説明

免震構造

【課題】免震動作時において、保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することができる免震構造を提供する。
【解決手段】保護対象物8を保持する対象物保持部材4と、対象物保持部材4の下方に配置され、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材10と、すり鉢状に凹んだ凹円錐面42を有する受け皿部40と、凹円錐面42に沿って転動することができる球状体20を転動自在に保持する球状体保持具14とを有し、受け皿部40と球状体保持具14のいずれか一方が基礎支持部材10の上側に固定され、他方が対象物保持部材4の下側に固定された免震装置32とを備え、凹円錐面42上に球状体20が凹円錐面42に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材44が貼着された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持する電子機器等の保護対象物を、免震動作により地震等の揺れから保護することができる免震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来はすり鉢状に凹んだ凹円錐面を用いた免震装置としては、特許文献1に示すようなものがあったが、後述するような免震キャビネットに用いたものとは技術分野が全く異なり、その構成や作用や効果も全く異なるものであった。
【特許文献1】特開2000−120782
【0003】
そこで以下に、上記特許文献1の技術とは異なる、すり鉢状に凹んだ凹円錐面を用いた免震装置をキャビネットに用いた、他の従来の免震構造としての免震キャビネットについて説明する。
【0004】
図9は、従来の免震キャビネット2の内部構造を示す側面断面図である。同図に示すように、免震キャビネット2は、外側ケース3と、外側ケース3内に配置される電子装置保護箱4と、この電子装置保護箱4に対して免震動作を行なう免震装置6を備えている。
【0005】
このような免震キャビネット2は、その免震装置6により、電子装置保護箱4内に保持される電子機器8等の保護対象物に対して、地震等の揺れによる衝撃加重や振動等の外力の伝達を軽減し、電子機器8等の保護対象物を地震等の揺れから保護するようになっていた。
【0006】
免震装置6は、外側ケース3の底板10の上面と、電子装置保護箱4の底板12の下面との間に設置されている。この免震装置6は、図10に示すような、外側ケース3の底板10の上面に固定された4つのボール保持具14と、図11に示すような、電子装置保護箱4の底板12の下面に固定された4つの受け皿部16とを備えて構成されている。
【0007】
4つの受け皿部16のそれぞれの中心点Pは、その水平方向の位置が、図10に示すボール保持具14それぞれが保持するボール20の中心位置に一致するよう配置されて固定されている。
【0008】
受け皿部16は、図12に示すように、浅いすり鉢状の凹円錐面18を有している。
また、ボール保持具14は、図13に示すように、ボール20を転動自在に保持することができるように構成されている。
【0009】
免震装置6は、図9に示すように、球面と円錐面とが接触するので、その4つのボール保持具14に保持されたボール20の頂点20aと同心円状の周辺部と、受け皿部16の凹円錐面18の中心点Pと同心円状の周辺部同士が接触して、この受け皿部16のそれぞれを介してボール保持具14のそれぞれが、下方から電子装置保護箱4及び電子機器8を支持するようになっている。
【0010】
このような免震装置6は、地震等による水平方向の揺れが生じた場合に、その4つのボール保持具14のそれぞれのボール20が、対応する受け皿部16の凹円錐面18に接触しながら転がるようになっているので、ボール保持具14と受け皿部16とが略水平方向成分に相対移動するようになっている。
【0011】
このため、地震等による外側ケース3の水平方向の揺れは、少しくらいの揺れであれば、上記ボール保持具14と受け皿部16との相対移動により電子装置保護箱4に伝達され難いような構造になっているので、免震装置6の免震動作により、電子装置保護箱4が地震等によるその水平方向の揺れに対して、揺れ難くできるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したような従来の免震キャビネット2においては、一定以上の大きい地震等による大きい揺れを受けた場合には、電子装置保護箱4と外側ケース3との間の相対移動量が大きくなるため、ボール保持具14と受け皿部16との間の相対移動量が許容範囲内に収まらなくなって、ボール保持具14のボール20が受け皿部16から外れて、保護対象物を地震等による大きい揺れから保護できなくなるおそれがある。
【0013】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みて、免震動作時において、保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することができる免震構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明による免震構造は、
保護対象物を保持する対象物保持部材と、
前記対象物保持部材の下方に配置され、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材と、
