説明

内燃機関制御装置

【課題】内燃機関制御装置のインジェクタ電流下降時、駆動回路の発熱を抑えつつ、下降を迅速に行ってインジェクタの閉弁応答速度を速めること。
【解決手段】インジェクタ電流を駆動する駆動回路と、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路を備え、昇圧回路の昇圧電圧を昇圧側スイッチング素子及び昇圧側保護ダイオードを経由してインジェクタの上流に導くピーク電流経路と、バッテリ電圧をバッテリ側スイッチング素子及びバッテリ側保護ダイオードを経由してインジェクタの上流に導く保持電流経路と、インジェクタの下流側から下流側スイッチング素子を経由して電源グランドに接続されるグランド電流経路と、インジェクタの電気エネルギーをインジェクタの下流側から電流回生ダイオードを経由して昇圧回路に回生させる回生経路と、を備えて、回生経路には電流回生ダイオードと直列に電圧調整部を設けて、駆動回路がスイッチング素子の駆動を制御すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンや軽油等を燃料とする、自動車、オートバイ、農耕機、工作機械、船舶機等において、バッテリ電圧を昇圧した高電圧を使って負荷を駆動する内燃機関制御装置、特に、気筒内直接噴射型インジェクタを駆動する上で好適な内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンや軽油等を燃料とする自動車、オートバイ、農耕機、工作機械、船舶機等の内燃機関制御装置において、燃費や出力向上の目的により、気筒内に直接燃料を噴射するインジェクタを備えたものが用いられており、このようなインジェクタは、「気筒内直接噴射型インジェクタ」又は「直噴インジェクタ」又は単に「DI」と呼ばれている。現在のガソリンエンジンの主流である、空気と燃料の混合気をつくってシリンダー内に噴射する方式と比較して、気筒内直接噴射型インジェクタを用いたエンジンでは、高圧に加圧された燃料を使用するので、インジェクタの開弁動作に高いエネルギーを必要とする。また、高速回転における制御性を向上させるためには、この高いエネルギーを短時間にインジェクタに供給する必要がある。
【0003】
従来の気筒内直接噴射型インジェクタを制御する内燃機関制御装置では、バッテリ電圧よりも高い電圧に昇圧する昇圧回路を設け、ここで発生する昇圧電圧により、短時間にインジェクタへの通電電流を上昇させる方式が多く採用されている。代表的な直噴インジェクタのピーク電流は、現在ガソリンエンジンで主流である燃料と空気との混合気をつくってシリンダー内に噴射する方式のインジェクタ電流と比較して、5〜20倍程度大きいものである。
【0004】
燃料を気筒内に噴射した後のインジェクタの速やかな閉弁は、各気筒のインジェクタ間のばらつきによる応答時間の違い、延いては気筒間における燃料噴射量のばらつきを低減させる上で、燃料噴射量の制御をより高精度にさせる上で、また、閉弁応答速度が速まるので、燃料の無駄な噴射を低減して燃費を改善する上で、有効であり、そのため、インジェクタ電流の下降期間を短縮し、これを速やかに遮断する必要がある。
【0005】
しかし、インジェクタには、インジェクタ電流が流れていることで高いエネルギーが蓄積されており、この電流を遮断するためには、このエネルギーをインジェクタから消滅させることが必要である。これを短時間内に実現するため、インジェクタ電流を駆動する駆動回路の下流側スイッチ素子(FET)のツェナーダイオード効果を使用して、エネルギーを熱エネルギーに変換する方式や、インジェクタ電流を、電流回生ダイオードを通じて、昇圧回路の昇圧コンデンサに回生させる方式等、様々な方式が取られている。いずれの方式においても、インジェクタ電流の下降を速めるためには、インジェクタからの時間当たりのエネルギー消滅量を大きくする必要がある。
【0006】
前者の方式では、特許文献1に記載されているように、インジェクタの通電エネルギーを、ツェナーダイオード効果を用いて、下流側スイッチ素子(シンク用の第三スイッチ素子)で熱エネルギーに変換させることにより行われる。インジェクタからの時間あたりのエネルギー消滅量を大きくするには、ツェナーダイオード電圧が高い部品を選択する必要があるが、ツェナーダイオード電圧が高くなると、下流側スイッチ素子で発生する熱エネルギーが大きくなるため、この方式は、大電流を用いる駆動回路には適していない。
