説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の制御装置に関し、プレイグニッションが発生する予兆を検知できるようにすることを目的とする。
【解決手段】各気筒の燃焼室壁面14a、吸気通路16、および排気通路18のそれぞれに、筒内ガスもしくは排気ガス中の赤色発光を検出するための光検出装置46を備える。また、それぞれの光検出装置46に対して、赤色発光強度を演算するための演算装置48を接続する。膨張行程および排気行程における筒内ガス中に、排気ガス中に、または、吸気弁34の開弁期間における筒内ガス中に赤色発光が検出された場合に、プレイグニッションが発生する予兆があると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、異常燃焼(プレイグニッションなど)の予防を図るうえで好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、火花点火機関用プレイグニッション検出装置が開示されている。この従来の検出装置は、点火時期の直前のタイミングにおいて筒内ガスの燃焼時に発生する光のうちの近赤外線よりも長い波長の光を捕らえるようにしたうえで、捕らえられた光の信号と点火時期信号との時間差からプレイグニッション発生の有無を判定するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−73647号公報
【特許文献2】特開平6−193866号公報
【特許文献3】特開平2−136566号公報
【特許文献4】特開平1−170742号公報
【特許文献5】特開2008−2279号公報
【特許文献6】特開2004−68775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の手法は、点火時期の直前のタイミングにおける筒内ガスの発光の検出の有無に応じて、プレイグニッションが実際に発生したか否かを判別するというものである。つまり、この手法は、プレイグニッションの発生を予測するものではなく、その結果、プレイグニッションの発生を予防するための対策として用いることはできないものである。また、近赤外線よりも長い波長の光を利用する手法では、筒内を浮遊し、異常燃焼の着火源となり得る固形物(デポジットやオイルなど)の発光に対する感度が低い。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、プレイグニッションなどの異常燃焼が発生する予兆を検知できるようにした内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の筒内を浮遊するもしくは排気通路を通過する固形物が存在するか否かを判定する固形物判定手段と、
前記固形物判定手段によって筒内を浮遊するもしくは排気通路を通過する固形物が存在すると判定された場合に、異常燃焼が発生する予兆があると判定する異常燃焼予兆判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記固形物判定手段は、筒内から排出される排気ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって排気ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、排気通路を通過する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記固形物判定手段は、前記内燃機関の膨張行程および排気行程のうちの少なくとも一部の期間において筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって筒内ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記固形物判定手段は、前記内燃機関の吸気弁の開弁期間において筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって筒内ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第1の発明において、
前記固形物判定手段は、圧縮上死点付近のタイミングにおける筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって筒内ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第1の発明において、
前記固形物判定手段は、燃焼光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段により検出された燃焼光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0012】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記固形物判定手段は、前記発光検出手段により検出された550〜560nmの波長の発光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0013】
また、第8の発明は、第6の発明において、
前記固形物判定手段は、前記発光検出手段により検出された580〜600nmの波長の発光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0014】
また、第9の発明は、第6の発明において、
前記固形物判定手段は、前記発光検出手段により検出された610〜630nmの波長の発光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0015】
また、第10の発明は、第1の発明において、
前記固形物判定手段は、排気ガスに含まれる固形物の帯電量に応じた出力を発するセンサを含み、前記内燃機関のサイクル毎に判定される当該センサの出力が所定値以上である場合に、排気通路を通過する固形物が存在すると判定することを特徴とする。
【0016】
また、第11の発明は、第1〜第10の発明の何れか1つにおいて、
前記異常燃焼予兆判定手段により異常燃焼が発生する予兆があると判定された場合に、当該判定の後に予定される所定数の燃焼における異常燃焼の発生を回避するための所定の異常燃焼回避制御を実行する異常燃焼予防手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
また、、第12の発明は、第11の発明において、
吸気通路に配置され、筒内の気流を制御するための気流制御弁を更に備え、
前記異常燃焼予防手段は、前記異常燃焼回避制御として、筒内の気流が強化されるように前記気流制御弁を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
ノックの発生によって筒内壁面に付着したデポジットが剥がれることがある。そして、剥がれたデポジットは、燃焼しながら筒内を浮遊して次サイクル以降にまで残留することがある。このようなデポジットやオイル液滴の燃え残りなどの固形物が筒内に残留すると、それが着火源となり、プレイグニッションなどの異常燃焼の発生要因の1つとなることが分かった。このため、筒内を浮遊する固形物が存在する状況下では、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。また、筒内から排出された排気ガス中に上記固形物が含まれているような場合には、筒内を浮遊しながら次サイクル以降にまで残留する固形物が存在している可能性が高く、その結果として、次サイクル以降において異常燃焼の発生確率が高いと判断することができる。したがって、第1の発明によれば、固形物判定手段を用いて筒内を浮遊するもしくは排気通路を通過する固形物が存在すると判定された場合に、異常燃焼が発生する予兆があると判定することが可能となる。
