説明

光電変換材料および光電池

【課題】簡単な構造で、高い安定性および変換効率を有する光電変換材料およびそれを用いた光電池を提供する。
【解決手段】光電変換材料は、電子供与体と、電子受容体としての球殻状炭素(フラーレン類など)と、電荷輸送体としての線状又は筒状炭素(カーボンナノチューブなど)とを含む。この光電変換材料は、さらに光増感剤(ポルフィリン類など)を含んでいてもよい。光電変換材料において、各成分は二次元的又は三次元的に配置又は配向させてもよく、例えば、電子供与体を含む電子供与層と、光増感剤を含む光増感層と、電子受容体と電子輸送体とを含む電荷輸送層とで積層構造の光電変換材料又は素子を構成できる。電子供与層および電荷輸送層には球殻状の炭素を含有させてもよく、電子供与層における球殻状炭素の濃度は電荷輸送層よりも小さくしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与体、電子受容体、電子輸送体及び必要により光増感剤で構成された光電変換材料およびそれを用いた光電池(太陽電池など)に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されている太陽電池には、シリコン系光電変換材料と化合物半導体系光電変換材料が主に使用されており、有機系光電変換材料は余り使用されていない。一方、1977年に導電性ポリアセチレンが発見されて以来、有機薄膜を利用した太陽電池の研究も盛んに行われている。しかし、有機系材料を用いた太陽電池は、一般に、安定性が低く、しかもエネルギー変換率が低い。
【0003】
特開平10−81754号公報(特許文献1)には、ビピリジル単位を有する金属錯体で構成され、可視光領域および近赤外領域でも感光性を有する金属錯体ポリマーが開示されている。しかし、この金属錯体ポリマーは構造が複雑であるとともにビピリジル単位に対して配位する特殊な配位子を用いる必要がある。
【0004】
特開平9−73180号公報(特許文献2)には、炭素数70以上の基本骨格を有するカーボンクラスターなどの非晶質フラーレンおよびその誘導体の少なくとも一種と、この非晶質フラーレンが分散したマトリックスポリマーとで構成された光導電体が開示されている。この文献には、導電性支持体と、この導電性支持体上に形成された電荷輸送層および前記光導電体からなる電荷発生層とを備えた感光体も開示されている。これらの光電変換材料は、太陽電池などの光電池、感光体などの感光材料として有用である。しかし、この材料に対しても、さらに高い光電変換効率が求められている。
【0005】
特開2000−261016号公報(特許文献3)には、C60,C70などの球殻状炭素分子を電子受容体として内包した化合物(例えば、フェロセンなどの有機金属錯体単位と、ポルフィリン単位と、フラーレン単位とが順次リンカーで結合した化合物)で構成された光電荷分離材料が開示されている。この文献には、電子供与体、光増感剤および電子受容体を三次元的に配置し、光励起による電荷分離状態に方向性を付与した光電荷分離材料と、この光電荷分離材料で構成された光電池も開示されている。しかし、前記光電荷分離材料は、フラーレンなどの球殻状炭素分子を電子受容体として内包させる必要があるため、構造が複雑化し、光電荷分離材料や光電池を高い生産性で工業的に有利に製造することが困難である。
【特許文献1】特開平10−81754号公報
【特許文献2】特開平9−73180号公報
【特許文献3】特開2000−261016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、高い光電変換機能を有し、大面積化、薄膜化、軽量化やコストダウンが可能な光電変換材料およびそれを用いた光電池を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、構造が簡単であり、かつ高い安定性および変換効率を有する光電変換材料およびそれを用いた光電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フラーレン類などの球殻状炭素が電子受容体として有効に機能するとともに、カーボンナノチューブ類などの線状又は筒状炭素が電荷輸送体として有効に機能すること、また、平面的(又は二次元的構造)かつ線状の炭素(例えば、グラファイトリボンなど)が、電子受容体と電荷輸送体としての両機能を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の光電変換材料は、電子供与体と、球殻状炭素と、線状又は筒状炭素とを含む。光電変換材料は、さらに光増感剤を含んでいてもよい。光電変換材料において、前記各成分(電子供与体、球殻状炭素、線状又は筒状炭素および必要により光増感剤)の配置又は配列状態は、電子供与体からのキャリア(電子又は正孔)が電子輸送体に効率よく輸送される限り特に制限されず、例えば、電子供与体と電子輸送体との間に光増感剤が介在し、かつ電子受容体がキャリア(電子、正孔)を電荷輸送体に付与可能な形態で、それぞれの成分が二次元的又は三次元的に配置又は配向していてもよい。より具体的には、二次元的構造の光電変換材料は、例えば、電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ電子受容体と電子輸送体(又は電荷輸送体)とを含む電荷輸送層とで構成してもよい。また、電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ光増感剤を含む光増感層と、この光増感層上に形成され、かつ電子受容体と電子輸送体(又は電荷輸送体)とを含む電荷輸送層とで構成してもよい。このような二次元的構造の光電変換材料において、電子供与層および電荷輸送層は球殻状の炭素を含んでいてもよく、電子供与層と電荷輸送層との間には球殻状炭素の濃度差を形成してもよい。例えば、電子供与層における球殻状炭素の濃度は電荷輸送層よりも小さくてもよい。
【0010】
