説明

免震装置

【課題】並列状態の複数の積層ゴムに架け渡して配置する安定盤を用いずに、積層ゴムの座屈を有効に防止しながら、長周期地震動や長周期パルス地震動に対応可能な免震装置を提供する。
【解決手段】上部構造体と下部構造体との間の上下方向隙間に介装されて前記上部構造体を水平免震状態に支持する免震装置である。前記免震装置は、アウトリガー部材と、前記アウトリガー部材を介して上下に積み重ねられた一対の積層ゴムと、を有する。前記アウトリガー部材は、前記一対の積層ゴム同士に上下から挟まれる部分と、前記挟まれる部分から水平方向の両側に延出する延出部分と、を有する。前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記積層ゴムは水平方向に剪断変形するとともに、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対する水平方向の相対移動を許容された状態で、前記上部構造体及び前記下部構造体の少なくとも一方を当接対象の構造体として当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造体とその下方の下部構造体との間の上下方向隙間に介装されて上部構造体を水平免震状態に支持する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物1を地震から守る免震装置が普及している(図1A及び図1Bを参照)。この免震装置は、例えば下部構造体としての基礎2と上部構造体としての建物1との間に介装された積層ゴム30を本体とし、この積層ゴム30によって建物1を水平変位可能に支持する。そして、この免震装置によれば、建物1の免震周期(免震時の建物の振動周期)を、地震動の卓越周期(例えば0.2〜1秒前後)よりも長い周期(例えば3〜5秒程度)に長周期化することで、建物1の応答加速度を減ずることができる(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−248520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、長周期地震動や長周期パルス地震動等のように、免震装置を具備した建物1が共振し得る程に長周期の地震動や、或いは、免震装置の許容範囲(設計値)を超える程に過大な水平変形をもたらす地震動の発生が懸念されている。
【0005】
かかる地震動への対処方法としては、例えば、図2Aのように積層ゴム30,30…をN段(図示例では二段)に積み上げてなる多段積層ゴム連結体30Gを用いることが挙げられる。そして、この多段積層ゴム連結体30Gによれば、建物1の免震周期を、図1Aの如き積層ゴム30が一段の場合の√N倍まで長周期化できる一方、多段積層ゴム連結体30Gの水平変形の許容範囲も、積層ゴム30が一段の場合のN倍まで拡大する。よって、長周期地震動や長周期パルス地震動にも対応可能である。
【0006】
しかし、単純に積層ゴム30,30…をN段積みにしただけの上記多段積層ゴム連結体30Gでは、その縦横比、つまり鉛直寸法と水平寸法との比が大きくなるので、図2Bのように建物1の水平変位δが大きい時に、多段積層ゴム連結体30Gが座屈し易くなる。すなわち、上下に隣り合う積層ゴム30,30同士の連結部J30が鉛直面内を回転し易くなって鉛直荷重を支え難くなり、その結果、多段積層ゴム連結体30Gが座屈する虞がある。
【0007】
ここで、この座屈問題を解決可能な免震装置の一例として、図3Aに示すようなものが挙げられる。この免震装置は、並列配置された複数の積層ゴム30,30…の上に安定盤100(又は安定梁)を架け渡し、その上に二段目の積層ゴム30,30…を複数並列配置してなる。そして、この免震装置によれば、積層ゴム30,30同士を上下に直結せずに、安定盤100を介して連結しているので、図3Bに示す水平変位時には、積層ゴム30に対して鉛直面内の回転を抑制する方向に安定盤100から曲げ戻し力が付与されて、これにより各積層ゴム30の座屈の問題は解消される。
【0008】
また、積層ゴム30,30を多段に直列配置しているという意味では、この図3Aの免震装置は、図2Aの多段積層ゴム連結体30Gの構成と等価なので、その免震周期は√N倍まで長周期化され、また免震装置の水平変形の許容範囲もN倍まで拡大し、よって、長周期地震動や長周期パルス地震動にも対応可能である。
【0009】
しかし、一般に積層ゴム30は、建物1の自重を直接的に受けられるように、建物1の柱1c(例えば図4)真下に配置されるべきであるところ、通常、隣り合う柱1c,1c同士の間隔は7m〜10m程度と広い。そのため、これを守ろうとすると、上述の安定盤100の水平寸法も、柱1c,1c同士の間隔に対応して長大なサイズの大重量物にならざるを得ないが、そうすると、かかる安定盤100が腹となる振動モードの影響が大きくなって、地震動のうち当該振動モードの振動数成分が建物1に伝わることで免震性能が低下する虞があった。
【0010】
本発明は、かかる従来の課題に鑑みて成されたもので、その目的は、並列状態の複数の積層ゴムに架け渡して配置する安定盤を用いずに、積層ゴムの座屈を有効に防止しながら、長周期地震動や長周期パルス地震動に対応可能な免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために請求項1に示す免震装置は、
上部構造体と下部構造体との間の上下方向隙間に介装されて前記上部構造体を水平免震状態に支持する免震装置であって、
前記免震装置は、アウトリガー部材と、前記アウトリガー部材を介して上下に積み重ねられた一対の積層ゴムと、を有し、
前記アウトリガー部材は、前記一対の積層ゴム同士に上下から挟まれる部分と、前記挟まれる部分から水平方向の両側に延出する延出部分と、を有し、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記積層ゴムは水平方向に剪断変形するとともに、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対する水平方向の相対移動を許容された状態で、前記上部構造体及び前記下部構造体の少なくとも一方を当接対象の構造体として当接することを特徴とする。
【0012】
上記請求項1に示す発明によれば、上部構造体が下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際には、積層ゴムは水平方向に剪断変形するが、このときには、アウトリガー部材の延出部分が、上部構造体及び下部構造体の少なくとも一方に当接する。よって、この当接により、アウトリガー部材は当接対象の構造体から反力を取って、積層ゴムの鉛直面内の回転を抑制する曲げ戻し力を同積層ゴムに付与することができる。その結果、積層ゴムの回転は抑制され、積層ゴムの座屈を防ぐことができる。
【0013】
また、アウトリガー部材の延出部分は、当接対象の構造体に対して、水平方向の相対移動を許容された状態で当接する。つまり、延出部分が、当接対象の構造体に当接している時には、延出部分は、当接対象の構造体に対して水平方向に相対移動可能である。よって、この当接により、上部構造体の免震状態が大きく損なわれることはなく、もって、免震装置は、上部構造体を速やかに水平免震することができる。
【0014】
更に、一対の積層ゴムは上下に積み重ねられて配置されている。つまり鉛直方向に直列配置されている。よって、上部構造体の免震周期を、積層ゴムが一段の場合よりも拡大できるとともに、免震装置の水平変形の許容範囲も、積層ゴムが一段の場合よりも拡大することができて、その結果、当該免震装置は、長周期地震動や長周期パルス地震動にも対応可能である。
【0015】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の免震装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体とが水平方向に相対変位をしていない基準状態では、前記一対の積層ゴム同士は、互いの平面中心が一致した状態になっていることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、相対変位をしてしない基準状態では、一対の積層ゴム同士は、互いの平面中心を一致させた状態になっているので、これら積層ゴムには、上部構造体の自重が鉛直荷重としてのみ作用し、つまり、自重に起因して偶力が発生することはない。これにより、この偶力要因で積層ゴムが鉛直面内を回転してしまうことを有効に回避できて、結果、当該基準状態においてアウトリガー部材に無用な負荷が作用することを防ぐことができる。
