免疫蛋白質の産生促進剤
【課題】免疫グロブリンおよび/またはサイトカインなどの免疫蛋白質の産生を促進可能な新規な免疫蛋白質産生促進剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンを含有する。
【解決手段】本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンを含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫蛋白質の産生促進剤に関し、詳細には、IgA抗体、IgG抗体、IgM抗体、IgD抗体、およびIgE抗体の免疫グロブリン;インターロイキン(IL−1〜18など)、インターフェロン(IFN−α,β,γなど)、腫瘍壊死因子(TNF,NFαなど)、コロニー刺激因子(G−CSF,M−CSF,EPO,SCFなど)、成長因子(EGF,FGF,IGF,NGF,PDGF,TGFなど)などのサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)の免疫蛋白質の産生を促進することが可能な免疫蛋白質の産生促進剤に関するものである。以下では説明の便宜上、免疫グロブリンを中心に説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)は、通常抗体と呼ばれる複合蛋白質であり、ヒトにおいてはIgA、IgG、IgM,IgD、IgEの5種類がある。免疫グロブリンは、体内に入った細菌などを破壊する作用、好中球の食細胞を補助する作用、細菌が産生した毒素を中和する作用を有する他、抗生物質の治療効果を高めて人体を感染から守る役割を果たすなど、免疫のなかで大きな役割を担っており、体内診断薬、治療薬等の医薬分野への応用が強く期待されている。
【0003】
免疫グロブリンは、通常、ヒトリンパ球や、ヒト型親細胞と癌患者のリンパ球とを融合させて得られるヒト型ハイブリドーマ細胞などのヒトリンパ球類から産生されるが、その産生効率は極めて低いという問題がある。そこで、免疫グロブリンの産生能を高めるための研究が行なわれている。
【0004】
本発明者らは、免疫賦活活性を有する生体機能調節因子の研究を長年の間、行なっており、例えば、クラゲのコラーゲン抽出物質が免疫賦活作用を有することを知見して、コラーゲンの存在下でヒトリンパ球類を培養して免疫蛋白質を製造する方法(特許文献1)や、放射線処理したコラーゲンなどの存在下で白血球やリンパ球ハイブリドーマを培養して免疫蛋白質を製造する方法(特許文献2)を開示している。また、特許文献3には、複数種の乳製品と酵母を共生培養して得られる発酵乳が、IgM産生促進作用やIFN−γ産生促進作用を有する生理活性ペプチドを含有することを開示している。更に、特許文献4には、魚類の卵の破砕液を抽出して得られた化合物が免疫調整作用を有することを開示している。
【0005】
一方、特許文献5には、搾汁した温州ミカン果汁を遠心分離して得た上澄み液に所定の処理を施した抽出物が、ヒト型ハイブリドーマ細胞の抗体産生を有することが開示されている。この方法によって得られる抽出物は、分子量が少なくとも1万以上のタンパク質であると推察され、産生効率が低いという問題がある。
【0006】
ところで、柑橘類の果皮などは、古くから漢方の原料として使用されている。例えば、温州みかんなどに多く含まれるβ−カロテノイド類のβ−クリプトキサンチンや、夏みかんなどに含まれるクマリン系化合物のオーラプテンは、悪性腫瘍抑制作用を有することが報告され、注目されている。
【0007】
このうち、オーラプテンについて、上記のほか、抗菌作用も知られている。また、例えば、特許文献6にエプスタインバーウイルス早期抗原誘導抑制作用を有することが開示され、特許文献7にメタボリックシンドローム改善作用を有することが開示されているが、オーラプテンが、免疫グロブリンやサイトカインなどの免疫蛋白質の産生促進能を有することは、全く開示されていない。
【0008】
また、β−クリプトキサンチンは、α−カロテン、β−カロテン、リコペン、ゼアキサンチン、ルテインと共にヒト血液中に存在する6種類のカロテノイド類の一つであり、糖尿病、リウマチに関する疾病リスク低減作用、発がん予防作用、骨粗鬆症予防作用などが見出されている。また、特許文献8には、その特許請求の範囲にクリプトキサンチンなど多くの成分を含む免疫賦活剤が記載されている。しかし、特許文献8の実施例の欄には、クリプトキサンチンを用いた例は全く開示されておらず、そもそも特許文献8は、紫外線による皮膚の免疫機能低下を外用により防止するための皮膚免疫賦活剤およびこれを含有するクリームや乳液などの皮膚外用剤に関するものであり、免疫グロブリンやサイトカインなどの免疫蛋白質の産生能向上は全く意図していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−204248号公報
【特許文献2】特開2008−212026号公報
【特許文献3】特開2006−76961号公報
【特許文献4】特開2007−91654号公報
【特許文献5】特開平6−98763号公報
【特許文献6】特開平9−157166号公報
【特許文献7】国際公開第2006/077972号パンフレット
【特許文献8】特開平11−246396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、免疫グロブリンやサイトカインなどに代表される免疫蛋白質の産生を促進させる新規な免疫蛋白質産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し得た本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンを含有するところに要旨を有するものである。
【0012】
好ましい実施形態において、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、免疫グロブリンおよび/またはサイトカインの産生を促進するものであり、特にIgA、IgG、IgMの免疫グロブリン;インターフェロン−γ、インターロイキン4、腫瘍壊死因子TNF−αなどのサイトカインの産生促進に極めて有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特にIgA、IgG、IgMなどの免疫グロブリンや;インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子などのサイトカインの産生能が著しく向上するため、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、免疫蛋白質を用いた種々の医療用途に好適に用いられる。具体的には、例えば、免疫グロブリンやサイトカインを原料とする免疫グロブリン製剤、免疫疾患治療薬、免疫機能薬、免疫促進効果を有する健康食品(機能性食品)・サプリメント、健康維持を目的とした飲料、魚類用機能性飼料、家畜・家禽用機能性飼料などの用途に好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、オーラプテンがヒトハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】図2は、オーラプテンがヒトハイブリドーマHB4C5細胞のIgM遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、IgM−mRNA発現に及ぼす影響を示している。
【図3】図3は、オーラプテンがマウス脾臓細胞の抗体産生に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgAの産生に及ぼす影響を、(b)はIgGの産生に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図4】図4は、オーラプテンがマウス脾臓細胞の抗体遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgA−mRNA発現に及ぼす影響を、(b)はIgM−mRNA発現に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図5A】図5Aは、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgAの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5B】図5Bは、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgGの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5C】図5Cは、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgMの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図6】図6は、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球の免疫蛋白質の遺伝子転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgA−mRNA発現に及ぼす影響を、(b)はIFN−γ−mRNA発現に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図7】図7は、β−クリプトキサンチンがヒトハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図8】図8は、β−クリプトキサンチンがマウス脾臓細胞の抗体(IgAおよびIgG)の産生に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgAの産生に及ぼす影響を、(b)はIgGの産生に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図9】図9は、β−クリプトキサンチンがマウス脾臓細胞の抗体遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgA−mRNA発現に及ぼす影響を、(b)はIgM−mRNA発現に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図10A】図10Aは、β−クリプトキサンチンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgAの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図10B】図10Bは、β−クリプトキサンチンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgGの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図10C】図10Cは、β−クリプトキサンチンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgMの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図11】図11は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、血中の抗体産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【図12】図12は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、脾臓細胞の抗体産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【図13】図13は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、脾臓細胞のサイトカイン産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【図14】図14は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、腸間膜リンパ節リンパ球の抗体産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、新規な免疫蛋白質の産生促進剤を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンが、免疫蛋白質の産生促進作用を有することを見出し、本発明を完成した。詳細には、これらの成分が、HB4C5細胞[ヒト骨髄腫細胞株とリンパ球(B細胞)とを細胞融合させたものであり、IgM産生能を有する]の抗体産生に及ぼす影響を検討した結果、いずれの成分も、HB4C5細胞のIgM産生を促進することが判明した。更に、これらの成分は、マウス脾臓リンパ球のIgG及びIgAの産生を促進すると共に、マウス腸間膜リンパ球のIgG、IgA、及びIgMの産生を促進した。更に、抗体の遺伝子発現に及ぼす影響を検討した結果、これらの成分は転写段階で上方制御していることが明らかとなった。従って、これら成分による免疫蛋白質産生促進作用は、転写促進によるタンパク質性合成系の活性化によるものであることが強く示唆された。更に、これら成分による上記の免疫蛋白質産生促進作用は、生体外(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても見られることが確認された。
