説明

光走査装置

【課題】3自由度連成振動系を構成した光走査装置において走査範囲を大きくする
【解決手段】光走査装置1は、ミラー13、内ジンバル12、外ジンバル11、支持部3、弾性連結部16a,16b、弾性連結部15a,15b、及び弾性連結部14a,14bが、固有の周期的外力が作用した場合に大きい回転角で捩じり振動する3自由度連成振動系を構成する。このため、櫛歯電極部17,19と櫛歯電極部4a,4bとの間に電圧を印加して、固有の周期的外力を外ジンバル11に作用させることにより、3自由度捻り振動子を共振状態にできる。そして、ミラー13の振幅角を大きくするために、{(ミラー13のねじりバネ定数K1)/(ミラー13の慣性モーメントI1)}>{(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)}となるように光走査装置1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを走査する光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光走査装置の小型化を目的として、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用した光走査装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
これに対して本願出願人は、鏡面部が表面に形成された第3フレームと、第3フレームに対し所定の隙間を介して設けられた第2フレームと、第2フレームに対し所定の隙間を介して設けられた第1フレームと、第1フレームに対し所定の隙間を介して設けられた第0フレームとを備え、さらに、第3フレームと第2フレームと第1フレームとをそれぞれの回転軸を中心に捩じり振動可能に構成されることで、3自由度連成振動系を構成した光走査装置を提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
このように構成された光走査装置では、第1フレームに固有の周期的加振力を作用させることにより、3自由度捻り振動子を共振状態にできる。そして、第2フレームと第3フレームそれぞれの振動に対応した周期的加振力を重畳して与えることにより、第2フレームと第3フレームをそれぞれ異なる周波数および振幅で振動させ、さらに第3フレームの鏡面部で光を反射させることで、光を2次元走査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−167860号公報
【特許文献2】特開2008−129068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の光走査装置では、第1フレームのみへの加振で、第2フレームと第3フレームの2つのフレームを振動させるため、走査範囲が小さいという問題があった。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、3自由度連成振動系を構成した光走査装置において走査範囲を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の光走査装置は、光ビームを反射させる反射面を有する反射部と、反射部に連結された弾性変形可能な第1弾性連結部を有し、第1弾性連結部を回転軸として反射部を揺動可能に支持する第1支持部と、第1支持部に連結された弾性変形可能な第2弾性連結部を有し、第2弾性連結部を回転軸として第1支持部を揺動可能に支持する第2支持部と、第2支持部に連結された弾性変形可能な第3弾性連結部を有し、第3弾性連結部を回転軸として第2支持部を揺動可能に支持する第3支持部とを備えて、反射部、第1支持部、第2支持部、第3支持部、第1弾性連結部、第2弾性連結部、及び第3弾性連結部が、固有の周期的外力が作用した場合に大きい回転角で捩じり振動する3自由度連成振動系を構成する。
【0008】
このため、請求項1に記載の光走査装置は、第3支持部を固定端として、第1弾性連結部,第2弾性連結部,第3弾性連結部に対しての捻り自由度を持つ3自由度捻り振動子になっている。
【0009】
3自由度捻り振動子は、理論上3つの振動モードを持つ。すなわち、3つの振動モードはそれぞれ異なる共振周波数を持ち、各共振周波数に対する反射部、第1支持部、および第2支持部の捻り振動の角度振幅の比はそれぞれ異なる(これは振動モードと呼ばれる)。したがって、或る振動モードにおいて、第2支持部の角度振幅が大きくなると、この振動モードにおける角度振幅の比に応じて、反射部および第1支持部の角度振幅が大きくなる。
【0010】
そして、外力作用手段が、3自由度連成振動系に固有の周期的外力を作用させる。これにより、3自由度捻り振動子を共振状態にできる。
