共振子型弾性表面波フィルタ
【課題】共振子型SAWフィルタにおいて挿入損失の低減及び高い減衰特性を同時に実現する。
【解決手段】圧電基板1上にSAW伝搬方向に沿ってIDT2,3及びその両側に反射器4,5を配置した共振子型SAWフィルタは、各IDTの交差指電極がそれぞれソリッド電極8a,8b,9a,9bと、IDTのSAW伝搬方向の中心線2a,3aよりも他方のIDT側である内側領域21,31に配置したスプリット電極6a,6b,7a,7bとからなる。各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2は、各IDTの交差指電極の全対数N1,N2がN1=N2の場合、0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4を満足するように、N1≠N2の場合、0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45を満足するように選択する。
【解決手段】圧電基板1上にSAW伝搬方向に沿ってIDT2,3及びその両側に反射器4,5を配置した共振子型SAWフィルタは、各IDTの交差指電極がそれぞれソリッド電極8a,8b,9a,9bと、IDTのSAW伝搬方向の中心線2a,3aよりも他方のIDT側である内側領域21,31に配置したスプリット電極6a,6b,7a,7bとからなる。各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2は、各IDTの交差指電極の全対数N1,N2がN1=N2の場合、0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4を満足するように、N1≠N2の場合、0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45を満足するように選択する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って2組のIDT(すだれ状トランスデューサ)とそれらの両側に反射器とを配置した共振子型弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯電話等の情報通信機器には、圧電基板上に形成したIDTにより励振されるSAWを利用したSAWフィルタが帯域フィルタとして広く使用されている。一般にSAWフィルタは、入力用IDTにより励振されたSAWを出力用IDTにより検出するトランスバーサル型と、近接配置したIDT間の音響結合により励起される異なる周波数の共振モードを利用した共振子型とに大別される。トランスバーサル型が広帯域の周波数特性を有するのに対し、共振子型は比較的狭帯域で低損失の周波数特性を有する。
【0003】
IDTは、SAWの1波長中に正負1本ずつの交差指電極を等周期で配置する正規型のソリッド電極で構成したシングル構造が一般的である。これに対し、SAWの1波長中に正負2本ずつの交差指電極を等周期で配置したスプリット電極で構成したダブル構造がある。スプリット電極は、その端部で発生した音響的反射(機械的反射)が互いに逆位相で打ち消し合うので無くなるという特徴がある。
【0004】
IDTがシングル構造の共振子型SAWフィルタは、狭帯域な振幅特性を得られるが、サイドローブの増大により帯域外減衰量が劣化するという問題がある。そこで、IDTの中にシングル構造の電極即ちソリッド電極とダブル構造の電極即ちスプリット電極とを混在させた共振子型SAWフィルタが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このSAWフィルタは、IDTの中央部付近にスプリット電極を集中して配置し、周辺に行くに連れてソリッド電極を多く配置することにより、中心部付近での反射による副共振モードを抑制してサイドローブの増大を制限し、狭帯域な振幅特性を劣化させることなく、帯域外減衰量の劣化を防止している。
【0005】
また、IDT電極の一部にスプリット電極を用いて、通過域の対称性と挿入損失を改善した縦結合二重モードSAWフィルタが知られている(例えば、特許文献2を参照)。特にスプリット電極をIDTの互いに隣接する側に配設することによって、1次モードと2次モードの電気的結合強度を略等しくし、縦1次モードと縦2次モードの電気的インピーダンスを略等しくして、通過帯域の特性を対称にし、挿入損失も減少させている。
【0006】
他方、従来の正規型IDT電極パターンを用いた二重モードSAWフィルタは、通過域近傍の高域側の減衰傾度が、低域側の減衰傾度のように一様に増加せず、減衰量が13dB程度で一度劣化してから増加する特性、即ちダレ特性を呈することが知られている(例えば、特許文献3を参照)。そのため、チャネル間隔の挟帯域化の要請から低損失、高減衰量が要求される場合に、かかるダレ特性のある二重モードSAWフィルタでは、対応できないことが指摘されている。
【0007】
そこで、圧電基板上に表面波の伝搬方向に沿って近接配置した3個のIDT電極とそれらの両側に配設した反射器とを有し、中央のIDT電極にスプリット電極を用いた二重モードSAWフィルタが提案されている(例えば、特許文献4を参照)。機械的反射のないスプリット電極によりIDT電極のストップバンド幅を狭くできるので、フィルタの通過帯域幅を保持したまま、特に通過帯域近傍の高域側の阻止域減衰量を改善し、減衰傾度を急峻にすることができる。
【0008】
同様に圧電基板上に表面波の伝搬方向に沿って近接配置した3個のIDT電極とそれらの両側に配設した反射器とを有し、反射器と隣接する2つのIDT電極の一部をスプリット電極としたする二重モードSAWフィルタが提案されている(例えば、特許文献5を参照)。この2つのIDT電極では、スプリット電極が表面波の反射に寄与しないので、減衰極の周波数を中心周波数の方へ近づけて減衰特性を急峻にし、通過域近傍の高周波側の減衰量劣化を改善している。
【0009】
また、スプリット電極指を用いたIDTを有する少なくとも1つのSAW共振子フィルタとソリッド電極指を用いたIDTを有するSAW共振子フィルタとを縦続接続したSAW共振子フィルタ装置が知られている(例えば、特許文献6を参照)。このフィルタ装置は、ソリッド電極を用いたSAW共振子フィルタの通過帯域から高域側の阻止域にかけての減衰特性が、スプリット電極指を用いたSAW共振子フィルタのレスポンスの高域側における急峻な減衰特性により補完され、通過帯域の高域側における減衰特性を急峻化することができる。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−156211号公報
【特許文献2】特開2000−183682号公報
【特許文献3】特許第3266846号公報
【特許文献4】特開2000−114922号公報
【特許文献5】特開2000−183689号公報
【特許文献6】特開平9−181566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、IDTにソリッド電極とスプリット電極とを混在させた共振子型SAWフィルタでは、スプリット電極により音響的反射が消えるので、反射による副共振モードを抑制できる反面、スプリット電極の作用が強くなると、共振器としての作用が弱くなってフィルタの特性を十分に発揮できなくなる虞がある。例えば、上記特許文献1及び2では、スプリット電極の対数や配置が比較的曖昧であり、挿入損失を十分に低減できかつ高い減衰特性の共振子型SAWフィルタを実現することは困難である。
【0012】
