説明

免震装置用の免震プラグの製造方法及びその製造装置

【課題】材料に鉛を使用することなく、免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上させ得る免震プラグの製造方法、並びにかかる製造方法を実施し得る免震プラグの製造装置を提供する。
【解決手段】金型3内に充填された粉体材料2を、スタンパ5を用いて加圧成形する免震プラグ6の製造方法において、該加圧成形を複数回行い、かかる複数回の加圧成形のうち、少なくとも1回の加圧成形を、軸線方向に対して傾斜した加圧面4を有する第一のスタンパ5を用いて行なう免震プラグ6の製造方法である。また、かかる製造方法を用いて製造される免震プラグ6である。更に、かかる製造方法を実施し得る金型3及びスタンパ5を具える製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上させ得る免震プラグを製造する方法、並びにかかる製造方法を実施するための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム等の粘弾性的性質を有する軟質板と鋼板等の硬質板とを交互に積層した免震構造体が、免震装置の支承等として使用されている。このような免震構造体の中には、例えば、軟質板と硬質板とからなる積層体の中心に中空部を形成し、該中空部の内部に免震プラグが圧入されたものがある。
【0003】
上記免震プラグとしては、全体が鉛からなるものが使用されることが多く、地震の発生に伴って積層体が剪断変形する際に、かかる免震プラグが塑性変形することで振動のエネルギーを吸収する。しかしながら、鉛は、環境負荷が大きく、また、廃却時等に要するコストが大きい。そのため、鉛の代替材料を用いても、充分な減衰性能、変位追従性等を有する免震プラグの開発が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉛免震プラグに代えて、積層体の中空部に塑性流動材及び硬質充填材からなり、硬質充填材の隙間を塑性流動材で充填するようにした粉体材料を封入した免震装置が提案されている。かかる免震プラグは、鉛免震プラグと同様、長期の使用に際しても、その減衰性能及び変位追従性が安定して確保される。なお、塑性流動材としては、天然ゴムやアクリルゴムなどがあり、硬質充填材としては、ステンレス鋼粉、鉄粉などの金属粉体などがある。かかる免震プラグは、金型内に充填された粉体材料を加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパにより所定の面圧にて加圧成形することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−316990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の免震プラグを具える免震装置は、鉛からなる免震プラグを使用することなく、減衰特性及び変位追従性が長期にわたり安定して確保されているものの、近年の建設物の大型化、高層化を背景に、免震装置の更なる性能向上が求められており、そのことから、免震装置の減衰特性及び変位追従性の更なる向上が希求されている。また、特許文献1には、この免震プラグの製造方法についても言及されているが、一般的な粉体材料の加圧成形法の域を出るものではない。
【0007】
そこで、この発明の目的は、これまで充分に着目、検討されてこなかった免震プラグの製造方法について改良を図ることにより、材料に鉛を使用することなく、免震装置の減衰性能及び変位追従性を更に向上させ得る免震プラグを有利に製造する方法を提供することにある。また、この発明の更なる目的は、かかる製造方法を実施し得る免震プラグの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、第一発明は、金型内に充填された粉体材料を、スタンパを用いて加圧成形する免震プラグの製造方法において、かかる加圧成形を複数回行い、複数回の加圧成形のうち、少なくとも1回の加圧成形を、軸線方向に対して傾斜した加圧面を有する第一のスタンパを用いて行なうことを特徴とする免震プラグの製造方法である。なお、ここでいう「軸線方向に対し傾斜」とは、スタンパの軸線方向に対し交差する方向を含むものをいう。
【0009】
また、第一発明において、第一のスタンパを用いて加圧成形した後に、第一のスタンパを、スタンパの軸線中心に所定角度回転させ、かかる回転した第一のスタンパを用いて再度加圧成形を行なうことが好ましい。このとき、所定の角度を90°とし、前記第一のスタンパを回転させてから加圧成形する工程を4回行なうことが好ましい。
