説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】還元剤が選択還元触媒よりも下流側に流出するおそれを低減し、目標噴射量の算出に用いられる選択還元触媒での目標吸着割合を高く設定することができる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】還元剤を吸着可能な選択還元触媒を用いて排気ガス中の窒素酸化物を還元するための内燃機関の排気浄化装置において、選択還元触媒よりも上流側の排気通路に還元剤を供給するための還元剤供給手段と、選択還元触媒の温度を推定する触媒温度推定手段と、選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられた通路面積絞り手段と、通路面積絞り手段によって選択還元触媒が配置された領域の排気通路内の圧力を上昇させることにより選択還元触媒における還元剤の吸着可能量を増大させる制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガス中の窒素酸化物を還元するための内燃機関の排気浄化装置に関する。特に、還元剤を吸着可能な選択還元触媒を用いて排気ガス中の窒素酸化物を還元するための内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中には窒素酸化物(以下「NOX」と称する。)が含まれる場合が多い。このNOXを還元して排気ガスを浄化するための排気浄化装置として、排気通路に配置された選択還元触媒よりも上流側に液体還元剤を噴射することにより炭化水素(HC)やアンモニア等の還元剤を選択還元触媒に吸着させ、選択還元触媒に流入する排気ガス中のNOXを還元剤と反応させることで排気ガスを浄化する排気浄化装置が知られている。
【0003】
この種の排気浄化装置に用いられる選択還元触媒においては、還元剤の吸着可能量が決まっている。そのため、選択還元触媒への還元剤の供給量が吸着可能量を超えると還元剤の一部が選択還元触媒の下流側へ流出する一方、選択還元触媒における還元剤の吸着量が少なすぎると還元しきれないNOXが選択還元触媒の下流側へ流出することになる。
【0004】
この還元剤の吸着可能量は触媒温度に依存する値であり、図6(a)に示すように、触媒温度Tcatが高くなるにつれて吸着可能量Vmaxが減少するという性質がある。そのため、選択還元触媒の温度が下降する状況においては吸着可能量が増大するために還元剤の流出のおそれが極めて少ない一方、選択還元触媒の温度が急上昇する状況においては吸着可能量が急激に減少するため、吸着されていた還元剤が放出されて選択還元触媒よりも下流側に流出するおそれがある。
【0005】
そこで、還元剤供給装置では、例えばパティキュレートフィルタの再生時等、触媒温度が急上昇し吸着可能量が急激に減少するような状況においても還元剤が選択還元触媒の下流側に流出することのないように、液体還元剤の噴射量が設定されている。具体的に、液体還元剤の目標噴射量は、例えば、選択還元触媒における還元剤の実際の吸着量(以下「推定吸着量」と称する。)が現在の吸着可能量よりも少ない所定割合となるように、触媒温度や内燃機関の運転状態等に基づいて演算によって求められる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−22729号公報 (図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、選択還元触媒は、図6(b)に示すように、吸着可能量Vmaxに対する推定吸着量Vactの割合R(以下「吸着割合」と称する。)が高いほどNOXの浄化効率η(以下「触媒効率」と称する。)が高いという性質を有している。そのため、推定吸着量Vactが吸着可能量Vmaxよりも少ない吸着割合となるように目標噴射量を算出して液体還元剤の噴射制御を行う場合に、選択還元触媒の下流側への還元剤の流出を抑えるために目標吸着割合を低く設定しすぎると、選択還元触媒の浄化性能を充分に活かしきれないことになる。
【0008】
