説明

内燃機関制御装置

【課題】内燃機関制御装置の昇圧回路が故障したときにもインジェクタを励磁することができるようにして、フェイルセイフ機能、高精度の制御、回路の発熱の抑制を図った。
【解決手段】昇圧回路、スイッチング素子、電流検出抵抗及び制御装置を備えて、該昇圧回路を用いて電源電圧を昇圧し、かかる昇圧電圧をインジェクタ用ソレノイドコイルに流すように該制御装置が該スイッチング素子を制御する内燃機関制御装置において、前記昇圧回路が故障した際に、前記昇圧電圧を使用せずに、かつ、ピーク電流を作らずに、前記電源電圧を用いて前記インジェクタ用ソレノイドコイルを励磁させて、インジェクタの開弁を促進させるためのプリチャージ電流、インジェクタを開弁するための第1の保持電流、該第1の保持電流より低電流であって、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第2の保持電流を発生させることを特徴とする内燃機関制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の内燃機関制御装置、特にそのインジェクタの駆動回路における昇圧回路が故障した場合でも、現状の回路構成で安定して自動車用インジェクタを駆動する手段を備えた内燃機関制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用インジェクタ駆動回路としては、従来、例えば、特許文献1に記載されたものが知られており、開弁電流制御回路が、開弁に必要な電流をインジェクタに流した後、スイッチング素子をオフにして、緩やかに電流を立ち下げ、急峻立ち下げ下流側制御回路が、スイッチング素子をハーフ・オン状態にして、その後、保持電流に切り替えることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、エンジンの燃料供給装置において、開弁信号と保持信号の論理積が成立した場合に、ソレノイドへの電流の供給を行い、燃料噴射パルスの開始時から開弁電流が所定電流値に到達するまでの時間が所定時間より短い場合、燃料噴射装置の異常判定を行うことが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-27994号公報
【特許文献2】特開2004-124890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、従来の内燃機関制御装置におけるインジェクタ用ソレノイドコイルの駆動回路(1気筒分)の回路図を示す。この回路は、インジェクタ制御装置5、昇圧用コイル1、ダイオード2、スイッチング用MOSFET3、電解コンデンサ4、電流検出抵抗6を使用して昇圧回路を構成する部分と、インジェクタ制御装置5、ピーク電流用MOSFET7、保持電流用MOSFET8、下流側用MOSFET11、逆流防止ダイオード9、フライホイール用ダイオード12、インジェクタ用ソレノイドコイル10、電流検出抵抗13を使用して、インジェタ駆動回路を構成する部分の2つに分かれる。
【0006】
前記ピーク電流用MOSFET7、保持電流用MOSFET8、下流側用MOSFET11に、図2の2〜4段目に示された駆動信号が印加されると、インジェクタ用ソレノイドコイル10に流れる電流値を、図1に示された電流検出抵抗13によりモニタし、インジェクタ制御装置5にフィードバックさせて電流制御を行い、図2の1段目に示されたインジェクタ電流10-Aがインジェクタ用ソレノイドコイル10に流れる。
【0007】
この回路構成の場合、昇圧回路の電解コンデンサ4がGNDショートを起こして故障した場合、保持電流用MOSFET8からの電流が、ピーク電流MOSFET7に逆流してしまい、インジェクタ用ソレノイドコイル10に電流を流すことができなくなり、インジェクタを駆動させることができなくなるという問題点があった。
【0008】
また、昇圧回路が故障したと判断した場合、図3の2段目から4段目に示す駆動信号を、それぞれMOSFET7、8、11に印加して、図3の1段目に示す電流波形を形成することはできた。しかし、図3に示す波形では、電流波形が一定であるため、インジェクタを開弁させるために必要な最大電流を全通電領域にわたり通電させることになり、駆動回路の発熱が増大するので、エンジン回転数の上限に大きく制約をつけなければならないという問題点があった。
【0009】