【0007】
これに対し、後者の方式では、インジェクタの下流側から昇圧回路に接続される電流回生ダイオードを通して、インジェクタの電気エネルギーを昇圧回路に回生させるため、インジェクタに大電流を流しても、駆動回路の発熱を比較的低く抑えることが可能である。しかし、回生先の電圧が昇圧電圧(100A)に固定されているため、インジェクタの電気エネルギーの時間当たりの消滅量と、インジェクタ電流の下降時間は、概ねこの昇圧電圧に依存し、制限されてしまう。
【0008】
以上により、インジェクタの電気エネルギーを昇圧回路に回生させ、駆動回路の熱エネルギーの発生を極力抑えながら、インジェクタ電流を速やかに下降させるために、インジェクタ電流の回生先の電圧を高めることが望まれている。
【特許文献1】特開2003−106200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インジェクタ電流下降時の電気エネルギーが駆動回路の熱エネルギーに変換されることを抑えつつ、残りの電気エネルギーを昇圧回路に回生しつつ、インジェクタ電流の下降を短時間内とし、インジェクタの閉弁応答速度を速めることができる駆動回路を備えた内燃機関制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、燃料を噴射するインジェクタを制御するためのインジェクタ電流を駆動する駆動回路と、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路を備えた内燃機関の制御装置であって、前記昇圧回路の昇圧電圧を、昇圧側スイッチング素子及び昇圧側保護ダイオードを経由して、前記インジェクタの上流に導いてピーク電流を駆動するためのピーク電流経路と、前記バッテリ電圧を、バッテリ側スイッチング素子及びバッテリ側保護ダイオードを経由して、前記インジェクタの上流に導いて保持電流を駆動するための保持電流経路と、前記インジェクタの下流側から、下流側スイッチング素子を経由して、電源グランドに接続されるグランド電流経路と、前記インジェクタの電気エネルギーを、前記インジェクタの下流側から電流回生ダイオードを経由して、前記昇圧回路に回生させる回生経路と、を備えて、前記回生経路には、前記電流回生ダイオードと直列に電圧調整部を設けて、前記駆動回路は、前記スイッチング素子の駆動を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内燃機関の気筒内直接噴射型インジェクタを駆動するのに必要な高電圧を発生させる機能を確保しつつ、インジェクタの発生する電気エネルギーによる駆動回路の発熱を抑え、昇圧回路の昇圧コンデンサに回生させ、インジェクタ電流を速やかに下降させることにより、燃料噴射量のばらつきを低減して、高精度の制御を可能とし、無駄な燃料の噴射の低減し燃費を向上させる等の、顕著な作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例1〜5における代表的な動作波形の例を示す。
【図2】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例1の回路構成を示す。
【図3】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例2の回路構成を示す。
【図4】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例3の回路構成を示す。
【図5】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例4の回路構成を示す。
【図6】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例5の回路構成を示す。
【図7】本発明に係る内燃機関制御装置の実施例6の回路構成を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
[実施例1]
図2は、本発明に係る内燃機関制御装置の実施例1の回路構成を示す。実施例1は、複数のインジェクタ(3-1, 3-2)を駆動する駆動回路(200)に適用した例であり、各部位の代表的な動作波形の例は、図1に示されている。