【0010】
更に、第一発明において、第一のスタンパは、スタンパの軸線方向に対して垂直な加圧面を有することが好ましい。なお、ここでいう「垂直な加圧面」とは、全体としてみたときの加圧面の形状が垂直である、波状や曲率を有する略垂直な加圧面を含むものである。あるいは、第一のスタンパは、スタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字状の加圧面を有することが好ましい。なお、ここでいう「V字状の加圧面」とは、全体としてみたときの加圧面の形状がスタンパの中央部が加圧方向に突出したV字状である、波状や曲率を有する略V字状の加圧面を含むものである。
【0011】
更にまた、第一発明において、第一のスタンパを用いて加圧成形した後に、第一のスタンパとは異なる形状の加圧面を有する第二のスタンパを用いて粉体材料を加圧成形することが好ましい。
【0012】
加えて、第一発明において、粉体材料を2方向から加圧成形することが好ましい。
【0013】
加えてまた、粉体材料は、塑性流動材及び硬質充填材からなることが好ましい。
【0014】
第二発明は、上述した第一発明の免震プラグの製造方法を用いて製造される免震プラグである。
【0015】
第三発明は、粉体材料が充填される金型、及び金型内の粉体材料を加圧成形させる加圧面を有するスタンパを具える、免震装置用の免震プラグの製造装置において、かかるスタンパは、軸線方向に対して傾斜した加圧面を有する第一のスタンパであることを特徴とする免震プラグの製造装置である。
【0016】
また、第三発明において、スタンパは、スタンパの軸線を中心に回転可能であることが好ましい。
【0017】
更に、第三発明において、第一のスタンパは、スタンパの軸線方向に対して垂直な加圧面を有することが好ましい。
【0018】
あるいは、第三発明において、第一のスタンパは、該スタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字状の加圧面を有することが好ましい。
【0019】
加えて、第三発明において、第一のスタンパに加え、第一のスタンパの加圧面とは異なる形状の加圧面を有する第二のスタンパを更に具えることが好ましい。
【0020】
加えてまた、第三発明において、スタンパは、対向する一対のスタンパであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、鉛の代替材料である粉体材料を用いて、これを加圧成形する際に、該粉体材料の流動が強制されるために、空気含有率の小さい成形品を得ることができる。従って、免震装置の減衰性能及び変位追従性の向上に大きく寄与する免震プラグを提供することが可能となる。また、空気含有率の小さな免震プラグを製造するために適した製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(f)は、この発明に従う免震プラグの製造工程を示した図である。
【図2】(a)は、この発明に従って製造された免震プラグを圧入した免震装置の上面図であり、(b)は、かかる免震装置の断面図である。
【図3】(a)〜(f)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程を示した図である。
【図4】(a)は、充分に圧縮されていない粉体材料の硬質充填材の相互配置を示した図であり、(b)は、充分に圧縮された粉体材料の硬質充填材の相互配置を示した図である。
【図5】(a)〜(f)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程を示した図である。
【図6】(a)〜(f)は、この発明に従うその他の免震プラグの製造工程を示した図である。
【図7】実施例の免震プラグの製造装置のスタンパを示した図である。
【図8】実施例の免震プラグの製造装置のスタンパを示した図である。
【図9】この発明に従うその他の免震プラグの製造装置のスタンパを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照しつつ、この発明の実施形態を説明する。図1(a)〜(f)は、本実施形態に係る免震プラグの製造工程を示した図である。図2(a)は、本実施形態に従って製造された免震プラグを圧入した免震装置の上面図であり、図2(b)は、かかる免震装置の断面図である。図3(a)〜(f)は、本実施形態に係るその他の免震プラグの製造工程を示した図である。図4(a)は、充分に圧縮されていない粉体材料の硬質充填材の相互配置を示した図であり、図4(b)は、充分に圧縮された粉体材料の硬質充填材の相互配置を示した図である。図5(a)〜(f)及び図6(a)〜(f)は、本実施形態に係るその他の免震プラグの製造工程にて使用される種々の形状の加圧面を有するスタンパを示した図である。図7〜9は、この発明に従うその他の免震プラグの製造装置のスタンパを示した図である。
