説明

内燃機関の点火制御装置

【課題】燃焼室内のガスの確実な点火を図りながら放電が点火手段に対して与える影響を出来る限り軽減することができる点火制御装置を提供する。
【解決手段】点火制御装置は、燃焼室内のガス中に放電を生じさせることによって同ガスを点火する点火手段を備える。点火制御装置が備える放電制御手段は、所定の量のエネルギが点火手段に供給されることによって放電が開始された後に初めてその放電が終了する時点である放電終了時点において、放電の両端間の電位差である放電電圧の絶対値が機関の運転パラメータに基づいて定められる閾値電圧以上である場合、放電終了時点以降において上記エネルギのうちの上記放電に供されなかったエネルギによる上記放電に続く他の放電が生じることを禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内のガスを放電によって点火する点火手段を備えた内燃機関に適用される点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上記点火手段を備えた内燃機関(いわゆる、火花点火式内燃機関)が提供されている。この種の内燃機関においては、一般に、点火手段(例えば、点火プラグ)に供給されるエネルギによって放電が生じさせられるとともに、この放電に起因する発熱などによって燃焼室内のガスが点火される。
【0003】
例えば、点火プラグを備えた内燃機関に適用される従来の点火制御装置の一つ(以下、「従来装置」とも称呼する。)は、1回の爆発行程中に、点火プラグに対して放電のためのエネルギを複数回供給する。すなわち、従来装置は、爆発行程中に意図的に複数回の放電を生じさせる。さらに、従来装置は、内燃機関の運転状態に基づき、各々の放電の間隔などを調整する。これらにより、従来装置は、燃焼室内のガスを出来る限り確実に点火するようになっている(例えば、特許文献1を参照。)。このように、従来から、燃焼室内のガスの確実な点火を図ることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−218870号公報
【発明の概要】
【0005】
従来装置は、上述したように、燃焼室内のガスを確実に点火させるべく、意図的に複数回の放電を生じさせるようになっている。ここで、従来装置は、「点火プラグに対して所定の量のエネルギが供給されることによって放電が開始されると、その放電は、そのエネルギの全ての量が消費されるまで継続する」ことを前提としている。換言すると、従来装置においては、供給されたエネルギが消費されている期間の途中に放電が終了することは想定されていない。
【0006】
上記前提は、放電の近傍の領域におけるガスの流動の程度が十分に小さければ、妥当であると考えられる。ところが、同流動の程度が大きいと(例えば、タンブルおよびスワールなどの旋回流が燃焼室内に形成されるように、ガスの流れ方向を積極的に調整する内燃機関においては)、そのガスの流動が放電に対して与える影響により、上記エネルギが消費されている期間の途中であっても放電が終了する場合があると考えられる。
【0007】
上記期間の途中に放電が終了した場合、一般に、その放電に供されなかったエネルギ(すなわち、残りのエネルギ)による「新たな放電」が生じると考えられる。さらに、この残りのエネルギが消費されている期間の途中にこの新たな放電が終了すると、上記同様、残りのエネルギによる更なる放電が生じると考えられる。このように、燃焼室内のガスの流動に起因し、点火プラグに供給されたエネルギの全ての量が消費されるまで複数回の放電が繰り返し生じる場合がある(以下、このような複数回の放電を、「意図しない多重放電」または単に「多重放電」とも称呼する。)。
【0008】
多重放電が生じる場合、点火プラグから燃焼室内のガスにエネルギ(発熱など)を放出する機会が増大するので、より確実に燃焼室内のガスが点火せしめられ得ると考えられる。しかしながら、その反面、放電が生じる回数が増大するので、放電が点火プラグに対して与える影響(例えば、放電が接する部材の疲労・劣化など)が大きくなる虞もある。そのため、過度な多重放電が生じることは望ましくない。
【0009】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、燃焼室内のガスの確実な点火を図りながら放電が点火手段に対して与える影響を出来る限り軽減することができる点火制御装置を提供することにある。
【0010】
上記課題を達成するための本発明による点火制御装置は、内燃機関の燃焼室内のガス中に放電を生じさせることによって該ガスを点火する「点火手段」を備えた内燃機関に適用される。
【0011】
上記「点火手段」は、同点火手段に供給されるエネルギを用いて放電を生じさせ得る構成を有していればよく、特に制限されない。例えば、点火手段として、放電を生じさせ得る部材(例えば、点火プラグ)、ならびに、同部材および放電に供されるエネルギを供給する部材(例えば、高電圧発生装置)の組み合わせ、などが採用され得る。以下、便宜上、放電に供されるべく点火手段に供給されるエネルギを「供給エネルギ」とも称呼する。
【0012】
上記「燃焼室内のガス」は、上記放電によって点火され得るガスであればよく、特に制限されない。例えば、燃焼室内のガスとして、空気と燃料との混合ガス(例えば、燃焼室の外部において空気と燃料とが混合されることによって生成された後に燃焼室内に導入される混合ガス、および、燃焼室の内部において空気と燃料とが混合されることによって生成される混合ガス、など)が挙げられる。
【0013】
上記構成を備えた内燃機関に適用される本発明の点火制御装置は、燃焼室内のガスが十分に点火されるか否かを考慮しながら多重放電の度合いを調整する放電制御手段を備える。以下、この放電制御手段によって行われる放電の制御について、下記1〜3の順に説明する。
【0014】
1.放電電圧とガスの点火性との関係
2.本発明における放電の制御
3.いくつかの態様
以下、説明を続ける。
【0015】
1.放電電圧とガスの点火性との関係
まず、燃焼室内のガスが放電によって点火される原理の概要について述べる。
燃焼室内のガスは、一般に電気抵抗率が大きく、実質的に絶縁体であると考えられる。ところが、周知のように、このガスには一般に自然放射線などに由来する微量な電子が含まれており、ガスに相当程度に強い電界が加えられた場合、その電界によって加速された同電子がガスを構成する分子に衝突することなどに起因してガスを構成する分子が次々に電離し、ガスの電気抵抗率が低下する現象(いわゆる、絶縁破壊)が生じる。絶縁破壊によってガスの電気抵抗率が低下すると、そのガス中に上記電界に起因する電流が生じ得る。すなわち、ガス中に「放電」が生じる。
【0016】
ガス中に放電が生じると、その放電を介してガス中にエネルギ(発熱など)が放出される。このエネルギによってガスの化学反応が開始・促進されると、放電の近傍のガス中に、火炎核が生成される。この火炎核に同エネルギが十分に供給されると、火炎核は、放電からエネルギを供給されなくても自ら周囲に伝播し得る伝播火炎にまで成長する。すなわち、ガスが「点火」される。
【0017】
このように、ガス中に放電が生じると、放電を介してガス中にエネルギが放出され、ガスが点火され得る。
以上が、放電によってガスが点火される原理の概要である。
【0018】
以下、放電の両端間の電位差を「放電電圧」とも称呼する。さらに、以下、放電を介してガス中に放出されるエネルギを「放出エネルギ」とも称呼する。加えて、以下、ガスが点火される確実さの度合いを「点火性」とも称呼する。よって、例えば、「点火性が向上される」とは、ガスが点火される確実さが高められることを表す。
【0019】
上記説明から理解されるように、放出エネルギの大きさはガスの点火性に影響を与えると考えられる。ここで、この放出エネルギは、以下の(1)〜(4)の特徴を有すると考えられる。
【0020】
(1)放出エネルギの大きさは、一般に、「放電電圧の大きさと、放電に係る電流の大きさと、の積を、放電に要する時間にて積分した値」に相当すると考えられる。
【0021】