また、上記特許文献4,5に記載の縦結合二重モードSAWフィルタや圧電基板上に3個のIDTを配置するため、装置全体の寸法が大型化し、小型化の要求に十分対応できない、という問題がある。特に特許文献5に記載のSAWフィルタは、同様にスプリット電極の対数や配置が非常に曖昧であり、十分な挿入損失の低減効果及び高い減衰特性を実現することが困難である。同様に特許文献6に記載のSAW共振子フィルタ装置も、複数のSAW共振子フィルタを縦続接続するために、装置全体の寸法が大型化し、小型化の要求に十分対応することができない。
【0013】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、装置全体の小型化を図りつつ、十分な挿入損失の低減効果と高い減衰特性とを同時に実現することにある。
【0014】
更に本発明の目的は、通過帯域幅を狭帯域化し、通過帯域近傍の低域側及び高域側において周波数特性の対称性を向上させることができる共振子型SAWフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の或る側面によれば、上記目的を達成するために、圧電基板と、該圧電基板上にSAWの伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、各IDTのスプリット電極が、それぞれIDTをSAWの伝搬方向に沿って半分に分けたとき、その中心線から他方のIDT側の内側領域に配置され、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1=N2としたとき、各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4を満足するように選択された共振子型SAWフィルタが提供される。
【0016】
このように同じ対数の交差指電極で構成された2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、各IDTにおけるスプリット電極の配置及び対数の割合を上述したように設定することによって、挿入損失を安定に低減させ、かつそれと同時に、特に通過帯域近傍の高域側で従来のダレ特性を生じたない高い減衰特性を実現することができる。各IDTに含まれるスプリット電極は、互いに同じ対数でも異なる対数でもよく、また前記内側領域において他方のIDT側または中心線側に集中させたり、分散させて配置することができる。
【0017】
本発明の別の側面によれば、圧電基板と、該圧電基板上にSAWの伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、各IDTのスプリット電極が、それぞれIDTをSAWの伝搬方向に沿って半分に分けたとき、その中心線から他方のIDT側の内側領域に配置され、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1≠N2としたとき、各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45を満足するように選択された共振子型SAWフィルタが提供される。
【0018】
このように互いに異なる対数の交差指電極で構成された2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、各IDTにおけるスプリット電極の配置及び対数の割合を上述したように設定することによって、同様に挿入損失を安定に低減させると同時に、特に通過帯域近傍の高域側で従来のダレ特性を生じたない高い減衰特性を実現することができる。各IDTに含まれるスプリット電極は、同様に互いに同じ対数でも異なる対数でもよく、また前記内側領域において他方のIDT側または中心線側に集中させたり、分散させて配置することができる。
【0019】
或る実施例では、前記共振子型SAWフィルタにおいて、少なくとも一方のIDTが、これをSAWの伝搬方向に半分に分けたとき、その中心線よりも隣接する反射器側の外側領域に配置された追加のスプリット電極を有し、各IDTに含まれる追加のスプリット電極の対数Nsa1、Nsa2が0.1≦Nsa1/N1≦0.2、または0.1≦Nsa2/N2≦0.2を満足するように選択される。これにより、通過帯域幅を狭帯域化することができ、かつ通過帯域近傍の低域側及び高域側における周波数特性の対称性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の好適実施例について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1(A)は、本発明による共振子型SAWフィルタの第1実施例を示している。本実施例のSAWフィルタは、圧電基板1の主面中央に2組のIDT2,3がSAWの伝搬方向に沿って配置され、それらの両側に各1個の反射器4,5が配置されている。圧電基板1は、例えばリチウムタンタレート、リチウムナイオベート、水晶などの従来公知の圧電材料で形成される。IDT2,3及び反射器4,5は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金などの様々な導電性金属材料で形成される。
【0021】
本実施例では、IDT2,3は、互いに同じ対数の多数の交差指電極で構成され、図1(A)に示すように、SAW伝搬方向に沿って圧電基板1の中心線1aに関して対称に配置される。各IDT2,3は、SAWの1波長λ中に正負1本ずつの交差指電極を等周期で配置したソリッド電極と、同じ1波長λ中に正負2本ずつの交差指電極を等周期で配置したスプリット電極とを有する。
【0022】
各IDTをSAW伝搬方向に沿って中心線2a,3aで半分に、該中心線よりも他方のIDT側となる内側領域21,31と、隣接する反射器側となる外側領域22,32とに分けたとき、スプリット電極は内側領域21,31に配置する。外側領域22,32にはソリッド電極のみを配置し、一部のソリッド電極は内側領域21,31にも配置する。
【0023】
更に本実施例では、前記各IDTのスプリット電極の対数を同じにする。図1(B)に示すように、スプリット電極6a,6b,7a,7bは内側領域21,31の圧電基板中心線1a側に、即ち他方のIDT側に集中して連続させて配置する。ソリッド電極8a,8b,9a,9bは、スプリット電極6a,6b,7a,7bよりも外側に、即ちそれぞれ隣接する反射器側に連続して配置する。
【0024】
図2は、図1(B)のIDTの電極構成の変形例を示している。この変形例では、スプリット電極6a,6b,7a,7bを内側領域21,31内で分散させて配置することができる。
【0025】
IDT2,3に含まれるスプリット電極の割合は、次のように決定する。前記各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2は、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2(N1=N2)としたとき、0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4の条件を満足するように選択する。この条件を満足する限り、各IDTのスプリット電極は、互いに異なる対数(Ns1≠Ns2)に設定することもできる。
【0026】
図3は、図1に示す第1実施例のSAWフィルタの周波数特性を示している。同図に示すように、本発明の共振子型SAWフィルタは、中心周波数f0に関して低域側及び高域側の双方において急峻な高い減衰特性が得られる。
【0027】
