説明

六方晶系単結晶ナノチューブ及びその製造方法

【課題】光学素子、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、光触媒等に利用可能な六方晶系の単結晶からなるナノチューブ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】硫化カドミウム粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物をグラファイト製の坩堝に入れ、窒素ガス等の不活性ガス気流中において、1100〜1200℃で3〜5時間加熱することにより、六方晶系の単結晶からなる硫化カドミウムナノチューブを形成する。このナノチューブ内の一部には、スズを充填することができる。硫化カドミウム粉末の代わりにセレン化カドミウム粉末を用いることで、六方晶系の単結晶からなるセレン化カドミウムナノチューブを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクスデバイスや、光学素子などのオプトエレクトロニクスデバイスや、光触媒などに利用可能なカドミウムを含むII−VI族化合物半導体から構成される、六方晶系単結晶ナノチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化カドミウムは約2.4eVのバンドギャップエネルギーを有するII−VI族の直接遷移型化合物半導体であり、そのカソードルミネッセンスにおいては、波長512nmの発光スペクトルを有する。このような特性を活用することにより、硫化カドミウムなどのII−VI族化合物半導体は光学素子などのオプトエレクトロニクスデバイス、エレクトロニクスデバイス、光触媒などに利用することができる。
【0003】
従来、硫化カドミウムのナノ構造体として、硫化カドミウムナノワイヤー(非特許文献1参照)、硫化カドミウムナノロッド(非特許文献2参照)、硫化カドミウムナノベルト(非特許文献3参照)、硫化カドミウムナノチューブ(非特許文献4〜6参照)などとそれらの合成方法が報告されている。
また、セレン化カドミウムのナノ構造体として、セレン化カドミウムナノワイヤー(非特許文献7参照)、セレン化カドミウムナノベルト(非特許文献8参照)、セレン化カドミウムナノチューブ(非特許文献9, 10参照)も知られている。
【0004】
【非特許文献1】D. Routkevitch 他、J. Phys. Chem.、100巻、14037頁、1996年
【非特許文献2】Y. D. Li 他、Chem. Mater.、10巻、2301頁、1998年
【非特許文献3】T. Gao 他、J. Phys. Chem. B、108巻、20045頁、2004年
【非特許文献4】Y. J. Xiong他、J. Mater. Chem. 、12巻、3712頁、2002年
【非特許文献5】C. N. R. Rao 他、Appl. Phys. Lett.、78巻、1853頁、2001年
【非特許文献6】Y. H. Ni 他、Mater. Lett.、58巻、2754頁、2004年
【非特許文献7】D.S.Xu 他、J.Phys.Chem.B 、104巻5061頁、2000年
【非特許文献8】C.Ma 他、J.Am.Chem.Soc.、126巻、708頁、2004年
【非特許文献9】C.N.R.Rao 他、Appl.Phys.Lett. 、78巻、1853頁、2001年
【非特許文献10】X.C.Jiang他、Adv.Mater.、15巻、1740頁、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の合成方法で得られる硫化カドミウムナノチューブおよびセレン化カドミウムナノチューブは多結晶体か非晶質体の何れかであり、六方晶系の単結晶の硫化カドミウムナノチューブやセレン化カドミウムナノチューブが得られていないという課題があった。
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、六方晶系の単結晶からなる、六方晶系単結晶ナノチューブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の六方晶系単結晶ナノチューブは、ナノチューブが
、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体から構成され、かつ、六方晶系の単結晶構造を有することを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、ナノチューブのチューブ内の一部には、スズが充填されている。ナノチューブは、好ましくは、硫化カドミウム又はセレン化カドミウムからなる。
この構成によれば、単結晶構造を有するナノチューブ、特に硫化カドミウムナノチューブやセレン化カドミウムナノチューブが得られる。さらに、ナノチューブのチューブ内の一部に、スズが充填されているナノチューブも得られる。
【0007】
本発明の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法は、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物を、不活性ガス気流中で所定の加熱温度で所定時間加熱し、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体による六方晶系単結晶構造のナノチューブを合成することを特徴とする。
