説明

光触媒体及びそれを用いた光電極

【課題】光触媒作用が向上した光触媒体及び光電極を提供する。
【解決手段】第1半導体層10と、第1半導体層10の伝導帯最下部のエネルギー準位より真空準位に近いエネルギー準位に伝導帯最下部のエネルギー準位を有する第2半導体14と、硫化物12と、を含み、硫化物12が第1半導体層10と第2半導体層14の両方に接触した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を照射することにより電荷を発生させる光触媒体及びそれを用いた光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
光応答型の半導体に基質を接触させ、半導体に光を照射することによって生じた電荷を基質に受け渡すことによって、基質において光化学反応又は光電気化学反応を生じさせる光触媒体が知られている。
【0003】
非特許文献1には、P型シリコン上にCuO、ZnO等の半導体膜を接合させた構造等、これらの半導体膜の組み合わせにより形成されたPN接合型の光センサが開示されている。また、非特許文献2には、透明電極上にSnO2、NiOの順に形成されたPN接合型の太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Gamma radiation sensing properties of TiO2, ZnO, CuO and CdO thick film pn-junctions", Sensors and Actuators A 123-124 (2005) 194-198
【非特許文献2】"Fabrication of n-p junction electrodes made of n-type SnO2 and p-type NiO for control of charge recombination in dye sensitized solar cells", Solar Energy Materials & Solar Cells 81 (2004) 429-237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には、CuO/Si接合膜に電磁波を照射したときのI−V特性が示されている。なお、以下の説明において、負の電流が外部の基質に電子を受け渡すときの電流であり、これが大きいほど光化学反応又は光電気化学反応にとって好ましい。非特許文献1の図7において、外部バイアス電圧が0又は−1Vである場合、電磁波を照射しても電流は大きく変わらず、電流値に有意の変化を生じさせるためには絶対値にして2V以上のバイアス電圧を印加することが必要である。
【0006】
また、非特許文献2の図3には、暗所での(a)SnO2単独、(b)NiO単独、(c)SnO2/NiO接合膜のI−V特性が示されている。(a)SnO2単独ではバイアス電圧が0近傍において、また(b)NiO単独ではバイアス電圧が−0.15V近傍から漏れ電流が生ずる。さらに、(c)SnO2/NiO接合膜においても、(a)SnO2単独及び(b)NiO単独と比較して改善効果が見られるものの、バイアス電圧が−0.5Vを超えると暗電流が急激に増加する。
【0007】
また、図11に、ガラス基板上に形成された透明電極にスパッタリングでNiO膜を堆積した膜の光電流のI−V特性を示す。溶液には濃度0.2MのK2SO4を用い、作用電極として作成したNiO膜、対極としてPt電極、参照電極としてAg/AgCl電極を使用した。また、バイアス電圧を挿引しながらキセノンランプによって数秒間隔で断続的に光を照射して測定を行った。この場合においても、バイアス電圧が−0.5V近傍から暗所での漏れ電流が生じている。また、光照射を行った場合であっても、バイアス電圧が0近傍では光電流は極めて小さい。
【0008】
以上のように、従来技術における構成を光電極や光触媒として使用するには、バイアス電圧を印加することが必要不可欠であり、バイアス電圧を印加するための装置構成が必要とされる。そのため、システムが複雑かつ高価となる等の問題が生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、第1の半導体と、前記第1の半導体の伝導帯最下部のエネルギー準位より真空準位に近いエネルギー準位に伝導帯最下部のエネルギー準位を有する第2の半導体と、硫化物と、を含み、前記硫化物は、前記第1の半導体と前記第2の半導体の両方に接触した構成を有することを特徴とする光触媒体である。
【0010】
ここで、前記硫化物は、鉄の硫化物であることが好適である。また、前記硫化物は、硫化鉄(FeS2,Fe23,FeS)、硫化スズ(SnS)、硫化ニッケル(NiS)、硫化タングステン(WS2)、硫化アンチモン(Sb23)、硫化銅(Cu2S)、硫化モリブデン(MoS2)の少なくとも1つであることが好適である。
【0011】
