説明

内燃機関の点火時期制御装置

【課題】ノッキングの発生を効果的に抑制できなくなることおよび機関出力が低下することを回避できる内燃機関の点火時期制御装置を提供する。
【解決手段】この装置は、点火時期指令値をフィードバック補正項と同フィードバック補正項についての学習値とにより補正する。特定運転領域以外の領域では(S101:NO)基本学習値AG[i]の学習のみを許可し、特定運転領域では(S101:YES)機関運転状態に応じて区画された各多点学習領域の多点学習値AGdp[n]の学習のみを許可する。フィードバック補正項が同一の態様で変化すると仮定した場合における基本学習値AG[i]の変化速度と多点学習値AGdp[n]の変化速度とを比較した場合において多点学習値AGdp[n]の変化速度が基本学習値AG[i]の変化速度より速くなるように、基本学習値AG[i]および多点学習値AGdp[n]が学習される(S102〜S104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火時期制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源として内燃機関が搭載された車両では、内燃機関の運転状態に応じて点火時期を制御する、いわゆる点火時期制御が実行される(例えば特許文献1参照)。
この点火時期制御では、基本的に、内燃機関の運転状態に基づいて点火時期についての制御目標値が設定される。この制御目標値は、ノッキング発生の有無に応じて更新されるフィードバック補正項によって補正される。このフィードバック補正項は、ノッキングの発生時には予め定められた遅角更新量分だけ変更されて点火時期を遅角補正し、ノッキングが発生していないときには予め定められた進角更新量分だけ変更されて点火時期を進角補正する。これによりフィードバック補正項が、ノッキング発生時において直ちに点火時期を遅角させてその発生抑制を図るとともにノッキング未発生時において点火時期を進角させて上記点火時期の遅角によって低下した機関出力を可能な限り回復させるといったように機能するようになる。また上記制御目標値は、フィードバック補正項に基づき学習される学習値によっても補正される。この学習値としては、例えばフィードバック補正項を所定の徐変度合いをもって徐変させた値が求められる。これにより学習値が、ノッキングの発生を抑えるために点火時期を定常的に補正するといったように機能するようになる。
【0003】
ところで、燃焼室内へのデポジットの付着などといった内燃機関の経時変化が生じた場合に、その影響によってノッキングが発生しやすくなることがある。上記点火時期制御では、そうした場合であっても上記学習値が点火時期を遅角側に変更する側の値に更新されるとともに同学習値によって制御目標値が補正されるために、内燃機関の経時変化によってノッキングが発生しやすくなることが抑えられるようになる。
【0004】
しかしながら、内燃機関の全運転領域のうちの特定運転領域において、同内燃機関の経時変化によるノッキング発生への影響が細かな運転領域毎に大きく異なったものとなる場合がある。この場合、仮に機関運転領域によらずに学習値として同一の値を用いて制御目標値を設定すると、機関運転状態によっては上記学習値が内燃機関の経時変化によるノッキング発生を抑制するうえで不適切な値となるおそれがある。詳しくは、学習値が点火時期を適切な時期より進角側の時期に補正する値になってノッキングの発生を効果的に抑えられなくなったり、学習値が点火時期を適切な時期より遅角側の時期に補正する値になって機関出力の低下を招いたりするおそれがある。
【0005】
こうした不具合に対処するため、特許文献2に示されるように、内燃機関の経時変化によるノッキング発生への影響のばらつきが大きい領域(上記特定運転領域)以外の運転領域に対応する第1学習値を用意することに加えて、同特定運転領域に細分化された複数の学習領域(多点学習領域)を設定してそれら多点学習領域毎に第2学習値を用意することが考えられる。この場合、現在の機関運転状態が特定運転領域にあるときには、全ての多点学習領域のうちの現在の機関運転状態が含まれる領域に対応する第2学習値がフィードバック補正項に基づき学習されるとともに同第2学習値が制御目標値の補正に用いられる。
【0006】
こうした装置によれば、内燃機関の経時変化によるノッキング発生への影響のばらつきが大きい特定運転領域以外の領域では第1学習値が、また特定運転領域では多点学習領域毎の第2学習値がそれぞれノッキング発生を抑えるうえで適切な値になる。そして、それら第1学習値や第2学習値を用いて制御目標値を補正することにより、上記不具合の発生が抑えられるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−147112号公報
【特許文献2】特開昭62−45958号公報(第6頁左上欄第13行〜右上欄第4行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上述したように細分化された多点学習領域が特定運転領域に設定される装置では個々の多点学習領域が狭くなってしまう。そのため、内燃機関の運転に際してその運転状態が個々の多点学習領域になる期間、言い換えれば個々の多点学習領域に対応する第2学習値を更新することの可能な期間が短くなることが避けられない。
【0009】
したがって上記装置では、各多点学習領域に対応する第2学習値が実情に見合う適正な値にまで変化するのに長い時間を要するばかりか、場合によっては第2学習値を適正な値に追従させることができなくなるおそれもある。
【0010】
