説明

光触媒反応装置

【課題】COを光触媒反応により固定化し、有用な有機物や燃料へ転換するための反応試験に供するのに好適な光触媒反応装置を提供する。
【解決手段】光触媒を用いて反応を行う光触媒反応装置において、前記光触媒を励起させる光源として紫外線発光ダイオード3,5を用い、紫外線発光ダイオード3を反応容器1の周りに内面方向へ設置すると共に、紫外線発光ダイオード5を反応容器1内に外面方向へ設置したことを特徴とする光触媒反応装置であり、さらに、冷却装置6、バブリング装置11、反応容器内の光触媒を分散したり反応容器内の溶媒を撹拌する超音波スターラー12、紫外線遮蔽保護カバー13を備えている光触媒反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒反応装置に関し、詳細にはCOを光触媒で有機物に固定する試験装置として好適な光触媒反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は各種分野において幅広く利用されている。近年、COの排出量を削減することが地球環境の保護の大きな課題となっているが、CO化学固定化方法の一つとして、光触媒反応を利用したCOの還元がある。
【0003】
(反応式の例)

【0004】
しかしながら、光触媒を活性化させるためには該光触媒が励起する光の照射が必要である。光触媒を活性化させるために、紫外線発光ダイオード(以下、「UV-LED」と称することがある。)を利用することは良く知られているところであり、光触媒とUV-LEDを組み合わせた例として、浄水タンク及び浄水ポット(特許文献1)、空気清浄装置(特許文献2,3)、内燃機関の排出ガス浄化装置(特許文献4)、冷蔵庫(特許文献5)、生ゴミ処置装置(特許文献6)等が提案されている。
【特許文献1】実用新案登録第3100632号公報
【特許文献2】特開平11−47545号公報
【特許文献3】特開2000−167353号公報
【特許文献4】特開2004−162552号公報
【特許文献5】特開2006−017358号公報
【特許文献6】特開2006−281161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、COを光触媒反応により固定化し、有用な有機物や燃料へ転換するための反応試験に供するのに好適な光触媒反応装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らはこれまで、COを光触媒反応により固定化する光反応プロセスを評価するための反応試験装置として、加圧反応型、ボックス型(上部照射もしくは側面照射)、ガス循環型などを考案し、試験に供した。しかし、紫外線強度が不充分なため紫外線照射効率が劣る、温度の影響があるため試験条件が限定されるなど不都合があった。そして、CO化学固定化における触媒反応の評価、引いてはCOの有機物固定反応における化学固定化反応プロセスを評価する装置として、UV-LED照射装置が好適であることを見出し、更にそれらの配置方法を構築することにより、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)光触媒を用いて反応を行う光触媒反応装置において、前記光触媒を励起させる光源として紫外線発光ダイオードを用い、該紫外線発光ダイオードを反応容器の周りに内面方向へ設置すると共に、反応容器内に外面方向へ設置したことを特徴とする光触媒反応装置、
(2)前記反応容器の周りの紫外線発光ダイオードが、多面構造に組まれて配置されている、前記(1)に記載の光触媒反応装置、
(3)前記反応容器内の紫外線発光ダイオードが、反応容器内に設置された上部開口容器の中に多面構造に組まれて設置されており、該上部開口容器の周りに冷却装置が設置されている、前記(1)に記載の光触媒反応装置、
(4)前記反応容器は、温度測定手段と、原料ガス導入口と、ガス排出口とを有し、導入した原料ガスをバブリングする原料ガスバブリング装置を備えている、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒反応装置、
(5)さらに、反応容器内の光触媒を分散する触媒分散手段を備えている、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の光触媒反応装置。
(6)さらに、反応容器内の溶媒を撹拌する撹拌手段を備えている、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の光触媒反応装置。
(7)さらに、紫外線遮蔽保護カバーを備えている、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の光触媒反応装置、及び、
(8)CO固定化反応に用いる、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の光触媒反応装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る光触媒反応装置によれば、加圧反応型、ボックス型(紫外線上部照射型もしくは側面照射型)、ガス循環型装置に比べて、消費電力が少ない、紫外線強度が高い、紫外線照射効率が良い、温度の影響を受け難い、光触媒反応装置を提供できる。
【0009】
また、反応容器の周りの紫外線発光ダイオードが多面構造に組まれて配置されているため、照射効率も良好である。それの裏面を透明樹脂板で覆うことにより、装置取扱時の感電・漏電を防止できる。
【0010】
また、反応容器内の紫外線発光ダイオードが、反応容器内に設置した上部開口容器の中に多面構造に組まれて設置され、該上部開口容器の周囲には、該紫外線発光ダイオードを冷却する冷却装置が設置されているため、内部から紫外線を安定照射できると共に、反応温度を一定に保つ効果が有る。
