説明

光触媒材料およびそれを用いた光触媒組成物並びに光触媒製品

【課題】照明機能への影響が少なく、しかも結晶構造が安定である光触媒効果に優れた光触媒材料等を提供することを目的とする。
【解決手段】平均粒径が0.5μm以下であり、結晶構造が単斜晶系である三酸化タングステン微粒子を主成分としたことを特徴とする光触媒材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料、光触媒組成物、及び光触媒製品に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、光触媒材料にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、光励起によって伝導帯に電子が生じ、価電帯に正孔が生じる。その結果、この電子および正孔が粉末表面に拡散し、酸素や水分に接触することで、電子は吸着還元してスーパーオキサイドアニオンを生成する。一方、正孔は水分を酸化してヒドロキシラジカルを生成する。これらの生成物が、その酸化還元反応を通して、殺菌力、有機分解力、親水性を呈するようになる。
【0003】
ところで、「バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光」としては、例えば紫外線、可視光が挙げられる。「光源」としては、例えば太陽光、各種ランプ、発光ダイオードが使われている。
【0004】
従来、光触媒材料としては、酸化チタン(TiO)粉末が主として使用されている。しかしながら、酸化チタン粉末のバンドギャップエネルギー(380nm以下の波長)を太陽光により得ようとすると、その光の2%程度しか利用できていない。そこで、近年は酸化チタン粉末の代わりに、太陽光の主要波長である可視光領域(400〜800nm)を利用できる光触媒材料として酸化タングステン(WO)が注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、スパッタリング法により形成した酸化タングステン膜を光触媒として用いることが記載されている。ところで、光触媒が膜であっても光触媒の効果は得られる。しかし、膜では表面積が稼げないため、単位体積当たりの触媒効果は小さい。また、スパッタリング法は真空を用いた成膜技術なので、装置が大掛かりであり、コスト高である。更に、スパッタリング法は基材(被成膜材)を高温下にさらすため、耐熱性の高い材料(基材)にしか成膜できないといった問題もあった。
【0006】
それに対し、光触媒が酸化タングステン粉末であれば、次の利点を有する。即ち、粉末表面全体を触媒面として使用できるので、単位体積当たりの触媒効果を向上させることができる。また、粉末を樹脂と混合して塗布する方法を採用できるため、基材を高温下にさらす必要がなく、どこにでも粉末を塗布できる。なお、単位体積当たりの触媒面を大きくするには、粉末を平均粒径1μm以下の微粒子にすることが効果的である。
【0007】
酸化タングステン粉末の微粒子を得る方法としては、例えば特許文献2が知られている。特許文献の段落0008,0009には、パラタングステン酸アンモニウム(以下、APT)を空気中で熱処理する方法が挙げられている。この方法によれば、BET比表面積3〜5m/g、酸化タングステンの比重を7.3とすれば、平均粒径0.2〜0.3μmの微粒子が得られている。
【0008】
ところで、光触媒を励起させる光源としては、前述のように、太陽光、各種発光ダイオード、各種ランプ等が挙げられる。ここで、光触媒は、所定の波長により励起され触媒効果を発揮するものである。そのため、光源の波長と光触媒の励起波長が合わないと、充分な特性が得られない。このような弱点を改善するために、例えば特許文献3が知られている。特許文献3には、光触媒と発光物質(蛍光体等)を混合することにより、光源の波長とは異なる波長を発光物質から放出させ、その波長により光触媒を励起させる方法が開示されている。
【0009】
特許文献3の方法によれば、可視光でほとんど励起されないTiO粉末を用いたとしても、昼光色下(太陽光下)でホルムアルデヒドの分解能力を示すことが開示されている。しかしながら、その分解能力は非常に乏しい。具体的には、50ppmのホルムアルデヒドを分解するのに24時間かかるものであった。
一方、前述のように可視光領域(波長400〜800nm)で用いる光触媒として酸化タングステン(WO)が注目されている。この光触媒によれば、確かに可視光領域で一定の触媒特性は得られている。
【特許文献1】特開2001−152130号公報
【特許文献2】特開2002−293544号公報
【特許文献3】特開2002−346394号公報
【特許文献4】特公平4−42057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、いまだ充分な特性は得られていなかった。例えば、特許文献4の実施例1には、WO粉末に複写用蛍光灯(紫外線出力2.1W、波長300〜490nm、主波長370nm)を照射してアセトアルデヒド10ppmの90%分解時間24分の特性を得ることが開示されている。しかし、WO粉末が100gも必要であった。このような特性では、脱臭等を行う場所に大量のWO粉末を塗布せねばならなかった。
【0011】
本発明は、従来と比べて優れた触媒効果を有した光触媒材料、この光触媒材料を含有した光触媒組成物、及びこの光触媒材料を用いた省スペース化、軽量化が可能な光触媒製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 請求項1記載の光触媒材料は、430〜500nmの波長を含む光を発する光源により励起される酸化タングステン粉末を主成分とする光触媒材料において、以下に示す分解能力が50%以上であることを特徴とする。
[分解能力試験]
容積3リットルの硝子製容器中に、質量1gの酸化タングステン粉末及び20ppmのアセトアルデヒド(量A)を入れ、ピーク波長460nm±10nmの光を2時間照射後のアセトアルデヒド(量B)を測定したときの分解能力(%):
分解能力(%)=[(アセトアルデヒド量A−アセトアルデヒド量B)/アセトアルデヒド量A]×100
(2) 請求項2記載の光触媒材料は、上記(1)において、上記光源が青色発光半導体素子を用いた発光ダイオードであることを特徴とする。
(3) 請求項3記載の光触媒材料は、上記(1)において、上記光源が太陽光であることを特徴とする。
(4) 請求項4記載の光触媒材料は、上記(1)において、上記光源が蛍光灯であることを特徴とする。
【0013】
(5) 請求項5記載の光触媒材料は、上記(1)乃至(4)のいずれかにおいて、430〜500nmの波長の光量が1mW/cm2以上であることを特徴とする。
(6) 請求項6記載の光触媒材料は、上記(1)乃至(5)のいずれかにおいて、上記分解能力が90%以上100%以下であることを特徴とする。
【0014】
(7) 請求項7記載の光触媒材料は、可視光の照射により光触媒励起する酸化タングステン微粒子を主成分とする光触媒材料において、容積3リットルの気密性容器内にアセトアルデヒドガスを10ppm導入し、この容器内の質量0.1gの酸化タングステン微粒子に青色光を照射して30分後にアセトアルデヒドの残存率が50%以下となる分解能力を有していることを特徴とする。
【0015】
(8) 請求項8記載の光触媒材料は、上記(7)において、青色光を放射する光源が470nm付近に発光ピークを有するGaN系の発光ダイオードであることを特徴とする。
(9) 請求項9記載の光触媒材料は、上記(1)乃至(8)のいずれかにおいて、単斜晶を主相とすることを特徴とする。
(10) 請求項10記載の光触媒材料は、上記(1)乃至(9)のいずれかにおいて、平均粒径が10μm以下であることを特徴とする。
【0016】
(11) 請求項11記載の光触媒組成物は、上記(1)乃至(10)のいずれかにおいて、光触媒材料を50質量%以上含有したことを特徴とする。
(12) 請求項12記載の光触媒組成物は、上記(11)において、酸化チタン粉末を50質量%未満含有したことを特徴とする。
(13) 請求項13記載の光触媒製品は、上記(11)又は(12)のいずれか1項に記載の光触媒組成物を用いたことを特徴とする。
(14) 請求項14記載の光触媒製品は、上記(13)において、有機物、NOx、SOxの少なくとも1種に触媒効果を有することを特徴とする。
(15) 請求項15記載の光触媒製品は、上記(13)または(14)において、光触媒組成物を基体表面にバインダーにより結着させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来と比べて優れた触媒効果を有した光触媒材料、この光触媒材料を含有した光触媒組成物、及びこの光触媒材料を用いた省スペース化、軽量化が可能な光触媒製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[蛍光ランプの構成]
図1は、本発明に係る蛍光ランプの構成を模式的に示す断面図である。具体的には、図1(A)は切欠断面を含む断面図、図1(B)は前記蛍光ランプの一構成である光触媒膜の模式的な断面図を示す。