(2)上記特徴(1)における「放電電圧の大きさ」は、「放電の経路長さ」に関連すると考えられる。すなわち、放電が継続する時間長さは一般に極めて短いので、絶縁破壊されたガスの電気抵抗率は、放電の継続中において位置および時間によらず実質的に一定であるとみなし得る。さらに、放電の経路の断面積も、放電の継続中において実質的に一定であるとみなし得る。そのため、放電の経路長さに応じ、その「経路の電気抵抗」の大きさが変化すると考えられる。一方、点火手段は一般に所定の大きさの「内部抵抗」を有しており、この内部抵抗の大きさは、放電の経路長さにかかわらず一定であると考えられる。そして、この内部抵抗と経路の電気抵抗とは直列に接続されていると考え得る。よって、供給エネルギ(別の言い方をすると、電源となる電圧)の大きさが一定であれば、経路の電気抵抗の大きさ(放電の経路長さ)に応じて同経路における電圧(すなわち、放電電圧)の大きさが変化すると考えられる。なお、同様に、放電の経路長さに応じて「放電に係る電流の大きさ」も変化し得ると考えられる。
【0022】
(3)上記特徴(2)における「放電の経路長さ」は、「絶縁破壊されたガスの流動」に関連すると考えられる。すなわち、放電は絶縁破壊されたガス中を通過するように生じるため、絶縁破壊されたガスが流動すると、その流動に合わせて放電の経路の形態も変化すると考えられる(以下、放電の経路の形態が変化することを「放電が吹き流される」とも称呼する。)。よって、放電が吹き流されると、放電の経路長さが変化すると考えられる。
【0023】
(4)上記特徴(2)における「放電の経路長さ」自体も、ガスの点火性に影響を与えると考えられる。すなわち、放電の経路長さが変化すると、放電とガスとが接触する面積の大きさ(以下、「点火面積」とも称呼する。)が変化すると考えられる。よって、放電の経路長さが変化すると、放電からガスにエネルギを伝達する効率(以下、「放出エネルギの伝達効率」とも称呼する。)が変化することに起因し、ガスの点火性が変化すると考えられる。
【0024】
上記特徴(1)〜(4)から理解されるように、放電が吹き流されると、「放出エネルギの大きさ」および「放出エネルギの伝達効率」の双方が変化し得ると考えられる。さらに、放電が吹き流されると、「放電電圧の大きさ」も変化すると考えられる。したがって、放電電圧の大きさと、放出エネルギの大きさおよび放出エネルギの伝達効率(換言すると、ガスの点火性)と、の間には、特定の相関関係があると考え得る。換言すると、放電電圧の大きさは、ガスの点火性の指標となり得ると考えられる。
【0025】
なお、放電が吹き流されること以外の他の理由によって放電電圧の大きさが変化する可能性は完全には否定されない。しかし、放電が継続する時間長さが一般に極めて短いことなどを考慮すると、他の理由が放電電圧に与える影響は、放電が吹き流されることが放電電圧に与える影響に比べて実質的に無視し得る程度に小さいと考えられる。
以上が、放電電圧とガスの点火性との関係についての説明である。
【0026】
2.本発明における放電の制御
ところで、放電が吹き流される程度が過度に大きい場合、絶縁破壊されていないガスが放電を遮断することなどに起因して、供給エネルギが消費されている期間の途中であっても放電が切断される場合がある(以下、放電が切断されることを「放電が吹き消される」とも称呼する。)。放電が吹き消されると、上述したように、多重放電が生じる場合がある。
【0027】
発明者は、放電が吹き消される際のガスの点火性について、上述した放電電圧とガスの点火性との関係も考慮しながら、種々の考察および実験などを行った。発明者によるこれら種々の考察および実験などによれば、「放電が吹き消された時点における放電電圧の大きさ」と「ガスの点火性」との間には特定の相関関係があることが確認された。具体的に述べると、放電が吹き消された時点における放電電圧の絶対値が十分に大きければ、その時点以降における多重放電を禁止しても、ガスの点火性を十分に確保できることが確認された。
【0028】
そこで、本発明の放電制御手段は、
所定の量のエネルギが前記点火手段に供給されることによって放電が開始された後に初めて前記放電が終了する時点である「放電終了時点」において、前記放電の両端間の電位差である「放電電圧の絶対値」が前記内燃機関の運転パラメータに基づいて定められる「閾値電圧以上」である場合、前記放電終了時点以降において前記エネルギのうちの前記放電に供されなかったエネルギによる前記放電に続く「他の放電」が生じることを「禁止」する、ようになっている。
【0029】
以下、本発明の放電制御手段が上述したように他の放電(すなわち、多重放電)を禁止する理由について説明する。
【0030】
放電が開始された後の所定の時点(上記放電終了時点)において放電が吹き消される場合、放電の経路長さが増大することに起因し、その時点における放電電圧の絶対値は、放電が吹き消されない場合における同絶対値よりも大きいものとなる。さらに、この場合、放電が開始されてから放電が吹き消される時点までの時間長さ(放電時間)は、放電が吹き消されない場合における同放電時間よりも短いものとなる。よって、この場合、放出エネルギの大きさは、放電が吹き消されない場合における放出エネルギよりも小さいものとなる可能性がある(なお、放出エネルギの大きさは電流値にも関連するため、放出エネルギが小さいものとならない場合もある。)。すなわち、この場合、放出エネルギの変化に起因してガスの点火性が低下する可能性がある。
【0031】
ところが、その反面、放電が吹き消される場合、放電の経路長さが増大することに起因し、放出エネルギの伝達効率が、放電が吹き消されない場合における同伝達効率よりも大きいものとなる。すなわち、この場合、放出エネルギの伝達効率の増大に起因してガスの点火性が向上される。
【0032】
ここで、放電が吹き消される時点において放電の経路長さが相当程度に増大している場合、放出エネルギの変化によって生じ得る点火性の低下分を、放出エネルギの伝達効率の増大による点火性の向上分によって補うことができると考えられる。この場合、放電が吹き消された後の多重放電を禁止しても、ガスの点火性は損なわれないと考えられる。さらに、過度な多重放電が禁止されることにより、放電が点火手段に対して与える影響を軽減することができると考えられる。
【0033】
上述したように、放電の経路長さは、放電電圧の大きさと関連する。そこで、上記放電制御手段は、放電が吹き消された時点における「放電電圧の絶対値」が「所定の閾値電圧以上」であれば、その時点以降における多重放電を禁止してもガスの点火性は損なわれないと判断するとともに、同多重放電を禁止する。
以上が、本発明の放電制御手段が上述したように他の放電を禁止する理由である。
【0034】
このように、本発明の点火制御装置は、ガスの点火性を考慮しながら放電を制御する。これにより、本発明の点火制御装置は、燃焼室内のガスの確実な点火を図りながら点火手段に対する放電の影響を出来る限り軽減することができる。
【0035】
ところで、上記「内燃機関の運転パラメータに基づいて定められる閾値電圧」は、放電終了時点における放電電圧が同閾値電圧以上であればガスが十分に確実に点火する(すなわち、ガスの点火性が確保される)と判断し得る適値に設定されればよく、特に制限されない。閾値電圧を定めるために採用され得る「内燃機関の運転パラメータ」については、後述される。
【0036】
さらに、上記放電制御手段における「所定の量のエネルギ」は、第1回目の放電が開始される際に点火手段に供給されるエネルギに限られない。例えば、第1回目の放電が吹き消された後に第2回目の放電(多重放電)が「禁止されない」場合、「所定の量のエネルギ」は、第2回目の放電のための「残りのエネルギ」を意味する。すなわち、上記放電制御手段は、任意の回数(第N回目)の放電が終了する時点における放電電圧の絶対値が上記閾値電圧以上であれば、その第N回目の放電以降の多重放電を禁止するように構成され得る。
【0037】
3.いくつかの態様
以下、本発明の点火制御装置のいくつかの態様について説明する。
【0038】
本発明の点火制御装置の一の態様において、
