水中に存在し、その水には光触媒も存在している。これらに光を照射すると、光触媒の作用で、水から、水素原子が引き抜かれ(光触媒の周りの「H」として図示)、水素イオン、水素、水酸化物イオン、ヒドロキシラジカルなどが発生する。光触媒の加水分解反応は、触媒表面にブレンステッド酸点が光励起時に形成され、その活性点がセルロースと接触することにより、β−グリコシド結合にプロトンを与え、もう一方には水由来のヒドロキシル基が形成されているのではないか考えられる。
【0043】
以下、第1工程において、その構成要件につき詳説を行う。
【0044】
<第1工程>
第1工程においては、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む溶液に、光を照射する。
【0045】
セルロース、ヘミセルロース(キシランを主成分として含む)、リグニンまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、溶液中に含める方法としては、特に制限されないが、一例を挙げると、バイオマス資源と光触媒を溶液中に浸漬させる方法が挙げられる。
【0046】
その後、好ましくは、混合を行う。その混合方法にも特に制限はないが、例えば、攪拌する方法が挙げられる。攪拌方法にも、特に制限はなく、例えば、一般的な回転翼を取り付けたモーター型攪拌装置で攪拌しながら投入していく方法や、スターラー(回転子)などの一般的な攪拌装置を用いて攪拌することができる。なお、回転翼やスターラーの形状は特に制限されない。
【0047】
本発明に用いるバイオマス・光触媒の量は、用いるバイオマス・光触媒の種類によって異なるため一義的に規定することはできないが、当業者であれば効率的に光触媒が作用する量を適宜決定すればよい。指針を示すと、混合の観点から、光触媒100質量部に対して、バイオマスが、好ましくは10〜2000質量部、より好ましくは50〜1000質量部、さらに好ましくは50〜500質量部である。
【0048】
また、バイオマスと光触媒とを合わせたものの濃度は、特に制限されないが、分散性の観点から、好ましくは0.001〜0.10g/ml、より好ましくは0.01〜0.10g/mlである。
【0049】
[バイオマス]
本発明に用いられうるバイオマスは、木質系バイオマス、デンプン質系バイオマス、糖質系バイオマスなど、如何なるものであってもよく特に制限はない。
【0050】
(木質系バイオマス)
木質系バイオマスの多くは、セルロース(C6糖類に分類される)、ヘミセルロース(C5糖類に分類される)およびリグニンを含み、少なくともセルロースを含む。
【0051】
木質系バイオマスは、一般的には、セルロース45%程度、ヘミセルロース30%程度およびその他(リグニンを含む)からなる。
【0052】
木質系バイオマス中、セルロース含有量の下限は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上である。また、木質系バイオマス中、セルロース含有量の上限は、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。
【0053】
木質系バイオマス中、ヘミセルロース含有量の下限は、好ましくは16%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。また、木質系バイオマス中、ヘミセルロース含有量の上限は、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下である。
【0054】
木質系バイオマス中、リグニン含有量は、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。ただ、一般的には、20%〜25%は含まれている。
【0055】
糖化をする際は、リグニンを解砕し(分解し、または、ほぐし)、セルロースおよび/またはヘミセルロースを分解してグルコース、キシロース、グルカン、キシロオリゴ糖などの糖類を回収する。
【0056】
木質系バイオマスの具体例としては、特に制限はないが、木質系、草本系などの如何なるものであってもよく、ササ、タケ、綿、トウヒ、カバ、稲わらなど;バガス、籾殻などを含む農業廃棄物;製材残材、林地残材、間伐材、廃建材、木くずなどを含む産業廃棄物;古紙などを含む生活系廃棄物などが挙げられる。
【0057】
(デンプン質系バイオマスや糖質系バイオマス)
デンプン質系バイオマスや糖質系バイオマス(デンプン質系等バイオマス)の多くは、デンプン(アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンなど)およびヘミセルロースを含み、少なくともデンプンを含む。
【0058】
デンプン質系等バイオマスは、一般的には、デンプン70%程度、ヘミセルロース9%程度およびその他からなる。
【0059】
デンプン質系等バイオマス中、デンプン含有量の下限は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、木質系等バイオマス中、デンプン含有量の上限は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは75%以下である。
【0060】
デンプン質系等バイオマス中、ヘミセルロース含有量の下限は、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは7%以上である。また、木質系等バイオマス中、ヘミセルロース含有量の上限は、好ましくは14%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0061】
糖化をする際は、デンプンおよび/またはヘミセルロースを分解してグルコース、キシロース、グルカン、キシロオリゴ糖などの糖類を回収する。
【0062】
なお、デンプン質系バイオマスや糖質系バイオマスの具体例としては、特に制限はないが、サトウキビ、モラセス、トウモロコシ、小麦、タピオカ、ビート、ソルガム、芋、米、麦などが挙げられる。
【0063】
本発明に用いられうるバイオマスの大きさ・形状・形態にも特に制限はない。ただし、これらのバイオマスは、予め粉砕され、チップ状とされたものであると、反応速度、光触媒との接触効率などの観点から好ましい。なお、なるべく細かな形状の方が、反応速度、光触媒との接触効率などの観点からより好ましい。バイオマスの大きさは、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.3mm、さらに好ましくは0.01〜0.1mmである。