図中の符番10は光触媒製品としての蛍光ランプを示す。蛍光ランプ10は、蛍光ランプ本体20と、この蛍光ランプ本体20の表面に形成された光触媒膜30とから構成されている。前記蛍光ランプ本体20は、透光性放電容器11と、蛍光体層12と、一対の電極13,13と、図示しない放電媒体と、口金14から構成されている。
【0019】
前記透光性放電容器11は、細長いガラスバルブ11a及び一対のフレアステム11bによって構成されている。前記ガラスバルブ11aはソーダライムガラスからなる。前記フレアステム11bは、排気管と、フレアと、内部導入線と、外部導入線を備えている。前記排気管は、透光性放電容器11の内外を連通して、透光性放電容器11の内部を排気し、かつ、放電媒体を封入するのに用いられる。そして、排気管は、放電媒体を封入した後に封止される。前記フレアは、ガラスバルブ11aの両端に封着されて透光性放電容器11を形成している。前記内部導入線は、基端がフレアステム11bの内部に気密に埋設され、かつ、外部導入線に接続している。前記外部導入線は、先端がフレアステム11bに埋設され、基端が透光性放電容器11の外部へ導出されている。
【0020】
前記蛍光体層12は、3波長発光形蛍光体からなり、透光性放電容器11の内面に形成されている。3波長発光形蛍光体は、青色発光用がBaMgAl1627:Eu、緑色発光用がLaPO:Ce,Tb、赤色発光用がY:Euである。一対の電極13,13は、透光性放電容器11の両端内部において、離間対向する一対の内部導入線の先端部間に継線されている。また、電極13は、タングステンのコイルフィラメントと、コイルフィラメントに被着された電子放射性物質からなる。
【0021】
前記放電媒体は、水銀及びアルゴンからなり、透光性放電容器11の内部に封入されている。水銀は、その適量が排気管を経由して封入される。アルゴンは、約300Pa封入されている。前記口金14は、口金本体14aと一対の口金ピン14b,14bからなる。口金本体14aは、キャップ状をなしていて、透光性放電容器11の両端部に接着されている。一対の口金ピン14b,14bは、口金本体14aに互いに絶縁関係に支持されているとともに、それぞれ外部導入線に接続している。
【0022】
前記光触媒膜30は、三酸化タングステン微粒子(平均粒径:0.1μm)を主成分とした光触媒塗料からなる膜である。光触媒膜30の膜厚は約0.5〜3μmである。前記三酸化タングステン微粒子は、塗装完了後でも単斜晶系の結晶構造を維持している。前記光触媒膜30は、光触媒微粒子21とアルミナ微粒子、シリカ微粒子またはジルコニア微粒子等の紫外線または可視光の透過特性のよいバインダー22とから形成されている。前記光触媒微粒子21は、三酸化タングステン微粒子21aと、この三酸化タングステン微粒子21aの表面に添着された炭酸カルシウム微粒子21bから構成されている。なお、バインダー22は、三酸化タングステン微粒子21aに対して10〜50質量%の範囲で添加される。また、バインダー22にアクリル変性シリコンやシリコーン系樹脂を用いると、20〜200℃で硬化する光触媒膜にすることができる。また、炭酸カルシウム微粒子21bはNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)を吸着する物質として機能するものであり、NOxやSOxによる三酸化タングステン微粒子21aの劣化抑制が必要なければ、炭酸カルシウム微粒子21bの添着は必須ではない。
【0023】
[脱臭ユニットの構成]
図2は、本発明に係る脱臭ユニットの構成を模式的に示す説明図である。具体的には、図21(A)は前記脱臭ユニットの概略的な斜視図、図21(B)は図21(A)の概略的な側面図を示す。なお、図21(B)では、便宜上、三酸化タングステン微粒子を図示していない。
図中の符番41は光触媒製品としての脱臭ユニットを示す。脱臭ユニット41は、上下の平坦なメッシュ状の第1・第2のフィルター42a,42bと、これらのフィルター42a,42b間に配置された断面波板状の第3のフィルター43を備えている。本発明による三酸化タングステン微粒子(平均粒径:0.1μm)44は、前記各フィルター42a,42b,43に担持されている。複数のGaN青色発光ダイオード45は、前記第2のフィルター42bの下側に配置されている。なお、このダイオード45の代わりに青色光で励起される蛍光体を使用した白色発光ダイオードを配置してもよい。こうした構成の脱臭ユニットにおいて、空気が第1・第2のフィルター42a,42b間の第3のフィルター43を例えば左側から右側へ通過する際、空気が各フィルターに担持された三酸化タングステン微粒子に触れることにより脱臭が行われる。
【0024】
本発明において、三酸化タングステン(WO)微粒子の平均粒径は0.5μm以下であり、好ましくは0.1μm以下とする。ここで、平均粒径が0.5μmを超えると、微粒子の表面で反応が起こる確率が減少し、十分な触媒効果が得られない。また、前記三酸化タングステンの結晶構造は単斜晶系であるが、これは例えばすり鉢で擦っただけで三斜晶系に変りやすいので、単斜晶系を維持することが重要である。図3は、図2の脱臭ユニットで使用した青色発光ダイオード45の分光スペクトルを示す。図3より、青色発光ダイオード45の放射光が約470nm近傍で比エネルギーがピークを持つことが分かる。
【0025】
図4は、三酸化タングステン(WO)の三斜晶系と単斜晶系のX線回折パターンを示すグラフである。X線回折パターンの測定は、X線としてCuKα線(λ=0.15418nm)を用いて入射X線に対して試料をθ回転させると同時に、比例計数管からなる検出部を2θ回転させるゴニオメーターによって回折角度(2θ)毎のX線強度(CPS)を測定した。なお、図4中、上側が三斜晶系WO、下側が単斜晶系WOの場合を示す。
【0026】
図4から明らかなように、三斜晶系及び単斜晶系の三酸化タングステンの夫々の回折パターンを比較すると、大部分が類似している。しかし、回折角度2θが30〜35°の範囲でパターンが大きく異なっていることが確認できる。特に、2θ=34.155°に単斜晶系特有の高いピーク、三斜晶系特有の小さい複数のピークがあり、その差が明らかである。また、単斜晶系の三酸化タングステンの場合には、2θが30〜35°の範囲でピークが2箇所であるのに対し、三斜晶系の三酸化タングステンの場合には、同範囲でピークが3箇所以上であることが確認できる。さらに、2θが30〜35°の範囲のピーク値に対する2θが30〜35°の範囲に現れるピーク値の比率については、三斜晶系の三酸化タングステンの場合には50〜60%と低いのに対し、単斜晶系の三酸化タングステンの場合には70〜95%であり、ピーク値の差が小さかった。
【0027】
図5は、三酸化タングステンの結晶構造が異なる場合のアセトアルデヒドガス分解効果を比較した特性図である。図5中、線aは本発明の単斜晶系WO微粒子(図4のグラフの下側)、線bは比較例である三斜晶系WO微粒子(図4のグラフの上側)、線cは光触媒を用いることなく光も照射しない場合を示す。図6は、図5の特性図を得るために用いた測定装置の概略図を示す。図中の符番1はデシケーターを示す。デシケーター1の中に光触媒入りシャーレ2が収納されている。このシャーレ2の下部のデシケーター1内にはファン3が配置されている。デシケーター1の上部、側部には、配管4を介してマルチガスモニター5が接続されている。また、デシケーター1の斜め上部には、光触媒に光を照射する青色LED光源6が取り付けられている。
【0028】
なお、上記測定装置の仕様は次の通りである。
・測定BOX容量:3000cc
・使用光源 :青色LED
・測定器 :マルチガスモニター
・導入ガス :アセトアルデヒド10ppm相当
・青色LED :0.88mW/cm(UV−42)
0.001mW/cm(UV−35)
・三酸化タングステン微粒子粉末量:0.1g
図5より、線aは線bと比べてガス分解効果が高いことが分かる。従って、本発明による単斜晶系三酸化タングステン微粒子の方が可視光を照射したときの光触媒効果が大きいことが明らかである。
【0029】
本発明の光触媒塗料としては、前記三酸化タングステン微粒子を使用し、塗装完了後に三酸化タングステン微粒子が単斜晶系の結晶構造を維持した構成のものが挙げられる。光触媒塗料は、光触媒のVOC除去を含め優れた機能をもつので、例えば空気清浄機に使用される脱臭フィルタに使用するのに適している。
本発明の光触媒体としては、前記光触媒塗料を基体表面に塗布して光触媒膜が形成された構成のものが挙げられる。ここで、光触媒体としては、例えば蛍光ランプ等の管球製品、窓ガラス,鏡,タイル等の建材、衛生用品、空調機器や脱臭器のフィルター部品、光学機器等が挙げられるが、適用可能な用途、カテゴリーはこれらに限られるものではない。
【0030】
本発明の光触媒製品としては、前記光触媒塗料と、GaN青色発光ダイオードまたは青色光で励起される蛍光体を使用した白色発光ダイオードを組み合せた構成のもの、あるいは、前記光触媒フィルターと、GaN青色発光ダイオードまたは青色光で励起される蛍光体を使用した白色発光ダイオードを組み合せた構成のものが挙げられる。ここで、光触媒製品とは、具体的には例えば蛍光ランプや照明器具や脱臭ユニットを示す。