前記運転パラメータとして前記内燃機関の「負荷率」が採用され得る。
【0039】
上記「負荷率」は、周知のように、内燃機関の負荷状態を表す値であって、上記燃焼室に導入され得るガスの最大量(例えば、内燃機関の総排気量を燃焼室の数で除算した量)に対する上記燃焼室に実際に導入されるガスの量(実際量)の割合を表す値である。例えば、負荷率を百分率にて表すと、実際量が最大量に一致する場合における負荷率は100%であり、実際量がゼロである場合における負荷率はゼロ%である。
【0040】
上述したように、負荷率は燃焼室内のガスの量に関連する値である。上述した放電による点火の原理から理解されるように、燃焼室内のガスの量は、放電の経路の電気抵抗率などに影響を与えるとともに、放電電圧に影響を与えると考えられる。そこで、本態様においては、負荷率に基づいて閾値電圧を定める。これにより、より確実に燃焼室内のガスの点火を図りながら点火手段に対する放電の影響を軽減せしめ得る。
【0041】
さらに、本発明の点火制御装置の他の態様において、
前記放電制御手段は、
前記放電終了時点における放電電圧の絶対値が「前記閾値電圧よりも小さい」場合、前記放電終了時点以降において前記他の放電が生じることを「禁止しない」ように構成され得る。
【0042】
上述したように、放電終了時点における放電電圧が閾値電圧以上である場合、同時点以降における多重放電を禁止してもガスの点火性は損なわれないと考えられる。一方、同時点における放電電圧が閾値電圧よりも小さい場合、多重放電を禁止するとガスの点火性が損なわれる可能性があると考えられる。
【0043】
そこで、本態様においては、放電終了時点における放電電圧が閾値電圧よりも小さい場合、同時点以降における多重放電(他の放電が生じること)を禁止しない。これにより、燃焼室内のガスの点火をより確実に図ることができる。
【0044】
さらに、本発明の点火制御装置のさらに他の態様として、
前記ガスは前記燃焼室内において「旋回流」を形成するように構成され得る。
【0045】
ガスが燃焼室内において旋回流(例えば、タンブル、スワール、または、タンブルとスワールとが混合された旋回流など)を形成している場合、放電の近傍の領域においてガスが激しく流動することに起因して放電が吹き消される可能性が高いと考えられる。そこで、この場合、内燃機関に本発明の点火制御装置を適用することにより、燃焼室内のガスの確実な点火を図りながら点火手段に対する放電の影響を出来る限り軽減することができる。
【0046】
なお、上記「旋回流」を形成する方法として、例えば、ガスを燃焼室内に導入するときに旋回流を形成する方法(例えば、ガスの導入経路の形状などを調整することにより、吸気行程におけるガスの流れ方向を制御する方法)、および、ガスが燃焼室内に導入された後に旋回流を形成する方法(例えば、燃焼室内の形状などを調整することにより、圧縮行程におけるガスの流れ方向を制御する方法)、などが採用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る制御装置が適用される内燃機関の概略図である。
【図2】点火プラグに接続される放電制御装置の構成の概念を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御装置の作動の概要を示す概略フローチャートである。
【図4】放電電圧と、二次電流と、の関係を示す参考例としてのタイムチャートである。
【図5】多重放電が生じる場合における放電電圧の推移を示すタイムチャートである。
【図6】多重放電が禁止される場合における放電電圧の推移を示すタイムチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係る点火制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係る点火制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る点火制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
<装置の概要>
図1は、本発明の実施形態に係る点火制御装置(以下、「実施装置」とも称呼する。)を内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。内燃機関10は、4サイクル火花点火式多気筒(4気筒)機関である。図1は、複数の気筒のうちの一の気筒の断面のみを示している。なお、他の気筒もこの一の気筒と同様の構成を備えている。以下、便宜上、「内燃機関10」を単に「機関10」とも称呼する。
【0049】
この機関10は、シリンダブロック部20、シリンダブロック部20の上部に固定されるシリンダヘッド部30、シリンダヘッド部30に設けられる点火制御系統40、シリンダブロック部20に空気と燃料との混合気を導入するための吸気系統50、シリンダブロック部20から排出されるガス(排ガス)を機関10の外部に放出するための排気系統60、アクセルペダル71、各種のセンサ81〜88、および、電子制御装置90、を備えている。
【0050】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、および、クランクシャフト24、を有している。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランクシャフト24に伝達され、これにより同クランクシャフト24が回転するようになっている。シリンダ21の内壁面、ピストン22の上面およびシリンダヘッド部30の下面は、燃焼室25を画成している。
【0051】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフト33、燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ34、燃焼室25に連通した排気ポート35、排気ポート35を開閉する排気弁36、および、排気弁36を駆動するエキゾーストカムシャフト37を有している。インジェクタ34から噴射される燃料と吸気系統50を通過した空気とは混合され、その混合されたガス(混合気)が燃焼室25に導入される。燃焼室25に導入された混合気は、吸気ポート31およびシリンダ21の形状などに起因し、タンブル(シリンダ21の主軸線と略直交する軸線回りの旋回流)を形成するようになっている。
【0052】
点火制御系統40は、燃焼室25内のガス(混合気)中に放電を生じさせることによって同ガスを点火する点火プラグ41、および、点火プラグ41に放電のためのエネルギを供給するとともに同放電を制御する放電制御装置42、を有している。
【0053】
ここで、図2を参照しながら、点火制御系統40の構成についてより詳細に説明する。
図2は、点火プラグ41に接続される放電制御装置42の構成の概念を示す概念図である。点火プラグ41は、中心電極41a、接地電極41b、および、ターミナルナット41c、を有する。さらに、放電制御装置42は、その概念として、一次コイル42a、二次コイル42b、トランジスタ42c、電源42d、および、放電制御部42e、を有する。なお、電源42dは便宜のために放電制御装置42の内部に記載されているが、必ずしも放電制御装置42の内部に電源42dそのものが設けられる必要はなく、放電制御装置42の外部から電源42dが供給されてもよい。
【0054】
一次コイル42aと二次コイル42bとは、いわゆるトランス(変圧器)を構成している。すなわち、二次コイル42bの巻数は一次コイル42aの巻数よりも大きく(例えば、巻数比において数百倍程度)、一次コイル42a側に入力される電圧は、その巻数比に応じて変圧されて二次コイル42b側に出力される。具体的に述べると、一次コイル42a側に設けられたトランジスタ42cは、電子制御装置90からベース電極Aに与えられる指示信号に応じて、エミッタ側からコレクタ側への電流の導通・遮断を切り替えるようになっている。電子制御装置90からトランジスタ42cに同電流を導通させる指示が与えられている場合、電源42dに起因する電流(以下、「一次電流」とも称呼する。)が、一次コイル42aおよびトランジスタ42cを通過するように流れる。次いで、所定のタイミングにて電子制御装置90からトランジスタ42cに同電流を遮断する指示が与えられると、一次電流は急激に減少する。このとき、一次電流の変動に伴って一次コイル42aの鎖交磁束数が変化するとともに、同鎖交磁束数の変化に起因する相互誘導によって二次コイル42bに誘導電圧が生じる。この誘導電圧は、一次コイル42a側に入力される電圧(電源42dの電圧)と巻数比との積に相当する。すなわち、電源42dの電圧が巻数比に応じて変圧される。
