説明

光電子顕微鏡装置

【課題】真空チャンバー内にガスを導入し、試料表面でのガス反応を観察する光電子顕微鏡装置において、ガス導入に伴う鏡筒内の真空度の低下を抑制し、高分解能の観測を行えるようにする。
【解決手段】紫外光またはX線を試料(4)表面に照射することにより発生する光電子を鏡筒(7)内に配置した電子レンズ系(8、9)により結像して試料(4)の表面を観察する光電子顕微鏡装置において、鏡筒(7)の光電子の取り込み部(7a)外側に筒状のオープンチャンバー(13)を取り付け、このオープンチャンバー(13)の側面に真空引き用の細孔(14)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光あるいはX線の照射によって試料表面から発生する光電子を観測するための光電子顕微鏡装置に関し、特に試料表面でのガス吸着反応を観察するために適した構造の光電子顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光電子顕微鏡法とは、貴金属試料などの表面で起こるガス反応(触媒反応)をリアルタイムに連続画像として可視化できる手法である。その動作原理としては、紫外光(UV)あるいはX線などの光を固体試料に照射し、試料表面から励起される光電子のエネルギーを検知して二次元に結像させることを利用している。このとき、試料表面にガスが吸着していると、その部分で励起される光電子のエネルギー値が変化するため、画像にコントラストが生じ、ガスの吸着状態を示す像が得られる。
【0003】
このように、光電子顕微鏡法では、画像観測のために試料表面に反応ガスを供給するため、ガスの導入によって真空チャンバー内の真空度が低下する。真空チャンバー内には鏡筒が配置されており、この鏡筒内には結像素子や電子レンズなどの高電圧を印加する部分が含まれている。通常、真空チャンバーと鏡筒とは同じ真空度に保たれているので、真空チャンバー内に導入したガスは拡散し鏡筒内に入り込み、その真空度を低下させる。この結果、高電圧印加部分で放電が発生し、観測が不可能となる。強力なポンプを用いても、特にガスを多く入れた場合には、一旦拡散したガスが鏡筒内に入り込む前に取り切ることはできない。反対に、ガス反応の観測のために導入したガスの、試料表面への吸着を妨害する結果となる。したがって、試料への反応ガスの吸着を妨げることなく、鏡筒内を高真空状態に保持するための工夫が必要となる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の光電子顕微鏡装置では、試料の表面に反応ガスを吹き付ける角度、および噴射ノズルと試料表面との間隔を最適化することによって、反応ガスが鏡筒内に入りこまないようにしている。
【0005】
一方、走査型電子顕微鏡装置では、高電圧が印加される電子銃室の真空度を試料室の真空度よりも高く維持するための工夫が種々行われている。例えば、特許文献2に記載の装置では、鏡筒を二分して電子銃室と試料室間にオリフィスで仕切られた中間室を設け、電子銃室、中間室および試料室をそれぞれ異なるポンプで排気する構成としている。この構成により、試料室にガスを導入して低真空状態としてもその影響は高電圧が印加される電子銃室には及ばず、電子銃室は高真空状態を維持することができる。
【0006】
また、特許文献3に記載の装置では、鏡筒を含む第1チャンバー空間と、第1チャンバー空間を包囲する第2チャンバー空間を設け、それぞれの空間を異なる経路で排気するように構成している。この構成により、大型の試料であっても測定期間中、電子銃室を高真空に維持することを可能としている。特許文献4および5では、試料室および鏡筒に複数の排気管を設置する構成を開示している。
【0007】
【特許文献1】特開2006−170705
【特許文献2】特開平6−215716
【特許文献3】特開2003−234080
【特許文献4】特開平6−89686
