説明

免震装置及びその免震装置を用いた電気配線設備

【課題】建物に取り付けられる設備機器に作用する地震発生時の加震力に速やかに応答して、設備機器の揺れを吸収することができる免震装置を実現すること。
【解決手段】直交させて設けられた直状のレール6、7と、一対のスライダ8、9と、そのスライダ8、9を互いに連結する連結部材10とを備え、一対の鋼板2、3を建物と設備機器とに固定して用いる免震装置1において、レール6、7に跨るスライダの脚部22の内面と、内面に対向するレール6、7の両側面に、鋼球が転動する断面半円弧状の転動溝が形成され、転動溝に複数の鋼球が装着され、スライダ8、9内に転動溝に平行な貫通路が両端にわたって形成され、スライダ8、9の転動溝の両端部に、転動溝を転動してくる鋼球を貫通路に導く案内部材であるエンドプレートが設けられてなり、連結部材10と一方の鋼板2、3との間に、レールに沿った4方向にそれぞれコイルばね11、12が張設されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に係り、具体的には、建物に取り付けられる設備機器が地震により損傷を受けるのを防止する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免震装置は、地震の揺れを吸収して建物に作用する加震力を抑制することにより、建物の損壊を防ぐものである。一方、建物の地震対策の耐震構造は、建物に作用する加震力に十分に耐えるように建物の強度を高くして、損壊を防ぐものである。ところで、建物が耐震構造の場合には、地震発生時に、建物に取り付けられた設備機器に加震力が作用する。これにより、設備機器が建物に対して振り子のように揺れたり、取り付け部分に許容力以上の力が加わり、取り付け部分が破損して設備機器が落下したり、転倒して損傷することがある。なお、このような設備機器には、照明器具、シャンデリア、監視カメラ、電気配線用のケーブルラック等がある。
【0003】
このような設備機器の損傷を防ぐために、特許文献1には、シャンデリアを免震装置を介して天井から吊り下げ、地震の揺れがシャンデリアに伝わらないようにすることが提案されている。つまり、同文献に記載の免震装置は、対向して配置された平板状の一対の支持部材と、これら一対の支持部材の対向面にそれぞれ支持され、互いに空間を空けてかつ直交させて設けられた直状のレールと、このレールに跨る脚部を有しレールに沿って走行する一対のスライダと、これらのスライダを互いに連結する連結部材とを備えて構成し、一方の支持部材を建物の天井部に固定し、他方の支持部材にシャンデリアを吊り下げて用いるようにしている。
【0004】
これによれば、地震の揺れによりシャンデリアが吊り下げられた支持部材と、天井部に固定された支持部材が、直交するレール上を走行するスライダによって、相対的に自由に変位する。その結果、建物の揺れがシャンデリアに加えられないので、シャンデリアが落下して損傷するのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−164049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の吊り下げ物体免震装置では、スライダがレール上を摺動して走行するように形成されていることから、地震発生時に、スライダが遅れて走行を開始するため、吊り下げられている設備機器に地震発生時の加震力が伝わって大きく揺れてしまう場合がある。すなわち、レールとスライダとの間のすべり摩擦力は、静止状態から動状態に移るまでは大きいので、地震発生時の加震力が設備機器に大きく伝わってしまうのである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、建物に取り付けられる設備機器に作用する地震発生時の加震力に速やかに応答して、設備機器の揺れを吸収することができる免震装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、対向して配置された平板状の一対の支持部材と、一対の支持部材の対向面にそれぞれ支持され、互いに空間を空けてかつ直交させて設けられた直状のレールと、これらのレールに跨る脚部を有しレールに沿って走行する一対のスライダと、そのスライダを互いに連結する連結部材とを備え、一対の支持部材を建物と建物に付設される設備機器とにそれぞれ固定して用いる免震装置において、レールに跨るスライダの脚部の内面と、内面に対向するレールの両側面に、鋼球が転動する断