【0016】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の免震装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体とが相対変位をしていない基準状態では、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体の自重を支持しておらず、
前記相対変位をした際に、前記延出部分は前記上部構造体の自重の一部を支持することを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、基準状態で上部構造体の自重をアウトリガー部材の延出部分は支持しないので、当該延出部分における当接対象の構造体との当接部位の経年劣化を抑えることができる。例えば、当接部位が転がり支承の転動体の場合に、転動体が回転停止状態のままその特定箇所が転動板に所定圧力で当接し続けると、当該特定箇所が局所的に損傷する(例えば剥がれる)虞があるが、ここで、転動体の回転が停止し得る状態というのは、基本的には上述の基準状態である。よって、上述の如く基準状態において上部構造体の自重を支持しないようにしておけば、上述の損傷を有効に防ぐことができる。
【0017】
また、上述の構成の免震装置によれば、円滑に免震動作を開始することができるとともに、免震動作の開始後には、積層ゴムの鉛直面内の回転を有効に抑制することができる。詳しくは次の通りである。
例えば、仮に基準状態においてアウトリガー部材の延出部分が、上部構造体の自重の一部を支持している場合には、同延出部分における当接対象の構造体との当接部位には、当該当接に起因して水平方向の相対変位を規制する制止力(例えば摩擦力)が生じるが、上述の構成では、基準状態においては自重を支持していないので、同基準状態ではかかる制止力は発生しない。よって、免震装置は、基準状態から円滑に免震動作に移行することができる。
一方で、免震動作の開始後たる相対変位時には、延出部分は上部構造体の自重の一部を支持するようになっている。よって、延出部分は当接対象の構造体と当接してそこから鉛直方向の反力を取ることにより、相対変位時に生じ得る積層ゴムの鉛直面内の回転に対抗すべく曲げ戻し力を発生させることができる。よって、免震動作の開始後の積層ゴムの座屈を有効に防ぐことができる。
【0018】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の免震装置であって、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対する水平方向の相対移動を許容された状態で前記上部構造体及び前記下部構造体の両方を、当接対象の構造体として当接することを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、相対変位時にアウトリガー部材の延出部分は、上部構造体及び下部構造体の両者に当接する。よって、これら構造体のうちの一方の構造体のみに延出部分が当接する場合に起こり得るアウトリガー部材の水平回転の問題などを有効に回避可能となる。これについては後述する。
【0019】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の免震装置であって、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記下部構造体を当接対象の構造体として当接し、
前記アウトリガー部材の上の積層ゴムの上に、更に積み重ねられた別のアウトリガー部材と、該別のアウトリガー部材の上に更に積み重ねられた別の積層ゴムと、からなる追設部分を上方に一段以上有し、
前記相対変位をした際に、前記追設部分のアウトリガー部材の延出部分は、その下方に位置するアウトリガー部材に対する水平方向の相対移動を許容された状態で前記アウトリガー部材に当接することを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、追設部分は別の積層ゴムを有しており、この別の積層ゴムは、別のアウトリガー部材を介して前述の一対の積層ゴムの上方に積み重ねられている。つまり、鉛直方向に直列に配置されている。よって、追設部分の別の積層ゴムに基づいて免震周期の更なる拡大や、免震装置の水平変形の許容範囲の更なる拡大を図れ、その結果、長周期地震動や長周期パルス地震動に確実に対応可能となる。
また、追設部分は、別のアウトリガー部材を有しており、この別のアウトリガー部材の延出部分は、その下方に位置するアウトリガー部材に対する水平方向の相対移動を許容された状態で当該アウトリガー部材に当接する。よって、この当接部位から鉛直方向の反力を取ることにより、上記別のアウトリガー部材は曲げ戻し力を発生し得て、これにより、追設部分の別の積層ゴムやその下方の積層ゴムの鉛直面内の回転変形を抑制できて、その結果、積層ゴムの座屈を防止可能となる。
【0020】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の免震装置であって、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体を当接対象の構造体として当接し、
前記アウトリガー部材の下の積層ゴムの下に、更に積み重ねられた別のアウトリガー部材と、当該別のアウトリガー部材の下に更に積み重ねられた別の積層ゴムと、からなる追設部分を下方に一段以上有し、
前記相対変位をした際に、前記追設部分のアウトリガー部材の延出部分は、その上方に位置するアウトリガー部材に対する水平方向の相対移動を許容された状態で前記アウトリガー部材に当接することを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、追設部分は別の積層ゴムを有しており、この別の積層ゴムは、別のアウトリガー部材を介して前述の一対の積層ゴムの下方に積み重ねられている。つまり、鉛直方向に直列に配置されている。よって、追設部分の別の積層ゴムに基づいて免震周期の更なる拡大や、免震装置の水平変形の許容範囲の更なる拡大を図れ、その結果、長周期地震動や長周期パルス地震動に確実に対応可能となる。
また、追設部分は、別のアウトリガー部材を有しており、この別のアウトリガー部材の延出部分は、その上方に位置するアウトリガー部材に対する水平方向の相対移動を許容された状態で当該アウトリガー部材に当接する。よって、この当接部位から鉛直方向の反力を取ることにより、上記別のアウトリガー部材は曲げ戻し力を発生し得て、これにより、追設部分の別の積層ゴムやその上方の積層ゴムの鉛直面内の回転変形を抑制できて、その結果、積層ゴムの座屈を防止可能となる。
【0021】
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の免震装置であって、
前記延出部分は、前記一対の積層ゴムのうちで前記延出部分の水平方向の内方に位置する積層ゴムを、該積層ゴムの周方向の全周に亘って側方から囲むように設けられており、
前記延出部分は、前記周方向の全周に亘って前記当接対象の構造体に当接可能になっていることを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、上部構造体と下部構造体とが水平方向において任意の方向に相対変位しても、アウトリガー部材の延出部分は、当接対象の構造体から反力を取って上述の曲げ戻し力を発生可能であり、よって、水平方向における任意方向の相対変位に対しても、積層ゴムの座屈を防止可能となる。
【0022】
請求項8に示す発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の免震装置であって、
前記アウトリガー部材は、平面視十文字形状の十文字部材を本体とし、
前記十文字部材における交差部分が、前記一対の積層ゴム同士に上下から挟まれる部分であり、
前記十文字部材は、前記延出部分として複数の脚部を有し、
前記複数の脚部が、前記当接対象の構造体に当接可能になっていることを特徴とする。
上記請求項8に示す発明によれば、アウトリガー部材は十文字部材であるので、アウトリガー部材の内方に位置する積層ゴムは、アウトリガー部材に完全には覆われずに済み、つまり、適度に外方に露出した状態となっている。よって、積層ゴムの保守点検を行い易くなる。また積層ゴムの異常の発見時には、アウトリガー部材の脚部同士の間の空間を通すことにより、積層ゴムをアウトリガー部材の外に容易に取り出すことができて、これにより、アウトリガー部材を上部構造体や下部構造体から外さずに積層ゴムのみを交換可能となり、メンテナンス性に優れたものとなる。
