説明

全固体電池およびその製造方法

【課題】本発明は、正極活物質と、固体電解質材料との界面抵抗が経時的に増加することを抑制可能な全固体電池を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一方が、硫化物固体電解質材料を含有し、上記正極活物質の表面に、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部が形成され、上記第1リチウムイオン伝導体は、常温でのリチウムイオン伝導度が、1.0×10−7S/cm以上のLi含有化合物であり、上記第2リチウムイオン伝導体は、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物であることを特徴とする全固体電池を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質と、硫化物固体電解質材料との界面抵抗の経時的な増加を抑制することが可能な全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような全固体電池の分野において、従来から、正極活物質および固体電解質材料の界面に着目し、全固体電池の性能向上を図る試みがある。例えば、非特許文献1においては、正極活物質であるLiCoOの表面にLiNbOを被覆した材料が開示されている。この技術は、LiCoOの表面にLiNbOを被覆することで、LiCoOおよび固体電解質材料の界面抵抗を低減させ、電池の高出力化を図ったものである。
【0005】
また、特許文献1には、正極活物質の表面に抵抗層形成抑制コート層が被覆された抵抗層形成抑制コート層被覆正極活物質が開示されている。これは、正極活物質および固体電解質材料の反応による高抵抗部位の形成、また高抵抗部位の成長による正極活物質の浸食等の抑制を図ったものである。さらに特許文献2には、正極活物質にLiNbOを被覆し、XPSによる測定で被覆状態を規定した正極活物質材料が開示されている。これは、被覆したLiNbOの厚さを均一化することによって、高温時における酸化物正極活物質と固体電解質材料との界面抵抗増加の抑制を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−266728
【特許文献2】特開2010−170715
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Narumi Ohta et al., “LiNbO3-coated LiCoO2 as cathode material for all solid-state lithium secondary batteries”, Electrochemistry Communications 9 (2007), 1486-1490
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に記載されるように、正極活物質の表面に抵抗層形成抑制コート層(反応抑制部)を形成することで、正極活物質および固体電解質材料の界面抵抗を低減させることができる。これは、正極活物質の表面に反応抑制部を形成することで、正極活物質および固体電解質材料(特に硫化物固体電解質材料)が反応して高抵抗層が発生することを抑制できるからであると考えられる。しかしながら、反応抑制部を形成することによりイオン伝導性が低下し、表面に反応抑制部を形成した正極活物質を含有する正極活物質層を用いた全固体電池の出力特性が低下してしまうという問題点があり、イオン伝導性に優れた材料から構成される反応抑制部を形成することが望まれている。
【0009】
例えば、LiNbOは常温で1.0×10−7S/cm以上程度のLiイオン伝導性を示す。このような材料から構成される反応抑制部を備える正極活物質は、Liイオン伝導性に優れるという利点を有し、全固体電池を作製する際に、初期段階では正極活物質および固体電解質材料の界面抵抗を低減させることができる。しかしながら、経時的に見ると、界面抵抗が増加してしまうという課題を抱えている。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、正極活物質と、固体電解質材料との界面抵抗が経時的に増加することを抑制可能な全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一方が、硫化物固体電解質材料を含有し、上記正極活物質の表面に、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部が形成され、上記第1リチウムイオン伝導体は、常温でのリチウムイオン伝導度が、1.0×10−7S/cm以上のLi含有化合物であり、上記第2リチウムイオン伝導体は、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物であることを特徴とする全固体電池を提供する。
【0012】
本発明によれば、正極活物質の表面に、Liイオン伝導性が良好な第1リチウムイオン伝導体に加えて、電気化学的安定性の高い第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部を設けることで、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗が経時的に増加することを抑制できる。これにより、Liイオン伝導性および耐久性に優れた全固体電池とすることができる。
【0013】
上記発明においては、上記第1リチウムイオン伝導体がLiNbOであることが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、上述した全固体電池の製造方法であって、上記第1リチウムイオン伝導体の原料を含有する第1前駆体塗工液、および上記第2リチウムイオン伝導体の原料を含有する第2前駆体塗工液の一方の塗工液を、上記正極活物質の表面に塗工し乾燥することにより内側層を形成する内側層形成工程と、上記第1前駆体塗工液および上記第2前駆体塗工液の他方の塗工液を、上記内側層の表面に塗工し乾燥することにより外側層を形成する外側層形成工程と、上記内側層および上記外側層に熱処理を行い、上記反応抑制部を形成する熱処理工程と、を有することを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、上述した塗工液を正極活物質の表面または内側層上に塗工し、塗工液同士が反応しない程度に乾燥させることによって内側層および外側層を各々形成した後、両層一緒に熱処理を行うことから、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体が均一に分散された反応抑制部を簡便に形成することができる。これにより、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗の経時的な増加を抑制することができ、Liイオン伝導性および耐久性に優れた全固体電池を簡便に製造することができる。
【0016】
