説明

内燃機関の燃焼制御方法および装置

【課題】ディーゼルエンジンの排ガス性能の改善を図るために、気筒間の燃焼ばらつきを抑えた燃焼制御方法および燃焼制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】多気筒の代表気筒(第1気筒)K1にだけ設置された筒内圧力センサ25の信号を基に代表気筒の着火時期を算出する第1の気筒着火時期算出手段27と、各気筒の給気温度センサ23によって検出された各気筒の給気温度のばらつきと、代表気筒K1内のガス温度とから求めた各気筒内のガス温度に基づいて、代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出する第2の気筒着火時期算出手段29と、運転状態に適した標準着火時期と第1の気筒着火時期算出手段27および第2の気筒着火時期算出手段29による着火時期との偏差を基に各気筒の着火時期を標準着火時期に揃える着火時期調整手段31とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼制御方法および制御装置に関し、特に、ディーゼルエンジンの気筒間の燃焼のばらつきを抑えた燃焼制御方法および燃焼制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多気筒内燃機関、例えばディーゼルエンジンにおいては、各気筒間で給気温度や給気量にばらつきが生じることから、各気筒に対して同一タイミングで燃料を噴射しても着火時期、燃焼状態にばらつきが生じる。この燃焼状態のばらつきは、排ガス濃度、例えばNOx(窒素酸化物)、PM(粒子状物質)の濃度のばらつきとなって現れる。
【0003】
近年の排ガス規制強化の中、気筒間の着火時期のばらつきに起因する排ガス濃度の気筒間のばらつきは、排ガス性能悪化の要因として無視できないレベルにある。
気筒間で着火時期にばらつきがあると、早い時期に着火した気筒においてはNOx排出量が大きくなるが、着火時期が遅い気筒においては、NOx排出量が低くなる。このように気筒間においてNOx排出量にばらつきが生じた場合、NOx排出量が高い気筒の影響を受けてエンシン全体として排ガス性能が悪化する傾向となる。また、PM排出の気筒間ばらつきについても同様のことがいえる。
【0004】
一方、内燃機関の着火時期制御に関する先行技術文献として、特許文献1(特開2010−38012号公報)が知られている。この特許文献1には、エンジンの運転状態から着火時期を演算し、噴射時期補正部は規範着火時期を目標に主燃料の噴射時期を補正することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2010−38012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1によれば、前述のように噴射時期補正部によって規範着火時期を目標に、主燃料の噴射時期を補正することが示されている。しかし、気筒間における着火時期のばらつきを補正して排ガス性能を向上させることまでは開示されていない。
【0007】
また、気筒間における着火時期のばらつきを抑えて、全気筒の着火時期を揃える制御とするために、全気筒の燃焼状態を確実に検出しようとすると、筒内圧力センサを全気筒に取り付ける必要があり、装置の大型化と制御の複雑化を伴う問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、これら問題に鑑みて、ディーゼルエンジンの排ガス性能の改善を図るために、気筒間の燃焼ばらつきを抑えた燃焼制御方法および燃焼制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はかかる目的を達成するためになされたものであり、多気筒の各気筒に対して一定のタイミングで燃料を噴射する燃料噴射手段を備えた内燃機関の燃焼制御方法において、
筒内圧力センサが設置された代表気筒の筒内圧力に基づいて、該代表気筒における着火時期を算出する第1の気筒着火時期算出ステップと、
代表気筒の筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に代表気筒内ガス温度を算出し、
該代表気筒内ガス温度を基に給気温度センサによって検出された各気筒の給気温度のばらつきに対応して他の気筒における気筒内ガス温度を算出し、
該気筒内ガス温度に基づいて代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出する第2の気筒着火時期算出ステップと、を備え、