前記球殻状の炭素としては、フラーレン類、その修飾体、金属内包物などが例示でき、線状又は筒状炭素としては、チューブ状、繊維状またはリボン状の形態の炭素、例えば、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、グラファイトリボン、フィブリル、グラファイト層間化合物、それらの修飾体などが例示できる。さらに、光増感剤としては、π電子系化合物、例えば、ポルフィリン類、金属キレート化合物、ポリアニリン類、芳香族多環化合物、ポリアセン系骨格構造を有する化合物などが例示できる。
【0011】
前記光電変換材料は、高い光電変換効率を有しており、安定性も高い。そのため、本発明は、前記光電変換材料で構成された種々の素子又はユニット、例えば、光電池(太陽電池など)も包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、球殻状炭素と線状又は筒状炭素とを組み合わせているため、光電変換機能が高い。また、大面積化、薄膜化、軽量化やコストダウンが可能である。しかも、簡単な構造で、高い安定性および変換効率を示す。そのため、光電変換材料又はその素子は光電池(特に太陽電池)に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光電変換材料の特色は、球殻状炭素と線状又は筒状炭素とを組み合わせている点にある。前記球殻状炭素は電子受容体として機能させることができ、線状又は筒状炭素は電荷輸送体として機能させることができる。また、平面的(又は二次元的構造)で、しかも線状の炭素(例えば、グラファイトリボンなど)は、電子受容体と電荷輸送体との両機能を兼ね備える。
【0014】
球殻状炭素には、フラーレン類、その修飾体、金属内包物などが挙げられる。これらの球殻状炭素は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。フラーレン類としては、種々の立体構造を有するカーボンクラスター、例えば、C60、C70、C74、C76、C78、C82、C84、C720、C860などのフラーレン類などが挙げられる。フラーレン類の形態は、例えば、サッカーボール状、バッキーボール状などであってもよい。
【0015】
フラーレン類は置換基の導入などにより修飾されていてもよい。修飾方法は、特に限定されず、例えば、フラーレン類の反応性に富む炭素5員環部を化学的に修飾できる。置換基の種類は、特に限定されず、例えば、アルキル基(メチル基、t−ブチル基などのC1−10アルキル基など)、アリール基(フェニル基など)、アラルキル基(ベンジル基など)、ジオキソラン単位、ハロゲン又は酸素原子などが例示でき、液晶ポリマー、色素類、ポリエチレンオキシドなどの導入により修飾してもよい。フラーレン類の修飾により、溶媒、高分子への可溶化や親和性の改善、フラーレン類の配列又は配向を可能にする。
【0016】
金属を内包したフラーレン類としては、種々の金属、例えば、周期表第1A族元素(K、Na、Rbなど)、周期表第2A族元素、ランタノイド族元素(Laなど)などの金属がドープされたフラーレン類が例示できる。ドーパントとしての金属は単独で又は二種以上組み合わせてドープとしてもよい。これらの金属内包フラーレン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0017】
線状又は筒状炭素には、チューブ状、繊維状またはリボン状の形態の炭素が含まれる。このような炭素としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、グラファイトナノファイバー(又はカーボンナノファイバー)、グラファイトリボン、フィブリル、グラファイト層間化合物などが例示できる。これらの炭素材は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
好ましい線状又は筒状炭素は、チューブ状又はリボン状、例えば、カーボンナノチューブ類、グラファイトリボン類である。カーボンナノチューブ類は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブであってもよく、バッキーオニオン(bucky-onion)構造を有していてもよい。
【0019】
カーボンナノチューブ類などの線状又は筒状炭素の平均直径は、例えば、0.7〜300nm、好ましくは0.7〜250nm、さらに好ましくは1〜250nm、特に5〜250nm程度であってもよい。なお、前記平均直径は、リボン状の形態の炭素では、平均厚み又は平均幅を意味する。
【0020】
溶媒、高分子への可溶化や親和性の改善、線状又は筒状炭素の配列又は配向を制御するため、カーボンナノチューブ類などの炭素は、前記フラーレン類と同様に、置換基の導入などにより修飾してもよい。修飾方法および置換基の種類は、前記フラーレン類と同様である。なお、カーボンナノチューブ類には、金属内包フラーレン類と同じく、金属をドープしてもよい。グラファイトリボンなどの平面的(二次元的構造)でしかも線状の炭素は構造的にエッジ部分を多く含むため、置換基の導入、修飾や金属内包が容易である。
【0021】
電子供与体(正孔受容体又は電子発生剤)としては、特に限定されないが、導電性高分子であり、かつp型半導体としての機能を有する高分子が望ましい。このような電子供与体としては、PT[ポリ(3−アルキルチオフェン)]などのポリチオフェン系樹脂、PPV[ポリ(P−フェニレンビニレン)],OOPV[ポリ(2,5−ジオクチルオキシ−P−フェニレンビニレン)],PEDOT[ポリ(2,3−ジヒドロチエノ)[3,4−b]-1,4−ジオキン],PSS[ポリ(スチレンスルホネート)]などのポリフェニレンビニレン系樹脂、ポリフェニレン系樹脂(例えば、ポリ(p−フェニレン)系樹脂、ポリ(m−フェニレン)系樹脂)やそれらの置換体などが挙げられる。
【0022】
