説明

免震構造

【課題】鉄筋コンクリート造の下部構造体と比較的軽量な鉄骨造の上部構造体との間に免震装置を配した際に、コストの上昇や工期の長期化を抑制し、建築計画にも影響を与えにくくする。
【解決手段】
免震建物Aは、鉄筋コンクリート造の下部構造体Bの柱上端部に下部構造体の柱の水平断面よりも大きな面を有する免震プレートEを固定し、該免震プレート上面に免震装置Dを載置あるいは固定し、該免震装置を介して鉄骨造の上部構造体Cを構築する。上部構造体Cを下方より覆う板状の天井部材24が設けられ、該天井部材は、下部構造体Bの免震プレートEよりも下方であって且つ下部構造体及び免震プレートの間に間隔S2を設けた位置で上部構造体Cに支持されている。免震プレートEと天井部材24との間には、隙間S2から風の流入を防止すると共にこれら免震プレートと天井部材との相対移動を許容する風防部材40が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の中間階に免震装置を介装した免震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より免震ピットを備え該免震ピットに免震装置を配した免震建物が存在するが、免震ピットの築造には多大なコストを要し、工期も長期化しやすいという欠点があった。そこで、例えば特許文献1のように柱の中間部に免震装置を配置したり、特許文献2のように柱頭部に免震装置を配置する等して免震ピットを省略した、いわゆる中間階免震構造が提案されている。
【0003】
免震ピットを設け1階部分も含めて免震構造とした場合、地震時の相対的変位によって上部構造体が地盤面上に載置された物や歩行者と衝突するおそれがあるが、中間階免震構造はこのような事態を回避することも可能である。また、中間階免震構造は新築時のみならず既存の鉄筋コンクリート造建物に免震装置を付加し免震構造とする場合にも比較的容易に施工ができ好ましい。
【0004】
免震構造は建物(上部構造体)の固有周期を長くして地震の揺れを建物(上部構造体)に伝えにくくするものであり、免震装置としては、積層ゴム、滑り支承、転がり支承等様々なタイプのものが開発されている。
【0005】
軽量な建物において免震装置として上部構造体の支持機能、復元機能、減衰機能の全ての機能を賄う積層ゴムを採用した場合、建物の固有周期を長くする為には積層ゴムの断面積を小さくする必要があるが、積層ゴムの断面積を小さくすると建物の荷重の支持が困難となったり、変形時に座屈が生じる虞がある。逆に、荷重を支持する為に積層ゴムの断面積を大きくすると長周期化が困難となって十分な免震効果が得られなくなる。従って、現状中低層鉄骨造の住宅等軽量な建物を免震構造とする場合は、充分な支持力も得られ固有周期の調整も容易なすべり支承型や転がり支承型を採用するのが一般的である。なおこの場合、支承及び支承を受ける受け板とは別に、復元機能部や減衰機能部を有する部材や装置を設ける必要がある。
【0006】
一方、特許文献2のように上部構造体を鉄筋コンクリート造に比べて軽量な鉄骨造とした場合、下部構造体の柱の断面積は構造計算上小さく設定することが可能である。特に、中低層の住宅の場合には他の用途の建物に比べて積載荷重を小さく見込むことができるので、柱の断面積の低減効果は大きい。
【0007】
【特許文献1】特開2001−115656号公報
【特許文献2】特開2004−60281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の通り建物の固有周期を長くし免震効果を発揮させる為に滑り支承型や転がり支承型の免震装置を採用した場合、構造計算に基づいた柱の断面積だけでは支承を受ける受け板、復元機能や減衰機能を有する部材や装置を載置する面を確保することが難しくなることがあった。
【0009】
この場合、ボルトの頭部のように下部構造体の柱頭部のみを大きくして上記免震装置の載置面を確保することは可能ではあるが、鉄筋コンクリート造の柱と一体でせり出し部を構築すると、型枠工事や配筋工事等において施工が煩雑になり工期の延期やコストの増加が生じるという問題や、せり出し部は相応の厚みが必要となり建物の計画に影響が出るという問題があった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題を解決し、鉄筋コンクリート造の下部構造体と比較的軽量な鉄骨造の上部構造体との間に免震装置を配した際に、コストの上昇や工期の長期化を抑制することができ、建築計画にも影響を与えにくい免