上記製造方法において、好ましくは、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末は硫化カドミウム粉末であり、加熱温度は1100〜1200℃の範囲である。また、好ましくは、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末がセレン化カドミウム粉末であり、加熱温度が1000〜1100℃の範囲である。この加熱時間は、好ましくは3〜5時間の範囲である。混合物におけるカドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の重量比は、好ましくは、0.4〜0.8:0.3〜0.8:0.1〜0.5:0.3〜0.8の範囲である。不活性ガスは、窒素ガスであってよい。不活性ガスの流量は、好ましくは300〜600cm3 /分の範囲とする。
上記の製造方法によれば、六方晶系の単結晶ナノチューブ、例えば、硫化カドミウムナノチューブやセレン化カドミウムナノチューブが得られる。また、チューブ内が中空である六方晶系の単結晶ナノチューブの他に、スズがチューブ内の一部に充填されている単結晶ナノチューブも得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、六方晶系の単結晶のナノチューブ及びその製造方法を提供することができる。また、この製造方法により、チューブ内部にスズを充填させることができるので、単一材料としての効果だけでなく、複合材料としての効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
最初に、本発明の六方晶系ナノチューブの製造方法を説明する。
カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物を、不活性ガス気流中で、所定の加熱温度で所定時間加熱することにより、六方晶系の単結晶構造を有するナノチューブを合成することができる。カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末としては、硫化カドミウム粉末やセレン化カドミウム粉末を用いた場合には、六方晶系硫化カドミウムナノチューブ、六方晶系セレン化カドミウムナノチューブを得ることができる。
【0010】
以下、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体の粉末が硫化カドミウム粉末であり、六方晶系硫化カドミウムナノチューブを製造する場合を例に挙げて説明する。
硫化カドミウム粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物を、不活性ガス気流中で、所定の加熱温度で所定時間加熱することにより、六方晶系の硫化カドミウムナノチューブを合成することができる。具体的には、硫化カドミウム粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物を、例えばグラファイトからなる坩堝に入れ、この坩堝を横型石英抵抗加熱装置の反応管の中央部に配置する。さらに、坩堝の近傍で不活性ガスの下流側には、基板、例えばグラファイトウエハーを設置する。
次に、この反応管内に不活性ガスを流しながら、混合物を所定の加熱温度で所定時間加
熱した後、加熱炉を冷却する。使用する加熱装置は、横型でも縦型でもよい。また、加熱方法は抵抗加熱に限らず、坩堝を所定の温度に加熱できるランプ加熱や高周波誘導加熱でもよい。
【0011】
ここで、硫化カドミウム粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の重量比は、0.4〜0.8:0.3〜0.8:0.1〜0.5:0.3〜0.8の範囲が好ましい。硫化カドミウム粉末の重量がこの範囲よりも多いと未反応の硫化カドミウム粉末が坩堝の中に残存するので好ましくない。逆に、硫化カドミウム粉末の重量がこの範囲よりも少ないと最終生成物の収量が低下するので好ましくない。
【0012】
一酸化スズ粉末の重量が上記範囲よりも多いと、最終生成物中にスズの粒子が若干混入するので好ましくない。逆に、一酸化スズ粉末の重量がこの範囲よりも少ないと、スズが充填された硫化カドミウムナノチューブの収量が低下するので好ましくない。
【0013】
二酸化スズ粉末の重量が上記範囲よりも多いと、生成物中に二酸化スズのナノ粒子が若干混入するので好ましくない。逆に、二酸化スズ粉末の重量がこの範囲よりも少ないと、硫化カドミウムナノチューブの表面に若干の非晶質層が形成されるので好ましくない。
【0014】
活性炭粉末の重量は上記範囲で十分であるので、それ以上の量を使用する必要はない。逆に、活性炭粉末の重量がこの範囲よりも少ないと硫化カドミウムナノチューブの収量が低下するので好ましくない。
【0015】
上記混合物の加熱温度は、1100〜1200℃の範囲が好ましい。1200℃で十分に反応が進行するので、これ以上の温度に加熱する必要はない。逆に、加熱温度が1100℃未満では、硫化カドミウムナノチューブが結晶成長しないので好ましくない。
【0016】