【特許文献5】特開2002−289129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に記載の装置では、観察対象とする微小領域にのみ極限して反応ガスを吹き付けることにより、真空チャンバー内を高真空状態に保持しようとするものである。そのため、観察領域が大きい場合や多くのガスを導入する場合には、高真空状態の保持には限界がある。また、走査型電子顕微鏡装置で行われているように、鏡筒の側面に排気経路を設けて真空引きを行っても、鏡筒内に反応ガスが入り込むのを阻止することはできず、また特にガスを多く入れたときは鏡筒内の排気効率が良くても入り込んだガスにより放電を起こしやすい。さらに、鏡筒側面から内部を真空引きすると、それによって発生するノイズが観察分解能を低下させる場合がある。
【0009】
本発明は、光電子顕微鏡装置における上記のような問題点を解決する目的でなされたものであり、観察分解能を低下させることなく鏡筒内部にガスが入り込むのを防止することが可能な、新規な構造の光電子顕微鏡装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、第1の発明では、紫外光またはX線を試料表面に照射することにより発生する光電子を鏡筒内に配置した電子レンズ系により結像して前記試料表面を観察する光電子顕微鏡装置において、前記鏡筒の光電子の取り込み部外側に筒状のオープンチャンバーを取り付け、該オープンチャンバーの側面に真空引き用の細孔を設けたことを特徴とする。
【0011】
上記第1の発明の光電子顕微鏡装置において、前記筒状のオープンチャンバーの前記光電子の取り込み部に隣接する側の開口径を反対側の開口径よりも小さくすることにより、前記オープンチャンバーをラッパ形状としても良い。
【0012】
さらに、前記オープンチャンバーの内壁にガス吸着物質の薄膜を設けても良い。また、前記オープンチャンバーの内部空間をガス吸着材料の繊維によって充填しても良い。
【発明の効果】
【0013】
光電子顕微鏡装置の鏡筒の光電子取り込み部の外側に、オープンチャンバーを取り付け、このオープンチャンバーの側面に設けた細管を介してオープンチャンバー内を排気することにより、鏡筒の内部方向に向かうガス粒子を効果的に捉えて排気することができる。その結果、鏡筒内部へのガス粒子の侵入が抑制され、真空チャンバー内への反応ガスの導入にも拘わらず鏡筒内部は高真空状態に保たれる。これにより、真空度の低下によって発生する高電圧印加部分での放電に妨害されることなく、観測を行うことができる。
【0014】
さらに、鏡筒の外側に取り付けたオープンチャンバーの側面から排気するため、排気のための真空ポンプの振動が直接鏡筒に伝わらない。そのため、観測中、鏡筒の振動によるノイズの発生が抑えられ、分解能の高い顕微鏡観測を行うことができる。なお、オープンチャンバーの側面に設けた細管を介してオープンチャンバー内を排気する構成であるため、排気による影響が局所的であって試料表面に及びにくく、試料表面への反応ガスの付着を妨げることはない。
【0015】
また、オープンチャンバーの開口径を、鏡筒の光電子取り込み部に隣接する側よりもその反対側(試料側)で大きくして、オープンチャンバーをラッパ形状とすることにより、さらに効果的にガス粒子を捉えて排気することができる。また、オープンチャンバーの内壁に、ガス吸着物質の薄膜を設け、あるいはオープンチャンバーの内部空間をガス吸着物質の繊維によって充填することにより、吸着と排気の相乗効果により、鏡筒内部へのガスの侵入をより効果的に抑制することができる。その結果、高い分解能で観測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の各図面において、同一の符号は同一または類似の構成要素を示すため、重複した説明は行わない。
