説明

光電変換素子の製造方法

【課題】生産性を向上させることや製造コストを低減することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板の表面に第1剥離層を形成する工程と、第1剥離層の、基板とは反対側に第1光電変換素子層を形成する工程と、第1光電変換素子部の、第1剥離層とは反対側に、第1剥離層とは異なる形態の第2剥離層を形成する工程と、第2剥離層の、第1光電変換素子部とは反対側に、第2光電変換素子部を形成する工程と、第2光電変換素子部と第1光電変換素子部とを分離する分離工程と、第1光電変換素子部を基板から剥離する剥離工程と、を有し、分離工程と剥離工程とが別々に行われる、光電変換素子の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子の製造方法に関し、特に、化合物半導体を用いた光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要という利点を有している。そのため、様々な種類の太陽電池に関する研究が、盛んに進められている。太陽電池は、材料にシリコンを用いる形態と、化合物半導体を用いる形態とに大別することができ、現在実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。
【0003】
一方、化合物半導体は光吸収係数が大きいため、化合物半導体を用いた太陽電池は薄膜(例えば、1μm〜3μm程度)として用いられる。化合物半導体を用いた太陽電池は、化合物半導体の高品質膜を作製するために必要な基板(GaAs基板又はGe基板)が高価なため、現在広く普及しているシリコン系太陽電池よりも高価である。仮に1枚の基板から複数の太陽電池を作製することができれば、化合物半導体太陽電池を低コストで作製することが可能となる。そのためには、基板に何層もの太陽電池を作製し、作製後に各々に分離(剥離)する必要がある。従来は、薄膜である太陽電池の取り扱いが難しく、多層に作製した太陽電池の品質を保ったまま、各々に分離することは困難であった。薄膜である分離後の太陽電池は、壊れやすく変形もしやすい。薄膜が破壊されると太陽電池として動作しなくなり、また、変形により結晶性が低下すると、太陽電池の変換効率が著しく低下してしまう。
【0004】
高価な半導体基板上に複数の太陽電池を作製する際に応用可能な技術として、例えば非特許文献1には、基板上に中間層と素子とを形成し、中間層を溶解させて素子を剥離させる技術が開示されている。このほか、隣接する太陽電池の間に剥離犠牲層を形成し、この剥離犠牲層にレーザー光を吸収させて剥離犠牲層を熱膨張させたり融解させたりすることによって太陽電池を分離することも考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「アプライド フィジクス レターズ(Applied Physics Letters)」、(米国)、2000年、第76巻、第15号、p.2131−2133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示されている技術を用いて複数の中間層を形成し、複数の中間層を溶解させて1枚の基板から複数の太陽電池を作製すると、複数の剥離犠牲層が同時に溶解するため、複数の太陽電池が同時に剥離してしまう。剥離後の複数の太陽電池へ同時に電極を形成することは困難であるため、非特許文献1に開示されている技術をそのまま用いると、太陽電池の生産性が低下しやすいという問題があった。また、単に複数の剥離犠牲層を設けてレーザー光を吸収させると、複数の剥離犠牲層が同時にレーザー光を吸収するため、複数の太陽電池が同時に剥離する。それゆえ、非特許文献1に開示されている技術を変形し、溶解させる代わりにレーザー光を用いたとしても、太陽電池の生産性を向上させることは困難であった。
【0007】
そこで本発明は、生産性を向上させることや製造コストを低減することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、基板の表面に第1剥離層を形成する工程と、形成された第1剥離層の、基板とは反対側に、第1光電変換素子部を形成する工程と、形成された第1光電変換素子部の、第1剥離層とは反対側に、第1剥離層とは異なる形態の第2剥離層を形成する工程と、形成された第2剥離層の、第1光電変換素子部とは反対側に、第2光電変換素子部を形成する工程と、第2光電変換素子部と第1光電変換素子部とを分離する分離工程と、第1光電変換素子部を基板から剥離する剥離工程と、を有し、分離工程と剥離工程とが別々に行われる、光電変換素子の製造方法である。
【0009】
本発明をこのような形態とすることにより、第2光電変換素子部と第1光電変換素子部とを基板から別々に分離することができる。そのため、製造コストを低減する等の目的で1つの基板の表面に複数の光電変換素子部を形成しても、1つの光電変換素子部を基板から分離して電極等を形成した後、次の光電変換素子部を基板から分離して電極等を形成することも可能になる。すなわち、かかる形態とすることにより、本発明によれば、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【0010】
また、上記本発明において、剥離工程で用いる剥離手段の形態と、分離工程で用いる分離手段の形態とが異なっていても良い。本発明では、第1剥離層を介して基板に接続されていた第1光電変換素子部を基板から剥離する際に用いる剥離手段の形態と、第2剥離層を介して第1光電変換素子部に接続されていた第2光電変換素子部を第1光電変換素子部から分離する際に用いる分離手段の形態とが異なっていても、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能である。
【0011】
ここに、「剥離工程で用いる剥離手段の形態と、分離工程で用いる分離手段の形態とが異なる」とは、例えば、第1剥離層を介して基板に接続されていた第1光電変換素子部を基板から剥離する際に用いる剥離手段、及び、第2剥離層を介して第1光電変換素子部に接続されていた第2光電変換素子部を第1光電変換素子部から分離する際に用いる分離手段がレーザー光である場合、前者のレーザー光の波長と後者のレーザー光の波長とが異なることをいう。
【0012】
また、剥離工程で用いる剥離手段の形態と分離工程で用いる分離手段の形態とが異なる上記本発明において、剥離工程で第1剥離層が加熱され、且つ、分離工程で第2剥離層が加熱され、第1剥離層及び第2剥離層が半導体であり、第1剥離層のバンドギャップと第2剥離層のバンドギャップとが異なることが好ましい。かかる形態とすることにより、例えば異なる波長のレーザー光を用いて第1剥離層や第2剥離層を別々に剥離することができるので、製造コストを低減することや生産性を向上させることが容易になる。
【0013】
また、剥離工程で第1剥離層が加熱され、且つ、分離工程で第2剥離層が加熱される上記本発明において、第1剥離層と第1光電変換素子層との間に、第1剥離層の温度変化及び/又は形状変化が第1光電変換素子部へと伝わることを抑制する層が介在し、第2剥離層と第1光電変換素子部との間に、第2剥離層の温度変化及び/又は形状変化が第1光電変換素子部へと伝わることを抑制する層が介在し、第2剥離層と第2光電変換素子部との間に、第2剥離層の温度変化及び/又は形状変化が第2光電変換素子部へと伝わることを抑制する層が介在していることが好ましい。かかる形態とすることにより、上記効果に加えて、光電変換素子部の性能低下を抑制することが可能になる。
【0014】
また、上記本発明において、剥離工程で用いる剥離手段の形態と、分離工程で用いる分離手段の形態とが同じであっても良い。本発明では、第1剥離層を介して基板に接続されていた第1光電変換素子部を基板から剥離する際に用いる剥離手段の形態と、第2剥離層を介して第1光電変換素子部に接続されていた第2光電変換素子部を第1光電変換素子部から分離する際に用いる分離手段の形態とが同じであっても、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能である。
【0015】
また、剥離工程で用いる剥離手段の形態と分離工程で用いる分離手段の形態とが同じである上記本発明において、第1剥離層及び第2剥離層が半導体であり、第1剥離層のバンドギャップと第2剥離層のバンドギャップとが異なっていても良い。例えば剥離手段及び分離手段として同一の溶剤を用いた場合であっても、第1剥離層が溶解するまでの所要時間と第2剥離層が溶解するまでの所要時間とを異なる時間にすることが可能になり、その結果、第1光電変換素子部と第2光電変換素子部とを別々に分離することが可能になる。したがって、かかる形態であっても、製造コストを低減することや生産性を向上させることが容易になる。