すり鉢状に凹んだ凹円錐面を有する受け皿部と、前記凹円錐面に沿って転動することができる球状体を転動自在に保持する球状体保持具とを有し、前記受け皿部と前記球状体保持具のいずれか一方が前記基礎支持部材の上側に固定され、他方が前記対象物保持部材の下側に固定された免震装置と
を備え、
前記凹円錐面上に前記球状体が前記凹円錐面に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材が貼着されたことを特徴とするものである。
【0015】
また上記課題を解決するために、本発明による免震構造は、
保護対象物を保持する対象物保持部材と、
前記対象物保持部材を収容し、地震時には地面と一体となって動く底板を有する外側ケースと、
すり鉢状に凹んだ凹円錐面を有する受け皿部と、前記凹円錐面に沿って転動することができる球状体を転動自在に保持する球状体保持具とを有し、前記受け皿部と前記球状体保持具のいずれか一方が前記外側ケースの底板の上側に固定され、他方が前記対象物保持部材の下側に固定された免震装置と
を備え、
前記凹円錐面上に前記球状体が前記凹円錐面に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材が貼着されたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明による免震構造は、前記摩擦抵抗が大きな素材として、低反発弾性素材を用いたことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明による免震構造は、凹円錐面を有する前記受け皿部及び/又は前記シート部材の中心最深部に前記球状体の一部が嵌合する穴部が形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明による免震構造は、前記免震装置の免震動作による前記対象物保持部材の衝撃又は振動を緩和する緩衝部材を前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間に備えたことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明による免震構造は、前記免震装置による免震動作時の、前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間の互いに直交する水平二方向の相対直線移動を許容して、前記対象物保持部材の垂直軸線回りの回転動作を規制する回転規制装置を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明による免震構造は、前記免震装置による免震動作時の、前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間の水平方向の相対移動の範囲を規制する移動規制装置を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
このような本発明に係る免震構造によれば、
保護対象物を保持する対象物保持部材と、
前記対象物保持部材の下方に配置され、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材と、
すり鉢状に凹んだ凹円錐面を有する受け皿部と、前記凹円錐面に沿って転動することができる球状体を転動自在に保持する球状体保持具とを有し、前記受け皿部と前記球状体保持具のいずれか一方が前記基礎支持部材の上側に固定され、他方が前記対象物保持部材の下側に固定された免震装置と
を備え、
前記凹円錐面上に前記球状体が前記凹円錐面に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材が貼着されたことにより、
免震動作時において、保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することができる。
【0022】
また、このような本発明に係る免震構造によれば、
保護対象物を保持する対象物保持部材と、
前記対象物保持部材を収容し、地震時には地面と一体となって動く底板を有する外側ケースと、
すり鉢状に凹んだ凹円錐面を有する受け皿部と、前記凹円錐面に沿って転動することができる球状体を転動自在に保持する球状体保持具とを有し、前記受け皿部と前記球状体保持具のいずれか一方が前記外側ケースの底板の上側に固定され、他方が前記対象物保持部材の下側に固定された免震装置と
を備え、
前記凹円錐面上に前記球状体が前記凹円錐面に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材が貼着されたことにより、
免震動作時において、保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することができる。
【0023】
また、本発明の免震構造は、前記摩擦抵抗が大きな素材として、低反発弾性素材を用いたことにより、
免震動作時において、前記保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することを、さらに向上することができる。
【0024】
また、本発明の免震構造は、凹円錐面を有する前記受け皿部及び/又は前記シート部材の中心最深部に前記球状体の一部が嵌合する穴部が形成されていることにより、