【0019】
排気ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合には、赤熱したデポジットなどの、発光している固形物が排気ガス中に存在すると判断することができる。このため、第2の発明によれば、発光検出手段を用いて当該発光が検出されたことをもって、排気通路を通過する固形物が存在すると判定することが可能となる。
【0020】
また、膨張行程および排気行程においてノックの発生によって筒内を浮遊するデポジットなどの固形物が生じている状況下では、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。膨張行程および排気行程のうちの少なくとも一部の期間において筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合には、赤熱したデポジットなどの、発光している固形物が筒内ガス中に存在すると判断することができる。このため、第3の発明によれば、発光検出手段を用いて当該発光が検出されたことをもって、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することが可能となる。
【0021】
また、吸気弁の開弁期間中においてノックの発生によって筒内を浮遊するデポジットなどの固形物が生じている状況下では、今回のサイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。吸気弁の開弁期間において筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合には、赤熱したデポジットなどの、発光している固形物が筒内ガス中に存在すると判断することができる。このため、第4の発明によれば、当該発光が検出されたことをもって、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することが可能となる。
【0022】
また、圧縮上死点付近のタイミングにおいて筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合にも、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。圧縮上死点付近のタイミングにおける筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合には、赤熱したデポジットなどの、発光している固形物が筒内ガス中に存在すると判断することができる。このため、第5の発明によれば、当該発光が検出されたことをもって、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することが可能となる。
【0023】
筒内を浮遊する固形物が存在する場合には、燃焼光の強度が高くなる。このため、第6の発明によれば、発光検出手段によって検出された燃焼光の強度が所定値よりも高いか否かの判断に基づいて、筒内を浮遊する固形物が存在するか否かを判定することが可能となる。
【0024】
第7の発明によれば、550〜560nmの波長領域において検出される、Caを由来とする発光スペクトルを利用して、良好な感度で筒内を浮遊する固形物が存在するか否かを判定することができる。
【0025】
第8の発明によれば、580〜600nmの波長領域において検出される、Naを由来とする発光スペクトルを利用して、良好な感度で筒内を浮遊する固形物が存在するか否かを判定することができる。
【0026】
第9の発明によれば、610〜630nmの波長領域において検出される、Caを由来とする発光スペクトルを利用して、良好な感度で筒内を浮遊する固形物が存在するか否かを判定することができる。
【0027】
第10の発明によれば、固形物の発光の検出を利用しない他の手法で、排気通路を通過する固形物が存在するか否かを判定することができる。
【0028】
第11の発明によれば、上記第1〜第10の発明の何れかによって異常燃焼が発生する予兆があると判定された場合に、上記異常燃焼回避制御を実行することによって、異常燃焼の発生を未然に予防することが可能となる。
【0029】
第12の発明によれば、異常燃焼が発生する予兆があると判定された場合に筒内の気流が強化されるように気流制御弁を制御することにより、異常燃焼を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】気流制御弁周りの構成を説明するための図である。
【図3】筒内に存在するデポジットに起因するプレイグニッションの発生メカニズムを説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1において実行されるプレイグニッションの回避制御の一例を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1において実行されるプレイグニッションの回避制御の他の一例を説明するための図である。
【図6】プレイグニッションの発生領域を判定するために、本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図7】プレイグニッション発生の予兆の有無を判別するために、本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図8】プレイグ回避制御を実現するために、本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図9】同一運転条件下における個々のプレイグ回避制御の効果を比較した図である。
【図10】通常点火時とプレイグニッション発生時との間で、燃焼光の平均発光強度と波長との関係(発光スペクトル)を表した図である。
【図11】プレイグニッションの発生時における、燃焼による熱発生率の変化と、Na由来の発光スペクトルが見られる580〜600nmの波長領域における平均発光強度との関係を表した図である。
【図12】580〜600nmの波長領域の光の平均発光強度のピーク値と、内燃機関のサイクルの経過との関係を表した図である。
【図13】プレイグ回避制御を実現するために、本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図14】連続するサイクルにおけるPMセンサの出力波形を表した図である。
【図15】プレイグニッション発生の予兆判定、および予兆が認められる場合のプレイグ回避制御を実現するために、本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図16】排気通路を通過する所定の大きさ以上の固形物の他の検出手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、ターボ過給機24付きの火花点火式内燃機関(一例としてガソリンエンジン)10を備えている。内燃機関10の各気筒内には、ピストン12が設けられている。各気筒内には、ピストン12の頂部側に燃焼室14が形成されている。燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
【0032】
吸気通路16の入口には、エアクリーナ20が取り付けられている。エアクリーナ20には、吸気通路16に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ22が設けられている。エアフローメータ22よりも下流側の吸気通路16には、ターボ過給機24のコンプレッサ24aが配置されている。更に、コンプレッサ24aよりも下流側の吸気通路16には、電子制御式のスロットルバルブ26が設けられている。また、排気通路18には、ターボ過給機24のタービン24bが配置されている。
【0033】