そして、そうした場合には第2学習値が点火時期を適切な時期より進角側の時期に補正する値になってノッキングの発生を効果的に抑えられなくなったり、同第2学習値が点火時期を適切な時期より遅角側の時期に補正する値になって機関出力の低下を招いたりするといった不具合の発生を招いてしまう。
【0011】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノッキングの発生を効果的に抑制できなくなることおよび機関出力が低下することを回避できる内燃機関の点火時期制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の運転状態に基づき設定した基本値をノッキング発生の有無に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項を徐変させた値が学習される学習値とにより補正して点火時期の制御目標値を設定する点火時期制御装置であって、前記内燃機関の経時変化によるノッキング発生への影響にばらつきが生じる特定運転領域以外の領域では同領域に対応する前記学習値としての第1学習値の学習のみを許可するとともに同第1学習値によって前記基本値を補正して前記制御目標値を設定し、前記特定運転領域では機関運転状態に応じて区画されてなる複数の多点学習領域毎に用意された前記学習値としての第2学習値の学習のみを許可するとともに同第2学習値によって前記基本値を補正して前記制御目標値を設定する内燃機関の点火時期制御装置において、前記フィードバック補正項が同一の態様で変化すると仮定した場合における前記第1学習値の変化速度と前記第2学習値の変化速度とを比較した場合において前記第2学習値の変化速度が前記第1学習値の変化速度より速くなるように、前記第1学習値および前記第2学習値が学習されることをその要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、学習可能な期間が短い第2学習値についてはこれを速やかに変化させることにより、実情に見合う適正な値に好適に追従させることができるようになる。しかも、学習可能な期間として比較的長い期間が確保される第1学習値についてはこれをゆっくり変化させることによって不要な変動を抑えつつ実情に見合う適正な値に精度良く収束させることができるようになる。そのため、そうした第1学習値や第2学習値を用いて制御目標値を補正することにより、内燃機関の経時変化によるノッキングの発生を抑えるうえで適切な時期を点火時期として設定することができるようになり、同経時変化に起因してノッキングの発生を効果的に抑制できなくなることや機関出力が低下することを回避することができるようになる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、当該装置は、前記第2学習値の変化速度を前記第1学習値の変化速度より速くするために、前記第2学習値の学習時において前記フィードバック補正項を徐変させるときの徐変度合いが前記第1学習値の学習時において前記フィードバック補正項を徐変させるときの徐変度合いと比べて小さく設定されてなることをその要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、第2学習値の一回の学習における学習量を第1学習値の一回の学習における学習量より多くすることができ、これにより第2学習値の変化速度を第1学習値の変化速度より速くすることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、当該装置は、所定周期毎の学習タイミングにおいて前記第1学習値および前記第2学習値の学習を実行するものであり、前記第2学習値の変化速度を前記第1学習値の変化速度より速くするために、前記第2学習値の学習周期として前記第1学習値の学習周期より短い周期が設定されてなることをその要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、第2学習値の学習頻度を第1学習値の学習頻度より高くすることができ、これにより第2学習値の変化速度を第1学習値の変化速度より速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を具体化した一実施の形態にかかる点火時期制御装置が適用される内燃機関の概略構成を示す略図。
【図2】点火時期指令値の算出手順の概要を示す説明図。
【図3】基本学習領域および多点学習領域を示す説明図。
【図4】内燃機関の経時変化の有無による点火時期指令値の変化態様の一例を示すグラフ。
【図5】内燃機関の経時変化の有無による点火時期指令値の変化態様の一例を示すグラフ。
【図6】学習処理の具体的な実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる内燃機関の点火時期制御装置を具体化した一実施の形態について説明する。
図1に、本実施の形態にかかる点火時期制御装置が適用される内燃機関の概略構成を示す。
【0020】
図1に示すように、内燃機関10の燃焼室11には吸気通路12を通じて空気が吸入されるとともに、燃料噴射弁13から噴射された燃料が供給される。そして、そうした吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ14による点火が行われると、その混合気が燃焼してピストン15が往復移動し、内燃機関10のクランクシャフト16が回転する。燃焼後の混合気は排気として内燃機関10の燃焼室11から排気通路17に送り出される。
【0021】
本実施の形態にかかる点火時期制御装置は、内燃機関10の運転のための各種制御を実行する電子制御装置20を備えている。この電子制御装置20は、各種制御に関係する各種の演算処理を実行する中央処理装置(CPU)、その演算に必要なプログラムやデータが記憶された不揮発性メモリ(ROM)、CPUの演算結果が一時的に記憶される揮発性メモリ(RAM)、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えている。