【0055】
このように、電子制御装置90からの指示信号に応じ、変圧された電圧が二次コイル42b側から出力される。この電圧は、放電制御部42eを介して点火プラグ41のターミナルナット41cに加えられる。ターミナルナット41cは点火プラグ41内部にて中心電極41aと連結されている。よって、最終的に、上記変圧された電圧は、中心電極41aと接地電極41bとの間に加えられる。そして、中心電極41aと接地電極41bとの間の混合ガスに上述した絶縁破壊が生じると、それら電極間に放電が生じる。さらに、同電圧に起因する電流(以下、「二次電流」とも称呼する。)が、二次コイル42b、放電制御部42e、ターミナルナット41c、中心電極41aおよび接地電極41bを通過するように流れる。
【0056】
ここで、上述したように放電が生じたとき、中心電極41aと接地電極41bとの間に加えられている電圧(すなわち、放電の両端間の電位差)が、上述した「放電電圧」に相当する。上記説明から理解されるように、電子制御装置90からトランジスタ42cに一次電流を遮断する指示が与えられることにより、放電が開始される。そこで、以下、この指示を「放電開始指示」とも称呼する。
【0057】
なお、接地電極41b、二次コイル42b、および、電源42dは、機関10本体を介して接地されている。さらに、実施装置が適用される機関10においては、点火制御系統40は、接地電極41bの電位(ゼロ)を基準として中心電極41aの電位が「負」となるように設計されている。
【0058】
放電制御部42eは、電子制御装置90から信号受信部Bに与えられる指示信号に応じて、放電電圧の印加・遮断を切り替えるようになっている。すなわち、電子制御装置90から放電制御部42eに放電電圧を印加させる指示(以下、「放電許可指示」とも称呼する。)が与えられている場合、放電電圧が上記電極間に加えられる。すなわち、放電が許可される。一方、電子制御装置90から放電制御部42eに放電電圧を遮断する指示(以下、「放電禁止指示」とも称呼する。)が与えられる場合、上記相互誘導に起因して二次コイル42b側に生じたエネルギ(上述した「供給エネルギ」に相当する。)が消費されている期間の途中であっても放電電圧の印加が停止される。すなわち、放電が禁止される。例えば、放電制御部42eは、中心電極41aを接地させて中心電極41aと接地電極41bとの間の電位差を実質的にゼロとすることにより、放電を禁止する。
【0059】
なお、放電制御部42eの一部は、放電電圧を取得するために機関10本体を介して接地されている。すなわち、放電制御部42eは、二次コイル42bの一端の電位(この一端は、上述したように接地されている。よって、接地電極41bの電位に相当する。)と、他端の電位(ターミナルナット41cを介して接続される中心電極41aの電位に相当する。)と、の間の電位差を取得し得るようになっている。この電位差に基づき、放電電圧Vigが取得される。
【0060】
再び図1を参照すると、吸気系統50は、吸気ポート31を介してそれぞれの気筒に連通されたインテークマニホールド51、インテークマニホールド51の上流側の集合部に接続された吸気管52、吸気管52の端部に設けられたエアクリーナ53、吸気管52の開口面積(開口断面積)を変更することができるスロットル弁(吸気絞り弁)54、および、指示信号に応じてスロットル弁54を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ54a、を有している。吸気ポート31、インテークマニホールド51および吸気管52は、吸気通路を構成している。
【0061】
排気系統60は、排気ポート35を介してそれぞれの気筒に連通されたエキゾーストマニホールド61、エキゾーストマニホールド61の下流側の集合部に接続された排気管62、および、排気管62に設けられた排ガス浄化用触媒63、を有している。排気ポート35、エキゾーストマニホールド61および排気管62は、排気通路を構成している。
【0062】
機関10の外部には、機関10に加速要求および要求トルクなどを入力するためのアクセルペダル71が設けられている。アクセルペダル71は、機関10の操作者によって操作される。
【0063】
さらに、各種のセンサ81〜88について具体的に述べると、実施装置は、吸入空気量センサ81、スロットル弁開度センサ82、カムポジションセンサ83、クランクポジションセンサ84、水温センサ85、上流側酸素濃度センサ86、下流側酸素濃度センサ87、および、アクセル開度センサ88、を有している。
【0064】
吸入空気量センサ81は、吸気通路(吸気管52)に設けられている。吸入空気量センサ81は、吸気管52内を流れる空気の質量流量である吸入空気量(すなわち、機関10に吸入される空気の質量)に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、吸入空気量Gaが取得される。
【0065】
スロットル弁開度センサ82は、スロットル弁54の近傍に設けられている。スロットル弁開度センサ82は、スロットル弁54の開度に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、スロットル弁開度TAが取得される。
【0066】
カムポジションセンサ83は、インテークカムシャフト33の近傍に設けられている。カムポジションセンサ83は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(すなわち、クランクシャフト24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号に基づき、インテークカムシャフトの回転位置(カムポジション)が取得される。
【0067】
クランクポジションセンサ84は、クランクシャフト24の近傍に設けられている。クランクポジションセンサ84は、クランクシャフト24が10°回転する毎に幅の狭いパルスを有する信号を出力するとともに、クランクシャフト24が360°回転する毎に幅の広いパルスを有する信号を出力するようになっている。これら信号に基づき、クランクシャフト24の単位時間あたりの回転数(以下、単に「機関回転速度NE」とも称呼する。)が取得される。
【0068】
水温センサ85は、シリンダ21に設けられている冷却水の通路に設けられている。水温センサ85は、冷却水の温度に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、冷却水の温度が取得される。
【0069】
上流側酸素濃度センサ86および下流側酸素濃度センサ87は、触媒63の上流側および下流側の排気通路に設けられている。上流側酸素濃度センサ86および下流側酸素濃度センサ87は、触媒63に導入される排ガスおよび触媒63から排出される排ガスの酸素濃度に応じた信号を出力するようになっている。
【0070】
アクセル開度センサ88は、アクセルペダル71に設けられている。アクセル開度センサ88は、アクセルペダル71の開度に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、アクセルペダル開度Accpが取得される。
【0071】
さらに、機関10は、電子制御装置90を備えている。
