説明

内燃機関のノッキング判定装置

【課題】 ノッキングが発生したか否かを精度よく判定する。
【解決手段】 エンジンECUは、エンジンの振動波形と予め記憶されたノック波形モデルとを複数のタイミングで比較して、振動波形とノック波形モデルとの偏差に関する値である相関係数Kを算出するステップ(S104)と、算出された相関係数Kのうち最も大きい相関係数Kに基づいて、ノック強度Nを算出するステップ(S106)と、ノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きい場合(S108にてYES)、ノッキングが発生したと判定するステップ(S110)と、ノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きくない場合(S108にてNO)、ノッキングが発生していないと判定するステップ(S114)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノッキング判定装置に関し、特に、内燃機関の振動の波形に基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定する内燃機関のノッキング判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関のノッキングを検出する技術が知られている。特開2001−227400号公報(特許文献1)は、ノッキングの発生の有無を正確に判定することができる内燃機関用ノック制御装置を開示する。特許文献1に記載の内燃機関用ノック制御装置は、内燃機関で発生する振動波形信号を検出する信号検出部と、信号検出部で検出された振動波形信号が予め定められた値以上となる期間を発生期間として検出する発生期間検出部と、発生期間検出部で検出された発生期間におけるピーク位置を検出するピーク位置検出部と、発生期間とピーク位置との関係に基づき内燃機関におけるノック発生の有無を判定するノック判定部と、ノック判定部による判定結果に応じて内燃機関の運転状態を制御するノック制御部とを含む。ノック判定部は、発生期間に対するピーク位置が予め定められた範囲内にあるときにはノック(ノッキング)発生有りと判定する。
【0003】
この公報に記載の内燃機関用ノック制御装置によれば、内燃機関で発生する振動波形信号が信号検出部で検出され、その振動波形信号が予め定められた値以上となる発生期間とそのピーク位置とが発生期間検出部およびピーク位置検出部でそれぞれ検出される。このように、振動波形信号の発生期間のどの位置でピークが発生しているかが分かることで内燃機関におけるノック発生の有無がノック判定部にて判定され、このノック判定結果に応じて内燃機関の運転状態が制御される。ノック判定部では、発生期間に対するピーク位置が予め定められた範囲内にあるとき、即ち、振動波形信号の予め定められた長さの発生期間に対してピーク位置が早めに現われるような波形形状であるときには、ノック発生時に特有のものであると認識される。これにより、内燃機関の運転状態が急変する過渡時や電気負荷のON/OFF時においても、内燃機関におけるノック発生の有無が正確に判定され、内燃機関の運転状態を適切に制御することができる。
【特許文献1】特開2001−227400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ノッキングが発生した場合であっても、ノッキングに起因した振動よりも大きい強度の振動がノイズとして検出される場合がある。すなわち、ノックセンサの異常や内燃機関自体の振動に起因した振動の強度が、ノッキングに起因した振動の強度よりも大きい場合がある。このような場合、特開2001−227400号公報に記載の内燃機関用ノック制御装置では、ノッキングが発生しているにも関わらず、発生期間に対するピーク位置が予め定められた範囲外にあるため、ノッキングが発生していないと誤判定されるおそれがあるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ノッキングが発生したか否かを精度よく判定することができるノッキング判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る内燃機関のノッキング判定装置は、内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出手段と、クランク角についての予め定められた間隔における内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出手段と、内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶手段と、検出された波形と記憶された波形とを複数のタイミングで比較した結果に基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定手段とを含む。
【0007】
