説明

光音響画像生成装置及び方法

【課題】光音響画像生成装置において、対象物を、光音響信号の信号強度や対象物の光照射位置側からの距離に依存せずに、できるだけ同じ大きさで表示する。
【解決手段】レーザユニット13からの光を被検体に照射し、その照射後に、プローブ11を用いて被検体内で発生した光音響信号を検出する。ピーク検出手段25は、光音響信号から2以上のピーク位置を検出する。ピーク補正手段26は、検出された2以上のピーク位置における光音響信号の大きさが同じ大きさとなるように光音響信号を補正する。光音響画像構築手段28は、補正された光音響信号に基づいて光音響画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響画像生成装置及び方法に関し、更に詳しくは、被検体に照射されたレーザ光により被検体内で生じた光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内部の状態を非侵襲で検査できる画像検査法の一種として、超音波検査法が知られている。超音波検査では、超音波の送信及び受信が可能な超音波探触子を用いる。超音波探触子から被検体(生体)に超音波を送信させると、その超音波は生体内部を進んでいき、組織界面で反射する。超音波探触子でその反射音波を受信し、反射超音波が超音波探触子に戻ってくるまでの時間に基づいて距離を計算することで、内部の様子を画像化することができる。
【0003】
また、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響イメージングが知られている。一般に光音響イメージングでは、レーザパルスなどのパルスレーザ光を生体内に照射する。生体内部では、例えば生体組織がパルスレーザ光のエネルギーを吸収し、そのエネルギーによる断熱膨張により超音波(光音響信号)が発生する。この光音響信号を超音波プローブなどで検出し、検出信号に基づいて光音響画像を構成することで、光音響信号に基づく生体内の可視化が可能である。
【0004】
光音響イメージング装置は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1には、検出した超音波の検出信号に対してSTC(Sensitivity Time Control)処理を行うことも記載されている。STC処理では、被検体内を進行する超音波の減衰を補償するために、検出信号を増幅する増幅器のゲイン(感度)を、時間(深さ)に応じて変化させる。STCは、TGC(Time Gain Control)とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−167167号公報
【特許文献2】特開2011−152273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、光音響イメージングでは、被検体表面から照射された光は、被検体内部を進行する際に散乱などにより減衰し、深部ほど照射される光の量が減少する。このため、深部に行くほど、発生する音響波の強度(初期音圧)が低下する。これに起因して、光音響画像において、サイズ・形状・吸収係数が同じ光吸収体が、被検体内のどこに存在するかによって異なるコントラストで表示されることがあった。この問題に対し、特許文献2には、光音響信号に対するTGCとして、検出信号を増幅する増幅器の利得を利得制御テーブルに従って時間的に変化させ、被検体内部での光量の減衰に起因する超音波の強度の低下を補償することが記載されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2のように利得制御テーブルに従って増幅器の利得を時間的に変化させても、対象物が、光音響画像において異なるサイズで表示されることがあった。例えば径がほぼ同じ血管が、光照射を行う被検体に表面から比較的浅い部分と深い部分との双方に存在する場合、浅い部分の血管は太く表示される一方、深い部分の血管が細く表示されることがあった。
【0008】
本発明は、上記に鑑み、対象物を、光音響信号の信号強度や対象物の光照射位置側からの距離に依存せずに、できるだけ同じ大きさで表示可能な光音響画像生成装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、被検体に照射すべき光を出射する光源ユニットと、前記光源ユニットから出射した光が被検体に照射された後に、被検体内で発生した光音響信号を検出する超音波プローブと、前記検出された光音響信号から2以上のピーク位置を検出するピーク検出手段と、前記検出された2以上のピーク位置における光音響信号の大きさが同じ大きさとなるように前記光音響信号を補正するピーク補正手段と、前記補正された光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成手段とを備えたことを特徴とする光音響画像生成装置を提供する。