電子制御装置90は、CPU91、CPU91が実行するプログラム、テーブル(マップ)および定数などをあらかじめ記憶したROM92、CPU91が必要に応じて一時的にデータを格納するRAM93、電源が投入された状態でデータを格納すると共に格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM94、ならびに、ADコンバータを含むインターフェース95を有する。CPU91、ROM92、RAM93、RAM94およびインターフェース95は、互いにバスで接続されている。
【0072】
インターフェース95は、上記各センサと接続され、CPU91にそれらセンサから出力される信号を伝えるようになっている。さらに、インターフェース95は、インジェクタ34、ならびに、点火制御系統40(トランジスタ42cのベース電極A、および、放電制御部42eの信号受信部B)などと接続され、CPU91の指示に応じてそれらに指示信号を送るようになっている。
【0073】
<装置の作動の概要>
以下、機関10に適用される実施装置の作動の概要について、図3を参照しながら説明する。図3は、実施装置の作動の概要を示す「概略フローチャート」である。
【0074】
実施装置は、点火プラグ41に生じた放電が吹き消えた場合、吹き消えが生じた時点における放電電圧(以下、「吹き消え電圧」とも称呼する。)の絶対値と、機関10の運転パラメータに基づいて定められる閾値電圧と、を比較する。そして、吹き消え電圧の絶対値が閾値電圧以上であれば、同時点以降における放電を禁止する。
【0075】
具体的に述べると、実施装置は、図3のステップ310にて、点火プラグ41の点火時期を決定する。次いで、実施装置は、ステップ320にて、その点火時期において放電が開始されるよう、放電制御装置42に放電開始指示を与える。実施装置は、このように開始された放電が継続している期間中、同放電の吹き消えが生じるか否かを監視する。
【0076】
放電の吹き消えが生じた場合、実施装置は、ステップ330にて「Yes」と判定し、ステップ340にて閾値電圧を決定するとともに、その閾値電圧と吹き消え電圧の絶対値とを比較する。そして、実施装置は、吹き消え電圧の絶対値が閾値電圧以上であれば、ステップ350にて「Yes」と判定してステップ360に進み、放電の吹き消えが生じた時点以降における放電を禁止する。
【0077】
一方、放電の吹き消えが生じても吹き消え電圧の絶対値が閾値電圧よりも小さい場合、実施装置は、ステップ350にて「No」と判定し、放電を継続する。この場合、上述したように、多重放電が生じ得る。
【0078】
なお、放電の吹き消えが生じない場合、実施装置は、ステップ330にて「No」と判定し、放電を継続する。
以上が実施装置の作動の概要である。
【0079】
<放電制御方法>
次いで、実施装置の具体的な作動についての説明を行う前に、実施装置に採用されている放電制御方法について、図4〜図6を参照しながら、場合を分けて説明する。
【0080】
1.放電の吹き消えが生じない場合
まず、参考例として、放電の吹き消えが「生じない」場合における放電電圧の推移につき、図4に示すタイムチャートを参照しながら説明する。図4は、放電が開始されてから放電が終了するまでの期間における放電電圧および二次電流の推移を示すタイムチャートである。図4においては、理解が容易になるように、実際の各値の波形が模式化されたものが示されている。
【0081】
このタイムチャートに示す例おいては、時刻t1において「放電開始指示」が放電制御装置42に与えられるとともに、同時刻t1において放電が開始される。具体的に述べると、時刻t1において、点火プラグ41の中心電極41aと接地電極41bとの間に放電制御装置42によって変圧された電圧(上述したように、放電制御装置42は、中心電極41aの電位が負となる電圧)が加えられる。そして、この電圧に起因して中心電極41aと接地電極41bとの間のガスに絶縁破壊が生じ、放電が開始される。なお、この電圧は、上述した「供給エネルギ」に相当する。
【0082】
時刻t1において放電が開始される瞬間、二次コイル42b側の回路などが有する固有の容量(浮遊容量)に蓄えられた静電エネルギが瞬時に放出される。そのため、時刻t1における放電電圧Vigの絶対値(放電電圧Vigは負の値である。)は、極めて大きな値となる。すなわち、いわゆる容量放電が生じる。この容量放電は、一般に、不連続な過渡的放電である火花放電の形態を成すと考えられる。図4においては、便宜上、時刻t1における放電電圧Vigの下端部分は省略されている。
【0083】
さらに、時刻t1の直後において、上記容量放電に続き、二次コイル42bに蓄えられた電磁エネルギが放出される。すなわち、いわゆる誘導放電が開始される。この誘導放電は、一般に、持続的放電であるアーク放電およびグロー放電などの形態を成すと考えられる。このとき、これら放電によってガスの絶縁破壊が進行されることなどにより、ガスの電気抵抗率が低下するとともに、放電電圧Vigの絶対値が低下する。そのため、誘導放電における放電電圧Vigの絶対値は、容量放電における放電電圧Vigの絶対値よりも小さい。なお、周知のように、誘導放電が継続する時間長さは、容量放電が持続する時間長さよりも遥かに長い。
【0084】
誘導放電が継続している期間中、上記供給エネルギが徐々に消費される。そして、時刻t1から所定の時間長さが経過した後の時刻t2において、同供給エネルギの全ての量が消費されて誘導放電が終了する。すなわち、放電開始指示によって開始された放電が終了する。以下、放電開始指示がなされて放電が開始される時点(時刻t1)から、供給エネルギの全ての量が消費されて放電が終了する時点(時刻t2)まで、の期間を、「放電継続期間」とも称呼する。
【0085】
なお、放電継続期間における二次電流I2は、放電が開始される時刻t1において最も大きい値となり、時間が経過とともに徐々に低下し、放電が終了する時刻t2においてゼロとなる。二次電流I2は、図示しない電流測定装置などによって取得され得る。
【0086】
上述した一連の放電によってガス中にエネルギ(発熱など)が放出され、そのエネルギによってガスが点火される。このエネルギは、上述した「放出エネルギ」に相当する。
【0087】
2.放電の吹き消えが生じることによって多重放電が生じる場合
次いで、放電の吹き消えが「生じる」場合における放電電圧の推移につき、図5に示すタイムチャートを参照しながら説明する。図5は、多重放電が生じる場合における放電電圧の推移を示すタイムチャートである。図5においても、理解が容易になるように、実際の放電電圧の波形が模式化されたものが示されている。なお、図5において、便宜上、二次電流の推移は省略されている。
【0088】
このタイムチャートに示す例においては、上記同様、時刻t1において放電が開始される。本例においては、時刻t1から所定の時間長さが経過した後の時点である時刻ta(放電継続期間中の時点)において、図5における部分図Aに示すように、中心電極41aと接地電極41bとの間に誘導放電(例えば、アーク放電AD)が生じている。
【0089】
次いで、時刻taから所定の時間長さが経過した後の時刻tbにおいて、図5における部分図Bに示すように、放電ADの近傍の領域におけるガスの流動(例えば、燃焼室25内のタンブルに起因する流動。部分図Bにおける矢印を参照。)に起因し、放電の経路の形態が変化する。すなわち、放電ADが「吹き流される」。本例においては、部分図Bに示すように、放電ADが吹き流されることによって放電の経路長さが増大している。上述したように、放電の経路長さが増大すると、放電電圧Vigの絶対値が増大する。よって、時刻tbにおける放電電圧の絶対値Vigtbは、時刻taにおける放電電圧の絶対値Vigtaよりも大きい。
【0090】
さらに、時刻tbから所定の時間長さが経過した後の時刻tcにおいて、図5における部分図Cに示すように、ガスの流動によって運ばれる絶縁破壊されていないガスが放電ADを遮断することなどに起因し、放電ADが切断される。すなわち、放電が「吹き消される」。
【0091】