上記発明においては、上記第1リチウムイオン伝導体がLiNbOであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、正極活物質と、硫化物固体電解質材料との界面抵抗の経時的な増加を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の全固体電池の発電要素の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の全固体電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の全固体電池の一例を示す概略断面図である。
【図4】実施例で得られた全固体電池の正極活物質の断面のTEM像である。
【図5】実施例および比較例で得られた全固体電池の60℃保存環境下での界面抵抗の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の全固体電池および全固体電池の製造方法について、詳細に説明する。
【0020】
A.全固体電池
まず、本発明の全固体電池について説明する。本発明の全固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一方が、硫化物固体電解質材料を含有し、上記正極活物質の表面に、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部が形成され、上記第1リチウムイオン伝導体は、常温でのリチウムイオン伝導度が、1.0×10−7S/cm以上のLi含有化合物であり、上記第2リチウムイオン伝導体は、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物であることを特徴とするものである。
【0021】
図1(a)、(b)は、本発明の全固体電池の発電要素の一例を示す説明図である。図1(a)、(b)に例示する全固体電池の発電要素10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された固体電解質層3と、を有するものである。また、正極活物質層1は、表面に反応抑制部6が形成された正極活物質4を有するものである。さらに、硫化物固体電解質材料5は、正極活物質層1および固体電解質層3内の少なくとも一方に含有され、反応抑制部6を介して正極活物質4と接するものである。そのため、硫化物固体電解質材料5は、図1(a)に示すように、正極活物質層1に含有されていても良く、図1(b)に示すように、固体電解質層3に含有されていても良く、図示はしないが、正極活物質層1および固体電解質層3の両層に含有されていても良い。
【0022】
本発明によれば、正極活物質の表面に、Liイオン伝導性が良好な第1リチウムイオン伝導体に加えて、電気化学的安定性の高い第2リチウムイオン伝導体が含有された反応抑制部を有するため、良好なLiイオン伝導性を示すニオブ酸化物(例えば、LiNbO)のみから形成される従来の反応抑制部と比較して、電気化学的安定性の高い反応抑制部とすることができる。これにより、硫化物固体電解質材料と接触した際に生じる反応抑制部の構造の変化を抑制可能となるため、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗の経時的な増加を抑制することができる。なお、上記第2リチウムイオン伝導体は、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えており、後述するように、電気化学的安定性が高い。
以下、本発明の全固体電池について、構成ごとに説明する。
【0023】
1.正極活物質層
まず、本発明における正極活物質層について説明する。本発明に用いられる正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有するものである。また、本発明における正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質材料または導電化剤の少なくとも一方を含有していても良く、中でも硫化物固体電解質材料を含有することが特に好ましい。正極活物質層のイオン伝導性を向上させることができるからである。
【0024】
(1)正極活物質
本発明に用いられる正極活物質について説明する。本発明に用いられる正極活物質は、後述する負極活物質層に含有される負極活物質の充放電電位と比較して、充放電電位が貴な電位となるものであれば特に限定されるものではない。このような正極活物質としては、後述する硫化物固体電解質材料と反応し高抵抗層を形成するという観点から、例えば、酸化物正極活物質であることが好ましい。また、酸化物正極活物質を用いることにより、エネルギー密度の高い全固体電池とすることができる。
【0025】
本発明に用いられる酸化物正極活物質としては、例えば、一般式Li(Mは遷移金属元素であり、x=0.02〜2.2、y=1〜2、z=1.4〜4)で表される正極活物質を挙げることができる。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。また、酸化物正極活物質としては、一般式Li1+xMn2−x−y(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、およびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、0≦x≦1、0≦y≦2、0≦x+y≦2)で表される正極活物質を用いることもできる。このような酸化物正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Li(Mn1.5Ni0.5)O等を挙げることができる。また、その他の酸化物正極活物質としては、例えばLiFeSiO、LiMnSiO等を挙げることができる。
【0026】
正極活物質の形状としては、例えば真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等を挙げることができ、中でも粒子形状であることが好ましい。また、正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、例えば10重量%〜99重量%の範囲内であることが好ましく、20重量%〜90重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
(2)反応抑制部
本発明における反応抑制部について説明する。本発明に用いられる反応抑制部は、上記正極活物質の表面に形成され、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有するものである。また、反応抑制部を構成する上記第1リチウムイオン伝導体は、常温でのリチウムイオン伝導度が、1.0×10−7S/cm以上のLi含有化合物であり、上記第2リチウムイオン伝導体は、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物である。反応抑制部は、全固体電池使用時に生じる、正極活物質と、硫化物固体電解質材料との反応を抑制する機能を有する。本発明においては、上述したような第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体から構成されるため、従来のニオブ酸化物(例えば、LiNbO)のみから形成される反応抑制部と比較して電気化学的安定性が高く、界面抵抗の経時的な増加を抑制することができる。
