説明

免震構造体

【課題】温度変化に伴う免震性能の変動を抑制する免震構造体を提供する。
【解決手段】気温の上昇に伴って、積層ゴム12を構成するゴム板18の水平剛性が低くなる。一方で、積層ゴム12の両端に設けられたフランジ14に形成された収納部23には円柱26が収納されており、水を密閉している。温度の上昇に伴って、水が膨張して円柱26を押し上げ、中空部22を上方に移動させることで、ゴム板18及び剛板20の水平移動を拘束して、積層ゴム12がせん断変形する領域を変化させる。このようにして、温度変化に対する免震構造体10の免震性能を一定に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の構造物の支承部として、ゴム板と剛板を交互に積層した積層ゴムによる免震構造体が用いられている。しかしながら、積層ゴムを構成する高減衰ゴムは、温度が高くなると軟らかくなり、温度が低くなると硬くなる温度依存性を有しているので、気温によって積層ゴムの水平剛性が変化し、免震性能が安定しないといった問題がある。
【0003】
上記問題を解決するため、天然ゴムを主成分とし、カーボンブラックと、軟化点が135℃以上の粘着付与剤とが配合された高減衰ゴムを用いた免震構造体が知られている(特許文献1)。しかしながら、カーボンブラックや粘着付与剤を配合させる割合にばらつきがあると、高減衰ゴムの温度依存性が変動する虞がある。また、高減衰ゴムの配合成分を変更する方法には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−306578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、温度変化に伴う免震性能の変動を抑制する免震構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の免震構造体は、ゴム板と剛板とが交互に積層された積層ゴムと、前記積層ゴムの積層方向の両端に設けられたフランジと、前記フランジの少なくとも一方に形成された凹状の収納部と、前記収納部に一部が収納された状態で前記積層ゴムの積層方向に移動して、前記積層ゴムがせん断変形する領域を変化させる拘束部材と、前記収納部と連通する膨張収縮材貯留部と、前記膨張収縮材貯留部に貯留され、温度変化に伴って体積を増減させ、前記拘束部材を前記積層方向へ移動させる膨張収縮材と、を有する。
【0007】
請求項1に記載の免震構造体では、温度の上昇に伴って膨張収縮材の体積が増加するため、膨張収縮材貯留部と連通する収納部へ収納された拘束部材が膨張収縮材に直接又は空気層を介して押され、積層方向に移動し、ゴム板及び剛板が水平方向に移動するのを拘束する。すなわち、積層ゴムがせん断変形する領域を減少させる。従って、温度の上昇に伴ってゴム板が柔らかくなり水平剛性が低くなっても、せん断変形する領域が減少しているため、水平剛性の変化が相殺され、免震性能を一定に保つことができる。
【0008】
また逆に、温度が低下したとき、温度の低下に伴って膨張収縮材の体積が減少するため、膨張収縮材貯留部と連通する収納部へ収納された拘束部材が自重により積層方向に移動し、積層ゴムを構成するゴム板及び剛板の拘束状態を解除する。すなわち、積層ゴムがせん断変形する領域を増加させる。従って、温度の低下に伴ってゴム板が硬くなり水平剛性が高くなっても、せん断変形する領域が増加しているため、水平剛性の変化が相殺され、免震性能を一定に保つことができる。
【0009】
請求項2に記載の免震構造体は、前記積層ゴムの内部には、前記フランジの中央に設けられた前記収納部へ連通する中空部が形成され、前記拘束部材は、前記収納部と前記中空部に跨って上下に移動可能に設けられた柱体である。
【0010】
請求項2に記載の免震構造体では、柱体は、免震構造体の内部に設けられているので、コンパクトに設計できる。
【0011】
請求項3に記載の免震構造体は、前記収納部は前記フランジの外周部に形成され、前記拘束部材は、前記積層ゴムの外周面に沿って移動する筒状体である。
【0012】
請求項3に記載の免震構造体では、筒状体の位置を目視で確認することができるので、管理やメンテナンス等を容易に行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の免震構造体は、前記膨張収縮材貯留部は、前記フランジの内部に設けられている。
【0014】