また、前記硫化物の伝導帯最下部のエネルギー準位は、前記第1の半導体の伝導帯最下部のエネルギー準位より真空準位から遠く、前記第2の半導体の価電子帯最上部のエネルギー準位より真空準位から近いことが好適である。
【0012】
また、前記第2の半導体の表面に、金属又は金属錯体が接触又は接合されていることが好適である。
【0013】
また、本発明の別の態様は、上記光触媒体を用いた光電極であって、前記第1の半導体及び前記第2の半導体に光を照射したときに前記硫化物も光励起され、前記第1の半導体に生じた励起電子が前記硫化物を介して前記第2の半導体に移動し、前記第2の半導体に接触する反応基質に電子を受け渡すことにより還元反応を呈する光電極である。
【0014】
ここで、前記第1の半導体が単独で光電流を生じさせるエネルギー準位より真空準位に近いエネルギー準位において光カソード電流が生じることが好適である。
【0015】
また、前記第1の半導体において光電流が生じることが可能なエネルギー準位より真空準位に近いエネルギー準位において前記還元反応が生ずることが好適である。
【0016】
また、前記還元反応が二酸化炭素の還元反応であることが好適である。
【発明の効果】
【0017】
光触媒作用が向上した光触媒体及び光電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における光触媒体の構造を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における光触媒体の構造を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における光触媒体の構造を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における光触媒体のバンドダイヤグラムを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態における光触媒体の測定方法を示す図である。
【図6】比較例1に対してフィルタ無しで全波長の光照射を行ったときの光電流特性を示す図である。
【図7】実施例2及び比較例2における光触媒体に対してフィルタ無しで全波長の光照射を行ったときの光電流特性を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における光触媒体のバンドダイヤグラムを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における第2半導体層の表面に助触媒を設けた構造を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における第2半導体層の表面に助触媒を設けた構造を示す図である。
【図11】従来の光触媒体の光電流特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態における光触媒体は、図1から図3に示すような構造を有する。
【0020】
図1に示す光触媒体100は、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14が層状に積み重ねられた構造を有する。光触媒体100では、硫化物12が第1半導体層10と第2半導体層14とに接するように挟まれ、第1半導体層10と第2半導体層とは直接接触しない構造を有する。
【0021】
図2に示す光触媒体102は、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14が層状に積み重ねられた構造を有する。光触媒体102では、第2半導体層14が硫化物12を覆うように形成され、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14が互いに接触する構造を有する。
【0022】
図3に示す光触媒体104は、第1半導体層10上に硫化物12が島状又は線状に形成され、その上に第2半導体層14が層状に積み重ねられた構造を有する。光触媒体104では、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14が互いに接触し、第2半導体層14と硫化物12及び第1半導体層10と第2半導体層14の接触面積が光触媒体100および102よりも大きくされた構造を有する。
【0023】
光触媒体100,102及び104は、基板上に形成してもよい。基板の表面には透明電極層を形成することが好適である。透明電極層としては、例えば、アンチモン(Sb)を添加した酸化スズ(SnO2)を用いることができる。
【0024】
図4は、第1半導体層10に電極をさらに接触させた場合のバンドダイアグラムを示す。図4の右図において、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14を示す白い矩形の下辺が価電子帯最上部のエネルギー準位を示し、上辺が伝導帯最下部のエネルギー準位を示す。硫化物12の伝導帯最下部のエネルギー準位は、第1半導体層10の伝導帯最下部のエネルギー準位より低く、すなわち真空準位から遠いエネルギー準位にある。また、硫化物12の伝導帯最下部のエネルギー準位は、第2半導体層14の価電子最上部のエネルギー準位より高く、すなわち真空準位から近いエネルギー準位にある。