第1の発明によると、たとえば実験などにより、ノッキングが発生した場合の振動の波形であるノック波形モデルを予め作成して記憶しておき、このノック波形モデルと検出された波形とを複数のタイミングで比較して、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。これにより、クランク角についての予め定められた間隔において複数のタイミングで振動が発生した場合に、各タイミングでの振動がノッキングに起因した振動であるか否かを詳細に分析することができる。そのため、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができる。その結果、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができるノッキング判定装置を提供することができる。
【0008】
第2の発明に係る内燃機関のノッキング判定装置は、内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出手段と、クランク角についての予め定められた間隔における内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出手段と、内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶手段と、検出された波形において振動の強度が低下するタイミングで、検出された波形と記憶された波形とを比較した結果に基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定手段とを含む。
【0009】
第2の発明によると、たとえば実験などにより、ノッキングが発生した場合の振動の波形であるノック波形モデルを予め作成して記憶しておき、このノック波形モデルと検出された波形とを複数のタイミングで比較して、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。これにより、クランク角についての予め定められた間隔において複数のタイミングで振動が発生した場合に、各タイミングでの振動がノッキングに起因した振動であるか否かを詳細に分析することができる。そのため、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができる。その結果、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができるノッキング判定装置を提供することができる。
【0010】
第3の発明に係る内燃機関のノッキング判定装置は、第1または2の発明の構成に加え、検出された波形と記憶された波形との偏差に関する値を算出するための手段をさらに含む。判定手段は、検出された波形と記憶された波形との偏差が最も小さくなるタイミングにおける偏差に関する値に基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための手段を含む。
【0011】
第3の発明によると、検出された波形と記憶された波形との相違度合が偏差に関する値として数値化される。これにより検出された波形を数値により分析して、ノッキングが発生したか否かを客観的に判定することができる。また、算出された偏差に関する値のうち、検出された波形と記憶された波形との偏差が最も小さくなるタイミングにおける偏差に関する値に基づいて、ノッキングが発生したか否かが判定される。これにより、ノッキングに起因した振動の波形である可能性が高い波形に基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。そのため、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができる。
【0012】
第4の発明に係る内燃機関のノッキング判定装置は、第1または2の発明の構成に加え、検出された波形と記憶された波形との偏差に関する値を算出するための手段と、内燃機関の振動の強度を検出するための手段とをさらに含む。振動検出手段は、振動の強度に基づいて内燃機関の振動の波形を検出するための手段を含む。判定手段は、検出された波形と記憶された波形との偏差が最も小さくなるタイミングにおける、偏差に関する値および振動の強度に基づいて、内燃機関にノッキングが発生したと判定するための手段を含む。
【0013】
第4の発明によると、検出された波形と記憶された波形との相違度合が偏差に関する値として数値化される。これにより検出された波形を数値により分析して、ノッキングが発生したか否かを客観的に判定することができる。また、検出された波形と記憶された波形との偏差が最も小さくなるタイミングにおける、偏差に関する値および振動の強度の最大値に基づいて、ノッキングが発生したか否かが判定される。これにより、ノッキングに起因した振動の波形である可能性が高い波形およびその波形における振動の強度に基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。そのため、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るノッキング判定装置を搭載した車両のエンジン100について説明する。本実施の形態に係るノッキング判定装置は、たとえばエンジンECU(Electronic Control Unit)200が実行するプログラムにより実現される。
【0016】
エンジン100は、エアクリーナ102から吸入された空気とインジェクタ104から噴射される燃料との混合気を、燃焼室内で点火プラグ106により点火して燃焼させる内燃機関である。
【0017】