【0022】
電子制御装置20の入力ポートには各種のセンサ類が接続されている。そうしたセンサ類としては、例えばアクセルペダル18の踏み込み量(アクセル踏み込み量AC)を検出するためのアクセルセンサ21や、吸気通路12に設けられたスロットルバルブ19の開度(スロットル開度TA)を検出するためのスロットルセンサ22、内燃機関10におけるノッキングの発生を検出するためのノックセンサ23が設けられている。その他、吸気通路12を通過する空気の量(通路空気量GA)を検出するための空気量センサ24や、クランクシャフト16の回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ25等も設けられている。
【0023】
電子制御装置20は、各種センサ類の出力信号に基づき、機関回転速度NEや機関負荷KLなどといった内燃機関10の運転状態を把握する。なお機関負荷KLは、アクセル踏み込み量AC、スロットル開度TAおよび通路空気量GAに基づいて求められる内燃機関10の吸入空気量と機関回転速度NEとに基づき算出される。電子制御装置20は、そのようにして把握した内燃機関10の運転状態に応じて、出力ポートに接続された各種の駆動回路に指令信号を出力する。このようにして、電子制御装置20によって内燃機関10の点火時期制御などといった各種制御が実行される。
【0024】
次に、内燃機関10の点火時期制御について、図2を参照しつつ説明する。
本実施の形態の点火時期制御では、内燃機関10の運転状態等から求められる制御目標値(具体的には、点火時期指令値ST)に基づいて内燃機関10の点火時期が制御され、同点火時期指令値STが小さい値であるときほど内燃機関10の点火時期が遅角側の時期に制御される。
【0025】
図2に示すように、点火時期指令値STは基本的に、内燃機関10の運転状態に基づき算出されるノック限界点火時期(BT−R)に対して、ノッキングの発生の有無に応じて増減するフィードバック補正項Fによる補正と同フィードバック補正項Fに基づき学習される基本学習値AG[i]による補正とを加えることによって算出される。
【0026】
ノック限界点火時期(BT−R)としては、ベース点火時期BT(実線L1)からノック余裕代Rを減算した値が算出される。なおベース点火時期BTは、標準的な環境条件下においてノッキングを生じさせない最も進角側の点火時期に相当する値であり、機関負荷KLおよび機関回転速度NEに基づき算出される。また、ノック余裕代Rは、実験等により予め定められた固定値である。
【0027】
このように算出されるノック限界点火時期(BT−R)は、ベース点火時期BTからノック余裕代Rだけ遅角させた値(破線L2)、言い換えれば、最もノッキングが発生しやすい環境条件下においてノッキングを生じさせない点火時期の範囲における最も進角側の点火時期を表す値となる。なお、上記環境条件としては気温、湿度、大気圧、および機関冷却水温等が挙げることができ、これらの条件に応じて内燃機関10におけるノッキングの発生しやすさが変化する。本実施の形態では、ノック限界点火時期(BT−R)が基本値として機能する。
【0028】
フィードバック補正項Fは、ノックセンサ23の出力信号に基づきノッキングが発生していると判断されたときには予め定められた遅角更新量a分だけ減量されて点火時期を遅角させる一方、ノッキングが発生していないと判断されたときには予め定められた進角更新量b分だけ増量されて点火時期を進角させるといったように機能する値である。このフィードバック補正項Fにより、ノッキング発生時においては点火時期を直ちに遅角させてその発生の抑制が図られ、ノッキングが発生していないときには点火時期を進角させて機関出力の増大が図られる。
【0029】
基本学習値AG[i]は、機関運転状態(詳しくは、機関負荷KLおよび機関回転速度NE)により区画された複数(本実施の形態では三つ)の基本学習領域i[i=1,2,3]毎に用意されている。図3は、上記基本学習領域iを示したものであり、同図に示す例では機関回転速度NEに応じて三つに区画された基本学習領域i[i=1,2,3]が設定されている。そして点火時期指令値STを算出する際には、基本学習値AG[i]として、そのときどきの機関回転速度NEに対応する基本学習領域iの値が用いられる。この基本学習値AG[i]は、フィードバック補正項Fの変化傾向に基づいて学習更新される。具体的には、上記フィードバック補正項Fを徐変させた値が、そのときどきの機関回転速度NEにより定まる基本学習領域iに対応する新たな基本学習値AG[i]として記憶される。詳しくは、直前の学習周期において更新された基本学習値AG[i]を「前回学習値」とし、1.0以上の正の数を「N1(本実施の形態では[8.0])」とすると、それら「前回学習値」、「N1」およびフィードバック補正項Fに基づいて以下の関係式(1)から基本学習値AG[i]が算出される。
【0030】

AG[i]=「前回学習値」+(F−「前回学習値」)/N1] …(1)

このようにして算出される基本学習値AG[i]により、ノッキングの発生を抑制するべく点火時期(具体的には、点火時期指令値ST)が定常的に補正される。なお上記数N1は、基本学習値AG[i]をフィードバック補正項Fまで早期に変化させることと同フィードバック補正項Fに早期に収束させることとを両立させることのできる値であり、実験やシミュレーションの結果などに基づき求められ予め設定されている。
【0031】