【0016】
本明細書において、免疫蛋白質とは、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体およびIgM抗体などの免疫グロブリン;インターロイキン(IL−1〜18など)、インターフェロン(IFN−α,β,γなど)、腫瘍壊死因子(TNF,TNFαなど)、コロニー刺激因子(G−CSF,M−CSF,EPO,SCFなど)、成長因子(EGF,FGF,IGF,NGF,PDGF,TGFなど)などのサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)を意味する。
【0017】
本明細書において、「免疫蛋白質産生促進作用を有する」とは、免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞(以下、「免疫蛋白質産生細胞」と呼ぶ。詳細は後述する。)数の増加、または免疫蛋白質産生細胞における免疫グロブリンやサイトカインなどの産生量の増加を意味する。
【0018】
以下、各成分について詳しく説明する。
【0019】
(オーラプテン)
オーラプテン(auraptene)は、下記の構造式で表わされるクマリン類の一種である。前述したように、オーラプテンは、抗ガン活性などの生理活性を有することは報告されているが、免疫蛋白質の産生促進作用については報告されていない。
【0020】
【化1】
【0021】
オーラプテンは、柑橘類の果皮に多く含まれており、果肉には殆ど含まれていない。柑橘類としては、例えば、夏みかん、甘夏、イヨカン、温州ミカン、はっさく、夏ダイダイ、ネーブル、柚子、かぼす、グレープフルーツ、すだち、レモン、ポンカン、キンカン、シークワーサーなどのミカン科植物が挙げられる。オーラプテンは、特にイヨカン、甘夏、ネーブルなどの晩柑類に豊富に含まれる。オーラプテンによる高い免疫蛋白質産生促進作用を得るためには、このうち特に、温州ミカン、夏みかん、甘夏を使用することが好ましく、より好ましくは甘夏である。
【0022】
本発明に用いられるオーラプテンは、柑橘類の果皮を原料とし、公知の方法で抽出することができる。柑橘類の果皮は、予め凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕してから、抽出を行なうことが好ましい。具体的には、エタノール、メタノール、ヘキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を用いて抽出すれば良い。オーラプテンを効率よく抽出するためには、特に、抽出時間に留意することが好ましく、おおむね、室温で6時間以上に制御することが好ましい。
【0023】
あるいは、オーラプテンは、本発明者の一人によって発明された独自のパウダー製造方法(特開2009−17822号公報)から得ることもできる。
【0024】
あるいは、オーラプテンは市販品を用いることもできる(例えば、和光純薬工業株式会社製)。
【0025】
(β−クリプトキサンチン)
β−クリプトキサンチンは、下記の構造式で表わされるカロテノイド類の一種である。前述したように、β−クリプトキサンチンは、発ガン抑制作用などの生理活性を有することは報告されているが、免疫蛋白質の産生促進作用については報告されていない。
【0026】
【化2】
【0027】
β−クリプトキサンチンは、柑橘類の果肉に多く含まれているが、温州ミカンでは、果肉よりも果皮に多く含まれているといわれている。柑橘類としては、前述したオーラプテンの欄で説明した上記柑橘類と同じものを例示することができる。β−クリプトキサンチンによる高い免疫蛋白質産生促進作用を得るためには、このうち特に、温州ミカン、夏みかん、イヨカン、ポンカン、キンカン、シークワーサーを使用することが好ましく、より好ましくは温州ミカンである。
【0028】
本発明に用いられるβ−クリプトキサンチンは、柑橘類の果肉を原料とし、公知の方法で抽出することができる。柑橘類の果肉は、予め凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕してから、抽出を行なうことが好ましい。具体的には、エタノール、メタノール、ヘキサン、酢酸エチル等を用いて抽出すれば良い。β−クリプトキサンチンを効率よく抽出するためには、特に、抽出時間に留意することが好ましく、例えば、室温で6時間以上に制御することが好ましい。
【0029】
あるいは、β−クリプトキサンチンは、本発明者の一人によって発明された独自のパウダー製造方法(特開2009−17822号公報)から得ることもできる。
【0030】
あるいは、温州ミカンを用いる場合は、上述したように果肉のほか果皮中にも多く含まれていることから、以下のようにして抽出することが好ましい。果皮等を凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕し、有機溶媒を用いて抽出することが好ましく、用いる有機溶媒としては、エタノール、メタノールなどのアルコール系有機溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式脂肪族炭化水素類を挙げることができる。これらの中でも、エタノール、メタノール、n−ヘキサン、酢酸エチルから選ばれることが好ましく、より好ましくはエタノールを用いる。
【0031】
あるいは、β−クリプトキサンチンは市販品を用いることもできる(例えば、和光純薬工業株式会社)。
【0032】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、上記のオーラプテンおよび/またはβ−クリプトキサンチンを含んでおり、これらは単独で含有しても良いし、両方を併用しても良い。
【0033】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、これらの成分のみから構成されていても良いし、医薬などに通常用いられる公知の担体を組み合わせて用いることもできる。具体的には、製剤学的に許容される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤、希釈剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などの担体が挙げられる。また、食品分野で慣用されている各種の栄養源、例えば糖質、脂質、蛋白質素材などを添加しても良い。更に、必要に応じて、他の医薬品と併用しても良い。
【0034】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の形態は特に限定されず、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤(懸濁剤、乳剤、注射剤など)、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、軟膏剤などが挙げられる。これら各形態への調製は、上述した慣用の担体を用い、常法に従って行なうことができる。
【0035】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の投与形態は、その製剤形態に応じて適切に選択すれば良い。例えば錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤などの場合は経口投与の形態で用いられ、注射剤などの場合は静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与などの形態で用いられ、坐剤の場合は直腸内投与の形態で用いられる。
【0036】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の投与量は、一律に限定されず、被験者の年齢、性別、疾患の程度などに応じ、所望の効果が発揮されるように適宜調整すれば良い。
【0037】
また、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、家畜・家禽、魚類などの非ヒト動物用の飼料の形態で用いても良く、これにより、非ヒト動物の免疫蛋白質産生能が促進される。具体的には、例えば、非ヒト動物用の飼料中に本発明の免疫蛋白質産生促進剤を、非ヒト動物の症状などに応じ、適切な量だけ配合すれば良い。用いられる非ヒト動物用の飼料の組成は限定されず、例えば、市販品を用いることもできる。また、対象となる非ヒト動物も限定されず、例えば、豚、牛、馬、ヤギ、ウサギ、羊などの家畜類;鶏、ウズラ、七面鳥、アヒル、ガチョウなどの家禽類;タイ、ハマチ、マグロ、コイ、エビ、アユ、ヒラメなどの魚類などが代表的に例示される。
【0038】
次に、in vitroにおいて、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤を用い、免疫グロブリンやサイトカインに代表される免疫蛋白質の産生を促進する方法について説明する。本発明では、免疫蛋白質産生促進剤であるオーラプテンおよび/またはβ−クリプトキサンチンの存在下で、免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞(以下、「免疫蛋白質産生細胞」と呼ぶ。)を培養すれば、免疫蛋白質の産生促進剤を添加せずに培養した場合に比べ、上記免疫蛋白質産生細胞中の免疫グロブリンやサイトカインなどの産生が著しく向上する(後記する実施例を参照)。
【0039】
本明細書において、「免疫蛋白質産生細胞」とは、好ましくは免疫グロブリンやサイトカインの免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞であり、例えば、リンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞)やマクロファージなどの白血球;上記リンパ球(特にB細胞)と自立増殖能を有する多発性骨髄腫やリンパ腫などのミエローマ細胞との融合細胞(リンパ球ハイブリドーマ)などが代表的に例示される。後者のリンパ球ハイブリドーマは、例えばセンダイウイルスを用いた細胞融合法、ポリエチレングリコール法、または電気パルスによる電気融合など、慣用方法に従って調製することができる。好ましいリンパ球ハイブリドーマとしては、後記する実施例で用いた、ヒト骨髄腫細胞株とリンパ球(B細胞)とを細胞融合させたヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞が挙げられる。HB4C5細胞を使用すると、当該細胞から分泌されるIgMを指標として、免疫蛋白質産生能を容易に測定することができる。
【0040】
これらの白血球またはリンパ球ハイブリドーマは、単一種類のものに限定されず、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、これらの白血球およびリンパ球ハイブリドーマの由来は特に制限されないが、本発明ではヒト由来の免疫蛋白質の産生を促進するという観点から、好ましくはヒト由来である。
【0041】
本発明では、これらの白血球またはリンパ球ハイブリドーマに代表される免疫蛋白質産生細胞を、オーラプテンやβ−クリプトキサンチンを含有する培地中で培養する。
【0042】
ここで、上記の培地は、上記の免疫蛋白質産生細胞の培養に通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、EagleのMEM培地、McCoyの5A培地または7A培地、HamのF10培地またはF12培地、199培地、EDRF培地、RPMI1640培地などや、これらの改良型培地などが挙げられる。これらの培地は、市販品を用いることができる。
【0043】
本発明では、本発明による作用を損なわない限り、上記の培地中に、ウシ血清等の血清を添加しても良い。ただし、血清成分による免疫蛋白質の産生を促進するという観点からは、血清を添加しない無血清培地の使用が好ましい。
【0044】
