説明

内部熱交換型蒸留装置

【課題】第2の蒸留塔から第1の蒸留塔への熱移動が阻害されることなく円滑に運転することができる内部熱交換型蒸留装置を提供する。
【解決手段】内部熱交換型蒸留装置5は、第1の蒸留塔51と、第1の蒸留塔51の内部に配設されその内部と外部とが隔離された第2の蒸留塔52と、第1の蒸留塔51に原料溶液を供給する供給導管43とを備える。第2の蒸留塔52の側壁に、原料溶液に含有される析出成分が析出して付着堆積することを防止する付着堆積防止層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部熱交換型蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油化学工業における高効率の蒸留塔として開発された内部熱交換型蒸留装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記内部熱交換型蒸留装置は、第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の内部に配設された第2の蒸留塔とを備え、第2の蒸留塔は第1の蒸留塔の内部でその内部と外部とが隔離された構成を備えている。そして、前記内部熱交換型蒸留装置は、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として、例えば、第2の蒸留塔の熱を第1の蒸留塔に移動させるようになっている。
【0004】
前記内部熱交換型蒸留装置は、石油化学工業において、例えばベンゼンとトルエンとの分留に用いられる。このとき、前記内部熱交換型蒸留装置によれば、第2の蒸留塔から第1の蒸留塔に移動する熱により、加熱及び冷却の仕事量が軽減されるので、蒸留に要する熱エネルギーを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2694425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記内部熱交換型蒸留装置は、蒸留対象の原料溶液によっては、第2の蒸留塔の側壁に析出成分が付着堆積して断熱材として作用し、第2の蒸留塔から第1の蒸留塔への熱移動が阻害されることがあるという不都合がある。
【0007】
そこで、本発明は、かかる不都合を解消して、第2の蒸留塔から第1の蒸留塔への熱移動が阻害されることなく円滑に運転することができる内部熱交換型蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の内部熱交換型蒸留装置は、第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の内部に配設されその内部と外部とが隔離された第2の蒸留塔と、第1の蒸留塔に原料溶液を供給する第1の供給導管と、第1の蒸留塔の塔頂に得られた第1の気体を取り出して第2の蒸留塔に供給する第2の供給導管と、第2の供給導管の途中に設けられ第2の蒸留塔内を第1の蒸留塔内よりも高圧にする圧力差生成手段と、第1の蒸留塔の塔底液を取り出す第1の取出導管と、第1の蒸留塔を加熱する加熱手段と、第2の蒸留塔の塔頂に得られた第2の気体を取り出す第2の取出導管と、第2の取出導管の途中に設けられ第2の気体を冷却して液化させるコンデンサーとを備え、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として第2の蒸留塔の熱を第1の蒸留塔に移動させる内部熱交換型蒸留装置において、第2の蒸留塔の側壁に、該原料溶液に含有される析出成分が析出して付着堆積することを防止する付着堆積防止層を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の内部熱交換型蒸留装置では、まず、第1の供給導管から第1の蒸留塔に供給された前記原料溶液が前記加熱手段により加熱されて蒸留されることにより、第1の蒸留塔の塔頂に、該原料溶液中の低沸点成分を含む第1の気体が得られる。前記第1の気体は、前記第2の供給導管を介して第2の蒸留塔に供給されるが、このとき前記圧力差生成手段により、第2の蒸留塔内が第1の蒸留塔内よりも高圧にされることにより第2の蒸留塔内の温度が上昇する。