各気筒には、燃焼室14内(筒内)に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁28が設けられている。また、各気筒には、燃焼室14内の混合気に点火するための点火プラグ30が設けられている。点火プラグ30は、点火コイル32に接続されている。更に、各気筒には、吸気通路16の吸気ポートおよび排気通路18の排気ポートを開閉するための吸気弁34および排気弁36がそれぞれ設置されている。
【0034】
吸気弁34および排気弁36は、それぞれ吸気可変動弁機構38および排気可変動弁機構40により駆動される。これらの可変動弁機構38、40は、クランク軸42の回転位相に対する各カム軸(図示省略)の回転位相を変化させることにより吸気弁34または排気弁36の開閉時期を所定範囲内で変更可能とする可変バルブタイミング機構を含むものである。このような可変動弁機構38、40によれば、排気弁36の開弁期間と吸気弁34の開弁期間とが重なるバルブオーバーラップ期間を調整することができる。また、クランク軸42の近傍には、クランク角度を検出するためのクランク角センサ44が配置されている。
【0035】
また、各気筒の燃焼室壁面14aには、筒内ガス中の赤色発光を検出するための光検出装置46が取り付けられている。また、吸気通路16にも、吸気弁34の開弁期間中の筒内ガス中の赤色発光を検出するために上記光検出装置46が取り付けられている。更に、排気通路18にも、筒内から排出された排気ガス中の赤色発光を検出するために上記光検出装置46が取り付けられている。光検出装置46としては、例えば、特開昭57−73647号公報に記載の発光検出部と同様の構成を有する装置を用いることができる。すなわち、光検出装置46は、例えば、光センサ(フォトダイオードやフォトトランジスタなど)と、検出対象の波長の光(本実施形態では、赤色光)のみを選択的に透過する光学フィルタとを備えるものによって構成することができる。また、それぞれの光検出装置46は、赤色発光強度を演算するための演算装置48に接続されている。演算装置48は、検出した光の光量に応じて値の異なる光検出装置46の出力電流値を利用して、赤色発光強度を演算する。
【0036】
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の入力部には、上述したエアフローメータ22、クランク角センサ44、および、演算装置48を介した光検出装置46に加え、排気通路18を流れるPM(粒子状物質)の量を検出するためのPMセンサ52、および、吸気カム軸(もしくは排気カム軸)の回転角度であるカム角を検出するためのカム角センサ54等の内燃機関10の運転状態や燃焼状態を検知するための各種センサが接続されている。また、ECU50の出力部には、上述したスロットルバルブ26、燃料噴射弁28、点火コイル32および可変動弁機構38、40に加え、筒内の気流を制御するための気流制御弁56(図2参照)等の内燃機関10の運転を制御するための各種のアクチュエータが接続されている。
【0037】
図2は、気流制御弁56周りの構成を説明するための図である。
吸気通路16における吸気弁34に近い部位(吸気ポート)には、吸気通路16を図2に示すように上下2つの通路16a、16bに仕切るための隔壁58が設けられている。気流制御弁56は、隔壁58によって2つに仕切られた吸気通路16のうちの下側の通路16aを開閉可能な弁として備えられている。このような構成によれば、気流制御弁56によって上記下側の通路を閉じることにより上側の通路16bを流れる吸気の流速を高めることができ、図2に示すように、筒内気流(この場合には、タンブル流)を強化することができる。
【0038】
ECU50は、上述した各種センサの出力に基づき、所定のプログラムに従って各種アクチュエータを作動させることにより、内燃機関10の運転状態を制御するものである。また、ECU50は、クランク角センサ44により検出されるクランク角度の変化率に基づいてエンジン回転数Neを算出し、エアフローメータ22により検出される吸入空気量および上記エンジン回転数Neに基づいて、内燃機関10の充填効率(負荷率)KLを算出する。更に、ECU50は、クランク角センサ44により検出されるクランク角度を利用して、点火時期を演算する。
【0039】
[プレイグニッションの予兆の検出手法]
図3は、筒内に存在するデポジットに起因するプレイグニッションの発生メカニズムを説明するための図である。
内燃機関10の低回転高負荷領域は、正常な点火時期よりも前に混合気が自着火する現象(プレイグニッション)が発生し得る領域である。このようなプレイグニッションの発生原因の1つとして、燃焼室14内の赤熱したデポジットやオイル液滴の燃え残り等の筒内に浮遊する固形物が着火源となっている可能性があることが分かった。例えば、図3(A)に示すように、ノックの発生によって筒内壁面に付着したデポジットが剥がれることがある。そして、剥がれたデポジットが燃焼しながら筒内を浮遊して次サイクル以降にまで残留した場合には、図3(B)に示すように、筒内に残留したデポジットが着火源となり、プレイグニッションの発生要因の1つとなることが分かった。
【0040】
上記知見によれば、ノックの発生によって筒内を浮遊するデポジットが生じている状況下では、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。また、筒内から排出された排気ガス中に上記デポジットが含まれているような場合には、筒内を浮遊しながら次サイクル以降にまで残留するデポジットが筒内に存在している可能性が高く、その結果として、このような場合においても、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。また、筒内に堆積したデポジットの剥がれが発生する要因は上記のようにノックの発生であるため、上記発生要因によるプレイグニッションは、ノックが発生したサイクル以降にて発生し易いといえる。
【0041】
そこで、本実施形態では、プレイグニッションの発生が懸念される上記低回転高負荷領域の使用時に、筒内を浮遊するデポジットの存在やノック後に生ずるすすの存在を検出することによって、上記発生要因によるプレイグニッションが発生する予兆を検出することとした。
【0042】
具体的には、燃焼室壁面14aに取り付けた光検出装置46を用いて、膨張行程および排気行程における燃焼光(デポジットの赤色発光やノック後に生ずるすすの赤色発光)を検出した時に、次サイクル以降におけるプレイグニッション発生の予兆があると判定するようにした。
【0043】
また、排気通路18に取り付けた光検出装置46を用いて、筒内から排出される排気ガス中の発光(デポジットの赤色発光やノック後に生ずるすすの赤色発光)を検出した時に、今回のサイクルにおいて筒内に残留するデポジットが存在している可能性が高く、その結果として、次サイクル以降におけるプレイグニッション発生の予兆があると判定するようにした。
【0044】
更に、吸気通路16に取り付けた光検出装置46を用いて、吸気弁34の開弁期間中における筒内の発光(デポジットの赤色発光やノック後に生ずるすすの赤色発光)を検出した時に、今回のサイクル(赤色発光を検出した吸気行程が属するサイクル)以降におけるプレイグニッション発生の予兆があると判定するようにした。
【0045】
また、本実施形態では、圧縮行程中の点火時期の到来前のタイミングにおいて筒内ガス中の発光を検出した時には、プレイグニッションが実際に発生したと判定するようにした。
【0046】
[プレイグニッションの回避制御]
図4は、本発明の実施の形態1において実行されるプレイグニッションの回避制御の一例を説明するための図であり、図5は、本発明の実施の形態1において実行されるプレイグニッションの回避制御の他の一例を説明するための図である。
【0047】
本実施形態では、上述した手法によって、プレイグニッションが発生する予兆があると判断された場合、またはプレイグニッションが実際に発生したと判断された場合には、次のようなプレイグニッションを回避するためのプレイグ回避制御を実行するようにしている。