【0023】
請求項9に示す発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の免震装置であって、
前記延出部分と前記当接対象の構造体とは、転がり支承状態で当接していることを特徴とする。
上記請求項9に示す発明によれば、アウトリガー部材の延出部分と当接対象の構造体とは、転がり支承状態で当接している。よって、アウトリガー部材は積層ゴムの座屈を抑制する曲げ戻し力の反力を、当接対象の構造体から有効に取りながらも、当該当接対象の構造体に対して水平方向に円滑に相対移動することができて、つまり、延出部分と当接対象の構造体との当接に起因して、上部構造体の免震状態が大きく損なわれることはない。よって、当該免震装置は、上部構造体を速やかに水平免震することができる。
【0024】
請求項10に示す発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の免震装置であって、
前記延出部分と前記当接対象の構造体とは、滑り支承状態で当接していることを特徴とする。
上記請求項10に示す発明によれば、アウトリガー部材の延出部分と当接対象の構造体とは、滑り支承状態で当接している。よって、この当接に基づいて、アウトリガー部材は積層ゴムの座屈を抑制する曲げ戻し力の反力を有効に取りながらも、当接対象の構造体に対して水平方向に相対移動する際に水平方向の摩擦力を生じさせることができて、この摩擦力を上部構造体の水平振動の減衰力として用いることができる。つまり、この免震装置は、摩擦ダンパーとしても機能し得て、これにより、別途設置予定のダンパー数を削減可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る免震装置によれば、並列状態の複数の積層ゴムに架け渡して配置する安定盤を用いずに、積層ゴムの座屈を有効に防止しながら、長周期地震動や長周期パルス地震動に対応可能な免震装置を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1A及び図1Bは、従来の免震装置の概略側面図である。
【図2】図2A及び図2Bは、長周期地震動等に対応可能な多段積層ゴム連結体30Gの概略側面図である。
【図3】図3A及び図3Bは、積層ゴム30の座屈の問題を回避可能な免震装置の概略側面図である。
【図4】第1実施形態の免震装置10が適用された建物1の概略側面図である。
【図5】図5A及び図5Bは、同免震装置10の概略側面図であり、図5Cは、図5A中のC−C矢視図である。
【図6】図6Aは、アウトリガー部材20の本体が十文字部材20a’の場合の免震装置の概略側面図であり、図6Bは、図6A中のB−B矢視図である。
【図7】図7A及び図7Bは、第1実施形態の変形例の免震装置10aの概略側面図である。
【図8】図8A及び図8Bは、第2実施形態の免震装置10bの概略側面図であり、図8Cは、図8B中のC−C矢視図である。
【図9】図9A乃至図9Cは、第1実施形態の免震装置10に起こり得る水平回転の問題などの説明図であって、図9A及び図9Bは、同免震装置10の概略側面図であり、図9Cは、図9B中のC−C矢視図である。
【図10】図10A及び図10Bは、第3実施形態の免震装置10cの概略側面図である。
【図11】図11A及び図11Bは、第3実施形態の変形例の免震装置10dの概略側面図である。
【図12】図12A及び図12Bは、第4実施形態の免震装置10eの概略側面図である。
【図13】図13A及び図13Bは、第4実施形態の変形例の免震装置10fの概略側面図である。
【図14】図14A及び図14Bは、第5実施形態の免震装置10gの概略側面図であり、図14Cは、同免震装置10gの振動エネルギー吸収履歴特性のグラフである。
【図15】図15Aは、第5実施形態の第1変形例の免震装置10hの振動エネルギー吸収履歴特性のグラフであり、図15B及び図15Cは、同免震装置10hの概略側面図である。
【図16】図16Aは、第5実施形態の第2変形例の免震装置10iの振動エネルギー吸収履歴特性のグラフであり、図16B及び図16Cは、同免震装置10iの概略側面図である。
【図17】図17Aは、第1実施形態の変形例の免震装置10a(図7A)の転がり支承40を滑り支承50に置換した免震装置10a’の概略側面図であり、図17Bは、第2実施形態の免震装置10b(図8A)の転がり支承40を滑り支承50に置換した免震装置10b’の概略側面図である。
【図18】図18Aは、第3実施形態の免震装置10c(図10A)の転がり支承40を滑り支承50に置換した免震装置10c’の概略側面図であり、図18Bは、第3実施形態の変形例の免震装置10d(図11A)の転がり支承40を滑り支承50に置換した免震装置10d’の概略側面図である。
【図19】図19Aは、第4実施形態の免震装置10e(図12A)の転がり支承40を滑り支承50に置換した免震装置10e’の概略側面図であり、図19Bは、第4実施形態の変形例の免震装置10f(図13A)の転がり支承40を滑り支承50に置換した免震装置10f’の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
===第1実施形態===
図4は、第1実施形態の免震装置10が適用された建物1の概略側面図である。
免震装置10は、上部構造体としての建物1と、下部構造体として地面GNDに設けられた基礎2との間の上下方向隙間Gに介装されており、これにより、建物1と基礎2との水平方向の相対変位δを許容しつつ建物1の自重を支持するようになっている。そして、この例では、複数の免震装置10,10…が並列に、且つ建物1の各柱1c,1c…の直下に配置されている。
【0028】
図5A及び図5Bは免震装置10の概略側面図であり、図5Cは、図5A中のC−C矢視図である。なお、図5A及び図5Bでは、図を見易くする関係上、アウトリガー部材20については中心縦断面視で示している。そして、このことは、図6A及び図6Bを除き、以下の説明で用いる全ての概略側面図(例えば、図7A,図7B,図8A,図8B…)について適用することにする。
【0029】
図5Aに示すように、免震装置10は、アウトリガー部材20と、アウトリガー部材20を介して上下に積み重ねられた一対の積層ゴム30,30と、を有している。そして、この例では、二つの積層ゴム30,30が上下に直列配置されているので、その免震周期は、積層ゴム30が1段の場合の√2倍にまで長周期化され、また免震装置10の水平変形の許容範囲も2倍にまで拡大されている。
【0030】
積層ゴム30は、周知構成のものであり、例えば円形等の鋼板たる補強層とゴム層とを上下に交互に積層してなる略円柱体31を、上下一対のフランジ板32,33で挟んで固定したものである。なお、図示例では、上下一対の積層ゴム30,30たる上部積層ゴム30と下部積層ゴム30とは、互いに同仕様となっているが、何等これに限るものではなく、つまり同仕様でなくても良い。
【0031】
上部積層ゴム30は、上フランジ板32にて建物1の下面1bに相対移動不能に固定され、下フランジ板33にてアウトリガー部材20の後述する蓋部22の上面22aに相対移動不能に固定されている。また、下部積層ゴム30は、上フランジ板32にてアウトリガー部材20の蓋部22の下面22bに相対移動不能に固定され、下フランジ板33にて基礎2の上面2aに相対移動不能に固定されている。よって、建物1と基礎2とが水平方向に相対変位δをした際には、各積層ゴム30,30は、建物1の自重を支持しつつ、図5Bに示すように水平方向に速やかに剪断変形する。
【0032】
なお、水平方向に相対変位δをしていない図5Aの基準状態では、これら上部積層ゴム30と下部積層ゴム30とは、互いの平面中心が一致した状態になっている。よって、この基準状態においては、各積層ゴム30,30には、建物1の自重が鉛直荷重としてのみ作用し、つまり、自重に起因して偶力が発生することはない。これにより、この偶力要因で積層ゴム30が鉛直面内を回転してしまうことを有効に回避できて、結果、当該基準状態においてアウトリガー部材20に無用な負荷が作用することを防ぐことができる。
【0033】