【0010】
本発明の内部熱交換型蒸留装置では、前記圧力差生成手段は、第1の蒸留塔内を大気圧とし、前記第1の気体を加圧して、第2の蒸留塔内を大気圧以上の加圧状態としてもよい。また、前記圧力差生成手段は、第1の蒸留塔内を減圧して、第1の蒸留塔内を大気圧以下の減圧状態とし、第2の蒸留塔内を大気圧としてもよい。
【0011】
この結果、前記第1の気体は第2の蒸留塔でさらに蒸留され、第2の蒸留塔の塔頂に、第1の気体より高濃度の前記低沸点成分を含む第2の気体が得られる。前記第2の気体は第2の取出導管から取出され、前記コンデンサーで冷却されて液化されることにより、前記低沸点成分の液体を得ることができる。
【0012】
本発明の内部熱交換型蒸留装置では、前記圧力差生成手段により、第2の蒸留塔内が第1の蒸留塔内よりも高圧にされることにより、第2の蒸留塔内の温度が上昇し、第1の蒸留塔内の温度より高温となる。この結果、第2の蒸留塔の熱が、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として第1の蒸留塔に移動する。従って、第1の蒸留塔はさらに加熱され、第2の蒸留塔の温度は低下するので、加熱及び冷却の仕事量を低減することができ、蒸留に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0013】
ところが、蒸留対象の原料溶液が析出成分を含むときには、第2の蒸留塔の側壁に該析出成分が析出して付着堆積し、該析出成分が断熱材として作用して、第2の蒸留塔から第1の蒸留塔への熱移動が阻害されることが懸念される。
【0014】
そこで、本発明の内部熱交換型蒸留装置は、第2の蒸留塔の側壁に、前記原料溶液に含有される析出成分が析出して付着堆積することを防止する付着堆積防止層を備えている。この結果、本発明の内部熱交換型蒸留装置によれば、第2の蒸留塔の側壁に前記析出成分が析出して付着堆積することを防止して、円滑に運転することができる。
【0015】
本発明の内部熱交換型蒸留装置は、例えば、前記原料溶液が、リグノセルロース系バイオマスを糖化して得られた糖化溶液を発酵させた発酵溶液であるときに、該発酵溶液の蒸留に好適に用いることができる。このとき、前記原料溶液に含有される析出成分は、タンパク質と無機化合物との混合物である。
【0016】
本発明の内部熱交換型蒸留装置において、前記付着堆積防止層は、Ni−P合金中に5〜40質量%の範囲のフッ素樹脂を含むことが好ましい。前記付着堆積防止層は、マトリックスとなるNi−P合金により前記第2の蒸留塔の側壁の熱伝導性を確保することができると共に、前記範囲のフッ素樹脂を含むことにより、前記原料溶液に含有される析出成分の析出を防止することができる。また、前記付着堆積防止層は、前記析出成分がタンパク質と無機化合物との混合物である場合に特に有効に作用する。
【0017】
前記付着堆積防止層に含まれるフッ素樹脂が、前記Ni−P合金全体に対し、5質量%未満であるときには、前記タンパク質と無機化合物との混合物の析出を十分に防止できないことがある。また、前記付着堆積防止層に含まれるフッ素樹脂が、前記Ni−P合金全体に対し、40質量%を超えるときには、該付着堆積防止層の断熱性が過大になり、前記第2の蒸留塔の側壁の熱伝導性を低下させることがある。
【0018】
本発明の内部熱交換型蒸留装置において、前記付着堆積防止層は、3〜7μmの範囲の膜厚を備えることが好ましい。前記付着堆積防止層は、その膜厚が3μm未満ではフッ素樹脂による付着堆積防止の効果が少なく、7μmを超えると、フッ素樹脂の含有量に関わらず該付着堆積防止層が剥離する可能性が大きくなる。該付着堆積防止層の剥離が生じると付着堆積防止の効果がなくなり、前記第2の蒸留塔の側壁の熱伝導性を大きく低下させることがある。また、前記付着堆積防止層はその膜厚が7μmを超えると、剥離が生じなくても、フッ素樹脂の含有量に関わらず該付着堆積防止層の断熱性が過大になり、前記第2の蒸留塔の側壁の熱伝導性を低下させることもある。