混合気が燃焼すると、燃焼圧によりピストン108が押し下げられ、クランクシャフト110が回転する。燃焼後の混合気(排気ガス)は、三元触媒112により浄化された後、車外に排出される。エンジン100に吸入される空気の量は、スロットルバルブ114により調整される。
【0018】
エンジン100は、エンジンECU200により制御される。エンジンECU200には、ノックセンサ300と、水温センサ302と、タイミングロータ304に対向して設けられたクランクポジションセンサ306と、スロットル開度センサ308と、車速センサ310と、イグニッションスイッチ312とが接続されている。
【0019】
ノックセンサ300は、圧電素子により構成されている。ノックセンサ300は、エンジン100の振動により電圧を発生する。電圧の大きさは、振動の大きさと対応した大きさとなる。ノックセンサ300は、電圧を表す信号をエンジンECU200に送信する。水温センサ302は、エンジン100のウォータージャケット内の冷却水の温度を検出し、検出結果を表す信号を、エンジンECU200に送信する。
【0020】
タイミングロータ304は、クランクシャフト110に設けられており、クランクシャフト110と共に回転する。タイミングロータ304の外周には、予め定められた間隔で複数の突起が設けられている。クランクポジションセンサ306は、タイミングロータ304の突起に対向して設けられている。タイミングロータ304が回転すると、タイミングロータ304の突起と、クランクポジションセンサ306とのエアギャップが変化するため、クランプポジションセンサ306のコイル部を通過する磁束が増減し、コイル部に起電力が発生する。クランクポジションセンサ306は、起電力を表す信号を、エンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角を検出する。
【0021】
スロットル開度センサ308は、スロットル開度を検出し、検出結果を表す信号をエンジンECU200に送信する。車速センサ310は、車輪(図示せず)の回転数を検出し、検出結果を表す信号をエンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、車輪の回転数から、車速を算出する。イグニッションスイッチ312は、エンジン100を始動させる際に、運転者によりオン操作される。
【0022】
エンジンECU200は、各センサおよびイグニッションスイッチ312から送信された信号、メモリ202に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を行ない、エンジン100が所望の運転状態となるように、機器類を制御する。
【0023】
本実施の形態において、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号およびクランク角に基づいて、予め定められたノック検出ゲート(予め定められた第1クランク角から予め定められた第2クランク角までの区間)におけるエンジン100の振動の波形(以下、振動波形と記載する)を検出し、検出された振動波形に基づいて、エンジン100にノッキングが発生したか否かを判定する。本実施の形態におけるノック検出ゲートは、燃焼行程において上死点(0度)から90度までである。なお、ノック検出ゲートはこれに限らない。
【0024】
ノッキングが発生したか否かを判定するため、エンジンECU200のメモリ202には、図2に示すように、エンジン100にノッキングが発生した場合の振動波形のモデルであるノック波形モデルが記憶されている。
【0025】
ノック波形モデルにおいて、振動の強度は0〜1の無次元数として表され、振動の強度はクランク角と一義的には対応していない。すなわち、本実施の形態のノック波形モデルにおいては、振動の強度のピーク値以降、クランク角が大きくなるにつれ振動の強度が低減することが定められているが、振動の強度がピーク値となるクランク角は定められていない。また、ノック波形モデルは、各周波数帯の振動の合成波である。なお、図2におけるCAは、クランク角(Crank Angle)を示す。
【0026】
本実施の形態におけるノック波形モデルは、ノッキングにより発生した振動の強度のピーク値以降の振動に対応している。なお、図3に示すように、ノッキングに起因した振動の立ち上がり以降の振動に対応したノック波形モデルを記憶してもよい。
【0027】
ノック波形モデルは、実験などにより、強制的にノッキングを発生させた場合におけるエンジン100の振動波形を検出し、この振動波形に基づいて予め作成されて記憶される。なお、ノック波形モデルを作成する方法は、これに限られない。エンジンECU200は、検出された波形と記憶されたノック波形モデルとを比較して、エンジン100にノッキングが発生したか否かを判定する。
【0028】
図4を参照して、本実施の形態に係るノッキング判定装置において、エンジンECU200が実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0029】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、エンジン100の振動の強度を検出する。振動の強度は、ノックセンサ300の出力電圧値で表される。なお、ノックセンサ300の出力電圧値と対応した値で振動の強度を表してもよい。強度の検出は、燃焼行程において上死点から90度(クランク角で90度)までの間で行なわれる。