【0016】
また、上記本発明において、第1剥離層の厚さと第2剥離層の厚さとが異なっていても良い。かかる形態とすることにより、例えば同一の溶剤を用いた場合であっても、第1剥離層が溶解するまでの所要時間と第2剥離層が溶解するまでの所要時間とを異なる時間にすることが可能になり、その結果、第1光電変換素子部と第2光電変換素子部とを別々に分離することが容易になる。したがって、かかる形態とすることにより、製造コストを低減することや生産性を向上させることが容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法を説明するフローチャートである。
【図2】積層体10を説明する断面図である。
【図3】分離工程を説明する図である。
【図4】InGa(1−x)Asの組成とバンドギャップとの関係を示す図である。
【図5】積層体10’を説明する断面図である。
【図6】第2実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法を説明するフローチャートである。
【図7】積層体20を説明する断面図である。
【図8】図7において点線で囲んだ部位の拡大図である。
【図9】積層体20’を説明する断面図である。
【図10】第3実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法を説明するフローチャートである。
【図11】積層体30を説明する断面図である。
【図12】分離工程を説明する図である。
【図13】剥離工程を説明する図である。
【図14】積層体30’を説明する断面図である。
【図15】第4実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法を説明するフローチャートである。
【図16】積層体40を説明する断面図である。
【図17】分離工程を説明する図である。
【図18】剥離工程を説明する図である。
【図19】積層体40’を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明にかかる光電変換素子の製造方法によって、太陽電池を製造する場合について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。以下の説明において、特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0020】
図1は、第1実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法(以下において、「本発明の第1実施形態」ということがある。)を説明するフローチャートである。図1に示した本発明の第1実施形態は、第1剥離層形成工程(S11)と、低熱伝導率材料層形成工程(S12)と、第1太陽電池部形成工程(S13)と、低熱伝導率材料層形成工程(S14)と、第2剥離層形成工程(S15)と、低熱伝導率材料層形成工程(S16)と、第2太陽電池部形成工程(S17)と、分離工程(S18)と、剥離工程(S19)と、を有している。
【0021】
図2は、第1剥離層形成工程(S11)から第2太陽電池部形成工程(S17)の各工程で形成した層を有する積層体10を説明する断面図である。図2に示した積層体10は、基板1と、該基板1の表面に配設された第1剥離層11と、該第1剥離層11の表面に配設された低熱伝導率材料層12と、該低熱伝導率材料層12の表面に配設された第1太陽電池部13と、該第1太陽電池部13の表面に配設された低熱伝導率材料層14と、該低熱伝導率材料層14の表面に配設された第2剥離層15と、該第2剥離層15の表面に配設された低熱伝導率材料層16と、該低熱伝導率材料層16の表面に配設された第2太陽電池部17と、を有している。以下、図1及び図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態について説明する。
【0022】
第1剥離層形成工程(以下において、「S11」ということがある。)は、基板1の上面に第1剥離層11を形成する工程である。S11は、基板1の上面に第1剥離層11を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、基板1を任意の厚さのGaAsとし、第1剥離層11を厚さ200nm程度のInGa(1−x)As層とする場合(xは0<x<1の正数)、S11は、分子線エピタキシー法や有機金属気相成長法等の一般的なエピタキシャル成長法を用いて、GaAsの上面に厚さ200nm程度のInGa(1−x)As層(例えば、厚さ200nm程度のIn0.3Ga0.7As層。)を形成する工程、とすることができる。
【0023】
低熱伝導率材料層形成工程(以下において、「S12」ということがある。)は、S11で形成した第1剥離層11の上面に低熱伝導率材料層12を形成する工程である。S12は、第1剥離層11の上面に低熱伝導率材料層12を形成可能であれば、その形態は特に限定されないが、後述する第1太陽電池部形成工程で形成される第1太陽電池部13と結晶の格子定数の差が1%以内である低熱伝導率材料層12を形成する工程であることが好ましい。例えば、低熱伝導率材料層12が厚さ30nm以上50nm以下程度のGe層である場合、S12は、例えば、分子線エピタキシ―法や有機金属気相成長法等の公知の方法によって、第1剥離層11の上面に厚さ30nm程度のGe層を形成する工程、とすることができる。
【0024】
第1太陽電池部形成工程(以下において、「S13」ということがある。)は、S12で形成した低熱伝導率材料層12の上面に第1太陽電池部13を形成する工程である。S13は、低熱伝導率材料層12の上面に第1太陽電池部13を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。第1太陽電池部13は、例えば、蒸着法等の公知の方法によって作製可能な、後述する分離工程や剥離工程で照射されるレーザー光を吸収しない、公知の形態の太陽電池(例えば、化合物半導体を用いた太陽電池や、シリコンを用いた太陽電池等)とすることができる。第1太陽電池部13は、例えば、In0.5Ga0.5P(バンドギャップ=1.9eV)にnドープをして作製したn層と、In0.5Ga0.5Pにpドープをして作製したp層とを有する太陽電池(以下において、「InGaP層」ということがある。)とすることができる。
【0025】
低熱伝導率材料層形成工程(以下において、「S14」ということがある。)は、S13で形成した第1太陽電池部13の上面に低熱伝導率材料層14を形成する工程である。S14は、第1太陽電池部13の上面に低熱伝導率材料層14を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、低熱伝導率材料層14が厚さ30nm以上50nm以下程度のGe層である場合、S14は、S12と同様の方法によって、第1太陽電池部13の上面に厚さ30nm程度のGe層を形成する工程、とすることができる。
【0026】
第2剥離層形成工程(以下において、「S15」ということがある。)は、S14で形成した低熱伝導率材料層14の上面に、第1剥離層11とは異なる形態の第2剥離層15を形成する工程である。S15は、低熱伝導率材料層14の上面に第2剥離層15を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、第2剥離層15を厚さ200nm程度のInGa(1−x)As層とする場合(xは0<x<1の正数)、S15は、S11と同様の方法によって、低熱伝導率材料層14の上面に厚さ200nm程度のInGa(1−x)As層(例えば、厚さ200nm程度のIn0.4Ga0.6As層。第1剥離層11よりもバンドギャップが小さい第2剥離層15。)を形成する工程、とすることができる。
【0027】
低熱伝導率材料層形成工程(以下において、「S16」ということがある。)は、S15で形成した第2剥離層15の上面に低熱伝導率材料層16を形成する工程である。S16は、第2剥離層15の上面に低熱伝導率材料層16を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、低熱伝導率材料層16が厚さ30nm以上50nm以下程度のGe層である場合、S16は、S12と同様の方法によって、第2剥離層15の上面に厚さ30nm程度のGe層を形成する工程、とすることができる。