面半円弧状の転動溝が形成され、転動溝に複数の鋼球が装着され、スライダ内に転動溝に平行な貫通孔が両端にわたって形成され、スライダの転動溝の両端部に、転動溝を転動してくる鋼球を貫通孔に導く案内部材が設けられてなり、連結部材と一方の支持部材との間に、レールに沿った4方向にそれぞれコイルばねが張設されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、鋼球がレールとスライダとに形成された転動溝を転動して、スライダがレールに沿って走行することから、静止摩擦と動摩擦の差が小さいため、地震に速やかに応対してスライダが滑らかに動き、一対の支持部材の自由な相対的変位によって地震を吸収することができる。その結果、設備機器の損傷を防ぐことができる。
【0010】
また、本発明は、レールに跨るスライダの脚部の内面と、内面に対向するレールの両側面に、鋼球が転動する断面半円弧状の転動溝を形成していることから、レールとスライダとが複数の鋼球を介して転動溝で噛み合う構造になっている。その結果、連結部材で連結されている一対のスライダとそれぞれのレールとの間に互いに引き離す方向の引張力に耐えることができるから、一定の荷重の設備機器を吊り下げて用いることもできる。つまり、建物の天井部から設備機器を吊り下げる場合に、一方の支持部材を天井部に固定し、他方の支持部材に設備機器を固定して吊り下げて用いることができる。
【0011】
ところで、天井部に固定した支持部材に、その支持部材に設けられたレールの延在方向の加震力が作用すると、その支持部材に設けられたレールと噛み合っているスライダは、他方の支持部材に吊り下げられた設備機器の荷重に応じて、相対的に加震力の方向と逆方向に変位する。そして、スライダがレールの端まで変位して止まると、設備機器は慣性力により大きく揺れ、設備機器に加震力が作用することになる。このような現象を防止するため、本発明では、一対のスライダを互いに連結する連結部材と支持部材との間にばねを張設している。これにより、設備機器に作用する加震力を緩和することができる。さらに、ばねは、地震の揺れが逆方向に変わるときに、設備機器を元の位置に戻す復元力として作用する。
【0012】
なお、設備機器の荷重が大きくなると、加震力を吸収するためにスライダのレール上の変位が相対的に大きくなるため、設備機器の荷重によってレールの長さを変更しなければならず、免震装置が大型化してしまう。したがって、設備機器の荷重に応じて、コイルばねの本数とばね定数を変更すれば、設備機器の荷重が大きくなってもレール上の一定の変位により、加震力を吸収することができるため、免震装置の大きさを変えることなく、荷重の異なる種々の設備機器に対応することができる。
【0013】
また、本発明の免震装置を用いた一態様として、建物の天井部に固定された吊り下げ部材と、吊り下げ部材を介して天井部に支持されたケーブルラックと、建物の床部に固定された電気盤と、ケーブルラック上に敷設されたケーブルを電気盤の頂部から引き入れて、電気盤内に設けられた端子に接続してなる電気配線設備において、吊り下げ部材は、本発明の免震装置を介して天井部に固定されて用いることができる。これにより、ケーブルラックに作用する加震力を抑制し、ケーブルラックが振り子のように揺れるのを抑えることができる。その結果、電気盤に対して、ケーブルラックの揺れを相対的に小さく抑えることができ、電気盤内に設けられた端子に加震力が作用するのを抑制することにより、端子の損傷等による電気事故を防止することができる。
【0014】
さらに、本発明の免震装置を用いた他の態様として、免震装置を介して地盤上に建てられた建物に固定して設けられた電気盤と、地中に埋設されたケーブルを電気盤の下方に設けられた空間で立ち上げて電気盤に引き入れるケーブル立ち上げ部とを有してなる電気配線設備において、ケーブル立ち上げ部の横方向に延在するケーブル部は、地盤上に設置された本発明の免震装置の上に載置されたケーブルラック上に設置され、ケーブルラックは2本の枠部材に複数の桟部材を掛け渡して形成され、桟部材はコロ軸受けを介してフレームに取り付けられて用いることができる。これにより、地震による地盤の変位量に対してケーブル立ち上げ部の揺れ方向の変位量を小さくすることができる。その結果、ケーブル立ち上げ部とその横方向に延在するケーブル部との接続部に作用する加震力を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、建物に取り付けられる設備機器に作用する地震発生時の加震力に速やかに応答して、設備機器の揺れを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態の免震装置の平面図である。