上記の加熱温度における加熱時間は、3〜5時間の範囲が好ましい。5時間の加熱で十分に反応が進行するので、これより長く加熱する必要はない。逆に、3時間よりも短い加熱時間では、最終生成物の収量が低下するので好ましくない。
【0017】
不活性ガスとしては窒素ガスを用いることができ、その流量は300〜600cm3 /分の範囲が好ましい。不活性ガスの流量が600cm3 /分より多いと、生成物が飛散し収量が低下するので好ましくない。逆に、不活性ガスの流量が300cm3 /分より少ないと硫化カドミウムナノチューブの収量が低下するので好ましくない。
【0018】
上記の加熱工程を経ることにより、混合物を加熱している間は160〜250℃であったグラファイトウエハー上に、黄色の粉末状の六方晶系の単結晶硫化カドミウムナノチューブが堆積する。また、この六方晶系硫化カドミウムナノチューブのチューブ内の一部にはスズを充填することができる。例えば、ナノチューブの内部にスズを70〜80%の割合で充填することができる。
【0019】
このように、硫化カドミウム粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物を、不活性ガス気流中で、所定の加熱温度で所定時間加熱することにより、六方晶系の単結晶構造を有するナノチューブとしての硫化カドミウムナノチューブを合成することができる。
【0020】
ここで、硫化カドミウム粉末の代わりに、少なくともカドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末を混合物中に混ぜることにより、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体から構成され、かつ、六方晶系の単結晶構造を有するナノチューブを得ることができる。この場合、上記製造条件のうち混合物中の各粉末の重量比や加熱時間、不活
性ガスの種類及び流量の好ましい範囲は、硫化カドミウムナノチューブの製造方法と同様でよい。但し、混合物の加熱温度は1000〜1100℃の範囲が好ましい。この場合、1100℃で十分に反応が進行するので、これ以上の温度に加熱する必要はない。逆に、加熱温度が1000℃未満ではセレン化カドミウムナノチューブが結晶成長しないので好ましくない。
次に、1000〜1100℃で3〜5時間の加熱工程を経ることにより、混合物を加熱している間には160〜250℃であったグラファイトウエハー上に、粉末状の六方晶系の単結晶セレン化カドミウムナノチューブが堆積する。また、この六方晶系セレン化カドミウムナノチューブのチューブ内の一部にはスズを充填することができる。
【実施例1】
【0021】
次に、実施例を示して、さらに具体的に本発明について説明する。実施例1の硫化カドミウムからなるナノチューブを以下のようにして合成した。
硫化カドミウム粉末(高純度化学研究所製、純度99.9%)0.6g と、一酸化スズ粉末(和光純薬工業(株)製、純度99.9%)0. 5g と、二酸化スズ粉末(和光純薬工業(株)製、純度98.0%)0.3g と、活性炭粉末(ダルムシュタット社製)0. 5g と、の混合物をグラファイト製の坩堝に入れ、この坩堝を横型石英抵抗加熱装置の反応管の中央部に設置し、この坩堝の下流側にグラファイトウェハーを配置した。
次に、流量500cm3 /分の窒素ガスを流しながら、10℃/分の昇温速度で600℃まで坩堝の温度を上げ、600℃に1時間保持した。
その後、坩堝の温度を1150℃まで上げ、この温度にて4時間保持した。
最後に、加熱炉を室温に冷却した。
これにより、加熱中に160〜250℃になっていたグラファイトウェハー上に、黄色の粉末が十数mg堆積した。
【0022】
図1は、実施例1で合成した黄色の粉末のX線回折の測定結果を示す図である。図1において、縦軸はX線回折強度(任意目盛り)を示し、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。図1から明らかなように、実施例1で得た黄色の粉末は、六方晶系の硫化カドミウム(CdS)及び正方晶系のスズ(Sn)からなることが分かった。そして、酸化カドミウム、一酸化スズ、二酸化スズなどの不純物のピークは観測されなかった。
【0023】
図2は、実施例1で合成した黄色の粉末の一部の透過型電子顕微鏡像を示す図である。図2から明らかなように、実施例1で得た黄色の粉末は、ナノチューブの先端に直径が数百nmの球状粒子をもったピン形状を有することが分かった。また、ナノチューブの内部の70〜80%には充填物が存在し、残りの30〜20%の部分は中空部であることが分かった。
実施例1で合成した黄色の粉末のうち多くのナノチューブは、一方の端部側が太く、他端部側が細くなっている長さ数μmのナノ構造物であることが分かった。太い部分は、直径が250〜350nmであり、壁の厚さが80〜100nmであった。そして、細い部分は直径が50〜100nmであり、壁の厚さが20〜40nmであることが分かった。また、実施例1で合成した黄色の粉末のうち少量のナノチューブは、端から端まで完全に同じ太さ及び壁の厚さを有していることが分かった。この均一な寸法のナノチューブは、直径が250〜350nmで、壁の厚さが80〜100nmを有するナノ構造物であることが分かった。
【0024】