光増感剤としては、例えば、アンテナ分子、すなわち光を有効に吸収して他の物質に電子、正孔をトランスファーする化合物であればよく、例えば、π電子系化合物(ポルフィリン類、金属キレート化合物、ポリアニリン、芳香族多環化合物、ポリアセン系骨格構造を有する化合物など)、異種元素を含むπ電子系化合物(カルバゾールなど)、ハロゲン化されたπ電子系化合物、キニザリン又はその誘導体などが例示できる。ポルフィリン類としては、ポルフィリン骨格を有する種々の化合物、例えば、ポルフィリン、フタロシアニン、金属フタロシアニン(鉄フタロシアニンなどの遷移金属を含むフタロシアニン)、テトラベンゾポルフィリン又はテトラフェニルポルフィリン又はその誘導体〔金属テトラベンゾポルフィリン(亜鉛−テトラベンゾポルフィリン、マグネシウム−テトラベンゾポルフィリンなど)、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリンなど〕などが例示される。金属キレート化合物としては、例えば、ジメチルグリオキシム、ジチゾン、オキシン、アセチルアセトン、グリシン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NTAなどの金属塩(例えば、遷移金属塩)などが例示できる。
【0023】
芳香族多環化合物としては、石油蒸留残渣、ナフサ熱分解残渣、エチレンボトム油、石炭液化油、コールタールなどの石油系又は石炭系重質油、ナフタレンなどの縮合によって合成された多環式炭化水素類、これら炭化水素類の構造中にヘテロ原子(窒素原子、イオウ原子、ホウ素原子、リン原子、酸素原子など)が導入された多環式炭化水素類、さらに前記残渣からの溶剤抽出などにより得られる多環式炭化水素類などが例示される。
【0024】
ポリアセン系骨格構造を有する化合物は、特開昭60−170163号公報に記載されている芳香族炭化水素化合物とアルデヒド類との縮合物の熱処理物であって、水素原子/炭素原子の原子比が0.05〜0.5である。
【0025】
ハロゲン原子を有する化合物としては、特に限定されず、例えば、フッ化炭化水素類、フッ化芳香族多環化合物(フッ化ピッチなど)、重質油フッ化物、六フッ化ベンゼン、オクタフルオロナフタレン、デカフルオロフェナンスレン、デカフルオロピレンなど)、これらに対応する塩化炭化水素類、臭化炭化水素類、ヨウ素化炭化水素類などが例示できる。これらのハロゲン化物のうちフッ化ピッチが好ましい。これらのハロゲン化物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
なお、ポルフィリン類は、ポルフィリンデンドリマーとして使用でき、ポリアニリンも化学結合により電子供与体、電子受容体、電子輸送体に結合させて使用できる。
【0027】
前記成分で構成された光電変換材料は、高安定性および高エネルギー変換率を実現する。すなわち、光励起により電子供与体から電子受容体へ電子が移動するとともに、電子供与体へ正孔が移動し、電荷分離状態が効率よく生成する。例えば、光増感剤の光励起により光増感剤から電子受容体へ電子が移動するとともに、光増感剤から電子供与体へ正孔が移動し、電荷分離状態を効率よく形成できる。しかも、線状又は筒状炭素の電子輸送体により、電荷分離状態に方向性を与えることができる。そのため、失活することなく、電荷を輸送でき、高い安定性および光電変換効率が得られるものと思われる。
【0028】
このような光電変換材料では、フラーレン類、カーボンナノチューブ類などの炭素材には構造的特異性とともに多くのπ電子系が存在するためか、光との強い相互作用、分子間電荷移動、電子輸送現象などが生じ、高い効率で光電変換機能が発現するものと思われる。例えば、光増感剤は、光励起によりキャリア又は電荷(電子と正孔)を生成し、電子受容体へ電子を与えるとともに、電子供与体へ正孔を与える。そのため、光増感剤は、キャリア又は電荷(電子と正孔)を分離する機能を有しており、後続反応に利用可能な電荷分離状態を効率よく生成させる。このように、光増感剤により、生成した電荷(電子と正孔)を分離して輸送できるため、pn接合面での電荷発生によるシリコン系半導体と比較して、高い光電変換効率が得られる。しかも、カーボンナノチューブ類などの線状または筒状炭素は少量の添加で方向性のあるパーコレーション伝導路を形成する。そのため、電子輸送体は、電荷輸送に極めて有効であり、電荷を失活させることなく輸送できるものと思われる。
【0029】
前記各成分は、物理的又は化学的蒸着法、リソグラフィ技術などを利用して光電変換材料又は光電変換素子を形成してもよく、マトリックス樹脂と複合化して光電変換材料又は光電変換素子を形成してもよい。マトリックス樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)、酢酸ビニル系樹脂(酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリアリレート系樹脂を含む)、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂(ポリビニルブチラール系樹脂など)、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂などが例示できる。これらのマトリックス樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
マトリックス樹脂としては、導電性高分子、ポリアセン系骨格構造を有する化合物などが好ましい。導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン系高分子(ポリアセチレンなどの溶媒不溶性樹脂、フェニルアセチレンなどを用いた溶媒可溶性ポリアセチレン系樹脂など)、ポリフェニレン系高分子(例えば、ポリ(p−フェニレン)系樹脂、ポリ(m−フェニレン)系樹脂、ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリフェニレンビニレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂など)、複素環式高分子(ポリピロール、ポリ(3−アルキルチオフェン)などのポリチオフェン系樹脂、ポリフラン系樹脂、ポリセレノフェン系樹脂、ポリテルロフェン系樹脂など)、イオン性高分子(ポリアニリン系樹脂、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)などのピロール系樹脂など)、はしご型高分子などが例示できる。導電性高分子としては、通常、溶媒可溶性樹脂が使用される。なお、マトリックス樹脂の種類は特に制限されず、電子供与層や電荷輸送層などの層の機能に応じて選択でき、電子供与層としてはp型導電性高分子を用いる場合が多く、電荷輸送層としてはn型導電性高分子を用いる場合が多い。
