説明

内燃機関の異常診断装置

【課題】アルコール濃度センサの異常診断を高い精度で実施する。
【解決手段】エンジン10は、同エンジン10に供給される燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサ33を備えている。また、エンジン10の暖機状態とアルコール濃度センサ33により検出されるアルコール濃度とに基づいて、エンジン10の暖機完了前における燃料噴射量について暖機増量補正が実施されるとともに、酸素センサ27の検出値に基づいて実空燃比が目標空燃比になるよう空燃比制御が実施される。このエンジン10を制御するECU40は、エンジン10の温度が、同エンジン10の暖機完了前での第1診断温度、及びこれとは異なる第2診断温度であるときの目標空燃比に対する実空燃比の空燃比ずれ量をそれぞれ算出し、それら算出した空燃比ずれ量に基づいてアルコール濃度センサ33の異常を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の異常診断装置に関し、詳しくは内燃機関に供給される燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサの異常診断を実施する内燃機関の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇に対する危惧や地球温暖化の緩和等を背景に、ガソリン等の化石燃料の代替としてアルコール燃料が注目を集めており、それ単独であるいはガソリンなどの他の燃料と混合することで内燃機関の燃料として使用することが提案されている。このようなシステムでは、内燃機関に供給する燃料のアルコール濃度をアルコール濃度センサで検出し、その検出値に応じて内燃機関の各種制御を実施している。そのため、アルコール濃度センサに何らかの異常が発生した場合には、内燃機関の各種制御を適正に実施できないおそれがある。
【0003】
そこで、アルコール濃度センサの異常を診断するための方法が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、空燃比フィードバック制御における空燃比補正係数に基づき算出される空燃比学習値(学習補正係数)に基づいて、アルコール濃度センサの異常診断を実施することが開示されている。具体的には、機関運転状態ごとに学習補正係数を更新する処理がキーオン時からある程度進行したとき、過去の学習補正係数に対して現在の学習補正係数が所定値以上異なる場合にアルコール濃度センサの異常有りと診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−94822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば燃料噴射弁の噴孔の詰まり異常や、燃料ポンプの不良による燃料圧力の低下等といった燃料系のシステム異常が発生した場合にも、上記と同様に、空燃比学習値の更新回数が多くなると考えられる。そのため、空燃比学習値の更新回数が多くなったからといってアルコール濃度センサの異常が発生したとは必ずしも特定できない。したがって、上記特許文献1に記載の手法でアルコール濃度センサの異常を診断する場合、アルコール濃度センサの異常でないにもかかわらず同センサの異常有りと誤診断されることが考えられる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、アルコール濃度センサの異常診断を高い精度で実施することができる内燃機関の異常診断装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0008】
本発明は、内燃機関に供給される燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサを備え、前記内燃機関の暖機状態と前記アルコール濃度センサにより検出されるアルコール濃度とに基づいて前記内燃機関の暖機完了前における燃料噴射量について暖機増量補正が実施されるとともに、空燃比検出手段の検出値に基づいて実空燃比が目標空燃比になるよう空燃比制御が実施される内燃機関に適用される内燃機関の異常診断装置に関するものである。そして、請求項1に記載の発明は、前記内燃機関の温度が、同内燃機関の暖機完了前における第1診断温度、及び該第1診断温度とは異なる第2診断温度であるときの目標空燃比に対する実空燃比の空燃比ずれ量をそれぞれ算出するずれ量算出手段と、前記第1診断温度での空燃比ずれ量と前記第2診断温度での空燃比ずれ量とに基づいて前記アルコール濃度センサの異常を診断する異常診断手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
要するに、アルコールは、ガソリンに比べて温度による揮発性の差が大きく、低温時では内燃機関に供給される燃料がより気化しにくいという特性がある。したがって、アルコールを含む燃料を使用する場合、燃料噴射量における暖機増量補正では、機関温度が低いほど、又はアルコール濃度が高いほど、燃料噴射量が多くなるようにしている(図3参照)。
【0010】
ここで、本発明者は、アルコール濃度センサの異常が発生した場合、暖機増量補正が適正に実施できないことに起因して、機関温度が低いほど実空燃比の目標空燃比に対する空燃比ずれが大きくなることを見出した。つまり、内燃機関の暖機完了前においてアルコール濃度が誤検出された状態では、暖機増量補正による燃料量補正の影響が大きいため、暖機増量補正が適正に行われないことに起因して燃料噴射量が適正値から大きくずれてしまう。そのため、空燃比ずれが大きくなる。ところが、内燃機関の暖機が進行すると、その進行に伴い暖機増量補正による燃料量補正の影響が次第に小さくなるため、アルコール濃度が誤検出された状態において空燃比ずれが次第に抑制される。一方、例えば機差のばらつきや、燃料噴射弁の詰まり異常といった事象により空燃比ずれが発生している場合には、これらの事象が温度に依存するものではないため、内燃機関の暖機完了前と暖機完了後とでは、同じ態様で空燃比ずれが発生する。