【0031】
[光触媒微粒子の製造装置]
本発明において、光触媒微粒子は、例えば図7に示す製造装置を用いて製造される。この製造装置は、スプレードライヤー本体Aと、気体液体混合部Bと、加圧空気導入部Cと、溶液導入部Dと、粒体回収部Eとから構成されている。図中の符番51は、上部に分配器52を備えた乾燥チャンバーを示す。ここで、分配器52は、乾燥チャンバー51を200℃に加熱するためのエアー導入口の働きをする。乾燥チャンバー51には、噴霧ノズル53、及び電磁弁54を介装した配管55aが分配器52を貫通するように配置されている。前記配管55aは、水溶液を加圧し、霧化させるだけのエアー導入口の働きをする。前記乾燥チャンバー51の上部には、配管55bにより給気されるようになっている。前記配管55bは、水溶液とエアーを加熱するための熱風給気口の働きをする。前記配管55aは、途中でニードル弁56を介装した配管55cに分岐されている。
【0032】
前記配管55cは、噴霧ノズル53の上部と連結されている。噴霧ノズル53の上部には、試料57をポンプ58により噴霧ノズル53内に供給するチューブ59が接続されている。噴霧ノズル53内に供給される試料57の量は、ポンプ58により適宜調節できるようになっている。前記乾燥チャンバー51の側部には、噴霧ノズル53から霧状に噴霧された生成物を取り出すサイクロン60が連結されている。更に、サイクロン60には、光触媒微粒子を収集する生成物容器61と、排気のためのアスピレータ62が接続されている。
【0033】
図示しない温度センサーは、前記乾燥チャンバー51の入口側、出口側に配置されている。前記温度センサーにより、乾燥チャンバー51へ供給する空気の温度、サイクロン60に送られる光触媒微粒子の雰囲気温度が測定される。また、配管55c内に供給される空気は、噴霧ノズル53の上部側でチューブ59内に供給される試料57と混合され、噴霧ノズル53の下部から霧状に噴出される。
【0034】
こうした構成の製造装置を用いて光触媒微粒子を製造する場合は、次のように行う。まず、1〜20重量%のパラタングステン酸アンモニウム水溶液(試料)を、加圧空気とともに噴霧ノズル53内に送り、例えば200℃熱風雰囲気中で噴霧ノズル53の先端からスプレーして粒径1〜10μmに噴霧させ、粒状原料を生成する。この際、配管55aから噴霧ノズル53の先端付近に加圧空気を送り、噴霧ノズル53から噴霧される粒状原料に酸素を供給する。次に、乾燥チャンバー51内で700〜800℃で1〜10分間加熱処理を行ない、三酸化タングステン微粒子を主成分とし、該微粒子の平均粒径が0.1μmで、結晶構造が単斜晶系の光触媒微粒子を形成する。つづいて、アスピレータ62で乾燥チャンバー51内の排気を行いながら、乾燥チャンバー51内の光触媒微粒子をサイクロン60より生成物容器61内に収集する。
【0035】
本発明者等の研究によると、酸化タングステン(WO)粉末の中でも触媒特性に差があることが分かった。具体的には、酸化タングステン粉末において波長430〜500nmの光を照射した際の触媒効果(分解能力)に差があることを見出したのである。本発明では、上記光を酸化タングステン粉末に照射すると、酸化タングステン粉末が励起される。
【0036】
つまり、本発明では波長430〜500nmの光を照射した際の触媒効果(分解能力)により、酸化タングステン粉末を選別し、優れた特性を有する光触媒材料を得ることを可能とする。また、優れた分解能力を有する酸化タングステン粉末を用いるので、従来と比べ、省スペース、軽量化が可能な光触媒製品を提供することを可能とするものである。
【0037】
[光触媒材料(第1の光触媒材料)]
本発明の第1の光触媒材料は、上記(8)に記載したとおりである。
本発明者等は、430〜500nmの波長の中で特にピーク波長460nm±10nmの光を照射することにより、分解能力の差がより顕著に現れることを見出した。
太陽光は、紫外線〜可視光領域(300〜800nm)の光が混在して照射される。そのため、430〜500nmの範囲のみの光を照射することはできない。また、通常の蛍光灯は水銀を励起源とし、ハロリン酸カルシウム蛍光体(Ba,Ca,Mg)10(PO・Cl2:Eu等を用いている。このような蛍光灯は、420〜470nm、550〜580nm(但し、水銀自体によるピークは除く)の2つの範囲にピーク波長を有する。この2つの光により白色光を得ている。蛍光灯においても2つの光が混在している。そのため、430〜500nmの範囲のみの光を照射することはできない。
【0038】
このため、従来は、430〜500nmの光のみを照射した際の触媒効果については何ら検討されていなかった。例えば、2つ以上の波長(この場合、青色、緑色、黄色、赤色領域の波長)が混在していた場合、430〜500nmの励起のみによる触媒効果を確認することはできない。
【0039】
本発明者等では、酸化タングステン粉末は430〜500nmの励起のみによる触媒効果に差があることを初めて見出したのである。
光源としては、発光ダイオードが好適である。発光ダイオードは半導体素子であるため、蛍光灯のように水銀を使用することがない。従って、環境にやさしく、蛍光灯の代替品として開発が進められている。その中でも青色発光ダイオード(B−LED)は、安定して青色光(波長430〜500nm)を供給することができることが確認されている。
【0040】
従来、光触媒用の光源としてB−LEDは試されておらず、酸化タングステン粉末の430〜500nm単独光による触媒効果は検証されていなかった。本発明では、光源としてB−LEDを用い、酸化タングステン粉末の触媒効果を検討した。その結果、本発明者等は、同じにみえる酸化タングステン粉末であったとしても触媒効果に差があることを見出した。
【0041】
[光触媒材料(第2の光触媒材料)]
本発明の第2の光触媒材料は、上記(14)に記載したとおりである。
第2の光触媒材料において、青色光を放射する光源としては、470nm付近に発光ピークを有するGaN系の発光ダイオードであることが好ましい。平均粒径は、10μm以下であることが好ましい。また、単斜晶を主相とすることが好ましい。
【0042】
本発明において、分解能力試験は次のように行う。
[第1の光触媒材料を見出す分解能力試験方法(第1の分解能力試験)]
1) まず、硝子製容器として、3リットルのものを用意する。また、硝子製容器としては、気密性が高く、ピーク波長460nm±10nmの光を透過するものであれば特に限定されるものではないが、有機物等との反応が置き難いコーニング社のパイレックス(登録商標)製が好ましい。
2) 次に、硝子製容器の中に酸化タングステン粉末1g、アセトアルデヒド20ppm(アセトアルデヒド量A)を入れる。
3) つづいて、ピーク波長460nm±10nmの光を2時間照射後のアセトアルデヒド量Bを測定し、下記式により分解能力(%)を測定する。
分解能力(%)=[(アセトアルデヒド量A−アセトアルデヒド量B)/アセトアルデヒド量A]×100
アセトアルデヒド量の測定には、マルチガスモニターを使用する。
【0043】
本発明では、初期のアセトアルデヒド量A(20ppm)を基準とし、ピーク波長460nm±10nmの光を2時間照射後の残存したアセトアルデヒド量(アセトアルデヒド量B)を測定する。そして、残存したアセトアルデヒド量が50%以下(分解能力50%以下)になったものを識別する。
【0044】
本発明の試験方法において重要なのは、酸化タングステン粉末量1gと初期アセトアルデヒド量20ppmである。1gと少量の酸化タングステン粉末で20ppmのアセトアルデヒドをどの程度分解できるかを確認する。この際、ピーク波長460nm±10nmの光を用いると、特性の差が明確に現れるのである。
【0045】
また、一度に1gを越えた量の酸化タングステン粉末について試験を行う場合は、その量に応じてアセトアルデヒド量を増やして行う。その際、必要に応じて硝子製容器のサイズを大きくしてもよい。但し、一度に測定する量があまり大きくなり過ぎると、容器の底の方に存在する酸化タングステン粉末がアセトアルデヒドと接触しない可能性もある。従って、一度に測定する量は500gを上限とすることが好ましい。500gを超えた量を測定する際は、500g以下に、好ましくは100g以下に分割して測定する方法がよい。
【0046】
また、簡易的には、任意に抽出した1gを測定する行為を10回(10箇所)行うことにより、対応しても良い。更に、粉末の配置状態も厚さ1mm以下、好ましくは0.5mm以下となるように敷くことが必要である。なお、酸化タングステン粉末が1g未満のときは後述の第2の分解能力試験を適用するのが好ましい。
【0047】
ピーク波長460nm±10nmの光としては、この範囲にピーク波長があれば特に限定されるものではないが、好ましくは図19に示したような波形である。図19のような波形を提供する光源としては、青色発光ダイオード(B−LED)が挙げられる。また、波形としては、半値幅が50nm以下になるようなシャープな波形であることが好ましい。シャープな波形であれば前述の分解能力試験を行った際の分解能力の良否に差が出易い。
