説明

内燃機関用のピストンおよびその製造方法

【課題】ピストン頂面の焼結体とピストン母材との界面強度が高められることで亀裂が生じ難く、かつ、焼結体が所要の低熱伝導性を有することで燃焼室内の燃料の燃焼促進が十分に図られる内燃機関用のピストンとその製造方法を提供する。
【解決手段】第1の焼結体1を形成するための第1の加圧成形体を製造する工程と、第1の加圧成形体の外周に第2の焼結体2を形成するための第2の加圧成形体を製造して複合焼結体3を形成するための加圧成形複合体を製造する工程と、加圧成形複合体を焼結して複合焼結体3を製造する工程と、第2の焼結体2の燃焼室側表面と反対側の面にピストンの母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体3をピストン10の頂面部に鋳込む工程と、からなる製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のピストンとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用のピストン、特に、直接噴射のガソリンエンジン用ピストンの燃焼室側表面には高温強度性能、低熱伝導性能が要求されており、そのために多様な表面処理技術が施されている。
【0003】
その一例として特許文献1〜3に開示のピストンを挙げることができる。特許文献1に開示のピストンは、その燃焼室側の頂面にSUSやチタン、またはそれらと同等の低熱伝導率かつ低比熱の合金や金属多孔質体からなる部材がピストンに鋳ぐるみされたものである。また、特許文献2に開示のピストンにおいては、その頂面に鋳ぐるみされるチタン系合金の焼結材からなる低熱伝導部材に関し、その加圧成形時の圧縮荷重を調整することによって部材内部の気孔割合が適宜に調整された低熱伝導部材を有するピストンが開示されている。また、特許文献3には、ピストン頂面にピストン母材金属よりも耐熱性の高い材料からなる耐熱金属板を配置するとともに、該耐熱金属板の裏面にピストン母材金属よりも低熱伝導性の物質とピストン母材金属とを複合一体化した断熱層が形成されてなる断熱ピストンが開示されている。
【0004】
ところで、図4には、焼結合金からなる低熱伝導板Bがアルミニウム合金からなるピストン頂面に鋳込まれてなる従来のピストンAを図示している。車両運転時に内燃機関のピストンAに燃焼圧が繰り返し作用すると、該ピストンAはそのピストンピンCを支点として図中の2点鎖線のように撓んだ形状を繰り返し呈することになる。この繰り返しの撓み変形により、低熱伝導板Bとピストン母材との界面に引張応力と圧縮応力が交互に作用し、該界面を中心に疲労破壊(亀裂)が生じることが発明者等の実機試験によって判明しており、ピストンの耐久性はこの界面強度によって決定されるといっても過言ではない。したがって、かかる界面に生じる亀裂の発生を効果的に抑制するとともに、ピストン頂面部材が所要の低熱伝導性を発揮することがピストンの耐久性と燃料燃焼の促進の双方を満足することになる。かかる課題は、上記特許文献1〜3に開示のピストンによっても解決することはできない。特に、特許文献1,2に開示のピストンでは、焼結体を多孔質なものとすることでピストン母材金属との接続強度は高まるものの、今度はピストン母材金属が焼結体内に入り過ぎて、焼結体の低熱伝導性が低下することになる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−193721号公報
【特許文献2】特開2000−186617号公報
【特許文献3】特開昭62−45964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、ピストン頂面の焼結体とピストン母材との界面強度が高められることで亀裂が生じ難く、かつ、焼結体が所要の低熱伝導性を有することで燃焼室内の燃料の燃焼促進が十分に図られる内燃機関用のピストンと、該ピストンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による内燃機関用のピストンの製造方法は、第1の焼結体と、該第1の焼結体の外周を囲繞するとともに第1の焼結体よりも相対的に多孔質な第2の焼結体と、からなる複合焼結体であって、ピストンの母材金属よりも相対的に低熱伝導性を有する複合焼結体を、その燃焼室側表面の頂面部に具備する内燃機関用のピストンの製造方法において、第1の焼結体を形成するための第1の加圧成形体を製造する工程と、第1の加圧成形体の外周に第2の焼結体を形成するための第2の加圧成形体を製造して複合焼結体を形成するための加圧成形複合体を製造する工程と、加圧成形複合体を焼結して複合焼結体を製造する工程と、第2の焼結体にピストンの母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体をピストンの頂面部に鋳込む工程と、からなるものである。