【0015】
バッテリ電圧(1)を昇圧した昇圧電圧(100A)を使用する直噴インジェクタにおいては、駆動回路(200)を、二つ以上のインジェクタ(3-1, 3-2)で共有することが一般的である。実機では、一つの内燃機関制御装置を4〜8気筒のエンジンに適用するが、駆動回路(200)は、一つの回路で複数のインジェクタを駆動することが可能である。図2では、一つの駆動回路を二つのインジェクタに適用した場合を示している。
【0016】
昇圧回路(100)は、更に複数の駆動回路(200)により共有され、通常、エンジン1機に1〜4回路搭載される。昇圧回路が駆動回路を共有する数は、図2におけるインジェクタ電流(3-1A)のピーク電流通電期間(560)に駆動するために必要なエネルギー、エンジンの最高回転数、同一気筒での1回の燃焼に対するインジェクタからの燃料噴射回数等で決まる昇圧復帰期間や昇圧回路(100)の自己発熱等によって決定される。
【0017】
昇圧回路(100)で昇圧された昇圧電圧(100A)は、昇圧回路(100)からの流出電流の過電流又はインジェクタ(3-1, 3-2)側のハーネス断線等を検出するための昇圧側駆動電流(201A)を電圧に変換する昇圧側電流検出抵抗(201)と、図1におけるインジェクタ電流(3-1A)のピーク電流通電期間(560)に駆動するための昇圧側駆動FET(202)と、昇圧回路(100)故障時の逆電流を防止するための昇圧側保護ダイオード(203)を介して、インジェクタ(3-1, 3-2)の上流側に接続される。
【0018】
インジェクタ(3-1, 3-2)の上流側には、バッテリ側電流検出抵抗(211)、バッテリ側駆動FET(212)、バッテリ側保護ダイオード(213)が順次接続される。バッテリ側電流検出抵抗(211)は、バッテリ電源(210)からの過電流又はインジェクタ(3-1, 3-2)側のハーネス断線等を検出するために、バッテリ側駆動電流(211A)を電圧に変換するものであり、バッテリ側駆動FET(212)は、図2に示したインジェクタ電流(3-1A)の保持1停止電流(530)と保持2停止電流(540)を駆動するためのものであり、バッテリ側保護ダイオード(213)は、昇圧電圧(100A)からバッテリ電源(210)への逆流を防止するためのものである。
【0019】
複数のインジェクタ(3-1, 3-2)には、それぞれに下流側駆動FETが接続される。下流側駆動FET1(220-1)又は下流側駆動FET2(220-1)のスイッチング操作により、通電されるインジェクタ(3-1, 3-2)が決定され、各インジェクタに流れるインジェクタ電流(3-1A, 3-2A)は、下流側駆動FETの更に下流においてまとめられ、電流を電圧に変換する下流側電流検出抵抗(221)を介して電源グランド(4)に流れる。
【0020】
また、下流側駆動FET1(220-1)又は下流側駆動FET2(220-2)のドレイン端子は、インジェクタ(3-1, 3-2)の下流側の異常電圧へのショートやハーネスの断線等を検出するための電圧検出回路(244)に接続される。この電圧検出回路(244)は、昇圧側駆動FET(202)とバッテリ側駆動FET(212)と下流側駆動FET1(220-1)又は下流側駆動FET2(220-2)が遮断された場合に、インジェクタ(3-1, 3-2)の下流側を微弱なプルアップ電流により所定電圧(310)に固定するためのフィードバック制御機能を有している。
【0021】
また、インジェクタ電流(3-1A, 3-2A)を通電する間に、上流側の昇圧側駆動FET(202)とバッテリ側駆動FET(212)を同時に遮断し、選択したインジェクタ(3-1又は3-2)側の下流側駆動FET1(220-1)又は下流側駆動FET2(220-2)を通電させることで生じるインジェクタの回生電流を還流させるために、電源グランド(4)から上記インジェクタの上流側に還流ダイオード(222)が接続される。
【0022】
また、インジェクタ電流(3-1A, 3-2A)を通電する間に、上流側の昇圧側駆動FET(202)、バッテリ側駆動FET(212)、下流側駆動FET1(220-1)及び下流側駆動FET2(220-2)の全てを遮断した場合の、選択したインジェクタ(3-1, 3-2)の電気エネルギーを昇圧回路(100)に回生させるために、電流回生ダイオード(260, 261)がインジェクタの下流から昇圧回路の昇圧電圧側に接続される。