図4は、第1実施例のSAWフィルタにおいて、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合Ns1/N1(=Ns2/N2)を変化させた場合に、その挿入損失及び減衰量の変化を示している。同図から、スプリット電極対数の割合が0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4の範囲において、高い減衰量を示すことが分かる。特にこの範囲では、上記特許文献3に記載される「ダレ特性」、即ち従来の二重モードSAWフィルタにおいて通過域近傍の高域側で減衰量が一度劣化してから増加する特性を示す13dBよりも十分に高い減衰量が得られる。しかも、この範囲において、挿入損失は安定して低いことが分かる。
【0028】
図5は、図2に示す変形例のSAWフィルタの周波数特性を示している。同図に示すように、スプリット電極をIDTの内側領域21,31で分散させた変形例の共振子型SAWフィルタにおいても、同様に中心周波数f0に関して通過帯域近傍の低域側及び高域側の双方において急峻な高い減衰特性が得られる。
【0029】
これに対し、図6は、各IDTの中央線2a,3a付近の外側領域22,32にスプリット電極を集中して配置した比較例のSAWフィルタにおいて、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示している。また、図7は、各IDTの外側領域22,32の反射器4,5側にスプリット電極を集中して配置した別の場合を示している。両図から分かるように、スプリット電極をIDTの内側領域ではなく外側領域に配置した共振子型SAWフィルタでは、スプリット電極対数の割合によらず、減衰量及び挿入損失の双方において周波数特性が大幅に劣化する。
【0030】
図8は、一方のIDTの内側領域にのみスプリット電極を配置した更に別の場合において、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示している。この比較例の共振子型SAWフィルタでは、挿入損失が、スプリット電極対数の割合が大きくなるに連れて急激に増加している。しかも、減衰量は、スプリット電極対数の割合に拘わらず、安定して低い値を示している。
【0031】
これらの結果から、2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、スプリット電極は両IDTの内側領域に配置しなければならないことが確認された。そして、本発明によれば、各IDT2,3に含まれるスプリット電極対数の割合を0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4の範囲に設定することにより、挿入損失の低減と、特に通過域の高域側で「ダレ特性」を生じたない高い減衰特性とを同時に実現することができる。これらの優れた作用効果は、各IDTに含まれるスプリット電極が互いに異なる対数であっても、また前記内側領域において他方のIDT側または外側領域側に集中させたり分散させて配置しても、何ら変わることがない。
【0032】
図9は、本発明による共振子型SAWフィルタの第2実施例を示している。第2実施例のSAWフィルタは、圧電基板1の主面中央に配置された2組のIDT2,3が、互いに異なる対数の多数の交差指電極で構成されている。図9では、右側のIDT3の電極対数N2を左側のIDT2の電極対数N1よりも多くした。
【0033】
本実施例においても、各IDT2,3は、SAWの1波長λ中に正負1本ずつの交差指電極を等周期で配置したソリッド電極と、同じ1波長λ中に正負2本ずつの交差指電極を等周期で配置したスプリット電極とを有する。スプリット電極は、各IDTをSAW伝搬方向に沿って中心線2a,3aで半分に分けたとき、該中心線よりも他方のIDT側となる内側領域21,31に配置する。中心線2a,3aよりも隣接する反射器側となる外側領域22,32にはソリッド電極のみを配置し、一部のソリッド電極は内側領域21,31にも配置する。
【0034】
IDT2,3に含まれるスプリット電極の割合は、次のように決定する。前記各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2は、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2(N1≠N2)としたとき、0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45の条件を満足するように選択する。この条件を満足する限り、各IDTのスプリット電極は、互いに同じ対数(Ns1=Ns2)でも異なる対数(Ns1≠Ns2)でもよい。また、スプリット電極は、上記第1実施例において図1(B)に示すように、内側領域21,31の圧電基板中心線1a側に即ち他方のIDT側に集中させて連続に配置しても、図2に示すように内側領域21,31内で分散させて配置してもよい。
【0035】
図10は、第2実施例のSAWフィルタの周波数特性を示している。第1実施例の場合と同様に、本実施例の共振子型SAWフィルタも、中心周波数f0に関して通過帯域近傍の低域側及び高域側の双方において急峻な高い減衰特性が得られる。
【0036】
図11は、第1実施例のSAWフィルタにおいて、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合(Ns1+Ns2)/(N1+N2)を変化させた場合に、その挿入損失及び減衰量の変化を示している。同図から、SAWフィルタ全体におけるスプリット電極対数の割合が0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45の範囲において、高い減衰量を示すことが分かる。特にこの範囲では、第1実施例の場合と同様に、上記特許文献3に記載される「ダレ特性」、即ち従来の二重モードSAWフィルタにおいて通過域近傍の高域側で減衰量が一度劣化してから増加する特性を示す13dBよりも十分に高い減衰量が得られる。しかも、この範囲において、挿入損失は安定して低いことが分かる。
【0037】
更に、第2実施例において、各IDT2,3の電極対数N1,N2、または各IDTに含まれるスプリット電極の対数Ns1,Ns2を変化させた場合に、スプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量をシミュレートした。図12(A)及び(B)は、両IDT2,3に含まれるスプリット電極対数の割合(Ns1/N1,Ns2/N2)が等しい場合に、それを関する挿入損失及び減衰量の変化をそれぞれ示している。この場合、各IDT2,3の全電極対数及びスプリット電極対数を変化させても、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合が上記範囲にある限り、略同じ挿入損失の低減効果及び高い減衰特性が得られた。
【0038】
図13(A)及び(B)は、各IDT2,3に含まれるスプリット電極対数が互いに異なる場合(Ns1≠Ns2)に、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合(Ns1+Ns2)/(N1+N2)に関する挿入損失及び減衰量の変化をそれぞれ示している。各IDTのスプリット電極対数は、±4の範囲で変化させた。その結果、いずれの場合にも、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合が上記範囲にある限り、略同じ低い挿入損失及び高い減衰特性が得られた。