【0008】
本発明のピストンの製造方法にかかるピストンは、その頂面部に例えば円盤状の焼結体(第1の焼結体)とこの第1の焼結体の外周を囲繞する第2の焼結体とからなる複合焼結体を具備するピストンである。ここで、第1の焼結体と第2の焼結体は、ともに例えばアルミニウム合金からなるピストンの母材金属よりも低熱伝導性の原料粉末の焼結体からなり、例えば、マンガン(Mn)と鉄(Fe)の合金やそれらにさらに炭素(C)を含む合金の粉末と鉄粉と黒鉛とを所定の割合にて混合した原料粉末の焼結体などが一例として挙げられる。
【0009】
さらに、第2の焼結体は、第1の焼結体に比して相対的に多孔質に成形されており、それによって第2の焼結体は母材金属が含浸し易くなっている。すなわち、母材金属溶湯はこの第2の焼結体の気孔内に含浸凝固することで、複合焼結体とピストン頂面部の母材金属とが一体に結合される。この気孔率の調整は、各焼結体の焼結前に所定量の潤滑剤を原料粉末体に充填することで所定量の潤滑剤を含有する原料粉末を生成し、成形型内でこの原料粉末体を加熱処理して潤滑剤を蒸発させ、もしくは焼結時に潤滑剤を蒸発させることで所要の気孔率を有する焼結体を成形することができる。ここで、使用する潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムやパラフィン系ワックスなどを使用できる。
【0010】
本発明のピストンの製造方法は、まず、所要の気孔率となるように調整された所定量(所定割合)の潤滑剤を含有する原料粉末を成形型内に充填し、加圧することで第1の焼結体を形成するための第1の加圧成形体を成形する。
【0011】
次いで、同一の成形型もしくは別途の成形型にて上記第1の加圧成形体を移載し、その外周に所要の気孔率となるように調整された所定量の潤滑剤を含有する第2の焼結体用の原料粉末を充填して加圧することにより、第2の焼結体を形成するための第2の加圧成形体を第1の加圧成形体の外周に成形する。
【0012】
このように、第1の加圧成形体を成形した後にその外周に第2の加圧成形体を成形する目的は、双方を同時に加圧成形した場合に、相対的に多孔質(相対的に低密度)の第2の加圧成形体用の原料粉末に第1の加圧成形体用の原料粉末が入り込みながら広がる(押出される)ことになり、この状態で複合焼結体を製造すると、該第1、第2の加圧成形体用の原料粉末が混在した焼結部において亀裂が生じ易くなり、脆い焼結体ができてしまうことを回避するためである。第1の加圧成形体を予め成形しておくことで、第2の加圧成形体の成形時には該第2の加圧成形体用の粉末が第1の加圧成形体内に入り込むことができないため、双方の原料粉末が混在することはなくなり、亀裂の生じ難い複合焼結体を得ることができる。
【0013】
複合焼結体を製造後、これをピストン製造用の成形型に移載し、その裏側にピストン母材金属溶湯を流し込み、加圧成形することで、相対的に多孔質な第2の焼結体の気孔内に母材金属溶湯が含浸することになる。一方、第1の焼結体には母材金属溶湯がほとんど含浸しないため、第1の焼結体が有する低熱伝導性が確保された状態で、第2の焼結体がピストン母材金属に鋳込まれることになる。
【0014】
上記する本発明の内燃機関用のピストンの製造方法によれば、気孔率の異なる2つの焼結体からなる低熱伝導性の複合焼結体をピストン頂面部に設けるに際し、第1の加圧成形体を成形した後にその外周に第2の加圧成形体を成形して複合焼結体を製造するとともに、第2の焼結体にピストン母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体の低熱伝導性を保持しながら、該複合焼結体とピストン母材金属とを強固に一体化することができる。また、第1の焼結体は気孔率が低いことから高密度であり、複合焼結体の強度を十分に保持することもできる。したがって、繰り返しの引張応力および圧縮応力が作用しても、複合焼結体とピストン母材金属との界面で亀裂が生じ難くなり、複合焼結体自体の強度も十分に担保されていることから、ピストンの耐久性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明による内燃機関用のピストンの製造方法の他の実施の形態は、第1の焼結体と、該第1の焼結体の外周を囲繞するとともに第1の焼結体よりも相対的に多孔質な第2の焼結体と、からなる複合焼結体であって、ピストンの母材金属よりも相対的に低熱伝導性を有する複合焼結体を、その燃焼室側表面の頂面部に具備する内燃機関用のピストンの製造方法において、第1の焼結体を形成するための第1の加圧成形体を製造し、該第1の加圧成形体を焼結して第1の焼結体を製造する工程と、第1の焼結体の外周に第2の焼結体を形成するための第2の加圧成形体を製造し、該第2の加圧成形体を焼結して第2の焼結体を製造するとともに、第1の焼結体と第2の焼結体とからなる複合焼結体を製造する工程と、第2の焼結体にピストンの母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体をピストンの頂面部に鋳込む工程と、からなるものである。