【0023】
インジェクタ制御回路(240)中の昇圧側電流検出回路(241)は、昇圧側駆動電流(201A)を、昇圧側電流検出抵抗(201)によって検出して、昇圧ハイサイド側電流検出信号(241A)をゲート駆動ロジック回路(250)に向けて出力する。同じくバッテリ側電流検出回路(242)は、バッテリ側駆動電流(211A)をバッテリ側電流検出抵抗(211)によって検出して、バッテリハイサイド側電流検出信号(242A)をゲート駆動ロジック回路(250)に向けて出力する。同じく下流側電流検出回路(243)は、下流側駆動電流(221A)を下流側電流検出抵抗(221)によって検出して、ローサイド側電流検出信号(243A)をゲート駆動ロジック回路(250)に向けて出力する。
【0024】
また、制御回路(300)は、エンジン回転数や各種センサからの入力条件に基づいて、インジェクタ開弁信号(300C)、インジェクタ1駆動信号(300D)、インジェクタ2駆動信号(300E)をゲート駆動ロジック回路(250)に向けて出力する。
【0025】
インジェクタ制御回路(240)中に設けられたゲート駆動ロジック回路(250)は、上記の信号に基づいて、昇圧側駆動FET制御信号(250A)、バッテリ側駆動FET制御信号(250B)、下流側駆動FET1制御信号(250C)及び下流側駆動FET2制御信号(250D)を出力して、これらの信号により、昇圧側駆動FET(202)、バッテリ側駆動FET(212)、下流側駆動FET1(220-1)及び下流側駆動FET2(220-2)の駆動素子のスイッチングが制御される。
【0026】
また、制御回路(300)とインジェクタ制御回路(240)は、駆動回路と制御回路間通信信号(300B)により、ピーク電流停止電流(520)、保持1停止電流(530)、保持1開始電流(531)、保持2停止電流(540)、保持2開始電流(541)、ピーク電流保持期間、保持1電流期間(570)、保持2電流期間(580)、及び、ピーク電流の有無、ピーク電流保持の実施有無、ピーク電流立下りの急峻/緩行の切り替え、保持1電流の実施有無、保持1電流立下りの急峻/緩行の切り替え、過電流検出、断線検出、過熱保護、昇圧回路故障等の診断結果等、インジェクタ制御回路(240)自体の制御信号の中から必要な情報を交信し、良好なインジェクタ駆動を実現する。
【0027】
このような駆動回路(200)において、代表的な直噴インジェクタの電流波形は、図1に示されたインジェクタ1電流(3-1A)である。通電初期のピーク電流通電期間(560)に昇圧電圧を使って、インジェクタ電流(3-1A)を予め定められたピーク電流停止電流(520)まで短時間に上昇させる。このピーク電流は、現在ガソリンエンジンで主流である燃料と空気との混合気をつくってシリンダー内に噴射する方式のインジェクタ電流と比較して、5〜20倍程度大きいものである。
【0028】
上記のピーク電流通電期間(560)終了後は、インジェクタ(3-1)へのエネルギー供給源は、昇圧電圧(100A)からバッテリ電源(210)へ移行し、ピーク電流に比べ1/2〜1/3程度の保持1停止電流(530)で制御される保持1電流期間を経て、更にその2/3〜1/2程度の保持2停止電流(540)で制御される保持2電流期間へと移行する。ピーク電流でインジェクタ(3-1)が開弁し、保持電流1及び保持電流2によってインジェクタ(3-1)の開弁状態を保持する。この間に、燃料を気筒内に噴射する。なお、保持電流1は、閉弁直後のインジェクタ弁の振動を抑えるように、保持電流2よりも高い電流に設定されている。
【0029】
噴射終了時は、インジェクタ(3-1)の閉弁を速やかに行うために、インジェクタ通電電流(3-1A)の通電電流下降期間(581)を短時間に行い、インジェクタ電流(3-1A)を遮断する必要がある。
【0030】
インジェクタ電流(3-1A)を下降させる期間である通電電流下降期間(581)、ピーク電流下降期間(561)及び保持電流1下降期間(571)において、短時間に下降させることが好ましく、これは駆動回路と制御回路間通信信号(300B)によって指示が行われる。この時のインジェクタ駆動回路(200)の動作は、通電電流下降期間(581)と同じように、昇圧側駆動FET(202)、バッテリ側駆動FET(212)及び下流側駆動FET1(220-1)の全てを遮断させることにより行われる。
