説明

内燃機関の燃焼室冷却構造

【課題】燃焼室を形成する面に冷却用フィンを配設することで、高圧縮比化された燃焼室の温度の高い燃焼室壁面から熱を吸気に熱交換させて、その給気を燃焼室外に排出することで燃焼室内を冷却して、異常燃焼(ノッキング)を防止すると共に、燃焼室の過冷却を防止して、エンジンの最適燃焼温度条件を維持し、内燃機関の出力向上及び、省燃費効果を得る。
【解決手段】エンジン10のシリンダライナ14と、該シリンダライナ14内を軸線Lに沿って摺動するピストン11の頂面11Aと、シリンダライナ14上部に装着されたシリンダヘッド13とによって囲繞された燃焼室17であって、該燃焼室17を形成する面に冷却用のフィンを配設し、該冷却用のフィンの配設密度は燃焼室17の温度分布に沿い、該温度の高いピストン中心域を含む排気バルブ25よりを高く、その周辺域を低くしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧縮比化される内燃機関の燃焼室を冷却して、エンジンのノッキング(異常燃焼)を防止する内燃機関の燃焼室冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火式の内燃機関であるエンジンにおいては、出力向上のために圧縮比を高めることが行われている。
しかし、圧縮比を高めると、ピストンが上昇してシリンダ内周面部と、ピストン頂部と、シリンダヘッドとによって形成されるスキッシュ部の空気と燃料との混合ガスが高温になり、自己着火(ノッキング)し易くなる。
従って、高圧縮比化による内燃機関の出力向上には制限が生じてしまう問題がある。
【0003】
そこで、特開2010−203334号公報(特許文献1)には、ピストン頂面の燃焼室内のノッキング発生起点となる部位に対向するシリンダヘッドの領域を、複数の微細な柱状凹部を備える表面構造、例えば陽極酸化による酸化物被覆とすることで、当該部分の熱伝達率を向上させて、燃焼ガスとピストンの熱交換を促進させ、ノッキング発生起点となる部位の温度上昇を抑制してノッキングの発生を回避させようとする技術開示が成されている。
【0004】
更に、特開2005−330814号公報(特許文献2)には、予混合圧縮自着火内燃機関のピストン頂部の略全面に半球状凹部又は凸部を備えた技術が開示されている。
複数の半球状凹部又は凸部を備えた燃焼室の表面積は、半球状凹部又は凸部を備えない燃焼室の表面積よりも大きい。
そして、吸気弁の開弁に伴って燃焼室に流入する空気は逆タンブル流となってピストン頂面上を通過する。このとき、吸気は半球状凹部又は、凸部により乱され、半球状凹部において効率よく冷却される。
従って、自着火に係る反応が開始する時点での混合気の温度分布を大きくすることができる。これによって、凹部又は凸部近傍の温度の低い混合気の燃焼開始時期が遅れ、混合気の燃焼時間を長くする(燃焼が緩慢となる)ことで筒内圧力上昇率が過大にならず、燃焼に伴う騒音が低減される技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−203334号公報
【特許文献2】特開2005−330814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1によると、シリンダヘッドの該当部分に陽極酸化による酸化物被覆を施すには、シリンダヘッドを電解質溶液中で通電して当該部分に陽極酸化皮膜を生じるための工程が必要になり、製造工数、製造コストが高くなる不具合が生じる。
また、特許文献2によると、燃焼室内に発生する予混合気流によりピストン頂面近傍を流れる予混合気の一部を同ピストン頂面に形成された半円球凹部に滞留させ、且つ、混合気流に乱れを生じさせることにより、混合気と凹部との間の熱交換が効率良く行われる。
即ち、吸入空気と燃料の予混合気はピストンによって冷却され、自着火に係る反応が開始する時点での混合気の温度分布を大きくすることで、混合気の燃焼時間を長くする(燃焼が緩慢となる)ものであり、燃焼室内を温度分布に沿った冷却や、掃気による冷却は示されていない。
【0007】