そこで、本発明の発明者は鋭意努力し、気体(排気ガス)の圧力が大きくなるにつれて還元剤の吸着可能量が増大する性質を選択還元触媒が有していることに着目し、選択還元触媒よりも下流側に通路面積絞り手段を備えることによってこのような問題を解決することができることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、還元剤が選択還元触媒よりも下流側に流出するおそれを低減し、目標噴射量の算出に用いられる選択還元触媒での目標吸着割合を高く設定することができる内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、還元剤を吸着可能な選択還元触媒を用いて排気ガス中の窒素酸化物を還元するための内燃機関の排気浄化装置において、選択還元触媒よりも上流側の排気通路に還元剤を供給するための還元剤供給手段と、選択還元触媒の温度を推定する触媒温度推定手段と、選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられた通路面積絞り手段と、通路面積絞り手段によって選択還元触媒が配置された領域の排気通路内の圧力を上昇させることにより選択還元触媒における還元剤の吸着可能量を増大させる制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0010】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置を構成するにあたり、排気浄化装置は選択還元触媒における還元剤の吸着量を推定する吸着量演算手段を備え、還元剤供給手段は、選択還元触媒における還元剤の吸着量が吸着可能量よりも少ない所定割合となるように還元剤を供給し、制御手段は、還元剤の吸着量が吸着可能量に対して所定割合を超えるときに排気通路内の圧力を上昇させることが好ましい。
【0011】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置を構成するにあたり、制御手段は、選択還元触媒の温度の上昇速度が所定の閾値を超えたときに排気通路内の圧力を上昇させることが好ましい。
【0012】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置を構成するにあたり、排気浄化装置は選択還元触媒の下流側での還元剤濃度を検出する下流側還元剤濃度演算手段を備え、制御手段は、還元剤濃度が所定値を越えたときに排気通路内の圧力を上昇させることが好ましい。
【0013】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置を構成するにあたり、制御手段は、選択還元触媒が活性化状態にあるときに排気通路内の圧力を上昇させる制御を実行可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、選択還元触媒よりも下流側の排気通路に通路面積絞り手段を備えるとともに、この通路面積絞り手段によって選択還元触媒が配置された領域の排気圧力を上昇させて選択還元触媒の吸着可能量を増大させる制御手段を備えることにより、選択還元触媒に供給される還元剤量が吸着可能量を超えて還元剤の一部が選択還元触媒の下流側に流出するおそれがある状況において、吸着可能量を増大させて還元剤の流出を抑えることができる。したがって、還元剤の目標噴射量の算出に使用する選択還元触媒での目標吸着割合を従来よりも高く設定することができ、NOXの浄化効率を高めることができる。
【0015】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置において、選択還元触媒での吸着可能量に対する還元剤の吸着割合が所定割合を超えたときに制御手段が排気圧力を上昇させることにより、選択還元触媒に供給される還元剤量が吸着可能量を超えるおそれがある状況において、吸着可能量が増大され還元剤の流出を低減することができる。
【0016】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置において、選択還元触媒の温度の上昇速度が所定の閾値を超えたときに制御手段が排気圧力を上昇させることにより、選択還元触媒での吸着可能量が急激に減少する状況において吸着可能量の減少幅を小さく抑えることができる。したがって、選択還元触媒の下流側への還元剤の流出を低減することができる。
【0017】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置において、選択還元触媒の下流側における還元剤の流出量が所定値を超えたときに制御手段が排気圧力を上昇させることにより、選択還元触媒の下流側への還元剤の流出量を一定ラインよりも低く抑えることができる。
【0018】