【0030】
S102にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300の出力電圧値(振動の強度を表す値)を、クランク角で5度ごとに(5度分だけ)積算した値(以下、積算値と記載する)を算出する。積算値の算出は、各周波数帯の振動ごとに積算値が算出された後、各周波数帯の振動ごとの積算値が合成されることにより行なわれる。これにより、エンジン100の振動波形が検出される。
【0031】
S104にて、エンジンECU200は、振動波形とノック波形モデルとを5度ごとの間隔でずらした複数のタイミングで比較して、振動波形とノック波形モデルとの偏差に関する値である相関係数Kを算出する。このとき、振動波形は正規化された後、ノック波形モデルと比較される。ここで、振動波形の正規化とは、振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角における積算値の最大値で各積算値で除算することにより、図5に示すように振動の強度を0〜1の無次元数で表すことである。
【0032】
また、相関係数Kは、各タイミングで正規化された後の振動波形とノック波形モデルとの偏差の絶対値(ズレ量)をクランク角ごと(5度ごと)に算出することにより算出される。正規化後の振動波形とノック波形モデルとのクランク角ごとの偏差の絶対値をΔS(I)(Iは自然数)とし、ノック波形モデルにおける振動の強度をクランク角で積分した値(ノック波形モデルの面積)をSとおくと、相関係数Kは、K=(S−ΣΔS(I))/Sという方程式により算出される。ここで、ΣΔS(I)は、振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角におけるΔS(I)の総和である。なお、相関係数Kの算出方法はこれに限らない。
【0033】
図4に戻って、S106にて、エンジンECU200は、ノック強度Nを算出する。ノック強度Nは、算出された相関係数Kのうち最も大きい相関係数Kおよび相関係数Kが最も大きくなるタイミング内の積算値の最大値Pに基づいて算出される。エンジン100にノッキングが発生していない状態におけるエンジン100の振動の強度を表す値をBGL(Back Ground Level)とおくと、ノック強度Nは、N=P×K/BGLという方程式で算出される。BGLはメモリ202に記憶されている。なお、ノック強度Nの算出方法はこれに限らない。
【0034】
S108にて、エンジンECU200は、ノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きいか否かを判別する。ノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きい場合(S108にてYES)、処理はS110に移される。そうでない場合(S108にてNO)、処理はS114に移される。
【0035】
S110にて、エンジンECU200は、エンジン100にノッキングが発生したと判定する。S112にて、エンジンECU200は、点火時期を遅角する。S114にて、エンジンECU200は、エンジン100にノッキングが発生していないと判定する。S116にて、エンジンECU200は、点火時期を進角する。
【0036】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係るノッキング判定装置のエンジンECU200の動作について説明する。
【0037】
運転者がイグニッションスイッチ312をオン操作し、エンジン100が始動すると、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、エンジン100の振動の強度が検出される(S100)。
【0038】
燃焼行程における上死点から90度までの間において、5度ごとの積算値が各周波数ごとに算出され、各周波数ごとに算出された積算値が合成される(S102)。これにより、図6に示すように、エンジン100の振動波形が検出される。
【0039】
5度ごとの積算値により振動波形を検出することにより、振動の強度が細かく変化する複雑な形状の振動波形が検出されることを抑制することができる。そのため、検出された振動波形とノック波形モデルとの比較を容易にすることができる。
【0040】
ここでは、15度から20度までの積算値がノッキングに起因した振動の強度のピーク値として算出され、50度から55度までの積算値がノッキングに起因しない振動(ノイズ)のピーク値として算出されたと想定する。また、ノッキングに起因しない振動のピーク値は、ノッキングに起因した振動の強度のピーク値よりも大きい。
【0041】
なお、図6においては、振動波形を矩形的に表しているが、各積算値を線で結び、線を用いて振動の波形を表してもよい。また、各積算値のみを点で表して振動波形を表してもよい。
【0042】
図7に示すように、検出された振動波形とノック波形モデル(破線)とが、5度ごとの間隔でずれた複数のタイミングで比較され、各タイミングにおいて、正規化後の振動波形とノック波形モデルとのクランク角ごとの偏差の絶対値ΔS(I)が算出される。このΔS(I)の総和ΣΔS(I)およびノック波形モデルにおいて振動の強度をクランク角で積分した値Sに基づいて、K=(S−ΣΔS(I))/Sにより相関係数Kが算出される(S104)。これにより、検出された振動波形とノック波形モデルとの一致度合を数値化して客観的に判定することができる。