【0064】
なお、本発明に用いられうるバイオマスを、チップ状にすべく粉砕する方法にも特に制限はなく、従来公知の方法を適宜参照して、あるいは組み合わせて適用することができる。一例を挙げると、ミルなどを用いた機械的に粉砕する方法(木材破砕機、クロスシュレッターなどを用いて粉砕する方法)が挙げられる。
【0065】
[光触媒]
(光触媒の種類)
本発明に用いられうる光触媒は、特に制限はないが、光反応に安定であり、分解や溶解せず、電荷分離を促進し、電荷再結合を抑制し、生成物や中間体の逆反応を抑制するものであることが好ましい。つまり水中で安定な酸化物半導体を中心として、最適なバンド構造を持つ材料であると好ましい。なお、これら光触媒は、本発明において、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明に用いられうる光触媒の具体例としては、GaP、MoS、ZrO、Si、SiC、CdS、KTaO、CdSe、CdO、SrTiO、TiO、Nb、ZnO、Fe、WO、SnO、SiFe、FeSi、GaAs、InP、GaP等が挙げられる。
【0067】
バンドギャップにも特に制限はないが、0.90〜3.5eV程度のものが好ましく使える。ただし、バンドギャップの大きな材料を使うと酸素が発生する虞れがあり、その酸素が、グルコース、キシロースなどの酸化分解を引き起こす虞れがある。よって、水素発生ポテンシャルを有する1eV程度のバンドギャップを持つ光半導体が、より好ましい。具体的には、水から水素のみを発生させるとの観点から、より好ましくは0.95〜1.1eV、さらに好ましくは1.00〜1.05eVのバンドギャップを有する。
【0068】
上記等を鑑みると、本発明の製造方法において、光触媒としてが、Si、SiFeまたはFeSiなどが好ましく、Siが特に好ましい。
【0069】
つまりは、Siは、水素発生ポテンシャルとバンドギャップが小さく可視光を利用できるという利点がある。また、バンドギャップが小さいため、変換エネルギーは小さく、セルラーゼの失活を抑えることができるのである。
【0070】
(光触媒の形状・構造など)
本発明に用いられうる光触媒は、粉末のまま使用してもよいが、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段は、特に制限されないが、例えば、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、冷間など方圧加圧法(CIP)などが挙げられる。また、その形状は、使用箇所、方法に応じて決めることができ、たとえば、針状、球状、六角柱状、十八面体状、円柱状、破砕状、ハニカム状、凹凸状、波板状などが挙げられる。
【0071】
なお、本発明に用いる光触媒は、接触表面積を増加させうる観点で、担体に担持して用いてもよい。該担体は、光触媒の反応に悪影響を及ぼさないものを好適に使用することができ、例えば、SiO、Alなどは水中の反応であっても安定で好適に用いられうる。
【0072】
該担体の形状や構造や大きさなどにも特に制限なく、当業者であれば、接触表面積を増加させうるように適宜調節することができる。一例を挙げると、接触表面積を増加させうる観点で、該担体が中空状のものであり、その中空に、例えば針状の光触媒を入れたようなものを使用してもよい。ただし、光触媒に光が照射されるように、担体は、光を通すもののようにする。
【0073】
光触媒と、バイオマス(例えば、セルロースチップ)との接触時間を考慮すると、大きな担体に高表面積の光触媒を担持し、その隘路にセルロースチップを通過させ、光を照射するシステムも好適である。さらには、このループを繰り返し通過するようなシステムも、接触時間がさらに長期間化するのでより好ましい。
【0074】
光触媒粒子の平均粒径は、接触効率という点を考慮すると、好ましくは0.01〜1μmであり、より好ましくは0.01〜0.1μmである。
【0075】
かかる光触媒粒子の平均粒径は、例えば、SEM観察、TEM観察により測定することができる。上記でいう平均粒径は、粒子の形状が一様でない場合もあるため、絶対最大長で表すものとする。ここで、絶対最大長とは、光触媒粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さLの平均をとるものとする。なお、値は光触媒粒子10個から求めた平均値とする。
【0076】
さらに、本発明に用いられうる光触媒の比表面積は、特に制限されないが、接触効率という点を考慮すると、好ましくは10〜100m/gであり、より好ましくは30〜50m/gである。かような比表面積は、BETなど温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。本発明は、BET比表面積で算出した値である。
【0077】
(助触媒)
本発明に用いられうる光触媒は、単独で用いられてもよいが、好ましくは助触媒を用いる。助触媒とは、半導体粉末(光触媒)上に担持したり、反応系に添加することで活性を発現させたり向上させる触媒をいう。本発明においては、電荷分離の観点で、助触媒を担持させて用いると好ましい。本発明に用いられうる助触媒としては、特に制限はないが、白金(Pt)などの白金族元素、Ru、Niなどの遷移金属、NiO、NiO、RuO、IrOなどが挙げられ、これらは単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。助触媒の役割は、活性サイトとして働いたり、電荷の蓄積により多電子反応を促進したり、電荷分離を促進するなど様々である。中でも、担持金属を用いる狙いは主に電荷分離であり、光で励起された電子とホールの再結合の抑制が第一の狙いである。その観点から、Pt、Ni、Pd、Ru等が好ましい。特に好ましくは、Ptである。
【0078】
なお、助触媒を担持させる方法にも特に制限はなく、従来公知の方法を適宜参照して、あるいは、組み合わせて行うことができるが、例えば、混練法、含浸法、光電着法などで行うことができる。具体的には、後述する実施例の記載等を適宜参照して行えばよい。
【0079】
また、担持量の調節も、従来公知の知見を適宜参照して行うことができる。
【0080】