また、本発明の内燃機関の排気浄化装置において、選択還元触媒が活性化状態にあるときに制御手段が排気圧力を上昇させる制御を実行することにより、排気圧力を上昇させることによる吸着可能量の増大の効果が顕著に得られ、本発明の制御の実行の有効性を得やすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態にかかる排気浄化装置の構成例を示す図である。
【図2】排気圧力と還元触媒の吸着可能量との関係を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態にかかる制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】還元剤の目標噴射量の演算方法の一例を説明するための図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態にかかる制御方法を説明するためのフロー図である。
【図6】触媒温度と吸着可能量との関係、及び吸着割合と触媒効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の内燃機関の排気浄化装置に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、かかる実施形態は、本発明の一態様を示すものであって本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。なお、それぞれの図中、同じ符号を付してあるものについては同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
【0021】
[第1の実施の形態]
1.全体的構成
まず、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の排気浄化装置(以下、単に「排気浄化装置」と称する。)の全体的構成の一例について説明する。
図1は、排気通路中に配設された選択還元触媒(以下、単に「還元触媒」と称する。)13よりも上流側で液体還元剤としての尿素水溶液を噴射供給し、還元触媒13において、尿素水溶液から生成されるアンモニアを用いて排気ガス中に含まれるNOXを選択的に還元浄化する排気浄化装置10の構成例を示している。
【0022】
この排気浄化装置10は、内燃機関5に接続された排気通路の途中に設けられるものであり、排気ガス中に含まれるNOXを選択的に還元するための還元触媒13と、還元触媒13よりも上流側の排気通路内に液体還元剤を噴射供給するための還元剤供給装置40と、還元触媒13よりも下流側に備えられた通路面積絞り手段20とを主たる要素として備えている。また、排気浄化装置10は、還元剤供給装置40や通路面積絞り手段20の動作制御を行う制御装置30を備えている。
【0023】
この排気浄化装置10において、還元触媒13よりも上流側には排気温度センサ26が設けられているとともに、還元触媒13よりも下流側にはNOXセンサ15が設けられている。上流側温度センサ26の代わりに、演算によってそれぞれの領域の排気温度を推定する温度推定手段が備えられていてもよい。NOXセンサ15は、排気ガス中のNOX濃度を検出するために用いられる。
【0024】
本実施形態の排気浄化装置10は液体還元剤として尿素水溶液が用いられる排気浄化装置である。尿素水溶液は還元触媒13よりも上流側で排気ガスに混合され、尿素水溶液が加水分解することによって生成されるアンモニアが還元触媒13に吸着される。ただし、使用する液体還元剤は尿素水溶液に限られず、その他、還元触媒13にアンモニアを供給できるものであればよく、さらには、HCを還元触媒13に供給可能な未燃燃料を液体還元剤として使用することもできる。
【0025】
2.還元触媒
本実施形態の排気浄化装置10に用いられる還元触媒13は、還元剤供給装置40によって排気ガス中に噴射される尿素水溶液が加水分解を生じて生成されるアンモニアを吸着し、流入する排気ガス中のNOXを還元する触媒として構成されている。還元触媒13は、例えばゼオライト系の還元触媒が用いられる。
【0026】
この還元触媒13は、図6(a)に示すように、触媒温度Tcatに応じてアンモニアの吸着可能量Vmaxが減少する特性を有している。また、還元触媒13は、図6(b)に示すように、吸着可能量Vmaxに対する吸着割合Rが大きいほど、また、触媒温度Tcatが高いほど、触媒効率ηが高くなる特性を有している。そのため、触媒温度Tcatのわずかな変化によってアンモニアの一部が還元触媒13よりも下流側に流出することがないように考慮する一方、触媒効率ηがなるべく高くなるように目標吸着割合Rtgtが定められる。
【0027】