【0017】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1にかかる光電子顕微鏡装置の概略構成を示すブロック図である。図において、1は真空チャンバー、2は試料ステージ、3は試料ホルダー、4は試料ホルダー3上に設置された観測試料を示す。5は、真空チャンバー1の側面から試料表面方向に向かって取り付けられた光電子励起用のUV光源、6は試料表面に反応ガスを供給するためのガスノズルである。なお、本実施形態では、光電子励起用の光源としてUV光源5のみを示しているが、X線源を光源として配置しても良いことは勿論である。あるいは、UV光源およびX線源を共に配置しても良い。なお、真空チャンバー1は、その側面に設けた排気管1aに真空ポンプ15を接続することにより、チャンバー内を排気できるようにされている。
【0018】
7は、光源5からのUV光によって試料表面から励起される光電子を検出するための光学系を収納する、光電子顕微鏡筒(以下、鏡筒)を示す。鏡筒7内において、8は対物電子レンズ、9は拡大・投影電子レンズである。これらの電子レンズ8、9は、設計に応じて複数段にわたって設けられていても良い。10は、光電子顕微鏡用の結像素子であり、電子増倍素子で構成されている。試料4から放出される光電子は弱いため、観測が容易なように電子増倍素子を用いて光電子の量を増幅している。
【0019】
11は画像投影板(スクリーン)であり、結像素子10を通過した光電子のエネルギーに応じて発光することで、試料4の観測部位における反応をイメージ化する。12はCCDカメラであって、画像投影板11上のイメージを電気信号に変換して検出するためのものである。なお、鏡筒7内の電子レンズ系、結像素子10、画像投影板11、CCDカメラ12は、光電子観測用の顕微鏡を構成する。
【0020】
13は、本実施形態に係る装置の特徴を構成する筒状のオープンチャンバーであり、鏡筒7の入り口7aに取り付けられている。鏡筒入り口7aは、電子レンズ系の光軸に平行な光電子を鏡筒内に取り込むために、光軸上に形成され、鏡筒7の径に比べて小さい径を有する。従って、オープンチャンバー13も、光軸上で鏡筒入り口7aとほぼ同じかあるいはわずかに大きい径を有する。オープンチャンバー13の側面には、真空チャンバー1の外部に設けた真空ポンプ16に接続される細管14が取り付けられている。真空ポンプ16は、オープンチャンバー13の筒内を排気するだけで良いので、鏡筒7内全体を排気する場合に比べて小さな排気容量しか必要としない。
【0021】
真空ポンプ16は真空チャンバー1を排気する真空ポンプ15と別体で構成しても良いが、真空ポンプ15を共用する場合は排気容量を落として稼動させる。なお、真空ポンプ16を稼動させると、ポンプの振動が細管14を介してオープンチャンバー13に伝達されるが、オープンチャンバー13と鏡筒7とは別体で構成されているため、真空ポンプの振動が鏡筒7に伝わり難い。このように、本実施形態の装置では、排気容量が小さくかつ排気のための振動が鏡筒7に伝わり難いので、鏡筒側壁に排気口を設ける従来の装置に比べて、光学系の振動によるノイズの発生が大きく防止される。
【0022】
図1に示す装置において、試料4を試料ホルダー3に装着した後、排気管1aを介して真空引きを行い、真空チャンバー1内を所定の真空度にする。その後、ノズル6を介して反応ガスを試料4の表面近傍に導入する。このとき、真空チャンバー1内は高真空状態であるため、導入された反応ガスは拡散し、その一部はオープンチャンバー13を介して鏡筒7内に入り込もうとする。しかしながら、細管14に接続された真空ポンプ16を稼動させることにより、オープンチャンバー13内の反応ガス粒子は細管14を介して真空チャンバー1の外部に排出されるため、鏡筒7の内部への拡散が抑制される。
【0023】
真空ポンプ16はオープンチャンバー13内を排気するのみで良いので、この排気は真空チャンバー1全体としては局所的な排気である。そのため、この排気によって、真空チャンバー1内にノズル6を介して導入された反応ガスが、試料4の表面に吸着するのを妨げられることはない。この結果、放電の発生を伴わずに高い分解能で、試料表面のガス反応を観測することができる。なお、この実施形態の装置は、真空チャンバー内に導入する反応ガスの濃度が比較的小さい場合に適している。
【0024】