【0028】
第2太陽電池部形成工程(以下において、「S17」ということがある。)は、S16で形成した低熱伝導率材料層16の上面に第2太陽電池部17を形成する工程である。S17は、低熱伝導率材料層16の上面に第2太陽電池部17を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。第2太陽電池部17は、例えば、蒸着法等の公知の方法によって作製可能な、後述する分離工程や剥離工程で照射されるレーザー光を吸収しない、公知の形態の太陽電池(例えば、化合物半導体を用いた太陽電池や、シリコンを用いた太陽電池等)とすることができる。第2太陽電池部17は、第1太陽電池部13と同じ形態であっても良く、第1太陽電池部13と異なる形態であっても良い。第2太陽電池部17は、例えば、In0.5Ga0.5P(バンドギャップ=1.9eV)にnドープをして作製したn層と、In0.5Ga0.5Pにpドープをして作製したp層とを有する太陽電池とすることができる。このように、S11乃至S17を経ることにより、図2に示した積層体10を作製することができる。
【0029】
分離工程(以下において、「S18」ということがある。)は、S11乃至S17を経て作製した積層体10から第2太陽電池部17を分離するために、第2剥離層15を低熱伝導率材料層14から剥離して、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離する工程である。S18は、第1太陽電池部13を基板1から剥離することなく、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離可能であれば、その形態は特に限定されない。
【0030】
図3に、S18の一形態を示す。図3に示したように、S18は、例えば、不図示の透明接着剤を用いて第2太陽電池部17の上面と透明な支持基板2とを接着した後、支持基板2の上側からレーザー光を照射して、第2剥離層15にレーザー光を吸収させて加熱し、第2剥離層15を熱膨張又は溶融させることにより、支持基板2に接着された第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離する工程、とすることができる。
【0031】
図4に、InGa(1−x)Asの組成とバンドギャップとの関係を示す。図4に示したように、In0.3Ga0.7As(x=0.3の場合)のバンドギャップは1.0eVであり、In0.4Ga0.6As(x=0.4の場合)のバンドギャップは0.89eVであり、In0.5Ga0.5As(x=0.5の場合)のバンドギャップは0.78eVであり、In0.6Ga0.4As(x=0.6の場合)のバンドギャップは0.68eVであり、In0.7Ga0.3As(x=0.7の場合)のバンドギャップは0.59eVである。InGa(1−x)Asのバンドギャップ値は、「1.4−1.04x−0.4x(1−x)」で表すことができる。ここで、バンドギャップが1.0eVの半導体は波長が900nm程度の光を吸収し、バンドギャップが0.89eVの半導体は波長が1200nm程度の光を吸収し、バンドギャップが0.78eVの半導体は波長が1400nm程度の光を吸収し、バンドギャップが0.68eVの半導体は波長が1550nm程度の光を吸収し、バンドギャップが0.59eVの半導体は波長が1800nm程度の光を吸収する。したがって、支持基板2の上側から波長が1200nm程度のレーザー光を照射する形態のS18とすることにより、このレーザー光は第2剥離層15に吸収される一方、第2剥離層15以外の層にはほとんど吸収されないので、第2剥離層15のみを熱膨張又は溶融させることが可能になる。第2剥離層15のみを熱膨張又は溶融させることにより、第1太陽電池部13を基板1から剥離することなく、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離することができる。ここで、支持基板2、透明接着剤、及び、積層体10は、すべて透明なので、支持基板2の上側から照射したレーザー光は第2剥離層15へと到達することができる。なお、低熱伝導率材料層12、低熱伝導率材料層14、及び、低熱伝導率材料層16はGe層であり、Geの光吸収係数は、GaAs等に代表される化合物半導体の光吸収係数よりも1〜2桁程度小さい。そのため、第2剥離層15に吸収させるレーザー光を照射しても、このレーザー光は低熱伝導率材料層12、低熱伝導率材料層14、及び、低熱伝導率材料層16にほとんど吸収されない。
【0032】
S18において、透明接着剤としては、支持基板2と第2太陽電池部17とを接合可能であり、且つ、支持基板2の上側から照射されるレーザー光を透過可能な公知の物質を適宜用いることができる。そのような物質としては、シリコーン粘着剤等に代表される公知の透明接着剤を例示することができる。また、S18において、支持基板2としては、S18の終了後に電極等が接続される第2太陽電池部17の形状を保持可能な強度を有する公知の透明な基板を適宜用いることができる。そのような基板としては、透明な石英基板等を例示することができる。
【0033】
剥離工程(以下において、「S19」ということがある。)は、S18の後に、基板1から第1太陽電池部13を剥離するために、第1剥離層11を基板1から剥離する工程である。S19は、基板1から第1太陽電池部13を剥離可能であれば、その形態は特に限定されない。S19は、例えば、S18で用いた透明接着剤と同様の透明接着剤を用いて、S18を経た第1太陽電池部13の上側(第2剥離層15の一部が残存している場合には第2剥離層15の上面、第2剥離層15が残存していない場合には低熱伝導率材料層14の上面)と、S18で用いた支持基板2と同様の透明支持基板とを接着した後、透明支持基板の上側からレーザー光を照射して第1剥離層11にレーザー光を吸収させる工程、とすることができる。第1剥離層11が厚さ200nm程度のIn0.3Ga0.7As層である場合、上述のように、In0.3Ga0.7Asは波長が900nm程度の光を吸収する。それゆえ、透明支持基板の上側から波長が900nm程度のレーザー光を照射する形態のS19とすることにより、このレーザー光は第1剥離層11に吸収される一方、第1剥離層11以外の層にはほとんど吸収されないので、第1剥離層11のみを熱膨張又は溶融させることが可能になる。第1剥離層11のみを熱膨張又は溶融させることにより、第1太陽電池部13を基板1から剥離することができる。
【0034】
このように、S11乃至S19を有する本発明の第1実施形態によれば、第1太陽電池部13と第2太陽電池部17とを別々に分離することができる。したがって、S11乃至S19を有する本発明によれば、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【0035】
また、本発明の第1実施形態では、S14で、第1太陽電池部13の上面に低熱伝導率材料層14(厚さ30nm程度のGe層)を形成し、S16で、第2剥離層15の上面に低熱伝導率材料層16(厚さ30nm程度のGe層)を形成している。ここで、Geは熱伝導率が低く高融点という特徴を有し、化合物半導体に比べて光吸収係数が1〜2桁程度小さい。そのため、S18で波長が1200nm程度のレーザー光を照射して第2剥離層15を加熱しても、第2剥離層15と第1太陽電池部13との間に配設された低熱伝導率材料層14によって、加熱された第2剥離層15の熱が第1太陽電池部13へと伝わることを抑制でき、第2剥離層15と第2太陽電池部17との間に配設された低熱伝導率材料層16によって、加熱された第2剥離層15の熱が第2太陽電池部17へと伝わることを抑制できる。第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17へ熱が伝わり難い形態とすることにより、第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17の結晶品質の低下や不純物元素の熱拡散を抑制できるので、第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17の発電性能の低下を抑制できる。また、上述したように、Geは化合物半導体に比べて光吸収係数が1〜2桁程度小さい。そのため、S18で波長が1200nm程度のレーザー光を照射しても、低熱伝導率材料層14及び低熱伝導率材料層16は、このレーザー光をほとんど吸収しない。
【0036】