図2に示すように、点火時期指令値STは、ノック限界点火時期(BT−R)に対して基本学習値AG[i]による補正を加えることにより、通常はノック限界点火時期(BT−R)よりも進角側の時期に相当する値になる。この状態にあって、ノッキング発生の有無に応じてフィードバック補正項Fが増減されると、フィードバック補正項Fの増減分だけ点火時期指令値STが図中に矢印Y1または矢印Y2で示すように増減する。そして、このように増減するフィードバック補正項Fを徐変させた値が新たな基本学習値AG[i]として記憶されることによって同基本学習値AG[i]の更新が行われる。
【0032】
ところで、内燃機関10の燃焼室11内にデポジットが付着するなどといった内燃機関10の経時変化が生じた場合に、同内燃機関10においてノッキングが発生しやすくなることがあり、そうした場合には基本学習値AG[i]が減少側の値に更新されるようになる。この場合の基本学習値AG[i]の更新量は、内燃機関10の経時変化に起因して点火時期のノック限界が遅角側の時期に移行する移行量に対応した値となる。したがって、更新後の基本学習値AG[i]を用いて点火時期(直接的にはノック限界点火時期(BT−R))を補正することにより、内燃機関10の経時変化に伴ってノッキングが発生しやすくなるといった不都合の発生が抑えられる。
【0033】
ただし、内燃機関10の経時変化によるノッキング発生への影響は、同一の基本学習領域i内であっても、その領域i内における更に細かな機関運転領域毎に大きく異なったものとなる可能性がある。そして、そうした場合には、基本学習領域i毎に設定された基本学習値AG[i]のみを用いて点火時期の補正を行うと、同基本学習領域i内における機関運転状態によっては上記基本学習値AG[i]が内燃機関10の経時変化に起因するノッキングの発生を抑制するうえで不適切な値となるおそれがある。詳しくは、ノッキングの発生を抑制するうえで上記基本学習値AG[i]が大きすぎる値となってノッキング発生を効果的に抑制することができなくなったり、上記基本学習値AG[i]が小さすぎる値となって点火時期が過度に遅角側に補正されて内燃機関10の出力低下を招いたりするおそれがある。
【0034】
本実施の形態では、点火時期指令値STが、ノック限界点火時期(BT−R)、フィードバック補正項F、および合計学習値AGTに基づいて以下の関係式(2)から求められる。
【0035】

ST=(BT−R)+F+AGT …(2)

なお、関係式(2)における合計学習値AGTは、基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]とに基づいて、以下の関係式(3)から求められる値である。
【0036】

AGT=AG[i]+AGdp[n] …(3)

関係式(3)における多点学習値AGdp[n]は、内燃機関10の燃焼室11内にデポジットが付着するなどといった内燃機関10の経時変化が生じたときに、ノッキング発生に対する同経時変化の影響のばらつきに応じたかたちで点火時期(具体的には、点火時期指令値ST)を補正するための補正項である。
【0037】
本実施の形態では、基本学習領域i内の中でもノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化による影響のばらつきが大きい領域(以下、特定運転領域)に、内燃機関10の運転状態(詳しくは、機関負荷KLおよび機関回転速度NE)に応じて区画された同基本学習領域iよりも更に細かい複数の多点学習領域nが設定されている。そして、上記多点学習値AGdp[n]は、それら多点学習領域n毎に設定されている。
【0038】
この多点学習値AGdp[n]は、そのときどきの内燃機関10の運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する値がフィードバック補正項Fに基づき学習される。この多点学習値AGdp[n]の学習は、基本的には基本学習値AG[i]の更新と同様の態様で行われる。具体的には、上記フィードバック補正項Fを徐変させた値が、そのときどきの機関回転速度NEおよび機関負荷KLにより定まる多点学習領域nに対応する新たな多点学習値AGdp[n]として記憶される。詳しくは、直前の算出周期において更新された多点学習値AGdp[n]を「前回学習値」とし、1.0以上の正の数を「N2(本実施の形態では[4.0])」とすると、それら「前回学習値」、「N2」およびフィードバック補正項Fに基づいて以下の関係式(4)から多点学習値AGdp[n]が算出される。
【0039】

AGdp[n]=「前回学習値」+(F−「前回学習値」)/N2] …(4)

このように多点学習値AGdp[n]を学習することにより、ノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化による影響のばらつきが大きい特定運転領域において、そのばらつきに応じて同領域を細分化した多点学習領域n毎の多点学習値AGdp[n]をそれぞれノッキングの発生を抑制するうえで適切な値とすることができる。なお上記数N2は、多点学習値AGdp[n]をフィードバック補正項Fまで早期に変化させることと同フィードバック補正項Fに早期に収束させることとを両立させることのできる値であり、実験やシミュレーションの結果などに基づき求められ予め設定されている。
【0040】
なお本実施の形態では、そのときどきの内燃機関10の運転状態が多点学習領域n内にあるときには、その多点学習領域nの存在する基本学習領域iの基本学習値AG[i]の学習は行わず、多点学習値AGdp[n]の学習のみが行われる。すなわち、機関運転状態が多点学習領域nのいずれかに含まれる場合には多点学習値AGdp[n]のみが学習され、機関運転状態が多点学習領域n以外の領域に含まれる場合には、基本学習値AG[i]のみが学習される。