また、還元触媒13は、図2に示すように、還元触媒13が配置された領域の圧力、すなわち排気圧力が高いほど吸着可能量Vmaxが増大する特性を有している。この特性は、下記式(1)に示されるラングミュアー(Langmuir)の吸着等温式によって説明される。
【0028】
V=a×b×p/(1+b×p) …(1)
V:吸着量
a:比例定数
b:吸着速度定数K/脱離速度定数K’
p:排気圧力
【0029】
また、上記式(1)によれば、bの値が大きいほど、すなわち、脱離速度定数K’が小さい触媒温度Tcatの高温状態にあるときほど、吸着可能量Vmaxをより増大させることができることが理解される。
【0030】
3.還元剤供給装置
還元剤供給装置40は、還元触媒13よりも上流側において排気管11に固定された還元剤噴射弁43と、液体還元剤としての尿素水溶液が貯蔵された貯蔵タンク41と、貯蔵タンク41内の液体還元剤を還元剤噴射弁43に向けて圧送する還元剤圧送手段42とによって構成されている。還元剤圧送手段42と貯蔵タンク41とは第1の供給通路44によって接続され、還元剤圧送手段42と還元剤噴射弁43とは第2の供給通路45によって接続されている。
【0031】
還元剤圧送手段42は代表的には電動ポンプが用いられ、貯蔵タンク41内の液体還元剤を汲み上げて還元剤噴射弁43に圧送する。また、還元剤噴射弁43は、例えば、通電制御により開閉制御が行われる還元剤噴射弁が用いられる。これらの還元剤圧送手段42及び還元剤噴射弁43は制御装置30によってその動作の制御が行われる。還元剤圧送手段42によって還元剤噴射弁43に圧送される液体還元剤は、制御装置30から出力される制御信号によって還元剤噴射弁43が開かれたときに排気通路内に噴射される。
【0032】
還元剤供給装置40の構成は、上述のような還元剤噴射弁43から直接排気管11内に液体還元剤を噴射する構成以外にも、例えば、高圧エアを用いて液体還元剤を霧状にした上で排気管11内に供給するエアアシスト式の構成であってもよい。
【0033】
4.通路面積絞り手段
還元触媒13よりも下流側の排気管11に設けられた通路面積絞り手段20は、排気通路の面積を絞ることによってそれよりも上流側の排気圧力を上昇させるために用いられる。特に、還元触媒13が配置された領域の排気圧力Pgasを上昇させることが目的とされる。
【0034】
この通路面積絞り手段20は、排気通路の面積を可変とすることができる手段であればその構成は特に制限されるものではない。本実施形態の排気浄化装置10において、通路面積絞り手段20は、内燃機関5に備えられる排気バルブと同様の構成を有するバタフライ弁が用いられている。この通路面積絞り手段20は制御装置30によってその動作の制御が行われる。
【0035】
5.制御装置
図3は、本実施形態の排気浄化装置10に備えられた制御装置30の構成のうち、還元剤供給装置40及び通路面積絞り手段20の制御を行う部分を機能的なブロックで表した構成例を示している。
【0036】
この制御装置30は、触媒温度演算部31と、還元剤噴射量演算部32と、還元剤供給装置制御部33と、通路面積絞り手段制御部34とを主要な構成要素として備えている。制御装置30は公知のマイクロコンピュータによって構成され、各部は、具体的にはマイクロコンピュータ(図示せず)によるプラグラムの実行によって実現される。
【0037】
(1)触媒温度演算部
触媒温度演算部31は、排気温度センサ26のセンサ信号を読み込むとともに、このセンサ信号を用いて算出される排気ガス温度TUgasに基づき、触媒温度Tcatを推定する。具体的な算出方法は特に制限されるものではない。
【0038】
(2)還元剤噴射量演算部(推定吸着量演算部)
還元剤噴射量演算部32は、還元触媒13に供給すべきアンモニアの要求量を求め、要求量相当のアンモニアが生成されるような液体還元剤の目標噴射量Qudtgtを算出する。この目標噴射量Qudtgtの演算においては、還元触媒13における現在のアンモニアの推定吸着量Vactが得られるようになっており、還元剤噴射量演算部32は本発明における推定吸着量演算部の機能も兼ね備えている。
【0039】
図4は、本実施形態の排気浄化装置10に備えられた制御装置30の還元剤噴射量演算部32による液体還元剤の目標噴射量Qudtgtの演算処理の一例を概念的に表した図である。