また、3つの振動モードの各々に対応した周波数の周期的加振力を与えれば、それぞれの振動モードを励振できる。また、複数の周波数の周期的加振力を重畳して与えれば、複数の振動モードを同時に励振できる。
【0011】
したがって、反射部の角度振幅が大きい振動モードに対応する周期的加振力と、第1支持部の角度振幅が大きい振動モードに対応する周期的加振力とを重畳して与えることにより、反射部で反射するレーザ光を2次元的に走査することができる。
【0012】
図3は、反射部の振幅角と第3弾性連結部のねじれバネ定数との関係の一例を示すグラフである。
図3に示すように、反射部の振幅角の大きさは、第3弾性連結部のねじれバネ定数に応じて大きく変化する。なお図3では、反射部の振幅角の最大値(図3の点P1を参照)が、反射部の振幅角の最小値(図3の点P2を参照)の約3.5倍の大きさとなる。すなわち、第3弾性連結部のねじれバネ定数の値を調整することにより、反射部の振幅角を大きくすることができ、走査範囲を大きくすることができる。
【0013】
図5は、反射部の振幅角および第1支持部の振幅角と「(第3弾性連結部のねじりバネ定数)/(第2支持部の慣性モーメント)」との関係の一例を示すグラフである。
なお図5において、曲線L1は、第2支持部と反射部との位相角の差が0度(すなわち、同相)となる場合の反射部の振幅角を示し、曲線L2は、第2支持部と反射部との位相角の差が180度(すなわち、逆相)となる場合の反射部の振幅角を示し、曲線L3は、第1支持部の振幅角を示す。また、破線L4は、「(第2弾性連結部のねじりバネ定数)/(第1支持部の慣性モーメント)」の大きさ(図5では、約5E+07)を示し、破線L5は、「(第1弾性連結部のねじりバネ定数)/(反射部の慣性モーメント)」の大きさ(図5では、約1.6E+10)を示す。
【0014】
図5に示すように、反射部の振幅角は、「(第3弾性連結部のねじりバネ定数)/(第2支持部の慣性モーメント)」が「(第1弾性連結部のねじりバネ定数)/(反射部の慣性モーメント)」未満であるときに最大値になっている。
【0015】
このため、反射部の振幅角を大きくするためには、第1弾性連結部のねじれバネ定数、及び第3弾性連結部のねじれバネ定数をそれぞれ、K1,K3とし、反射部の慣性モーメント、及び第2支持部の慣性モーメントをそれぞれ、I1,I3として、下式(1)で表される関係式を満たすように構成されるようにするとよい。
【0016】
(K1/I1) > (K3/I3) …(1)
図6(a),(b)は、反射部の振幅角および第1支持部の振幅角と「(第3弾性連結部のねじりバネ定数)/(第2支持部の慣性モーメント)」との関係の一例を示すグラフである。
【0017】
図6(a)に示すように、「(第3弾性連結部のねじりバネ定数)/(第2支持部の慣性モーメント)」に応じて、「(第3弾性連結部のねじりバネ定数)/(第2支持部の慣性モーメント)」が小さい順に、第2支持部と反射部とが逆相になる領域R1(以下、逆相領域R1ともいう)と、第2支持部と反射部とが同相または逆相になる領域R2(以下、不安定領域R2ともいう)と、第2支持部と反射部とが同相になる領域R3(以下、同相領域R3ともいう)とに分割される。
【0018】
このため、請求項1に記載の光走査装置において、第2支持部と反射部との位相角の差が0度となるように当該光走査装置が捩じり振動することを同相振動、第2支持部と反射部との位相角の差が180度となるように当該光走査装置が捩じり振動することを逆相振動とし、当該光走査装置は、(K3/I3)の値に応じて、同相振動のみが発生する振動状態である同相振動発生状態、逆相振動のみが発生する振動状態である逆相振動発生状態、同相振動または逆相振動が発生する振動状態である不安定振動状態の何れかの状態に遷移する場合には、請求項2に記載のように、不安定振動状態とならない(K3/I3)の値に設定されているようにするとよい。
【0019】
これにより、光走査装置の動作が比較的安定するようになり、光ビーム走査の乱れを抑制することができる。
また図6(b)に示すように、第1支持部の振幅角は、逆相領域R1で最大値になっており、逆相領域R1での第1支持部の振幅角は、同相領域R3での第1支持部の振幅角よりも大きい。
【0020】
このため、請求項2に記載の光走査装置において、請求項3に記載のように、逆相振動発生状態となる(K3/I3)の値に設定されているようにするとよい。
これにより、第1支持部の振幅角が比較的大きくなる状態で光走査装置を動作させることができ、2次元で光ビーム走査を行う場合に、走査範囲を拡大することができる。
【0021】
また、図5に示すように、第1支持部の振幅角は、「(第3弾性連結部のねじりバネ定数)/(第2支持部の慣性モーメント)」が「(第2弾性連結部のねじりバネ定数)/(第1支持部の慣性モーメント)」より大きいときに最大値になっている。
【0022】