免震動作時において、前記保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することを、さらに向上することができる。
【0025】
また、本発明の免震構造は、前記免震装置の免震動作による前記対象物保持部材の衝撃又は振動を緩和する緩衝部材を前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間に備えたことにより、
免震動作時において、前記保護対象物を保持する対象物保持部材と、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材との間の水平方向の相対移動を適度に抑制することを、やはり向上することができる。
【0026】
また、本発明の免震構造は、前記免震装置による免震動作時の、前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間の互いに直交する水平二方向の相対直線移動を許容して、前記対象物保持部材の垂直軸線回りの回転動作を規制する回転規制装置を備えたことにより、
対象物保持部材が垂直軸線回りに回転するのを防止して、対象物保持部材の角部等が外側ケースの内壁に衝突すること等を防止することができる。
【0027】
また、本発明の免震構造は、前記免震装置による免震動作時の、前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間の水平方向の相対移動の範囲を規制する移動規制装置を備えたことにより、
対象物保持部材が外側ケースの内壁に衝突したり、ボール支持部と受け皿部との間の相対移動量が許容範囲内に収まらなくなってしまったりすることを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る免震構造を実施するための最良の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
図1から図8は、本発明の一実施の形態に係る免震キャビネット30(免震構造)について説明するために参照する図である。従来と同様の部分には同じ符号を用いて説明し、従来と同様の構成についての重複する説明は省略するものとする。
【0029】
本実施の形態に係る免震キャビネット30においても、電子装置保護箱4内に載置される電子機器8等の保護対象物に対して、地震等の揺れによる衝撃加重や振動等の外力が伝わるのを抑制し、電子機器8等の保護対象物を保護するようになっている点は、従来と同様である。
【0030】
本実施の形態に係る免震キャビネット30は、図1に示すように、前記従来の免震キャビネット2の免震装置6の代わりに、免震装置6とは異なるように構成された免震装置32を備えている。
【0031】
免震キャビネット30の免震装置32は、図2に示すような、外側ケース3内側の底板10(基礎支持部材)の上面に固定された、従来と同様の4つのボール保持具14(球状体保持具)(図10,13参照)と、図3に示すような、電子装置保護箱4(対象物保持部材)の底板12の下方から見た面に固定された、従来の受け皿部16とは異なる構成の4つの受け皿部40とを備えて構成されている。
【0032】
受け皿部40は、図4に示すように、その凹円錐面42上に、ボール保持具14が保持する転動ボール20(球状体)が凹円錐面42に沿って転動し難くなるような、摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材44が貼着されている。このようなシート部材44を形成する素材としては、例えば、プラスチック製の合成ゴム等が用いられるが、この合成ゴム等には、弾性に富むゴムのような性質と、粘性を有し弾性が少ない粘土のような性質とを合わせた性質を持つ、低反発性弾性素材を用いることができる。
【0033】
このような低反発性弾性素材を用いたシート部材44は、外力を受けてもほとんど反発せずに、その反発エネルギーを吸収して熱に変換するので、例えば同じ低反発性弾性素材で作ったボールを固い平面上に落としたとすると、硬い平面に当たった瞬間は変形して熱を発生するが、すぐに元の形に復元して、弾性に富むゴムボールのように弾んで(反発して)高い高さ迄跳ね上がることがない性質を有する材料で出来ている。
【0034】
このようなシート部材44に用いる低反発性弾性素材としては、例えば、内外ゴム株式会社製の「ハネナイト」(商品名、登録商標)等を用いることができる。この商品は、常温域(5〜35°C)で優れた制震性能を発揮し、その反発弾性率としては約10%未満のものとなっている。
なお、このような商品は例示であって、この商品と同様の性質を有する低反発性弾性素材であれば、この商品に限定する必要は無いことはいうまでもない。
【0035】
また図1の免震装置32において、受け皿部40には、図4に示すその凹円錐面42の中心最深部(図中最上部)に、図13に示すボール保持具14に転動(ころがり)自在に支持された、転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部が嵌合する穴部46が形成されている。また、シート部材44における受け皿部40の穴部46に対応する位置にも、穴部46とほぼ同じ直径の穴部48が形成されている。
【0036】
ボール保持具14の転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部は、通常時においては、このような受け皿部40及びシート部材44の穴部46,48に、転動ボール20の直径よりは小さい径で嵌合しており、一定以上の大きな地震による加速度が加わったときに動作する免震装置32の免震動作時には、上記嵌合が外れることが可能になっている。
