説明

光触媒殺菌網

【課題】 藻類、フジツボなどの水中生物が付着せず、環境を汚染せず、長期間にわたる殺菌効果を持続することができるようにした光触媒殺菌魚網を提供すること。
【解決手段】 光触媒物質である酸化チタンを合成樹脂の中に混入して成形した光触媒部材8を、光触媒殺菌網3,54の網本体5の網目6を形成する長尺部7に装着する。光触媒部材8の細長い本体部11は、本体溝16を有する半直円筒体13に、本体溝16を弾発的に開閉可能な装着部14を有する。この本体部11には、長手方向に連なる先細状の半円錐台の両端部12が設けられる。端部12には、端部溝17が形成される。本体溝16と端部溝17とにわたり、網本体5の長尺部7が嵌り込む。酸化チタンの光触媒機能によって、殺菌作用が達成され、水中生物の付着が防がれ、養殖魚のための水が清浄化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網に水中生物が付着することを防ぐ光触媒殺菌網に関する。
本件明細書中、用語「網」は、養殖池、水槽、海、川、湖沼などで魚介類を捕獲する魚網、魚などの養殖のために水中の生簀などの養殖空間を規定する網、魚介類の養殖などのために用いられる水を清浄化するために水を厚み方向に流過するフィルタ、さらには単一の長手体、または複数本の並置された長手体などをも含む概念と解釈されなければならない。
【背景技術】
【0002】
魚類、甲殻類、貝類、藻類などの養殖のために水中の生簀の養殖空間を規定する網には、長期間の使用によって、水生生物が付着する。水生生物は、たとえば藻類、フジツボなどである。これによって養殖網の網目を流過する水が妨げられ、水質が悪化する。また養殖網にフジツボが付着した場合、作業者が、その網を取扱う作業能率が悪くなる。さらにこのような養殖網に、寄生虫が繁殖することがある。
【0003】
先行技術では、養殖網に水生生物が付着することを防止するために、有機スズ化合物を含む塗料が塗布される。この先行技術では、環境が汚染され、また付着防止効果が短期間しか持続しないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水中生物が付着せず、環境を汚染せず、長期間にわたる殺菌効果を持続することができるようにした光触媒殺菌網および光触媒部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸化チタンの粉体を合成樹脂の中に混入して成形した部品を、網本体に取付けることを特徴とする光触媒殺菌網である。
【0006】
また本発明は、網本体と、
この網本体の網目を形成する長尺部に装着され、少なくとも表面が光触媒機能を有する物質を含む材料から成り、弾発性を有する光触媒部材とを有することを特徴とする光触媒殺菌網である。
【0007】
本発明に従えば、光触媒機能を有する物質は、酸化チタンである。本件明細書中、酸化チタンとは、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、アナターゼ形酸化チタン、含水酸化チタン、水和酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸、水酸化チタンなどを含む概念であり、光触媒機能による殺菌作用を有する。酸化チタンに、そのバンドギャップ以上のエネルギを持つ波長、太陽光、蛍光灯、水銀灯、白熱灯などによるたとえば300〜400nmの近紫外線などの光を照射すると、光励起によって伝導帯に電子を、価電子帯に正孔を生じ、この光励起して生じた電子の持つ強い還元力および正孔の持つ強い酸化力を利用して殺菌作用を達成し、また有機物の分解、脱臭の各作用が達成される。これによって水に含まれる藻類、菌類などの有害物質を死滅させ、有害な物質を分解して水を清浄化することができる。そのため本件網への藻類およびフジツボなどの水中生物の付着が防がれ、マダイなどの養殖魚およびクルマエビなどの寄生虫などの繁殖が防がれる。また酸化チタンは、光触媒機能を達成するだけであって、それ自体消耗されないので、長期間にわたって使用されることができる。酸化チタンは、粒子径3〜230nmの粒子径を有し、好ましくは6〜22nmを有し、特に7〜20nmを有し、さらに特に7nmを有する。これによって光触媒活性が高く、しかも分散性が優れて達成される。
【0008】