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来技術の課題を解決する為の本発明に係る免震構造の第1の構成は、鉄筋コンクリート造の下部構造体の柱上端部に下部構造体の柱の水平断面よりも大きな面を有する免震プレートを固定し、該免震プレート上面に免震装置を載置あるいは固定し、該免震装置を介して鉄骨造の上部構造体を構築したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る免震構造の第2の構成は、前記免震装置が滑り支承型または転がり支承型であり、前記免震プレートの中心部に支持部の受け板の載置面を形成し、前記下部構造体の柱よりもせり出した周縁に復元機能部又は減衰機能部の取付部を形成したことを特徴とする。
【0013】
また、前記上部構造体を下方より覆う板状の天井部材が設けられ、該天井部材は、前記下部構造体の免震プレートよりも下方であって且つ前記下部構造体及び免震プレートの間に間隔を設けた位置で前記上部構造体に支持されていることが好ましい。
【0014】
また、前記免震プレートと天井部材との間には、これら免震プレートと天井部材の間の隙間から該天井部材と前記下部構造体の間への風の流入を防止すると共にこれら免震プレートと天井部材との相対移動を許容する風防部材が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る免震構造第1の構成によれば、免震装置を鉄筋コンクリート造の下部構造体の柱上端部に該柱の水平断面積よりも大きな面を有する免震プレートの上面に載置あるいは固定するように構成したので、鉄筋コンクリート造の下部柱全体あるいは下部柱の上端部の断面を免震装置の構成にあわせて大きくする必要がない。従って、経済的な架構を構築することができ、工期が長期化することもない。
【0016】
本発明に係る免震構造の第2の構成によれば、免震プレートの中心部すなわち下部構造体の柱で支持された部分に大きな鉛直荷重が作用する支承の受け板の載置面が形成されており、下部構造体の柱よりもせり出した周縁には大きな鉛直荷重の作用しない復元部機能又は減衰機能部の取付部が形成されているので、免震プレートを薄くすることができる。
【0017】
従って、建物の絶対高さを抑制したり、下部構造体内部への突出部のボリュームを小さくすることができ建物の計画に与える影響を低減させることができる。
【0018】
また、復元機能部又は減衰機能部の取付部がせり出しその下方が空間となっているので復元部又は減衰部の固定作業も容易に行うことができる。
【0019】
また、本発明に係る免震構造の第3の構成によれば、免震プレートの上面が下部構造体の下面と共に天井部材に覆われることとなる。このため、天井部材によって意匠性の向上が図られると共に、該免震プレートの上面に埃やごみ等が堆積することを抑制することができる。
【0020】
なお、該免震プレートや上部構造体と天井部材との間の隙間によって、地震動等に伴う免震プレートに対する上部構造体の振動は当然に許容されるものとなっている。
【0021】
また、上部構造体の下方、すなわち下部構造体間には横風等が流れ込むこととなるが、この場合、上述の如く天井部材を設けることにより、前記隙間を介して天井部材と下部構造体の間に該横風等が流入することとなり、上記横風による負圧の発生と相俟って、天井部材には、上部構造体から離間する方向への過大な外力が作用することが考えられる。これに対し、本発明に係る免震構造の第4の構成によれば、前記隙間に風防部材が設けられることとなり、これによって該隙間を通じての横風等の流入は著しく制限することができ、天井部材に作用する外力を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る免震構造の最も好ましい実施形態について図を用いて説明する。図1は本発明に係る免震構造を適用した免震建物Aの斜視図、図2は免震建物Aの主に下部構造体Bの断面図、図3は免震装置Dまわりの詳細図、図4は免震プレートEまわりの詳細図、図5は免震プレートEの固定要領を示す図、図6は免震プレートEを利用した上部構造体の施工手順を示す図である。図7は免震プレートE及びその周囲を拡大して示す平面図である。図8は免震装置D及び軒天井まわりの側面図である。図9は風防部材まわりの断面図である。図10(a)及び(b)は風防部材の他の実施例を示す断面図である。
【0023】