【0043】
なお、図7においては、正規化前の振動波形とノック波形モデル(破線)とを比較した状態を示しているが、実際には、上述したように正規化後の振動波形とノック波形モデルとが比較される。すなわち、振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角における積算値の最大値で、各積算値が除算されることにより、振動波形が正規化され、5度ごとの間隔でずれたタイミングごとに正規化された振動波形とノック波形モデルとの比較が行なわれる。また、図7において破線で示すノック波形モデルは、振動波形との比較が行なわれるタイミングの一部と対応したノック波形モデルである。
【0044】
振動波形を正規化することにより、各タイミングにおける振動の強度の大きさに関わらず、1つのノック波形モデルを用いて全てのタイミングの振動波形を分析することができる。そのため、振動の強度に対応した多数のノック波形モデルを記憶しておく必要がなく、ノック波形モデルの作成を容易にすることができる。
【0045】
相関係数Kが算出されると、相関係数Kと積算値の最大値Pとの積をBGLで除算することにより、ノック強度Nが算出される(S106)。これにより、検出された振動波形とノック波形モデルとの一致度合に加えて、振動の強度に基づいて、エンジン100の振動がノッキングに起因した振動であるか否かをより詳細に分析することができる。
【0046】
ノック強度Nを算出される際に用いられる相関係数Kは、算出された相関係数Kのうちの最も大きい相関係数Kである。すなわち、振動波形とノック波形モデルとの偏差が最も小さくなるタイミングで算出された相関係数Kを用いてノック強度Nが算出される。
【0047】
また、ノック強度Nが算出される際に用いられる積算値の最大値Pは、最も大きい相関係数Kが算出されたタイミングにおける積算値の最大値である。すなわち、振動波形とノック波形モデルとの偏差が最も小さくなるタイミングであって、振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角における積算値の最大値である。これにより、ノッキングに起因した振動の波形である可能性が高い振動波形およびその振動波形における振動の強度に基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。
【0048】
ここでは、ノック波形モデルの振動の強度のピーク値を、15度から20度までの積算値に合わせたタイミングにおいて算出される相関係数Kが最も大きくなると想定する。このタイミングにおいて振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角は、15度から90度であるため、ノック強度Nを算出する際に用いられる積算値の最大値Pには、50度から55度までの積算値が用いられる。
【0049】
算出されたノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きい場合(S108にてYES)、ノッキングが発生したと判定され(S110)、点火時期が遅角される(S112)。これにより、ノッキングの発生が抑制される。
【0050】
一方、ノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きくない場合(S108にてNO)、ノッキングが発生していないと判定され(S114)、点火時期が進角される(S116)。
【0051】
以上のように、本実施の形態に係るノッキング判定装置において、エンジンECUは、ノックセンサから送信された信号に基づいてエンジンの振動波形を検出し、振動波形とノック波形モデルとを複数のタイミングで比較して、相関係数Kを算出する。算出された相関係数のうち最も大きい相関係数K、すなわち振動波形とノック波形モデルとの偏差が最も小さいタイミングで算出された相関係数Kとそのタイミングでの積算値の最大値Pとの積をBGLにより除算して、ノック強度Nが算出される。ノック強度Nが判定値よりも大きい場合、エンジンにノッキングが発生したと判定される。ノック強度Nが判定値よりも大きくない場合、エンジンにノッキングが発生していないと判定される。これにより、ノッキングに起因した振動の他にノッキングに起因しない振動が検出された場合に、各タイミングにおける振動を分析してノッキングが発生したか否かを判定することができる。そのため、ノッキングに起因しない振動のみを分析して、ノッキングが発生しているにも関わらずノッキングが発生していないと誤判定することを抑制することができる。その結果、精度よくノッキングが発生しているか否かを判定することができる。
【0052】
<第2の実施の形態>
図8および図9を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。前述の第1の実施の形態においては、5度ごとの間隔でずれた複数のタイミングで振動波形とノック波形モデルとを比較していた。それに対して、本実施の形態においては、振動波形において振動の強度が低下するタイミングで振動波形とノック波形モデルとを比較する。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。それらについての機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0053】