【図2】図1の線A―Aにおける断面図である。
【図3】図1の線B−Bにおける断面図である。
【図4】図1の免震装置のレールとスライダの構造を表す断面図である。
【図5】図1の免震装置のレールとスライダの関連構成を一部破断して示す斜視図である。
【図6】図1の免震装置の連結部材とコイルばねとの関連動作を表す模式図である。
【図7】本発明の一実施形態の免震装置を天井部に取り付けられるケーブルラックに用いた電気配線設備の概念構成図である。
【図8】本発明の一実施形態の免震装置を天井部に取り付けられる照明器具に用いた概念構成図である。
【図9】本発明の一実施形態の免震装置を天井部に取り付けられるシャンデリアに用いた概念構成図である。
【図10】本発明の他の実施形態の免震装置の平面図である。
【図11】図10の免震装置を地盤上に設置するケーブルラックに用いた電気配線設備の概念構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用してなる免震装置の実施形態について、説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態の免震装置の平面図を示している。また、図2は図1の線A―Aにおける断面図を示し、図3は図1の線B−Bにおける断面図を示している。免震装置1は、長方形に形成された平板状の一対の鋼板2、3を備えている。鋼板2には、その長手方向の両側縁の中央部に張り出し、補強部材15を介して平板状のばね固定板4が取り付けられている。同様に、鋼板3には、その長手方向の両側縁の中央部に張り出し、補強部材15を介して平板状のばね固定板5が取り付けられている。また、鋼板2、3は、互いに空間を空けて、かつ長手方向を直交させて、直状のレール6、7がそれぞれ設けられている。レール6、7に沿ってスライダ8、9が走行可能に設けられている。スライダ8、9は、連結部材10によって互いに連結されている。連結部材10とばね固定板5との間に、一端を連結部材10に固定し、他端をばね固定板5に取り付けたボルト16に固定したコイルばね11が張設されている。同様に、連結部材10とばね固定板4との間に、一端を連結部材10に固定し、他端をばね固定板4に取り付けたボルト16に固定したコイルばね12が張設されている。
【0018】
図4及び図5を参照して、レール6、7とスライダ8、9の関連構成を説明する。ただし、レール6とスライダ8は、レール7とスライダ9と同一の関連構成を有しているから、レール7とスライダ9との関連構成のみ説明する。
【0019】
スライダ9は、レール7に跨る脚部22を有し、レール7に沿って走行する断面がコの字型の形状をしている。レール7の両側面に、複数の鋼球18が転動する断面半円弧状の転動溝19aが形成されている。また、レール7の頂部角に、鋼球18が転動する断面円弧状の転動溝20aが形成されている。
【0020】
スライダ9の脚部内面に、転動溝19aと対向する位置に鋼球18が転動する断面半円弧状の転動溝19bが形成されている。これにより、レール7とスライダ9は、転動溝19abによって、鋼球18を介して噛み合う構造をしている。また、スライダ9のコの字型の内面の角部には、転動溝20aと対向する位置に鋼球18が転動する断面円弧状の転動溝20bが形成されている。
【0021】
スライダ9の脚部内に、転動溝19abに平行な貫通路23が両端にわたって形成されている。スライダ9のレール7を跨る部分の内部に、転動溝20abに平行な貫通路24が両端にわたって形成されている。転動溝19ab、20abの両端部には、転動溝19abを転動してくる鋼球18をそれぞれ貫通路23、24に導くエンドプレート25がボルト26で取り付けられている。各エンドプレート25には、図示していないが、転動溝19abと貫通路23及び転動溝20abと貫通路24を結ぶ案内路が設けられている。転動溝19ab、貫通路23及び案内路、又は、転動溝20ab、貫通路24及び案内路で、鋼球18を循環させる循環路が形成されている。循環路には、リテーナ27に取り付けられた複数の鋼球18が装着されている。レール7の端部には、ゴム製のストッパ21がそれぞれ設置されている。
【0022】