【0031】
なお、インジェクタ電流(3-1A)の速やかな下降は、インジェクタ(3-1, 3-2)間のばらつきによる応答時間の違い、延いては気筒間における燃料噴射量のばらつきを低減させることとなり、インジェクタ(3-1)の燃料噴射量制御をより高精度にさせる。同時に、閉弁応答速度が速まるため、燃料の無駄な噴射を低減して燃費の改善にも有効である。
【0032】
しかし、インジェクタ(3-1)には、インジェクタ電流(3-1A)が流れていることで高いエネルギーが蓄積されており、この電流を遮断するためには、このエネルギーをインジェクタ(3-1)から消滅されることが必要となる。つまり、インジェクタ電流(3-1A)の下降時間は、インジェクタ(3-1)からの時間当たりのエネルギー消滅量によって決定される。そのため、インジェクタ電流(3-1A)遮断時のクランプ電圧(320)(図1参照)が高いと、時間当たりにインジェクタに蓄積されたエネルギーがクランプ回路側に移動するエネルギー量が大きくなり、結果としてインジェクタ電流(3-1A)の下降が速まることになる。
【0033】
そこで、インジェクタ(3-1)の電気エネルギーをインジェクタ(3-1)の下流側から電流回生ダイオード(261)を通して昇圧回路(100)に回生させる電流経路において、電流回生ダイオード(261)に直列に電圧調整部として、ツェナーダイオード(262)を設けて、クランプ電圧を更に高く設定し、インジェクタ電流(3-1A)を速やかに下降させている。
【0034】
ここで、電圧調整部の昇圧回路(100)側の接続先については、図2に示すように昇圧側電流検出抵抗(201)の下流に接続しても、後述する図7の実施例6に示すように昇圧側電流検出抵抗(201)の上流に接続しても、昇圧側電流検出抵抗(201)と回生されるインジェクタ電流(3-1A)で発生する電圧は、クランプ電圧(320)に比べて無視できるほど小さいので、インジェクタ電流の速やかな下降が得られる。ただし、昇圧側電流検出抵抗(201)の下流に接続した場合には、昇圧回路(100)に回生されるインジェクタ電流(3-1A)の検出を行うことができる。
【0035】
例えば、実施例1では、電圧調整部としてツェナーダイオード(262)を、電流回生ダイオード(261)と直列にツェナーダイオード(262)のアノードが昇圧電圧側(100B)、カソードがインジェクタの下流側(3-1B)となるように追加した場合、インジェクタ(3-1)のクランプ電圧(320)は、昇圧電圧(100B)と回生ダイオード(261)のフォワード電圧、ツェナーダイオード(262)のツェナー電圧の合計値となる。それゆえ、特許文献1により紹介されているように、下流側駆動FET1(220-1)のツェナーダイオード効果により、下流側駆動FET(220-1)のドレイン−ソース間に同じクランプ電圧を発生させた場合と比べて、挿入されたツェナーダイオード(262)の端子間電圧は、昇圧電圧(100B)と電流回生ダイオード(261)のフォワード電圧分だけ小さいので、ツェナーダイオード(262)の発熱がその分だけ抑えられる。また、所望のクランプ電圧(320)は、ツェナーダイオード(262)を適宜選択することで可能となる。
【0036】
[実施例2]
図3は、本発明に係る内燃機関制御装置の実施例2の回路構成を示し、その各部位の代表的な動作波形は、図1に示されている。
【0037】
実施例2は、実施例1の回路において、その電圧調整部を、MOSFET(263)、ツェナーダイオード(264)及び抵抗(265)で構成したものである。
【0038】
MOSFET(263)は、そのドレインをインジェクタ(3-1)の下流側、そのソースを昇圧電圧側に向くように電流回生ダイオード(261)と直列に挿入し、MOSFET(263)のドレインにツェナーダイオード(264)のカソードが、ゲートにアノードが向くようにツェナーダイオード(264)を接続し、MOSFET(263)のゲート−ソース間に抵抗(265)を接続する。
【0039】
実施例2の回路構成では、MOSFET(263)のドレイン−ソース間電圧はツェナーダイオード(264)で決まるため、インジェクタ(3-1)のクランプ電圧(320)は、昇圧電圧(100A)、回生ダイオード(261)のフォワード電圧、ツェナーダイオード(264)のツェナー電圧の合計値となり、昇圧電圧(100A)よりも高い電圧に設定可能となる。
