説明

内燃機関の運転のためのシミュレーション方法及び装置

【課題】コストと資源の投入が削減され、マニュアルによるマッチングの必要性とテスト装置の使用を大幅に排除する内燃機関の運転のためのシミュレーション方法および装置を提供する。
【解決手段】内燃機関(10)の運転に影響を与える多数の制御パラメータ(Ps)を有する制御ユニット(20)を備えた内燃機関(10)の運転のためのシミュレーション方法において、シミュレーションのために制御ユニット(20)の制御パラメータ(Ps)の他に、内燃機関(10)に割り当てられている少なくとも一つの別のコンポーネント(11)の作動の特徴を示しているコンポーネントパラメータ(Pk)をも考慮するモデル(110)が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の運転に影響を与える多数の制御パラメータを有する制御ユニットを備えた内燃機関の運転のためのシミュレーション方法に関する。
【0002】
更に、本発明は内燃機関の運転のシミュレーションのための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
その様な方法及び装置は既に知られており、内燃機関をその運転特性(挙動)に関して最適化するために、通常、開発プロセスで用いられている。例えば、新しい燃料装置等の新しいコンポーネント等を内燃機関と組み合わせなければならなくなるや否や、更に内燃機関の望ましい運転特性が新しいコンポーネントとの組み合わせの下でも達成されるように、制御パラメータのマッチングが行なわれなければならない。それ故、制御ユニットの制御パラメータだけを考慮した内燃機関の孤立したシミュレーションを補足するものとして、その後追加としてアプリケーションプロセスによる制御パラメータのマッチングが行われ、その際に、制御パラメータが通常マニュアルで適合され、またそれによってもたらされた運転特性の変化がテスト装置或いはプロトタイプの上で技術的に測定される。
【0004】
既知の方法では、マニュアルによるアプリケーションと測定の実施に伴う高いコストと資源の投入、並びにとりわけ、その様なステップをその他の新しいコンポーネントの各々について実施しなければならないという必要性が欠点となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、冒頭に述べられた種類の方法と装置を、従来の方法から知られているコストと資源の投入が削減され、とりわけマニュアルによるマッチングの必要性とテスト装置の使用が大幅に排除されるように、改善することである。
【0006】
本発明の課題のもう一つの別の解決策として、内燃機関の運転のシミュレーションのための装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明によれば、冒頭に述べられた種類の方法では、シミュレーションのために、制御ユニットの制御パラメータの他に、その内燃機関に割り当てられている少なくとも一つの別のコンポーネントの作動の特徴を示しているコンポーネントパラメータをも考慮するモデルが用いられることによって解決される。例えば、エンジン制御装置等の制御ユニットの制御パラメータと、様々なコンポーネントの特徴を示しているコンポーネントパラメータとを、本発明に基づいて同時に考慮することによって、例えば、噴射弁等の新しいコンポーネントとの内燃機関の協働作用を有利に包括的にシミュレートすることができる。本発明に基づくモデルは、自らに割り当てられたコンポーネントを含めた内燃機関の最適化を可能にするので、とりわけ、従来の内燃機関自体の孤立したシミュレーションの二段階のプロセスとそれに続くその時々の新しいコンポーネントに対する制御パラメータのマッチング、及びそれに伴う資源の投入を回避することができる。本発明に基づくモデルは、極めて特別に有利なことに制御パラメータとコンポーネントパラメータとの間の依存関係の考慮をも可能にし、それによって内燃機関と内燃機関に割り当てられたコンポーネントによって形成された機能ユニットの精確で且つ同時に効率的な最適化を可能にする。
【0008】
コンポーネントパラメータが、内燃機関に割り当てられている燃料装置、とりわけ噴射弁の作動、および/または内燃機関に割り当てられたエア装置の作動の特徴を示している場合には、本発明に基づく内燃機関のシミュレーションは、有利なことに、とりわけ内燃機関の排気ガス特性に関する最適化の意図を持って行うことが可能である。それ等のコンポーネントパラメータは更に、内燃機関のその他の装置、例えばセンサユニット、とりわけ温度センサ等、或いは又トランスミッションコントロール等の特徴を示していることもあり得る。