光触媒機能を有する物質としての一例である酸化チタンは、合成樹脂とともに混合され、たとえば射出成形などの成形によって光触媒部材が製造され、この光触媒部材が、網本体の網目を形成する長尺部に装着される。酸化チタンなどの物質と混合される合成樹脂は、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などであり、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂などであってもよく、そのほかの各種の合成樹脂であってもよい。光触媒機能を有する酸化チタンなどの物質と合成樹脂とが混合されて成形される構成を有する光触媒部材を用いることによって、酸化チタンなどの物質が剥離、除去されることはなく、長期間にわたって使用することができる。
【0009】
光触媒機能を有する酸化チタンなどの物質は、網本体に装着される担体の表面に塗布などの手法で付着されて構成されてもよい。担体は、たとえば前述の合成樹脂から成ってもよく、または無機材料などから成ってもよい。
【0010】
酸化チタンのほかに、銀、銅などの殺菌作用を有する金属粉体が混合して用いられてもよい。
【0011】
また本発明は、光触媒部材は、光触媒機能を有する物質としての酸化チタンから成る粉体と、合成樹脂とを含む材料から成ることを特徴とする。
【0012】
本発明に従えば、酸化チタンから成る粉体と合成樹脂とを含む混合物である場合、酸化チタンから成る粉体は、光触媒部材の0.01〜20重量%、好ましくは11〜15重量%を含む。これによって酸化チタンの光触媒機能を充分に達成することができるとともに、光触媒部材を網本体の長尺部への装着のための装着部の弾発力を充分に発揮させることができるとともに、その装着後、光触媒部材が、使用時の外力によって不所望に剥離してしまうおそれがなくなる。
【0013】
また本発明は、光触媒部材は、
(a)細長い本体部であって、
網本体の前記長尺部が嵌り込む本体溝を有し、
前記長尺部を周方向に覆い、弾発的に本体溝を開閉可能な装着部を有する本体部と、
(b)本体部の長手方向に連なる両端部であって、
これらの各端部は、長手方向遊端になるにつれて先細状に形成され、
本体部の前記本体溝に連なり、前記長尺部が嵌り込む端部溝を有する端部とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、後述の図1〜図12に示されるように、細長い筒の一部を成す本体部と、錐体の一部を成す両端部とを有し、本体部の本体溝に長尺部の周方向の一部が嵌り込むとともに、装着部によって長尺部の周方向の残余の部分が覆われて、光触媒部材が長尺部に装着される。装着部は弾発性を有し、本体部に形成された本体溝を開閉可能であり、これによって光触媒部材を長尺部に、着脱可能に装着することができる。
【0015】
本体部に連なる両端部は、先細状であり、たとえば頂角θが40〜60度、45度であってもよく、したがってたとえば網目が正方形、長方形などの矩形であるとき、その長尺部の連結部で隣接する光触媒部材の相互の接触、衝突などが防がれる。これによって光触媒部材が長尺部から、前記接触、衝突などの外力による離脱することが防がれる。
【0016】
また本発明は、前記本体部は、
前記本体溝を有する半直円筒体と、
前記半直円筒体の周方向両端部に連なり、長手方向の同一位置で、周方向に全周の約1/4にわたって対向して延び、長手方向に間隔をあけて複数組の対を成して配置される装着部とを有し、
前記端部は、
その基端が前記半直円筒体に連なる半直円錐台であり、
前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なる前記端部溝を有することを特徴とする。
【0017】
また本発明は、長尺部に装着され、少なくとも表面が、光触媒機能を有する材料から成る光触媒部材であって、
(a)細長い本体部であって、
網本体の網目を形成する長尺部が嵌り込む本体溝を有する半直円筒体と、
前記半直円筒体の周方向両端部に連なり、長手方向の同一位置で、周方向に全長の約1/4にわたって対向して延び、長手方向に間隔をあけて複数組の対を成して配置され、前記長尺部を周方向に覆い、弾発的に本体溝を開閉可能な装着部とを有する本体部と、
(b)本体部の長手方向に連なる両端部であって、これらの各端部は、
その基端が前記半直円筒体に連なり、長手本体遊端になるにつれて先細状の半直円錐台であり、前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なり、前記長尺部が嵌り込む端部溝を有する端部とを含むことを特徴とする光触媒部材である。
【0018】