そこで、本発明はこのような不具合に鑑み成されたもので、燃焼室を形成する面に冷却用フィンを配設し、該冷却用フィンの配設密度を燃焼室の温度分布に沿い、かつ掃気作用も考慮して、ピストン中心域を含んで該中心域から排気弁寄りの領域を密に、その周辺域を疎として形成することで、エンジンの最適燃焼温度を維持して、異常燃焼(ノッキング)を防止すると共に、省燃費効果を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、シリンダブロックと吸気弁及び排気弁を備えたシリンダヘッドとで形成される内燃機関のシリンダと、該シリンダ内をシリンダの軸線に沿って摺動するピストンの頂面とによって囲繞された燃焼室の冷却構造であって、
該燃焼室を形成する面に冷却用フィンを配設し、排気側に位置する該冷却用フィンの配設密度を吸気側よりも高く形成することを特徴とする。
【0009】
かかる発明において、冷却用フィンを設けることで燃焼室内の表面積が大きくなり、混合気の高熱化を抑制できる。特に内燃機関の駆動時、燃焼室内の温度は吸気弁側よりも排気弁側で高くなることから、排気側におけるフィンの配設密度を吸気側よりも密にすることで、燃焼室内の温度が高くなる部分でより効果的な冷却効果を期待できる。また、配設密度の高低を設けることで、全体にフィンを配置するよりも金型製造の工数やコストを削減できる。
【0010】
また、好ましくは、前記冷却用フィンの配設密度が高く形成された排気側領域において、
前記ピストン中心側の冷却用フィンの配設密度を更に高く形成するとよい。
【0011】
このような構成により、燃焼室内の温度分布は、燃焼室中心部から排気弁側にかけての領域で最も高くなることから、ピストン中心域に形成する冷却用フィンの配設密度をさらに高くすることで、燃焼室内の冷却効果がより高まる。
【0012】
また、好ましくは、前記冷却用フィンは前記ピストン頂面に設けられるとよい。
【0013】
このような構成により、シリンダヘッド側からピストン頂面に向けて導入される掃気(吸気工程初期)が冷却用フィンへ接触してピストンが効果的に冷却される。
【0014】
また、好ましくは、前記冷却用フィンは前記シリンダヘッドの前記燃焼室に臨んだ面に配設されるとよい。
【0015】
このような構成にすることにより、シリンダヘッドを冷却することにより、吸気工程終了前時期に排気バルブを開く際に、シリンダヘッドに曝された排気が冷却され、高圧縮比化された内燃機関においても、燃焼室に導入された吸気と燃料の混合気が部分的に冷却されて異常燃焼(ノッキング)を防止し、排ガス浄化改善と共に、内燃機関の出力向上及び、省燃費の効果が得られる。
【0016】
また、好ましくは、前記冷却用フィン形状は、凹状又は、凸状をなし、且つ該凹状又は、凸状が連続又は非連続に配設されているとよい。
【0017】
このような構成にすることにより、冷却用フィンの形状を凹状又は、凸状とし、且つ該凹状又は、凸状が連続又は非連続状にすることにより、フィンの製造が容易になると共に、吸気との接触面積が増加することにより、燃焼室の冷却効果が向上し、高圧縮比化による内燃機関のノッキングを防止できる。
【0018】
また、好ましくは、前記内燃機関の出力が増大したときに、吸気バルブの開弁時期を進角させるようにするとよい。
【0019】
このような構成にすることにより、高負荷時に吸気バルブの開弁時期を進角させることにより、排気バルブと吸気バルブとのオーバラップ期間が長くなり、冷却フィンから吸気が熱を奪い、排気バルブから排出される燃焼室内の掃気期間が長くなるので、燃焼室の冷却が促進され、異常燃焼(ノッキング)が防止される。
【発明の効果】
【0020】
冷却用フィンを設けることで燃焼室内の表面積が大きくなり、混合気の高熱化を抑制できる。特に内燃機関の駆動時、燃焼室内の温度は吸気弁側よりも排気弁側で高くなることから、排気側におけるフィンの配設密度を吸気側よりも密にすることで、燃焼室内の温度が高くなる部分でより効果的な冷却効果を期待できる。
従って、高圧縮比化された燃焼室に導入された吸気と燃料の混合気が部分的に高熱化して異常燃焼(ノッキング)するのを防止でき、エンジンの最適燃焼温を維持することで、内燃機関の出力向上及び、省燃費効果が得られる。
また、配設密度の高低を設けることで、全体にフィンを配置するよりも金型製造の工数やコストを削減できる。
更に、出力が増大したときに、吸気バルブの開弁時期を進角させることにより、吸気バルブと排気バルブとが開いているラップ期間を長くすることにより、効果的に燃焼室の冷却を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるエンジン燃焼室を形成する概略構成断面図を示す。