【0048】
光の出力は1mW/cm以上であることが好ましい。光の出力が1mW/cm未満の場合、光を照射している効果を得難く、分解能力を正確に判断し難い。光の出力は、好ましくは2〜5mW/cmである。試験を行う上で、5mW/cmを超えた出力の光を照射しても問題は無い。しかし、それ以上の効果がなく、電力の無駄遣いになるので前記範囲が好ましい。
以上のような分解能力試験により、分解能力50%以上、さらに好ましくは90%以上100%以下のものを選別することにより、優れた光触媒材料を得ることが可能となる。
【0049】
[第2の光触媒材料を見出す分解能力試験方法(第2の分解能力試験)]
1) まず、容積3リットルの気密性容器を用意する。この気密性容器は硝子製容器、特にパイレックス(登録商標)製が好ましい。
2) つづいて、この容器内に質量0.1gの酸化タングステン微粒子(例えば、平均粒径0.5μm以下)を入れる。
3) 次に、アセトアルデヒドを10ppm導入し、酸化タングステン微粒子に光源より青色光を照射して30分後にアセトアルデヒドの残存量を測定し、残存率を求める。残存率(%)は、次の式より求める。
残存率=[(10ppm−30分後に残存したアセトアルデヒド量ppm)/10ppm]×100
なお、青色光を放射する光源としては、470nm付近に発光ピークを有するGaN系の発光ダイオードであることが好ましい。
【0050】
残存率は50%以下、好ましくは40%以下である。このような特性を有するものを選別することにより、優れた光触媒材料を得ることが可能となる。第2の分解能力試験は、酸化タングステン粉末が0.1gと少量のため、測定時間を30分とした。第1の分解能力試験のように酸化タングステン粉末が1gと比較的多い場合、10ppmのアセトアルデヒドでは一気に分解してしまい分解能力の差を求め難い。また、アセトアルデヒドの残存量は、マルチガスモニターを用いて測定する。
【0051】
[第3の分解能力試験]
第1の分解能力試験及び第2の分解能力試験は、気密性容器を用いて密閉された空間で分解能力を測定する方法である。それに対して、第3の分解能力試験として、ガスを流しながら測定する方法もある。そのような方法の具体例としてJIS−R−1701−1(2004)がある。このJISは窒素酸化物の除去性能(分解能力)を測定するためのものであるが、アセトアルデヒド等の有機物の分解能力試験にも適用可能である。
【0052】
JIS−R−1701−1に準じた方法を行う場合、容器は当該JISに「光照射容器」として規定されたものを用いることが好ましい。第3の分解能力試験は次のように行う。
【0053】
1) まず、測定試料として光触媒材料1gを50×100mmのガラス板上に均一に塗布し、容器内に収納する。
2) 次に、容器のガス供給口から分解ガスとして、アセトアルデヒドを0.1〜10ppm含有した空気を一定の流速(l/min)で流し込む。また、光触媒材料にはピーク波長460nm±10nmの光を照射する。光の照射時間が60分になったところで容器ガス供給口でのアセトアルデヒド濃度[I]と容器のガス排出口でのアセトアルデヒド濃度[I]を測定する。その上で下記式より分解能力(μg/m)を求める。
分解能力=(K/S)[([I]−[I])×流速(l/min)×照射時間(60min)×m]/22.4
式中、Kはcmをmに変換する係数であり、K=10000である。Sはガラス板上の光触媒材料の面積であり、S=50cmである。容器ガス供給口でのアセトアルデヒド濃度[I0]と容器のガス排出口でのアセトアルデヒド濃度[I]はそれぞれ(体積ppm)であり、mはアセトアルデヒドの分子量である。
【0054】
上記式は分解能力を分解したアセトアルデヒド量の絶対値を測定する方法である。また、この式はJIS−R−1701−1(2004)7.試験結果の計算のa)試験片による窒素酸化物吸着量に記載の(1)式に準じたものである。この絶対値から分解能力を%に換算しても良い。また、ピーク波長460nm±10nmの光を照射する光源としては、青色LEDが好ましい。
【0055】
第3の分解能力試験はJIS法に準じているので、測定方法としての信頼性は高い。しかしながら、試料の調整、流速の調整、アセトアルデヒドの初期濃度(アセトアルデヒドを含有する空気)の調整など調整事項が煩雑である。そのため、本発明では第1または第2の分解能力試験を採用した。なお、第1の分解能力試験と第3の分解能力試験(測定値から%に換算)の測定結果の差は±5%程度であった。
【0056】
光触媒材料は平均粒径10μm以下が好ましく、さらに好ましくは平均粒径1μm以下、さらには0.5μm以下である。平均粒径が小さくなると粉末の表面積が大きくなるので触媒効果が増加する。
【0057】
本発明において、単斜晶を主相とする酸化タングステン粉末であることが好ましい。単斜晶を主相とする酸化タングステン粉末を50質量%以上、さらには70質量%以上具備する光触媒材料であることが好ましい。酸化タングステン粉末には、単斜晶の他に三斜晶がある。本発明の酸化タングステン粉末(光触媒材料)は三斜晶系が混在していても良いが、好ましくは単斜晶を主相とすることである。単斜晶を主相とするものは、第1及び第2(更には第3)の分解能力試験での選別が行い易い。
【0058】
[酸化タングステン粉末の製造方法]
次に、酸化タングステン粉末の製造方法について説明する。製造方法は、前述の分解能力試験を行って選別する方法が最も好ましい方法である。
選別する前の酸化タングステン粉末に関しては、例えば、(a)金属タングステンを直接酸化する方法、(b)パラタングステン酸アンモニウム(APT)等のタングステン化合物を空気中で熱分解して酸化物を得る方法が挙げられる。いずれの方法でも酸化タングステン(WO)粉末を得ることができる。
【0059】
APTを使う製法としては、例えば次のものが挙げられる。まず、APTをビーズミルや遊星ミル等で粉砕し、遠心分離により分級する。次に、この微粒子を大気中で400〜600℃で熱処理する。これにより、平均粒径0.01〜0.5μmで、結晶構造が単斜晶系の結晶構造を持つ酸化タングステン微粒子からなる光触媒粉体が生成精製できる。
【0060】
また、他の方法としては、次の(1),(2)の方法がある。
(1) 1〜20質量%のAPT水溶液を、高温雰囲気中で噴霧して粒状原料を生成する工程と、この粒状原料を700〜800℃で1〜10分間加熱処理を行う工程を具備する方法。これにより、結晶構造が単斜晶系の酸化タングステン粉末が得られる。
(2) APTを水系溶媒に溶解させた後、再結晶化を行う工程と、この結晶を600℃以上、15秒以上の条件で焼成する工程を具備する方法。これにより、酸化タングステン粉末が得られる。
いずれの方法でも熱処理条件等を調整することにより、単斜晶系酸化タングステンを得ることが可能である。なお、前記製法では平均粒径0.1μmの酸化タングステン粉末が得られる。しかし、製法や製造条件によって得られた酸化タングステン粉末の粒径が大きい場合は、分級して平均粒径10μm以下、好ましくは1μm以下の粉末を得ることが好ましい。
【0061】
以上のような光触媒材料は、優れた光触媒効果を有していることから、有機物、NOx、SOxなどの分解が可能である。
【0062】
[光触媒組成物]
本発明の光触媒組成物は、上記(18)のように、光触媒材料を50質量%以上含有している。光触媒材料が50質量%未満では、十分な光触媒効果が得られない。また、この光触媒組成物は、酸化チタン粉末を50質量%未満含有してもよい。
【0063】
[光触媒製品]
本発明の光触媒製品は、上記(21)の通りである。上記光触媒組成物は光触媒製品に好適であり、有機物、NOx、SOxの少なくとも1種に触媒効果を有する。
本発明の光触媒材料を光触媒製品に適用する際は、430〜500nmの波長を含む光を発する光源を有する環境であれば特に限定されるものではない。励起源(光源)としては、430〜500nmの波長を含む光を有するものであればよい。光源としては、例えば、青色発光半導体素子(例えば、青色発光ダイオード、青色半導体レーザ)、太陽光、各種蛍光灯が挙げられる。また、430〜500nmの波長の光量は、1mW/cm以上であることが好ましい。
【0064】
また、光触媒製品にする際、430〜500nmの波長の光量が1mW/cm以上、さらには5mW/cm以上と光量の大きな環境であれば、本発明の光触媒材料を50質量%以上含有した光触媒組成物でよい。なお、酸化タングステン粉末中の本発明の光触媒材料の割合が90%以上、さらには100%と多くなるほど良いことは言うまでも無い。
【0065】
また、太陽光のように紫外線領域を含む光源下で使用する場合、酸化チタン(TiO)粉末を50質量%未満含有した光触媒組成物を用いても良い。本発明の光触媒製品は、基体表面に酸化タングステン粉末を所定のバインダーにより結着させて成膜された光触媒膜を具備していることが好ましい。光触媒体の基体は、光触媒膜を担持するもので、元来光触媒材料と異なる他の機能のために形成されるものである。即ち、基体は機能材であることを許容する。