【0039】
図14は、第2実施例の変形例である本発明の共振子型SAWフィルタの第3実施例を示している。図14(A)に示すように、本実施例のSAWフィルタは、圧電基板1の主面中央に配置された2組のIDT2,3が、互いに異なる対数の多数の交差指電極で構成され、図中右側のIDT3の電極対数N2を左側のIDT2の電極対数N1よりも多くした点で、第2実施例と同じ構成を有する。また、各IDT2,3の内側領域21,31には、第2実施例と同じ対数の割合でスプリット電極が配置されている。
【0040】
本実施例では、右側のIDT3の外側領域32に比較的少ない対数の追加のスプリット電極を設けた点において、第2実施例と異なる。図14(B)に示すように、追加のスプリット電極12a,12bは、IDT3の外側領域32の反射器5に隣接する側に集中して連続させて配置する。外側領域32の残りの部分即ち中心線3a側には、ソリッド電極13a,13bを配置する。IDT3に含まれる前記追加のスプリット電極の対数Nsa2は、IDT3の交差指電極の全対数N2に対して0.1≦Nsa2/N2≦0.2を満足するように選択する。
【0041】
図15は、第3実施例のSAWフィルタの周波数特性を示している。同図から、一方のIDTの外側領域に追加のスプリット電極を設けることによって、通過帯域幅を図10に示す第2実施例の場合よりも狭帯域化できることが分かる。更に、通過帯域の低域側及び高域側において周波数特性の対称性を向上させることができる。
【0042】
図16は、第3実施例において、IDT3に含まれる追加のスプリット電極の対数割合(Nsa2/N2)に関する通過帯域幅の変化を示している。同図に示すように、第3実施例のSAWフィルタの通過帯域幅は、追加のスプリット電極の対数割合に概ね比例して狭くなることが分かる。尚、追加のスプリット電極は、図14のようにIDT3に設けるのではなく、他方のIDT2に設けても、同様の作用効果が得られる。その場合、IDT2に含まれる前記追加のスプリット電極の対数Nsa1は、IDT2の交差指電極の全対数N1に対して0.1≦Nsa1/N1≦0.2を満足するように選択する。
【0043】
また、第3実施例において、IDT3だけでなく、他方のIDT2の外側領域22にも追加のスプリット電極を設けた場合について、IDT3に含まれる追加のスプリット電極の対数割合(Nsa2/N2)に関する通過帯域幅をシミュレートした。その結果、両IDT2,3の追加のスプリット電極を同じ対数とした場合及び異なる対数とした場合のいずれにおいても、図16と同様に通過帯域幅を狭帯域化できることを確認した。
【0044】
更に、両IDT2,3の電極対数が同じ(N1=N2)である図1の第1実施例において、片方のIDTの外側領域にのみ追加のスプリット電極を設けた場合、両方のIDTの外側領域に同じ対数または異なる対数の追加のスプリット電極を設けた場合について、同様に一方のIDT3に含まれる追加のスプリット電極の対数割合(Nsa2/N2)に関する通過帯域幅をシミュレートした。その結果、これらいずれの場合にも、図16と同様に通過帯域幅を狭帯域化できることを確認した。
【0045】
以上、本発明の好適実施例について詳細に説明したが、当業者に明らかなように、本発明はその技術的範囲内において上記各実施例に様々な変更・変形を加えて実施することができる。例えば、複数のSAWフィルタを互いに縦続接続したフィルタ装置において、その一部または全部のSAWフィルタに本発明の共振子型SAWフィルタを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(A)図は本発明のSAWフィルタの第1実施例を示す平面図、(B)図は各IDTの電極構成を示す図。
【図2】第1実施例の変形例の各IDTの電極構成を示す図。
【図3】第1実施例の周波数特性を示す線図。
【図4】第1実施例のIDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示す線図。
【図5】図2の変形例の周波数特性を示す線図。
【図6】IDTの中央線付近の外側領域にスプリット電極を配置した比較例においてIDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示す線図。
【図7】IDTの外側領域の反射器側にスプリット電極を配置した別の比較例における図6と同様の線図。
【図8】一方のIDTの内側領域にのみスプリット電極を配置した更に別の比較例における図6と同様の線図。
【図9】本発明のSAWフィルタの第2実施例を示す平面図。
【図10】第2実施例の周波数特性を示す線図。
【図11】第2実施例のIDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示す線図。
【図12】(A)図及び(B)図は第2実施例において各IDTの電極対数を変化させた場合に、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量をそれぞれ示す線図。
【図13】(A)図及び(B)図は第2実施例において各IDTの電極対数を変化させた場合に、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合に関する挿入損失及び減衰量をそれぞれ示す線図。
【図14】(A)図は本発明のSAWフィルタの第3実施例を示す平面図、(B)図は一方のIDTの電極構成を示す図。
【図15】第3実施例の周波数特性を示す線図。
【図16】第3実施例のIDTに含まれる追加スプリット電極対数の割合に関する通過帯域幅を示す線図。
【符号の説明】
【0047】
1…圧電基板、1a,2a,3a…中心線、2,3…IDT、4,5…反射器、6a,6b,7a,7b…スプリット電極、8a,8b,9a,9b,13a,13b…ソリッド電極、10a,10b,11a,11b…バスバー、12a,12b…追加のスプリット電極、21,31…内側領域、22,32…外側領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って2組のIDT(すだれ状トランスデューサ)とそれらの両側に反射器とを配置した共振子型弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯電話等の情報通信機器には、圧電基板上に形成したIDTにより励振されるSAWを利用したSAWフィルタが帯域フィルタとして広く使用されている。一般にSAWフィルタは、入力用IDTにより励振されたSAWを出力用IDTにより検出するトランスバーサル型と、近接配置したIDT間の音響結合により励起される異なる周波数の共振モードを利用した共振子型とに大別される。トランスバーサル型が広帯域の周波数特性を有するのに対し、共振子型は比較的狭帯域で低損失の周波数特性を有する。
【0003】
IDTは、SAWの1波長中に正負1本ずつの交差指電極を等周期で配置する正規型のソリッド電極で構成したシングル構造が一般的である。これに対し、SAWの1波長中に正負2本ずつの交差指電極を等周期で配置したスプリット電極で構成したダブル構造がある。スプリット電極は、その端部で発生した音響的反射(機械的反射)が互いに逆位相で打ち消し合うので無くなるという特徴がある。
【0004】