【0025】
また、硫化物12は、硫化鉄(FeS2,Fe23及びFeS)、硫化スズ(SnS)、硫化ニッケル(NiS)、硫化タングステン(WS2)、硫化アンチモン(Sb23)、硫化銅(Cu2S)、硫化モリブデン(MoS2)の少なくとも1つを含むことが好適である。
【0026】
また、第1半導体層10及び第2半導体層14は、上記選択肢のなかから選ばれた硫化物12に対して上記条件を満たす材料とすることが好適である。第2半導体層14の表面には、金属又は金属錯体が接触又は接合されていることがより好適である。
【0027】
例えば、CuO/Sulfide/ZnO,CuO:N/Sulfide/ZnO,Cu2O/Sulfide/ZnO,Cu2O:N/Sulfide/ZnO,GaP:Zn/Sulfide/ZnO,InP:Zn/Sulfide/ZnO,GaP:Zn/Sulfide/ZnO,InP:Zn/Sulfide/ZnO,Ta25:N/Sulfide/ZnO,CuFeO2/Sulfide/ZnO,CaFe24/Sulfide/ZnO,ZnFe24/Sulfide/ZnO,CuFe24/Sulfide/ZnO,TaON/Sulfide/ZnO,Ta35/Sulfide/ZnO,Fe23:Zn/Sulfide/ZnO,Fe23:Cu/Sulfide/ZnO,CuO/Sulfide/TiO2,CuO:N/Sulfide/TiO2,Cu2O/Sulfide/TiO2,Cu2O:N/Sulfide/TiO2,GaP:Zn/Sulfide/TiO2,InP:Zn/Sulfide/TiO2,GaP:Zn/Sulfide/TiO2,InP:Zn/Sulfide/TiO2,Ta25:N/Sulfide/TiO2,CuFeO2/Sulfide/TiO2,CaFe24/Sulfide/TiO2,TaON/Sulfide/TiO2,Ta35/Sulfide/TiO2,Fe23:Zn/Sulfide/TiO2,Fe23:Cu/Sulfide/TiO2,ZnFe24/Sulfide/TiO2,CuFe24/Sulfide/TiO2,CuO/Sulfide/TiO2:N,CuO:N/Sulfide/TiO2:N,Cu2O/Sulfide/TiO2:N,Cu2O:N/Sulfide/TiO2:N,GaP:Zn/Sulfide/TiO2:N,InP:Zn/Sulfide/TiO2:N,GaP:Zn/Sulfide/TiO2:N,InP:Zn/Sulfide/TiO2:N,Ta25:N/Sulfide/TiO2:N,CuFeO2/Sulfide/TiO2:N,CaFe24/Sulfide/TiO2:N,TaON/Sulfide/TiO2:N,Ta35/Sulfide/TiO2:N,Fe23:Zn/Sulfide/TiO2:N,Fe23:Cu/Sulfide/TiO2:N,CuO/Sulfide/WO3,CuO:N/Sulfide/WO3,Cu2O/Sulfide/WO3,Cu2O:N/Sulfide/WO3,GaP:Zn/Sulfide/WO3,InP:Zn/Sulfide/WO3,GaP:Zn/Sulfide/WO3,InP:Zn/Sulfide/WO3,Ta25:N/Sulfide/WO3,CuFeO2/Sulfide/WO3,CaFe24/Sulfide/WO3,ZnFe24/Sulfide/WO3,CuFe24/Sulfide/WO3,TaON/Sulfide/WO3,Ta35/Sulfide/WO3,Fe23:Zn/Sulfide/WO3,Fe23:Cu/Sulfide/WO3,CuO/Sulfide/WO3,CuO:N/Sulfide/WO3,Cu2O/Sulfide/WO3,Cu2O:N/Sulfide/WO3,GaP:Zn/Sulfide/WO3,InP:Zn/Sulfide/WO3,GaP:Zn/Sulfide/WO3,InP:Zn/Sulfide/WO3,Ta25:N/Sulfide/WO3,CuFeO2/Sulfide/WO3,CaFe24/Sulfide/WO3,TaON/Sulfide/WO3,Ta35/Sulfide/WO3,Fe23:Zn/Sulfide/WO3,Fe23:Cu/Sulfide/WO3,CuO/Sulfide/Fe23:Si,CuO:N/Sulfide/Fe23:Si,Cu2O/Sulfide/Fe23:Si,Cu2O:N/Sulfide/Fe23:Si,GaP:Zn/Sulfide/Fe23:Si,InP:Zn/Sulfide/Fe23:Si,GaP:Zn/Sulfide/Fe23:Si,InP:Zn/Sulfide/Fe23:Si,Ta25:N/Sulfide/Fe23:Si,CuFeO2/Sulfide/Fe23:Si,CaFe24/Sulfide/Fe23:Si,TaON/Sulfide/Fe23:Si,Ta35/Sulfide/Fe23:Si,Fe23:Zn/Sulfide/Fe23:Si,Fe23:Cu/Sulfide/Fe23:Siの組合せが挙げられる。以上の全てにおいて、Sulfideの部分がFeS2,FeS,NiS,Fe23,Cu2S,SnS,WS2,MoS2であればよい。