【0066】
機能材としては、例えばタイル、窓ガラス、天井パネル等の建築材や、厨房用及び衛生用の器材、家電機器、照明用器材、消臭用又は集塵用フィルター等さまざまな任意所望の部材が挙げられる。
【0067】
光触媒材料である酸化タングステン粉末を用いて光触媒膜を形成する場合、光触媒物質を直接焼成して焼結により基体に結着させることもできる。しかし、適当なバインダーを用いて基体と光触媒材料との間を結合させて成膜すると、製造が容易になる。また、直接焼成のように高温下に晒さないで済むので、熱に弱い基材上にも成膜することができる。
【0068】
光触媒材料からバインダーを用いて光触媒膜を形成する場合、バインダーとしては、例えば、シリカ(SiO)、はんだガラス、釉薬、低融点金属、熱可塑性合成樹脂を用いることができる。なお、光触媒材料の粉末(微粒子)を焼成により基体に結着させるためには、基体は焼成温度に耐えるものを用いる必要があるのはいうまでもない。
【0069】
光触媒材料である酸化タングステン粉末の1次粒子を0.001〜0.1μmとし、表面が緻密な膜が形成できる。これにより、可視透過率も向上する。光触媒材料である酸化タングステン粉末の粒度分布がなるべく均一であり、微粒子の形状が真球に近いものを採用することが好ましい。その結果、光触媒膜の表面にわずかな隙間として形成される気孔の半径が一定に揃う。従って、例えばアセトアルデヒドのような分子半径の小さな臭いのガス分子が光触媒膜の表面の気孔を通過し、速やかに分解される。この構成によれば、ホルムアルデヒドの消臭即ち分解に対しても効果的である。これに対して、カーボンやたばこの脂のような粒子半径が0.1μm以上の汚染物質は上記気孔に潜り込むことができない。しかし、汚染物質は、光触媒膜の表面に接触して酸化・還元作用により分解される。
【0070】
機能材とは、それ自体が元来光触媒膜とは別の目的のための機能が付与された器材をいう。機能材としては、例えば、建築材、衛生用機器、厨房用機器、機器用フィルター、家電機器、照明用器材が該当する。建築材としては、例えばタイル,床材,窓材,壁材が挙げられる。衛生用機器としては、例えば洗面台,浴槽,大・小便器が挙げられる。厨房用機器としては、例えば流し,調理台,食器戸棚が挙げられる。
【0071】
機器用フィルターとしては、例えば空気清浄器用フィルター,風呂用循環器用フィルター,空気調和装置用フィルター,暖房器用フィルター,消臭器用フィルターが挙げられる。流体通流孔隙を有するフィルターを基体とし、この基体の表面に酸化タングステン粉末を主成分とする光触媒膜を形成する構成が考えられる。この構成の場合、フィルターを流通する空気は、なるべく広い面積の光触媒体に接触しながら通流する。そのため、消臭効果を高めることができる。また、殺菌効果を奏することもできる。また、フィルターと光触媒体とを別体にして消臭装置を構成することができる。即ち、光触媒体をフィルターとは別にして通気路中に配設して、流動空気が光触媒体に接触するようにすればよい。
【0072】
また、本発明は、消臭装置を単体として使用する他に、機器に内蔵させることもできる。例えば、冷蔵庫,空気調和装置,冷房装置,暖房装置,空気清浄装置,加湿器,除湿器に内蔵した消臭機能を、消臭装置として扱うことができる。
家電機器としては、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、皿洗い器、コーヒーメーカー、電気掃除機などである。
照明用器材としては、ランプたとえば蛍光ランプ、照明器具用セード・グローブ、透光性カバー、シャンデリア用カバー、反射板、ソケットなどである。
【0073】
照明器具は、特に高気密の屋内において問題になっているVOCを分解できるという顕著な作用を奏するから、室内用に好適であるが、汚れ物質分解作用をも併せ持つから、屋外用の照明器具にも適応する。
本発明の光触媒を家電機器、照明用基材、照明器具に適用すれば、消臭機能等の光触媒効果を備えた家電機器、照明用基材、照明器具を形成することができる。
【0074】
照明器具本体とは、照明器具からランプを除外した残余の部分を意味する。照明器具は、屋内用、屋外用の区別、及び家庭用、業務用の区別、更には意匠設計によって様々な構造及び形状を採用されることは周知である。しかし、これに伴って反射板、透光カバー、ルーバー、セード及びグローブ等の制光手段を適宜選択して用いる。従って、反射板の有無、透光カバーの有無等、制光部材の構成について、照明器具本体が備えているかは問わない。但し、照明器具本体は、ランプを支持する部分、電源を接続する部分及び照明器具を取り付ける部分等をほぼ共通的に備えている。
【0075】
このように、機能材を基体として酸化タングステン粉末を主成分とする光触媒膜を形成している。従って、これらの使用中に光触媒膜が少なくとも可視光線を含む光照射を受けて活性化する。その結果、消臭、防汚、抗菌等の作用を併せて行うので、生活空間の衛生向上、清掃容易化などの効果を奏する。
【0076】
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る光触媒粉体は、次のようにして作成した。
まず、パラタングステンアンモニウム塩(APT)をビーズミルや遊星ミル等で粉砕し、遠心分離により分級した。次に、この微粒子を大気中で400〜600℃で熱処理することにより、平均粒径0.01〜0.5μmで、結晶構造が単斜晶系の結晶構造を持つ三酸化タングステン微粒子からなる光触媒粉体が生成精製できる。本実施形態では、大気中で約500℃で熱処理することにより、平均粒径約0.1μmの単斜晶系の三酸化タングステン微粒子を得ることができた。この工程における粒度分布データは図8、図9に示すとおりである。ここで、図8は分散後の粒度分布(粒子径と頻度、通過分積算との関係)を示す図、図9はWO分散塗料の粒度分布(粒子径と頻度、通過分積算との関係)を示す図である。図8及び図9より、熱処理によって若干結晶成長して粒度が大きくなることが判明した。
【0077】
第1の実施形態に係る光触媒粉体によれば、平均粒径が0.1μmの三酸化タングステン微粒子を主成分とし、結晶構造が単斜晶系であるので、光触媒性能を大幅に向上しえる可視光応答形の光触媒粉体が得られる。
【0078】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る屋内用光触媒塗料は、次のようにして作成した。
まず、三酸化タングステン微粒子と微量の表面処理剤を有機溶剤(エチルアルコール)に混合し、ビーズミルで数時間分散処理した。つづいて、無機質バインダー(ポリシロキサン)を三酸化タングステン微粒子に対して30質量%と有機溶剤(アルコール)と数%の純水を加えて再度分散処理を行い、光触媒塗料を作成した。この後、得られた光触媒塗料に炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムを三酸化タングステンに対してモル%で0.1〜10%の範囲で数種類の量を加えた後、攪拌してサンプルを作成した。次に、このサンプル塗料をガラス板、アクリル板、蛍光ランプガラス管に塗布した後、120〜180℃で乾燥して、塗膜試料を作成した。
【0079】
これらを初期状態として1mのステンレス製BOX内に入れ、ガラス板、アクリル板はBLBランプで1mW/cmの紫外線を照射し、蛍光ランプはそのままBOX内で点灯し、ホルムアルデヒドの分解効果を測定した。測定後の試料をガラス板、アクリル板は室内に放置し、蛍光ランプは通常の事務所で点灯試験を行い、一週間毎にガス分解性能を測定した。
【0080】
第2の実施形態によれば、酸化タングステン微粒子を含む塗料に三酸化タングステンと比べSOxやNOxを吸着しやすい酸化マグネシウムを適宜添加し、得られた屋内用光触媒塗料からなる光触媒膜を蛍光ランプ本体に形成した構成にすることにより、消毒、防汚等の光触媒特有の効果が得られる他、使用中における光触媒膜の劣化を抑制でき、高寿命の蛍光ランプが得られる。
【0081】
(第3の実施形態)
まず、例えば4質量%のパラタングステン酸アンモニウム水溶液(試料)を、加圧空気とともに図7の噴霧ノズル53内に送り、200℃熱風雰囲気中で噴霧ノズル53の先端からスプレーして粒径1〜10μmに噴霧させ、粒状原料を生成する。この際、配管55aから噴霧ノズル53の先端付近に加圧空気を送り、噴霧ノズル53から噴霧される光触媒微粒子に酸素を供給する。水溶液の濃度が4質量%であれば、0.04〜0.4μmのパラタングステン酸アンモニウムの粒状原料が得られる。次に、乾燥チャンバー51内で800℃、1〜10分間の条件で急加熱短時間の熱処理を行なって、前記原料を強制的に乾燥して再結晶化させる。これにより三酸化タングステン微粒子を主成分とし、該微粒子の平均粒径が0.5μm以下、好ましくは0.1μm以下であり、結晶構造が単斜晶系の三酸化タングステン光触媒微粒子を形成する。つづいて、アスピレータ62で乾燥チャンバー51内の排気を行いながら、乾燥チャンバー51内の光触媒微粒子をサイクロン60より生成物容器61内に収集する。
【0082】