以下、反応抑制部の各構成について説明する。
【0028】
(i)第1リチウムイオン伝導体
本発明における第1リチウムイオン伝導体は、通常、常温でのリチウムイオン伝導度が1.0×10−7S/cm以上のLi含有化合物である。第1リチウムイオン伝導体は、中でも常温でのリチウムイオン伝導度が、1.0×10−6S/cm以上であることがより好ましい。第1リチウムイオン伝導体が上述した範囲となるリチウムイオン伝導度を示すことから、正極活物質の表面に反応抑制部を形成した際に、Liイオン伝導性の低下を抑制することができる。そのため、表面に反応抑制部が形成された正極活物質を含有する正極活物質層を用いた全固体電池において出力特性が低下することを抑制できる。なお、リチウムイオン伝導度の測定方法としては、本発明における第1リチウムイオン伝導体の常温でのリチウムイオン伝導度が測定できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、交流インピーダンス法を用いた測定方法を挙げることができる。
【0029】
第1リチウムイオン伝導体は、上記範囲のリチウムイオン伝導度を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、LiNbO、LiTaO等のLi含有酸化物、ナシコン型リン酸化合物等を挙げることができる。中でも、Li含有酸化物であることが好ましく、さらにLiNbOであることが特に好ましい。本発明の効果をより発揮することができるからである。なお、上記ナシコン型リン酸化合物としては、例えば、Li1+xAlTi2−x(PO(0≦x≦2)(LATP)、Li1+xAlGe2−x(PO(0≦x≦2)(LAGP)等を挙げることができる。LATPにおいては、上記一般式において、xの範囲は0以上であれば良く、中でも0より大きいことが好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。一方xの範囲は、2以下であれば良く、中でも1.7以下であることが好ましく、1以下であることが特に好ましい。特に本発明においては、Li1.5Al0.5Ti1.5(POであることが好ましい。また、LAGPにおいては、上記一般式において、xの範囲は0以上であれば良く、中でも0より大きいことが好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。また一方、xの範囲は、2以下であれば良く、中でも1.7以下であることが好ましく、1以下であることが特に好ましい。特に本発明においては、Li1.5Al0.5Ge1.5(POとなるものを好適に用いることができる。
【0030】
ここで、反応抑制部がLiNbOを含有するとした場合、従来使用されているLiNbOのみから構成される反応抑制部では、正極活物質の表面に形成されたLiNbOの構造が経時的に変化することにより、界面抵抗の経時的な増加が生じると考えられる。すなわち、LiNbOを構成するニオブ元素と酸素元素との結合が弱いため、LiNbOが硫化物固体電解質材料と接触した際に、反応してしまうと考えられる。
これに対して、本発明においては、第1リチウムイオン伝導体であるLiNbOの他に、酸素元素と強く結合した元素を有する材料である第2リチウムイオン伝導体を混合して反応抑制部を形成することにより、全固体電池作製時において、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗の経時的な増加を抑制することができる。
【0031】
(ii)第2リチウムイオン伝導体
次に、本発明における第2リチウムイオン伝導体は、通常、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物である。第2リチウムイオン伝導体は電気化学的安定性が高く、上述したように、第1リチウムイオン伝導体とともに含有することで、硫化物固体電解質材料と接触した際に生じる構造変化を抑制可能な反応抑制部とすることができる。第2リチウムイオン伝導体の電気化学的安定性が高い理由は、以下の通りである。
【0032】
すなわち、第2リチウムイオン伝導体が、B、Si、P、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物である場合、Paulingの電気陰性度において、従来反応抑制部に使用される化合物、例えばニオブ酸化物に含有されるNbの電気陰性度(1.60)に比べて、B、Si、P、Al、およびWの各元素の電気陰性度は大きくなる。そのため、酸素元素の電気陰性度(3.44)との差がNbに比べて小さくなり、より安定な共有結合を形成することができる。その結果、電気化学的安定性が高くなる。また、第2リチウムイオン伝導体が、TiおよびZrの少なくともいずれか一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物である場合、優れた耐食性を示すことから、電気化学的安定性が高くなる。これは、TiおよびZrが表面に酸化被膜を形成し不動態となりやすい元素、いわゆるバルブメタル(弁金属)であることに起因する。そのため、これらの元素を有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物は高い耐食性を示し、電気化学的安定性が高くなると考えられる。
【0033】
本発明における第2リチウムイオン伝導体としては、上述した元素のうちの少なくとも一種の元素および複数の酸素元素からなるポリアニオン構造部を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、LiBO、LiBO、LiSiO、LiSi、LiPO、LiPO、LiTi、LiTi、LiTi12、LiZrO、LiAlO等、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0034】
(iii)反応抑制部
本発明における反応抑制部に含有される第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体の割合は、目的とする全固体電池に応じて適宜設定されるものである。例えば、第1リチウムイオン伝導体を100mol部とした場合、第2リチウムイオン伝導体は、1mol部〜200mol部の範囲内であることが好ましく、50mol部〜150mol部の範囲内であることがより好ましく、80mol部〜120mol部の範囲内であることが特に好ましい。第1リチウムイオン伝導体の割合が、第2リチウムイオン伝導体の割合に対して大きすぎる場合、硫化物固体電解質材料と接触した際に反応し、界面抵抗が経時的に増加する可能性を有するからである。また一方、第1リチウムイオン伝導体の割合が、第2リチウムイオン伝導体の割合に対して小さすぎる場合、リチウムイオン伝導性が低下する可能性を有するからである。なお、本発明における反応抑制部の組成は、X線光電子分光(XPS)測定、またはラマン分光測定により確認することができる。