【0028】
また、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14の膜厚は、0.5nm以上1000nm以下とすることが好適である。特に、硫化物12の膜厚は、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚よりも薄くすることが好適である。具体的には、硫化物12の膜厚は1nm以上50nm以下とすることが好適である。
【0029】
第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14は、スパッタリング等の一般的な方法にて成膜することができる。例えば、真空排気された成膜槽を有するマグネトロンスパッタリング装置において、酸素(O2)ガスを導入しつつ第1半導体層10及び第2半導体層14の原料を含むターゲットをスパッタリングすることによって第1半導体層10及び第2半導体層14を形成することができる。また、硫化物12は、アルゴン(Ar)を導入しつつ、硫化物12の原料を含むターゲットをスパッタリングすることによって形成することができる。
【0030】
従来技術のように硫化物12が存在しない場合、第2半導体層14の励起電子は基質に移動して化学反応を呈するか、第1半導体層10に移動するか、第2半導体層内で価電子帯や不純物準位に移動して再結合により消失する。
【0031】
これに対して本実施の形態における第1半導体層10及び第2半導体層14と共に硫化物12が光によって励起されると、それぞれにおいて電子が価電子帯から伝導帯へ励起される。このとき、第2半導体層14の励起電子の少なくとも一部は、第1半導体層10へ移動することなく硫化物12に一旦トラップされる。また、第1半導体層10の励起電子の少なくとも一部も、硫化物12に一旦トラップされた後、第2半導体層14の価電子帯に移動する。このような励起電子の移動により、第2半導体層14から基質への電子の移動と化学反応速度が遅い場合であっても、硫化物12が電子の蓄積層として機能するので、第2半導体層14における過剰電子による自己還元劣化や、第1半導体層10の内部における励起電子の再結合損失等が抑制され、全体としての基質への電子移動効率が向上される。
【0032】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0033】
<実施例1>
図5は、第1半導体層10として酸化亜鉛(ZnO)、硫化物12として二硫化鉄(FeS2)、第2半導体層14として酸化ニッケル(NiO)を用いた光触媒体100を実施例1とした例を示す。
【0034】
光触媒体100は、透明電極層としてアンチモン(Sb)を添加した酸化スズ(SnO2)を膜厚100nmで形成したガラス基板16上に第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14を順に積層したNiO/FeS2/ZnO/ATO構造として形成した。ここでは、透明電極層をATO(Antimony−doped Tin Oxide)と示す。
【0035】
第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14は、ターゲットを3種類装着できるRFマグネトロンスパッタ装置を用いて形成した。RFマグネトロンスパッタ装置の真空槽内に、直径3インチで純度99.99%の酸化亜鉛(ZnO),ニッケル(Ni)のターゲットと純度99%の二硫化鉄(FeS2)を使用し、真空槽内を9.0×10-7Torrまで真空排気した。その後、真空槽内に酸素ガス(O2)を流量10sccm及びアルゴンガス(Ar)を流量40sccmで導入し、真空槽内の圧力を3.0×10-3Torrに維持しつつ、真空を破ることなく酸化亜鉛(ZnO)のターゲットをスパッタリングしてATO上に成膜を行った。その後、酸素ガス(O2)及びアルゴンガス(Ar)を止め、真空槽内の背圧を1.5×10-6Torr以下に排気した後、流量50sccmでアルゴンガス(Ar)を流し、真空槽内の圧力を上げて4.0×10-3Torrに維持しつつ、二硫化鉄(FeS2)のターゲットをスパッタリングして酸化亜鉛(ZnO)上に二硫化鉄(FeS2)を成膜した。次いで、真空槽内に酸素ガス(O2)を流量10sccm及びアルゴンガス(Ar)を流量40sccmで導入し、真空槽内の圧力を3.0×10-3Torrに維持しつつ、真空を破ることなくニッケル(Ni)のターゲットをスパッタリングして二硫化鉄(FeS2)上に酸化ニッケル(NiO)を成膜した。
【0036】
