説明

内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置

【課題】エンジンの高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定できると共に、高圧燃料供給システムの異常を早期に検出できるようにする。
【解決手段】ECU31は、エンジン運転状態に応じて目標燃圧を算出し、燃圧センサ24で検出した高圧燃料通路内の実燃圧を目標燃圧に一致させるようにPI制御等により高圧ポンプ14の吐出量をF/B(フィードバック)制御する燃圧F/B制御を実行する。そして、高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御のI項(積分項)が所定の正常範囲内に収まることに着目して、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御のI項が正常範囲内であるか否かを判定し、燃圧F/B制御のI項が正常範囲外であると判定された場合には、高圧燃料供給システムの異常(例えば定残圧機構26の燃料漏れ異常等)有りと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を燃料噴射弁に供給する内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射式エンジンは、吸気ポートに燃料を噴射する吸気ポート噴射式エンジンと比較して、噴射から燃焼までの時間が短く、噴射燃料を霧化させる時間を十分に稼ぐことができないため、噴射圧力を高圧にして噴射燃料を微粒化する必要がある。そのため、筒内噴射式エンジンでは、電動式の低圧ポンプで燃料タンクから汲み上げた燃料を、エンジンのカム軸で駆動される高圧ポンプに供給し、この高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を燃料噴射弁へ圧送するようにしている。
【0003】
一般に、筒内噴射式エンジンでは、高圧ポンプから燃料噴射弁に高圧の燃料を供給する高圧燃料通路内の燃圧(燃料圧力)を検出する燃圧センサを設け、この燃圧センサで検出した高圧燃料通路内の実燃圧を目標燃圧に一致させるように高圧ポンプの吐出量をフィードバック制御するようにしている。
【0004】
このような高圧燃料供給システムの異常診断技術としては、例えば、特許文献1(特開2002−47984号公報)に記載されているように、高圧ポンプの吐出指令値が所定の判定値以上となる状態が所定の判定時間以上継続したときに、高圧燃料供給システムの異常と判定するようにしたものがある。また、特許文献2(特開2007−32332号公報)に記載されているように、高圧燃料通路内の燃圧と目標燃圧との偏差と、高圧ポンプの要求吐出量とに基づいて、高圧燃料供給システムの異常診断を行うようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−47984号公報
【特許文献2】特開2007−32332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本出願人は、高圧ポンプに、高圧燃料通路内の燃料をポンプ室へ戻す燃料戻し通路を設けると共に、この燃料戻し通路の途中に、リリーフ弁と定残圧弁を備えた定残圧機構を設け、エンジン運転中(高圧ポンプの運転中)に高圧燃料通路内の燃圧が所定の上限燃圧(例えば13MPa)よりも高くなったときにリリーフ弁が開弁して高圧燃料通路内の燃圧を上限燃圧以下に維持し、エンジン停止後(高圧ポンプの停止後)に高圧燃料通路内の燃圧が所定の保持燃圧(例えば3MPa)まで低下したときに定残圧弁が閉弁して高圧燃料通路内の燃圧を保持燃圧以上に維持することで、エンジン停止中に燃料噴射弁からの燃料漏れを防止しながら、次回のエンジン始動性を向上させることができる高圧燃料供給システムを研究している。更に、この高圧燃料供給システムにおいて、エンジン停止後に保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常(例えば定残圧機構の燃料漏れ異常等)の有無を判定する異常診断を研究しているが、その研究過程で次ような新たな課題が判明した。
【0007】
エンジン停止後に保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断では、エンジン停止後にしか異常診断を行うことができないため、異常診断の実行頻度をあまり高くすることができず、高圧燃料供給システムの異常が発生した場合に、その異常を早期に検出することができない可能性がある。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができると共に、高圧燃料供給システムの異常が発生した場合に、その異常を早期に検出することができる内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を高圧燃料通路を通して燃料噴射弁に供給する内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置であって、高圧燃料通路内の燃料を高圧ポンプ側(例えば高圧ポンプのポンプ室)へ戻す燃料戻し通路と、この燃料戻し通路に配置されて高圧燃料通路内の燃料の圧力(以下「燃圧」という)が所定の上限燃圧よりも高くなったときに開弁して高圧燃料通路内の燃圧を上限燃圧以下に維持するリリーフ弁と、燃料戻し通路に配置されて高圧燃料通路内の燃圧が上限燃圧よりも低い所定の保持燃圧まで低下したときに閉弁して高圧燃料通路内の燃圧を保持燃圧以上に維持する定残圧弁と、高圧燃料通路内の燃圧を検出する燃圧検出手段と、この燃圧検出手段で検出した実燃圧を目標燃圧に一致させるように高圧ポンプをフィードバック制御する燃圧フィードバック制御を実行する燃圧制御手段とを備えた高圧燃料供給システムに適用され、燃料噴射弁の燃料噴射が停止される燃料カット中に燃圧フィードバック制御を実行しているときに該燃圧フィードバック制御の制御状態に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断手段を備えた構成としたものである。
【0010】
燃料噴射弁の燃料噴射が停止される燃料カット中は、高圧燃料通路内の燃料が消費(噴射)されないため、高圧燃料供給システムに異常(例えばリリーフ弁や定残圧弁の燃料漏れ異常等)が発生していると、その影響が燃圧フィードバック制御の制御状態に現れ易い。従って、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の実行中(燃料カット中に燃圧フィードバック制御を実行しているとき)に、燃圧フィードバック制御の制御状態を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。しかも、内燃機関の運転中の減速時に実施される燃料カット中に高圧燃料供給システムの異常診断を行うことができるため、異常診断の実行頻度を十分に高くすることができ、高圧燃料供給システムの異常が発生した場合に、その異常を早期に検出することができる。