図1に示す光電子顕微鏡装置を用いて行った実験例を以下に示す。
【0025】
(実験例1)
鏡筒7の先端の鏡筒入り口7a(穴径約5mmφ)へ、オープンチャンバー13(内径5〜20mmφ、長さ10〜30mmの筒状構造、SUS製)を取り付けた。オープンチャンバー13の側面には内径5〜10mmのチューブ(細管)14を取り付け、真空チャンバー1の外部に設置した真空ポンプ16に接続した。この真空ポンプ16の性能は、オープンチャンバー13の容積と同じ密閉容器を10-8Paのオーダーに真空引きできるものを用いた。
【0026】
ガス導入前の真空度5×10-8Paの真空チャンバー1内へ、COガスと酸素ガスを、真空チャンバー1内の真空度が5×10-3〜1×10-2Paとなる範囲で導入したが、鏡筒7内の高電圧印加部分は放電を起こすことなく稼動し続け、白金試料表面のCO2生成反応の様子を光電子顕微鏡により継続して鮮明に観測することができた。なお、このときの像分解能はおよそ200nmであった。真空チャンバー1の真空度は、チャンバー内の真空計で測定した。
【0027】
[実施形態2]
図2は、本発明の実施形態2に係る光電子顕微鏡装置の構成を説明するための図であって、特に鏡筒先端の光電子取り込み部分の構造を示している。従って、光電子顕微鏡装置の図2に示した以外の部分の構成は、図1に示す光電子顕微鏡装置の構成が適用されているものとする。なお、図1に示す構造のみならず、一般的な光電子顕微鏡装置の構成を適用可能である。
【0028】
図2において、7は、図1と同様に鏡筒先端の光電子取り込み部分を示している。130は鏡筒入り口7aに取り付けられたラッパ状のオープンチャンバーであり、その側面に細管140が取り付けられている。細管140は、真空チャンバーの外側において、真空ポンプ(図示せず)に接続されている。オープンチャンバー130の試料側の開口部内径D2は、鏡筒入り口側の内径D1よりも大きくされ、全体にラッパ状となるように構成されている。なお、図2において、20は光電子を示し、30はガス粒子を示している。
【0029】
本実施形態のオープンチャンバー130では、細管140を介して真空引きを行う場合、試料側の開口部分の面積が広く、従って真空ポンプによる吸引力が小さく、周辺のガス粒子30はゆっくり吸引される。そのため、試料へ吸着させるために導入したガスが、オープンチャンバー方向に吸引されることはなく、試料へのガスの吸着が妨げられることはないので、観測に影響を及ぼさない。一方、鏡筒入り口部分では、ガス密度が大きくなるため、真空ポンプでの吸引効果が向上する。これによって、鏡筒内に入り込もうとするガス粒子30のみを、効果的に真空チャンバー外に排出することが可能となる。
【0030】
図2に示す光電子顕微鏡装置を用いて行った実験例を以下に示す。
【0031】
(実験例2)
長さL=10〜30mmのオープンチャンバー130において、鏡筒入り口側の内径D1を、D1=5〜10mmとし、反対側の内径D2を、D2=12〜30mmとし、開き角θ=20〜45度のラッパ型とし、上記実験例1と同じ観察実験を行った。その結果、像分解能はおよび100nmまで向上した。これは、この条件の場合に、オープンチャンバーの試料側開口部周辺でのガス取り込み効率と、鏡筒入り口側でのガス密度向上による吸引効率の向上とが最適化され、その結果、分解能が向上したものと考えられる。
【0032】
上記と同程度の像分解能を得ることが可能なサイズの組合せについて、代表例を以下の表1に示す。表1では、開き角θを45度と20度に設定しているが、45度と20度の間においても適正な組合せが存在することは勿論である。表1において、単位はmmである。
【0033】
【表1】

【0034】
[実施形態3]
図3は、本発明の実施形態3に係る光電子顕微鏡装置の構成を説明するための図であって、図2の場合と同様に、鏡筒先端の光電子取り込み部分の構造を示している。本実施形態のオープンチャンバー13は、図1に示すオープンチャンバー13と同じ構造を有しているが、その内壁13aにガス吸着物質の薄膜40をコーティングしまたは貼り付けたことを特徴としている。この構造のオープンチャンバー13では、真空ポンプによって排気されなかったガス粒子30は、ガス吸着物質の薄膜40に一旦吸着されるため、鏡筒内部への侵入が防止される。