本発明で使用する上記培地には、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム等の各種添加剤を適宜添加することもできる。例えば、EDRF培地に、上記のインスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、及び亜セレン酸ナトリウム(以下、ITESと呼ぶ場合がある。)を添加すると、血清の影響を受けずに活性を測定できるという利点があることから、後記するハイブリドーマを用いた培養実験では、上記のITESを所定の濃度で添加したEDRF培地(ITES−EDRF培地)を使用している。
【0045】
培地中に添加する免疫蛋白質の産生促進剤(オーラプテンおよび/またはβ−クリプトキサンチン)の量は、前述したように、所望の効果を発揮することができる程度に適宜調整すれば良いが、例えば、培養する白血球またはリンパ球ハイブリドーマの量が培地1mLあたり1×104〜5×105cellsである場合、オーラプテンを、培地1mLあたり、おおむね、0.1〜10,000ng/mL、好ましくは10〜5,000ng/mL、より好ましくは10〜1,000ng/mLの範囲で添加することが望ましい。同様に、β−クリプトキサンは、培地1mLあたり、おおむね、0.1〜10,000ng/mL、好ましくは10〜5,000ng/mL、より好ましくは10〜1,000ng/mLの範囲で添加することが望ましい。
【0046】
培養時の温度は、免疫蛋白質を産生できる温度であれば特に制限されず、おおむね、30〜45℃の範囲である。好ましくは35〜42℃であり、より好ましくは36〜38℃である。また、湿度も特に制限されず、相対湿度は、おおむね、80〜100%の範囲であり、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%である。
【0047】
また、培養に当たり、炭酸ガスを1〜10体積%程度の割合で含む空気の雰囲気下で培養することが好ましい。炭酸ガスの好ましい濃度は、おおむね、3〜8体積%の範囲である。
【0048】
培養時間は、上記免疫蛋白質の産生促進剤の免疫グロブリン産生効率によっても相違するが、おおむね、5時間〜2週間の範囲である。
【0049】
このようにして培地中に免疫蛋白質を効率よく産生した後は、定法に従い、培地から固液分離して免疫蛋白質を単離し、必要に応じてアフィニティクロマトグラフィー等の液体クロマトグラフ法等を用いて精製することにより、所望の免疫蛋白質を取得することができる。
【0050】
このようにして得られる免疫蛋白質、好ましくは前述する免疫グロブリンやサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)、より好ましくは免疫グロブリンは、例えば、免疫疾患治療薬、免疫機能検査薬の有効成分として広く用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
実施例1
本実施例では、オーラプテンが、IgMを産生するヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を検討した。
【0053】
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−ERDF培地(極東製薬社製)を用意し、これに、オーラプテン(和光純薬工業株式会社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して図1に示すように39.1〜2500ng/mLの濃度に調整したものを添加すると共に、HB4C5細胞を5×104cells/mLの濃度で接種し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて6時間培養した。培養後、培地中に生成した免疫グロブリン(IgM)の量を、抗ヒトIgMおよびペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgMを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0054】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgMの産生量を測定した。
【0055】
これらの結果を図1に示す。
【0056】
図1より、オーラプテンの添加によってIgMは、ほぼ濃度依存的に増加し、オーラプテンを625〜2500ng/mLの濃度で添加すると、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べ、HB4C5細胞のIgM産生量が1.9倍以上に促進された。
【0057】
実施例2
本実施例では、オーラプテンで刺激したHB4C5細胞内において、IgMをコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0058】
詳細には、DMSOに溶解した500ng/mL及び2000ng/mLのオーラプテンで刺激したHB4C5細胞からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgMに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:CTCCCAAAGTGAGCGTCTTC、リバース:CAGCCAGGACACCTGAATCTである。本実施例では、GAPDH遺伝子を内部標準物質として用いた。リアルタイムPCRには、ステップワンプラス リアルタイムPCR装置(アプライドバ
イオサイエンス社製)を用いた。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0059】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現
量を解析した。
【0060】
これらの結果を図2に示す。
【0061】
図2より、オーラプテンの刺激によりHB4C5細胞のIgM−mRNAの転写活性は促進されることが分かった。この実験結果より、オーラプテンによるIgM産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0062】
実施例3
本実施例では、培養系(in vitro)において、オーラプテンがマウス脾臓リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0063】
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−RPMI 1640培地(SIGMA社製)を用意し、これに、オーラプテン(和光純薬工業株式会社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して図3に示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した脾臓から脾臓リンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgAおよびIgG)の量を、抗マウスIgAおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgA、並びに抗マウスIgGおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0064】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgAおよびIgGの産生量を測定した。
【0065】
IgAの結果を図3(a)に、IgGの結果を図3(b)に示す。
【0066】
図3より、オーラプテンの添加により、マウス脾臓リンパ球のIgAおよびIgGの産生は、ほぼ濃度依存的に促進された。詳細には、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは625ng/mLの添加で約2.3倍に増加し、IgGは約160ng/mLの添加で約3.2倍にまで増加した。
【0067】
実施例4
本実施例では、オーラプテンで刺激したマウス脾臓リンパ球内において、IgAおよびIgMをコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0068】
詳細には、DMSOに溶解した500ng/mLのオーラプテンで刺激した6週齢雌性BALB/cマウス脾臓リンパ球からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgAに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:TGCACAGCTTTCTTCTGCAC、リバース:TGCCAGCCTCACATGTACTC、IgMに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:GGGGCACTGGTCACATACTT、リバース:CAGCTCGTGAGCAACTGAACである。本実施例では、βアクチン遺伝子を内部標準物質として用いた。リアルタイムPCRには、ステップワンプラスリアルタイムPCR装置(アプライドバイオサイエンス社製)を用いた。
【0069】
同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0070】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現量を解析した。
【0071】
IgA−mRNAの結果を図4(a)に、IgM−mRNAの結果を図4(b)に示す。
【0072】
図4(a)および図4(b)より、オーラプテンの刺激により、脾臓リンパ球のIgA−mRNAおよびIgM−mRNAの転写活性は、約1.5倍程度促進されることが分かった。この実験結果より、オーラプテンによるIgAおよびIgMの産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0073】
実施例5
本実施例では、培養系(in vitro)において、オーラプテンがマウス腸管膜リンパ節リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0074】
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−RPMI 1640培地(SIGMA社製)を用意し、これに、オーラプテン(和光純薬社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して図5A〜図5Cに示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した腸間膜リンパ節からリンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、およびIgM)の量を、抗マウスIgAおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgA、抗マウスIgGおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG、並びに抗マウスIgMおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgMを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0075】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgA、IgG、およびIgMの産生量を測定した。
【0076】
IgAの結果を図5Aに、IgGの結果を図5Bに、IgMの結果を図5Cに、それぞれ示す。
【0077】
図5A〜図5Cより、オーラプテンの添加により、マウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgA、IgG、およびIgMの産生は促進されることが分かった。詳細には、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは625ng/mLの添加で約1.8倍に増加し、IgGは39.0ng/mLの添加で2.7倍に増加し、IgMは39.0ng/mL以上の添加で2.1倍に増加した。
【0078】
実施例6
本実施例では、オーラプテンで刺激したマウス腸間膜リンパ節リンパ球内において、IgAおよびインターフェロンγ(IFN−γ)をコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0079】