この例では、まず、触媒温度演算部31で推定される触媒温度Tcatに応じて還元剤の吸着可能量Vmaxをマップ計算し、この吸着可能量Vmaxに対して目標吸着割合Rtgtを乗じて目標吸着量Vtgtを求める。ここで用いる吸着可能量Vmaxは排気通路の面積が絞られていない状態での吸着可能量Vmaxである。その後、前回の目標噴射量演算時に求められている還元触媒13における現在のアンモニアの推定吸着量Vactを目標吸着量Vtgtから減算して、目標吸着量Vtgtに対して過不足のアンモニア量ΔVを算出するとともに、過不足のアンモニア量ΔVに応じたアンモニアの流量を求める。
【0040】
これと並行して、NOXセンサや演算によって求められる現在の排気ガス中のNOXの流量等に基づいて、このNOXを100%還元できると仮定した場合のアンモニアの流量を求める。NOXの流量は例えば排気ガスの流量にNOX濃度Dnoxを乗じて求めることができる。その後、求められたアンモニアの流量に対して、還元触媒13における現在のアンモニアの推定吸着量Vactに応じた触媒効率ηを乗じて、現在流れている排気ガス中のNOXを還元するためのアンモニアの流量を求める。
【0041】
そして、それぞれ求められた二つのアンモニアの流量を加算することにより、新たに供給すべきアンモニアの要求流量を算出する。液体還元剤の目標噴射量Qudtgtは、この供給すべき要求流量のアンモニアが生成される尿素水溶液の量として算出される。また、現在のアンモニアの推定吸着量Vactは、新たに供給すべきアンモニアの要求流量から排気ガス中のNOXを還元するためのアンモニアの流量を減算した値の積分値、すなわち、過不足のアンモニア量ΔVに応じたアンモニアの流量の積分値として求められる。
【0042】
推定吸着量Vactに応じた触媒効率η(%)はマップ計算によって求めることができる。制御装置30には、触媒温度Tcatとアンモニアの吸着割合Rとに基づいて触媒効率η(%)が求められるようにデータマップmapがあらかじめ格納されている。アンモニアの吸着割合Rは、吸着可能量Vmaxに対する推定吸着量Vactの割合として求められる。ただし、触媒効率η(%)の推定方法はこのような方法に限られず、触媒温度Tcat、還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量Vact、排気ガスの流量Fgas、還元触媒13の上流側でのNOX濃度、上流NO濃度と上流NO2濃度との比率、還元触媒13の劣化度合い等を考慮して、触媒効率ηをモデル化することもできる。
【0043】
ただし、目標噴射量Qudtgtの算出方法は上述した例に限られるものではなく、種々の計算方法を採用することができる。また、推定吸着量Vactの算出方法についても上述した例に限られるものではなく、目標噴射量Qudtgtの演算とは別に求めるようにしてもよい。
【0044】
(3)還元剤供給装置制御部
還元剤供給装置制御部33は、還元剤圧送手段42の制御を行うとともに、還元剤噴射量演算部32で算出された液体還元剤の目標噴射量Qudtgtに基づいて、還元剤噴射弁43の開閉制御を行う。本実施形態の排気浄化装置10において、還元剤圧送手段42は還元剤噴射弁13に供給される液体還元剤の圧力が所定値に維持されるようにフィードバック制御される。また、本実施形態の排気浄化装置10において、還元剤噴射弁13は噴射開始時期のサイクルが決められており、目標噴射量Qudtgtに応じた還元剤噴射弁13の駆動デューティに基づいて通電制御が行われる。
【0045】
(4)通路面積絞り手段制御部
通路面積絞り手段制御部34は、還元触媒13よりも下流側に備えられている通路面積絞り手段20の制御を行う。本実施形態において、通路面積絞り手段制御部34は排気通路の面積が絞られた状態と絞られていない状態のいずれかの状態となるように通路面積絞り手段20の制御を行うように設定されている。
【0046】
本実施形態においては、還元触媒13における推定吸着量Vactが制御最大閾値Vαを超えたときに排気通路の面積を絞るように設定されている。具体的に、制御最大閾値Vαは、アンモニアの吸着割合Rの上限閾値Rmaxに相当する値として触媒温度Tcatに応じて設定されており、通路面積絞り手段制御部34は、アンモニアの推定吸着量Vactが制御最大閾値Vαを超えているか否かを監視する。この吸着割合の上限閾値Rmaxは、液体還元剤の目標噴射量Qudtgtを算出する際の目標吸着割合Rtgtよりも大きい値に設定される。
【0047】
そして、推定吸着量Vactが制御最大閾値Vαを超えている場合には、還元触媒13に供給されるアンモニアが吸着可能量Vmaxを超え、一部のアンモニアが還元触媒13よりも下流側に流出するおそれがあるため、通路面積絞り手段制御部34は通路面積絞り手段20に対して通路面積を絞るように制御信号を出力する。
【0048】