【0048】
先ず、図4に示す手法は、プレイグニッション発生の予兆があると判定された場合に、圧縮行程もしくは吸気行程において実行される燃料噴射における燃焼噴射幅(燃焼噴射期間)を増大させるというものである。これにより、筒内の空燃比(A/F)をリッチにすることで、デポジット周囲の混合気を着火しにくくすることができる。
【0049】
また、図5に示す手法は、プレイグニッション発生の予兆があると判定された場合に、可変動弁機構38、40を用いてバルブオーバーラップ期間を拡大するというものである。内燃機関10は過給機付き内燃機関であり、プレイグニッションの発生が懸念される運転領域は、以下の図6に示すルーチンにも表されているように過給領域である。そのような過給領域において、バルブオーバーラップ期間を拡大すると、吸気圧力が排気圧力よりも高い状況下であるので、図5に示すように、筒内に供給される新気によって筒内に残留する浮遊デポジットを掃気することができる。更に、これらの手法以外のプレイグ回避制御としては、内燃機関10が備える気流制御弁56を利用し、プレイグニッション発生の予兆があると判定された時に、この気流制御弁56を制御することによって筒内の気流(タンブル流)を強化するという手法を用いるようにしてもよい。尚、上記構成の気流制御弁56に代え、筒内の気流としてスワール流を制御可能な気流制御弁を備えるようにしたうえで、プレイグニッション発生の予兆があると判定された時に、スワール流を強化するようにしてもよい。
【0050】
[実施の形態1における具体的処理]
図6は、プレイグニッションの発生領域を判定するために、ECU50が実行するルーチンを示すフローチャートである。
図6に示すルーチンでは、先ず、現在のエンジン回転数Neが所定回転数(例えば、2000r/min)よりも低いか否かが判定される(ステップ100)。
【0051】
上記ステップ100において現在のエンジン回転数Neが2000r/minよりも低いと判定された場合には、次いで、充填効率KLが所定値(例えば、120%)よりも高いか否かが判定される(ステップ102)。その結果、本ステップ102の判定が成立する場合、つまり、現在の内燃機関10の運転領域がプレイグニッションの発生が懸念される所定の低回転高負荷領域であると判断できる場合には、次いで、以下の図7に示すルーチンの処理が実行される。
【0052】
図7は、プレイグニッション発生の予兆の有無を判別するために、ECU50が実行するルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンの処理は、上記ステップ102の判定が成立している間(プレイグニッションの発生が懸念される上記低回転高負荷領域が使用される間)、各気筒においてサイクル毎に繰り返し実行されるものとする。
【0053】
図7に示すルーチンでは、先ず、燃焼室壁面14aに取り付けられた光検出装置46を用いて、膨張行程および排気行程における筒内ガスの燃焼光の色が検出されたうえで、対応する演算装置48を用いて当該燃焼光の赤色発光強度が算出される(ステップ200)。
【0054】
次に、上記ステップ200において検出された燃焼光の赤色発光強度が通常燃焼時の値(所定の強度)よりも高いか否かが判定される(ステップ202)。具体的には、ECU50には、通常燃焼時における膨張行程および排気行程での筒内ガスの燃焼光の赤色発光強度が予め実験等によって取得されたうえで記憶されている。本ステップ202では、上記光検出装置46によって今回検出された燃焼光の赤色発光強度が、ECU50に記憶されている通常燃焼時の値と比較される。通常燃焼時の燃焼光には青色の光が多く含まれているのに対し、上述したデポジットやすすといった固形物が筒内を浮遊している場合には、それらが発する赤色光によって燃焼光の赤色発光強度が高くなる。従って、本ステップ202の処理によれば、今回のサイクルの膨張行程および排気行程中の筒内に上記のデポジットやすすが浮遊しているか否かを判定することが可能となる。
【0055】
上記ステップ202における判定が成立した場合、すなわち、今回のサイクルの膨張行程および排気行程中の筒内に上記のデポジットやすすが浮遊していると判断できる場合には、次サイクル以降においてプレイグニッションが発生する予兆があると判定される(ステップ204)。この場合には、次いで、図8を参照して後述する所定のプレイグ回避制御が実行される(ステップ206)。
【0056】
一方、上記ステップ202において、今回のサイクルの膨張行程および排気行程中の筒内に上記のデポジットやすすの赤色光が検出されなかった場合には、次いで、排気通路18に取り付けられた光検出装置46を用いて、排気通路18を流れる排気ガスが発する光の色が検出される(ステップ208)。次いで、上記ステップ202と同様の手法によって、今回のサイクルにおいて排気通路18を流れる排気ガス中に上記のデポジットやすすが存在しているか否かが判定される(ステップ210)。
【0057】
上記ステップ210における判定が成立した場合、すなわち、今回のサイクルにおいて排気通路18を流れる排気ガス中に上記のデポジットやすすが存在していると判断できる場合にも、次サイクル以降においてプレイグニッションが発生する予兆があると判定される(ステップ212)。そして、この場合にも、後述するプレイグ回避制御が実行される(ステップ206)。
【0058】
一方、上記ステップ210において、今回のサイクルにおいて排気通路18を流れる排気ガス中に上記のデポジットやすすの赤色光が検出されなかった場合には、次いで、吸気通路16に取り付けられた光検出装置46を用いて、吸気弁34の開弁期間中における筒内ガスの色が検出される(ステップ214)。次いで、上記ステップ212と同様の手法によって、今回のサイクルの吸気弁34の開弁期間中の筒内に上記のデポジットやすすが浮遊しているか否かが判定される(ステップ216)。
【0059】
上記ステップ216における判定が成立した場合、すなわち、今回のサイクルの吸気弁34の開弁期間中の筒内に上記のデポジットやすすが存在していると判断できる場合にも、今回のサイクル以降においてプレイグニッションが発生する予兆があると判定される(ステップ218)。そして、この場合にも、後述するプレイグ回避制御が実行される(ステップ206)。
【0060】
一方、上記ステップ216において、今回のサイクルの吸気弁34の開弁期間中の筒内に上記のデポジットやすすの赤色光が検出されなかった場合には、次いで、燃焼室壁面14aに取り付けられた光検出装置46を用いて、圧縮行程中の点火時期の到来前のタイミングにおける筒内ガス中の発光(赤色光)が計測される(ステップ220)。次いで、ステップ222において上記発光(赤色光)が検出されたと判定された場合には、今回のサイクルにおいてプレイグニッションが実際に発生したと判定される(ステップ224)。尚、プレイグニッションが発生した際の燃焼光の赤色発光強度は、上記デポジット等の赤色発光強度に対して高いため、プレイグニッションの検出のための赤色発光強度の判定値は、上記デポジット等のための判定値よりも高い値となる。
そして、この場合にも、プレイグニッションの連発を回避すべく、後述するプレイグ回避制御が実行される(ステップ206)。
【0061】
上記図7に示すルーチンには図示されていないが、上述した処理の他に、次のような処理を行うようにしてもよい。すなわち、プレイグニッション発生時に筒内で生ずる光の発光強度は強い。そこで、点火時期の到来前の上記燃焼光の検出に代え、もしくはそれとともに、燃焼期間である圧縮上死点付近のタイミングにおける筒内ガスの赤色発光強度に基づいてプレイグニッションが実際に発生したか否かを判別してもよい。そして、実際にプレイグニッションが検出された場合には、プレイグニッションの連発を回避するために、上記プレイグ回避制御を行うようにしてもよい。