このため、第1支持部の振幅角を大きくして、走査範囲を大きくするために、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光走査装置において、請求項4に記載のように、第2弾性連結部のねじれバネ定数をK2とし、第1支持部の慣性モーメントをI2として、下式(2)で表される関係式を満たすように構成されるようにするとよい。
【0023】
(K3/I3) > (K2/I2) …(2)
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光走査装置1の構成を示す平面図である。
【図2】光走査装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】ミラー振幅角と外ジンバル11のねじりバネ定数K3との関係の一例を示すグラフである。
【図4】ミラー振幅角または内ジンバル振幅角と「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」との関係の一例を示すグラフである。
【図5】ミラー振幅角および内ジンバル振幅角と「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」との関係の一例を示す第1のグラフである。
【図6】ミラー振幅角および内ジンバル振幅角と「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」との関係の一例を示す第2,3のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施形態について図面とともに説明する。
図1は、本発明が適用された実施形態の光走査装置1の構成を示す平面図である。
光走査装置1は、例えばSOI(Silicon On Insulator)ウエハを半導体プロセスで加工して製造されたものであり、図1に示すように、光ビームを走査する光ビーム走査部2と、光ビーム走査部2を支持する支持部3と、光ビーム走査部2に回転駆動力を印加する駆動部4と、光ビーム走査部2の回転角度を検出する角度検出部5とを備える。
【0026】
光ビーム走査部2は、外ジンバル11と内ジンバル12とミラー13と弾性連結部14a,14bと弾性連結部15a,15bと弾性連結部16a,16bと、櫛歯電極部17,18,19,20とから構成される。
【0027】
これらのうちミラー13は、円形状であり、アルミ薄膜の鏡面部が表面に形成される。また内ジンバル12は、矩形枠状であり、枠内にミラー13が配置される。また外ジンバル11は、矩形枠状であり、枠内に内ジンバル12が配置される。
【0028】
また弾性連結部16aは、弾性変形可能な材料で構成されており、内ジンバル12の枠内に配置され、ミラー13と内ジンバル12とを連結する。また弾性連結部16bは、弾性変形可能な材料で構成されており、内ジンバル12の枠内に配置され、ミラー13を挟んで弾性連結部16aと反対側において、ミラー13と内ジンバル12とを連結する。なお、弾性連結部16a及び弾性連結部16bは、ミラー13の重心JSを通る同一直線上に配置されており、ミラー13の回転軸kとなる。これによりミラー13は、回転軸kを中心に捩じり振動可能に構成される。
【0029】
また弾性連結部15aは、弾性変形可能な材料で構成されており、外ジンバル11の枠内に配置され、内ジンバル12と外ジンバル11とを連結する。また弾性連結部15bは、弾性変形可能な材料で構成されており、外ジンバル11の枠内に配置され、内ジンバル12を挟んで弾性連結部15aと反対側において、内ジンバル12と外ジンバル11とを連結する。なお、弾性連結部15a及び弾性連結部15bは、ミラー13と内ジンバル12との重心JSを通る同一直線上に配置されており、ミラー13の回転軸jとなる。これにより内ジンバル12は、回転軸jを中心に捩じり振動可能に構成される。
【0030】
また弾性連結部14aは、弾性変形可能な材料で構成されており、外ジンバル11の上辺11aと支持部3とを連結する。また弾性連結部14bは、弾性変形可能な材料で構成されており、外ジンバル11を挟んで弾性連結部14aと反対側において、外ジンバル11の下辺11bと支持部3とを連結する。なお、弾性連結部14a及び弾性連結部14bは、ミラー13と内ジンバル12と外ジンバル11との重心JSを通る同一直線上に配置されており、外ジンバル11の回転軸iとなる。これにより外ジンバル11は、回転軸iを中心に捩じり振動可能に構成される。
【0031】
また櫛歯電極部17は、外ジンバル11の左辺11cに沿って櫛歯状に形成されている。さらに櫛歯電極部18は、櫛歯電極部17の上方において、左辺11cに沿って櫛歯状に形成されている。
【0032】
また櫛歯電極部19は、外ジンバル11の右辺11dに沿って櫛歯状に形成されている。さらに櫛歯電極部20は、櫛歯電極部17の上方において、右辺11dに沿って櫛歯状に形成されている。
【0033】