【0035】
本発明における反応抑制部の形態としては、上述した正極活物質の表面に形成されるものであれば特に限定されるものではない。例えば、図1(a)、(b)に示すように、上述した正極活物質の形状が粒子形状である場合、反応抑制部の形態としては、正極活物質の表面を被覆するような形態であることが好ましい。また、反応抑制部は正極活物質のより多くの面積を被覆していることが好ましく、具体的な被覆率としては、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、正極活物質の表面全てを覆っていても良い。なお、反応抑制部の被覆率の測定方法としては、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)およびX線光電子分光法(XPS)等を挙げることができる。
【0036】
また本発明における反応抑制部の厚さとしては、正極活物質および硫化物固体電解質材料が反応を生じない程度の厚さであれば特に限定されるものではなく、例えば、1nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、2nm〜100nmの範囲内であることがより好ましい。上記反応抑制部の厚さが上記範囲に満たない場合、正極活物質と硫化物固体電解質材料とが反応する可能性を有するからである。また一方、上記反応抑制部の厚さが上記範囲を超える場合、イオン伝導性が低下する可能性を有するからである。なお、反応抑制部の厚さの測定方法は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる方法等を挙げることができる。
【0037】
本発明における反応抑制部の形成方法は、上述したような反応抑制部を形成できる方法であれば特に限定されるものではない。反応抑制部の形成方法としては、正極活物質の形状が粒形形状である場合、正極活物質を転動・流動状態にし、反応抑制部の形成材料を含有する塗工液を塗工、乾燥する方法を挙げることができる。また、正極活物質の形状が薄膜形状である場合、正極活物質上に、反応抑制部の形成材料を含有する塗工液を塗工、乾燥する方法等を挙げることができる。特に本発明においては、後述する「B.全固体電池の製造方法」の項に記載する方法を好適に用いることができる。
【0038】
(3)硫化物固体電解質材料
本発明における正極活物質層は、硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。正極活物質層のイオン伝導性を向上させることができるからである。硫化物固体電解質材料は、反応性が高いため、上述した正極活物質と反応しやすく、正極活物質との間に高抵抗層を形成しやすい。これに対して、本発明においては、正極活物質の表面に上述した反応抑制部が形成されることから、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗の経時的な増加を効果的に抑制することができる。
【0039】
硫化物固体電解質材料としては、例えば、LiS−P、LiS−P−LiI、LiS−P−LiO、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiBr、LiS−SiS−LiCl、LiS−SiS−B−LiI、LiS−SiS−P−LiI、LiS−B、LiS−P−Z(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS−GeS、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等を挙げることができる。なお、上記「LiS−P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料を意味し、他の記載についても同様である。
【0040】
また、硫化物固体電解質材料が、LiSおよびPを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiSおよびPの合計に対するLiSの割合は、例えば70mol%〜80mol%の範囲内であることが好ましく、72mol%〜78mol%の範囲内であることがより好ましく、74mol%〜76mol%の範囲内であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本発明においては、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。LiS−P系ではLiPSがオルト組成に該当する。LiS−P系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびPの割合は、モル基準で、LiS:P=75:25である。なお、上記原料組成物におけるPの代わりに、AlまたはBを用いる場合も、好ましい範囲は同様である。LiS−Al系ではLiAlSがオルト組成に該当し、LiS−B系ではLiBSがオルト組成に該当する。
【0041】
また、硫化物固体電解質材料が、LiSおよびSiSを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiSおよびSiSの合計に対するLiSの割合は、例えば60mol%〜72mol%の範囲内であることが好ましく、62mol%〜70mol%の範囲内であることがより好ましく、64mol%〜68mol%の範囲内であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。LiS−SiS系ではLiSiSがオルト組成に該当する。LiS−SiS系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびSiSの割合は、モル基準で、LiS:SiS=66.7:33.3である。なお、上記原料組成物におけるSiSの代わりに、GeSを用いる場合も、好ましい範囲は同様である。LiS−GeS系ではLiGeSがオルト組成に該当する。
【0042】
また、硫化物固体電解質材料が、LiX(X=Cl、Br、I)を含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiXの割合は、例えば1mol%〜60mol%の範囲内であることが好ましく、5mol%〜50mol%の範囲内であることがより好ましく、10mol%〜40mol%の範囲内であることがさらに好ましい。また、硫化物固体電解質材料が、LiOを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiOの割合は、例えば、1mol%〜25mol%の範囲内であることが好ましく、3mol%〜15mol%の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
また、硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであっても良く、結晶化硫化物ガラスであっても良く、固相法により得られる結晶質材料であっても良い。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質材料の常温におけるリチウムイオン伝導度は、例えば、1×10−5S/cm以上であることが好ましく、1×10−4S/cm以上であることがより好ましい。