【0011】
その点に鑑み、本発明では、内燃機関の暖機完了前における機関温度(冷間時における機関温度)と、これとは異なる機関温度とでの空燃比ずれ量をそれぞれ算出し、それら算出した空燃比ずれ量に基づいてアルコール濃度センサの異常を診断する。これにより、アルコール濃度センサの異常が発生した場合に、その異常を特定することができる。したがって、本発明によれば、アルコール濃度センサの異常を高い精度で診断することができる。
【0012】
なお、第2診断温度は、第1診断温度と異なる温度であればよく、内燃機関の暖機完了前における機関温度であってもよいし、暖機完了時又は暖機完了後の機関温度であってもよい。
【0013】
空燃比フィードバック制御の実行中では、暖機増量補正が適正に行われないことに起因して空燃比ずれが大きくなることにより、空燃比フィードバック補正における補正量(空燃比補正係数)が過大になる。したがって、実空燃比が目標空燃比に一致するよう空燃比フィードバック制御が実施される構成では、請求項2に記載の発明のように、前記ずれ量算出手段が、前記空燃比フィードバック制御における空燃比補正係数を前記空燃比ずれ量として算出するとよい。
【0014】
第1診断温度での空燃比ずれ量と第2診断温度での空燃比ずれ量との比較により異常診断を実施する場合、第1診断温度と第2診断温度との差をできるだけ大きくすることにより、異常診断の精度を高めることができる。したがって、請求項3に記載の発明のように、前記第1診断温度を、前記内燃機関の暖機が完了したとされる暖機完了温度を基準に所定温度だけ低側の温度に設定し、前記第2診断温度を、前記暖機完了温度又は前記暖機完了温度よりも高温側に設定するとよい。
【0015】
請求項4に記載の発明は、内燃機関に供給される燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサを備え、前記内燃機関の暖機状態と前記アルコール濃度センサにより検出されるアルコール濃度とに基づいて前記内燃機関の暖機完了前における燃料噴射量について暖機増量補正が実施されるとともに、空燃比検出手段の検出値に基づいて実空燃比が目標空燃比になるよう空燃比フィードバック制御が実施される内燃機関に適用されるものである。また特に、前記内燃機関の暖機後において、目標空燃比に対する実空燃比の定常的なずれを解消するための空燃比学習値を算出する学習値算出手段と、前記内燃機関の暖機完了前において、前記学習値算出手段により算出した空燃比学習値による噴射量補正を実施した場合の目標空燃比に対する実空燃比の空燃比ずれ量を算出するずれ量算出手段と、前記ずれ量算出手段により算出した空燃比ずれ量に基づいて前記アルコール濃度センサの異常を診断する異常診断手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
要するに、例えば機差のばらつきや、燃料噴射弁の詰まり異常といった事象に起因する空燃比ずれは、内燃機関の暖機状態の程度にかかわらず発生するため、内燃機関の暖機完了前において、暖機後に算出した空燃比学習値による噴射量補正を実施した場合には、その空燃比ずれを解消できると考えられる。一方、アルコール濃度センサの異常に伴い暖機増量補正が適正に実施されないことよって発生する空燃比ずれについては、内燃機関の暖機後には発生しないため、内燃機関の暖機完了前において、暖機後に算出した空燃比学習値による噴射量補正を行ったとしても、その空燃比ずれを解消することができない。
【0017】
その点に鑑み、本発明では、内燃機関の暖機完了前において、暖機後に算出した空燃比学習値を用いて噴射量補正を実施した場合の空燃比ずれ量に基づいてアルコール濃度センサの異常を診断する。これにより、アルコール濃度センサの異常が発生した場合に、その異常を特定することができる。したがって、本発明によれば、アルコール濃度センサの異常を高い精度で診断することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記内燃機関の始動時において、少なくとも前記ずれ量算出手段による前記内燃機関の冷間時における空燃比ずれ量の算出が完了するまでの期間で、前記内燃機関の暖機を遅延させる暖機遅延手段を備える。
【0019】
内燃機関の冷間始動時において暖機増量補正を実施した状態での空燃比ずれ量を用いて異常診断を実施する場合、その空燃比ずれ量を算出する時点での内燃機関の温度(例えばエンジン水温)が低いほど、異常診断の精度が高くなると考えられる。この点、上記構成によれば、暖機完了前における空燃比ずれ量の算出が完了するまでの期間では内燃機関の暖機が遅延されるため、より低い温度での空燃比ずれ量を算出することができ、ひいては異常診断の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】エンジン制御システムの全体概略を示す構成図。
【図2】アルコール濃度とアルコール濃度補正係数との関係を示す図。
【図3】アルコール濃度とエンジン冷却水温と暖機増量補正係数との関係を示す図。
【図4】アルコール濃度センサの異常診断処理を説明するためのタイムチャート。
【図5】第1の実施形態におけるアルコール濃度センサの異常診断処理の処理手順を示すフローチャート。
【図6】第2の実施形態におけるアルコール濃度センサの異常診断処理の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、内燃機関である車載多気筒ガソリンエンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものとしている。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御等を実施する。このエンジン制御システムの全体概略構成図を図1に示す。