詳細には、DMSOに溶解した156ng/mLまたは625ng/mLのオーラプテンで刺激した6週齢雌性BALB/cマウス腸間膜リンパ節リンパ球からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgAに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:TGCACAGCTTTCTTCTGCAC、リバース:TGCCAGCCTCACATGTACTC、IFN−γに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:CGGCACAGTCATTGAAAGCCTA、リバース:GTTGCTGATGGCCTGATTGTCである。本実施例では、βアクチン遺伝子を内部標準物質として用いた。リアルタイムPCRには、ステップワンプラス リアルタイムPCR装置(アプライドバイオサイエンス社製)を用いた。
【0080】
同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0081】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現量を解析した。
【0082】
IgA−mRNAの結果を図6(a)に、IFN−γ−mRNAの結果を図6(b)に、それぞれ示す。
【0083】
図6(a)および図6(b)より、オーラプテンの刺激により、腸管リンパ節リンパ球のIgA−mRNAおよびIFN−γ−mRNAの転写活性は、濃度依存的に増加していることが分かる。これらの実験結果より、オーラプテンによるIgAおよびIFN−γの産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0084】
実施例7
本実施例では、β−クリプトキサンチンが、IgMを産生するヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を検討した。
【0085】
詳細には、前述した実施例1に用いたITES−ERDF培地を用意し、これに、β−クリプトキサンチン(和光純薬工業株式会社製)をDMSOに溶解して図7に示すように32〜4000ng/mLの濃度に調整したものを添加すると共に、HB4C5細胞を5×104cells/mLの濃度で接種し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて6時間培養した。培養後、培地中に生成した免疫グロブリン(IgM)の量を、実施例1と同様にして測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0086】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgMの
産生量を測定した。
【0087】
これらの結果を図7に示す。
【0088】
図7より、β−クリプトキサンチンの添加によってIgMは、ほぼ濃度依存的に増加し、最大濃度(4000ng/mL)では、β−クリプトキサンチンを添加しないコントロール群に比べ、HB4C5細胞のIgM産生量が1.6倍に促進された。
【0089】
実施例8
本実施例では、培養系(in vitro)において、β−クリプトキサンチンがマウス脾臓リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0090】
詳細には、前述した実施例3で用いたITES−RPMI 1640培地を用意し、これに、β−クリプトキサンチンをDMSOに溶解して図8(a)または図8(b)に示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した脾臓から脾臓リンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgAおよびIgG)の量を、実施例3と同様にして測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0091】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgAおよびIgGの産生量を測定した。
【0092】
IgAの結果を図8(a)に、IgGの結果を図8(b)に示す。
【0093】
図8より、β−クリプトキサンチンの添加により、マウス脾臓リンパ球のIgAおよびIgGの産生は、ほぼ濃度依存的に促進された。詳細には、β−クリプトキサンチンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは2500ng/mLの添加で2.5倍に増加し、IgGは2500ng/mLの添加で約3.7倍にまで増加した。
【0094】
実施例9
本実施例では、β−クリプトキサンチンで刺激したマウス脾臓リンパ球内において、IgAおよびIgMをコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0095】
詳細には、DMSOに溶解した500ng/mLのβ−クリプトキサンチンで刺激したBALB/cマウス脾臓リンパ球からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgAおよびIgMに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列、並びに内部標準物質は、実施例4と同じである。
【0096】
同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0097】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現量を解析した。
【0098】
IgA−mRNAの結果を図9(a)に、IgM−mRNAの結果を図9(b)に、それぞれ示す。
【0099】
図9(a)および図9(b)より、β−クリプトキサンチンの刺激により、脾臓リンパ球のIgA−mRNAおよびIgM−mRNAの転写活性は、いずれも約2倍程度促進されることが分かった。この実験結果より、β−クリプトキサンチンによるIgAおよびIgMの産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0100】
実施例10
本実施例では、培養系(in vitro)において、β−クリプトキサンチンがマウス腸管膜リンパ節リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0101】
詳細には、前述した実施例5に用いたITES−RPMI 1640培地を用意し、これに、β−クリプトキサンチンをDMSOに溶解して図10A〜図10Cに示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した腸間膜リンパ節からリンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、およびIgM)の量を、実施例5と同様にして測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0102】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgA、IgG、およびIgMの産生量を測定した。
【0103】
IgAの結果を図10Aに、IgGの結果を図10Bに、IgMの結果を図10Cに、それぞれ示す。
【0104】
図10A〜図10Cより、β−クリプトキサンチンの添加により、マウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgA、IgG、およびIgMの産生は促進されることが分かった。詳細には、β−クリプトキサンチンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは625ng/mLの添加で約2.1倍に増加し、IgGは156ng/mLの添加で約1.7倍に増加し、IgMは625ng/mLの添加で約1.4倍に増加した。
【0105】
実施例11
本実施例では、生体内(in vivo)における、オーラプテンによる免疫蛋白質の産生促進効果を調べた。
【0106】
詳細には、オーラプテン(和光純薬工業株式会社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して200mg/mLの濃度に調整したものを用意した。次に、雌性BALB/cマウス(約6週齢)を5匹/群に分け、各マウスに対し、下記要領でオーラプテンを14日間経口投与した。
(A)高容量投与群(上記濃度のオーラプテンを1mL/kg/日投与、すなわち200mg/kg/日投与)
(B)低容量投与群(上記濃度のオーラプテン溶液をDMSOで5倍希釈し、濃度を40mg/mLに調整した溶液を1mL/kg/日投与、すなわち40mg/kg/日)
(C)コントロール群(DMSOのみ1mL/kg/日投与)
【0107】
14日間の経口投与終了後、マウスを屠殺し、血清、脾臓細胞、および腸間膜リンパ節を採取した。そして血清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)の量を、前述した実施例5と同様にして測定した。また、脾臓細胞から脾臓リンパ球を採取し、前述した実施例3に記載の培地に添加し、実施例3と同様にして培養後の上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)の量を測定した。また、腸間膜リンパ節については、腸間膜リンパ節からリンパ球を採取し、前述した実施例5に記載の培地に添加し、実施例5と同様にして培養後の上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)の量を測定した。これらの結果を図11〜12、14に示す。
【0108】
更に、上記の脾臓細胞から脾臓リンパ球を採取し、酵素抗体法により、サイトカイン[詳細にはインターフェロンγ(INF−γ)、インターロイキン4(IL−4)、腫瘍壊死因子TNF−α]の各量を測定した。これらの結果を図13に示す。
【0109】
図11より、オーラプテンの添加により、血清中の各抗体量は増加する傾向が見られた。特に低容量投与群のIgA産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。なお、いずれの抗体についても、高容量投与群に比べて低容量投与群の方が、概して、抗体産生量が高くなる傾向が見られたが、これは、生体内における至適濃度が存在するためと考察される。
【0110】
また、図12〜14より、オーラプテンの添加により、血清中の各抗体量の上昇に加え、脾臓や腸間膜リンパ節リンパ球に存在する免疫蛋白質の産生も上昇することが分かった。
【0111】
詳細には脾臓細胞中の各抗体産生量の結果は図12に示すとおりであり、低容量投与群のIgA産生量、低容量投与群および高容量投与群のIgG産生量、並びに高容量投与群のIgM産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。
【0112】
また、脾臓細胞中の各サイトカインの産生量の結果は図13に示すとおりであり、IFN−γ、IL−4、TNF−αのいずれのサイトカインについても、高容量投与群の産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。
【0113】
また、腸間膜リンパ節リンパ球中の各抗体産生量の結果は図14に示すとおりであり、低容量投与群のIgA産生量、低容量投与群および高容量投与群のIgG産生量、並びに低容量投与群のIgM産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。
【0114】
以上の実験結果より、オーラプテンは、生体外(in vitro)のみならず生体内(in vivo)でも免疫蛋白質の産生促進効果を有することが確認された。なお、本実施例では、β−クリプトキサンチンによる生体内での作用を示していないが、オーラプテンとβ−クリプトキサンチンは、生体外での作用がほぼ同様であり、また、本実施例によりオーラプテンによる生体内での作用が実証されたため、β−クリプトキサンチンについても、同様の生体内作用を奏することは十分に推察される。