更に付け加えると、圧縮上死点付近のタイミングにおいて筒内ガスの発光が検出された場合には、検出されたサイクルにおいてプレイグニッションが実際に発生したと判定できるだけでなく、次サイクル以降の数サイクルにおいても、プレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。具体的には、デポジットやオイル液滴の燃え残り等の、筒内を浮遊する固形物が起点となって着火してプレイグニッションが発生した場合には、図10を参照して後述するように、そのような固形物の発光に起因して特定の波長の発光強度が高くなる。そのような波長の光を検出することで、筒内を浮遊するデポジット等の固形物が存在すると判定することができる。そして、このように判定された状況下では、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。このように、圧縮上死点付近のタイミングにおいて筒内ガスの発光を検出する(本発明における「発光検出手段」に相当)ことによっても、プレイグニッション発生の予兆を検出することができる。
【0062】
図8は、上記プレイグ回避制御を実現するために、ECU50が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
図8に示すルーチンでは、先ず、上記ステップ206に進んだ時点から所定のサイクル数(例えば、10サイクル)に渡って、燃焼噴射幅(燃焼噴射期間)を所定量(例えば、3割)増大させることによって燃料増量が実行される(ステップ300)。
【0063】
次に、上記ステップ206に進んだ時点から所定のサイクル数(例えば、100サイクル)に渡って、吸気可変動弁機構38を用いた吸気弁34の開き時期の進角(ステップ302)と、排気可変動弁機構40を用いた排気弁36の閉じ時期の遅角(ステップ304)とが実行される。すなわち、これらの処理によって、バルブオーバーラップ期間が拡大される。尚、上記ステップ300における燃料増量による空燃比のリッチ化は、燃費悪化を伴う対策であるため、ここでは、その実施を必要最小限に留め、バルブオーバーラップ期間の拡大による対策の方の実行期間を長くしている。
【0064】
以上説明した図6、7に示すルーチンによれば、プレイグニッションの発生が懸念される低回転高負荷領域の使用時に、膨張行程および排気行程における筒内の火炎の赤色発光強度が通常燃焼時の値よりも高いと判定された場合には、今回のサイクルの膨張行程および排気行程中の筒内に上記のデポジットやすすといった固形物が浮遊していると判断することができる。そして、既述した知見によれば、膨張行程および排気行程においてノックの発生によって筒内を浮遊するデポジットやすすが生じている状況下では、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。このため、このような処理によれば、プレイグニッションが発生する予兆があると判断することができる。つまり、近い将来におけるプレイグニッションの発生を予測することができるといえる。
【0065】
また、上記図6、7に示すルーチンによれば、プレイグニッションの発生が懸念される低回転高負荷領域の使用時に、排気通路18を流れる排気ガスが発する赤色発光強度が通常燃焼時の値よりも高いと判定された場合には、今回のサイクルにおいて排気通路18を流れる排気ガス中に上記のデポジットやすすといった固形物が存在していると判断することができる。そして、既述した知見によれば、筒内から排出された排気ガス中に上記のデポジットやすすが含まれているような場合には、筒内を浮遊しながら次サイクル以降にまで残留する上記デポジットが存在している可能性が高く、その結果として、このような場合においても、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。このため、この場合の処理によっても、プレイグニッションが発生する予兆があると判断することができる。
【0066】
更に、上記図6、7に示すルーチンによれば、プレイグニッションの発生が懸念される低回転高負荷領域の使用時に、吸気弁34の開弁期間中における筒内ガスが発する赤色発光強度が通常燃焼時の値よりも高いと判定された場合には、今回のサイクルの吸気弁34の開弁期間中の筒内に上記のデポジットやすすといった固形物が存在していると判断することができる。そして、既述した知見によれば、吸気弁34の開弁期間中においてノックの発生によって筒内を浮遊するデポジットやすすが生じている状況下では、今回のサイクル(赤色発光を検出した吸気行程が属するサイクル)以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。このため、この場合の処理によっても、プレイグニッションが発生する予兆があると判断することができる。
【0067】
そして、上記図8に示すルーチンによれば、上述した各手法によってプレイグニッションが発生する予兆があると判断できる場合には、上記プレイグ回避制御を実行することによって、プレイグニッションの発生を未然に予防するという対策をとることが可能となる。このように、本実施形態の手法によれば、プレイグニッションの回避行動を余裕をもって行うことが可能となる。
【0068】
また、上記図7、8に示すルーチンによれば、プレイグニッションの発生の予兆を検知したうえでプレイグ回避制御が行われるようになっているので、プレイグニッションの発生が懸念される運転領域に差し掛かった際に一律にプレイグ回避制御を行うようにする場合に比べ、不必要なプレイグ回避制御の実施を抑制し、当該プレイグ回避制御を効率良く実行できるようになる。更に付け加えると、本実施形態におけるプレイグニッション発生の予兆の検出、およびその後のプレイグ回避制御は、筒内壁面に付着したデポジットの剥がれをもたらすような大きなノックを伴うプレイグニッションを回避する技術として有効なものである。
【0069】
図9は、同一運転条件下における個々のプレイグ回避制御の効果を比較した図である。
図9中に「通常」と付して示す値は、本実施形態のプレイグ回避制御が行われない場合のプレイグニッションの発生頻度を示している。図9より、バルブオーバーラップ期間(O/L期間)の拡大によるプレイグ回避制御が実行された場合には、「通常」時と比べ、プレイグニッションの発生頻度を下げられることがわかる。更に、燃料噴射幅の増大による空燃比A/Fのリッチ化によるプレイグ回避制御によれば、バルブオーバーラップ期間の拡大を利用した時に比べ、プレイグニッションの発生頻度をより下げられることがわかる。
【0070】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU50が上記ステップ200および202、208および210、並びに、214および216の処理を実行することにより前記第1の発明における「固形物判定手段」が実現されており、ECU50が上記ステップ202、210または216の判定が成立する場合に上記ステップ204、212または218の処理をそれぞれ実行することにより前記第1の発明における「異常燃焼予兆判定手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が上記ステップ208および210の処理を実行することにより前記第2の発明における「発光検出手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が上記ステップ200および202の処理を実行することにより前記第3の発明における「発光検出手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が上記ステップ214および216の処理を実行することにより前記第4の発明における「発光検出手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が上記ステップ206の処理およびそれに続く上記図8に示すルーチンの一連の処理を実行することにより前記第11の発明における「異常燃焼予防手段」が実現されている。
【0071】
実施の形態2.