本発明に従えば、後述の図1〜図8に示されるように、本体部の半直円筒体と端部の半直円錐台は、一直線上に軸線をそれぞれ有し、網本体の長尺部を周方向に約180度にわたって覆って嵌り込み、本体部の半直円筒体の周方向両端から周方向に全周の約1/4にわたってそれぞれ延びる装着部によって、長尺部の残りの約半周が覆われる。こうして長尺部から光触媒部材が外力によって不所望に離脱することが確実に防がれる。
【0019】
半直円筒体と装着部との境界付近には、たとえばその外周部に、長手方向に沿って延びる凹部が形成され、これによって本体溝を開きやすくして長尺部への本体部の装着を容易にしてもよい。
【0020】
また本発明は、前記本体部は、
前記本体溝を有する全体の形状がほぼ直円筒体であり、
長手方向に沿って周方向に分断されてその長手方向に垂直な断面がC字状であり、
前記長手方向に沿って全長に延び、外周に臨んで凹んだ凹部を有し、
前記端部は、
その基端部が前記直円筒体に連なる半直円錐台であり、
前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なる前記端部溝を有することを特徴とする。
【0021】
また本発明は、長尺部に装着され、少なくとも表面が、光触媒機能を有する材料から成る光触媒部材であって、
(a)細長い本体部であって、
網本体の網目を形成する長尺部が嵌り込む本体溝を有し、全体の形状がほぼ直円筒体であり、
長手方向に沿って周方向に分断されてその長手方向に垂直な断面がC字状であり、
前記長手方向に沿って全長に延び、外周に臨んで凹んだ凹部を有し、長尺部を周方向に覆い、弾発的に本体溝を開閉可能な本体部と、
(b)本体部の長手方向に連なる両端部であって、これらの各端部は、
その基端が前記直円筒体に連なり、長手本体遊端になるにつれて先細状の半直円錐台であり、
本体部の前記本体溝に連なり、前記長尺部が嵌り込み、前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なる端部溝を有することを特徴とする光触媒部材である。
【0022】
本発明に従えば、後述の図9〜図12に示されるように、本体部の長手方向、すなわち軸線方向に垂直な断面がC字状であり、その長手方向に沿って延びる凹部によって、半径方向の厚みが薄く形成され、これによってその凹部よりも周方向に分断位置にわたる部分が、装着部として機能し、本体溝への長尺部の装着時、凹部よりも周方向に分断位置までわたる装着部として機能する部分を開いて、長尺部への本体部の装着が容易になる。
【0023】
また本発明は、本体部の外周には、多数の凸部が形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、多数の凸部が形成されることによって、表面積が増大され、その結果、酸化チタンの接触面積を大きくし、光触媒機能をさらに向上することができる。この凸部は、本体部に連なる両端部にも形成されてもよい。
【0024】
多数の各凸部は、球の一部分を形成する形状に形成されてもよいが、針状またはとげ状に形成されてもよく、そのほかの形状であってもよい。凸部の代りに、凹部であってもよい。
【0025】
また本発明は、光を反射して前記光触媒部材を認識させる色が施されていることを特徴とする。
【0026】
本発明に従えば、光触媒部材が光を反射することによって、魚類および甲殻類などに光触媒部材を認識させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、網本体の長尺部への水中生物の付着が長期間にわたって防がれ、しかも環境の汚染がなく、長期間にわたって強い殺菌力を維持することができ、水が清浄化される。本発明は、海水および淡水などの水中で実施することができる。
【0028】
本発明によれば、魚類および甲殻類などは、光触媒部材を認識することができるので、光触媒部材に衝突することを防止できる。換言すると、魚類および甲殻類などが光触媒部材が装着される網に衝突および絡まることを防止できる。これによって魚類および甲殻類などが光触媒部材が装着される網に衝突することおよび絡まることに起因する死傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は本発明の実施の一形態の一部を拡大して示す斜視図であり、図2は全体の構成を簡略化して示す斜視図である。養殖池、水槽、海などの水1には、魚、甲殻類などの養殖をする養殖空間2を規定する本発明に従う光触媒殺菌網3が設けられる。網3によって規定される養殖空間2は、4つの周壁および底部を有し、立方体または直方体の養殖空間2を形成する。この養殖空間2には、水1が、網3の厚み方向に流過する。この厚み方向とは、図1の紙面に垂直方向、周壁の図2における左右方向、底部の図2における上下方向である。網3の周壁の上部は、浮子4に取付けられて、水1に網3が吊り下げられる。網3によって規定される養殖空間2には、太陽光が照射され、あるいはまた蛍光灯、水銀灯、白熱灯などの照明灯から、直接に、または光ファイバを介して、紫外線を含む光が照射される。