【0022】
図1に示すエンジン10において、吸気管11(吸気通路)の最上流部にはエアクリーナ12が設けられ、エアクリーナ12の下流側には吸入空気量を検出するためのエアフロメータ13が設けられている。
【0023】
エアフロメータ13の下流側には、DCモータ等のスロットルアクチュエータ15によって開度調節されるスロットルバルブ14が設けられている。スロットルバルブ14の開度(スロットル開度)は、スロットルアクチュエータ15に内蔵されたスロットル開度センサにより検出される。
【0024】
スロットルバルブ14の下流側にはサージタンク16が設けられ、このサージタンク16には、吸気管圧力を検出するための吸気管圧力センサ17が設けられている。また、サージタンク16には、エンジン10の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド18が接続されており、吸気マニホールド18において各気筒の吸気ポート近傍には燃料を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0025】
燃料噴射弁19は、燃料配管31を介して燃料タンク32に接続されている。燃料タンク32には、アルコール濃度を検出可能なアルコール濃度センサ33が設けられている。このアルコール濃度センサ33の検出値により、燃料タンク32内の燃料中のアルコール濃度(燃料タンク32内の燃料のガソリンとアルコールとの比率)が検出される。また、燃料タンク32には、燃料タンク32内の燃料量を計測する燃量計34が設けられている。
【0026】
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気バルブ21及び排気バルブ22が設けられている。この吸気バルブ21の開動作によりサージタンク16内の空気が燃焼室23内に導入され、排気バルブ22の開動作により燃焼後の排ガスが排気管24に排出される。
【0027】
エンジン10のシリンダヘッドには、気筒毎に点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25には、点火コイル等よりなる点火装置(図示略)を通じて、所望とする点火時期において高電圧が印加される。この高電圧の印加により、各点火プラグ25の対向電極間に火花放電が発生し、燃焼室23内に導入した混合気が着火され燃焼に供される。
【0028】
排気管24には、排気中のCO,HC,NOx等を浄化するための三元触媒等の触媒26が設けられている。また、触媒26の上流側には、排気を検出対象として混合気の空燃比(酸素濃度)を検出するための酸素センサ27が設けられている。酸素センサ27について本実施形態では、センサ素子への電圧印加により排出ガス中の酸素濃度に比例した広域の空燃比信号を出力する広域検出タイプのA/Fセンサであり、本実施形態では特に、シート状の固体電解質層にヒータ層を積層配置した積層型を採用している。
【0029】
その他本システムには、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温センサ29や、エンジン10の所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)矩形状のクランク角信号を出力するクランク角度センサ28などが設けられている。
【0030】
ECU40は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)41を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。すなわち、ECU40のマイコン41は、前述した各種センサなどから各々検出信号を入力し、それらの各種検出信号に基づいて燃料噴射量や点火時期等を演算するとともに、その演算結果に基づいて燃料噴射弁19や点火装置の駆動を制御する。
【0031】
燃料噴射量制御について、マイコン41は、エンジン10の吸入空気量とエンジン回転速度とから基本燃料量TPを算出するとともに、その基本燃料量TPに対して各種補正を行って最終燃料量を算出する。そして、最終燃料量を噴射時間に換算し、算出した噴射時間だけ燃料噴射弁19を開弁する。
【0032】
燃料噴射量の各種補正の一つとして、マイコン41は、空燃比フィードバック補正を実施する。具体的には、酸素センサ27により検出される空燃比検出値(実空燃比)を目標値(例えば理論空燃比)に一致させるべく、実空燃比と目標値との偏差に基づいて空燃比補正係数FAFを算出する。そして、その空燃比補正係数FAFを基本燃料量TPに乗算することにより、空燃比偏差に応じて基本燃料量TPを増側又は減側に補正する。また、マイコン41は、目標空燃比に対する実空燃比の定常的なずれを解消すべく、空燃比補正係数FAFに基づいて空燃比学習値FLRNを算出して更新する空燃比学習を実施しており、その算出した学習値FLRNにより噴射量補正を行う。なお、空燃比学習値FLRNは、エンジン10の運転領域毎に随時算出され、その算出値が、EEPROMやバックアップRAM等のバックアップ用メモリに記憶され更新される。
【0033】