放電が吹き消された時刻tcにおいて、供給エネルギの全ての量は消費されていない。そのため、上記放電に供されなかったエネルギ(すなわち、二次コイル42bに蓄えられた電磁エネルギのうちの残りのエネルギ)による「他の放電」が、時刻tcの直後において、中心電極41aおよび接地電極41bの周辺に残留する絶縁破壊されたガスを通過するように生じる。このように、一の放電が吹き消されると、その直後に他の放電が新たに開始される。この他の放電が開始されるときの放電電圧Vigの絶対値は、同放電が通過する放電の経路長さに応じた値(図5においては、便宜上、時刻taにおける放電電圧の絶対値Vigtaと同程度の値)となる。
【0092】
さらに、この他の放電が吹き流されると、上記同様、放電電圧Vigの絶対値は再び増大する。そして、時刻tcから所定の時間長さが経過した後の時刻tdにおいて、上記同様、他の放電が吹き消される。そして、時刻td以降においても、供給エネルギの全ての量が消費されるまで、新たな放電の発生と、同放電の吹き消しと、が繰り返される(図5においては、時刻teおよび時刻tfに放電の吹き消しが発生。)。その後、時刻t2において、供給エネルギの全ての量が消費されて放電が終了する。
【0093】
このように、放電が吹き消される程度にガスが流動していると、放電の発生と吹き消しとが繰り返される場合がある。すなわち、多重放電が生じる場合がある。さらに、放電の吹き消えが生じるとき、放電が吹き流されるにつれて放電電圧Vigの絶対値が増大するとともに、同絶対値は放電が吹き消されるときに最大値となる。換言すると、放電電圧Vigの絶対値が増大して最大値(極大値)となった直後に同絶対値が急減した場合、放電が吹き消されたと推測され得る。
【0094】
3.多重放電の禁止
多重放電が生じる場合、点火プラグ41からガスにエネルギを放出する機会が増大するので、より確実にガスが点火せしめられ得ると考えられる。しかし、その反面、放電が生じる回数が増大するので、放電が中心電極41aおよび接地電極41bなどに対して与える影響(例えば、疲労・劣化など)が大きくなる虞もある。そのため、過剰な多重放電が生じることは好ましくない。
【0095】
一方、多重放電を不用意に禁止すると、放電回数および放電時間が短くなることなどに起因して放出エネルギの大きさが減少し、ガスの点火性が低下する可能性がある(上述したように、放出エネルギの大きさは二次電流の大きさにも依存するため、放出エネルギが低下しない場合もある。)。他方、放電が吹き消される際に放電の経路長さが増大すると、点火面積が増大することに起因して放出エネルギの伝達効率が増大し、ガスの点火性が向上されると考えられる。
【0096】
そこで、実施装置は、放出エネルギの変化によって生じ得る点火性の低下分を放出エネルギの伝達効率の増大による点火性の向上分によって補うことができる場合、ガスの点火性を十分に確保することができると判断するとともに、多重放電を禁止する。
【0097】
以下、上述したように多重放電が「禁止される」場合における放電電圧の推移につき、図6に示すタイムチャートを参照しながら説明する。図6は、多重放電が禁止される場合における放電電圧の推移を示すタイムチャートである。図6においても、理解が容易になるように、実際の放電電圧の波形が模式化されたものが示されるとともに、二次電流の推移は省略されている。
【0098】
このタイムチャートに示す例においては、上記同様、時刻t1において放電が開始される。本例においては、時刻t1から所定の時間長さが経過した後に放電が吹き流され、時刻tcにおいて放電が吹き消されている。
【0099】
ここで、実施装置は、時刻tcにおいて放電電圧Vigの絶対値が最大値(Vigtc)となった直後に同絶対値が急減していることから、「時刻tcにおいて放電が吹き消された」と推測する。そして、時刻tcにおける放電電圧の絶対値Vigtcが閾値電圧Vigth以上である場合、放電の経路長さの増大によってガスの点火性が十分に確保されていると判断し、時刻tc以降における放電を禁止する。
【0100】
本例において、時刻tcにおける放電放電の絶対値Vigtcは閾値電圧Vigthよりも大きい。そこで、実施装置は、時刻tcにおいて、放電制御部42eに「放電禁止指示」を与える。このとき、供給エネルギの全てが時刻tcにおいて未だ消費されていなくても、放電制御装置42から点火プラグ41へのエネルギの供給が遮断される。その結果、図6に示すように、時刻tcにおいて放電が停止される(放電電圧Vigの値がゼロとなる。)。すなわち、多重放電が禁止される。
【0101】
なお、実施装置は、放電制御部42eに上記「放電禁止指示」を与えていない期間中、放電制御部42eに「放電許可指示」を与えるようになっている。例えば、時刻tcにおける放電放電の絶対値Vigtcが閾値電圧Vigthよりも小さい場合、実施装置から放電制御部42eに「放電許可指示」が与え続けられ、時刻tc以降においても放電は継続される。すなわち、多重放電は禁止されない。比較のため、多重放電が禁止されない場合における放電電圧の推移を、図6中に破線にて示す。
以上が実施装置に採用されている放電制御方法である。
【0102】
なお、本発明においては、上述した容量放電および誘導放電の双方を含める一連の放電が「放電」と称呼される場合もあり、容量放電および誘導放電のいずれか一方が「放電」と称呼される場合もある。
【0103】
<実際の作動>
以下、実施装置の実際の作動について説明する。
実施装置において、CPU91は、図7〜9にフローチャートによって示した各ルーチンを所定のタイミング毎に繰り返し実行するようになっている。以下、各ルーチンについて説明する。
【0104】
まず、CPU91は、任意の気筒のクランク角度が吸気行程前の所定のクランク角度(例えば、排気上死点前90度クランク角)θfに一致する毎に、図7にフローチャートによって示した「燃料噴射制御ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU91は、このルーチンにより、燃料噴射量の目標量Qtgtを決定するとともに、その目標量Qtgtだけの燃料をインジェクタ34によって燃焼室内に噴射させる。以下、クランク角が上記クランク角θfに一致する吸気行程前の気筒を「燃料噴射気筒」とも称呼する。
【0105】
具体的に述べると、CPU91は、所定のタイミングにて図7のステップ700から処理を開始してステップ710に進む。CPU91は、ステップ710にて、「機関回転速度NEと、アクセルペダル開度Accpと、燃料噴射量の目標量Qtgtと、の関係」をあらかじめ定めた燃料噴射量テーブルMapQtgt(NE,Accp)に、現時点における機関回転速度NEおよびアクセルペダル開度Accpを適用することにより、燃料噴射量の目標量Qtgtを決定する。
【0106】
燃料噴射量テーブルMapQtgt(NE,Accp)において、燃料噴射量の目標量Qtgtは、機関10に要求される出力、燃費およびエミッションの排出量などを考慮した適値となるように、決定される。
【0107】
次いで、CPU91は、ステップ720に進む。CPU91は、ステップ720にて、「アクセルペダル開度Accpと、機関回転速度NEと、燃料噴射時期CAinjと、の関係」をあらかじめ定めた燃料噴射時期テーブルMapCAinj(NE,Accp)に、現時点における機関回転速度NEおよびアクセルペダル開度Accpを適用することにより、燃料噴射時期CAinjを決定する。
【0108】
燃料噴射時期テーブルMapCAinj(NE,Accp)において、燃料噴射時期CAinjは、機関10のエミッションおよび出力等を考慮した適切な時期となるように、設計されている。
【0109】
次いで、CPU91は、ステップ730に進み、現時点におけるクランク角度CAと、上述した燃料噴射時期CAinjと、が一致するか否かを判定する。ここで、現時点は「クランク角度CAが燃料噴射時期CAinjに到達する前の時点」であると仮定すると、CPU91は、ステップ730にて「No」と判定する。その後、CPU91は、クランク角度CAが燃料噴射時期CAinjに到達するまで、ステップ730の処理を繰り返す。すなわち、燃料は噴射されない。
【0110】