次に、図10乃至図13を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施形態のシステムは、図1および図2に示すハードウェア構成を用いて、ECU50に図8に示すルーチンに代えて後述の図13に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。すなわち、本実施形態のシステムは、上述した実施の形態1のシステムに対し、プレイグニッション発生の予兆もしくは実際の発生が判定された場合に行われるプレイグ回避制御の実施態様において、以下に説明するように相違している。
【0072】
図10は、通常点火時とプレイグニッション発生時との間で、燃焼光の平均発光強度と波長との関係(発光スペクトル)を表した図である。
図10に示すように、デポジットやオイル液滴の燃え残り等の筒内を浮遊する固形物が起点となって着火してプレイグニッションが発生した場合(実線)には、そのような固形物の発光に起因して特定の波長の発光強度が通常点火時(破線)と比べて高くなる。これらは、オイルに含まれるNaやCaといった金属成分由来の発光スペクトルであり、検出感度が比較的高いものである。より具体的には、図10に示すように、580〜600nm(より好ましくは585〜595nm)の波長領域において、Na由来の発光スペクトルが見られる。これ以外にも、550〜560nmおよび610〜630nmの波長領域において、Caを由来とする発光スペクトルが見られる。
【0073】
図11は、プレイグニッションの発生時における、燃焼による熱発生率の変化と、Na由来の発光スペクトルが見られる580〜600nmの波長領域における平均発光強度との関係を表した図である。
図11(A)および図11(B)より、580〜600nmの波長領域を利用して得られたNa由来の発光スペクトルの平均発光強度は、プレイグニッションの発生時の着火による熱発生と同時期において強く見られることが分かる。
【0074】
図12は、580〜600nmの波長領域の光の平均発光強度のピーク値と、内燃機関10のサイクルの経過との関係を表した図である。尚、図12中の白丸で示す点が、連続する各サイクルにおける燃焼光の所定の検出タイミング(例えば、圧縮上死点付近)を示している。
【0075】
図12に一例として示すように、筒内を浮遊するデポジット等の存在に起因してプレイグニッションが発生すると、発生サイクルから数サイクルに渡って、Na由来の発光スペクトルの発光強度が高いサイクルが現れることが多い。従って、図11(B)に示すように圧縮上死点付近(特に圧縮上死点後10°CA付近)の上記発光スペクトルの平均発光強度が高くなるタイミングにおいて燃焼光を検出することによって、デポジット等の固形物が筒内を浮遊していることを検出することができる。そして、そのような固形物の一部が筒内に残留することで、次サイクル以降においてもプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。これにより、プレイグニッション発生の予兆を比較的早期に精度良く検出することができる。
【0076】
本実施形態では、図12に示すように、580〜600nmの波長領域の光の平均発光強度が所定の閾値(通常燃焼時の値)よりも高い状況が続いている場合には、プレイグニッション発生の予兆が継続して認められる状況にあると判断し、所定のプレイグ回避制御を実施するようにした。尚、ここでは、Na由来の発光スペクトルが見られる波長領域を例に挙げて説明しているが、判断基準とする光の波長領域は、これ以外に、上述したCa由来の発光スペクトルが見られる550〜560nmや610〜630nmとしてもよく、更には、上他の金属成分由来の発光スペクトルが見られる波長領域としてもよい。
【0077】
図13は、本発明の実施の形態2における態様でのプレイグ回避制御を実現するために、ECU50が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、本実施形態において上述した手法、もしくは実施の形態1において上述した手法によってプレイグニッション発生の予兆があると判断された場合に起動されるものとする。
【0078】
図13に示すルーチンでは、先ず、プレイグ回避制御の一例である燃料増量が実行される(ステップ400)。次いで、580〜600nmの波長領域の燃焼光が圧縮上死点付近の所定タイミングにおいて検出される(ステップ402)。
【0079】
次に、580〜600nmの波長領域の発光強度が所定の閾値(通常燃焼時の値)よりも高いか否かが判定される(ステップ404)。その結果、本ステップ404の判定が成立する場合には、プレイグニッション発生の予兆がある状況が継続していると判断され、ステップ400以降の処理が繰り返し実行されることになる。一方、本ステップ404の判定が不成立となった場合には、プレイグニッション発生の予兆が無くなったものと判断され、プレイグ回避制御が終了される。
【0080】
以上説明した図13に示すルーチンによれば、対象とする波長領域の燃料光の発光強度が閾値よりも高い場合に限ってプレイグ回避制御が行われるようにすることで、プレイグ回避制御の実行に伴う弊害(例えば、燃料増量の場合には燃費悪化)を最小限に留めることができる。
【0081】
ところで、上述した実施の形態1および2においては、筒内ガスもしくは排気ガス中の赤色発光強度を所定の強度(例えば、通常燃焼時の値)と比較することによって、筒内ガスもしくは排気ガス中に上記デポジット等の固形物が存在しているものと判定するようにしている。しかしながら、本発明の発光検出手段の検出対象となる光の波長領域は、赤色の波長領域に限られない。より具体的には、既述したように、通常燃焼時の燃焼光には青色の光が多く含まれているのに対し、上述したデポジットやすすといった固形物が筒内を浮遊している場合には、赤色光だけに限らず、黄色から赤色の波長領域の発光によって燃焼光の黄色から赤色発光強度が高くなる。従って、本発明の発光検出のうちで特に好ましい発光検出の対象は、黄色から赤色の波長領域の光である。尚、本発明の発光検出の対象となる上記の黄色の波長領域の定義には、上述した550〜560nmが含まれる。また、本発明において筒内ガスもしくは排気ガス中の固形物の存在を判定する手法は、上記の発光強度を利用する手法に限らず、例えば、筒内ガスもしくは排気ガス中の光から所定の波長域の光を抽出するようにしたうえで、そのような光が検出されたことをもって、上記デポジットやすすの赤色から黄色の波長領域の発光が検出されたとするものであってもよい。
【0082】