他の噴射量補正として、マイコン41は、燃料中のアルコール濃度に応じた補正(アルコール濃度補正)を実施する。すなわち、ガソリンとアルコールとでは発熱量が異なり、アルコールではガソリンよりも発熱量が小さい。そのため、空燃比を目標値とする場合、燃料中のアルコール濃度が高いほど噴射すべき燃料量を多くする必要がある。これに鑑み、燃料中のアルコール濃度に応じて基本燃料量TPを補正するのである。具体的には、アルコール濃度センサ33により検出されるアルコール濃度に応じてアルコール濃度補正係数FALを算出し、その補正係数FALを基本燃料量TPに乗算する。これにより、ガソリン燃料を基準に基本燃料量TPが設定される場合であれば、燃料中のアルコール濃度に応じて基本燃料量TPが増側に補正される。アルコール濃度とアルコール濃度補正係数FALとの関係を図2に示す。図2の関係によれば、アルコール濃度が高いほどアルコール濃度補正係数FALが大きい値になっている。
【0034】
また、噴射量補正としてマイコン41は、冷間時の運転性を確保すべく暖機増量補正を行う。ここで、アルコールは、ガソリンに比べて温度による揮発性の差が大きく、低温時には燃料噴射弁19から噴射された燃料がより気化しにくいという特性がある。そこで、暖機増量補正について本実施形態では、冷却水温センサ29により検出されるエンジン冷却水温と、アルコール濃度センサ33により検出されるアルコール濃度とに応じて暖機増量補正係数FWを算出し、その補正係数FWを基本燃料量TPに乗算することとしている。
【0035】
図3は、アルコール濃度とエンジン冷却水温と暖機増量補正係数FWとの関係を示す図である。図中、一点鎖線はエンジン冷却水温が25℃(冷間時)の場合を示し、実線はエンジン10の暖機完了を示す温度(暖機完了温度)の場合を示している。なお、本実施形態では、暖機完了温度が80℃となっている。図3の関係によれば、エンジン冷却水温が低いほど、暖機増量補正係数FWが大きい値になっている。また、アルコール濃度が高いほど、暖機増量補正係数FWが大きい傾向にあり、その傾向は、エンジン冷却水温が低いほど、アルコール濃度が高い領域において顕著になっている。換言すれば、エンジン冷却水温が低温側であって、かつアルコール濃度が高濃度側の場合には、暖機増量補正係数FWが極めて大きい値となり、例えばエンジン冷却水温が25℃の場合には、アルコール濃度が20%以下の領域で値1近傍であるのに対し、アルコール濃度80%では値5程度となっており、95%では値13程度となっている。一方、暖機完了温度では、アルコール濃度にかかわらず、暖機増量補正係数FWが値1近傍になっている。
【0036】
このように、燃料噴射量については、アルコール濃度センサ33により検出されるアルコール濃度に応じた各種補正(アルコール濃度補正、暖機増量補正)が実施されることにより最終噴射量が設定される。そのため、アルコール濃度センサ33の異常が発生した場合には、燃料噴射量を適正値に設定することができず、その結果、空燃比制御を適正に実施できないことが考えられる。そこで、マイコン41は、良好なる空燃比制御を実現すべく、アルコール濃度センサ33の異常診断を実施している。
【0037】
ここで、本発明者は、アルコール濃度センサ33の異常診断のための方法について鋭意検討し、その結果、図3の関係を利用することにより、例えば燃料噴射弁19の詰まり異常や燃料ポンプの異常といった他の異常と区別して、同センサ異常を高い精度で診断できることを見出した。
【0038】
以下、本実施形態のアルコール濃度センサ33の異常診断処理について、図4のタイムチャートを用いて説明する。図4において、(a)はエンジン冷却水温TWの推移を示し、(b)は噴射量補正における各種補正係数の推移を示す。なお、(b)において実線は暖機増量補正係数FWの推移を示し、一点鎖線はアルコール濃度補正係数FALの推移を示す。また、暖機増量補正係数FWについては、燃料中のアルコール濃度が20%の場合と80%の場合とを示している。この図4では、エンジン冷間始動時を想定している。
【0039】
燃料噴射量制御としては、エンジン始動当初において、まず吸入空気量とは無関係に燃料噴射量を増量する始動時増量が実施される。その後、一定時間増量することで始動直後のエンジン回転を安定させるための始動後増量補正が実施されるとともに、エンジン冷却水温及びアルコール濃度に応じた暖機増量補正が実施される。また、エンジン冷却水温TWが、空燃比F/B開始温度TFBに達することにより、空燃比制御において、オープン制御からフィードバック制御に切り替えられる。なお、空燃比F/B開始温度TFBについては、暖機完了温度T2よりも低温側に設定されている。
【0040】
ここで、燃料中のアルコール濃度と暖機増量補正との関係について、燃料中のアルコール濃度が20%の場合には、エンジン冷却水温の上昇に伴う暖機増量補正係数FWの減少度合いが小さいため(図3参照)、図4(b)に示すように、エンジン10の暖機に伴いエンジン冷却水温TWが上昇しても、暖機増量補正係数FWはさほど減少しない。
【0041】
これに対し、燃料中のアルコール濃度が80%の場合には、エンジン冷却水温の高低によって暖機増量補正係数FWが大きく異なるため(図3参照)、図4(b)に示すように、エンジン10の暖機に伴いエンジン冷却水温TWが上昇することにより、暖機増量補正係数FWが比較的大きい値(例えば値5〜6)から値1に向かって大きく減少する。
【0042】
つまり、エンジン冷却水温TWが暖機完了温度T2よりも低い場合には、アルコール濃度の相違により暖機増量補正係数FWが大きく異なり、アルコール濃度が高いほど、暖機増量補正係数FWが大きくなる傾向にある。また、この傾向は、エンジン冷却水温TWが低いほど顕著に現れる。これに対し、エンジン冷却水温TWが暖機完了温度T2又は暖機完了温度T2よりも高温側では、アルコール濃度が相違しても暖機増量補正係数FWはほとんど変わらず、値1近傍の値となる。なお、アルコール濃度補正係数FALについては、エンジン10の暖機状態にかかわらず、一定の値に設定される。
【0043】