【図2】本発明にかかるピストン頂面の温度分布の一例を示す。
【図3】本発明に係る第1実施形態のピストン頂部の斜視図を示す。
【図4】本発明に係る第2実施形態のピストン頂部の斜視図を示す。
【図5】本発明に係る第3実施形態のシリンダヘッド燃焼室側視の概略構成図を示す。
【図6】本発明に係る冷却用フィンの断面で、(A)は矩形状、(B)は半長円形状、(C)は半円形状の凹凸の組合せを示す。
【図7】本発明に係る吸排気バルブの開閉タイミングの概略説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
また、本説明中で、方向性を示す場合、運転席に着座した状態を基準にして、上下左右前後を表記する。
【0023】
(第1実施形態)
本発明を実施するエンジン燃焼室形状を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、エンジン10は、主に、シリンダブロック12と、該シリンダブロック12の上部に載置されたシリンダヘッド13とから構成されている。
シリンダブロック12にはシリンダライナ14が嵌入されている。シリンダライナ14の内部には該シリンダライナ14の軸線に沿って、上下方向に摺動するピストン11が配設されている。
シリンダヘッド13にはピストン11に対向した面に排気側斜面15と吸気側斜面16とを山形状に形成している。
そして排気側斜面15と吸気側斜面16の下縁から、シリンダブロック12の上端縁12Aに亘って側壁部13Bが配設されている。
尚、12Bはシリンダライナ14、該シリンダライナ14及び、ピストンリング11Bを介してピストン11を冷却するウォタージャケットである。
【0024】
ピストン11と、シリンダライナ14と、シリンダヘッド13の排気側斜面15、吸気側斜面16、側壁部13Bとによって囲繞された空間である燃焼室17が形成されている。
ピストン11には、該ピストン11とシリンダライナ14との隙間を塞いで、燃焼室17の高圧ガス(圧縮された吸気又は、燃焼した排ガス)がシリンダブロック12の下方へ漏れないようにピストンリング11Bがピストンに嵌挿されていると共に、シリンダライナ14の内周面に弾力的に摺接している。
シリンダヘッド13の排気側斜面15には2個の排気通路24に連通した排気孔22、22が形成されている。
また、シリンダヘッド13の吸気側斜面16には2個の吸気通路23に連通した吸気孔21、21が形成されている。
そして、排気側斜面15と吸気側斜面16が接合する頂部にはススパークプラグ18が配設され、吸気側斜面16にはピストン11の頂面11Aに向け燃焼室17内に燃料を噴射するインジェクションノズル30が配置されている。
【0025】
さらに、シリンダヘッド13の排気孔22、22を開いて、燃焼室17で燃焼した排ガスを排出する排気バルブ26,26と、吸気孔21,21を開いて吸気を燃焼室17に導入する吸気バルブ25,25が配設されている。
吸気バルブ25,25及び、排気バルブ26,26は既に公知の可変バルブ機構27によって開閉を制御されている。
ピストン11の頂面11Aの中央部は略平面状になっており、11C(図2参照)はピストン11が吸気又は排気行程時に上死点(TDC)へ到達した際に、開放している吸気バルブ25が衝突しないように、頂面11Aから下方へ凹ませた凹部である。
尚、排気バルブ26,26のリフト量L1は吸気バルブ25,25のリフト量L2に比べ、リフト量がΔL〔ΔL=L2−L1(図7参照)〕少ないため、排気バルブ26,26側には設けられていない。
【0026】
図2はピストンの頂面11Aの高負荷時における温度分布を示す。
これは弊社におけるエンジンの一例で、概略3領域に分類できる。
温度の一番高い領域T1は該領域T1の中心T1Cがピストン11の頂面11Aの中心Cから排気バルブ側(シリンダヘッド13に配設)に寄った部分で高温領域となっている。二番目に高い領域は吸気バルブ側(シリンダヘッド13に配設)部分を除く領域T1の周辺領域と排気バルブを含む部分(シリンダヘッド13に配設)で中温領域となっている。三番目の領域T3は吸気バルブ25側で冷却を必要としない領域となっている。
【0027】
図3は図2の温度分布に基づいて、ピストン11を冷却するために、冷却用のフィン11Dの配置形状を示したものである。
フィン11Dの断面形状は図6に示すように、(A)は矩形状、(B)は上縁が半円形状の略矩形、(C)は半円凸部と半円凹部とが連続した形状で、いずれの形状でもよい。