【0010】
本発明では、前記ピーク検出手段が、前記光音響信号の時間微分が0になる時刻をピーク位置として検出する構成を採用できる。
【0011】
前記ピーク補正手段が、前記検出されたピーク位置に対応する時刻を含む所定時間範囲の光音響信号を補正することが好ましい。
【0012】
前記ピーク検出手段が、前記検出したピーク位置の前後で、各ピークの信号波形に対応した期間を求め、前記ピーク補正手段が、前記求められた各ピークの信号波形に対応した期間内の光音響信号を補正する構成としてもよい。
【0013】
前記ピーク補正手段が、各ピーク位置における光音響信号が所定の大きさとなるように前記光音響信号を補正することとしてもよい。
【0014】
前記ピーク補正手段は、各ピーク位置における光音響信号に、各ピーク位置における光音響信号の大きさと前記所定の大きさとの比に応じた係数を乗じることで前記光音響信号を補正してもよい。
【0015】
前記所定の大きさは、各ピーク位置における光音響信号のうちの最大値と等しくてもよい。
【0016】
前記ピーク補正手段は、前記検出された2以上のピーク位置を結ぶ光音響信号の包絡線に基づく係数を前記光音響信号に乗じることで前記光音響信号を補正してもよい。この場合、前記ピーク補正手段が、前記光音響信号に、前記包絡線の逆数に応じた係数を乗じることとしてもよい。
【0017】
前記光音響画像生成手段が、補正後の光音響信号が所定のしきい値以上の位置に対応する部分を画像化する構成を採用できる。
【0018】
前記光音響画像生成手段は、前記補正前後の光音響信号の変化が所定のしきい値以上の部分と、前記変化がしきい値よりも小さい部分とが区別可能な態様で光音響画像を生成してもよい。
【0019】
前記光音響画像生成手段は、少なくとも前記変化が所定のしきい値以上の部分について、前記ピーク補正手段による補正が行われていない光音響信号に基づいて光音響画像を生成し、前記補正が行われた光音響信号に基づく光音響画像と、前記補正が行われていない光音響信号に基づく光音響画像とを重畳してもよい。
【0020】
本発明の光音響画像生成装置が、前記超音波プローブが更に前記被検体に対して超音波の送信を行い、該送信した超音波に対する反射超音波を検出し、前記検出された反射超音波に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段と、前記光音響画像と前記超音波画像とを合成する画像合成手段とを更に備える構成としてもよい。
【0021】
前記画像合成手段は、前記光音響画像と超音波画像とを重畳することで画像合成を行ってもよい。
【0022】
本発明は、また、光源ユニットからの光を被検体に照射するステップと、前記照射された光に起因して被検体内で発生した光音響信号を検出するステップと、前記検出された光音響信号から2以上のピークを検出するステップと、前記検出された2以上のピークの大きさが同じ大きさとなるように前記光音響信号を補正するステップと、前記補正された光音響信号に基づいて光音響画像を生成するステップとを有することを特徴とする光音響画像生成方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光音響画像生成装置及び方法は、光音響信号からピークを検出し、検出したピークの大きさ(ピーク値)がほぼ同じ大きさとなるように光音響信号を補正する。このようにすることで、複数の箇所に分布する対象物について、各対象物からの光音響信号の差を小さくすることができ、光音響信号の信号強度や対象物の光照射位置側からの距離に依存せずに、対象物をできるだけ同じ大きさで表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態の光音響画像生成装置を示すブロック図。
【図2】ピーク補正前の光音響信号を示すグラフ。
【図3】ピーク補正後の光音響信号を示すグラフ。
【図4】動作手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2実施形態の光音響画像生成装置を示すブロック図。
【図6】(a)〜(c)は、光音響画像の一部を示す図。