したがって、アルコール濃度センサ33の異常により、例えば本来の燃料中のアルコール濃度が80%であるにもかかわらず20%であると誤検出された場合には、エンジン冷却水温TWが、例えばエンジン冷間時の第1温度T1のときであれば、暖機増量補正係数FWがΔFWだけ適正値よりも小さく設定されることとなる。そのため、燃料噴射量が不足し、実空燃比の目標空燃比からの空燃比ずれ量が大きくなり、結果として空燃比補正係数FAFが大きく設定される。
【0044】
一方、エンジン冷却水温TWが、暖機完了温度T2又は暖機完了温度T2以上の場合には、暖機増量補正係数FWがアルコール濃度の影響をほとんど受けないため、暖機増量補正に関して言えば、アルコール濃度センサ33の異常時であっても、その異常発生によって燃料噴射量に及ぼされる影響は少ない。したがって、エンジン10の冷間時において、その後、暖機が進むにつれて(エンジン冷却水温が上昇するにつれて)、空燃比ずれが次第に小さくなる。よって、エンジン10の暖機完了前と暖機後とでの空燃比ずれ量をそれぞれ算出して比較した結果、その空燃比ずれ量の差が大きい場合には、その空燃比ずれの原因がアルコール濃度センサ33の異常によるものと特定できると考えられる。
【0045】
なお、燃料噴射弁19の詰まり異常や、燃料タンク32のポンプ異常等といったアルコール濃度センサ33以外の燃料系異常が発生した場合には、これらの事象が温度に依存するものではないため、上記事象を原因としてエンジン10の暖機完了前と暖機後とで空燃比補正係数FAFが変化することはない。
【0046】
そこで、本実施形態では、エンジン冷却水温が、エンジン暖機完了前(エンジン冷間時)の第1診断温度、及び第1診断温度とは異なる第2診断温度での目標空燃比に対する実空燃比の空燃比ずれ量を、それぞれ第1空燃比ずれ量及び第2空燃比ずれ量として算出し、その算出した第1空燃比ずれ量及び第2空燃比ずれ量に基づいてアルコール濃度センサ33の異常診断を実施する。より具体的には、第2診断温度を、エンジン暖機完了温度又はこれよりも高温側とし、暖機完了前での空燃比ずれ量と暖機後での空燃比ずれ量との差が判定値以上の場合に、アルコール濃度センサ33の異常有りと診断する。
【0047】
次に、本実施形態におけるアルコール濃度センサ33の異常診断処理について図5のフローチャートを基に説明する。図5の異常診断処理は、マイコン41により所定周期毎に実行される。
【0048】
図5において、まずステップS101では、燃料タンク32内に燃料が補給されてから所定期間が経過したか否かを判定する。この所定期間は、燃料タンク32内への補給燃料と燃料タンク32内の残留燃料とが均一に混ざり合うのに要する時間として設定されている。これにより、燃料給油してから燃料が均質になるまでの所定期間はアルコール濃度センサ33の異常診断を禁止するようにしている。なお、燃料補給されたことは、例えば燃量計34により計測される燃料量が増加したことによって判定する。あるいは、燃料タンク32に設けられた燃料キャップが開閉されたことをセンサ等により検出することにより判定してもよい。
【0049】
燃料タンク32内に燃料補給されてから所定期間が経過していれば、ステップS102へ進み、アルコール濃度センサ33の検出値に基づいて、燃料中のアルコール濃度の変化量が所定の僅少値以下か否かを判定する。燃料中のアルコール濃度の変化が所定の僅少値以下であり、アルコール濃度の変化なしと判定される場合には、ステップS103へ進み、空燃比フィードバック制御の実行中か否かを判定する。ここでは、酸素センサ27が活性状態であって、かつ冷却水温センサ29により検出されるエンジン冷却水温が所定温度以上(例えば20℃以上)である場合に、空燃比フィードバック制御の実行中であると判定する。
【0050】
ステップS103で肯定判定されたことを条件にステップS104へ進み、エンジン冷間時での空燃比ずれ量である第1空燃比ずれ量ΔAF1が算出済みか否かを判定する。エンジン10の始動直後であれば、第1空燃比ずれ量ΔAF1は未だ算出済みでないことから、ステップS104で否定判定され、ステップS105へ進む。
【0051】
ステップS105では、冷却水温センサ29により検出されるエンジン冷却水温が、エンジン10の暖機完了温度(本実施形態では80℃)よりも低温側の第1診断温度か否かを判定する。第1診断温度について詳しくは、暖機完了温度を基準にその基準温度から所定温度だけ低温側の温度(例えば40〜50℃)に設定してある。
【0052】
エンジン冷却水温が第1診断温度であれば、ステップS106へ進み、第1空燃比ずれ量ΔAF1を算出する。本実施形態では、今現在の実空燃比及び目標空燃比に基づき別ルーチンで算出される空燃比補正係数FAFを取得し、この空燃比補正係数FAFを第1空燃比ずれ量ΔAF1としてRAM等に記憶する。そして、本ルーチンを一旦終了する。
【0053】
第1空燃比ずれ量ΔAF1の算出後では、ステップS104で肯定判定され、ステップS107へ進む。ステップS107では、冷却水温センサ29により検出されるエンジン冷却水温が、第1診断温度とは異なる温度であって、かつ第1診断温度よりも高温側の第2診断温度か否かを判定する。第2診断温度について詳しくは、暖機完了温度を基準にして設定してあり、本実施形態では、暖機完了温度又は暖機完了温度よりも高温側に設定してある。
【0054】
エンジン冷却水温が第2診断温度の場合には、ステップS108へ進み、エンジン暖機時の空燃比ずれ量として第2空燃比ずれ量ΔAF2を算出する。本実施形態では、今現在の実空燃比及び目標空燃比に基づき別ルーチンで算出される空燃比補正係数FAFを取得し、その空燃比補正係数FAFを第2空燃比ずれ量ΔAF2としてRAM等に記憶する。
【0055】
その後、ステップS109にて、第1空燃比ずれ量ΔAF1及び第2空燃比ずれ量ΔAF2を読み出し、その読み出した第1空燃比ずれ量ΔAF1と第2空燃比ずれ量ΔAF2との差分ΔAF(≧0)が異常判定値TH以上か否かを判定する。このとき、差分ΔAFが異常判定値TH未満であれば、ステップS110へ進み、アルコール濃度センサ33は正常であると判定する。一方、差分ΔAFが異常判定値TH以上であれば、ステップS111へ進み、アルコール濃度センサ33の異常有りと判定する。