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫蛋白質の産生促進剤に関し、詳細には、IgA抗体、IgG抗体、IgM抗体、IgD抗体、およびIgE抗体の免疫グロブリン;インターロイキン(IL−1〜18など)、インターフェロン(IFN−α,β,γなど)、腫瘍壊死因子(TNF,NFαなど)、コロニー刺激因子(G−CSF,M−CSF,EPO,SCFなど)、成長因子(EGF,FGF,IGF,NGF,PDGF,TGFなど)などのサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)の免疫蛋白質の産生を促進することが可能な免疫蛋白質の産生促進剤に関するものである。以下では説明の便宜上、免疫グロブリンを中心に説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)は、通常抗体と呼ばれる複合蛋白質であり、ヒトにおいてはIgA、IgG、IgM,IgD、IgEの5種類がある。免疫グロブリンは、体内に入った細菌などを破壊する作用、好中球の食細胞を補助する作用、細菌が産生した毒素を中和する作用を有する他、抗生物質の治療効果を高めて人体を感染から守る役割を果たすなど、免疫のなかで大きな役割を担っており、体内診断薬、治療薬等の医薬分野への応用が強く期待されている。
【0003】
免疫グロブリンは、通常、ヒトリンパ球や、ヒト型親細胞と癌患者のリンパ球とを融合させて得られるヒト型ハイブリドーマ細胞などのヒトリンパ球類から産生されるが、その産生効率は極めて低いという問題がある。そこで、免疫グロブリンの産生能を高めるための研究が行なわれている。
【0004】
本発明者らは、免疫賦活活性を有する生体機能調節因子の研究を長年の間、行なっており、例えば、クラゲのコラーゲン抽出物質が免疫賦活作用を有することを知見して、コラーゲンの存在下でヒトリンパ球類を培養して免疫蛋白質を製造する方法(特許文献1)や、放射線処理したコラーゲンなどの存在下で白血球やリンパ球ハイブリドーマを培養して免疫蛋白質を製造する方法(特許文献2)を開示している。また、特許文献3には、複数種の乳製品と酵母を共生培養して得られる発酵乳が、IgM産生促進作用やIFN−γ産生促進作用を有する生理活性ペプチドを含有することを開示している。更に、特許文献4には、魚類の卵の破砕液を抽出して得られた化合物が免疫調整作用を有することを開示している。
【0005】
一方、特許文献5には、搾汁した温州ミカン果汁を遠心分離して得た上澄み液に所定の処理を施した抽出物が、ヒト型ハイブリドーマ細胞の抗体産生を有することが開示されている。この方法によって得られる抽出物は、分子量が少なくとも1万以上のタンパク質であると推察され、産生効率が低いという問題がある。
【0006】
ところで、柑橘類の果皮などは、古くから漢方の原料として使用されている。例えば、温州みかんなどに多く含まれるβ−カロテノイド類のβ−クリプトキサンチンや、夏みかんなどに含まれるクマリン系化合物のオーラプテンは、悪性腫瘍抑制作用を有することが報告され、注目されている。
【0007】
このうち、オーラプテンについて、上記のほか、抗菌作用も知られている。また、例えば、特許文献6にエプスタインバーウイルス早期抗原誘導抑制作用を有することが開示され、特許文献7にメタボリックシンドローム改善作用を有することが開示されているが、オーラプテンが、免疫グロブリンやサイトカインなどの免疫蛋白質の産生促進能を有することは、全く開示されていない。
【0008】
また、β−クリプトキサンチンは、α−カロテン、β−カロテン、リコペン、ゼアキサンチン、ルテインと共にヒト血液中に存在する6種類のカロテノイド類の一つであり、糖尿病、リウマチに関する疾病リスク低減作用、発がん予防作用、骨粗鬆症予防作用などが見出されている。また、特許文献8には、その特許請求の範囲にクリプトキサンチンなど多くの成分を含む免疫賦活剤が記載されている。しかし、特許文献8の実施例の欄には、クリプトキサンチンを用いた例は全く開示されておらず、そもそも特許文献8は、紫外線による皮膚の免疫機能低下を外用により防止するための皮膚免疫賦活剤およびこれを含有するクリームや乳液などの皮膚外用剤に関するものであり、免疫グロブリンやサイトカインなどの免疫蛋白質の産生能向上は全く意図していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−204248号公報
【特許文献2】特開2008−212026号公報
【特許文献3】特開2006−76961号公報
【特許文献4】特開2007−91654号公報
【特許文献5】特開平6−98763号公報
【特許文献6】特開平9−157166号公報
【特許文献7】国際公開第2006/077972号パンフレット
【特許文献8】特開平11−246396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、免疫グロブリンやサイトカインなどに代表される免疫蛋白質の産生を促進させる新規な免疫蛋白質産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し得た本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンを含有するところに要旨を有するものである。
【0012】
好ましい実施形態において、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、免疫グロブリンおよび/またはサイトカインの産生を促進するものであり、特にIgA、IgG、IgMの免疫グロブリン;インターフェロン−γ、インターロイキン4、腫瘍壊死因子TNF−αなどのサイトカインの産生促進に極めて有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特にIgA、IgG、IgMなどの免疫グロブリンや;インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子などのサイトカインの産生能が著しく向上するため、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、免疫蛋白質を用いた種々の医療用途に好適に用いられる。具体的には、例えば、免疫グロブリンやサイトカインを原料とする免疫グロブリン製剤、免疫疾患治療薬、免疫機能薬、免疫促進効果を有する健康食品(機能性食品)・サプリメント、健康維持を目的とした飲料、魚類用機能性飼料、家畜・家禽用機能性飼料などの用途に好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、オーラプテンがヒトハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】図2は、オーラプテンがヒトハイブリドーマHB4C5細胞のIgM遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、IgM−mRNA発現に及ぼす影響を示している。
【図3】図3は、オーラプテンがマウス脾臓細胞の抗体産生に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgAの産生に及ぼす影響を、(b)はIgGの産生に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図4】図4は、オーラプテンがマウス脾臓細胞の抗体遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgA−mRNA発現に及ぼす影響を、(b)はIgM−mRNA発現に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図5A】図5Aは、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgAの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5B】図5Bは、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgGの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5C】図5Cは、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgMの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図6】図6は、オーラプテンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球の免疫蛋白質の遺伝子転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgA−mRNA発現に及ぼす影響を、(b)はIFN−γ−mRNA発現に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図7】図7は、β−クリプトキサンチンがヒトハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図8】図8は、β−クリプトキサンチンがマウス脾臓細胞の抗体(IgAおよびIgG)の産生に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgAの産生に及ぼす影響を、(b)はIgGの産生に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図9】図9は、β−クリプトキサンチンがマウス脾臓細胞の抗体遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)はIgA−mRNA発現に及ぼす影響を、(b)はIgM−mRNA発現に及ぼす影響を、それぞれ示している。
【図10A】図10Aは、β−クリプトキサンチンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgAの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図10B】図10Bは、β−クリプトキサンチンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgGの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図10C】図10Cは、β−クリプトキサンチンがマウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgMの産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図11】図11は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、血中の抗体産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【図12】図12は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、脾臓細胞の抗体産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【図13】図13は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、脾臓細胞のサイトカイン産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【図14】図14は、マウスにオーラプテンを経口投与したとき、腸間膜リンパ節リンパ球の抗体産生に及ぼすオーラプテンの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、新規な免疫蛋白質の産生促進剤を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンが、免疫蛋白質の産生促進作用を有することを見出し、本発明を完成した。詳細には、これらの成分が、HB4C5細胞[ヒト骨髄腫細胞株とリンパ球(B細胞)とを細胞融合させたものであり、IgM産生能を有する]の抗体産生に及ぼす影響を検討した結果、いずれの成分も、HB4C5細胞のIgM産生を促進することが判明した。更に、これらの成分は、マウス脾臓リンパ球のIgG及びIgAの産生を促進すると共に、マウス腸間膜リンパ球のIgG、IgA、及びIgMの産生を促進した。更に、抗体の遺伝子発現に及ぼす影響を検討した結果、これらの成分は転写段階で上方制御していることが明らかとなった。従って、これら成分による免疫蛋白質産生促進作用は、転写促進によるタンパク質性合成系の活性化によるものであることが強く示唆された。更に、これら成分による上記の免疫蛋白質産生促進作用は、生体外(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても見られることが確認された。
【0016】