第3の実施形態によれば、配管55aから噴霧ノズル53の先端付近に加圧空気を送って、光触媒微粒子に酸素を供給することにより、酸素欠陥の少ないWO結晶光触媒微粒子を得ることができる。また、乾燥チャンバー51内で800℃、1〜10分間の条件で急加熱短時間の熱処理を行なうことにより、結晶成長の少ないWO結晶光触媒微粒子を得ることができる。
【0083】
図10は、第3の実施形態により得られた粒状原料としてのメタタングステン酸アンモニウムの顕微鏡写真を示す。図11は、第3の実施形態により得られた粒状原料を800℃、1〜10分の急加熱短時間の熱処理によって得られた単斜晶系型WO結晶光触媒微粒子の顕微鏡写真を示す。図10より、若干の差は見られるが、粒径の揃ったメタタングステン酸アンモニウムの粒状原料が得られることが分かる。
【0084】
(第4の実施形態)
本実施形態の微粒子は、市販のパラタングステン酸アンモニウムを水系溶媒に溶解させた後、再結晶化して得られた原料を大気中高温で1分加熱焼成することにより製造された三酸化タングステン微粒子である。
図12は、第4の実施形態における焼成温度を600℃、700℃、800℃、900℃と変化させた場合の各三酸化タングステン光触媒微粒子の、アセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図である。図13は、焼成温度を800℃、900℃、1000℃と変化させた場合の、同特性図である。
【0085】
図12および図13に示す分解性能評価は以下のような条件で行った。まず、容量200ccの密閉容器に0.1gの三酸化タングステン微粒子をシャーレに入れて容器内に設置し、この光触媒微粒子に図3に示す発光スペクトルを有する光が照射可能なように青色LEDを容器内に配設した。そして、容器内が10ppmの濃度になるようにアセトアルデヒドガスを導入すると同時に青色LEDを点灯させ、経過時間毎のガス濃度の変化を測定した。濃度の測定は、容器内に設置したガスセンサーの出力で行い、この出力値の相対比較で評価した。図12および図13のグラフは、縦軸はアセトアルデヒドガスの濃度に対応するセンサーの出力を示す相対値(%)である。ガスは容器内に導入後、20〜30秒かけて充満し、その後光触媒の分解効果によって徐々に濃度が低下していく様子がわかる。なお、図12および図13では、便宜上センサー出力の最大値を100%として表わしている。
【0086】
図12および図13の結果によれば、原料である市販品のパラタングステン酸アンモニウムを水に溶解させ、再結晶にて細粒子化した結晶を800℃で焼成したときの分解効果が最も高く、好ましい焼成温度は700〜900℃であることが分かる。このように本実施形態の光触媒材料は、単に市販品を焼成して得られた酸化タングステンよりも可視光応答性に優れており、かつ光触媒活性を高めることができる。
【0087】
(第5の実施形態)
本実施形態の微粒子は、まず、市販のパラタングステン酸アンモニウムを水系溶媒に溶解させた後、再結晶にて得られた粒子を大気中800℃で所定時間加熱焼成することにより製造された三酸化タングステン微粒子である。
図14は、焼成時間を30秒(線(a))、1分(線(b))、5分(線(c))、10分(線(d))、15分(線(e))と変化させた場合の、アセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図である。なお、図14の分解性能評価条件およびグラフの表記内容は図12および図13と同じである。
図14の結果によれば、焼成時間を1〜5分とすれば、高いガス分解性能が得られることがわかる。
【0088】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に係る照明器具は、図16及び図17に示すような構成になっている。ここで、図16は前記照明器具の分解状態の斜視図、図17は図16の要部の拡大断面図である。本実施形態は、内面に紫外線遮断材料を主体とする紫外線カット層が形成された透過性セード(カバー)を使用した照明器具に関する。
【0089】
照明器具71は、天井に備えられた引掛シーリング及びこの引掛シーリングに取り付けられるアダプタを用いて天井部に直付け設置される器具本体72を備えている。この器具本体72は円盤状をなし、その中央部には厚さ寸法の大きい段部73が設けられ、更にこの段部73の中央部にはアダプタが挿入され機械的に接続される円形の開口部74が設けられている。
【0090】
また、器具本体72の周辺部には、2個のランプソケット75及び2個のランプホルダ76が設けられている。そして、ランプソケット75に電気的及び機械的に接続されるとともに、ランプホルダ76に機械的に支持されて、段部73を囲むようにして光源となる円環状の蛍光ランプの発光管77が2本、例えば32Wと40Wとの互いに外径の異なる蛍光ランプの発光管77が同心状に配置されている。また、開口部74の部分には、ソケット78が設けられ、このソケット78にベビー球などのランプ79が取り付けられる。
【0091】
器具本体72及び該器具本体72に取り付けられた部材の下方及び側方を覆うようにして、照明用光学部品としてのセード80が器具本体72に着脱可能に取り付けられる。セード80は、ガラスまたは樹脂など透光性を有し下方に滑らかに膨出する曲面状などに形成された照明用のアクリル製カバー基体81を備えている。この基体81の外面には、平均粒径が0.1μmで結晶構造が単斜晶系の三酸化タングステン微粒子からなる光触媒層82が形成されている。ここで、光触媒層82は次のように形成する。即ち、まず原料である市販品の100μm程度のパラタングステン酸アンモニウム(APT)をビーズミルや遊星ミル等で平均粒子径0.05〜0.1μmに粉砕し、この微粒子を大気中で500℃、8時間加熱することにより三酸化タングステン微粒子を作成する。次に、この三酸化タングステン微粒子とバインダー成分を溶媒で分散混合処理して塗料とし、この塗料をスプレーガンにより基体81に塗布し、乾燥することにより形成する。
【0092】
第6の実施形態によれば、基体81の表面に三酸化タングステン微粒子とバインダー成分とを分散させた塗料によって光触媒層82を設けたため、成膜後に高温で加熱処理を施す必要がない。従って、コーティング対象物が有機基材のような基材のものに光触媒機能を付与することができ、アクリルカバー外面に施工した場合でも十分な活性を得ることができる。
【0093】
なお、第6の実施形態では、光触媒層82は、基体81の外面に設けたが、この構成に限らず、例えば基体81を構成する樹脂に光触媒材料を混合して一体的に形成することもできる。
【0094】
図15は、第6の実施形態によるWO光触媒(線(a))を用いた場合、TiO光触媒(曲線(b))を用いた場合の波長と反射率との関係を示す図である。なお、図15中の曲線(c)はアクリルカバー透過率を示し、曲線(d)は3波長型蛍光ランプから放射される光の分光分布を示す。図15のグラフから明らかのように、本実施形態の三酸化タングステンは、光触媒活性のエネルギーとしてアクリルカバーが透過した400〜500nmの青ないし青緑色の可視光を効果的に吸収していることが分かる。
【0095】
(第7の実施形態)
本実施形態は、照明用のカラー鋼板反射板基体にWO光触媒層を形成した態様である。光触媒層は次のようにして形成した。即ち、まず、原料である市販品の100μm程度のパラタングステン酸アンモニウム(APT)をビーズミルや遊星ミル等で平均粒子径0.05〜0.1μmに粉砕し、この微粒子を大気中で500℃、8時間加熱することにより三酸化タングステン微粒子を作成する。次に、この三酸化タングステンとバインダー成分を溶媒で分散混合処理して塗料とし、この塗料をスプレーガンによりカラー鋼板反射板基体に塗布し、乾燥することにより形成する。
【0096】
第7の実施形態によれば、第6の実施形態と同様な効果を有する。
図18は、第7の実施形態による照明器具とTiO光触媒付蛍光ランプ(線(a))、TiO光触媒付蛍光ランプ(線(b))、及びTiO光触媒付照明器具とTiO光触媒付蛍光ランプ(線(c))による時間とアセトアルデヒド残存率との関係を示す特性図を示す。図18のグラフから明らかのように、照明器具の反射板基体表面に形成された光触媒層が従来のようにTiO微粒子からなるものよりも、単斜晶系三酸化タングステン微粒子を用いた方が光触媒効果の点で優れていることがわかる。
【0097】
(第8の実施形態)
まず、パラタングステン酸アンモニウム粉末を空気中で熱分解して酸化物を得ることにより酸化タングステン(WO)粉末を得た。次に、これを分級することにより平均粒径0.2μmの酸化タングステン粉末を得た。つづいて、焼成、分級の作業を数回行うことにより、ロットの異なる酸化タングステン粉末を調整し、粉末に損傷を与えないように混合を行い、均一化し、これを試料1〜5とした。
【0098】
次に、パイレックス製容器(3リットル)を5つ用意し、各試料から粉末を1g抜き取り、アセトアルデヒド20ppmと一緒に入れた。ピーク波長460nmの青色発光ダイオード(青色LED)を用意し、青色LEDの光を2時間照射後のアセトアルデヒド量をマルチガスモニターで測定し、分解能力(%)を求めた(第1の分解能力試験を採用)。