前記内燃機関の運転状態に適した標準着火時期と前記第1の気筒着火時期算出ステップおよび第2の気筒着火時期算出ステップによって算出した着火時期との偏差を基に各気筒の着火時期を前記標準着火時期に揃えることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、全気筒に筒内圧力センサを設けることなく、代表気筒にだけ筒内圧力センサを設けて第1の気筒着火時期算出ステップによって、代表気筒の着火時期を算出する。
さらに、各気筒への給気温度の検出値を基に、第2の気筒着火時期算出ステップによって、代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出して、結果的に全気筒に対して正確に着火時期を算出して把握できる。
そして、その着火時期が全気筒で揃うように気筒毎の燃料噴射時期を調整することによって、着火時期の気筒間ばらつきを抑えて、排ガス性能を向上できる。
【0011】
また、本方法発明において好ましくは、前記第1の気筒着火時期算出ステップは、前記筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に前記代表気筒における熱発生率を算出し、該熱発生率から着火を判定した時点と噴射開始時期とに基づいて着火遅れ期間を算出するとよい。
【0012】
係る構成によると、第1の気筒着火時期算出ステップは、筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に代表気筒における熱発生率を算出する。この熱発生率(dQ/dθ)は、代表気筒(例えば#1気筒とすると)における時々刻々の筒内圧力P1、筒内ガス重量G1、気筒容積(シリンダ容積)V1より、式(2)(熱力学第一法則)を用いて算出される(図5参照)。
【0013】
従って、図5より、燃料噴射ノズルの針弁がθ1でリフト開始してから着火遅れ期間を経てから時点Xで熱発生率dQ/dθの立ち上がり、着火遅れ期間D1として算出できる。このように筒内圧力から熱発生率を算出して着火遅れ及び着火時期を判定するので、精度良く着火遅れおよび着火時期を把握できる。
【0014】
また、本方法発明において好ましくは、前記第2の気筒着火時期算出ステップは、代表気筒以外の他の気筒における気筒内ガス温度を算出し、該算出された気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出し、該着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点と噴射開始時期とによって着火までの着火遅れ期間を算出するとよい。
【0015】
代表気筒以外の他の気筒の着火時期の算出についての概要を以下に説明する。代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出するには、まず、代表気筒の筒内圧力を基に代表気筒内ガス温度T1を式(1)によって算出する(図4参照)。
【0016】
そして、次に、気筒毎の給気温度のばらつきTs(第n気筒における給気温度Tsn)に応じて、圧縮行程中の第n気筒における気筒内ガス温度Tnを算出する。例えば第2気筒の筒内ガス温度T2は、式(3)のように算出される。
【0017】
次に、気筒内ガス温度Tの時間的履歴に応じた着火エネルギの蓄積量Eを式(4)によって算出する(図7参照)。
そして、着火エネルギの蓄積量Eが判定閾値を超えた時に着火と判定する。以上のようにして、代表気筒以外の他の気筒の着火時期について算出する。
【0018】
また、本方法発明において好ましくは、着火エネルギの蓄積量の前記判定閾値は、前記代表気筒について前記第1の気筒着火時期算出手段によって算出した着火遅れと、前記第2の気筒着火時期算出手段よって算出した着火遅れとが一致するように設定されるとよい。
【0019】
第2の気筒着火時期算出ステップにおいては、気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出して、その着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点と燃料噴射開始時期とに差によって着火までの着火遅れ期間を算出している。
この判定閾値を、第1の気筒着火時期算出ステップによって算出した着火遅れ、すなわち、筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に、式(2)を用いて算出する代表気筒における熱発生率から算出する着火遅れD1と、前記着火エネルギの蓄積量を基に、式(4)を用いて算出した代表気筒における着火遅れD2とが等しくなるように、前記判定閾値を設定する。
そして、設定した判定閾値を他の気筒における着火エネルギの蓄積量に基づく判定に用いる。
【0020】
また、本願発明の方法発明を実施する装置発明は、多気筒の各気筒に対して一定のタイミングで燃料を噴射する燃料噴射手段を備えた内燃機関の燃焼制御装置において、