先ず、図1を参照して免震建物Aの全体構成を説明する。免震建物Aは3層の住宅であり、1階は玄関及び階段室以外はピロティであり、2、3階が居室となっている。また構造種別としては、下部構造体Bを構成する基礎1及び円柱(1階柱)2が鉄筋コンクリート造で、上部構造体Cを構成する2階及び3階の柱3、大梁4a〜4cからなる架構が鉄骨造で、ともに妻方向1スパン、桁行き方向2スパンで構成されている。
【0024】
次に、下部構造体Bの構成について、図1及び図2を参照して説明する。下部構造体Bは、ベタ基礎形式の基礎1を有し、基礎1から円柱2が立ち上がっている。円柱2の柱脚部2bは基礎梁1aと耐圧盤1bにより剛に固定されているが、柱頭部2aは梁で連結されておらず、円柱2は片持ち状態で突出している。円柱2の直径は上部構造体Cから作用する荷重に基づき700mmに設定されている。なお、1cはピロティの床を構成する土間コンクリートである。
【0025】
次に、図1〜図3を参照して上部構造体Cの構成について説明する。上部構造体Cにおいて、柱3は150mm角のシームレス(水平断面内に継目を持たない)角形鋼管で構成されており、平面的に円柱2と同じ位置に配置されている。柱3の側面の所定の位置にはボルト孔が穿設され後述する大梁4a〜4cが接合される梁接合部3aが形成されており、柱3の下端部には後述する滑り支承11が柱3と一体で形成されている。
【0026】
隣接する柱3どうしを連結する大梁4a〜4cはH形鋼からなる。H形鋼の両端には柱3の梁接合部3aに形成されたボルト孔に対応する位置にボルト孔が穿設された接合プレート4a1〜4c1が溶接されている。そして、梁接合部3aにメタルタッチされ高力ボルトで剛接合されている。
【0027】
柱3の梁接合部3aのうち大梁4a〜4cが接合されていない建物の外側方向の梁接合部3aには、大梁4a〜4cと同一断面のH形鋼からなる片持ち梁5a〜5cが配置され、これらの片持ち梁5a〜5cの一端に大梁4a〜4cの接合プレート4a1〜4c1と同様に構成された接合プレート5a1〜5c1が溶接されている。そして、梁接合部3aにメタルタッチされ高力ボルトで剛接合されている。
【0028】
片持ち梁5a〜5cの先端側には大梁4a〜4cと同一断面のH形鋼からなる鼻先梁6a〜6cが取り付けられている。
【0029】
H形鋼からなる小梁(不図示)が対向する大梁4a〜4cの間に適宜架け渡され、ALCパネルからなる床パネル9が前記各種梁に支持され床10が構成されている。
【0030】
鼻先梁6a〜6cのフランジには外壁パネルの支持と位置決めの為の金物(不図示)が取り付けられ、該金物によってALC(軽量気泡コンクリート)パネルからなる外壁パネル7が固定され外壁8が構成されている。
【0031】
上記片持ち梁5a〜5cや鼻先梁6a〜6cによって上部構造体Cの床10は柱3よりもせり出した状態となり、後述する免震プレートEや免震装置Dは床面の領域内に配置される。
【0032】
次に、図2、図3を参照して免震装置Dの構成について説明する。本実施例で使用される免震装置Dは滑り支承型であり、支持機能を有する滑り支承11と受け板13、復元機能を有する復元ゴム14、減衰機能を有するオイルダンパー15、で構成される。滑り支承11は柱3の下端部に柱3と一体で形成されている。滑り支承11の摺動面11aの大きさは、上部構造体Cが最大限変位した際にも上部構造体Cからの鉛直荷重が免震プレートEに対し圧縮力のみが作用し曲げが作用しないように設定されている。
【0033】
次に、図4を参照して免震プレートEの構成について説明する。免震プレートEは免震装置Dを載置或いは固定するための部材である。材質は表面に防錆塗装が施された鋼製である。尚、防錆塗装にかえて溶融亜鉛めっき等の防錆処理を施したものでも良い。形状は、外径1370mm、厚さ29mmの円盤状であり、上面には滑り支承11の移動範囲を規制する環状の突起部12が溶接されて突起部12の内部の面が受け板載置部16となっている。受け板載置部16の直径は、上部構造体Cに求められる免震効果から算定された相対的な最大変位に基づき890mmに設定されている。
【0034】
突起部12よりも外側の周縁部17には復元ゴム14、オイルダンパー15をボルト固定する為のボルト孔17aが形成されている。このボルト孔17aは等間隔で4個所(90度間隔)穿設されており、夫々対応する機能部材(復元ゴム14あるいはオイルダンパー15)のボルト孔に対応させて4個、6個の孔が穿設されている。
【0035】
受け板載置部16の中心には、グラウト注入用の注入孔16aと、レベル調整具20を操作し免震プレートEのレベルを調整する為の調整具用孔16bが穿設されている。また、免震プレートEの下面には、免震プレートEを円柱2の柱頭部2aに固着する為の複数のスタッドジベル18が突設されている。
【0036】