【0056】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0057】
エンジン冷却水温が、エンジン暖機完了前の第1診断温度及び第1診断温度とは異なる第2診断温度での空燃比ずれ量を、それぞれ第1空燃比ずれ量ΔAF1及び第2空燃比ずれ量ΔAF2として算出し、その算出した第1空燃比ずれ量ΔAF1及び第2空燃比ずれ量ΔAF2に基づいてアルコール濃度センサ33の異常診断を実施する構成としたため、アルコール濃度センサ33の異常が発生した場合に、例えば機差のばらつきや、燃料噴射弁の詰まり異常といった事象とは区別して、その異常を特定することができる。したがって、アルコール濃度センサ33の異常を高い精度で診断することができる。
【0058】
空燃比フィードバック制御における空燃比補正係数FAFを空燃比ずれ量として算出する構成としたため、空燃比ずれ量に基づく異常診断を好適に実施することができる。
【0059】
暖機完了温度を基準に同温度よりも所定温度だけ低温側の温度を第1診断温度とし、暖機完了温度又は暖機完了温度よりも高温側の温度を第2診断温度とする構成としたため、第1診断温度と第2診断温度との差をできるだけ大きくすることができる。これにより、異常診断の精度を高めることができる。
【0060】
燃料タンク32内に燃料が補給されてから所定期間が経過したことを条件にアルコール濃度センサ33の異常診断を実施する構成としたため、燃料タンク32内への補給燃料と燃料タンク32内の残留燃料とが均一に混ざり合った状態で同センサの異常診断を実施することができる。これにより、アルコール濃度センサ33の異常診断において誤診断を抑制することができる。
【0061】
酸素センサ27として積層型のA/Fセンサを用いる構成としたため、酸素センサ27が活性状態になるまでの時間が比較的短い。そのため、エンジン始動時において、エンジン水温がより低温側にある状態で空燃比フィードバック制御の実行を開始することができる。したがって、酸素センサ27を積層型のA/Fセンサとすることにより、第1診断温度をできるだけ低く設定することができ、上記異常診断の精度を高める上で好適である。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、上述した第1の実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1の実施形態では、エンジン暖機完了前における第1診断温度と、第1診断温度よりも高温側の第2診断温度とにおける空燃比ずれ量の差分に基づいてアルコール濃度センサ33の異常診断を実施したが、本実施形態では、エンジン暖機完了前において、エンジン暖機後の空燃比学習で算出した空燃比学習値を用いて噴射量制御(空燃比制御)を実行している際の空燃比ずれ量に基づいて、アルコール濃度センサ33の異常診断を実施する。
【0063】
すなわち、機差のばらつきや経時変化、あるいは燃料噴射弁19の詰まり異常等といった温度に依存しない定常的な要因に起因して空燃比ずれが生じている場合には、エンジン暖機後において算出した空燃比学習値を用いて噴射量補正を実施することにより、その噴射量補正の時期がエンジン暖機完了前であっても暖機後であっても、その空燃比ずれは解消される。一方、エンジン暖機完了前において、エンジン暖機後に算出した空燃比学習値を用いて空燃比フィードバック制御を実行しているにもかかわらず、空燃比ずれが大きい場合には、その空燃比ずれの要因は暖機完了前にのみ発生する事象に起因するもの、つまりアルコール濃度センサ33の異常により暖機増量補正が適正に行われていないことによるものと考えられる。そこで、本実施形態では、エンジン暖機後に算出した空燃比学習値を用いた噴射量制御の実行中での空燃比ずれ量が異常判定値以上の場合に、アルコール濃度センサ33の異常有りと診断する。
【0064】
図6は、本実施形態のアルコール濃度センサ33の異常診断処理の処理手順を説明するフローチャートである。この処理は、ECU40のマイコン41により所定周期毎に実行される。なお、以下の説明では、上記図5のフローチャートと同様の処理については、上記図5と同じステップ番号を示すことにより、その説明を省略する。
【0065】
図6において、まずステップS201〜S203では、図5のステップS101〜S103と同様の処理を実施する。続くステップS204において、エンジン10が冷間状態(暖機完了前の状態)か否かを判定する。冷却水温センサ29により検出されるエンジン冷却水温が所定の暖機完了温度(例えば80℃)以上であって、エンジン暖機状態であると判定される場合には、ステップS205へ進み、空燃比学習を実施する。すなわち、空燃比補正係数FAFに基づいて空燃比学習値FLRNを算出し、その算出した学習値FLRNをエンジン10の運転状態毎にバックアップ用メモリに記憶・更新する。そして、一旦本ルーチンを終了する。
【0066】
さて、エンジン暖機後において空燃比学習値を算出した後、例えば次回以降のエンジン始動として冷間始動が行われ、かつ空燃比フィードバック制御の実行が開始されると、ステップS203で肯定判定された後、ステップS204で肯定判定される。この場合、ステップS206へ進み、今現在のエンジン運転状態に対応する空燃比学習値FLRNがエンジン暖機後に算出した値となっており、かつその空燃比学習値FLRNによる噴射量補正を実施しているか否かを判定する。エンジン暖機後に算出した学習値FLRNによる噴射量補正を実施している場合には、ステップS207へ進む。
【0067】