【0016】
本実施の形態は、第1の焼結体を製造した後に、その外周に第2の加圧成形体を成形し、次いで第2の焼結体を製造することで複合焼結体が製造されるものであり、この方法によっても、第2の加圧成形体用の原料粉末に第1の加圧成形体用の原料粉末が入り込むという問題が生じ得ず、したがって、亀裂の生じ難い複合焼結体を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明による内燃機関用のピストンにおいて、前記ピストンの燃焼室側表面にはピストン頂面部が形成されており、第1の焼結体と、該第1の焼結体の外周を囲繞するとともに第1の焼結体よりも相対的に多孔質な第2の焼結体と、からなる複合焼結体であって前記ピストンの母材金属よりも相対的に低熱伝導性の複合焼結体が前記頂面部に設けられており、該ピストンの母材金属が前記第2の焼結体に含浸凝固されてなるものである。
【0018】
本発明のピストンによれば、第1の焼結体が相対的に気孔率が低いことから複合焼結体の強度を十分に確保することができ、さらには、第1の焼結体にはピストン母材金属がほとんど含浸していないために複合焼結体の低熱伝導性をこの第1の焼結体にて保持することができる。一方、その外周に固着された第2の焼結体は、相対的に気孔率が高く、ピストン母材金属が含浸凝固していることで、ピストンの母材金属と複合焼結体の接続強度が高められ、この界面での亀裂は生じ難くなり、耐久性の高いピストンが得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から理解できるように、本発明による内燃機関用のピストンの製造方法によれば、気孔率の異なる2つの焼結体からなる低熱伝導性の複合焼結体をピストン頂面部に設けるに際し、第1の加圧成形体を成形した後にその外周に第2の加圧成形体を成形して複合焼結体を製造する、もしくは、第1の焼結体を製造した後に第2の焼結体を製造するとともに、第2の焼結体にピストン母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体の低熱伝導性を保持しながら、該複合焼結体とピストン母材金属とを強固に一体化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明のピストンの縦断面図であり、図2は図1のII−II矢視図である。図3は、ピストンの他の実施の形態の縦断面図である。なお、第1の焼結体および第2の焼結体、複合焼結体の形状や、ピストン頂面部における複合焼結体の占有箇所は図示する実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明のピストンの一実施の形態の縦断面図であり、図2は、その平面図である。このピストン10は、アルミニウム合金からなるピストン一般部4と、その頂面部41上に形成され、ピストン一般部41に比して低熱伝導性の複合焼結体3とから構成されている。
【0022】
複合焼結体3は、その中央の略円盤状の第1の焼結体1と、その外周の略リング状の第2の焼結体2とから構成される。
【0023】
第1の焼結体1は、マンガンと鉄と炭素からなるFe−Mn合金粉末と鉄粉末と黒鉛とを所定の割合で混合して原料粉末を生成し、これに所定量のステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を充填し、この潤滑剤を含有した原料粉末を成形型内に充填して加圧成形し、焼結することで製造される。ここで、潤滑剤の含有量は、この潤滑剤が加熱処理されて焼結体内に気孔が生成されるに際し、第1の焼結体1が具備すべき所望の気孔率を得るために調整された量である。
【0024】
一方、第2の焼結体2は、第1の焼結体1と同成分の原料粉末に該第1の焼結体1に比して多量の潤滑剤(であって、同様に第2の焼結体2が具備すべき所望の気孔率を得るための含有量)が含有された原料粉末を用意し、成形型内に第1の焼結体1が収容された状態で、その外周にこの原料粉末を充填して加圧成形し、焼結することで第1の焼結体1に密着固定した状態で製造される。この製造方法により、第1の焼結体1と第2の焼結体2からなる複合焼結体3が製造される。この複合焼結体3において、第1の焼結体1と第2の焼結体2はそれぞれに固有の気孔率を有しており、第2の焼結体2の気孔率が相対的に高くなるように調整されている。