次に支持部3は、上辺11aと連結されていない側の弾性連結部14aの端部と連結される上側支持部3aと、下辺11bと連結されていない側の弾性連結部14bの端部と連結される下側支持部3bとから構成される。
【0034】
さらに駆動部4は、櫛歯電極部17と一定間隔を空けて噛み合う櫛歯状に形成された櫛歯電極部4aと、櫛歯電極部19と一定間隔を空けて噛み合う櫛歯状に形成された櫛歯電極部4bとから構成される。
【0035】
また角度検出部5は、櫛歯電極部18と一定間隔を空けて噛み合う櫛歯状に形成された櫛歯電極部5aと、櫛歯電極部20と一定間隔を空けて噛み合う櫛歯状に形成された櫛歯電極部5bとから構成される。
【0036】
次に、光走査装置1の電気的構成について説明する。図2は、光走査装置1の電気的構成を示すブロック図である。
光走査装置1は、図2に示すように、光ビーム走査部2を回転駆動するための駆動信号としてのパルス電圧を出力する駆動信号発生回路31と、駆動信号発生回路31により出力された駆動信号を増幅して櫛歯電極部4a,4bに印加する増幅回路32と、櫛歯電極部5a,5bと櫛歯電極部19,20との間の静電容量を電圧値に変換するC−V変換回路33a,33b(以下、C−V変換回路33a,33bをまとめてC−V変換回路33ともいう)と、光ビームの発光源となる半導体レーザ34と、C−V変換回路33から出力される電圧をモニタし、この電圧値に基づいて半導体レーザ34を制御するとともに、駆動信号発生回路31を制御する制御回路35とを備える。
【0037】
次に、光走査装置1の動作原理を説明する。
光走査装置1は、支持部3を固定端として、回転軸i,j,kに対しての捻り自由度を持つ3自由度捻り振動子になっている。
【0038】
3自由度捻り振動子は、理論上3つの振動モードを持つ。すなわち、3つの振動モードはそれぞれ異なる共振周波数を持ち、各共振周波数に対する各フレームの捻り振動の角度振幅の比はそれぞれ異なる(これは振動モードと呼ばれる)。以下、これら3つの振動モードをそれぞれ、振動モード1、振動モード2、振動モード3という。
【0039】
なお、櫛歯電極部4a,4bに電圧を印加すると、櫛歯電極部17,19との間に静電気力が発生する。また、外ジンバル11が1周期振動する間に櫛歯電極部17,19は櫛歯電極部4a,4bに2回最接近する。このため、共振周波数の2倍に近い周期的静電気力が加われば、3自由度捻り振動子を共振状態にできる(以下、共振状態にするための加振力を周期的加振力という)。また、櫛歯電極部17,19が櫛歯電極部4a,4bに接近する毎に、周期的加振力を作用させることができる。
【0040】
そして、振動モード1、振動モード2、振動モード3の各々に対応した周波数の周期的加振力を与えれば、それぞれの振動モードを励振できる。また、複数の周波数の周期的加振力を重畳して与えれば、複数の振動モードを同時に励振できる。
【0041】
ここで、例えば、
振動モード1の共振周波数f1を1000Hz、
振動モード2の共振周波数f2を5000Hz、
振動モード3の共振周波数f3を40000Hz、
振動モード1における外ジンバル11、内ジンバル12、ミラー13の振幅比r1を「1:−20:0.5」、
振動モード2における外ジンバル11、内ジンバル12、ミラー13の振幅比r2を「1:0.01:−50」、
振動モード3における外ジンバル11、内ジンバル12、ミラー13の振幅比r3を「1:0.02:−0.03」、
として設計した場合の、3自由度捻り振動子の動作を説明する。
【0042】
尚、各振動モードにおける振幅比は、左から外ジンバル11、内ジンバル12、ミラー13の順で記述している。例えば、上記の振幅比r1は、外ジンバル11の振幅が「1」とすると、内ジンバル12の振幅が「−20」、ミラー13の振幅が「0.5」となることを示す。
【0043】
また、3自由度捻り振動子の共振状態においては、理論上、各フレーム間の位相角は0度または180度となる。そこで、振幅比を記述する際に、位相角の差が0度の場合は符号を「+」、180度の場合は符号を「−」とする。例えば、上記の振幅比r1は、外ジンバル11とミラー13との位相角の差が0度となり、外ジンバル11と内ジンバル12との位相角の差が180度となることを示す。
【0044】
そして、各振動モードの共振周波数と振幅比を上記のように設計すると、振動モード1では、主に内ジンバル12と、内ジンバル12に繋がったミラー13とが1000Hzで大きく捻り振動する。また、振動モード2では、主にミラー13が5000Hzで大きく捻り振動する。
【0045】
このため、ミラー13の鏡面部分でレーザ光を反射させるとともに、振動モード1と振動モード2とを同時に励振させることにより、振動モード2を主走査方向(5000Hz)、振動モード1を副走査方向(1000Hz)として、2次元的にレーザ光を走査することができる。
【0046】
次に、光走査装置1の動作について説明する。