本明細書において、免疫蛋白質とは、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体およびIgM抗体などの免疫グロブリン;インターロイキン(IL−1〜18など)、インターフェロン(IFN−α,β,γなど)、腫瘍壊死因子(TNF,TNFαなど)、コロニー刺激因子(G−CSF,M−CSF,EPO,SCFなど)、成長因子(EGF,FGF,IGF,NGF,PDGF,TGFなど)などのサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)を意味する。
【0017】
本明細書において、「免疫蛋白質産生促進作用を有する」とは、免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞(以下、「免疫蛋白質産生細胞」と呼ぶ。詳細は後述する。)数の増加、または免疫蛋白質産生細胞における免疫グロブリンやサイトカインなどの産生量の増加を意味する。
【0018】
以下、各成分について詳しく説明する。
【0019】
(オーラプテン)
オーラプテン(auraptene)は、下記の構造式で表わされるクマリン類の一種である。前述したように、オーラプテンは、抗ガン活性などの生理活性を有することは報告されているが、免疫蛋白質の産生促進作用については報告されていない。
【0020】
【化1】
【0021】
オーラプテンは、柑橘類の果皮に多く含まれており、果肉には殆ど含まれていない。柑橘類としては、例えば、夏みかん、甘夏、イヨカン、温州ミカン、はっさく、夏ダイダイ、ネーブル、柚子、かぼす、グレープフルーツ、すだち、レモン、ポンカン、キンカン、シークワーサーなどのミカン科植物が挙げられる。オーラプテンは、特にイヨカン、甘夏、ネーブルなどの晩柑類に豊富に含まれる。オーラプテンによる高い免疫蛋白質産生促進作用を得るためには、このうち特に、温州ミカン、夏みかん、甘夏を使用することが好ましく、より好ましくは甘夏である。
【0022】
本発明に用いられるオーラプテンは、柑橘類の果皮を原料とし、公知の方法で抽出することができる。柑橘類の果皮は、予め凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕してから、抽出を行なうことが好ましい。具体的には、エタノール、メタノール、ヘキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を用いて抽出すれば良い。オーラプテンを効率よく抽出するためには、特に、抽出時間に留意することが好ましく、おおむね、室温で6時間以上に制御することが好ましい。
【0023】
あるいは、オーラプテンは、本発明者の一人によって発明された独自のパウダー製造方法(特開2009−17822号公報)から得ることもできる。
【0024】
あるいは、オーラプテンは市販品を用いることもできる(例えば、和光純薬工業株式会社製)。
【0025】
(β−クリプトキサンチン)
β−クリプトキサンチンは、下記の構造式で表わされるカロテノイド類の一種である。前述したように、β−クリプトキサンチンは、発ガン抑制作用などの生理活性を有することは報告されているが、免疫蛋白質の産生促進作用については報告されていない。
【0026】
【化2】
【0027】
β−クリプトキサンチンは、柑橘類の果肉に多く含まれているが、温州ミカンでは、果肉よりも果皮に多く含まれているといわれている。柑橘類としては、前述したオーラプテンの欄で説明した上記柑橘類と同じものを例示することができる。β−クリプトキサンチンによる高い免疫蛋白質産生促進作用を得るためには、このうち特に、温州ミカン、夏みかん、イヨカン、ポンカン、キンカン、シークワーサーを使用することが好ましく、より好ましくは温州ミカンである。
【0028】
本発明に用いられるβ−クリプトキサンチンは、柑橘類の果肉を原料とし、公知の方法で抽出することができる。柑橘類の果肉は、予め凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕してから、抽出を行なうことが好ましい。具体的には、エタノール、メタノール、ヘキサン、酢酸エチル等を用いて抽出すれば良い。β−クリプトキサンチンを効率よく抽出するためには、特に、抽出時間に留意することが好ましく、例えば、室温で6時間以上に制御することが好ましい。
【0029】
あるいは、β−クリプトキサンチンは、本発明者の一人によって発明された独自のパウダー製造方法(特開2009−17822号公報)から得ることもできる。
【0030】
あるいは、温州ミカンを用いる場合は、上述したように果肉のほか果皮中にも多く含まれていることから、以下のようにして抽出することが好ましい。果皮等を凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕し、有機溶媒を用いて抽出することが好ましく、用いる有機溶媒としては、エタノール、メタノールなどのアルコール系有機溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式脂肪族炭化水素類を挙げることができる。これらの中でも、エタノール、メタノール、n−ヘキサン、酢酸エチルから選ばれることが好ましく、より好ましくはエタノールを用いる。
【0031】
あるいは、β−クリプトキサンチンは市販品を用いることもできる(例えば、和光純薬工業株式会社)。
【0032】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、上記のオーラプテンおよび/またはβ−クリプトキサンチンを含んでおり、これらは単独で含有しても良いし、両方を併用しても良い。
【0033】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、これらの成分のみから構成されていても良いし、医薬などに通常用いられる公知の担体を組み合わせて用いることもできる。具体的には、製剤学的に許容される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤、希釈剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などの担体が挙げられる。また、食品分野で慣用されている各種の栄養源、例えば糖質、脂質、蛋白質素材などを添加しても良い。更に、必要に応じて、他の医薬品と併用しても良い。
【0034】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の形態は特に限定されず、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤(懸濁剤、乳剤、注射剤など)、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、軟膏剤などが挙げられる。これら各形態への調製は、上述した慣用の担体を用い、常法に従って行なうことができる。
【0035】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の投与形態は、その製剤形態に応じて適切に選択すれば良い。例えば錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤などの場合は経口投与の形態で用いられ、注射剤などの場合は静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与などの形態で用いられ、坐剤の場合は直腸内投与の形態で用いられる。
【0036】
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の投与量は、一律に限定されず、被験者の年齢、性別、疾患の程度などに応じ、所望の効果が発揮されるように適宜調整すれば良い。
【0037】
また、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、家畜・家禽、魚類などの非ヒト動物用の飼料の形態で用いても良く、これにより、非ヒト動物の免疫蛋白質産生能が促進される。具体的には、例えば、非ヒト動物用の飼料中に本発明の免疫蛋白質産生促進剤を、非ヒト動物の症状などに応じ、適切な量だけ配合すれば良い。用いられる非ヒト動物用の飼料の組成は限定されず、例えば、市販品を用いることもできる。また、対象となる非ヒト動物も限定されず、例えば、豚、牛、馬、ヤギ、ウサギ、羊などの家畜類;鶏、ウズラ、七面鳥、アヒル、ガチョウなどの家禽類;タイ、ハマチ、マグロ、コイ、エビ、アユ、ヒラメなどの魚類などが代表的に例示される。
【0038】
次に、in vitroにおいて、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤を用い、免疫グロブリンやサイトカインに代表される免疫蛋白質の産生を促進する方法について説明する。本発明では、免疫蛋白質産生促進剤であるオーラプテンおよび/またはβ−クリプトキサンチンの存在下で、免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞(以下、「免疫蛋白質産生細胞」と呼ぶ。)を培養すれば、免疫蛋白質の産生促進剤を添加せずに培養した場合に比べ、上記免疫蛋白質産生細胞中の免疫グロブリンやサイトカインなどの産生が著しく向上する(後記する実施例を参照)。
【0039】
本明細書において、「免疫蛋白質産生細胞」とは、好ましくは免疫グロブリンやサイトカインの免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞であり、例えば、リンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞)やマクロファージなどの白血球;上記リンパ球(特にB細胞)と自立増殖能を有する多発性骨髄腫やリンパ腫などのミエローマ細胞との融合細胞(リンパ球ハイブリドーマ)などが代表的に例示される。後者のリンパ球ハイブリドーマは、例えばセンダイウイルスを用いた細胞融合法、ポリエチレングリコール法、または電気パルスによる電気融合など、慣用方法に従って調製することができる。好ましいリンパ球ハイブリドーマとしては、後記する実施例で用いた、ヒト骨髄腫細胞株とリンパ球(B細胞)とを細胞融合させたヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞が挙げられる。HB4C5細胞を使用すると、当該細胞から分泌されるIgMを指標として、免疫蛋白質産生能を容易に測定することができる。
【0040】
これらの白血球またはリンパ球ハイブリドーマは、単一種類のものに限定されず、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、これらの白血球およびリンパ球ハイブリドーマの由来は特に制限されないが、本発明ではヒト由来の免疫蛋白質の産生を促進するという観点から、好ましくはヒト由来である。
【0041】
本発明では、これらの白血球またはリンパ球ハイブリドーマに代表される免疫蛋白質産生細胞を、オーラプテンやβ−クリプトキサンチンを含有する培地中で培養する。
【0042】
ここで、上記の培地は、上記の免疫蛋白質産生細胞の培養に通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、EagleのMEM培地、McCoyの5A培地または7A培地、HamのF10培地またはF12培地、199培地、EDRF培地、RPMI1640培地などや、これらの改良型培地などが挙げられる。これらの培地は、市販品を用いることができる。
【0043】
本発明では、本発明による作用を損なわない限り、上記の培地中に、ウシ血清等の血清を添加しても良い。ただし、血清成分による免疫蛋白質の産生を促進するという観点からは、血清を添加しない無血清培地の使用が好ましい。
【0044】
本発明で使用する上記培地には、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム等の各種添加剤を適宜添加することもできる。例えば、EDRF培地に、上記のインスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、及び亜セレン酸ナトリウム(以下、ITESと呼ぶ場合がある。)を添加すると、血清の影響を受けずに活性を測定できるという利点があることから、後記するハイブリドーマを用いた培養実験では、上記のITESを所定の濃度で添加したEDRF培地(ITES−EDRF培地)を使用している。
【0045】
培地中に添加する免疫蛋白質の産生促進剤(オーラプテンおよび/またはβ−クリプトキサンチン)の量は、前述したように、所望の効果を発揮することができる程度に適宜調整すれば良いが、例えば、培養する白血球またはリンパ球ハイブリドーマの量が培地1mLあたり1×104〜5×105cellsである場合、オーラプテンを、培地1mLあたり、おおむね、0.1〜10,000ng/mL、好ましくは10〜5,000ng/mL、より好ましくは10〜1,000ng/mLの範囲で添加することが望ましい。同様に、β−クリプトキサンは、培地1mLあたり、おおむね、0.1〜10,000ng/mL、好ましくは10〜5,000ng/mL、より好ましくは10〜1,000ng/mLの範囲で添加することが望ましい。