【0011】
具体的な異常診断方法としては、例えば、請求項2のように、燃料カット中に燃圧フィードバック制御を実行しているときに該燃圧フィードバック制御のフィードバック制御量に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定するようにしても良い。高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の実行中に、フィードバック制御量が所定の正常範囲内に収まるはずであるため、フィードバック制御量を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【0012】
また、請求項3のように、燃料カット中に燃圧フィードバック制御を実行しているときに目標燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定するようにしても良い。高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の実行中に、高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧付近に制御されて、目標燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内に収まるはずであるため、目標燃圧と実燃圧との偏差を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【0013】
或は、請求項4のように、燃料カット中に燃圧フィードバック制御を停止したときに保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断手段を備えた構成としても良い。高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の停止中(燃料カット中に燃圧フィードバック制御を停止したとき)に、高圧燃料通路内の実燃圧が保持燃圧付近まで低下して、保持燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内に収まるはずであるため、保持燃圧と実燃圧との偏差を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【0014】
ところで、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の実行中に燃圧フィードバック制御の制御状態に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断(請求項1〜3)では、高圧燃料供給システムの異常の有無を判定することはできるが、高圧燃料供給システムの異常有りと判定した場合に、例えば、高圧ポンプ側の異常(リリーフ弁や定残圧弁の燃料漏れ異常等)と、燃料噴射弁側の異常(燃料噴射弁の燃料漏れ異常等)とを区別することができず、異常部位を特定することができない。
【0015】
一方、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の停止中に保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断(請求項4)では、異常診断の実行頻度を確保するために、燃料カットが実施される毎に燃圧フィードバック制御を停止して異常診断を実行するようにすると、燃料カットが実施される毎に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧からずれてしまう。
【0016】
そこで、請求項5のように、燃料カット中に燃圧フィードバック制御を実行しているときに該燃圧フィードバック制御の制御状態に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する第1の異常診断を実行し、該第1の異常診断により高圧燃料供給システムの異常有りと判定された場合には、燃料カット中に燃圧フィードバック制御を停止したときに保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常部位を特定する第2の異常診断を実行する異常診断手段を備えた構成としても良い。
【0017】
この構成では、まず、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の実行中に、該燃圧フィードバック制御の制御状態に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する第1の異常診断を実行することで、高圧燃料供給システムの異常の有無を判定することができる。
【0018】
その結果、第1の異常診断により高圧燃料供給システムの異常有りと判定された場合には、燃料カット中の燃圧フィードバック制御の停止中に、保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常部位を特定する第2の異常診断を実行することで、高圧燃料供給システムの異常部位を特定することができ、例えば、高圧ポンプ側の異常(リリーフ弁や定残圧弁の燃料漏れ異常等)と、燃料噴射弁側の異常(燃料噴射弁の燃料漏れ異常等)とを区別して判定するができる。
【0019】
一方、第1の異常診断により高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定された場合には、第2の異常診断を実行する必要がないと判断して、第2の異常診断を実行しないようにできるため、第2の異常診断を必要以上に実行することを回避できる。これにより、燃料カットが実施される毎に燃圧フィードバック制御を停止することを回避して、燃料カットが実施される毎に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧からずれてしまうことを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の実施例1における筒内噴射式エンジンの燃料供給システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は実施例1の高圧燃料供給システムの異常診断方法を説明するタイムチャートである。
【図3】図3は実施例1の異常診断ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図4】図4は実施例2の高圧燃料供給システムの異常診断方法を説明するタイムチャートである。
【図5】図5は実施例2の異常診断ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図6】図6は実施例3の高圧燃料供給システムの異常診断方法を説明するタイムチャートである。