制御回路35による制御に基づいて駆動信号発生回路31が駆動信号を出力すると、増幅回路32によりこの駆動信号の電圧値が増幅されて櫛歯電極部4a,4bに印加される。これにより、櫛歯電極部4a,4bと、櫛歯電極部17,19との間にパルス電圧が印加されて周期的に変化する静電引力が生じ、弾性連結部14a,14bが弾性変形してねじれることにより、光ビーム走査部2が弾性連結部14a,14bを回転軸iとして往復振動する。
【0047】
ここで、駆動信号発生回路31は、ミラー13の角度振幅が、外ジンバル11および内ジンバル12よりも大きい振動モードの共振周波数の2倍の周波数の駆動信号を出力するようになっており、これにより、光ビーム走査部2と弾性連結部14a,14bとからなる振動系が共振し、光ビーム走査部2が共振周波数で往復振動する。
【0048】
そして、この状態でミラー13に半導体レーザ34から光ビームが照射されると、その光ビームがミラー13の鏡面で反射されることにより出射されるとともに、ミラー13の往復振動に伴い、ミラー13の回転角度に応じた方向に走査される。
【0049】
一方、外ジンバル11の往復振動に伴い、櫛歯電極部5a,5bと櫛歯電極部18,20との距離も周期的に変化する。これにより、櫛歯電極部5a,5bと櫛歯電極部18,20との間の静電容量が、外ジンバル11の回転角度に応じて変化する。そして制御回路35は、これらの静電容量に基づき、外ジンバル11の回転角度を検出する。なお上述したように、3自由度捻り振動子の共振状態においては、理論上、各フレーム間の位相角は0度または180度であるため、外ジンバル11の回転角度を検出することにより、ミラー13の回転角度を検出することができる。
【0050】
このように構成された光走査装置1は、光ビームを反射させる鏡面部を有するミラー13と、ミラー13に連結された弾性変形可能な弾性連結部16a,16bを有し、弾性連結部16a,16bを回転軸kとしてミラー13を揺動可能に支持する内ジンバル12と、内ジンバル12に連結された弾性変形可能な弾性連結部15a,15bを有し、弾性連結部15a,15bを回転軸jとして内ジンバル12を揺動可能に支持する外ジンバル11と、外ジンバル11に連結された弾性変形可能な弾性連結部14a,14bを回転軸iとして外ジンバル11を揺動可能に支持する支持部3とを備えて、ミラー13、内ジンバル12、外ジンバル11、支持部3、弾性連結部16a,16b、弾性連結部15a,15b、及び弾性連結部14a,14bが、固有の周期的外力が作用した場合に大きい回転角で捩じり振動する3自由度連成振動系を構成する。
【0051】
このため光走査装置1は、支持部3を固定端として、弾性連結部16a,16b、弾性連結部15a,15b、及び弾性連結部14a,14bに対しての捻り自由度を持つ3自由度捻り振動子になっている。
【0052】
3自由度捻り振動子は、理論上3つの振動モードを持つ。すなわち、3つの振動モードはそれぞれ異なる共振周波数を持ち、各共振周波数に対するミラー13、内ジンバル12、外ジンバル11の捻り振動の角度振幅の比はそれぞれ異なる(これは振動モードと呼ばれる)。したがって、或る振動モードにおいて、外ジンバル11の角度振幅が大きくなると、この振動モードにおける角度振幅の比に応じて、ミラー13および内ジンバル12の角度振幅が大きくなる。
【0053】
そして、櫛歯状に形成された櫛歯電極部17,19が外ジンバル11に設けられるとともに、櫛歯電極部17,19と噛み合い可能な櫛歯状に形成された櫛歯電極部4a,4bが櫛歯電極部17,19と噛み合い可能な位置に固定して設置され、駆動信号発生回路31が、櫛歯電極部17,19と櫛歯電極部4a,4bとの間に電圧を印加して、両電極部間に静電引力を発生させる。
【0054】
このため、駆動信号発生回路31が、櫛歯電極部17,19と櫛歯電極部4a,4bとの間に電圧を印加して、固有の周期的外力を外ジンバル11に作用させることにより、3自由度捻り振動子を共振状態にできる。
【0055】
また、3つの振動モードの各々に対応した周波数の周期的加振力を与えれば、それぞれの振動モードを励振できる。また、複数の周波数の周期的加振力を重畳して与えれば、複数の振動モードを同時に励振できる。
【0056】
したがって、ミラー13の角度振幅が大きい振動モードに対応する周期的加振力と、内ジンバル12の角度振幅が大きい振動モードに対応する周期的加振力とを重畳して与えることにより、ミラー13で反射するレーザ光を2次元的に走査することができる。
【0057】
図3は、ミラー13の振幅角(以下、ミラー振幅角ともいう)と弾性連結部14a,14bのねじりバネ定数K3との関係の一例を示すグラフである。なお以下、弾性連結部14a,14bのねじりバネ定数K3を外ジンバル11のねじりバネ定数K3と称す。
【0058】