さらに、この回路構成では、電流の立下りを急峻に立ち下げることがツェナーダイオードを追加することで可能であるとはいえ、ツェナーダイオードによる発熱が大きく、回転数制限を更に大きくつけなければならないという問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の内燃機関制御装置は、昇圧回路、スイッチング素子、電流検出抵抗及び制御装置を備えて、該昇圧回路を用いて電源電圧を昇圧し、かかる昇圧電圧をインジェクタ用ソレノイドコイルに流すように該制御装置が該スイッチング素子を制御する内燃機関制御装置において、前記昇圧回路が故障した際に、前記昇圧電圧を使用せずに、かつ、ピーク電流を作らずに、前記電源電圧を用いて前記インジェクタ用ソレノイドコイルを励磁させて、インジェクタを開弁するための第1の保持電流、該第1の保持電流より低電流であって、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第2の保持電流を発生させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の内燃機関制御装置は、前記昇圧回路からピーク電流用スイッチング素子と逆流防止用ダイオードを順次介して前記インジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路と、これに並列に、電源から保持電流用スイッチング素子と逆流防止ダイオードを介してインジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路を設けて前記電源電圧を前記インジェクタ用ソレノイドコイルに直接導く電流路を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の内燃機関制御装置は、前記インジェクタ用ソレノイドコイルの下流側に、下流側用スイッチング素子と前記電流検出抵抗を順次設け、前記電流検出抵抗の下流側から前記インジェクタ用ソレノイドコイルの上流側にフライホイールダイオードを設けて、前記インジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流を、前記フライホイールダイオードを利用して立下げる時に、該電流を監視し、該電流の立下りが零になる直前の閾値レベルにて前記下流側用スイッチング素子を遮断することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の内燃機関制御装置は、昇圧回路、スイッチング素子、電流検出抵抗及び制御装置を備えて、該昇圧回路を用いて電源電圧を昇圧し、かかる昇圧電圧をインジェクタ用ソレノイドコイルに流すように該制御装置が該スイッチング素子を制御する内燃機関制御装置において、前記昇圧回路が故障した際に、前記昇圧電圧を使用せずに、かつ、ピーク電流を作らずに、前記電源電圧を用いて前記インジェクタ用ソレノイドコイルを励磁させて、インジェクタの開弁を促進させるためのプリチャージ電流、インジェクタを開弁するための第1の保持電流、該第1の保持電流より低電流であって、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第2の保持電流を発生させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の内燃機関制御装置は、前記昇圧回路からピーク電流用スイッチング素子と逆流防止用ダイオードを順次介して前記インジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路と、これに並列に、電源から保持電流用スイッチング素子と逆流防止ダイオードを介してインジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路を設けて前記電源電圧を前記インジェクタ用ソレノイドコイルに直接導く電流路を設けたことを特徴とする内燃機関制御装置。
【0015】
また、本発明の内燃機関制御装置は、前記インジェクタ用ソレノイドコイルの下流側に、下流側用スイッチング素子と前記電流検出抵抗を順次設け、前記電流検出抵抗の下流側から前記インジェクタ用ソレノイドコイルの上流側にフライホイールダイオードを設けて、前記インジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流を、前記フライホイールダイオードを利用して立下げる時に、該電流を監視し、該電流の立下りが零になる直前の閾値レベルにて前記下流側用スイッチング素子を遮断することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の内燃機関制御装置は、前記インジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流の立下りを待つ時間が長くなる場合、対向気筒のインジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流の立ち上がりとラップする前のタイミングで、前記下流側用スイッチング素子を遮断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1および2に係る発明によれば、インジェクタを駆動する内燃機関制御装置において、昇圧回路が故障したときに、故障した昇圧回路を使用せずに、電源電圧を用いてインジェクタ用ソレノイドコイルを励磁することにより、インジェクタを開弁する第1の保持電流と、第1の保持電流より低電流であって、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第2の保持電流を発生させるので、昇圧回路の故障時にもインジェクタ駆動できるというフェイルセイフ機能を可能とすると共に、インジェクタの開弁状態を保持するための第2の保持電流に第1の保持電流より低電流を用いたことにより、インジェクタ電流を一定にした場合と比べて、駆動回路の発熱を抑えることができる。