さらに、本発明の第1実施形態では、S12で、第1剥離層11の上面に低熱伝導率材料層12(厚さ30nm程度のGe層)を形成している。ここで、Geは熱伝導率が低く高融点という特徴を有し、化合物半導体に比べて光吸収係数が1〜2桁程度小さい。それゆえ、S19で波長が900nm程度のレーザー光を照射して第1剥離層11を加熱しても、低熱伝導率材料層12はこのレーザー光をほとんど吸収せず、第1剥離層11の熱は第1太陽電池部13に伝わり難い。熱が第1太陽電池部13に伝わり難い形態とすることにより、第1太陽電池部13の結晶品質の低下や、第1太陽電池部13を構成する層にドープされている不純物元素の熱拡散を抑制できるので、第1太陽電池部13の発電性能の低下を抑制できる。
【0037】
また、GeはGaAsと格子定数がほぼ等しい。そのため、低熱伝導率材料層12、低熱伝導率材料層14、及び、低熱伝導率材料層16を用いても、これらの層を新たに用いたことに起因する、第1太陽電池部13や第2太陽電池部17の結晶性の悪化はほとんどないと考えられる。
【0038】
本発明の第1実施形態に関する上記説明では、1つの基板1の上側に、2つの太陽電池部(第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17)を形成する形態について言及したが、本発明の第1実施形態は、当該形態に限定されない。本発明の第1実施形態では、1つの基板の上側に、3以上の太陽電池部を形成する形態とすることも可能である。この場合、隣接する太陽電池部の間に剥離層を形成すれば良く、それぞれの剥離層と太陽電池部との間に低熱伝導率材料層を形成すれば良い。例えば、1つの基板の上側に、5つの太陽電池部を形成する場合、5つの剥離層を基板に近い側から順に第1剥離層、第2剥離層、第3剥離層、第4剥離層、及び、第5剥離層とするとき、基板から遠ざかるにつれてバンドギャップが小さくなるような、第1剥離層乃至第5剥離層を用いれば良い。第1剥離層乃至第5剥離層を有する積層体10’の断面図を図5に示す。図5において、積層体10と同様の構成には、図2で使用した符号と同一の符号を付す。図5に示した積層体10’は、基板1と、第1剥離層11と、低熱伝導率材料層12と、第1太陽電池部13と、低熱伝導率材料層14と、第2剥離層15と、低熱伝導率材料層16と、第2太陽電池部17と、を有し、さらに、第2太陽電池部17側から順に、低熱伝導率材料層18a、第3剥離層19a、低熱伝導率材料層18b、第3太陽電池部17a、低熱伝導率材料層18c、第4剥離層19b、低熱伝導率材料層18d、第4太陽電池部17b、低熱伝導率材料層18e、第5剥離層19c、低熱伝導率材料層18f、及び、第5太陽電池部17cを有している。積層体10’において、第2剥離層15のバンドギャップは第1剥離層11のバンドギャップよりも小さく、第3剥離層19aのバンドギャップは第2剥離層15のバンドギャップよりも小さく、第4剥離層19bのバンドギャップは第3剥離層19aよりも小さく、第5剥離層19cのバンドギャップは第4剥離層19bのバンドギャップよりも小さい。そして、第3太陽電池部17a、第4太陽電池部17b、及び、第5太陽電池部17cは第2太陽電池部17と同様に構成されており、第1太陽電池部13、第2太陽電池部17、第3太陽電池部17a、第4太陽電池部17b、及び、第5太陽電池部17cは、5つすべての剥離層(第1剥離層11乃至第5剥離層19c)のバンドギャップと異なっている。また、低熱伝導率材料層12、低熱伝導率材料層14、低熱伝導率材料層16、低熱伝導率材料層18a、低熱伝導率材料層18b、低熱伝導率材料層18c、低熱伝導率材料層18d、低熱伝導率材料層18e、低熱伝導率材料層18fも、5つすべての剥離層(第1剥離層11乃至第5剥離層19c)のバンドギャップと異なっている。かかる形態とすることにより、5つの剥離層それぞれを加熱するためにレーザー光を照射しても、加熱される剥離層へとレーザー光を到達させつつ、加熱される剥離層以外の層にはレーザー光をほとんど吸収させないことが可能になり、且つ、基板から離れた太陽電池部から順に、分離することが容易になる。積層体10’において、具体的には、第1剥離層11はIn0.3Ga0.7As、第2剥離層15はIn0.4Ga0.6As、第3剥離層19aはIn0.5Ga0.5As、第4剥離層19bはIn0.6Ga0.4As、第5剥離層19cはIn0.7Ga0.3Asとすることができ、すべての低熱伝導率材料層(低熱伝導率材料層12、14、16、及び、低熱伝導率材料層18a〜18f)を厚さ30nmのGe層とすることができる。かかる形態の第1剥離層11乃至第5剥離層19cを用いる場合、第1剥離層11を加熱する際には波長が900nm程度のレーザー光を、第2剥離層15を加熱する際には波長が1200nm程度のレーザー光を、第3剥離層19aを加熱する際には波長が1400nm程度のレーザー光を、第4剥離層19bを加熱する際には波長が1550nm程度のレーザー光を、第5剥離層19cを加熱する際には波長が1800nm程度のレーザー光を、それぞれ照射すれば良い。
【0039】
本発明の第1実施形態に関する上記説明では、剥離層と太陽電池部との間に低熱伝導率材料層を形成する形態を例示したが、本発明の光電変換素子の製造方法は当該形態に限定されない。そこで、本発明の他の形態について、以下に説明する。
【0040】
図6は、第2実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法(以下において、「本発明の第2実施形態」ということがある。)を説明するフローチャートである。図6に示した本発明の第2実施形態は、第1剥離層形成工程(S21)と、低熱膨張率材料層形成工程(S22)と、第1太陽電池部形成工程(S23)と、低熱膨張率材料層形成工程(S24)と、第2剥離層形成工程(S25)と、低熱膨張率材料層形成工程(S26)と、第2太陽電池部形成工程(S27)と、分離工程(S28)と、剥離工程(S29)と、を有している。
【0041】
図7は、第1剥離層形成工程(S21)から第2太陽電池部形成工程(S27)の各工程で形成した層を有する積層体20を説明する断面図である。図7において、積層体10と同様の構成には、図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0042】
図7に示した積層体20は、基板1と、該基板1の表面に配設された第1剥離層11と、該第1剥離層11の表面に配設された低熱膨張率材料層21と、該低熱膨張率材料層21の表面に配設された第1太陽電池部13と、該第1太陽電池部13の表面に配設された低熱膨張率材料層22と、該低熱膨張率材料層22の表面に配設された第2剥離層15と、該第2剥離層15の表面に配設された低熱膨張率材料層23と、該低熱膨張率材料層23の表面に配設された第2太陽電池部17と、を有している。以下、図1乃至図7を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。
【0043】
第1剥離層形成工程(以下において、「S21」ということがある。)は、基板1の上面に第1剥離層11を形成する工程である。S21はS11と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0044】
低熱膨張率材料層形成工程(以下において、「S22」ということがある。)は、S21で形成した第1剥離層11の上面に低熱膨張率材料層21を形成する工程である。S22は、第1剥離層11の上面に低熱膨張率材料層21を形成可能であれば、その形態は特に限定されないが、後述する第1太陽電池部形成工程で形成される第1太陽電池部13と結晶の格子定数の差が1%以内である低熱膨張率材料層21を形成する工程であることが好ましい。例えば、低熱膨張率材料層21が厚さ30nm以上50nm以下程度のSi含有層である場合、S22は、例えば、化学気相成長法(CVD)等の公知の方法によって、第1剥離層11の上面に厚さ30nm程度のSi含有層を形成する工程、とすることができる。
【0045】
第1太陽電池部形成工程(以下において、「S23」ということがある。)は、S22で形成した低熱膨張率材料層21の上面に第1太陽電池部13を形成する工程である。S23はS13と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0046】
低熱膨張率材料層形成工程(以下において、「S24」ということがある。)は、S23で形成した第1太陽電池部13の上面に低熱膨張率材料層22を形成する工程である。S24は、第1太陽電池部13の上面に低熱膨張率材料層22を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、低熱膨張率材料層22が厚さ30nm以上50nm以下程度のSi含有層である場合、S24は、S22と同様の方法によって、第1太陽電池部13の上面に厚さ30nm程度のSi含有層を形成する工程、とすることができる。