【0037】
受け皿部40及びシート部材44の穴部46,48の直径は、例えば、震度4以上の地震における(25〜80gal以上の)加速度を受けたときに、転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部との嵌合が外れるように設定することができる。すなわち、電子機器等の保護対象物を安全に保護できる範囲を越えた加速度を受けたときに、転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部との嵌合が外れて、その加速度を吸収する免震動作ができるように設定することができる。
【0038】
また、免震キャビネット30は、図1に示すように、移動規制装置49を備えている。この移動規制装置49は、図1,2に示す略円筒状の受け部材50と、図1,3に示す突出部材52とを備えて構成されている。
【0039】
移動規制装置49の受け部材50は、図5に示すように、円筒部54を有しており、この円筒部54の下端部が外側ケース3の底板10の上面に固定されている。この円筒部54の上端部には、その断面形状が円筒部54の外周から半径内方に一定の厚さで一定の長さだけ張り出す円環状の張り出し部56が形成されている。また、枠部材50の円筒部54の内周面には、緩衝材としてのシート部材60が貼り付けられている。
このシート部材60も、前記シート部材44と同じ低反発性弾性素材により形成してもよいが、その素材に限定する必要はない。
【0040】
また、図6に示すように、移動規制装置49の突出部材52は、その上端部が電子装置保護箱4の底板12の下面に固定される軸部62と、この軸部62の下端部に固定されたフランジ部64を有している。突出部材52は、図1に示すように、免震装置32による免震動作時に、受け部材50の円筒部54の内側面に貼り付けられた、シート部材60の内側の範囲内を略水平に移動することができるようになっている。
【0041】
また、免震キャビネット30は、図1に示すように、外側ケース3の上板34と電子装置保護箱4との間に、回転規制装置70と緩衝板72(緩衝部材に相当)を備えている。回転規制装置70は、図7に示すように、計4組のスライド装置76と、1枚の連結板78を備えて構成されている。
【0042】
回転規制装置70におけるスライド装置76のそれぞれは、図8に示すように、レール部材80と、このレール部材80にそれを包むように嵌合した状態で、このレール部材80の長さ方向に沿って滑動するスライド部材82を備えて構成されている。
【0043】
そして、回転規制装置70は、図1に示すように、下段の2組のスライド装置76のレール部材80が、電子装置保護箱4の上面に固定されており、上段の2本のスライド装置76のレール部材80が、緩衝板72の下面に固定されている。また、緩衝板72は、その上面が外側ケース3の上板34の下面に固定されている。
【0044】
回転規制装置70は、図7及び図8に示すように、互いに平行となるように水平に配置した2本のスライド装置76の組み合わせ同士が、互いに直交する井桁状に上下に重ねて配置されている。また、上段の2組と下段の2組のスライド装置76のスライド部材82の背面部82aは連結板78の表裏に固定されており、上段の2組と下段の2組のスライド装置76は、その連結板78を介して高さ方向に重ねて一体的に固定されている。
【0045】
このような本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、図4に示すように、免震装置32の受け皿部40の凹円錐面42及びシート部材44の中心最深部に、ボール保持具14の転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部が嵌合する穴部46,48が形成されているので、一定以上の大きな加速度の地震が加わったときの免震装置32による免震動作時において、転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部が穴部46,48から外れる際に、地震等の揺れのエネルギーが吸収されるため、免震動作時における電子装置保護箱4と外側ケース3との間の水平方向の相対移動量を適度に抑制することができる。
【0046】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、図4に示すように、免震装置32の受け皿部40の凹円錐面42上に低反発性弾性素材のシート部材44が貼着されているので、一定以上の大きな加速度の地震が加わったときの免震装置32による免震動作時において、ボール保持具14の転動ボール20が、受け皿部40の凹円錐面42上のシート部材44を凹ませて沈み込みながら転動するようになる。
【0047】
このため、転動ボール20がシート部材44を凹ませて沈み込みながら転動することにより、地震等の揺れのエネルギーを吸収するようになるため、免震動作時における電子装置保護箱4と外側ケース3との間の水平方向の相対移動量を適度に抑制することができる。このとき、免震動作時における電子装置保護箱4と外側ケース3との間の水平方向の相対移動量をあまり抑制し過ぎると、免震動作が失われてくるので、そこまでいかない程度にその抑制程度を、シート部材44の厚さや性質により設定することができる。