フィン11Dは升目状に配置され、ピストン11の頂面11Aの中心Cから排気バルブ側に偏った位置を中心11C(T1Cと同じ位置)に升目の密度が高い(密)T1領域が形成されている。T1領域の周辺領域で排気バルブ側に偏った位置に升目の密度がT1領域より低い(疎)のT2領域が形成されている。残りのT3領域は温度も比較的低いので、冷却フィンの配設は省略してある。
【0028】
図6のフィン11Dの断面形状について、(A)の矩形状は、フィン上部が角状になっているので、斜め上方(吸気側斜面16)から導入される吸気が淀み易く、吸気とフィン11Dとの接触時間(熱交換時間)が長くなり冷却効果が増大する。
また、(B)の上縁が半円形状の略矩形は、フィン上部が半円状になっているので、斜め上方から導入される吸気の燃焼室内での流動性がよく、燃料と吸気との混合が促進され易い効果を有している。
さらに、(C)は半円凸部と半円凹部とが連続した形状は、吸気の燃焼室内での流動性がよく、燃料と吸気との混合が促進され易いと共に、吸気とフィン11Dとの接触面積が大きいので、冷却効果が更に大きくなる。
フィン11Dの断面形状を基本的な形状(簡単な形状)とすることで、ピストン11を形成するダイキャスト型に容易に組入れることができるので、製造コストの上昇がなく大きな効果を得ることができる。
【0029】
燃焼室の冷却作用について図7の吸排気バルブの開閉状態図に基づいて説明する。
エンジン10が始動されると、ピストン11が上昇し、シリンダライナ14の吸気の圧縮を開始する(圧縮行程)。このとき、吸気バルブ25は吸気孔21,21及び排気バルブ26は排気孔22,22を閉じている。
ピストン11が圧縮TDC(Top Dead Center)手前N1位置でインジェクションノズルから燃焼室に燃料が噴射される。噴射された燃料が気化されながら、燃焼室17内を拡散し、点火プラグの火花によって、燃料が燃焼し、燃焼熱によって燃焼室17内は高温高圧になり、ピストン11を下方に押下げる(燃焼行程)。
また、燃焼熱は燃焼室17を形成しているピストン11、シリンダライナ14及びシリンダヘッド13を熱する。
ピストン11が下方へ押圧され(移動)てBDC(Bottom Dead Center)手前N2で排気バルブ26,26が排気孔22,22を開放する。
ピストン11がBDCに到達後、再び上昇を始め、ピストン11はシリンダライナ14内の燃焼ガスを押し退けながら開放されている排気孔22,22を介して吸気TDC位置まで排気通路24への排出を続ける。(排気行程)
【0030】
一方、エンジン10が軽負荷時(破線)、吸気バルブ25,25は、排気バルブ26,26が排気孔22,22を閉じる吸気TDCの手前N4位置にて吸気孔21,21を開放する。吸気バルブ25,25から導入された、吸気の温度は排ガス温度より十分に低いと共に、図1からも判断できるように、ピストン11の頂面11Aに向け導入される。
従って、N4位置から吸気TDCの期間ΔN1(吸気TDC−N4)は、吸気バルブ25と排気バルブ26が共に吸気孔21及び排気孔22とを開いた状態に維持されている。
新しく導入された吸気は期間ΔN1の間、頂面11Aに配設されたフィン11Dに接触し、フィン11Dから熱を奪い、排気バルブ26から排気通路24に排出され、燃焼室17特にピストン11を冷却する。
吸気バルブ25は、ピストン11が下降(吸気工程)しながらBDCを超え、ピストン11が再び上昇して圧縮工程に入るN5位置で、吸気孔21,21を閉じる。
【0031】
このようにして、冷却用フィンを設けることで燃焼室内の表面積が大きくなり、混合気の高熱化を抑制できる。特に内燃機関の駆動時、高圧縮比化しても、高温のT1領域(ピストン中心域を含む排気弁寄り)はフィン11Dの配設密度を高く(密)にすることにより多くの熱量を吸気に蓄熱させ、二番目に高い温度のT2領域(高温のT1領域の周辺域)はフィン11Dの配設密度をT1領域より低く(疎)にすることにより、燃焼室17内を冷却すると共に、過冷却にならないようにしている。燃焼室17内に導入された吸気温度を低く抑えて、ノッキングを防止すると共に、エンジンの最適燃焼温度条件を維持することができエンジン出力向上及び省燃費化の効果が得られる。
また、配設密度が高い部分と、低い部分、フィン11Dを設けない部分に区別することで、全体にフィン11Dを配置するよりも金型製作の工数やコストを削減できる。