【0047】
第2剥離層形成工程(以下において、「S25」ということがある。)は、S24で形成した低熱膨張率材料層22の上面に、第1剥離層11とは異なる形態の第2剥離層15を形成する工程である。S25はS15と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0048】
低熱膨張率材料層形成工程(以下において、「S26」ということがある。)は、S25で形成した第2剥離層15の上面に低熱膨張率材料層23を形成する工程である。S26は、第2剥離層15の上面に低熱膨張率材料層23を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、低熱膨張率材料層23が厚さ30nm以上50nm以下程度のSi含有層である場合、S26は、S22と同様の方法によって、第2剥離層15の上面に厚さ30nm程度のSi含有層を形成する工程、とすることができる。
【0049】
第2太陽電池部形成工程(以下において、「S27」ということがある。)は、S26で形成した低熱膨張率材料層23の上面に第2太陽電池部17を形成する工程である。S27はS17と同様の工程であるため、説明を省略する。本発明の第2実施形態では、S21乃至S27を経ることにより、図7に示した積層体20を作製することができる。
【0050】
分離工程(以下において、「S28」ということがある。)は、S21乃至S27を経て作製した積層体20から第2太陽電池部17を分離するために、第2剥離層15を低熱膨張率材料層22から剥離して、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離する工程である。S28は、第1太陽電池部13を基板1から剥離することなく、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離可能であれば、その形態は特に限定されない。S28は、例えばS18と同様の工程とすることができる。
【0051】
剥離工程(以下において、「S29」ということがある。)は、S28の後に、基板1から第1太陽電池部13を剥離するために、第1剥離層11を基板1から剥離する工程である。S29は、基板1から第1太陽電池部13を剥離可能であれば、その形態は特に限定されない。S29は、例えばS19と同様の工程とすることができる。
【0052】
このように、S21乃至S29を有する本発明の第2実施形態によっても、第1太陽電池部13と第2太陽電池部17とを別々に分離することができる。したがって、S21乃至S29を有する本発明によれば、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【0053】
また、本発明の第2実施形態では、S24で、第1太陽電池部13の上面に低熱膨張率材料層22(厚さ30nm程度のSi含有層)を形成し、S26で、第2剥離層15の上面に低熱膨張率材料層23(厚さ30nm程度のSi含有層)を形成している。ここで、Siは熱膨張率が低く高融点という特徴を有し、化合物半導体に比べて光吸収係数が1〜2桁程度小さい。そのため、S28で波長が1200nm程度のレーザー光を照射して第2剥離層15を加熱しても、第2剥離層15と第1太陽電池部13との間に配設された低熱膨張率材料層22によって、加熱されて膨張した第2剥離層15の変形の影響が第1太陽電池部13へと伝わることを抑制でき、第2剥離層15と第2太陽電池部17との間に配設された低熱膨張率材料層23によって、加熱されて膨張した第2剥離層15の変形の影響が第2太陽電池部17へと伝わることを抑制できる。第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17へ変形の影響が伝わり難い形態とすることにより、第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17の結晶品質の低下を抑制できるので、第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17の発電性能の低下を抑制できる。また、上述したように、Siは化合物半導体に比べて光吸収係数が1〜2桁程度小さい。そのため、S28で波長が1200nm程度のレーザー光を照射しても、低熱膨張率材料層22及び低熱膨張率材料層23は、このレーザー光をほとんど吸収しない。
【0054】
さらに、本発明の第2実施形態では、S22で、第1剥離層11の上面に低熱膨張率材料層21(厚さ30nm程度のSi含有層)を形成している。ここで、Siは熱膨張率が低く高融点という特徴を有し、化合物半導体に比べて光吸収係数が1〜2桁程度小さい。それゆえ、S29で波長が900nm程度のレーザー光を照射して第1剥離層11を加熱しても、低熱膨張率材料層21はこのレーザー光をほとんど吸収せず、加熱された膨張した第1剥離層11の変形の影響は第1太陽電池部13に伝わり難い。変形の影響が第1太陽電池部13に伝わり難い形態とすることにより、第1太陽電池部13の結晶品質の低下を抑制できるので、第1太陽電池部13の発電性能の低下を抑制できる。
【0055】
本発明の第2実施形態に関する上記説明で例示した、低熱膨張率材料層21、低熱膨張率材料層22、及び、低熱膨張率材料層23を構成するSiの格子定数は、Geや基板1の構成材料であるGaAsの格子定数と4%程度の差がある。それゆえ、第1太陽電池部13や第2太陽電池部17を構成するInGaP層の結晶性をより高めやすい形態にする等の観点からは、低熱膨張率材料層21、低熱膨張率材料層22、及び、低熱膨張率材料層23を、積層体20の厚さ方向(図7の紙面上下方向)にGe含有量を段階的又は連続的に変化させたSiGe(1−y)層(yは0≦y≦1)とすることが好ましい。図7において点線で囲んだ部位の拡大図を、図8に示す。図8では、第1剥離層11、第1太陽電池部13、第2剥離層15、及び、第2太陽電池部17を簡略化して示している。図8に示すように、低熱膨張率材料層21、低熱膨張率材料層22、及び、低熱膨張率材料層23を、SiGe(1−y)層とする場合、第1剥離層11や第2剥離層15と接触する部位はy=1、第1太陽電池部13や第2太陽電池部17と接触する部位はy=0とし、y=1の部位とy=0の部位との間の部位は、例えば、yを0.9、0.7、0.5、0.3、及び、0.1と段階的に変化させれば良い。かかる形態とすることにより、第1太陽電池部13や第2太陽電池部17の結晶品質の低下を抑制することができるので、第1太陽電池部13や第2太陽電池部17を分離する際の熱膨張による性能低下に加えて、結晶品質の低下に起因する性能低下も抑制することが可能になる。
【0056】
本発明の第2実施形態に関する上記説明では、1つの基板1の上側に、2つの太陽電池部(第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17)を形成する形態について言及したが、本発明の第2実施形態は、当該形態に限定されない。本発明の第2実施形態も、1つの基板の上側に、3以上の太陽電池部を形成する形態とすることができる。この場合、隣接する太陽電池部の間に剥離層を形成すれば良く、それぞれの剥離層と太陽電池部との間に低熱膨張率材料層を形成すれば良い。例えば、1つの基板の上側に、5つの太陽電池部を形成する場合、5つの剥離層を基板に近い側から順に第1剥離層、第2剥離層、第3剥離層、第4剥離層、及び、第5剥離層とするとき、第1剥離層乃至第5剥離層は、上記本発明の第1実施形態において第1剥離層乃至第5剥離層を用いる場合と同様の形態とすることができ、第1剥離層乃至第5剥離層を加熱する方法も、上記本発明の第1実施形態において第1剥離層乃至第5剥離層を用いる場合と同様の形態とすることができる。第1剥離層乃至第5剥離層を有する積層体20’の断面図を図9に示す。図9において、積層体10’や積層体20と同様の構成には、図5や図7で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。図9に示した積層体20’は、基板1と、第1剥離層11と、低熱膨張率材料層24aと、第1太陽電池部13と、低熱膨張率材料層24bと、第2剥離層15と、低熱膨張率材料層24cと、第2太陽電池部17と、を有し、さらに、第2太陽電池部17側から順に、低熱膨張率材料層24d、第3剥離層19a、低熱膨張率材料層24e、第3太陽電池部17a、低熱膨張率材料層24f、第4剥離層19b、低熱膨張率材料層24g、第4太陽電池部17b、低熱膨張率材料層24h、第5剥離層19c、低熱膨張率材料層24i、及び、第5太陽電池部17cを有している。積層体20’において、すべての低熱膨張率材料層(低熱膨張率材料層24a〜低熱膨張率材料層24i)は、厚さが50nmのSiGe(1−y)層(yは0≦y≦1)であり、5つすべての剥離層(第1剥離層11乃至第5剥離層19c)のバンドギャップと異なっている。すべての低熱膨張率材料層(低熱膨張率材料層24a〜低熱膨張率材料層24i)は、剥離層(第1剥離層11乃至第5剥離層19c)と接触する部位はy=1、太陽電池部(第1太陽電池部13乃至第5太陽電池部17c)と接触する部位はy=0とされており、y=1の部位とy=0の部位との間の部位は、yを0.9、0.7、0.5、0.3、及び、0.1と段階的に変化させている。かかる形態とすることにより、5つの剥離層それぞれを加熱するためにレーザー光を照射しても、加熱される剥離層へとレーザー光を到達させつつ、加熱される剥離層以外の層にはレーザー光をほとんど吸収させないことが可能になり、且つ、基板から離れた太陽電池部から順に、分離することが容易になる。
