説明

光走査装置用ミラー振幅制御装置

【課題】システムのコストバランスを保ちながらミラー振幅制御が精度よく行なえる光走査装置用ミラー振幅制御装置を提供する。
【解決手段】第1,第2光電センサ9,10で検出された検出信号を信号処理部14において論理回路17により演算処理することにより、符号を反転させた反転検出信号を生成し、比較部15において当該反転検出信号と基準値生成部16から出力された基準値信号とを加算処理し、演算結果により得られた誤差を積分してエラー信号として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源より照射された光ビームを揺動するミラー部で反射して走査を行う光走査装置用ミラー振幅制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源より照射されたレーザー光等の光ビームを走査する光走査装置は、バーコードリーダ、レーザープリンタ、ヘッドマウントディスプレー等の光学機器、あるいは赤外線カメラ等撮像装置の光取り入れ装置として用いられている。
【0003】
例えば、光走査装置の一例として矩形基板(例えばステンレス基板やシリコン基板など)に形成された開口部内に梁部により両側が連結されたミラー部が設けられている。ミラー部は鏡面仕上げされているか、反射膜が形成されているか、或いは基板にミラーが貼付けられている。
【0004】
また、基板には圧電体、磁歪体、または永久磁石のいずれかによる薄膜よりなる振動源が設けられ、例えば圧電体の場合、図示しない駆動源より正電圧を印加すると延びが発生し、負電圧を印加すると縮みが発生するため、基板に撓みが発生する。この基板の上下方向の撓みに対して梁部にねじれ振動が発生してミラー部が揺動する。このミラー部と梁部との共振周波数付近で駆動周波数を維持して、振動するミラー部によりレーザー光を反射することで光走査する。
【0005】
これによって、MEMS(Micro Electro Mechanical System)を用いて製造された微小ミラーを揺動させる光走査装置より製造コストがかからず、小型の振動源でミラー部に大きな振動を発生させるようになっている(特許文献1参照)。
【0006】
光走査装置の駆動制御は、ミラー部とその振動方向にそって2箇所に設けられたセンサによって2つのセンサ信号が生成される。ミラーの振動を安定化させるためには、2つのセンサ信号の発生間隔を計測し、基準値と比較してフィードバック制御をかける。フィードバック制御によってミラー部を振動させるための電圧信号を補正し、振幅レベルを変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−293116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミラー部の走査振幅を検出するセンサ出力信号の間隔をタイマーカウンタなどで計測して監視する場合、例えば走査周波数が2kHzで目標ジッター値が0.01%の場合、タイマーカウンタの分解能はおよそ0.01μsとなる。検出誤差を考慮するとカウントは200MHz〜300MHzで行なう必要があり、高速でタイマーが必要になる。また、数百MHzで動作できるタイマーカウンタを用いる場合、高速動作によるタイマーカウンタ自体の発熱やコストが嵩むという課題がある。タイマーカウンタの発熱量が多い場合には、制御回路を光学ユニットの近傍に配置できなくなる。
【0009】
フィードバック制御では抑制すべきジッターの周波数成分が数百Hzであり、サンプリング周波数は数kHzで十分であるため、フィードバック制御を安価なシステムで実現可能であるが、間隔計測部には高価なシステムが必要になるというシステムのコストバランスが悪いという課題がある。
【0010】
本発明は、システムのコストバランスを保ちながらミラー振幅制御が精度よく行なえる光走査装置用ミラー振幅制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は以下の構成を含むことを特徴とする。
即ち、駆動回路から駆動電圧を供給して基板上に設けられた振動源を作動させて当該基板を撓ませることにより梁部を揺動軸とするミラー部を揺動させながら照射光を反射することで走査する光走査装置用ミラー振幅制御装置であって、前記振動源を作動させて揺動するミラー部の振幅を検出する振幅検出部と、前記振幅検出部で検出された検出信号を論理回路により演算処理することにより、符号を反転させた反転検出信号を生成する信号処理部と、基準間隔となる基準値信号を生成する基準値生成部と、前記信号処理部で生成された反転検出信号と基準値生成部から出力された基準値信号とを加算処理し、演算結果により得られた誤差を積分してエラー信号として出力する比較部と、前記比較部において生じたエラー信号の増減値を打ち消すように前記駆動回路へ所定時間出力するフィードバック制御を行なう前記振幅レベル調整部と、を具備したことを特徴とする。
【0012】
前記振幅検出部は、ミラー部の移動端を検出する第1センサ信号と第2センサ信号との信号間隔により生成される検出信号を出力し、当該検出信号が信号処理部においてインバータ回路で符号を反転させた反転検出信号が生成されることを特徴とする。
【0013】
前記比較部は、前記信号処理部で生成された反転検出信号と基準値生成部から出力された基準値信号とを加算処理して得られた誤差を積分して基準電圧との差であるエラー信号として出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