図4に示すように、円柱2の柱頭部2aは免震プレートEの設置レベルより若干低めにコンクリートが打設されており、またワインディングパイプ19を予め埋設することによりスタッドジベル埋設用の埋設用孔2cが形成されている。また、免震プレートEのレベル調整具20を打ち込む為のアンカー用孔2dがコンクリート硬化後に穿設されアンカー用孔2dには打込みアンカー21が打ち込まれている。
【0037】
レベル調整具20は、図4、図5に示すように、免震プレートEを支持する円形の支持プレート20a1の下面に雄ネジの切られた軸20a2を溶接し、上面に高ナット20a3を溶接して構成された支持部20aと、仮止めボルト20b1の首下に長方形の押さえプレート20b2を溶接した押さえ部20bと、からなる。
【0038】
次に、免震プレートEを固定する要領について図5を参照して説明する。免震プレートEはレベル調整具20利用し以下の要領で円柱2の上面に固定される。
【0039】
先ず、図5(a)に示すように、円柱2の柱頭部2aの所定位置にアンカー用孔2dを穿設し、アンカー用孔2dに打ち込みアンカー21を打ち込む。次に、同図(b)に示すように、打ち込みアンカー21の雌ネジにレベル調整具20の支持部20aの軸20a2を螺入し、支持プレート20a1が所定のレベルになるように調整する。
【0040】
次に、同図(c)に示すように、免震プレートEを、支持部20aと調整具用孔16bの位置が合致するようにして支持部20aに載置し、4箇所のボルト孔17a群の位置が通り芯上になるように平面的に位置決めする。そして、押さえ部20bを支持部20aの高ナット20a3に螺入し、免震プレートEを仮固定する。
【0041】
次に、同図(d)に示すように、注入孔16aより免震プレートEと円柱2を構成するコンクリートとの間の空隙2eにグラウト22を注入する。(グラウト22の固化により免震プレートEは所定の位置に固定される)
【0042】
同図(e)に示すように、グラウト22固化後、押さえ部20bを取り外す。次いで、同図(f)に示すように、調整具用孔16bにグラウト23を注入する。以上の手順を経ることで、免震プレートEを円柱2の柱頭部2aに固定することが可能である。
【0043】
次に、上部構造体C及び免震装置Dの施工手順について図3を参照して説明する。上記のようにして円柱2の上部に固定された免震プレートEの受け板載置部16には、受け板13が載置されて、受け板13の上には支承11と一体の柱3が建てられるとともに、大梁4a〜4c、片持ち梁5a〜5cを含む梁が接合され上部構造体Cの架構が構築される。そして、復元ゴム14とオイルダンパー15の一端がボルト孔17aを利用して免震プレートEの周縁部17に固定され、他端は2階の大梁4aの下フランジのボルト孔に固定される。
【0044】
また、免震プレートEよりも若干下方のレベルには軒天井(天井部材)24が2階の大梁4aから吊り下げられており、上部構造体Cの下面を覆っている。後述のとおり、軒天井24は地震時に円柱2の側面と衝突して破損しないように円柱2との間にクリアランス(隙間S1、S2(図8参照))を有しているが、免震プレートEが円柱2よりもせり出している。
【0045】
上記構成において、円柱2の断面積の算定は上部構造物Cの荷重に基づいて行い、免震装置の載置固定に必要な領域は円柱よりも大きな径の免震プレートEによって確保したので、経済的な構造を短工期で施工することができる。
【0046】
また、免震プレートEのボルト孔17aの下方は開放され空間が確保されているので復元ゴム14やオイルダンパー15の固定作業は容易に行うことができる。
【0047】
また、突起部12によって上部構造体Cの移動範囲が制限されている為、地震時に上部構造物Cが最大限変位した場合であっても、柱3は円柱2の上部の領域から外れてしまうことはなく、また、復元ゴム14やオイルダンパー15は上部構造体Cの鉛直荷重を支持する部材ではない。従って、免震プレートEは周縁部17が片持ち状態であっても大きな曲げが作用しないので厚みを持たせたり補強を施したりする必要がなく、薄く平坦な形状で充分な強度が得られる。
【0048】
また、免震プレートEが円柱2よりもせり出しているので、ピロティから上方を見上げても上部構造体Cの下面を見ることができず免震建物Aの美観を保つことができる。また、前述した通り免震プレートEは鉄筋コンクリートで構成した場合に比べ厚みが小さいので、軒天井24の設置レベルを高く設定することができ、ピロティの有効高さを大きく確保することができる。
【0049】