本実施形態の場合、燃焼室17への燃料噴射時期が圧縮TDCの手前(N1位置)になっており、吸気孔21,21及び排気孔22,22共に閉じられた状態なので、燃料が燃焼室17を冷却した冷却空気と共に排出されることがない。
【0032】
また、エンジン10が高負荷の場合には、燃焼室17に導入される空気、燃料が多くなり、燃焼室17温度圧力が共に高くなる。
この場合、図7に実線で示されるように、吸気バルブ25の開放時期をN6位置に進角させることにより、吸気孔21及び排気孔22が共に開放されている期間N6〜吸気TDCはΔN1<ΔN2となり、新しく導入された吸気は期間ΔN2の間、頂面11Aに配設されたフィン11Dに接触し、フィン11Dから熱を奪い、排気バルブ26,26から排気通路24に排出される期間が長くなり、燃焼室17はさらに冷却され、更なるエンジン10の高圧縮比化が図られ、エンジン10の出力向上及び、省燃費の効果が得られる。
また、吸気バルブ25,25はリフト量L2が排気バルブ26,26のリフト量L1よりΔL(L2−L1)大きくしてあり、シリンダライナ14内への吸入空気量の増大を図っている。
【0033】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態にかかるピストン頂部の斜視図を示す。
尚、本第2実施形態はエンジン本体側の構造は第1実施形態と同じなので、同じものは同一の符号を付して説明を省略し、ピストン頂面に配設されたフィン形状のみを図4に基づいて説明する。
図4において、ピストン20の頂面20Aには、該頂面20Aの中心Cの排気バルブ側
に寄った位置を中心20Cにして渦巻状に配置されている。該渦巻は渦巻の間隔Rが外側になるにしたがって大きくなる軌跡上に半球状のフィン20Dが配設されている。
そして、前記軌跡に配置される上半球状のフィン20Dの配設ピッチPは中心20Cから渦巻状の最終位置のフィン20Fまで順次大きくなるように配設されている。
当然、中心20Cは図2のT1領域の中心T1Cに同じくしてある。
【0034】
このように、半球状のフィン20Dを配設することにより、ピストン20を成形するダイキャスト型が容易にでき、ピストン20のコストを低減ができると共に、燃焼室17を効果的に冷却できる。
尚、本実施形態では球状のフィン20Dを渦巻状の軌跡に中心から最終位置まで配設ピッチPを順次大きくなるように配設したが、断面形状を図6の(A),(B)及び(C)にして渦巻状の軌跡に沿って連続又は、断続したフィン形状にしても、同様の効果を得ることができる。
また、フィン20Dの渦巻の間隔Rを外側になるにしたがい大きく、且つ、フィン20Dの配設ピッチPを中心20Cから渦巻状の最終位置のフィン20Fまで順次大きくなるように配設したので、高温のT1領域(ピストン中心域を含む排気弁寄り)はフィン11Dの配設密度を高く(密)にすることにより多くの熱量を吸気に蓄熱させ、二番目に高い温度のT2領域(高温のT1領域の周辺域)はフィン11Dの配設密度をT1領域より低く(疎)にすることにより、燃焼室17内が過冷却にならないようにしている。燃焼室17内に導入された吸気温度を低く抑えて、ノッキングを防止すると共に、エンジンの最適燃焼温度条件を維持することができエンジン出力向上及び省燃費化の効果が得られる。
【0035】
(第3実施形態)
図5は本発明の第3実施形態にかかるシリンダヘッド燃焼室側視の概略構成図を示す。
尚、本第3実施形態はエンジン本体側及びシリンダヘッドの構造は第1実施形態と同じなので、同じものは同一の符号を付して説明を省略し、ピストン頂面に配設されたフィン形状のみを図5に基づいて説明する。
【0036】
13はシリンダヘッドで、図5は燃焼室17側視を示し、右側の(図5において)吸気側斜面16には、吸気通路23、23(図1参照)に連通した吸気孔21,21と、該吸気孔21,21間で側壁部13B(図1参照)寄りに燃焼室17に燃料を噴射するインジェクションノズル30が配設されている。
図5の左側(図5において)排気側斜面15には、排気通路24,24に連通した排気孔22,22が配設されている。
そして、排気側斜面15と吸気側斜面16が接合する頂部には、燃焼室17に導入された空気と燃料との混合気を燃焼させるスパークプラグ18が配設されている。
【0037】
排気側斜面15には吸気側斜面16よりフィン13Dの配設密度を高く(密)してある(斜線の間隔がフィン13Dの配設量の疎密を表わしている)。