燃焼室内の圧力を検出するとともに前記多気筒の内の1気筒にだけ設置された筒内圧力センサと、該筒内圧力センサが取り付けられた代表気筒の筒内圧力信号を基に該代表気筒の着火時期を算出する第1の気筒着火時期算出手段と、各気筒の給気温度を検出する給気温度センサと、代表気筒の筒内圧力センサの信号から算出された代表気筒内ガス温度を基に給気温度センサによって検出された各気筒の給気温度のばらつきに対応して他の気筒における気筒内ガス温度を算出し、該気筒内ガス温度に基づいて代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出する第2の気筒着火時期算出手段と、前記内燃機関の運転状態に適した標準着火時期と前記第1の気筒着火時期算出手段および第2の気筒着火時期算出手段によって算出された着火時期との偏差を基に各気筒の着火時期を前記標準着火時期に揃える着火時期調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
かかる発明によれば、全気筒に筒内圧力センサを設けることなく、代表気筒にだけ筒内圧力センサを設けて第1の気筒着火時期算出手段によって、代表気筒の着火時期を算出する。さらに、各気筒への給気温度の検出値を基に、第2の気筒着火時期算出手段によって、代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出して、結果的に全気筒に対して正確に着火時期を算出して把握できる。
【0022】
そして、その着火時期が全気筒で揃うように気筒毎の燃料噴射時期を調整することによって、着火時期の気筒間ばらつきを抑えて、排ガス性能を向上できる。さらに、全気筒に筒内圧力センサを設けることなく、代表気筒にだけ筒内圧力センサを設ければよいため、内燃機関の燃焼制御装置を簡単化することができる。
【0023】
また、本装置発明において好ましくは、前記第1の気筒着火時期算出手段は、前記筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に前記代表気筒における熱発生率を算出し、該熱発生率から着火を判定した時点と噴射開始時期とに基づいて着火までの着火遅れ期間を算出するとよい。
【0024】
このように、第1の気筒着火時期算出手段は、筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に代表気筒における熱発生率を、式(2)に基づいて算出して、該熱発生率から着火を判定するので、精度良く着火時期を算出して把握できる。
【0025】
また、本装置発明において好ましくは、前記第2の気筒着火時期算出手段は、前記他の気筒における気筒内ガス温度を算出する気筒内ガス温度算出手段と、該気筒内ガス温度算出手段によって算出された気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出する着火エネルギ算出手段とを有し、該着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点と噴射開始時期とに基づいて着火までの着火遅れ期間を算出するとよい。
【0026】
このように、第2の気筒着火時期算出手段では、気筒内ガス温度算出手段によって算出された気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出して、この着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点と噴射開始時期とに基づいて着火までの着火遅れ期間を算出できる。
【0027】
従って、筒内圧力センサを設置していない気筒の場合でも、代表気筒の筒内圧力を基に代表気筒内ガス温度を式(1)によって算出して、給気温度のばらつきを基に式(3)によって、代表気筒以外の他の気筒における気筒内ガス温度を算出して、その気筒内ガス温度の時間的変化を基に、式(4)によって、着火エネルギの蓄積量を算出して、この着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点を着火と判定して、噴射開始時期とこの着火時点との差によって着火遅れを算出する。
これによって、代表気筒のように筒内圧力センサを設置していない場合でも、着火時期を精度よく算出できる。
【0028】
また、本装置発明において好ましくは、着火エネルギの蓄積量の前記判定閾値は、前記代表気筒について前記第1の気筒着火時期算出手段によって算出した着火遅れと、前記第2の気筒着火時期算出手段よって算出した着火遅れとが一致するように設定するとよい。
【発明の効果】
【0029】