【0024】
本実施形態に係る免震プラグの製造装置1は、図1に示すように、塑性流動材A及び硬質充填材Bからなる粉体材料2が充填される円筒形状の金型3、及びかかる金型3内の粉体材料2を加圧する加圧面4を有する2種のスタンパ5a、5bを具える。まず、図1(a)〜(d)に示すスタンパ5aは、スタンパ5aの軸線Xを中心に回転可能であり、かかるスタンパ5aは、スタンパ5aの軸線方向に対し傾斜した平面状の加圧面4aを有する(この構成では、スタンパ5aは、第一のスタンパのことをいうものである)。また、図1(e)に示す別のスタンパ5bは、加圧方向に略直交する平面状の加圧面4bを有する(この構成では、スタンパ5bは、第二のスタンパをいうものである。)。かかる製造装置を用いて、図1(a)〜(f)の製造工程にて示すように、金型3内に充填された粉体材料2を、スタンパ5a及び5bにより加圧することで免震装置用の免震プラグ6を成形する。以下にその詳細を説明する。
【0025】
まず、図1(a)に示すように、金型3内に免震プラグ6の材料となる塑性流動材A及び硬質充填材Bからなる粉体材料2を充填する。次いで、図1(b)に示すように、スタンパ5aを矢印の方向に移動させて、スタンパ5aの加圧面4aにより粉体材料2を加圧成形し、粉体材料2の加圧方向に対して斜めの流動を促しつつ、粉体材料2の受圧面7の形状を加圧面4aの形状に対応する形状に変形させる。次いで、スタンパ5aの加圧方向とは反対の方向にスタンパ5aを引き上げてから、スタンパ5aの軸線Xを中心に、例えば、180°回転させることにより、図1(c)に示すように、最初の加圧成形にて与えられた受圧面7に対向する加圧面4aの形状を初回とは異なる形状に変更させる。次いで、図1(d)に示すように、再度、スタンパ5aを矢印の方向に移動させて、加圧面4aにより粉体材料2の受圧面7を加圧し、粉体材料2の加圧方向に対して斜めの流動を促しつつ、粉体材料2の受圧面7の形状を新たな加圧面4aの形状に対応する形状に変形させる。上記工程により、空気含有率を低減した免震プラグが得られる。このようにして得られた免震プラグ6は、免震装置8への圧入に供することも可能であるが、図1(e)〜(f)に示す工程によって成形することが好ましい。すなわち、図1(d)に示す工程の後、図1(e)に示すように、軸線方向に対し傾斜した平面状のスタンパ5aを、スタンパ5bの加圧方向に直交する平面状の加圧面4bを有するスタンパ5bに置き換え、それを用いて免震プラグ6を加圧し、免震プラグ6の形状を整え(加圧方向に略直交する平面状とし)、成形が完了する。そして、かかる免震プラグ6は、金型3から抜き出され、免震装置8への圧入に供される。かかる免震装置8としては、例えば、図2(a)及び図2(b)に示すような、ゴム板と鋼板とを交互に積層した積層体を具え、装置中央に免震プラグを配置した構造を有する免震装置8がある。
なお、上記した図1(e)〜(f)の工程に替えて、以下の工程により、免震プラグ6の受圧面7の形状を加圧方向に直交する平面状とすることもできる。すなわち、図3(a)〜(d)に示す工程(図1(a)〜(d)の工程と同一の工程)の後、図3(e)に示すように、粉体材料2を、金型3から抜き出し、図3(e)に示す点線に沿って、受圧面7の突出した部分を切断することで、粉体材料2の形状を整え(加圧方向に直交する平面状とし)、図3(f)に示すような免震プラグ6の成形が完了する。そして、かかる免震プラグ6が免震装置8への圧入に供される。
【0026】
一般に、免震プラグの減衰性能及び変位追従性を向上させるには、プラグ内の空気含有率を小さくすることが有効である。しかし、粉体材料が、ゴムなどの粘性を有する塑性流動材を含む場合、粉体材料の流動性が低下し、粉体材料内の空気が抜けにくい。従来の免震プラグの製造方法では、その加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパにより粉体材料を所定の面圧にて加圧して免震プラグを成形していたことから、受圧面から離間するほどに、粉体材料に負荷される圧縮力が小さい。そのことに伴い、受圧面から離間するほどに、粉体材料の空気含有率が大きくなっていた。