【0018】
また、請求項3および6に係る発明によれば、昇圧回路が故障したときに、インジェクタ駆動電流の立ち下がり時にインジェクタに流れる電流を監視し、駆動制御部にフィードバックして、駆動電流の立下りが零になる直前の閾値レベルにて下流側のスイッチング素子を遮断させることで、回生電流を昇圧回路側に流さないようにすることができ、昇圧回路の故障の悪化を防ぐことができる。
【0019】
また、請求項4および5に係る発明によれば、昇圧回路の故障時にもインジェクタ駆動できるという前記フェイルセイフ機能と、インジェクタの開弁状態を保持するための第2の保持電流に第1の保持電流より低電流を用いたことによる前記駆動回路の発熱を抑制に加えて、プリチャージ電流を用いることにより、昇圧回路を使用せずにインジェクタ開弁の応答性を改善し、より高精度のインジェクタ制御を可能とする。
【0020】
また、請求項7に係る発明によれば、内燃機関の各気筒間の相互干渉を防止して安定したエンジン制御を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態である各実施例について、以下、図面を用いて説明する。
【0022】
[実施例1]
図4は、本発明の実施例1の回路構成を示す。この回路は、インジェクタ制御装置14、昇圧コイル15、ダイオード16、スイッチング用MOSFET17、電解コンデンサ18、電流検出抵抗20により昇圧回路が構成され、外部から供給されるバッテリ電圧VBを昇圧する。昇圧コイル15で昇圧された昇圧電圧VHは、ピーク電流用MOSFET21の上流側に印加され、MOSFET21の下流側は、逆流防止用ダイオード24のアノード側に接続される。逆流防止ダイオード24のカソード側にはインジェクタ用ソレノイドコイル25が接続される。
【0023】
保持電流用MOSFET22は、その上側に外部から供給されるバッテリ電圧VBが印加され、その下流側には逆流防止用ダイオード23のアノード側が接続される。逆流防止用ダイオード23のカソード側にインジェクタ用ソレノイドコイル25が接続される。インジェクタ用ソレノイドコイル25の下流側は、下流側用MOSFET26の上流側に接続され、MOSFET26の下流側には電流検出抵抗19が接続される。また、フライホイール用ダイオード27は、そのアノード側をGNDに、そのカソード側を逆流防止用ダイオード23、24のカソード側に接続される。
【0024】
図5の2段目から4段目に示された駆動信号が、それぞれピーク電流用MOSFET21、保持電流用MOSFET22、下流側用MOSFET26に印加されると、インジェクタ用ソレノイドコイル25の電流値を電流検出抵抗19によりモニタし、インジェクタ制御装置14にフィードバックさせて電流制御を行い、その結果、図5の1段目に示された、インジェクタを開弁するピーク電流、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第1の保持電流、発熱を抑えるために必要な第2の保持電流で構成される電流がインジェクタ用ソレノイドコイル25に流れる。
【0025】
インジェクタ制御装置14が、インジェクタ用ソレノイドコイル25に流れる電流値異常を電流検出抵抗19でモニタすることにより検知した場合、もしくは、インジェクタ制御装置14が昇圧電圧の異常を検出した後、一定時間経過しても改善しない場合、昇圧回路故障と判定される。この場合、図5のピーク電流立ち上がり期間29では、昇圧回路を使用してピーク電流を形成するため、その故障により図5の1段目に示された電流波形を形成できなくなる。
【0026】
そこで、MOSFET21、22、26に印加する駆動信号を、図6の2〜4段目に示された波形に変更し、図6の1段目に示されたインジェクタ電流に変更する。このとき、従来の回路とは異なり、ピーク電流用MOSFET21と保持電流用MOSFET22に供給する電源が分けられ、かつ、逆流防止用ダイオード23、24が追加されているので、昇圧回路が壊れても、保持電流用MOSFET22に電源は供給され、図6の1段目に示された電流波形を形成することができる。その結果、インジェクタ用ソレノイドコイル25に電流を流すことができ、インジェクタを駆動することができる。