ステップS207では、空燃比ずれ量ΔAFを算出する。ここでは、今現在の実空燃比及び目標空燃比に基づき別ルーチンで算出される空燃比補正係数FAFを取得し、その空燃比補正係数FAFを空燃比ずれ量ΔAFとする。また、ステップS208では、その算出した空燃比ずれ量ΔAFが異常判定値TH以上か否かを判定する。そして、空燃比ずれ量ΔAFが異常判定値TH未満であれば、ステップS209へ進み、アルコール濃度センサ33は正常であると判定する。一方、空燃比ずれ量ΔAFが異常判定値TH以上であれば、ステップS210へ進み、アルコール濃度センサ33の異常有りと判定する。
【0068】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0069】
エンジン10の暖機完了前において、暖機後に算出した空燃比学習値FLRNを用いて噴射量補正を実施した場合の空燃比ずれ量ΔAFに基づいてアルコール濃度センサ33の異常を診断する構成としたため、アルコール濃度センサ33の異常が発生した場合に、例えば機差のばらつきや、燃料噴射弁の詰まり異常といった事象とは区別して、その異常を特定することができる。したがって、アルコール濃度センサの異常を高い精度で診断することができる。
【0070】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0071】
・上記第1の実施形態では、第1診断温度及び第2診断温度での空燃比ずれ量をそれぞれ算出し、その空燃比ずれ量の比較により異常診断を実施したが、第1診断温度及び第2診断温度を設定せずにエンジン暖機前及び暖機後での空燃比ずれ量を比較する構成としてもよい。つまり、ステップS105では、第1診断温度であるか否かを判定するのに代えて、エンジン暖機前であるか否かを判定し、ステップS107では、第2診断温度であるか否かを判定するのに代えて、エンジン暖機後であるか否かを判定する。この場合であっても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0072】
・上記第1の実施形態では、第1診断温度をエンジン暖機完了前の所定温度とし、第2診断温度を暖機完了温度又はそれより高温側としたが、第1診断温度と第2診断温度とが異なる温度であれば、第1診断温度及び第2診断温度の両者をエンジン暖機完了前の温度としてもよい。アルコール濃度センサ33の異常に起因するエンジン暖機完了前での空燃比ずれは、エンジン10の暖機が進行するにつれて次第に小さくなる。したがって、エンジン暖機完了前において異なる2つの温度での空燃比ずれ量を比較した場合であっても、アルコール濃度センサ33の異常を特定することができる。
【0073】
・上記第1の実施形態では、第1診断温度と第2診断温度との2つの異なる温度での空燃比ずれ量に基づいて異常診断を実施したが、3つ以上の異なる温度での空燃比ずれ量に基づいて異常診断を実施してもよい。こうすることで、異常診断における診断精度を高めることができる。
【0074】
・上記実施形態では、空燃比補正係数FAFを空燃比ずれ量としてアルコール濃度センサ33の異常診断を実施する構成としたが、空燃比補正係数FAFと空燃比学習値FLRNとを加算した値を空燃比ずれ量として同異常診断を実施する構成としてもよい。
【0075】
・上記第1の実施形態において、空燃比補正係数FAFを異常判定パラメータとしてアルコール濃度センサ33の異常診断を実施する場合、空燃比補正係数FAFが、第1診断温度において、その制御可能範囲の上限値又は下限値(増量側及び減量側のいずれかの最大値)で保持され、かつ第2診断温度において同制御可能範囲内になった場合に、アルコール濃度センサ33の異常有りと診断する。空燃比補正係数FAFが制御可能範囲の上限値又は下限値で保持されている場合は、空燃比補正係数FAFでは空燃比ずれを補正しきれない状態であり、このことは燃料噴射量が適正値に対して大きくずれていることを示している。したがって、本構成とした場合であっても、アルコール濃度センサ33の異常を特定することができる。
【0076】
また、上記第2の実施形態についても同様に、エンジン暖機完了前において空燃比補正係数FAFがその制御可能範囲の上限値又は下限値で保持された場合に、アルコール濃度センサ33の異常有りと診断できる。
【0077】
・エンジン始動時において、少なくともエンジン暖機完了前における空燃比ずれ量の算出が完了するまでの期間でエンジン10の暖機を遅延させる暖機遅延手段を備える構成とする。暖機遅延手段について具体的には、例えば、エンジン10の冷却システムとして、ラジエータと、該ラジエータとエンジン10とを接続する冷却水通路と、該冷却水通路の途中に配置され開閉状態を変更することにより冷却水温度を制御するサーモスタットとを備える場合に、上記図5又は図6の異常診断処理において、暖機完了前での空燃比ずれ量の算出が完了するまでの期間、サーモスタットを開弁状態に制御する。
【0078】
サーモスタットを有する冷却システムでは一般に、エンジン冷間始動の場合にはサーモスタットを閉弁状態にすることで、ラジエータを含む循環経路において冷却水の循環を停止させ、エンジン10が速やかに暖機されるようにしている。これに対し、本実施形態では、少なくともエンジン冷間始動時における空燃比ずれ量の算出が完了するまでの期間、サーモスタットを開弁状態にする。これにより、ラジエータを含む循環経路において冷却水の循環が行われ、エンジン冷却水温の上昇が緩慢になる。したがって、エンジン暖機完了前における空燃比ずれ量をより低い温度で算出することができ、ひいては異常診断の精度を高めることができる。
【0079】