光触媒と、助触媒との組み合わせも特に制限はないが、好ましい組み合わせは、SiとPt、SiとNi、SiCとPt、SiCとNi、SiとPdなどである。特に好ましくは、SiとPtである。
【0081】
また、光触媒に用いられる助触媒の量にも特に制限はないが、コストという観点から、前記光触媒に対し、好ましくは0.005〜0.50質量%、より好ましくは0.001〜0.5質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%である。
【0082】
助触媒の担持量についても、従来公知の知見を適宜参照して、定量することができ、その方法にも特に制限されないが、例えば、EDXを用いて行う方法が挙げられる。本発明における助触媒の担持量の定量も、この方法を用いることとする。
【0083】
また、助触媒の平均粒径は、接触面積を増やすという点を考慮すると、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmである。
【0084】
(光触媒(助触媒を含む)の回収・再利用の方法)
本発明の糖類の製造方法の特長の一つとして、本発明の製造方法において使用される光触媒を回収・再利用することができる点が挙げられる。このような観点から見ても、本発明の製造方法は、経済的で、環境に優しいと言える。本項目では、その光触媒(助触媒を含む)の回収・再利用の方法につき説明を行う。
【0085】
光触媒(助触媒を含む)の回収・再利用の方法としても、特に制限はなく、従来公知の方法を参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0086】
特に本願の製造方法においては、常温・常圧条件下においても、本願の効果を奏するように実施することが可能であるため、光触媒表面に生成物・反応物が固着する可能性も低く、容易に回収・再利用をすることが可能である。仮に、固着する虞れのあるリグニンのような成分が含まれていたとしても、例えば、pH等の条件や光触媒の種類を適宜変更したり、光触媒自体を反応容器に担持させたりすることにより、水溶液に溶けている低分子化したセルロースのみを回収する方法などが考えられる。
【0087】
[水]
本発明の製造方法においては、加水分解のために、水を必須とする。この水にも、特に制限はなく、純水、超純水、水道水、イオン交換水など、いずれのものであってもよい。なお、水を主成分とすれば、本発明の効果を奏する範囲内において、他の成分が含まれていてもよい。
【0088】
溶液の温度にも特に制限はないが、反応の促進といった観点で、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜70℃、特に好ましくは30〜60℃である。
【0089】
反応をより促進することを考えれば、多少は高温に設定することが好ましいが、本発明は、20℃〜25℃の常温付近でも、十分に反応する点非常に優れた発明である。
【0090】
(容器)
本発明に用いられる水や光触媒を入れる容器についても、特に制限はないが、透明な素材でできているものが好ましく、硬質ガラス、石英ガラス等が好適に使用できる。
【0091】
また、容器内に光源を設置する場合には、光が外部に漏れないように、反射(全反射)する材料を内装材に用いることがよい。具体的には、鏡面仕上げしたSUSや、グラスライニング加工した物等を内装材に用いるとよい。あるいは、内装面に有機EL等を貼り付けた容器も好ましく用いられうる。
【0092】
[光源]
第1工程は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む溶液に、光を照射するが、照射する光の光源にも特に制限はなく、従来公知の光源を適宜選択して、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0093】
光源の具体例を挙げると、太陽光、キセノンランプ(Xeランプ)、白熱電球、蛍光灯、有機EL、アーク灯、無電極放電灯、HIDランプ、低圧放電灯、発光ダイオード、冷陰極型蛍光管、外部電極型蛍光管(EEFL)、エレクトロルミネセンスライト、ガス灯・ライムライト・カーバイドランプなどが挙げられる。また、エネルギー効率の優れている有機ELも、本発明の製造方法に好適に使用されうる。
【0094】
なお、昼間は太陽光を直接取り込むような装置も作ると、省エネの観点で好ましく、この場合、夜間や雨天時には太陽光以外の光源も使用するとよい。
【0095】
[光の波長]
照射する光は、特に制限はなく、可視光でも紫外光であってもそれらの組み合わせでもよい。好ましくは、コストの観点で可視光(約380nm〜約780nm)である。
なお、光の波長は、光触媒の種類によってバンドギャップが異なるため、一義的に決めることはできないが、当業者であれば、効率的に光触媒が作用する波長を適宜選択することができる。指針を示すと、好ましくは300〜900nm、より好ましくは300〜800nm、さらに好ましくは400〜600nmである。なお、光触媒においては、紫外領域に吸収帯を有するものがあるが、効率よく太陽光や白熱灯・蛍光灯などを利用したい場合は、可視光応答化するという方法を採用してもよい。可視光応答化の技法の一例としては、ドーピングが挙げられる。
【0096】
また、可視光のみ照射したい場合も、可視光フィルターを用いるなど、従来公知の技術を適宜参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0097】
[輝度]
照射する光の輝度も、特に制限はなく、照射する対象である、光触媒とバイオマスを含む溶液の量などによって変動するが、当業者であれば、光触媒の反応を効率よく促進させる光の輝度を適宜選択して調節することができる。
【0098】
[照射時間]
光の照射時間も、光触媒やバイオマスや溶液の量、それらを含む容器の大きさなどにより、一義的に規定することはできないが、当業者であれば、光触媒の反応を効率よく促進させる照射時間を適宜調節することができる。指針を示すと、セルロースの場合は、コストという観点から、好ましくは1〜72時間、より好ましくは1〜48時間、さらに好ましくは6〜36時間、さらにより好ましくは6〜24時間、特に好ましくは6〜12時間である。
【0099】
[温度条件・圧力条件]
本発明の製造方法における温度条件や圧力条件にも特に制限はない。常温条件下でも、常温よりも高温であっても低温の条件下でもよいし、常圧条件下でも、加圧または減圧条件下でもよい。