振幅検出部で検出された検出信号を信号処理部において論理回路により演算処理することにより、符号を反転させた反転検出信号を生成し、比較部において当該反転検出信号と基準値生成部から出力された基準値信号とを加算処理し、演算結果により得られた誤差を積分してエラー信号として出力する。これにより、検出信号の信号間隔を計測する高性能で発熱量の多いタイマーカウンタを使用する必要がないので、システムのコストバランスを低廉に抑えながらミラー振幅制御が精度よく行なえる。また、制御回路の発熱量も少ないので制御装置を光学系の近傍に設置することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図2】ミラー部の振幅を検出するセンサ配置及びセンサ信号についての説明図である。
【図3】光走査装置の駆動制御装置のブロック構成図である。
【図4】ミラー振幅変化と補正電圧との関係を示す波形図である。
【図5】信号処理部の回路構成を示すブロック図である。
【図6】図5信号処理部の信号処理動作を示すタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る光学走査装置のミラー駆動方法の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施例では、レーザービームプリンタ用に用いられる光走査装置(スキャナー)を例示して説明するものとする。
【0017】
図1(a)(b)を参照して光走査装置の概略構成について説明する。
基板1は金属板(ステンレススチール;SUS304)若しくはシリコン基板(Si)などの矩形基板が好適に用いられる。基板1は長手方向の一方側を支持部材7とクランプ部材6に挟み込まれて片持ち状に支持されている。
【0018】
基板1の他端側(自由端側)には一対の基板舌部8が形成されている。この基板舌部8間に形成された開口部2内に両側を梁部3により支持されたミラー部4(光MEMSミラー)が設けられている。
【0019】
また、基板1の一端側中央部には振動源5として圧電素子(PZT;チタン酸ジルコン酸鉛)が接着等により設けられている。この振動源5を作動させて当該基板1を振動させることにより、梁部3を揺動軸としてミラー部4を揺動させながら照射光を反射することで走査するようになっている。
【0020】
尚、振動源5としては、圧電素子のほかに、圧電体、磁歪体又は永久磁石体のいずれかが基板上に膜状に直接形成されていてもよい。成膜法としては、例えばエアロゾルデポジション法(AD法)、真空蒸着法、スパッタリング法や化学的気相成長法(CVD: Chemical Vapor Deposition)、ゾル−ゲル法などの薄膜形成技術を用いて、圧電体、磁歪体又は永久磁石体のいずれかが基板上に膜状に直接形成されていると、低電圧駆動で低消費電力の光走査装置を提供できる。
【0021】
磁歪体や永久磁石体を用いる場合、外部から印加する交番磁界は、上記磁歪膜、永久磁石膜が形成された基板部近傍に設けられたコイルに交流電流を流すことで交番磁界を発生させる。尚、磁歪膜や永久磁石膜で基板に形成する場合、基板材料は非磁性材料である方が、より効率的に撓みを発生することができる。
【0022】
尚、ミラー部4は、基板1に金属板を使用する場合には鏡面仕上げされた基板1を用いると良い。金属板以外の基板や、金属板においてもより高い反射性能が要求され場合には、真空蒸着、スパッタリング、CVD(化学的気相成長法)等の薄膜形成技術により、ミラー部4へ薄膜を形成するか、或いはミラー部4へ別途ミラー用反射材料を貼付けてもよい。
【0023】
また、薄膜を形成する材料には、金(Au)、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミニウム(Al)、あるいはフッ化マグネシウム(MgF2)から1つを選択、或いは2つ以上の材料を組み合わせ、さらに前記薄膜成形技術による同一層(=単層)、或いは2層以上の多層構成を適度な膜厚に制御することによって、反射性能を向上する薄膜が形成できる。あるいは、ミラー部4へ別途ミラー用反射材を貼付ける材料には、鏡面仕上げしたシリコン(Si)またはアルミナチタンカーバイト(Al2O3-TiC)のセラミック等へ、前記薄膜成形技術にて薄膜を形成しても良い。
【0024】
また、基板1の厚みに関しては、動作中のミラー部4の平坦性やプロジェクターデバイスなどへの応用で要求されるミラーサイズを考慮し、シリコン(Si)、ステンレススチール(SUS304等)等の、或いはさらにカーボンナノチューブを前記材料へ成長させた基板を想定すると、少なくとも10μm以上の厚みが望ましい。
【0025】
ミラー部4の走査振幅は、図2に示すようにミラー部4の走査範囲に沿って2箇所に例えば第1光電センサ9,第2光電センサ10(振幅検出部)を設けて、当該第1,第2光電センサ9,10で感知した反射光によって第1センサ信号S1と第2センサ信号S2が生成される。
【0026】
次に、光走査装置の駆動制御装置の一例について図3のブロック構成図を参照して説明する。駆動制御装置ではミラー部4の走査振幅を安定化させるために第1センサ信号S1、第2センサ信号S2の発生間隔を計測し、基準値と比較してフィードバック制御が行われる。以下、装置構成とともに駆動方法について詳述する。
【0027】