【図7】図7は実施例3の異常診断ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図8】図8は実施例4の高圧燃料供給システムの異常診断方法を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は実施例4の異常診断ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1を図1乃至図3に基づいて説明する。
まず、図1に基づいて筒内噴射式のエンジン(内燃機関)の燃料供給システム全体の概略構成を説明する。
【0023】
燃料を貯溜する燃料タンク11内には、燃料を汲み上げる低圧ポンプ12が設置されている。この低圧ポンプ12は、バッテリ(図示せず)を電源とする電動モータ(図示せず)によって駆動される。この低圧ポンプ12から吐出される燃料は、燃料配管13を通して高圧ポンプ14に供給される。
【0024】
高圧ポンプ14は、円筒状のポンプ室15内でピストン16を往復運動させて燃料を吸入/吐出するピストンポンプであり、ピストン16は、エンジンのカム軸17に嵌着されたカム18の回転運動によって駆動される。この高圧ポンプ14の吸入口側には、燃圧制御弁19が設けられている。この燃圧制御弁19は、常開型の電磁弁であり、高圧ポンプ14の吸入行程(ピストン16の下降時)においては、燃圧制御弁19が開弁されてポンプ室15内に燃料が吸入され、高圧ポンプ14の吐出行程(ピストン16の上昇時)においては、燃圧制御弁19の閉弁期間(閉弁開始時期からピストン16の上死点までの閉弁状態のクランク角区間)を制御することで、高圧ポンプ14の吐出量を制御して燃圧(吐出圧力)を制御する。
【0025】
つまり、燃圧を上昇させるときには、燃圧制御弁19の閉弁開始時期(通電時期)を進角させることで、燃圧制御弁19の閉弁期間を長くして高圧ポンプ14の吐出量を増加させ、逆に、燃圧を低下させるときには、燃圧制御弁19の閉弁開始時期(通電時期)を遅角させることで、燃圧制御弁19の閉弁期間を短くして高圧ポンプ14の吐出量を減少させる。
【0026】
この高圧ポンプ14の吐出口側には、吐出した燃料の逆流を防止する逆止弁20が設けられている。高圧ポンプ14から吐出される燃料は、高圧燃料配管21(高圧燃料通路)を通してデリバリパイプ22(高圧燃料通路)に送られ、このデリバリパイプ22からエンジンの各気筒に取り付けられた燃料噴射弁23に高圧の燃料が分配される。デリバリパイプ22(又は高圧燃料配管21)には、高圧燃料配管21やデリバリパイプ22等の高圧燃料通路内の燃圧(燃料圧力)を検出する燃圧センサ24(燃圧検出手段)が設けられている。
【0027】
更に、高圧ポンプ14には、高圧燃料配管21やデリバリパイプ22等の高圧燃料通路内の燃料をポンプ室15へ戻す燃料戻し通路25が設けられ、この燃料戻し通路25の途中に、定残圧機構26が設けられている。この定残圧機構26には、高圧燃料通路内の燃圧が所定の上限燃圧(例えば13MPa)よりも高くなったときに開弁するリリーフ弁27と、高圧燃料通路内の燃圧が所定の保持燃圧(例えば3MPa)まで低下したときに閉弁する定残圧弁28とが一体的に設けられている。この定残圧弁28は、高圧燃料通路内の燃圧が保持燃圧よりも高ければ開弁するが、定残圧弁28の開弁時の流路断面積は、リリーフ弁27の開弁時の流路断面積に比べて大幅に小さくなるように設定されている。
【0028】
これにより、エンジン運転中(高圧ポンプ14の運転中)に高圧燃料通路内の燃圧が上限燃圧よりも高くなったときに、リリーフ弁27が開弁して高圧燃料通路内の燃圧を上限燃圧以下に維持するようになっている。一方、エンジン停止後(高圧ポンプ14の停止後)に高圧燃料通路内の燃圧が保持燃圧まで低下したときに、定残圧弁28が閉弁して高圧燃料通路内の燃圧を保持燃圧以上に維持することで、エンジン停止中に燃料噴射弁23からの燃料漏れを防止しながら、次回のエンジン始動性を向上させるようになっている。
【0029】
また、エンジンには、吸入空気量を検出するエアフローメータ29や、クランク軸(図示せず)の回転に同期して所定クランク角毎にパルス信号を出力するクランク角センサ30が設けられている。このクランク角センサ30の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0030】
これら各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)31に入力される。このECU31は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁23の燃料噴射量や点火プラグ(図示せず)の点火時期を制御する。
【0031】
その際、ECU31は、図示しない燃圧制御ルーチンを実行することで、特許請求の範囲でいう燃圧制御手段として機能し、燃料噴射弁23の燃料噴射を実行する通常運転期間中及び燃料噴射を停止する燃料カット期間中に、エンジン運転状態(例えば、エンジン回転速度、エンジン負荷等)に応じて目標燃圧をマップ又は数式等により算出し、燃圧センサ24で検出した高圧燃料通路内の実燃圧を目標燃圧に一致させるようにPI制御やPID制御等により高圧ポンプ14の吐出量(燃圧制御弁19の通電時期)をF/B制御する燃圧F/B制御を実行する。例えば、PI制御の場合には、目標燃圧と実燃圧との偏差と、Pゲイン(比例ゲイン)とを用いてP項(比例項)を算出すると共に、目標燃圧と実燃圧との偏差の積分値と、Iゲイン(積分ゲイン)とを用いてI項(積分項)を算出し、これらのP項とI項とを用いてF/B補正量(例えば燃圧制御弁19の通電時期の補正量)を算出する。ここで、「F/B」は「フィードバック」を意味する(以下、同様)。
【0032】
また、ECU31は、燃料噴射弁23の燃料噴射が停止される燃料カット中に燃圧F/B制御を実行しているときに、燃圧F/B制御の制御状態に基づいて高圧燃料供給システム(例えば、図1に示す燃料供給システムのうちの高圧ポンプ14から燃料噴射弁23までの部分)の異常の有無を判定する。燃料噴射弁23の燃料噴射が停止される燃料カット中は、高圧燃料通路内の燃料が消費(噴射)されないため、高圧燃料供給システムに異常(例えば定残圧機構26の燃料漏れ異常等)が発生していると、その影響が燃圧F/B制御の制御状態に現れ易い。従って、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中(燃料カット中に燃圧F/B制御を実行しているとき)に、燃圧F/B制御の制御状態を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常、高圧燃料配管21の燃料漏れ異常、デリバリパイプ22の燃料漏れ異常、燃料戻し通路25の燃料漏れ異常等)の有無を精度良く判定することができる。
【0033】