【図7】光音響信号と包絡線とを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の光音響画像生成装置を示す。光音響画像生成装置(光音響画像診断装置)10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、及び光源ユニット(レーザユニット)13を備える。
【0026】
レーザユニット13は、被検体に照射するレーザ光を生成する。レーザ光の波長は、観察対象物に応じて適宜設定すればよい。レーザユニット13が出射するレーザ光は、例えば光ファイバなどの導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される。プローブ11は、レーザユニット13から出射した光が被検体に照射された後に、被検体内の光吸収体がレーザ光を吸収することで生じた超音波(光音響信号)を検出する。プローブ11は、例えば一次元配列された複数の超音波振動子を有する。
【0027】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、光音響画像再構成手段24、ピーク検出手段25、ピーク補正手段26、検波・対数変換手段27、光音響画像構築手段28、トリガ制御回路29、及び制御手段30を有する。受信回路21は、プローブ11で検出された光音響信号を受信する。AD変換手段22は、受信回路21が受信した光音響信号をデジタル信号に変換する。AD変換手段22は、例えば、所定周波数のADクロック信号に基づいて、所定のサンプリング周期で光音響信号をサンプリングする。受信メモリ23は、AD変換手段22でサンプリングされた光音響信号を記憶する。
【0028】
光音響画像再構成手段24は、受信メモリ23から光音響信号を読み出し、プローブ11の複数の超音波振動子で検出された光音響信号に基づいて、光音響画像の各ラインのデータを生成する。光音響画像再構成手段24は、例えばプローブ11の64個の超音波振動子からのデータを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。光音響画像再構成手段24は、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行ってもよい。あるいは光音響画像再構成手段24は、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行ってもよい。
【0029】
ピーク検出手段25は、再構成された各ラインのデータ(光音響信号)からピークを検出する。ピーク検出手段25は、例えば光音響信号の時間軸方向の変化をモニタし、時刻が進むに連れて光音響信号が増加し、その後減少していくときの信号の山の位置(光音響信号が極大値を取る時刻)をピーク位置として検出する。ピーク検出手段25は、例えば光音響信号の時間微分が0になる時刻をピーク位置として検出する。
【0030】
ピーク補正手段26は、ピーク検出手段25で検出された2以上のピーク位置における光音響信号の大きさ(ピーク値)が同じ大きさとなるように、光音響信号を補正する。ここで、ピーク補正手段26は、各ピーク位置における光音響信号の大きさがほぼ同じ大きさになるように補正すればよく、厳密に同じ大きさになるように補正することまでは要しない。ピーク補正手段26は、例えば検出されたピーク位置に対応する時刻の近傍(ピーク位置に対応する時刻を含む前後の所定範囲)の光音響信号を補正する。ピーク補正手段26は、例えば各ピーク位置における光音響信号が、所定の大きさ(信号強度)となるように光音響信号を補正する。
【0031】
検波・対数変換手段27は、ピークが補正された光音響信号(各ラインのデータ)の包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。光音響画像構築手段(光音響画像生成手段)28は、対数変換が施された光音響信号に基づいて、光音響画像を生成する。光音響画像構築手段28は、例えば光音響信号の大きさ(信号強度)が所定のしきい値以上となる部分を画像化する。例えば、光音響画像構築手段28は、光音響信号の信号強度がしきい値よりも小さい部分は背景と同じ色(例えば黒)とし、しきい値以上の部分は所定の色(例えば白や赤)で、かつ、その階調値が光音響信号の大きさに従って変化するように、光音響画像における各画素の画素値を決定する。しきい値以上の部分について、信号強度と表示色とを関連付けるカラーマップを用意しておき、そのカラーマップを用いて、信号強度に応じて色を割り当てるようにしてもよい。
【0032】