【0009】
制御パラメータおよび/またはコンポーネントパラメータは、本発明に基づく方法の別の実施態様によれば、少なくとも部分的にソフトウェアパラメータ、とりわけ、制御ユニット或いはコンポーネントを制御している演算ユニットに適用可能なパラメータとして設計されたソフトウェアパラメータとし、且つシミュレーションの成功後に、演算ユニットに割り当てられているメモリに格納されることができる。時間のかかる複数のパラメータの相次ぐ修正を含む、従来のマニュアルによる適用とは異なり、本発明に基づくモデルを使用すれば、それ等のパラメータは、とりわけ後からパラメータの更なる修正を必要とすること無しに、一回で求められ且つ引き続いて記憶されることができる。
【0010】
制御パラメータおよび/またはとりわけコンポーネントパラメータが、少なくとも部分的に物理的な、とりわけ電気的および/または機械的な、制御ユニット或いはコンポーネントの特性を表していればとりわけ有利であり、そうすれば、この種の様々なパラメータを備えたコンポーネントを用いた多数のテスト装置の代わりに、望ましい構成が主としてシミュレーションによって得られるようになるので、テスト装置は、最早主として個々のパラメータ構成のサンプリング検査的な確認のためにだけ備えられることとなる。更にとりわけ、新しいコンポーネントは、既知のコンポーネントと類似の物理的特徴或いは類似の寸法形状を持つことができ、或いはそのコンポーネントパラメータは、既に本発明に基づくモデルで用いられている既知のコンポーネントのパラメータから導き出すことができるので、新しいコンポーネントのコンポーネントパラメータをテスト装置で或いは一連の測定によって求めることが不要となる。
【0011】
従って、内燃機関に割り当てられているコンポーネントを含めた内燃機関の効率的な最適化の可能性は、本発明の別の有利な実施態様によれば、内燃機関の望ましい運転特性を量子化するオブジェクト(目的)関数が形成され且つ内燃機関の運転特性がこの目的関数に応じて制御パラメータおよび/またはコンポーネントパラメータを変化させながら最適化されるということによって与えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明に基づくモデルの形成および/または補足は、制御パラメータおよび/またはコンポーネントパラメータの間の依存関係、とりわけテスト装置に基づいて求めるか或いは既に知られている依存関係を、モデルへ組み込むということによって、有利に行われることができる。
【0013】
本発明のその他の利点や有利な実施態様は、この後に示されている図面、その説明、及び特許請求の範囲の記載から引き出すことができる。図面、その説明、及び特許請求の範囲に記載されている全てのメルクマールは、単独でも、またそれ等の任意の組み合わせでも本発明の核心となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1a】図1aは、本発明に従ってシミュレートされた内燃機関を示す。
【図1b】図1bは、本発明に基づく装置の簡略化されたブロック図を示す。
【図2】図2は、本発明に基づく方法の一つの実施例の流れ図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1aは、例えばエンジン制御装置として作られた制御ユニット20が割り当てられている、自動車の内燃機関10を略示している。制御ユニット20は、ここでは制御ユニット20の不揮発性メモリ(図示されていない)に格納されており且つ例えばアプリケーションプロセスの枠組みの中でマッチングされることのできる多数の制御パラメータに応じて、内燃機関10を制御する。
【0016】
制御パラメータは、内燃機関10の運転特性に影響を与え、また例えばとりわけ内燃機関10の排気ガス特性に対しても影響を与えることができる。
【0017】
図1aに示されている内燃機関10のシミュレーションのために、図1bにブロック図の形で表わされている本発明に基づく装置100が備えられているが、この装置は、例えばパーソナルコンピュータと本発明に基づく方法の実施のためにプログラムされたソフトウェアを用いて実現することができる。
【0018】