免震プレートEの他の用途について図6を参照して説明する。免震プレートEのボルト孔17aは、下記の要領で上部構造体Cの建方工事の際にも利用される。
【0050】
即ち、図6(a)に示すように、コ字断面で上下フランジにボルト孔17aと2階の大梁4aのフランジのボルト孔の位置に対応したボルト孔を有し、且つ高さ及びボルト孔位置が2階の大梁4aが柱3と連結された状態の最終的な位置になるように設計されている仮設金物25を、ボルト孔17aを利用して免震プレートE上に固定し、更に、仮設金物25の上に2階の大梁4aを固定する。
【0051】
次に、同図(b)に示すように、2階の大梁4aに設けた接合プレート4a1に柱3の梁接合部3aを当接しボルト接合する。なお、対向する2方向に2階の大梁4aが存在する場合は、柱3を垂直に起立させた状態で2階の大梁4aの横方向(図の前後方向)にスライドさせて2階の大梁4aの間にはめ込みボルト接合する。
【0052】
2階の大梁4aと柱3とを接合した後、仮設金物25を免震プレートE及び2階の大梁4aからはずすことで、同図(c)に示すように、2階の大梁4aを柱3で支持することが可能である。
【0053】
このような施工方法とすることで、柱脚部をアンカーボルトで固定せず不安定な上部構造体Cの柱3の下端部を安定して保持しておくことができ、その後の建方工事を精度よく速やかに行うことができる。
【0054】
また、図7及び図8に示す如く、上部構造体Cの最下に位置する大梁4aには、複数の懸垂部材31が取り付けられ、各懸垂部材31の下端には吊プレート32が設けられている。また、梁行き方向に隣り合う吊プレート32の下端部に亘って野縁受け33が架設されており、これら複数の野縁受け33の下部に亘って野縁34が架設されている。各野縁34は、野縁受け33と互いに直交する状態に架設されており、これによってこれら野縁受け33と野縁34により格子状の下地35が組み上げられている。また、これら野縁受け33及び野縁34は下部構造体Bの免震プレートEよりも下方となる位置で支持されており、野縁34の下部に複数枚の板状の天井部材(上述の軒天井24のことを示しており、以下では当該部材を天井部材24と称することとする)24が取り付けられている。なお、本実施形態においては大梁4aに懸垂部材31等を懸架した構成が開示されているが、大梁間に架設される小梁に当該懸垂部材31等を懸架する構成も採用可能である。
【0055】
また、上部構造体Cの外壁8の下端部も上部構造体Cの大梁4aよりも下方まで延設されており、該下端部には、天井部材24を保持する保持具8aが設けられている。
【0056】
該天井部材24は、けい酸カルシウムを主材として平板状に形成されており、野縁34及び保持具8aに支持された状態で敷設されている。また、下部構造体Bとオーバラップすることとなる天井部材24は、該下部構造体Bの形状に沿う円弧部37を備えており、該天井部材24を敷設すると円弧部37の縁部と下部構造体Bの外周面の間には充分な隙間S1が介在する。また、該天井部材24は免震プレートEよりも下方となる位置で支持されており、これによって天井部材24と免震プレートEの間にも充分な隙間S2が介在することとなる。また、該天井部材24の円弧部37の半径は免震プレートEの半径と同程度若しくは僅かに小さく設定されており、これによって、免震プレートEの最外縁部と天井部材24の円弧部37とは互いに対向している。
【0057】
上記隙間S1、S2は地震動等に伴う下部構造体Bや免震プレートEに対する上部構造体Cの相対移動のための遊びとなり、これによって下部構造体Bや免震プレートEと天井部材24との衝突・干渉は防止される。
【0058】
また、上記実施形態によれば、免震プレートEの上面は上部構造体Cの下面と共に天井部材24に覆われる。このため、天井部材24によって上部構造体Cの下面を覆い隠すことによって、該上部構造体Cの下方となる1階ピロティの意匠性の向上が図られると共に上部構造体Cの下面を平坦なものとすることによって、当該1階ピロティを通過する横風の通り道の安定化が図られ、さらには、該免震プレートEの上面に埃やごみ等が堆積することが抑制されている。
【0059】
また、上述の如く、免震プレートEと天井部材24との間には隙間S2が確保されていることにより当該隙間S2を介して天井部材24の上方となる該天井部材の裏側の空間にまで横風等が流れ込み、これによって上記横風により天井部材24に作用する負圧と相俟って、天井部材24には該天井部材24を上部構造体Cから離間させようとする外力が過大に作用することが考えられる。かかる事態に対応すべく、本実施形態においては、該免震プレートEと天井部材24との間の隙間S2には風防部材40が設けられている。
