説明

内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法及びクランクシャフト

【課題】変形が少なく、焼入れ時間が短く、コストを安くできる内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法及びクランクシャフトを提供する。
【解決手段】ジャーナル部2とクランクピン3とが、バランスウェイト5を有するクランクアーム4を介して交互に接続されるクランクシャフト1の製造方法において、ジャーナル部2の周面20及びクランクピン3の周面30に高周波焼入れを施すと共に、ジャーナル部2の周面20のクランクアーム4との境界点に形成されるR部分6及びクランクピン3の周面30のクランクアーム4との境界点に形成されるR部分7のそれぞれにレーザー焼入れを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法及びクランクシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関(以下、エンジンという)においては、図4に示すような構造のクランクシャフト1が用いられる。なお図4に示すクランクシャフト1は4気筒エンジンのものである。また摺動部分の耐摩耗性を上げるため、図4に示すようにクランクシャフト1のジャーナル部2、クランクピン3に高周波焼入れが施される(例えば、特許文献1、2参照)。高周波焼入れが施される箇所(太線で示す箇所)は、それぞれ硬化層21,31を形成する。さらにクランクシャフト1に強度を持たせるために、図5に示すように応力の最も高いR部分6,7まで高周波焼入れ(R高周波焼入れと呼ばれる)を施したものが用いられる。60a,70aは、高周波焼入れを施した硬化層を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−180571号公報
【特許文献2】特開2005−195067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図4及び図5に示すクランクシャフト1では、R部分6,7まで高周波焼入れを施すために、高周波焼入れ時の変形(曲がり)が激しい。高周波焼入れ後にプレス等で強制的に曲がり直しを行うものの、変形が大きいものは曲がり直し仕切れず,廃却されてしまう。つまり歩留まりが悪い。
【0005】
高周波焼入れの換わりにレーザー焼入れを施せば、変形(曲がり)はなくなるが、今度は焼入れ時間が非常に長くなってしまい、過度の設備投資・コスト高となってしまう。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、変形が少なく、焼入れ時間が短く、コストを安くできる内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法及びクランクシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明の内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法は、ジャーナル部とクランクピンとが、バランスウェイトを有するクランクアームを介して交互に接続されるクランクシャフトの製造方法において、前記ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に高周波焼入れを施すと共に、前記ジャーナル部の周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分及び前記クランクピンの周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分のそれぞれにレーザー焼入れを施すことを特徴とする。
【0008】
上記方法によれば、全体をレーザー焼入れするのでなく、レーザー焼入れするのは変形が大きくなるR部分のみであるため、処理時間も短く、レーザー焼入れ装置を増やす必要がない。
【0009】
また前記ジャーナル部の周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分及び前記クランクピンの周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分のそれぞれに施される前記レーザー焼入れの焼入れ深さを、前記ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に施される高周波焼入れの焼入れ深さより浅くするのが好ましい。
【0010】
上記方法によれば、変形が大きくなるR部分には、ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に施される焼入れ深さよりも浅くした焼入れが施されるので、過熱される部分が少なくR部分における変形が少ない。
【0011】