【0044】
本発明における硫化物固体電解質材料の形状としては、例えば真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等を挙げることができる。硫化物固体電解質材料が上記粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されるものではないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。正極活物質層内の充填率向上を図りやすくなるからである。一方、上記平均粒径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。なお、上記平均粒径は、例えば、粒度分布計により決定できる。
【0045】
(4)正極活物質層
本発明における正極活物質層は、上述した正極活物質、反応抑制部および硫化物固体電解質材料の他に、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。導電化材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。結着材としては、例えば、PTFE、PVDF等のフッ素含有結着材を挙げることができる。上記正極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によって異なるものであるが、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
2.固体電解質層
次に、本発明における固体電解質層について説明する。本発明における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層であり、少なくとも固体電解質材料を含有する層である。上述したように、正極活物質層が硫化物固体電解質材料を含有する場合、固体電解質層に含まれる固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではなく、硫化物固体電解質材料であっても良く、それ以外の固体電解質材料であっても良い。一方、正極活物質層が、硫化物固体電解質材料を含有しない場合、固体電解質層は硫化物固体電解質材料を含有する。特に、本発明においては、正極活物質層および固体電解質層の両方が、硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。本発明の効果を十分に発揮することができるからである。また、固体電解質層に用いられる固体電解質材料は、硫化物固体電解質材料のみから構成されることが好ましい。
【0047】
なお、硫化物固体電解質材料については、上記「1.正極活物質層」の項に記載した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。また、硫化物固体電解質材料以外の固体電解質材料については、一般的な全固体電池に用いられる固体電解質材料と同様の材料を用いることができる。
【0048】
本発明における固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1μm〜300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0049】
3.負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて固体電解質材料および導電化剤の少なくとも一方を含有していても良い。負極活物質としては、上述した正極活物質層に含有される正極活物質の充放電電位と比較して、充放電電位が卑な電位となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、金属活物質およびカーボン活物質等を挙げることができる。金属活物質としては、例えば、Li合金、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。なお、負極活物質層に用いられる固体電解質材料および導電化剤については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内である。
【0050】
4.その他の構成
本発明の全固体電池は、上述した正極活物質層、固体電解質層、および負極活物質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、およびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケル、およびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、全固体電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的な全固体電池に使用される電池ケースを用いることができ、例えば、SUS製電池ケース等を挙げることができる。また、本発明の全固体電池は、発電要素を絶縁リングの内部に形成したものであっても良い。
【0051】
5.全固体電池
本発明の全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。また、本発明の全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。本発明の全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、後述する全固体電池の製造方法を好適に用いることができる。
【0052】
B.全固体電池の製造方法
次に、本発明の全固体電池の製造方法について説明する。本発明の全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池の製造方法であって、上記第1リチウムイオン伝導体の原料を含有する第1前駆体塗工液、および上記第2リチウムイオン伝導体の原料を含有する第2前駆体塗工液の一方の塗工液を、上記正極活物質の表面に塗工し乾燥することにより内側層を形成する内側層形成工程と、上記第1前駆体塗工液および上記第2前駆体塗工液の他方の塗工液を、上記内側層の表面に塗工し乾燥することにより外側層を形成する外側層形成工程と、上記内側層および上記外側層に熱処理を行い、上記反応抑制部を形成する熱処理工程と、を有することを特徴とするものである。
【0053】
図2は、本発明の全固体電池の製造方法の一例を説明するフローチャートである。図2においては、正極活物質層表面に、第1リチウムイオン伝導体の原料を含有する第1前駆体塗工液を塗工し乾燥することにより、内側層を形成する(内側層形成工程)。次に、上記内側層の表面に、第2リチウムイオン伝導体の原料を含有する第2前駆体塗工液を塗工し乾燥することにより外側層を形成する(外側層形成工程)。続いて、内側層および外側層に熱処理を行い、反応抑制部を形成する(熱処理工程)。これにより、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部が表面に形成された正極活物質を形成することができる。また上記正極活物質を用いた正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層を有する全固体電池が得られる。