【0035】
なお、吸着物質は、真空中では離れた場所のガスを吸着する働きは弱く、自然拡散によって鏡筒入り口に近づいたガスを主に吸着する。そのため、試料の表面近傍の反応ガスが薄膜40に不必要に吸着されて、試料への反応ガスの吸着が阻害される恐れはない。ガス吸着物質薄膜40に吸着されたガスは、ガス導入停止後の排気で取り去ることができる。この実施形態の装置は、真空チャンバー内に導入する反応ガス濃度が比較的高い場合に適した装置である。
【0036】
図3に示す光電子顕微鏡装置を用いて行った実験例を以下に示す。
【0037】
(実験例3)
図3のオープンチャンバー13(内径5〜20mmφ、長さ10〜30mm、金属製)の内壁に、吸着材である厚さが0.3〜0.5mmのゼオライトの薄膜を形成した。このゼオライトは、数nmの細孔を有する多孔質である。ガス導入前の真空度5×10-8Paの真空チャンバー1内へ、COガスと酸素ガスを真空チャンバー1内の真空度が1×10-2〜5×10-2Paとなる範囲で導入したが、鏡筒7内の高電圧印加部分は放電を起こすことなく稼動し続け、白金試料表面のCO2生成反応の様子を光電子顕微鏡により継続して鮮明に観測することができた。このときの像分解能はおよそ100nmであった。これは、実験例1の場合よりも真空度が1オーダー低い(反応ガスの濃度が高い)にもかかわらず、同等の分解能を得ることができたことで、ガス吸着の効果が大きいことを示している。なお、吸着材はゼオライトのほかに、メソポーラスシリカ(細孔径数nm〜数十nm)でも同様の効果が得られる。
【0038】
[実施形態4]
図4は、本発明の実施形態4に係る光電子顕微鏡装置の構成を説明するための図であって、図2、図3の場合と同様に、鏡筒先端の光電子取り込み部分の構造を示している。本実施形態のオープンチャンバー13は、図1に示すオープンチャンバー13と同じ外形構造を有しているが、オープンチャンバー内空間をガス吸着繊維50によって充填した構造を特徴としている。ガス吸着繊維50は、光電子20が鏡筒7内に入るのをできるだけ妨害しないように、充分な空隙を持たせる。この構造のオープンチャンバー13において、真空引きを行った場合、ガス粒子30は吸着繊維50中を通過するため、吸着と排気の相乗効果で鏡筒内へのガス粒子の侵入を大きく防止することができる。従って、この装置は、真空チャンバー内に濃度の高いガスを導入する場合に特に有効である。
【0039】
図4に示す光電子顕微鏡装置を用いて行った実験例を以下に示す。
【0040】
(実験例4)
図4のオープンチャンバー13(内径5〜20mmφ、長さ10〜30mm、金属製)の内空間にカーボン繊維を充填した。カーボン繊維は、径がおよそ2〜10μm、長さは1〜5mmのものを、繊維をからませた状態で用いた。なお、このカーボン繊維は数十nmの細孔を有する多孔質体とした。繊維のオープンチャンバーの容積に対する充填率は、およそ3〜10%とした。
【0041】
この状態の装置において、実験例3と同様に、ガス導入前の真空度5×10-8Paの真空チャンバー1内へ、COガスと酸素ガスを真空チャンバー1内の真空度が1×10-2〜5×10-2Paの範囲で導入したが、鏡筒7内の高電圧印加部分は放電を起こすことなく稼動し続け、白金試料表面のCO2生成反応の様子を光電子顕微鏡により継続して鮮明に観測することができた。このときの像分解能はおよそ50nmであった。この分解能は、実験例3の場合よりもさらに向上している。なお、カーボン繊維の他に、細孔を有するグラファイト繊維、カーボンナノチューブなどでも同様の効果がある。
【0042】
[その他の実施形態]