図8を参照して、本実施の形態に係るノッキング判定装置のエンジンECU200が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、前述の第1の実施の形態と同じ処理については同じステップ番号を付し、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0054】
S200にて、エンジンECU200は、振動波形において振動の強度が低下するタイミングで振動波形とノック波形モデルとを比較して、相関係数Kを算出する。このとき、振動波形は正規化された後、ノック波形モデルと比較される。
【0055】
以上のような構造に基づく、本実施の形態に係るノッキング判定装置のエンジンECU200の動作について説明する。
【0056】
運転者がイグニッションスイッチ312をオン操作し、エンジン100が始動すると、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、エンジン100の振動の強度が検出される(S100)。
【0057】
燃焼行程における上死点から90度までの間において、5度ごとの積算値が各周波数ごとに算出され、各周波数ごとに算出された積算値が合成される(S102)。これにより、エンジン100の振動波形が検出される。
【0058】
ここでは、前述の第1の実施の形態と同様に、15度から20度までの積算値がノッキングに起因した振動の強度のピーク値であり、50度から55度までの積算値がノッキングに起因しない振動の強度のピーク値であると想定する。また、50度から55度までの積算値は、15度から20度までの積算値よりも大きい。
【0059】
図9に示すように、振動波形における振動の強度(積算値)が低下するタイミングで、検出された振動波形とノック波形モデル(一点鎖線)とが比較され、各タイミングにおいて、正規化後の振動波形とノック波形モデルとのクランク角ごとの偏差の絶対値ΔS(I)が算出される。このΔS(I)の総和ΣΔS(I)およびノック波形モデルにおいて振動の強度をクランク角で積分した値Sに基づいて、K=(S−ΣΔS(I))/Sにより相関係数Kが算出される(S200)。
【0060】
なお、図9においては、正規化前の振動波形とノック波形モデル(一点鎖線)とを比較した状態を示しているが、実際には、第1の実施の形態と同様に、正規化後の振動波形とノック波形モデルとが比較される。すなわち、振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角における積算値の最大値で、各積算値が除算されることにより、振動波形の正規化が行なわれ、正規化後の振動波形とノック波形モデルとの比較が行なわれる。
【0061】
相関係数Kが算出されると、相関係数Kと積算値の最大値Pとの積をBGLで除算することにより、ノック強度Nが算出される(S106)。ノック強度Nを算出される際に用いられる相関係数Kは、算出された相関係数Kのうちの最も大きい相関係数Kである。すなわち、振動波形とノック波形モデルとの偏差が最も小さくなるタイミングで算出された相関係数Kを用いてノック強度Nが算出される。
【0062】
また、ノック強度Nが算出される際に用いられる積算値の最大値Pは、最も大きい相関係数Kが算出されたタイミングにおける積算値の最大値Pである。すなわち、振動波形とノック波形モデルとの偏差が最も小さくなるタイミングであって、振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角における積算値の最大値Pである。
【0063】
ここでは、ノック波形モデルの振動の強度のピーク値を、15度から20度までの積算値に合わせたタイミングにおいて算出される相関係数Kが最も大きくなると想定する。このタイミングにおいて振動波形とノック波形モデルとが重複するクランク角は、15度から90度であるため、ノック強度Nを算出する際に用いられる積算値の最大値Pには、50度から55度までの積算値が用いられる。
【0064】
算出されたノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きい場合(S108にてYES)、ノッキングが発生したと判定され(S110)、点火時期が遅角される(S112)。これにより、ノッキングの発生が抑制される。
【0065】
一方、ノック強度Nが予め定められた判定値よりも大きくない場合(S108にてNO)、ノッキングが発生していないと判定され(S114)、点火時期が進角される(S116)。
【0066】
以上のように、本実施の形態に係るノッキング判定装置において、エンジンECUは、ノックセンサから送信された信号に基づいてエンジンの振動波形を検出し、振動波形において振動の強度が低下するタイミングで、振動波形とノック波形モデルとを比較して、相関係数Kを算出する。算出された相関係数のうち最も大きい相関係数K、すなわち振動波形とノック波形モデルとの偏差が最も小さいタイミングで算出された相関係数Kとそのタイミングでの積算値の最大値Pとの積をBGLにより除算して、ノック強度Nが算出される。ノック強度Nが判定値よりも大きい場合、エンジンにノッキングが発生したと判定される。ノック強度Nが判定値よりも大きくない場合、エンジンにノッキングが発生していないと判定される。このようにすれば、前述の第1の実施の形態と同様の効果を得ることができるとともに、前述の第1の実施の形態に比べて相関係数Kを算出するタイミングを少なくすることができる。そのため、エンジンECUの負荷を軽減し、速やかにノッキングが発生したか否かを判定することができる。