【0040】
実施例2のMOSFET(263)は、実施例1のツェナーダイオード(262)と同様に、インジェクタ(3-1, 3-2)の駆動条件による発熱量に応じて、適宜選択される。実施例1のツェナーダイオード(262)と実施例2のツェナーダイオード(264)のツェナー電圧が同一の場合は、実施例1のツェナーダイオード(262)と実施例2のMOSFET(263)の発熱量は同等であるが、一般にMOSFETは、放熱性に優れたパッケージが多く販売されているため、ツェナーダイオードと比較して、放熱性に優れた部品を選択しやすいという利点がある。
【0041】
[実施例3]
図4は、本発明に係る内燃機関制御装置の実施例3の回路構成を示し、その各部位の代表的な動作波形は、図1に示されている。
【0042】
実施例3は、実施例1の回路において、電圧調整部を、定電圧源(266)で構成したものである。昇圧電圧(100A)を基準として、それよりも高い電圧を生成して電圧調整部として使用すれば、インジェクタ(3-1)のクランプ電圧(320)は、昇圧電圧(100A)と定電圧源(266)の電圧と回生ダイオード(261)のフォワード電圧の合計値となり、昇圧電圧(100A)よりも高い電圧に設定可能となる。
【0043】
[実施例4]
図5は、本発明に係る内燃機関制御装置の実施例4の回路構成を示し、その各部位の代表的な動作波形は、図1に示されている。
【0044】
実施例4は、実施例1の回路構成における電圧調整部のツェナーダイオード(262)と電流回生ダイオード(260, 261)の位置を入れ換えて構成したものである。
【0045】
実施例4の回路構成において、インジェクタ(3-1)のクランプ電圧(320)は、昇圧電圧(100A)、ツェナーダイオード(268)のツェナー電圧及び回生ダイオード(269)のフォワード電圧の合計値となり、昇圧電圧(100A)よりも高い電圧に設定可能となる。
【0046】
実施例1から実施例4にみられる電流回生ダイオード(260, 261, 269)は、その本来の目的である昇圧電圧(100A)からインジェクタ下流への電流の流れを防止し、かつインジェクタ電流遮断時にはインジェクタ下流から昇圧回路(100)への通電を行い、また電圧調整部は、その本来の目的であるインジェクタ電流遮断時のクランプ電圧(320)の増加が行えるように、回生ダイオード(260, 261, 269)と電圧調整部を直列に接続すれば、本発明の効果であるクランプ電圧(320)を得ることが可能であり、本発明は、電圧調整部を昇圧回路(100)側に、電流回生ダイオード(260, 261)をインジェクタ下流側に設けた実施例1における位置関係に限定されるものではない。
【0047】
また、電圧調整部についても、実施例1のツェナーダイオード(262)、実施例2のMOSFET(263)、実施例4の定電圧源(266)に置き換えることが可能であり、特にツェナーダイオード(262)に限定するものではない。
【0048】
[実施例5]
図6は、本発明に係る内燃機関制御装置の実施例5の回路構成を示し、その各部位の代表的な動作波形は、図1に示されている。
【0049】
実施例5は、実施例1の回路構成において、インジェクタ(3-1, 3-2)毎に電圧調整部のツェナーダイオード(267, 268)と電流回生ダイオード(270, 271)を設けたものである。実施例1の回路構成と比較して、クランプ電圧(320)は同じであるが、実施例5の回路構成では、ツェナーダイオード(267, 268)の時間当りの発熱量が異なることが特徴となる。
【0050】
内燃機関装置は、通常、その負荷量に応じて数100から数1000回転/分の速度で、その出力軸を回転させており、インジェクタはその回転速度と同期して駆動されている。それゆえ、インジェクタの噴射が複数回行われる、ある一定時間における複数回のクランプ電圧(320)発生を考慮すると、実施例5における電圧調整部であるツェナーダイオード(267, 268)の発熱量は、実施例1におけるツェナーダイオード(262)の発熱量と比較して、1/2に抑えられるという利点がある。
【0051】
[実施例6]
図7は、本発明に係る内燃機関制御装置の実施例6の回路構成を示し、その各部位の代表的な動作波形は、図1に示されている。