本実施例1では、ECU31により後述する図3の異常診断ルーチンを実行することで、図2のタイムチャートに示すように、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御のI項(積分項)に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する。高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、I項が所定の正常範囲内に収まるはずであるため、I項を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【0034】
具体的には、減速運転中に燃料カットが開始されたときに、燃圧F/B制御のI項を「0」にリセットする。また、燃料カットが開始されると、それに伴って燃圧F/B制御の目標燃圧が燃料カット中の目標燃圧(例えば、通常運転中の目標燃圧よりも低いアイドル運転中の目標燃圧とほぼ同じ燃圧)に設定される。この後、燃圧F/B制御のI項が所定の正常範囲内であるか否かを判定する。ここで、正常範囲は、例えば、I項をリセットした時点のI項の値(=0)を基準にして正常範囲を設定しても良いし、或は、I項をリセットした後に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧とほぼ一致した時点のI項の値を基準にして正常範囲を設定しても良い。
【0035】
その結果、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内であると判定されれば、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0036】
これに対して、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、その時点で、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットし、例えば、運転席のインストルメントパネルに設けられた警告ランプ(図示せず)を点灯したり、或は、運転席のインストルメントパネルの警告表示部(図示せず)に警告表示して運転者に警告すると共に、その異常情報(異常コード等)をECU31のバックアップRAM(図示せず)等の書き換え可能な不揮発性メモリ(ECU31の電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶する。
【0037】
以下、本実施例1でECU31が実行する図3の異常診断ルーチンの処理内容を説明する。図3に示す異常診断ルーチンは、ECU31の電源オン中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう異常診断手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、燃料カット中であるか否かを判定する。
このステップ101で、燃料カット中ではない(つまり燃料噴射中)と判定された場合には、ステップ102以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0038】
一方、上記ステップ101で、燃料カット中であると判定された場合には、ステップ102に進み、燃料カット開始直後(燃料カット開始後の最初の演算タイミング)であるか否かを判定し、燃料カット開始直後であれば、ステップ103に進み、燃圧F/B制御のI項を「0」にリセットする。
【0039】
この後、ステップ104に進み、燃圧F/B制御のI項が所定の正常範囲内であるか否かを判定する。ここで、正常範囲は、例えば、I項をリセットした時点のI項の値(=0)を基準にして正常範囲を設定しても良いし、或は、I項をリセットした後に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧とほぼ一致した時点のI項の値を基準にして正常範囲を設定しても良い。
【0040】
このステップ104で、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内であると判定されれば、ステップ105に進み、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0041】
これに対して、上記ステップ104で、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、ステップ106に進み、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットする。
【0042】
以上説明した本実施例1では、高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、燃圧F/B制御のI項が所定の正常範囲内に収まることに着目して、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内であるか否かによって高圧燃料供給システムの異常診断を行うようにしたので、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。しかも、エンジン運転中の減速時に実施される燃料カット中に高圧燃料供給システムの異常診断を行うことができるため、異常診断の実行頻度を十分に高くすることができ、高圧燃料供給システムの異常が発生した場合に、その異常を早期に検出することができる。
【実施例2】
【0043】
次に、図4及び図5を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0044】
本実施例2では、ECU31により後述する図5の異常診断ルーチンを実行することで、図4のタイムチャートに示すように、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に目標燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する。高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧付近に制御されて、目標燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内に収まるはずであるため、目標燃圧と実燃圧との偏差を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【0045】
具体的には、減速運転中に燃料カットが開始されると、それに伴って燃圧F/B制御の目標燃圧が燃料カット中の目標燃圧に設定される。この後、燃圧センサ24で高圧燃料通路内の実燃圧を検出し、目標燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内であるか否か(実燃圧が目標燃圧に対して正常範囲内であるか否か)を判定する。
【0046】