また、実施の形態1および2において上述した手法以外にも、検出対象の光の波長領域を黄色から赤色の波長領域に限定せずに燃焼光の強度が所定値よりも高いか否かを判定するようにし、検出された燃焼光の強度が当該所定値よりも高いと判定された場合に、排気通路を通過する上記デポジット等の固形物が存在すると判定するものであってもよい。
【0083】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU50が上記ステップ402の処理を実行することにより前記第6の発明における「発光検出手段」が実現されている。
【0084】
実施の形態3.
次に、図14乃至図16を参照して、本発明の実施の形態3およびその変形例について説明する。
【0085】
上述した実施の形態1および2並びにその変形例においては、筒内のガスや火炎、もしくは排気通路18を流れる排気ガスの黄色から赤色の波長領域の発光を検出することによって、筒内を浮遊するもしくは排気通路18を通過する(所定の大きさ以上の)固形物の存在を検出するようにしている。これに対し、以下の本実施形態では、上記の発光の検出を利用せずに排気通路18を通過する固形物の存在を検出する手法の一例について説明する。
【0086】
図14は、連続するサイクルにおけるPMセンサ52の出力波形を表した図である。
PMセンサ52は、PM等の固形物の帯電量に基づいて排気ガス中の固形物の量を判定可能なセンサである。PMセンサ52は、ここでは、排気通路18の排気マニホールド(図示省略)の集合部(すなわち、すべての気筒からの排気ガスに曝される位置)に配置されているものとする。図14に示すように、PMセンサ52からは、燃焼によるPM等の生成物の存在によって出力が常時得られている。ECU50は、連続しているPMセンサ52の出力をサイクル毎に区切って検出範囲を認識する。このようにPMセンサ52の出力が管理されている場合に、あるサイクルにおいて通常検出されるPMと比べて大きな固形物がPMセンサ52の近傍を通過すると、図14に示すように、出力が急激に上昇する(図14中においては「スパイク」と記載)。
【0087】
上記のようにPMセンサ52の出力にスパイクが現れたサイクルでは、所定の大きさ(ここでは、PMセンサ52が検出する平均的なPMの大きさ)以上の固形物(オイル液滴の燃え残り、または、筒内に蓄積したデポジット等が剥離した物など)が筒内から排出されたものと判断することができる。このようにして検出されるような、PMに比べて大きな固形物が筒内に残留した場合には、残留した固形物が次のサイクルで着火源になる可能性が高く、より具体的には、点火プラグ30よりも前に混合気に着火する現象であるプレイグニッションが発生する可能性が高くなる。
【0088】
そこで、本実施形態では、サイクル毎に判定されるPMセンサ52の出力が所定値以上である場合(上記スパイクが現れたような場合)に、所定の大きさ以上の固形物が排気通路18を通過したことを検出するようにした。そして、このような手法で上記固形物が排気通路18を通過したことを検出した場合には、固形物を検出したサイクルの次サイクル以降におけるプレイグニッション発生の予兆があると判定するようにした。また、本実施形態においても、上述した手法によってプレイグニッションが発生する予兆があると判断された場合には、所定のプレイグ回避制御が実行される。
【0089】
図15は、本発明の実施の形態3におけるプレイグニッション発生の予兆判定、および予兆が認められる場合のプレイグ回避制御を実現するために、ECU50が実行するルーチンを示すフローチャートである。
【0090】
図15に示すルーチンでは、先ず、PMセンサ52の出力が内燃機関10のサイクル毎に分離された状態で取得される(ステップ500)。次いで、PMセンサ52の出力が所定値以上か否かに基づいて、排気通路18を流れる排気ガス中に固形物が検出されたか否かが判定される(ステップ502)。本ステップ502における所定値は、図14に示すスパイクを検出可能な値として予め設定されたものである。本ステップ502の判定が不成立である場合には、ステップ500に戻される。このような一連の処理によれば、サイクル毎に上記スパイクのようなPMセンサ52の出力上昇の有無が判断されることで、サイクル毎に排気通路18を固形物が通過したか否かを判定することができる。
【0091】
一方、上記ステップ502の判定が成立した場合には、所定のプレイグ回避制御(燃料増量による空燃比のリッチ化など)が実行される(ステップ504)。
【0092】
既述した知見によれば、以上説明した図15に示すルーチンにおいてPMセンサ52を用いて排気通路18をPMよりも大きな固形物が通過したと判定された場合には、筒内を浮遊しながら次サイクル以降にまで残留する上記固形物(デポジットなど)が存在している可能性が高く、その結果として、このような場合においても、次サイクル以降においてプレイグニッションの発生確率が高いと判断することができる。このため、上記ルーチンの処理によっても、プレイグニッションが発生する予兆があると判断することができる。そして、サイクル毎のPMセンサ52の出力の判定結果に基づいて上記固形物の存在が認められる間はプレイグ回避制御が実行されるので、プレイグニッションの発生を確実に防止することができる。これにより、内燃機関10のような過給機付きエンジン、或いは高圧縮比エンジンの信頼性を良好に高めることができる。
【0093】
また、排気通路18においてPMセンサ52が配置された部位(上記集合部)には、所定の爆発順序に従って各気筒からの排気ガスが順に到来する。各気筒の排気弁36からPMセンサ52までの距離は既知であり、各気筒から排出されるガスの流速はエンジン回転数に比例する。従って、PMセンサ52に各気筒からガスが到達するタイミングに基づいて、PMセンサ52の発する出力がどの気筒から排出されたガスのものであるかを把握することが可能である。このため、PMセンサ52に各気筒からガスが到達するタイミングに基づいて、どの気筒においてプレイグニッションが発生する予兆があるのかを判別することができる。
【0094】
ところで、上述した実施の形態3においては、PMセンサ52を利用して、所定の大きさ以上の固形物が排気通路18を通過することを検出するようにしている。しかしながら、本発明において排気通路を通過する固形物の存在を検出するための手法は、上述したものに限られず、例えば、次の図16を参照して説明する構成を利用するものであってもよい。
【0095】
図16は、排気通路18を通過する所定の大きさ以上の固形物の他の検出手法を説明するための図である。
図16に示す構成は、排気通路18の半径方向断面に沿った(言い換えれば、排気通路18と直交する)シート状の光を、所定の一方向から排気通路18内に入射するLED等の発光体(図示省略)を備えている。発光体は排気通路18の壁面に設置されている。また、排気通路18の壁面には、排気通路18を間に介して発光体と対向する位置に、発光体が発した光を検出するフォトトランジスタなどの検出器(図示省略)が設置されている。