【0099】
また、光源として太陽光、蛍光灯(ハロリン酸カルシウム蛍光体を用いた通常の蛍光灯:東芝ライテック(株)製の商品名FL20SS)、ピーク波長530nmの緑色発光ダイオード(図20にピーク波形を示す)に変えた場合の分解能力も併せて測定した。その結果を下記表1に示す。なお、光量は、青色発光ダイオード(青色LED、波長460nm)、蛍光灯(波長400〜650nm)及び緑色発光ダイオード(緑色LED、波長530nm)については3mW/cmで統一した。太陽光(波長300〜800nm)の光量は、10mW/cmであった。
【0100】
また、比較のために平均粒径0.2μmの酸化チタン粉末を用いたものを併せて測定した。表1において、試料1〜4は本発明の実施例、試料5は本発明による分解能力を有しない酸化タングステンによる比較例、試料6は平均粒径0.2μmの酸化チタン粉末を用いて測定した比較例である。
【表1】

【0101】
また、図21に青色LED、図22に太陽光、図23に蛍光灯、図24に緑色LED、により励起させた場合の分解能力試験結果を載せた(横軸に時間(分)、縦軸に分解能力(%))。なお、図21〜24において、線a,b,c,d,e,fは、夫々試料1,2,3,4,5,6の場合を示す。
【0102】
表1及び図21〜24から分かる通り、試料1〜4のように青色LEDによる分解能力によって良い特性が得られた光触媒材料は、太陽光や蛍光灯においても良い特性が得られることが分かった。
【0103】
一方、試料5のように青色LEDによる分解能力結果が50%未満の場合は、太陽光や蛍光灯においても良い結果は得られなかった。また、緑色LEDのようにピーク波長が430〜500nmにない光では、ほとんど分解能力が発揮されなかった。更に、製造方法は同じでもロット間で差があることも分かった。このため、本発明の分解能力試験により選別する方法が有効である。
【0104】
(第9の実施形態)
第2の分解能力試験で測定した結果を示す。まず、第8の実施形態実施例1と同様の方法により、平均粒径0.1μmの酸化タングステン粉末として試料6,7,8を得た。次に、パイレックス製容器(3リットル)を3つ用意し、この容器内に前記試料から0.1gの酸化タングステン粉末を軽量し、夫々の容器に入れる。つづいて、アセトアルデヒドを10ppm導入し、酸化タングステン粉末にピーク波長470nmの青色LEDを用いて青色光を照射して0.5時間(30分)後にアセトアルデヒドの残存量をマルチガスモニターで測定し、残存率を求めた。
【0105】
その結果は、前述した図5に示すとおりである。図中、線aは試料7、線bは試料8、線cは光触媒を用いることなく光も照射しない比較例である。0.5時間での残存率は、試料7(実施例)が38%、試料8(比較例)が70%、比較例が99%である。
また、試料7,8のX線回折パターンを確認したところ、試料7は単斜晶が主相、試料8は三斜晶が主相であった。この結果から、酸化タングステン粉末は単斜晶が主相であることが好ましいといえる。
【0106】
(第10の実施形態)
平均粒径が異なる以外は、試料2と同じものを用いて第8の実施形態同様、第1の分解能力試験を行った。その結果を下記表2に示す。
【表2】

【0107】
表2より、粒径が小さい方が特性が良くなることが分かった。
【0108】
(第11の実施形態)
本実施形態では、試料2を用いて、照射する光量を変えた場合の第1の分解能力試験を行い、分解能力の変化を調べた。その結果を下記表3、表4に示す。
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
表3及び表4より、光量は1mW/cm以上が好ましいことがわかる。また、図25に表3の青色発光ダイオードの光量を変えた場合の分解能力試験を図に示した。線a,b,c,d,e,fは、夫々照射した光量(mW/cm)を0.1,1,3,5,10とした測定結果である。図25より、光量が大きくなると分解するスピードが速くなることがわかる。但し、5mW/cmを超えるとそれほど大きな差は現れないことが分かった。
【0111】
(第12の実施形態)
まず、試料2のWO粉末と試料6のTiO粉末と所定量混ぜることにより、光触媒組成物を用意した。そして、混合比率を変えた各試料について、青色LED又は太陽光により励起させた場合の第1の分解能力試験を行い、能力の違いを調べた。その結果を下記表5に示す。
【表5】

【0112】
表5より、TiO粉末と混合すると、太陽光のように紫外線領域を含む光で励起させた場合の分解能力が向上することがわかる。但し、TiO粉末量が50質量%を超えて大きくなると、特性がTiO粉末のみのときに近くなるため、本発明のWO粉末と混合する効果が得難くなる。
【0113】
(第13の実施形態)
本実施形態では、試料2のWO粉末を用いて、試料量を変えた場合の第1の分解能力試験を行い、アセトアルデヒド20ppmを50%分解するまでの時間、90%分解するまでの時間を測定した。その結果を下記表6に示す。
【表6】

【0114】
表6より、光触媒材料量を増やせば分解能力は大幅に向上することが分かった。また、量が増えると分解能力の立ち上がりが早く、50%分解までの時間が非常に早くなることも分かった。
【0115】
(第14の実施形態)
図26は、本発明の消臭装置の一実施形態を示す概念図である。図26において、符番91は消臭フィルターを示す。ランプ92は、消臭フィルター91の側壁側に配置されている。前記消臭フィルター91及びランプ92は、ケースとしての消臭装置本体93内に収納されている。
【0116】
消臭フィルター91は、空気が通流する際に消臭されるように、表面を通気可能の当該表面に基体に平均粒径0.05〜0.1μmのWO微粒子を主成分とする光触媒膜を形成したものである。要すれば、消臭フィルター91は、集塵機能を備えていることを許容する。また、消臭フィルター91の通気の前段に集塵フィルターを配設してもよい。なお、本実施形態における光触媒材料は、第1の分解能力試験において分解能力90%以上及び第2の分解能力試験で残存量40%以下を示したものを用いた。
【0117】
ランプ92は、消臭フィルター91に可視光線を含む光を照射して光触媒膜を活性化させるもので、蛍光ランプ、高圧水銀ランプ、発光ダイオード等を用いることができる。前記消臭装置本体93は、送風手段、電源及び制御手段等を備えている。そうして、空気が消臭フィルター91を通過する際に、消臭フィルター91の光触媒膜により臭いガスは消臭フィルター1により分解されて消臭される。
【0118】
図27は、本実施形態における光触媒効果を測定した結果を示すグラフである。図27において、横軸は時間(分)を、縦軸はアセトアルデヒド(CHCHO)の濃度(ppm)を、夫々示す。本測定は、アセトアルデヒドの分解、即ち消臭作用を調査する目的で実施した。測定条件は、500ppmの濃度でアセトアルデヒドを充満させている容積0.2mのボックス内に図11の消臭装置を収納して駆動させ、ボックス内の気体を攪拌しながら、B&K(ビー&ケー)社製の1302形マルチガスモニターによりアセトアルデヒドの濃度の変化を測定した。その結果をプロットしたのが線aである。また、比較のために、ランプを紫外線光源である殺菌灯として酸化チタンを主成分とした光触媒膜を消臭フィルターに形成したもの(線b)および消臭フィルターに光触媒膜が形成されていないもの(線c)を同一の条件で測定した。
【0119】
図27から明らかなように、本実施形態の場合は点灯開始30分でアセトアルデヒドが20%まで減少した。これに対して、酸化チタン光触媒(線b)の場合には、点灯開始30分でアセトアルデヒドが35%しか減少せず、光触媒膜がない場合(線c)には、アセトアルデヒドの濃度はほとんど減少しなかった。以上のことから、本実施形態のWO微粒子を主成分とする光触媒膜は、可視光線の照射によってアセトアルデヒドの分解にも優れた作用があることが確かめられた。
【0120】
(第15の実施形態)
図28は、本発明の光触媒製品の他の実施形態を示す概念的要部拡大断面図である。図28において、符番94はソーダライムガラスからなる基体、符番95は光触媒膜である。光触媒膜95は、平均粒径0.05〜0.1μmの酸化タングステン粉末を主体としてなり、シリカ微粒子等のバインダーによって結着されて基体94上に成膜して形成したものである。なお、酸化タングステン粉末は第1の分解能力試験で分解能力90%以上及び第2の分解能力試験で残存量40%以下を示したものを用いた。
【0121】
光触媒膜94に波長約400nm以上の可視光線を含む光が照射されると、酸化タングステン粉末は光励起される。そして、価電子帯より伝電帯に励起された電子は、空気中の酸素と反応してスーパーオキシドを形成し、価電子帯に残された正孔は水等と反応してOH基を作る。このように生成された物質は、光触媒膜の表面に付着した有機物と酸化反応を起こす。有機物は酸化,分解されて、防汚,消臭及び殺菌効果を得る。
【0122】