【0041】
また点火時期指令値STを求める際に、そのときどきの内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域n内のいずれかに含まれるときには、多点学習値AGdp[n]として、同運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する値が用いられる。一方、そのときどきの内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれにも含まれないときには、多点学習値AGdp[n]として「0」が設定される。すなわち、現在の機関運転状態が複数の多点学習領域nのうちのいずれにも含まれないときには、多点学習値AGdp[n]を用いることなく点火時期指令値STが算出されて、多点学習値AGdp[n]による点火時期の補正が行われない。
【0042】
このようにして点火時期指令値STを求めることにより、基本学習領域i内にあってノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化による影響のばらつきが大きい特定運転領域(多点学習領域n)では、ノック限界点火時期(BT−R)に対して基本学習値AG[i]と多点学習値AGdp[n]との双方によって補正が加えられるようになる。
【0043】
これにより、特定運転領域においても内燃機関10の経時変化等に起因する同内燃機関10での定常的なノッキングの発生を的確に抑制することができるようになる。言い換えれば、基本学習領域i内の特定運転領域において、点火時期が適正な時期より進角側に補正されてノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり点火時期が適正な時期より遅角側に補正されて内燃機関10の出力低下を招いたりするといった不具合の発生を抑えることができるようになる。
【0044】
図3に、上記多点学習領域nの設定態様を示す。
図3に示すように、複数の多点学習領域nは、複数の基本学習領域iのうちの機関回転速度NEの変化方向について最も低回転側に存在する基本学習領域i[i=1]内において、機関負荷KLの変化方向について低負荷側の領域に設定されている。これは、こうした領域において、ノッキング発生に対する内燃機関10の経時変化に起因する影響の度合いのばらつきが大きくなるためである。そして、この領域(特定運転領域)が機関回転速度NEの変化方向において4つに区画されるとともに機関負荷KLの変化方向において6つに区画されることにより、同領域には合計で24の多点学習領域n[n=1〜24]が設定されている。なお本実施の形態では、基本学習値AG[i]が第1学習値として機能し、多点学習値AGdp[n]が第2学習値として機能する。
【0045】
ここで、内燃機関10の経時変化の有無による点火時期指令値STの変化について、最も低回転側の基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域nとそれ以外の領域との違いを説明する。
【0046】
図4は、上記基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域n以外の領域において、内燃機関10の経時変化の有無による点火時期指令値STの変化態様の一例を示したものである。なお、同図における実線および二点差線は共に機関回転速度NEが一定の条件のもとでの機関負荷KLの変化に対する点火時期指令値STの推移の一例を示しており、実線は内燃機関10の経時変化なしの条件下での推移の一例を、二点差線は同経時変化ありの条件下での推移の一例をそれぞれ示している。
【0047】
図4に示すように、基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域n以外の領域では、内燃機関10の経時変化が生じてノッキングが発生しやすくなると、点火時期指令値STが実線で示す状態から二点差線で示す状態へと機関負荷KLの変化方向について一律の幅をもって遅角側に変化する。この点火時期指令値STの遅角側への変化量は、内燃機関10の経時変化の発生に起因するノッキングの発生を抑えるために上記基本学習領域iの基本学習値AG[i]が遅角側に変化した変化分に対応している。そうした基本学習値AG[i]による点火時期の補正を通じて、上記基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域n以外の領域においては、内燃機関10の経時変化によってノッキングが発生しやすくなることを抑制することが可能である。これは、上記領域内においては、ノッキングの発生に対する内燃機関10の経時変化による影響がほぼ一律となるためである。
【0048】
一方、図5は、上記基本学習領域i[i=1]内における各多点学習領域nの設定された領域(ここでは例えばn=1〜6の多点学習領域nに対応する領域)において、内燃機関10の経時変化の有無による点火時期指令値STの変化を示したものである。なお同図における実線及び破線は共に機関回転速度NE一定の条件のもとでの機関負荷KLの変化に対する点火時期指令値STの推移の一例を示しており、実線は内燃機関10の経時変化なしの条件下での推移の一例を、破線は同経時変化ありの条件下での推移の一例をそれぞれ示している。
【0049】
図5に示すように、基本学習領域i[i=1]内における多点学習領域nでは、内燃機関10の経時変化が生じてノッキングが発生しやすくなると、点火時期指令値STが実線で示される状態から破線で示される状態へと機関負荷KL毎に異なる幅をもって遅角側に変化する。この点火時期指令値STの遅角側への変化量には、上記基本学習値AG[i]の遅角側への変化分に加えて、内燃機関10の経時変化の発生に伴うノッキング発生を抑制するために各多点学習領域nの多点学習値AGdp[n]が遅角側に変化した分も含まれている。