【0054】
本発明によれば、上述した塗工液を正極活物質の表面または内側層上に塗工し、塗工液同士が反応しない程度に乾燥させることによって内側層および外側層を各々形成した後、両層に一度に熱処理を行うことから、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体が均一に分散された反応抑制部を簡便に形成することができる。これにより、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗の経時的な増加を抑制することができ、Liイオン伝導性および耐久性に優れた全固体電池を簡便に製造することができる。
【0055】
従来、反応抑制部の形成方法として、例えば、ゾルゲル法を挙げることができる。ゾルゲル法は、反応抑制部の形成材料を溶媒に溶解または分散して得られる塗工液を塗工し、その後熱処理を施すことにより反応抑制部を形成する方法である。しかしながら、このようなゾルゲル法を用いて、2種類の化合物、すなわち、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部の形成を試みる場合、各化合物の原料を含有する塗工液を塗工する際に、各塗工液に含有される成分同士が反応する可能性がある。そのため、目的とする2種類の化合物を含有する反応抑制部を形成することが困難となる場合がある。
【0056】
これに対して、本発明においては、まず第1リチウムイオン伝導体の原料を含有する第1前駆体塗工液または第2リチウムイオン伝導体の原料を含有する第2前駆体塗工液のどちらか一方の塗工液を、正極活物質の表面に塗布、乾燥することで内側層を形成し、その後他方の塗工液を塗布、乾燥することにより、外側層を形成する。内側層および外側層をそれぞれ乾燥して形成することにより、各塗工液に含有される成分同士の反応を防止することができる。また、形成された内側層および外側層に一度に熱処理を行うことにより、両層の間に対流が生じ、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体が均一に分散された反応抑制部を形成することができる。これにより、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗の経時的な増加を抑制することができ、Liイオン伝導性および耐久性に優れた全固体電池を簡便に製造することができる。
【0057】
なお、本発明における負極活物質層、および固体電解質層は、上記「A.全固体電池」の項に記載した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
以下、本発明の全固体電池の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0058】
1.内側層形成工程
まず、本発明における内側層形成工程について説明する。本発明における内側層形成工程は、第1リチウムイオン伝導体の原料を含有する第1前駆体塗工液、および第2リチウムイオン伝導体の原料を含有する第2前駆体塗工液の一方の塗工液を、上記正極活物質の表面に塗工し乾燥することにより内側層を形成する工程である。ここで、本工程に用いられる第1前駆体塗工液および第2前駆体塗工液は、通常、含有するイオン伝導体の原料である化合物の加水分解および重縮合反応によりゾル状態となり、さらに重縮合反応および凝集が進むことでゲル状態となるゾルゲル溶液である。
【0059】
(1)第1前駆体塗工液
本工程における第1前駆体塗工液は、第1リチウムイオン伝導体の原料を含有するものである。本工程における第1前駆体塗工液に含有される第1リチウムイオン伝導体の原料としては、目的とする第1リチウムイオン伝導体を形成できるものであれば特に限定されるものではない。第1リチウムイオン伝導体としては、上記「A.全固体電池」の項に記載したものと同様のものを挙げることができ、中でも本発明においては、第1リチウムイオン伝導体がLiNbOであることが好ましい。LiNbOの原料としては、Li供給化合物およびNb供給化合物を用いることができる。Li供給化合物としては、例えば、エトキシリチウム、メトキシリチウム等のLiアルコキシド、リチウム水酸化物、酢酸リチウム等のリチウム塩を挙げることができる。また、Nb供給化合物としては、例えば、ペンタエトキシニオブ、ペンタメトキシニオブ等のNbアルコキシド、ニオブ水酸化物、酢酸ニオブ等のニオブ塩を挙げることができる。なお、第1前駆体塗工液に含有される第1リチウムイオン伝導体の原料の濃度としては、目的とする反応抑制部の組成等に応じて適宜設定されるものである。
【0060】
本工程においては、通常、第1リチウムイオン伝導体の原料を溶媒に溶解もしくは分散させることにより、第1前駆体塗工液を得ることができる。第1前駆体塗工液に用いられる溶媒としては、第1リチウムイオン伝導体の原料を溶解または分散させることができ、また上記第1リチウムイオン伝導体の原料を劣化させないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エタノール、プロパノール、メタノール等を挙げることができる。また、上記溶媒は、上記原料の劣化を抑制する観点等から、水分量が少ないものであることが好ましい。なお、本工程に用いられる第1前駆体塗工液においては、必要に応じて任意の添加剤を含有しても良い。
【0061】
(2)第2前駆体塗工液
本工程における第2前駆体塗工液は、第2リチウムイオン伝導体の原料を含有するものである。本工程に用いられる第2前駆体塗工液に含有される第2リチウムイオン伝導体の原料としては、第2リチウムイオン伝導体を形成できるものであれば特に限定されるものではない。
【0062】
第2リチウムイオン伝導体の原料としては、目的とするLi含有化合物を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水酸化物、酸化物、金属塩、金属アルコキシド、金属錯体等を挙げることができる。なお、本発明においては、第2リチウムイオン伝導体の原料として予め合成された化合物を用いても良い。ここで、上記「A.全固体電池」の項に記載したように、第2リチウムイオン伝導体とは、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物である。また、ポリアニオン構造部とは、上述した元素のうちの少なくとも一種の元素および複数の酸素元素からなるものである。これより、第2リチウムイオン伝導体は、例えば、一般式LiAO(AはB、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一種であり、xおよびyは正の数である。)で表すことができる。
【0063】