以上記載のごとく方法発明および装置発明それぞれにおいて、全気筒に筒内圧力センサを設けることなく、代表気筒にだけ筒内圧力センサを設けて第1の気筒着火時期算出ステップ(手段)によって、代表気筒の着火時期を算出でき、さらに、各気筒への給気温度の検出値を基に、第2の気筒着火時期算出ステップ(手段)によって、代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出して、結果的に全気筒に対して正確に着火時期を算出して把握できる。
【0030】
そして、その着火時期が全気筒で揃うように気筒毎の燃料噴射時期を調整することによって、着火時期の気筒間ばらつきを抑えて、排ガス性能を向上できる。さらに、全気筒に筒内圧力センサを設けることなく、代表気筒にだけ筒内圧力センサを設ければよいため、内燃機関の燃焼制御装置を簡単化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1a】(a)は本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンの燃焼制御装置の全体構成図を示す。
【図1b】(b)はその各気筒における給気温度のばらつき状態を示し、(c)はその各気筒における燃料噴射時期を示し、(d)はその各気筒における着火時期を示し、(e)はその各気筒におけるNOx排出濃度を示す。実線が本発明を示し、点線は従来技術を示す。
【図2】コントローラにおける制御を示すフローチャートである。
【図3】筒内圧力P1のクランク角度に対する変化状態を示す説明図である。
【図4】筒内ガス温度T1のクランク角度に対する変化状態を示す説明図である。
【図5】熱発生率dQ/dθのクランク角度に対する変化状態を示す説明図である。
【図6】筒内ガス温度Tのクランク角度に対する変化状態を示す説明図である。
【図7】着火エネルギの蓄積量Eのクランク角度に対する変化状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0033】
図1a、図1bを参照して、本実施形態のディーゼルエンジン(内燃機関)の燃焼制御装置につき説明する。図1a(a)は、全体構成を示す。図1b(b)はその各気筒における給気温度のばらつき状態を示し、(c)はその各気筒における燃料噴射時期を示し、(d)はその各気筒における着火時期を示し、(e)はその各気筒におけるNOx排出濃度を示す。実線が本発明を示し、点線は従来技術を示す。
【0034】
図1a(a)は、エンジン(ディーゼルエンジン)1の平面図を示す。
本実施形態では、6気筒の多気筒の例を示す。図示しない過給機のコンプレッサの給気出口と接続した給気管3は給気冷却器5に接続されて、過給機で加圧された給気が給気冷却器5で冷却され、該給気冷却器5の出口に接続された給気マニホールド7を介して給気をシリンダヘッド9の各給気入口に導くように構成されている。
【0035】
また、シリンダヘッド9の排気ポートには、排気マニホールド11が接続され、排気マニホールド11の排気集合管部13に接続された排気管15を介して、図示しない過給機の排気タービンに排ガスが導かれるようになっている。
【0036】
また、各気筒K1〜K6には、それぞれ燃料噴射装置の燃料噴射ノズル(燃料噴射手段)17が設置されており、それぞれの気筒に対してコントローラ19内の燃料噴射制御手段21によって、各気筒K1〜K6のそれぞれに対して燃料噴射量と噴射時期が制御されている。
【0037】
また各気筒K1〜K6への給気温度を検出するための給気温度センサ23が、給気マニホールド7とシリンダヘッド9との接続部の給気ポートの入口部に設置されている。さらに、第1気筒K1を代表気筒として筒内圧力センサ25が設置されている。代表気筒は第1気筒に限るものではなく、筒内圧力センサ25が設置された気筒をいう。
【0038】
給気温度センサ23からの信号、および、筒内圧力センサ25からの信号は、コントローラ19に入力されている。
【0039】
このコントローラ19には、筒内圧力センサ25が取り付けられた第1気筒K1の筒内圧力信号を基に第1気筒K1の着火時期を算出する第1の気筒着火時期算出手段27と、第1気筒K1の筒内圧力センサ25の信号から算出された第1気筒K1内のガス温度を基に各気筒の給気温度センサ23によって検出された各気筒の給気温度のばらつきに対応して気筒K2〜K6における気筒内ガス温度を算出し、該気筒内ガス温度に基づいて、気筒K2〜K6の着火時期を算出する第2の気筒着火時期算出手段29とを備えている。
【0040】
さらに、この第2の気筒着火時期算出手段29は、第1気筒K1の筒内圧力センサ25の信号から算出された第1気筒内ガス温度を基に給気温度センサ23によって検出された各気筒の給気温度のばらつきに対応して他の気筒における気筒内ガス温度を算出する気筒内ガス温度算出手段24と、該気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出する着火エネルギ算出手段26とを備えている。
【0041】