制御手段30は、超音波ユニット12内の各部を制御する。トリガ制御回路29は、光音響画像生成に際して、レーザユニット13に光トリガ信号を送る。レーザユニット13は、光トリガ信号を受けると、パルスレーザ光を出射する。トリガ制御回路29は、被検体に対するレーザ光照射と同期して、AD変換手段22にサンプリングトリガ信号を送る。AD変換手段22は、サンプリングトリガ信号を受け取ると、光音響信号のサンプリングを開始する。
【0033】
図2は、ピーク補正前の光音響信号を示す。横軸は時間軸を表し、縦軸は信号強度を表す。ピーク検出手段25は、例えば信号波形の時間微分が0で、かつ時間微分が正から負へと変化する境界の時刻t1、t2、t3、t4を、ピーク位置として検出する。時刻t1からt4は、例えば血管が存在する部分に対応する。4つのピークの大きさを比較すると、最も浅い(光照射位置に近い側)の位置に対応する時刻t1におけるピークの大きさが最も大きく、最も深い(光照射位置から遠い側)位置に対応する時刻t4におけるピークの大きさが最も小さい。
【0034】
図2において、時刻t1がピーク位置となるピーク(部分信号波形)をピーク1、時刻t2がピーク位置となるピークをピーク2とする。同様に、時刻t3がピーク位置となるピークをピーク3、時刻t4がピーク位置となるピークをピーク4とする。また、ピーク1の信号波形に対応した期間(ピーク期間)をT1、ピーク2の信号波形に対応した期間をT2、ピーク3の信号波形に対応した期間をT3、ピーク4の信号波形に対応した期間をT4とする。各ピーク期間は、信号レベルがバックグランドレベル(基準レベル)から変化し、ピーク位置を通り、再びバックグランドレベルに戻るまでの間の時間として定義できる。
【0035】
ピーク4の大きさ(基準レベルとの差)をIminと定義し、光音響画像構築手段28において、基準レベルから0.5×Iminだけ大きい信号強度をしきい値として光音響画像を生成する場合を考える。この場合、浅い位置に対応するピーク1では、そのピーク値が大きいことから全体的に信号レベルが高く、光音響信号がしきい値以上となる部分の幅が広くなる。このため、血管が大きく描画されることになる。一方、深い位置に対応するピーク3やピーク4では、ピーク値が小さいことから、光音響信号がしきい値以上となる部分の幅が狭く、血管が小さく描画されることになる。このように、ピーク補正なしの場合、対象物の大きさが、光音響信号の信号強度や対象物の光照射位置側からの距離に依存して大きく変化する。
【0036】
図3は、ピーク補正後の光音響信号を示す。ピーク補正手段26は、例えば各ピークのピーク値が所定の信号強度(例えば1a.u.)となるように光音響信号を補正する。所定の信号強度は、例えば補正前の各ピークのピーク値のうちの最大値とすることができる。ピーク補正手段26は、例えば、ピーク1からピーク4に対応する光音響信号に、各ピーク位置における光音響信号の大きさと所定の信号強度との比に応じた係数を乗じることで、光音響信号のレベルをスケーリングする。このようにすることで、各ピークのピーク値を所定の信号強度(I)に揃えることができる。
【0037】
光音響画像構築手段28において、基準レベルから所定の信号強度(I)×0.5だけ大きい信号強度をしきい値として光音響画像を生成する場合を考える。この場合、補正後の光音響信号では各ピークの高さが揃っていることから、各ピークにおける光音響信号がしきい値以上となる部分の幅は、ピーク補正前(図2)に比して変動が少ない。このため、ピーク補正前に比して、各血管の大きさの違いを小さくすることができ、対象物を、光音響信号の信号強度(初期音圧)や対象物の光照射位置側からの距離に依存せずに、ほぼ同じ大きさで表示することができる。
【0038】
図4は、動作手順を示す。トリガ制御回路29は、レーザユニット13に対して光トリガ信号を出力する。レーザユニット13は、光トリガ信号を受けると、例えば図示しないフラッシュランプを点灯してレーザ励起を開始し、その後、QスイッチをONにしてパルスレーザ光を出射する。レーザユニット13から出射したパルスレーザ光は、例えばプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される(ステップS1)。
【0039】
プローブ11は、レーザ光の照射後、レーザ光の照射により被検体内で発生した光音響信号を検出する(ステップS2)。超音波ユニット12の受信回路21は、プローブ11で検出された光音響信号を受信する。トリガ制御回路29は、被検体に対する光照射のタイミングに合わせてAD変換手段22にサンプリングトリガ信号を送る。AD変換手段22は、サンプリングトリガ信号を受けて光音響信号のサンプリングを開始し、光音響信号のサンプリングデータを受信メモリ23に格納する。