成膜時の投入電力は、第1半導体層10である酸化亜鉛(ZnO)が300W、硫化物12である二硫化鉄(FeS2)が100W、第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)が300Wとした。また、第1半導体層10である酸化亜鉛(ZnO)の膜厚は200nm、硫化物12である二硫化鉄(FeS2)の膜厚は2nm、第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)の膜厚は200nmとした。
【0037】
ここで、同一の成膜条件下においてガラス基板上に第1半導体層10及び第2半導体層14を膜厚200nmでそれぞれ単層形成した場合、X線回折装置によってそれぞれの膜の結晶相のピークが確認された。すなわち、実施例1の成膜条件下において、加熱処理なくとも第1半導体層10及び第2半導体層14は結晶化していると推察される。また、同一の成膜条件下においてATO上に第1半導体層10及び第2半導体層14を膜厚200nmで単層形成した場合、それぞれの膜のバンドギャップ励起により光電流が生じることが確認された。
【0038】
<実施例2>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12の膜厚のみを4nmとしたものを実施例2とした。
【0039】
<実施例3−5>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12を硫化鉄(II)(FeS)として、膜厚を1nm,2nm,4nmとしたものをそれぞれ実施例3−5とした。
【0040】
<実施例6−8>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12を硫化ニッケル(NiS)として、膜厚を2nm,5nm,10nmとしたものをそれぞれ実施例6−8とした。
【0041】
<実施例9−11>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12を硫化スズ(SnS)として、膜厚を2nm,5nm,10nmとしたものをそれぞれ実施例9−11とした。
【0042】
<実施例12−13>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12を硫化モリブデン(MoS2)として、膜厚を2nm,5nmとしたものをそれぞれ実施例12−13とした。
【0043】
<実施例14−16>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12を硫化タングステン(WS2)として、膜厚を2nm,4nm,10nmとしたものをそれぞれ実施例14−16とした。
【0044】
<比較例1>
実施例1と同一の成膜条件下において、ATO上に第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)のみを形成したものを比較例1とした。
【0045】
<比較例2>
実施例1と同一の成膜条件下において、ATO上に硫化物12を形成せず、第1半導体層10である酸化亜鉛(ZnO)及び第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)のみを形成したものを比較例2とした。
【0046】
<比較例3−5>
実施例1に対して、第1半導体層10及び第2半導体層14の膜厚は同一とし、硫化物12の代りに中間層として酸化アルミニウム(Al23)を形成し、その膜厚を2nm,5nm,10nmとしたものをそれぞれ比較例3−5とした。
【0047】
中間層は、ターゲットとして酸化アルミニウム(Al23)を用い、真空槽内に酸素ガス(O2)を流量10sccm及びアルゴンガス(Ar)を流量40sccmで導入し、真空槽内の圧力を3.0×10-3Torrに維持しつつ、ターゲットをスパッタリングして成膜を行った。
【0048】
<測定方法>
上記実施例及び比較例のサンプルの光電流測定を行った。測定は、図5に示すように、濃度0.2Mの硫酸カリウム(K2SO4)水溶液中28に、ATO表面にインジウムを電極20として溶着して導線22を接続し、積層部の端部とATOが露出する部分はシリコーンゴムを被覆して絶縁した。また、対電極24となるPt電極及び参照電極26となるAg/AgCl電極を浸漬し、これらをポテンショスタット30に接続して行った。このとき、ATOは溶液には接触しないように配置した。
【0049】
光照射は、キセノンランプ(ウシオ電機製、500W)を用いて行った。参照電極26に印加するバイアス電圧を挿引しながら、約1秒間隔で断続的に光を照射して測定を行った。光照射は、全波長領域の照射(条件1)及び光無し(条件2)とした。第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)側から行い、酸化ニッケル(NiO)が吸収できない長波長の光が薄い硫化物12と第1半導体層10である酸化亜鉛(ZnO)で吸収され、総ての層が励起される。