通路面積が絞られると、還元触媒13が配置された領域の排気圧力Pgasが上昇し、還元触媒13での吸着可能量Vmaxが増大する。その結果、増大した後の吸着可能量Vmax’に対する推定吸着量Vactの割合R’は増大前の吸着割合Rよりも低下するため、還元触媒13よりも下流側へのアンモニアの流出のおそれが低減される。
【0049】
また、通路面積絞り手段制御部34は、通路面積を絞った後においては、推定吸着量Vactが解除閾値Vβを下回ったか否かを監視する。具体的に、解除閾値Vβは、通路面積を絞らない状態におけるアンモニアの吸着可能量Vmaxに対する解除閾割合Roffに相当する値として触媒温度Tcatに応じて設定されている。この解除閾割合Roffは上限閾値Rmaxよりも小さい値に設定されている。また、解除閾割合Roffは、液体還元剤の目標噴射量Qudtgtの演算に用いられる目標吸着割合Rtgtよりも大きい値に設定されている。
【0050】
推定吸着量Vactが解除閾値Vβを下回った場合には、通路面積絞り手段制御部34は還元触媒13よりも下流側へのアンモニアの流出のおそれがなくなったと判断し、排気通路の面積を元に戻すように通路面積絞り手段20に対して制御信号を出力する。
【0051】
本実施形態の例では、通路面積絞り手段制御部34は触媒温度Tcatが活性化温度Tcat0以上であるときにのみ通路面積を絞るように構成されている。すなわち、通路面積を絞って排気圧力を上昇させた場合であっても吸着可能量Vmaxの増大効果が小さい状態においては排気圧力を上昇させないようになっている。したがって、吸着可能量Vmaxの増大効果が小さい場合においても排気圧力を上昇させることによる内燃機関5への負荷が抑えられるようになっている。排気圧力を上昇させる触媒温度Tcatの閾値は活性化温度に限られるものではなく、適宜設定することができる。
【0052】
なお、本実施形態の例では、通路面積絞り手段20が排気通路の面積を二段階で変えるようになっているが、さらに多くの段階で排気通路の面積を変えるように設定することもできる。ただし、場合によっては、それぞれの排気通路の面積に応じた排気圧力と吸着可能量のデータや触媒効率ηのデータ等をあらかじめ記憶させておく必要が生じる。
【0053】
6.排気浄化装置の制御方法
次に、これまで説明した本実施形態の制御装置30によって行われる排気浄化装置の制御方法の一例について、図5の制御フローに基づいて具体的に説明する。なお、以下のルーチンは液体還元剤の噴射制御の実行中において常時実行される。
【0054】
まず、スタート後のステップS1において、排気ガスの流量Fgas、排気ガス中のNOX濃度Dnox、還元触媒13の上流側での排気ガス温度TUgas、現在の推定吸着量Vactを読込む。次いで、ステップS2において、還元触媒13の上流側での排気ガス温度TUgasに基づいて触媒温度Tcatを算出するとともに、触媒温度Tcatに応じた吸着可能量Vmax、目標吸着量Vtgt、制御最大閾値Vα、解除閾値Vβを求める。
【0055】
次いで、ステップS3において、推定吸着量Vactが目標吸着量Vtgtを超えているか否かが判別される。推定吸着量Vactが目標吸着量Vtgt以内であればアンモニアが還元触媒13の下流側に流出するおそれが少ないことから、ステップS11に進み、液体還元剤の噴射制御を許可した後、ステップS12において目標噴射量Qudtgtを算出し、ステップS13で液体還元剤の噴射を実行して本ルーチンを終了する。
【0056】
一方、ステップS3において、推定吸着量Vactが目標吸着量Vtgtを超えている場合には、アンモニアが還元触媒13の下流側に流出するおそれがあることから、ステップS4で液体還元剤の噴射を禁止する。次いで、ステップS5において、現在通路面積絞り手段20によって排気通路が絞られた状態か否かが判別される。排気通路が絞られた状態でなければステップS8に進み、推定吸着量Vactが制御最大閾値Vαを超えているか否かが判別される。推定吸着量Vactが制御最大閾値Vα以下であれば本ルーチンを終了してステップS1に戻る一方、推定吸着量Vactが制御最大閾値Vαを超えている場合にはステップS9に進む。
【0057】
ステップS9では、触媒温度Tcatが活性化温度Tcat0以上であるか否かが判別される。触媒温度Tcatが活性化温度Tcat0未満であれば、通路面積を絞って排気圧力を上昇させても吸着可能量Vmaxの増大効果が小さいことから、そのまま本ルーチンを終了してステップS1に戻る。一方、触媒温度Tcatが活性化温度Tcat0以上であれば、ステップS10に進み、通路面積絞り手段20を制御して通路面積を絞った後、本ルーチンを終了してステップS1に戻る。これにより、還元触媒13が配置された領域の排気圧力Pgasが上昇し、還元触媒13における吸着可能量Vmaxが増大後の吸着可能量Vmax’となる。