【0040】
光音響画像再構成手段24は、受信メモリ23から光音響信号のサンプリングデータを読み出し、読み出した光音響信号のサンプリングデータに基づいて、光音響画像の各ラインのデータを生成する。ピーク検出手段25は、光音響信号の各ラインのデータから2以上のピーク位置を検出する(ステップS3)。ピーク補正手段26は、検出された2以上のピーク位置における光音響信号の信号強度がほぼ同じ値となるように、光音響信号の補正を行う(ステップS4)。
【0041】
ピーク検出手段25は、ステップS3において、検出したピーク位置の前後で、各ピークの信号波形に対応した期間を求めてもよい。ピーク検出手段25は、例えば図2に示したピーク1からピーク4について、各ピークの信号波形に対応した期間T1からT4を求める。ピーク補正手段26は、例えば各ピークの信号波形に対応した期間内の光音響信号に対して補正を行う。例えば、各ピークの信号強度を、検出されたピークのうちの最大値であるピーク1のピーク値に合わせるように補正を行う場合、ピーク補正手段26は、ピーク1のピーク値とピーク2のピーク値との比を期間T2内の光音響信号に乗じることで、ピーク2の光音響信号の補正を行う。同様に、ピーク1のピーク値とピーク3のピーク値との比を期間T3内の光音響信号に乗じることでピーク3の補正を行い、ピーク1のピーク値とピーク4のピーク値との比を期間T4内の光音響信号に乗じることでピーク4の補正を行う。ピーク1は補正なしでよい。
【0042】
検波・対数変換手段27は、ピークが補正された光音響信号の包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。光音響画像構築手段28は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、光音響画像を生成する(ステップS5)。光音響画像構築手段28は、例えば補正後の光音響信号が所定のしきい値以上の部分を、光音響画像で画像化する。画像表示手段14は、表示画面上に、生成された光音響画像を表示する(ステップS6)。
【0043】
本実施形態では、ピーク検出手段25が光音響信号からピーク位置を検出し、ピーク補正手段26が検出されたピーク位置における光音響信号がほぼ同じ大きさとなるように光音響信号を補正する。ピーク補正を行うことで、複数の箇所に分布する複数の対象物について、各対象物で発生した光音響信号の初期音圧が相互に異なるときでも、各対象物からの光音響信号の差を小さくすることができる。そのようなピーク補正した光音響信号に基づいて光音響画像を生成することで、光音響信号の信号強度(初期音圧)や対象物の光照射位置側からの距離に依存せずに、対象物をできるだけ同じ大きさで表示することができる。
【0044】
続いて、本発明の第2実施形態を説明する。図5は、本発明の第2実施形態の光音響画像生成装置を示す。光音響画像生成装置10aは、図1に示す第1実施形態の光音響画像生成装置10の構成に加えて、送信制御回路33、データ分離手段34、超音波画像再構成手段35、検波・対数変換手段36、超音波画像構築手段37、及び画像合成手段38を備える。本実施形態の光音響画像生成装置10aは、光音響画像に加えて、超音波画像の生成を行う点で、第1実施形態の光音響画像生成装置10と相違する。
【0045】
本実施形態では、プローブ11は、光音響信号の検出に加えて、被検体に対する超音波の出力(送信)、及び送信した超音波に対する被検体からの反射超音波の検出(受信)を行う。トリガ制御回路29は、超音波画像の生成時は、送信制御回路33に超音波送信を指示する旨の超音波送信トリガ信号を送る。送信制御回路33は、トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。プローブ11は、超音波の送信後、被検体からの反射超音波を検出する。
【0046】
プローブ11が検出した反射超音波は、受信回路21を介してAD変換手段22に入力される。トリガ制御回路29は、超音波送信のタイミングに合わせてAD変換手段22にサンプリグトリガ信号を送り、反射超音波のサンプリングを開始させる。AD変換手段22は、反射超音波のサンプリングデータを受信メモリ23に格納する。光音響信号の検出(サンプリング)と、反射超音波の検出(サンプリング)とは、どちらを先に行ってもよい。
【0047】