【0027】
図6に示されたピーク電流のない2段からなる電流波形では、図3に示された一定の電流波形における駆動回路の発熱の増大やエンジン回転数の上限の大きな制約を回避することができる。
【0028】
そして、ピーク電流用MOSFET21と保持電流用MOSFET22をOFFとし、下流側用MOSFET26をONとした場合、フライホイール用ダイオード27によりインジェクタ用ソレノイドコイル25に流れる電流エネルギーを消費できるので、昇圧回路を使用しないで済むことができる。
【0029】
さらに、電流の立ち下がり時にインジェクタ用ソレノイドコイル25に流れる電流を監視し、駆動電流の立下りが零になる直前の閾値レベルにて下流側用MOSFET26をOFFすることにより、MOSFET26のドレイン・ゲート間に接続したツェナーダイオード28により、インジェクタ用ソレノイドコイルの電気エネルギーを消費させることができる。
以上のようにして、図3に示した従来例における昇圧回路の故障の場合に発生する回路の発熱を回避することができる。
【0030】
[実施例2]
図7は、本発明の実施例2の回路構成を示す。この回路は、インジェクタ制御装置49、昇圧コイル36、ダイオード37、スイッチング用MOSFET38、電解コンデンサ39、電流検出抵抗41により昇圧回路が構成され、外部から供給されるバッテリ電圧VBを昇圧する。昇圧コイル36で昇圧させた昇圧電圧VHは、ピーク電流用MOSFET42のソース側に印加され、MOSFET42のドレイン側は逆流防止用ダイオード45のアノード側に接続される。逆流防止ダイオード45のカソード側にはインジェクタ用ソレノイドコイル47が接続される。
【0031】
電流保持用MOSFET43は、そのドレイン側に外部から供給されるバッテリ電圧VBが印加され、そのソース側は逆流防止用ダイオード44のアノード側に接続される。逆流防止用ダイオード44のカソード側にはインジェクタ用ソレノイドコイル47が接続される。インジェクタ用ソレノイドコイル47の下流側は、下流側用MOSFET48のドレイン側に接続され、MOSFET48のソース側は電流検出抵抗35に接続される。また、フライホイール用ダイオード40は、そのアノード側をGNDに、そのカソード側を逆流防止用ダイオード44、45のカソード側に接続される。さらに、回生用ダイオード46は、そのカソード側がピーク電流用MOSFET42のソース側に接続され、そのアノード側が下流側用MOSFET48のドレイン側に接続される。
【0032】
図8の2段目から4段目に示された駆動信号が、それぞれピーク電流用MOSFET42、保持電流用MOSFET43、下流側用MOSFET48に印加されると、インジェクタ用ソレノイドコイル47の電流値を電流検出抵抗35によりモニタし、インジェクタ制御装置49にフィードバックさせて電流制御を行い、その結果、図8の1段目に示された電流がインジェクタ用ソレノイドコイル47に流れる。
【0033】
インジェクタ制御装置49が、インジェクタ用ソレノイドコイル47に流れる電流値異常を電流検出抵抗35でモニタすることにより検知した場合、もしくは、インジェクタ制御装置49が昇圧電圧の異常を検出した後、一定時間経過しても改善しない場合、昇圧回路故障と判定される。この場合、図8の期間52、53、55、57では昇圧回路を使用して、図8の1段目に示す電流波形を形成しているため、昇圧回路の故障により図8の電流波形を形成できなくなる。
【0034】
そこで、MOSFET42、43、48に印加する駆動信号を図9の2〜4段目に示された波形に変更する。このとき、従来の回路とは異なり、ピーク電流用MOSFET42と保持電流用MOSFET43に供給する電源が分けられ、かつ、逆流防止用ダイオード44、45が追加されているので、昇圧回路が壊れても、保持電流用MOSFET43に電源は供給され、図9の1段目に示された電流波形を形成することができる。その結果、インジェクタ用ソレノイドコイル47に電流を流すことができ、インジェクタを駆動することができる。
【0035】
そして、ピーク電流用MOSFET42と保持電流用MOSFET43をOFFとし、下流側用MOSFET48をONとした場合、フライホイール用ダイオード40によりインジェクタ用ソレノイドコイル47に流れる電流エネルギーを消費できるので、昇圧回路を使用しないで済むことができ、回生電流を昇圧回路側に流さないようにすることができる。
【0036】
特に、故障時の保持電流立下り期間64においては、通常の昇圧回路を用いた場合、電流モニタする必要なく電流を零まで立ち下げることができるが、昇圧回路を用いない場合は、下流側MOSFET48をONさせて、フライホイール用ダイオードによりエネルギー消費させるので、電流モニタを継続し、電流が零になる直前に下流側MOSFET48をOFFする。このようにすることで、図9の1段目に示されたインジェクタ電流の波形について、各期間の時間と電流値を変更することができるため、インジェクタの開弁応答を早めて高精度制御が可能となり、また、発熱も抑えることができる。