IDTがシングル構造の共振子型SAWフィルタは、狭帯域な振幅特性を得られるが、サイドローブの増大により帯域外減衰量が劣化するという問題がある。そこで、IDTの中にシングル構造の電極即ちソリッド電極とダブル構造の電極即ちスプリット電極とを混在させた共振子型SAWフィルタが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このSAWフィルタは、IDTの中央部付近にスプリット電極を集中して配置し、周辺に行くに連れてソリッド電極を多く配置することにより、中心部付近での反射による副共振モードを抑制してサイドローブの増大を制限し、狭帯域な振幅特性を劣化させることなく、帯域外減衰量の劣化を防止している。
【0005】
また、IDT電極の一部にスプリット電極を用いて、通過域の対称性と挿入損失を改善した縦結合二重モードSAWフィルタが知られている(例えば、特許文献2を参照)。特にスプリット電極をIDTの互いに隣接する側に配設することによって、1次モードと2次モードの電気的結合強度を略等しくし、縦1次モードと縦2次モードの電気的インピーダンスを略等しくして、通過帯域の特性を対称にし、挿入損失も減少させている。
【0006】
他方、従来の正規型IDT電極パターンを用いた二重モードSAWフィルタは、通過域近傍の高域側の減衰傾度が、低域側の減衰傾度のように一様に増加せず、減衰量が13dB程度で一度劣化してから増加する特性、即ちダレ特性を呈することが知られている(例えば、特許文献3を参照)。そのため、チャネル間隔の挟帯域化の要請から低損失、高減衰量が要求される場合に、かかるダレ特性のある二重モードSAWフィルタでは、対応できないことが指摘されている。
【0007】
そこで、圧電基板上に表面波の伝搬方向に沿って近接配置した3個のIDT電極とそれらの両側に配設した反射器とを有し、中央のIDT電極にスプリット電極を用いた二重モードSAWフィルタが提案されている(例えば、特許文献4を参照)。機械的反射のないスプリット電極によりIDT電極のストップバンド幅を狭くできるので、フィルタの通過帯域幅を保持したまま、特に通過帯域近傍の高域側の阻止域減衰量を改善し、減衰傾度を急峻にすることができる。
【0008】
同様に圧電基板上に表面波の伝搬方向に沿って近接配置した3個のIDT電極とそれらの両側に配設した反射器とを有し、反射器と隣接する2つのIDT電極の一部をスプリット電極としたする二重モードSAWフィルタが提案されている(例えば、特許文献5を参照)。この2つのIDT電極では、スプリット電極が表面波の反射に寄与しないので、減衰極の周波数を中心周波数の方へ近づけて減衰特性を急峻にし、通過域近傍の高周波側の減衰量劣化を改善している。
【0009】
また、スプリット電極指を用いたIDTを有する少なくとも1つのSAW共振子フィルタとソリッド電極指を用いたIDTを有するSAW共振子フィルタとを縦続接続したSAW共振子フィルタ装置が知られている(例えば、特許文献6を参照)。このフィルタ装置は、ソリッド電極を用いたSAW共振子フィルタの通過帯域から高域側の阻止域にかけての減衰特性が、スプリット電極指を用いたSAW共振子フィルタのレスポンスの高域側における急峻な減衰特性により補完され、通過帯域の高域側における減衰特性を急峻化することができる。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−156211号公報
【特許文献2】特開2000−183682号公報
【特許文献3】特許第3266846号公報
【特許文献4】特開2000−114922号公報
【特許文献5】特開2000−183689号公報
【特許文献6】特開平9−181566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、IDTにソリッド電極とスプリット電極とを混在させた共振子型SAWフィルタでは、スプリット電極により音響的反射が消えるので、反射による副共振モードを抑制できる反面、スプリット電極の作用が強くなると、共振器としての作用が弱くなってフィルタの特性を十分に発揮できなくなる虞がある。例えば、上記特許文献1及び2では、スプリット電極の対数や配置が比較的曖昧であり、挿入損失を十分に低減できかつ高い減衰特性の共振子型SAWフィルタを実現することは困難である。
【0012】
また、上記特許文献4,5に記載の縦結合二重モードSAWフィルタや圧電基板上に3個のIDTを配置するため、装置全体の寸法が大型化し、小型化の要求に十分対応できない、という問題がある。特に特許文献5に記載のSAWフィルタは、同様にスプリット電極の対数や配置が非常に曖昧であり、十分な挿入損失の低減効果及び高い減衰特性を実現することが困難である。同様に特許文献6に記載のSAW共振子フィルタ装置も、複数のSAW共振子フィルタを縦続接続するために、装置全体の寸法が大型化し、小型化の要求に十分対応することができない。
【0013】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、装置全体の小型化を図りつつ、十分な挿入損失の低減効果と高い減衰特性とを同時に実現することにある。
【0014】
更に本発明の目的は、通過帯域幅を狭帯域化し、通過帯域近傍の低域側及び高域側において周波数特性の対称性を向上させることができる共振子型SAWフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の或る側面によれば、上記目的を達成するために、圧電基板と、該圧電基板上にSAWの伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、各IDTのスプリット電極が、それぞれIDTをSAWの伝搬方向に沿って半分に分けたとき、その中心線から他方のIDT側の内側領域に配置され、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1=N2としたとき、各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4を満足するように選択された共振子型SAWフィルタが提供される。
【0016】
このように同じ対数の交差指電極で構成された2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、各IDTにおけるスプリット電極の配置及び対数の割合を上述したように設定することによって、挿入損失を安定に低減させ、かつそれと同時に、特に通過帯域近傍の高域側で従来のダレ特性を生じたない高い減衰特性を実現することができる。各IDTに含まれるスプリット電極は、互いに同じ対数でも異なる対数でもよく、また前記内側領域において他方のIDT側または中心線側に集中させたり、分散させて配置することができる。
【0017】
本発明の別の側面によれば、圧電基板と、該圧電基板上にSAWの伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、各IDTのスプリット電極が、それぞれIDTをSAWの伝搬方向に沿って半分に分けたとき、その中心線から他方のIDT側の内側領域に配置され、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1≠N2としたとき、各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45を満足するように選択された共振子型SAWフィルタが提供される。
【0018】
このように互いに異なる対数の交差指電極で構成された2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、各IDTにおけるスプリット電極の配置及び対数の割合を上述したように設定することによって、同様に挿入損失を安定に低減させると同時に、特に通過帯域近傍の高域側で従来のダレ特性を生じたない高い減衰特性を実現することができる。各IDTに含まれるスプリット電極は、同様に互いに同じ対数でも異なる対数でもよく、また前記内側領域において他方のIDT側または中心線側に集中させたり、分散させて配置することができる。