【0048】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、図1に示すように、外側ケース3の上板34と電子装置保護箱4との間に緩衝板72を備えているので、一定以上の大きな加速度の地震が加わったときの免震装置32による免震動作時に、電子装置保護箱4が、免震装置32の受け皿部40の凹円錐面42の形状に追従して水平移動することにより生じる上下動の衝撃又は振動が、緩衝されるようにすることができる。
【0049】
また、このような緩衝板72の、上下動の衝撃又は振動を緩衝する動作は、電子装置保護箱4が免震装置32の受け皿部40の凹円錐面42の形状に追従して動くのを抑制する動作としても働くので、結局、免震動作時における電子装置保護箱4と外側ケース3との間の水平方向の相対移動量を、上部の緩衝板72と、下部の受け皿部40を有する免震装置32とが協働して抑制することができる。
【0050】
このことにより、電子装置保護箱4内の電子機器等の保護対象物に、上部と下部のバランスがとれた(保護対象物が縦長の場合でも倒れが生じない)、上下方向にわたってほぼ均一の免震効果を与えることができる。すなわち、電子装置保護箱4の下部の免震装置32だけがあって、上部の緩衝板72が無い場合のように、免震効果が上部と下部でバランスが悪いものとなって、上下方向にわたってほぼ均一の免震効果を与えることができなくなることを防止することができる。。
【0051】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、外側ケース3の上板34と電子装置保護箱4との間に、回転規制装置70を備えているので、図7に示すように、電子装置保護箱4が、回転規制装置70のスライド装置76に沿ってのみ移動するように規制されているので、図7の紙面に垂直な電子装置保護箱4の垂直軸線回りの矢印R方向の回転を防止して、電子装置保護箱4の角部等が外側ケース3の内壁に衝突すること等を防止することができる。
【0052】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、図1に示すように、電子装置保護箱4と外側ケース3との間の相対移動の範囲を規制する移動規制装置49を備えているので、突出部52のフランジ部64が枠部材50の内周面の緩衝材60に当接する距離以上移動することが規制されるので、電子装置保護箱4が外側ケース3の内壁に衝突したり、ボール保持具14と受け皿部40との間の相対移動量が許容範囲を越えてしまったりすることを確実に防止することができる。
【0053】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、移動規制装置49の受け部材50の円筒部54の内周面に緩衝材60が貼り付けられているので、免震動作時において、突出部材52のフランジ部64の外周面が受け部材50の内周面の緩衝材60に衝突するときにその衝撃が吸収されるようになっている。
【0054】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30によれば、移動規制装置49は、図5に示すように、その受け部材50に円環状の張り出し部56が設けられていると共に、図6に示すように、突出部材52がフランジ部64を有するようになっている。このため、突出部材52は、図1に示すように、免震装置32による免震動作時の水平移動動作が、受け皿部40の凹円錐面42の形状に追従して、上下動を伴って行なわれるとしても、この突出部材52のフランジ部64が、図5に示す受け部材50の円筒部54の張り出し部56を乗越えて外れてしまうことが防止されるようになっている。
【0055】
なお、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、免震装置32のボール保持具14が外側ケース3の底板10の上面に固定され、受け皿部40が電子装置保護箱4の底板12の下面に固定されていたが、受け皿部40が外側ケース3の底板10の上面に固定され、ボール保持具14が電子装置保護箱4の底板12の下面に固定されていてもよい。
【0056】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、例えば、震度4以上の地震における加速度(25〜80gal以上の)を受けたときに、転動ボール20の頂点20aと同心円状の周辺部との嵌合が外れるように受け皿部40及びシート部材44の穴部46,48の直径を設定することができるよう記載したが、電子機器の種類によって、震度4以上又は以下の震度における加速度を受けたときにも上記嵌合が外れるように上記穴部46,48の直径を設定するようにしてもよい。
【0057】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、シート部材44を形成する素材として、前記「ハネナイト」のような低反発性弾性素材を用いた場合について説明したが、低反発性弾性素材に限定する必要は無く、転動ボール20が凹円錐面42に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材であれば、他のどのような素材を用いてもよい。
【0058】
また、低反発性弾性素材を用いる場合であっても、上記「ハネナイト」に限定する必要は無く、同様の性質を有する低反発性弾性素材であれば、上記「ハネナイト」以外のどのような低反発性弾性素材を用いてもよい。