【0037】
[実施例3]
図10は、本発明の実施例3の回路構成を示す。この回路は、インジェクタ制御装置70、昇圧コイル65、ダイオード66、スイッチング用MOSFET67、電解コンデンサ68、電流検出抵抗69により昇圧回路が構成され、外部から供給されるバッテリ電圧VBを昇圧する。昇圧コイル65で昇圧させた昇圧電圧VHは、ピーク電流用MOSFET72のソース側に印加され、MOSFET72のドレイン側は逆流防止用ダイオード74のアノード側に接続される。逆流防止ダイオード74のカソード側にはインジェクタ用ソレノイドコイル78、79が並列に接続される。
【0038】
保持電流用MOSFET71は、そのドレイン側に外部から供給されるバッテリ電圧VBが印加され、そのソース側は、逆流防止用ダイオード73のアノード側に接続される。逆流防止用ダイオード73のカソード側にはインジェクタ用ソレノイドコイル78、79が並列に接続される。
【0039】
インジェクタ用ソレノイドコイル78、79の下流側は、それぞれ下流側用MOSFET80、81のドレイン側に接続され、MOSFET80、81のソース側には、電流検出抵抗82が接続される。また、フライホイール用ダイオード75は、そのアノード側がGNDに、そのカソード側が逆流防止用ダイオード73、74のカソード側に接続される。さらに、回生用ダイオード76、77は、そのカソード側がピーク電流用MOSFET72のソース側に、そのアノード側が下流側用MOSFET80、81のドレイン側に、それぞれ接続される。
【0040】
図11の2段目から4段目に示された駆動信号が、それぞれピーク電流用MOSFET72、保持電流用MOSFET71、下流側用MOSFET80に印加され、これに続いて、図12の2段目から4段目に示された駆動信号が、それぞれピーク電流用MOSFET72、保持電流用MOSFET71、下流側用MOSFET81に印加されると、インジェクタ用ソレノイドコイル78、79の電流値78-A、79-Aを電流検出抵抗82でモニタし、インジェクタ制御装置70にフィードバックさせて電流制御を行い、その結果、図11の1段目に示された電流が、インジェクタ用ソレノイドコイル78に流れ、これに続いて、図12の1段目に示された電流が、インジェクタ用ソレノイドコイル79に流れる。
【0041】
インジェクタ制御装置70が、インジェクタ用ソレノイドコイル78-A、79-Aに流れる電流値異常を電流検出抵抗82でモニタすることにより検知した場合、もしくは、インジェクタ制御装置70が昇圧電圧の異常を検出した後、一定時間経過しても改善しない場合、昇圧回路故障と判定される。
【0042】
昇圧回路故障の場合、図11の期間85、86、88、90では昇圧回路を使用して、図11の1段目に示された電流波形を形成しているため、昇圧回路の故障により図11の電流波形を形成できなくなる。そこで、MOSFET72、71、80に印加する駆動信号を図13の2〜4段目に示された波形に変更する。このとき、従来の回路とは異なり、ピーク電流用MOSFET72と保持電流用MOSFET71に供給する電源が分けられ、かつ、逆流防止用ダイオード73、74が追加されているので、昇圧回路が壊れても、保持電流用MOSFET71に電源は供給され、図13の1段目に示された電流波形を形成することができる。その結果、インジェクタ用ソレノイドコイル78に電流を流すことができ、インジェクタを駆動することができる。
【0043】
また、昇圧回路故障の場合、図12の期間93、94、96、98では昇圧回路を使用して、図12の1段目に示された電流波形を形成しているため、昇圧回路の故障により図12の電流波形を形成できなくなる。そこで、MOSFET72、71、81に印加する駆動信号を図14の2〜4段目に示された波形に変更する。このとき、昇圧回路が壊れても保持電流用MOSFET71に電源が供給されるので、図14の1段目に示された電流波形を形成することができる。その結果、インジェクタ用ソレノイドコイル79に電流を流すことができ、これを駆動することができる。
【0044】
そして、ピーク電流用MOSFET72と保持電流用MOSFET71をOFF、下流側用MOSFET80または81をONとする場合、フライホイール用ダイオード75によりインジェクタ用ソレノイドコイル78または79の電気エネルギーを消費することができるので、昇圧回路を使用しないで済むことができる。さらに、図13の期間103、105と、図14の期間110、112では、インジェクタ用ソレノイドコイル78または79に流れる電流を監視し、駆動電流の立ち下りが零になる直前の閾値レベルにおいて下流側用MOSFET80または81をOFFする。以上のようにして、回生電流を昇圧回路側に流さないようにすることができる。
【0045】