【0052】
実施例6は、実施例1の回路構成において、電圧調整部のツェナーダイオードの接続先を、昇圧側電流検出抵抗(201)の上流、すなわち昇圧電圧(100A)に接続したものである。
【0053】
実施例6では、電圧調整部としてツェナーダイオード(272)を、電流回生ダイオード(261)と直列に、ツェナーダイオード(272)のアノードが昇圧電圧側(100A)に、カソードがインジェクタの下流側(3-1B)を向くように追加した場合、インジェクタ(3-1)のクランプ電圧(320)は、昇圧電圧(100A)と回生ダイオード(261)のフォワード電圧、ツェナーダイオード(272)のツェナー電圧の合計値となる。
【0054】
ここで電圧調整部(272)の昇圧回路(100)側の接続先については、図7に示すように昇圧側電流検出抵抗(201)の上流に接続しても、昇圧側電流検出抵抗(201)と回生されるインジェクタ電流(3-1A)で発生する電圧は、クランプ電圧(320)に比べて無視できるほど小さく、本発明の効果である速やかなインジェクタ電流の下降は得られる。
【0055】
以上、実施例1から6について、それぞれ説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づく範囲において、様々な変更が可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ガソリンや軽油等を燃料とし、バッテリ電圧を昇圧した高電圧を使って、負荷を駆動する内燃機関の制御装置を用いる、自動車、オートバイ、農耕機、工作機械、船舶機をはじめ、建設機械、産業機械等の種々の産業分野において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0057】
1・・・バッテリ電源、3-1・・・インジェクタ1、3-1A・・・インジェクタ1電流、3-2・・・インジェクタ2、3-2A・・・インジェクタ2電流、4・・・電源グランド、
100・・・昇圧回路、100A・・・昇圧電圧、100B・・・昇圧電圧(昇圧側電流検出抵抗下流)200・・・駆動回路、201・・・昇圧側電流検出抵抗、201A・・・昇圧側駆動電流、202・・・昇圧側駆動FET、203・・・昇圧側保護ダイオード、210・・・バッテリ電源、211・・・バッテリ側電流検出抵抗、211A・・・バッテリ側駆動電流、212・・・バッテリ側駆動FET、213・・・バッテリ側保護ダイオード、220-1・・・下流側駆動FET1、220-2・・・下流側駆動FET2、221・・・下流側電流検出抵抗、221A・・・下流側駆動電流、222・・・還流ダイオード、240・・・インジェクタ制御回路、241・・・昇圧側電流検出回路、241A・・・昇圧ハイサイド側電流検出信号、242・・・バッテリ側電流検出回路、242A・・・バッテリハイサイド側電流検出信号、243・・・下流側電流検出回路、243A・・・ローサイド側電流検出信号、244・・・ローサイド側電圧検出回路、244A・・・ローサイド側電圧検出信号、250・・・ゲート駆動ロジック回路、250A・・・昇圧側駆動FET制御信号、250B・・・バッテリ側駆動FET制御信号、250C・・・下流側駆動FET1制御信号、250D・・・下流側駆動FET2制御信号、300・・・制御回路、300B・・・駆動回路と制御回路間通信信号、300C・・・インジェクタ開弁信号、300D・・・インジェクタ1駆動信号、300E・・・インジェクタ2駆動信号、400・・・インジェクタ1通電信号、401・・・インジェクタ1非通電信号、410・・・インジェクタ開弁通電信号、411・・・インジェクタ開弁非通電信号、500・・・電源グランド電圧、520・・・ピーク電流停止電流、530・・・保持1停止電流、531・・・保持1開始電流、540・・・保持2停止電流、541・・・保持2開始電流、560・・・ピーク電流通電期間、561・・・ピーク電流下降期間、570・・・保持1電流期間、571・・・保持1電流下降期間、580・・・保持2電流期間、581・・・通電電流下降期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を噴射するインジェクタを制御するためのインジェクタ電流を駆動する駆動回路と、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路を備えた内燃機関の制御装置であって、