【0059】
そして、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、低反発性弾性素材の「ハネナイト」の反発弾性率としては約10%未満のものと記載したが、反発弾性率は約10%未満に限定する必要は無く、低反発性弾性素材の反発弾性率は約10%未満以外のどのような値であってもよいことはいうまでもない。
【0060】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、図4に示すように、免震装置32の受け皿部40には穴部46が形成され、この受け皿部40の凹円錐面42上のシート部材44にも穴部48が形成されていたが、穴部48のみ、又は穴部46,48の両方を形成しないようになっていてもよい。この場合には摩擦抵抗が大きな素材を用いたシート部材44の弾性変形によってのみ免震動作が行われる。
【0061】
そして、このときにシート部材44の厚さを大きくすれば、平静時はボール保持具14の転動ボール20の頂点20aを含むその周辺部が、電子装置保護箱4の重量のために、シート部材44の中心最深部を凹ませてそこに沈み込んでいるので、前記シート部材44の中心部に穴があった場合と同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、図1に示すように、緩衝装置として緩衝板72を備えていたが、このような緩衝板72の代わりに、空気圧ダンパ等の他の緩衝部材を備えるようになっていてもよい。
【0063】
或は、緩衝板72を備えないようにして、回転規制装置70の上段のスライド装置76のレール部材80を、直接、外側ケース3の上板34の下面に固定し、図8に示すような、回転規制装置70の上段のスライド装置76と下段のスライド装置76とを連結する非緩衝性の連結板78の代わりに、緩衝性を有する板部材を用いるようにしてもよい。
【0064】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、図7及び図8に示すように、回転規制装置70は、計4本のスライド装置76と、1枚の連結板78を備えて構成されていたが、回転規制装置70は、このような構成のものに限定されず、他の構成を用いてもよい。
【0065】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、回転規制装置70と緩衝板72を備えていたが、これら回転規制装置70と緩衝板72を備えないで、上板34と電子装置保護箱4の上板4aとの間には空間があるだけにしてもよい。この場合には、免震動作時の電子装置保護箱4の万一の倒れを防止するために、外側ケース3と電子装置保護箱4の上部壁板部同士の間に他の緩衝部材を設けてもよいが、設けなくともよい。
【0066】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、移動規制装置49は、受け部材50と突出部材52とを備えて構成されていたが、移動規制装置49は、このような構成のものに限定されず、他の構成を用いてもよい。
【0067】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、移動規制装置49の受け部材50の円筒部54の内周面に緩衝材60が貼り付けられていたが、突出部材52のフランジ部64の外周面に緩衝材が貼り付けられていても良い。或いは、移動規制装置49の受け部材50の円筒部54の内周面と、突出部52のフランジ部64の外周面の両方に緩衝部材が貼り付けられていても良い。
【0068】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、移動規制装置49を備えていたが、移動規制装置49を備えないようになっていてもよい。
【0069】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、電子装置保護箱4(対象物保持部材)に電子装置8(保護対象物)が保持されるようになっていたが、電子装置8以外の保護対象物が保持されるようになっていてもよい。また電子装置保護箱4の内部に1枚の棚があったが、2枚以上あってもよく、或は1枚も無くともよい。
【0070】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、電子装置保護箱4が用いられていたが、このような電子装置保護箱4の代わりに棚や台座等を備えて、このような棚や台座等の上に保護対象物が載置して保持されるようになっていてもよい。このように、本発明における対象物保持部材の概念には、前記電子装置保護箱4の他に、棚や台座、或は板状部材等の、他のどのようなものも含ませることができる。
【0071】
また、本実施の形態に係る免震キャビネット30においては、外側ケース3が用いられていて、その外側ケース3には上板34や、その上板34の周部とその底板10の周部との間に壁板部が設けられていたが、地震時に地面と一体となって動く基礎支持部材としては底板10のみがあればよく、上記上板34や壁板部は必ずしも無くともよい。
【0072】
すなわち本発明においては、外側ケース3のようなキャビネット状の部材は必ずしも必要ではなく、地震時に地面と一体となって動く基礎支持部材の概念には、キャビネット状の部材の他に、受け皿や台座、或は板状部材等の、他のどのようなものも含ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態に係る免震キャビネット30を示す側面断面図である。