【0096】
図16に示す構成が排気通路18に備えられている場合において、排気通路18を通過する固形物がシート状の光を通過すると、図16に示すように、シート状の光の一部が固形物によって遮られるようになる。その結果、検出器によって検知される光量が減衰する。この場合の光量の減衰度合いは、通過する固形物の大きさによって変化する。従って、以上説明した構成を用いて検出器が検知する光量の減衰度合いを判定することによって、所定の大きさ以上の固形物が排気通路18を通過したことを検出することができる。
【0097】
尚、上述した実施の形態3においては、ECU50が上記ステップ500および502の処理を実行することにより前記第10の発明における「固形物判定手段」が実現されている。
【0098】
ところで、上述した実施の形態1から3においては、ノックの発生に伴って生ずる上記デポジット等の存在に起因して生ずる異常燃焼として、プレイグニッションを例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明は、上記デポジット等の固形物の存在に起因して生ずる異常燃焼であればプレイグニッションに限らず、正常な点火時期よりも後に混合気が自着火する現象(ポストイグニッション)が発生する予兆を検出し、また、当該ポストイグニッションの発生を予防する装置として有効なものである。
【符号の説明】
【0099】
10 内燃機関
12 ピストン
14 燃焼室
14a 燃焼室壁面
16 吸気通路
16a 吸気通路の下側の通路
16b 吸気通路の上側の通路
18 排気通路
20 エアクリーナ
22 エアフローメータ
24 ターボ過給機
26 スロットルバルブ
28 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 点火コイル
34 吸気弁
36 排気弁
38 吸気可変動弁機構
40 排気可変動弁機構
42 クランク軸
44 クランク角センサ
46 光検出装置
48 演算装置
50 ECU(Electronic Control Unit)
52 PMセンサ
54 カム角センサ
56 気流制御弁
58 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の筒内を浮遊するもしくは排気通路を通過する固形物が存在するか否かを判定する固形物判定手段と、
前記固形物判定手段によって筒内を浮遊するもしくは排気通路を通過する固形物が存在すると判定された場合に、異常燃焼が発生する予兆があると判定する異常燃焼予兆判定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記固形物判定手段は、筒内から排出される排気ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって排気ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、排気通路を通過する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記固形物判定手段は、前記内燃機関の膨張行程および排気行程のうちの少なくとも一部の期間において筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって筒内ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記固形物判定手段は、前記内燃機関の吸気弁の開弁期間において筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって筒内ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記固形物判定手段は、圧縮上死点付近のタイミングにおける筒内ガス中の黄色から赤色の波長領域の発光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段によって筒内ガス中に黄色から赤色の波長領域の発光が検出された場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記固形物判定手段は、燃焼光を検出する発光検出手段を含み、前記発光検出手段により検出された燃焼光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記固形物判定手段は、前記発光検出手段により検出された550〜560nmの波長の発光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記固形物判定手段は、前記発光検出手段により検出された580〜600nmの波長の発光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記固形物判定手段は、前記発光検出手段により検出された610〜630nmの波長の発光の強度が所定値よりも高い場合に、筒内を浮遊する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記固形物判定手段は、排気ガスに含まれる固形物の帯電量に応じた出力を発するセンサを含み、前記内燃機関のサイクル毎に判定される当該センサの出力が所定値以上である場合に、排気通路を通過する固形物が存在すると判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記異常燃焼予兆判定手段により異常燃焼が発生する予兆があると判定された場合に、当該判定の後に予定される所定数の燃焼における異常燃焼の発生を回避するための所定の異常燃焼回避制御を実行する異常燃焼予防手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜10の何れか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項12】
吸気通路に配置され、筒内の気流を制御するための気流制御弁を更に備え、
前記異常燃焼予防手段は、前記異常燃焼回避制御として、筒内の気流が強化されるように前記気流制御弁を制御することを特徴とする請求項11記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−83625(P2013−83625A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139045(P2012−139045)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】