しかし、駆動電流の立下りが零になる直前になるまで待つため、対向気筒の立ち上がりとラップする可能性が増大する。そこで、先行して通電しているインジェクタ電流と後発のインジェクタ電流がラップする場合には、後発のインジェクタ電流の通電を優先させ、その時点で駆動電流の立下りが閾値に達していなくても下流側MOSFET80または81をOFFさせる。これによりラップを防ぐことができる。また、図13の期間99と図14の期間106において、プリチャージ電流を発生させているので、これにより、インジェクタを励磁させてインジェクタの開弁を促進させ、最小噴射量を改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、自動車のインジェクタ用ソレノイドコイルだけでなく、昇圧回路を使用して電流制御することで駆動するアクチュエータ全般において、フェイルセイフ要求に対して、適応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の内燃機関制御装置におけるインジェクタ用ソレノイドコイルの駆動回路(1気筒分)の回路構成を示す。
【図2】従来の内燃機関制御装置におけるインジェクタ用ソレノイドコイルの駆動回路の入力電圧波形とインジェクタ電流波形を示す。
【図3】従来の内燃機関制御装置におけるインジェクタ用ソレノイドコイルの駆動回路で、昇圧回路故障時の入力電圧波形とインジェクタ電流波形を示す。
【図4】本発明の実施例1のインジェクタ駆動回路(1気筒分)の回路構成を示す。
【図5】本発明の実施例1のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における(正常時の)入力電圧波形とインジェクタ電流波形を示す。
【図6】本発明の実施例1のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における故障時の入力電圧波形とインジェクタ電流波形を示す。
【図7】本発明の実施例2のインジェクタ駆動回路(1気筒分)の回路構成を示す。
【図8】本発明の実施例2のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における(正常時の)入力電圧波形とインジェクタ電流波形を示す。
【図9】本発明の実施例2のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における故障時の入力電圧波形とインジェクタ電流波形を示す。
【図10】本発明の実施例3のインジェクタ駆動回路(2気筒分)の回路構成を示す。本発名による昇圧回路故障時のインジェクタの入力電圧波形と流入電流波形である。
【図11】本発明の実施例3のインジェクタ駆動回路における(正常時の)入力電圧波形と第1気筒のインジェクタ電流波形を示す。
【図12】本発明の実施例3のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における(正常時の)入力電圧波形と第2気筒のインジェクタ電流波形を示す。
【図13】本発明の実施例3のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における故障時の入力電圧波形と第1気筒のインジェクタ電流波形を示す。
【図14】本発明の実施例3のインジェクタ駆動回路(1気筒分)における故障時の入力電圧波形と第2気筒のインジェクタ電流波形を示す。
【符号の説明】
【0048】
1,15,36,65 昇圧コイル、
2,16 ダイオード、
3,17,38 スイッチング用MOSFET、
4,18,39 電解コンデンサ、
5,14,49 インジェクタ制御装置、
6,20 電流検出抵抗、
7,21,42 ピーク電流用MOSFET、
8,22,43 保持電流用MOSFET、
9,23,24,44,45 逆流防止用ダイオード、
10,25,47 インジェクタ用ソレノイドコイル、
11,26,48 下流側用MOSFET、
12,27,40 フライホイール用ダイオード、
13,19,35,41 電流検出抵抗、
28 ツェナーダイオード、
31 第1保持電流一定期間、
33 第2保持電流一定期間、
37 ダイオード、
46 回生用ダイオード、
51 プリチャージ電流一定期間、
54 第1保持電流一定期間、
56 第2保持電流一定期間、
59 故障時プリチャージ電流一定期間、
61 故障時第1電流一定期間、
63 故障時第2電流一定期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧回路、スイッチング素子、電流検出抵抗及び制御装置を備えて、該昇圧回路を用いて電源電圧を昇圧し、かかる昇圧電圧をインジェクタ用ソレノイドコイルに流すように該制御装置が該スイッチング素子を制御する内燃機関制御装置において、