図3において周波数生成部11は設定された所定の駆動周波数を生成する。振幅レベル調整部12は、周波数生成部11で生成された駆動周波数の振幅レベルを調整して駆動回路13へ出力する。駆動回路13は、振幅レベル調整部12から入力した振幅レベルに対応する駆動電圧を供給して振動源5を作動させる。これによりミラー部4は、梁部3を中心として揺動する。振幅検出部である第1,第2光電センサ9,10は駆動回路13から駆動電圧を印加されて揺動するミラー部4の振幅を検出する。信号処理部14は、上記図2に示すように、第1,第2光電センサ9,10で検出された第1センサ信号S1と第2センサ信号S2から得られた検出信号を論理回路により演算処理することにより、符号を反転させた反転検出信号を生成する。基準値生成部16は基準間隔となる基準値信号を生成する。また、比較部15は、信号処理部14で生成された反転検出信号と基準値生成部16から出力された基準値信号とを加算処理し、演算結果を積分して生じた誤差をエラー信号として出力する。振幅レベル調整部12は、比較部15のエラー信号に応じて図4に示すように補正電圧を算出して駆動回路13へ印加する駆動電圧を補正するようになっている。
【0028】
次に信号処理部14の一例について図5のブロック構成図及び図6の動作タイミングチャート図を参照して説明する。
図5において、第1,第2光電センサ9,10によって検出された第1センサ信号S1と第2センサ信号S2の検出信号(間隔信号)が、インバータ回路(NOT回路)17によって符号を反転させた反転検出信号を生成する(図6(a)参照)。この信号がフリップフロップFFに入力されると加算器(レジスタ)18に対して演算処理指令が出力される。
【0029】
図5において、比較部15に備えた加算器18は、インバータ回路17で生成された反転検出信号と基準値生成部16から出力された基準値信号とを加算処理し、誤差信号を生成して、それを積分して基準電圧(中点電圧)との差分をエラー信号として出力する(図6(b)(c)参照)。このエラー信号を振幅レベル調整部12へ出力し、振幅レベル調整部12はエラー信号の増減値を打ち消すように駆動回路13へ所定時間出力するフィードバック制御を行なう。
【0030】
図6(a)は、センサ信号間隔と基準信号間隔が同じ場合、即ちミラー部4の振幅の誤差が生じていない場合を示す。この場合には、加算処理後の誤差信号の積分値が零になるので、エラー信号は発生せず、基準電圧に一致している。
【0031】
図6(b)は、センサ信号の間隔が基準値信号の間隔より長い、即ちミラー部4の振幅が基準値より大きくなっている場合を示す、この場合には、加算処理後の誤差信号の積分値が零より小さいマイナスの値になるので、基準電圧より低いエラー信号が発生している。
【0032】
図6(c)は、センサ信号の間隔が基準値信号の間隔より短い、即ちミラー部4の振幅が基準値より小さくなっている場合を示す、この場合には、加算処理後の誤差信号の積分値が零より大きいブラスの値になるので、基準電圧より高いエラー信号が発生している。
【0033】
上述したように、第1,第2光電センサ9,10による検出信号の信号間隔を計測する高性能で発熱量の多いタイマーカウンタを使用する必要がないので、システムのコストバランスを低廉に抑えながらミラー振幅制御が精度よく行なえる。また、制御回路の発熱量も少ないので制御装置を光学系の近傍に設置することも可能になる。
【符号の説明】
【0034】
1 基板
2 開口部
3 梁部
4 ミラー部
5 振動源
6 クランプ部材
7 支持部材
8 基板舌部
9 第1光電センサ
10 第2光電センサ
11 周波数生成部
12 振幅レベル調整部
13 駆動回路
14 信号処理部
15 比較部
16 基準値生成部
17 インバータ回路
18 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動回路から駆動電圧を供給して基板上に設けられた振動源を作動させて当該基板を撓ませることにより梁部を揺動軸とするミラー部を揺動させながら照射光を反射することで走査する光走査装置用ミラー振幅制御装置であって、
前記振動源を作動させて揺動するミラー部の振幅を検出する振幅検出部と、
前記振幅検出部で検出された検出信号を論理回路により演算処理することにより、符号を反転させた反転検出信号を生成する信号処理部と、
基準間隔となる基準値信号を生成する基準値生成部と、
前記信号処理部で生成された反転検出信号と基準値生成部から出力された基準値信号とを加算処理し、演算結果により得られた誤差を積分してエラー信号として出力する比較部と、
前記比較部において生じたエラー信号の増減値を打ち消すように前記駆動回路へ所定時間出力するフィードバック制御を行なう前記振幅レベル調整部と、を具備したことを特徴とする光走査装置用ミラー振幅制御装置。
【請求項2】
前記振幅検出部は、ミラー部の移動端を検出する第1センサ信号と第2センサ信号との信号間隔により生成される検出信号を出力し、当該検出信号が前記信号処理部においてインバータ回路で符号を反転させた反転検出信号が生成される請求項1記載の光走査装置用ミラー振幅制御装置。
【請求項3】
前記比較部は、前記信号処理部で生成された反転検出信号と基準値生成部から出力された基準値信号とを加算処理して得られた誤差を積分して基準電圧との差であるエラー信号として出力する請求項1又は2記載の光走査装置用ミラー振幅制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−242704(P2011−242704A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116873(P2010−116873)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【特許番号】特許第4794677号(P4794677)
【特許公報発行日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】