【0019】
また、本発明の内部熱交換型蒸留装置において、前記付着堆積防止層は、無電解メッキにより形成されたものであることが好ましい。前記付着堆積防止層は、無電解メッキにより形成することにより、前記第2の蒸留塔の側壁の形状、大きさに関わらず形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の内部熱交換型蒸留装置を用いるエタノール製造装置の構成を示すシステム構成図。
【図2】発酵溶液の成分分析例を示すフーリエ変換赤外分光スペクトルのチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0022】
本実施形態の内部熱交換型蒸留装置は、基質としてリグノセルロース系バイオマス、例えば稲藁からエタノールを製造するエタノール製造装置に用いられる。
【0023】
図1に示すように、リグノセルロース系バイオマスからエタノールを製造するエタノール製造装置1は、前処理装置2、糖化処理装置3、発酵処理装置4、内部熱交換型蒸留装置5を備えている。
【0024】
前処理装置2は、原料供給装置21、アンモニア水供給装置22、攪拌槽23、貯留槽24、移送導管25を備えている。原料供給装置21は、原料となる基質としての稲藁を攪拌槽23に供給し、アンモニア水供給装置22はアンモニア水を攪拌槽23に供給する。
【0025】
攪拌槽23は、前記基質と前記アンモニア水とを攪拌、混合し、得られた基質混合物を貯留槽24に供給する。貯留槽24は、基質混合物を所定時間貯留する間に、加熱することなく前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させることにより、糖化前処理物を得る。
【0026】
前記リグノセルロース系バイオマスは、セルロース又はヘミセルロースにリグニンが強固に結合した構成を備えている。そこで、前記処理により前記基質を糖化前処理物とすることにより、セルロース又はヘミセルロースを糖化可能なものとする。
【0027】
尚、本願において、解離とは、リグノセルロース系バイオマスのセルロース又はヘミセルロースに結合しているリグニンの結合部位のうち、少なくとも一部の結合を切断することをいう。また、膨潤とは、液体の浸入により結晶性セルロースを構成するセルロース又はヘミセルロースに空隙が生じ、又は、セルロース繊維の内部に空隙が生じて膨張することをいう。
【0028】
前記糖化前処理物は、貯留槽24の底部に接続された移送導管25により取出され、移送導管25の途中に設けられた固液分離装置26によりアンモニアが分離されて、アンモニア分離糖化前処理物として、糖化処理装置3に送られる。固液分離装置26は、分離したアンモニアをアンモニア水として回収する回収導管27を備えている。回収導管27は、アンモニア水供給装置22に接続されている。
【0029】
糖化処理装置3は、糖化処理槽31を備え、糖化処理槽31の上部には移送導管25が接続されると共に、糖化酵素供給装置32が設けられており、移送導管25から供給される前記アンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素供給装置32から糖化酵素を供給して糖化処理し、糖化溶液を得る。
【0030】
糖化処理槽31の底部には、糖化処理槽31で得られた糖化溶液を発酵処理装置4に移送する移送導管33が接続されている。移送導管33の途中には、固液分離装置34が設けられており、前記糖化溶液に含まれる前記稲藁の残渣等が分離、除去される。
【0031】
発酵処理装置4は、発酵処理槽41を備え、発酵処理槽41の上部には移送導管33が接続されると共に、菌体供給装置42が設けられており、移送導管33から供給される前記糖化溶液に菌体供給装置42から発酵菌又は酵母を供給して発酵させ、発酵溶液を得る。発酵処理槽41の底部には、発酵処理槽41で得られた発酵溶液を内部熱交換型蒸留装置5に移送する移送導管43が接続されている。
【0032】