前記昇圧回路が故障した際に、前記昇圧電圧を使用せずに、かつ、ピーク電流を作らずに、前記電源電圧を用いて前記インジェクタ用ソレノイドコイルを励磁させて、インジェクタを開弁するための第1の保持電流、該第1の保持電流より低電流であって、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第2の保持電流を発生させることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された内燃機関制御装置において、
前記昇圧回路からピーク電流用スイッチング素子と逆流防止用ダイオードを順次介して前記インジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路と、これに並列に、電源から保持電流用スイッチング素子と逆流防止ダイオードを介してインジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路を設けて前記電源電圧を前記インジェクタ用ソレノイドコイルに直接導く電流路を設けたことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された内燃機関制御装置において、
前記インジェクタ用ソレノイドコイルの下流側に、下流側用スイッチング素子と前記電流検出抵抗を順次設け、前記電流検出抵抗の下流側から前記インジェクタ用ソレノイドコイルの上流側にフライホイールダイオードを設けて、
前記インジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流を、前記フライホイールダイオードを利用して立下げる時に、該電流を監視し、該電流の立下りが零になる直前の閾値レベルにて前記下流側用スイッチング素子を遮断することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項4】
昇圧回路、スイッチング素子、電流検出抵抗及び制御装置を備えて、該昇圧回路を用いて電源電圧を昇圧し、かかる昇圧電圧をインジェクタ用ソレノイドコイルに流すように該制御装置が該スイッチング素子を制御する内燃機関制御装置において、
前記昇圧回路が故障した際に、前記昇圧電圧を使用せずに、かつ、ピーク電流を作らずに、前記電源電圧を用いて前記インジェクタ用ソレノイドコイルを励磁させて、インジェクタの開弁を促進させるためのプリチャージ電流、インジェクタを開弁するための第1の保持電流、該第1の保持電流より低電流であって、インジェクタの開弁状態を保持するのに必要な第2の保持電流を発生させることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された内燃機関制御装置において、
前記昇圧回路からピーク電流用スイッチング素子と逆流防止用ダイオードを順次介して前記インジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路と、これに並列に、電源から保持電流用スイッチング素子と逆流防止ダイオードを介してインジェクタ用ソレノイドコイルに導く電流路を設けて前記電源電圧を前記インジェクタ用ソレノイドコイルに直接導く電流路を設けたことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された内燃機関制御装置において、
前記インジェクタ用ソレノイドコイルの下流側に、下流側用スイッチング素子と前記電流検出抵抗を順次設け、前記電流検出抵抗の下流側から前記インジェクタ用ソレノイドコイルの上流側にフライホイールダイオードを設けて、
前記インジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流を、前記フライホイールダイオードを利用して立下げる時に、該電流を監視し、該電流の立下りが零になる直前の閾値レベルにて前記下流側用スイッチング素子を遮断することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項7】
請求項1から6に記載された内燃機関制御装置において、
前記インジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流の立下りを待つ時間が長くなる場合、対向気筒のインジェクタ用ソレノイドコイルに流れる電流の立ち上がりとラップする前のタイミングで、前記下流側用スイッチング素子を遮断することを特徴とする内燃機関制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−108686(P2009−108686A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278772(P2007−278772)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】