【0100】
具体的には、温度条件としては、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜70℃、特に好ましくは30〜60℃であり、圧力条件としては、好ましくは0.05〜0.50MPa、より好ましくは0.1〜0.3MPa、さらに好ましくは0.1〜0.2MPaである。
【0101】
反応をより促進することを考えれば、多少は高温・高圧に設定することが好ましいが、本願発明は、25℃程度の常温、0.1Mpa程度の常圧付近でも、十分に反応する点、非常に優れた発明である。
【0102】
上記の通り、本発明は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む溶液に、光を照射する工程を有する、糖類の製造方法である。ここで、上記の通り、木質系バイオマスの多くは、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含む。すなわち、糖化する際は、リグニンを解砕等し、セルロースおよび/またはヘミセルロースを分解してグルコース、キシロースなどの糖類を回収する。
【0103】
前記もしたが、本発明の製造方法のように、光触媒を利用した分解処理方法を用いれば、光触媒の作用により、リグニンをも分解、または、ほぐすことができる。このリグニンは糖類の製造という観点からすると、不要な成分であるため、それを分離することが好ましい。なお、リグニンの含有量が多いバイオマスの場合は、多少温度を上げたり、塩基等を水で希釈したもので前処理を行うこともできる。なお、その場合は、後処理(中和)などが容易なものを用いるとよい。
【0104】
続いては、上記第1工程の他、少なくとも1種の酵素を添加する工程(以下、「第2工程」とも称する)をさらに含むと、バイオマスをより確実に単糖類にまで加水分解することができる点で好ましい。つまりは、少なくとも1種の酵素を添加する工程を含むと、製造される糖類中の単糖類の比率がさらに増えうる点で好ましい。
【0105】
<第2工程>
上記の通り、第2工程は、少なくとも1種の酵素を添加する工程である。第1工程によっても、未分解のバイオマスが存在した場合、セルラーゼなどの酵素により後処理を行って、単糖類への分解を行うこともできる。すなわち、光触媒と、酵素とを組合して行う、“ハイブリット”方式である。換言すると、地球に大量に降り注ぐ可視光線を利用し、セルロースを、少なくとも、セルラーゼが分解しやすい低分子化セルロース(β−グルカン)にすることで、セルラーゼの加水分解速度が、さらに速くせしめることができるのである。
【0106】
本工程は、第1工程が終了した後に行ってもよいし、第1工程を開始する前に行ってもよいし、第1工程を行っている間に行ってもよい。好ましくは、第1工程終了後である。また、2種以上の酵素を添加する場合も、それらを同時に添加してもよいし、分けて添加してもよい。
【0107】
[酵素]
酵素は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンまたはデンプンのようなバイオマスに含有される成分に特異的に作用するものが用いられうる。
【0108】
すなわち、セルラーゼ、グルコキシダーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼ、キシロシダーゼなどの酵素の少なくとも1種を添加するとよい。
【0109】
この際の温度、圧力、pH条件などは、添加する酵素が最適に活性する最適な条件を当業者であれば選択することができる。なお、添加する量に関しても、当業者であれば最適な量を選択することができる。その他の条件も、添加する酵素の最適に活性する最適な条件を従来公知の知見を適宜参照しながら、適宜調節することができる。
【0110】
上記の通り、従来技術である超臨界処理法においては、高圧条件下で実施されるため、高価な装置が必要となり、エネルギー消費量も多いことからコストが掛かるという問題があった。一方で、本発明の製造方法によれば、常温、常圧の条件下での適用も可能であるため、従来の方法に比して環境への負荷が小さく、非常に優れた発明であるといえる。
【0111】
また、上記の通り、従来技術である酸処理法においては、バイオマス分解処理後の酸の処理についても、危険性も相まって、多大のコストを必要とする。さらに、上記の通り、従来技術である酵素処理法においては、分解生成物と酵素との分離が容易ではなく、更に酵素は一般に繰り返し使用が困難であるためコストが掛かり廃棄物も多い。加えて、バイオ燃料は今後、地球温暖化対策からも重要で、今後さらに需要が高まっていくことが予測されている。この点からも、より低コスト化することが求められている。一方で、本発明の製造方法に用いられる光触媒は、再利用が可能であるため、経済的で、環境への負荷が小さく、非常に優れた発明であるといえる。
【0112】
2.エタノールの製造方法
本項目では、「1.糖類の製造方法」の項目で説明した製造方法により、糖類を製造する工程と、前記糖類を発酵させる工程と、を有する、エタノールの製造方法について説明する。
【0113】
上記糖類の製造方法に関しては、上記にて詳説したため、本項目では、特に、上記第1工程、第2工程に触れながら説明して、上記にて既に説明した点については割愛する。
【0114】
すなわち、本発明のエタノールの製造方法は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む溶液に、光を照射する工程を有し、糖類を製造する工程と、前記糖類を発酵させる工程と、を有する、エタノールの製造方法である。なお、かようなエタノールは、バイオエタノール(バイオマスエタノール)とも称されることがある。なお、少なくとも1種の酵素を添加する工程(第2工程)をさらに有すると、バイオマスをより確実に単糖類にまで加水分解することができる点で好ましい。つまりは、少なくとも1種の酵素を添加する工程を含むと、さらに製造されると糖類中の単糖類の比率が増えうる点で好ましい。なお、第2工程は、上述の通り、第1工程が終了した後に行ってもよいし、第1工程を開始する前に行ってもよいし、第1工程を行っている間に行ってもよい。好ましくは、第1工程終了後である。また、2種以上の酵素を添加する場合も、それらを同時に添加してもよいし、分けて添加してもよい。
【0115】