これは、吸気側斜面16は吸気通路23、23からの吸気が吸気バルブ25の傘部25A(図1参照)に当接して、該傘部25Aの外周方向へ流れるため、吸気バルブ25周辺は冷却され易い。
従って、吸気バルブ25のフィン13Dは排気側斜面15側より配設密度を低く(疎)してある。
一方、排気側斜面15は高温になった排ガスが排気孔22,22から排気通路24,24に流れていくので、排気孔22,22周辺は高温になり易くなっているので、フィン13Dの配設密度は吸気側斜面16側より高く(密)なっている。
従って、燃焼室17の過冷却を防止でき、エンジンの最適燃焼の温度条件を維持することができ、エンジンの出力向上及び、省燃費の効果が得られる。
尚、フィン13Dの形状は図6に表わしてある形状でもよいし、吸入空気との接触表面積が多くなる形状ならば、同様の効果を得ることができる。
【0038】
シリンダヘッド13側に、燃焼室17の冷却用のフィン13Dを配設することにより、燃焼室17を効果的に冷却でき、エンジン10の出力向上及び、省燃費の効果向上が図れる。
また、本実施形態をピストン11の頂面11Aにフィン11Dを採用した第1実施形態と併用することで、さらに、高圧縮比化のエンジン10にすることにより、エンジン出力向上及び、省燃費効果の向上が図れる。
尚、上記に実施形態を説明したが、シリンダヘッド13側とピストン11(20)側との実施形態を組合せたものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
高圧縮比化される内燃機関の燃焼室を冷却して、エンジンのノッキング(異常燃焼)を防止して、高出力と省燃費化を図る内燃機関に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン
11,20 ピストン
12 シリンダブロック
13 シリンダヘッド
14 シリンダライナ
17 燃焼室
18 点火プラグ
21 吸気孔
22 排気孔
23 吸気通路
24 排気通路
25 吸気バルブ
26 排気バルブ
30 インジェクションノズル
11A,20A 頂面
11D、13D、20D フィン
13B 側壁部
25A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックと吸気弁及び排気弁を備えたシリンダヘッドとで形成される内燃機関のシリンダと、該シリンダ内をシリンダの軸線に沿って摺動するピストンの頂面とによって囲繞された燃焼室の冷却構造であって、
該燃焼室を形成する面に冷却用フィンを配設し、排気側に位置する該冷却用フィンの配設密度を吸気側よりも高く形成することを特徴とする内燃機関の燃焼室冷却構造。
【請求項2】
前記冷却用フィンの配設密度が高く形成された排気側領域において、前記ピストン中心側の冷却用フィンの配設密度を更に高く形成することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼室冷却構造。
【請求項3】
前記冷却用フィンは前記ピストン頂面に設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の燃焼室冷却構造。
【請求項4】
前記冷却用フィンは前記シリンダヘッドの前記燃焼室に臨んだ面に配設されたことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の燃焼室冷却構造。
【請求項5】
前記冷却用フィン形状は、凹状又は、凸状をなし、且つ該凹状又は、凸状が連続又は非連続に配設されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の内燃機関の燃焼室冷却構造。
【請求項6】
前記内燃機関の出力が増大したときに、吸気バルブの開弁時期を進角させるようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の内燃機関の燃焼室冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15020(P2013−15020A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146152(P2011−146152)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】