【0030】
網3は、網本体5と、この網本体5の網目6を形成する長尺部7に装着される本発明に従う光触媒部材8とを有する。網本体5はロープまたは紐などから成る長尺部7が縦方向に複数本および横方向に複数本それぞれ並置され、連結部9で縦と横の各長尺部7が連結され、こうしてたとえば矩形の網目6を形成するように構成される。
【0031】
光触媒部材8は基本的に、細長い本体部11と、その本体部11の長手方向に連なる両端部12とを有する。本体部11は、半直円筒体13と、この半直円筒体13の周方向両端部に連なる対を成す装着部14とを有する。光触媒部材8は、長尺部7に図1に示されるように単一個だけ装着されてもよいが、本発明の実施の他の形態では、単一本の長尺部7にその長尺部7の長手方向に隣接して複数本、装着されてもよい。
【0032】
図3は、光触媒部材8を網3の長尺部7に装着する状態を示す簡略化した斜視図である。周方向に対を成す装着部14を図3の矢符15で示されるように、作業者が指で相互の離反方向に弾発的に変形させ、本体部11の本体溝16を開き、端部12の端部溝17にわたって、長尺部7を嵌込む。装着部14への力を解除することによって、長尺部7は本体溝16および端部溝17に嵌まり込んだ状態で、装着部14は、長尺部7を周方向に覆って閉じる。
【0033】
図4は光触媒部材8の左側面図であり、図5は光触媒部材8の平面図であり、図6は光触媒部材8の正面図であり、図7は光触媒部材8の背面図であり、図8は図6の切断面VIII−VIIIから見た断面図である。光触媒部材8の右側面図は、図4に対称に表われ、底面図は図5と同一である。光触媒部材8は、その軸線18を含む対称面19に関して面対称に形成され、また軸線18に垂直な対称面21に関して面対称に構成される。本体部11を構成する半直円筒体13は、軸線18と共通な一直線上に軸線を有する軸直角断面が半円形の本体溝16を有する。半直円筒体13には、その周方向両端部22に連なる対を成す装着部14が軸線18に沿って合計4組、軸線18に沿う長手方向に間隔をあけて配置される。各組の対を成す装着部14は、軸線18に沿う長手方向の同一位置で、周方向に全周の約1/4にわたって対向して延び、周方向のわずかな間隙23で分断される。間隙23は、たとえば零であって、対を成す装着部14の対向する周方向遊端面が、自然状態で当接していてもよい。
【0034】
端部12は、その基端24が、半直円筒体13の長手方向遊端に連なり、長手方向遊端になるにつれて先細状になる半直円錐台である。この端部12は、基端24の大径部から、軸線18に垂直な小径端面25に連なる截頭直円錐台を成す傾斜面26と、軸線18を含む平面27とを有する。この平面27の延長上には、半直円筒体13の前記周方向両端部22が存在する。
【0035】
本体部11の半直円筒体13の外周には、多数の凸部28が点在して形成される。この実施の形態では凸部28は半球状である。凸部28は装着部14の外周に形成されてもよく、また端部12の外周に形成されてもよい。凸部28によって、光触媒部材8の面積が大きくなり、光触媒機能がさらに効率よく達成されることになる。半球状の凸部28の直径は、半直円筒体13の外径の1/10〜1/20の値に定められてもよい。
【0036】
光触媒部材8は、酸化チタンと合成樹脂との混合物であって、射出成形などの成形によって製造される。酸化チタンは、0.01〜20%混合され、光触媒機能を達成するとともに、図3に関連して前述したように、さらに図5にも矢符15に示されるように本体溝16を弾発的に開いて、長尺部7に光触媒部材8を装着することができ、また光触媒部材8を交換することもできる。
【0037】
本発明の実施の他の形態では、本体部11の半直円筒体13と装着部14との境界付近で軸線18を含む一仮想平面に関して対象な凹部29がさらに形成されてもよい。この凹部29は、円柱体の一部を成す曲面を有し、本体部11の外周に臨む。凹部29によって、装着部14を矢符15のように変形しやすくすることができる。
【0038】