【0067】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るノッキング判定装置により制御されるエンジンを示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るノッキング判定装置におけるエンジンECUのメモリに記憶されたノック波形モデルを示す図(その1)である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るノッキング判定装置におけるエンジンECUのメモリに記憶されたノック波形モデルを示す図(その2)である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るノッキング判定装置においてエンジンECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図5】正規化後の振動波形を示す図である。
【図6】正規化前の振動波形を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るノッキング判定装置において、エンジンの振動波形とノック波形モデルとを比較するタイミングを示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るノッキング判定装置においてエンジンECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るノッキング判定装置において、エンジンの振動波形とノック波形モデルとを比較するタイミングを示す図である。
【符号の説明】
【0069】
100 エンジン、104 インジェクタ、106 点火プラグ、110 クランクシャフト、200 エンジンECU、300 ノックセンサ、302 水温センサ、304 タイミングロータ、306 クランクポジションセンサ、308 スロットル開度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出手段と、
クランク角についての予め定められた間隔における前記内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出手段と、
前記内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶手段と、
前記検出された波形と前記記憶された波形とを複数のタイミングで比較した結果に基づいて、前記内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定手段とを含む、内燃機関のノッキング判定装置。
【請求項2】
内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出手段と、
クランク角についての予め定められた間隔における前記内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出手段と、
前記内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶手段と、
前記検出された波形において振動の強度が低下するタイミングで、前記検出された波形と前記記憶された波形とを比較した結果に基づいて、前記内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定手段とを含む、内燃機関のノッキング判定装置。
【請求項3】
前記ノッキング判定装置は、前記検出された波形と前記記憶された波形との偏差に関する値を算出するための手段をさらに含み、
前記判定手段は、前記検出された波形と前記記憶された波形との偏差が最も小さくなるタイミングにおける前記偏差に関する値に基づいて、前記内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための手段を含む、請求項1または2に記載の内燃機関のノッキング判定装置。
【請求項4】
前記ノッキング判定装置は、
前記検出された波形と前記記憶された波形との偏差に関する値を算出するための手段と、
前記内燃機関の振動の強度を検出するための手段とをさらに含み、
前記振動検出手段は、前記振動の強度に基づいて前記内燃機関の振動の波形を検出するための手段を含み、
前記判定手段は、前記検出された波形と前記記憶された波形との偏差が最も小さくなるタイミングにおける、前記偏差に関する値および振動の強度に基づいて、前記内燃機関にノッキングが発生したと判定するための手段を含む、請求項1または2に記載の内燃機関のノッキング判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−177259(P2006−177259A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371898(P2004−371898)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】