【0060】
図9に示す如く、該風防部材40は、天井部材24の円弧部37に取り付けられており、当該円弧部37に沿って立上る円弧状の立上り部41と、該立上り部41の上端部から屈曲して免震プレートEの下面に沿う屈曲部42とを備えている。下部構造体Bに対する上部構造体Cの相対移動を確保すべくこれら風防部材40の屈曲部42と免震プレートEの下面との間にはきわめて僅かな間隔が形成されるものの、立上り部41によって免震プレートと天井部材24の間の隙間S2は略閉鎖され、これによって該隙間S2を通じての横風等の流入は著しく制限され、天井部材24に作用する上述の如き外力は著しく減少することとなる。また、該隙間S2からの埃や虫等の侵入も制限され、上部構造体Cの支承11の摺動面11cの滑り面となる免震プレートEの上面を清浄に保つことが可能となるばかりでなく、清掃困難な天井部材24の裏側も長期にわたって清浄に維持されることとなる。
【0061】
なお、免震プレートEと天井部材24の互いの相対移動が可能であれば、免震プレートEの下面に風防部材40の屈曲部42を接触させて地震時等の際に当該屈曲部42を免震プレートE裏面上で滑らせることとする構成を採用することも可能である。これによれば、隙間S2は略完全に遮断され、当該隙間S2を通じての天井部材24の裏側への横風や埃等の流入は略完全に遮断されることとなる。
【0062】
図10(a)〜図10(d)は、上記風防部材40の他の実施形態を示している。図10(a)に示す如く、風防部材40は、免震プレートEの下面に取り付ける構成を採用することも可能である。該風防部材40は、免震プレートEの下面に接触する接触部44と、該接触部44の内側の端部から垂下される垂下部45と、該垂下部45の下端部から屈曲して天井部材24を支持する野縁34の上面に沿う屈曲部46とを備える断面コ字状に形成されている。本実施形態によれば、免震プレートEと天井部材24の間の隙間S2は野縁34と当該風防部材40によって略遮断されることとなり、当該天井部材24の裏側への横風の流入は著しく制限されるものとなる。
【0063】
また、図10(b)に示す風防部材40は、シート状に形成されて免震プレートEの最外縁部に取り付けられて免震プレートEの円弧部37を覆う位置まで垂れ下がっており、該風防部材40によって免震プレートEと天井部材24との間の隙間S2は塞がれる。これによって、該隙間S2を通じての横風の流入は著しく制限されることとなる。
【0064】
また、図10(c)は、免震プレートEと天井部材24とがオーバラップする位置に野縁34を設けない構成であって、風防部材40は、免震プレートEの縁部に被さる被装部47と、該被装部47の端部から垂下する垂下部48と、垂下部48の先端部から屈曲して天井部材24の裏面に僅かな隙間を介して対向する対向部49とを備えている。該垂下部48により免震プレートEと天井部材24との間の隙間S2は略遮断され、対向部49と天井部材24との間の僅かな隙間のみが存することとなり、これによって、天井部材24の裏側の空間に向けての横風の侵入は著しく遮断されるものとなる。
【0065】
また、図10(d)は、上記図10(c)の風防部材40の垂下部48を短小化させると共に、対向部49の下面から弾性素材からなる突出部50が設けられており、該突出部50の先端部が天井部材24の円弧部37に当接している。これによって、免震プレートEと天井部材24との間の隙間S2は遮断されることとなり、天井部材24の裏側の空間に向けての横風の侵入は遮断される。また、地震動等により上部構造体Cが振動する場合であっても、弾性素材からなる突出部50が上部構造体Cの振動に伴って適宜変形することとなるため、該突出部50の天井部材24への当接が上部構造体Cの振動を遮断するものとはならない。また、かかる構成によれば、地震時等に下部構造体Bに対して上部構造体Cが上下動する場合であっても、天井部材24の上下動は風防部材40の対向部より下方でなされ、当該上下動によって天井部材24が風防部材40に当接することはなく、これによって、これら天井部材24と風防部材40の接触によるこれらの部材及びこれらの周囲の部材の損傷も免れることとなる。
【0066】
また、該風防部材40は、ゴム等の伸縮性を有する材料により形成し、一方を免震プレートEに止めつけると共に他方を天井部材24に止めつける構成を採用することも可能である。かかる構成によれば、風防部材40によって免震プレートEと天井部材24との間の隙間S2は完全に閉鎖され、該隙間S2を通じての横風の流入は略完全に遮断される。また、風防部材40は伸縮性を有しているので、該風防部材40が上部構造体Cに支持される天井部材24と下部構造体Bに支持される免震プレートEに止めつけられると言えども、上部構造体Cの相対移動に伴って風防部材40が伸縮することとなり、上部構造体Cの地震動等の振動に対する応答性能は十分に発揮されるものとなるのである。