図9は本発明の実施の他の形態の光触媒部材8aの左側面図であり、図10は光触媒部材8aの平面図であり、図11は光触媒部材8aの正面図であり、図12は光触媒部材8aの背面図である。光触媒部材8aの右側面図は左側面図と対称に表われ、光触媒部材8aの底面図は図10の平面図と同一である。図9〜図12に示される光触媒部材8aは、前述の図1〜図8の光触媒部材8に類似し、対応する部分には同一の参照符を付す。本体部11は、本体溝16を有する全体の形状がほぼ直円筒体である。この本体部11は、軸線18に沿って周方向に間隙23で分断されて、その長手方向に垂直な断面がC字状である。本体部11には、前記長手方向に沿って全長に延びる凹部49が形成される。この凹部49は、軸線18を含む仮想平面に関して対象な直円筒体の表面の一部を有し、外周に臨んで凹んで形成される。本体部11の長手方向に連なる両端部12は、その基端24が直円筒体33に連なる直円錐台である。これらの各端部12は、本体溝16に共通な軸線18である一直線上に軸線を有して連なる端部溝17を有する。
【0039】
本体部11に形成された凹部49によって、本体部11の半径方向の厚みが薄く形成される。これによってその凹部49よりも周方向に間隙23側の分断位置にわたる部分が、前述のように装着部34として機能する。そのため本体溝16への長尺部7の装着時、図10に示されるように、凹部49よりも周方向に分断位置までわたる装着部34として機能する部分を、仮想線30で示されるように開いて、長尺部7への本体部11の装着が容易になる。そのほかの構成と作用は、前述の図1〜図8に関連して述べた実施の形態と同様である。
【0040】
図13は、本発明の実施のさらに他の形態の網51の簡略化した斜視図である。陸上でコンクリートまたは合成樹脂などの材料を用いて養殖池52を形成し、その内周壁に沿って本発明の光触媒殺菌網3を配置する。この養殖池52の底部には、開閉可能な排水口53が設けられ、養殖される魚、甲殻類などの水を排水することができる。本発明の光触媒殺菌網3を、養殖池52の内周壁の近傍で養殖空間内、さらには底部上方に配置することによって、水の清浄化を図ることができる。
【0041】
図14は、本発明のさらに他の実施の形態の簡略化した斜視図である。本発明の光触媒殺菌網54は、コンクリートまたは合成樹脂などの材料から成る養殖池52の内周壁に沿って複数本、上下に延びて並置されて取付けられる。光触媒殺菌網54は、上下に延びる細長い長尺部56に、1または複数の光触媒部材57が装着される。光触媒部材57は、前述の光触媒部材8,8aと同様な構成を有してもよい。これによって養殖池52内の溝の水を、光触媒部材57の光触媒機能によって清浄化することができる。そのほかの構成は、図13の実施の形態に類似する。
【0042】
本発明はまた、網目の小さな光触媒殺菌網に、清浄化されるべき水を流過するフィルタとして用いることもでき、本発明は、このようなフィルタも、網の概念に含まれる。
【0043】
本発明の実施の他の形態では、酸化チタン粉体を、溶液に分散し、長尺部7,56に装着される担体の表面に塗布などの手法で付着して光触媒部材8,8a,57を製造してもよい。担体は、たとえば前述の合成樹脂材料から成ってもよいが、無機材料から成ってもよい。
【0044】
本発明の実施の形態および他の実施の形態の光触媒部材8,8a,57には、色が施されている。施される色は、この色が反射する反射光によって魚類および甲殻類に光触媒部材の存在を認識させる色である。色は、光触媒部材8,8a,57自体の色であってもよく、光触媒部材8,8a,57の表面に塗布することによって施されてもよい。具体的には、光触媒部材8,8a,57に色を施すことによって、水を透過する光が光触媒部材8,8a,57に施される色によって反射する。この反射光が魚類および甲殻類などの視覚に入ると、魚類および甲殻類に光触媒部材13の存在を認識させることができる。
【0045】
具体的には、本発明の実施の形態および他の実施の形態の光触媒部材8,8a,57は、水が赤色などの波長の長い光を吸収し、青色および緑色などの波長の短い光を透過させるので、水を透過する緑色光を反射する緑色が施される。これによって光触媒部材8,8a,57が水を透過する緑色光を反射し、この反射光が魚類および甲殻類などの視覚に入ることによって、魚類および甲殻類に光触媒部材8,8a,57を認識させることができる。これによって魚類および甲殻類などが光触媒部材8,8a,57に衝突することを防止できる。換言すると、光触媒殺菌網3,54に衝突することおよび絡まることを防止できる。それ故、光触媒殺菌網3,54に衝突するおよび絡まることに起因する魚類および甲殻類などの死傷を防止できる。