【0011】
また、反応容器内に導入する原料ガスをバブリングする原料ガスバブリング装置を備えているため、原料ガスと光触媒の接触機会が大きい。自在に変形するエアストーンを使用することにより、微細泡にてガスを供給することができる。反応後のガスをガス排出口から排出して組成分析すれば反応率を求めることができるので、光触媒と原料ガスの反応性を迅速に把握可能となる。
【0012】
さらに、反応容器内の光触媒を分散する分散手段と、反応容器内の溶媒を撹拌する撹拌装置を、各々単独でまたは併用して備えることにより、光触媒の分散が良好になる。光触媒による水の分解試験では良好に水素を発生させることができた。
【0013】
さらに、紫外線遮蔽保護カバーを備えているため、紫外線発光ダイオードより照射される紫外線の人体などへの影響を排除することができる。
【0014】
本発明に係る光触媒反応装置をCO固定化反応に用いることにより、CO化学固定化における触媒反応の評価を迅速に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の光触媒反応装置の好ましい実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る光触媒反応装置の外観図である。光触媒反応装置には、反応容器外部より紫外線を照射する装置として、反応容器1の周りにUV照射用のUV-LED(日亜化学社製NSHU550B)3のランプが288個、設置されている。このUV-LED3は、基板(80mm×70mm)を6面構造に組み、内面方向へUV-LEDを設置したものである。図1では、UV-LED3を反応容器1の周りに6面構造に組んだ例を示したが、多面構造に組むことで、反応容器内の光触媒に万遍なく紫外線を照射することができる。また、UV-LED3の基板裏面は透明樹脂板(テフロン(登録商標)板、塩化ビニル樹脂板など)2で覆われているため、感電や漏電を防止できる。基板の過熱防止のためには、放熱対策として送風器による空冷処理を行うのがよい。
【0017】
また、光触媒反応装置には、反応容器内部より紫外線を照射する装置として、反応容器1の内部にUV照射用のUV-LED(日亜化学社製NSHU550B)5のランプが48個、配置されている。このUV-LEDランプは、上部が開口した円筒容器(内径35mm×高さ100mm)4の中にUV-LED5の基板を設置し、反応容器内部よりUV-LED光を照射できる構造とするため、基板(70mm×20mm)を3面構造に組み、外面方向へUV-LEDを設置したものである。円筒容器の上部は漏電防止のためシリコン栓で密閉されている。図1では、UV-LED5を3面構造に組んだ例を示したが、4面〜6面構造にしてもよい。
【0018】
反応容器1内の温度制御のためには、上述した円筒容器4の周りに冷却手段6を設置し、冷却水を循環させてUV-LED5の発熱による温度上昇を制御するのが良い。図1では、円筒容器4の周りに冷却水を循環させるためのコイルを巻回した例を示した。
【0019】
図1では、反応容器1として、円筒形のガラス製4つ口セパラブルフラスコ(内径85mm×高さ115mm、容量500ml)を用いているが、反応容器の形状及び材質はこれに限定されるものではなく、UV透過性の材質であれば樹脂製の反応容器であってもよい。前記の反応容器1は、原料ガス導入口7と、ガス排出口8と、温度測定手段9とを有し、導入した原料ガスをバブリングする原料ガスバブリング装置11を備えている。図1において、10はUV−LED用の電源の配線である。
【0020】
反応容器1内の温度は、温度測定手段(温度計、熱電対など)9で測定可能である。原料ガスバブリング装置11は、反応容器1内に設置する。設置の仕方は任意であるが、光触媒との接触機会をできるだけ増やすために、図1に示すように、反応容器1の底部からバブリングガスが上昇するように設置することが好ましい。バブリング装置の形状及び気泡の大きさは特に限定されないが、自在に変形するエアストーン等を使用することにより微細泡にてガスを供給することができるので、好ましい。反応容器内で反応したガスと未反応の原料ガスは、ガス排出口8を介して系外に排出する。
【0021】
排出された反応ガスは、捕集され、ガスクロマトグラフィー(GC)、フーリエ変換赤外分光計(FT-IR)等で組成分析される。既知の原料ガス組成と、分析で求めた反応ガス組成とから、本発明の光触媒反応装置における応率を求めることができる。そのため、光触媒と原料ガスとの反応性を迅速に把握することができる。
【0022】
本発明の光触媒反応装置においては、光触媒と原料ガスとの接触機会を増やすために、反応容器内の光触媒を分散する分散手段(例えば、超音波発振装置)と、反応容器内の溶媒を撹拌する撹拌手段(スラーラー、撹拌機)を備えていることが好ましい。図1では、簡易で使い易く入手も容易であることから、分散手段と撹拌手段を兼備している市販の超音波スターラー12を用いた例を示した。
【0023】
上記の光触媒反応装置は、UV-LEDにより発生する紫外線の人体などへの影響を排除するため、UV遮蔽保護カバーを備えていることが好ましい。図1では、(株)クラレ製 コモグラス(UV98%カット)製のUV遮蔽保護カバー13を設けた例を示した。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0025】
[反応装置]