さらに、コントローラ19には、エンジン1の運転状態に適した標準着火時期と第1の気筒着火時期算出手段27によって算出された着火時期との偏差を基に、および第2の気筒着火時期算出手段29によって算出された着火時期との偏差を基に、各気筒K1〜K6の着火時期を標準着火時期に揃える着火時期調整手段31を備えている。
【0042】
この着火時期調整手段31は、前記コントローラ19内の燃料噴射制御手段21によって実行される。なお、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づく最適着火時期は、着火時期マップに記憶されており、その着火時期マップを基に運転状態に適した標準着火時期が算出されるようになっている。
【0043】
以上の構成を有する燃焼制御装置における制御フローを図2のフローチャートを参照して説明する。
まず、ステップS1で、代表気筒である第1気筒K1の筒内圧力を筒内圧力センサ25によって検出する。その筒内圧力を基にステップS2で第1気筒K1の着火時期、着火遅れを算出する。
【0044】
この第1気筒K1の着火時期および着火遅れの算出手法について、図3〜5を参照して説明する。図3は、横軸にクランク角度を示し、縦軸に筒内圧力センサ25で検出した第1気筒K1の筒内圧力P1を示す。そして、燃焼時の筒内圧力P1は実線で示すように非燃焼時の筒内圧力に対してギャップ分の燃焼による筒内圧力上昇を伴っている。
クランク角度θ1〜θ2の間に燃料噴射制御手段21によって噴射が第1気筒K1に対して指示されて燃料噴射ノズル17の針弁がリフトする。
【0045】
気体の状態方程式を用いて、第1気筒における時々刻々の筒内圧力P1、筒内ガス重量G1、気筒容積(シリンダ容積)V1より、以下の式(1)の関係が成り立つ。この式(1)によって、第1気筒内ガス温度(代表気筒内ガス温度)T1を算出し、T1は図4のような変化状態の関係が示される。なおこの筒内ガス温度は筒内平均ガス温度をいう。
T1=P1・V1/G1・R …(1)
【0046】
次に、前記第1気筒内ガス温度(代表気筒内ガス温度)T1の算出と同時に、熱力学第一法則を用いて、第1気筒内での燃焼ガスからの熱発生率(dQ/dθ)を算出する。時々刻々の筒内圧力P1、筒内ガス重量G1、気筒容積(シリンダ容積)V1より、以下の式(2)の関係が成り立つ。この式(2)によって、第1気筒K1内での燃焼ガスからの熱発生率(dQ/dθ)を算出し、熱発生率(dQ/dθ)は図5のような変化状態の関係が示される。
dQ/dθ=1/(κ−1)(VdP/dθ+κPdV/dθ) …(2)
ただし、θはクランク角度、κは比熱比である。
【0047】
なお、第1気筒内ガス温度T1の算出、および第1気筒内での燃焼ガスからの熱発生率(dQ/dθ)の算出に際して必要なエンジン基本データを、エンジン基本諸元データベース35から取得して算出する。このエンジン基本諸元データベース35には、例えば、ボア、ストローク、圧縮比、コンロッド長、給排気バルブタイミング等のデータが記憶されている。
【0048】
図5で示すように、燃料噴射ノズル17の針弁がθ1でリフト開始してから着火遅れ期間を経てから時点Xで熱発生率dQ/dθの立ち上がるため、着火遅れ期間D1として算出できる。このように筒内圧力から熱発生率を算出して着火時期を判定するので、精度良く着火時期を算出して把握できる。
【0049】
次に、ステップS3で、全気筒の給気温度を給気温度センサ23によって検出し、その検出信号を基に、さらに、エンジン基本諸元データベース35から取得した基本データを基に、ステップS4で、全気筒の着火遅れ期間、および着火時期を算出する。
【0050】
このステップS4での、全気筒の着火遅れ期間、および着火時期の算出について図6、7を参照して説明する。図6は、図4に対応する図であり、横軸にクランク角度を示し、縦軸に下記式(3)で算出した第1気筒以外の他の気筒の気筒内ガス温度を示し、圧縮行程中のn気筒における気筒内ガス温度Tnを示す。
【0051】
すなわち、給気温度センサ23の検出値を基に、第1気筒K1〜第6気筒K6ごとの給気温度のばらつきTs(第n気筒における給気温度Tsn)に応じて、圧縮行程中の第n気筒における気筒内ガス温度Tnを算出する。
例えば第2気筒K2の気筒内ガス温度T2は、次の式(2)のように算出される。すなわち、代表気筒である第1気筒K1の気筒内ガス温度Tnを給気温度に応じて配分するように算出する。
T2=T1×Ts2/Ts1 …(3)
【0052】
次に、気筒内ガス温度Tの時間的履歴に応じた着火エネルギの蓄積量Eを式(4)によって算出する。


τ:着火遅れ式
【0053】
そして、図7に示すように、着火エネルギの蓄積量Eが判定閾値Rを超えた時に着火と判定する。なお、着火遅れ式はシミュレーション試験等を基に設定されるか、若しくは既知の式を用いてもよい。