請求項4に記載の免震構造体では、膨張収縮材貯留部を別に設ける必要がないので、免震構造体をコンパクトにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記の構成としたので、免震構造体の温度変化に伴う免震性能の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る免震構造体の一部破断斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る免震構造体が常温時にせん断変形している状態を示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係る膨張収縮材が高温時に膨張した状態を示す要部拡大断面図である。
【図4】第1実施形態に係る免震構造体が高温時にせん断変形している状態を示す断面図である。
【図5】第1実施形態に係る膨張収縮材貯留部がフランジの外部に設けられた変形例を示す断面図である。
【図6】第2実施形態に係る免震構造体の断面図である。
【図7】第3実施形態に係る免震構造体の一部破断斜視図である。
【図8】第3実施形態に係る免震構造体の断面図である。
【図9】第3実施形態に係る免震構造体が常温時にせん断変形している状態を示す断面図である。
【図10】第3実施形態に係る免震構造体が高温時にせん断変形している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照しながら第1実施形態に係る免震構造体について説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る免震構造体10は、円柱状の積層ゴム12と、積層ゴム12の上端及び下端に設けられた上フランジ14及び下フランジ16とによって構成されている。
【0019】
積層ゴム12は、高減衰ゴム製のゴム板18と剛板20とが上下方向に交互に積層され、加硫接着されて一体となっている。また、積層ゴム12が劣化するのを抑制するため、積層ゴム12の外周面は被覆ゴムで被覆してもよい。
【0020】
また、ゴム板18の厚み、剛板20の厚みは、1枚あたり3〜10mmであり、ゴム板18の総厚及び層数は、免震構造体が支持する構造物の大きさ、及び必要な免震性能に合わせて適宜設定する。
【0021】
積層ゴム12の上端に設けられた上フランジ14は、円板状の部材で、積層ゴム12の上面に加硫接着されている。また、フランジ14の外周部には、複数のボルト孔15が形成されている。このボルト孔15にボルト17を挿通して、上部構造体30へ固定される(図2参照)。
【0022】
また、積層ゴム12の下端に設けられた下フランジ16は、2段構造となっており、積層ゴム12の下面に加硫接着された小径で肉厚の小径部16Aと、小径部16Aの下部に設けられ、上フランジ14と同径の大径部16Bとによって構成されている。大径部16Bの外周部には上フランジ14と同様に複数のボルト孔15が形成されており、ボルト17を挿通して下部構造体32へ固定される(図2参照)。
【0023】
なお、上フランジ14及び下フランジ16の外形は積層ゴム12の直径より大きければ、円形でなくても、矩形や多角形に形成されていてもよい。また、上フランジ14又は下フランジ16と積層ゴム12との接着方法については、接着剤で接着してもよい。
【0024】
積層ゴム12の内部には、積層ゴム12を軸方向に貫通した中空部22が形成されている。中空部22は、縦長の円柱体をくり抜いた形状をしており、積層ゴム12の中央部に位置している。なお、中空部22の周壁を防水シートで被覆し、剛板20が後述する水の影響を受け難いようにしてもよい。
【0025】
中空部22の下方には、小径部16Aの上面から下面に向かって凹状の収納部23が形成されている。収納部23は、中空部22と同じ径で、中空部22から連通して形成されており、小径部16Aの下部まで延びている。また、収納部23の下端は、膨張収縮材貯留部24に連通している。
【0026】
膨張収縮材貯留部24は、中空部22及び収納部23より大径で、円板をくり抜いた形状をしている。なお、膨張収縮材貯留部24の形状は、後述する膨張収縮材Xが貯留される形状であれば、他の形状でもよい。例えば、直方体であってもよい。
【0027】
膨張収縮材貯留部24から収納部23にかけて、膨張収縮材が貯留されている。膨張収縮材は、温度の上昇に伴って膨張収縮材の体積が増加し、温度の低下に伴って体積が減少する。本実施形態では膨張収縮材の一例として水Xを用いているが、温度変化に伴って体積が変化すれば、他の材質でもよい。例えば、水銀やエタノールなどの液体でもよい。また、液体の他に半固体状のゲルなどを用いてもよい。
【0028】
また、中空部22と収納部23に跨って、拘束部材としてスチール製の円柱26が積層ゴム12の積層方向に摺動自在に収納されている。円柱26の長さは、積層ゴム12の長さの3分の1程度の長さとなっている。
【0029】