アウトリガー部材20は、相対変位時に起こり得る積層ゴム30の座屈を防ぐものである。すなわち、アウトリガー部材20が無い場合には、図2Bに示すように相対変位時には、上下の積層ゴム30,30の連結部J30たるフランジ板33,32の位置において、各積層ゴム30,30が鉛直面内を大きく回転しようとして、これが座屈の原因となるが、このとき、図5Bのアウトリガー部材20は、積層ゴム30,30の回転方向と逆向きの回転力(以下、曲げ戻し力とも言う)を各積層ゴム30,30に付与して座屈を防止する。
【0034】
このような機能のアウトリガー部材20は、図5Aに示すように、例えば鋼製の有蓋円筒体20aを本体とし、その内方には、下部積層ゴム30が互いの間に水平方向の隙間(下部積層ゴム30の水平剪断変形を許容する程度の大きさの水平方向の隙間)を隔てつつ収容され、また、有蓋円筒体20aのうちの蓋部22の上面22aには上部積層ゴム30が載置固定されている。更に、有蓋円筒体20aのうちの円筒部24は、その下端縁に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、基礎2はその上面2aに、転動体42,42…が転動すべき転動板(不図示)を一体に有している。よって、図5Bに示す相対変位δの際にアウトリガー部材20は、各積層ゴム30,30の鉛直面内の回転を抑制するように、転動体42,42…や円筒部24を介して基礎2から上述の曲げ戻し力の反力を取ることができて、そして、この曲げ戻し力が蓋部22を介して各積層ゴム30,30に付与されて、各積層ゴム30,30の座屈は防止される。
【0035】
また、上述のように基礎2から反力を取る際には、アウトリガー部材20は、その円筒部24の転動体42が基礎2の転動板に当接して転動可能な転がり支承状態にあるので、アウトリガー部材20は基礎2に対して水平方向に円滑に相対移動することができて、これにより、建物1の免震状態が大きく損なわれることはない。よって、免震装置10は、建物1を速やかに水平免震することができる。なお、水平免震の後は、積層ゴム50,50の弾性力に基づいて速やかに図5Aの基準状態、つまり相対変位δの無い状態に復位する。
【0036】
ちなみに、上述の有蓋円筒体20aの蓋部22のうちの平面中心側の部分22cが、請求項に係る「積層ゴム30,30同士に上下から挟み込まれる部分」に相当し、同蓋部22のうちの周縁側の部分22dと円筒部24との両者が、請求項に係る「挟み込まれる部分から水平方向の両側に延出する延出部分」に相当する(図5Aや図5Cを参照)。
【0037】
このようなアウトリガー部材20の本体の形状は、何等上述の有蓋円筒体20aに限るものではない。例えば、有蓋多角形筒体(三角形や矩形を含む横断面形状が多角形の筒部の上部に一体に蓋部が設けられたもの)であっても良いし、或いは、図6Aの概略側面図及び図6Bの概略平面図(図6A中のB−B矢視図)に示すような、一対の門型部材21a’を十文字に組んでなる十文字部材20a’でも良い。なお、十文字部材20a’の場合には、一対の門型部材21a’,21a’同士の交差部分CP21a’の下面に下部積層ゴム30が配置され、同交差部分CP21a’の上面に上部積層ゴム30が配置されることとなり、また、門型部材21a’の各脚部には、その下端面に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、基礎2はその上面2aに、転動体42,42…が転動すべき転動板(不図示)を一体に有することとなる。
【0038】
ちなみに、アウトリガー部材20が有蓋円筒体20aや有蓋多角形筒体等の有蓋筒体20aの場合には、十文字部材20a’の場合よりも、積層ゴム30の座屈防止性に長けたものになる。すなわち、図5Aに示すように、前者の有蓋筒体20aの場合には、下部積層ゴム30は、円筒部24(有蓋多角形筒体の場合には、多角形の筒部)の内方に位置していて、つまり、有蓋筒体20aの筒部24は、積層ゴム30を、その周方向の全周に亘って側方から囲むように設けられている。そして、筒部24の下端縁の転動体42,42…は、同周方向の全周に亘って配置され、当該全周に亘って基礎2の転動板に当接可能になっている。よって、建物1と基礎2とが水平方向において任意の方向に相対変位をしても、アウトリガー部材20の本体たる有蓋筒体24は、基礎2から反力を取って上述の曲げ戻し力を確実に発生可能であり、よって、水平方向における任意方向の相対変位に対しても、積層ゴム30の座屈を確実に防止可能となる。
【0039】
また、図5Aに示すように、水平方向に相対変位をしていない基準状態において、アウトリガー部材20の円筒部24の筒軸(円筒部24の平面中心)が各積層ゴム30,30の平面中心に一致するように円筒部24を各積層ゴム30,30に固定しておけば、水平方向の任意方向に相対変位をしてもほぼ同じ大きさの反力を基礎2から取ることができて、結果、座屈の防止効果を相対変位の方向に寄らず均等に発揮可能となる。なお、このことは、以下で説明する実施形態及び変形例の何れの円筒部24’’,24’’’,24Pについても当てはまる。
【0040】
図7A及び図7Bは、第1実施形態の変形例の免震装置10aの概略側面図である。前述の第1実施形態との主な相違点は、アウトリガー部材20の向きにある。すなわち、第1実施形態のアウトリガー部材20の本体は、有蓋円筒体20aであったが、この変形例のアウトリガー部材20’’の本体は、第1実施形態の有蓋円筒体20aを上下反転してなる有底円筒体20a’’である。そして、これにより、アウトリガー部材20’’は、その上方に位置する建物1の下面1bから曲げ戻し力の反力を取るようになっている(図7B)。
【0041】
詳しく説明すると、先ず、有底円筒体20a’’の内方には、上部積層ゴム30が互いの間に水平方向の隙間(上部積層ゴム30の水平剪断変形を許容する程度の大きさの水平方向の隙間)を隔てつつ収容され、また、有底円筒体20a’’のうちの底部22’’の下面22b’’には下部積層ゴム30が固定されている。更に、有底円筒体20a’’のうちの円筒部24’’は、その上端縁に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、建物1はその下面1bに、転動体42,42…が転動すべき転動板(不図示)を一体に有している。よって、図7Bに示す相対変位δの際にアウトリガー部材20’’は、各積層ゴム30,30の鉛直面内の回転を抑制するように、転動体42や円筒部24’’を介して上方の建物1から上述の曲げ戻し力の反力を取ることができて、そして、この曲げ戻し力が底部22’’を介して各積層ゴム30,30に付与されて、各積層ゴム30,30の座屈は防止される。
【0042】
また、上述のように建物1から反力を取る際には、アウトリガー部材20’’は、その円筒部24’’の転動体42が建物1の転動板に当接して転動可能な転がり支承状態にあるので、同アウトリガー部材20’’は建物1に対して水平方向に円滑に相対移動することができて、これにより、建物1の免震状態が大きく損なわれることはない。
【0043】
ちなみに、上述の有底円筒体20a’’の底部22’’のうちの平面中心側の部分22c’’が、請求項に係る「積層ゴム30,30同士に上下から挟み込まれる部分」に相当し、同底部22’’のうちの周縁側の部分22d’’と円筒部24’’との両者が、請求項に係る「挟み込まれる部分から水平方向の両側に延出する延出部分」に相当する(図7Aを参照)。
【0044】
ところで、この変形例の考え方、つまり、曲げ戻し力の反力を上方の建物1から取るという考え方を、前述の十文字部材20a’を本体とするアウトリガー部材20に対して適用しても良く、その場合の構成としては、図6A及び図6Bに示すアウトリガー部材20を上下反転したものとなる。
【0045】
===第2実施形態===
図8A及び図8Bは、第2実施形態の免震装置10bの概略側面図であり、図8Cは、図8B中のC−C矢視図である。
前述の第1実施形態との主な相違点は、図8Bに示すように、アウトリガー部材20’’’が、曲げ戻し力の反力を、建物1と基礎2との両者から取得可能に構成されている点にある。そして、これにより、上記反力を建物1又は基礎2の一方のみから取る場合に起こり得るアウトリガー部材20の水平回転の問題、ひいては積層ゴム30の捻れ破損の問題を回避している。
【0046】
始めに、このアウトリガー部材20の水平回転の問題などについて図9A乃至図9Cを参照しながら説明する。図9A及び図9Bは、第1実施形態の免震装置10の概略側面図であり、図9Cは、図9B中のC−C矢視図である。なお、以下の説明では、水平方向のうちで互いに直交する2方向を、左右方向及び前後方向と言う。
【0047】