また本発明の内燃機関におけるクランクシャフトは、ジャーナル部とクランクピンとが、バランスウェイトを有するクランクアームを介して交互に接続されるクランクシャフトにおいて、前記ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に高周波焼入れが施され、前記ジャーナル部の周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分及び前記クランクピンの周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分のそれぞれに高周波焼入れの焼入れ深さより浅くしたレーザー焼入れが施されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法及びクランクシャフトによれば、変形が少なく、焼入れ時間が短く、コストを安くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るクランクシャフトを示す外観図である。
【図2】図2は、図1のクランクシャフトの一部であるR部にレーザー焼入れを施す状態を示す概略図である。
【図3】図3は、図1のクランクシャフトの一部における焼入れ深さを示す概略図である。
【図4】図4は、一般的なクランクシャフトに高周波焼入れを施す場合の焼入れ箇所を示す外観図である。
【図5】図5は、一般的なクランクシャフトに高周波焼入れを施した場合の焼入れ深さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお従来例と同様の部分については同一の符号を付して説明する。
【0015】
図1に示すようにクランクシャフト1は、ジャーナル部2とクランクピン3とがバランスウェイト5を有するクランクアーム4を介して交互に接続されており、ジャーナル部2がメインベアリング(図示せず)で支持され、クランクピン3がコンロッドベアリング(図示せず)で支持されている。
【0016】
本例のクランクシャフト1は、四気筒エンジンに適用されるもので、互いに交互に形成されるジャーナル部2とクランクピン3とを備えており、ジャーナル部2はシリンダブロック(図示せず)に回転自在に支持され、クランクピン3はコンロッド(図示せず)の一端に回転自在に連結している。ジャーナル部2とクランクピン3とはクランクアーム4を介して連結されており、クランクピン3の対向側には、クランクアーム4からバランスウエイト5が延出形成されている。
【0017】
図2に示すように、ジャーナル部2の両端部には、ジャーナル部2の周面20とクランクアーム4との一側との隅(根元)、すなわちジャーナル部2の周面20のクランクアーム4との境界点にR部分6が形成される。またクランクピン3の周面30とクランクアーム4の一側との隅(根元)、すなわちクランクピン3の周面30とクランクアーム4との境界点にR部分7が形成される。
【0018】
エンジン内のクランクシャフト1は、図示しないシリンダー内で燃料を爆発させて得た直線的な推力をコンロッド(図示せず)によってクランクピン3の回転運動に変換している。この直線運動を回転運動に変換するとき、クランクシャフト1、特にクランクピン3には強い曲げ負荷が加わる。この曲げ負荷による最大の応力はクランクピン3やジャーナル部2の根元のR部分6,7に作用する。そしてクランクシャフト1のジャーナル部2やクランクピン3は回転運動による摩耗にも耐えねばならない。
【0019】
クランクシャフト1は高速で回転しているので、長時間運転の焼付けの防止のため、クランクシャフト1にはジャーナル部2とクランクピン3にオイルが循環するように、ジャーナル部2の径方向にオイル穴11が形成され、このオイル穴11からクランクピン3に向けて斜めにオイル穴12が形成されてジャーナル部2とクランクピン3の表面をオイルで潤滑して摩擦係数を小さくするとともに、発生した熱をクランクシャフト1の外に放出するようになっている。
【0020】
このようなクランクシャフト1は、機械構造用炭素鋼(例えば、S53C、S48C等)を鍛造加工によりクランクピン3とジャーナル部2とが一体成型されており、ジャーナル部2とクランクピン3には、その表面を硬化させるために図示してないが高周波焼入れ装置を用いて高周波焼入れを施す。
【0021】
高周波焼入れ装置は、例えば交流電源に加熱コイルを繋いで、加熱コイルに周波数の高い交流電流を流して生じる磁界により金属内に渦電流を発生させてジュール熱により熱処理を施すものである。クランクシャフト1のジャーナル部2の周面20及びクランクピン3の周面30に施す高周波焼入れは、これらの周面20,30上に加熱コイルをセットし、クランクシャフト1をその中心軸Xのまわりに回転させながら、加熱コイルに交流電流を流して周面20,30に渦電流を発生させてジュール熱により行う。
【0022】
図3に焼入れした領域を示す。ジャーナル部2の周面20に硬化層21が形成され、クランクピン3の周面30に硬化層31が形成される。例えばジャーナル部2の径D1が60〜75mmとすると、硬化層21の深さ(焼入れ深さ)B1は1〜1.5mm程度であり、またクランクピン3の径D2が60〜75mmとすると、硬化層31の深さ(焼入れ深さ)B2は1〜1.5mm程度である。
【0023】
次にジャーナル部2のR部分6及びクランクピン3のR部分7には、レーザー焼入れを施す。
【0024】
図2に示すように、ジャーナル部2のR部分6に、レーザー焼入れ装置8よりレーザー光8aを照射する。またレーザー光8aをR部分6に対応させるために、レーザー焼入れ装置8は、図示しない照射部の回動により照射角度を変化させることができる。これによりR部分6には、図3に示すように焼入れによる硬化層60が得られる。硬化層60の焼入れ深さA1は0.1〜0.5mm程度である。