また、第2リチウムイオン伝導体の原料としては、上述したLi含有化合物の一般式LiAOにおいて、Aが金属元素である場合、Li供給化合物として、例えば、エトキシリチウム、メトキシリチウム等のLiアルコキシド、リチウム水酸化物、酢酸リチウム等のリチウム塩が用いられ、A供給化合物として、上述したAを含む金属酸化物、金属塩、金属錯体等が用いられる。例えば、上記Li含有化合物がLiTiである場合、原料として、Li供給化合物のエトキシリチウムと、Ti供給化合物のテトライソプロポキシチタンとを用いることができる。一方、上述したLi含有化合物の一般式において、A元素が非金属である場合、例えば、目的とするLi含有化合物をそのまま用いることができる。例えば、上記Li含有化合物がLiPOである場合、第2リチウムイオン伝導体の原料として、LiPOを用いることができる。また、上述したLi含有化合物の一般式において、AがB(ホウ素)である場合、第2リチウムイオン伝導体の原料として、上述したLi供給化合物と、B供給化合物であるホウ酸とを用いることができる。なお、上記Li含有化合物のO供給化合物としては、第2リチウムイオン伝導体の原料であっても良く、本発明における第2前駆体塗工液に含まれる水であっても良い。
【0064】
本発明における第2前駆体塗工液に含まれる第2リチウムイオン伝導体の原料の含有量としては、目的とする反応抑制部に応じて適宜選択されるものである。
【0065】
本工程においては、上述した第1前駆体塗工液と同様に、第2リチウムイオン伝導体の原料を溶媒に溶解もしくは分散させることにより、第2前駆体塗工液を得ることができる。第2前駆体塗工液に用いられる溶媒としては、第2リチウムイオン伝導体の原料を溶解または分散させることができ、上述した化合物を劣化させないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エタノール、プロパノール、メタノール等を挙げることができる。なお、本工程に用いられる第2前駆体塗工液においては、必要に応じて任意の添加剤を含有しても良い。
【0066】
(3)内側層形成工程
本工程によって形成される内側層の厚さとしては、目的とする反応抑制部の厚さ等に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、1nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、2nm〜100nmの範囲内であることがより好ましく、2nm〜10nmの範囲内であることが特に好ましい。
【0067】
本工程において正極活物質の表面に、上述した第1前駆体塗工液または第2前駆体塗工液を塗工する方法としては、公知の塗工法を用いることができ、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、含浸法等を挙げることができる。
【0068】
本工程は、上述した第1前駆体塗工液および第2前駆体塗工液のどちらか一方の塗工液を塗工した後に乾燥することで、塗工液内に含有される溶媒を除去し、内側層に含有される成分と、後述する外側層形成工程に用いられる他方の塗工液に含有される成分とが反応することを防止できる。また、正極活物質の表面に塗工した塗工液を乾燥する方法としては、一般的な方法を用いることができる。
【0069】
2.外側層形成工程
次に、本発明における外側層形成工程について説明する。本発明における外側層形成工程は、上記第1前駆体塗工液および上記第2前駆体塗工液の他方の塗工液を、上記内側層の表面に塗工し乾燥することにより外側層を形成する工程である。なお、本工程に用いられる第1前駆体塗工液および第2前駆体塗工液については、上記内側層形成工程に記載した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0070】
本工程によって形成される外側層の厚さとしては、例えば、1nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、2nm〜100nmの範囲内であることがより好ましく、2nm〜10nmの範囲内であることが特に好ましい。
【0071】
本工程に用いられる前駆体塗工液の塗工法は、上記内側層形成工程と同様の方法を用いることができる。また、本工程は、前駆体塗工液を塗布した後、上記内側層形成工程と同様に乾燥するものである。これにより、塗工液に含まれる溶媒を除去することで、後述する熱処理工程において、反応抑制部を効率良く形成することができる。本工程における乾燥方法としては、上述した内側層形成工程と同様に、一般的な方法を用いることができる。
【0072】
3.熱処理工程
次に、本発明における熱処理工程について説明する。本工程における熱処理工程は、上述した内側層および外側層に熱処理を行い、反応抑制部を形成する工程である。本工程においては、上述した内側層および外側層に熱処理を行うことによって、内側層および外側層に含まれる第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体が均一に分散された反応抑制部を形成することができる。
【0073】
本工程における熱処理温度としては、例えば、150℃〜600℃の範囲内であることが好ましく、200℃〜500℃の範囲内であることがより好ましく、300℃〜400℃の範囲内であることが特に好ましい。上記熱処理温度が上記範囲に満たない場合、熱処理により第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体が十分に均一化されない可能性を有し、また一方、上記熱処理温度が上記範囲を超える場合、反応抑制部および正極活物質が劣化する可能性を有するからである。
【0074】
本工程における熱処理時間としては、例えば、0.5時間〜10時間の範囲内であることが好ましく、3時間〜7時間の範囲内であることがより好ましい。上記熱処理時間が上記範囲に満たない場合、熱処理により第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体が十分に均一化されない可能性を有し、また一方、上記熱処理時間が上記範囲を超える場合、反応抑制部および正極活物質が過度に熱処理を施され劣化する可能性を有するからである。
【0075】
本工程における熱処理雰囲気としては、目的とする反応抑制部を形成することができ、反応抑制部および正極活物質を劣化させる雰囲気でなければ特に限定されるものではなく、例えば、大気雰囲気;窒素雰囲気およびアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気;アンモニア雰囲気、水素雰囲気、および一酸化炭素雰囲気等の還元雰囲気;真空等を挙げることができる。
【0076】
4.その他の工程
本発明においては、上述した工程を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、本発明に用いられる正極活物質が粒子形状である場合、上述した工程により表面に反応抑制部が形成された正極活物質等の正極活物質層を構成する材料を、プレス機でプレスして正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程、固体電解質材料を構成する材料を同様にプレスして固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程、および負極活物質層を構成する材料を同様にプレスし、負極活物質層を形成する負極活物質層形成工程等を挙げることができる。また、正極活物質が薄膜形状である場合、上述した工程により、表面に反応抑制部が形成された正極活物質上に、固体電解質材料を構成する材料を積層する固体電解質層形成工程、および固体電解質層上に負極活物質層を構成する材料を積層する負極活物質層形成工程等を挙げることができる。