その結果、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であると判定されれば、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0047】
一方、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が所定の異常判定時間以上継続したか否かを判定し、異常判定時間以上継続しなければ、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0048】
これに対して、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続したと判定された場合には、その時点で、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットする。
【0049】
以下、本実施例2でECU31が実行する図5の異常診断ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンでは、まず、ステップ201で、燃料カット中であるか否かを判定し、燃料カット中ではない(つまり燃料噴射中)と判定された場合には、ステップ202以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0050】
一方、上記ステップ201で、燃料カット中であると判定された場合には、ステップ202に進み、燃圧センサ24で高圧燃料通路内の実燃圧を検出し、目標燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内であるか否か(実燃圧が目標燃圧に対して正常範囲内であるか否か)を判定する。
【0051】
このステップ202で、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であると判定されれば、ステップ207に進み、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0052】
一方、上記ステップ202で、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、ステップ203に進み、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態になった直後(燃圧異常状態になった後の最初の演算タイミング)であるか否かを判定する。
【0053】
このステップ203で、燃圧異常状態になった直後であると判定されれば、ステップ204に進み、燃圧異常状態の継続時間を「0」にリセットする。その後、上記ステップ203で、燃圧異常状態になった直後ではないと判定されれば、ステップ205に進み、燃圧異常状態の継続時間をカウントアップする。
【0054】
この後、ステップ206に進み、燃圧異常状態の継続時間が所定の異常判定時間以上であるか否かによって、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続したか否かを判定する。
【0055】
このステップ206で、燃圧異常状態の継続時間が異常判定時間よりも短い(目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続していない)と判定されれば、ステップ207に進み、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0056】
これに対して、上記ステップ206で、燃圧異常状態の継続時間が異常判定時間以上である(目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続した)と判定された場合には、ステップ208に進み、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットする。
【0057】
以上説明した本実施例2では、高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧付近に制御されて、目標燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内に収まることに着目して、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、目標燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であるか否か(実燃圧が目標燃圧に対して正常範囲内であるか否か)によって高圧燃料供給システムの異常診断を行うようにしたので、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【実施例3】
【0058】
次に、図6及び図7を用いて本発明の実施例3を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0059】
本実施例3では、ECU31により後述する図7の異常診断ルーチンを実行することで、図6のタイムチャートに示すように、燃料カット中に燃圧F/B制御を停止したときに保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する。高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中(燃料カット中に燃圧F/B制御を停止したとき)に、高圧燃料通路内の実燃圧が保持燃圧付近まで低下して、保持燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内に収まるはずであるため、保持燃圧と実燃圧との偏差を監視すれば、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【0060】
具体的には、減速運転中に燃料カットが開始されたときに、燃圧F/B制御を停止する。この後、燃圧センサ24で高圧燃料通路内の実燃圧を検出し、保持燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内であるか否か(実燃圧が保持燃圧に対して正常範囲内であるか否か)を判定する。
【0061】
その結果、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であると判定されれば、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0062】
一方、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が所定の異常判定時間以上継続したか否かを判定し、異常判定時間以上継続しなければ、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0063】