【0046】
またマグロおよびイカなどは、全色盲であり、マンセル表色系の「色相」、「彩度」および「明度」のうち、「明度」だけが識別可能である。したがって全色盲の魚類および甲殻類は、明度の差によって、物を識別し、明度の差が大きくなるにつれて、物の識別が容易になる。従来のように黒色の網は、前記網の色の明度と水を透過する透過光に基づく明度(以下、単に「水の明度」と称する)との差が小さい。それ故、全色盲の魚類および甲殻類は、網と水とを識別することが不能である。したがって全色盲の魚類および甲殻類は、網に衝突しまたは絡まり、死傷する。本発明の実施の形態および他の実施の形態では、光触媒部材8,8a,57に施される緑色の明度と水の明度との差を大きくすることによって、全色盲の魚類および甲殻類に光触媒部材8,8a,57の存在を認識させることができる。本実施の形態では、緑色の明度が水の明度より大きい。これによって全色盲の魚類および甲殻類が光触媒部材8,8a,57に衝突することを防止できる。換言すると、全色盲の魚類および甲殻類が光触媒殺菌網3,54に衝突することおよび絡まることを防止でき。光触媒殺菌網3,54に衝突することおよび絡まることに起因する全色盲の魚類および甲殻類などの死傷を防止できる。
【0047】
本実施の形態では、光触媒部材8,8a,57に緑色が施されているけれども、必ずしもこの色に限定されない。水面付近では、赤色などの波長の長い光の減衰が小さいので、光触媒部材8,8a,57に赤色、黄色または白色を施してもよい。淡水魚などの水深が浅い領域に生息する魚類および甲殻類は、マンセル表色系の「色相」、「彩度」および「明度」を認識できる。それ故、前記色を施しても、網および水槽などが水深が浅い領域に配設される場合、淡水魚などは、これらの色を認識し、光触媒部材8,8a,57の存在を認識する。それ故、光触媒部材8,8a,57に緑色を施す場合と同様の効果を奏する。
【0048】
本実施の形態では、光触媒部材8,8a,57に色が施されているけれども必ずしもこれに限定されない。たとえば、光触媒部材8,8a,57の一部、たとえば本体部11に色が施されてもよく、凸部28に色が施されてもよい。少なくとも、養殖空間2に臨む表面部に色が施されていればよく、光触媒部材8,8a,57の殺菌機能を阻害しなければよい。また光触媒殺菌網3に配設される全ての光触媒部材8,8a,57に同一色を施すものに限定されない。たとえば、横の列の光触媒部材8,8a,57に赤色を、縦の列の光触媒部材8,8a,57に黄色を施してもよく、全ての光触媒部材8,8a,57に異なる色が施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の一形態の一部を拡大して示す斜視図である。
【図2】全体の構成を簡略化して示す斜視図である。
【図3】光触媒部材8を網3の長尺部7に装着する状態を示す簡略化した斜視図である。
【図4】光触媒部材8の左側面図である。
【図5】光触媒部材8の平面図である。
【図6】光触媒部材8の正面図である。
【図7】光触媒部材8の背面図である。
【図8】図6の切断面VIII−VIIIから見た断面図である。
【図9】本発明の実施の他の形態の光触媒部材8aの左側面図である。
【図10】光触媒部材8aの平面図である。
【図11】光触媒部材8aの正面図である。
【図12】光触媒部材8aの背面図である。
【図13】本発明の実施のさらに他の形態の網51の簡略化した斜視図である。
【図14】本発明のさらに他の実施の形態の簡略化した斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
2 養殖空間
3,54 光触媒殺菌網
5 網本体
6 網目
7,56 長尺部
8,8a,57 光触媒部材
11 本体部
12 端部
13 半直円筒体
14,34 装着部
17 端部溝
18 軸線
19,21 対称面
22 周方向両端部
23 間隙
24 基端
28 凸部
29,49 凹部
33 直円筒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンの粉体を合成樹脂の中に混入して成形した部品を、網本体に取付けることを特徴とする光触媒殺菌網。
【請求項2】
網本体と、
この網本体の網目を形成する長尺部に装着され、少なくとも表面が光触媒機能を有する物質を含む材料から成り、弾発性を有する光触媒部材とを有することを特徴とする光触媒殺菌網。
【請求項3】