前記昇圧回路の昇圧電圧を、昇圧側スイッチング素子及び昇圧側保護ダイオードを経由して、前記インジェクタの上流に導いてピーク電流を駆動するためのピーク電流経路と、
前記バッテリ電圧を、バッテリ側スイッチング素子及びバッテリ側保護ダイオードを経由して、前記インジェクタの上流に導いて保持電流を駆動するための保持電流経路と、
前記インジェクタの下流側から、下流側スイッチング素子を経由して、電源グランドに接続されるグランド電流経路と、
前記インジェクタの電気エネルギーを、前記インジェクタの下流側から電流回生ダイオードを経由して、前記昇圧回路に回生させる回生経路と、を備えて、
前記回生経路には、前記電流回生ダイオードと直列に電圧調整部を設けて、
前記駆動回路は、前記スイッチング素子の駆動を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された内燃機関の制御装置において、
前記インジェクタの回生電流を、前記下流側スイッチング素子の下流側から、還流ダイオードを介して、前記インジェクタの上流側に戻す還流経路を設けたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された内燃機関の制御装置において、
前記電圧調整部の一つに対して、複数の前記電流回生ダイオードが互いに平列に接続されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された内燃機関の制御装置において、
前記電流回生ダイオードの一つと直列に接続された前記電圧調整部の一つの組が、一つの気筒を構成していることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された内燃機関の制御装置において、
前記電圧調整部は、ツェナーダイオードであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された内燃機関の制御装置において、
前記ピーク電流経路には、前記昇圧側スイッチング素子の上流側に昇圧側電流検出抵抗を備えて、該昇圧側電流検出抵抗と前記昇圧側スイッチング素子の間に、前記ツェナーダイオードのアノードが接続されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載された内燃機関の制御装置において、
前記電圧調整部は、MOSFET、ツェナーダイオード及び抵抗から構成されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載された内燃機関の制御装置において、
前記MOSFETは、そのドレインを前記インジェクタの下流側に、そのソースを前記昇圧電圧側に向けて、前記電流回生ダイオードと直列に挿入すると共に、前記MOSFETのドレインに前記ツェナーダイオードのカソードを、前記MOSFETのゲートに前記ツェナーダイオードのアノードを接続し、前記MOSFETのゲート−ソース間に抵抗を接続したことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
請求項1又は2に記載された内燃機関の制御装置において、
前記電圧調整部として定電圧源を用いて、該電圧源の基準電圧を前記昇圧回路側に、正の電圧を前記インジェクタの下流側に有するように接続したことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載された内燃機関の制御装置において、
前記制御装置は、前記ピーク電流経路に昇圧側電流検出抵抗を、前記保持電流経路にバッテリ側電流検出抵抗を、前記グランド電流経路に下流側電流検出抵抗を、設けて、
前記駆動回路は、前記検出抵抗が検出した電流値に基づいて、前記スイッチング素子の駆動を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−247229(P2011−247229A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123900(P2010−123900)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】