【0019】
或る実施例では、前記共振子型SAWフィルタにおいて、少なくとも一方のIDTが、これをSAWの伝搬方向に半分に分けたとき、その中心線よりも隣接する反射器側の外側領域に配置された追加のスプリット電極を有し、各IDTに含まれる追加のスプリット電極の対数Nsa1、Nsa2が0.1≦Nsa1/N1≦0.2、または0.1≦Nsa2/N2≦0.2を満足するように選択される。これにより、通過帯域幅を狭帯域化することができ、かつ通過帯域近傍の低域側及び高域側における周波数特性の対称性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の好適実施例について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1(A)は、本発明による共振子型SAWフィルタの第1実施例を示している。本実施例のSAWフィルタは、圧電基板1の主面中央に2組のIDT2,3がSAWの伝搬方向に沿って配置され、それらの両側に各1個の反射器4,5が配置されている。圧電基板1は、例えばリチウムタンタレート、リチウムナイオベート、水晶などの従来公知の圧電材料で形成される。IDT2,3及び反射器4,5は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金などの様々な導電性金属材料で形成される。
【0021】
本実施例では、IDT2,3は、互いに同じ対数の多数の交差指電極で構成され、図1(A)に示すように、SAW伝搬方向に沿って圧電基板1の中心線1aに関して対称に配置される。各IDT2,3は、SAWの1波長λ中に正負1本ずつの交差指電極を等周期で配置したソリッド電極と、同じ1波長λ中に正負2本ずつの交差指電極を等周期で配置したスプリット電極とを有する。
【0022】
各IDTをSAW伝搬方向に沿って中心線2a,3aで半分に、該中心線よりも他方のIDT側となる内側領域21,31と、隣接する反射器側となる外側領域22,32とに分けたとき、スプリット電極は内側領域21,31に配置する。外側領域22,32にはソリッド電極のみを配置し、一部のソリッド電極は内側領域21,31にも配置する。
【0023】
更に本実施例では、前記各IDTのスプリット電極の対数を同じにする。図1(B)に示すように、スプリット電極6a,6b,7a,7bは内側領域21,31の圧電基板中心線1a側に、即ち他方のIDT側に集中して連続させて配置する。ソリッド電極8a,8b,9a,9bは、スプリット電極6a,6b,7a,7bよりも外側に、即ちそれぞれ隣接する反射器側に連続して配置する。
【0024】
図2は、図1(B)のIDTの電極構成の変形例を示している。この変形例では、スプリット電極6a,6b,7a,7bを内側領域21,31内で分散させて配置することができる。
【0025】
IDT2,3に含まれるスプリット電極の割合は、次のように決定する。前記各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2は、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2(N1=N2)としたとき、0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4の条件を満足するように選択する。この条件を満足する限り、各IDTのスプリット電極は、互いに異なる対数(Ns1≠Ns2)に設定することもできる。
【0026】
図3は、図1に示す第1実施例のSAWフィルタの周波数特性を示している。同図に示すように、本発明の共振子型SAWフィルタは、中心周波数f0に関して低域側及び高域側の双方において急峻な高い減衰特性が得られる。
【0027】
図4は、第1実施例のSAWフィルタにおいて、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合Ns1/N1(=Ns2/N2)を変化させた場合に、その挿入損失及び減衰量の変化を示している。同図から、スプリット電極対数の割合が0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4の範囲において、高い減衰量を示すことが分かる。特にこの範囲では、上記特許文献3に記載される「ダレ特性」、即ち従来の二重モードSAWフィルタにおいて通過域近傍の高域側で減衰量が一度劣化してから増加する特性を示す13dBよりも十分に高い減衰量が得られる。しかも、この範囲において、挿入損失は安定して低いことが分かる。
【0028】
図5は、図2に示す変形例のSAWフィルタの周波数特性を示している。同図に示すように、スプリット電極をIDTの内側領域21,31で分散させた変形例の共振子型SAWフィルタにおいても、同様に中心周波数f0に関して通過帯域近傍の低域側及び高域側の双方において急峻な高い減衰特性が得られる。
【0029】
これに対し、図6は、各IDTの中央線2a,3a付近の外側領域22,32にスプリット電極を集中して配置した比較例のSAWフィルタにおいて、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示している。また、図7は、各IDTの外側領域22,32の反射器4,5側にスプリット電極を集中して配置した別の場合を示している。両図から分かるように、スプリット電極をIDTの内側領域ではなく外側領域に配置した共振子型SAWフィルタでは、スプリット電極対数の割合によらず、減衰量及び挿入損失の双方において周波数特性が大幅に劣化する。
【0030】
図8は、一方のIDTの内側領域にのみスプリット電極を配置した更に別の場合において、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示している。この比較例の共振子型SAWフィルタでは、挿入損失が、スプリット電極対数の割合が大きくなるに連れて急激に増加している。しかも、減衰量は、スプリット電極対数の割合に拘わらず、安定して低い値を示している。
【0031】
これらの結果から、2つのIDTからなる共振子型SAWフィルタにおいて、スプリット電極は両IDTの内側領域に配置しなければならないことが確認された。そして、本発明によれば、各IDT2,3に含まれるスプリット電極対数の割合を0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4の範囲に設定することにより、挿入損失の低減と、特に通過域の高域側で「ダレ特性」を生じたない高い減衰特性とを同時に実現することができる。これらの優れた作用効果は、各IDTに含まれるスプリット電極が互いに異なる対数であっても、また前記内側領域において他方のIDT側または外側領域側に集中させたり分散させて配置しても、何ら変わることがない。
【0032】
図9は、本発明による共振子型SAWフィルタの第2実施例を示している。第2実施例のSAWフィルタは、圧電基板1の主面中央に配置された2組のIDT2,3が、互いに異なる対数の多数の交差指電極で構成されている。図9では、右側のIDT3の電極対数N2を左側のIDT2の電極対数N1よりも多くした。
【0033】