例えば、図9Bに示すように建物1が右側へδだけ相対変位した際には、積層ゴム30,30は鉛直面内を時計回りに回転しようとするが、このとき、この回転を抑制すべく、アウトリガー部材20は、円筒部24のうちの右側壁部24R経由で反力を取って反時計回りの曲げ戻し力を積層ゴム30,30に付与し、円筒部24のうちの左側壁部24L経由では反力を取らない。よって、転動体42と転動板との間の摩擦力は、専ら右側壁部24Rで大きくなって、左側壁部24Lでは殆ど生じない。そして、このような状態のときに、仮に、前後方向(図9Bでは図9Bの紙面を貫通する方向)の前方に建物1が相対変位をすると、この相対変位に起因して、図9Cに示すようにアウトリガー部材20には上部積層ゴム30から前方を向いた水平力Fhが作用して、アウトリガー部材20も前方へ移動しようとする。ところが、このときには、アウトリガー部材20の円筒部24の右側壁部24Rには、上述の反力に起因して後方を向いた大きな摩擦力Ffが生じるが、反力が取られない左側壁部24Lには、後方を向いた摩擦力が殆ど発生しない。すると、同図9Cに示すように、上部積層ゴム30から作用する前方を向いた水平力Fhと、右側壁部24Rに作用する後方を向いた摩擦力Ffとが偶力となってアウトリガー部材20に作用し、これにより、アウトリガー部材20が水平回転してしまう。そして、更に、この水平回転は、上部積層ゴム30や下部積層ゴム30に伝達されてこれらを捻り破損してしまう虞がある。
【0048】
これを防ぐべく、図8Bに示す第2実施形態の免震装置10bでは、左側壁部24L’’’については、建物1から反力を取ることによって、後方を向いた大きな摩擦力Ffを建物1との間で発生するようにしており、これにより、図8Cに示すように、右側壁部24R’’’の大きな摩擦力Ffと水平力Fhとの偶力関係を打ち消すようにしている。
【0049】
以下、詳説すると、図8Aに示すように、先ず、このアウトリガー部材20’’’は、円筒部24’’’と、この円筒部24’’’の内部空間を上下に仕切る板状の仕切り部22’’’とを一体に有している。そして、仕切り部22’’’の上方の空間に上部積層ゴム30が収容され、仕切り部22’’’の下方の空間に下部積層ゴム30が収容されている。
【0050】
ここで、円筒部24’’’は、その下端縁に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、基礎2はその上面2aに、転動体42が転動すべき転動板(不図示)を一体に有している。また、同円筒部24’’’は、その上端縁にも転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、建物1はその下面1bに、転動体42が転動すべき転動板(不図示)を一体に有している。
【0051】
よって、例えば、図8Bに示すように建物1が右側にδだけ相対変位した際には、各積層ゴム30,30は鉛直面内を時計回りに回転をしようとするので、これを抑制すべく、アウトリガー部材20’’’の円筒部24’’’の右側壁部24R’’’は、その下端縁の転動体42や転動板を経由して基礎2から曲げ戻し力の反力を取るが、これと同時に、アウトリガー部材20’’’の円筒部24’’’の左側壁部24L’’’も、その上端縁の転動体42や転動板を経由して建物1から曲げ戻し力の反力を取る。そして、このとき、右側壁部24R’’’の反力と左側壁部24L’’’の反力とは、互いに概ね同じ大きさになっており、よって、生じる摩擦力の大きさも互いにほぼ等しい。そのため、仮にこの状態において、建物1が前後方向(図8Bでは図8Bの紙面を貫通する方向)の前方に相対変位したとしても、その際にアウトリガー部材20’’’に作用する力は、図8Cに示すように、上部積層ゴム30から付与される前方を向いた水平力Fhと、右側壁部24R’’’に作用する後方を向いた摩擦力Ffと、左側壁部24L’’’に作用する後方を向いた摩擦力Ffとの三者であり、そして、これら右側壁部24R’’’の摩擦力Ffと左側壁部24L’’’の摩擦力Ffとはほぼ同じ大きさである。よって、右側壁部24R’’’の摩擦力Ffと水平力Fhとの偶力関係は、左側壁部24L’’’の摩擦力Ffによって打ち消され、結果、アウトリガー部材20’’’の水平回転は防止される。
【0052】
ちなみに、建物1が上述とは逆側たる左側に相対変位した際には、上述の逆動作となるのは言うまでもない。つまり、積層ゴム30は上述の逆向きの半時計回りに回転しようとするので、アウトリガー部材20’’’は、円筒部24’’’の右側壁部24R’’’の上端縁から曲げ戻し力の反力を取ると同時に、同左側壁部24L’’’の下端縁からも曲げ戻しの反力を取ることになる。
【0053】
なお、上述の仕切り部22’’’のうちの平面中心側の部分22c’’’が、請求項に係る「積層ゴム30,30同士に上下から挟み込まれる部分」に相当し、同仕切り部22’’’のうちの周縁側の部分22c’’’と円筒部24’’’との両者が、請求項に係る「挟み込まれる部分から水平方向の両側に延出する延出部分」に相当する。
【0054】
ところで、この第2実施形態の考え方、つまり、曲げ戻し力の反力を建物1及び基礎2の両者から取るという考え方を、前述の十文字部材20a’を本体とするアウトリガー部材20に対して適用しても良い。そして、その場合の構成としては、図6A及び図6Bに示すアウトリガー部材20の各門型部材21a’,21a’に対して、それぞれ、水平方向の両端部から上方に向けて延在する一対の脚部を有したものであって、更に、各脚部には、その上端面に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、建物2はその下面2aに、転動体42,42…が転動すべき転動板(不図示)を一体に有したものとなる。
【0055】
===第3実施形態===
図10A及び図10Bは、第3実施形態の免震装置10cの概略側面図である。第1実施形態との相違点は、積層ゴム30を積み重ねる段数にある。すなわち、第1実施形態では、二つの積層ゴム30,30を鉛直方向に直列に積み重ねてなる二段構成であったが、この第2実施形態では、更に積層ゴム30Pを鉛直方向に直列に積み重ねることによって三段構成になっている。そして、これにより、第1実施形態よりも直列配置の積層ゴム30の数が多いことから、その免震周期が更に長周期化され、また免震装置10cの水平変形の許容範囲も更に拡大されている。ちなみに、積層ゴム30Pを追設したことに対応して、アウトリガー部材20Pも一つ増設されている。
【0056】
以下、この免震装置10cの構成について説明する。
図10Aに示すように、この免震装置10cは、第1実施形態の免震装置10の上に、別のアウトリガー部材20Pと別の積層ゴム30Pとを一つずつ積み重ねたものである。すなわち、第1実施形態の免震装置10への追設部分15として、第1実施形態の上部積層ゴム30の上に更に積み重ねられた別のアウトリガー部材20Pと、この別のアウトリガー部材20Pの上に更に積み重ねられた別の積層ゴム30Pと、を有している。
以下では、この別のアウトリガー部材20Pのことを「二段目のアウトリガー部材20P」と言い、別の積層ゴム30Pのことを「三段目の積層ゴム30P」と言う。また、第1実施形態の上部積層ゴム30のことを「二段目の積層ゴム30」と言い、下部積層ゴム30のことを「一段目の積層ゴム30」と言い、更に、同アウトリガー部材20のことを「一段目のアウトリガー部材20」と言う。
【0057】
図10Aに示すように、三段目の積層ゴム30Pの上フランジ板32Pは、建物1の下面1bに相対移動不能に固定され、下フランジ板33Pは二段目のアウトリガー部材20Pの蓋部22Pの上面22Paに相対移動不能に固定され、更に、二段目のアウトリガー部材20Pの蓋部22Pの下面22Pbは、二段目の積層ゴム30の上フランジ板32に相対移動不能に固定されている。
【0058】
ここで、二段目のアウトリガー部材20の円筒部24も、その下端縁に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、一段目のアウトリガー部材20の蓋部22はその上面22aに、転動体42が転動すべき転動板(不図示)を一体に有している。よって、図10Bに示す相対変位δの際には、二段目のアウトリガー部材20Pは、二段目及び三段目の積層ゴム30,30Pの鉛直面内の回転を抑制するように、転動体42や円筒部24Pを介して一段目のアウトリガー部材20から曲げ戻し力の反力を取ることができて、そして、この曲げ戻し力が二段目のアウトリガー部材20Pの蓋部22Pを介して二段目及び三段目の積層ゴム30,30Pに付与されて、これらの積層ゴム30,30Pの座屈は防止される。
【0059】