【0031】
ポリアセン系骨格構造を有する化合物には、例えば、光増感剤の項で記載した前記ポリアセン系骨格構造を有する化合物が含まれる。
【0032】
なお、ディスコティック液晶を電子供与体に用いると、カラム構造に配列し、正孔や電子の輸送に効果的である。
【0033】
マトリックス樹脂として、p型半導体的性質を有する導電性高分子を用いると、フラーレン類は電子供与体を取り込んでn型半導体的性質を有する電荷移動型物質となりやすい。さらに、フラーレン類と導電性高分子との複合体は、特に光に対して大きな応答を示す。このことは、シリコン系半導体のpn接合素子とは異なる光誘起電荷移動で説明されるドナー−アクセプター型素子を形成していることに起因すると思われ、光照射により複合体全体で励起子が発生する。そのため、導電性高分子との組合せにおいて、電子供与体としてフラーレン類などを用いることにより、効率よくキャリア(電子、正孔)を生成する。
【0034】
本発明の光電変換材料において、電子供与体、電子受容体および電子輸送体で構成されていればよく、光増感剤を含有していてもよい。このような光電変換材料は各成分の複合体(又は混合組成物)であってもよい。好ましい態様において、各成分は、互いに関連付けて、二次元的(層状)又は三次元的に配置できる。例えば、それぞれの成分が二次元的又は三次元的に配置、結合又は配向した構造において、電子供与体と電子輸送体との間に、電子受容体がキャリア(電子)を電荷輸送体に付与可能な形態で配置、結合又は配向していてもよく、電子供与体と電子輸送体との間に光増感剤が介在し、かつ電子受容体はキャリア(電子)を電荷輸送体に付与可能な形態で配置、結合又は配向していてもよい。
【0035】
好ましい態様では、光増感剤の光励起により生成したキャリア又は電荷(電子又は正孔)を分離して効率よく移動させるため、光増感剤には、キャリアを輸送可能な形態で、電子供与体が結合又は近接(又は配向)しているとともに、電子受容体(球殻状炭素)も結合又は近接(又は配向)している。さらに、電荷輸送体(線状又は筒状炭素)は、キャリアを輸送可能な形態で、少なくとも前記電子受容体(球殻状炭素)と結合又は近接(又は配向)しており、電荷輸送体(線状又は筒状炭素)は、光増感剤を介して、キャリアを輸送可能な形態で、前記電子供与体および前記電子受容体(球殻状炭素)と結合又は近接(又は配向)していてもよい。このような光電変換材料としては、例えば、下記式で表される複合体が例示できる。
【0036】
Ed−L1−P−L2−Ea−(Ct)
(式中、Edは電子供与体、Pは光増感剤、Eaは電子受容体、Ctは電荷輸送体を示し、Ea−(Ct)は電子受容体Eaと電荷輸送体Ctとが結合、近接又は配向していることを示す。L1およびL2はそれぞれ同一又は異なって、電子供与体Ed、光増感剤P、電子受容体Eaを連結するリンカーを示す)
なお、前記各成分を結合させるためのリンカーとしては、慣用の反応を利用して形成される結合、例えば、直接結合、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合などが利用できる。なお、これらのリンカーの一例としては、例えば、特開2000−261016号公報などを参照できる。
【0037】
好ましい態様において、光電変換材料(又は光電変換素子)は、二次元的な層構造(積層構造)を有している。このような積層構造は、例えば、電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成された電子輸送層とで構成された積層構造を有している。この電子輸送層は、通常、電子受容体(球殻状炭素など)と電子輸送体(線状又は筒状炭素など)とを含んでいる。特に、電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ光増感剤を含む光増感層と、この光増感層上に形成され、かつ電子受容体と電子輸送体とを含む電荷輸送層とで構成された構造を含む。なお、光増感層の光増感剤は、電子供与層と電荷輸送層との界面近傍に分散していてもよい。
【0038】
このような層構造の光電変換材料において、電子供与層および電荷輸送層は、球殻状の炭素を含んでいてもよい。また、電子供与層および電荷輸送層での球殻状の炭素の濃度は異なっていてもよい。例えば、電子供与層における球殻状炭素の濃度は、電荷輸送層での球殻状炭素の濃度より小さくてもよい。例えば、電子供与層と電荷輸送層との球殻状炭素の含有量の差は、例えば、1〜80重量%、好ましくは5〜70重量%(例えば、10〜50重量%)程度であってもよい。電子供与層中の球殻状炭素の含有量は10重量%以下(例えば、0〜10重量%、特に0〜7重量%程度)、電荷輸送層中の球殻状炭素の含有量は10重量%以上(例えば、10〜70重量%程度)であってもよい。
【0039】
前記層構造の光電変換材料又は素子において、種々の製膜法、例えば、スパッタリング、蒸着などの化学的又は物理的蒸着法、前記マトリックス樹脂(導電性高分子など)を利用するコーティング法、これらの方法を組み合わせた方法などにより各層を形成してもよい。例えば、基板上に、電子供与体と必要により球殻状炭素とマトリックス樹脂とを含む塗布液をコーティングして電子供与層を形成し、光増感剤とマトリックス樹脂とを含む塗布液をコーティングして光増感層を形成し、電子受容体と電子輸送体とマトリックス樹脂とを含む塗布剤をコーティングすることにより電荷輸送層を形成できる。また、所望の層(例えば、光増感層など)は必要により化学的又は物理的蒸着法により形成してもよい。