ここで、円柱26の外周面にはOリング28が設けられており、膨張収縮材貯留部24から収納部23にかけて貯留されている水Xは、円柱26によって密閉されている。また、円柱26は、円柱26の自重と、水Xから受ける圧力とが釣り合った高さに位置している。
【0030】
本実施形態では円柱26の上端部が1層目の剛板20Aの高さとなるように設定されている。なお、中空部22の周壁とOリング28との摩擦を小さくするため、Oリング28に潤滑剤を塗布してもよい。
【0031】
次に本実施形態に係る免震構造体10の作用について説明する。
【0032】
図2に示すように、積層ゴム12は、ゴム板18の間に剛板20が積層された構成であるため、積層ゴム12に対して上部構造体30から鉛直方向下向きの圧縮応力が作用しても、ゴム板18が積層ゴム12の周方向外側へ膨らまずに、ゴム本来の低い水平剛性を保つことができる。
【0033】
ここで、地震力により下部構造体32が矢印Aの方向に上部構造体30と相対移動して、積層ゴム12を水平方向にせん断変形させる。このように積層ゴム12がせん断変形することで、振動が上部構造体30へ伝わるのを抑制している。
【0034】
このとき、円柱26の上端は、積層ゴム12の下端から数えて1層目の剛板20Aの高さに位置している。このため、積層ゴム12の1層目のゴム板18Aと1層目の剛板20Aの内周壁は、円柱26に係止されるので、下フランジ16と一体になって移動し、水平方向の移動が拘束される。従って、実際にせん断変形している積層ゴム12の領域は、積層ゴム12の下端から2層目のゴム板18Bより上の部分だけとなっている。
【0035】
ここで、図3に示すように、水Xの温度が上昇すると、水Xは膨張して体積を増加させようとする。このため、水Xと接する面は、水Xによって加圧される。ここで、円柱26は収納部23を密閉するように収納されているため、円柱26は水Xによって加圧されて図4に示す位置まで移動する。
【0036】
なお、円柱26の移動量は、水Xの体積膨張率、円柱26と水Xとが接する面積によって決定される。例えば、温度変化量が同じ場合でも、体積膨張率が大きいほど円柱26の移動量は増加する。また、体積の増加量が同じ場合でも、収納部23の水平断面積が小さいほど、円柱26の移動量は増加する。
【0037】
図4に示すように、本実施形態では円柱26は、円柱26の上端が積層ゴム12の下端から数えて3層目の剛板20Bの高さまで上方に押し上げられるようにした。
【0038】
このとき、積層ゴム12の最下層のゴム板18Aから3層目の剛板20Bまでの領域の水平方向の移動が拘束される。これによって、積層ゴム12が水平方向へせん断変形する領域は、下端から4層目のゴム板18Cより上の部分だけとなる。
【0039】
一方で、温度の上昇に伴ってゴム板18が軟らかくなるため、ゴム板18の水平剛性が低くなり、ゴム板18の水平方向の移動量が増加する。
【0040】
従って、下部構造体32が矢印Cの方向に往復運動(振動)したとき、積層ゴム12の下端から4層目のゴム板18Cより上の領域だけしかせん断変形しないが、温度の上昇に伴ってゴム板18の水平剛性が低くなっているので、積層ゴム12の水平剛性の変化が相殺される。これにより、免震構造体10の免震性能は、温度が上昇しても変化せずに一定に保たれる。
【0041】
また逆に、図4の状態から温度が低下したときは、ゴム板18が硬くなって、水平剛性が高くなり水平方向の移動量が減少する。一方で、温度の低下に伴って水Xが収縮するため、自重で円柱26が下方に移動する。
【0042】
円柱26の上端が剛板20Aの位置まで下降したとき、積層ゴム12がせん断変形する領域は、ゴム板18Bより上の部分となるので、せん断変形する領域が増加することになる。従って、積層ゴム12の水平剛性の変化が相殺され、温度変化に伴う免震性能の変動を抑制することができる。
【0043】
なお、本実施形態に係る中空部22は、積層ゴム12の一端から他端まで貫通して形成されているが、必ずしも積層ゴム12を貫通している必要はなく、少なくとも円柱26の長さと同様の長さの中空部22が形成されていればよい。換言すれば、円柱体26は、積層ゴム12と収納部23に跨って移動するので、円柱体26の長さと同様の高さまでしか移動しない設定とされている。
【0044】
また、本実施形態に係る円柱26は、積層ゴム12の一部を拘束することができれば、形状は特に制限しない。例えば、円柱26の断面が矩形や多角形角の柱体であってもよい。この場合、中空部22及び収納部23の形状は、円柱26と対応する形状に形成される。
【0045】
さらに、本実施形態では、水Xが円柱26に接していたが、間に空気層を設けて、水Xと円柱26とが非接触の状態としてもよい。この場合、水Xが膨張すると、空気層を介して円柱26が加圧される。また、膨張収縮材として、半固体状のゲルや、水以外の液体を用いてもよい。
【0046】