また、上述のように二段目のアウトリガー部材20Pが一段目のアウトリガー部材20から反力を取る際には、二段目のアウトリガー部材20Pは、その円筒部24Pの転動体42が一段目のアウトリガー部材20の蓋部22の転動板に当接して転動可能な転がり支承状態にあるので、当該二段目のアウトリガー部材20Pは、一段目のアウトリガー部材20に対して水平方向に円滑に相対移動することができて、これにより、建物1の免震状態が大きく損なわれることはない。よって、この免震装置10cは、建物1を速やかに水平免震することができる。
【0060】
なお、一段目及び二段目の積層ゴム30,30の座屈が、一段目のアウトリガー部材20で防止されるメカニズムは、第1実施形態の場合と同じなので、その説明については省略する。
【0061】
ところで、前述したようにδの相対変位時には、二段目の積層ゴム30の剪断変形に起因して、二段目のアウトリガー部材20Pは、一段目のアウトリガー部材20に対して水平方向に相対移動する(図10Bを参照)。そのため、一段目のアウトリガー部材20の蓋部22の上面22aは、この相対移動分だけ第1実施形態の場合よりも広く形成されている。この例では、例えば、一段目のアウトリガー部材20の円筒部24の上端部には、側方に連続して延出する鍔部25が設けられている。よって、二段目のアウトリガー部材20Pが一段目のアウトリガー部材20に対して水平方向に相対移動しても、二段目のアウトリガー部材20Pは、一段目のアウトリガー部材20の鍔部25等を滑動して何等問題無く同部材20から曲げ戻し力の反力を取ることができる。
【0062】
図11A及び図11Bは、第3実施形態の変形例の免震装置10dの概略側面図である。この変形例は、第3実施形態で一段であった追設部分15(アウトリガー部材20Pと積層ゴム30Pとからなるペア部材15)を、複数段の一例として二段だけ設けたものであり、基本的な内容は、第3実施形態と同じである。よって、その説明については省略する。なお、当該追設部分15の設置数は、何等一段や二段に限るものではなく、三段以上設けても良いのは言うまでもない。
【0063】
===第4実施形態===
図12A及び図12Bは、第4実施形態の免震装置10eの概略側面図である。前述の第3実施形態では、第1実施形態の免震装置10に対して、積層ゴム30Pとアウトリガー部材20Pとからなる追設部分15を追設していたが、図12Aに示すように、この第4実施形態では、第1実施形態の変形例の免震装置10aに対して、類似構成の追設部分15’’を設けている点で相違する。すなわち、この第4実施形態では、第1実施形態の変形例の下部積層ゴム30の下に追設部分15’’を積み重ねて設けており、そして、この追設部分15’’として、下部積層ゴム30の下に積み重ねられた別のアウトリガー部材20P’’と、この別のアウトリガー部材20P’’の下に更に積み重ねられた別の積層ゴム30Pと、を有している。
【0064】
以下では、この別のアウトリガー部材20P’’のことを「一段目のアウトリガー部材20P’’」と言い、別の積層ゴム30Pのことを「一段目の積層ゴム30P」と言う。また、第1実施形態の変形例の下部積層ゴム30のことを「二段目の積層ゴム30」と言い、上部積層ゴム30のことを「三段目の積層ゴム30」と言い、更に、第1実施形態の変形例のアウトリガー部材20’’のことを「二段目のアウトリガー部材20’’」と言う。
【0065】
図12Aに示すように、一段目の積層ゴム30Pの下フランジ板33Pは、基礎2の上面2aに相対移動不能に固定され、上フランジ板32Pは一段目のアウトリガー部材20P’’の蓋部22P’’の下面22Pb’’に相対移動不能に固定され、更に、一段目のアウトリガー部材20P’’の蓋部22P’’の上面22Pa’’は、二段目の積層ゴム30の下フランジ板33に相対移動不能に固定されている。
【0066】
ここで、一段目のアウトリガー部材20P’’の円筒部24P’’も、その上端縁に転がり支承40の転動体42,42…や転動体42,42…の保持器(不図示)を有し、これに対応させて、二段目のアウトリガー部材20’’の蓋部22’’はその下面22b’’に、転動体42が転動すべき転動板(不図示)を一体に有している。よって、図12Bに示す相対変位δの際には、一段目のアウトリガー部材20P’’は、一段目及び二段目の積層ゴム30P,30の鉛直面内の回転を抑制するように、転動体42や円筒部24P’’を介して二段目のアウトリガー部材20’’から曲げ戻し力の反力を取ることができて、これにより、この曲げ戻し力が一段目のアウトリガー部材20P’’の蓋部22P’’を介して一段目及び二段目の積層ゴム30P,30に付与されて、これらの積層ゴム30P,30の座屈は防止される。
【0067】
また、上述のように二段目のアウトリガー部材20’’から反力を取る際には、一段目のアウトリガー部材20P’’は、その円筒部24P’’の転動体42が二段目のアウトリガー部材20’’の蓋部22’’の転動板に当接して転動可能な転がり支承状態にあるので、一段目のアウトリガー部材20P’’は二段目のアウトリガー部材20’’に対して水平方向に円滑に相対移動することができて、これにより、建物1の免震状態が大きく損なわれることはない。よって、この免震装置10dは、建物1を速やかに水平免震することができる。
【0068】
なお、二段目及び三段目の積層ゴム30,30の座屈が、二段目のアウトリガー部材20’’で防止されるメカニズムは、第1実施形態の変形例(図7B)の場合と同じなので、その説明については省略する。
【0069】
ところで、前述したように相対変位時には、一段目の積層ゴム30Pの剪断変形に起因して、一段目のアウトリガー部材20P’’は、二段目のアウトリガー部材20’’に対して水平方向に相対移動する(図12B)。そのため、二段目のアウトリガー部材20’’の蓋部22’’の下面22b’’は、この相対移動分だけ第1実施形態の変形例の場合よりも広く形成されている。この例では、例えば、二段目のアウトリガー部材20’’の円筒部24’’の下端部には、側方に連続して延出する鍔部25’’が設けられている。よって、一段目のアウトリガー部材20P’’が二段目のアウトリガー部材20’’に対して水平方向に相対移動しても、一段目のアウトリガー部材20P’’は、二段目のアウトリガー部材20’’の鍔部25’’等を滑動して何等問題無く同部材20’’から曲げ戻し力の反力を取ることができる。
【0070】
図13A及び図13Bは、第4実施形態の変形例の免震装置10fの概略側面図である。この変形例は、第4実施形態で一段であった追設部分15’’(アウトリガー部材20P’’と積層ゴム30Pとからなるペア部材15’’)を、複数段の一例として二段だけ設けたものであり、基本的な内容は、第4実施形態と同じである。よって、その説明については省略する。なお、当該追設部分15’’の設置数は、何等一段や二段に限るものではなく、三段以上設けても良いのは言うまでもない。
【0071】
===第5実施形態===
図14A及び図14Bは、第5実施形態の免震装置10gの概略側面図である。前述の第1実施形態では、アウトリガー部材20の円筒部24は、建物1に対して転がり支承状態で当接していたが、この第2実施形態では、滑り支承状態で当接する点で相違する。そして、この滑り支承状態の摩擦力Ffによって、この免震装置10gには、建物1の水平免震機能に加えて、更に建物1の水平振動を減衰する機能が付与されている。なお、これ以外の点は、概ね第1実施形態と同じ構成であるので、以下の説明では、同じ構成については同じ符号を付してその説明については省略する。
【0072】
図14Aに示すように、アウトリガー部材20の円筒部24は、その下端縁に滑り支承50の摩擦板52を一体に有し、また、基礎2はその上面2aに、摩擦板52が摺動すべき滑り板(不図示)を一体に有している。
【0073】
よって、図14Bに示すような建物1の水平方向の相対変位時には、曲げ戻しの反力を垂直抗力としつつ摩擦板52が滑り板に対して水平方向に摺動し、これにより、これら摩擦板52と滑り板との間の摺動面には水平方向の摩擦力Ffが発生する。そして、これが建物1の水平振動を減衰する減衰力として建物1に作用し、建物1の水平振動は抑制される。つまり、水平振動のエネルギーが免震装置10gによって吸収される。
【0074】
図14Cは、この免震装置10の振動エネルギー吸収履歴特性のグラフである。横軸は、建物1の基礎2に対する水平方向の相対変位δであり、縦軸は、免震装置10gから建物1に付与される水平力Pである。そして、同図中では、この第5実施形態の免震装置10gのP−δ関係については実線で示している。
【0075】