また、粉体材料と金型の壁面との摩擦により、金型側にある粉体材料ほど、その動きが拘束され、粉体材料の流動性が低下する。以上のことから、スタンパにより加圧しても金型側の粉体材料が充分に圧縮されずに、金型の壁面に近いほどに、粉体材料の空気含有率が大きくなっていた。すなわち、粉体材料の相互配置は、粉体材料が充分に流動しなかったことから、図4(a)に示すように、粉体材料相互間の隙間が大きく、空気の残留し易い配列である。一方、この発明に従う加圧成形を経た粉体材料2の相互配置は、粉体材料2が充分に流動することから、図4(b)に示すような最密配置となり、粉体材料2間の隙間が小さくなり、空気が残留し難い配置となる。このように、発明者は、粉体材料の流動を全体に促すことが、免震プラグの空気含有率を更に小さくすることにつながり、かかる免震プラグを具える免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上し得ることを見出した。
粉体材料の流動を促し、免震プラグの空気含有率を小さくすることを達成する手段として、上述の製造方法を採用した。上述したように粉体材料2を加圧成形すると、粉体材料2の流動が全体に促され、粉体材料2間の隙間が小さくなるため、粉体材料2全体が図4(b)に示すような配置となる。その結果、免震プラグ6の空気含有率が小さくなり、このようにして製造された免震プラグ6を圧入した免震装置では、減衰性能及び変位追従性がともに向上する。なお、粉体材料2の流動が有効に促される限りは、スタンパ5aの加圧面4aをその他の形状とすることもでき、例えば、図5の製造工程に示すように、加圧面4aの形状を複数回屈曲したような形状とし、局所的な斜めの流動を複数箇所にて発生させることも可能である。
【0027】
また、副次的な効果ではあるが、図1に示す製造工程では、図3に示す製造工程のように粉体材料2を切断する工程が無いことから、かかる切断により発生する粉体材料2の廃棄部分が無く、免震プラグの製造に際し、粉体材料を無駄なく使用することができるので、免震プラグ6の生産コストを削減する観点から好ましい。
【0028】
なお、粉体材料2を構成する塑性流動材Aに含まれる物質としては、(天然ゴム、ポリブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ポリウレタン、ウレタン系エラストマーなどの)エストラマー成分、(ロジン樹脂、フェノール樹脂などの)樹脂、カーボンブラック、(フタル酸、マレイン酸、クエン酸などの)可塑剤、(ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油などの)軟化材などが挙げられる。また、硬質充填材Bに含まれる物質としては、銅粉、ステンレス鋼粉、ジルコニウム粉、タングステン粉、青銅粉、アルミニウム粉、ニッケル粉、モリブデン粉、チタン粉、鉄粉などの金属粉体や金属化合物が挙げられる。なお、塑性流動材Aと硬質充填材Bの夫々について選定される材料の組成、含有率、組み合わせ等は、免震プラグ6に所望される性能に応じて適宜変更することができる。また、粉体材料2は、塑性流動材A及び硬質充填材Bからなる構成に限定されるものではなく、その他の種々の粉体材料2を適用することも可能である。
【0029】
また、図6の製造工程に示すように、対向する一対のスタンパ5a及び5bを用いて、粉体材料2を挟み込むように2方向から加圧成形することが好ましい。図6(b)〜(d)に示すように、軸線方向に対し傾斜する平面状の加圧面4aを夫々有する、一対のスタンパ5aを用いて、粉体材料2を挟んで加圧すると、図1に示すような単一のスタンパ5aにより粉体材料2を加圧する場合に比べ、粉体材料2の加圧方向に対し斜めの流動がより促されるので、粉体材料2の空気含有率が更に小さくなる。次いで、図6(e)に示すように、粉体材料2を一対の対向するスタンパ5bであって、スタンパ5bの加圧方向に直交する平面状の加圧面4bを有するスタンパ5bにより加圧することで、粉体材料2の形状を整え、図6(f)に示すような免震プラグ6の製造が完了する。かかる免震プラグ6を具える免震装置8は、減衰性能及び変位追従性を更に向上させることが可能である。また、一方向から加圧するよりも、複数方向から加圧する方が、粉体材料を所望の空気含有率とすることに要する時間を短縮することができるため、免震プラグ6の生産性を更に向上させることが可能となる。
【0030】
これまで説明してきた製造方法では、同一のスタンパ5aをその軸線Xを中心に回転させることで向きを変え、結果として加圧面4aの形状を異なる形状とし、粉体材料2を異なる形状に複数回変形させるものである。その他の方法としては、加圧面4の形状が相互に異なる複数のスタンパ5を準備し、それらを交代で用いて粉体材料2を加圧することにより、スタンパ5を回転させること無く、粉体材料2を異なる形状に複数回変形させることも可能である。