【0057】
本発明に関する上記説明では、すべての剥離層と太陽電池部との間に、低熱伝導率材料層又は低熱膨張率材料層を形成する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。剥離層と太陽電池部との間の一部にのみ、低熱伝導率材料層若しくは低熱膨張率材料層又は低熱伝導率且つ低熱膨張率の材料層を形成する形態であっても良く、剥離層と太陽電池部との間に低熱伝導率材料層も低熱膨張率材料層も低熱伝導率且つ低熱膨張率の材料層も形成しない形態であっても良い。ただし、第1太陽電池部及び第2太陽電池部の性能低下を抑制しやすい形態にする等の観点からは、すべての剥離層と太陽電池部との間に、低熱伝導率材料層若しくは低熱膨張率材料層又は低熱伝導率且つ低熱膨張率の材料層を形成する形態とすることが好ましい。
【0058】
また、本発明に関する上記説明では、分離工程で用いる分離手段、及び、剥離工程で用いる剥離手段が、何れもレーザー光であり、分離工程で用いるレーザー光の波長と剥離工程で用いるレーザー光の波長とが異なる形態(分離手段と剥離手段とが異なる形態)を例示したが、本発明の光電変換素子の製造方法は当該形態に限定されない。そこで、分離工程で用いる分離手段と、剥離工程で用いる剥離手段とが、同一形態である場合の本発明について、以下に説明する。
【0059】
図10は、第3実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法(以下において、「本発明の第3実施形態」ということがある。)を説明するフローチャートである。図10に示した本発明の第3実施形態は、第1剥離層形成工程(S31)と、第1太陽電池部形成工程(S32)と、第2剥離層形成工程(S33)と、第2太陽電池部形成工程(S34)と、分離工程(S35)と、剥離工程(S36)と、を有している。
【0060】
図11は、第1剥離層形成工程(S31)から第2太陽電池部形成工程(S34)の各工程で形成した層を有する積層体30を説明する断面図である。図11において、積層体10と同様の構成には、図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0061】
図11に示した積層体30は、基板1と、第1剥離層31と、該第1剥離層31の表面に配設された第1太陽電池部13と、該第1太陽電池部13の表面に配設された第2剥離層32と、該第2剥離層32の表面に配設された第2太陽電池部17と、を有している。以下、図2、図10、及び、図11を参照しつつ、本発明の第3実施形態について説明する。
【0062】
第1剥離層形成工程(以下において、「S31」ということがある。)は、基板1の上面に第1剥離層31を形成する工程である。S31は、基板1の上面に第1剥離層31を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、基板1を任意の厚さのGaAsとし、第1剥離層31を厚さ50nm程度のAlAs層とする場合、S31は、分子線エピタキシー法や有機金属気相成長法等の一般的なエピタキシャル成長法を用いて、GaAsの上面に厚さ50nm程度のAlAs層を形成する工程、とすることができる。
【0063】
第1太陽電池部形成工程(以下において、「S32」ということがある。)は、S31で形成した第1剥離層31の上面に、後述する分離工程や剥離工程で使用する溶液に溶解しない第1太陽電池部13を形成する工程である。S32はS13と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0064】
第2剥離層形成工程(以下において、「S33」ということがある。)は、S32で形成した第1太陽電池部13の上面に、第1剥離層13とは異なる形態の第2剥離層32を形成する工程である。S33は、第1太陽電池部13の上面に第2剥離層32を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、第2剥離層32を厚さ5nm程度のAlAs層とする場合、S33は、S31と同様の方法によって、第1太陽電池部13の上面に厚さ5nm程度のAlAs層を形成する工程、とすることができる。
【0065】
第2太陽電池部形成工程(以下において、「S34」ということがある。)は、S33で形成した第2剥離層32の上面に、後述する分離工程や剥離工程で使用する溶液に溶解しない第2太陽電池部17を形成する工程である。S34はS17と同様の工程であるため、説明を省略する。本発明の第3実施形態では、S31乃至S34を経ることにより、図10に示した積層体30を作製することができる。
【0066】
分離工程(以下において、「S35」ということがある。)は、S31乃至S34を経て作製した積層体30から第2太陽電池部17を分離するために、第2剥離層32を第1太陽電池部13から剥離して、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離する工程である。S35は、第1太陽電池部13を基板1から剥離することなく、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離可能であれば、その形態は特に限定されない。
【0067】
図12に、S35の一形態を示す。図12に示したように、S35では、例えば、不図示の透明接着剤を用いて第2太陽電池部17の上面と支持基板3とを接着した後、支持基板3に接着された積層体20を、10%フッ化水素溶液5(以下において、「10%HF溶液5」という。)が入った容器4へと入れ、少なくとも第2剥離層32を10%HF溶液5に接触させる。AlAs層である第1剥離層31や第2剥離層32はフッ化水素溶液に容易に溶解するが、GaAsである基板1、並びに、InGaP層である第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17は、フッ化水素溶液に溶解しない。ここで、第1剥離層31は厚さが50nmであり、第2剥離層32は厚さが5nmである。それゆえ、S35は、第2剥離層32を完全に溶解させて第2太陽電池部17を第1太陽電池部13から分離し、支持基板3に接着された第2太陽電池部17を容器4から取り出す工程、とすることができる。S35において、透明接着剤としては、支持基板3と第2太陽電池部17とを接合可能であり、且つ、S35で透明接着剤もフッ化水素溶液に接触させる場合にはフッ化水素溶液に溶解しない、公知の物質を適宜用いることができる。そのような物質としては、シリコーン粘着剤等に代表される公知の透明接着剤を例示することができる。また、S35において、支持基板3としては、S35の終了後に電極等が接続される第2太陽電池部17の形状を保持可能な強度を有し、且つ、S35で支持基板3もフッ化水素溶液に接触させる場合にはフッ化水素溶液に溶解しない、公知の基板を適宜用いることができる。そのような基板としては、シリコン基板等を例示することができる。一方、第2太陽電池部17から分離された第1太陽電池部13を含む構造体(以下において、「構造体30x」という。)は、第1剥離層31が完全に溶解する前に容器4から取り出される。その後、次の剥離工程が行われる。
【0068】