本実施形態の内部熱交換型蒸留装置5は、原料溶液として移送導管43から供給される前記発酵溶液を用いるものである。内部熱交換型蒸留装置5は、第1の蒸留塔51の内部に第2の蒸留塔52が配設され、第1の蒸留塔51の内部において、第2の蒸留塔52の内部と外部とが互いに隔離された構造の単一の蒸留塔53を備える。第1の蒸留塔51は、第2の蒸留塔52の外側となっている部分の上部に、移送導管43が接続されていると共に、塔頂に得られた第1の気体を取り出し、第2の蒸留塔52に供給する気体供給導管54を備えている。
【0033】
気体供給導管54は、途中に第1の蒸留塔51内を減圧するドライ真空ポンプ55が設けられており、ドライ真空ポンプ55の下流側で第2の蒸留塔52の底部に接続されている。また、第1の蒸留塔51は、第2の蒸留塔52の外側となっている部分の底部から塔底液を取り出す第1の取出導管56を備えている。第1の取出導管56の途中には、移送導管43から供給される前記発酵溶液と前記塔底液との間で熱交換し、該発酵溶液を予熱する熱交換器57が備えられている。
【0034】
また、第1の蒸留塔51の底部には、第1の蒸留塔51内に直接蒸気を供給して第1の蒸留塔51を加熱する蒸気管58が備えられている。内部熱交換型蒸留装置5では、熱交換器57及び蒸気管58により、第1の蒸留塔51を加熱する加熱手段が構成されている。
【0035】
一方、第2の蒸留塔52の塔頂部には、第2の蒸留塔52の塔頂に得られた第2の気体を取り出す第2の取出導管59が備えられており、コンデンサー60を介して製品としてのエタノールが取出される。また、コンデンサー60は、残液を第2の蒸留塔52内部に還流する還流導管61を備えている。
【0036】
第1の蒸留塔51と第2の蒸留塔52とは、例えばステンレス鋼板により形成されており、第2の蒸留塔52は、その外側で第1の蒸留塔51の内部に臨む面に、図示しない付着堆積防止層を備えている。前記付着堆積防止層は、79〜90質量%のNiと、7〜9.5質量%のPとを含むNi−P合金中に、5〜40質量%の範囲のフッ素樹脂を含み、5μm以下の厚さを備えている。
【0037】
前記付着堆積防止層は、例えば、所定の無電解メッキ液を第2の蒸留塔52の外側で第1の蒸留塔51の内部に臨む面に塗布し、無電解メッキすることにより形成することができる。前記無電解メッキによれば、電解メッキと異なり電極を作製する必要がないので、第2の蒸留塔52の形状や大きさに関わらず、簡便且つ低コストで前記付着堆積防止層を形成することができる。
【0038】
前記無電解メッキ液としては、例えば、Ni−P無電解メッキ液に、平均粒子径0.3〜0.5μmのフッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)をノニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤により分散させたもの(日本カニゼン株式会社製、商品名:カニフロン)を用いることができる。前記無電解メッキ液は、Ni−P無電解メッキ液1リットル当たり、5〜40ミリリットルの前記フッ素樹脂を含んでいる。
【0039】
前記無電解メッキは、第2の蒸留塔52を、90〜95℃の範囲の温度に加熱した前記無電解メッキ液に所定時間浸漬することにより行うことができる。
【0040】
次に、エタノール製造装置1の作動について説明する。
【0041】
エタノール製造装置1では、まず、原料供給装置21から供給される基質としての稲藁と、アンモニア水供給装置22から供給されるアンモニア水とを攪拌槽23で攪拌し、基質混合物を得る。得られた基質混合物は、攪拌槽23の直下に接続されている貯留槽24に供給され、貯留槽24内で所定時間貯留されることにより、加熱することなく前記稲藁からリグニンを解離し、又は該稲藁を膨潤させることにより、糖化前処理物を得る。
【0042】
前記糖化前処理物はアンモニア水を含有しているので、移送導管25により糖化処理槽31に移送される間に、移送導管25の途中に設けられた固液分離装置26でアンモニアが分離される。この結果、糖化処理槽31には、アンモニア分離糖化前処理物が移送される。一方、固液分離装置26で分離されたアンモニアは、回収導管27によりアンモニア水として回収され、アンモニア水供給装置22に還流される。