図1に示した光触媒反応装置を用いて試験した。図2にUV-LED反応装置系統図を示した。UV-LED照射装置に電源を供給する電源はDC24V、電源容量35W(外部照射型30W、内部照射型5W)とした。UV-LEDランプは光量可変型を用い、消費電流値可変による調整を行った。主電源の他、外部照射装置、内部照射装置個々に電源供給が出来るよう、切り替えスイッチ、電圧計、電流計を装備した。
【0026】
流量計16はCO用フロー式ガス流量計を使用し、循環ポンプ17は循環反応に供するガス循環ポンプを使用した。原料ガスは、反応による容量変化に対応するため10Lテドラーパック18を使用した。
【0027】
[反応試験]
容量500mlの反応容器1内に、420mlのイオン交換水と、光触媒Cとして酸化チタン(ルチル型)3.0gを入れた。反応容器1を、超音波スターラー((株)日本精機製作所製のヨウカイくん USS−1)12に適量の水14があることを確認し、UV-LED照射装置へセットした。超音波及びスターラー15を運転して光触媒Cを攪拌し、チラーを運転して冷却用コイル6に冷却水を循環しながら、反応容器内の温度を20℃とした。
【0028】
テドラーパックに原料ガス(Arガス)を封入し、反応容器内をパージした。次いで、テドラーパックに原料ガス(Arガス)を封入し、反応装置に設置した。循環ポンプ17を運転し循環流量を規定値にセットし、10分以上循環させたら原料ガス組成をガスクロマトグラフィーにて確認した。
【0029】
外部照射用UV-LEDの空冷用ポンプを運転し、UV遮蔽保護カバーを設置した。UV-LED照射装置電源をONにし、徐々に電流をかけ、外側のUV出力23.3W、内側のUV出力1.8Wにて紫外線を照射し、反応試験を開始した。規定時間反応させたら、テドラーパック内のガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。4時間反応させた後、光触媒分散水をろ過し、水に含まれているガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。試験後は速やかに反応容器を洗浄した。
【0030】
その結果、表1に示す量のHが発生していた。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、本発明の光触媒反応装置において、光触媒の作用により水から水素が発生することが確認できたので、CO化学固定化における触媒反応の評価装置として使用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の光触媒反応装置は、非常に簡易な操作で比較的短時間で光触媒反応の評価を実施することが可能であり、COの有機物固定反応における化学固定化反応プロセスの評価を始め、各種の光触媒反応の評価に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の光触媒反応装置の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施例で用いた光触媒反応装置の系統図である。
【符号の説明】
【0035】
1 反応容器
2 透明樹脂板
3 UV-LED(外部照射用)
4 上部開口容器
5 UV-LED(内部照射用)
6 冷却装置
7 ガス導入口
8 ガス排出口
9 温度計
10 UV−LED用電源配線
11 原料ガスバブリング装置
12 超音波スターラー
13 UV遮蔽保護カバー
14 水
15 スターラー
16 流量計
17 循環ポンプ
18 テドラーパック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を用いて反応を行う光触媒反応装置において、前記光触媒を励起させる光源として紫外線発光ダイオードを用い、該紫外線発光ダイオードを反応容器の周りに内面方向へ設置すると共に、反応容器内に外面方向へ設置したことを特徴とする光触媒反応装置。
【請求項2】
前記反応容器の周りの紫外線発光ダイオードが、多面構造に組まれて配置されている、請求項1に記載の光触媒反応装置。
【請求項3】
前記反応容器内の紫外線発光ダイオードが、反応容器内に設置された上部開口容器の中に多面構造に組まれて設置されており、該上部開口容器の周りに冷却装置が設置されている、請求項1に記載の光触媒反応装置。
【請求項4】
前記反応容器は、原料ガス導入口と、ガス排出口と、温度測定手段とを有し、導入した原料ガスをバブリングする原料ガスバブリング装置を備えている、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒反応装置。
【請求項5】
さらに、反応容器内の光触媒を分散する触媒分散手段を備えている、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒反応装置。
【請求項6】
さらに、反応容器内の溶媒を撹拌する撹拌手段を備えている、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒反応装置。
【請求項7】
さらに、紫外線遮蔽保護カバーを備えている、請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒反応装置。
【請求項8】
CO固定化反応に用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒反応装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−246355(P2008−246355A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89811(P2007−89811)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】