かようにして製造された糖類は、グルコース、キシロース、グルカンおよびキシロオリゴ糖などを含みうる。
【0116】
本発明のエタノールの製造方法は、前記第1工程を含む(好ましくは前記第2工程を含む)以外は、従来公知の技術を適宜参照し、あるいは組み合わせて行うことができるが、一例を挙げると、上記工程を経て製造された糖類を発酵することにより行うことができるが、グルコースのようなC6糖類に関しては、従来公知の技術を適宜参照し、あるいは組み合わせて、従来の酵母(サッカロマイセス)や大腸菌などを用いて発酵させることができる。一方で、キシロースのようなC5糖類に関しては、従来の酵母によっては発酵することは困難であるが、例えば、「Ethanologenic E.coli KO11」のような大腸菌などを用いて発酵させることができるし、近年進んでいるC5糖類を効率よくエタノールに変換する技術を適宜参照しながら、エタノールを製造することができる。
【0117】
なお、好ましくは、前記糖類を発酵させる工程の後、蒸留工程を経て、エタノールを製造する。かような工程を経ることで、より純度の高いエタノールを製造することができる。さらに、蒸留工程の後、分子篩などを使って精製(脱水)する、脱水工程を経ると、より好ましい。かような工程を経ることで、実質的に純粋なエタノール(無水アルコール)を製造することができる。なお、これら、蒸留や脱水の条件も、従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせて設定することができるので、詳細な説明は割愛する。
【0118】
なお、本発明の製造方法によって製造したエタノール、ガソリン車に用いられるのはもちろんのこと、ディーゼル車への、BTL(バイオマス液化燃料)やバイオエステルへも適用可能の可能性もある。
【0119】
B,本発明に係るバイオマス由来の燃料(例えば、水素)の製造方法
本発明は、セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む水に、光を照射する工程を有する、水素の製造方法であることが好ましい。
【0120】
また、本発明に係る水素の製造方法の構成要件や、製造条件は、上記の第1工程および第2工程と同一の条件であり、上記の第1工程および第2工程における<第1工程>、[バイオマス] 「(木質系バイオマス)、(デンプン質系バイオマスや糖質系バイオマス)」、[光触媒]「(光触媒の種類)、(光触媒の形状・構造など)、(助触媒)、(光触媒(助触媒を含む)の回収・再利用の方法)」、[水]「(容器)」、[光源]、[光の波長]、[輝度]、および[温度条件・圧力条件]、ならびに<第2工程>、および[酵素]の欄の記載の条件と同一の条件であるためここでは省略する。ただ、[照射時間]に関しては、水素が発生するまで若干時間がかかるため、本発明に係るバイオマス由来の燃料として水素だけを製造する場合は、本発明に係るバイオマス由来の燃料前駆体である糖類だけを製造する場合と比較すると比較的長時間が好ましい。具体的には、照射時間は、好ましくは1〜72時間、より好ましくは6〜48時間、さらに好ましくは24〜48時間である。また、本発明のバイオマス由来の燃料(例えば、水素)の製造方法により水素を製造した後に、当該水素を回収する方法は特に制限されるものでもなく、公知の方法を利用することができる。
【0121】
また、本発明に係るバイオマス由来の燃料(例えば、水素)の製造方法は、上記「2.エタノールの製造方法」の欄の記載により製造されたエタノール、具体的には、上記の説明した「糖類を製造する工程と、前記糖類を発酵させる工程と、を有する、エタノールの製造方法」より得られたエタノールをバイオマス由来の燃料前駆体として、更に当該エタノールから水素を製造することが好ましい。エタノールから水素を生成する方法については特に制限されることは無く、公知の方法を利用することができ、例えば、触媒によりエタノールと水蒸気との改質反応を用いる手法(特開平10−152302号公報、特開2002−274809)、リチウム複合酸化物」を利用したCO吸収材を組み合わせる手法、(特開2007−76954)などの手法を利用することができる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0123】
A.光触媒によるアビセルセルロースの処理実験
<実施例1>
光触媒としてSi(Silicon−60mesh ALDRICH社製 品番267414−25G 0.2g 平均粒径15μm)、水(20ml)、バイオマスとしてアビセルセルロース(結晶性セルロース 0.5g アビセル;登録商標 平均粒径60μm)を量り取り、石英反応管に入れ、回転子を入れ、閉鎖循環反応装置(本間理研製)に取り付けた(図8参照)。光源は、紫外線カットフィルター付きのXeランプを用いて照射実験を24時間行った。なお、反応温度は、水温(25℃)、圧力は大気圧(0.1MPa)であり、24時間反応を行った。
【0124】
ここで、反応装置について、簡単に説明する。まず、真空ポンプで系内のガスを排気した。その後、排気後、真空ポンプにつながるバルブ(図示せず)を閉じた。その後、循環ポンプという小さなポンプ(図示せず)を起動し、系内に反応によるガスが生成すると、系内にガスが均一に蓄えられるようにした。後は、反応セルで水素ガスが生成すると圧力計で、反応ガスの定量(系内の容積は既知)をした。なお、拡散ポンプは、真空ポンプ(ロータリーポンプ)の補助の役割を行う。生成したガスはガスクロマトグラフで定性、定量分析を行った。なお、冷却装置は、ポンプ類からの発熱を抑えるために備え付けられている。
【0125】
<実施例2>
光触媒の他に助触媒(Pt)を用い、かつ、助触媒の量が光触媒に対し、0.01wt%である以外は、実施例1と同様に行った。
【0126】
なお、Pt担持のSilicon光触媒の調製方法(光触媒Siに白金を担持させる方法)を以下に記載する。まずは、下記フローを参照されたい。
【0127】
【表1】

【0128】
上記フローに示すとおり、触媒調製は、Si−60meshを0.35g量りとり、水素化ホウ素ナトリウム0.1g、N,N−ジメチルホルムアミドを20ml、トルエン12.5ml、Pt(株式会社マイクロリアクターシステム社製 638−08101番 平均粒径 2.5nm)分散希釈液をそれぞれの濃度に対して加えた。触媒調製はグローブボックスのAr雰囲気で行った。調製した溶液は大気下で24時間攪拌し、遠心分離を25℃、3000rpm、1時間行い上澄みの液層は除去した。得られた沈殿物はエタノールで3度洗浄した。洗浄した後、343Kで24h乾燥させ触媒を得た。以下表1に示すのは、触媒のPt分散液の量、NaBHの量、攪拌時間変化についてそれぞれのPtの担持量を示した。調製条件を変化した場合での元素組成はEDXによる分析をおこなった。