本実施例においても、各IDT2,3は、SAWの1波長λ中に正負1本ずつの交差指電極を等周期で配置したソリッド電極と、同じ1波長λ中に正負2本ずつの交差指電極を等周期で配置したスプリット電極とを有する。スプリット電極は、各IDTをSAW伝搬方向に沿って中心線2a,3aで半分に分けたとき、該中心線よりも他方のIDT側となる内側領域21,31に配置する。中心線2a,3aよりも隣接する反射器側となる外側領域22,32にはソリッド電極のみを配置し、一部のソリッド電極は内側領域21,31にも配置する。
【0034】
IDT2,3に含まれるスプリット電極の割合は、次のように決定する。前記各IDTのスプリット電極の対数Ns1,Ns2は、各IDTの交差指電極の全対数をN1,N2(N1≠N2)としたとき、0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45の条件を満足するように選択する。この条件を満足する限り、各IDTのスプリット電極は、互いに同じ対数(Ns1=Ns2)でも異なる対数(Ns1≠Ns2)でもよい。また、スプリット電極は、上記第1実施例において図1(B)に示すように、内側領域21,31の圧電基板中心線1a側に即ち他方のIDT側に集中させて連続に配置しても、図2に示すように内側領域21,31内で分散させて配置してもよい。
【0035】
図10は、第2実施例のSAWフィルタの周波数特性を示している。第1実施例の場合と同様に、本実施例の共振子型SAWフィルタも、中心周波数f0に関して通過帯域近傍の低域側及び高域側の双方において急峻な高い減衰特性が得られる。
【0036】
図11は、第1実施例のSAWフィルタにおいて、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合(Ns1+Ns2)/(N1+N2)を変化させた場合に、その挿入損失及び減衰量の変化を示している。同図から、SAWフィルタ全体におけるスプリット電極対数の割合が0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45の範囲において、高い減衰量を示すことが分かる。特にこの範囲では、第1実施例の場合と同様に、上記特許文献3に記載される「ダレ特性」、即ち従来の二重モードSAWフィルタにおいて通過域近傍の高域側で減衰量が一度劣化してから増加する特性を示す13dBよりも十分に高い減衰量が得られる。しかも、この範囲において、挿入損失は安定して低いことが分かる。
【0037】
更に、第2実施例において、各IDT2,3の電極対数N1,N2、または各IDTに含まれるスプリット電極の対数Ns1,Ns2を変化させた場合に、スプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量をシミュレートした。図12(A)及び(B)は、両IDT2,3に含まれるスプリット電極対数の割合(Ns1/N1,Ns2/N2)が等しい場合に、それを関する挿入損失及び減衰量の変化をそれぞれ示している。この場合、各IDT2,3の全電極対数及びスプリット電極対数を変化させても、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合が上記範囲にある限り、略同じ挿入損失の低減効果及び高い減衰特性が得られた。
【0038】
図13(A)及び(B)は、各IDT2,3に含まれるスプリット電極対数が互いに異なる場合(Ns1≠Ns2)に、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合(Ns1+Ns2)/(N1+N2)に関する挿入損失及び減衰量の変化をそれぞれ示している。各IDTのスプリット電極対数は、±4の範囲で変化させた。その結果、いずれの場合にも、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合が上記範囲にある限り、略同じ低い挿入損失及び高い減衰特性が得られた。
【0039】
図14は、第2実施例の変形例である本発明の共振子型SAWフィルタの第3実施例を示している。図14(A)に示すように、本実施例のSAWフィルタは、圧電基板1の主面中央に配置された2組のIDT2,3が、互いに異なる対数の多数の交差指電極で構成され、図中右側のIDT3の電極対数N2を左側のIDT2の電極対数N1よりも多くした点で、第2実施例と同じ構成を有する。また、各IDT2,3の内側領域21,31には、第2実施例と同じ対数の割合でスプリット電極が配置されている。
【0040】
本実施例では、右側のIDT3の外側領域32に比較的少ない対数の追加のスプリット電極を設けた点において、第2実施例と異なる。図14(B)に示すように、追加のスプリット電極12a,12bは、IDT3の外側領域32の反射器5に隣接する側に集中して連続させて配置する。外側領域32の残りの部分即ち中心線3a側には、ソリッド電極13a,13bを配置する。IDT3に含まれる前記追加のスプリット電極の対数Nsa2は、IDT3の交差指電極の全対数N2に対して0.1≦Nsa2/N2≦0.2を満足するように選択する。
【0041】
図15は、第3実施例のSAWフィルタの周波数特性を示している。同図から、一方のIDTの外側領域に追加のスプリット電極を設けることによって、通過帯域幅を図10に示す第2実施例の場合よりも狭帯域化できることが分かる。更に、通過帯域の低域側及び高域側において周波数特性の対称性を向上させることができる。
【0042】
図16は、第3実施例において、IDT3に含まれる追加のスプリット電極の対数割合(Nsa2/N2)に関する通過帯域幅の変化を示している。同図に示すように、第3実施例のSAWフィルタの通過帯域幅は、追加のスプリット電極の対数割合に概ね比例して狭くなることが分かる。尚、追加のスプリット電極は、図14のようにIDT3に設けるのではなく、他方のIDT2に設けても、同様の作用効果が得られる。その場合、IDT2に含まれる前記追加のスプリット電極の対数Nsa1は、IDT2の交差指電極の全対数N1に対して0.1≦Nsa1/N1≦0.2を満足するように選択する。
【0043】
また、第3実施例において、IDT3だけでなく、他方のIDT2の外側領域22にも追加のスプリット電極を設けた場合について、IDT3に含まれる追加のスプリット電極の対数割合(Nsa2/N2)に関する通過帯域幅をシミュレートした。その結果、両IDT2,3の追加のスプリット電極を同じ対数とした場合及び異なる対数とした場合のいずれにおいても、図16と同様に通過帯域幅を狭帯域化できることを確認した。
【0044】
更に、両IDT2,3の電極対数が同じ(N1=N2)である図1の第1実施例において、片方のIDTの外側領域にのみ追加のスプリット電極を設けた場合、両方のIDTの外側領域に同じ対数または異なる対数の追加のスプリット電極を設けた場合について、同様に一方のIDT3に含まれる追加のスプリット電極の対数割合(Nsa2/N2)に関する通過帯域幅をシミュレートした。その結果、これらいずれの場合にも、図16と同様に通過帯域幅を狭帯域化できることを確認した。
【0045】
以上、本発明の好適実施例について詳細に説明したが、当業者に明らかなように、本発明はその技術的範囲内において上記各実施例に様々な変更・変形を加えて実施することができる。例えば、複数のSAWフィルタを互いに縦続接続したフィルタ装置において、その一部または全部のSAWフィルタに本発明の共振子型SAWフィルタを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(A)図は本発明のSAWフィルタの第1実施例を示す平面図、(B)図は各IDTの電極構成を示す図。