【0046】
培養時の温度は、免疫蛋白質を産生できる温度であれば特に制限されず、おおむね、30〜45℃の範囲である。好ましくは35〜42℃であり、より好ましくは36〜38℃である。また、湿度も特に制限されず、相対湿度は、おおむね、80〜100%の範囲であり、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%である。
【0047】
また、培養に当たり、炭酸ガスを1〜10体積%程度の割合で含む空気の雰囲気下で培養することが好ましい。炭酸ガスの好ましい濃度は、おおむね、3〜8体積%の範囲である。
【0048】
培養時間は、上記免疫蛋白質の産生促進剤の免疫グロブリン産生効率によっても相違するが、おおむね、5時間〜2週間の範囲である。
【0049】
このようにして培地中に免疫蛋白質を効率よく産生した後は、定法に従い、培地から固液分離して免疫蛋白質を単離し、必要に応じてアフィニティクロマトグラフィー等の液体クロマトグラフ法等を用いて精製することにより、所望の免疫蛋白質を取得することができる。
【0050】
このようにして得られる免疫蛋白質、好ましくは前述する免疫グロブリンやサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)、より好ましくは免疫グロブリンは、例えば、免疫疾患治療薬、免疫機能検査薬の有効成分として広く用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
実施例1
本実施例では、オーラプテンが、IgMを産生するヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を検討した。
【0053】
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−ERDF培地(極東製薬社製)を用意し、これに、オーラプテン(和光純薬工業株式会社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して図1に示すように39.1〜2500ng/mLの濃度に調整したものを添加すると共に、HB4C5細胞を5×104cells/mLの濃度で接種し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて6時間培養した。培養後、培地中に生成した免疫グロブリン(IgM)の量を、抗ヒトIgMおよびペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgMを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0054】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgMの産生量を測定した。
【0055】
これらの結果を図1に示す。
【0056】
図1より、オーラプテンの添加によってIgMは、ほぼ濃度依存的に増加し、オーラプテンを625〜2500ng/mLの濃度で添加すると、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べ、HB4C5細胞のIgM産生量が1.9倍以上に促進された。
【0057】
実施例2
本実施例では、オーラプテンで刺激したHB4C5細胞内において、IgMをコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0058】
詳細には、DMSOに溶解した500ng/mL及び2000ng/mLのオーラプテンで刺激したHB4C5細胞からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgMに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:CTCCCAAAGTGAGCGTCTTC、リバース:CAGCCAGGACACCTGAATCTである。本実施例では、GAPDH遺伝子を内部標準物質として用いた。リアルタイムPCRには、ステップワンプラス リアルタイムPCR装置(アプライドバ
イオサイエンス社製)を用いた。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0059】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現
量を解析した。
【0060】
これらの結果を図2に示す。
【0061】
図2より、オーラプテンの刺激によりHB4C5細胞のIgM−mRNAの転写活性は促進されることが分かった。この実験結果より、オーラプテンによるIgM産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0062】
実施例3
本実施例では、培養系(in vitro)において、オーラプテンがマウス脾臓リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0063】
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−RPMI 1640培地(SIGMA社製)を用意し、これに、オーラプテン(和光純薬工業株式会社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して図3に示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した脾臓から脾臓リンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgAおよびIgG)の量を、抗マウスIgAおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgA、並びに抗マウスIgGおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0064】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgAおよびIgGの産生量を測定した。
【0065】
IgAの結果を図3(a)に、IgGの結果を図3(b)に示す。
【0066】
図3より、オーラプテンの添加により、マウス脾臓リンパ球のIgAおよびIgGの産生は、ほぼ濃度依存的に促進された。詳細には、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは625ng/mLの添加で約2.3倍に増加し、IgGは約160ng/mLの添加で約3.2倍にまで増加した。
【0067】
実施例4
本実施例では、オーラプテンで刺激したマウス脾臓リンパ球内において、IgAおよびIgMをコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0068】
詳細には、DMSOに溶解した500ng/mLのオーラプテンで刺激した6週齢雌性BALB/cマウス脾臓リンパ球からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgAに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:TGCACAGCTTTCTTCTGCAC、リバース:TGCCAGCCTCACATGTACTC、IgMに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:GGGGCACTGGTCACATACTT、リバース:CAGCTCGTGAGCAACTGAACである。本実施例では、βアクチン遺伝子を内部標準物質として用いた。リアルタイムPCRには、ステップワンプラスリアルタイムPCR装置(アプライドバイオサイエンス社製)を用いた。
【0069】
同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0070】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現量を解析した。
【0071】
IgA−mRNAの結果を図4(a)に、IgM−mRNAの結果を図4(b)に示す。
【0072】
図4(a)および図4(b)より、オーラプテンの刺激により、脾臓リンパ球のIgA−mRNAおよびIgM−mRNAの転写活性は、約1.5倍程度促進されることが分かった。この実験結果より、オーラプテンによるIgAおよびIgMの産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0073】
実施例5
本実施例では、培養系(in vitro)において、オーラプテンがマウス腸管膜リンパ節リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0074】
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−RPMI 1640培地(SIGMA社製)を用意し、これに、オーラプテン(和光純薬社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して図5A〜図5Cに示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した腸間膜リンパ節からリンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、およびIgM)の量を、抗マウスIgAおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgA、抗マウスIgGおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG、並びに抗マウスIgMおよびペルオキシダーゼ標識抗マウスIgMを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0075】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgA、IgG、およびIgMの産生量を測定した。
【0076】
IgAの結果を図5Aに、IgGの結果を図5Bに、IgMの結果を図5Cに、それぞれ示す。
【0077】
図5A〜図5Cより、オーラプテンの添加により、マウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgA、IgG、およびIgMの産生は促進されることが分かった。詳細には、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは625ng/mLの添加で約1.8倍に増加し、IgGは39.0ng/mLの添加で2.7倍に増加し、IgMは39.0ng/mL以上の添加で2.1倍に増加した。
【0078】
実施例6
本実施例では、オーラプテンで刺激したマウス腸間膜リンパ節リンパ球内において、IgAおよびインターフェロンγ(IFN−γ)をコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0079】
詳細には、DMSOに溶解した156ng/mLまたは625ng/mLのオーラプテンで刺激した6週齢雌性BALB/cマウス腸間膜リンパ節リンパ球からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgAに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:TGCACAGCTTTCTTCTGCAC、リバース:TGCCAGCCTCACATGTACTC、IFN−γに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列は、フォワード:CGGCACAGTCATTGAAAGCCTA、リバース:GTTGCTGATGGCCTGATTGTCである。本実施例では、βアクチン遺伝子を内部標準物質として用いた。リアルタイムPCRには、ステップワンプラス リアルタイムPCR装置(アプライドバイオサイエンス社製)を用いた。
【0080】
同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0081】
比較のため、オーラプテンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現量を解析した。
【0082】
IgA−mRNAの結果を図6(a)に、IFN−γ−mRNAの結果を図6(b)に、それぞれ示す。