【0050】
本実施の形態では、そうした基本学習領域i[i=1]内にあって各多点学習領域nの設定された領域において、内燃機関10の経時変化によってノッキングが発生しやすくなることを、多点学習値AGdp[n]による点火時期の補正を通じて抑制可能である。これは、ノッキングの発生に対する内燃機関10の経時変化による影響の度合いが多点学習領域n毎に大きくばらつくとしても、そのばらつきを考慮して細分化した多点学習領域n毎の多点学習値AGdp[n]がそれぞれノック発生を抑制するうえで適切な値に更新され、それら多点学習値AGdp[n]を用いて点火時期の補正が行われるためである。
【0051】
ちなみに、複数の多点学習領域nにおけるノッキングの発生に対する内燃機関10の経時変化による影響は、それら多点学習領域n(図3参照)のうちの機関回転速度NEが低い速度側に設定される領域ほど大きくなる。また、上記影響は、複数の多点学習領域nのうちの特定の機関負荷KL(例えば全ての多点学習領域nを含む機関負荷KLの幅における中央値)を含む領域において最も大きくなり、同領域から遠い領域ほど小さくなる。したがって、各多点学習値AGdp[n]は、内燃機関10の低回転側に位置する多点学習領域nに対応するものほど小さい値になるとともに、特定の機関負荷KLを含む多点学習領域nに近い領域に対応するものほど小さい値になる傾向がある。
【0052】
ここで、本実施の形態にかかる装置では、細分化された多点学習領域nが特定運転領域に設定されるために、個々の多点学習領域nが狭くなってしまう。そのため、内燃機関10の運転に際してその運転状態が個々の多点学習領域nになる期間、言い換えれば個々の多点学習領域nに対応する多点学習値AGdp[n]を更新することの可能な期間が短くなることが避けられない。したがって、各多点学習領域nの多点学習値AGdp[n]が実情に見合う適正な値にまで変化するのに長い時間を要するようになるばかりか、場合によっては多点学習値AGdp[n]を適正な値に追従させることができなくなるおそれもある。そして、そうした場合には多点学習値AGdp[n]が点火時期を適切な時期より進角側の時期に補正する値になってノッキングの発生を効果的に抑えられなくなったり、同多点学習値AGdp[n]が点火時期を適切な時期より遅角側の時期に補正する値になって機関出力の低下を招いたりするといった不具合の発生を招いてしまう。
【0053】
この点をふまえて本実施の形態では、フィードバック補正項Fが同一の態様で変化すると仮定した場合における基本学習値AG[i]の変化速度と多点学習値AGdp[n]の変化速度とを比較した場合において多点学習値AGdp[n]の変化速度が基本学習値AG[i]の変化速度より速くなるように、それら基本学習値AG[i]および多点学習値AGdp[n]の学習を実行するようにしている。
【0054】
これにより、学習可能な期間が短い各多点学習値AGdp[n]についてはこれが速やかに変化するようになり、同多点学習値AGdp[n]を比較的短い期間で実情に見合う適正な値に好適に追従させることができるようになる。しかも、学習可能な期間として比較的長い期間が確保される基本学習値AG[i]についてはこれがゆっくりと変化するようになり、同基本学習値AG[i]を不要な変動を抑えつつ実情に見合う適正な値に精度良く収束させることができるようになる。
【0055】
そのため、そうした基本学習値AG[i]や多点学習値AGdp[n]を用いて点火時期指令値STを補正することにより、内燃機関10の経時変化によるノッキングの発生を抑えるうえで適切な時期が点火時期として設定されるようになる。これにより、内燃機関10の経時変化に起因してノッキングの発生を効果的に抑制できなくなることや機関出力が低下することが回避されるようになる。
【0056】
以下、そのようにして多点学習値AGdp[n]および基本学習値AG[i]を学習する処理(学習処理)について図6に示すフローチャートを参照して説明する。なお、このフローチャートに示す一連の処理は、上記学習処理の具体的な実行手順を示す処理であり、所定周期T1毎の割り込み処理として電子制御装置20により実行される。
【0057】
図6に示すように、この処理では先ず、内燃機関10の運転状態が特定運転領域(具体的には、多点学習領域nのいずれか)に含まれるか否かが判断される(ステップS101)。
【0058】
内燃機関10の運転状態が特定運転領域に含まれる場合には(ステップS101:YES)、多点学習値AGdp[n]の学習タイミングであるか否かが判断される(ステップS102)。ここでは、予め定められた所定周期T2毎のタイミングであることをもって学習タイミングであると判断される。なお、この所定周期T2は多点学習値AGdp[n]をフィードバック補正項Fまで早期に変化させることと同フィードバック補正項Fに早期に収束させることとを両立させることのできる値(本実施の形態では、262ミリ秒)であり、実験やシミュレーションの結果などに基づき求められ予め設定されている。
【0059】
そして、多点学習値AGdp[n]の学習タイミングであるときには(ステップS102:YES)、前記関係式(4)を通じた多点学習値AGdp[n]の学習が実行される(ステップS103)。学習タイミングではないときには(ステップS102:NO)、多点学習値AGdp[n]の学習が実行されない(ステップS103の処理がジャンプされる)。このように本処理では、内燃機関10の運転状態が特定運転領域に含まれる場合、所定周期T2毎の学習タイミングであると判断される度に多点学習値AGdp[n]の学習が実行される。