【0025】
この複合焼結体3をピストン製造用の成形型内に載置し、その裏面にピストン母材金属溶湯を流し込むことにより、該母材金属溶湯は複合焼結体3を構成する第2の焼結体2の気孔内に含浸され、これが凝固することで図1,2に示す複合焼結体3をその頂面部41に備えたピストン10が製造される。
【0026】
なお、他の製造方法として、所定量の潤滑剤を含有した第1の焼結体1用の粉末混合体を成形型内に充填して加圧成形することで第1の加圧成形体を成形し、次いで、相対的に多量で所定量の潤滑剤を含有した第2の焼結体2用の粉末混合体を第1の加圧成形体の外周に充填して加圧成形することで第2の加圧成形体を成形して加圧成形複合体を成形し、この加圧成形複合体を焼結することで複合焼結体3を製造する方法であってもよい。
また、図3は、ピストンの他の実施の形態を示している。このピストン10Aは、第1の焼結体1の外周のみならず、その底部をも第2の焼結体2Aが包囲するようにして複合焼結体3Aが形成されたものである。
【0027】
[複合焼結体の製造方法と成形時の割れの発生率に関する実験]
本発明者等は、以下の3パターンの製造方法にて試験体を試作し、その製造過程で、第2の焼結体用の加圧成形体の割れの発生率を検証した。なお、第1、第2の加圧成形体用の原料粉末を変化させるとともに、潤滑剤であるステアリン酸亜鉛の混合割合を変化させて試験体を製造している。
【0028】
試験体の具体的な製造方法は、マンガンを49.7%含み、残りが鉄と炭素(例えば0.003%)からなるFe−Mn合金粉末と鉄粉と黒鉛を以下の表1に示すように変化させるとともに、第1、第2の加圧成形体用の原料粉末ごとにステアリン酸亜鉛の混合割合を表1のように変化させ、800MPaでφ60mm、厚さ8mmの円盤状に成形した後に、アルゴン雰囲気内、1150℃で30分間焼結を実施した。なお、仕切板(φ54mm)を用いて内側(第1の加圧成形体用)の原料粉末にはステアリン酸亜鉛を混合させず、その外側(第2の加圧成形体用)の原料粉末にはステアリン酸亜鉛を0〜6%(質量%)混合させている。
【0029】
ここで、製造方法の第1パターン(以下、比較例という)は、双方の原料粉末を充填した後に同時に加圧成形し、焼結する方法である。
【0030】
一方、製造方法の第2のパターン(以下、実施例1という)は、内側の原料粉末を加圧成形した後に外側の原料粉末を充填/加圧成形し、焼結する方法である。
【0031】
さらに、製造方法の第3のパターン(以下、実施例2という)は、内側の原料粉末を加圧成形して焼結した後に外側の原料粉末を充填/加圧成形し、焼結する方法である。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、実施例1,2では、外側、すなわち、第2の加圧成形体の割れがほとんどなく、特に実施例2では割れが全く生じない結果となった。
【0034】
したがって、図1,2に示す複合焼結体3の製造方法としては、実施例1,2のように、少なくとも内側、すなわち、第1の加圧成形体を形成した後にこれを焼結し、その後に第2の加圧成形体を形成するとともにこれを焼結する方法、ないしは第1の加圧成形体を成形した後に第2の加圧成形体を形成し、双方を同時に焼結する方法が望ましいと結論付けることができる。
【0035】
[複合焼結体の気孔率と破断強度、および熱伝導率に関する実験]
次に、本発明者等は、複合焼結体の気孔率を変化させた際の破断強度と熱伝導率に関する実験を実施した。
【0036】
上記する表1の原料粉末を使用するとともに上記実施例2の方法で試験体を試作し、試験体ごとの気孔率を求めるとともに、その一方面にアルミニウム合金(AC8A(鋳物8種A))からなる母材金属溶湯を含浸させてピストンを製造し、複合焼結体と母材金属とからなるピストンの一部の円盤試験体を採取した。この試験体に引張り試験を実施し、破断部の部位の特定と破断強度を測定し、さらには、レーザフラッシュ法にて試験体の熱伝導率を測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
焼結体(複合焼結体)とピストン頂面の境界の破断強度がピストン一般部の破断強度以上であることで複合焼結体とピストン頂面との十分な接合強度が確保されることになる。ここで、アルミニウム合金(AC8A)の母材破断強度はおよそ200MPaであり、境界の破断強度がそれ以上ある試験体(No.4,5,6)がこの条件を満足する。
【0039】