図3は、ナノチューブの充填物のない中空部におけるエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy-Dispersive X-ray Analysis)の測定結果を示す図である。図の縦軸はX線強度(任意目盛)を示し、横軸はX線エネルギー(keV)を示している。図3のEDXスペクトルから、充填物のない中空部からなるナノチューブを構成している元素はカドミウ
ム(Cd)と硫黄(S)とからなり、ナノチューブは、カドミウムと硫黄との原子比がほぼ1:1の化学量論的組成を有する、硫化カドミウムであることが分かった。
これから、実施例1で合成したナノチューブは、硫化カドミウムナノチューブであり、この硫化カドミウムノチューブが、六方晶系の単結晶硫化カドミウムからなることが判明した。なお、図3において、銅(Cu)の信号が観察されるが、これは試料を取り付ける際に用いた銅グリッドに由来している。
【0025】
図4は、硫化カドミウムノチューブ先端の球状粒子におけるエネルギー分散型X線分析の測定結果を示す図である。図の縦軸はX線強度(任意目盛)を示し、横軸はX線エネルギー(keV)を示している。図4のEDXスペクトルから、硫化カドミウムナノチューブ先端部の球状粒子がスズで構成されていることが分かった。なお、図4における銅の信号は、図3の場合と同様、試料を取り付ける治具に用いた銅グリッドに由来している。
【0026】
同様に、硫化カドミウムナノチューブの内部に存在する充填物のエネルギー分散型X線分析を行なったところ、この充填物は、カドミウム及び硫黄の他にはスズが存在することが確かめられた。この測定結果と図3に示す測定結果とを比較することで、硫化カドミウムナノチューブの内部にはスズが充填されていることが分かった。
【0027】
以上のことから、実施例1で合成した黄色の粉末は、先端に直径数百nmのスズの球状粒子を有する硫化カドミウムナノチューブであり、このナノチューブ内には70〜80%スズが充填されており、残りの30〜20%は充填物のない、中空部を有する硫化カドミウムナノチューブであることが分かった。
【0028】
実施例1の製造方法においては、600℃に1時間保持した後で、坩堝を1150℃まで上げ、この温度にて4時間保持することで、硫化カドミウムナノチューブを得ている。この場合、最初の600℃での1時間の加熱により、混合物からスズの蒸気が生じ、このスズの蒸気が不活性ガスの流れに乗って反応管で温度の低い領域に流れ、反応管の内壁やウエハー上に凝縮し、スズのナノワイヤーが形成される。その際、活性炭素の働きにより、一酸化スズ及び二酸化スズからの酸素を減らすことができる。その後、坩堝を1150℃で4時間加熱保持することで、坩堝から硫化カドミウムの蒸気が生じ、スズのナノワイヤーの外周に硫化カドミウム層が堆積する。ここで、硫化カドミウムの蒸気を生成する際に、スズのナノワイヤーが融け、硫化カドミウムからなるナノチューブのチューブ内を移動し、部分的にスズが蒸発する。その結果、中空ナノチューブ又はナノチューブ内の一部にスズが充填された硫化カドミウムナノチューブが形成されるものと推定される。
【実施例2】
【0029】
次に、六方晶系セレン化カドミウムナノチューブの実施例2を示す。
セレン化カドミウム粉末と一酸化スズ粉末と二酸化スズ粉末と活性炭粉末との混合物をグラファイト製の坩堝に入れ、この坩堝を横型石英抵抗加熱装置の反応管の中央部に設置し、この坩堝の下流側にグラファイトウェハーを配置した。
次に、流量500cm3 /分の窒素ガスを流しながら、10℃/分の昇温速度で600℃まで坩堝の温度を上げ、600℃に1時間保持した。
その後、坩堝の温度を1050℃まで上げ、この温度にて4時間保持し、最後に、加熱炉を室温に冷却した。
これにより、加熱中に160〜250℃になっていたグラファイトウェハー上に、粉末が十数mg堆積した。
【0030】
実施例2で合成した粉末のX線回折の測定結果から、粉末は、六方晶系のセレン化カドミウム(CdSe)及び正方晶系のスズ(Sn)からなることが分かった。その他の不純物のピークは観測されなかった。
【0031】
図5(a)(b)は、実施例2で合成した粉末の一部の透過電子顕微鏡像をそれぞれ示す図である。
図5(a)及び(b)から分かるように、実施例2で得た粉末は、実施例1と同様に、ナノチューブの先端に直径200〜400nmの球状粒子を有するピン形状であることが分かった。ナノチューブの太い部分では、直径が約200〜300nmで肉厚が約50〜100nmであることが分かった。また、多くのナノチューブは、チューブの両端近くや中心部を除いて、チューブ内にスズが充填されていた。さらに、少量のナノチューブは、チューブ内にスズが充填されていない中空部を有していた。
【0032】
以上のことから、実施例2で合成した粉末は、先端に直径数百nmのスズの球状粒子を有するセレン化カドミウムナノチューブであり、このナノチューブ内には70〜80%スズが充填されており、残りの30〜20%は充填物のない、中空部を有するセレン化カドミウムナノチューブであることが分かった。したがって、実施例2のセレン化カドミウムナノチューブの合成も、上記した硫化カドミウムと同様の合成機構に起因すると推定される。