なお、同図中には、参考として、第1実施形態の免震装置10において転がり支承40の摩擦力Ffが零という理想状態の場合のP−δ関係も、二点鎖線で併記しているが、この免震装置10の場合には、水平力Pは専ら積層ゴム30,30の剪断変形の弾性力のみに基づいて生じるので、そのP−δ関係は、ヒステリシスの無い右上がりの直線となっている。
【0076】
一方、第5実施形態の免震装置10gは、前述したように、第1実施形態の免震装置10のアウトリガー部材20の転がり支承40を滑り支承50に置換したものである。よって、第5実施形態の免震装置10gのP−δ関係は、図14Cのグラフの二点鎖線の関係に対して、滑り支承50の摩擦力Ff分だけ水平力Pが変化したものになり、その結果、同グラフ中に実線で表したものとなる。
【0077】
ここで、図14Cを見てわかるように、摩擦力Ffの大きさは、相対変位δの増加に伴って増加しているが、これは、相対変位δの増加に伴って、積層ゴム30,30が鉛直面内において回転しようとする力が大きくなり、これによって、基礎2から取る反力が大きくなるからである。そして、かかる免震装置10gによれば、P−δ関係は、略三角形のヒステリシスを有するため、その面積に相当する分だけ建物1の水平振動のエネルギーを免震装置10gは吸収可能となる。
【0078】
また、図14Cを参照してわかるように、この例では、相対変位δが零の基準状態においては、摩擦力Ffが生じていない。そして、このようになっていれば、免震装置10gは、基準状態から免震動作へと円滑に移行することができる。ちなみに、「摩擦力Ffが生じていない」ということは、「基礎2から反力を得ていない」ということと同義であり、また、「反力を得ていない」ということは、「アウトリガー部材20の円筒部24が、建物1の自重を支持していない」ということと同義である。更に言えば、「相対変位をした際に、アウトリガー部材20の円筒部24が曲げ戻し力の反力を取る」ということは、「相対変位δをした際に、アウトリガー部材20の円筒部24は、建物1の自重の一部を支持している」ということと同義である。
【0079】
なお、前述の転がり支承40を用いた各種の実施形態の免震装置10,10a,10b,10c,10d,10e,10fに対して、上述のように設定しても良い。つまり、基準状態においてアウトリガー部材20の円筒部24が建物1の自重を支持しないように設定しても良い。そして、そのようにすれば、転がり支承40の局所的な損傷を有効に防止することができる。すなわち、転動体42が回転停止状態のままその転動体42の特定箇所が転動板に所定圧力で当接し続けると、当該特定箇所が局所的に剥がれる等の損傷を来す虞があるが、ここで、転動体42の回転が停止し得る状態というのは、基本的に上述の基準状態である。よって、上述の如く基準状態において建物1の自重を支持しないようにしておけば、上述の局所的な損傷を有効に防止可能となる。
【0080】
図15Aは、第5実施形態の第1変形例の免震装置10hの振動エネルギー吸収履歴特性のグラフである。二点鎖線の直線は、前述の図14Cの場合と同様に、摩擦力Ffが零の場合の理想状態のP−δ関係である。前述の第5実施形態のP−δ関係では、相対変位δが零以外の全域に亘ってアウトリガー部材20の滑り支承50が摩擦力Ffを発生していたが、この第1変形例では、相対変位δが零±δ1の範囲(−δ1≦δ≦δ1)においては摩擦力Ffが生じず、相対変位δが、零±δ1の範囲から外れたら(つまり、−δ1>δ又はδ1<δになったら)、摩擦力Ffが発生するようになっている。よって、相対変位δが、零±δ1の範囲内においては、免震装置10hは水平振動の減衰効果を発揮しないが、相対変位δが、零±δ1の範囲から外れたら、減衰効果を発揮する。
【0081】
このような摩擦力Ffの変化パターンは、滑り支承50のクリアランス設定、すなわち、図15Bに示すような相対変位δが零の基準状態において滑り支承50の摩擦板52と滑り板との間に隙間Sを設けることで実現される。詳しくは次の通りである。
先ず、相対変位δが零の基準状態では上記の隙間Sに基づいて摩擦板52と滑り板とは接触しないので、摩擦力Ffは生じない。そして、例えば、図15Cに示すように建物1が右側に相対変位して当該相対変位δが徐々に大きくなると、それに連れて積層ゴム30,30が鉛直面内を時計回りに回転していくが、そうすると、これら積層ゴム30,30に押される形でアウトリガー部材20も鉛直面内を時計回りに回転し、これにより、アウトリガー部材20の円筒部24の右側壁部24Rにて摩擦板52と滑り板との隙間Sが狭くなっていき、逆に左側壁部24Lでは摩擦板52と滑り板との隙間Sが広くなっていく。そして、相対変位δがδ1になった時に、右側壁部24Rにて摩擦板52と滑り板との間の隙間Sが無くなってこれらが当接を開始し、これにより摩擦板52と滑り板との間には摩擦力Ffが発生する。そして、更に相対変位δが大きくなると、右側壁部24Rの反力が増大するため摩擦力Ffも増大し、このようにして、上述のような摩擦力Ffの変化パターンが実現される。
ちなみに、建物1が上述とは逆側の左側に相対変位した際には、上述の逆動作となるだけなので、その説明については省略する。
【0082】
図16Aは、第5実施形態の第2変形例の免震装置10iの振動エネルギー吸収履歴特性のグラフである。前述の図14Cと同様に、二点鎖線の直線は摩擦力Ffが零の場合の理想状態のP−δ関係である。前述の第5実施形態のP−δ関係(図14C)では、相対変位δが零の基準状態では、アウトリガー部材20の滑り支承50には摩擦力Ffが発生していなかったが、この第2変形例では、図16Aに示すように、相対変位δが零の基準状態においても摩擦力Ffが発生するようになっている。そして、この基準状態から相対変位δが大きくなると、この摩擦力Ffの大きさも大きくなるようになっている。
【0083】
このような摩擦力Ffの変化パターンは、滑り支承50に対して鉛直方向に予圧をかけておくことで実現される。図16B及び図16Cは、予圧を付与可能な免震装置10iの一例の説明図である。この例では、アウトリガー部材20は、円筒部24の下端縁と、摩擦板52との間に皿ばね等の複数のばね部材60,60…を有している。そして、この複数のばね部材60,60…は、円筒部24の周方向の全周に亘って等ピッチで配置されており、また、相対変位δが零の基準状態では、これらばね部材60,60…は圧縮状態になっている。
よって、この基準状態においても基礎2から反力が取られており、これにより、滑り支承50の摩擦板52と滑り板との間には摩擦力Ffが発生する。そして、この基準状態から建物1が図16Cに示すように右側にδだけ相対変位すると、積層ゴム30,30の鉛直面内の時計回りの回転に伴ってアウトリガー部材20も時計回りに回転するが、これにより、アウトリガー部材20の円筒部24のうちで右側壁部24Rのところのばね部材60は更に圧縮される。よって、基礎2から取る反力も増大して、摩擦力Ffも増大し、このようにして、上述のような摩擦力Ffの変化パターンが実現される。
【0084】
ところで、転がり支承40を備える形態で例示した前述の第1実施形態の変形例の免震装置10a(図7A)、第2実施形態の免震装置10b(図8A)、第3実施形態の免震装置10c(図10A)、第3実施形態の変形例の免震装置10d(図11A)、第4実施形態の免震装置10e(図12A)、第4実施形態の変形例の免震装置10f(図13A)に対して、それぞれ転がり支承40の構成を上述の滑り支承50に置換しても良いのは言うまでも無く、その場合には、それぞれ、図17A乃至図19Bのような構成の免震装置10a’,10b’,10c’,10d’,10e’,10f’が得られることになる。
更には、第1実施形態やその変形例、及び第2実施形態のところでは、十文字部材20a’を本体とするアウトリガー部材20の免震装置(図6A、図6B)についても転がり支承40を備える形態として説明していたが、これらの免震装置についても、転がり支承40の構成を、上述の滑り支承50に置換しても良い。
【0085】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0086】
上述の実施形態では、各種の免震装置10,10a…10iを建物1と基礎2との間の上下方向隙間Gに介装したが、何等これに限るものではない。例えば、建物1が多層階からなる場合には、上部構造体としての上層階の床スラブと、下部構造体としての下層階の天井スラブとの間の上下方向隙間に免震装置を介装しても良い。
【0087】