【図2】第1実施例の変形例の各IDTの電極構成を示す図。
【図3】第1実施例の周波数特性を示す線図。
【図4】第1実施例のIDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示す線図。
【図5】図2の変形例の周波数特性を示す線図。
【図6】IDTの中央線付近の外側領域にスプリット電極を配置した比較例においてIDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示す線図。
【図7】IDTの外側領域の反射器側にスプリット電極を配置した別の比較例における図6と同様の線図。
【図8】一方のIDTの内側領域にのみスプリット電極を配置した更に別の比較例における図6と同様の線図。
【図9】本発明のSAWフィルタの第2実施例を示す平面図。
【図10】第2実施例の周波数特性を示す線図。
【図11】第2実施例のIDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量を示す線図。
【図12】(A)図及び(B)図は第2実施例において各IDTの電極対数を変化させた場合に、各IDTに含まれるスプリット電極対数の割合に関する挿入損失及び減衰量をそれぞれ示す線図。
【図13】(A)図及び(B)図は第2実施例において各IDTの電極対数を変化させた場合に、両IDTに含まれるスプリット電極総対数の割合に関する挿入損失及び減衰量をそれぞれ示す線図。
【図14】(A)図は本発明のSAWフィルタの第3実施例を示す平面図、(B)図は一方のIDTの電極構成を示す図。
【図15】第3実施例の周波数特性を示す線図。
【図16】第3実施例のIDTに含まれる追加スプリット電極対数の割合に関する通過帯域幅を示す線図。
【符号の説明】
【0047】
1…圧電基板、1a,2a,3a…中心線、2,3…IDT、4,5…反射器、6a,6b,7a,7b…スプリット電極、8a,8b,9a,9b,13a,13b…ソリッド電極、10a,10b,11a,11b…バスバー、12a,12b…追加のスプリット電極、21,31…内側領域、22,32…外側領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板上に弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、
前記各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、
前記各IDTの前記スプリット電極が、それぞれ前記IDTを弾性表面波の伝搬方向に沿って半分に分ける中心線よりも他方の前記IDT側の内側領域に配置され、
前記各IDTの前記交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1=N2としたとき、前記各IDTの前記スプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4を満足するように選択されることを特徴とする共振子型弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
圧電基板と、前記圧電基板上に弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、
前記各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、
前記各IDTの前記スプリット電極が、それぞれ前記IDTを弾性表面波の伝搬方向に沿って半分に分ける中心線よりも他方の前記IDT側の内側領域に配置され、
前記各IDTの前記交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1≠N2としたとき、前記各IDTの前記スプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45を満足するように選択されることを特徴とする共振子型弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
少なくとも一方の前記IDTが、前記中心線よりも隣接する前記反射器側の外側領域に配置された追加のスプリット電極を有し、前記追加のスプリット電極の対数Nsa1又はNsa2が0.1≦Nsa1/N1≦0.2、または0.1≦Nsa2/N2≦0.2を満足するように選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の共振子型弾性表面波フィルタ。
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板上に弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、
前記各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、
前記各IDTの前記スプリット電極が、それぞれ前記IDTを弾性表面波の伝搬方向に沿って半分に分ける中心線よりも他方の前記IDT側の内側領域に配置され、
前記各IDTの前記交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1=N2としたとき、前記各IDTの前記スプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦Ns1/N1<0.4、及び0.25≦Ns2/N2<0.4を満足するように選択されることを特徴とする共振子型弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
圧電基板と、前記圧電基板上に弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された2組のIDT及びそれらの両側に配置された反射器とを備え、
前記各IDTが、それぞれソリッド電極及びスプリット電極からなる複数対の交差指電極で構成され、
前記各IDTの前記スプリット電極が、それぞれ前記IDTを弾性表面波の伝搬方向に沿って半分に分ける中心線よりも他方の前記IDT側の内側領域に配置され、
前記各IDTの前記交差指電極の全対数をN1,N2、かつN1≠N2としたとき、前記各IDTの前記スプリット電極の対数Ns1,Ns2が0.25≦(Ns1+Ns2)/(N1+N2)<0.45を満足するように選択されることを特徴とする共振子型弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
少なくとも一方の前記IDTが、前記中心線よりも隣接する前記反射器側の外側領域に配置された追加のスプリット電極を有し、前記追加のスプリット電極の対数Nsa1又はNsa2が0.1≦Nsa1/N1≦0.2、または0.1≦Nsa2/N2≦0.2を満足するように選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の共振子型弾性表面波フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−72332(P2008−72332A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248205(P2006−248205)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
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