これに対して、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続したと判定された場合には、その時点で、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットする。
【0064】
以下、本実施例3でECU31が実行する図7の異常診断ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンでは、まず、ステップ301で、燃料カット中であるか否かを判定し、燃料カット中ではない(つまり燃料噴射中)と判定された場合には、ステップ302以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0065】
一方、上記ステップ301で、燃料カット中であると判定された場合には、ステップ302に進み、燃圧F/B制御を停止する。この後、ステップ303に進み、燃圧センサ24で高圧燃料通路内の実燃圧を検出し、保持燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内であるか否か(実燃圧が保持燃圧に対して正常範囲内であるか否か)を判定する。
【0066】
このステップ303で、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であると判定されれば、ステップ308に進み、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0067】
一方、上記ステップ303で、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、ステップ304に進み、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態になった直後(燃圧異常状態になった後の最初の演算タイミング)であるか否かを判定する。
【0068】
このステップ304で、燃圧異常状態になった直後であると判定されれば、ステップ305に進み、燃圧異常状態の継続時間を「0」にリセットする。その後、上記ステップ304で、燃圧異常状態になった直後ではないと判定されれば、ステップ306に進み、燃圧異常状態の継続時間をカウントアップする。
【0069】
この後、ステップ307に進み、燃圧異常状態の継続時間が所定の異常判定時間以上であるか否かによって、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続したか否かを判定する。
【0070】
このステップ307で、燃圧異常状態の継続時間が異常判定時間よりも短い(保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続していない)と判定されれば、ステップ308に進み、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。
【0071】
これに対して、上記ステップ307で、燃圧異常状態の継続時間が異常判定時間以上である(保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続した)と判定された場合には、ステップ309に進み、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットする。
【0072】
以上説明した本実施例3では、高圧燃料供給システムが正常であれば、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中に、高圧燃料通路内の実燃圧が保持燃圧付近まで低下して、保持燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内に収まることに着目して、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中に、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であるか否か(実燃圧が保持燃圧に対して正常範囲内であるか否か)によって高圧燃料供給システムの異常診断を行うようにしたので、高圧燃料供給システムの異常の有無を精度良く判定することができる。
【実施例4】
【0073】
次に、図8及び図9を用いて本発明の実施例4を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0074】
前記実施例1,2のように、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御の制御状態(例えば、I項、目標燃圧と実燃圧との偏差等)に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断では、高圧燃料供給システムの異常の有無を判定することはできるが、高圧燃料供給システムの異常有りと判定した場合に、例えば、高圧ポンプ14側の異常(定残圧機構26の燃料漏れ異常等)と、燃料噴射弁23側の異常(燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)とを区別することができず、異常部位を特定することができない。
【0075】
一方、前記実施例2のように、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中に保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断では、異常診断の実行頻度を確保するために、燃料カットが実施される毎に燃圧F/B制御を停止して異常診断を実行するようにすると、燃料カットが実施される毎に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧からずれてしまう。
【0076】
そこで、本実施例4では、後述する図9の異常診断ルーチンを実行することで、図8のタイムチャートに示すように、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御のI項に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する第1の異常診断を実行し、この第1の異常診断により高圧燃料供給システムの異常有りと判定された場合には、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中に保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常部位を特定する第2の異常診断を実行する。
【0077】
以下、本実施例4でECU31が実行する図9の異常診断ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンでは、まず、ステップ401で、燃料カット中であるか否かを判定し、燃料カット中ではない(つまり燃料噴射中)と判定された場合には、ステップ402以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0078】