【0129】
【表2】

【0130】
<実施例3>
助触媒の量が光触媒に対し、0.03wt%である以外は、実施例2と同様に行った。
【0131】
<実施例4>
助触媒の量が光触媒に対し、0.05wt%である以外は、実施例2と同様に行った。
【0132】
<実施例5>
助触媒の量が光触媒に対し、0.07wt%である以外は、実施例2と同様に行った。
【0133】
<実施例6>
助触媒の量が光触媒に対し、0.10wt%である以外は、実施例2と同様に行った。
【0134】
<比較例1>
光触媒および助触媒をいずれも添加せず、光も照射しないで、セルラーゼ(0.4g 400unit)を添加した以外は、実施例1と同様にして行った。なお、酢酸バッファー(酢酸の水溶液)を用い、pH5に調節した。
【0135】
<評価1 重合度測定>
光触媒Si(実施例1)による光反応実験によるアビセルセルロースの平均重合度の時間変化を示した(図3参照)。この結果から、処理時間ごとに平均重合度値が低下していることが示唆される。
【0136】
<評価2 グルコース換算量測定>
セルを取り出し、実施例1〜実施例6および比較例1のグルコース換算量(mg/ml)を測定した。
【0137】
なお、グルコース換算量の測定方法は、以下の通りである。
【0138】
【表3】

【0139】
光反応後、セルロースは遠心分離(3000rpm・1時間)行い、不溶部のセルロース(固層)と液層に分離した。得られた液層の上層部を採取し濾液とした。濾液500μl量り取り、A液を500μl加え、373Kの湯せんで10分加熱した。氷冷を10分行い自然放冷を2分行った後、B液を500μl加えた。赤い沈殿CuOが完全に溶けて、COが出なくなるまで攪拌した。
【0140】
室温で約15分放置後、蒸留水を3ml加えて希釈し、攪拌後に500nmで比色定量をおこなった。なおグルコース(Glucose)については100μg/mlを希釈し、75、50、25、10、0μg/mlのそれぞれについて定量を行い検量線の作成を行い、得られた吸光度値からGlucose換算量を算出した。
【0141】
なお、A液は、以下の通り調製した。つまり、上記の通り、ロッシェル塩(6g)と、無水NaCO(12g)と、を水に溶解し、125cmとした。次いで、それに、10% CuSO(20cm)を加え、さらに、NaHCO(8g)加えた。最後に、無水NaSO(90g)を熱水(250cm)に溶解したものを加え、A液(銅試薬)とした。
【0142】
また、B液は、以下の通り調製した。つまり、上記の通り、濃硫酸(10.5cm)に、モリブデン酸アンモニウム(12.5g)を水(225cm)に溶解したものと、第二ヒ酸ナトリウム(1.5g)を水(12.5cm)に溶解したものと、を加え、水で500cmに調製し、37℃で24時間放置したものを、B液(ヒ素モリブデン酸試薬)とした。
【0143】
以下、実施例1〜6および比較例1の結果を下記に纏める。なお、この結果に相当するグラフを図4にも添付した。
【0144】
【表4】

【0145】
B.光触媒によるリグニンの処理実験
<実施例7>
バイオマスとしてリグニン(リグノスルホン酸 0.5g 関東化学製 No.24104−32 平均粒径20μm)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0146】
<実施例8>
光触媒の他に助触媒(Pt)を用い、かつ、助触媒の量が光触媒に対し、0.01wt%である以外は、実施例7と同様に行った。なお、助触媒の担持については、実施例2と同様にして行った。
【0147】
<実施例9>
助触媒の量が光触媒に対し、0.05wt%である以外は、実施例8と同様に行った。
【0148】
<実施例10>
助触媒の量が光触媒に対し、0.10wt%である以外は、実施例8と同様に行った。
【0149】
<比較例2>
光触媒および助触媒をいずれも添加せず、光も照射しない以外は、実施例7と同様にして行った。
【0150】
<評価3>
反応終了後、セルを取り出し、ソモギネルソン法にて評価した。具体的には、還元基を有する水溶性リグニン量を500nmの吸光度変化で評価した。以下、実施例7〜10および比較例2の結果を下記に纏める。なお、この結果に相当するグラフを図4とした。
【0151】
【表5】

【0152】
上記評価3から分かるとおり、リグニン(水溶性)からソモギネルソン法で測定すると還元末端が出ており、それは、カテコールであると考えられる。なお、比較例2の反応前の吸光度の値は水溶性のリグニンの中に存在したカテコール等の還元末端量を測定したものと思われる。従って、この0.0529を超えた値が新たに光触媒で分解された物質の持つ還元末端量を示していることになる。
【0153】
C.ハイブリット処理
以下、光触媒でバイオマスを前処理した後、セルラーゼによる糖化を行うというセルラーゼとのハイブリット処理についての実験結果を示す。
【0154】
<実施例11>
実施例4の通り、結晶性セルロースを光触媒で処理(Pt0.05wt%/Si光触媒を使用)をした。その後、残渣を濾別し、343Kで乾燥後、セルラーゼ(Trichoderma viride)0.025g、酢酸バッファー12.5ml、光触媒処理物0.2gをL型試験管にいれ振動攪拌を行った。反応はセルラーゼ活性の最適温度45℃、pH5で行った。それぞれの時間においてサンプルを採取し、モギネルソン法によりグルコース換算量を算出した。なお、セルラーゼを入れた時点を0時間とし、3時間反応させた。
【0155】
ここで、理解をより容易にせしめるため、以下に、光触媒とセルラーゼのハイブリット処理フローを示す。
【0156】
【表6】

【0157】
<比較例3>
光触媒および助触媒による前処理を行わなかった以外は、実施例11と同様にして行った。
【0158】
<実施例12>
稲藁を粉砕機で粉末状にした。得られた粉末は篩いにより、212μmに整えた。
【0159】