【0077】
また、本発明においては、その他の工程として、正極活物質層の表面上に正極集電体を配置する工程、負極活物質層の表面上に負極集電体を配置する工程、発電要素を電池ケースに収納する工程等を有していても良い。なお、正極集電体、負極集電体、および電池ケース等については、上記「A.全固体電池」の項に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0080】
[実施例]
(第1前駆体塗工液の調製)
20mlのエタノール(和光純薬社製)中で、1mmolのエトキシリチウム(高純度化学社製)および1mmolのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を混合して第1前駆体塗工液を得た。
【0081】
(第2前駆体塗工液の調製)
20mlのエタノール(和光純薬社製)中で、1mmolのエトキシリチウム(高純度化学社製)および1mmolのテトライソプロポキシチタン(高純度化学社製)を混合して第2前駆体塗工液を得た。
【0082】
(反応抑制部の形成)
Au基板上にスパッタリングによりコバルト酸リチウム薄膜(正極活物質)を得た。コバルト酸リチウム薄膜上に、スピンコータ(MS−A100、ミカサ社製)を用いて第1前駆体塗工液を塗工し(5000rpm、10sec)、乾燥して内側層を形成した。その後、第2前駆体塗工液を塗工し(5000rpm、10sec)、乾燥して外側層を形成した。次に、内側層および外側層に熱処理(350℃、0.5時間)を行い、反応抑制部を形成し、表面に反応抑制部を形成した正極活物質を有する電極を得た。
【0083】
(全固体電池の作製)
図3(a)に示すような小型セル内のシリンダーに、50mgの75LiS−25Pを投入し、スパチュラーで均一にならして上下のピストンによりプレスし(1.0t/cm、1min)、固体電解質層を形成した。次に、固体電解質層上に、上述した電極を同様にプレスし(4t/cm、1min)、正極活物質層を形成した。続いて、固体電解質層の正極活物質層が形成された面の反対面に、Li−In箔を同様にプレスし(1.0t/cm、1min)、負極活物質層を形成し、発電要素を得た。次に、小型セルのボルトを締結した後、配線を接続し、図3(b)に示すようなガラスセル内に乾燥剤を入れた後に組み立てて、全固体電池を作製した。
【0084】
[評価1]
(TEM観察)
実施例で作製した全固体電池の電極の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、正極活物質であるコバルト酸リチウム上に形成された反応抑制部が確認された。またTEM画像の結果から、反応抑制部の厚さは5nm程度であることが確認できた。
【0085】
[比較例]
(塗工液の調製)
10mlのエタノール(和光純薬社製)中で、1mmolのエトキシリチウム(高純度化学社製)および1mmolのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を混合して第1前駆体塗工液を得た。次に、コバルト酸リチウム薄膜上に第1前駆体塗工液のみを塗工したこと以外は、実施例と同様にして、全固体電池を得た。
【0086】
[評価2]
(界面抵抗測定)
実施例および比較例で得られた全固体電池を用いて界面抵抗測定を行った。まず、全固体電池の電位を、3.58Vに調整した後、複素インピーダンス測定を行うことにより、全固体電池の界面抵抗を算出した。なお、界面抵抗は、インピーダンス曲線の円弧の直径から求めた。その後、60℃で保存して、保存後の全固体電池の界面抵抗を算出し、経時的な界面抵抗の変化を測定した。その結果を図5に示す。
【0087】
図5に示すように、実施例は、比較例に比べて界面抵抗の経時的な増加が抑制されていることが確認できた。比較例のように、反応抑制部がLiNbOのみから構成される場合、初期段階では界面抵抗の増加が抑制されていたが、硫化物固体電解質材料と反応し反応抑制部の構造が変化したため、徐々に界面抵抗の増加が著しくなってしまったと考えられる。これに対して、実施例のように、反応抑制部が2種類のLi含有化合物から構成される場合には、硫化物固体電解質材料と接触した際に、反応抑制部が反応することにより構造が変化することが抑制できるため、界面抵抗の経時的な増加は抑制されたものと考えられる。
【符号の説明】
【0088】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 固体電解質層
4 … 正極活物質
5 … 硫化物固体電解質材料
6 … 反応抑制部
10 … 発電要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも一方が、硫化物固体電解質材料を含有し、
前記正極活物質の表面に、第1リチウムイオン伝導体および第2リチウムイオン伝導体を含有する反応抑制部が形成され、
前記第1リチウムイオン伝導体は、常温でのリチウムイオン伝導度が、1.0×10−7S/cm以上のLi含有化合物であり、
前記第2リチウムイオン伝導体は、B、Si、P、Ti、Zr、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物であることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記第1リチウムイオン伝導体がLiNbOであることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の全固体電池の製造方法であって、
前記第1リチウムイオン伝導体の原料を含有する第1前駆体塗工液、および前記第2リチウムイオン伝導体の原料を含有する第2前駆体塗工液の一方の塗工液を、前記正極活物質の表面に塗工し乾燥することにより内側層を形成する内側層形成工程と、
前記第1前駆体塗工液および前記第2前駆体塗工液の他方の塗工液を、前記内側層の表面に塗工し乾燥することにより外側層を形成する外側層形成工程と、
前記内側層および前記外側層に熱処理を行い、前記反応抑制部を形成する熱処理工程と、
を有することを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1リチウムイオン伝導体がLiNbOであることを特徴とする請求項3に記載の全固体電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−26003(P2013−26003A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159242(P2011−159242)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】