【0040】
電子供与層における球殻状炭素の割合は、マトリックス樹脂100重量部に対して、例えば、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜9重量部、さらに好ましくは1〜8重量部程度である。
【0041】
光増感層において、全体100重量部に対する光増感剤の割合は、例えば、1〜100重量部、好ましくは2〜100重量部、さらに好ましくは5〜100重量部程度である。
【0042】
電荷輸送層において、全体100重量部に対する電子受容体(球殻状炭素)の割合は、例えば、10重量部以上(例えば、10〜200重量部程度)、好ましくは15重量部以上(例えば、15〜150重量部程度)、さらに好ましくは20重量部以上(例えば、20〜120重量部程度)であり、電子輸送体(線状又は筒状炭素)の割合は、例えば、0.1重量部以上(例えば、0.5〜100重量部程度)、好ましくは1重量部以上(例えば、1〜50重量部程度)、さらに好ましくは2重量部以上(例えば、2〜30重量部程度)である。
【0043】
さらに、電子供与層の厚みは、例えば、5nm〜300μm(例えば、5nm〜30μm)、好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは50nm〜30μm程度である。光増感層の厚みは、例えば、5nm〜50μm、好ましくは5nm〜5μm、さらに好ましくは5nm〜1μm程度である。電荷輸送層の厚みは、例えば、5nm〜300μm(例えば、5nm〜300μm)、好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは50nm〜30μm程度である。
【0044】
前記基板は、光電変換材料の種類や用途に応じて、前記成分や層が吸着や化学結合などにより物理的又は化学的に結合できる基板、例えば、導電体、半導体、絶縁体(例えば、金、銀、銅、アルミニウムなどの導電性金属、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、ITOなどの透明導電体又は半導電体、シリコンなどの半導電体又は絶縁体、ガラス、プラスチックフィルムなどの透明絶縁体、導電性、半導電性又は絶縁性セラミックスなど)などから適当に選択できる。
【0045】
なお、基板は、光電変換素子(例えば、太陽電池などの光電池)の電極として使用することもできる。この場合には、光の入射側の電極には透明導電体又は半導電体が使用でき、反対側の電極には金属などの導電性金属などが使用できる。また、光の入射側の透明導電体は透明基板(ガラス板など)で保護してもよい。
【0046】
前記塗布液の溶媒としては、例えば、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アミド類、硫黄含有化合物(スルホキシド類を含む)、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類などが挙げられ、溶媒は混合溶媒として使用してもよい。なお、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン)、脂環族炭化水素類(シクロヘキサンなど)、脂肪族炭化水素類(ノルマルヘキサンなど)、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレンなど)、二硫化炭素などは、フラーレン類、ナノチューブ類に対する溶解量が多いために好適である。
【0047】
なお、コーティングには、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、蒸着法などの慣用の方法が採用でき、塗布液をコーティングした後、乾燥することにより層構造を有する光電変換材料を得ることができる。
【0048】
より具体的には、層状構造の光電変換素子において、電子供与層は、低濃度(例えば、10重量%以下)のフラーレン類(C60など)と、マトリックス樹脂(チオフェン系樹脂、フェニレン系樹脂などの導電性高分子、特にp型導電性高分子)とで形成できる。この電子供与層は、電荷輸送性化合物(例えば、正孔を輸送可能なディスコティック液晶など)をパーコレーション濃度前後で含んでいてもよい。
【0049】
光増感層は、電荷分離を生成させるため、電子供与層と電荷輸送層との間に介在していればよく、電子供与層と電荷輸送層との界面において光増感剤が分散していてもよい。また、光増感剤の種類や層又は分散形態などにより、光電変換素子のスペクトル特性を改善できる。
【0050】
電子輸送層は、例えば、フラーレン類(C60など)と、カーボンナノチューブ類と、マトリックス樹脂(導電性高分子、特にn型導電性高分子)とで形成できる。この電子輸送層には、カーボンナノチューブ類と同様に電荷輸送性化合物をパ−コレーション閾値以上の濃度で含んでいてもよい。この場合、フラーレン類(C60フラーレンなど)とともに、導電性高分子との間で光誘起電荷移動を生じる化合物を用いてもよい。
【0051】
本発明の光電変換材料および光電変換素子又はデバイスは、光電変換機能、増幅機能、光整流機能などを利用した種々の光電変換デバイス、電光変換デバイス又はオプトエレクトロニクスデバイスへの幅広い応用が可能である。例えば、電子素子又は光電変換素子(ダイオード、整流素子、フォトダイオード、光センサ、光スイッチ、トランジスタ、FET、ホログラフィック素子など)、光電池(太陽電池など)、光起電力素子、光記録材(電子写真方式での感光体、光導電性トナー、光メモリなど)などとして有用である。特に、光電変換効率が高く、しかも安定しているため、光電池の光電変換素子として適している。しかも、光電変換デバイスは、大面積化、薄膜化、軽量化やコストダウンが可能であるため、壁や窓などにも適用でき、次世代の太陽電池の光電変換素子として利用できる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