【0067】
なお、図10(b)に示す免震プレートEは、鉄筋コンクリート製であって下部構造体Bと一体に形成されている。かかる免震プレートEを採用する場合であっても、上記本願発明の実施形態と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の免震構造は、下部構造体が2層以上である建物や、上部構造体が鉄骨同様に軽量な木造で構成された建物にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る免震構造を適用した免震建物Aの斜視図である。
【図2】免震建物Aの主に下部構造体Bの断面図である。
【図3】免震装置Dまわりの詳細図である。
【図4】免震プレートEまわりの詳細図である。
【図5】免震プレートEの固定要領を示す図である。
【図6】免震プレートEを利用した上部構造体の施工手順を示す図である。
【図7】免震プレートE及びその周囲を拡大して示す平面図である。
【図8】免震装置D及び軒天井まわりの側面図である。
【図9】風防部材まわりの断面図である。
【図10】(a)及び(b)は風防部材の他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
A…免震建物
B…下部構造体
C…上部構造体
D…免震装置
E…免震プレート
S1…隙間
S2…隙間
1…基礎
1a…基礎梁
1b…耐圧盤
1c…土間コンクリート
2…円柱(1階柱)
2a…柱頭部
2b…柱脚部
2c…埋設用孔
2d…調整具用孔
2e…空隙
3…柱
3a…梁接合部
4a〜4c…大梁
4a1〜4c1…接合プレート
5a〜5c…片持ち梁
5a1〜5c1…接合プレート
6a〜6c…鼻先梁
7…外壁パネル
8…外壁
8a…保持具
9…床パネル
10…床
11…支承
11a…摺動面
12…突起部
13…受け板
14…復元ゴム
15…オイルダンパー
16…受け板載置部
16a…注入孔
16b…レベル調整孔
17…周縁部
17a…ボルト孔
18…スタッドジベル
19…ワインディングパイプ
20…レベル調整具
20a…支持部
20a1…支持プレート
20a2…軸
20a3…高ボルト
20b…押さえ部
20b1…仮止めボルト
20b2…押さえプレート
21…打込みアンカー
22、23…グラウト
24…軒天井(天井部材)
25…仮設金物
33…野縁受け
34…野縁
35…下地
40…風防部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の下部構造体の柱上端部に下部構造体の柱の水平断面よりも大きな面を有する免震プレートを固定し、該免震プレート上面に免震装置を載置あるいは固定し、該免震装置を介して鉄骨造の上部構造体を構築したことを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記免震装置が滑り支承型または転がり支承型であり、前記免震プレートの中心部に支持部の受け板の載置面を形成し、前記下部構造体の柱よりもせり出した周縁に復元機能部又は減衰機能部の取付部を形成したことを特徴とする請求項1に記載した免震構造。
【請求項3】
前記上部構造体を下方より覆う板状の天井部材が設けられ、該天井部材は、前記下部構造体の免震プレートよりも下方であって且つ前記下部構造体及び免震プレートの間に間隔を設けた位置で前記上部構造体に支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記免震プレートと天井部材との間には、これら免震プレートと天井部材の間の隙間から該天井部材と前記下部構造体の間への風の流入を防止すると共にこれら免震プレートと天井部材との相対移動を許容する風防部材が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の免震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−30429(P2009−30429A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148707(P2008−148707)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】