図3に示すように、ミラー振幅角の大きさは、外ジンバル11のねじりバネ定数K3に応じて大きく変化する。なお図3では、ミラー振幅角の最大値(図3の点P1を参照)が、ミラー振幅角の最小値(図3の点P2を参照)の約3.5倍の大きさとなる。すなわち、外ジンバル11のねじりバネ定数K3の値を調整することにより、ミラー振幅角を大きくすることができ、走査範囲を大きくすることができる。
【0059】
図4(a)は、ミラー13の振幅角と「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」との関係の一例を示すグラフである。なお図4(a)において、曲線L1は、外ジンバル11とミラー13との位相角の差が0度(すなわち、同相)となる場合のミラー振幅角を示し、曲線L2は、外ジンバル11とミラー13との位相角の差が180度(すなわち、逆相)となる場合のミラー振幅角を示す。
【0060】
図4(a)に示すように、ミラー振幅角の大きさは、「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」に応じて大きく変化する。また、「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」に応じて、(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」が小さい順に、外ジンバル11とミラー13とが逆相になる領域R1(以下、逆相領域R1ともいう)と、外ジンバル11とミラー13とが同相または逆相になる領域R2(以下、不安定領域R2ともいう)と、外ジンバル11とミラー13とが同相になる領域R3(以下、同相領域R3ともいう)とに分割される。
【0061】
図4(b)は、内ジンバル12の振幅角(以下、内ジンバル振幅角ともいう)と「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」との関係の一例を示すグラフである。図4(b)に示すように、内ジンバル振幅角の大きさは、「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」に応じて大きく変化する。
【0062】
図5、図6(a)、図6(b)は、ミラー振幅角および内ジンバル振幅角と「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」との関係の一例を示すグラフである。なお、図5、図6(a)、図6(b)は、図4(a)と図4(b)を重ねて示したものである。
【0063】
図5において、破線L4は、「(弾性連結部15a,15bのねじりバネ定数K2)/(内ジンバル12の慣性モーメントI2)」の大きさ(図5では、約5E+07)を示し、破線L5は、「(弾性連結部16a,16bのねじりバネ定数K1)/(ミラー13の慣性モーメントI1)」の大きさ(図5では、約1.6E+10)を示す。なお以下、「弾性連結部15a,15bのねじりバネ定数K2」を「内ジンバル12のねじりバネ定数K2」と、「弾性連結部16a,16bのねじりバネ定数K1」を「ミラー13のねじりバネ定数K1」と称す。
【0064】
図5に示すように、ミラー振幅角は、「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」が「(ミラー13のねじりバネ定数K1)/(ミラー13の慣性モーメントI1)」未満である領域R4で最大値になっている。
【0065】
このため、ミラー振幅角を大きくするためには、{(ミラー13のねじりバネ定数K1)/(ミラー13の慣性モーメントI1)}>{(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)}となるように光走査装置1を構成するとよい。
【0066】
また図6(a)に示すように、領域R4のうち、上記不安定領域R2を除外するように「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」の値を設定することにより、光走査装置1の動作が比較的安定するようになり、光ビーム走査の乱れを抑制することができる。
【0067】
また図6(b)に示すように、領域R4のうち、上記不安定領域R2および上記同相領域R3を除外するように「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」の値を設定することにより、内ジンバル振幅角が比較的大きくなる領域で光走査装置1を動作させることができ、2次元で光ビーム走査を行う場合に、走査範囲を拡大することができる。
【0068】
また図5に示すように、内ジンバル振幅角は、「(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)」が「(内ジンバル12のねじりバネ定数K2)/(内ジンバル12の慣性モーメントI2)」より大きい領域で最大値になっている。
【0069】