上述の実施形態では、オイルダンパーや摩擦ダンパー等の建物1の水平振動を減衰する減衰部材を、上下方向隙間Gに設置することについて説明していなかったが、建築仕様に応じて設置するか否かを決めて良いのは言うまでもない。
【0088】
上述の実施形態では、アウトリガー部材20,20’’,20’’’の本体(例えば、有蓋円筒体20aや有底円筒体20a’’、十文字部材20a’等)の素材を鋼としていたが、建物1や基礎2から取った反力に基づいて曲げ戻し力を発生可能な剛性や強度を有する素材であれば、何等これに限るものではなく、例えばコンクリート製としても良い。
【符号の説明】
【0089】
1 建物(上部構造体)、1b 下面、1c、柱、
2 基礎(下部構造体)、2a 上面、
10 免震装置、10a 免震装置、10b 免震装置、10c 免震装置、
10d 免震装置、10e 免震装置、10f 免震装置、10g 免震装置、
10h 免震装置、10i 免震装置、
10a’ 免震装置、10b’ 免震装置、10c’ 免震装置、
10d’ 免震装置、10e’ 免震装置、10f’ 免震装置、
15 ペア部材(追設部分)、15’ ’ ペア部材(追設部分)、
20 アウトリガー部材、20a 有蓋円筒体、
22 蓋部(挟み込まれる部分、延出部分)、22a 上面、22b 下面、
22c 蓋部のうちの平面中心側の部分(挟み込まれる部分)、
22d 蓋部のうちの周縁側の部分(延出部分)、
24 円筒部(延出部分)、
24R 右側壁部、24L 左側壁部、
20a’ 十文字部材(アウトリガー部材)、21a’ 門型部材、
20’’ アウトリガー部材、20a’’ 有底円筒体、
22’’ 底部(挟み込まれる部分、延出部分)、
22c’’ 蓋部のうちの平面中心側の部分(挟み込まれる部分)、
22d’’ 蓋部のうちの周縁側の部分(延出部分)、
24’’ 円筒部(延出部分)、
20’’’ アウトリガー部材、
22’’’ 仕切り部(挟み込まれる部分、延出部分)、
22c’’’ 仕切り部のうちの平面中心側の部分(挟み込まれる部分)、
22d’’’ 仕切り部のうちの周縁側の部分(延出部分)、
24’’’ 円筒部(延出部分)、
24R’’’ 右側壁部、24L’’’ 左側壁部、
20P 別のアウトリガー部材、22P 蓋部(挟み込まれる部分、延出部分)、
22Pa 上面、22Pb 下面、24P 円筒部(延出部分)、25 鍔部、
20P’’ アウトリガー部材、22P’’ 蓋部(挟み込まれる部分、延出部分)、
22Pa’’ 上面、22Pb’’ 下面、24P’’ 円筒部(延出部分)、
25’’ 鍔部、
30 積層ゴム、30P 別の積層ゴム、31 略円柱体、
32 上フランジ板、32P 上フランジ板、
33 下フランジ板、33P 下フランジ板、
40 転がり支承、42 転動体、
50 滑り支承、52 摩擦板、
60 ばね部材、
G 上下方向隙間、S 隙間、J30 連結部
CP21a’ 交差部分、GND 地面、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間の上下方向隙間に介装されて前記上部構造体を水平免震状態に支持する免震装置であって、
前記免震装置は、アウトリガー部材と、前記アウトリガー部材を介して上下に積み重ねられた一対の積層ゴムと、を有し、
前記アウトリガー部材は、前記一対の積層ゴム同士に上下から挟まれる部分と、前記挟まれる部分から水平方向の両側に延出する延出部分と、を有し、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記積層ゴムは水平方向に剪断変形するとともに、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対する水平方向の相対移動を許容された状態で、前記上部構造体及び前記下部構造体の少なくとも一方を当接対象の構造体として当接することを特徴とする免震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の免震装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体とが水平方向に相対変位をしていない基準状態では、前記一対の積層ゴム同士は、互いの平面中心が一致した状態になっていることを特徴とする免震装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の免震装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体とが相対変位をしていない基準状態では、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体の自重を支持しておらず、
前記相対変位をした際に、前記延出部分は前記上部構造体の自重の一部を支持することを特徴とする免震装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の免震装置であって、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対する水平方向の相対移動を許容された状態で前記上部構造体及び前記下部構造体の両方を、当接対象の構造体として当接することを特徴とする免震装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の免震装置であって、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記下部構造体を当接対象の構造体として当接し、
前記アウトリガー部材の上の積層ゴムの上に、更に積み重ねられた別のアウトリガー部材と、該別のアウトリガー部材の上に更に積み重ねられた別の積層ゴムと、からなる追設部分を上方に一段以上有し、
前記相対変位をした際に、前記追設部分のアウトリガー部材の延出部分は、その下方に位置するアウトリガー部材に対する水平方向の相対移動を許容された状態で前記アウトリガー部材に当接することを特徴とする免震装置。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかに記載の免震装置であって、
前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対変位をした際に、前記アウトリガー部材の前記延出部分は、前記上部構造体を当接対象の構造体として当接し、
前記アウトリガー部材の下の積層ゴムの下に、更に積み重ねられた別のアウトリガー部材と、当該別のアウトリガー部材の下に更に積み重ねられた別の積層ゴムと、からなる追設部分を下方に一段以上有し、
前記相対変位をした際に、前記追設部分のアウトリガー部材の延出部分は、その上方に位置するアウトリガー部材に対する水平方向の相対移動を許容された状態で前記アウトリガー部材に当接することを特徴とする免震装置。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れかに記載の免震装置であって、
前記延出部分は、前記一対の積層ゴムのうちで前記延出部分の水平方向の内方に位置する積層ゴムを、該積層ゴムの周方向の全周に亘って側方から囲むように設けられており、
前記延出部分は、前記周方向の全周に亘って前記当接対象の構造体に当接可能になっていることを特徴とする免震装置。
【請求項8】
請求項1乃至4の何れかに記載の免震装置であって、
前記アウトリガー部材は、平面視十文字形状の十文字部材を本体とし、
前記十文字部材における交差部分が、前記一対の積層ゴム同士に上下から挟まれる部分であり、
前記十文字部材は、前記延出部分として複数の脚部を有し、
前記複数の脚部が、前記当接対象の構造体に当接可能になっていることを特徴とする免震装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の免震装置であって、
前記延出部分と前記当接対象の構造体とは、転がり支承状態で当接していることを特徴とする免震装置。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れかに記載の免震装置であって、
前記延出部分と前記当接対象の構造体とは、滑り支承状態で当接していることを特徴とする免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−24298(P2013−24298A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158137(P2011−158137)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】