【0025】
高周波焼入れは、上記のように焼入れ深さが1〜1.5mmとどうしても深くなるが、レーザー焼入れは高周波焼入れに比べて容易に焼入れ深さを浅くすることができる。表面の硬度は高周波焼入れの場合と変わらないが、与える熱量を少なくして焼入れ深さA1を浅くすることで、R部分6の変形を少なくしている。
【0026】
次いでレーザー焼入れ装置8又はクランクシャフト1を移動させて、レーザー焼入れ装置8をクランクピン3のR部分7に向け、同様にしてレーザー焼入れ装置8よりR部分7にレーザー光8aを照射する。これによりR部分7には、図3に示すように焼入れによる硬化層70が得られる。硬化層70の焼入れ深さA2は0.1〜0.5mm程度である。
【0027】
R部分6,7に加える熱量を変えて硬化層60,70の焼入れ深さA1,A2を変化させるには、付与するレーザー光8aのエネルギー量を増減させれば良く、具体的にはレーザー光8aの照射出力や照射時間、あるいは加工速度(回転速度)を適宜変化させる。またR部分6,7に対する焼入れ部分は面積が少ないので、レーザー焼入れとしても、処理時間の増加も許容できる少ないレベルとすることができる。
【0028】
そもそも高周波焼入れとレーザー焼入れとで、変形に差があるのは、次の理由による。すなわち、高周波焼入れは加熱される範囲が広くて深い。そのため広い範囲で熱膨張する。それが形状変化の大きいR部分で起きると、一様に膨張できないので、大きな変形となる。これに対してレーザー焼入れは加熱される範囲が狭くて浅いので、膨張する部分が少ない。よって変形が少ない。
【0029】
このように本発明によれば、ジャーナル部2の周面20及びクランクピン3の周面30に高周波焼入れを施して、焼入れ深さB1の硬化層21及び焼入れ深さB2の硬化層31を形成し、また形状変化の大きいR部分6,7にレーザー焼入れを施すことで、高周波焼入れより焼入れ深さを浅くし、R部分6,7の変形を少なくすることができる。またレーザー焼入れはR部分6,7のみのため、焼入れ時間が過度に延びることなく通常のサイクルタイムで処理することができる。
【0030】
以上、本発明によれば、R高周波焼入れに対して変形が少なく、歩留まりがよくなり、その結果安価となる。また全体をレーザー焼入れするのに対して、R部のみであるため処理時間が短い。よって過度の投資もかからず、コストも安くすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 クランクシャフト
2 ジャーナル部
3 クランクピン
4 クランクアーム
5 バランスウェイト
6,7 R部分
8 レーザー焼入れ装置
11,12 オイル穴
20,30 周面
21,31,60,70 硬化層
A1,A2,B1,B2 焼入れ深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャーナル部とクランクピンとが、バランスウェイトを有するクランクアームを介して交互に接続されるクランクシャフトの製造方法において、
前記ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に高周波焼入れを施すと共に、前記ジャーナル部の周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分及び前記クランクピンの周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分のそれぞれにレーザー焼入れを施すことを特徴とする内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記ジャーナル部の周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分及び前記クランクピンの周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分のそれぞれに施される前記レーザー焼入れの焼入れ深さを、前記ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に施される高周波焼入れの焼入れ深さより浅くする請求項1記載の内燃機関におけるクランクシャフトの製造方法。
【請求項3】
ジャーナル部とクランクピンとが、バランスウェイトを有するクランクアームを介して交互に接続されるクランクシャフトにおいて、
前記ジャーナル部の周面及びクランクピンの周面に高周波焼入れが施され、
前記ジャーナル部の周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分及び前記クランクピンの周面の前記クランクアームとの境界点に形成されるR部分のそれぞれに高周波焼入れの焼入れ深さより浅くしたレーザー焼入れが施されてなることを特徴とする内燃機関におけるクランクシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−190489(P2011−190489A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56116(P2010−56116)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】