次に、免震装置1の動作について図6を参照して、建物の天井部に免震装置1を介して設備機器を吊り下げる場合を例に説明する。免震装置1では、連結部材10とばね固定板5との間に、コイルばね11がそれぞれ3本ずつ張設され、連結部材10とばね固定板4との間に、コイルばね12がそれぞれ3本ずつ張設されている。ただし、図6は連結部材10とコイルばね11、12との関連動作を表す模式図であるため、コイルばね11、12共に、それぞれ1本ずつ張設された図としている。
【0023】
鋼板2をボルト穴13に通したボルトで建物の天井部に固定し、鋼板3にボルト穴14を通したボルトで設備機器を固定して吊り下げる。鋼板3の長手方向をx方向とし、鋼板2の長手方向をy方向として、レール7とレール6をそれぞれx軸とy軸に沿って設置する。このように設置された免震装置1に対し、天井部から鋼板2に加震力が例えばx軸及びy軸の正方向に対して45度の角度を成す方向に作用したとする。このとき、連結部材10は、レール7をx軸の正方向に相対的に走行し、レール6をy軸の負方向に相対的に走行する。これにより、鋼板2は加震力の方向に移動するが、鋼板3に固定した設備機器は加震力の方向と相対的に逆の方向に移動する。同様に、鋼板2にxy平面内の360°のどの方向に加震力が作用しても設備機器は加震力の方向と相対的に逆の方向に移動する。したがって、建物にxy平面内のあらゆる方向の加震力が作用しても、鋼板2、3の自由な相対的変位によって加震力を吸収し、設備機器が揺れるのを抑制することができる。その結果、設備機器の損傷を防ぐことができる。
【0024】
図6(b)に示すように、連結部材10がレール6を走行する場合は、コイルばね12が伸長される。同様に、連結部材10がレール7を走行する場合は、コイルばね11が伸長される。そして、地震の揺れが逆方向に変わるときに、コイルばね11、12の復元力により、鋼板2と鋼板3の相対的位置を元に戻すことができる。
【0025】
図4、5を参照して、スライダ8、9とレール6、7との関連動作について説明する。ただし、スライダ8、9とレール6、7との関連動作については、それぞれ同一の関連動作を行うため、スライダ9とレール7との関連動作のみ説明する。
【0026】
スライダ9がレール7に沿って走行すると、鋼球18は、レール7とスライダ9との間の転動溝19ab、20abをスライダ9の移動方向の一端から他端まで転動する。鋼球18が他端に達すると、エンドプレート25の案内路から貫通路23、24に導かれ、その貫通路23、24から一端のエンドプレート25の案内路を通って転動溝19ab、20abへ戻される。
【0027】
スライダ8、9がレール6、7に沿って走行し始める時、鋼球18が転動溝19ab、20abを転動するので、静止摩擦と動摩擦の差が小さい。したがって、スライダ8、9は、地震に速やかに応対して滑らかに動き始めることができ、設備機器には加震力が作用しないため、設備機器が揺れるのを抑制することができる。
【0028】
スライダ9とレール7は、鋼球18を介して転動溝19abで噛み合っていることから、スライダ9とレール7との間で互いに引き離す方向の引張力に耐えることができ、一定の荷重の設備機器を吊り下げて用いることができる。つまり、建物の天井部から設備機器を吊り下げる場合に、鋼板2を天井部に固定し、鋼板3に設備機器を吊り下げて用いることができる。
【0029】
リテーナ27により、鋼球18同士の相互摩擦をなくし、衝突音が消え、鋼球18が均一に整列されて循環させることができる。さらに、ころがり抵抗の変動が小さく滑らかな動きを得ることができ、スライダ8、9をレール6、7から抜き取った際の鋼球18の脱落を防止することもできる。
【0030】
本実施形態では、コイルばね11、12は連結部材10とばね固定板5、6との間にそれぞれ3本ずつ張設しているが、各所に1本から3本までコイルばねの本数及びばね定数を変えて設置できる。これにより、吊り下げる設備機器の荷重に応じたコイルばねの本数及びばね定数が設定できる。その結果、設備機器の荷重が大きくなってもレール上の一定の変位により、加えられる力を吸収することができるため、免震装置1の大きさを変えることなく、荷重の異なる種々の設備機器に対応することができる。
【0031】
また、転動溝の位置と数は、本実施形態に限らず、レールの両側面の対称的な位置に1又は複数形成することができる。また、貫通路の位置と数も、本実施形態に限らず、形成された転動溝の位置に対応して、スライダ内のいずれかの位置に転動溝と同数を形成することができる。
【0032】
なお、スライダ8、9がレール6、7に沿って端部まで走行すると、ストッパ21に当たって止まるため、レール6、7の可動長さ以上の変位が生じた場合でも免震装置1に損傷を与えないようにすることができる。