その後、クランク角度CAが「燃料噴射時期CAinj」に到達すると、CPU91は、ステップ730にて「Yes」と判定してステップ740に進む。CPU91は、ステップ740にて、燃料噴射気筒に対応するインジェクタ34に、目標量Qtgtの燃料を噴射するように指示を与える。これにより、目標量Qtgtの燃料が噴射される。その後、CPU91は、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0111】
さらに、CPU91は、燃料噴射気筒のクランク角度が吸気行程前の所定のクランク角度(例えば、排気上死点前45度クランク角)θgに一致する毎に、図8にフローチャートによって示した「点火制御ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU91は、このルーチンにより、点火時期CAigを決定するとともに、その点火時期CAigにて点火プラグ41において放電が開始されるように点火制御系統40に指示(放電開始指示)を与える。
【0112】
具体的に述べると、CPU91は、所定のタイミングにて図8のステップ800から処理を開始してステップ810に進む。CPU91は、ステップ810にて、「吸入空気量Gaと、機関回転速度NEと、燃料噴射気筒の最大容積Vcylと、機関10の負荷率KLと、の関係」をあらかじめ定めた負荷率関数FuncKL(Ga,NE,Vcyl)に、現時点における吸入空気量Ga、機関回転速度NEおよび燃料噴射気筒の最大容積Vcylを適用することにより、負荷率KLを算出する。
【0113】
なお、負荷率KLは、上述したように、燃焼室に導入され得るガスの最大量(最大容積Vcyl)に対する燃焼室に実際に導入されるガスの量(吸入空気量Gaおよび機関回転速度NEに基づいて算出)の割合を表す値として、負荷率関数FuncKL(Ga,NE,Vcyl)によって算出される。また、負荷率KLは、空気の挙動を記述した周知の空気モデルによっても取得され得る。
【0114】
次いで、CPU91は、ステップ820に進む。CPU91は、「機関回転速度NEと、負荷率KLと、点火時期CAigと、の関係」をあらかじめ定めた点火時期テーブルMapCAig(NE,KL)に、現時点における機関回転速度NEおよび負荷率KLを適用することにより、点火時期CAigを決定する。
【0115】
点火時期テーブルMapCAig(NE,KL)において、点火時期CAigは、機関10のエミッションおよび出力等を考慮した適切な時期となるように、設計されている。
【0116】
次いで、CPU91は、ステップ830に進み、現時点におけるクランク角度CAと、上述した点火時期CAigと、が一致するか否かを判定する。ここで、現時点は「クランク角度CAが点火時期CAigに到達する前の時点」であると仮定すると、CPU91は、ステップ830にて「No」と判定する。その後、CPU91は、クランク角度CAが点火時期CAigに到達するまで、ステップ830の処理を繰り返す。すなわち、点火は行われない。
【0117】
その後、クランク角度CAが「点火時期CAig」に到達すると、CPU91は、ステップ830にて「Yes」と判定してステップ840に進む。CPU91は、ステップ840にて、点火プラグ41において放電が開始されるように点火制御系統40に指示(放電開始指示)を与える。これにより、燃料噴射気筒内のガス中に放電が生じさせられ、ガスが点火される。その後、CPU91は、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0118】
さらに、CPU91は、図8のステップ840の処理(放電開始指示)が実行された後に図9にフローチャートによって示した「多重放電禁止制御ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU91は、このルーチンにより、放電が吹き消えた場合に必要に応じて多重放電を禁止する。
【0119】
具体的に述べると、CPU91は、図8のステップ840にて放電開始指示がなされた後、図9のステップ900から処理を開始してステップ910に進む。CPU91は、ステップ910にて、現時点が「放電継続期間中の時点」であるか否かを判定する。上述したように、放電継続期間は放電が吹き消されない場合において放電が継続する期間を表す。この放電継続期間の時間長さの参照値は、あらかじめ実験などによって取得されてRAM93に格納されている。CPU91は、この参照値と、放電開始指示がなされてから現時点までの時間長さと、を比較することにより、現時点が放電継続期間中の時点であるか否かを判定する。
【0120】
現時点が放電継続期間中でない場合(例えば、現時点において、すでに放電が終了している場合)、CPU91は、ステップ910にて「No」と判定してステップ995に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。一方、現時点が放電継続期間中である場合、CPU91は、ステップ910にて「Yes」と判定してステップ920に進む。
【0121】
CPU91は、ステップ920にて、現時点および現時点の直前の時点における放電電圧Vigの推移に基づき、放電の吹き消えが生じたか否かを判定する。
【0122】
具体的に述べると、CPU91は、放電開始指示がなされると、同指示がなされた時点(時刻0)から現時点(時刻k)まで、放電電圧Vigを時刻tと関連付けながらRAM93に記録し続ける(例えば、時刻t=0,1,・・・,k−2,k−1,k,・・・に関連付けられるVig(0),Vig(1),・・・,Vig(k−2),Vig(k−1),Vig(k),・・・)。そして、CPU91は、現時点(時刻k)および現時点の直前の時点(時刻k−2,k−1)における放電電圧Vig(k−2),Vig(k−1),Vig(k)が、下記条件(a)および(b)の双方を満たすか否かを判定する。下記条件(a)および(b)において、Vdownthは放電電圧が減少するときの閾値(負の値)を表し、Vupthは放電電圧が増大するときの閾値(正の値)を表す。
【0123】
(a)Vig(k−1)−Vig(k−2)<Vdownth
(b)Vig(k)−Vig(k−1)>Vupth
【0124】
上記条件(a)および(b)において、放電電圧が減少するときの閾値Vdownthは放電電圧が急減している(放電電圧の絶対値が急増している)と判断し得る適値に設定されればよく、放電電圧が増大するときの閾値Vupthは放電電圧が急増している(放電電圧の絶対値が急減している)と判断し得る適値に設定されればよい。上記条件(a)および(b)の双方が満たされれば、時刻k−1(または、その近傍)において放電電圧が極小値(絶対値は極大値)となった直後に放電電圧が急増した(絶対値は急減した)と判断し得る。すなわち、時刻k−1(または、その近傍)において「放電の吹き消え」が生じたと判断され得る。
【0125】
現時点において上記条件(a)および(b)の少なくとも一方が満たされない場合、CPU91は、ステップ920にて「No」と判定してステップ995に進み、本ルーチンを一旦終了する。一方、現時点において上記条件(a)および(b)の双方が満たされる場合、CPU91は、ステップ920にて「Yes」と判定し、ステップ930に進む。
【0126】
CPU91は、ステップ930にて、時刻k−1における放電電圧Vig(k−1)を吹き消え電圧Vigboに格納する。
【0127】
次いで、CPU91は、ステップ940に進む。CPU91は、ステップ940にて、「負荷率KLと、閾値電圧Vigthと、の関係」をあらかじめ定めた閾値電圧テーブルMapVigth(KL)に、現時点における負荷率KLを適用することにより、閾値電圧Vigthを決定する。
【0128】
上記閾値電圧テーブルMapVigth(KL)において、閾値電圧Vigthは、吹き消え電圧Vigboの絶対値がその閾値電圧Vigth以上であれば燃料噴射気筒内のガスの点火性が十分に確保されると判断し得る適値となるように、設定される。
【0129】
次いで、CPU91は、ステップ950に進む。CPU91は、ステップ950にて、吹き消え電圧Vigboの絶対値が閾値電圧Vigth以上であるか否かを判定する。現時点において、吹き消え電圧Vigboの絶対値が閾値電圧Vigth以上である場合、CPU91は、ステップ950にて「Yes」と判定し、ステップ960に進む。