また、円柱26の長さは、免震構造体10を設置する環境などによって適宜設定される。例えば、温度変化の激しい環境で免震構造体10を使用する場合、円柱26の長さを長くして、積層ゴム12を拘束できる領域を増やし、逆に温度変化が少ない場所では、積層ゴム12を拘束できる領域は少なくて済むので、円柱26の長さを短くする。これは、後述する変形例及び第2実施形態においても同様である。
【0047】
次に、第1実施形態に係る免震構造体の変形例について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0048】
図5に示すように、本変形例に係る免震構造体11は、下フランジ16の外部に円筒状の膨張収縮材貯留部36が設けられている。膨張収縮材貯留部36の下端部からはフランジ部36Aが張出しており、ボルト17によって下部構造体32に固定されている。
【0049】
膨張収縮材貯留部36の側壁には、供給管入口40が開口しており、供給管42の一端が接続されている。供給管42は、下部構造体32の上に配管され、供給管42の他端は、下フランジ16の大径部16Bに形成された収納部23の供給口23Aに接続されている。
【0050】
また、膨張収縮材貯留部36、供給管42、及び収納部23には水Xが貯留されている。さらに、収納部23と中空部22に跨って円柱26が積層ゴム12の積層方向に摺動自在に設けられている。円柱26は、水Xを密閉して円柱26の自重と、水Xから受ける圧力とが釣り合った高さに位置している。
【0051】
本変形例の免震構造体11によれば、膨張収縮材貯留部36がフランジ16の外部に設けられているため、膨張収縮材貯留層36から水Xの補充や交換を行うことができる。また、下フランジ16の大径部16Bの内部には収納部23を形成するだけでよいため、下フランジ16を容易に製作することができる。
【0052】
次に、第2実施形態に係る免震構造体について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成のものは適宜省略して説明する。
【0053】
図6に示すように、本実施形態に係る免震構造体50は、第1実施形態に係る免震構造体10と同じ構成で、円柱状の積層ゴム52と、積層ゴム52の上端及び下端に設けられた上フランジ56及び下フランジ54とによって構成されている。
【0054】
積層ゴム52の下端に設けられた下フランジ54は、円板状の部材で、積層ゴム52の下面に加硫接着されている。また、フランジ54の外周部には、複数のボルト孔55が形成されており、ボルト57が挿通されて下部構造体70に固定されている。
【0055】
また、積層ゴム52の上端に設けられた上フランジ56は2段構造となっており、積層ゴム52の上面に加硫接着された小径部56Bと、小径部56Bの上部に形成された大径部56Aとによって構成されている。大径部56Aの外周部には上フランジ54と同様に複数のボルト孔55が形成されており、ボルト57が挿通されて上部構造体72に固定されている。
【0056】
積層ゴム52の内部には、積層ゴム52を軸方向に貫通した中空部62が形成されている。中空部62は、縦長の円柱体をくり抜いた形状をしており、積層ゴム62の中央部に位置している。
【0057】
中空部62の上方には、小径部56Bの下面から上面に向かって凹状の収納部63が形成されている。収納部63は、中空部62と同じ径で、中空部62から連通して形成されており、小径部56Bの上部まで延びている。また、収納部63の上端は、水Xが貯留された膨張収縮材貯留部64に連通している。
【0058】
また、中空部62と収納部63に跨って、円柱66が積層ゴム52の積層方向に摺動自在に設けられており、円柱66の下端部は、積層ゴム52の上端から1層目の剛板60Aの高さに位置している。
【0059】
また、円柱66の外周面にはOリング68が嵌められており、円柱66と収納部63の周壁との隙間をシールしている。さらに、水Xは、円柱66によって密閉されている。
【0060】
ここで、円柱66と膨張収縮材貯留部64の天井に圧縮コイルバネ74懸架されており、圧縮コイルバネ74は、円柱66を上方に引張り、円柱66で収納部63の開口を密閉している。
【0061】
次に本実施形態に係る免震構造体50の作用について説明する。
【0062】
地震力により下部構造体70が矢印Dの方向に上部構造体72と相対移動して、積層ゴム52を水平方向にせん断変形させる。このように積層ゴム52がせん断変形することで、振動が上部構造体72へ伝わるのを抑制している。
【0063】