【0033】
(実施形態2)
図7を参照して、免震装置1を天井部33に取り付けられるケーブルラック34に用いた電気配線設備について説明する。
【0034】
まず、電気盤である配電盤31を耐震構造の建物の床部32に設置する。天井スラブや鉄骨の天井部33に鋼板2をボルトで取り付け、鋼板3をケーブルラック34の吊り下げボルト35に固定する。免震装置1は、ケーブルラック34の延在方向に平行に2メートル以内の間隔で、2つずつ設置する。ケーブルラック34には、ケーブル36が敷設され、ケーブル36は配電盤31の上面開口部37から、図示していないが配電盤31内に設けられた端子に接続されている。なお、電気盤には、配電盤、分電盤、制御盤等がある。また、ケーブルラック34は、2本の枠部材に、コロを備えたコロ軸受けが取り付けられた複数の桟部材を掛け渡して形成される、ローラー付ケーブルラックとすることができる。
【0035】
そして、地震発生時に、レール6、7とスライダ8、9との間に静摩擦力以上の加震力が作用すると、スライダ8、9がレール6、7に沿って動き出す。すると、ケーブルラック34は天井部33に対して相対的に加震力の方向とは逆方向に移動する。このとき、コイルばね11、12の弾性力によってケーブルラック34の揺れの周期を地震の揺れの周期より遅らせることができ、ケーブルラック34に加震力が作用するのを抑制することができる。すなわち、ケーブルラック34の揺れが低減されるため、配電盤31とケーブル36の相対変位は抑制され、配電盤31内に設けられた端子に外力が加わらず、端子の損傷を防ぐことができる。さらに、地震の揺れが逆方向に変わるときに、コイルばね11、12の復元力により、ケーブルラック34と天井部33の相対的位置を元に戻すことができる。
【0036】
また、免震装置1は、転動溝19abを形成していることから、レール6、7とスライダ8、9とが複数の鋼球18を介して転動溝19abで噛み合う構造をしている。その結果、一対のスライダ8、9とレール6、7との間に、互いに引き離す方向の引張力が加わっても、ケーブル36を敷設したケーブルラック34の一定の荷重を支えることができる。したがって、天井部33からケーブルラック34を吊り下げる場合に、鋼板2を天井部33に固定し、鋼板3にケーブルラック34を固定して吊り下げることができる。
【0037】
(実施形態3)
図8に、免震装置1を天井部42に取り付けられる照明器具41に用いた場合を示す。本実施形態が実施形態1と相違する点は、天井部42に吊り下げられている設備機器が照明器具41であり、照明器具41は、他の設備機器に接続されていないことにある。その他の点は、実施形態1と同一であることから説明を省略する。
【0038】
免震装置1は、鋼板2を天井部42に取り付けたH形鋼43に固定され、鋼板3に照明器具41の吊り下げボルト44が固定されている。
【0039】
このように構成されることから、実施形態1と同様に、照明器具41に加震力が作用するのを抑制し、照明器具41が振り子のように揺れるのを防ぐことができる。これにより、照明器具41の損傷を防止することができる。さらに、地震の揺れが逆方向に変わるときに、コイルばね11、12の復元力により、照明器具41と天井部42の相対的位置を元に戻すことができる。
【0040】
(実施形態4)
図9に、免震装置1を天井部46に取り付けられるシャンデリア45に用いた場合を示す。本実施形態が実施形態3と相違する点は、免震装置1に吊り下げられている設備機器が、シャンデリア45であることにある。その他の点は、実施形態3と同一であることから説明を省略する。
【0041】
免震装置1は、鋼板2を天井部46に固定され、鋼板3に取付フランジ47でシャンデリア45を吊るすチェーン48が固定されている。
【0042】
このように構成されることから、実施形態3と同様に、シャンデリア45に加震力が作用するのを抑制し、シャンデリア45が振り子のように揺れるのを防ぐことができる。これにより、シャンデリア45の損傷を防止することができる。さらに、地震の揺れが逆方向に変わるときに、コイルばね11、12の復元力により、シャンデリア45と天井部46の相対的位置を元に戻すことができる。
【0043】
(実施形態5)
図10を参照して、本発明の他の実施形態の免震装置51を説明する。免震装置51は、免震装置を介して建てられた建物の下方の地盤上と、建物に付設される設備機器と接続する配線を敷設するケーブルラックとにそれぞれ固定して用いられる。ただし、レールとスライダとの関連構成及び関連動作は、実施形態1と同一であることから、説明を省略する。