データ分離手段34は、受信メモリ23に格納された光音響信号のサンプリングデータと反射超音波のサンプリングデータとを分離する。データ分離手段34は、分離した光音響信号のサンプリングデータを光音響画像再構成手段24に入力する。光音響信号のピーク検出/補正を含む光音響画像の生成は、第1実施形態と同様である。データ分離手段34は、分離した反射超音波のサンプリングデータを、超音波画像再構成手段35に入力する。
【0048】
超音波画像再構成手段35は、プローブ11の複数の超音波振動子で検出された反射超音波(そのサンプリングデータ)に基づいて、超音波画像の各ラインのデータを生成する。各ラインのデータの生成には、遅延加算法を用いることができる。検波・対数変換手段36は、超音波画像再構成手段35が出力する各ラインのデータの包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。
【0049】
超音波画像構築手段37は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、超音波画像を生成する。超音波画像再構成手段35、検波・対数変換手段36、及び超音波画像構築手段37は、反射超音波に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段を構成する。画像合成手段38は、光音響画像と超音波画像とを合成する。画像合成手段38は、例えば光音響画像と超音波画像とを重畳することで画像合成を行う。合成された画像は、画像表示手段14に表示される。画像合成を行わずに、画像表示手段14に、光音響画像と超音波画像とを並べて表示し、或いは光音響画像と超音波画像とを切り替えてすることも可能である。
【0050】
本実施形態では、光音響画像生成装置は、光音響画像に加えて超音波画像を生成する。超音波画像を参照することで、光音響画像では画像化することができない部分を観察することができる。その他の効果は、第1実施形態と同様である。
【0051】
なお、上記各実施形態では、光音響画像再構成手段24で再構成された光音響信号に対してピーク検出/補正を行う例を説明したが、ピークの検出/補正を行う対象となる光音響信号は、再構成された光音響信号には限定されない。例えば、検波・対数変換手段27で対数変換が施された光音響信号に対してピークの検出/補正を行ってもよい。
【0052】
光音響画像構築手段28は、ピーク補正がされた部分とピーク補正がされていない部分とが区別可能な態様で光音響画像を生成してもよい。光音響画像構築手段28は、例えば補正前後の光音響信号の変化が所定のしきい値以下であるか否かを判断し、変化がしきい値よりも小さければ、その部分は補正なし或いは補正なしとみなせる部分であると判断する。一方、補正前後の変化がしきい値以上のときは、その部分は補正ありの部分であると判断する。補正前後の光音響信号の変化は、例えば補正前後の光音響信号の差や比で定義できる。例えば補正前後の光音響信号の比が0.8よりも小さいか又は1.2よりも大きいとき、その部分は補正ありの部分であると判断する。
【0053】
光音響画像構築手段28は、例えば補正ありの部分と補正なしの部分とで表示色を変えることで、光音響画像において両者を区別可能にする。例えば、補正なしの部分は赤色で表示されるようにし、補正ありの部分については青色で表示されるようにしてもよい。色で区別するのに代えて、補正ありの部分を矩形などの所定の図形で囲んでもよいし、補正ありの部分に対して所定形状のマーカを添付してもよい。そのようにすることで、ユーザは、光音響画像が表示されたモニタ画像上で、どの部分が補正された部分であるかを容易に認識できる。
【0054】
また、光音響画像構築手段28は、ピーク補正後の光音響信号に基づく光音響画像に加えて、ピーク補正前の光音響信号に基づく光音響画像を生成してもよい。光音響画像構築手段28は、例えばピーク補正が行われた光音響信号に基づく光音響画像と、ピーク補正前の光音響信号に基づく光音響画像とを重畳する。或いは、光音響画像構築手段28から2つの光音響画像を画像表示手段14に出力し、画像表示手段14に、補正後と補正前の光音響画像を並べて、或いは切り替えて表示させるようにしてもよい。なお、補正なし又は補正なしとみなせる部分は、ピーク補正前後の光音響画像で変化が少ないため、補正前の光音響信号に基づく光音響画像は、少なくとも補正ありの部分、すなわち補正前後の光音響信号の変化が所定のしきい値以上の部分について生成すればよい。
【0055】