【0130】
CPU91は、ステップ960にて、現時点以降において他の放電が生じることを禁止するように点火制御系統40に指示(放電禁止指示)を与える。これにより、多重放電が禁止される。その後、CPU91は、ステップ995に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0131】
一方、現時点において、吹き消え電圧Vigboの絶対値が閾値電圧Vigthよりも小さい場合、CPU91は、ステップ950にて「No」と判定してステップ995に進み、本ルーチンを一旦終了する。すなわち、この場合、多重放電は禁止されない。
【0132】
以上に説明したように、実施装置は、所定のタイミングにて放電が開始されると、放電が開始された時点以降における放電電圧の推移を監視する。実施装置は、放電電圧の推移に基づいて「放電の吹き消えが生じた」と判断した場合、吹き消え電圧の絶対値が所定の閾値電圧Vigth以上であれば、吹き消えが生じた時点以降の時点における放電を禁止する。これにより、実施装置は、ガスの点火性を確保しながら点火プラグ41が劣化することを出来る限り抑制することができる。
【0133】
<実施形態の総括>
図1〜図9を参照しながら説明したように、本発明の実施形態に係る点火制御装置(実施装置)は、
機関10の燃焼室25内のガス(混合気)中に放電を生じさせることによって該ガスを点火する点火手段(点火プラグ41)を備えた内燃機関10に適用される。
【0134】
上記点火制御装置は、
所定の量のエネルギ(放電制御装置42の二次コイル42b側に生じたエネルギ)が前記点火手段41に供給されることによって放電が開始された後に初めて該放電が終了する時点である放電終了時点において、前記放電の両端間の電位差(点火プラグ41の中心電極41aと接地電極41bとの間の電位差)である放電電圧Vigの絶対値が前記機関10の運転パラメータ(実施装置においては、機関10の負荷率KL)に基づいて定められる閾値電圧Vigth以上である場合(図9のステップ950にて「Yes」と判定される場合)、前記放電終了時点以降において前記エネルギのうちの前記放電に供されなかったエネルギによる前記放電に続く他の放電(多重放電)が生じることを禁止する放電制御手段(図9のルーチンを参照。)を備える。
【0135】
さらに、上記点火制御装置は、前記放電終了時点における放電電圧Vigの絶対値が前記閾値電圧Vigthよりも小さい場合(図9のステップ950にて「No」と判定される場合)、前記放電終了時点以降において前記他の放電が生じることを禁止しないように構成されている。
【0136】
加えて、上記機関10において、前記ガスは前記燃焼室25内において旋回流(タンブル)を形成するように構成されている。
【0137】
<その他の態様>
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0138】
例えば、実施装置においては、閾値電圧Vigthを決定するときに機関10の負荷率KLを参照している(図9のステップ940)。しかし、閾値電圧Vigthは、負荷率KL以外の運転パラメータに基づいて決定されてもよい。例えば、同運転パラメータとして、アクセルペダル開度Accp、スロットル弁開度TA、および、それらに基づいて推定され得る機関10の負荷を表す値などが採用され得る。すなわち、同運転パラメータは、燃焼室内のガスの点火性が十分に確保されるか否かを判断し得る閾値としての閾値電圧Vigthを設定し得るパラメータであればよい。
【0139】
さらに、実施装置が適用される機関10において、燃焼室25内に導入されるガス(混合気)は旋回流(タンブル)を形成するようになっている。しかし、実施装置が適用される内燃機関は、燃焼室内に積極的に旋回流を形成する構成を備えていなくてもよい。燃焼室内のガスは、同ガスへの点火が行われる前の種々の行程を経ることによって相当程度に流動している場合があり、このガスの流動によって放電が吹き消される可能性があるためである。すなわち、本発明の点火制御装置は、燃焼室内に積極的に旋回流を形成する構成を備えていない内燃機関にも適用され得る。
【0140】
加えて、実施装置においては、点火プラグ41への放電電圧の印加・停止を制御する部分(放電制御部42e)は、放電に供されるエネルギを供給する放電制御装置42に含まれている(図2を参照。)。しかし、本発明の点火制御装置は、同部分を放電制御装置42とは異なる独立した部材として備えてもよい。すなわち、本発明の点火制御装置は多重放電を制御し得る部材を備えていればよく、同装置の内部に点火手段に放電に供されるエネルギを供給する部材を備えていなくてもよい。
【0141】
さらに、実施装置においては、放電の吹き消えの状態を放電電圧の時間的推移に基づいて確認している(図9のステップ920を参照。)。しかし、本発明の点火制御装置は、放電電圧の時間的推移以外の情報に基づいて放電の吹き消えの状態を確認してもよい。例えば、本発明の点火制御装置は、二次電流の時間的推移に基づいて同確認を行い得る。すなわち、本発明の点火制御装置は、放電の吹き消えが生じたか否かの判定、および、放電の吹き消えが生じた時点(放電終了時点)の特定、を行い得る構成を備えていればよい。
【0142】
さらに、実施装置においては、点火制御系統40は、接地電極41bの電位(ゼロ)を基準として中心電極41aの電位が「負」となるように設計されている。しかし、本発明の点火制御装置が適用される内燃機関は、中心電極の電位が「正」となるように設計されてもよい。
【0143】
さらに、実施装置においては、放電に供されるエネルギを供給する方式として、点火コイル方式が採用されている(図2を参照。)。しかし、同エネルギを供給する方式は、点火コイル方式に限られない。例えば、同エネルギを供給する方式として、周知のCDI(Capacitor Discharge Ignition)方式およびマグネト方式などが採用され得る。
【符号の説明】
【0144】
10…内燃機関、25…燃焼室、41…点火プラグ、41a…中心電極、41b…接地電極、42…放電制御装置、42e…放電制御部、90…電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内のガス中に放電を生じさせることによって該ガスを点火する点火手段を備えた内燃機関に適用される点火制御装置であって、
所定の量のエネルギが前記点火手段に供給されることによって放電が開始された後に初めて該放電が終了する時点である放電終了時点において、前記放電の両端間の電位差である放電電圧の絶対値が前記内燃機関の運転パラメータに基づいて定められる閾値電圧以上である場合、前記放電終了時点以降において前記エネルギのうちの前記放電に供されなかったエネルギによる前記放電に続く他の放電が生じることを禁止する放電制御手段、
を備えた点火制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の点火制御装置において、
前記運転パラメータとして前記内燃機関の負荷率が採用される、点火制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の点火制御装置において、
前記放電制御手段は、
前記放電終了時点における放電電圧の絶対値が前記閾値電圧よりも小さい場合、前記放電終了時点以降において前記他の放電が生じることを禁止しない、点火制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の点火制御装置において、
前記ガスは前記燃焼室内において旋回流を形成する、点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−177310(P2012−177310A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39318(P2011−39318)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】