このため、内ジンバル振幅角を大きくして、走査範囲を大きくするためには、{(外ジンバル11のねじりバネ定数K3)/(外ジンバル11の慣性モーメントI3)}>{(内ジンバル12のねじりバネ定数K2)/(内ジンバル12の慣性モーメントI2)}となるように光走査装置1を構成するとよい。
【0070】
以上説明した実施形態において、ミラー13は本発明における反射部、弾性連結部16a,16bは本発明における第1弾性連結部、内ジンバル12は本発明における第1支持部、弾性連結部15a,15bは本発明における第2弾性連結部、外ジンバル11は本発明における第2支持部、弾性連結部14a,14bは本発明における第3弾性連結部、支持部3は本発明における第3支持部、駆動部4は本発明における外力作用手段である。
【0071】
また、同相領域R3は本発明における同相振動発生状態、逆相領域R1は本発明における逆相振動発生状態、不安定領域R2は本発明における不安定振動状態である。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
【0072】
例えば上記実施形態においては、櫛歯電極部4a,4bと、櫛歯電極部17,19との間に静電引力を生じさせることにより、外ジンバル11を往復振動させるものを示した。しかし、圧電駆動または電磁駆動により外ジンバル11を往復振動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…光走査装置、2…光ビーム走査部、3…支持部、4…駆動部、4a,4b…櫛歯電極部、5…角度検出部、5a,5b…櫛歯電極部、11…外ジンバル、12…内ジンバル、13…ミラー、14a,14b,15a,15b,16a,16b…弾性連結部、17,18,19,20…櫛歯電極部、31…駆動信号発生回路、32…増幅回路、33…C−V変換回路、34…半導体レーザ、35…制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを反射させる反射面を有する反射部と、
前記反射部に連結された弾性変形可能な第1弾性連結部を有し、該第1弾性連結部を回転軸として前記反射部を揺動可能に支持する第1支持部と、
前記第1支持部に連結された弾性変形可能な第2弾性連結部を有し、該第2弾性連結部を回転軸として前記第1支持部を揺動可能に支持する第2支持部と、
前記第2支持部に連結された弾性変形可能な第3弾性連結部を有し、該第3弾性連結部を回転軸として前記第2支持部を揺動可能に支持する第3支持部と
を備えて、前記反射部、前記第1支持部、前記第2支持部、前記第3支持部、前記第1弾性連結部、前記第2弾性連結部、及び前記第3弾性連結部が、固有の周期的外力が作用した場合に大きい回転角で捩じり振動する3自由度連成振動系を構成し、
更に、前記3自由度連成振動系に前記固有の周期的外力を作用させる外力作用手段を備える光走査装置であって、
前記第1弾性連結部のねじれバネ定数、及び第3弾性連結部のねじれバネ定数をそれぞれ、K1,K3とし、
前記反射部の慣性モーメント、及び前記第2支持部の慣性モーメントをそれぞれ、I1,I3として、
下式(1)で表される関係式を満たすように構成されることを特徴とする光走査装置。
(K1/I1) > (K3/I3) …(1)
【請求項2】
前記第2支持部と前記反射部との位相角の差が0度となるように当該光走査装置が前記捩じり振動することを同相振動、前記第2支持部と前記反射部との位相角の差が180度となるように当該光走査装置が前記捩じり振動することを逆相振動とし、
当該光走査装置は、前記(K3/I3)の値に応じて、前記同相振動のみが発生する振動状態である同相振動発生状態、前記逆相振動のみが発生する振動状態である逆相振動発生状態、前記同相振動または前記逆相振動が発生する振動状態である不安定振動状態の何れかの状態に遷移し、
前記不安定振動状態とならない前記(K3/I3)の値に設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記逆相振動発生状態となる前記(K3/I3)の値に設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記第2弾性連結部のねじれバネ定数をK2とし、
前記第1支持部の慣性モーメントをI2として、
下式(2)で表される関係式を満たすように構成されることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光走査装置。
(K3/I3) > (K2/I2) …(2)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−175177(P2011−175177A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40459(P2010−40459)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】