図6(a)〜(c)は、光音響画像の一部を示す。図6(a)は、ピーク補正なしの光音響信号に基づく光音響画像の一部を示している。深部側で光音響信号のレベルが低下することに起因して(図2参照)、深さ方向にならぶ2つの血管のうち深部側の血管が浅い側の血管に比して細く描画されている。図6(b)は、ピーク補正後の光音響信号に基づく光音響画像の一部を示している。ピーク補正(図3参照)を行うことで、図6(a)では細い血管として表示されていた深部側の血管が、浅い側の血管とほぼ同じ太さで描画できている。このとき、浅い側の血管(ピーク補正なし)と、深部側の血管(ピーク補正あり)とで色を変えるなどして、両者を区別可能にすることで、どの部分が補正された部分であるのかが容易に判別できる。更に、図6(c)に示すように、ピーク補正なしの光音響信号に基づく光音響画像(図6(a))とピーク補正ありの光音響信号に基づく光音響画像(図6(b))とを重ねて表示することで、どの部分が補正された箇所であるのかだけでなく、どのように補正されたかを容易に認識することができるようになる。
【0056】
上記各実施形態では、ピーク補正手段26により光音響信号の補正を行って光音響画像の生成を行う例について示したが、ピーク補正手段26を用いずに、光音響画像構築手段28においてピークごとに異なるしきい値を用いて画像化を行うことも可能である。光音響画像構築手段28は、各ピークに対し、例えば各ピークにおける信号波形のピーク強度(ピーク値)に応じたしきい値を用いる。例えば図2におけるピーク1についてはそのピーク値の半分をしきい値とし、ピーク2についてはそのピーク値の半分をしきい値とし、ピーク3についてはそのピーク値の半分をしきい値とし、ピーク4についてはそのピーク値の半分をしきい値とし、光音響信号がピークごとのしきい値を超える部分を画像化してもよい。このようにした場合も、各ピークにおける光音響信号がしきい値以上となる部分の幅の変動を、全てのピークに対して共通のしきい値(例えば0.5×Imin)を用いる場合に比して抑えることができ、対象物を、光音響信号の信号強度(初期音圧)や対象物の光照射位置側からの距離に依存せずに、ほぼ同じ大きさで表示することができるという効果が得られる。
【0057】
ピーク補正手段26は、ピーク検出手段25で検出された2以上のピーク位置を結ぶ光音響信号の包絡線に基づく係数を光音響信号に乗じることで光音響信号を補正してもよい。図7に、光音響信号と包絡線を示す。ピーク補正手段26は、例えば各ピークのピーク値が1a.u.となるように光音響信号を補正する場合、各時刻における包絡線の値の逆数(バックグランドレベルとの差の逆数)を各時刻の補正係数として、各時刻の光音響信号に対応する時刻の補正係数を乗じることで光音響信号を補正する。例えば一度求めた包絡線を記憶しておき、同じ場所で次に光音響画像の生成を行うときはピーク検出を省略して、記憶しておいた包絡線に基づいて光音響信号の補正を行うようにしてもよい。
【0058】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の光音響画像生成装置及び方法は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10:光音響画像生成装置(光音響画像診断装置)
11:プローブ
12:超音波ユニット
13:レーザユニット
14:画像表示手段
21:受信回路
22:AD変換手段
23:受信メモリ
24:画像再構成手段
25:ピーク検出手段
26:ピーク補正手段
25:検波・対数変換手段
28:画像構築手段
29:トリガ制御回路
30:制御手段
33:送信制御回路
34:データ分離手段
35:超音波画像再構成手段
36:検波・対数変換手段
37:超音波画像構築手段
38:画像合成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に照射すべき光を出射する光源ユニットと、
前記光源ユニットから出射した光が被検体に照射された後に、被検体内で発生した光音響信号を検出する超音波プローブと、
前記検出された光音響信号から2以上のピーク位置を検出するピーク検出手段と、
前記検出された2以上のピーク位置における光音響信号の大きさが同じ大きさとなるように前記光音響信号を補正するピーク補正手段と、
前記補正された光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成手段とを備えたことを特徴とする光音響画像生成装置。
【請求項2】
前記ピーク検出手段が、前記光音響信号の時間微分が0になる時刻をピーク位置として検出するものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響画像生成装置。
【請求項3】