【0031】
また、加圧面が異形の複数のスタンパを並列配置し、この列に沿って金型3を移動させて、複数の異形のスタンパ5により順次粉体材料2を加圧成形することにより、免震プラグを製造する装置構成とすることが可能である。あるいは、逆に、金型3の位置を固定し、前記の並列させたスタンパ5を順次に移動させることにより、かかるスタンパ5により粉体材料2を連続的に加圧成形することにより、免震プラグを製造する装置構成とすることも可能である。後者の装置構成は省スペース化の観点から好ましい。
【0032】
更に、図1、3、6に示すスタンパ5は、軸線方向に対し傾斜する平面状の加圧面4aを有するが、図7に示すように、加圧面4の一部を軸線方向に対し直交する平面状とすることも可能である。あるいは、スタンパ5は、図8に示すように、スタンパ5の軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパ5の中央部が加圧方向に突出したV字状の加圧面4を有するものとすることが好ましい。例えば、図8に示すスタンパ形状を採用し、加圧成形する場合には、一回目の加圧成形後に、スタンパ5を90°回転させてから再度粉体材料2を加圧成形することにより、粉体材料2の受圧面7の形状が大きく変形し、粉体材料2の流動が有効に促進され、免震プラグ6の空気含有率が小さくなる。かかるスタンパ5を90°回転させてから再度粉体材料2を加圧成形する工程を複数回、好適には4回繰り返すことにより、免震プラグ6の空気含有率が大幅に低減することとなる。なお、図9に示すように、スタンパ5のV字状の加圧面4の一部を軸線方向に対し直交する平面状とすることも可能である。また、加圧面4は平面状に限定されるものではなく、図示は省略するが、曲率を有する形状とすることも可能である。
【0033】
更にまた、図示例では、回転可能なスタンパ5の回転角度をいずれも180°としているが、加圧面4の形状に応じて、粉体材料2の流動を促すに最も適当な角度に適宜変更することも可能である。
【0034】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したにすぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。例えば、図示例では、粉体材料2の受圧面7を異なる形状に2〜4回圧縮変形させて免震プラグ6を製造しているが、所望される空気含有率に応じて、その回数を更に増やすことも可能である。
【実施例1】
【0035】
次に、特許文献1に記載の平面状のスタンパを使用して製造した免震プラグ(比較例免震プラグ1)、及び図6に示したところに従うこの発明の製造方法を用いて製造した免震プラグ(実施例免震プラグ1)を夫々試作し、それらの性能評価を行ったので、以下に説明する。
【0036】
比較例免震プラグ1は以下に説明する方法により製造した。はじめに、計算比重が5.54g/cmであり、表1に示す組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.6mmの円筒状の金型内に充填し、次いで、かかる粉体材料を、スタンパの加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパにより、58.8MPaの面圧にて粉体材料を加圧変形させることで製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.6mmであり、高さは68.0mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0037】
また、実施例免震プラグ1は、以下に説明する方法により製造した。はじめに、計算比重が5.54g/cmであり、表1に示す組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.6mmの円筒状の金型内に充填する。次いで、図7に示すように、スタンパの軸線方向に対し直交する平面状の部分と、スタンパの軸線方向に対し60°にて傾斜してなる部分を有する加圧面を具える、対向する2つのスタンパを用いて、かかる粉体材料を、夫々29.4MPaの面圧(併せて、58.8MPa)にて粉体材料を挟み込んで加圧変形させる。次いで、かかるスタンパを加圧する方向とは反対の方向にスタンパを引き上げてから、スタンパの軸線Xを中心に90°回転させることで、受圧面に対向する加圧面の形状を異なる形状に変更させる。