【0050】
この系では、特に反応性生成物の分析を行わなかったが、これまでに報告されている多くの研究例から、主に水溶液中のプロトンに電子を渡して水素を生成する反応が生じていると推察される。
【0051】
<測定結果>
以下、各実施例及び比較例に対する測定結果を示す。なお、以下の説明において、負の電流(カソード電流条件の場合)が第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)からそれに接触する溶液28中の基質に電子を受け渡す光還元電流である。
【0052】
図6に、比較例1に対してフィルタ無しで光照射したときの光電流特性を示す。この場合、光照射のオン・オフに伴い電流値が増減した。しかしながら、光電流が生じ始める電気バイアス値はおよそ0.0V(対Ag/AgCl電極)であり、それよりも電位が負の場合において光応答した負のカソード電流がみられた。
【0053】
図7に、比較例2に対する光電流特性を破線で示し、実施例2に対する光電流特性を実線で示す。比較例2では、比較例1の場合と同様に、電気バイアスが0.0V(対Ag/AgCl電極)で光電流は非常に小さく、−0.37μAであった。一方、実施例2では、光電流がアノード側からカソード側に転じる電気バイアス値が約0.5V(対Ag/AgCl電極)に、言い換えれば真空準位からより遠いエネルギー準位にシフトする結果、電気バイアスが0.0V(対Ag/AgCl電極)で大きなカソード光電流が生じた。このときの電流値は−17.73μAであった。
【0054】
このように、第1半導体層10と第2半導体層14との間に硫化物12を設けることによって、電気的なバイアスが0.0V(対Ag/AgCl電極)に近い条件でも光に応答して生じる光還元性のカソード電流を生じさせることができる。
【0055】
表1は、総ての実施例における電気的なバイアスが0.0V(対Ag/AgCl電極)での光応答電流を示す。いずれの実施例においてもカソード側の光応答電流の増大がみられた。一方、硫化物12の代りにAl23層を挿入した比較例3−5では、光応答電流の増大はみられなかった。
【表1】

【0056】
表2は、実施例を構成する各層のバンドポテンシャルを示す。まず、光学バンドギャップを分光光度計(島津製作所製:UV−3600)で測定し、吸収スペクトルの吸収端波長から数式(1)を用いて算出した。
【表2】

(数1)
バンドギャップEg(eV)=1240/吸収端波長(nm)・・・(1)
【0057】
バンドポテンシャルは、大気中光電子分光装置(理研計器:AC−2)によりイオン化ポテンシャルを測定し、真空準位と価電子帯上端エネルギー(VBM)のエネルギー差を求め、数式(2)にて標準水素生成電位からの値に換算した値として算出した。ここでは、真空準位から−4.44eVのエネルギー準位を0V(対NHE)とした。
(数2)
価電子帯上端エネルギー(V対NHE)=イオン化ポテンシャル−4.44 (2)
【0058】
また、伝導帯下端エネルギー(CBM)も同様に数式(3)にて算出した。
(数3)
伝導帯下端エネルギー(V対NHE)=イオン化ポテンシャル−バンドギャップ−4.44・・・(3)
【0059】
その結果、第1半導体層10である酸化亜鉛(ZnO)の伝導帯最下部及び第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)の価電子帯上端のエネルギー準位はそれぞれ0.0V及び+0.7Vとなった。また、硫化物12の価電子帯最上部が第2半導体層14の価電子帯最上部よりも高いエネルギー準位かつ第1半導体層10の伝導帯よりも低いエネルギー準位にあるので、第1半導体層10からの電子が硫化物12の伝導帯に一旦蓄積され、その電子が第1半導体層10の価電子帯へ戻るより、第2半導体層14の価電子帯に移動し易い。したがって、第1半導体層10である酸化亜鉛(ZnO)の励起電子が一旦硫化物12を通り第2半導体層14である酸化ニッケル(NiO)の価電子帯に移動し、その結果として逆向きの電子の移動は抑制される。このため、カソード側の光応答電流の発生が促進され、電気的なバイアスが0近傍においても負の電流の値が大きくなったと推察できる。また、硫化物12は、電子のバッファの役割を果たしていると考えられる。
【0060】
また、上記実施例では図1に示した構造としたが、図2又は図3に示したような構造としても同様の効果が得られる。
【0061】
また、図8に示すように、図4と同じバンドダイヤグラムの関係にあり、かつ第1半導体層10の背面に電極が接合されていない構造においても、本発明と同等の効果が得られる。図8の右図において、第1半導体層10、硫化物12及び第2半導体層14を示す白い矩形の下辺が価電子帯最上部のエネルギー準位を示し、上辺が伝導帯最下部のエネルギー準位を示す。この場合、第2半導体層14では電子による還元反応が生じ、第1半導体層10では酸化反応が生じる光触媒体として機能する。
【0062】