・酸素センサ27としてA/Fセンサを用いる構成に代えて、エンジン10の空燃比がリッチかリーンかに応じて異なる起電力を発生するO2センサを用いる構成とする。リッチ/リーンの二値制御により空燃比フィードバック制御を行う場合であっても、アルコール濃度センサ33の異常により暖機増量補正が適正に行われないときには、エンジン暖機完了前では暖機後に比べて空燃比ずれが大きくなる。したがって、酸素センサ27としてO2センサを用いる構成においても、上記第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、積層型のセンサに代えて、例えばコップ型のセンサを用いてもよい。
【0080】
・上記実施形態では、空燃比補正係数FAFを、実空燃比と目標空燃比との偏差を考慮して算出したが、空燃比補正係数FAFについて実空燃比と目標空燃比との偏差が考慮されていない場合には、異常判定パラメータとして実空燃比と目標空燃比との偏差を加えるとよい。
【0081】
・上記実施形態では、空燃比制御としてフィードバック制御を行う構成について説明したが、オープン制御を実施する構成を本発明に適用してもよい。この場合であっても、アルコール濃度センサ33の異常発生によって暖機増量補正が適正に行われず、その結果、実空燃比と目標空燃比との偏差が、エンジン暖機完了前では暖機後よりも大きくなる。したがって、空燃比についてオープン制御を実施する構成を本発明に適用した場合であっても、アルコール濃度センサ33の異常診断を高精度に実施するといった効果を得ることができる。
【0082】
・空燃比ずれ量を算出するためのデータ取得時におけるエンジン温度(エンジン冷却水温)に応じて異常判定値THを可変にする構成とする。図3に示すように、エンジン冷却水温が低いほど暖機増量補正係数FWが大きいことから、エンジン冷却水温が低いほど燃料補正量が多くなり、その結果、アルコール濃度センサ33の異常時における空燃比ずれが大きくなることが考えられる。したがって、上記構成とすることにより、アルコール濃度センサ33の異常診断における診断精度を一層高めることができる。具体的には、エンジン温度が低いほど、異常判定値THを大きくするとよい。
【符号の説明】
【0083】
10…エンジン、27…酸素センサ(空燃比検出手段)、33…アルコール濃度センサ、40…ECU(空燃比検出手段、ずれ量算出手段、異常診断手段、フィードバック制御手段、学習値算出手段)、41…マイコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に供給される燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサを備え、前記内燃機関の暖機状態と前記アルコール濃度センサにより検出されるアルコール濃度とに基づいて前記内燃機関の暖機完了前における燃料噴射量について暖機増量補正が実施されるとともに、空燃比検出手段の検出値に基づいて実空燃比が目標空燃比になるよう空燃比制御が実施される内燃機関に適用され、
前記内燃機関の温度が、同内燃機関の暖機完了前における第1診断温度、及び該第1診断温度とは異なる第2診断温度であるときの目標空燃比に対する実空燃比の空燃比ずれ量をそれぞれ算出するずれ量算出手段と、
前記第1診断温度での空燃比ずれ量と前記第2診断温度での空燃比ずれ量とに基づいて前記アルコール濃度センサの異常を診断する異常診断手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の異常診断装置。
【請求項2】
前記空燃比検出手段の検出値に基づいて実空燃比が目標空燃比に一致するよう空燃比フィードバック制御を実施するフィードバック制御手段を備え、
前記ずれ量算出手段は、前記空燃比フィードバック制御における空燃比補正係数を前記空燃比ずれ量として算出する請求項1に記載の内燃機関の異常診断装置。
【請求項3】
前記第1診断温度は、前記内燃機関の暖機が完了したとされる暖機完了温度を基準に所定温度だけ低側の温度に設定され、
前記第2診断温度は、前記暖機完了温度又は前記暖機完了温度よりも高温側に設定されている請求項1又は2に記載の内燃機関の異常診断装置。
【請求項4】
内燃機関に供給される燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサを備え、前記内燃機関の暖機状態と前記アルコール濃度センサにより検出されるアルコール濃度とに基づいて前記内燃機関の暖機完了前における燃料噴射量について暖機増量補正が実施されるとともに、空燃比検出手段の検出値に基づいて実空燃比が目標空燃比になるよう空燃比フィードバック制御が実施される内燃機関に適用され、
前記内燃機関の暖機後において、目標空燃比に対する実空燃比の定常的なずれを解消するための空燃比学習値を算出する学習値算出手段と、
前記内燃機関の暖機完了前において、前記学習値算出手段により算出した空燃比学習値による噴射量補正を実施した場合の目標空燃比に対する実空燃比の空燃比ずれ量を算出するずれ量算出手段と、
前記ずれ量算出手段により算出した空燃比ずれ量に基づいて前記アルコール濃度センサの異常を診断する異常診断手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の異常診断装置。
【請求項5】
前記内燃機関の始動時において、少なくとも前記ずれ量算出手段による前記内燃機関の暖機完了前における空燃比ずれ量の算出が完了するまでの期間で、前記内燃機関の暖機を遅延させる暖機遅延手段を備える請求項1乃至4のいずれか一項に記載の内燃機関の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−33012(P2011−33012A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183264(P2009−183264)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】