【0060】
一方、内燃機関10の運転状態が特定運転領域以外の領域に含まれる場合には(ステップS101:NO)、基本学習値AG[i]の学習タイミングであるか否かが判断される(ステップS104)。ここでは、予め定められた所定周期T3毎のタイミングであることをもって学習タイミングであると判断される。なお本実施の形態では、学習処理の実行周期T1と多点学習値AGdp[n]の学習周期(所定周期T2)と基本学習値AG[i]の学習周期(所定周期T3)との関係が「T1<T2<T3」との関係式を満たすようにそれぞれ設定されている。また、所定周期T3は基本学習値AG[i]をフィードバック補正項Fまで早期に変化させることと同フィードバック補正項Fに早期に収束させることとを両立させることのできる値(本実施の形態では、512ミリ秒)であり、実験やシミュレーションの結果などに基づき求められ予め設定されている。
【0061】
そして、基本学習値AG[i]の学習タイミングであるときには(ステップS104:YES)前記関係式(1)を通じた基本学習値AG[i]の学習が実行され(ステップS105)、学習タイミングではないときには(ステップS104:NO)基本学習値AG[i]の学習が実行されない(ステップS105の処理がジャンプされる)。このように本処理では、内燃機関10の運転状態が特定運転領域以外の領域に含まれる場合、所定周期T3毎の学習タイミングであると判断される度に基本学習値AG[i]の学習が実行される。
【0062】
以下、上記学習処理を実行することによる作用について説明する。
基本学習値AG[i]の算出に用いる関係式(1)の数N2や多点学習値AGdp[n]の算出に用いる関係式(4)の数N1は、関係式(1)や関係式(4)から明らかなように、それら関係式においてフィードバック補正項Fの徐変度合いを定める値として機能する。具体的には、上記数「N1」(あるいは数「N2」)として大きい値を設定するほど、徐変度合いが大きくなって一回の学習における基本学習値AG[i](あるいは多点学習値AGdp[n])変化量が少なくなり、同基本学習値AG[i](あるいは多点学習値AGdp[n])の変化速度が遅くなる。
【0063】
本実施の形態にかかる学習処理では、そうした基本学習値AG[i]の算出に用いる関係式(1)の数N2として、多点学習値AGdp[n]の算出に用いる関係式(4)における数N1より大きい値が設定されている。そのため、多点学習値AGdp[n]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いが基本学習値AG[i]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いと比べて小さい。これにより、フィードバック補正項Fが同一の態様で変化すると仮定した場合における多点学習値AGdp[n]の一回の学習における学習量が基本学習値AG[i]の一回の学習における学習量より多くなっており、多点学習値AGdp[n]の変化速度が基本学習値AG[i]の変化速度より速くなっている。
【0064】
また、これも関係式(1)や関係式(4)から明らかなように、一定の徐変度合いで基本学習値AG[i]や多点学習値AGdp[n]を学習する場合には学習頻度を高くするほど、言い換えれば学習周期を短くするほど、それら基本学習値AG[i]や多点学習値AGdp[n]の変化速度は速くなる。
【0065】
この点をふまえて本実施の形態にかかる学習処理では、多点学習値AGdp[n]の学習周期(所定周期T2)として基本学習値AG[i]の学習周期(所定周期T3)より短い周期が設定されており、これにより多点学習値AGdp[n]の学習頻度が基本学習値AG[i]の学習頻度より高くなっている。本実施の形態では、そのように各学習周期を設定することによっても、多点学習値AGdp[n]の変化速度が基本学習値AG[i]の変化速度より速くなっている。
【0066】
このように本実施の形態では、フィードバック補正項Fが同一の態様で変化すると仮定した場合における基本学習値AG[i]の変化速度と多点学習値AGdp[n]の変化速度とを比較した場合において多点学習値AGdp[n]の変化速度が基本学習値AG[i]の変化速度より速くなるように、それら基本学習値AG[i]および多点学習値AGdp[n]の学習が実行される。これにより、前述したように内燃機関10の経時変化によるノッキングの発生を抑えるうえで適切な時期を点火時期として設定することができるようになり、内燃機関10の経時変化に起因してノッキングの発生を効果的に抑制できなくなることや機関出力が低下することを回避できるようになる。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)内燃機関10の経時変化に起因してノッキングの発生を効果的に抑制できなくなることや機関出力が低下することを回避できるようになる。
【0068】
(2)多点学習値AGdp[n]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いを、基本学習値AG[i]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いと比べて小さく設定するようにした。そのため、多点学習値AGdp[n]の一回の学習における学習量を基本学習値AG[i]の一回の学習における学習量より多くすることができ、これにより多点学習値AGdp[n]の変化速度を基本学習値AG[i]の変化速度より速くすることができる。
【0069】