なお、本発明は、Ag/AgCl電極電位に対して−0.199V(25℃)にある標準水素電極電位に対しても同じく当て嵌まる。したがって、例えば、この電極を使用して水溶液中で水の光電気化学分解及び光触媒分解によりプロトンを還元して水素を生成する目的において本発明は有効である。また、二酸化炭素(CO2)に電子を作用させて還元し、有用な物質に変換する光化学反応を生じさせる場合にも効果を発揮する。
【0063】
さらには、図9に示すように、第2半導体層14の表面に金属又は金属酸化物の助触媒32を接合した構成としてもよい。助触媒32としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)のうち少なくとも1つを含む金属又は金属酸化物を適用することが好適である。これにより、より高い反応速度を得ることができる。
【0064】
また、図10に示すように、第2半導体層14の表面に金属錯体の助触媒34を接合した構成としてもよい。助触媒34としては、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)のいずれかを核とする金属錯体の少なくとも1つを適用することが好適である。これにより、より高い反応速度を得ることができる。
【0065】
なお、図8,図9及び図10の構成において、第1半導体層10の表面にも助触媒32,34を接触させることも好適である。これにより、より高い反応速度を得ることができる。
【0066】
また、反応溶媒としては、水溶液のみならず、アセトニトリル、メチルホルムアミド、アセトン、アルコール等の有機溶媒、又はこれらの有機溶媒と水との混合物であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 第1半導体層、12 硫化物、14 第2半導体層、16 ガラス基板、20 電極、22 導線、24 対電極、26 参照電極、28 溶液、32,34 助触媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体と、
前記第1の半導体の伝導帯最下部のエネルギー準位より真空準位に近いエネルギー準位に伝導帯最下部のエネルギー準位を有する第2の半導体と、
硫化物と、
を含み、
前記硫化物は、前記第1の半導体と前記第2の半導体の両方に接触した構成を有することを特徴とする光触媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒体であって、
前記硫化物は、鉄の硫化物であることを特徴とする光触媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の光触媒体であって、
前記硫化物は、硫化鉄、硫化スズ、硫化ニッケル、硫化タングステン、硫化アンチモン、硫化銅、硫化モリブデンの少なくとも1つであることを特徴とする光触媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒体であって、
前記硫化物の伝導帯最下部のエネルギー準位は、前記第1の半導体の伝導帯最下部のエネルギー準位より真空準位から遠く、前記第2の半導体の価電子帯最上部のエネルギー準位より真空準位から近いことを特徴とする光触媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒体であって、
前記第2の半導体の表面に、金属又は金属錯体が接触又は接合されていることを特徴とする光触媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒体を用いた光電極であって、
前記第1の半導体及び前記第2の半導体に光を照射したときに前記硫化物も光励起され、前記第1の半導体に生じた励起電子が前記硫化物を介して前記第2の半導体に移動し、前記第2の半導体に接触する反応基質に電子を受け渡すことにより還元反応を呈する光電極。
【請求項7】
請求項6に記載の光電極であって、
前記第2の半導体が単独で光電流を生じさせるエネルギー準位より真空準位から遠いエネルギー準位において光カソード電流が生じることを特徴とする光電極。
【請求項8】
請求項6に記載の光電極であって、
前記第2の半導体において光電流が生じることが可能なエネルギー準位より真空準位から遠いエネルギー準位において前記還元反応が生ずることを特徴とする光電極。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の光電極であって、
前記還元反応が二酸化炭素の還元反応であることを特徴とする光電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−161704(P2012−161704A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21487(P2011−21487)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】