前記ピーク補正手段が、前記検出されたピーク位置に対応する時刻を含む所定時間範囲の光音響信号を補正するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響画像生成装置。
【請求項4】
前記ピーク検出手段が、前記検出したピーク位置の前後で、各ピークの信号波形に対応した期間を求めるものであり、前記ピーク補正手段が、前記求められた各ピークの信号波形に対応した期間内の光音響信号を補正するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響画像生成装置。
【請求項5】
前記ピーク補正手段が、各ピーク位置における光音響信号が所定の大きさとなるように前記光音響信号を補正するものであることを特徴とする請求項1から4何れかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項6】
前記ピーク補正手段が、各ピーク位置における光音響信号に、各ピーク位置における光音響信号の大きさと前記所定の大きさとの比に応じた係数を乗じることで前記光音響信号を補正するものであることを特徴とする請求項5に記載の光音響画像生成装置。
【請求項7】
前記所定の大きさが、各ピーク位置における光音響信号のうちの最大値と等しいことを特徴とする請求項5又は6に記載の光音響画像生成装置。
【請求項8】
前記ピーク補正手段が、前記検出された2以上のピーク位置を結ぶ光音響信号の包絡線に基づく係数を前記光音響信号に乗じることで前記光音響信号を補正するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響画像生成装置。
【請求項9】
前記ピーク補正手段が、各時刻における光音響信号に、前記包絡線の逆数に応じた係数を乗じるものであることを特徴とする請求項8に記載の光音響画像生成装置。
【請求項10】
前記光音響画像生成手段が、補正後の光音響信号が所定のしきい値以上の位置に対応する部分を画像化するものであることを特徴とする請求項1から9何れかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項11】
前記光音響画像生成手段が、前記補正前後の光音響信号の変化が所定のしきい値以上の部分と、前記変化がしきい値よりも小さい部分とが区別可能な態様で光音響画像を生成するものであることを特徴とする請求項1から10何れかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項12】
前記光音響画像生成手段が、少なくとも前記変化が所定のしきい値以上の部分について、前記ピーク補正手段による補正が行われていない光音響信号に基づいて光音響画像を更に生成し、前記補正が行われた光音響信号に基づく光音響画像と、前記補正が行われていない光音響信号に基づく光音響画像とを重畳するものであることを特徴とする請求項1から11何れかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項13】
前記超音波プローブが更に前記被検体に対して超音波の送信を行い、該送信した超音波に対する反射超音波を検出し、
前記検出された反射超音波に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段と、
前記光音響画像と前記超音波画像とを合成する画像合成手段とを更に備えることを特徴とする請求項1から12何れかに光音響画像生成装置。
【請求項14】
前記画像合成手段が、前記光音響画像と超音波画像とを重畳することで画像合成を行うものであることを特徴とする請求項13に記載の光音響画像生成装置。
【請求項15】
光源ユニットからの光を被検体に照射するステップと、
前記照射された光に起因して被検体内で発生した光音響信号を検出するステップと、
前記検出された光音響信号から2以上のピークを検出するステップと、
前記検出された2以上のピークの大きさが同じ大きさとなるように前記光音響信号を補正するステップと、
前記補正された光音響信号に基づいて光音響画像を生成するステップとを有することを特徴とする光音響画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−52115(P2013−52115A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192365(P2011−192365)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】