この装置100は、本発明に従って内燃機関10の運転特性(挙動)のシミュレーションのために用いられるモデル110を備えている。このモデル110には、ここでは矢印Psによって表わされている制御ユニット20の制御パラメータが送り込まれ、それによって運転特性のシミュレーションのための対応するパラメータ値を考慮することができる。これによって、対応するテスト装置を必要とすること無しに、様々なパラメータ値或いは幾つかのパラメータの組み合わせの影響の下で、内燃機関10の運転特性を調べることができる。
【0019】
本発明によれば、モデル110には更に、同じく矢印によって表わされているコンポーネントパラメータPkが送り込まれるが、このコンポーネントパラメータPkは、この内燃機関10に割り当てられている少なくとも一つの別のコンポーネント11(図1a参照)の動作の特徴を示している。このコンポーネント11は、例えば内燃機関10の燃料装置とすることができるし或いは単に一つの特定の噴射弁とすることもできる。一般に、このコンポーネント11は、内燃機関10の運転特性に影響を与えるか、或いは、自らの作動特性が制御ユニット20によって用いられる制御パラメータPsによって影響を受ける、内燃機関10と共に働く任意の装置と考えることができる。
【0020】
本発明によって、コンポーネントパラメータPkが同じモデル110で制御パラメータPsと一緒に考慮されるということによって、有利なことに、とりわけ内燃機関10がコンポーネント11と一緒に働く時でも、内燃機関10の運転特性の精確なシミュレーションが可能となる。
【0021】
パラメータPs、Pkが内燃機関10とコンポーネント11に対してそれぞれ別々に最適化され、次いでコンポーネント10、11が組み合わせられた時に、後から例えばテスト装置を用いてマッチングされるという従来の方法と比べて、同時に両方のパラメータ群Ps,Pkを用いるモデル110による本発明に基づくモデリングは、既にシミュレーション段階で、個々の異なるパラメータ群Ps、Pkに属するパラメータの依存関係を考慮することを可能にする。それによって、本発明に基づく方法を使用すれば、テスト装置や検査測定の数を有利に削減することができ、これがより迅速な開発サイクルを可能にし、また経済性を向上させる。
【0022】
更に、ひとたび求められて本発明に基づくモデル110に組み込まれた関係は、後からの開発やシミュレーションのプロセスのためにも利用することができる。
【0023】
制御パラメータPsは、先に説明された様に、好ましくはソフトウェアパラメータとして作られるが、内燃機関10の運転特性に影響を与える、制御装置20の物理的な、とりわけ幾何学的な大きさか或いはその他の特性を表すこともできる。
【0024】
コンポーネントパラメータPkは、コンポーネント11のとりわけ物理的な、例えば電気的および/または機械的或いは幾何学的な、特性を表すことができる。例えば、燃料噴射弁として作られたコンポーネント11に割り当てられたコンポーネントパラメータPkは、噴射角度或いは噴射回数、流れ特性、並びに例えば可動要素の慣性モーメント等の特徴を表すことができる。同様に、燃料噴射弁の制御に関するパラメータ、例えば入力段階或いはドライバ段階の微分抵抗或いは燃料噴射弁の電気的パラメータの温度依存性は、コンポーネントパラメータPkによって表わすことができる。
【0025】
例えば、マイクロコントローラ等の演算ユニットによる独自制御装置を備えた内燃機関10に割り当てられた、その様なコンポーネントの場合には、コンポーネントパラメータPkはまた、コンポーネント11の特定の作動特性の完全な特徴付けを可能にするために、前記の演算ユニットのソフトウェアパラメータをも含むことがある。
【0026】
図2に示されている本発明に基づくシミュレーション方法の第一のステップ200では、内燃機関10(図1a)の望ましい運転特性を量子化し、パラメータPs、Pkに応じてそれに対応する値を取る目的関数が形成される。この目的関数としては、例えばパラメータPs、Pkに応じて内燃機関10の排気ガス特性を記述する関数を考えることができる。本発明に基づくモデル110(図1b)によって、シミュレーションプロセスで求められた目的関数の結果値Eが、本発明に基づく第二のプロセスステップ210で評価される。
【0027】
評価ステップ210に続いて、プロセスステップ220で、装置10、コンポーネント11の評価されたパラメータPs、Pkの修正が行われ、その後で、ステップ210、220が、場合によっては、予め与えて置くことのできる停止基準が満たされるまで繰り返される。前記の停止基準は、例えば予め与えて置くことのできる結果値への到達を示すことができる。パラメータPs、Pkの修正ステップ220は、例えば当業者に既に知られている最適化アルゴリズムを用いて、特に又到達されるべき結果値からの瞬間的結果値Eの差に応じて、行うことができる。