以上のようにして、図7に示すように、燃料噴射ノズル17の針弁がθ1でリフト開始してから着火遅れ期間を経てから着火エネルギの蓄積量Eが判定閾値Rを超えた時点Yで着火したと判定する。これによって、着火遅れ期間をD2として算出できる。
このように筒内圧力センサを用いずに、気筒内ガス温度Tの時間的履歴に応じた着火エネルギの蓄積量Eから着火時期を判定できるので、装置を簡単化でしかも精度良く着火時期を算出して、着火遅れ、着火時期を把握できる。
【0054】
しかも、前記判定閾値Rが、第1気筒K1についてステップS2で算出した着火遅れD1と、ステップS4の手法で算出した着火遅れD2とが一致するように設定されている。そして、その他の気筒K2〜K6に対する着火遅れの算出にはこの設定された判定閾値Rが用いられて算出される。このように一致させることで、着火時期算出精度が保持される。
【0055】
次に、ステップS5では、ステップS2で算出した第1気筒K1の着火時期と、ステップS3で算出した第2〜第6気筒K2〜K6の着火時期と、エンジン1の運転状態に適した標準着火時期との偏差を算出する。
【0056】
そして、ステップS6では、ステップS5で算出した偏差を基に、各気筒K1〜K6の着火時期を標準着火時期に揃えるように、着火時期調整手段31によって調整される。具体的には、各気筒K1〜K6に対する燃料噴射時期を、全ての気筒で着火時期が同一となるように調整される。
【0057】
この着火時期調整手段31は、前記コントローラ19内の燃料噴射制御手段21によって行われる。なお、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づく最適着火時期は、着火時期マップに記憶されており、その着火時期マップを基に運転状態に適した標準着火時期が算出されるようになっている。
【0058】
以上の実施形態によれば、給気管3から流入した給気は給気冷却器5で冷却されから、気筒K1〜K6のそれぞれの給気入口に向かって流れていく。この各給気入口に向かっての流入の際に、第1気筒K1および第6気筒K6は、給気マニホールド7の両側に位置されているため、流路長さが給気マニホールド7の中央側の第3、第4気筒に比べて長く、かつ、両側に位置されているため給気流がよどみやすいため、壁面温度の影響を受けやすく第3、第4気筒に比べて給気温度が高くなる傾向がある。
【0059】
この給気温度の傾向を、図1b(b)に示す。そして、給気温度は両側の第1気筒K1および第6気筒K6ほど高い傾向を有するため、従来技術として燃料噴射時期(図1b(c))を全気筒同一に噴射した場合には、着火時期も給気温度が高い方が早く、進角側に偏る傾向が示される図1b(d)の点線。その結果、NOx排出濃度(図1b(e))も、両側の第1気筒K1および第6気筒K6ほど高い傾向を示していた。
【0060】
これに対して、本実施形態においては、第1気筒から第6気筒までの全気筒に対して、着火遅れおよび着火時期を精度よく算出して推定できるため、この推定値を基に、全気筒K1〜K6に対して運転状態に応じて設定される標準着火時期になるように、各気筒の燃料噴射時期(図1b(c))を制御して、全ての気筒で着火時期が同一となるように調整されるので、図1b(d)の実線で示されるように各気筒で着火時期が標準着火時期に調整され、その結果、図1b(e)に実線で示されるように各気筒間でのばらつきがなくなり、排ガス性能が向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、簡単な制御装置および方法によって、着火時期の気筒間ばらつきを抑えて、排ガス性能を向上できるので、内燃機関の燃焼制御方法および制御装置に適している。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン(内燃機関)
7 給気マニホールド
11 排気マニホールド
17 燃料噴射ノズル(燃料噴射手段)
19 コントローラ
21 燃料噴射制御手段
23 給気温度センサ
24 気筒内ガス温度算出手段
25 筒内圧力センサ
26 着火エネルギ算出手段
27 第1の気筒着火時期算出手段
29 第2の気筒着火時期算出手段
31 着火時期調整手段
K 着火エネルギの蓄積量
K1 第1気筒(代表気筒)
K2〜Kn 第2気筒〜第n気筒
R 判定閾値
T1 第1気筒内ガス温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒の各気筒に対して一定のタイミングで燃料を噴射する燃料噴射手段を備えた内燃機関の燃焼制御方法において、
筒内圧力センサが設置された代表気筒の筒内圧力に基づいて、該代表気筒における着火時期を算出する第1の気筒着火時期算出ステップと、
代表気筒の筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に代表気筒内ガス温度を算出し、