【0083】
図6(a)および図6(b)より、オーラプテンの刺激により、腸管リンパ節リンパ球のIgA−mRNAおよびIFN−γ−mRNAの転写活性は、濃度依存的に増加していることが分かる。これらの実験結果より、オーラプテンによるIgAおよびIFN−γの産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0084】
実施例7
本実施例では、β−クリプトキサンチンが、IgMを産生するヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を検討した。
【0085】
詳細には、前述した実施例1に用いたITES−ERDF培地を用意し、これに、β−クリプトキサンチン(和光純薬工業株式会社製)をDMSOに溶解して図7に示すように32〜4000ng/mLの濃度に調整したものを添加すると共に、HB4C5細胞を5×104cells/mLの濃度で接種し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて6時間培養した。培養後、培地中に生成した免疫グロブリン(IgM)の量を、実施例1と同様にして測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0086】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgMの
産生量を測定した。
【0087】
これらの結果を図7に示す。
【0088】
図7より、β−クリプトキサンチンの添加によってIgMは、ほぼ濃度依存的に増加し、最大濃度(4000ng/mL)では、β−クリプトキサンチンを添加しないコントロール群に比べ、HB4C5細胞のIgM産生量が1.6倍に促進された。
【0089】
実施例8
本実施例では、培養系(in vitro)において、β−クリプトキサンチンがマウス脾臓リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0090】
詳細には、前述した実施例3で用いたITES−RPMI 1640培地を用意し、これに、β−クリプトキサンチンをDMSOに溶解して図8(a)または図8(b)に示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した脾臓から脾臓リンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgAおよびIgG)の量を、実施例3と同様にして測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0091】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgAおよびIgGの産生量を測定した。
【0092】
IgAの結果を図8(a)に、IgGの結果を図8(b)に示す。
【0093】
図8より、β−クリプトキサンチンの添加により、マウス脾臓リンパ球のIgAおよびIgGの産生は、ほぼ濃度依存的に促進された。詳細には、β−クリプトキサンチンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは2500ng/mLの添加で2.5倍に増加し、IgGは2500ng/mLの添加で約3.7倍にまで増加した。
【0094】
実施例9
本実施例では、β−クリプトキサンチンで刺激したマウス脾臓リンパ球内において、IgAおよびIgMをコードする遺伝子のmRNAへの転写活性がどの様に変化するかを検討した。
【0095】
詳細には、DMSOに溶解した500ng/mLのβ−クリプトキサンチンで刺激したBALB/cマウス脾臓リンパ球からセパゾール(ナカライテスク製)でRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりmRNAの相対発現量を解析した。抽出したmRNAからオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製し、IgAおよびIgMに対するcDNA増幅のために用いたプライマー配列、並びに内部標準物質は、実施例4と同じである。
【0096】
同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0097】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、mRNAの相対発現量を解析した。
【0098】
IgA−mRNAの結果を図9(a)に、IgM−mRNAの結果を図9(b)に、それぞれ示す。
【0099】
図9(a)および図9(b)より、β−クリプトキサンチンの刺激により、脾臓リンパ球のIgA−mRNAおよびIgM−mRNAの転写活性は、いずれも約2倍程度促進されることが分かった。この実験結果より、β−クリプトキサンチンによるIgAおよびIgMの産生促進作用は、mRNAの転写量の増加に起因すると推察される。
【0100】
実施例10
本実施例では、培養系(in vitro)において、β−クリプトキサンチンがマウス腸管膜リンパ節リンパ球の抗体産生に及ぼす影響を調べた。
【0101】
詳細には、前述した実施例5に用いたITES−RPMI 1640培地を用意し、これに、β−クリプトキサンチンをDMSOに溶解して図10A〜図10Cに示す濃度に調整したものを添加すると共に、6週齢雌性BALB/cマウスより摘出した腸間膜リンパ節からリンパ球(1.0×106cells/mL)を添加し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて24時間培養した。培養後、培養上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、およびIgM)の量を、実施例5と同様にして測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
【0102】
比較のため、β−クリプトキサンチンを添加せずに上記と同様に培養を行い、IgA、IgG、およびIgMの産生量を測定した。
【0103】
IgAの結果を図10Aに、IgGの結果を図10Bに、IgMの結果を図10Cに、それぞれ示す。
【0104】
図10A〜図10Cより、β−クリプトキサンチンの添加により、マウス腸間膜リンパ節リンパ球のIgA、IgG、およびIgMの産生は促進されることが分かった。詳細には、β−クリプトキサンチンを添加しないコントロール群に比べ、IgAは625ng/mLの添加で約2.1倍に増加し、IgGは156ng/mLの添加で約1.7倍に増加し、IgMは625ng/mLの添加で約1.4倍に増加した。
【0105】
実施例11
本実施例では、生体内(in vivo)における、オーラプテンによる免疫蛋白質の産生促進効果を調べた。
【0106】
詳細には、オーラプテン(和光純薬工業株式会社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して200mg/mLの濃度に調整したものを用意した。次に、雌性BALB/cマウス(約6週齢)を5匹/群に分け、各マウスに対し、下記要領でオーラプテンを14日間経口投与した。
(A)高容量投与群(上記濃度のオーラプテンを1mL/kg/日投与、すなわち200mg/kg/日投与)
(B)低容量投与群(上記濃度のオーラプテン溶液をDMSOで5倍希釈し、濃度を40mg/mLに調整した溶液を1mL/kg/日投与、すなわち40mg/kg/日)
(C)コントロール群(DMSOのみ1mL/kg/日投与)
【0107】
14日間の経口投与終了後、マウスを屠殺し、血清、脾臓細胞、および腸間膜リンパ節を採取した。そして血清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)の量を、前述した実施例5と同様にして測定した。また、脾臓細胞から脾臓リンパ球を採取し、前述した実施例3に記載の培地に添加し、実施例3と同様にして培養後の上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)の量を測定した。また、腸間膜リンパ節については、腸間膜リンパ節からリンパ球を採取し、前述した実施例5に記載の培地に添加し、実施例5と同様にして培養後の上清中の免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)の量を測定した。これらの結果を図11〜12、14に示す。
【0108】
更に、上記の脾臓細胞から脾臓リンパ球を採取し、酵素抗体法により、サイトカイン[詳細にはインターフェロンγ(INF−γ)、インターロイキン4(IL−4)、腫瘍壊死因子TNF−α]の各量を測定した。これらの結果を図13に示す。
【0109】
図11より、オーラプテンの添加により、血清中の各抗体量は増加する傾向が見られた。特に低容量投与群のIgA産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。なお、いずれの抗体についても、高容量投与群に比べて低容量投与群の方が、概して、抗体産生量が高くなる傾向が見られたが、これは、生体内における至適濃度が存在するためと考察される。
【0110】
また、図12〜14より、オーラプテンの添加により、血清中の各抗体量の上昇に加え、脾臓や腸間膜リンパ節リンパ球に存在する免疫蛋白質の産生も上昇することが分かった。
【0111】
詳細には脾臓細胞中の各抗体産生量の結果は図12に示すとおりであり、低容量投与群のIgA産生量、低容量投与群および高容量投与群のIgG産生量、並びに高容量投与群のIgM産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。
【0112】
また、脾臓細胞中の各サイトカインの産生量の結果は図13に示すとおりであり、IFN−γ、IL−4、TNF−αのいずれのサイトカインについても、高容量投与群の産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。
【0113】
また、腸間膜リンパ節リンパ球中の各抗体産生量の結果は図14に示すとおりであり、低容量投与群のIgA産生量、低容量投与群および高容量投与群のIgG産生量、並びに低容量投与群のIgM産生量は、オーラプテンを添加しないコントロール群に比べて有意に上昇した。
【0114】
以上の実験結果より、オーラプテンは、生体外(in vitro)のみならず生体内(in vivo)でも免疫蛋白質の産生促進効果を有することが確認された。なお、本実施例では、β−クリプトキサンチンによる生体内での作用を示していないが、オーラプテンとβ−クリプトキサンチンは、生体外での作用がほぼ同様であり、また、本実施例によりオーラプテンによる生体内での作用が実証されたため、β−クリプトキサンチンについても、同様の生体内作用を奏することは十分に推察される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンを含有することを特徴とする免疫蛋白質の産生促進剤。
【請求項2】
前記免疫蛋白質は免疫グロブリンおよび/またはサイトカインである請求項1に記載の免疫蛋白質の産生促進剤。
【請求項3】
前記免疫グロブリンはIgA、IgG、IgMであり、前記サイトカインはインターフェロン−γ、インターロイキン4、腫瘍壊死因子TNF−αである請求項2に記載の免疫蛋白質の産生促進剤。
【請求項1】
オーラプテン及び/又はβ−クリプトキサンチンを含有することを特徴とする免疫蛋白質の産生促進剤。
【請求項2】
前記免疫蛋白質は免疫グロブリンおよび/またはサイトカインである請求項1に記載の免疫蛋白質の産生促進剤。
【請求項3】
前記免疫グロブリンはIgA、IgG、IgMであり、前記サイトカインはインターフェロン−γ、インターロイキン4、腫瘍壊死因子TNF−αである請求項2に記載の免疫蛋白質の産生促進剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−116735(P2011−116735A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160104(P2010−160104)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(507192378)伊方サービス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(507192378)伊方サービス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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