なお、図2に示すラッパ型のオープンチャンバー130において、図3に示す第3の実施形態と同様にその内壁にゼオライト薄膜を形成しても良い。実験例3と同様の薄膜を形成した場合、ガス導入による真空度が5×10-2〜1×10-1Paの範囲においても、50nmの分解能を有する観察を行うことができた。これは、図2のラッパ形状と薄膜吸着材の相乗効果によって、ガス粒子の鏡筒内への侵入がさらに防止されたことによるものと考えられる。
【0043】
さらに、図2のラッパ型オープンチャンバーにおいて、実施形態4と同様に、カーボン繊維をオープンチャンバーの内部空間に充填するようにしても良い。実験例4と同様のカーボン繊維を充填した場合に、ガス導入による真空度が1×10-1〜5×10-1Paの範囲においても、50nmの分解能を有する観察を行うことができた。これは、ラッパ形状と吸着繊維材との相乗効果により、ガス粒子の鏡筒内への侵入がさらに防止されたことによるものと考えられる。
【0044】
なお、本発明の実施形態1乃至4に示したオープンチャンバーを用いない従来の装置を使用して、実験例1と同様に、ガス導入前の真空度5×10-8Paの真空チャンバー中へ、COガスと酸素ガスを本体チャンバー内真空度が5×10-3〜1×10-2Paとなる範囲で導入した結果、鏡筒内の高圧印加部分で放電が発生し、画像分解能は1000nm以上となり、必要とする分解能を得ることができなかった。また、ガスを1×10-2〜5×10-2Paの範囲で導入したところ、観察不可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態1にかかる光電子顕微鏡装置の概略構成を示す図。
【図2】本発明の実施形態2にかかる光電子顕微鏡装置の一部の概略構成を示す図。
【図3】本発明の実施形態3にかかる光電子顕微鏡装置の一部の概略構成を示す図。
【図4】本発明の実施形態4にかかる光電子顕微鏡装置の一部の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1 真空チャンバー
2 試料ステージ
3 試料ホルダー
4 試料
5 UV光源
6 ノズル
7 鏡筒
8 対物電子レンズ
9 拡大、投影電子レンズ
10 結像素子
11 スクリーン
12 CCDカメラ
13 オープンチャンバー
14 細管
15、16 真空ポンプ
20 光電子
30 ガス粒子
40 ガス吸着物質の薄膜
50 繊維状ガス吸着物質
130 ラッパ型オープンチャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光またはX線を試料表面に照射することにより発生する光電子を鏡筒内に配置した電子レンズ系により結像して前記試料表面を観察する光電子顕微鏡装置において、前記鏡筒の光電子の取り込み部外側に筒状のオープンチャンバーを取り付け、該オープンチャンバーの側面に真空引き用の細孔を設けたことを特徴とする、光電子顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光電子顕微鏡装置において、前記筒状のオープンチャンバーの前記光電子の取り込み部に隣接する側の開口径を反対側の開口径よりも小さくすることにより、前記オープンチャンバーをラッパ形状としたことを特徴とする、光電子顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光電子顕微鏡装置において、前記オープンチャンバーの内壁にガス吸着物質の薄膜を設けたことを特徴とする、光電子顕微鏡装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の光電子顕微鏡装置において、前記オープンチャンバーの内部空間をガス吸着材料の繊維によって充填したことを特徴とする、光電子顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−59986(P2008−59986A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237658(P2006−237658)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】