該代表気筒内ガス温度を基に給気温度センサによって検出された各気筒の給気温度のばらつきに対応して他の気筒における気筒内ガス温度を算出し、
該気筒内ガス温度に基づいて代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出する第2の気筒着火時期算出ステップと、を備え、
前記内燃機関の運転状態に適した標準着火時期と前記第1の気筒着火時期算出ステップおよび第2の気筒着火時期算出ステップによって算出した着火時期との偏差を基に各気筒の着火時期を前記標準着火時期に揃えることを特徴とする内燃機関の燃焼制御方法。
【請求項2】
前記第1の気筒着火時期算出ステップは、前記筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に前記代表気筒における熱発生率を算出し、該熱発生率から着火を判定した時点と噴射開始時期とに基づいて着火遅れ期間を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃焼制御方法。
【請求項3】
前記第2の気筒着火時期算出ステップは、代表気筒以外の他の気筒における気筒内ガス温度を算出し、該算出された気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出し、該着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点と噴射開始時期とによって着火までの着火遅れ期間を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃焼制御方法。
【請求項4】
着火エネルギの蓄積量の前記判定閾値は、前記代表気筒について前記第1の気筒着火時期算出手段によって算出した着火遅れと、前記第2の気筒着火時期算出手段よって算出した着火遅れとが一致するように設定されることを特徴とする請求項3記載の内燃機関の燃焼制御方法。
【請求項5】
多気筒の各気筒に対して一定のタイミングで燃料を噴射する燃料噴射手段を備えた内燃機関の燃焼制御装置において、
燃焼室内の圧力を検出するとともに前記多気筒の内の1気筒にだけ設置された筒内圧力センサと、
該筒内圧力センサが取り付けられた代表気筒の筒内圧力信号を基に該代表気筒の着火時期を算出する第1の気筒着火時期算出手段と、
各気筒の給気温度を検出する給気温度センサと、
代表気筒の筒内圧力センサの信号から算出された代表気筒内ガス温度を基に給気温度センサによって検出された各気筒の給気温度のばらつきに対応して他の気筒における気筒内ガス温度を算出し、該気筒内ガス温度に基づいて代表気筒以外の他の気筒の着火時期を算出する第2の気筒着火時期算出手段と、
前記内燃機関の運転状態に適した標準着火時期と前記第1の気筒着火時期算出手段および第2の気筒着火時期算出手段によって算出された着火時期との偏差を基に各気筒の着火時期を前記標準着火時期に揃える着火時期調整手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項6】
前記第1の気筒着火時期算出手段は、前記筒内圧力センサからの筒内圧力信号を基に前記代表気筒における熱発生率を算出し、該熱発生率から着火を判定した時点と噴射開始時期とに基づいて着火までの着火遅れ期間を算出することを特徴とする請求項5記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項7】
前記第2の気筒着火時期算出手段は、前記他の気筒における気筒内ガス温度を算出する気筒内ガス温度算出手段と、該気筒内ガス温度算出手段によって算出された気筒内ガス温度の時間的変化を基に着火エネルギの蓄積量を算出する着火エネルギ算出手段とを有し、該着火エネルギの蓄積量が判定閾値を超えた時点と噴射開始時期とに基づいて着火までの着火遅れ期間を算出することを特徴とする請求項5記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項8】
着火エネルギの堆積量の前記判定閾値は、前記代表気筒について前記第1の気筒着火時期算出手段によって算出した着火遅れと、前記第2の気筒着火時期算出手段よって算出した着火遅れとが一致するように設定されることを特徴とする請求項7記載の内燃機関の燃焼制御装置。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−145059(P2012−145059A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5167(P2011−5167)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】