【0043】
糖化処理槽31では、移送導管25を介して供給される前記アンモニア分離糖化前処理物に、糖化酵素供給装置32から供給される糖化酵素を混合し、所定時間保持する。この結果、前記基質としての稲藁に含まれるセルロース、ヘミセルロース等が糖化された糖化溶液が得られる。
【0044】
前記糖化溶液は、糖化処理槽31の底部に接続された移送導管33により取出され、移送導管33の途中に設けられた固液分離装置34により前記稲藁の残渣等が分離、除去された後、発酵処理槽41に移送される。
【0045】
発酵処理槽41では、移送導管33を介して供給される前記糖化溶液に、菌体供給装置42から供給される発酵菌又は酵母を混合し、所定時間保持する。この結果、前記糖化溶液に含まれる糖分が前記発酵菌又は酵母によりエタノール発酵し、エタノールを含む発酵溶液が得られる。
【0046】
前記発酵溶液は、発酵処理槽41の底部に接続された移送導管43により取出され、内部熱交換型蒸留装置5に移送される。
【0047】
内部熱交換型蒸留装置5では、まず、移送導管43から第1の蒸留塔51に供給される前記発酵溶液が熱交換器57で、第1の蒸留塔51の塔底液と熱交換することより予熱され、さらに蒸気管58から第1の蒸留塔51に供給される蒸気により加熱される。この結果、前記発酵溶液が蒸留され、第1の蒸留塔51の塔頂に、低沸点成分として、該発酵溶液より高濃度のエタノールを含む第1の気体が得られる。
【0048】
前記第1の気体は、気体供給導管54、ドライ真空ポンプ55を介して第2の蒸留塔52に供給されるが、このときドライ真空ポンプ55により第1の蒸留塔51内が減圧される。従って、第1の蒸留塔51内が大気圧以下の減圧状態となる一方、第2の蒸留塔52内は大気圧となり、第1の蒸留塔51内よりも第2の蒸留塔52内の温度の方が高温になる。
【0049】
この結果、前記第1の気体は、第2の蒸留塔52でさらに蒸留され、第2の蒸留塔52の塔頂に、さらに高濃度のエタノールを含む第2の気体が得られる。前記第2の気体は第2の取出導管59により取出され、コンデンサー60で冷却されて液化されることにより、前記発酵溶液より高濃度のエタノールを含むエタノール溶液を製品として得ることができる。コンデンサー60の残液は、還流導管61により第2の蒸留塔52内部に還流される。
【0050】
ここで、内部熱交換型蒸留装置5では、第2の蒸留塔52内の温度の方が第1の蒸留塔51内の温度より高温となるので、第2の蒸留塔52の側壁を伝熱面として第2の蒸留塔52の熱が第1の蒸留塔51に移動する。前記熱移動の結果、第1の蒸留塔51はさらに加熱され、第2の蒸留塔52の温度は低下するので、加熱及び冷却の仕事量を低減することができ、蒸留に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0051】
ところで、移送導管43から第1の蒸留塔51に供給される前記発酵溶液は、タンパク質と無機化合物とを含んでいる。
【0052】
図2に、前記発酵溶液のフーリエ変換赤外分光スペクトルを示す。図2から、前記発酵溶液は、リン酸塩、ケイ酸塩(1200〜900cm−1、700〜500cm−1)、タンパク質(1625、1537cm−1、アミド結合)を含むことが認められる。従って、前記析出物は、リン酸塩、ケイ酸塩とタンパク質との複合物であると考えられる。
【0053】
前記タンパク質は、前記糖化に用いられる酵素や、前記発酵に用いられる発酵菌又は酵素の菌体由来の成分であり、前記ケイ酸塩は稲藁自体の成分、リン酸塩は前記発酵菌又は酵素の培養に用いられる成分と考えられる。そこで、前記タンパク質と無機化合物との混合物が析出成分として第2の蒸留塔52の側壁に析出し付着堆積すると、該析出成分が断熱材として作用し、第2の蒸留塔52から第1の蒸留塔51への前記熱移動が阻害されることが懸念される。
【0054】
しかし、本実施形態の内部熱交換型蒸留装置5では、第2の蒸留塔52が、その外側で第1の蒸留塔51の内部に臨む面に前記付着堆積防止層を備えている。前記付着堆積防止層は、前述のようにフッ素樹脂を含むので疎水性となっており、タンパク質を含む前記混合物が付着することを防止することができる。