このとき、円柱66の下端は、積層ゴム52の上端から数えて1層目の剛板60Aの高さに位置している。このため、積層ゴム12の1層目のゴム板58Aと1層目の剛板60Aの内周壁は、円柱66に係止されるので、上フランジ56と一体となって移動し、水平方向の移動が拘束される。従って、実際にせん断変形している積層ゴム12の領域は、積層ゴム12の下端から2層目のゴム板58Bより下の部分だけとなっている
【0064】
この状態から温度が上昇したとき、温度の上昇に伴って水Xが膨張し、円柱66を下方へ移動させる。
【0065】
また逆に、温度が低下したとき、温度の低下に伴って水Xが収縮し、円柱66は圧縮コイルバネ74によって引張られて上方に移動する。
【0066】
このようにして、温度変化に伴って円柱66が上下に移動して、積層ゴム52がせん断変形する領域を変化させる。このため、温度変化に伴って積層ゴム52の水平剛性が変化するのを相殺して免震性能の変動を抑制することができる。
【0067】
なお、第1実施形態では、下フランジ16に形成された収納部23に円柱26が収納されており、第2実施形態では、上フランジ56に形成された収納部63に円柱66が収納されているが、第1実施形態に係る免震構造体10の構成と第2実施形態に係る免震構造体50の構成を組み合わせて、円柱26及び円柱66が設けられた構成としてもよい。
【0068】
次に第3実施形態に係る免震構造体について説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同じ構成のものは適宜省略して説明する。
【0069】
図7及び図8に示すように、本実施形態に係る免震構造体100は、円柱状の積層ゴム102と、積層ゴム102の上端及び下端に設けられた上フランジ104及び下フランジ106とによって構成されている。
【0070】
積層ゴム102は、高減衰ゴム製のゴム板108と剛板110とを上下方向に交互に積層させ、加硫接着されて一体となっている。また、積層ゴム102は、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、中実構造となっている。
【0071】
積層ゴム102の上端に設けられた上フランジ104は、円板状の部材で、積層ゴム102の上面に加硫接着されている。また、フランジ104の外周部には、複数のボルト孔105が形成されている。このボルト孔105にボルト107を挿通して、上部構造体120へ固定される。
【0072】
また、積層ゴム102の下端に設けられた下フランジ106は2段構造となっており、積層ゴム102の下面に加硫接着された小径で肉厚の小径部106Aと、小径部106Aの下部に設けられ、上フランジ104と同径の大径部106Bとによって構成されている。大径部106Bの外周部には上フランジ104と同様に複数のボルト孔105が形成されており、ボルト107を挿通して下部構造体122へ固定される。
【0073】
積層ゴム102の下方には、小径部106Aの上面から下面に向かって凹状の収納部112が形成されている。収納部112は、積層ゴム102の外周に沿って形成されており、収納部112の下端は、膨張収縮材貯留部114に連通している。膨張収縮材貯留部114は、収納部112より広幅の環状溝であり、膨張収縮材貯留部114及び収納部113の一部には水Xが貯留されている。
【0074】
また、収納部112と積層ゴム102とに跨って筒状の円柱116が上下方向に摺動自在に設けられている。ここで、円柱116の外周壁及び内周壁にはOリング118が設けられており、膨張収縮材貯留部114から収納部112にかけて貯留されている水Xは、円柱116によって密閉されている。また、円柱116は、円柱116の自重と、水Xから受ける圧力とが釣り合った高さに位置している。
【0075】
次に、本実施形態に係る免震構造体の作用について説明する。
【0076】
図9に示すように、下部構造体122が、矢印Eの方向に上部構造体120と相対移動して積層ゴム102を水平方向にせん断変形させる。このように積層ゴム102がせん断変形することで、振動が上部構造体120へ伝わるのを抑制している。
【0077】
このとき、筒状の円柱66の上端は、積層ゴム102の下端から数えて1層目の108Aの高さに位置しているので、積層ゴム102の1層目のゴム板108Aと1層目の剛板110Aの外周面は、円柱66に係止されて水平方向の移動が拘束される。従って、積層ゴム102がせん断変形する領域は、最下層から2層目のゴム板108Bより上の部分となる。
【0078】
この状態から気温が上昇すると、水Xが膨張して、円柱116を上方に移動させ、図10の状態となる。図10の状態では、円柱116は、1層目のゴム板108Aから3層の剛板110Cが水平方向に移動するのを拘束し、積層ゴム102がせん断変形する領域を減少させる。このようにして、温度変化に伴う積層ゴム102の水平剛性の変化を相殺することで免震性能の変動を抑制することができる。
【0079】