なお、以下の実施例において、分子修飾方法(ブチル化方法)としては、以下の2方法を用いて分子修飾物を調製した。(1)C60フラーレン、カーボンナノチューブ又はグラファイトリボン(5g)、ジブチル亜鉛(105g)、ヨウ化ブチル(50ml)をフラスコに入れ、180℃で4時間攪拌した。反応終了後、エタノール、希塩酸で洗浄し、ブチル化物を調製した。(2)C60フラーレン、カーボンナノチューブ又はグラファイトリボン(5g)、カリウムK(7g)、テトラヒドロフランTHF(100ml)を三口フラスコに入れ、超音波照射下、60℃で5時間攪拌した。続いて、90mlのヨウ化ブチルを加え、室温で一晩攪拌した。溶媒を留去後、残さを水−エタノールで洗浄し、ブチル化物を調製した。
【0054】
実施例1
導電性高分子OOPPV(ポリ(2,5−ジオクチルオキシ−p−フェニレンビニレン))をクロロホルム中に溶解させ、この溶液中に、電子供与体として分子修飾したC60フラーレン5重量部(前記導電性高分子100重量部に対して)を加え、超音波処理した。得られた塗布剤を、透明電極としてITO膜を形成した石英ガラス基板上にスピンコートして薄膜(厚み120nmの電子供与層)を形成した。
【0055】
また、導電性高分子CNPPV(CN ポリ(p−フェニレンビニレン))をトリクロロエチレン中に溶解させ、この溶液中に、電子受容体としてC60フラーレン20重量部と、電荷輸送体としてポリエチレンオキシドで分子修飾したカーボンナノチューブ(平均直径40〜200nm、平均長さ20〜30μm)2重量部を加え、超音波処理した。得られた塗布剤を、電子供与層上にスピンコートし、電荷輸送層(厚み50nm)を形成した。さらに、電荷輸送層上にアルミニウムを蒸着して上部電極を形成し、素子を作製した。
【0056】
なお、上記C60フラーレンは、黒鉛電極を用い、100mmHgのヘリウム雰囲気でアーク放電し、得られたススをベンゼンで抽出し、得られたC60混合物を、塩基性活性アルミナを担体とし、ヘキサンを展開溶媒として、カラム分離精製することにより調製した。また、カーボンナノチューブは、CVD法を用い、700℃で、Ni−フタロシアニンを原料として調製した。
【0057】
作製した素子に直流電源を接続して、光導電性を調べた。光を照射しない場合、素子は絶縁体であった。この素子に可視光領域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、700nm以下の波長に対して光応答が観測された。
【0058】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電力が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池のエネルギー変換効率は4%であった。
【0059】
実施例2
光増感剤としてのポルフィン類(オクタエチルポルフィリン)を真空蒸着することにより、電子供与層と電荷輸送層との間に光増感層(厚み40nm)を形成する以外は、実施例1と同様の素子を作製した。この素子に可視光領域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性も測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観測された。また、実施例1と比較して、光電流値が増加した。
【0060】
この太陽電池は、整流性を、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電力が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池のエネルギー変換効率は5%であった。
【0061】
実施例3
素子は、マトリックス樹脂(OOPVポリ(2,5−ジオクチルオキシ−p−フェニレンビニレン)60重量%,CNPPV(CN ポリ(p−フェニレンビニレン))30重量%)に、電子受容体としてのC60フラーレン5重量%と、電荷輸送物体としてポリエチレンオキシドで分子修飾したカーボンナノチューブ2重量%、光増感剤としてポルフィン類(オクタエチルポルフィン)3重量%とを分子分散させた光導電体を形成した。なお、フラーレンおよびカーボンナノチューブは、実施例1と同様のフラーレンおよびカーボンナノチューブを用いた。
【0062】
すなわち、上記成分をクロロホルム/トリクロロエチレン混合溶媒に溶解し、得られた塗布剤を、透明電極としてITO膜を形成した石英ガラス基板上にスピンコートして光導電層の薄膜(厚み0.3μm)を形成した。さらに、光導電層上にアルミニウムを蒸着して上部電極を形成し、素子を作製した。
【0063】
作製した素子に直接電源を接続して、光導電性を調べた。光を照射しない場合、感光体は絶縁体であった。この素子に可視光領域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観測された。
【0064】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電力が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池のエネルギー変換効率は3.5%であった。
【0065】
実施例4
導電性高分子OOPPV(ポリ(2,5−ジオクチルオキシ−p−フェニレンビニレン))をクロロベンゼン中に溶解させ、この溶液を超音波処理した。得られた塗布剤を、透明電極としてITO膜を形成した石英ガラス基板上にスピンコートして薄膜(厚み120nmの電子供与層)を形成した。
【0066】