一方、上記ステップ401で、燃料カット中であると判定された場合には、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御のI項に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する第1の異常診断(ステップ402〜406)を次のようにして実行する。
【0079】
まず、ステップ402で、燃料カット開始直後(燃料カット開始後の最初の演算タイミング)であるか否かを判定し、燃料カット開始直後であれば、ステップ403に進み、燃圧F/B制御のI項を「0」にリセットする。
【0080】
この後、ステップ404に進み、燃圧F/B制御のI項が所定の正常範囲内であるか否かを判定する。ここで、正常範囲は、例えば、I項をリセットした時点のI項の値(=0)を基準にして正常範囲を設定しても良いし、或は、I項をリセットした後に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧とほぼ一致した時点のI項の値を基準にして正常範囲を設定しても良い。
【0081】
このステップ404で、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内であると判定されれば、ステップ405に進み、高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定して異常フラグをOFFに維持する。この場合、第2の異常診断を実行する必要がないと判断して、第2の異常診断は実行しない。
【0082】
これに対して、上記ステップ404で、燃圧F/B制御のI項が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、ステップ406に進み、高圧燃料供給システムの異常(例えば、定残圧機構26の燃料漏れ異常、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)有りと判定して異常フラグをONにセットする。そして、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中に保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常部位を特定する第2の異常診断(ステップ407〜414)を次のようにして実行する。
【0083】
まず、ステップ407で、燃圧F/B制御を停止する。この後、ステップ408に進み、燃圧センサ24で高圧燃料通路内の実燃圧を検出し、保持燃圧と実燃圧との偏差が所定の正常範囲内であるか否か(実燃圧が保持燃圧に対して正常範囲内であるか否か)を判定する。
【0084】
このステップ408で、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内であると判定されれば、ステップ409に進み、燃料噴射弁23側の異常(燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)と判定して異常部位を燃料噴射弁23側に特定する。この場合、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中は、実燃圧が比較的高いため、燃料噴射弁23の燃料漏れ異常が発生して、燃圧F/B制御のI項が正常範囲外となっていたが、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中は、実燃圧が保持燃圧付近まで低下したため、燃料噴射弁23の燃料漏れが停止して、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内になったと考えられる。
【0085】
一方、上記ステップ408で、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲内ではない(つまり正常範囲外)と判定された場合には、ステップ410に進み、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態になった直後(燃圧異常状態になった後の最初の演算タイミング)であるか否かを判定する。
【0086】
このステップ410で、燃圧異常状態になった直後であると判定されれば、ステップ411に進み、燃圧異常状態の継続時間を「0」にリセットする。その後、上記ステップ410で、燃圧異常状態になった直後ではないと判定されれば、ステップ412に進み、燃圧異常状態の継続時間をカウントアップする。
【0087】
この後、ステップ413に進み、燃圧異常状態の継続時間が所定の異常判定時間以上であるか否かによって、保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続したか否かを判定する。
【0088】
このステップ413で、燃圧異常状態の継続時間が異常判定時間よりも短い(保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続していない)と判定されれば、上記ステップ408に戻る。
【0089】
その後、上記ステップ413で、燃圧異常状態の継続時間が異常判定時間以上である(保持燃圧と実燃圧との偏差が正常範囲外となる燃圧異常状態が異常判定時間以上継続した)と判定された場合には、ステップ414に進み、高圧ポンプ14側の異常(定残圧機構26の燃料漏れ異常等)と判定して異常部位を高圧ポンプ14側に特定する。
【0090】
以上説明した本実施例4では、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に、燃圧F/B制御のI項に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する第1の異常診断を実行し、この第1の異常診断により高圧燃料供給システムの異常有りと判定された場合には、燃料カット中の燃圧F/B制御の停止中に、保持燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常部位を特定する第2の異常診断を実行するようにしたので、高圧燃料供給システムの異常部位を特定することができ、例えば、高圧ポンプ14側の異常(定残圧機構26の燃料漏れ異常等)と、燃料噴射弁23側の異常(燃料噴射弁23の燃料漏れ異常等)とを区別して判定するができる。
【0091】
一方、第1の異常診断により高圧燃料供給システムの異常無し(高圧燃料供給システムが正常)と判定された場合には、第2の異常診断を実行する必要がないと判断して、第2の異常診断を実行しないようにしたので、第2の異常診断を必要以上に実行することを回避できる。これにより、燃料カットが実施される毎に燃圧F/B制御を停止することを回避して、燃料カットが実施される毎に高圧燃料通路内の実燃圧が目標燃圧からずれてしまうことを回避できる。