なお、本実施例では、収納部112及び膨張収縮材貯留部114は環状であったが、形状は特に制限をしない。例えば、第1実施例と同様に円柱体をくり抜いた形状であってもよい。
【0080】
(実施例)
第1実施形態に係る免震構造体10において、膨張収縮材として水を用いた場合、免震性能を一定にするためのばね定数の変化量Δκを求める。なお、計算に必要となる各設計値については、表1の通りである。
【0081】
【表1】

【0082】
計算の便宜上、積層ゴム12はゴム板18だけで構成されていると仮定し、剛板の厚み及び円柱の自重は無視する。常温を20℃としたとき、温度が20℃からT℃へ変化したときの円柱26の移動量hは(1)式となる。なお、(1)式では、hがプラスの時は拘束部材26が上に移動し、hがマイナスの時は拘束部材26が下に移動する。

・・・(1)
【0083】
ここで、温度が20℃から21℃に上昇したときの移動量h21は、(1)式からh21=5.25mmとなり、1℃上昇すると拘束部材26が5.25mm上に移動することになる。
【0084】
次に、温度が1℃変化したときに積層ゴム12のばね定数がΔκだけ変化すると仮定したとき、地震力によって積層ゴム12の水平方向にせん断力Fが作用すると、積層ゴム12のせん断変形量Lは(2)式となる。

・・・(2)
【0085】
従って、温度が21℃のときのせん断変形量L21は(3)式となる。

・・・(3)
しかし、実際には拘束部材26がh21だけ移動しているため、せん断変形する積層ゴム12の高さはH−h21だけとなる。このときのせん断変形量LH−h21は(4)式となる。

・・・(4)
【0086】
ここで、温度変化に対する免震性能を一定にするためには、LH−h21が20℃の時のせん断変形量L20と等しくなればよいので、(5)式が成り立つ。

・・・(5)
【0087】
(5)式からΔκを求めると、Δκ=1.97×10−4N/mm・K-1となる。つまり、ばね定数の変化量が上記のΔκとなる高減衰積層ゴムを選定することで、温度変化に対して一定の免震性能を有することになる。
【符号の説明】
【0088】
10 免震構造体
11 免震構造体
12 積層ゴム
14 上フランジ(フランジ)
16 下フランジ(フランジ)
18 ゴム板
18A ゴム板
18B ゴム板
18C ゴム板
20 剛板
20A 剛板
20B 剛板
22 中空部
23 収納部
24 膨張収縮材貯留部
26 円柱(拘束部材)
36 膨張収縮材貯留部
50 免震構造体
52 積層ゴム
54 上フランジ(フランジ)
56 下フランジ(フランジ)
58 ゴム板
58A ゴム板
58B ゴム板
60 剛板
60A 剛板
63 収納部
64 膨張収縮材貯留部
66 円柱(拘束部材)
100 免震構造体
102 積層ゴム
104 上フランジ(フランジ)
106 下フランジ(フランジ)
108 ゴム板
108A ゴム板
108B ゴム板
110 剛板
112 収納部
114 膨張収縮材貯留部
116 円柱(拘束部材)
X 水(膨張収縮材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム板と剛板とが交互に積層された積層ゴムと、
前記積層ゴムの積層方向の両端に設けられたフランジと、
前記フランジの少なくとも一方に形成された凹状の収納部と、
前記収納部に一部が収納された状態で前記積層ゴムの積層方向に移動して、前記積層ゴムがせん断変形する領域を変化させる拘束部材と、
前記収納部と連通する膨張収縮材貯留部と、
前記膨張収縮材貯留部に貯留され、温度変化に伴って体積を増減させ、前記拘束部材を前記積層方向へ移動させる膨張収縮材と、
を有する免震構造体。
【請求項2】
前記積層ゴムの内部には、前記フランジの中央に設けられた前記収納部と連通する中空部が形成され、前記拘束部材は、前記収納部と前記中空部に跨って上下に移動可能に設けられた柱体であることを特徴とする請求項1に記載の免震構造体。
【請求項3】
前記収納部は、前記フランジの外周部に形成され、前記拘束部材は、前記積層ゴムの外周面に沿って移動する筒状体である請求項1に記載の免震構造体。
【請求項4】
前記膨張収縮材貯留部は、前記フランジの内部に設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の免震構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−50152(P2013−50152A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187755(P2011−187755)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】