一方、複合焼結体の気孔率、特に外側の気孔率が高くなることで母材金属との結合強度は高くなる(母材金属の含浸割合が増加する)が、その一方で表2からも明らかなように該複合焼結体の低熱伝導性能が低下する。これは、複合焼結体を構成する第1の焼結体が低熱伝導性を具備している場合でも、その外周の第2の焼結体の熱伝導性が高くなることで、複合焼結体全体として熱伝導性が高くなってしまうことを意味している。したがって、第1の焼結体が低熱伝導性を有することは勿論のこと、第2の焼結体も可及的に低熱伝導性を有することが好ましい。
【0040】
表2の実験結果より、複合焼結体とピストン頂面との境界にて破断が生じることなく、かつ、低熱伝導性を有する試験体として、表2中のNo.4の試験体が最も好ましいと結論付けることができる。
【0041】
上記する各実験結果より、本発明による製造方法によってピストンを製造することで、複合焼結体の低熱伝導性を確保しながら、該複合焼結体とピストン頂面とが極めて強度に接合されたピストンを得ることができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のピストンの縦断面図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】本発明のピストンの他の実施の形態の縦断面図である。
【図4】従来のピストンの縦断面図であって、撓み変形時の変形モードを重ねた図である。
【符号の説明】
【0044】
1…第1の焼結体、2,2A…第2の焼結体、3,3A…複合焼結体、4…ピストン一般部、41…頂面部、10,10A…ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の焼結体と、該第1の焼結体の外周を囲繞するとともに第1の焼結体よりも相対的に多孔質な第2の焼結体と、からなる複合焼結体であって、ピストンの母材金属よりも相対的に低熱伝導性を有する複合焼結体を、その燃焼室側表面の頂面部に具備する内燃機関用のピストンの製造方法において、
第1の焼結体を形成するための第1の加圧成形体を製造する工程と、
第1の加圧成形体の外周に第2の焼結体を形成するための第2の加圧成形体を製造して複合焼結体を形成するための加圧成形複合体を製造する工程と、
加圧成形複合体を焼結して複合焼結体を製造する工程と、
第2の焼結体にピストンの母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体をピストンの頂面部に鋳込む工程と、からなる内燃機関用のピストンの製造方法。
【請求項2】
第1の焼結体と、該第1の焼結体の外周を囲繞するとともに第1の焼結体よりも相対的に多孔質な第2の焼結体と、からなる複合焼結体であって、ピストンの母材金属よりも相対的に低熱伝導性を有する複合焼結体を、その燃焼室側表面の頂面部に具備する内燃機関用のピストンの製造方法において、
第1の焼結体を形成するための第1の加圧成形体を製造し、該第1の加圧成形体を焼結して第1の焼結体を製造する工程と、
第1の焼結体の外周に第2の焼結体を形成するための第2の加圧成形体を製造し、該第2の加圧成形体を焼結して第2の焼結体を製造するとともに、第1の焼結体と第2の焼結体とからなる複合焼結体を製造する工程と、
第2の焼結体にピストンの母材金属溶湯を含浸凝固させることで、複合焼結体をピストンの頂面部に鋳込む工程と、からなる内燃機関用のピストンの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関用のピストンの製造方法において、
第1の加圧成形体用の原料粉末体と第2の加圧成形体用の原料粉末体にそれぞれに固有の量の潤滑剤を充填し、第1、第2の焼結体を製造することで潤滑剤を蒸発させてそれぞれが固有の気孔率を有する第1、第2の焼結体を製造するものであって、第2の加圧成形体用の原料粉末体に対する潤滑剤の充填量が相対的に多くなるように調整されていることを特徴とする内燃機関用のピストンの製造方法。
【請求項4】
内燃機関用のピストンであって、
前記ピストンの燃焼室側表面にはピストン頂面部が形成されており、
第1の焼結体と、該第1の焼結体の外周を囲繞するとともに第1の焼結体よりも相対的に多孔質な第2の焼結体と、からなる複合焼結体であって前記ピストンの母材金属よりも相対的に低熱伝導性の複合焼結体が前記頂面部に設けられており、該ピストンの母材金属が前記第2の焼結体に含浸凝固されてなる内燃機関用のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−267158(P2008−267158A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107214(P2007−107214)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390008822)アート金属工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】