【0058】
上述のステップS5において、排気通路が絞られた状態である場合には、ステップS6に進み、推定吸着量Vactが解除閾値Vβを下回っているか否かが判別される。推定吸着量Vactが解除閾値Vβ以上であれば、排気通路を絞った状態のまま本ルーチンを終了し、ステップS1に戻る。一方、推定吸着量Vactが解除閾値Vβを下回っている場合にはステップS7に進み、通路面積絞り手段20を制御して通路面積を元に戻した後、本ルーチンを終了してステップS1に戻る。これにより、還元触媒13が配置された領域の排気圧力は元の状態に戻され、還元触媒13における吸着可能量Vmaxが通常の吸着可能量Vmaxに戻される。
【0059】
このように、本実施形態の排気浄化装置10は、還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量Vactが吸着可能量Vmaxに対する上限閾割合Rmaxに相当する量を超えたときに排気圧力を上昇させて還元触媒13の吸着可能量Vmaxを増大させる制御を行う。これにより、還元触媒13よりも下流側にアンモニアが流出するおそれが低減する。したがって、通路面積を絞らない通常の状態で液体還元剤の目標噴射量Qudtgtの演算に使用する目標吸着割合Rtgtを高く設定することができ、触媒効率ηを高めることができる。
【0060】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる排気浄化装置は、通路面積絞り手段によって排気通路の面積を絞るきっかけを触媒温度Tcatの変化から判断するように設定されている点で第1の実施の形態の排気浄化装置と異なっている。以下、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0061】
すでに述べたように、還元触媒13の吸着可能量Vmaxは触媒温度Tcatが高くなるにしたがって減少する特性を有していることから、触媒温度Tcatが急激に上昇した場合には、吸着可能量Vmaxが急激に減少し、アンモニアの吸着量が飽和状態となってアンモニアが還元触媒13の下流側に流出する可能性が高くなる。そのため、本実施形態の排気浄化装置10は、触媒温度Tcatが急激に上昇し始めたときに排気圧力Pgasを上昇させて、吸着可能量Vmaxを増大させるように設定されている。
【0062】
具体的に、本実施形態において、制御装置30を構成する通路面積絞り手段制御部34は、触媒温度Tcatを継続的に読み込むとともにその変化率Xを算出し、変化率Xがあらかじめ設定された温度上昇率X0を超えたときに排気通路の面積を絞るように制御を行うようになっている。
【0063】
温度上昇率X0は任意の値に設定することができる。例えば、液体還元剤の噴射制御における目標吸着割合Rtgtが1に近いほど推定吸着量Vactが吸着可能量Vmaxに到達するまでの時間が短くなるため、設定されている目標吸着割合Rtgtが高いほど温度上昇率X0を小さい値に設定することが好ましい。また、温度上昇率X0は固定値であってもよいが、現在の吸着割合Rが小さいほど推定吸着量Vactが吸着可能量Vmaxに到達するまでの時間が長くなるため、現在の吸着割合Rに応じて、吸着割合Rが小さいほど温度上昇率X0が大きい値となるような可変値とすることもできる。
【0064】
また、通路面積絞り手段制御部34は、通路面積を絞った後においては第1の実施の形態と同様に、推定吸着量Vactが解除閾値Vβを下回ったか否かを監視し、推定吸着量Vactが解除閾値Vβを下回った場合に、排気通路の面積を元に戻すように制御信号を出力するようになっている。
【0065】
このように、本実施形態の排気浄化装置10は、吸着可能量Vmaxが急激に減少するような状態が検知されたときに排気圧力を上昇させて還元触媒13の吸着可能量Vmaxを増大させる制御を行う。これにより、還元触媒13よりも下流側にアンモニアが流出するおそれが低減する。したがって、通路面積を絞らない通常の状態で液体還元剤の目標噴射量Qudtgtの演算に使用する目標吸着割合Rtgtを高く設定することができ、触媒効率ηを高めることができる。