光触媒部材は、光触媒機能を有する物質としての酸化チタンから成る粉体と、合成樹脂とを含む材料から成ることを特徴とする請求項2記載の光触媒殺菌網。
【請求項4】
光触媒部材は、
(a)細長い本体部であって、
網本体の前記長尺部が嵌り込む本体溝を有し、
前記長尺部を周方向に覆い、弾発的に本体溝を開閉可能な装着部を有する本体部と、
(b)本体部の長手方向に連なる両端部であって、
これらの各端部は、長手方向遊端になるにつれて先細状に形成され、
本体部の前記本体溝に連なり、前記長尺部が嵌り込む端部溝を有する端部とを含むことを特徴とする請求項2または3記載の光触媒殺菌網。
【請求項5】
前記本体部は、
前記本体溝を有する半直円筒体と、
前記半直円筒体の周方向両端部に連なり、長手方向の同一位置で、周方向に全周の約1/4にわたって対向して延び、長手方向に間隔をあけて複数組の対を成して配置される装着部とを有し、
前記端部は、
その基端が前記半直円筒体に連なる半直円錐台であり、
前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なる前記端部溝を有することを特徴とする請求項4記載の光触媒殺菌網。
【請求項6】
前記本体部は、
前記本体溝を有する全体の形状がほぼ直円筒体であり、
長手方向に沿って周方向に分断されてその長手方向に垂直な断面がC字状であり、
前記長手方向に沿って全長に延び、外周に臨んで凹んだ凹部を有し、
前記端部は、
その基端部が前記直円筒体に連なる半直円錐台であり、
前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なる前記端部溝を有することを特徴とする請求項4記載の光触媒殺菌網。
【請求項7】
本体部の外周には、多数の凸部が形成されることを特徴とする請求項5または6記載の光触媒殺菌網。
【請求項8】
長尺部に装着され、少なくとも表面が、光触媒機能を有する材料から成る光触媒部材であって、
(a)細長い本体部であって、
網本体の網目を形成する長尺部が嵌り込む本体溝を有する半直円筒体と、
前記半直円筒体の周方向両端部に連なり、長手方向の同一位置で、周方向に全長の約1/4にわたって対向して延び、長手方向に間隔をあけて複数組の対を成して配置され、前記長尺部を周方向に覆い、弾発的に本体溝を開閉可能な装着部とを有する本体部と、
(b)本体部の長手方向に連なる両端部であって、これらの各端部は、
その基端が前記半直円筒体に連なり、長手本体遊端になるにつれて先細状の半直円錐台であり、前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なり、前記長尺部が嵌り込む端部溝を有する端部とを含むことを特徴とする光触媒部材。
【請求項9】
長尺部に装着され、少なくとも表面が、光触媒機能を有する材料から成る光触媒部材であって、
(a)細長い本体部であって、
網本体の網目を形成する長尺部が嵌り込む本体溝を有し、全体の形状がほぼ直円筒体であり、
長手方向に沿って周方向に分断されてその長手方向に垂直な断面がC字状であり、
前記長手方向に沿って全長に延び、外周に臨んで凹んだ凹部を有し、長尺部を周方向に覆い、弾発的に本体溝を開閉可能な本体部と、
(b)本体部の長手方向に連なる両端部であって、これらの各端部は、
その基端が前記直円筒体に連なり、長手本体遊端になるにつれて先細状の半直円錐台であり、
本体部の前記本体溝に連なり、前記長尺部が嵌り込み、前記本体溝に共通な一直線上に軸線を有して連なる端部溝を有することを特徴とする光触媒部材。
【請求項10】
光触媒機能を有する物質としての酸化チタンから成る粉末と、合成樹脂とを含む材料から成ることを特徴とする請求項8または9記載の光触媒部材。
【請求項11】
光を反射して前記光触媒部材を認識させる色が施されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1つに記載の光触媒部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−149363(P2006−149363A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109722(P2005−109722)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(592002950)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】