【0028】
先に説明された本発明に基づく方法によって、例えば燃料噴射弁、燃料装置或いはエア装置全体、センサ装置等の新しいコンポーネント11或いはその他のコンポーネントが、効率的に且つ精確に内燃機関10に対して或いは内燃機関10に割り当てられているその他のコンポーネントに対してマッチングされる。特に、モデル110(図1b)で行われる本発明に基づくパラメータPs、Pkの複合的考慮は、資源の集中を要求する測定やテスト装置を大幅に省略することを可能にする。
【0029】
関連する関係を既に存在している他のモデルからモデル110へ取り込んだり或いはモデル110へ組み込むことができないならば、唯モデル110の最初の形成のため或いは新種のコンポーネント11の作動特性に関する補足のためにだけ、制御パラメータおよび/またはコンポーネントパラメータPkの間の依存関係を、テスト装置に基づいて求めることが必要となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(10)の運転に影響を与える多数の制御パラメータ(Ps)を有する制御ユニット(20)を備えた内燃機関(10)の運転のためのシミュレーション方法において、
シミュレーションのために制御ユニット(20)の制御パラメータ(Ps)の他に、内燃機関(10)に割り当てられている少なくとも一つの別のコンポーネント(11)の作動の特徴を示しているコンポーネントパラメータ(Pk)をも考慮するモデル(110)が用いられることを特徴とする内燃機関の運転のためのシミュレーション方法。
【請求項2】
コンポーネントパラメータ(Pk)が、内燃機関(10)に割り当てられている燃料装置、特に噴射弁および内燃機関(10)に割り当てられているエア装置の少なくともいずれかの作動の特徴を示していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
制御パラメータ(Ps)およびコンポーネントパラメータ(Pk)の少なくともいずれかが、少なくとも部分的にソフトウェアパラメータとして、特に制御ユニット(20)或いは別のコンポーネント(11)を制御する演算ユニットに適用可能なパラメータとして、設計されていることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
制御パラメータ(Ps)およびコンポーネントパラメータ(Pk)の少なくともいずれかが、少なくとも部分的に制御ユニット(20)或いは別のコンポーネント(11)の物理的な、特に電気的および機械的な少なくともいずれかの特徴を表していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
内燃機関(10)の望ましい運転特性を量子化する目的関数が形成され、且つ内燃機関(10)の運転特性が、前記目的関数に応じて、制御パラメータ(Ps)およびコンポーネントパラメータ(Pk)の少なくともいずれかを用いて最適化されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
制御パラメータ(Ps)およびコンポーネントパラメータ(Pk)の間の関係が、特にテスト装置に基づいて求められ、或いはモデル(110)内の既に知られている関係が組み込まれることによって、モデル(110)が形成され、または補足されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法を実施のために構成された、内燃機関(10)の運転のシミュレーションのための装置(100)。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−513784(P2010−513784A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542082(P2009−542082)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064397
【国際公開番号】WO2008/080890
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】