バイオマスとして、この粉末の稲藁を使用した以外は、実施例4と同様に行い、343Kで乾燥後、セルラーゼ(Trichoderma viride)0.025g、酢酸バッファー12.5ml、光触媒処理物0.2gを、L型試験管にいれ振動攪拌を行った。反応はセルラーゼ活性の最適温度45℃、pH5で行った。それぞれの時間においてサンプルを採取し、モギネルソン法によりグルコース換算量を算出した。なお、セルラーゼを入れた時点を0時間とし、7時間反応させた。
【0160】
<比較例4>
光触媒および助触媒による前処理を行わなかった以外は、実施例12と同様にして行った。
【0161】
<評価4 グルコース換算量測定>
セルラーゼ処理を施した際のグルコース換算量の経時変化を示し、その結果に相当するグラフを図6および7とした。
【0162】
D.発生水素の測定実験
<実施例13>
光触媒としてSi−60メッシュ(Silicon−60mesh ALDRICH社製 品番267414−25G 平均粒径15μm)触媒0.2g、基質(アビセル セルロース)0.5g、それぞれ量り取り石英管に入れた。さらに蒸留水20mlを入れ、石英管を真空グリスで密封し閉鎖循環反応装置(図8)とつなげた。石英管内を脱気し、アルゴンガスを約190mmHgになるように注入した。紫外線カットフィルター付きのXeランプを用いて48時間照射し、反応を行った。発生したガスは、ガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0163】
なお、反応温度は、水温(25℃)、圧力は大気圧(0.1MPa)であり、24時間反応を行った。この結果を図9に示す。
【0164】
<実施例14>
光触媒としてSi−60メッシュ(Silicon−60mesh ALDRICH社製 品番267414−25G 平均粒径15μm)触媒0.2gと、基質(アビセル セルロース)0.2g、0.5g、1.0g、2.0g、または3.0gとを、基質をそれぞれ変化させたものを量り取り石英管に入れた。さらに蒸留水20mlを入れ、石英管を真空グリスで密封し閉鎖循環反応装置(図8)とつなげた。石英管内を脱気し、アルゴンガスを約190mmHgになるように注入した。紫外線カットフィルター付きのXeランプを用いて24時間照射し、反応を行った。発生したガスは、ガスクロマトグラフィーにより定量し、セルロース量変化による水素生成の実験を行った。この結果を図10に示す。
【0165】
<実施例15>
光照射時間を24時間にし、かつSi−60メッシュの量が0.05g、0.4g、1.0gである以外は、実施例13と同様に水素生成量を測定して、Si触媒(助触媒なし)変化による水素生成の実験を行った。この結果を図11に示す。
【0166】
<実施例16>
光触媒として実施例2の方法でPtをSi−60メッシュに所定量担持させた触媒(助触媒の量が光触媒に対し、それぞれ0.0wt%、0.01、0.03wt%、0.05wt%、0.07wt%、0.10wt%である)0.2g、基質(アビセル セルロース)0.5g、それぞれ量り取り石英管に入れた。さらに蒸留水20mlを入れ、石英管を真空グリスで密封し閉鎖循環反応装置(図8)とつなげた。石英管内を脱気し、アルゴンガスを約190mmHgになるように注入した。紫外線カットフィルター付きのXeランプを用いて24時間照射し、反応を行った。発生したガスは、ガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0167】
なお、反応温度は、水温(25℃)、圧力は大気圧(0.1MPa)であり、24時間反応を行った。この結果を図12に示す。
【0168】
<実施例17>
光照射時間を24時間にし、かつ基質をセルロースの代わりにグルコース、キシラン、リグニン、または基質なし(コントロール)に変えた以外は、実施例13と同様に水素生成量を測定して、基質変化による水素生成の実験を行った。この結果を図13に示す。
【0169】
<実施例18>
光触媒としてSi−60メッシュ(Silicon−60mesh ALDRICH社製 品番267414−25G 平均粒径15μm)触媒0.2g、基質(アビセル セルロース)0.5g、それぞれ量り取り石英管に入れた。さらに蒸留水20mlを入れ、石英管を真空グリスで密封し閉鎖循環反応装置(図8)とつなげた。石英管内を脱気し、アルゴンガスを約190mmHgになるように注入した。紫外線カットフィルター付きのXeランプを用いて24時間照射し、反応を行った。発生したガスは、ガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0170】
なお、反応温度は、水温(25℃)、圧力は大気圧(0.1MPa)であり、24時間反応を行った。この反応の終了後、石英管内の触媒とセルロースを遠心分離し、濾液と沈殿物に分けた。得られた濾液は太陽があたらないように保管し、沈殿物は343K 24時間で乾燥処理した後、吸引乾燥を353K 2時間行った。濾液はソモギネルソン法およびフェノール−硫酸法(図14〜17)で、セルロース残渣は、X線回折(図18 )によってそれぞれ評価した。また、実施例16の方法により光触媒に24時間照射して反応させる前と後との状態をSEMで観察した(図19)。a)の写真は、反応前の状態であり、b)の写真は、光触媒としてSi(助触媒なし)の状態であり、c)の写真は、助触媒Ptの量が光触媒に対し0.05wt%の状態であり、d)の写真は、助触媒Ptの量が光触媒に対し0.1wt%の状態である。
【0171】
<本発明の纏め>
本発明によると、結晶性セルロースや天然木質に光触媒でセルロース間に存在するβ−1−4−グリコシド結合や分子間水素結合が少なくとも、緩和され、さらに加水分解酵素のセルラーゼによって、グルコース収率が有意に向上されていることが示唆される。
【0172】
一方で、天然杉材に多く含まれるリグニンの場合は、失活した。
【0173】
ヘミセルロースを、光触媒処理後にセルラーゼを用いて分解を行うと、セルラーゼ単独で分解を行った場合と比較して、その分解活性を上げることができた。
【0174】
また、実施例16の実験結果をみると、助触媒の量により水素の発生量が変化した。また、実施例17の実験結果をみると、グルコースと水溶性リグニンをそれぞれ基質とした場合に、光触媒とセルロースとの系の水素発生量よりも多くなった。グルコースと水溶性リグニンは、水溶性の物質であるために固体同士の反応よりも液体と固体との反応が促進したと考えられる。また、水素発生が光触媒のみよりも多くなるのは、基質由来の水素ではないかと考えられる。すなわち水素発生源としては、基質および水由来であることがわかった。