また、導電性高分子CNPPV(CN ポリ(p−フェニレンビニレン))をトリクロロエチレン中に溶解させ、この溶液中に、電子受容体としてC60フラーレン20重量部と、電荷輸送体としてカーボンナノチューブ(平均直径40〜200nm、平均長さ20〜30μm)2重量部を加え、超音波処理した。得られた塗布剤を、電子供与層上にスピンコートし、電荷輸送層(厚み50nm)を形成した。さらに、電荷輸送層上にアルミニウムを蒸着して上部電極を形成し、素子を作製した。
【0067】
作製した素子に直流電源を接続して、光導電性を調べた。光を照射しない場合、素子は絶縁体であった。この素子に可視光領域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、700nm以下の波長に対して光応答が観測された。
【0068】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池のエネルギー変換効率は0.8%であった。
【0069】
実施例5
カーボンナノチューブに代えて、グラファイトリボンを使用する以外は、実施例4と同様の素子を作製した。この素子の可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、700nm以下の波長に対して光応答が観測された。
【0070】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は0.7%であった。
【0071】
実施例6
60フラーレン、カーボンナノチューブに代えて、グラファイトリボンを使用する以外は、実施例4と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、700nm以下の波長に対して光応答が観測された。
【0072】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は0.5%であった。
【0073】
実施例7
光増感剤としてのポルフィン類(オクタエチルポルフィリン)を真空蒸着することにより、電子供与層と電荷輸送層との間に光増感層(厚み40nm)を形成する以外は、実施例4と同様の素子を作製した。この素子に可視光領域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性も測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観測された。また、実施例4と比較して、光電流値が増加した。
【0074】
この太陽電池は、整流性を、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池のエネルギー変換効率は1.5%であった。
【0075】
実施例8
導電性高分子OOPPVをクロロベンゼン中に溶解させ、この溶液中に、電子供与体としてC60フラーレン5重量部(OOPPV 100重量部に対して)を加え、超音波処理した。得られた塗布剤を、透明電極としてITO膜を形成した石英ガラス基板上にスピンコートして薄膜(厚み120nmの電子供与層)を形成した。
【0076】
また、導電性高分子CNPPVをトリクロロエチレン中に溶解させ、この溶液中に、電子受容体としてC60フラーレン20重量部と、電荷輸送体としてカーボンナノチューブ(平均直径40〜200nm、平均長さ20〜30μm)2重量部を加え、超音波処理した。得られた塗布剤を、電子供給層上にスピンコートし、電荷輸送層(厚み50nm)を形成した。さらに、電荷輸送層上にアルミニウムを蒸着して上部電極を形成し、素子を作製した。
【0077】
作製した素子に直接電源を接続して、光導電性を調べた。光を照射しない場合、素子は絶縁体であった。この素子に可視光領域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、700nm以下の波長に対して光応答が観測された。
【0078】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池のエネルギー変換効率は2%であった。
【0079】
実施例9
光増感剤としてのポルフィン類(オクタエチルポルフィリン)を真空蒸着することにより、電子供与層と電荷輸送層との間に光増感層(厚み40nm)を形成する以外は、実施例8と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存症を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0080】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は3%であった。
【0081】
実施例10
60フラーレン及びカーボンナノチューブに代えて、分子修飾C60フラーレン、分子修飾カーボンナノチューブを使用する以外は、実施例8と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0082】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は4%であった。
【0083】
実施例11
60フラーレン及びカーボンナノチューブの代わりに、分子修飾C60フラーレン、分子修飾カーボンナノチューブを使用する以外は、実施例9と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0084】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は5%であった。
【0085】
実施例12
60フラーレン及びカーボンナノチューブの代わりに、分子修飾C60フラーレン、分子修飾グラファイトリボンを使用する以外は、実施例8と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0086】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は4.5%であった。
【0087】
実施例13