(3)多点学習値AGdp[n]の学習周期として基本学習値AG[i]の学習周期より短い周期を設定したために、多点学習値AGdp[n]の学習頻度を基本学習値AG[i]の学習頻度より高くすることができ、これにより多点学習値AGdp[n]の変化速度を基本学習値AG[i]の変化速度より速くすることができる。
【0070】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・基本学習領域iの区画数は任意に変更することができる。
・多点学習領域nの区画数や区画態様は任意に変更可能である。
【0071】
・基本学習値AG[i]の算出に用いる関係式(1)の数N2や多点学習値AGdp[n]の算出に用いる関係式(4)の数N1は適宜変更することができる。要は、多点学習値AGdp[n]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いを、基本学習値AG[i]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いと比べて小さく設定することができればよい。
【0072】
・多点学習値AGdp[n]の学習周期として基本学習値AG[i]の学習周期より短い周期が設定されるのであれば、多点学習値AGdp[n]の学習周期や基本学習値AG[i]の学習周期は任意に変更することができる。
【0073】
・以下の「構成イ」および「構成ロ」のいずれか一方のみを採用してもよい。
「構成イ」多点学習値AGdp[n]の学習周期と基本学習値AG[i]の学習周期とを等しい長さの周期に設定する。
「構成ロ」多点学習値AGdp[n]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いと基本学習値AG[i]の学習時においてフィードバック補正項Fを徐変させるときの徐変度合いとを同一の度合いに設定する。
【0074】
・多点学習値AGdp[n]や基本学習値AG[i]としてフィードバック補正項Fを徐変させた値を学習することができるのであれば、関係式(1)や関係式(4)は任意に変更することができる。具体的には、今回学習値(基本学習値AG[i]あるいは多点学習値AGdp[n])を算出する関係式として、直前の学習周期において学習された学習値を「前回学習値」とし、1.0以上の正の数を「N3」とした場合における関係式[今回学習値={「前回学習値」×(N3−1)+「フィードバック補正項F」}/N3]を採用することができる。この関係式では上記数「N3」の設定を通じて今回学習値の徐変度合いを調整することができる。また、直近の一定期間において算出された学習値の平均値を今回学習値として算出する関係式を採用することなども可能である。この関係式では、平均値の算出に用いる学習値の数の設定を通じて今回学習値の徐変度合いを調整することができる。
【符号の説明】
【0075】
10…内燃機関、11…燃焼室、12…吸気通路、13…燃料噴射弁、14…点火プラグ、15…ピストン、16…クランクシャフト、17…排気通路、18…アクセルペダル、19…スロットルバルブ、20…電子制御装置、21…アクセルセンサ、22…スロットルセンサ、23…ノックセンサ、24…空気量センサ、25…クランクセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転状態に基づき設定した基本値をノッキング発生の有無に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項を徐変させた値が学習される学習値とにより補正して点火時期の制御目標値を設定する点火時期制御装置であって、前記内燃機関の経時変化によるノッキング発生への影響にばらつきが生じる特定運転領域以外の領域では同領域に対応する前記学習値としての第1学習値の学習のみを許可するとともに同第1学習値によって前記基本値を補正して前記制御目標値を設定し、前記特定運転領域では機関運転状態に応じて区画されてなる複数の多点学習領域毎に用意された前記学習値としての第2学習値の学習のみを許可するとともに同第2学習値によって前記基本値を補正して前記制御目標値を設定する内燃機関の点火時期制御装置において、
前記フィードバック補正項が同一の態様で変化すると仮定した場合における前記第1学習値の変化速度と前記第2学習値の変化速度とを比較した場合において前記第2学習値の変化速度が前記第1学習値の変化速度より速くなるように、前記第1学習値および前記第2学習値が学習される
ことを特徴とする内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、
当該装置は、前記第2学習値の変化速度を前記第1学習値の変化速度より速くするために、前記第2学習値の学習時において前記フィードバック補正項を徐変させるときの徐変度合いが前記第1学習値の学習時において前記フィードバック補正項を徐変させるときの徐変度合いと比べて小さく設定されてなる
ことを特徴とする内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、
当該装置は、所定周期毎の学習タイミングにおいて前記第1学習値および前記第2学習値の学習を実行するものであり、前記第2学習値の変化速度を前記第1学習値の変化速度より速くするために、前記第2学習値の学習周期として前記第1学習値の学習周期より短い周期が設定されてなる
ことを特徴とする内燃機関の点火時期制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−169051(P2010−169051A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14035(P2009−14035)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】