【0055】
従って、本実施形態の内部熱交換型蒸留装置5によれば、第2の蒸留塔52の側壁に前記タンパク質と無機化合物との混合物が析出成分として付着堆積することを防止して、内部熱交換型蒸留塔6を円滑に運転することができる。
【0056】
尚、本実施形態の内部熱交換型蒸留装置5は、気体供給導管54の途中に第1の蒸留塔51内を減圧するドライ真空ポンプ55を設け、第1の蒸留塔51内を大気圧以下の減圧状態とし、第2の蒸留塔52内を大気圧とする構成を備えている。しかし、本実施形態の内部熱交換型蒸留装置5は、第2の蒸留塔52内の圧力を第1の蒸留塔51内の圧力よりも大きくすることができればよく、前記構成には限定されない。
【0057】
例えば、ドライ真空ポンプ55に代えてコンプレッサーを備え、気体供給導管54を介して第2の蒸留塔52に供給される前記第1の気体を加圧するようにしてもよい。この場合は、第1の蒸留塔51内を大気圧とし、第2の蒸留塔52内を大気圧以上の加圧状態とすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…エタノール製造装置、 2…前処理装置、 3…糖化処理装置、 4…発酵処理装置、 43…第1の供給導管、 5…内部熱交換型蒸留装置、 51…第1の蒸留塔、 52…第2の蒸留塔、 54…第2の供給導管、 55…圧縮手段、 56…第1の取出導管、 57…熱交換器、 58…蒸気管、 59…第2の取出導管、 60…コンデンサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の内部に配設されその内部と外部とが隔離された第2の蒸留塔と、第1の蒸留塔に原料溶液を供給する第1の供給導管と、第1の蒸留塔の塔頂に得られた第1の気体を取り出して第2の蒸留塔に供給する第2の供給導管と、第2の供給導管の途中に設けられ第2の蒸留塔内を第1の蒸留塔内よりも高圧にする圧力差生成手段と、第1の蒸留塔の塔底液を取り出す第1の取出導管と、第1の蒸留塔を加熱する加熱手段と、第2の蒸留塔の塔頂に得られた第2の気体を取り出す第2の取出導管と、第2の取出導管の途中に設けられ第2の気体を冷却して液化させるコンデンサーとを備え、第2の蒸留塔の側壁を伝熱面として第2の蒸留塔の熱を第1の蒸留塔に移動させる内部熱交換型蒸留装置において、
第2の蒸留塔の側壁に、該原料溶液に含有される析出成分が析出して付着堆積することを防止する付着堆積防止層を備えることを特徴とする内部熱交換型蒸留装置。
【請求項2】
請求項1記載の内部熱交換型蒸留装置において、前記原料溶液は、リグノセルロース系バイオマスを糖化して得られた糖化溶液を発酵させた発酵溶液であることを特徴とする内部熱交換型蒸留装置。
【請求項3】
請求項2記載の内部熱交換型蒸留装置において、前記原料溶液に含有される析出成分は、タンパク質と無機化合物との混合物であることを特徴とする内部熱交換型蒸留装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の内部熱交換型蒸留装置において、前記付着堆積防止層は、Ni−P合金中に5〜40質量%の範囲のフッ素樹脂を含むことを特徴とする内部熱交換型蒸留装置。
【請求項5】
請求項4記載の内部熱交換型蒸留装置において、前記付着堆積防止層は、5μm以下の膜厚を備えることを特徴とする内部熱交換型蒸留装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の内部熱交換型蒸留装置において、前記付着堆積防止層は、無電解メッキにより形成されたものであることを特徴とする内部熱交換型蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−110858(P2012−110858A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263395(P2010−263395)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】