60フラーレン及びカーボンナノチューブの代わりに、分子修飾C60フラーレン、分子修飾グラファイトリボンを使用する以外は、実施例9と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0088】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は5.3%であった。
【0089】
実施例14
60フラーレン及びカーボンナノチューブの代わりに、分子修飾グラファイトリボンを使用する以外は、実施例8と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0090】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は3.5%であった。
【0091】
実施例15
60フラーレン及びカーボンナノチューブの代わりに、分子修飾グラファイトリボンを使用する以外は、実施例9と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0092】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は4.6%であった。
【0093】
実施例16
素子として、マトリックス樹脂OOPPV60重量部及びCNPPV30重量部に、電子受容体としての分子修飾C60フラーレン5重量部と、電荷輸送体としての分子修飾カーボンナノチューブ2重量部、光増感剤として前記ポルフィン類3重量部とを分散させた光導電体を作製した。すなわち、上記成分をクロロベンゼン/トリクロロエチレン混合溶媒と混合し、得られた塗布剤を、透明電極としてITO膜を形成した石英ガラス基板上にスピンコートして光導電層の薄膜(厚み0.3μm)を形成した。さらに、光導電層上にアルミニウムを蒸着して上部電極を形成し,素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0094】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は3.5%であった。
【0095】
実施例17
60フラーレン及びカーボンナノチューブの代わりに、分子修飾グラファイトリボンを使用する以外は、実施例16と同様の素子を作製した。この素子に可視光域の光を透明電極側から照射したところ、光電流が観測された。タングステンランプを分光し、光電流強度の波長依存性を測定した結果、800nm以下の波長に対して光応答が観察された。
【0096】
この太陽電池は、整流性を示し、透明電極側から波長635nmの単色光を照射したところ、過電圧が発生し、良好な太陽電池であることが判った。この太陽電池の変換効率は3.9%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与体と、電子受容体としての球殻状炭素と、電荷輸送体としての線状又は筒状炭素とを含む光電変換材料であって、
電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ電子受容体と電荷輸送体とを含む電荷輸送層とで構成されており、
球殻状炭素が、フラーレン類、その修飾体およびその金属内包物から選択された少なくとも一種であり、
線状又は筒状炭素が、チューブ状、繊維状またはリボン状の形態の炭素であり、かつカーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、グラファイトリボン、フィブリル、グラファイト層間化合物、およびそれらの修飾体から選択された少なくとも一種である光電変換材料。
【請求項2】
電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ光増感剤を含む光増感層と、この光増感層上に形成され、かつ電子受容体と電荷輸送体とを含む電荷輸送層とで構成されている請求項1記載の光電変換材料。
【請求項3】
電子供与層および電荷輸送層が球殻状の炭素を含んでおり、電子供与層における球殻状炭素の濃度が電荷輸送層よりも小さい請求項1記載の光電変換材料。
【請求項4】
球殻状炭素が、フラーレン類の修飾体およびフラーレン類の金属内包物から選択された少なくとも一種である請求項1記載の光電変換材料。
【請求項5】
電子供与体と、電子受容体および電荷輸送体としてのグラファイトリボンおよびその修飾体から選択された少なくとも一種を含む光電変換材料。
【請求項6】
電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ電子受容体および電荷輸送体としてのグラファイトリボンおよびその修飾体から選択された少なくとも一種を含む電荷輸送層とで構成されている請求項5記載の光電変換材料。
【請求項7】
電子供与体を含む電子供与層と、この電子供与層上に形成され、かつ光増感剤を含む光増感層と、この光増感層上に形成され、かつ電子受容体および電荷輸送体としてのグラファイトリボンおよびその修飾体から選択された少なくとも一種を含む電荷輸送層とで構成されている請求項6記載の光電変換材料。
【請求項8】
光増感剤が、ポルフィリン類、金属キレート化合物、ポリアニリン類、芳香族多環化合物、ポリアセン系骨格構造を有する化合物から選択されたπ電子系化合物である請求項2又は7に記載の光電変換材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光電変換材料で構成されている光電池。

【公開番号】特開2009−135505(P2009−135505A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319724(P2008−319724)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【分割の表示】特願2002−29524(P2002−29524)の分割
【原出願日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】