【0033】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末を混合物中に混ぜることにより、六方晶系の単結晶構造のナノチューブを得ることができ、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。また、硫化カドミウムやセレン化カドミウムなどからなるナノチューブ内へのスズの充填割合などは、所望の充填割合が得られるように合成条件を適宜選択すればよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、六方晶系の、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなるナノチューブ及びこのナノチューブのチューブ内の一部にスズが充填されたナノチューブの製造ができ、光学素子、エレクトロニクスデバイス、オプトエレクトロニクスデバイス、光触媒などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1で合成した黄色の粉末をX線回折して得た測定結果を示す図である。
【図2】実施例1で合成した黄色の粉末の一部の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】ナノチューブの充填物のない中空部におけるエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy-Dispersive X-ray Analysis)の測定結果を示す図である。
【図4】硫化カドミウムノチューブ先端の球状粒子におけるエネルギー分散型X線分析の測定結果を示す図である。
【図5】実施例2で合成した粉末の一部の透過型電子顕微鏡像をそれぞれ示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノチューブが、カドミウムを含むII−VI族化合物半導体から構成され、かつ、六方晶系の単結晶構造を有することを特徴とする、六方晶系単結晶ナノチューブ。
【請求項2】
前記ナノチューブのチューブ内の一部には、スズが充填されていることを特徴とする、請求項1に記載の六方晶系単結晶ナノチューブ。
【請求項3】
前記ナノチューブが、硫化カドミウムからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の六方晶系単結晶ナノチューブ。
【請求項4】
前記ナノチューブが、セレン化カドミウムからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の六方晶系単結晶ナノチューブ。
【請求項5】
カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の混合物を、不活性ガス気流中で所定の加熱温度で所定時間加熱し、上記カドミウムを含むII−VI族化合物半導体による六方晶系単結晶構造のナノチューブを合成することを特徴とする、六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末が硫化カドミウム粉末であり、前記加熱温度が1100〜1200℃の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記カドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末がセレン化カドミウム粉末であり、前記加熱温度が1000〜1100℃の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記加熱時間が、3〜5時間の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記混合物におけるカドミウムを含むII−VI族化合物半導体からなる粉末、一酸化スズ粉末、二酸化スズ粉末及び活性炭粉末の重量比が0.4〜0.8:0.3〜0.8:0.1〜0.5:0.3〜0.8の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。
【請求項10】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、請求項5に記載の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。
【請求項11】
前記不活性ガスの流量が300〜600cm3 /分の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の六方晶系単結晶ナノチューブの製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−145651(P2007−145651A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342993(P2005−342993)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月7日に「American Institute of Physics」のウェブサイト「http://www.aip.org/index.html」上の「Applyied Physics Letters」にて発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】