剥離工程(以下において、「S36」ということがある。)は、S35の後に、基板1から第1太陽電池部13を剥離するために、第1剥離層31を基板1から剥離する工程である。図13に、S36の一形態を示す。図13に示したように、S36では、例えば、不図示の透明接着剤を用いて構造体30xの第1太陽電池部13の上面と支持基板3とを接着した後、支持基板3に接着された構造体30xを、S35と同じ10%HF溶液5が入った容器4へと入れ、少なくとも第1剥離層31を10%HF溶液5に接触させる。S35と同様に、第1剥離層31はフッ化水素溶液に容易に溶解するが、基板1及び第1太陽電池部13はフッ化水素溶液に溶解しない。それゆえ、S36は、第1剥離層31を完全に溶解させて第1太陽電池部13を基板1から剥離し、支持基板3に接着された第1太陽電池部13を容器4から取り出す工程、とすることができる。S36において、透明接着剤及び支持基板3は、S35と同様のものを用いることができる。
【0069】
このように、S31乃至S36を有する本発明の第3実施形態によれば、第1太陽電池部13と第2太陽電池部17とを別々に分離することができる。したがって、S31乃至S36を有する本発明によれば、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【0070】
本発明の第3実施形態に関する上記説明では、1つの基板1の上側に、2つの太陽電池部(第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17)を形成する形態について言及したが、本発明の第3実施形態は、当該形態に限定されない。本発明の第3実施形態においても、1つの基板の上側に、3以上の太陽電池部を形成する形態とすることができる。この場合、隣接する太陽電池部の間に剥離層を形成すれば良く、基板に近い剥離層ほど厚さを厚くすれば良い。例えば、1つの基板の上側に、5つの太陽電池部を形成する場合、5つの剥離層を基板に近い側から順に第1剥離層、第2剥離層、第3剥離層、第4剥離層、及び、第5剥離層とするとき、基板から遠ざかるにつれて厚さが薄くなるような、第1剥離層乃至第5剥離層を用いれば良い。第1剥離層乃至第5剥離層を有する積層体30’の断面図を図14に示す。図14において、積層体10’や積層体30と同様の構成には、図5や図11で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。図14に示した積層体30’は、基板1側から順に、基板1、第3剥離層33、第1太陽電池部13、第4剥離層34、第2太陽電池部17、第5剥離層35、第3太陽電池部17a、第1剥離層31、第4太陽電池部17b、第2剥離層32、及び、第5太陽電池部17cを有している。積層体30’において、第3剥離層33は厚さ3000nmのAlAs層、第4剥離層34は厚さ1000nmのAlAs層、第5剥離層35は厚さ300nmのAlAs層であり、第1剥離層31は厚さ50nmのAlAs層、第2剥離層32は厚さ5nmのAlAs層である。かかる形態とすることにより、基板から離れている第2太陽電池部17から順に、各太陽電池部を別々に分離することができる。
【0071】
分離工程で用いる分離手段と剥離工程で用いる剥離手段とが同一形態である、本発明の第3実施形態に関する上記説明では、剥離層の厚さを非同一にする形態を例示したが、分離工程で用いる分離手段と剥離工程で用いる剥離手段とが同一形態である本発明は、当該形態に限定されない。そこで、他の実施形態について、以下に説明する。
【0072】
図15は、第4実施形態にかかる本発明の光電変換素子の製造方法(以下において、「本発明の第4実施形態」ということがある。)を説明するフローチャートである。図15に示した本発明の第4実施形態は、第1剥離層形成工程(S41)と、第1太陽電池部形成工程(S42)と、第2剥離層形成工程(S43)と、第2太陽電池部形成工程(S44)と、分離工程(S45)と、剥離工程(S46)と、を有している。
【0073】
図16は、第1剥離層形成工程(S41)から第2太陽電池部形成工程(S44)の各工程で形成した層を有する積層体40を説明する断面図である。図16において、積層体10と同様の構成には、図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0074】
図16に示した積層体40は、基板1と、第1剥離層41と、該第1剥離層41の表面に配設された第1太陽電池部13と、該第1太陽電池部13の表面に配設された第2剥離層42と、該第2剥離層42の表面に配設された第2太陽電池部17と、を有している。以下、図2、図15、及び、図16を参照しつつ、本発明の第4実施形態について説明する。
【0075】
第1剥離層形成工程(以下において、「S41」ということがある。)は、基板1の上面に第1剥離層41を形成する工程である。S41は、基板1の上面に第1剥離層41を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、第1剥離層41を厚さ10nmのAlGa(1−z)As層とする場合(zは0<z<1の正数)、S41は、分子線エピタキシー法や有機金属気相成長法等の一般的なエピタキシャル成長法を用いて、GaAsの上面に厚さ10nmのAlGa(1−z)As層(例えば、厚さ10nmのAl0.3Ga0.7As層)を形成する工程、とすることができる。
【0076】
第1太陽電池部形成工程(以下において、「S42」ということがある。)は、S41で形成した第1剥離層11の上面に第1太陽電池部13を形成する工程である。S42はS13と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0077】
第2剥離層形成工程(以下において、「S43」ということがある。)は、S42で形成した第1太陽電池部13の上面に、第1剥離層41とは異なる形態の第2剥離層42を形成する工程である。S43は、第1太陽電池部13の上面に第2剥離層42を形成可能であれば、その形態は特に限定されない。例えば、第2剥離層42を厚さ10nmのAlGa(1−z)As層とする場合(zは0<z<1の正数)、S43は、分子線エピタキシー法や有機金属気相成長法等の一般的なエピタキシャル成長法を用いて、GaAsの上面に厚さ10nmのAlGa(1−z)As層(例えば、厚さ10nmのAl0.4Ga0.6As層。第1剥離層41よりも、後述する分離工程や剥離工程で使用する溶液に対する溶解速度が速い第2剥離層42。)を形成する工程、とすることができる。
【0078】
第2太陽電池部形成工程(以下において、「S44」ということがある。)は、S43で形成した第2剥離層42の表面に第2太陽電池部17を形成する工程である。S44はS17と同様の工程であるため、説明を省略する。本発明の第4実施形態では、S41乃至S44を経ることにより、図16に示した積層体40を作製することができる。
【0079】
分離工程(以下において、「S45」ということがある。)は、S41乃至S44を経て作製した積層体40から第2太陽電池部17を分離するために、第2剥離層42を第1太陽電池部13から剥離して、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離する工程である。第1太陽電池部13を基板1から剥離することなく、第2太陽電池部17と第1太陽電池部13とを分離可能であれば、その形態は特に限定されない。
【0080】
図17に、S45の一形態を示す。図17に示したように、S45では、例えば、不図示の透明接着剤を用いて第2太陽電池部17の上面と支持基板3とを接着した後、支持基板3に接着された積層体40を、10%HF溶液5が入った容器4へと入れ、少なくとも第2剥離層42を10%HF溶液5に接触させる。AlGaAs層である第1剥離層41や第2剥離層42はフッ化水素溶液に容易に溶解するが、GaAsである基板1、並びに、InGaP層である第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17は、フッ化水素溶液に溶解しない。ここで、第2剥離層42は第1剥離層41よりもフッ化水素溶液に溶解しやすい。それゆえ、S45は、第2剥離層42を完全に溶解させて第2太陽電池部17を第1太陽電池部13から分離し、支持基板3に接着された第2太陽電池部17を容器4から取り出す工程、とすることができる。S45において、透明接着剤及び支持基板3としては、S35と同様のものを使用することができる。一方、第2太陽電池部17から分離された第1太陽電池部13を含む構造体(以下において、「構造体40x」という。)は、第1剥離層41が完全に溶解する前に容器4から取り出される。その後、次の剥離工程が行われる。
【0081】