【0066】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態にかかる排気浄化装置は、通路面積絞り手段によって排気通路の面積を絞るきっかけを還元触媒の下流側でのNOX濃度から判断するように設定されている点でこれまでの実施の形態の排気浄化装置と異なっている。以下、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0067】
本実施形態の排気浄化装置は、還元触媒の下流側における排気ガス中のアンモニア濃度Aを検出し、そのアンモニア濃度Aが上限閾値A0を超えたときに排気圧力Pgasを上昇させて、吸着可能量Vmaxを増大させるように設定されている。
【0068】
具体的に、本実施形態の排気浄化装置は、還元触媒の下流側にアンモニア濃度を検出可能なアンモニア濃度検出センサを備えている。また、制御装置には、アンモニア濃度検出センサのセンサ信号に基づいてアンモニア濃度を求めるアンモニア濃度検出部が備えられている。このアンモニア濃度検出部は、アンモニア濃度Aを継続的に検出するとともに上限閾値A0と比較し、アンモニア濃度Aが上限閾値A0を超えたときに排気通路の面積を絞るように通路面積絞り手段制御部に対して指示を送る。上限閾値A0は、還元触媒よりも下流側でアンモニアを分解する触媒等の有無や、排気浄化基準等に応じて、任意の値に設定することができる。
【0069】
このように、本実施形態の排気浄化装置は、還元触媒よりも下流側でのアンモニア濃度が上限閾値A0を超えたときに排気圧力を上昇させて還元触媒の吸着可能量Vmaxを増大させる制御を行う。これにより、還元触媒よりも下流側に著しく多くのアンモニアが流出するおそれが低減する。したがって、通路面積を絞らない通常の状態で液体還元剤の目標噴射量Qudtgtの演算に使用する目標吸着割合Rtgtを高く設定することができ、触媒効率ηを高めることができる。
【符号の説明】
【0070】
5:内燃機関、10:排気浄化装置、11:排気管、13:還元触媒、15:NOXセンサ、20:通路面積絞り手段、26:排気温度センサ、30:制御装置、31:触媒温度演算部、32:還元剤噴射量演算部、33:還元剤供給装置制御部、34:通路面積絞り手段制御部、40:還元剤供給装置、41:貯蔵タンク、42:還元剤圧送手段、43:還元剤噴射弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤を吸着可能な選択還元触媒を用いて排気ガス中の窒素酸化物を還元するための内燃機関の排気浄化装置において、
前記選択還元触媒よりも上流側の排気通路に還元剤を供給するための還元剤供給手段と、
前記選択還元触媒の温度を推定する触媒温度推定手段と、
前記選択還元触媒よりも下流側の前記排気通路に備えられた通路面積絞り手段と、
前記通路面積絞り手段によって前記選択還元触媒が配置された領域の前記排気通路内の圧力を上昇させることにより前記選択還元触媒における前記還元剤の吸着可能量を増大させる制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記排気浄化装置は前記選択還元触媒における前記還元剤の吸着量を推定する吸着量演算手段を備え、
前記還元剤供給手段は、前記選択還元触媒における前記還元剤の吸着量が前記吸着可能量よりも少ない所定割合となるように前記還元剤を供給し、
前記制御手段は、前記還元剤の吸着量が前記吸着可能量に対して前記所定割合を超えるときに前記排気通路内の圧力を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記選択還元触媒の温度の上昇速度が所定の閾値を超えたときに前記排気通路内の圧力を上昇させることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記排気浄化装置は前記選択還元触媒の下流側での前記還元剤濃度を検出する下流側還元剤濃度演算手段を備え、
前記制御手段は、前記還元剤濃度が所定値を越えたときに前記排気通路内の圧力を上昇させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記選択還元触媒が活性化状態にあるときに前記排気通路内の圧力を上昇させる制御を実行可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−127525(P2011−127525A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287418(P2009−287418)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】