【0044】
免震装置51は、長方形に形成された平板状の、1本のフランジプレート52と2本のフランジプレート53を備えている。フランジプレート52には、その長手方向の両側縁の中央部に張り出した平板状のばね固定板63が取り付けられている。また、フランジプレート52と2本のフランジプレート53は、それぞれ互いに空間を空けて、かつ長手方向を直交させて、直状のレールが設けられている。レールに沿って一対のスライダがそれぞれ走行可能に設けられている。一対のスライダは、フランジプレート52に取り付けられたレール62の延在方向を長手方向とし、2本のフランジプレート53間に設置される平板状の連結部材61の両端部に取り付けられている。一対のスライダ同士は、連結部材61によって互いに連結されている。連結部材61とフランジプレート53との間に、一端を連結部材61の中央部に固定し、他端をフランジプレート53のそれぞれの中央部に固定したコイルばね60aが張設されている。また、連結部材61とばね固定板63との間に、一端を連結部材61の中央部に固定し、他端をばね固定板63に取り付けたボルト64に固定したコイルばね60bが張設されている。
【0045】
フランジプレート52は、両端に複数のボルト穴54があり免震装置を介して建てられた建物の地盤上に固定し、フランジプレート53は、ローラー付ケーブルラック55を固定する。フランジプレート53のそれぞれの上部にケーブルラック55の枠部材56をそれぞれボルト57で固定し、両端をそれぞれ連結バー58で接続する。ケーブルラック55は、2本の枠部材56に複数の桟部材59を掛け渡して形成されている。桟部材59には、コロを備えたコロ軸受けが取り付けられている。
【0046】
次に、免震装置51の動作について説明する。フランジプレート52は、レール62の延在方向をx軸方向として地盤上に固定される。このとき、ばね固定板63の長手方向がy軸方向となる。例えば、フランジプレート52に地盤からの加震力がx軸及びy軸の正方向に作用したとする。このとき、連結部材61は、レール62をx軸の負方向に相対的に走行し、フランジプレート53に取り付けられたレールをy軸の正方向に相対的に走行する。これにより、フランジプレート52は加震力の方向に移動するが、フランジプレート53に固定したケーブルラック55は加震力の方向と相対的に逆の方向に移動する。同様に、フランジプレート52にxy平面内の360°のどの方向に加震力が作用してもケーブルラック55は加震力の方向と相対的に逆の方向に移動する。したがって、地盤上にxy平面内のあらゆる方向の加震力が作用しても、ケーブルラック55には加震力が作用しないため、ケーブルラック55の揺れを抑制することができる。さらに、コイルばね60abの復元力により、フランジプレート52とケーブルラック55の相対的位置を元に戻すことができる。
【0047】
(実施形態6)
図11を参照して、免震装置51を地盤65上に設置するケーブルラック55に用いた電気配線設備について説明する。
【0048】
免震装置51は、フランジプレート52を、免震装置73の上に建てられた建物の床面68下方の地盤65上にボルトで固定し、フランジプレート53をケーブルラック55に固定して設置されている。ケーブルラック55には、ケーブル66が敷設されている。また、建物の床面68には、配電盤67が設置されている。ケーブル66は、一端が地中に埋設され、他端に、ケーブル立ち上げ部69、ケーブル立ち上げ部69の横方向に延在するケーブル部70及び、それらの接続部71を有している。接続部71が余長を持たせて、ケーブルラック55に敷設されている。ケーブル立ち上げ部69は、配電盤67の下面開口部72に引き入れ、配電盤67内に設けられた端子に接続されている。ここで、免震装置73は、地震の揺れを吸収して建物に作用する加震力を抑制することにより、建物の損壊を防ぐものであるため、免震装置73の上に建てられた建物の床面68は地盤65に対して揺れない。
【0049】
このように構成されることから、本実施形態によれば、地震発生時に、加震力は建物には伝わらず、建物の床面68は地盤65に対して揺れない。しかし、免震装置51を設置した地盤65上は地震によって揺れる。すると、地中に埋設されたケーブル66も同様に揺れることになるが、ケーブル66の立ち上げ部69とケーブル部70との接続部71は、ケーブルラック55に敷設されているため、地盤65に対して変位量が小さく、揺れが低減される。したがって、接続部71に許容力以上の力が繰り返し加わるのを抑制し、ケーブル66の損傷を防ぐことができる。さらに、地震の揺れが逆方向に変わるときに、コイルばね60abの復元力により、ケーブルラック55と地盤65の相対的位置を元に戻すことができる。