【0175】
また、実施例18のX線回折などでのセルロース結晶の膨張傾向から、Siのみでは結晶性部位のへの攻撃より、Pt担持の場に結晶部位への攻撃が起こりやすい可能性があると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明によれば、本発明は稲わら、樹木などのバイオマス資源から、バイオエタノールなどのバイオ燃料の合成を行う分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】光触媒によるセルロース分解と水素発生のモデル図である。
【図2】光触媒によるセルロース分解のモデル図である。
【図3】光触媒処理後のセルロースの平均重合度値の経時変化を示すグラフである。
【図4】光触媒を用いて、結晶性セルロースを分解させた結果と、セルラーゼのみを用いてセルロースを分解した結果と、の比較を表すグラフである。
【図5】水溶性リグニンの光触媒を用いて、リグニンを分解させた結果を示すグラフである。
【図6】結晶性セルロースを光触媒で前処理(Pt0.05wt%/Si光触媒を使用)後の残渣と、光触媒前処理なしのセルロースを、セルラーゼで分解した比較を示すグラフである。
【図7】稲藁を光触媒で前処理(Pt0.05wt%/Si光触媒を使用)後の残渣と、光触媒前処理なしの稲藁を、セルラーゼで分解した比較を示すグラフである。
【図8】本発明で用いられた閉鎖循環型反応装置の概略図である。
【図9】本発明の実施例13におけるSi触媒による水素生成の実験結果である。
【図10】本発明の実施例14におけるセルロース量変化による水素生成の実験結果である。
【図11】本発明の実施例15におけるSi触媒量変化による水素生成の実験結果である。
【図12】本発明の実施例16におけるSiに対する助触媒の担持量変化による水素生成の実験結果である。
【図13】本発明の実施例17における基質変化による水素生成の実験結果である。
【図14】本発明の実施例18におけるソモギネルソン法およびフェノール−硫酸法による反応時間とグルコース量との関係の実験結果である。
【図15】本発明の実施例18におけるソモギネルソン法およびフェノール−硫酸法による水の量とグルコース量との関係の実験結果である。
【図16】本発明の実施例18におけるソモギネルソン法およびフェノール−硫酸法によるセルロース量とグルコース量との関係の実験結果である。
【図17】本発明の実施例18におけるソモギネルソン法およびフェノール−硫酸法によるSiへのPtの担持量とグルコース量との関係の実験結果である。
【図18】本発明の実施例18におけるX線回折の実験結果である。
【図19】本発明の実施例16の方法により光触媒に24時間照射して反応させる前と後との状態をSEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース、ヘミセルロースまたはデンプンを含むバイオマスと、光触媒と、を含む水に、光を照射する工程を有する、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記光は可視光である、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記バイオマスが、さらにリグニンを含む、請求項1または2に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも1種の酵素を添加する工程をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記バイオマスが、セルロースを含む木質系バイオマスである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記光触媒が、Si、SiFeまたはFeSiである、請求項1〜5のいずれか1項にバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記光触媒の表面に助触媒が担持される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記助触媒が、Ptである、請求項7に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項9】
前記助触媒の量が、前記光触媒に対し、0.005質量%〜0.5質量%である、請求項7または8に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項10】
前記酵素が、セルラーゼ、グルコキシダーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼおよびキシロシダーゼからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4〜9のいずれか1項に記載のバイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10に記載のバイオマス由来の燃料前駆体は糖類である、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。
【請求項12】
前記糖類が、グルコース、キシロース、グルカンおよびキシロオリゴ糖からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の糖類の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12のいずれか1項に記載の製造方法により、糖類を製造する工程と、
前記糖類を発酵させる工程と、
を有する、エタノールの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10に記載のバイオマス由来の燃料は水素である、バイオマス由来の燃料および/または燃料前駆体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−207485(P2009−207485A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283500(P2008−283500)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】