【0092】
尚、上記実施例4では、第1の異常診断として、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に燃圧F/B制御のI項に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断を実行するようにしたが、これに限定されず、例えば、第1の異常診断として、燃料カット中の燃圧F/B制御の実行中に目標燃圧と実燃圧との偏差に基づいて高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断を実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0093】
11…燃料タンク、14…高圧ポンプ、15…、16…スロットルバルブ、17…、18…、19…燃圧制御弁、20…逆止弁、21…高圧燃料配管(高圧燃料通路)、22…デリバリパイプ(高圧燃料通路)、23…燃料噴射弁、24…燃圧センサ(燃圧検出手段)、25…燃料戻し通路、26…定残圧機構、27…リリーフ弁、28…定残圧弁、31…ECU(燃圧制御手段,異常診断手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を高圧燃料通路を通して燃料噴射弁に供給する内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置であって、
前記高圧燃料通路内の燃料を前記高圧ポンプ側へ戻す燃料戻し通路と、
前記燃料戻し通路に配置されて前記高圧燃料通路内の燃料の圧力(以下「燃圧」という)が所定の上限燃圧よりも高くなったときに開弁して前記高圧燃料通路内の燃圧を前記上限燃圧以下に維持するリリーフ弁と、
前記燃料戻し通路に配置されて前記高圧燃料通路内の燃圧が前記上限燃圧よりも低い所定の保持燃圧まで低下したときに閉弁して前記高圧燃料通路内の燃圧を前記保持燃圧以上に維持する定残圧弁と、
前記高圧燃料通路内の燃圧を検出する燃圧検出手段と、
前記燃圧検出手段で検出した実燃圧を目標燃圧に一致させるように前記高圧ポンプをフィードバック制御する燃圧フィードバック制御を実行する燃圧制御手段とを備えた高圧燃料供給システムに適用され、
前記燃料噴射弁の燃料噴射が停止される燃料カット中に前記燃圧フィードバック制御を実行しているときに該燃圧フィードバック制御の制御状態に基づいて前記高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断手段を備えていることを特徴とする内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置。
【請求項2】
前記異常診断手段は、前記燃料カット中に前記燃圧フィードバック制御を実行しているときに該燃圧フィードバック制御のフィードバック制御量に基づいて前記高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置。
【請求項3】
前記異常診断手段は、前記燃料カット中に前記燃圧フィードバック制御を実行しているときに前記目標燃圧と前記実燃圧との偏差に基づいて前記高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置。
【請求項4】
高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を高圧燃料通路を通して燃料噴射弁に供給する内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置であって、
前記高圧燃料通路内の燃料を前記高圧ポンプ側へ戻す燃料戻し通路と、
前記燃料戻し通路に配置されて前記高圧燃料通路内の燃料の圧力(以下「燃圧」という)が所定の上限燃圧よりも高くなったときに開弁して前記高圧燃料通路内の燃圧を前記上限燃圧以下に維持するリリーフ弁と、
前記燃料戻し通路に配置されて前記高圧燃料通路内の燃圧が前記上限燃圧よりも低い所定の保持燃圧まで低下したときに閉弁して前記高圧燃料通路内の燃圧を前記保持燃圧以上に維持する定残圧弁と、
前記高圧燃料通路内の燃圧を検出する燃圧検出手段と、
前記燃圧検出手段で検出した実燃圧を目標燃圧に一致させるように前記高圧ポンプをフィードバック制御する燃圧フィードバック制御を実行する燃圧制御手段とを備えた高圧燃料供給システムに適用され、
前記燃料噴射弁の燃料噴射が停止される燃料カット中に前記燃圧フィードバック制御を停止したときに前記保持燃圧と前記実燃圧との偏差に基づいて前記高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する異常診断手段を備えていることを特徴とする内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置。
【請求項5】
高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を高圧燃料通路を通して燃料噴射弁に供給する内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置であって、
前記高圧燃料通路内の燃料を前記高圧ポンプ側へ戻す燃料戻し通路と、
前記燃料戻し通路に配置されて前記高圧燃料通路内の燃料の圧力(以下「燃圧」という)が所定の上限燃圧よりも高くなったときに開弁して前記高圧燃料通路内の燃圧を前記上限燃圧以下に維持するリリーフ弁と、
前記燃料戻し通路に配置されて前記高圧燃料通路内の燃圧が前記上限燃圧よりも低い所定の保持燃圧まで低下したときに閉弁して前記高圧燃料通路内の燃圧を前記保持燃圧以上に維持する定残圧弁と、
前記高圧燃料通路内の燃圧を検出する燃圧検出手段と、
前記燃圧検出手段で検出した実燃圧を目標燃圧に一致させるように前記高圧ポンプをフィードバック制御する燃圧フィードバック制御を実行する燃圧制御手段とを備えた高圧燃料供給システムに適用され、
前記燃料噴射弁の燃料噴射が停止される燃料カット中に前記燃圧フィードバック制御を実行しているときに該燃圧フィードバック制御の制御状態に基づいて前記高圧燃料供給システムの異常の有無を判定する第1の異常診断を実行し、該第1の異常診断により前記高圧燃料供給システムの異常有りと判定された場合には、前記燃料カット中に前記燃圧フィードバック制御を停止したときに前記保持燃圧と前記実燃圧との偏差に基づいて前記高圧燃料供給システムの異常部位を特定する第2の異常診断を実行する異常診断手段を備えていることを特徴とする内燃機関の高圧燃料供給システムの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−185158(P2011−185158A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51443(P2010−51443)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】