次いで、再度、スタンパを矢印の方向に移動させて、傾斜した加圧面により粉体材料を上記と同一の面圧にて加圧し、粉体材料の受圧面の形状を加圧面の形状に対応する形状に変形させる。次いで、かかるスタンパを金型から引き抜き、スタンパの加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパを用いて粉体材料を加圧し、粉体材料の受圧面を平面化させることで製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.6mmであり、高さは57.4mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0038】
【表1】

【0039】
*1 (天然ゴム)
未加硫、RSS#4
・ 2 (ポリブタジエンゴム(低シス))
未加硫、旭化成製「ジエンNF35R」
*3 カーボンブラック
ISAF、東海カーボン製「シースト6P」
*4 樹脂
日本ゼオン製「ゼオファイン」、新日本石油化学製「日石ネオポリマー140」、丸善石油化学製「マルカレッツM−890A」、「ゼオファイン」:「日石ネオポリマー140」:「マルカレッツM−890A」=40:40:20(質量比)
*5 可塑剤
ジオクチルアジペート(DOA)
*6 その他の配合剤
亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤[住友化学製「アンステージ6C」、ワックス[新日本石油製「プロトワックス1」]、亜鉛華:ステアリン酸:老化防止剤:ワックス=4:5:3:1(質量比)
【0040】
その結果、比較例免震プラグ1の実比重が4.44g/cmとなり、その空気含有率が19.7%であったのに対し、実施例免震プラグ1の実比重が4.93g/cmとなり、その空気含有率が11.4%まで小さくなっていた。
【実施例2】
【0041】
次に、図8に示すV字状のスタンパを使用して製造した免震プラグ(比較例免震プラグ2)、及び図8に示すV字状のスタンパを使用して、この発明の製造方法を用いて製造した免震プラグ(実施例免震プラグ2)を夫々試作し、それらの性能評価を行ったので、以下に説明する。
【0042】
比較例免震プラグ1は以下に説明する方法により製造した。はじめに、計算比重が5.54g/cmであり、表1に示す組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.4mmの円筒状の金型内に充填し、次いで、かかる粉体材料を、スタンパ中央の頂点部の角度θが90°であり、V字状の加圧面を有するスタンパ(図8に示すスタンパを参照)を有する、対向する2つのスタンパを用いて、かかる粉体材料を、夫々29.4MPaの面圧(併せて、58.8MPa)にて粉体材料を挟み込んで加圧変形させることにより製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.4mmであり、高さは28.0mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0043】
また、実施例免震プラグ2は、以下に説明する方法により製造した。はじめに、計算比重が5.54g/cmであり、表1に示す組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.4mmの円筒状の金型内に充填する。次いで、上記したV字状の加圧面を有するスタンパを具える、対向する2つのスタンパを用いて、かかる粉体材料を、夫々29.4MPaの面圧(併せて、58.8MPa)にて粉体材料を挟み込んで加圧変形させる。次いで、かかるスタンパを加圧する方向とは反対の方向にスタンパを引き上げてから、スタンパの軸線Xを中心に90°回転させることで、受圧面に対向する加圧面の形状を異なる形状に変更させる。次いで、再度、スタンパを矢印の方向に移動させて、傾斜した加圧面により粉体材料を上記と同一の面圧にて加圧し、粉体材料の受圧面の形状を加圧面の形状に対応する形状に変形させる。かかる回転してから加圧成形する工程を更に2回行なう(すなわち、合計4回の加圧成形を行なう)ことにより免震プラグを製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.4mmであり、高さは
34.0mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0044】