また、殺菌に関しては、光触媒表面に吸着した細菌類が酸化タングステン粉末の酸化力によって増殖を抑える効果があり、この効果は色素の分解速度にほぼ比例することが確かめられた。しかし、波長200〜400nmの紫外線の照射を併用することにより、殺菌力はより高められる。この中でも、波長250nm付近の紫外線が最も効果が大きい。波長350nm付近の紫外線では、波長250nm付近の紫外線の能力の1/1000となる。更に、波長350nmの紫外線では、光触媒効果が加わることで殺菌効果は底上げされる。その結果、光触媒表面に吸着される速度が殺菌速度を決定するため、大量の殺菌は望めないので、波長250nm付近の紫外線が好ましい。
【0123】
図29は、本実施形態の光触媒体の親水性を説明する概念図である。符番96は光触媒膜95上に滴下した水滴である。光触媒膜95と水滴96との接触角θが60°以下の場合には、光触媒膜95は親水性であることが分かる。なお、図中Lは接線である。
【0124】
以上のことから本実施例の光触媒製品は殺菌用途にも適用でき、親水性を有していることからガス成分のみならず水溶液への光触媒効果が必要な用途にも適用できることが分かる。
【0125】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施径庭に亘る構成要素を組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は本発明に係る蛍光ランプの模式的な説明図を示す。
【図2】図2は本発明に係る脱臭ユニットの概略説明図を示す。
【図3】図3は本発明に係る青色発光ダイオード45の分光スペクトルの一例を示す。
【図4】図4は三酸化タングステン(WO)の三斜晶系と単斜晶系のX線回折パターンの一例を示す。
【図5】図5は三酸化タングステンの結晶構造が異なる場合のアセトアルデヒドガス分解効果を比較した特性図を示す。
【図6】図6は図5の特性図を得るために用いた測定装置の概略図を示す。
【図7】図7は本発明に係る光触媒材料を形成するための製造装置の概略図を示す。
【図8】図8は分散後の粒度分布(粒子径と頻度、通過分積算との関係)を示すグラフである。
【図9】図9はWO分散塗料の粒度分布(粒子径と頻度、通過分積算との関係)を示すグラフである。
【図10】図10は、第3の実施形態により得られた粒状原料としてのメタタングステン酸アンモニウムの顕微鏡写真を示す。
【図11】図11は第3の実施形態により得られた粒状原料を800℃、1〜10分の急加熱短時間の熱処理によって得られた単斜晶系型WO結晶光触媒微粒子の顕微鏡写真を示す。
【図12】図12は第4の実施形態における焼成温度を600℃、700℃、800℃、900℃と変化させた場合の各三酸化タングステン光触媒微粒子の、アセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図である。
【図13】図13は第4の実施形態における焼成温度を800℃、900℃、1000℃と変化させた場合の各三酸化タングステン光触媒微粒子の、アセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図を示す。
【図14】図14は焼成時間を30秒、1分、5分、10分、15分と変化させた場合の、アセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図を示す。
【図15】図15は第6の実施形態によるWO光触媒を用いた場合、TiO光触媒を用いた場合の波長と反射率との関係を示す図。
【図16】図16は第6の実施形態に係る照明器具の分解状態の斜視図を示す。
【図17】図17は図16の要部の拡大断面図を示す。
【図18】図18は第7の実施形態による照明器具とTiO光触媒付蛍光ランプ、TiO光触媒付蛍光ランプ、及びTiO光触媒付照明器具とTiO光触媒付蛍光ランプによる時間とアセトアルデヒド残存率との関係を示す。
【図19】図19は本発明の試験に用いる青色発光ダイオードの青色ピーク波長の一例を示す。
【図20】図20は本発明の試験に用いる緑青色発光ダイオードの緑青色ピーク波長の一例を示す。
【図21】図21は本実施形態にかかる試料1〜6の青色発光ダイオードにより励起させた場合の第1の分解能力試験を示す。
【図22】図22は本実施形態にかかる試料1〜6の太陽光により励起させた場合の第1の分解能力試験を示す。
【図23】図23は本実施例にかかる試料1〜6の蛍光灯により励起させた場合の第1の分解能力試験を示す。
【図24】図24は本実施形態にかかる試料1〜6の緑色発光ダイオードにより励起させた場合の第1の分解能力試験を示す図。
【図25】図25は本実施形態にかかる試料2について、青色発光ダイオードによる照射光量を変えた場合の第1の分解能力試験の一例を示す。
【図26】図26は本実施形態にかかる消臭装置の一実施形態を示す。
【図27】図27は本実施形態にかかる消臭装置のアセトアルデヒドの分解能力を示す。
【図28】図28は本実施形態にかかる他の光触媒製品の一実施形態を示す。
【図29】図29は本実施形態にかかる光触媒製品の親水性の一例を示す。
【符号の説明】
【0127】
1…デシケーター、2…シャーレ、3…ファン、4…配管、5…マルチガスモニター、6…青色LED光源、51…乾燥チャンバー、52…分配器、53…噴霧ノズル、54…電磁弁、55a、55b、55c…配管、56…ニードル弁、57…試料、58…ポンプ、59…チューブ、60…サイクロン、61…生成物容器、62…アスピレータ、91…消臭フィルター、92…ランプ、93…消臭装置本体、94…基体、95…光触媒膜、96…光触媒膜95上に滴下した水滴、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
430〜500nmの波長を含む光を発する光源により励起される酸化タングステン粉末を主成分とする光触媒材料において、以下に示す分解能力が50%以上であることを特徴とする光触媒材料。
[分解能力試験]
容積3リットルの硝子製容器中に、質量1gの酸化タングステン粉末及び20ppmのアセトアルデヒド(量A)を入れ、ピーク波長460nm±10nmの光を2時間照射後のアセトアルデヒド(量B)を測定したときの分解能力(%):
分解能力(%)=[(アセトアルデヒド量A−アセトアルデヒド量B)/アセトアルデヒド量A]×100
【請求項2】
上記光源が青色発光半導体素子を用いた発光ダイオードであることを特徴とする請求項1記載の光触媒材料。
【請求項3】
上記光源が太陽光であることを特徴とする請求項1記載の光触媒材料。
【請求項4】
上記光源が蛍光灯であることを特徴とする請求項1載の光触媒材料。
【請求項5】
430〜500nmの波長の光量が1mW/cm2以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光触媒材料。
【請求項6】
上記分解能力が90%以上100%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光触媒材料。
【請求項7】
可視光の照射により光触媒励起する酸化タングステン微粒子を主成分とする光触媒材料において、容積3リットルの気密性容器内にアセトアルデヒドガスを10ppm導入し、この容器内の質量0.1gの酸化タングステン微粒子に青色光を照射して30分後にアセトアルデヒドの残存率が50%以下となる分解能力を有していることを特徴とする光触媒材料。
【請求項8】
青色光を放射する光源が470nm付近に発光ピークを有するGaN系の発光ダイオードであることを特徴とする請求項7記載の光触媒材料。
【請求項9】
単斜晶を主相とすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光触媒材料。
【請求項10】
平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光触媒材料。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光触媒材料を50質量%以上含有したことを特徴とする光触媒組成物。
【請求項12】
酸化チタン粉末を50質量%未満含有したことを特徴とする請求項11記載の光触媒組成物。
【請求項13】
請求項11又は請求項12のいずれか1項に記載の光触媒組成物を用いたことを特徴とする光触媒製品。
【請求項14】
有機物、NOx、SOxの少なくとも1種に触媒効果を有することを特徴とする請求項13記載の光触媒製品。
【請求項15】
光触媒組成物を基体表面にバインダーにより結着させたことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の光触媒製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2008−6428(P2008−6428A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354990(P2006−354990)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】