【0050】
また、従来のようなケーブルの余長のみで加震力を吸収する場合に比べて、ケーブルの余長を短くでき、設置スペースを少なくできる上に、地盤の上に設置し固定する際に特別な工事は必要ない。さらに、ケーブルラック55を利用しているため、ケーブル部70がケーブルラック55上を滑らかに移動できるので、接続部71への加震力を低減できる。
【0051】
以上、本発明を実施形態1から6を用いて説明したが、本発明はこれらに限られない。要するに、本発明に係る免震装置は、建物と設備機器との間に設置し、設備機器の揺れの周期を地震の揺れの周期より遅らせて、建物と設備機器との固定部分に作用する加震力を抑制するために用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 免震装置
2、3 鋼板
4、5 ばね固定板
6、7 レール
8、9 スライダ
10 連結部材
11、12 コイルばね
18 鋼球
19ab、20ab 転動溝
22 スライダの脚部
23、24 貫通路
25 エンドプレート
27 リテーナ
31 配電盤
32 建物の床部
33 建物の天井部
34 ケーブルラック
35 吊り下げボルト
36 ケーブル
41 照明器具
45 シャンデリア
51 床免震装置
52、53 フランジプレート
55 ローラー付ケーブルラック
56 枠部材
59 桟部材
60ab コイルばね
61 連結部材
62 レール
65 地盤
66 ケーブル
67 配電盤
69 ケーブル立ち上げ部
70 ケーブル部
71 接続部
73 免震装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された平板状の一対の支持部材と、前記一対の支持部材の対向面にそれぞれ支持され、互いに空間を空けてかつ直交させて設けられた直状のレールと、前記レールに跨る脚部を有し該レールに沿って走行する一対のスライダと、前記スライダを互いに連結する連結部材とを備え、前記一対の支持部材を建物と建物に付設される設備機器とにそれぞれ固定して用いる免震装置において、
前記レールに跨る前記スライダの脚部の内面と、該内面に対向する前記レールの両側面に、鋼球が転動する断面半円弧状の転動溝が形成され、該転動溝に複数の前記鋼球が装着され、前記スライダ内に前記転動溝に平行な貫通孔が両端にわたって形成され、前記スライダの前記転動溝の両端部に、該転動溝を転動してくる前記鋼球を前記貫通孔に導く案内部材が設けられてなり、
前記連結部材と一方の前記支持部材との間に、前記レールに沿った4方向にそれぞれコイルばねが張設されてなることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
建物の天井部に固定された吊り下げ部材と、前記吊り下げ部材を介して前記天井部に支持されたケーブルラックと、前記建物の床部に固定された電気盤と、前記ケーブルラック上に敷設されたケーブルを前記電気盤の頂部から引き入れて、前記電気盤内に設けられた端子に接続してなる電気配線設備において、
前記吊り下げ部材は、請求項1に記載の免震装置を介して前記天井部に固定されてなることを特徴とする電気配線設備。
【請求項3】
免震装置を介して地盤上に建てられた建物に固定して設けられた電気盤と、地中に埋設されたケーブルを前記電気盤の下方に設けられた空間で立ち上げて前記電気盤に引き入れるケーブル立ち上げ部とを有してなる電気配線設備において、
前記ケーブル立ち上げ部の横方向に延在するケーブル部は、前記地盤上に設置された請求項1に記載の免震装置の上に載置されたケーブルラック上に設置され、該ケーブルラックは2本の枠部材に複数の桟部材を掛け渡して形成され、前記桟部材はコロ軸受けを介してフレームに取り付けられていることを特徴とする電気配線設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−47241(P2012−47241A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188942(P2010−188942)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000222015)株式会社ユアテック (26)
【Fターム(参考)】