その結果、比較例免震プラグ2の空気含有率が4.90%であったのに対し、実施例免震プラグ2の空気含有率が3.33%まで小さくなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上の説明から明らかなように、この発明によって、材料に鉛を使用することなく、免震装置の減衰性能及び変位追従性を向上させ得る免震プラグの製造方法、並びにかかる製造方法を実施し得る免震プラグの製造装置を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0046】
1 免震プラグの製造装置
2 粉体材料
3 金型
4、4a、4b 加圧面
5、5a、5b スタンパ
6 免震プラグ
7 受圧面
8 免震装置
A 塑性流動材
B 硬質充填材
X スタンパの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に充填された粉体材料を、スタンパを用いて加圧成形する免震プラグの製造方法において、
該加圧成形を複数回行い、
前記複数回の加圧成形のうち、少なくとも1回の加圧成形を、軸線方向に対して傾斜した加圧面を有する第一のスタンパを用いて行なうことを特徴とする免震プラグの製造方法。
【請求項2】
前記第一のスタンパを用いて加圧成形した後に、該第一のスタンパを、該スタンパの軸線中心に所定角度回転させ、該回転した第一のスタンパを用いて再度加圧成形を行なう、請求項1に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項3】
前記所定の角度を90°とし、前記第一のスタンパを回転させてから加圧成形する工程を4回行なう、請求項2に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項4】
前記第一のスタンパは、該スタンパの軸線方向に対して垂直な加圧面を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項5】
前記第一のスタンパは、該スタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字状の加圧面を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項6】
前記第一のスタンパを用いて加圧成形した後に、該第一のスタンパとは異なる形状の加圧面を有する第二のスタンパを用いて粉体材料を加圧成形する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項7】
前記粉体材料を2方向から加圧成形する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項8】
前記粉体材料は、塑性流動材及び硬質充填材からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の免震プラグの製造方法を用いて製造される免震プラグ。
【請求項10】
粉体材料が充填される金型、及び該金型内の粉体材料を加圧成形させる加圧面を有するスタンパを具える、免震装置用の免震プラグの製造装置において、
前記スタンパは、軸線方向に対して傾斜した加圧面を有する第一のスタンパであることを特徴とする免震プラグの製造装置。
【請求項11】
前記スタンパは、スタンパの軸線を中心に回転可能である、請求項11に記載の免震プラグの製造装置。
【請求項12】
前記第一のスタンパは、該スタンパの軸線方向に対して垂直な加圧面を有する、請求項10又は11に記載の免震プラグの製造方法。
【請求項13】
前記第一のスタンパは、該スタンパの軸線方向にて垂直断面視したときに、スタンパの中央部が加圧方向に突出したV字状の加圧面を有する、請求項10〜12のいずれか一項に記載の免震プラグの製造装置。
【請求項14】
前記第一のスタンパに加え、該第一のスタンパの加圧面とは異なる形状の加圧面を有する第二のスタンパを更に具える、請求項10〜13のいずれか一項に記載の免震プラグの製造装置。
【請求項15】
前記スタンパは、対向する一対のスタンパである、請求項10〜14のいずれか一項に記載の免震プラグの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−253851(P2010−253851A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108332(P2009−108332)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】