剥離工程(以下において、「S46」ということがある。)は、S45の後に、基板1から第1太陽電池部13を剥離するために、第1剥離層41を基板1から剥離する工程である。図18に、S46の一形態を示す。図18に示したように、S46では、例えば、不図示の透明接着剤を用いて構造体40xの第1太陽電池部13の上面と支持基板3とを接着した後、支持基板3に接着された構造体40xを、S45と同じ10%HF溶液5が入った容器4へと入れ、少なくとも第1剥離層41を10%HF溶液5に接触させる。S45と同様に、第1剥離層41はフッ化水素溶液に容易に溶解するが、基板1及び第1太陽電池部13はフッ化水素溶液に溶解しない。それゆえ、S46は、第1剥離層41を完全に溶解させて第1太陽電池部13を基板1から剥離し、支持基板3に接着された第1太陽電池部13を容器4から取り出す工程、とすることができる。S46において、透明接着剤及び支持基板3は、S45と同様のものを用いることができる。
【0082】
このように、S41乃至S46を有する本発明の第4実施形態によれば、第1太陽電池部13と第2太陽電池部17とを別々に分離することができる。したがって、S41乃至S46を有する本発明によれば、製造コストを低減すること及び生産性を向上させることを両立することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【0083】
本発明の第4実施形態に関する上記説明では、1つの基板1の上側に、2つの太陽電池部(第1太陽電池部13及び第2太陽電池部17)を形成する形態について言及したが、本発明の第4実施形態も、当該形態に限定されない。本発明の第4実施形態においても、1つの基板の上側に、3以上の太陽電池部を形成する形態とすることができる。この場合、隣接する太陽電池部の間に剥離層を形成すれば良く、基板に近い剥離層ほど、剥離層を溶解させる溶液に対する溶解速度を低くすれば良い。例えば、剥離層としてAlGa(1−z)As層を用いる場合(zは0<z<1の正数)、zの値が大きいほど、フッ化水素溶液に対する溶解速度が速い。そこで、例えば、1つの基板の上側に、5つの太陽電池部を形成する場合、5つの剥離層を基板に近い側から順に第1剥離層、第2剥離層、第3剥離層、第4剥離層、及び、第5剥離層とするとき、基板から遠ざかるにつれてフッ化水素溶液に対する溶解速度が速くなるような、第1剥離層乃至第5剥離層を用いれば良い。第1剥離層乃至第5剥離層を有する積層体40’の断面図を図19に示す。図19において、積層体10’と同様の構成には、図5で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。図19に示した積層体40’は、基板1側から順に、基板1、第1剥離層41、第1太陽電池部13、第2剥離層42、第2太陽電池部17、第3剥離層43、第3太陽電池部17a、第4剥離層44、第4太陽電池部17b、第5剥離層45、及び、第5太陽電池部17cを有している。積層体40’において、第1剥離層41は厚さ10nmのAl0.3Ga0.7As層、第2剥離層42は厚さ10nmのAl0.4Ga0.6As層、第3剥離層43は厚さ10nmのAl0.5Ga0.5As層、第4剥離層44は厚さ10nmのAl0.7Ga0.3As層、第5剥離層45は厚さ10nmのAl0.9Ga0.1As層である。かかる形態とすることにより、基板から離れている第5太陽電池部17cから順に、各太陽電池部を別々に分離することができる。
【0084】
本発明に関する上記説明では、基板1としてGaAsが用いられる場合について言及したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明では、例えばGe等の他の基板の上側に剥離層や太陽電池部等を形成することも可能である。
【0085】
また、本発明の第1実施形態、第2実施形態、及び、第4実施形態に関する上記説明では、それぞれの剥離層の厚さを同程度とする形態について言及したが、本発明の第1実施形態、第2実施形態、及び、第4実施形態は当該形態に限定されない。本発明の第1実施形態、第2実施形態、及び、第4実施形態においても、本発明の第3実施形態のように、それぞれの剥離層の厚さに差を設ける(基板から離れるほど厚さを薄くする)形態とすることも可能である。
【0086】
また、本発明に関する上記説明では、光電変換素子が太陽電池である場合について言及したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明は、太陽電池以外の光電変換素子(例えば、光検出素子等)を製造する方法として実施することも可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…基板
2、3…支持基板
4…容器
5…10%HF溶液
10、10’…積層体
11…第1剥離層
12、14、16…低熱伝導率材料層
13…第1太陽電池部(第1光電変換素子部)
15…第2剥離層
17…第2太陽電池部(第2光電変換素子部)
17a…第3太陽電池部
17b…第4太陽電池部
17c…第5太陽電池部
18a、18b、18c、18d、18e、18f…低熱伝導率材料層
19a…第3剥離層
19b…第4剥離層
19c…第5剥離層
20、20’…積層体
21、22、23…低熱膨張率材料層
24a、24b、24c、24d、24e、24f、24g、24h、24i…低熱膨張率材料層
30、30’…積層体
30x、40x…構造体
31、41…第1剥離層
32、42…第2剥離層
33、43…第3剥離層
34、44…第4剥離層
35、45…第5剥離層
40、40’…積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に第1剥離層を形成する工程と、
形成された前記第1剥離層の、前記基板とは反対側に、第1光電変換素子部を形成する工程と、
形成された前記第1光電変換素子部の、前記第1剥離層とは反対側に、前記第1剥離層とは異なる形態の第2剥離層を形成する工程と、
形成された前記第2剥離層の、前記第1光電変換素子部とは反対側に、第2光電変換素子部を形成する工程と、
前記第2光電変換素子部と前記第1光電変換素子部とを分離する分離工程と、
前記第1光電変換素子部を前記基板から剥離する剥離工程と、を有し、
前記分離工程と前記剥離工程とが別々に行われる、光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記剥離工程で用いる剥離手段の形態と、前記分離工程で用いる分離手段の形態とが異なる、請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記剥離工程で前記第1剥離層が加熱され、且つ、前記分離工程で前記第2剥離層が加熱され、
前記第1剥離層及び前記第2剥離層が半導体であり、
前記第1剥離層のバンドギャップと前記第2剥離層のバンドギャップとが異なる、請求項2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1剥離層と前記第1光電変換素子層との間に、前記第1剥離層の温度変化及び/又は形状変化が前記第1光電変換素子層へと伝わることを抑制する層が介在し、
前記第2剥離層と前記第1光電変換素子層との間に、前記第2剥離層の温度変化及び/又は形状変化が前記第1光電変換素子層へと伝わることを抑制する層が介在し、
前記第2剥離層と前記第2光電変換素子層との間に、前記第2剥離層の温度変化及び/又は形状変化が前記第2光電変換素子層へと伝わることを抑制する層が介在している、請求項3に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記剥離工程で用いる剥離手段の形態と、前記分離工程で用いる分離手段の形態とが同じである、請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1剥離層及び前記第2剥離層が半導体であり、
前記第1剥離層のバンドギャップと前記第2剥離層のバンドギャップとが異なる、請求項5に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1剥離層の厚さと前記第2剥離層の厚さとが異なる、請求項3〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−164903(P2012−164903A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25602(P2011−25602)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】