【図2】図1に示す外側ケース3内側の底板10の上面、ボール保持具14、及び移動規制装置49の受け部材50を示す図である。
【図3】図1に示す電子装置保護箱4の底板12の下面、受け皿部40、及び移動規制装置49の突出部材52を示す電子装置保護箱4の底面図である。
【図4】図3に示す受け皿部40のC−C線矢視断面図である。
【図5】図2に示す受け部材50のB−B線矢視断面図である。
【図6】図3に示す突出部材52のD−D線矢視断面図である。
【図7】図1に示す上板34及び緩衝板72を除いた外側ケース3、電子装置保護箱4、及び回転規制装置70を示す上面図である。
【図8】図7に示す回転規制装置70のE−E線矢視断面図である。
【図9】従来の免震キャビネット2を示す側面断面図である。
【図10】図9に示す外側ケース3の底板10内側の上面、及びボール保持具14を示す平面図である。
【図11】図9に示す電子装置保護箱4の底板12、及び受け皿部16を示す電子装置保護箱4の底面図である。
【図12】図9に示す受け皿部16の縦断面図である。
【図13】図9に示すボール保持具14の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0074】
2 免震キャビネット
3 外側ケース
4 電子装置保護箱
6 免震装置
8 電子機器
10,12 底板
14 ボール保持具
16 受け皿部
18 凹円錐面
20 転動ボール
20a 頂点
30 免震キャビネット
32 免震装置
34 上板
40 受け皿部
42 凹円錐面
44 シート部材
46,48 穴部
49 移動規制装置
50 受け部材
52 突出部材
54 円筒部
56 張り出し部
60 シート部材
62 軸部
64 フランジ部
70 回転規制装置
72 緩衝板
76 スライド装置
78 連結板
80 レール部材
82 スライド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象物を保持する対象物保持部材と、
前記対象物保持部材の下方に配置され、地震時には地面と一体となって動く基礎支持部材と、
すり鉢状に凹んだ凹円錐面を有する受け皿部と、前記凹円錐面に沿って転動することができる球状体を転動自在に保持する球状体保持具とを有し、前記受け皿部と前記球状体保持具のいずれか一方が前記基礎支持部材の上側に固定され、他方が前記対象物保持部材の下側に固定された免震装置と
を備え、
前記凹円錐面上に前記球状体が前記凹円錐面に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材が貼着された
ことを特徴とする免震構造。
【請求項2】
保護対象物を保持する対象物保持部材と、
前記対象物保持部材を収容し、地震時には地面と一体となって動く底板を有する外側ケースと、
すり鉢状に凹んだ凹円錐面を有する受け皿部と、前記凹円錐面に沿って転動することができる球状体を転動自在に保持する球状体保持具とを有し、前記受け皿部と前記球状体保持具のいずれか一方が前記外側ケースの底板の上側に固定され、他方が前記対象物保持部材の下側に固定された免震装置と
を備え、
前記凹円錐面上に前記球状体が前記凹円錐面に沿って転動し難くなるような摩擦抵抗が大きな素材により形成されたシート部材が貼着された
ことを特徴とする免震構造。
【請求項3】
前記摩擦抵抗が大きな素材として、低反発弾性素材を用いたことを特徴とする請求項1又は2に記載の免震構造。
【請求項4】
凹円錐面を有する前記受け皿部及び/又は前記シート部材の中心最深部に前記球状体の一部が嵌合する穴部が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の免震構造。
【請求項5】
前記免震装置の免震動作による前記対象物保持部材の衝撃又は振動を緩和する緩衝部材を前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間に備えたことを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の免震構造。
【請求項6】
前記免震装置による免震動作時の、前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間の互いに直交する水平二方向の相対直線移動を許容して、前記対象物保持部材の垂直軸線回りの回転動作を規制する回転規制装置を備えたことを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の免震構造。
【請求項7】
前記免震装置による免震動作時の、前記対象物保持部材と前記外側ケースとの間の水平方向の相対移動の範囲を規制する移動規制装置を備えたことを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の免震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−63110(P2009−63110A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232256(P2007−232256)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(500115815)株式会社 コムラック (6)
【Fターム(参考)】